会社法平成26年改正法追補レジュメ

 第1節 平成26年の会社法改正
第1章
平成26年改正の概要
第1節 平成26年の会社法改正
・平成26年の改正の内容を概観する。
1 改正法の成立
会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)と会社法の一部を改正
する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成26年法律第91号)
が平成26年6月20日に可決成立し,平成26年6月27日に公布されている。会社
法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律は,商業
登記法や一般社団法人及び一般財団法人に関する法律などの改正を含むものと
なっている。本稿では,会社法の一部を改正する法律と会社法の一部を改正す
る法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律をまとめて,平成26年改正
法又は単に改正法ということにする。
2 改正法の施行
平成26年改正法は,
「公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内にお
いて政令で定める日」から施行するものとされている。
執筆時点で施行日は確定していないが,平成27年5月1日の施行が有力視さ
れている。
3 条文の入手
いくつかの場所,雑誌などで条文を手に入れることができるが,法務省のウ
ェブサイトが一番簡単かつ確実だろう。法務省トップ→所管法令等→国会提出
法案など→第186回国会(常会)とリンクをたどっていけば見つかる。「会社法
の一部を改正する法律案」で検索してもよい。新旧対照条文が用意されている
ので,必要に応じて内容を確認してほしい。
4 本稿における注意点
条文は,原則として改正後のものを用いている。単に「会§399の2」とし
ている場合には,改正後の会社法第399条の2を意味する。改正前の条文を参
照する必要がある場合には,改正前のものであることを明記している。
1
第1章 平成26年改正の概要
また,
『司法書士 スタンダード合格テキスト6 商法・会社法』については,
単に『商法・会社法』と省略して記載し,必要に応じてその内容を参照するこ
とにする。
2
第2節 平成26年改正法の概要
第2節 平成26年改正法の概要
・改正法の内容を概観し,注意しなければならない点を把握する。
1 改正の対象
平成26年の改正は,平成18年5月1日に会社法が施行されて以来,最大のも
のとなっている。つまり,平成18年以後の様々な議論や問題点が今回の改正に
反映されている。そのため,改正の対象は会社法の全部に及び,量的にも,質
的にも,非常に大きな改正となっている。
本稿では,改正法の内容のうち,特に司法書士試験で問われる可能性が高い
部分について,必要かつ十分な説明をしていくことにする。
2 機関についての改正
まず最初に目につくのは,監査等委員会設置会社の制度の創設である。基本
的には大規模な公開会社を想定した機関設計だと考えてよい。改正前の会社法
では,大会社である公開会社は,監査役会設置会社か委員会設置会社のどちら
かの機関設計を採用する必要があった。改正後は,新たに監査等委員会設置会
社という選択肢が増える。監査役会設置会社と委員会設置会社の中間的な存在
と考えてしまうとわかりやすい。
なお,監査等委員会設置会社が創設されたことに伴い,これまでの委員会設
置会社は,指名委員会等設置会社とよばれることになった。監査等委員会設置
会社と明確に区別できるようにするためである。
今回の改正に際して最も議論されたものの一つに,金融商品取引所(証券取
引所)に株式を上場している株式会社に対しての社外取締役の設置義務化があ
った。結果的には社外取締役の設置は義務づけられなかったが,一定の要件を
満たす株式会社については,社外取締役を置くことが相当でない理由を説明す
ることが求められることになった。株式を上場している株式会社は,社外取締
役を置くか,説明するか,いずれかの義務がある。
社外取締役と社外監査役の要件も見直された。これまでは,一度でも業務を
執行したら社外取締役ではなくなったのだが,改正法では,業務を執行してか
ら一定期間が経過すれば社外取締役の要件を満たすことができるようになっ
た。さらに,さまざまな要件が追加された。社外監査役の要件についても同様
の改正がある。試験対策的には,要件が非常に複雑になり,扱いが難しくなっ
た。
3
第1章 平成26年改正の概要
また,責任限定契約を締結することができる取締役と監査役は,社外取締役
と社外監査役に限定されていたが,平成26年改正法により,責任限定契約を締
結することができる対象が拡大された。
これら以外にも,機関についていくつかの改正がある。基本的には,業務執
行の監査・監督を強化し,株主や投資家にとっての株式会社の信頼性を高める
ための改正である。
3 親子会社関係についての改正
特別支配株主の株式等売渡請求の制度が設けられた。少数株主の株式を強制
的に取得することにより,完全親子会社関係の創設を容易にするための制度で
ある。形式的には株式の売渡しだが,効果としては株式交換に近く,組織再編
行為の一種として理解することもできる。現金(Cash)によって少数株主を
締め出す(Out)行為であることから,キャッシュ・アウトとよばれている。
株主が子会社の取締役等の責任を追及するための制度として多重代表訴訟の
制度が規定された。会社法上は,特定責任追及の訴えという用語が用いられて
いる。これまでの株主代表訴訟の対象は,株主である株式会社の取締役等に限
られていたが,改正法により子会社の取締役等を訴訟の対象とすることが可能
になった。
4 その他の改正
その他の改正についても,試験対策的に重要なものがあるので注意する必要
がある。
発行可能株式総数に関する改正は,記述式において特に注意が必要だろう。
募集株式の発行と募集新株予約権の発行についても,注意の必要な改正があ
る。
会社分割に際しての債権者の保護や株式の併合についての改正も行われてい
る。
監査役の監査の範囲の登記や社外取締役と社外監査役の登記に関する改正は
注意しなければならないが,商業登記法の論点であり,本稿では扱わない。
➡ 商業登記法のテキストで扱っている。
4
第1節 監査等委員会設置会社
第2章
機関についての改正
第1節 監査等委員会設置会社
・監査等委員会設置会社の制度が創設された理由を理解する。
・指名委員会等設置会社との違いを把握する。
・取締役についての規定が他の機関設計を採用した場合と異なる点に注
意が必要である。
1 なぜ監査等委員会設置会社か
改正前において,大会社である公開会社には,監査役,監査役会及び会計監
査人を置くか,委員会設置会社の制度を採用するかの二つの選択肢が用意され
ていた。しかし,監査役会設置会社については,社外取締役の設置が義務づけ
られておらず,取締役会による業務執行の監督が十分に機能しないという批判
があった。一方で,委員会設置会社は,必要な取締役の人数が多くなるという
デメリットがあり,委員会設置会社の制度を採用する企業はそれほど増えなか
った。
そこで創設されたのが監査等委員会設置会社である。監査等委員会設置会社
では,社外取締役の設置が義務づけられ,取締役会の構成員に社外性のある取
締役が含まれることになる。また,委員会設置会社のように三つの委員会を置
くことはなく,業務執行機関として執行役を置くこともないため,委員会設置
会社に比べてシンプルな機関設計になる。監査等委員会設置会社では,監査等
委員会が業務執行の監査を担うことになり,監査役を置くことはできない。
➡ このような経緯から,監査等委員会設置会社の制度は,比較的規模の大き
い公開会社で利用されることが想定されている。もっとも,小規模な株式会
社や,公開会社でない株式会社でも監査等委員会設置会社となることは可能
である。
委員会設置会社については,監査等委員会設置会社との混同を避けるため,
指名委員会等設置会社に名称が変更された。これ以降は,指名委員会等設置会
社という用語を用いていくが,実質的にはこれまでの委員会設置会社と同じで
ある。
5
第2章 機関についての改正
2 監査等委員会設置会社の機関
監査等委員会設置会社も,他の機関設計を採用した場合と同様に,株主総会
と取締役は必ず置かなければならない。また,監査等委員会設置会社は,取締
役会を置かなければならない(会§327③)。
監査等委員会設置会社は,監査等委員会を置く株式会社であると定義されて
いる(会§2⑪の2)。つまり,監査等委員会設置会社には監査等委員会が必
ず置かれる。
監査等委員会設置会社は,会計監査人を置かなければならない(会§327Ⅴ)。
大会社でなくても,会計監査人の設置は義務である。
結局,監査等委員会設置会社には,取締役会,監査等委員会,会計監査人が
置かれることになる。
監査等委員会設置会社は,監査役を置いてはならない(会§327Ⅳ)。また,
会計参与は置いても置かなくてもよい。
➡ このあたりは,指名委員会等設置会社と同じである。
指名委員会等設置会社と比較すると理解がしやすいだろう。
監査等委員会設置会社
置かれる機関
指名委員会等設置会社
・取締役会
・取締役会
・会計監査人
・会計監査人
・監査等委員会
・指名委員会
・監査委員会
・報酬委員会
監査役
置いてはならない
置いてはならない
会計参与
置いても置かなくてもよい
置いても置かなくてもよい
3 監査等委員会設置会社の取締役
まず,監査等委員会の構成員である監査等委員も取締役であることに注意し
なければならない(会§399の2Ⅱ)。
➡ 指名委員会等設置会社の監査委員も取締役だった。なお,監査委員と監査
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第1節 監査等委員会設置会社
等委員は非常に紛らわしいので注意しなければならない。1文字の違いしか
ない。
監査等委員会設置会社では,株主総会の決議によって,監査等委員である取
4
4
4
締役と監査等委員でない取締役を区別して選任する(会§329Ⅱ)。
重 要
誰が監査等委員となるかは,株主総会の決議によって決定される。
指名委員会等設置会社のように,取締役の中からあらためて監査等委員を選
定するものではない。そのため,株主総会の決議がない限り,監査等委員であ
4
4
4
る取締役が監査等委員でない取締役になったりはしない。取締役の地位をその
ままに,監査等委員の地位のみを辞任するようなこともできない。
ここまで,株主総会の決議で選任するとしてきたが,実は種類株主総会の決
議によって選任することも可能である。指名委員会等設置会社は取締役の選任
権付種類株式を発行できなかったが,監査等委員会設置会社は選任権付種類株
式の発行が可能である(会§108Ⅰただし書)。そのため,選任権付種類株式を
発行している場合には,種類株主総会の決議によって監査等委員である取締役
4 4
4
と監査等委員でない取締役が選任されることになる(会§347Ⅰ)。
さらに,累積投票の制度を利用することも可能である(会§342Ⅰ)。
監査等委員である取締役の選任について,監査等委員である取締役は,株主
総会で意見を述べることができる(会§342の2Ⅰ)。
監査等委員である取締役は,監査役に近い職務をすることになる。そのため,
監査役について兼任禁止が定められていたように,監査等委員である取締役に
ついても兼任禁止が定められている。
第331条 (略)
3 監査等委員である取締役は,監査等委員会設置会社若しくはその子会社の
業務執行取締役若しくは支配人その他の使用人又は当該子会社の会計参与
(会
計参与が法人であるときは,その職務を行うべき社員)若しくは執行役を兼
ねることができない。
監査役の兼任禁止と同様に考えればよい。監査等委員会設置会社では代表取
7
第2章 機関についての改正
締役が置かれるが,監査等委員である取締役を代表取締役に選定することはで
きない(会§399の13Ⅱ)。
取締役の員数については,通常の取締役会設置会社と同じ規定(会§331Ⅴ)
が適用される。しかし,監査等委員である取締役は,3人以上で,その過半数
は,社外取締役でなければならない(同Ⅵ)。監査等委員である取締役は業務
執行取締役を兼ねることができず,最低1名の業務執行取締役は必要であるか
ら,監査等委員会設置会社における取締役の最低員数は4名となる。監査等委
員である取締役の最低員数が3名であるので,最低2名の社外取締役が必要に
なる。
➡ 社外取締役の要件についても改正がある。第2節で扱う。
監査等委員会設置会社では,取締役の任期が異なる。監査等委員会設置会社
以外の株式会社とも異なるし,監査等委員であるかどうかでも異なる。
4
4
4
まず,監査等委員でない取締役の任期は,選任後1年以内に終了する事業年
度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までである(会§332Ⅲ
Ⅰ本文)。ただし,定款又は株主総会の決議によって任期を短縮することがで
きる(同Ⅰただし書)。任期の伸長はできない(同Ⅱ)。
➡ 結局,指名委員会等設置会社の取締役の任期と同じである。
監査等委員である取締役の任期は,選任後2年以内に終了する事業年度のう
ち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までである(会§332Ⅰ本文)。
任期の伸長や短縮は原則としてできないが(同ⅡⅣ),定款によって,任期の
満了前に退任した監査等委員である取締役の補欠として選任された監査等委員
である取締役の任期を前任者の任期の満了するはずであった時まで短縮するこ
とは許される(同Ⅴ)。
➡ 監査役の任期を4年から2年にしたものが監査等委員である取締役の任期
だと理解すればよい。任期に限らず,監査等委員である取締役については,
監査役に似た扱いとなることがある。
監査等委員会設置会社となる定款の変更や,監査等委員会設置会社でなくな
る定款の変更をした場合にも,取締役の任期は満了する(会§332Ⅶ①②)。ま
た,指名委員会等設置会社と同様に,公開会社となった場合であっても,取締
役の任期は満了しない(同Ⅶ③)。
➡ 監査等委員会設置会社となる場合や,監査等委員会設置会社でなくなる場
8
第1節 監査等委員会設置会社
合には,定款の変更のほかに,取締役の選任が必要となるのである。
プラス
アルファ
会計参与の任期にも違いがある。指名委員会等設置会社と同様に,特に任
期を短縮しなければ,選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のもの
に関する定時株主総会の終結の時までとなる(会§334Ⅰ,332ⅢⅠ)。会計
監査人に任期については変わりがない。
監査等委員会設置会社は監査役を置くことができないから,監査等委員会
設置会社となった場合には,監査役の任期が満了することになる(会§336
Ⅳ②)。指名委員会等設置会社になった場合と同じ扱いである。
取締役の解任は,監査等委員会設置会社以外の株式会社と同様に,株主総会
の決議による。ただし,選任権付種類株式の種類株主総会で選任された場合に
は,その内容に応じ種類株主総会の決議で解任するのが原則である。
4
4
4
問題は決議要件である。監査等委員でない取締役は他の株式会社の取締役と
同じ,監査等委員である取締役は監査役と同じと考えればよい。つまり,監査
等委員である取締役の解任には,特別決議が必要になる(会§309Ⅱ⑦)。
4 監査等委員と監査等委員会
これまで説明してきたように,監査等委員というのは,監査等委員として選
任された取締役である。そして,監査等委員によって監査等委員会が組織され
ることになる。
➡ 監査役や監査役会とどのように違うのかを考えながら読み進めていくとい
いだろう。
監査等委員は取締役である。そのため,取締役会の構成員であり,取締役会
の議決に加わることができる。これが監査役との根本的な違いである。
プラス
アルファ
監査役会設置会社では社外監査役の設置が義務づけられているが,社外監
査役が取締役会の議決に加わることはない。つまり,取締役会の議決に加わ
るメンバーに社外性のある者が含まれなくてもよい。このことは,監査役会
制度に対する批判の一つとなっていた。監査等委員会設置会社では,社外取
締役の設置が義務づけられ,取締役会の議決に加わるメンバーに社外性のあ
る者が必ず含まれることになる。
9
第2章 機関についての改正
監査等委員会の職務は,次のとおりである(会§399の2Ⅲ)。
・取締役(会計参与設置会社にあっては,取締役及び会計参与)の職務の執
行の監査及び監査報告の作成
・株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任し
ないことに関する議案の内容の決定
・監査等委員でない取締役の選任,解任,辞任,監査等委員でない取締役の
報酬等についての監査等委員会の意見の決定
最初の二つは,指名委員会等設置会社の監査委員と同じである。最後の一つ
は,指名委員会と報酬委員会を置かない監査等委員会設置会社に特有なものと
なっている。指名委員会や報酬委員会が果たしている役割の一部も担うのであ
る。結局,監査等委員会の職務は,選解任や報酬に関する職務を除けば,指名
委員会等設置会社の監査委員会とほぼ同じと考えてよい。個人である監査等委
員が監査機関なのではなく,監査等委員会が監査機関となっている。
監査等委員会には,もう一つ重要な権限がある。
取締役は任務懈怠により株式会社に対する損害賠償責任を負う(会§423)。
そして,利益相反取引によって株式会社に損害が生じたときは,利益相反取引
をした取締役,利益相反取引をすることを決定した取締役,及び利益相反取引
の承認の決議に賛成した取締役の任務懈怠が推定される(会§423Ⅲ,365,
356)
。しかし,利益相反取引について監査等委員会の承認を受けていれば,任
務懈怠が推定されないのである(会§423Ⅳ)。ただし,監査等委員である取締
役と株式会社の利益が相反する場合には,原則どおり任務懈怠が推定される。
➡ 監査等委員会に業務執行者に対する監督機能を与えたものであると説明さ
れている。
これらの職務を行うため,監査等委員会が選定する監査等委員には次のよう
な権限が与えられている(会§399の3)。
・取締役(会計参与設置会社にあっては,取締役及び会計参与)及び支配人
その他の使用人に対する職務の執行に関する事項の報告の請求
・監査等委員会設置会社の業務及び財産の状況の調査
・子会社に対する事業の報告の請求
・子会社の業務及び財産の状況の調査
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第1節 監査等委員会設置会社
子会社は,正当な事由があるときは,報告又は調査を拒むことができる(会
§399の3Ⅲ)。また,監査等委員がするこれらの権限の行使は,監査等委員会
の決議があるときは,その決議に従わなければならない(同Ⅳ)。
➡ 指名委員会等設置会社の監査委員と同じであり,監査役会設置会社の監査
役とは違う。
監査等委員は,取締役が不正の行為をした場合やそのような行為をするおそ
れがある場合のほか,法令・定款に違反する事実や著しく不当な事実があると
認める場合には,取締役会に報告しなければならない(会§399の4)。
また,取締役が目的の範囲外の行為や法令・定款に違反する行為をした場合
又はするおそれがある場合で,著しい損害が生じるおそれがあるときは,取締
役の行為の差止めを請求することができる(会§399の6)。
➡ これも指名委員会等設置会社の監査委員と同じである。
➡ 回復することができない損害が生じるおそれがあるときは,株主による差
止めが可能である(会§360Ⅲ)。
監査等委員は,取締役が株主総会に提出しようとする議案等について法令・
定款する事項や著しく不当な事項があると認めるときは,その旨を株主総会に
報告しなければならない(会§399の5)。この株主総会に対する報告義務は,
監査役が負う義務と同様のものであり(会§384),指名委員会等設置会社の監
査委員にはなかったものである。
監査等委員会設置会社と取締役との間の訴えにおいては,監査等委員が当事
者である場合を除き,監査等委員会が選定する監査等委員が監査等委員会設置
会社を代表する(会§399の7Ⅰ)。
以上のほか,監査等委員会は,次の行為を行う。
・会計監査人の解任(会§340ⅤⅠ)
・一時会計監査人の職務を行うべき者の選任(会§346ⅦⅣ)
・会計監査人の報酬等の決定についての同意(会§399ⅢⅠ)
監査等委員会の運営については,多くの点で取締役会と同じである。
招集の通知は1週間前までに発しなければならない(会§399の9Ⅰ)。ただ
し,定款でその期間を短縮することができる(同Ⅰ括弧書)。監査等委員の全
員の同意があるときは招集手続の省略が可能である(同Ⅱ)。
11
第2章 機関についての改正
決議要件は,議決に加わることができる監査等委員の過半数が出席し,その
過半数をもって行い(会§399の10Ⅰ),特別の利害関係を有する監査等委員は
議決に加わることができない(同Ⅱ)。
議事録の作成義務があり(会§399の10Ⅲ),議事録は10年間本店に備え置か
なければならない(会§399の11Ⅰ)。議事録の閲覧・謄写を請求することがで
きる者は,取締役会の議事録と同じである。株主が請求するには,裁判所の許
可が必要になる(同ⅡⅢ)。
➡ 指名等委員会設置会社の委員会よりも取締役会に近い。『商法・会社法』
P120参照。監査役会との違いにも注意するとよい。
取締役会と違う点には,次のようなものがある。
・各監査等委員に監査等委員会の招集権がある(会§399の8)
・決議要件について定款で定めることはできない(会§399の9Ⅰ)
これらの点は,監査役会に近い扱いとなっている。
5 監査等委員会設置会社の取締役会
監査役設置会社の取締役会と指名委員会等設置会社の取締役会の権限には大
きな違いがあった(『商法・会社法』P121)。監査等委員会設置会社の取締役
会の権限は,監査役設置会社の取締役会と多くの点で同じである。代表取締役
を置く監査等委員会設置会社は,代表執行役を置く指名委員会等設置会社より
も,業務執行に関しては監査役設置会社に近いといえる。
とはいえ,監査役設置会社の取締役会と完全に同じではない。そのため,監
査役設置会社との違いを理解しておく必要がある。
監査等委員会設置会社の取締役会は,監査役設置会社の取締役会と同様に,
業務執行の決定,取締役の職務の執行の監督,代表取締役の選定・解職を行う
(会§399の13Ⅰ)。業務執行の決定には,経営の基本方針や業務の適正を確保
するために必要な事項などの決定が含まれる(同Ⅰ①)。
➡ 例外はある。特別取締役による取締役会と業務執行の決定の委任があった
場合である。後述する。
取締役会の運営については,監査役設置会社の取締役とほぼ同じであるが,
監査等委員会が選定する監査等委員にも取締役会の招集権限がある(会§399
の14)
。
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第1節 監査等委員会設置会社
監査等委員会設置会社は,特別取締役による取締役会の決議についての制度
を利用することができる(会§373)。つまり,特別取締役による取締役会につ
いて取締役会の決議で定めることができる。監査等委員会設置会社では最低2
名の社外取締役が置かれることになるので,取締役が6人以上であれば特別取
締役による取締役会の決議が可能になる。
一方で,監査等委員会設置会社は,一定の要件を満たす場合には,重要な業
務執行の決定を取締役に委任することができる。
➡ 重要な業務執行の決定を委任する場合には,取締役会の役割は,指名委員
会等設置会社の取締役会に近いものとなる。
特別取締役による取締役会と重要な業務執行の決定の委任の両方を利用する
ことはできない(会§373Ⅰ)。利用することができるのはどちらか一方のみで
ある。どちらも利用しないこととしてもよい。
重要な業務執行の決定を取締役会に委任できるのは,次のいずれかの場合で
ある(会§399の13ⅤⅥ)。
・取締役の過半数が社外取締役である場合
・業務執行の決定を委任できる旨の定款の定めがある場合
監査等委員会設置会社では,監査等委員である取締役の過半数が社外取締役
であればよかったが,全ての取締役の過半数が社外取締役であれば,業務執行
の決定の委任が可能になるのである。
委任できる業務執行の決定の範囲は,指名委員会等設置会社の取締役会が委
任できる範囲(『商法・会社法』P122)とほぼ同じであるが,代表取締役の選
定が委任できないことには注意したい(会§399の13Ⅴ⑧)。
13
第2章 機関についての改正
第2節 社外取締役と社外監査役
・今回の改正の目玉ともいえる。
・設置は結局義務づけられなかったが,社外取締役の設置を促す趣旨の
改正である。
・社外取締役と社外監査役の要件について,どこが変わるのかを理解し
ておきたい。
1 社外取締役の設置
(社外取締役を置いていない場合の理由の開示)
第327条の2 事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり,
かつ,大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第24条第1項の規
定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出し
なければならないものが社外取締役を置いていない場合には,取締役は,当
該事業年度に関する定時株主総会において,社外取締役を置くことが相当で
ない理由を説明しなければならない。
「説明しなければならない」という規定であるが,社外取締役を置かないので
あれば,その理由を説明しろということである。つまり,社外取締役の設置か
理由の説明のどちらかが必要になる。
この設置か説明のどちらかが求められる株式会社は,次の要件の全てに該当
する株式会社である。
・公開会社
・大会社
・監査役会設置会社
・有価証券報告書の提出義務がある株式会社
結局,株式を取引所に上場している株式会社が対象となる。有価証券報告書
の提出義務があるのは上場企業だけではないが,株式を取引所に上場している
株式会社には有価証券報告書の提出義務がある。公開会社である大会社は,監
査役会設置会社,監査等委員会設置会社,指名委員会等設置会社の三つのいず
れかとなるが,監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社ではそもそも社
外取締役の設置義務があるので,この規定からは除外されている。
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第2節 社外取締役と社外監査役
➡ 現状,上場企業のほとんどが対象となる。もっとも,今後は監査等委員会
設置会社に移行する企業が増えることも考えられる。
説明義務を課すことによって,社外取締役の設置が間接的に促されている。
取締役会の意思決定に外部の者を関わらせることによって,取締役会の監督機
能の強化が期待されている。
プラス
アルファ
社外取締役の設置については,見直し条項が設けられている。平成26年改
正附則において「政府は,この法律の施行後2年を経過した場合において,
社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し,企業統治に
係る制度の在り方について検討を加え,必要があると認めるときは,その結
果に基づいて,社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるもの
とする」と規定されているのである。今後,この見直し条項に基づき,社外
取締役の設置が義務化される可能性もある。
プラス
アルファ
金融商品取引所(証券取引所)でも,社外取締役の設置についての規律が
設けられている。東京証券取引所では,有価証券上場規程で「上場内国株券
の発行者は,取締役である独立役員を少なくとも1名以上確保するよう努め
なければならない」と定めている。独立役員と社外取締役の要件は完全に一
致するものではないが,同じ趣旨の規律であると考えてよい。
プラス
アルファ
既存の監査役会設置会社で,社外取締役を置いていない上場企業は,社外
取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。しかし,監
査役を監査等委員である取締役とし,社外監査役を社外取締役とすることに
よって監査等委員会設置会社に移行すれば説明義務を負わなくなる。そのた
め,監査等委員会設置会社に移行する株式会社も増えるのではないかといわ
れている。
具体的にどのように理由を説明するのかについては,今後の実務によるとこ
ろが大きい。
➡ 今のところ,試験対策的にそこまでこだわらなくてよい。
15
第2章 機関についての改正
2 社外取締役の要件
改正前の規定では,株式会社の取締役であって,当該株式会社の業務執行取
締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でなく,かつ,過去に当該株式
会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用
人となったことがないものが社外取締役であるとされていた。業務執行取締役
というのは,業務を執行する取締役として選定された取締役(会§363Ⅰ)の
ほか,現実に業務を執行した取締役を含むものである。
平成26年改正によって,次の全ての要件を満たす取締役が社外取締役である
ことになった(会§2⑮)。
・当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等でなく,かつ,その就任
の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったこと
がないこと
・その就任の前10年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社
の取締役,会計参与(会計参与が法人であるときは,その職務を行うべき
社員)又は監査役であったことがある者(業務執行取締役であったことが
あるものを除く。)にあっては,当該取締役,会計参与又は監査役への就
任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったこ
とがないこと
・当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取
締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと
・当該株式会社の親会社の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)
の業務執行取締役等でないこと
・当該株式会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の重要な使用
人又は親会社等(自然人である者に限る。)の配偶者又は2親等以内の親
族でないこと
正直,1度読んだだけで理解することは不可能だろう。
4
業務執行取締役等というのは,業務執行取締役のほか,執行役と支配人その
4
他の使用人を含むものである。また,親会社等とは,親会社のほか,株式会社
の経営を支配している自然人を含むものである。
➡ 親会社等の範囲は会社法施行規則で規定されることになっており,単純な
ものではない。完璧に覚える必要はない。
全部を暗記するのは困難なので,改正前との違いを把握しておくとよいだろ
う。
16
第2節 社外取締役と社外監査役
まず,
「就任の前10年間」という語句に注意する必要がある。改正前は,1
度でも業務を執行したら永遠に社外取締役になれなかった。改正後は,10年
経過することにより社外取締役の要件を満たすことが可能になる。しかし,直
前まで社外取締役でなかった取締役が突然に社外取締役になるというのも不都
合がある。そのため,10年間のいずれかの時に取締役,会計参与,監査役の地
位にあったことがある者については,その就任前10年間を考慮しなければなら
ない。
退任
業務執行取締役等
就任
10年以上
他の要件を満たせば社外取締役である
退任
業務執行取締役等
10年未満
就任
退任 就任
10年以上
他の要件を満たしたとしても社外取締役ではない
親会社や親会社の子会社(兄弟会社といえばわかりやすいかもしれないが,
会社法上兄弟会社という用語はない。)についての規定も追加された。親会社
に相当する者が自然人である場合についても,同様に規定されることになった。
さらに,配偶者や2親等以内の親族についても考慮されることになった。
これらの親会社,兄弟会社,配偶者,親族に関する規定については,過去の
ことは考慮しない。現時点で要件を満たせばよい。過去の地位で問題になるの
は,業務執行取締役等である。
➡ 兼任禁止などの規定ときちんと区別しなければならない。
親会社等の取締役は,社外取締役の要件に該当しない。親会社等の取締役で
あれば全て該当するので,親会社等で社外取締役の要件を満たしても,その子
会社の社外取締役ではないことになる。
結局,社外取締役の要件については,改正によって緩和された部分と,厳し
くなった部分があるといえる。
17
第2章 機関についての改正
3 社外監査役の要件
社外監査役の要件についても同様の改正がある。改正後は,次の全ての要件
を満たす必要がある(会§2⑯)。
・その就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の取締役,会計参与(会
計参与が法人であるときは,その職務を行うべき社員)若しくは執行役又
は支配人その他の使用人であったことがないこと
・その就任の前10年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社
の監査役であったことがある者にあっては,当該監査役への就任の前10年
間当該株式会社又はその子会社の取締役,会計参与(会計参与が法人であ
るときは,その職務を行うべき社員)若しくは執行役又は支配人その他の
使用人であったことがないこと
・当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取
締役,監査役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと
・当該株式会社の親会社の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)
の業務執行取締役等でないこと
・当該株式会社の取締役若しくは若しくは支配人その他の重要な使用人又は
親会社等(自然人である者に限る。)の配偶者又は2親等以内の親族でな
いこと
基本的には取締役と同様だが,兼任が禁止される地位については,社外監査
役の要件以前の問題であるため,ここでは規定されていない。また,親会社の
監査役は社外監査役の要件を満たさないとされている。これは,親会社の社外
監査役であっても同じで,親会社では社外監査役の要件を満たすが,その子会
社では社外監査役の要件を満たさないということがあり得る。
4 責任限定契約の対象
改正前の会社法では,責任限定契約を締結できるのは,社外取締役,会計参
与,社外監査役,会計監査人に限られていた(『商法・会社法』P130)。しかし,
平成26年改正法によって,責任限定契約の対象が拡大された。
(責任限定契約)
第427条 第424条の規定にかかわらず,株式会社は,取締役(業務執行取締役
であるものを除く。),会計参与,監査役又は会計監査人(以下,この条及び
第911条第3項第25条において,「非業務執行取締役等」という。)の第423条
第1項の責任について,当該非業務執行取締役等が職務を行うにつき善意で
18
第2節 社外取締役と社外監査役
かつ重大な過失がないときは,定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会
社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を
非業務執行取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができる。
責任限定契約の対象は,業務執行取締役以外の取締役,会計参与,監査役,
会計監査人である。社外取締役や社外監査役でなくても責任限定契約を締結す
ることが可能となった。
➡ 社外取締役や社外監査役の要件を厳格化する一方で,責任限定契約の対象
を拡大し,バランスを取ったものと理解しておけばよい。本当はそこまで単
純ではないが,こだわる必要はない。
取締役との責任限定契約の締結に関する定款の定めを設ける議案を株主総会
に提出する場合には,その対象が監査等委員や監査委員である取締役のみであ
る場合を除き,機関設計に応じ,各監査役,各監査等委員,各監査委員の同意
が必要になる(会§427Ⅲ,425Ⅲ)。責任の一部免除など,他の各監査役の同
意が必要となる場合についても,監査等委員会設置会社では,各監査等委員の
同意が必要になる(会§425Ⅲ,426Ⅱ)。
19
第2章 機関についての改正
第3節 機関についてのその他の改正
・監査役や監査役会の権限が若干強化されている。
・監査等委員会設置会社が解散した場合の扱いに注意する。
1 会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定
改正前,監査役設置会社が会計監査人の選任に関する議案を株主総会に提出
するには,監査役の過半数の同意が必要だった。解任や再任しないことについ
ても同様である。また,監査役会設置会社では,監査役の過半数の同意に代え
て監査役会の同意が必要とされていた(『商法・会社法』P56)。一方で,委員
会設置会社では,監査委員会が会計監査人の選解任等に関する議案の内容を決
定するとされていた(『商法・会社法』P117)。
平成26年改正法では,監査役・監査役会にも監査委員会と同様の権限が与え
られた。つまり,会計監査人の選任,解任,再任しないことに関する議案の内
容は,監査役会設置会社では監査役会が決定し,監査役会設置会社以外の監査
役設置会社では監査役が決定することになった(会§344)。複数の監査役を置
く監査役会設置会社以外の監査役設置会社では,監査役の過半数によって議案
の内容を決定する。
また,監査等委員会設置会社では,会計監査人の選解任等に関する議案の内
容は,監査等委員会が決定する(会§399の2Ⅲ②)。
結局,会計監査人の選解任等に関する議案の内容の決定は,監査役(複数の
場合にはその過半数)か,監査役会か,監査等委員会か,監査委員会によって
行われることになる。
2 監査等委員会設置会社の設立
新たに監査等委員会設置会社を設立することも可能となり,設立する株式会
社を監査等委員会設置会社とするために必要な規定が設けられている。
設立する株式会社を監査等委員会設置会社とする場合には,株式会社の設立
に際して監査等委員となる者(設立時監査等委員)である設立時取締役をそれ
以外の設立時取締役と区別して選任することになる(会§38Ⅱ,88Ⅱ)。
3 監査等委員会設置会社の解散
解散後は監査等委員会を置くことはできない(会§477Ⅶ)。指名委員会等と
同様である。
清算の開始原因に該当することとなったた時点で公開会社か大会社であった
20
第3節 機関についてのその他の改正
清算株式会社には監査役の設置義務がある(『商法・会社法』P349)。
4
4
4
監査等委員会設置会社が解散した場合には,監査等委員である取締役以外の
取締役が法定清算人となる(会§478Ⅴ)。そして,監査役の設置義務がある場
合には,監査等委員である取締役が監査役となる(会§477Ⅴ)。
➡ 指名委員会等設置会社と同様の扱いである(『商法・会社法』P353)。
21
第3章 株式と親子会社関係についての改正
第3章
株式と親子会社関係についての改正
第1節 募集株式の発行等についての改正
・大きな改正ではないが,試験対策的には影響が大きい。
・どのような場合が該当するのか,きちんと理解したい。
1 支配株主の異動を伴う募集株式の発行等
まず,支配株主の異動とは何かということを把握する必要がある。支配株主
の異動という表現は,会社法の条文で用いられているわけではない。しかし,
改正法案の要綱中で「支配株主の異動を伴う募集株式の発行等」とされており,
普通に用いて問題ない用語である。
募集株式の発行等により,株式会社の株主構成が大きく変わることがあり得
る。株主構成は株主総会における議決権の構成に直結するので,株主構成が大
きく変わることは,それまでの株主にとって非常に大きな影響がある。しかし,
公開会社では募集株式の発行等に際して原則として株主総会の決議が要らなか
ったから,株主の意思を確認することなく株主構成を変更することが可能だっ
た。今回の改正は,この点について修正をしたものといえる。
(公開会社における募集株式の割当て等の特則)
第206条の2 公開会社は,募集株式の引受人について,第1号に掲げる数の
第2号に掲げる数に対する割合が2分の1を超える場合には,第199条第1項
第4号の期日(同号の期間を定めた場合にあっては,その期間の初日)の2
週間前までに,株主に対し,当該引受人(以下この項及び第4項において「特
定引受人」という。)の氏名又は名称及び住所,当該特定引受人についての第
1号に掲げる数その他の法務省令で定める事項を通知しなければならない。
ただし,当該特定引受人が当該公開会社の親会社等である場合又は第202条の
規定により株主に株式の割当てを受ける権利を与えた場合は,
この限りでない。
一 当該引受人(その子会社等を含む。)がその引き受けた募集株式の株主と
なった場合に有することとなる議決権の数
二 当該募集株式の引受人の全員がその引き受けた募集株式の株主となった
場合における総株主の議決権の数
22
第1節 募集株式の発行等についての改正
2 前項の規定による通知は,公告をもってこれに代えることができる。
単純にいうと募集株式の引受人が総株主の議決権の数の過半数を有すること
となる場合が支配株主の異動を伴う場合に該当する。多少不正確であるが,別
ないい方をすると,募集株式の発行により親会社等が交替する場合である。し
かし,これでは乱暴すぎるので,やはり正確な要件も把握しておくべきである。
まず,株主構成の変更が問題になるので,株主割当ての方法による募集株式
の発行等については支配株主の異動は問題にならない。また,そもそも募集事
項の決定に株主総会の決議が必要となる公開会社でない株式会社についても適
用されない。結局,公開会社で,かつ,株主割当て以外の場合にのみ支配株主
の異動が問題になる。
そして,支配株主の異動というのは,募集株式の引受人が引き受けた募集株
式の株主となった場合に有することとなる議決権の数が当該募集株式の引受人
の全員がその引き受けた募集株式の株主となった場合における総株主の議決権
の数の2分の1を超える場合と規定されている。つまり,募集株式の発行等の
全部について引受けの申込みと払込みが行われたとして,その場合にある募集
株式の引受人が総株主の議決権の数の過半数を有する場合である。現実に申込
みや払込みが行われる前に判断する必要があるので,全部の申込みと払込みが
完了したと仮定してその場合の数を考えるのである。
募集株式の発行前の議決権 募集株式の発行後の議決権
株主A 10個 株主A 40個
株主B 10個 株主B 10個
株主C 10個 株主C 10個
合 計 30個 合 計 60個
この場合,株主Aが議決権の過半数を有することになるので,支配株主の異
動を伴う場合に該当する。通常,大量の募集株式の発行により支配株主の異動
が発生するが,募集株式の発行によって過半数を超えればよいので,1株のみ
の発行でも支配株主の異動はあり得る。次のような場合である。
募集株式の発行前の議決権 募集株式の発行後の議決権
株主A 20個 株主A 21個
株主B 10個 株主B 10個
株主C 10個 株主C 10個
合 計 40個 合 計 41個
23
第3章 株式と親子会社関係についての改正
ただし,
募集株式の発行前から親会社等であった者が引受人となるケースは,
支配株主の異動として扱われない。次のような場合である。
募集株式の発行前の議決権 募集株式の発行後の議決権
株主A 30個 株主A 70個
株主B 10個 株主B 10個
株主C 10個 株主C 10個
合 計 50個 合 計 90個
支配株主の異動を伴う場合には,株主の意思を確認する必要がある。具体的
には,必要な事項を株主に対して通知・公告し,反対する株主の議決権数が一
定以上なら株主総会の決議による承認が必要になる。
➡ いくつかの例外はある。後述する。
通知と公告は,どちらか一方でよい。また,有価証券届出書の届出をしてい
る場合などは,他の方法で募集事項等を知ることができるため,通知・公告が
不要になる(会§206の2Ⅲ)。通知・公告は,払込みの期日の2週間前までに
しなければならない。払込みの期間を定めた場合には,その期間の初日の2週
間前までである。
第206条の2 (略)
4 総株主(この項の株主総会において議決権を行使することができない株主
を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっ
ては,その割合)以上の議決権を有する株主が第1項の規定による通知又は
第2項の公告の日(前項の場合にあっては,法務省令で定める日)から2週
間以内に特定引受人(その子会社等を含む。以下この項において同じ。
)によ
る募集株式の引受けに反対する旨を公開会社に対し通知したときは,当該公
開会社は,第1項に規定する期日の前日までに,株主総会の決議によって,
当該特定引受人に対する募集株式の割当て又は当該特定引受人との間の第205
条第1項の契約の承認を受けなければならない。ただし,当該公開会社の財
産の状況が著しく悪化している場合において,当該公開会社の事業の継続の
ため緊急の必要があるときは,この限りでない。
支配株主の異動を伴う募集株式の発行等に反対の株主は,その旨を株式会社
24
第1節 募集株式の発行等についての改正
に対して通知することになる。そして,反対した株主の議決権の数が総株主の
議決権の数の10分の1以上の場合には,株主総会の決議が必要になる。10分の
1の割合については,定款で定めることにより緩和すること(20分の1などと
すること)ができる。
反対した株主の議決権の数の要件を満たしても,
「当該公開会社の財産の状況
が著しく悪化している場合において,当該公開会社の事業の継続のため緊急の必
要があるとき」には株主総会の決議が不要になる。具体的にどのような場合が
該当するかは解釈に委ねられているが,株主総会を開催していると株式会社が
危機的状況に陥る場合などが該当すると思われる。
支配株主の異動を伴う場合に必要となる株主総会の決議要件は,309条1項
の普通決議ではなく,341条と同じ決議要件であり,役員の選任の場合と同じ
決議要件である。つまり,定款で定足数を完全に排除することはできず,定款
で定めても定足数は3分の1までしか緩和できない(会§206の2Ⅴ)。
理 由 議決権の過半数を有する株主を決定することは,取締役を決定す
ることと同じような意味を持つから。
2 総数引受契約の承認
総数引受契約を締結する場合については,次の規定が追加されている。
(募集株式の申込み及び割当てに関する特則)
第205条 (略)
2 前項に規定する場合において,募集株式が譲渡制限株式であるときは,株
式会社は,株主総会(取締役会設置会社にあっては,取締役会)の決議によ
って,同項の契約の承認を受けなければならない。ただし,定款に別段の定
めがある場合は,この限りでない。
募集株式が譲渡制限株式である場合の規定である。総数引受契約を締結する
場合なので,当然株主割当てではない。
引受けの申込みと割当てをする場合で,募集株式が譲渡制限株式である場合
には,その割当てについて,定款に別段の定めがある場合を除き,取締役会設
置会社では取締役会の決議が必要であり,取締役会設置会社以外の株式会社で
は株主総会の決議が必要である(会§204Ⅱ,『商法・会社法』P232)。今回の
改正は,総数引受契約を締結する場合にも,同様の扱いをするためのものであ
25
第3章 株式と親子会社関係についての改正
る。
譲渡制限株式については,誰が株主であるかが問題になる。譲渡が完全に自
由ではないから,株主の個性を気にしなければならないのである。そのため,
誰に割り当てるかを決定することについて取締役会か株主総会の決議が必要だ
ったのだが,総数引受契約を締結する場合でも,同じような扱いとした方が合
理的だといえる。
この場合の株主総会については,割当ての決定と同様に,特別決議が必要に
なる(会§309Ⅱ⑤)。
3 出資の履行を仮装した場合
(出資の履行を仮装した募集株式の引受人の責任)
第213条の2 募集株式の引受人は,次の各号に掲げる場合には,株式会社に
対し,当該各号に定める行為をする義務を負う。
一 第208条第1項の規定による払込みを仮装した場合 払込みを仮装した払
込金額の全額の支払
二 第208条第2項の規定による給付を仮装した場合 給付を仮装した現物出
資財産の給付(株式会社が当該給付に代えて当該現物出資財産の価額に相
当する金銭の支払を請求した場合にあっては,当該金銭の全額の支払)
2 前項の規定により募集株式の引受人の負う義務は,総株主の同意がなけれ
ば,免除することができない。
実質的な払込みに相当する行為がないのに,払込みがあったかのような外観
を作り,募集株式の発行等をする行為になる。借入金などにより払込みを仮装
する「見せ金」などが該当する。
➡ 具体的にどのような行為が出資の履行の仮装に該当するかは,微妙なケー
スも多く,判例によるところも大きい。難しい論点なので,試験対策的には,
こだわりすぎない方がよい。
出資の履行の仮装による募集株式の発行等は,これまで一定の範囲で無効や
不存在と判断されていた。平成26年改正法により責任が明確に定められた。募
集株式の引受人は,払込金額の全額の支払義務を負うことになる。
26
第1節 募集株式の発行等についての改正
出資の履行を仮装することに関与した取締役の責任も定められた。
(出資の履行を仮装した場合の取締役等の責任)
第213条の3 前条第1項各号に掲げる場合には,募集株式の引受人が出資の
履行を仮装することに関与した取締役(指名委員会等設置会社にあっては,
執行役を含む。)として法務省令で定める者は,株式会社に対し,当該各号に
規定する支払をする義務を負う。ただし,その者(当該出資の履行を仮装し
たものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明し
た場合は,この限りでない。
2 募集株式の引受人が前条第1項各号に規定する支払をする義務を負う場合
において,前項に規定する者が同項の義務を負うときは,これらの者は,連
帯債務者とする。
出資の履行を仮装した募集株式については,必要な払込み等があるまで株主
の権利を行使することができないことも定められた(会§209Ⅱ)。
設立に際しての出資の履行を仮装した場合についても,同様の改正が行われ
ている(会§52の2,102の2,103Ⅱ)。
27
第3章 株式と親子会社関係についての改正
第2節 新株予約権についての改正
・募集株式等の発行と同様の改正がある。
・新株予約権無償割当てについても改正がある。
1 支配株主の異動を伴う募集新株予約権の発行
募集株式の発行等と同じような規定が設けられた(会§244の2)。
募集新株予約権の発行では,引き受けた募集新株予約権によって交付を受け
ることができる株式の数によって議決権の数を判断する。行使によって交付を
受ける株式の数のほか,取得条項付新株予約権と引換えに交付を受ける株式の
数も考慮する。しかし,募集新株予約権の発行で考慮されるのは,支配株主と
なる募集新株予約権の引受人が株主となった場合の議決権の数のみである。つ
まり,発行された募集新株予約権の全部が行使されたものとして支配株主かど
4
4
4
4
4
4
うかを判断するのではなく,その募集新株予約権の引受人のみが新株予約権を
行使した場合の議決権の数で支配株主かどうかを判断することになる。
支配株主の異動を伴う場合に必要な手続は,募集株式の発行等とほぼ同じで
ある。
2 総数引受契約の承認
募集新株予約権の目的である株式の全部又は一部が譲渡制限株式である場合
と募集新株予約権が譲渡制限新株予約権である場合には,総数引受契約につい
て,定款に別段の定めがある場合を除き,取締役会設置会社では取締役会の決
議が,取締役会設置会社以外の株式会社では株主総会の決議が,必要となる(会
§244Ⅲ)。
募集株式の発行等と同様の改正である。
3 出資の履行を仮装した場合
出資の履行を仮装した場合についても,募集株式の発行等と同様の改正があ
る。ただし,募集新株予約権の発行に際しての払込みではなく,新株予約権の
行使に際しての出資の履行が対象である(会§286の2,286の3)。
➡ 募集新株予約権の発行に際しての払込みは,出資ではないことに注意する。
4 新株予約権無償割当てについての改正
新株予約権無償割当てをした場合には,その新株予約権の行使期間の初日の
2週間前までに割当てを受けた者に対して通知しなければならないとされてい
28
第2節 新株予約権についての改正
た。しかし,割当ての通知から行使期間の初日まで2週間必要であるというの
は不便であるという批判があった。新株予約権無償割当ての効力発生と行使可
能となる日の間を短縮できなかったのである。
平成26年改正法では,遅滞なく通知しなければならないとし(会§279Ⅱ),
その一方で新株予約権の行使期間の末日を通知の日から2週間を経過する日ま
で延長されたものとみなしている(同Ⅲ)。新株予約権無償割当ての効力発生
直後の行使を可能とするとともに,通知から最低2週間の行使期間を確保して
いるのである。
29
第3章 株式と親子会社関係についての改正
第3節 特別支配株主の株式等売渡請求
・キャッシュ・アウトとよばれることが多い。
・監査等委員会設置会社が解散した場合の扱いに注意する。
1 何のための制度か
まず,特別支配株主の株式等売渡請求というのが具体的にどのような行為な
のかを理解する前に,何のための制度かというのを理解しておくとよい。特別
支配株主の株式等売渡請求によって何ができるのかである。
特別支配株主の株式等売渡請求は,完全親子会社関係を創設するための制度
である。もっとも,特別支配株主は会社に限らないので,特別支配株主が常に
4 4
完全親会社になるわけではない。
既存の他の会社との間で完全親子会社関係を創設するための制度としては株
式交換があったが,全部取得条項付種類株式の取得や株式の併合によって完全
親子会社関係を創設することも可能だった。株式交換の場合には,株式交換完
全親会社が株式交換以前に株式交換完全子会社の株式を保有していなくても完
全親子会社関係を創設することが可能だが,全部取得条項付種類株式の取得や
株式の併合では,完全親会社となる会社はあらかじめ完全子会社となる会社の
株式を取得しておく必要がある。特別支配株主の株式等売渡請求では,完全親
会社となる会社は,まず特別支配株主でなければならない。
全部取得条項付種類株式の取得や株式の併合は,完全親子会社関係を創設す
るための制度ではない。1株に満たない端数の処理を利用して,完全親子会社
関係を創設することが可能であるにすぎない。一方,特別支配株主の株式等売
渡請求は,完全親子会社関係を創設するための制度である。
➡ 繰返しになるが,説明を簡単にするために「完全親子会社関係を創設する」
という表現を用いたのであって,特別支配株主は会社に限定されない。
たとえば,完全親会社になろうとする会社が完全子会社となる会社の株式の
99%を保有している場合を考えてみよう。
株式交換の場合,99%を保有していても,1株も保有していなくても,必要
な手続はそれほど変わらない。株式交換完全親会社が特別支配会社なので,株
式交換完全子会社における株主総会の決議が不要になるぐらいである。
全部取得条項付種類株式の取得を利用する場合には,種類株式発行会社とな
る定款の変更と既存の株式を全部取得条項付種類株式とする定款の変更,さら
に全部取得条項付種類株式の取得について株主総会の特別決議が必要になる。
30
第3節 特別支配株主の株式等売渡請求
また,株式の併合を利用する場合も,株主総会の特別決議が必要になる。
➡ どちらも,1%しか保有していない株主が結果として1株に満たない端数
の株式しか保有しない状況にし,株主の地位を喪失させる。1株に満たない
端数の処理(会§234,235)として,金銭を交付して解決するのである。
特別支配株主の株式等売渡請求では,株主総会の決議が不要になる。取締役
会設置会社では,取締役会の決議があればよい。
全部取得条項付種類株式の取得や株式の併合は,株式会社が直接行う行為で
あったが,特別支配株主の株式等売渡請求では,特別支配株主が売渡しを請求
するのであり,特別支配株主が行う行為となる。ただし,株式会社は,その承
認をするなど,様々な手続で関与する。
株式の圧倒的多数を保有している株主が100%の株式を取得するため,他の
株主に金銭を交付して株主の地位を喪失させる行為は,キャッシュ・アウトと
よばれる。会社法上の用語ではないが,キャッシュ・アウトに代わるわかりや
すい日本語の用語もないので,覚えておいた方が便利である。
その他の株主
特 別 支 配 株 主
特 別 支 配 株 主
金銭
その他の株主
2 特別支配株主とは何か
(株式等売渡請求)
第179条 株式会社の特別支配株主(株式会社の総株主の議決権の10分の9(こ
れを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては,その割合)
以上を当該株式会社以外の者及び当該者が発行済株式の全部を有する株式会
31
第3章 株式と親子会社関係についての改正
社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人(以下この条及び次
条第1項において「特別支配株主完全子法人」という。
)が有している場合に
おける当該者をいう。以下同じ。)は,当該株式会社の株主(当該株式会社及
び当該特別支配株主を除く。)の全員に対し,その有する当該株式会社の株式
の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができる。ただし,
特別支配株主完全子法人に対しては,その請求をしないことができる。
条文からわかるように特別支配株主の定義は簡単ではないが,とりあえずは
総株主の議決権の10分の9以上を有している株主と考えてしまってよい。定
款で要件を厳しくできるし,特別支配完全子法人の議決権も考慮するが,まず
は全体を理解するのが重要である。
➡ 特別支配会社(会§468Ⅰ)と似た要件だが,完全に同じではない。その
違いを特別に注意する必要はない。
3 株式等売渡請求の流れ
4
株式等とあるように,対象は株式に限られない。新株予約権も対象になる(会
§179Ⅱ)。しかし,手続に大きな違いがあるわけではないので,株式の売渡し
を想定して理解していけばよい。
株式等売渡請求のおおまかな流れは次のようになる。
・特別支配株主から株式会社に対しての通知
↓
・株式会社の承認
↓
・株式会社から売渡しを請求する株主等に対しての通知
↓
・効力発生
特別支配株主が株式を取得するための手続なのだが,単純に当事者間で株式
の売買が行われるのではなく,株式会社が関与することになる。一方で,単純
な株式の売買とは異なり,強制的に株式が移転することになる。
強制的に行われるものであるため,売渡しの対象となる株式の株主には,差
止請求権(会§179の7)や裁判所に対して売買価格の決定の申立てをする権
利(会§179の8)などが与えられている。逆に,それらの手続によらなけれ
ば売渡しの請求を拒否できないともいえる。
32
第3節 特別支配株主の株式等売渡請求
最初の特別支配株主から株式会社に対してする通知では,対価の額や取得す
る日なども通知する(会§179の2)。つまり,これらの事項は請求をする特別
支配株主が定める。対価は金銭に限られている。
通知を受けた株式会社は,その請求を承認するか否かを決定しなければなら
ない(会§179の3)。この承認について株主総会の決議は不要であり,取締役
会設置会社では取締役会の決議があればよい。取締役会設置会社以外の株式会
社では通常の業務執行の決定として行えばよい。
➡ 特別支配株主は議決権の9割以上を持っているので,通常の株主総会の決
議は成立するはずだし,もし仮に特別支配株主に議決権の行使を認めないと
すると,強制的な取得を可能とするというこの制度の趣旨が損なわれてしま
う。
承認をした株式会社は,売渡しの対象となる株式の株主に対して必要な事項
を通知しなければならない(会§179の4)。この通知は,取得する日の20日前
までに行う必要がある。また,その株式の登録株式質権者に対しても通知しな
ければならないが,登録株式質権者に対する通知は公告で代えることができる。
プラス
アルファ
上場している株式会社などの振替株式を発行している株式会社は,社債,
株式等の振替に関する法律161条2項の規定により,通知に代えて必ず公告
しなければならない。株主名簿に名前が載っている者が株主とは限らないた
めである。
対象となる株式について株券を発行している株券発行会社では,株券の提出
に関する公告等も必要になる(会§219Ⅰ④の2)。
➡ 株券は特別支配株主に交付するのではなく,株式会社に提出することにな
る。
売渡しの請求を受けた株主は,その請求を拒否したい場合には,差止請求に
より対抗することができる(会§179の7)。差止請求ができる場合は,法令違
反がある場合や対価が著しく不当である場合などに限られている。
対価の額に不満がある場合には,裁判所に対して売買価格の決定の申立てを
することができる(会§179の8)。
さらに,売渡株式等の取得の無効の訴えも認められる(会§846の2)。
33
第3章 株式と親子会社関係についての改正
株式等売渡請求をした特別支配株主は,取得する日として定めた日に売渡株
式等の全部を取得する(会§179の9Ⅰ)。期日の到来により当然に効力が発生
することになる。
プラス
アルファ
対価の支払いについて,会社法は規定していない。つまり,対価の支払い
は効力要件とされておらず,株式の移転と対価の支払は同時履行とされてい
ない。この点について,法案の審議の過程で問題になったが,法務省令等で
必要な措置をとるということで法案は成立している。
株式会社については,株式等売渡請求に関する書面等の備置きの義務が定め
られている(会§179の5,179の10)。
清算株式会社を対象とする株式等売渡請求は認められない(会§509Ⅱ)。株
式交換や株式移転が認められないことと同じように考えればよい。
4 全部取得条項付種類株式の取得についての改正
先に述べたように,全部取得条項付種類株式の取得によってもキャッシュ・
アウトを行うことができる。平成26年改正法では,特別支配株主の株式等売渡
請求などと一貫した扱いとするため,全部取得条項付種類株式の株主に対する
通知義務(会§172Ⅱ)や,全部取得条項付種類株式の取得に関する書面等の
備置きの義務(会§171の2,173の2)などが定められている。また,差止請
求も可能となっている(会§171の3)。差止請求ができるのは,法令・定款違
反があって株主が不利益を受けるおそれがあるときである。
5 株式の併合についての改正
株式の併合を利用してキャッシュ・アウトを行うことも可能なのだが,以前
から少数株主の権利が害されるとして批判され,証券取引所もそういった株式
併合を慎むよう警告を発していた。今回の改正は,株式の併合によって少数株
主の権利が害されないようにするためのものである。
一定の要件に該当する株式の併合については,反対株主の株式買取請求が認
められる(会§182の4)。ただし,買取請求ができるのは,株式の併合をする
ことによって1株に満たない端数となる部分についてのみである。
次の要件のいずれかに該当するに限り反対株主の株式買取請求が可能になる
34
第3節 特別支配株主の株式等売渡請求
(会§182の2Ⅰ括弧書)。
➡ 条文が読みづらいが,182条の2第1項の括弧書により,同条から182条の
6までの規定については,全てこの要件に該当する場合に限って適用される。
・単元株式数を定めていない場合
・単元株式数を定めていて,単元株式数に株式の併合の割合を乗じると1に
満たない端数が発生する場合
単元株式数が100株の場合を考えると,10株を1株に併合するときは端数は
生じないが,3株を1株に併合するときは端数が生じることになる。このよう
な端数が生じる場合には,反対株主の株式買取請求が可能になる。
➡ これらの要件に該当しない場合には,キャッシュ・アウトとは関係のない
株式の併合と扱われるのである。
株式の併合に際しては株主に対する通知・公告(会§181)が必要だったが,
反対株主の株式買取請求が認められる場合には,通知・公告の期間が2週間か
ら20日に伸長される(会§182の4Ⅲ)。
反対株主の株式買取請求が可能になる株式の併合については,一定の書面を
事前に備え置かなければならない(会§182の2)。また,株式の併合の効力発
生後にも一定の書面を備え置かなければならない(会§182の6)。
反対株主の株式買取請求が可能になる場合において,株式の併合が法令・定
款に違反し,株主が不利益を受けるおそれがあるときは,株主は,差止請求を
することができる(会§182の3)。
書面等の備置き,反対株主の株式買取請求,差止請求といった株主保護のた
めの規定は,特別支配株主の株式等売渡請求と株式の併合に共通なものとなっ
ている。全部取得条項付種類株式の取得では反対株主の株式買取請求がないが,
裁判所に対する価格の決定の申立て(会§172)によって同じような効果が得
られる。結局,特別支配株主の株式等売渡請求,全部取得条項付種類株式の取
得,株式の併合の三つについて,少数株主保護のための同じような制度が設け
られたということができる。
➡ 三つの制度を比較して整理しておくとよい。
35
第3章 株式と親子会社関係についての改正
第4節 特定責任追及の訴え
・多重代表訴訟ともよばれる。こちらの表現の方がイメージはしやすい
かもしれない。
・会社の数が増えるとややこしくなるので,まず簡単なパターンを理解
すればよい。
1 何のための制度か
ものすごく単純化して,やや乱暴な表現をすると,親会社の株主が直接子会
社の取締役等の責任を追及するための制度である。
これまでも,責任追及等の訴えとして,株主が取締役などの一定の者の責任
を追及するための制度は規定されていた。株主代表訴訟などともよばれる制度
である。しかし,改正前の制度は,その株式会社の株主がその株式会社の取締
役などを訴えるためのものだった。今回設けられた制度は,株式を保有してい
る株式会社以外の株式会社の取締役などを訴えることを可能にするものである。
2 訴えの提起を請求することができる株主の要件
条文を読むと,「完全親会社等」「最終完全親会社等」「特定責任」といった
用語とその定義が並び,1度読んだぐらいでは理解できないものになっている。
頑張って読んでみてもいいが,そこで理解できなくても気にする必要はない。
少しずつ整理してくことにする。
まず,訴えの提起を請求することができる株主の要件は,次のようになって
いる(会§847の3ⅠⅥ)。次の二つのうち,どちらかを満たす必要がある。
・6か月前から引き続き総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する
こと
・6か月前から引き続き発行済株式の100分の1以上の数の株式を有するこ
と
他の多くの似たような要件と同様に,公開会社でない場合には6か月の要件
は不要となる。また,発行済株式からは自己株式の数が除外され,定款で要件
を緩和することも可能である。
3 対象となる子会社の範囲
最初に直接子会社の取締役等の責任を追及するための制度であると述べた
36
第4節 特定責任追及の訴え
が,対象となる子会社の範囲は,会社法上の子会社とは一致しない。
4
対象となるのは,完全子会社のほか,完全子会社等と共同して株式の全部を
4
4
有している株式会社になる。会社法上の用語ではないが,完全孫会社,完全ひ
4
4
孫会社……などが該当する。完全子会社等と「等」がついているのは,共同し
て株式を保有することになる者は会社に限らないからである。たとえば,A株
式会社がB法人の持分の全部を保有し,B法人がC株式会社の株式の全部を保
有しているのであれば,A株式会社の株主がC株式会社の取締役の責任を追及
できることになる。
4 訴えを提起する株主が株式を保有する株式会社の要件
訴えを提起する株主が株式を保有している株式会社は,他の株式会社を完全
親会社とするものであってはならない。たとえば,A株式会社がB株式会社の
株式全部を保有し,B株式会社がC株式会社の株式全部を保有している場合に
は,B株式会社の株主(つまりA株式会社)が特定責任追及の訴えの提起を請
求することはできない。
➡ この例で,A株式会社にとって完全親会社等となる株式会社が存在しなけ
れば,A株式会社は最終完全親会社等であることになる。つまり,A株式会
社の株主で要件を満たすものが特定責任追及の訴えの提起を請求できること
になる。
5 最も単純なケース
いろいろややこしくなってきたが,最も単純なケースは,A株式会社がB株
式会社の完全親会社であり,A株式会社には完全親会社等となる株式会社がな
いケースである。たとえばA株式会社が上場会社なら,通常様々な者が株主と
なっているから,A株式会社には完全親会社等がないことになる。
このケースでは,A株式会社の株主で要件を満たすものは,B株式会社の取
締役等に対して特定責任追及の訴えの提起を請求することができることになる。
➡ 基本的にはこのケースを想定して理解していくとよい。
6 特定責任
ここまでの要件に加えて,さらに特定責任であることが求められる。特定責
任といっても,責任の内容を限定するものではなく,対象となる子会社の範囲
をさらに限定するものである。
対象となる子会社の株式の帳簿価額が訴えの提起を請求する株主が株式を保
有している株式会社の総資産額の5分の1を超える場合に追求する責任が特定
責任となる。つまり,子会社の株式の帳簿価額が親会社の総資産額の5分の1
37
第3章 株式と親子会社関係についての改正
を超えない場合には,特定責任追及の訴えの提起は請求できないのである。
➡ 厳密には,前述したように三つ以上の法人が関係することもあるので,も
っと複雑な定義になっている。
結局,完全子会社であっても,その規模が比較的小さいものは,特定責任追
及の訴えの対象にはならないのである。
7 責任を追及される者
実際に責任を追及されるのは,対象となる子会社の発起人,設立時取締役,
設立時監査役,取締役,会計参与,監査役,執行役,会計監査人,清算人であ
る。条文上は「発起人等」と総称されている。
8 実際の責任追及の手続
これまでの責任追及の訴えと同様に,株主が直ちに訴えを提起することがで
きるわけではない。株主は対象となる子会社に対し,訴えの提起を請求するこ
とになる。
子会社が訴えを提起しない場合には株主が直接訴えを提起できるし,
回復することができない損害が生ずるおそれがある場合にも,直ちに訴えを提
起できる。
➡ これまでの責任追及の訴えと同じである。
9 その他の責任追及の訴えに関する改正
親子会社関係がどの時点で存在すればよいのか,どの時点で株主であればい
いのかなど,細かい点について詳細に規定された。
また,既存の責任追及の訴えについても,一定の要件を満たす範囲で株主で
なくなった者についても訴えの提起の請求を認める趣旨の改正が行われてい
る。たとえば,株式交換によって株主の地位を失った後も,その完全親会社の
株式を保有していれば,訴えの提起の請求が可能になる(会§847の2)。
38
第5節 発行可能株式総数に関する改正
第5節 発行可能株式総数に関する改正
・特に公開会社において発行可能株式総数についての規制が強化された。
・株式の併合に際しても発行可能株式総数を決議すべき旨が定められた。
1 新たに公開会社となる場合の発行可能株式総数
第113条 (略)
3 次に掲げる場合には,当該定款の変更後の発行可能株式総数は,当該定款
の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数の四倍を超えることがで
きない。
一 公開会社が定款を変更して発行可能株式総数を増加する場合
二 公開会社でない株式会社が定款を変更して公開会社となる場合
これまで,発行可能株式総数が発行済株式の総数の4倍を超えていても,発
行可能株式総数を変更することなく公開会社となる定款の変更をすることが可
能だった。平成26年改正法により,公開会社となる場合には,発行可能株式総
数を発行済株式の総数の4倍以下にする必要が生じた。株主保護のための規制
である。
2 株式の併合に際しての発行可能株式総数
第180条 (略)
2 株式会社は,株式の併合をしようとするときは,その都度,株主総会の決
議によって,次に掲げる事項を定めなければならない。
一 併合の割合
二 株式の併合がその効力を生ずる日(以下この款において「効力発生日」
という。)
三 株式会社が種類株式発行会社である場合には,併合する株式の種類
四 効力発生日における発行可能株式総数
3 前項第4号の発行可能株式総数は,効力発生日における発行済株式の総数
の4倍を超えることができない。ただし,株式会社が公開会社でない場合は,
この限りでない。
これまで公開会社であっても株式の併合をすることにより発行することがで
きる株式の数を大量に確保することが可能だったのだが(『商法・会社法』P
39
第3章 株式と親子会社関係についての改正
200)
,今回の改正により明確に禁止された。
株式の併合に際しては,発行可能株式総数を決議する必要があり,公開会社
では,発行済株式の総数の4倍が上限とされた。
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第6節 株式についてのその他の改正
第6節 株式についてのその他の改正
・それほど重要な改正はない。
・反対株主の株式買取請求の効力発生日だけが要注意である。
1 子会社株式の譲渡
その子会社の株式や持分の全部又は一部の譲渡であって,一定の要件を満た
す場合について,事業の譲渡と同じように株主総会の決議が必要となった(会
§467Ⅰ②の2)
。規模の十分に大きな子会社の株式の譲渡は,事業の譲渡と同
じような効果になるからである。
2 反対株主の株式買取請求
株式の価格の決定前の支払を認めることで,買取代金の供託が可能になった
(会§117Ⅴ)。
また,これまで買取りの効力は,原則として代金の支払時点とされていたが,
4
4
4
改正法により,一律に対象となる行為の効力発生日に効力が生じるとされた(会
§117Ⅵ)。たとえば,譲渡制限株式とする定款の変更をする場合ならば,定款
の変更の効力発生と同じ日に買取りの効力も生じることになる。
新株予約権買取請求についても,同様の改正が行われている。
3 株主名簿の閲覧・謄写の請求
これまでは,株主名簿の閲覧・謄写の請求があっても,請求者がその株式会
社の業務と実質的に競争関係にある事業を営む場合などには,その請求を拒否
することができた(改正前の会§125Ⅲ③)。
改正法によりこの規定は削除され,競争関係にあることを理由として閲覧・
謄写を拒否することはできなくなった。
41
第4章 組織再編行為についての改正
第4章
組織再編行為についての改正
第1節 差止請求
・組織再編行為の一部について,差止請求が可能になった。
・差止請求ができない場合に注意する。
1 改正前の内容
改正前の会社法では,略式手続による吸収合併,吸収分割,株式交換につい
て,法令・定款違反か対価が著しく不当であることを理由として差止請求が可
能とされていた(改正前の会§784Ⅱ,796Ⅱ)。しかし,この場合以外には,
差止請求は認められていなかった。
2 差止請求が可能となる行為
平成26年改正法により,差止請求が可能となる組織再編行為の範囲が拡大さ
4
4
れた。簡易な手続による場合以外であれば,差止請求が可能である(会§784
の2,796の2)
。
➡ 簡易な手続では差止請求ができないが,略式手続では差止請求ができると
いうことである。
略式手続による場合には,改正前と同様に,対価が著しく不当であることを
理由として差止請求をすることが可能である。しかし,略式手続以外の場合に
は,法令・定款違反の場合に限って差止請求が可能とされた。
➡ 全部取得条項付種類株式の取得と株式の併合についても,差止請求ができ
る事由は,法令・定款違反に限られている。
42
第2節 反対株主の株式買取請求
第2節 反対株主の株式買取請求
・組織再編行為に際しての反対株主の株式買取請求についても改正があ
る。
・反対株主の株式買取請求ができる場合とできない場合を区別する。
1 反対株主の株式買取請求ができなくなる場合
改正前は,
ほとんどの組織再編行為で反対株主の株式買取請求が可能であり,
反対株主の株式買取請求が認められないのは,総株主の同意が必要な場合と簡
易な手続による吸収分割会社・新設分割会社だけだった。
平成26年改正法により,吸収合併存続会社,吸収分割承継会社,株式交換完
全親会社については,簡易な手続による場合には,反対株主の株式買取請求が
認められなくなった(会§797Ⅰ①)。より手続を簡易にする趣旨である。
➡ 事業譲渡等についても同様の改正がある(会§469Ⅰ)。
略式手続による場合の特別支配会社についても反対株主の株式買取請求が認
められなくなった(会§469Ⅲ括弧書,785Ⅲ括弧書,797Ⅲ括弧書)。圧倒的多
数の議決権を保有している特別支配会社が反対することは考えられないため,
制度として不要だからである。
2 買取りの効力発生時期
組織再編行為以外の反対株主の株式買取請求と同様に,一律に効力発生日に
買取りの効力が生じるとされた。新設型の組織再編行為については,会社の成
立時に買取りの効力が生じることになる。
43
第4章 組織再編行為についての改正
第3節 会社分割についての改正
・会社分割に際しての債権者の保護が強化されている。
・詐害的な会社分割とは何かを理解する。
1 改正前の問題点
会社分割によって事業の一部を他の会社に承継させることができるが,承継
させる資産と負債によっては,吸収分割会社・新設分割会社の資産の状況が悪
化することもあり得る。しかし,分割会社において異議を述べることができる
債権者は,会社分割によって債務者が変わる債権者のみであり,分割会社に債
務の履行を請求できる債権者は異議を述べることができないのである。
このことを利用して,会社分割によって他の会社に優良な資産を移し,債務
ばかりの会社にしてしまうことによって,債権者を害する行為が行われていた。
このような会社分割は,詐害的な会社分割とよばれている。
債権者側の対抗策はいくつかあるが,詐害行為取消しを主張することが考え
られる。最高裁は,平成24年10月12日,会社分割について詐害行為として取消
しを認める判決をしている。
「株式会社を設立する新設分割がされた場合にお
いて,新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず,新設分割に
ついて異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は,(中略)詐
害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される」と判断
したのである。
2 改正後の規定
第759条 (略)
4 第1項の規定にかかわらず,吸収分割会社が吸収分割承継株式会社に承継
されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。
)を害す
ることを知って吸収分割をした場合には,残存債権者は,吸収分割承継株式
会社に対して,承継した財産の価額を限度として,当該債務の履行を請求す
ることができる。ただし,吸収分割承継株式会社が吸収分割の効力が生じた
時において残存債権者を害すべき事実を知らなかったときは,
この限りでない。
4 4 4 4 4 4
4
4
4
4
4
4
4
4
吸収分割会社が債権者を害することを知っていて,かつ,吸収分割承継会社
が吸収分割の効力発生時に債権者を害すべき事実を知っていた場合には,債権
者は,吸収分割承継会社に対して債務の履行を請求することが可能になる。裁
44
第3節 会社分割についての改正
判によることなく,詐害行為を取り消したのと同様の効果が得られるようにな
る。
この規定は異議を述べることができない債権者を保護するためのものである
ので,異議を述べることができる債権者については適用されない。
➡ 新設分割(会§764Ⅳ),事業譲渡(会§23の2),営業譲渡(商§18の2)
についても同様の規定が設けられている。
会社分割に際して各別の催告を受けることができるにもかかわらず各別の催
告を受けていなかった分割会社の債権者の保護も強化された(会§759Ⅱ,764
Ⅱ)。分割会社がその存在を知らなかったため催告を受けなかった債権者につ
いて,異議を述べなければ保護されないとするのは酷だからである。
このような債権者は,会社分割後も分割会社に対して一定の範囲内で債務の
履行を請求することができる。
3 その他の改正
吸収分割契約や新設分割計画に基づいてする剰余金の配当について,準備金
の積立てに関する規定(会§445Ⅳ)は適用しないものとされた(会§792,
812)
。
45