遺伝子組み換え作物の真実 遺伝子組換え作物(以下 GM 作物)とは、商業的に栽培されている作 物に遺伝子操作を行い新たな遺伝子を導入し発現させたり、内在性の遺伝子の 発現を促進・抑制したりすることにより、新たな形質が付与された作物のこと である。食用の GM 作物では、除草剤耐性、病害虫耐性、貯蔵性増大などの生 産者や流通業者にとっての利点を重視した遺伝子組換え作物の開発が先行した。 これに対し、食物の成分を改変することによって栄養価を高めたり、有害物質 を減少させたり、医薬品として利用できたりするなど消費者にとっての直接的 な利益を重視した遺伝子組換え作物の開発も近年活発となった。最近、当コラ ムでも紹介した米国の小麦の事例は、遺伝子操作を含めた品種改良を繰り返え された結果、生産性が上昇したものの肥満症やセリアック病などの病気が米国 に蔓延してしまったという話である。実際、世界的にみても遺伝子 GM 作物の 栽培国と作付面積は年々増加している。2012 年の報告によると全世界の大豆作 付け面積の 81%、トウモロコシの 35%、ワタの 81%、カノーラの 30%が GM 作 物である。限定的ではあるが 2009 年には日本も GM 作物の栽培国となった。 一方で日本の輸入穀類の半量以上は既に遺伝子組換え作物であるという推定も ある。 GM 作物に関しては議論も絶えない。主な論点は、生態系などへの影 響、経済問題、倫理的問題、そして食品としての安全性などである。米国ワシ ントン DC 在住のジャーナリスト、ナターシャ・ギルバートは GM 作物をめぐ る3つの疑惑に関して、科学総合誌科学総合誌『ネイチャー』ニュース欄でそ 遺伝子組み換え作物の真実.docx 1 の真偽を検証している。ナターシャがスクープした3つの疑惑とは、1. GM 作 物の導入によりスーパースーパー雑草は本当に誕生したのか?2. インドの農民 は GM 作物により自殺へと追いやられているのか?3. 導入遺伝子は野生種にま で広まっているのか?という3つの疑惑だった。ネイチャー誌では疑惑1に対 しては正しいと結論づけている。米国の農家は 1990 年代後半から組換えワタの 栽培を始めた。組換えワタは除草剤グリホサートに耐性でグリホサートと組み 合わせて使うことにより、他の農薬を使わずに済むという仕組みだ。しかし、 2004 年にはジョージア州で始めて除草剤耐性雑草オオホナガアオゲイトウが発 見され、2011 年には同州の 76 地域まで同雑草が広がっていった。GM 作物が 登場する前は雑草への対応対応として複数の除草剤を使用したり「耕起農法」 を採用したりしてきたが、GM 作物の登場以降は除草剤はグリホサートのみに なってしまった。皮肉な事に GM 作物を導入した結果、2013 年に1ha 当たり 約 1.5Kg の除草剤が 2025 年には 3.5Kg 以上まで増加するという予測すらある。 2つ目の「GM 作物が農民の自殺の増加の原因である」という疑惑に関しては ネイチャー誌は偽りであると結論づけている。この疑惑は 2013 年3月、女性活 動家であるヴァンダナ・シバがインタビューで「モンサント社がインドの種苗 市場に参入して以来、インドでは 27 万人の農民が自殺している。」と主張した ことに端を発する。実際には GM ワタの栽培面積とインド農民の自殺数には何 らの相関関係がないことが調査で明らかとなった。3番目の疑惑はカリフォル ニア大学バークレー校のデービット・キスト博士がメキシコのオアハカ州で生 産されたトウモロコシに「モンサント社製グリホサート耐性・耐虫性トウモロ コシ」の導入遺伝子の DNA 断片を検出したことに端を発する。しかしながら、 遺伝子組み換え作物の真実.docx 2 この研究の信憑性は科学的に検証されるに至っていないため、現時点では真偽 が不明であるとネイチャー誌は結論している。 遺伝子組み換え作物の真実.docx 3
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