将棋感想戦を支援するソフトウェアの研究開発(概要)

将棋感想戦を支援するソフトウェアの研究開発(概要)
垂水浩幸
(香川大学工学部信頼性情報システム工学科・教授)
1. 研究目的
本研究は、インターネットを利用した将棋対局を支援するソフトウェアに関するもの
である。インターネット上の将棋対局サービスでは、「将棋倶楽部 24」が圧倒的な会員
数を誇るが、対局後に行われる感想戦については支援機能がほとんどない。最近登場し
た 81dojo というサイトでは、対局後の感想戦を支援するためのチャット機能や盤上に
矢印を描く機能があるが、感想戦による研究結果を蓄積する機能がない。
これらの問題点に鑑み、インターネット将棋の感想戦支援および将棋研究支援機能に
かかわるソフトウェア開発を行った。本研究成果により、インターネット上の将棋対局・
研究活動の活性化、将棋文化の国際的な普及、プレイヤーの棋力および感想戦を通じて
のコミュニケーション力の向上に資するものと期待している。
2. 研究開発内容
感想戦を支援するためのシステムを図1の構成とし、以下の研究開発を行った。
1.
インターネット上の感想戦に対応するクライアントソフト
2.
感想戦を管理するサーバ
感想戦機能付クライアント
将棋知識ベース
対局の他、感想戦の機能を持つ。
感想戦ではチャットを行い、局面を検索し、変化を
提案し、分岐として付け加える機能を持つ。
こんな手は
どうかな?
• すべての棋譜、局面、それらへのコメントを集約
• 実戦には現れなかった変化局面も含む
• 人工知能による変化提案、コメント付で も成長
それだと私が
不利になるね
棋譜DB
(コメント付)
局面DB
(コメント付)
知
識
ベ
|
ス
の
自
動
成
長
将棋サーバ
クライアント
ソフト
対局管理サーバ
対局者A
感想戦管理サーバ
クライアント
ソフト
チャットサーバ
対局者B
指導コメント
感想戦に参加
観戦者
人工知能
対局者以外
図1
感想戦支援システムの構成
3.
感想戦と将棋定跡研究を支援する知識ベースシステム
4.
将棋思考ソフト(人工知能)が感想戦および将棋研究に関与できる仕組み
詳細は以下の通りである。
クライアントソフトについては、22 年度までに C++版を開発したが、棋譜の分岐を表
現するユーザインタフェースに課題があり、またインストールの手間などのことも考慮
し、現在は Java 版を開発中である。
管理サーバは、本研究開始当初はその位置付けがあまり明確でなかったが、研究を進
めるうちに設計が具体化してきた。他の将棋対局サーバと異なる点として、感想戦のた
めのプロトコルが必要であるためこれを設計した。そこではプッシュ配信も必要になる
ため、WebSocket を利用した実装を行っている。
知識ベースシステムについては、従来の棋譜データベースの機能では不足すると考え、
棋譜のデータベースではなく局面のデータベースを中心に据えた設計開発を行った。数
度の設計改訂を行い、現在、9TB 容量での最終実装を行っている。システムは API を備
え、この秋に外部公開する予定である。既に既存の外部データベースから 3 万局程度の
棋譜データをインポートし、局面データおよび棋譜データとして蓄積中である。この知
識ベースは感想戦中に過去の事例としてデータ提供を行う他、定跡研究に役立てる。
人工知能については、思考エンジンは我々は開発せず、既存のものを利用する。現在
はソースの公開されている Bonanza を利用し、知識ベースとのインタフェースを開発し
ている。人工知能は棋譜および局面に対して思考を行い、考えられる変化やコメントを
付けるが、24 時間運転でこの機能を働かせることにより知識ベースが自動的に成長する。
ただし、無制限に変化を蓄積すると大量の局面を生成することになるので、枝刈りの機
能を有している。
研究業績
[1] Tarumi, H., Hiraga, Y., and Hayashi, T.: Groupware Support for Kansousen of Shogi,
Proceedings of Fifth International Conference on Collaboration Technologies, IPSJ, The
University of Sydney, Australia, pp.58-59 (2009)
[2] 高橋哲也、垂水浩幸、他5名:ネットワーク将棋感想戦支援システムの設計、第
15 回ゲーム・プログラミングワークショップ 2010、情報処理学会、pp.59-62 (2010)
[3] 北岡真弥、垂水浩幸、他5名:ネットワーク将棋感想戦支援システム~人工知能
によるデータベースの成長~、ゲーム学会第 9 回全国大会、pp.17-20 (2010)
[4] 山本航平、垂水浩幸、他5名: 将棋の局面データベースの開発と人工知能の適用、
情報処理学会第 19 回エンタテインメントコンピューティング研究会、Vol. 2011-EC-19,
No. 23, pp.1-6 (2011)
他口頭発表 9 件