会議報告 International Symposium on Musical Acoustics (ISMA) 2010 Sydney Convention Center, Australia (Aug. 26-27, 2010) Carrington Hotel, Katoomba, NSW, Australia (Aug. 30-31, 2010) ISMA(音楽音響国際シンポジウム)は,1974 年に Lothar Cremer と Helmut Müller が Mittenwald で開催した International Symposium on Violin Acoustics に始まり,その 後,Carleen Hutchins 主宰の Catgut Acoustical Society のシンポジウムとして何回かの国 際シンポを経て,1980 年の Sydney での ICA(音響学国際会議)のサテライト・シンポと して,Wollongong で ISMA の名称での第 1 回目の会合がもたれた後,3年ごとに開かれる ICA のサテライト・シンポとして開かれている.今世紀に入ってからは,2001 年に Perugia で,2004 年には奈良で,2007 年には Barcelona で開かれている.当初,弦楽器の研究者 が中心メンバーであったこともあってか,物理音響が中心になっている. 今回は,開催場所が,前半(26-27 日)は ICA との共催で Sydney Convention Center, 土 日を挟んで,後半(30-31 日)が Blue Mountain の中の Katoomba Carrington Hotel と いう変則的な形になっていた.UNSW(ニュー・サウス・ウェールズ大)の Joe Wolfe が 実行委員長で,ICA 会場での ISMA デスクの開設から,Katoomba でのオプショナル・ツ アー,ウェルカム・レセプション,バンケット,持ち寄りコンサートなど,ほとんど全部 自分自身でやっていた.Katoomba では,Wolfe の研究室の Dr 生 Jer-Ming Chen がエクス カーションの世話からパワーポイント・ファイルの作業,バンケットでのホーミー演唱ま で,一手に引き受けていた.参加者のほとんどは Wolfe が用意してくれたバスで日曜日に 移動し,荷物を会場のホテルに置いて,Blue Mountain Walking に出かけた.Hard course には Wolfe が,easy course には Chen が付いた.Walking 後にウェルカム・レセプション, 月曜にバンケットが開かれた. ISMA への参加者数は,ここ数回は 150〜200 人程度であったが,今回の Katoomba へ の参加者数は 40 人余りと少なかった.これは,開催地がヨーロッパからも北米からも離れ ているということと,一部が Sydney での発表となったことなどによると思われる.ICA 参加者の 1/4 が日本からと言うことであったが, Katoomba でも日本人参加者は 13 人で 1/3 であった.ISMA への論文の 1/4 以上が Sydney での発表となったため,発表は Sydney で 済んだので Katoomba へは行かないという人がかなりいた.逆に Sydney では ICA には参 加登録せず,ISMA だけに参加した人もいたようである.Sydney では,木曜にオーラルが 3セッション,ポスターが1セッション,金曜日にオーラルが2セッション,Katoomba では2日間でオーラルが4+3セッションあり,ISMA としての発表総数は Sydney と Katoomba を合わせて 50 件で.アブストラクト集の分類によると,その内訳は,音響技術 2 件,金管 6 件,一般 4,オルガン 2,知覚と分析が 2,打楽器が 2,ピアノ・ハープが 3, 弦が 10,合成が 2,声が 6,木管が 11 という件数であった.Sydney での音楽音響として の発表件数は,ISMA のものを含めて,オーラル発表が 31 件,ポスター発表が 19 件であ った.ISMA への発表登録は 50 件であったが,Katoomba での発表は 39 件であったので, 11 件は発表場所が Sydney に回った(回された)ということになる.これらは,ICA のプ ログラムには”ISMA paper”と記されている.逆に ICA の音楽音響部門として登録された発 表 39 件は ISMA のプログラムにも掲載された.Proceedings は ICA のものと一緒に,1枚 の CD に収められ,会場ではプログラムとアブストラクトのコピーがホッチキス止めで配 布されただけで,冊子の印刷物はなかった. Katoomba には物理音響を中心に集められていたが,そうではない発表もあり,どのよう な基準で Sydney と Katoomba に割り振ったのかは不明である.Katoomba での発表はす べてオーラルで,月曜に4セッション,火曜日に3セッションが行われた,座長は,月曜 午前から順に,Emery Schubert, James Cottingham, John Smith, Gary Scavone, 火曜が Thomas Rossing, Claudia Fritz, Charles Besnainou であった.Katoomba では,N. Fletcher による最初の講演(ヴィブラートについて)が特別講演のような扱いであった. 2日間すべてシングルセッションであったため,聴講者が多く,最後のセッションでも 35 名ほどが参加していた. 注目される発表をいくつか紹介する.ピアノ・ハープを弦としてカウントすると,弦関 係が 13 件,ブラスと木管を合わせて管楽器が 17 件なので,これだけで全体の 60%になる. この中で,弦関係では,チェロの実演によるデモを含んだウルフ・トーンの発表が2件あ り,ブリッジを介しての弦とボディのカップリングの解析から,ウルフ・キラーを使わず にそれを回避する方法と,ウルフ・キラーを工夫する報告があったのが筆者としては興味 深かった.また,これらも含んで,最近の解析傾向として,弦の振動だけを扱うのでなく, ブリッジを介した弦とボディないしは響板とのカップリングを扱うようになってきており, 擦弦楽器だけでなく,ギターやハープなどの撥弦楽器や打弦楽器であるピアノについても 解析が詳細になってきているように感じた.ギターの表板にスリットを入れることによっ て特性を均一化するという手法は,ヴァイオリンに対する同様の試みを思い出させた(魂 柱の存在によって,状況は異なると思われるが・・・).個人的には,ストロー・ヴァイオ リンと同じ発想に基づく「ホーン付きの胡琴」の存在を知り,それが日本からのストロー・ ヴァイオリンを見て開発されたものと聞き,知見が広がった.ISMA では珍しい楽器が紹介 されることがあるが,今回は,高さが時間的に変わる中国の小さい鐘の報告があった.金 管楽器と声について,極端な高音の発生メカニズムに関する報告があったのも興味深い. 締めくくりは長老の Rossing が ISMA のこれまでの歴史を回顧し,次回 Montreal での 開催への参加を呼びかけた.バンケット後に,恒例の持ち寄りコンサートがあり,Wolfe, Campbell, Rossing など常連の他に,今回は筑波大の学生2人がギターとチェロの腕を披露 し,喝采を浴びた. 後半の会場 19 世紀末の雰囲気を持つ Carrington Hotel, Katoomba, NSW, Australia. 停まっているワンボックスカーは,Joe Wolfe が荷物を運んできた UNSW のもの. Katoomba での会場(Ballroom)風景 司会は Charles Besnainou(ダランベール研) 持ち寄りコンサートでサックスを吹く Joe Wolfe Treble viol (Dessus de viole)を弾く Patsy Campbell
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