商品・企業に対して消費者が抱いている無意識的イメージについて

消費者の深層心理の研究-商品・企業に対して
消費者が抱いている無意識的イメージについて
氏名 伊藤 俊樹
所属 人間発達環境学研究科
1.研究の概要とキーワード
主としてポストモダンと言われる手法(臨床心理学における投影法の心理テストの応用‥
あるテーマで絵を描いてもらう、絵を見て物語を作ってもらう、商品のイメージをコラージュで
作成してもらう等)とデプス・インタビュー(深層面接‥対象者の無意識にある感情、イメージ
等を掘り下げていく面接)を用いて、商品、企業の提供するサービス、企業そのものに対して
消費者が抱いている無意識のイメージ、心理を探り、どのようにすれば消費者の心に訴え
る商品、サービスを提供できるか、或いは消費者の心に訴える企業イメージを作っていける
かを探っていきます。また、現在ある商品、サービスだけでなく、消費者の深層心理に訴え
る新たなサービス、新たな商品開発、販売戦略について探っていきます。
2.他の研究との相違点・新規な点
従来の消費者心理の研究は、アンケート調査によって消費者の意識を探る量的な調査が
殆どであり、消費者の深層心理に踏み込んだ研究は殆どされてきませんでした。私の研究
では、人の無意識について研究を重ねてきた臨床心理学の知見を応用し、消費者一人一
人の深層心理を掘り下げるという点で、従来の研究と異なっており、消費者の無意識という
観点からマーケティング、商品開発を考えていく点において画期的であると言えます。
3.内容
幾つもの方法がありますが、ここでは数例を紹介します。①商品、企業等に対して消費者
が抱いている無意識のイメージを知るためにコラージュ(テーマに対してふさわしいと思える
イメージ・写真等を雑誌、チラシなどから切り抜いて、画用紙に貼り付ける方法)を用いる場
合。具体的事例として、あるファースト・フードのお店に対するイメージ取り上げます。
左側が、週に1度はそのお店に行くロイヤルユーザー(Aさん)、右側が月に1度行くか行
かないかの非好意ユーザー(Bさん)のものです。一見して、ロイヤルユーザーのコラージュ
の方が豊かで生き生きとした感じが伝わってきますが、この違いが無意識レベルでのその
企業のイメージの違いを反映しています。Aさんは、コラージュ作成後のデプス・インタビュー
では、最初は、何気なくおばさんや子供の写真を貼ったと語っていましたが、更に深く聞い
ていくとそのお店のイメージとして、老若男女、すべての人達に開かれているというイメージ
を持っていることが分かりました。すべての人をいつでも受け入れて食べ物を与えてくれる
というイメージは、まさに「母」のイメージであり、ロイヤルユーザーの深層心理の中では、そ
のお店のイメージの背後に母性原理(何でも受容し養い育ててくれる原理)が働いているこ
とを発見することが出来ました。一方、Bさんは、歩いている中年男性(ビートたけし)の顔の
上に楽しそうな家族の写真を貼り付けました。デプス・インタビューでは、やはり何気なく家
族の写真を上から貼り付けたとBさんは語っていましたが、更に掘り下げていくうちに、ビー
トたけしは、Bさん自身であり、家族の写真が顔を隠すように貼られているのは、そのお店は
家族のためのものであり、中年男性の自分はその店から疎外されているということに気が
つきました。このように、コラージュとデプス・インタビューを通じて、ロイヤル・ユーザーはそ
の店に「母なるもの」を見、非好意ユーザーは疎外感を感じていることが明らかになりました。
氏名 伊藤 俊樹
所属 人間発達環境学研究科
②ある商品、企業に関わるイラストを何枚か作成し、そのイラストを見て物語を作ってもらう
方法。具体的事例として、商品・企業を対象にしたものではありませんが、大阪人・東京人
で人間関係がどう違うかを、この方法で調べた事例
を紹介します。左の絵を見て、大阪人は半数が、登
場人物の5人のうち少なく とも2人以上を会社の
同僚、夫婦、友人など仲間と見なしているのに対し、
東京人は2/3が5人を相互に関係を持たない他人と
見ています。特に大阪人で特徴的なのは、前の3人
を含めて、3人、4人、5人を仲間として見ているのが、
約1/3もいるのに対し、東京人では、1/10以下であっ
たということです。東京では一人もいなかった5人を仲間として見る物語に 「今日は新しく入
社したケンジの歓迎会だった。ところがケンジ,事もあろうに自分の彼女を呼んできたので
ある。これには周りも唖然とした。上司のトシヒコは笑っている。周りの様子も気にせず、ケ
ンジは彼女の携帯の着メロに合わせて鼻歌を歌ったり,踊ったり。あまりのマイペースぶり
に,これからの事を考えて頭が痛くなるヒトミとナオキであった。」というものがあります。この
ように大阪人は、東京人が見ないところに人間関係を見いだすという特徴が明らかになり、
「人間関係が濃い」と言われる大阪人の特徴が、物語の中に無意識のうちに表れる事が分
かりました。③ある商品のライトユーザー、ヘビーユーザーにあるテーマで絵を描いてもらう
ことによって、ユーザーの深層心理を探る方法。具体例としては、ある食品調味料のヘビー
ユーザー、ライトユーザー、非ユーザーに「家族で食事をしている場面」を描いてもらい、各
ユーザーが家族に対して抱いている深層イメージを探り、各ユーザーの商品使用率と無意
識の家族関係の関連を調べ、ライト・非ユーザーを取り込む為にはどのような家族イメージ
の広告戦略を立てたら良いかを探りました。他にも色々な方法がありますが、基本的には
投影的技法とそれを媒体にした1対1の深層面接を行い、消費者の無意識を探り、今後の広
告戦略、新商品の開発に役立てます。
4.研究の適用分野
従来の商品の売り上げをアップするためにどうしたら消費者の深層心理に訴える広告戦
略が可能かを考えます。また、消費者の深層心理を知ることで、どのようにしたら企業のイ
メージが好意的にできるかを考えます。「理想の○○」というテーマでコラージュを作ってもら
うなどして、消費者の深層心理に訴える新商品の開発を考えていきます。
◇研究歴
消費者の深層心理の研究
◇専門分野
臨床心理学
◇代表的な研究論文
伊藤俊樹「物語作成法を通してみた大阪人の人間関係の特徴について」発達・臨床心理学
研究、第9巻、2011
伊藤俊樹・ 西岡徹夫, 「エルダー層がコンビニエンス・ストアに対して抱くイメージについて
-ポスト・モダン手法を用いて」, 日本フードサービス学会年報第12号 pp.60-69, 2007
・その他、広告代理店等と共同でポストモダン手法を用いて消費者の深層心理を探り、マー
ケティングの方向性を考えるプロジェクトに幾つも参加しています。具体的には、ビール、
テーマパーク、皮膚薬、ミニバン、清涼飲料水、目薬、下着、電車、タイヤ、ゲーム機、健康
飲料、電力会社、白髪染め、銀行、洗剤、牛乳、食用油、喘息薬、基礎化粧品、ゲームソフ
トなど20以上のプロジェクトに関わっています。
◇発明名称と特許出願番号 なし
◇興味のある共同研究分野
商品、企業、サービス等について消費者が抱いている深層心理イメージの研究。また、そ
れに基づいた、マーケティング戦略、企業イメージ戦略、新商品開発の研究。
連絡先:神戸大学 連携創造本部 TEL:078-803-5945 FAX:078-803-5947
E-mail:[email protected] URL:http://www.innov.kobe-u.ac.jp/