「ヒマラヤ・チベット高所住民の健康」 -低酸素適応と生活変化の相互作用- 京都大学東南アジア研究所 総合地球環境学研究所 奥宮清人 低酸素、低温、限られた生態資源、災害、温暖化に脆弱(IPCC2007) 「本日の発表の目的」 1) 世界3大高地である、チベット・ヒマラヤ、 アンデス、エチオピア高地住民の低酸素適応 2) 伝統的な生活の変化とともに増加している 糖尿病などの生活習慣病 3)糖尿病アクセル仮説 低酸素適応トレードオフ仮説 図1 チンコー大麦 チンコー 大麦 高地ごとの固有性と多様性 (栽培植物) テフ ジャガイモ 図2 ヤク 高地ごとの固有性と多様性 (家畜利用) リャマ、アリパカ 牛の利用 高地生態に適応した、農牧複合を含む牧畜の分類 移動・定着 地域 牧畜 西斜面 アンデス − (定牧) 定住的牧畜と移動牧 畜 専業牧畜 定住的牧畜 − (定牧) + (移農) 定牧移農 クンブ + (移牧) + (移農) 移牧移農 ソル + (移牧) − (定農) 移牧定農 西ヒマラ ヤ + (移牧) 東斜面 ヒマラヤ 農業 農牧複合を含む牧 畜の分類 移動牧畜 遊牧 (稲村哲也: 遊牧・移牧・定牧:モンゴル・ チベット・ヒマラヤ・アンデスのフィールドから 2014) 図3 チベット、ラサ チベット高原、ラウー村 3650m チベット 多数の 先住民が暮らしている アンデス高地 インディオ エチオピア高原、 アフロ・アジア語族 図4 ラサ、ポタラ宮殿 チベット、ラサ チベット仏教 3650m 高地ごとの固有性と多様性 (精神文明) ボリビア インカ帝国、階段耕地 ティワナク遺跡 太陽信仰 アンデス文明 ラリベラ、石窟寺院 エチオピア正教 高地文明 図12 高地の自然利用における持続的な生態・文化的適応 のために、さまざまな装置群や制度群とともに形成す るひとつのシステム 伝統的な姿 近年の状況 生態環境 標高差の利用 温暖化の脅威 社会 多様な社会と環境を 結ぶネットワーク 経済 農牧複合と交易 生業経済から 商品経済へ 精神 チベット仏教 若者の宗教離れ 国境による分断・ アクセシビリティの向上 変化の中で、いかに適応していくべきか 写真5 聖山巡礼出発の朝 梅里雪山に向かひて 生老病死- Quality of life 老人 ・高所環境が長い人生で身体に刻み込まれている ・ 近年の生活の変化に脆弱か? 本日の発表 1. 身体に刻み込まれた地球環境問題 2. 高地の生活スタイルの変容と生活習慣病 3.高所の低酸素環境と疾病 4.糖尿病アクセル仮説 5.高地の老人は幸かせ ホモサピエンスの起源と分散 Hedges SB. Nature 2000 図69.低酸素適応の多様性 アンデス チベット エチオピア 赤血球 の増加 血流増加 酸素飽和度 (SpO2) 保持 Beall CM. Integr Comp Biol 2006. 図2. 慢性高山病 5〜10%に 発症の危険あり 高所住民(2500m以上) 4560万人(世界) 多血症による循環障害 赤ら顔 低酸素適応障害 慢性高山病 アンデス に典型 極度の 多血症 高所肺高血圧症 チベット に典型 多血症 & 肺高血圧 肺高血圧症 心不全 図3 Increased red blood cells: Han people >Tibetan Differences in the history of adaptation to hypoxia HB≧18 mg/dl (%) New finding 47% Lifestyle-related disease Red blood cells 40 http://my.cardiovalens.com/featured/feat uredisplay.asp?featureid=316 30 19% 20 Obesity Hypertension Diabetes Elderly men 10 0 1% Han Tibetan Qinghai Qinghai Japanese (n= 111) (n= 46) (n= 69) Okumiya 2009 糖尿病の世界の多発国 糖尿病頻度 (%) 2011年 年齢調整 未調整 キリバス共和国 25.7 24.9 マーシャル諸島 クウェート ナウル カタール 22.2 21.1 20.7 20.2 21.5 15.9 20.1 14.1 レバノン共和国 20.2 18.9 サウジアラビア バーレーン ツバイ 20.0 19.9 19.5 16.2 15.3 18.7 アラブ首長国連邦 19.2 12.6 日本 7.9 11.2 (IDF Diabetes Atlas, 2012より) 糖尿病―身体に刻み込まれた地球環境問題 # 年間約396万人が糖尿病により命を落としている。 # 糖尿病は貧富を問わずすべての人々を侵しうる。 # 糖尿病は現在、増加中である。 # 世界の成人人口の6.6%にあたる2億8千5百万人以上が糖尿病 に罹患している。 # QOLが低下する 身体に刻み込まれた環境問題 低酸素適応と生活変化の相互作用 人の生老病死と高所環境 「高地文明」における医学生理・生態・文化的適応」 オアシスのチベット 草原のチベット 図9. 多様な生態 年間降水量の違いによる 3つのチベット ラダーク (乾燥) 青海 (半乾燥) (mm) 森のチベット アルナーチャル (湿潤) 谷田貝 (2008-09) 図13. 標高、生態、都市化:3つの軸 標高 低酸素 紫外線 生業経済 農牧地域 都市化 商品経済の浸透 オアシス 低資源 草原 森 湿潤 生態資源 多様性 図14 高所プロジェクトの 取り組み 文 明 図18 高地における人類-環境の歴史 -チベットの事例- 人類がチベット高原への居住 を始める 時 間 軸 チベット文明の始まり (高地に対する社会文化的な 適応の隆盛) 吐蕃王国の始まり 1950年代以降 チベット動乱 高地に対する 医学生理学的な適応の始まり チベットを取り巻く変化 (グローバリゼーションの中で の高地) Stein RA (1987) La Civilisation Tibetaine. Aldenderfer MS(2003) Moving up in the world 本日の発表 1. 身体に刻み込たれま地球環境問題 2. 高地の生活スタイルの変容と生活習慣病 3.高所の低酸素環境と疾病 4.糖尿病アクセル仮説 5.高地の老人は幸 かせ ヒマラヤの土地開発史(埋没腐食土層の14C年代) Dry Zone (< 300 mm) カイラス山 シガチェ ラサ デリー ソル ca. 3700, 2600, 1200 1100, 810 ジロ タワン ca. 4100, 2690, 2670 ca. 3350, 3100, 2050 2600, 2200, 2000 370, 140 830, 390, 200, 100 メラック ca. 6110 ディラン ca. 250, 190 サクテン ca. 610 ナガジジ ca. 860, 220, 130, 100 ルブラン ca. 3440, 480 コルカタ Medium Zone (300-800 mm) プ-アル Humid Zone (> 800 mm) ヒマラヤ東部の開発は、 ①数千年前(約2000年前が中心)に始まり、 ②約500年前以降に集中的に行われた。 (宮本 2013 ヒマラヤ学誌) ラサ中心のチベット文化地域ネットワーク(1947年以前) レー (ラダーク) Dry Zone (< 300 mm) カイラス山 デリー ユーシュー (青海省) シガチェ ラサ タシガン (ブータン) ディラン (アルナーチャル) コルカタ Medium Zone (300-800 mm) プ-アル Humid Zone (> 800 mm) ・ラダーク(オアシス)、青海省(草原)、アルナーチャル・ブータン(森林) ・チベット文化地域と域内ネットワーク ・ラダークの乾燥果実、青海省の薬草、アルナーチャル・ブータンの染料・紙、 ラサの装飾品・生薬、西チベットの塩・ウール、内蒙古のウマ、雲南の茶・砂糖 インド・中国のグローバル・ネットワーク(1962年以降) レー Dry Zone (< 300 mm) (ラダーク) ユーシュー (青海省) ダラムサラ ラサ デリー タシガン (ブータン) ディラン (アルナーチャル) コルカタ Medium Zone (300-800 mm) Humid Zone (> 800 mm) ・1962年の中印紛争以降、ラダークとアルナーチャルはインド政府、青海省は中国政府の 辺境開発・国防政策のもとで、生活環境が変化してゆく。 ・ラダークの乾燥果実、青海省のウール・ハチミツ、アルナーチャルの薬用植物・香辛料は、 グローバル市場に出荷される。世界中から「古き良きチベット」をみる観光客が集まる。 Vertical distribution pattern of alien plant invasion (Kosaka 2010) 外来植物の原産地の割合 地中海 Dry Zone (< 300 mm) 地中海 ヨーロッパ 青海省 (N=9) ラダーク (N=8) ヨーロッパ ラサ デリー ヨーロッパ 中南米 コルカタ Medium Zone (300-800 mm) Humid Zone (> 800 mm) アルナーチャル (N=32) 開発の影響により、ヒマラヤ・チベット高地に多くの外来植物が侵入している。 ヒマラヤ南面のアルナーチャルでは中南米原産、北面のラダークと青海省ではヨー ロッパや地中海原産の外来植物が多い。 (小坂 2010) 図8 チベットの調査地域 中国 ラダ-ク地方 青海省 海晏 玉樹 ブータン インド アルナーチャル・ プラデーシュ州 写真8 ナムシュ村の景観 (標高2000m付近、モンパ族の村落)小坂撮影 Arunachal 22 高度差を利用した生業 (アルナーチャル) チーズ、バター、薬草、香木 トウモロコシ、ダイズ ソバ、シコクビエ コメ 標高3000m 標高2000m 標高1500m ナムシュ村の景観 高度に応じた薬用植物利用(アルナーチャル) トリカブトの1種 オウレンの1種 ドクダミ カッコウアザミ シイの1種 ツルヒヨドリ ビワモドキ クサギの1種 小坂 ヒマラヤ学誌 2011 Ladakh Domkhar village (m) 5000 4100m 4000 Gongma 3800m Barma 3400m 3000 Do 2900m Sketch map of land ownership parcels in Domkhar valley Ladakh (Yamaguchi, Nose, Takeda. 2012) 農耕・牧畜複合システム ラダーク ひ 夏期中の農耕時期と牧畜の移動タイミング 夏期中の農耕時期と牧畜の移動タイミング (平田20 広域交易のための季節的水平利用 ラダーク 村内だけでは 成り立たない 生業 ドムカル・ゴンマ村のS世帯が1947年頃までおこなっていた広域交易 (平田2010) 写真18 図46 慢性高山病と糖尿病を有する1世帯の土地利用 、 55 歳. 男性 植林地(ヤ ナギ類) #1.慢性高山病 #2. 糖尿病 総カロリー (kcal/day) 3760 蛋白 脂質 (g/day) (g/day) 85.8 66.7 炭水化物 (g/day) 塩分 (g/day) 360.9 12.1 高度 3800 m 大麦(自家 用) 15960 歩数 / 日 (9.5 km/日) (標高4500mの草場に移動 ) 豆類(販 売) 植林地(ヤナギ類) (福富、野瀬、山口、竹田、月原 ヒマラヤ学誌 2011) 47 生活習慣病を有する1世帯の土地利用 年齢 性 職業 生活習慣病 81 男 農業 耕作放棄地 ヘモグロビン 総カロリー 蛋白 脂質 炭水化物 塩分 (kcal/day) (g/day)(g/day) (g/day) (g/day) 糖尿病 多血症 1970 32.7 44.2 324.3 7.7 高脂質、炭水化物 運動中等度 11000歩 (4.7 km/日) (高所3500mへの放牧地移動) 76 女 農業 高血圧、肥満 76 男 農業 正常 1809 2004 51.2 40.8 29.8 23.9 344 299.1 10.6 10.1 植林地(ヤナギ類) 大麦(自家 用+販売) 豆・野菜類 (販売) 標高3200 m (福富、野瀬、山口、竹田、月原 ヒマラヤ学誌2011) 世帯の特徴人数:8(うち農業従事者2) 図48 生活習慣病を多く有する1世帯の土地利用 年齢 性 職業 75 79 67 51 27 21 24 居住 生活習慣病 男 農業 ヘモグロビン 糖尿病予備群, 高血圧 多血症 女 主婦 村内 糖尿病予備群 女 主婦 村内 糖尿病予備群、 肥満 男 公務員 村外 正常範囲 女 学生 村外 男 僧侶 村外 男 学生 村外 肥 満 27 大麦(自家用) 豆・野菜類(販売) 果樹(アンズ、リンゴ) 植林(ポプラ類) 2900 m ドムカル村ド集落(世帯番号:D3 (福富、野瀬、山口、竹田、月原 ヒマラヤ学誌 2011) 写真25 Ladakh Qinghai QuickTimeý Dz TIFFÅiîÒà•èkÅj êLí£ÉvÉçÉOÉâÉÄ Ç™Ç±ÇÃÉsÉNÉ`ÉÉǾå©ÇÈǞǽDžÇÕïKóvÇ-Ç•ÅB Domkhar 2900-4100m Changing agro-pastoral linkage Haiyan 3000m Rural area Arunachal Pradesh Dirang 1500-4000m Subsistence livelihoods Yushu 3700m Urban settlement 図5. 異なる「生態の」チベットと「食多様性」 *** 11 *** 10 ***: p<0.001 (ANOVA) *** 9 8 7 6 5 日本 土佐 (3百m) アルナ チャル 玉樹 海晏 牧民 漢人 都市移住 農村 (2-4千m) (4千m) (3千m) 青海 青海 「森の」 チベット 「草原の」 チベット 海晏 蔵族 牧民 (3千m) 青海 ドムカル 農牧民 レー牧民 都市移住 (3-4千m) ラダーク (3千m) ラダーク 「オアシスの」 チベット (木村、奥宮ほか ヒマラヤ学誌 2012) 図20. チベット3地域の栄養摂取の特徴 ラダーク 標高 (Leh, Domkhar, Changtang) 高い 食多様性 総カロリー 青海 (Haiyan, YuShu) 総カロリー 脂質 塩分 アルコール 食多様性 脂質 塩分 アルナーチャル アルコ ール (Dirang, Lubrang) 食多様性 総カロリー 脂質 塩分 アルコール 比較的 低い 市街部 郊外 木村 ヒマラヤ学誌 2012, 2013 写真26 身体測定(身長、体重) 図24 高所住民の肥満(BMI>25) と低体重(BMI<18.5)の頻度 日本 T町 アルナ ーチャル 農村部 ラダーク 農村部 ドムカル (300m) (2000-4000m) (3000-4000m) 青海 農村部 海晏 (3000m) 市街部 玉樹 (3700m) 図25. チベット/ヒマラヤ高所住民における、糖尿病と予備群の頻度 ー牧民に対し、市街居住者の糖尿病の増加ー 日本 土佐 青海 (%) ** 50 40 30 ラダーク ドムカル 玉樹 移住 市街 60 海晏 アルナ ーチャル 隆宝 20 レー 市街 チャンタン # 高原 移住 糖尿病 予備群 ** 農民 牧民 ** 糖尿病 10 0 牧民 高原 牧民 高原 牧民 都市 移住 (300m) (3千m) (4400m) (3800m) N=523 88 (>60歳) 42 牧民 高原 (44004900m) 344 N=206 牧民 農牧民 都市 移住 牧民 農民 (3000- (12004000m) 1800m) (3500 m) (29004200m 309 276 N=50 131 (40歳以上) 日本、青海、ラダークは糖尿病負荷テストで、アルナーチャルは空腹時血糖のみで診断。 写真24 ツァンパ 大麦の 麦焦がし 本日の発表 1. 身体に刻み込たれま地球環境問題 2. 高地の生活のルイタス変容と生活習慣病 3.高所の低酸素環境と疾病 4.糖尿病ルセクア仮説 5.高地の老人は幸 かせ 図64 ドムカル村とレーの8月と9月の気温 標高に応じて低下 25 20 15 8月 9月 10 5 0 KB Altitude 4120m Gomma 3810m Barma 3290m Dho 2920m LEDeG 3580m (谷田貝ヒマラヤ学誌 2010) 写真27 省く 写真23 現地医療機関と連携して健診を実施 図65. 高所環境における肺障害の増加 ードムカル3村で、より高所住民に肺障害が多いー 肺障害の オッズ比 (m) ドムカル3村 5000 4100m 4000 3000 2.5* 1.5 バルマ 3400m 2.0 2.5 2 ゴンマ 3800m 3 1 ドー 3000m .5 0 ドー バルマ ゴンマ 3000m 3400m 3800m 多変量解析 (性、年齢、酸素飽和度、日常生活動作の違いの影響を調整) 図66 (%) 睡眠障害の頻度が高度と低酸素に関連 3800m 3300m 2900m 不 眠 重 症 度 ス ケ ー ル 酸 素 飽 和 度 ゴンマ バルマ 不眠重症度スケール 酸素飽和度 (%) ドー 写真19 ラダーク チャンタン高原(4700m) 遊牧民 図35 ラダーク、チャンタン牧民季節移動 (平田 ヒマラヤ学誌 2012) 写真20 ラダーク チャンタン高原(4900m) 遊牧民 本日の発表 1. 身体に刻み込たれま地球環境問題 2. 高地の生活スタイルの変容と生活習慣病 3.高所の低酸素環境と疾病 4.糖尿病アクセル仮説 5.高地の老人は幸 かせ 図83 多血症と糖尿病・境界型の関連 糖尿病・境界型 のリスク 多血症 (オッズ比) (軽度― 多血症 (極度) 中等度) Odds ratio 10.0 8.0 7.1** 5.2** 6.0 貧血 4.0 2.0 1.0 0 貧血 正常 多血症 (軽度ー中等度) 多血症 (極度) 4.1 *** ns 3.6 ** 2.4* 0.4 ** 2.0 ** A N P EP A N P EP A N P EP 土佐 日本 ドムカル ラダーク チャンタン ラダーク 玉樹 青海 コタワシ ペルー (n=550) (n=317) 2900-3900 m (n=207) 4300-4900m (n=324) 3700m (n=176) 2600-3900m 40 歳以上. A N P EP A N P EP 60 歳以上. Okumiya 2012 多血症と高血糖・糖尿病への関連因子 (低地民) 低酸素環境 肺障害 肺高血圧 肥満 高脂血症 高血圧 動脈硬化 アクセル 体内低酸素 代償 本来型遺伝子の 低酸素応答 血流障害 弱い関連 多血症 高血糖・糖尿病 抑制 促進 糖利用 ライフ スタイル 変化 亢進 本来の ライフ スタイル 低酸素応答(本来型遺伝子) EGLN1 HIF-1α HIF-2α PPARA (奥宮 2013 印刷中) 低酸素適応の多様性 アンデス チベット 赤血球 の増加 血流増加 Beall CM. 2006 低酸素適応の多様性は、糖尿病アクセル仮説と どのような関係があるか? アンデス チベット 赤血球 の増加 NO↑ 血流増加 赤血球 の増加 抑制 適応変異型遺伝子85%(+) Beall CM. 2006、2010 チベット高所民(適応変異型遺伝子を有する場合) 低酸素適応による加齢にともなうトレードオフ仮説 チベット 多血症 抑制 強い関連 加齢で かえって 促進 高血糖・糖尿病 アクセル 抑制 肥満促進 糖利用 ライフ さらに 脂質利用 スタイル 亢進 さらに低下 変化 低酸素応答(適応変異型遺伝子) EGLN1(変異) HIF-2α (変異) PPARA (変異) アクセル 酸化 ストレス↑ NO↑ 血流増加方式 (奥宮 2013 印刷中) 図108. PPARA変異型 Homo(+/+)では、高齢者(40歳以上)の ヘモグロビンが高値 Hb 24 全員 (g/dl) 2220 男 Hb (g/dl) 24 22 20 平均18.6 17.1 15.3 赤丸:40歳以上 青丸:40歳未満 18 16 14 12 10 n=31 0.40未満 8 40以上 (男/女:11/20) 平均40.2歳 (17-66歳) 24 18 16 14 12 10 (-) (-/+) (+/+) 女 22 8 0 (-) PPARA 変異 haplotype (-/+) 1 Hetero N=2(6%) 9(29) 2 (+/+) Homo 20(65) Homoにおいて 40歳以上 Hb=16.3 (n= 9) 40歳未満 Hb=14.4 (n=11) P<0.01 Hb (g/dl) 20 18 16 14 12 10 8 (-) 0 (-/+) PPARA 1 (+/+) 2 女性のHomoにおいて 40歳以上 Hb=16.5 (n=4) 40歳未満 Hb=14.6 (n=9) P<0.05 Simonson. Science 2010 加齢とともに、多血症なし群(低酸素適応遺伝子優位)で 糖尿病・境界群の増加 玉樹 糖尿病 境界群 頻度 (%) 60 * *** 50 40 20 Hb: 10 正 常 0 多 血 症 40-59歳 N= 87 56 (61%) (39%) Hb: 30 正 常 多 血 症 高齢の慢性高山病 (極度の多血症) 適応変異型 EPAS1 (+)が より優位 (Buroker NE 2012) 60歳以上 N= 113 93 (70%) (30%) (奥宮 2013 印刷中) 図97 PPARαの本来型と低酸素適応変異型の主な作用 PPARα(本来型) 脂質代謝の抑制 ヘモグロビン増加 PPARα(低酸素適応変異ハプロタイプ(+)) 脂質代謝の強力な抑制(高脂血症) ヘモグロビン増加抑制 糖尿病アクセル仮説 高度 4500m 3700m 3000m 低酸素と低カロリーへの適応が 加齢と生活変化に伴い糖尿病を促進 糖 13%/36% 尿 糖尿病/境界群(%) 17/34 病 (%) 60歳以上 14%/25% 玉樹 11/35 都市住民 と 加齢変化 16/24 土佐 60歳未満 境 50 8/23ラダーク農牧民 (ドムカル) 低地 界 40 7/30 ゴンマ 12/33 居住者 11/19 ラダーク 型 14/24 バルマ 従来の生活では レー市街移住 3/21 の 30 糖尿病は少ない ドー 6/16 3/27 ラダーク牧民 頻 (チャンタン) アルナーチャル農民 度 20 10/19(FBS) 10 牧民 青海牧民 60歳以上 7%/11% アルナーチャル牧民 6%/4%(FBS) ライフスタイルの変化(都市定住化、近代化) トリプル負荷による糖尿病アクセル仮説 1.高齢化によるトレードオフ: 低酸素適応遺伝子と多血症 2.ライフスタイル変化による、肥満、高脂血症の脆弱性 3.NOと高酸化ストレス 糖尿病/予備群と高血圧の改善 (2年間のフォローアップ) ーラダーク・ドムカル高所民、経口薬少量投与と健康教育ー 糖尿病(16人) 抗糖尿病薬開始続行含む(8人) 境界群 (49人) 正常者(97人) mg/dl 空腹時血糖 mm Hg 拡張期血圧 98 140 糖尿病群 高血圧 94 P<0.05 130 90 120 P<0.05 正常 2009/10 P<0.0001 86 境界型 110 100 高血圧 (89人) 降圧剤開始続行含む 正常者 (73人) 82 正常者 78 2010/11年 2年間(一部1年) フォローアップ 前後 2009/10 2010/11年 2年間(一部1年) フォローアップ 前後 (奥宮・稲村編 2013 印刷中) 本日の発表 1. 身体に刻み込たれま地球環境問題 2. 高地の生活スタイルの変容と生活習慣病 3.高所の低酸素環境と疾病 4.糖尿病アクセル仮説 5.高地の老人は幸せか 老人智 老人の経験にもとずく判断 それを生かすコミュニティーの知恵 脆弱な老人をサポートするネットワークの知恵 (共生きの知恵) Scientific Name Harmful Effect Beneficial Use Ageratum conyzoides Crop production Medicine Ageratina adenophora Crop production, Livestock grazing Medicine Solanum carolinense Crop production, Livestock grazing Medicine Crop production Medicine, Vegetable Bidens pilosa Galinsoga Crop production, Fodder, Medicine, quadriradiata Livestock grazing Vegetable Kosaka 2011 Community based elderly care project for optimal aging adapted to ecology and culture with preserving high QOL 高所住民に学ぶ 豊かな老い 高いQOL を生かす (坂本、松林 2010-2013) 高所住民に学ぶ 豊かな老い 老人知 ⇔ 地域に即した ネットワークを生かす 本日のまとめ アンデス高所民は、多血症になることで低酸素適応したために、 慢性高山病という過度の多血症による適応障害を来す危険を生じ た。 しかし、チベット高所民は、ヘモグロビンの過剰生産を抑制し血液 が粘凋になることを防ぐ方法で低酸素適応した。チベット高所住民 には、特にEPAS1遺伝子に特異な 変異があることが近年発見された。 それは、ネアンデルタール人と同時代に生きていたデニソワ人か ら受け継いだという証拠が最近発見された。 高所プロジェクトの調査より、チベット高所民は生活変化による高 血圧や糖尿病に脆弱である証拠が得られるとともに、多血症と高 血糖との関連があることがわかった。 若いときには有利であった低酸素適応方法が、高齢になると生活 習慣病には不利となるトレードオフが背景にあるらしい (糖尿病ア クセル仮説)。
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