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東京大学柏図書館の地域社会への貢献
−「東京大学柏図書館友の会」と「地域との連携」−
市
村
櫻
子
抄録:東京大学柏図書館は,開館当初からの一般市民への大学図書館開放に加えて,平成 20 年 10 月に「東
京大学柏図書館友の会」を発足させた。以来,図書の貸出だけでなく,大学の教員・学生・図書館職員が協
力して,ブックトーク,上映会,音楽会等,幅広い事業を展開している。また,柏市立図書館や柏市内の大
学図書館と連携し,同一テーマによる資料の企画展示,ビブリオバトル柏市決勝大会,市民の図書館見学ツ
アー等,大学図書館の特色を活かした事業を連携して展開している。
キーワード:東京大学柏図書館,友の会,社会連携,地域貢献,生涯学習
1.はじめに
本稿は,東京大学柏図書館が地域貢献として,柏
キャンパス近隣へ提供する図書館サービスや様々な
企画・事業を,「東京大学柏図書館友の会」の運
営・活動もあわせ,大学図書館の地域社会への貢献
の実践事例として報告するものである。
2.東京大学柏図書館の概略
東京大学柏図書館は,平成 17(2005)年 2 月に,
千葉県柏市柏の葉 5-1-5 に開館した(図 1)
。
写真ઃ 東京大学柏図書館外観
図書館内設備として,1 階にセミナー室 2 つ(定
員 12 名,24 名),コンファレンスルーム(定員 32
名),ラーニングサポート室,メディアホール(定
員 144 名),コミュニティサロン,メディアプロム
ナード,レストコーナーを併設している。
柏キャンパスには,新領域創成科学研究科,宇宙
線研究所,物性研究所,大気海洋研究所,人工物工
学研究センター,空間情報科学研究センター等 16
の部局がある。学問体系の根本的な組み替えをも視
野にいれた「学融合」を志向するキャンパスである。
1)
柏キャンパスの構成員は図 2 のとおり 。
図ઃ
東京大学柏図書館の位置
東京大学附属図書館というシステムの中では,総
合図書館(東京都文京区本郷)
,駒場図書館(東京
都目黒区駒場)に並ぶ,東京大学附属図書館の 3 つ
めの拠点図書館と位置づけられている。
東京大学柏図書館の建物(写真 1)は,地上 2
2
階,総床面積 5,666m 。閲覧座席 243 席。収蔵能力
は開架約 10 万冊,自動化書庫(図書換算)約 100
万冊。現在の蔵書数は,開架に約 5 万冊,自動化書
庫に製本雑誌等約 33 万冊である。
図઄ 柏キャンパスの構成員
1
東京大学柏図書館の地域社会への貢献
3.東京大学柏図書館の役割と機能
東京大学柏図書館は次の 3 つの役割を持ってい
る。
①柏キャンパスの「拠点図書館」
②新領域創成科学研究科の「ホームライブラリー」
③「地域の図書館」
これらの役割に基づき,次のとおりその機能を果
たしている。
3.1 柏キャンパスの拠点図書館
学生,教職員の学習・研究のための一般書,専門
書を収集し,全学に提供している(図 3)。併設の
施設は,授業,セミナー,シンポジウム,研究会,
語学研修等に使われている。
さらに,自動化書庫には,東京大学附属図書館を
構成する総合図書館,駒場図書館,部局図書館・室
から,毎年計画的に自然科学系学術雑誌のバックナ
ンバーを集約し,バックナンバーセンターを構築し
ている。
全学的な自然科学系学術雑誌の収集,保存と,
PDF 閲覧サービス等を着実に提供している,この
バックナンバーセンター機能は,東京大学柏図書館
の大きな特徴である。
3.2 新領域創成科学研究科のホームライブラリー
新領域創成科学研究科のシラバス掲載図書の収
集・提供をはじめ,学習・研究用図書の収集・提
供,教職員・学生の ILL 等の対応窓口である。
また,他部局に先駆けて,新領域創成科学研究科
の学位論文の収集,保存,UT Repository による公
開を行ってきている。
柏図書館友の会の運営,地域の市役所,商工会議所
研修に対応した見学等の受け入れ,また柏市内小中
高等学校の社会科授業の職場体験活動にも協力して
いる。
その他,柏市立図書館と柏市内にある 3 つの私立
大学図書館と連携した合同企画展示やビブリオバト
ル柏市決勝大会等の事業も実施している。
4.東京大学柏図書館の開放
本稿のテーマである東京大学柏図書館の地域貢献
について,
「東京大学柏図書館友の会」と「地域の
図書館・関係団体との協力」の 2 つの視点から,東
京大学柏図書館の事業を紹介する。
東京大学柏図書館は,「東京大学柏図書館規則」
第 7 条(3)に「図書館資料の利用を申し出た学外
者」として,一般市民へ図書館の利用を認めてい
る。
学外者は来館時に東京大学柏図書館入口で,当日
利用の申込書に必要事項を記入・提出することで,
東京大学柏図書館資料の閲覧・複写等の利用ができ
る。
学外者の入館利用は毎年増加しており,利用統計
では平成 24 年度の入館者の 32%は学外者となって
いる(図 4)。
5.東京大学柏図書館友の会
5.1 発足・目的
平成 20(2008)年 10 月,「東京大学柏図書館友
の会」を発足させた。この会の目的は,東京大学柏
図書館の活動支援と同時に,会員相互および柏図書
館職員との交流の促進を図ることである。
2)
柏図書館友の会ホームページは図 5 のとおり 。
3.3 地域の図書館
資料を利用する一般市民への図書館開放に加え,
図અ 相互利用
2
複写受付・図書貸借受付
大学図書館研究 XCIX(2013.12)
図આ 平成 19〜24 年度の入館者数推移
図ઈ
図ઇ
会員数の推移
東京大学柏図書館友の会ホームページ
5.2 会員
会員は「柏図書館友の会規則」第 3 条 2 項に次の
ように定めている。
一 一般会員 個人で本会の目的に賛同し入会する
もの,ただし,高校生以下の生徒・児童等は除く。
二 賛助会員 法人で本会の目的に賛同し入会する
もの。
三 協力会員
東京大学柏図書館の職員
会員数は,330 名(平成 25 年 5 月現在)
。継続率
は 70%である。発足当時から着実に会員数は増加
している(図 6)。
また,地元柏市,柏市に隣接する流山市に在住す
る会員は 82%と圧倒的に多く,この地域の図書館
として利用されていることがわかる(図 7)
。
年齢別では 60 代が 24%と多いが,20 代〜50 代
図ઉ
住所の区域
もそれぞれ 12〜15%とあり,利用者の年齢構成は
現役世代からリタイア世代まで幅広い(図 8)。
男女比では男性会員が 75%である(図 9)。
5.3 会の活動
会の活動は,
「東京大学柏図書館友の会会則」目
的第 1 条に「本会は,東京大学柏図書館(以下「柏
図書館」という。)の活動支援と同時に,会員相互
3
東京大学柏図書館の地域社会への貢献
日に有料で利用できる。
④柏図書館の主催する上映会・コンサート等の行
事が案内される。
5.5
入館者数
平成 24 年度の入館者数は,総数約 46,000 名のう
ち,友の会会員が約 10,000 名,学外者が約 5,000 名
である。平成 19 年度からの入館者数の推移は,図
4 のとおり。
図ઊ 年齢別構成
友の会発足から 2 年目の平成 22 年度の時点で,
一般の学外利用者と友の会会員の入館者数が逆転し
た。日常的に東京大学柏図書館を利用する市民の方
が,友の会へ入会したことによるものと考えられ
る。
5.6 貸出冊数
平成 24 年度の友の会会員による図書の貸出冊数
は,DVD の館内利用も含め,総計 3,142 冊あった
(図 10)。貸出図書の内容を見ると,自然科学・技
術の分野の図書の利用が多く,全体の 31%を占め
ている。それに続いて DVD 資料の利用が多い。
図ઋ
年齢・男女構成
および柏図書館職員との交流の促進を図ることを目
的とする。
」と定められ,これを達成するために,
第 5 条に次の 4 項目が定められている。
一 柏図書館の振興に関する事業
二
三
四
5.4
会員の親交を図る各種行事の企画と運営
友の会ニュースの編集・発行
その他,友の会が必要と認める事業
会費・特典
会費は,一般会員は年額 1,000 円以上,賛助会員
は年額 10,000 円(1 口),1 口以上。これに加えて
会員証となる IC カードデポジット料金 2,000 円を
入会時に納入する。
会員資格の有効期限は,加入もしくは継続をした
時から,その年度の末日までとしている。
一般会員と賛助会員には次の特典がある。
①会員証(柏図書館利用証)が発行される。
②柏図書館に入館し,資料閲覧と複写サービス,
柏図書館開架図書の館外貸出(3 冊,2 週間,
図 10
平成 21〜24 年度の貸出冊数推移
東京大学柏図書館の蔵書構成を考えれば当然のこ
とかもしれないが,理科系の図書が多く利用されて
いる(図 11)。
DVD は,ナショナル・ジオグラフィック,地球
大紀行,プロジェクトXのようなドキュメンタリー
の他,ビジネスマナー講座や歌舞伎,古典や名作,
延 長 1 回( 2 週 間 )
)と DVD の 館 外 貸 出( 1
点,1 週間,延長不可)が利用できる。
ヒット作等,海外からの研究者家族や子供のための
英語字幕付き映画やアニメーション等を揃えてい
る。
③申し込むことにより,柏図書館の 1 階施設を平
研究の参考になるものから,幅広い教養の修得の
4
大学図書館研究 XCIX(2013.12)
図 11
平成 24 年度貸出図書テーマ別
ため,または研究の息抜きにも役立つ約 1,000 点を
提供している。
図 12
5.7 事業
前述した会の活動に基づき,ブックトーク(年
2〜3 回開催)
,上映会(年 2〜3 回開催)
,コンサー
ト(年 2 回開催)
,友の会ニュース(年 4 回)(図
12)の編集・発行,加えてそれぞれのイベントと連
携した図書の企画展示等,様々な事業を実施してい
る。
平成 24 年度の事業実績は表 1 のとおり。
上映会,ブックトークは,柏キャンパスにある部
局と連携して開催している。特にブックトークは,
その分野の第一人者である講師によるものであり,
好評を博している。このブックトークの映像は,当
日,参加できなかった方のために,後日,学内配信
も行っている。
なお,柏キャンパスの教員・研究者によるブック
トークだけでなく,新領域創成科学研究科の学生に
表ઃ
平成 24 年度
よる知的書評合戦(ビブリオバトル)を柏キャンパ
ス一般公開日に開催している。
このビブリオバトルに連携して東京大学柏図書館
2 階には,「東大生の本棚」というテーマで,東大
生はどんな本を読んでいるのか,ビブリオバトル参
加者によるおすすめ本を,一般公開日の前後 2 週間
おすすめコメント付きで展示している。
このほかに,平成 25 年度は,総合図書館(本郷)
で行われたトークイベント第 2 回「越境する図書
館:批評と創作のあいだで」(7/5)を東京大学柏図
書館でも試験的に中継した。
平成 24 年度の特記事項に,グランドピアノ購入
がある。東京大学基金を受入窓口として「柏図書館
ピアノ基金」を設置し,平成 24 年 5 月 1 日から 5
図書館施設でのイベント開催実施内容
実施日
柏図書館友の会ニュース
(* インターナショナルオフィスの略)
備考
イベント
5 月 1 日∼31 日
柏図書館ピアノ基金募集
31 名,¥344,000 の寄附
5 月 21 日
上映会「ミラクルバナナ」
参加 45 名,関連図書展示
6 月 23 日
グランドピアノ購入
ヤマハ G5B
6 月 23 日
第 10 回わくわくミニコンサート
参加 200 名
7 月 25 日
ブックトーク 1
「宇宙はなぜこんなにうまくできているのか」
講師:カブリ IPMU 村山斉機構長
8月1日
上映会「はやぶさ」
10 月 26 日∼27 日
柏キャンパス一般公開
1988 年製造
参加 140 名
facebook 広報
関連図書展示
参加 72 名,柏 IO* と共催
ビブリオバトル
参加 24 名
DVD 上映「ハーバード白熱授業」
参加 26 名
12 月 5 日
ブックトーク 2「ウナギ大回遊の謎」
講師:塚本勝巳教授(東京大学大気海洋研究所)
参加 72 名,facebook 広報,
関連図書展示
12 月 15 日
第 11 回わくわくミニコンサート
参加 127 名
5
東京大学柏図書館の地域社会への貢献
月 31 日までの間,寄付を募集し,その結果,約 35
万円のご寄付をいただいた。
この寄付金に柏図書館友の会からの補助を合わ
せ,ヤマハグランドピアノ G5B(1988 年製造)を
購入した。このグランドピアノは,平成 24 年 6 月
23 日開催の第 10 回わくわくミニコンサートでお披
露目を行った(写真 2)
。
ることが伺える。今後も柏市の広報担当部署等との
連携をすすめ,地域へのさらなる広がりを期待して
いる。
東京大学柏図書館ホームページやメール以外の広
報として,郵送する「柏図書館友の会ニュース」
は,平成 21 年 2 月の第 1 号から柏図書館職員によ
る事務局が編集・発行し,年 4 回発行のペースで,
順調に提供されている。
6.地域の図書館・関係団体との協力
東京大学柏図書館友の会運営のほかに,東京大学
柏図書館が実施する地域貢献事業として,市役所や
商工会議所等の職員研修に連携した図書館見学受け
入れ,小中高等学校の社会科授業等に協力した職場
体験学習や図書館見学の受け入れをしている。
平成 24 年度の実績は表 2 のとおり。
また,柏市立図書館と,日本橋学館大学,二松学
写真 2
第 10 回わくわくミニコンサー
また,このグランドピアノは,コンサート以外に
も,東京大学柏図書館が開館している月水金の夕方
4 時から 50 分間,ピアノ利用を申し込まれた方に
ご利用いただいている。このピアノ演奏がある時の
東京大学柏図書館のコミュニティサロンは,くつろ
げる楽しい音楽空間となっている。
前述した「わくわくミニコンサート」は,一般市
民が最も多く参加するイベントである。平成 25 年
6 月で 12 回の開催実績を持つ事業で,新領域創成
科学研究科の教員と学生,柏図書館職員で企画し,
東京大学柏図書館友の会後援で実施している。
近年は,演奏者の応募も増え,出演者の選抜も厳
しくなっていることから,その認知度が上がってい
表઄ 地域の図書館・関係団体との協力
実施日
6
舎大学,麗澤大学,東京大学の柏市内にある 4 大学
の図書館で,柏市の図書館事業の推進について意見
交換する会が柏市立図書館主催により毎年開催され
ている。東京大学柏図書館は,この意見交換会に平
成 19 年度より出席している。
この意見交換会の成果として,公共図書館、国
立・私立の大学図書館という館種を超えた事業とし
て,「市立図書館・市内大学図書館合同企画展・講
演会」や「市内四大学図書館見学ツアー及びビブリ
オバトル」,「市内高校生による大学図書館見学バス
ツアー及び交流ワークショップ」等の実施が実現し
ている。
合同企画展のテーマは毎年かえている。平成 23
年度は「災害」,平成 24 年度は「健康」,平成 25 年
度は二松学舎大学からの提案で「論語」となった。
(* インターナショナルオフィスの略)
イベント
備考
5 月 18 日
十余二小学校 3 年「社会科 学区探検」図書館見学
参加 72 名。柏 IO* と共催
5 月 21 日
第 4 回柏図書館友の会総会
会費改定,IC カード会員証発行
6月1日
柏市立図書館・市内四大学図書館事務打合
6月6日
柏の葉高校
6月8日
花野井小学校 3 年
7 月 20 日
柏の葉高校図書委員
11 月 10 日
柏市立図書館主催
市内四大学図書館見学ツアー及びビブリオバトル
参加 50 名
東大柏図書館で 4 大学の代表が
ビブリオバトル柏市決勝大会
1 月 16 日∼18 日
西原中学校職場体験中学生受入
参加 2 名
3 月 12 日
第 3 回柏図書館友の会理事会
総会開催日決定
3 月 23 日
市内高校生による大学図書館見学バスツアー及び
交流ワークショップ
柏市立図書館主催。参加 24 名。
東大で交流ワークショップ
図書館見学
図書館見学
図書館見学
参加約 30 名
参加約 30 名
参加 12 名
大学図書館研究 XCIX(2013.12)
各大学図書館はテーマにそって,それぞれの蔵
書,特性を活かした図書の展示や講演会を 10 月〜
11 月に実施する。
なお,今年のビブリオバトル柏市決勝大会の会場
は,日本橋学館大学図書館となっている(図 13)。
の会からの補助で,グランドピアノが購入でき
た。同様に,東京大学駒場図書館と駒場友の会
の例も参考にして,友の会会員から利用の多い
DVD 資料購入費等の補助を提案したい。
東京大学教養学部には,東大駒場キャンパス
とゆかりのある方々の連携と親睦をはかり,駒
場キャンパスで展開されている事業の活性化を
後援するための団体「駒場友の会」がある。こ
の会は,東大駒場図書館に学生のための学習用
図書費の補助をしている。
⑤ネットワーク環境の提供。
現在は,BB モバイルポイントを提供してい
るが,今後の学内担当部署の方針により,適宜
検討する必要がある。
⑥当日利用者の分析
友 の 会 会 員 は,総 会 で の 意 見 交 換 の 他,
図 13
柏市立図書館・市内大学図書館の位置
7.課題と今後の展望
東京大学柏図書館友の会は,5.3 のとおり,会の
活動として,4 つの事業をあげているが,発足から
5 年の現状では,次のような課題があげられる。
①会員登録時の確認を明確にする。
ご本人確認はもとより,友の会の「目的」を
はっきりご理解いただいて入会していただく。
②退会時の連絡,IC カード会員証の回収を確実
にする。
IC カ ー ド 会 員 証 は,デ ポ ジ ッ ト 料 金 を 預
かっているので,退会時に IC カードと引換に
返金する仕組みを持っているが,引越し等で住
所不明となり,E メールアドレスも無効で,連
絡のとれない会員の方がでてきている。これも
入会時の説明を増やす等対策を実施していく予
定である。
③参加型から参画型へ。
友の会ニュースの編集・発行・送付,コン
サートの企画・運営は,現在,東大の教員,学
生,図書館職員が担当している。コンサート出
場・参加にとどまらず,東大の教職員,学生と
連携して,一緒に企画・運営する友の会への変
化を,会長,理事と相談しつつ進めたい。
④東京大学柏図書館事業への貢献。
平成 24 年度はスポット的にピアノ基金と友
日々,メール等により意見を伺う機会がある。
入館者数の推移にみられるように,学外者の
図書館利用は,リピーターの組織化が友の会と
いう形でできつつあるものの,それでも当日利
用を毎日または毎週続けている利用者がいる。
その利用者群は,閲覧・複写が主要な利用のた
め,その利用傾向が見えにくい。当日利用者が
東京大学柏図書館に何を期待しているのか,ど
のように東京大学柏図書館を使っているのか
等,利用内容の動向をつかむ必要があると考え
ている。
8.まとめにかえて
これまでの大学図書館に関わる主な政策提言のう
ち,平成 22 年 12 月,科学技術・学術審議会 学術
分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会
「大学図書館の整備について(審議のまとめ)−変
革する大学にあって求められる大学図書館像−」で
は,「大学図書館の機能・役割及び戦略的な位置づ
け」の中で「大学の機能として,特に国立大学の場
合には,社会・地域連携の一翼を担う組織としての
位置づけや,社会に対して開かれた存在であるとい
うことが望まれる。大学図書館としても,一般市民
に対する開放をはじめ,展示会や講習会の実施等,
保有する情報資源や人材を活用して,社会・地域連
携に積極的に取り組む必要がある。また,特に公共
3)
図書館との連携は重要」とされている 。
遡ると,平成 5(1993)年の学術審議会報告書
「大学図書館機能の強化・高度化の推進について」
の中で,「6.学習活動の場としての図書館機能の強
化,(3)大学図書館の地域社会・市民への公開」と
し,大学図書館は「公共図書館では提供しえない高
7
東京大学柏図書館の地域社会への貢献
度な学術情報を地域社会や市民へ積極的に公開し,
生涯学習活動が期待されている。
」「大学図書館が地
学柏図書館の開放,「友の会」運営と地域との連携
を今後も推進していくことは,大学図書館の新たな
支援者を作ることに繋がらないだろうか。さらに,
地域の各図書館がそれぞれの強みを活かした事業を
域における図書館ネットワークに積極的に協力し,
市民が直接利用する公共図書館や地方公共団体との
相互協力関係の下に,こうした地域社会や市民への
すすめ,館種を超えたゆるやかなネットワークを広
サービスを提供することも考えられる。」とされて
4)
いる 。
また,東京大学の行動シナリオ「FOREST 2015」
げることができれば,その小さな連携の実践の積み
重ねが,いずれ図書館全体のサービス向上につなが
るのではないかと期待している。
の「重点テーマ別行動シナリオ」の中では,
「3.社
会連携の展開と挑戦―「知の還元」から「知の共
創」へ」
「東京大学に相応しいアウトリーチ活動の
5)
組織的推進」の中で「地域貢献」が示されている 。
国が生涯学習社会の実現を目指し,社会一般に生
涯学習が広まっている現在,大学図書館はその専門
性の高い蔵書等の学術情報基盤と,図書館職員によ
るサービス提供で,地域の市民の生涯学習を支援で
きる可能性は大きい。
前述した柏市立図書館と柏市内 4 大学図書館との
連携では,公共図書館,国立・私立大学図書館とい
う館種を超えたゆるやかなネットワーク構築が図ら
れている。そのネットワークを通して,それぞれの
図書館の蔵書の特徴等,専門分野の強みを活用し,
地域市民の学習機会を支援するとき,大学図書館
は,その蔵書(研究資源)の閲覧サービス等によ
り,地域の生涯学習へ貢献できるのではないかと考
える。
しかし一方,大学キャンパス内のセキュリティの
問題,大学図書館の利用に不慣れな利用者の増加に
よる図書館職員への負担,ゾーニング等による図書
館内の学習環境整備への無理解等,慎重に対応しな
ければならない問題は発生している。それらが大学
図書館の本来の利用者である学生,教職員,研究者
が図書館利用を不便と感じる原因になってはならな
い。
とはいえ,まだ始まったばかりともいえる東京大
8
引用文献・参考文献
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ン室.
›東京大学柏キャンバスへようこそœ.平成
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(オンライン)
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http: //www. lib. u-tokyo. ac. jp/kashiwa/riyo/kaiin.
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< 2013.9.17 受理 いちむら さくらこ
属図書館柏地区図書課長>
東京大学附
大学図書館研究 XCIX(2013.12)
Sakurako ICHIMURA
Contributions to community by University of Tokyo
s Kashiwa Library
Abstract:The University of Tokyo³
s Kashiwa Library has not only been open to the community from its
first days of operation, but in October 2008 it also established Kashiwa Library Club. The activity of the
Kashiwa Library Club is not limited to lending books, but includes collaboration with faculty, students, and
library staff to offer book talks, film screenings, music performances and a variety of other events. Also, in
collaboration with the Kashiwa Public Library and other academic libraries in Kashiwa, University of Tokyo
Kashiwa Library has mounted coordinated exhibitions of materials, hosted bibliobattles, and offered library
tours to the public, along with other types of outreach activities that serve to display the unique features of
academic libraries.
Keywords:University of Tokyo³
s Kashiwa Library / Kashiwa Library Club / social cooperation / regional
contributions / lifelong learning
9