大気CO2削減をめざした樹木の 光合成促進に関する研究 氏名 石井 弘明 所属 農学研究科 資源生命科学専攻 1.研究の概要とキーワード 大気CO2濃度上昇による地球温暖化への対策として森林の炭素固定機能が注目される 一方で、世界規模で進む土地開発によって森林面積は急激に減少しています。本研究で は失われた森林面積を回復し、植林地の炭素固定機能を促進するために、光合成能の高 い造林樹種を開発することを目的とします。 2.他の研究との相違点・新規な点 本研究では葉やシュートの光獲得効率(いかに無駄なく光を利用しているか)に注目しま す。窒素や酵素を生成するには代謝コストがかかりますが、その配分や形態を変化させる ことは比較的容易です。よって、葉やシュートの構造および樹形などの形態的形質や養分・ 酵素の配分を変化させることによってより樹木の光合成を促進できると考え ました。 3.内容 明るい光領域から暗い光領域まで、樹木はどこまで無駄なく光を利用できるのか?本研 究では、樹木による光の利用効率を高め、光合成を促進する形態・生理的形質を特定する ことを目的としました。また、これらの形質を改良し、光利用効率の高い品種を開発すること で、森林によるCO2吸収を促進できると考えました。これまでの研究成果から、シュート内に おける針葉の配置や樹冠内におけるクロロフィルの分配が、樹木の光利用効率を規定する 重要な形態・生理的形質であることが示されました。光利用効率の高い品種を開発すれば、 造林地の光合成生産および炭素吸収量を高めることができます。有用樹種の光合成特性 の調査データにもとづいた樹木の光合成モデルを開発し、葉の配置やクロロフィルの分配と いった形質がどの程度まで光合成を促進できるのかを理論的に検証します。また、これら の形質を支配する遺伝的要因を明らかにし、品種改良研究に応用します。 図1.アカエゾマツの光-光合成曲線 陽樹冠シュートの針葉を間引くと陰樹冠 シュートに似た光合成特性を示すことから、 光 が 無駄なく針葉にあたれば光合成が 促進される可能性が示されました。 4.研究の適用分野 光合成促進に寄与する有用遺伝子座を明らかにすることできれば、光合成・炭素固定能 の高い品種の開発を目指した樹木の品種改良研究に応用することが可能となります。 氏名 石井 弘明 所属 農学研究科 資源生命科学専攻 ◇研究歴 ・北米冷温帯針葉樹林の林冠動態に関する研究 ・社寺林の環境調節機能に関する研究 ・生物多様性を創出する森林施業法の開発 ・スギ・ヒノキ人工林の成長動態に関する研究 ・大気CO2削減をめざした樹木の光合成促進に関する研究 ◇専門分野 ・森林生態学 ・保全生態学 ・樹木生理学 ◇代表的な研究論文 ・Ishii, H.T., Kitaoka, S., Fujisaki, T., Maruyama, Y., Koike, T. (2007) Plasticity of shoot and needle morphology and photosynthesis of two Picea species with different site preferences in northern Japan.Tree Physiology 27: 1595–1605. ・辻 貴文・石井弘明・金澤洋一(2007) 京都府北部の無間伐ヒノキ高齢林における斜面位置と林分構造の関係. 日本森林学会誌 89(3) 160-166. ・石井弘明・岩崎絢子(2006) 西宮神社社叢林における台風によるクスノキ老齢木の被害. 人と自然 16:51-56. ・石井弘明・吉村謙一・音田高志(2006) 樹木生理学と森林群落動態をつなぐ樹形研究. 日本森林学会誌 88(4): 290-301. ・石井弘明(2007) 樹木はどこまで大きくなれるのか?―世界最大の樹木,ジャイアントセコイアの生理学的 研究―. 生物科学 59:57-61. ・石井弘明 (2000) 北米温帯針葉樹林における単ロープ法を用いた林冠研究:巨大樹木にどう登るか. 日本生態学会誌 50: 65-70. ◇特許出願名称と出願番号 特になし ◇興味のある共同研究分野 ・市街地における森林・森林公園などの保全 ・街路樹・公園樹木などの光合成・水分利用に関する生理学的研究 連絡先:神戸大学 連携創造本部 TEL:078-803-5945 FAX:078-803-5947 E-mail:[email protected] URL:http://www.innov.kobe-u.ac.jp/
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