333号 - 結核予防会

総裁秋篠宮妃殿下
ご動静
第61回結核予防全国大会より
と き 平成22年3月18日,19日
ところ ホテルニューオータニ鳥取
とりぎん文化会館
妃殿下は,
18日の研鑽集会と19日の大会式典に御臨席になりました。式典ではお言葉(下記)
を述べられ,
秩父宮妃記念結核予防功労賞受賞者に表彰状を授与されました。
に
寄
せ
る
言
葉
と
致
し
ま
す
。
し
、
人
々
が
健
康
で
明
る
い
生
活
を
送
る
こ
と
が
出
来
る
社
会
に
な
る
よ
う
、
一
層
力
を
尽
く
さ
れ
る
こ
と
を
希
望
し
、
式
典
本
日
、
参
加
さ
れ
て
い
る
皆
さ
ま
に
は
、
大
会
で
得
ら
れ
ま
し
た
成
果
を
そ
れ
ぞ
れ
の
地
域
に
お
け
る
活
動
に
十
分
に
活
か
を
深
く
理
解
す
る
よ
い
機
会
に
な
っ
た
の
で
は
な
い
で
し
ょ
う
か
。
わ
れ
ま
し
た
。
シ
ン
ポ
ジ
ウ
ム
に
参
加
さ
れ
た
方
々
に
と
っ
て
、
こ
れ
か
ら
の
結
核
対
策
の
方
向
性
や
あ
り
方
を
考
え
、
結
核
に
関
す
る
講
演
や
、
家
族
の
一
人
が
結
核
に
か
か
っ
た
あ
る
家
庭
の
出
来
事
を
わ
か
り
や
す
く
物
語
に
し
た
人
形
劇
が
お
こ
な
連
携
し
て
患
者
を
支
え
る
ネ
ッ
ト
ワ
ー
ク
の
構
築
な
ど
の
重
要
性
が
指
摘
さ
れ
ま
し
た
。
続
い
て
、
日
本
最
古
の
結
核
症
例
に
、
患
者
発
見
・
治
療
・
患
者
支
援
な
ど
の
立
場
か
ら
四
名
の
発
表
者
の
報
告
が
あ
り
、
医
療
機
関
、
保
健
所
、
地
域
な
ど
が
昨
日
の
午
後
に
開
催
さ
れ
ま
し
た
研
鑽
集
会
の
シ
ン
ポ
ジ
ウ
ム
で
は
、
﹁
ど
う
な
る
!
?
こ
れ
か
ら
の
結
核
医
療
﹂
を
テ
ー
マ
し 人 な を
た 材 り 訪
。 を ま れ
活 す 、
か が 専
し 、 門
て 同 家
世 じ よ
界 結 り
の 核 オ
結 に ラ
核 関 ン
を わ ダ
な る 結
く 多 核
す 様 予
よ な 防
う 問 会
、 題 の
力 や 歴
を 課 史
合 題 と
わ に 諸
せ 対 活
て
動
諸 処 の
し
お
活
動 て 話
に き を
取 た 伺
り 人 う
組 々 機
む が 会
こ 、
に
と 互
恵
の い
の
大 豊 ま
切 か れ
さ な ま
を 経 し
た
改 験 。
め 、 そ
て 知 し
強 識 て
く 、 、
感 組 国
じ 織 は
ま や 異
そ
の
折
り
に
、
日
本
の
結
核
予
防
会
と
長
年
に
わ
た
り
緊
密
な
協
力
関
係
に
あ
る
王
立
オ
ラ
ン
ダ
結
核
予
防
会
︵
K
N
C
V
︶
さ
て
、
昨
年
八
月
、
私
は
日
蘭
通
商
四
百
周
年
記
念
行
事
の
開
会
式
典
に
出
席
す
る
た
め
、
オ
ラ
ン
ダ
へ
ま
い
り
ま
し
た
。
核
に
対
す
る
関
心
が
徐
々
に
高
ま
っ
て
い
る
こ
と
は
、
非
常
に
喜
ば
し
い
こ
と
と
思
っ
て
お
り
ま
す
。
A
C
広
告
が
あ
り
ま
す
。
新
聞
、
ポ
ス
タ
ー
や
テ
レ
ビ
コ
マ
ー
シ
ャ
ル
な
ど
様
々
な
媒
体
に
よ
る
広
告
を
通
じ
て
、
人
々
の
結
そ
の
一
つ
の
例
と
し
て
、
昨
年
の
夏
、
結
核
に
対
す
る
正
し
い
知
識
を
伝
え
、
人
々
の
関
心
を
高
め
る
た
め
に
制
作
さ
れ
た
す 関
こ
。 心
が れ
低 ら
下 の
し 現
て 状
い を
る ふ
中 ま
、 え
広
く 、
今
人 後
々 も
に 更
向 に
け 結
て 核
、
結 対
核 策
に を
関 丁
す 寧
る に
情 進
報 め
を て
伝 い
く
え こ
て と
い が
く
こ 重
と 要
も で
必 あ
要 り
と 、
な あ
っ わ
て せ
き て
て 、
お 結
り 核
へ
ま の
ま
で
の
発
症
も
十
六
%
あ
り
、
若
い
世
代
に
お
け
る
結
核
の
罹
患
も
軽
視
す
る
こ
と
は
で
き
ま
せ
ん
。
国
人
患
者
が
全
体
に
し
め
る
割
合
の
増
加
な
ど
、
そ
の
実
態
は
複
雑
化
し
て
お
り
ま
す
。
ま
た
、
二
十
歳
代
か
ら
三
十
歳
代
千
人
が
新
た
に
結
核
を
発
症
し
、
合
併
症
を
伴
う
高
齢
者
の
増
加
、
大
都
市
へ
の
集
中
化
、
そ
し
て
、
わ
が
国
に
在
住
す
る
外
た
結
核
は
、
罹
患
率
が
減
少
し
、
わ
が
国
は
低
ま
ん
延
国
に
む
か
っ
て
お
り
ま
す
。
し
か
し
、
現
在
も
な
お
、
年
間
約
二
万
五
み
に
よ
り
、
結
核
患
者
数
が
大
幅
に
減
少
す
る
な
ど
、
状
況
は
飛
躍
的
に
改
善
し
て
参
り
ま
し
た
。
か
つ
て
国
民
病
と
呼
ば
れ
わ
が
国
の
結
核
事
情
を
見
ま
す
と
、
昭
和
二
十
六
年
に
結
核
予
防
法
が
制
定
さ
れ
て
以
来
、
官
民
が
一
体
と
な
っ
た
取
り
組
く
の
方
々
の
ご
努
力
に
対
し
、
深
く
敬
意
を
表
す
る
と
と
も
に
、
今
後
ま
す
ま
す
活
躍
さ
れ
ま
す
こ
と
を
願
っ
て
お
り
ま
す
。
さ
ま
に
心
よ
り
お
祝
い
申
し
上
げ
ま
す
。
こ
れ
ま
で
の
受
賞
者
を
は
じ
め
、
結
核
の
予
防
や
対
策
に
取
り
組
ん
で
こ
ら
れ
た
多
本
日
、
永
年
に
わ
た
っ
て
大
き
な
貢
献
を
さ
れ
、
﹁
第
十
三
回
秩
父
宮
妃
記
念
結
核
予
防
功
労
賞
﹂
の
表
彰
を
受
け
ら
れ
る
皆
変
う
れ
し
く
思
い
ま
す
。
﹁
第
六
十
一
回
結
核
予
防
全
国
大
会
﹂
が
こ
こ
鳥
取
県
に
お
い
て
開
催
さ
れ
、
皆
さ
ま
に
お
会
い
で
き
ま
し
た
こ
と
を
、
大
第
六
十
一
回
結
核
予
防
全
国
大
会 平
成
二
十
二
年
三
月
十
九
日
︵
鳥
取
県
︶
秋
篠
宮
妃
殿
下
お
こ
と
ば
Message 結核予防会の活動に
ご理解とご支援を乞う
結核予防会専務理事
橋本 壽(はしもと ひさし)
結核予防会は昭和14年に国策として結核予防活動
一方では,結核診断の専門的な健診診療所,結核
を全国的に展開するために設立されており,結核感
病床を持つ二つの病院,結核治癒者で肺機能に障害
染者を発見するための集団検診の手法や結核医療の
のある方を受け入れる介護老人保健施設「保生の森」
標準化等により多大な成果を収めてきたことは周知
等の施設を運営して,患者の高齢化,合併症を持つ
のとおりです。
結核患者等の国内における結核医療の変容に対応で
結核は,いまなお国内における最大の感染症であ
きる体制を整えております。
ると同時に,国際的には地球規模の最大の感染症で
本来的な結核予防事業は結核克服の最終段階に差
あります。現在では発展途上国における蔓延状況に
し掛かって適切な対応が迫られております。同時に
対する予防活動は国際的に取り組むべき課題となっ
医療施設等はそれぞれの運
ております。このことが他の疾患と異なるところで
営指針を持って事業を展開
す。結核予防会が日本の結核蔓延状況を短期間のう
しており,人材と設備を効
ちに克服してきた過程で形成されたノウハウがいま
率的に活用して医療需要に
WHOで高く評価されており,政府に代わって国際
適切に対応していくことが
的に活動することが期待されております。
期待されております。
したがって,結核予防会は国内はもちろんのこと,
いずれも難しい局面を迎
国際的にも結核予防事業に取り組むことが第一義と
えております。結核予防会
されており,結核医療の変容に応じて国内外の結核
の活動に一人でも多くの方
医療のあり方に積極的にかかわり,これからも活動
のご理解とご支援をお願い
していくことを中心的な使命としております。
いたします。
Contents
■メッセージ
結核予防会の活動にご理解とご支援を乞う
橋本 壽……1
■結核予防全国大会報告
●第61回結核予防全国大会を顧みて
丸瀬和美……2
●第61回結核予防全国大会研鑽集会報告
加藤誠也……4
●結核予防会全国支部長会議報告
……6
●全国大会式典:厚生労働大臣祝辞・鳥取県知事挨拶 ……7
●大会決議・宣言文採択
……9
■ストップ結核パートナーシップ日本だより№11
●日本・フィリピン結核患者ストップ結核!
ワークショップを開催して
冨名腰あん……10
■第15回国際結核セミナー・平成21年度全国結核対策推進会議報告
●国際結核セミナーに参加して
藤川健弥……11
●世界結核デー記念フォーラム参加報告 感染症危機管理とリ
スクコミュニケーション
∼新型インフルエンザ対策を中心に∼
松原史朗……12
●平成21年度全国結核推進会議に参加して∼結核対策における
“連携”の意味∼
工藤恵子……13
■シリーズDOTS
大阪市における地域DOTSの変遷とその成果−患者のニーズに
即した地域DOTSを構築し患者を治癒に導く− 有馬和代……14
■感染症患者の強制隔離・長期入院の仕組みをめぐる諸問題
―法律家の立場から―
磯部 哲……16
■平成21年度診療放射線技師研修会開催
小林 誓……18
■「患者の心の痛みを分かって下さい」
フィリピンプロジェクトのセミナーで14歳の患者ベテルさんが
訴える
紺 麻美……19
■結核予防切手と赤複十字シール
小林祐吉……20
小林佑吉
■エイズに関する最近の話題
島尾忠男……22
■たばこ規制枠組み条約(FCTC) 5周年を迎えて「FCTC発効
5年目を迎えてアジア太平洋たばこ対策会議(APACT)2013
への期待」
……23
■日本CT検診学会 夏期セミナーのお知らせ
……24
■結核予防会支部紹介の頁 福岡県支部「人が幸福になるための手助けを」 是久哲郎……25
■「連載企画」∼結核に縁(ゆかり)の地歴訪∼
第3回「東京都東村山市」―東村山 トトロ病院のある丘― 大場 昇……26
▽予防会だより
○「海外事務所の組織強化に従事して」
横井正豊
○平成22年「女性の健康週間」イベント 生涯を通じた女性の健
康づくりの取り組み
○平成21年度財団法人JKA補助検診車「けいりん号」が完成
○平成21年度結核予防会全国支部事務局長研修会並びに全国支
部事務連絡会議
○平成21年度結核予防会管理職員経営セミナー開催
〔表 紙〕満開の菜の花に埋まる北信濃の春
(長野県飯山市菜の花公園) 撮影者:堀川春男氏
〔カット〕佐藤奈津江
5/2010 複十字 No.333
1
全国大会報告
第61回結核予防全国大会を顧みて
財団法人結核予防会鳥取県支部
(財団法人鳥取県保健事業団)
まるせ
かずみ
丸瀬 和美
常務理事 平成22年3月18日,19日の両日,秋篠宮妃殿下のご臨
以上について,山下武子事務局長が各々報告・説明さ
席の下,第61回結核予防全国大会が鳥取市で開催さ
れ,慎重な審議が行われました。
れ,全国から延べ約1,700名のご参加を得ました。
・研鑽集会とアトラクション
今大会は,結核予防全国大会「ストップ結核・とっ
大会第1日目の午後,勇壮な「因幡の傘踊」でオープ
とり大会」として鳥取県らしさを前面に出した演出を
ニングし,研鑽集会を開会しました。
「どうなる!?こ
心がけ,全国からおいでになる皆様をおもてなしの心
れからの結核医療」
をテーマにシンポジウムが行われ,
でお迎えしたいと準備を進めてまいりました。平成9
結核研究所加藤誠也副所長が座長として進行され,
「今
年の第48回全国大会に続き,大会開催に2回も携わら
後の結核スクリーニング」
と題して,結核予防会第一健
せていただき,有難く感謝申し上げます。
康相談所岡山明所長は,結核健診の現状として定期健
診での結核発見率の低下などから新しい対策の必要性
3月18日(木)
を強調し,結核予防会は健診機関から企画提案型の健
・支部長会議
康増進機関への転換が必要であると発言されました。
大会第1日目の午前中は,全国支部長会議が開催さ
次に,
「治療現場からの報告」と題して,鳥取県立中
れ,
「結核問題と本会事業」をテーマに講演と協議を行
央病院杉本勇二内科部長が鳥取県の結核の現状として
いました。
新規登録患者は20年間で3分の1に減少したが,高
「我が国の結核の現状について」
齢の患者は減少しておらず基礎疾患や合併症を持つ患
厚生労働省健康局結核感染症課 福島靖正課長
「公益法人制度改革への対応について」
結核予防会総務部 竹下隆夫部長
「結核低まん延国時代に備えて」
結核予防会結核研究所 石川信克所長
「COPD共同研究事業について」
あり,感染症対策をした一般病棟でも診療できるよう
にとの要望を述べられました。
次いで,鳥取県西部総合事務所福祉保健局健康支援
課岡田桂子保健師は,
「DOTSの取り組み・地域連携」
について,米子保健所の取り組みとして患者を4段階
結核予防会複十字病院 工藤翔二院長
に判定し,患者の状況に合わせた服薬支援をしてお
「結核予防会における特定健診・特定保健指導の今
り,今後は薬剤師や地域医療機関等の協力を得て,薬
後の進め方」
結核予防会第一健康相談所 岡山 明所長
2
者が多く,全ての診療を結核病棟で行うことが困難で
局DOTSや外来DOTSを始めるため,関係機関や地域
との連携を進めたいと話されました。
以上の講演について,熱心な討議が交わされました。
最後に,
「結核の医療提供体制」と題して,愛媛大学
・婦人会理事会・総会
医学部附属病院医療福祉支援センター櫃本真聿 セン
午前中,全国結核予防婦人団体連絡協議会理事会が
ター長は結核罹患率が低下し,国民の関心が低くなっ
開催され,その後に48団体(欠席3団体)の代表によ
ている結核について地域で治療やケアが受けられる医
る総会が開催されました。
療提供体制を構築すべきであり,感染症法の見直しと
議題
対策の転換が必要であると強調されました。
「平成21年度事業報告案・収支決算案ついて」
特別発言として,厚生労働省結核感染症課福島靖正
「平成22年度事業計画案・収支予算案について」
課長は,厚生科学審議会感染症分科会結核部会での議
5/2010 複十字 No.333
論を紹介し,病棟単位から病床単位へ,患者中心の医
引き続き,結核予防会青木正和会長が挨拶をされた
療へシフトしていくべきだという指摘を受けており,
後,秩父宮妃記念結核予防功労賞第13回表彰は,国
医療法,感染症法等の制度改正などに向けて地域の実
際協力功労賞1団体,保健看護功労賞3名,事業功労
情に応じた,ある程度自由度の高いものが実現できる
賞は1団体と個人8名が表彰されました。
ようにしたいと話されました。
引き続き行われた議事では,全国支部長会議及び研
その後,青谷上寺地遺跡で発掘された日本最古の結
鑽集会の概要等について,結核予防会長田功理事長が
核症例(脊椎カリエス)について,鳥取大学医学部井上
報告を行い,大会決議文は鳥取県支部岡本公男支部長
貴央医学部長が講演されました。
が,大会宣言文は鳥取県健康を守る婦人の会井勝道子
結核研究所星野斉之科長が脚本を書き下ろし,鳥取
会長が朗読し,満場一致で採択されました。
県健康を守る婦人の会大山町中山支部の皆さんに人形
劇「鈴木家結核顛末記」を鳥取弁で演じていただき,好
評を得ました。
最後に,研鑽集会の取りまとめ等を結核研究所石川
信克所長が行われました。
アトラクションは,鳥取県出身の作曲家岡野貞一の
名前を冠した岡野貞一記念合唱団による「童謡・唱歌
ふるさとメドレー」をお楽しみいただき,参加者も一
緒に合唱し,研鑽集会を終了しました。
井勝婦人会長より宣言文が朗読されました
次期開催県を福島県とすることについても満場一致
で承認されました。
特別講演は,
「人類と感染症∼新型インフルエンザを
中心として∼」と題し,自治医科大学公衆衛生学尾身
茂教授に講演をしていただきました。結核予防会鳥取
県支部荻野隆一副支部長の閉会のことばを最後に,全
日程を滞りなく終了しました。
ふるさとなど、岡野貞一先生作曲の歌が合唱されました
・支部長午餐会
3月19日(金)
日程の都合上,大会終了後となった支部長午餐会
・大会式典・議事・特別講演
は,秋篠宮妃殿下のご臨席をいただき,和やかに開催
大会第2日目の式典が,秋篠宮妃殿下のご臨席の下
されました。
に開催され,本大会運営委員長である平井伸治鳥取県
本大会が成功裡に終了できましたことは,ご来賓を
知事が挨拶をされました。
はじめ,ご後援をいただいた多くの関係団体や関係者
さらに,結核予防会総裁秋篠宮妃殿下からお言葉を
の皆様のご協力,ご支援の賜物と深く感謝申し上げま
賜りました。
す。
5/2010 複十字 No.333
3
全国大会報告
第61回結核予防全国大会研鑽集会報告
結核研究所副所長 加藤
誠也
我が国の結核罹患率は2008年には人口10万対19.4と
20を切ったところである。少しでも早く 10以下の低ま
ん延状態となるように,効果的かつ効率的な対策を
取っていく必要がある。同時に患者数の減少に対応し
た医療体制を整えることも重要な課題である。今回の
厚労省福島課長より特別発言をいただきました(右 筆者)
シンポジウムでは「どうなるこれからの結核医療」を
有する総合病院での医療の現状を報告いただいた。鳥
テーマに繰り広げられた。
取県では80歳以上の割合は全国が26.6%に対して42.7%
と極めて高い。総合病院の同病院の結核患者の8割程
度は診断あるいは診断後に重症であるため,紹介され
て受診する。高齢者では咳・痰の呼吸器症状に気づか
れないことも多く,紹介時には結核を疑われない症例
も多く,胸部単純X線検査では診断困難な症例も多
い。糖尿病,がん,脳血管疾患,認知症,骨折,肺疾患,
心疾患など9割近くが何らかの合併症を有している。
死亡例は全例高齢者で全体の23.4%,高齢者中では3割
程度になっている。このように合併症や重症の呼吸管
理・全身管理や認知症の対応が必要なため,ICUや一
4
4名のシンポジストより発言がなされました
般病棟の個室での治療が約2割の症例で行われた。こ
岡山明先生(結核予防会第一健康相談所長)が「今後
のような状況から,総合病院の中で結核病床を持つ同
の結核スクリーニング」と題して,低まん延時代に結
院の役割として,診断困難例に対して専門施設として
核予防会は結核健診にどう取り組むかを含めて発表さ
精密検査,合併症の治療を必要とする患者の治療,臨
れた。結核の患者数が減少する中で従来の無差別の定
床研修病院として医療従事者に対する結核の教育の3
期健診での発見率・費用対効果が低くなり,リスクに
点が挙げられるが,高齢者・合併症を有する患者が増
応じた選択的健診と接触者健診の励行が重要とされて
加する中で,全ての結核患者を結核病棟のみで診療す
いる。平成17年から住民健診は65歳以上の高齢者を中
ることは困難で,空気感染対策を行える個室対応が望
心に,また,本年4月から労働安全衛生法に基づく事業
ましいと提案された。
所健診も40歳未満は省略可能となった。健診事業の方
岡田桂子保健師(鳥取県西部総合事務所・米子保健
向として従来のような単なる健診の受託では規模が縮
所保健師)は「鳥取県米子保健所における結核の服薬
小化し,採算性が低下し難しくなる。一方,ハイリス
支援について」と題して,病院での治療を地域で受け
ク者への健診や接触者健診は結核対策に関する高度な
るための保健所での活動を報告いただいた。同保健所
ノウハウが求められるが,その維持・向上は容易では
管内でも80歳以上の高齢者が約4割を占めている。
ない。結核予防会は結核研究所を中心とした専門家集
DOTS事業は平成17年から実施されており,高齢者が
団であることから,健康増進機関として自治体の対策
多い同保健所のDOTS体系の特徴として,結核の治療
を支援する企画型受託を目指すべきと提案された。
をされていた病院から一般病棟あるいは施設に転院
続いて,杉本勇二先生(鳥取県立中央病院内科部長)
後,毎日対面服薬確認する「Dランク」が設定されて
に「治療現場からの報告」と題して,少数の結核病床を
いる。リスクアセスメント,保健師との面接,関係者
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からの情報を合わせて総合的に患者のランクを判断
その中に脊椎カリエスの人骨(第3∼第7胸椎が結
し,保健所の保健師または委託された訪問看護師が訪
核によって変形癒合)が見つかり日本最古の結核の症
問,電話,面接などによって残薬・空袋,服薬ノート
例であることが明らかになった。弥生時代(紀元前5世
等で服薬状況の確認を行っている。死亡が多いため治
紀∼紀元後3世紀)ごろに渡来した弥生人が日本に結核
療成功率は64%であるが,治療失敗・服薬中断はな
菌を持ち込んだことになるのであろうか。この菌の遺
く,良好な成果が得られている。
伝子タイピングによって日本・中国・韓国で共同研究
櫃本真聿先生(愛媛大学医学部附属病院医療福祉支
している現在の結核菌のパターンと比較してみたい衝
援センター長)には「これからの結核医療体制」につい
動を覚える興味深い発表であった。
ひつもとしんいち
て昨年12月に開催された結核指導者全国会議における
議論を踏まえて報告いただいた。結核医療が赤字体質
であること,医療関係者の関心の低下などから病棟閉
鎖が続いており,結核医療体制が崩壊の危機にある。
患者の減少によって必要病床数も減少しており,高齢
化に伴う合併症を持つ割合が増えていることなどから
医療提供体制の整備が必要である。HIV対策を振り
返ってみると,専門病院での医療提供は地域で患者を
支援する体制になりにくいことから,全ての病院が
各々の機能に合わせて診療が出来る体制の構築が望ま
しい。結核では住み慣れたより身近なところで,合併
症の問題を踏まえて総合病院や精神病院での対応が必
井上教授より結核症例の解説がなされました
要になる。これらは医療経営的に成り立つものでなけ
つづいて人形劇「鈴木家結核顛末記」が鳥取県健康を
ればならない。
「ソーシャルキャピタル」の考え方で,
守る婦人の会大山町中山支部の皆さんによって演じら
地域の支援を活用し,地域特性に応じたシステムを作
れた。舞台は鈴木家の主である達三が生まれてくる孫
ることが重要であり,これまでの「結核病床」という考
の名前を考えるところから始まるが,熱っぽい。翌日
え方から,総合病院や精神病院にも感染症病床を設置
病院に受診し,結核と診断され,入院となるが,医師
し,これに対する補助を検討する必要がある。薬剤耐
とのやりとりから,高齢者の結核は症状がはっきりせ
性などで長期療養が必要になった患者にはQOLを重視
ず診断が遅れることがあること,確実に服薬するため
した医療・ケアが必要である。また,結核を診られる
にDOTSを行うことの重要性が伝えられた。
医療者を地域で育てることも重要な課題である。これ
らのために住民・患者を医療チームの一員にして,結
核になっても地域で安心して治療やケアが受けられる
体制作りが必要との考えが示された。
特別発言として厚労省結核感染症課の福島靖正課長
は,厚生科学審議会結核部会における議論として「合
併症を持つ結核患者の病態に応じた治療を行えるよ
う,病棟から病床単位の医療へ,患者中心の医療へシ
フトすべき」と指摘されていることを述べた。
婦人会員により結核顛末記が演じられました
シンポジウムに引き続き,鳥取大学医学部長の井上
接触者健診の結果,幸い家族は誰も感染しておら
貴央教授から「青谷上寺地遺跡(あおやかみじちいせ
ず,孫のマリオはBCG接種を受けることになった。鳥
き)から発見された日本最古の結核症例について」のご
取県健康を守る婦人の会大山町中山支部の皆さんは研
発表をいただいた。青谷上寺地遺跡は弥生時代の集落
鑽集会にふさわしいお国言葉での大変な熱演で結核を
の遺跡である。平成12年になってから多くの人骨が出
忘れることがないようメッセージが述べられた。最後
土されたが,保存状態が極めて良好で,3体から脳が取
に,結核研究所石川信克所長から,どうなるではなく,
り出されたことでマスコミにも大きく取り上げられて
どうするこれからの結核医療として今後も対策に取り
話題になった。
組んで行こうと話され,研鑽集会は終了した。
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5
全国大会報告
結核予防会全国支部長会議報告
全国大会初日の3月18日10時から,結核予防会全国
支部長会議がホテルニューオータニ鳥取 鶴の間
(東)において,結核予防会支部・本部より約100名
の参加を得て開催された。
ホテルニューオータニ鳥取で開催
会議は,本部長田理事長,鳥取県支部岡本支部長,厚生労働省結核感染症課福島課長から挨拶があり,開催地の
鳥取県支部岡本支部長が議長となり「結核問題と本会事業」について協議に入った。協議事項は次の5点であった。
・「我が国の結核対策の現状と課題」
厚生労働省福島課長
①結核罹患率の状況を中心に結核の現状,②結核対
核対策に力を入れなければならないと結ばれた。
石川県支部から医学教育への結核の講義を増やすな
策関係22年度予算案概要や,対策における近年の課題
どの取り組みをお願いしたいと意見が出された。
を中心に我が国の結核対策について,③厚生科学審議
・「COPD共同研究事業について」
会感染症分科会結核部会で議論されている今後の結核
複十字病院工藤院長
医療提供体制や地域連携体制強化について,④結核に
まず,COPDという疾患の概略にふれ,平成18年度
関する特定感染症予防指針(厚生労働省告示)につい
にパイロットスタディを開始し,19∼23年度の5カ年
て説明された。
計画で本格実施中のCOPD共同研究事業について,プ
福岡県支部から近年の課題に経済不況や健康保険制
レスリリースの様子から紹介された。続いて,①共同
度による受診遅延を加えることを検討してほしいとの
研究開始にいたる背景,②目的,③共同研究委員会(委
意見が出された。
員長 小倉剛)の設置と開催状況,④日本呼吸器学会と
・「公益法人制度改革への対応について」
の協力関係,⑤全国支部の研究成果,⑥18∼20年度報
本部総務部竹下部長
告書,⑦学術的成果,⑧普及・啓発事業展開−「世界
本部は昨年12月28日に公益認定申請済みであると冒
COPDデー」・「肺年齢」・JR山手線車両広告・
頭に述べ,続いて①公益認定申請状況について,②公
「呼吸の日」等−について説明され,残された共同研
益財団法人のメリット・デメリット,③本部の公益財
究期間2年でデータ分析を行い,質問票の精緻化に努
団法人への移行申請の経緯,④公益財団法人制度にお
めていきたいのでよろしくお願いしたいと結ばれた。
ける支部の位置づけ,⑤公益目的事業区分の分け方に
・「結核予防会における特定健診・保健指導の今後の
ついて,認可を受けた大分県の健診事業団体を紹介し
進め方」
つつ認定のポイント5点を述べた。
第一健康相談所岡山所長
鳥取県支部から「精度管理と認定の関係」について
まず,2年経過した特定健診・保健指導へのこれか
問題提起された。
らの取り組みの中で,誕生期(年間7千人)から成長期
・「結核低まん延国時代に備えて」
(22年度4万人予定)に入った結核予防会ネットワー
結核研究所石川所長
ク健診の課題と進捗状況について説明された。続いて,
日本の結核は2020年頃低まん延化することが推計で
ワンポイントアドバイス,マイレージシステム,キャ
きるが,低まん延に近づくほど問題は複雑化し,結核
ンペーン型支援等により,結核予防会は従来の健診機
は簡単にはなくならない。これから高齢化,地域格差,
関から脱皮して健康増進機関へ向けて努力して生き
大都市偏在,特定リスク集団に集中などの課題がある。
残っていき,データ管理,2010年循環器疾患調査実施
低まん延化に向けた検討の動きとして,厚生科学審議
(国)への全面協力,健診と保健指導・医療を一体化し
会感染症分科会結核部会,厚生科学研究での状況,結
た総合的サービスを今後の展望として結ばれた。
核予防会結核対策検討委員会(仮)の構想と,オランダ
のブルックマン博士による日本の結核対策への評価・
6
提言について述べ,結核予防会として今まで以上に結
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(文責:編集部)
厚生労働大臣祝辞(水田邦雄厚生労働事務次官代読)
本日ここに,財団法人結核予防会総裁秋篠宮妃殿下
のご臨席を賜り,第61回結核予防全国大会が開催さ
れますことを,心よりお慶び申し上げます。
はじめに,ただ今,秩父宮妃記念結核予防功労賞を
受彰されました皆様に,心からお祝いを申し上げます。
この賞は,永年にわたり財団法人結核予防会総裁を務
められました秩父宮妃殿下の御遺徳を偲んで,創設さ
れたものであり,大変栄誉ある賞でございます。皆様
のこれまでの御尽力と御功績に対し,深く敬意を表す
る次第です。
さて,我が国の結核を取り巻く状況をみますと,昭
和26年の結核予防法制定以来,官民一体となった取
組により,結核患者数が大幅に減少するなど,飛躍的
に改善してまいりました。
しかし,現在においてもなお,年間約2万5千人の
新規患者が発生するなど,結核は,依然として我が国
の主要な感染症であり,引き続き十分な対策が求めら
れております。特に近年では,結核患者の高齢化,多
剤耐性結核菌の発生などが,大きな課題となっており
ます。
また,結核患者の減少による結核病床の利用率低下等
に伴い,結核病棟を閉鎖する医療機関が相次ぐ等,地域
によっては,結核病床の不足が懸念されております。
厚生労働省としましては,こうした状況を踏まえ,
結核患者に良質かつ適切な医療を提供できる体制を確
保するとともに,定期の健康診断,公費負担医療,予
防接種をはじめとした総合的な結核対策を一層推進し
てまいります。
結核対策を真に実効あるものとするためには,日頃
から結核対策に携わっておられる財団法人結核予防会
を始めとする関係者の皆様のお力添えが不可欠であり,
引き続きそれぞれのお立場からの御理解と御協力をお
願い申し上げる次第であります。
最後に,本大会の開催にご尽力いただきました鳥取
県並びに財団法人結核予防会を始めとする関係各位に
対し,心から御礼申し上げますとともに,本日御参加
の皆様方の御健勝と今後ますますの御活躍を祈念いた
しまして,私のお祝いの言葉といたします。
平成22年3月19日
厚生労働大臣 長妻 昭(代読)
鳥取県知事挨拶
皆様おはようございます。
本日は,北は北海道から南は九州沖縄まで,本当に
数多くの皆様に鳥取県へお出でをいただきました。誠
にありがとうございます。本日ここに,秋篠宮妃殿下の
ご臨席を仰ぎまして,第61回結核予防全国大会を開
催することといたしました。この大会にあたりましては,
結核予防会の青木会長様,長田理事長様を始め関係者
の皆様,また,中畔婦人団体連絡協議会長を始め全国
の婦人団体の皆様,政府からは,水田厚生労働事務次
官にお出でいただいておりますし,本当に数多くの全国
の皆様にお世話になりましたことを厚く御礼申し上げ
たいと思います。県内におきまして皆様をお迎えするた
めに様々な工夫をさせていただきましたけれども,岡本
支部長様あるいは井勝会長様をはじめボランティアの
皆様,そして関係者の皆様に大変なお世話をいただき
ました。厚く御礼を申し上げたいと思います。
皆様の善意が今日,この鳥取の空を青空に変えてい
ただいたと思います。うららかな春の陽気がこの山陰
の地にもやって参ったそんな気がいたします。しかし
私達は今の大きな世界的な課題と向かい合っているわ
けであります。結核を予防していく,結核をこの地球
からなくしていこう,そういう尊い営みを私達は是非
とも進めて行かなくてはならないのだと思います。
いろいろと課題は変わってきたのだと思います。高
齢化社会が進んでまいりました。この鳥取県でも実は
結核にかかる方々がいらっしゃいます。全国平均の
19.4 という10万人あたりの数字からみますと,13.8
という数字でございまして,非常に低く,だいたい全
国平均の下から10番目くらいのところに,鳥取県の
罹患率といいますか,発生率はあるのでございますが,
しかしながら今なお根絶されたわけではございませ
ん。昨年のちょうど今頃には,10年ぶりの結核の集
団感染がありました。大変衝撃的でありました。そう
いうようにまだなくなっていないという状況が続いて
いるわけであります。しかも高齢者の方の罹患が拡
がっているということでございまして,全国ではだい
たい6割位が高齢者の方の新規発生,登録率でござい
ますが,鳥取では7割位ということであります。この
ほか,都市部の方に行きますと外国人の患者さんとど
う向き合っていくか,それから最近の状況といたしま
しては,複合的にいろいろな合併症がございまして,
そのうちのひとつが結核であり,また,バイタルなも
のになる,命を奪うものになってくる,そういうよう
な状況にもなってまいりました。時代の変化に対応し
て結核対策を是非とも進めていかなければならないわ
けであります。今日は,ここに尾身先生をお招きし,
のちほど特別講演をいただくことになっております
が,さまざまな感染症の問題に対し,一石を投じる大
会であってほしい。そのためにわれわれも運営本部と
いたしまして全力をあげさせていただいた次第であり
ます。
私どもの鳥取県では最近,新型インフルエンザ対策
が重大な課題として取り上げられました。全国そう
だったと思います。実は鳥取では全国よりもだいたい
3週間から4週間,新型インフルエンザのピーク,発
生のピークが遅れてまいりました。またそのピークの
山も全国平均よりも下回った状況でありました。ずい
ぶんと予防対策だとかPRをやりました。手洗いだと
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7
全国大会報告
かうがいをやりましょう,身の回りのことであります。
お医者さんにも,協力をしていただきましたし,市町
村もやりましたし,そうしてこのようにピークを抑え
ることができました。現実問題といたしまして,高校
受験が先般ありましたけれども,新型インフルエンザ
にかかって試験を休まざるをえなくなった子供は,一
人もこの県にはおりませんでした。それから大学の受
験がありました。センター試験がありました。センター
試験で結局追試を受けたという新型インフルエンザの
子供は一人しかいませんでした。このようにやればで
きるのだというふうに私は思います。やらなければで
きないことであります。一人一人の力を合わせてそう
した結核予防対策,感染症対策をやっていくことが地
域の課題であり全国的,世界的な課題なのではないか
と思います。
今日はせっかく北海道から沖縄までお客様にいらっ
しゃっていただきました。是非この機会に鳥取県を味
わっていただき,見て歩いていただければと思います。
皆様のために明日から連休が用意してございまして,
皆様のお帰りを必ずしも家族が待っているとは限らな
いわけでございます。是非ゆっくりとしていただけれ
ばと思います。この山陰海岸の辺りはいま,世界ジオ
パークネットワークへの加盟を目指しております。県
中部を始めとして県内には10の温泉地があります
し,西の方にまいりますと,大山という 1,709m のき
れいな山があります。さらには,マンガ王国と言いま
して,3月の29日からNHKで朝の連続テレビ小説
「ゲゲゲの女房」というのも始まりますが,その舞台
にもなります水木しげる先生のふるさともございまし
て,136体の妖怪のブロンズ像がならんでいるわけ
であります。鳥取は空気もよろしゅうございますし,
食べ物もおいしゅうございますし,人柄も良い人が多
いというふうに言われているものですから,妖怪も住
みやすいわけでございまして,是非,旅をしていただ
ければありがたいと思います。
また,食べ物など食の都と言われておりまして,こ
の会場の外にもせっかくの機会でありますから,地元
の皆様手作りのいろんなお料理といいますか,物産を
用意させていただいております。梨のジャムとかある
いはらっきょうとかですね。らっきょうも,だいたい
日に4粒食べていただきますと,新型インフルエンザ
に罹らないと言われております。私が言うと嘘だと思
われるかも知れませんが,農協の組合長が言っており
ますので,まず間違いはないと思いますので,よろし
くお願いを申し上げたいと思います。福祉のお店もご
ざいます。せっかく皆さんが作ったいろいろなものが
並んでおりますので,お手にとっていただきたいと思
います。鳥取は,因幡の白うさぎの物語がありますが,
大黒様は大きな袋を下げてやって参りました。皆様に
も是非,大きな袋にお土産を入れて帰っていただけれ
ばありがたいと思います。もし重たいという方のため
には,ふるさと宅配便というのも用意しておりますの
で,ご利用いただければありがたいと思います。
ここ鳥取では市内から尾崎放哉という文人が輩出を
いたしております。尾崎放哉は「咳をしても一人」と
いう句を詠んでおります。実は,放哉は結核だったん
です。結核でこの世を去ることになったわけでありま
す。「やせたからだを窓に置き船の汽笛」これも放哉
の歌であります。「白々あけて来る生きていた」本当
に切々とした結核患者のひびき叫びが聞こえてくるよ
うな気がいたします。放哉は,山は春がいいというふ
うに言っておりました。「春の山のうしろから烟が出
だした」これはこの世を分かれるときに残した放哉の
歌であります。一筋のたなびく煙が空へ空へと上って
いきます。魂は天空の彼方へと消えていったことだと
思います。その放哉は41歳あまりの短い生涯を遂げ
ることとなりました。今であれば助けられる命のはず
であります。助けることはそんなにむずかしいことで
はありません。6ヶ月間毎日薬を飲むとか,治療法も
確立をされています。是非,皆様の力で,結核をこの
世から消していただきたいというふうに思います。
そのために,今回の大会は,「ストップ結核 とっ
とり大会」と名付けさせていただきました。鳥取から
全国へ,そして世界へ結核をなくそうという運動の輪
を皆様の手で広げていただきたいと思います。この大
会の成功と皆様のますますのご健勝,そしてなにより
も秋篠宮家の弥栄(いやさか)を申し上げまして私の
方からのことばにかえさせていただきます。本日は本
当にありがとうございました。
平成22年3月19日
鳥取県知事 平井 伸治
(大会運営委員長)
秩父宮妃記念結核予防功労賞第 13 回受賞者『結核予防世界賞』が決定いたしました。
G. R. Khatri (カトリ)
医師
インド
世界肺財団南アジア地域支部会長
前インド保健省結核対策課長 デ リ−大 学 卒 業 後,公 衆 衛 生 を 学 ぶ。1996 ∼
2002 年にインドの国家結核対策の総責任者として国
の結核対策推進に取り組み,歴史的な成果を残した。
インドにおける DOTS 拡大のスピードはどの国よ
りも速く,世界的な評価を得ている。カトリ氏は
DOTS 導入の土台作り,国家予算による結核対策へ
のフルサポート,結核対策の地域レベルでの運営,
DOTS 戦略の結核対策従事者への導入,民間組織・
8
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私的医療機関の巻き込み,世界銀行,WHO 等外部
機関からの支援の確保等,幅広い活動により,国の
結核対策を推進した。その成果として,治療成功率
は 26% から 80% へ向上,治療中の死亡率は 29% か
ら 5% へ激減,DOTS 実施範囲は 1800 万人から 5
億人に拡大した。カトリ氏が世界最多の結核患者を
抱えるインドの結核対策を整備,推進し,その結果,
世界の結核状況の改善に果たした貢献は大きい。
2005 年に世界肺財団南アジア地域支部を設立,3期
会長を務め現在に至る。なお,アジアにおいては日
本 の 古 知 新 氏(第 1 回)
,途 上 国 で は ペ ル ー の
Pedro Guillermo Suarez(ペドロ ギジェルモ スアレス)氏(第
3回)以来,2 人目の世界賞受賞者となる。
3月19日,第61回結核予防全国大会議事において,決議案を結核予防会鳥取県支部長岡本公男様よ
り,宣言案を鳥取県健康を守る婦人の会会長井勝道子様から,それぞれ報告があり参加者から賛同の拍手を
もって採択された。
第61回結核予防全国大会決議
我が国は,年間2万5千人の新規患者が発生しており,国際的に依然として中まん延国であるが,結核罹患率は10万対20を下回り
低まん延国化に向けて歩み始めた。その中で高齢者やハイリスク特定集団への結核の偏在など新たな課題が生まれてきている。
こうした状況下で,労働安全衛生法改正により本年4月1日から定期健康診断で40歳未満の胸部エックス線検査が省略可能となる
が,引き続き早期発見を期し,ハイリスク集団等への検診を確実に実施するよう努めるべきである。
医療提供体制においても地域特性を踏まえた患者中心の医療の確立を目指して,病棟単位から病床単位への転換,医療の質の確
保等を図る必要がある。
結核医療に関しては平成22年度診療報酬改定で一定の改善が図られたが,結核医療からの撤退を防止しうるほどの改善にはつな
がらないことが予想され,慢性感染症である結核の特性をふまえた入院基本料の引き上げ,DOTS(直接服薬管理治療)管理指導
料の新設等,引き続き結核医療費の適正な評価が行われることが必要である。また,病床単位への転換にかかる予算措置について
も考慮するべきである。
結核は,世界的には依然として大きな社会問題で,特に開発途上国では,他の健康問題と並び深刻な状況にある。それらの国々
では,対策に必要な人材や技術が著しく不足している。
一方,呼吸器疾患対策としては,国が「慢性疾患の更なる充実に関する検討会」で対策に重点を置く必要がある疾病として
COPDを取り上げ,「慢性閉塞性肺疾患(COPD)の予防・早期発見に関する検討会」設置について説明したのを受けて,生活習
慣病対策の柱の一つにCOPD予防を位置づけ,強力な禁煙運動や受動喫煙防止対策を推進していく必要がある。
我々は,国内の結核対策や国際協力を,強力に進めていくとともに,広く国民の健康に寄与するため,呼吸器疾患対策や生活習
慣病対策等の事業をも推し進めてゆく。
よって,日本最古の結核症例が発見された地,鳥取において開催された今大会において検討の結果,次のことを決議する。
一、国および地方公共団体は,国内の結核対策として以下のことに努めること。
①感染症法に基づく科学的で実効性のある結核対策の充実に努めること。
②結核研究をより一層推進し,新診断技術や新抗結核薬の開発を進めるとともに結核対策のための人材育成を図ること。
③結核医療に対する診療報酬の是正に継続して取り組むとともに,地域特性をふまえた患者中心の結核医療提供体制の確
立を図ること。
二、国は,結核の国際協力として以下のことに努めること。
①ストップ結核ジャパンアクションプランにより官民が連携して,世界の年間結核死者数の1割を救済することを念頭に
置き,世界特にアジア及びアフリカにおける結核対策を支援すること。
②国(外務省,厚生労働省)は,ストップ結核ジャパンアクションプラン実施に向け必要な施策を実施するとともに,結
核対策を含む保健分野に知見を有する関係団体の主体的活動を支援すること。
三、国および地方公共団体は,結核予防の普及啓発や国際協力の貴重な財源となる複十字シール運動を盛り上げるため,関係
者・団体への働きかけに努めること。
四、国および地方公共団体は,特定健診・特定保健指導対策として以下のことに努めること。
①特定健診・特定保健指導は,実態を考慮し制度の円滑な実施に努めること。
②特定健診・特定保健指導の推進を国民運動にしていくため,結核予防婦人団体連絡協議会と連携し,その普及啓発活動
を支援すること。
五、国および地方公共団体は,肺がんやCOPD等の呼吸器疾患対策として以下のことに努めること。
①「呼吸の日」(5月9日)の行事をはじめ,国民に対する普及啓発に努めること。
②生活習慣病対策の柱の一つとしてCOPD予防を位置付け,調査・研究を支援するとともに健診を必須項目に加え,そ
の予防と早期治療に努めること。
以上5項目を国および地方公共団体に要請する。
結核予防会は,本部,支部の活動を通じ,これらの実現に向けて一層の努力をするものとする。
以上決議する。
平成22年3月19日
第61回結核予防全国大会
第61回結核予防全国大会宣言
日本の結核罹患率は10万対20を切り,低まん延国化に向けて歩みを進めている。しかしながら,我が国の結核を取り巻く状況は,
合併症を伴う高齢患者の増加,大都市への集中化,外国人の患者割合の増加など,複雑化し質的な変化を呈している。
国内においては,科学的で実効性のある結核対策の充実に努めるとともに,地域特性をふまえた患者中心の結核医療提供体制の
確立及び結核医療に対する診療報酬の適正化に引き続き取り組む。
世界に向けては,ストップ結核ジャパンアクションプランを確実に実施し,結核の制圧へ向け総力を挙げて取り組む。
さらに,特定健診・特定保健指導の推進,禁煙運動や受動喫煙防止対策の推進による肺がん,慢性閉塞性肺疾患(COPD)をは
じめとする呼吸器疾患対策をすすめ,国民に対する正しい知識の普及啓発に努め,世界の人々が健康で明るい生涯を送れるよう組
織一丸となって努力する。
以上宣言する。
平成22年3月19日
第61回結核予防全国大会
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ストップ結核パートナーシップ日本
冨名腰 あん
事務局 「何故,自分が結核に・・・・」将来に対する不安がよぎり,仕事に復帰できるか不安だった。
−結核患者テレビ会議参加日本人元患者の証言
「私は治療を受けた後,近所などで結核の疑いがある人を知った場合に無料で治療を受け
られるクリニックを紹介している。」
−ストップ結核!ワークショップ参加フィリピン人元患者の証言
以上は,平成21年9月2日に,日比谷の世界銀行東京事務所で日本で初めて開催された日
本・フィリピン結核患者テレビ会議と平成22年2月15日RIT/JATAフィリピンマニラ事務所に
おいて開催した日本・フィリピン結核患者ストップ結核!ワークショップにおける患者達の発
言です。これは(財)国際コミュニケーション基金の助成を受けて実施されました。結核患者
のコミュニケーション活動の目的は,患者自身の積極的な証言活動を後押しすることにより,
患者コミュニティーの活性化を図り,一般社会から関心を獲得しようというものです。
テレビ会議ではフィリピン側10人日本側4人の元結核患者が参加し,2月のワークショップ
(WS)にはフィリピンから6名(男女各3名),日本から2名の元結核患者(男性2名)が参
加しました。WS参加者は数年前に治療を受けた患者や年治療を終えた患者など様々でした。
RIT/JATAフィリピン事務所,(財)結核予防会,在フィリピン日本国大使館,マニラ新聞
社の関係者も参加しました。
話された議題は以下の通りです。
● 結核治療を受けた機関について
● 結核治療の期間
● 患者の治療アクセスの権利について(情報を得
られる権利,秘密は守られる,参加するなど)
● 日本,米国の結核患者の病院のケアの現状
● MDR結核 について
● 患者の人権(結核患者憲章など)
● 結核患者とボランティアについて
● DOTS について
このコミュニケーションのプロジェクトに関わり結核患者や関係者とでコミュニケーショ
ンも重ねていく中で,患者コミュニケーションは発展していくのではないかと感じました。
第一段階として,結核に関する正しい知識が共有され,不安が解消されます。そしてその様
な患者の気持ちの変化は,治療や予防についての行動の変化につながっていきます。次のス
テップとして,フィリピンの結核患者達はボランティア,普及啓発に関わるようになってい
く,周囲の人達や支援者の協力と共に積極的・前向き
になっていく展開が今回の経験から伺えます。
本ワークショップを通じて患者同士,そして患者と周
囲の人達とのコミュニケーションの不足が患者の生き
たい,治療したいという気持に影響を与えるものであ
り,コミュニケーションを重ねる中でコミュニティレ
ベルのパートナーシップの重要性,患者の治療に対す
る積極性につながり,さらには,結核患者達の国際交
流にも発展していく可能性を感じました。
タイトル:俳人尾崎放哉の「咳をしても一人(Coughing even; alone)」から。咳をしても1人じゃないぞ!
10
5/2010 複十字 No.333
Coughing even; not alone
日本・フィリピン結核患者ストップ結核!
ワークショップを開催して
ス
ト
ッ
プ
結
核
パ
ー
ト
ナ
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シ
ッ
プ
日
本
だ
よ
り
No.
11
第15回 国際結核セミナーに参加して
日 時:平成22年3月4日(木)13:00 ∼ 17:30
場 所:東京・新橋 ヤクルトホール
国立病院機構刀根山病院
ふじかわ
藤川
たけや
健弥
平成22年3月4日,東京・新橋のヤクルトホールにて,
れた。現時点では,臨床的有効性の見込みについて議
第15回国際結核セミナーが開催された。テーマは「結
論できる状況ではないとのことであった。次に,
「新抗
核対策の技術革新」であり,冒頭,結核予防会結核研究
結核ワクチン開発の現状」として,日本ビーシージー
所 の 石 川 信 克 所 長 よ り,今 年 の ス ロ ー ガ ン が「イ ノ
製造の山本三郎先生より,新規結核ワクチンとして,
ベーションで結核対策を加速しよう(ON THE MOVE
弱毒結核菌ワクチン,リコンビナントBCGワクチン,
AGAINST TUBERCULOSIS / Innovate to
サブユニットワクチン,DNAワクチンなどが紹介され
accelerate action)」であることが紹介された。特別講
た。今後の課題として,ワクチンの安全性や有効性を
演は,FINDのDr. Roscignoより「結核の革新的技術:
確立すること,休眠結核菌に有効なワクチンを開発す
現在と今後の対策への貢献」と題して行われた。FIND
ること,免疫不全者に安全なワクチンを開発すること
とは,2003年に設立された非営利基金団体である。そ
を示された。
「核酸増幅法検査の進歩」として,栄研化
のスタッフは,公的機関からとプライベートな機関か
学株式会社の幸保孝先生より,特別講演の演者である
らがほぼ半数ずつであり,各国の保健省にあたる機関
Dr. Roscignoの所属するFINDと提携し,結核菌の迅速
との協力関係の下に事業援助を行っている。結核につ
診断を可能にする,PURE・TB-LAMP法について,そ
いては,世界的にみると,その患者発見は不十分であ
の原理と方法が紹介された。途上国のPeripheral Lab.
り,早期診断の重要性はますます高まってきている。
において,簡便かつ短時間に診断ができる方法であ
このような状況において,2005年に新しい迅速診断法
り,塗抹陽性の95%,培養陽性でも60%近くの陽性率と
の開発について日本の企業と合意した。開発された
いうことであった。最後に,
「反復配列多型(VNTR)法
LAMP法は,手技としては簡便な検査法であるが,医
による分子疫学」として,結核研究所の前田伸司先生
療現場に高性能の検査を持ち込めるようにした点が,
より,その原理について,そして日本国内におけるク
非常に重要である。今後は,多剤耐性結核患者の発見
ラスター分析法の標準化について説明があった。クラ
についてだけではなく,結核以外の疾病にもこれまで
スターの形成率と解像度は反比例の関係があり,その
の技術を応用していきたいということであった。
バランスをどうとるかについて,具体例を用いて説明
続いて,
「新技術の現在及び将来への期待」と題した
された。最後に結核菌の系統地理学的分布についても
シンポジウムが開かれた。まず,
「耐性遺伝子診断の進
解説された。
歩」として,国立国際医療センター研究所の安藤弘樹
最後に,結核研究所の下内昭副所長から,技術革新
先生より講演があった。耐性遺伝子診断とは,薬剤耐
が結核対策を進めていくことにつながるとまとめられ
性に関わる遺伝子もしくは遺伝子間領域の変異情報か
た。
ら薬剤耐性を獲得しているかどうかを判断することで
今回のセミナーでは,結核に対する診断や治療薬に
あり,従来の培養法に比べ,迅速で一定の判定を得る
ついての技術革新が着実に進んでいることを実感する
ことが可能である。RFPに対するrpoBについては,感
ことができた。また,これらの技術革新に日本の企業
度が100%であるが,INHに対しては,感度が64%であ
や研究所が積極的に関わっていることにも,大変感銘
り,今後まだ「進歩」させることが可能である。そのた
を受けた。迅速な,そして確実な診断や適切な治療が
めには,変異情報の蓄積や新規遺伝子・新規変異の機
重要であることは間違いないことであるが,これらの
能解析,未知耐性機序の解明などが求められるとのこ
技術革新を駆使すれば,そう遠くない日に結核を撲滅
とであった。
「期待される新抗結核薬」として,結核研
できるのではないかと思いながら,会場を後にした。
究 所 の 伊 藤 邦 彦 先 生 が,TMC207やPA-824,
OPC-67683について,現在の開発状況について説明さ
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世界結核デー記念フォーラム 参加報告
日 時:平成22年3月4日(木)17:45 ∼ 19:35
場 所:東京・新橋 ヤクルトホール
感染症危機管理とリスクコミュニケーション
∼新型インフルエンザ対策を中心に∼
名古屋市中村保健所
所長 松原
史朗
3月4日(木),第15回国際結核セミナーに引き続きヤ
後半は,NHKジャーナリストの虫明英樹さんと女
クルトホールで世界結核デー記念フォーラムが開催さ
優の石井苗子さんも加わって「感染症危機管理∼リス
れた。メインテーマは「結核のない世界∼結核対策は
クコミュニケーションの重要性を考える」と題した対
公衆衛生政策の原点∼」で,前半は自治医科大学教授
談が行われた。
で結核予防会顧問でもいらっしゃる尾身茂先生が感染
症の危機管理について講演された。
尾身先生は国の新型インフルエンザ対策専門家諮問
委員会の委員長を務めておられることもあり,昨年4
月からの新型インフルエンザ対策が話の中心となった。
検疫などの水際作戦,強毒性から弱毒性への対応の変
更,学校閉鎖,発熱相談センターや発熱外来の設置,
ワクチン接種などの施策に関して,その基となった考
え方や先生の評価についてお考えを伺うことができた。
例えば学校閉鎖については「水際作戦に比べて有効性
が明確で関係者の合意もあったため広範囲に実施した,
石井氏の司会により虫明,尾身,両氏の対談が行われました
その結果学校から地域に感染が広がらず死亡率低下に
12
寄与したと思う」とのお考えであった。またワクチン
石井さんの巧みな司会で,尾身先生と虫明氏がそれ
については「10mlバイアルは製造効率が高いので早く
ぞれの立場から新型インフルエンザ対策について話し
供給できる,1mlバイアルにすると約3週間の遅れが見
合われた。「水際作戦が過剰だったか」という議論に
込まれたため,早く接種できることを優先した」との
始まり,日米の国民性や医療制度の違い,マスコミと
お話であった。
行政の情報の間を埋めるコミュニケーションの必要性,
新型インフルエンザ対策についてはさまざまな評価
さらに「マスコミは国民にリスクを正確に伝えられた
がある。第一波が終息した現時点で振り返ってみると
か」へと話が広がった。虫明氏は「刻々と変わるリス
反省点も多いし,初期には過剰な対策もあったように
クの変化を十分伝えきれなかった」ことを反省点に挙
思う。ただ検証にあたっては結果論ではなく,当時の
げられたが,マスコミの方々も国民に正確な情報を伝
状況を考慮しなくてはならない。科学的側面のみでな
えようと誠実に努力しておられる姿はとても印象的で
く,施策の社会的影響や経済的側面にも配慮する必要
あった。最後に尾身先生が「今回の流行で国も地方も
がある。それらを考えると私は判断の多くが納得でき
マスコミもそれぞれが貴重な経験をした,今後は皆が
たし,未知の点が多い中で困難な判断をされた方々に
各々の責務を果たすと共に協力して危機管理に取り組
尊敬の念を感じた。講演の最後に尾身先生は,「改善
んでいかなくてはならない」とまとめられ閉会した。
すべき点はあるが,わが国の新型インフルエンザによ
現在新型インフルエンザ対策の検証が国や自治体で
る死亡率は諸外国に比べて極めて低い,これは対策の
始まっているが,今回のフォーラムは対策を省みる上
効果ではないか」と評価された。現場で汗を流した多
でとても参考になるものであった。また結核を始めと
くの関係者にとって大きな誇りになる評価であり,た
する感染症対策に携わる者にとっても非常に示唆に富
いへんうれしく拝聴した。
んだ,有意義な内容であったと思う。
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平成21年度全国結核対策推進会議に参加して
∼結核対策における
“連携”
の意味∼
日 時:平成22年3月5日(金)9:30 ∼ 15:30
場 所:東京・新橋 ヤクルトホール
武蔵野大学看護学部
准教授 工藤
恵子
<はじめに>
で,東京都立多摩総合医療センターの藤田明先生,結
3月5日,暖かい春の陽気の中,ヤクルトホール(東京
核研究所対策支援部の小林典子先生,お二人の座長に
都港区)において平成21年度全国結核対策推進会議が
よるシンポジウムでした。シンポジストとして,まず
開催されました。今年度のテーマは,
「結核医療と地域
広島県東部保健所の藤田玲子先生が「地域連携パスの
連携の未来像」でした。全国から,日ごろ結核対策に取
取り組み」
,次に独立行政法人国立病院機構和歌山病
り組んでいる300人を超える仲間が集いました。
院の駿田直俊先生が「和歌山県における結核地域連携
<結核対策の現状と課題>
の取り組み」
,続いて千葉県安房健康福祉センターの
午前の部では,初めに厚生労働省結核感染症課の水
久保秀一先生が「地域連携パスを用いた早期発見シス
野智美先生から,
「感染症法における結核対策:現状と
テム」について報告されました。それぞれ異なる状況
動向」について,次に結核研究所副所長の加藤誠也先
でしたが,医療機関と保健所をはじめとする地域の関
生から,
「今後の結核対策」について,それぞれ講演が
係機関が連携パスというツールを介してつながってい
ありました。
く手法は共通しており,興味深い事例ばかりでした。
水野先生からは,感染症法における結核対策の概
休憩をはさんで報告された,社団法人中野区薬剤師
要,医療基準の改正,入院医療の供給体制についての
会の花井祐一先生の「薬局DOTS ―中野区薬剤師会の
説明がありました。結核罹患率は減少しているが結核
取り組み―」
,新宿ホームレス支援機構の安江鈴子先
対策上の問題として,①罹患率の地域差,②都市部の問
生の「ホームレス結核患者への支援活動と当事者参加
題(若年層,ホームレス,外国人の結核),③高齢者の診
の試み」は,地域における連携をさらに拡大,強化する
断の遅れ,④働き盛りの受診の遅れ,
⑤集団感染,⑥結
ものであり,今後の各地での取り組みに広がることが
核を診療できる医師の不足による診断の遅れ,⑦薬剤
期 待 さ れ ま す。フ ロ ア か ら も 多 数 の 発 言 が あ り,
耐性結核,⑧HIVとの重複感染,以上の8点があげられ
DOTSの成功のためには,DOTSを通じてさらに地域
ました。
の連携が強化されていくことが重要であると確認され
さらに加藤先生から医療供給体制の課題として,結
ました。
核病床の利用率減少による病棟の閉鎖や著しい不採算
<おわりに>
性,看護師の不足などにより病床確保が困難な状況が
結核対策には多くの課題が山積しています。しかし
あることが指摘されました。今後は合併症対応も視野
共に課題に取り組む多くの仲間がおり,これからの活
に入れ,地域実情に合わせた医療供給体制の再編を
動は「連携」がキーワードであることを再認識しまし
行っていくことと同時に,結核医療の技術的適正性の
た。
「ここに全国の関係者が集まることに意義がある」
確保も必要であることが提示されました。
という結核研究所長の石川先生の開会の言葉にもあっ
<DOTSと地域連携>
たように,有意義な会議となりました。
午後の部は「DOTSが結ぶ地域連携」というタイトル
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13
Use DOTS More Widely
大阪市における地域DOTSの変遷とその成果
−患者のニーズに即した地域DOTSを構築し患者を治癒に導く−
大阪市保健所感染症対策担当
保健師 有馬
○DOTS事業開始前(平成10年)の大阪市の結核事情
阪社会医療センターへ通い服薬支援者の目の前で服薬
当時の結核罹患率は,104.2と全国平均の3.2倍,脱
する「拠点型」からスタートした。また「ふれあい
落中断率は10.6%と全国の2.2倍であった。このように
DOTS」は,あいりん地域以外の住所不定者や一般住
結核事情の悪い要因の一つとして,あいりん地域など
民の喀痰塗抹陽性患者を対象として,平成13年から週
の住所不定者の問題が指摘されており,この地域の罹
1∼5回服薬支援者が自宅等へ訪問し,服薬確認する
患率は,1556.7で全国の50倍にも達していた。住所不
「訪問型」からスタートした。
定の結核患者は,大阪市全域でみられ,新規登録患者
DOTSを進めていきながら,この事業が「患者の
数の23.7%を占め,そのうち24.9%が脱落中断になる
ニーズに即した事業になっているのか」などの視点で
ことが,大阪市の結核対策の大きな問題の一つになっ
評価を行うために,DOTS委員会を立ち上げ,DOTS
ていた。しかし一方で,住所不定者を除いた一般患者
利用者へのアンケートや未利用者の生活背景の分析を
の罹患率も79.5と全国の2.5倍であり,大阪市の結核は,
行ってきた。
住所不定者だけの問題ではないことが明らかで,全市
その結果,これらのDOTSを利用しづらい患者が浮
域的な課題となっていた。
上してきた。
○患者を確実に治癒に導くDOTS事業
「あいりんDOTS」では,
日本ワースト1の結核事情を改善させるため,結核
・結核患者の高齢化や障害を持つ患者が増え始め,
対策を総合的・効果的・効率的に実施する戦略として,
「大阪市結核対策基本指針」を平成13年に策定した。
大阪社会医療センターまで通えない患者
・住所がなく,集団生活にも馴染めず施設入所が困
基本指針は,10年間で罹患率を半減(50以下)させる
難なため,生活基盤が不安定なことからDOTSが
ことを大目標とし,副次目標,具体的な戦略と,数値
継続的に繋がらない患者
目標を設定している。
「ふれあいDOTS」では,
その具体的な戦略の内,結核患者を確実に治癒に導
・退院後仕事を再開し始めると,訪問しても患者本
き,罹患率を減少させるためDOTS事業の推進を打ち
人と会いにくくなり,服薬支援が困難となる患者
立て,実施率80%を数値目標として進めてきた。
そこで,このような患者が利用できるDOTSの種類
DOTS事業は,院内DOTSから地域DOTSへの流れと
を増やすことにより,DOTSの実施率を高め,さらに
それを評価するコホート検討会を体系づけ,地域
確実に結核患者を治癒に導くこととした。
DOTSは,住所不定結核患者と喀痰塗抹陽性一般患者
「あいりんDOTS」においては,身体的理由により大
に対して「あいりんDOTS」と「ふれあいDOTS」の
阪社会医療センターに通えない患者でも利用できるよう
二つの形態で進めていった。
に,服薬支援者が利用者の指定する場所に訪問する「訪
○患者のニーズに即した地域DOTSの種類を増やし患
問型DOTS」,生活基盤が不安定で集団生活に馴染めな
者を治癒に導く 14
和代
い患者でも利用できるように,DOTS期間中に居宅を提
「あいりんDOTS」は,あいりん地域の住所不定者
供して,就労支援などの自立支援を行いながら,支援者
を対象として,平成11年度から月∼金曜日の毎日,大
の目の前で服薬する「自立支援型DOTS」を導入した。
5/2010 複十字 No.333
「ふれあいDOTS」においては,就労が開始される
は,治療成績に有意な差があり,DOTSが治療成績に
と「訪問型DOTS」では服薬確認が困難になる患者で
大きな成果をもたらしており,DOTSを実施すること
も利用できるように,「医療機関外来DOTS」「薬局
により,患者を治癒に導くことが可能となっている
DOTS」を導入した。
(図2)。*但し,対象者の調整はかけられていないがχ²検定
により有意な差がでている。P<0.001
DOTSの種類を多様化することにより,患者は,自
分の生活スタイルに合った服薬支援の方法を選択する
ことができ,継続服薬へと繋がるので,DOTS事業を
成功させるための重要な視点と思われる(図1)。
DOTSの種類(大阪市では週1回以上の服薬確認をDOTSとする)
あいりんDOTS
①
あい
中断リス りん
クの高い 地域
患者
②
服薬支援
が必要な
患者
自立支援型DOTS
拠点型DOTS
訪問型DOTS
月∼金曜の毎日
社会医療センターへ通い目の前
内服
社会医療センター
【平成11年9月開始】
センターに行けない患者に
支援者が訪問し服薬確認
NPO
【平成18年4月開始】
居宅・施設がない患者に居宅
提供し、自立支援しながら目
の前内服
大阪自彊館
【平成18年6月開始】
ふれあいDOTS
※初回は保健師が同伴
訪問型DOTS
医療機関外来DOTS
週5∼1回服薬支援者が自
宅を訪問し服薬確認
看護師
【平成13年3月開始】
週1回医療機関を訪問し服薬確
認
通院治療中の医療機関の医師・
看護師等
【平成16年6月開始】
③
①,②以外
の患者
薬局DOTS
週1回薬局を訪問し服薬
確認
薬局の薬剤師
【平成18年4月開始】
図2
○今後の方針
しかしながら,依然として「近所の人に結核と知ら
連絡確認
れたくない」「復職で就業時間が長い,勤務が不規
月1回以上保健師が訪問・電話により服薬支援
図1
則」「自分で内服できる」などの理由でDOTS利用に
○DOTS事業の成果
繋がらない患者が存在することから,更に,これらの
DOTS事業は,DOTS利用者からアンケートをとり,
患者が利用できるように工夫する必要がある。また,
利用者のニーズを把握したり,未利用者の生活背景を
DOTS実施率80%を維持し続けることが,「患者を確
分析しながら,DOTSの種類を増やしてきたことによ
実に治癒に導く」ために重要でもある。
り,DOTSの実施率は年々増加してきた。DOTSが実
このようなことから,平成22年度には,DOTS事業
施できない,死亡者と転出者を除くと平成19年から目
に関与している院内DOTS実施の病院関係者,服薬支
標の80%に到達しており,罹患率も平成20年で大目標
援者,および保健所,保健福祉センター保健師に対し
の50以下を達成しつつある(表1)。
て総括的,多角的なアンケートを実施し,DOTS実施
また,DOTS事業は「患者を確実に治癒に導く」こ
率80%の目標達成の要因を分析して,今後のDOTS事
とをめざした事業であるので,治療成績は,事業評価
業を,更に,結核患者にとって利用しやすいものに改
の重要な指標である。
善することにより,実施率80%の維持・継続に繋げて
治療成績においては,DOTS実施者と未実施者とで
いきたい。
表1 あいりんD O T S ・ふれあいD O T S の実施率と罹患率の推移
あいりんDOTS
年次 罹患率
対象
人数
ふれあいDOTS
DOTS
DOTS
その他
実施率
実施者 終了者
計
院内DOTS
対象
人数
DOTS
DOTS
その他
実施率
実施者 終了者
計
院内DOTS
H16
61.7
225
64
67
6
137
60.9
581
290
30
320
55.1
H17
58.8
204
50
75
5
130
63.7
663
340
53
393
59.3
H18
57.0
203
38
77
18
133
65.5
587
348
36
384
65.4
H19
52.9
196
36
74
23
133
67.9
(82.4)
585
330
34
12
376
64.3
(84.0)
H20
50.6
187
39
58
17
114
61.0
(76.0)
473
279
30
12
321
67.9
(83.4)
(注.H21.10月末現在把握数 注.かっこ内の実施率は、転出・死亡を除く実施率 注.「その他」は施設、介護保険等でのDOTS)
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15
教育の頁
感染症患者の強制隔離・長期入院の仕組み
をめぐる諸問題―法律家の立場から―
慶應義塾大学法科大学院准教授
結核研究所倫理審査委員会委員
いそ
べ
てつ
磯 部 哲
はじめに
確実な手を打てない状態だったわけです。
最近,抗生物質が効かない結核菌をめぐるニュース
その後,結核予防法は平成18年の感染症法改正(法
を聞くことがあります。いくつもの治療剤が効かない
律106号)に伴い廃止され,同法に統合されるに至り
多剤耐性結核ないし超多剤耐性結核などに罹患した患
ます。これによって,結核固有の対策として必要な定
者を,行政や病院,医療従事者や私たちはどのように
期健診,通院医療等を感染症法に,定期の予防接種を
処遇すればよいのでしょうか。
予防接種法に位置付け,また規定の内容も,今日的観
らい予防法やエイズ予防法時代に,患者の人権を軽
点から全般的に見直されることとなりました。
視し社会防衛の理念を過剰に優先させたり,患者に対
する差別や偏見を助長してきた経験をもつわが国です
感染症予防法の特長(感染症・結核対策と人権にかか
から,今後の対策を考えるにあたっては,患者(やそ
わる部分に限る)
の家族等)の人権を十分に尊重しながら,どのように
結核などの感染症の予防および治療を確実なものとし
ていくか。バランスのとれた行動が必要であるはずで
す1)。
第1に,感染症法の基本理念を確認しておきましょ
う。
「感染症の発生の予防及びそのまん延の防止を目的
として国及び地方公共団体が講ずる施策は,これらを
目的とする施策に関する国際的動向を踏まえつつ,保
伝染病予防法・結核予防法から感染症予防法へ
応し,新感染症その他の感染症に迅速かつ適確に対応
策のベースであった伝染病予防法は,平成10年に廃止
することができるよう,感染症の患者等が置かれてい
され,現行の「感染症の予防及び感染症の患者に対す
る状況を深く認識し,これらの者の人権を尊重しつつ,
る医療に関する法律」(平成10年法律114号,最終改
総合的かつ計画的に推進されることを基本理念とす
正平成20年法律73号。以下,「感染症法」という)に
る。」(感染症法2条,下線筆者)
引き継がれたのでした。感染症法は,日本国憲法のも
下線部分は平成18年改正の際に挿入されたものです
とで求められる患者等の人権尊重に配慮した医療体制
(それまでは「人権に配慮しつつ」という表現でし
や入院手続をはじめ,感染症の発生・拡大に備える法
た)。被規制者となる患者の人権を尊重することと,
体系を整備しています。
適正な規制が有効に作動することとは,感染症対策の
一方,わが国の結核対策は,昭和26年制定の結核予
16
健医療を取り巻く環境の変化,国際交流の進展等に即
明治30年に制定され,長らくわが国の伝染病予防施
「両輪」であるはずです。
防法に基づいて行われてきました。平成16年改正(法
第2に,健診,就業制限又は入院等の規制的手段を
律133号)では,DOTSの推進,定期健診・定期外健
用いるにあたっては,それが必要な最小限度にとどめ
診の対象者・方法の見直し,ツ反応の廃止・BCGの直
られるべきことを原則とする旨を明文で規定している
接接種の実施等,より適切な医療の提供が目指されま
点です。規制=国民の権利を制約する場合に,達成目
したが,たとえば定期外健診の非協力者に対しては,
的とバランスのとれた手段をとるべきという「比例原
従来の罰則に加えて勧告のうえ行政上の強制措置を行
則」は,法律学の世界では基本中の基本ともいうべき
う権限が知事に与えられる一方で,入所命令について
考え方なのですが,同法は前文でも,「過去にハンセ
は罰則による担保も強制措置も不存在であるなど,課
ン病,後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対
題があったといえます。第三者に対する感染リスクが
するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を
放置できない程度であり,感染リスクを低減させるた
重く受け止め,これを教訓として今後に生かすことが
めには入院措置がやむを得ないと判断された場合でも,
必要」と指摘しており,あらためて関係者等の注意を
5/2010 複十字 No.333
喚起しているものと読むべきです。
において,いかなる検査方法・レベルで判断できるか,
第3に,各種の手続保障の強化です。感染症診査協
その迅速性や正確性の確保は重要な課題です。おそら
議会の関与や患者等に対する説明義務が強化されてい
く科学的に厳密な確定を求める立場からは,時間をか
るほか,入院措置等の前後における患者やその家族な
けてでも慎重に必要な検査を行うべきということにな
どによる意見提出や苦情の申出の機会を保障していま
るでしょう。しかし他方で,そうした慎重姿勢は直ち
す(以上,細かい条文数の明記は略)。
に感染まん延のおそれや退院の遅延などの深刻なデメ
リットにつながるおそれもあります。こうした要請に
海外の事例から
こたえうる検査方法の確立と導入が必要ですし,実際
感染症法は,上に見たようにそれなりの工夫がされ
の入退院基準の制定等の際にも,科学的合理性と社会
た仕組みではあるのですが,それでは制度設計上も運
的合理性とをいかに調和できるかという視点からの議
用上もこれにて十分,といえるのでしょうか。実はわ
論が必要です。
が国では実際上,入院を拒否する患者を強制的に入院
第2に,一般の感染症と異なり,長期にわたる治療
させることや,医療施設において自己退院を防ぐこと
の必要性がある結核の場合には,手続保障のレベルを
などは困難であるようです。しかし,感染症のまん延
どのように確保するか,過剰措置にならないための制
防止の観点から,患者を隔離することが必要不可欠と
度的保障をどのようにするかが不可欠の検討課題です。
判断されれば,場合によっては本人の同意がなくても,
事前手続をとる暇がないとすれば,その分,事後的な
強制的な措置をとることを視野に収める必要もあるよ
不服申立て手続の充実が必須でしょうし,退院請求へ
うに思います。
の真摯な対応や,強制隔離・入院(延長)期間を区切
本稿の課題は「強制隔離・長期入院」でしたが,実
り患者に予見可能性を与えることなどで,透明性を確
際にそうした運用実績のあるドイツやオランダでは,
保する工夫も重要です。また,たとえばドイツでは,
(a)そもそもの前提として,立法上も制度運用上も,人
自由の剥奪は基本的人権に対する強力な制約であるこ
身の自由や医療の場面における自己決定権は非常に強
とから,「自由剥奪の許容性と継続期間は,裁判官の
く尊重されるべき権利であるという認識がありました。
みが決定しなければならない」こととされています。
その上で,(b)公衆の安全・健康を守る必要性が高い
そうした「手厚い」権利保障のあり方を,海外の事例
という観点もまた重視されるべきであり,(c)その結果,
も参考にしつつ多様な観点から議論する必要があると
一部の患者が自由を制約されることはやむを得ないと
思います。
しても,そうした強制措置は,それが必要最小限度に
第3に,対話の重要性です。平成20年にハンセン病
とどまること等,厳しい規律の下でのみ正当化される
問題の解決の促進に関する法律(法律82号)が制定さ
ものであるし,当該措置の前後においては,裁判手続
れましたが,同法前文および1条は,国の隔離政策に
を含む慎重な手続保障が必要不可欠であると解されて
よりハンセン病の患者であった人々が地域社会におい
いました2)。
て平穏に生活することを妨げられ,身体及び財産に係
る被害その他社会全般にわたる人権上の制限,差別等
今後の課題
を受けてきた事実を指摘しています。感染症対策の関
こうした視点は,わが国にもとても参考になると思
係者には,感染症に関する正確な知識の普及,患者に
います。残された紙幅もないので,最後に3点だけ指
対する治療の確保に留意すると同時に,強制措置をと
摘します。
る場合にはその必要性や人権保障のあり方等々につい
第1に,強制的な措置は必要最小限度にとどまるこ
て,各手続に関与する関係者や国民との間で対話を重
と等,厳しい規律の下でのみ正当化されるはずです。
ね,透明性の高い,国民の信頼を獲得できる施策を実
法律上は明文で規定が設けられましたが,そのうえで
施することが期待されるところです。
さらに,感染事実やリスクの評価を,どのような施設
1)
本稿執筆にあたっては,高橋滋「結核の予防・治療と人権」結核83巻2号(2008)111頁以下,同「結核予防の課題と人権保障―感染症
予防法との比較」結核80巻1号(2005)42頁以下を特に参照した。
2)
詳しくは,平成20年度全国結核対策推進会議シンポジウム「感染症患者への対応―先進国の対策から考える」における報告(重藤え
り子,磯部哲)を参照のこと。
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日本対がん協会・結核予防会共催
平成21年度診療放射線技師研修会開催
結核予防会放射線技師協議会
監事 小林 誓
平成22年3月10日(水)∼12日(金)の3日
間,結核研究所において,日本対がん協会・結核予防
会共催による技師研修会が,予防会や協会の各支部や
関連病院等からの受講生50名と,結核予防会放射線
技師協議会スタッフ18名の計68名が参加して,盛
況に開催されました。開催式の挨拶は,結核予防会事
業部藤木部長から始まり,オリエンテーションがあり,
その後には,受講生が6班に分かれて,胃部・胸部・
乳房撮影の機器管理や精度管理の実際,健診時におけ
る諸問題や情報交換について討議や親交を深めました。
講義の最初は「X線被ばくの考え方」と題して結核
研究所放射線学科星野豊科長が,医療被ばくに関する
5問の問題集を作成,受講生と質疑応答を交わしなが
ら,放射線の基礎からICRPの放射線防護体系等,
実にセンスある講義内容で解説されました。
畠山雅行先生(東京都結核予防会顧問)から「CT
画像の読影実習」と題して話があり,受講生の肺がん
診断における理解度を確認する為に,筆記試験や読影
ビューワを利用して病変の存在部位の指摘や肺がんと
の鑑別について,解説していただきました。
大島明先生(大阪府立成人病センターがん相談支援
センター)は「有効ながん検診をより多くの人に正し
く実施するために」と題して,がん検診の有効性や受
診率の向上,がん対策の推進やがん登録の仕組みにつ
いて話されました。
野口雄司先生(日本医療機器関係団体協議会)は
「医療情勢,撮影手技の評価をめぐって」と題して,
最新の薬事法・医療法改正の要点や画像医療システム
の動向について,医療安全における安全管理体制の構
築と情報提供が重要であることを熱弁されました。
垣添忠生先生(国立がんセンター名誉総長)からは
「日本のがん対策」として,がんとはどういう病気か,
がんの1次対策やがん検診の歴史,がん検診やがん対
策推進協議会の重要性について受講生が理解しやすい
ように講義していただきました。
午後からは,まず尾身茂先生(結核予防会顧問)よ
り「新型インフルエンザの現状について」の講義があ
り,インフルエンザの歴史や免疫やワクチンについて,
何故今回のインフルエンザの死亡率が低いのかを解説
されました。
堀田勝平先生(NPO法人マンモグラフィ検診精度
中央委員会)より「乳がん検診に従事する技師の心
得」と題して乳がん検診の歴史と老人保健事業の経緯,
教育研修委員会の活動状況と技師の心得について話さ
18
5/2010 複十字 No.333
れました。
馬場保昌先生(早期胃癌検診協会中央診療所所長)
からは「組織特性からみた早期胃癌のX線診断」につ
いて,X線・肉眼所見と組織所見の対比,未分化型や
分化癌の特徴,早期胃癌のX線診断について述べられ
ました。また、受講生からの新しい撮影法についての
質問についても説明されました。
3日目は,土亀直俊先生(結核予防会熊本県総合保
健センター所長)から「がん検診にはこんな問題も」
というテーマで,個人情報保護法制定の背景,新撮影
法,X線検査の見逃しの原因,撮影技師の弱点,認定
制度の矛盾,誤嚥等バリウム検査における問題点,食
道や胸部単純X線検査の限界について,実に丁寧に判
りやすく,ストレートに解説していただき,胃部バリ
ウム撮影を行う,我々診療放射線技師の立場に配慮し
ていただき,とても心にしみた講義で,感動いたしま
した。
講義の最後は,国立がんセンターがん予防・検診研
究センターの森山紀之先生の「肺がん診断におけるト
モシンセンス」と題しての話で,トモシンセンスとは,
従来の断層撮影の原理を応用しこれをデジタル化した
ものであり,今後トモシンセンスに対応可能なCAD
コンピューター支援検出装置の開発を含めたワークス
テーションの開発の必要性を述べられました。
午後からは,受講生が5班に分かれて,受講生が持
参した胃部X線フィルムの画質評価を行いました。デ
ジタル化が進み,アナログフィルムの画質に影響する
自動現像機の液管理が困難になった結果,良い写真が
少なかったこと,デジタルフィルムにおいては,モニ
ター診断やプリントするイメージャに影響され評価し
にくいことなど今後の課題が残りました。
最後に日本対がん協会の塩見事務局長の挨拶があり,
日本の各分野から超一流の講師をお招きした,他では
類を見ないすばらしい研修会でしたと結ばれました。
次年度はもっと沢山の参加をお待ちしております。
ありがとうございました。
〔胃X線フィルムの評価が高かった施設〕
結核予防会宮崎県支部・結核予防会熊本県支部・結
核予防会神奈川県支部・福岡県すこやか健康事業団・
宮城県対ガン協会 「患者の心の痛みを分かって下さい」
フィリピンプロジェクトのセミナーで14歳の患者ベテルさんが訴える
「結核は6ヶ月間,薬を飲み続ければ治ります。だからと言って機械的に薬を渡さないでください。私の心は
傷ついているのです。この深い痛みを分かってほしいのです」
平成22年2月22日,23日の2日間,マニラで,結核予
結核治療パートナーとして彼女の治療を支えたボラ
防会フィリピンプロジェクト主催の「結核セミナー」
ンティアのピダさんも元結核患者です。彼女によれば,
が開催されました。このプロジェクトは,結核予防会
「ベテルさんの両親は共働きのため,彼女はひとりで,
がフィリピンで最も遅れているマニラの都市貧困層の
テレビもラジオもない部屋で一日中イスに座って過ご
結核対策の強化のため,シール募金の益金と外務省,
していました。家庭を訪問し,初めて彼女に会った時,
現地日本大使館の協力1)で行っているものです。対象
とても寂しそうでした。ボランティアとして治療を支
地域は,マニラ市トンド地区,ケソン市パヤタス地区
援していくなかで,自分の娘のように接し,親しくな
で,セミナーには各市の保健所や,民間(NGO)医療機
りました。」
関で働く医師や看護師などの医療関係者約60名が集ま
り,これまでの成果や課題を話し合いました。結核予
ベテルさんはふつうならそれで終わるはずの6ヶ月
防会の現地事務所のポブレテ医師をはじめ7名のス
の服薬治療後の検査の結果,喀痰にまだ結核菌が出て
タッフが総出でお世話をし,日本からは,結核研究所
いることが分かり,引き続き治療が必要になりました。
石川所長,大角医師,市原職員,紺職員,本部より飯
田財務部長も参加しました。
「治療がうまくいかず,さらに治療の継続が必要だ
と私の口からは言えませんでした。そこで,彼女をカ
当事者の視点を語ってもらう
ノッサに連れて行きました。カノッサでは,シスター,
今年のワークショップでは,行政スタッフやヘルス
ボランティア,そして他の患者さんと一緒ですから,
ワーカーなどのサービス提供者だけでなく,結核患者
一人だと寂しく感じることがありません。これまで数
やその家族,結核治療を支えるボランティアなどにも
多くの患者さんの助けをしてきましたが,彼女のよう
参加してもらい当事者の視点で経験を語ってもらいま
な状況に出会ったことはありません。ですから,毎日
した。結核対策に関わる医療関係者が集まるなか,カ
彼女に会い,気分はどうか,必要なものはないか,治
ノッサというNGO団体での治療経験を話してくれた
療について不安はないかを確認しました」
のが,ベテルさんでした。彼女はトンド地区2)に住む
まだ14歳の少女です。彼女はこれまでとても元気で,
ベテルさんの治療を支えたのは,カノッサで感じる
学校に通い,友達も沢山いて,楽しく明るい生活を
暖かい雰囲気と,治療を支援するシスターやボラン
送っていました。しかし結核に罹って生活は一変,学
ティアでした。ピダさんも元患者として治療のつらさ
校も行けず,友人も近寄ってくれず,生活の希望を失
を自ら体験しているので,患者さんの心の痛みに共感
いました。そんな絶望の淵から救ってくれたのは,
できたのです。ピダさんはいまカノッサで小児の結核
(診療で通っていた)カノッサのシスターやボラン
の治療を担当しています。
ティアでした。
最後に,ベテルさんの一言を紹介します。
「今あるものを失いたいと願う人は,誰一人として
「この心の痛みは,結核よりもつらいものでした。本
いないと思います。もし,それが一瞬にして無くなっ
当に必要なのは,結核の薬ではなく,私のような患者
たらどうでしょう。結核で私の自由,友人,幸せ,全
への理解や思いやりです」
(文責 国際部 紺 麻美)
てが無くなりました。希望を失いました。多くの友人
は感染を恐れて,私から距離を置き,離れていきまし
た。どうやってこの運命を受け入れればよいのでしょ
1)外務省NGO連携無償資金協力
うか? これは罰なのでしょうか? なぜ神様はこの
2)以前スモーキーマウンテンと呼ばれるごみ山があっ
病気を与えたのでしょうか?」
たマニラ市の貧困地域
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19
結核予防切手と赤複十字シール
小林内科医院
こばやし
小林
ゆうきち
佑吉
祐吉
1991年11月,東 京 晴 海 に お い て 世 界 切 手 展 World
Stamp Exhibition が開催されました。学生時代より切
手蒐集−特に医学関係の切手に興味を持っていた私は
結核予防の切手をまとめて出品し,幸い「銅賞」の栄に
浴しました。
私が結核予防切手に関心をもったのは,歴史的に産
業革命以降,結核の蔓延が西欧諸国からラテン・アメ
リカ,アジアそして発展途上国のアフリカなどに進展
し,それと共にそれらの国々で発行される結核予防切
手も変遷を遂げて行く事に興味を持ったからです。蒐
写真1
めた切手は,800枚以上になりますが,今回はその中の
何枚かをご紹介しましょう。
世 界 で 一 番 最 初 に 結 核 予 防 切 手 を 発 行 し た の は,
ニュー・サウスウェルズで1897年(写真1)。これは世
界最初の慈善切手としても有名で,患者を労る天使の
像 が 描 か れ,併 せ て 結 核 ホ ー ム CONSUMPTIVES
HOME の文字が入れられています。次にお目にかけ
るのは(写真2)。1906年オランダから発行されたもの
写真2
で,結核予防のシンボル複十字こそありませんが,切
手の四隅に「光」
「水」
「空気」
「栄養」を示す図案が盛られ
ており,結核予防の基本をあらわしています。その後
ベルギーでは結核予防切手シリーズとして1925年から
1966年迄実に267種が発行されましたが,1926年に発
行された切手(写真3)には初めて結核予防のシンボル
一方結核が国民病と騒がれた吾国では結核予防切手
の発行は一度もなく,僅かに1967年当時米国政府の施
政下にあった琉球政府が発行した琉球結核予防会創立
15周年記念切手(写真4)があるのみです。この切手に
は赤複十字章をつけた予防会の検診車が描かれていま
す。
の複十字が採用されています。
写真4
ここで話題を変えて赤複十字章について調べてみま
しょう。赤複十字章が結核予防のシンボルとなったの
写真3
20
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は1902年ベルリンで開催された第4回国際結核会議に
おいてパリの内科医ギルバール・セリソンが提案した
ことにはじまっています。この提案は種々の論議を経
て1928年ローマで開かれた国際結核会議で結核予防の
シンボルとして認められました。
ひるがえって18世紀中頃にイギリスで起こった産業
革命の波は,結核蔓延を伴いながらヨーロッパ各地に
拡がっていきました。デンマークの首都コペンハーゲ
ンのある郵便局長アイナール・ホルベルさんは世の中
の平和,人々の幸福のためどうしたら良いかと考え,
1903年クリスマスの郵便物にシールを貼ってもらい,
その収益金で不幸な子供達の結核療養所を建てたらと
考えたのです。この着想は多くの人々の共感を呼び,
やがて国王をも動かすことになり,かくして世界最初
のクリスマスシールが1904年に発行されたのです。一
方アメリカでもエミリー・ビッセル女史が熱心なシー
ル運動の先駆けとなり,1910年から国民結核予防協会
が結核予防シールを発行し,百数十億円にのぼる収益
金を上げています。
写真6
昭和52年からは複十字シールは時代の変遷と共に,
その収益金も結核ばかりではなく肺ガンをはじめ多く
の呼吸器疾患にも用いるようになりました。平成20年
一方吾国で初めて結核予防シールが発行されたのは,
1925年(大正14年)自然療養社が,そして翌年大正15年
には結核予防会の前身である日本結核予防協会から毎
年定期的に発行される様になりました。その後戦争の
ため発行が一時中止になりましたが,昭和27年から発
行が再開され(写真5)現在に至っています。その内の
度の報告を見ますと,募金総額は,3億8969万円となり,
その資金は国内の結核予防施設の外,発展途上国の結
核対策にも用いられています。
結核予防シールの益々の発展を祈り,結核予防会の
創立50周年複十字シール(写真7)を最後に掲げて会の
一層の活動を期待してこの稿を閉じたいと思います。
何枚かをご覧に入れましょう。昭和48年には第22回国
際結核会議を記念して特別シール(写真6)が発行され,
その後シールのデザインも益々洗練され,一般公募も
加えて美しいシールになっていきます。
写真5
写真7
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エイズに関する最近の話題
財団法人エイズ予防財団会長
財団法人結核予防会顧問
島尾
忠男
エイズは流行が始まってからやっと30年が経過した
を介する感染,母子感染,麻薬注射を同じ注射器で行
新しい感染症ですが,この間に全世界で約6千万人が
うための感染などがほとんどみられないことです。
エイズ・ウイルス
(HIV)に感染し,3千万近い命が既に
しかし,性を経験する年齢の若年化や,携帯電話,
エイズのため奪われており,現在エイズを発症してい
パソコンの普及で性情報への接触が手軽に行えるな
る方を含めて,HIV に感染し生存している方は3300
ど,今後の流行を憂慮させるいくつかの兆候はみられ
万人,1年間に新たにHIVに感染する人数は270万人,
ています。
死亡は200万人と推定されています。この間強力に進
青少年への普及広報活動の強化,保健所での無料匿
められたエイズ対策と,世界エイズ・結核・マラリア
名での検査の周知と実行に加えて,性感染症を診療す
基金ができて,途上国のエイズ患者も抗エイズ薬が使
る医療機関でのもっと積極的なHIV検査の実施が今後
えるようになった結果,世界のエイズ流行は峠を越
の重要な対策の一つです。
え,最も強くエイズが蔓延しているアフリカ地域を含
エイズ患者の診療を担当している専門医のご意見を
めて,新たに感染する人と死亡する人の数は双方とも
伺いますと,HIVに感染してからエイズを発症するま
減り始めています。
での期間が従来は10年くらいといわれていたのが,3
年くらいに短縮されたのではないかということです。
H I V 新感染者数 , エイズ発症者数と保健所での
H I V 検査数の年次推移
抗エイズ薬の進歩で,それらを組み合わせて使うと,
16
亡くなる方の数が急速に少なくなり,服薬を続けなが
14
らほぼ通常の社会生活を送れるようになることに間違
いはありませんが,服薬は一生続けねばなりません。
12
免疫の強さを示す指標の一つであるCD4+のリンパ球
10
の数が少なくなってから治療を始めると,免疫の回復
8
が容易でないので,従来はCD4+の数が200を切ったら
6
治療を開始していたのを,最近は350を切ったら治療
4
を開始するようになってきました。副作用が少なく,
2
服用回数も1日1−2回ですむ抗エイズ薬が開発された
ことも影響しています。エイズの場合は,結核と違っ
0
90
19
95
19
検査件数(万)
00
20
H IV 総数(百)
05
20
10
20
エイズ総数(百)
て違った種類の薬を一緒にした合剤も認められてお
り,服薬しやすくなっています。
もう一つ,国際的な場での大きな方針転換は,エイ
日本は世界の中では最も蔓延が低い国の一つに入っ
ズの母親から生まれた子供の母乳保育の問題です。従
ていますが,図に示したように,新たにHIVに感染し
来は感染のおそれがあると言うことで原則として母乳
た方の数,エイズを発症した方の数ともに2008年まで
保育をしない方針であったのですが,途上国では人工
は増加し続けていました。昨2009年にはそれが減り始
栄養で育てる際の費用の負担が大きな問題でした。最
めたのですが,これを素直に喜べないのは,昨年は保
近は,母親に抗エイズ薬を飲ませながら母乳保育をす
健所が新型インフルエンザ対策に動員されたために,
る方針に切り替えられました。母親に抗エイズ薬を投
同じグラフの中で示したように,保健所でのHIV検査
与することによって,母乳内のウイルス量が激減し,
の件数も減ってしまったからです。
感染の危険が少なくなるからです。
日本のエイズ流行の特色は,主な感染経路が性的な
接触,それも同性間に集中しており,輸血などの血液
22
5/2010 複十字 No.333
たばこ規制枠組み条約(FCTC)5 周年を迎えて
「FCTC 発効 5 年目を迎えてアジア太平洋たばこ
対策会議(APACT)2013 への期待」
2月25日(木)13:30より,結核予防会本部5階会議
れることは,日本に与えられた課題であるともいえ
室において標記講演会が開かれた。マスコミなども含
る。日本の成功例を世界に発信する機会でもあるた
め25名が参加し,国立がんセンター研究所たばこ政策
め,何が有効か,どうするべきかを2013年まで積み上
研究プロジェクトリーダーの望月友美子先生に締約か
げていきたいとまとめられた。
らの5年間と2013年に日本で開催されるアジア・太平
APACT準備委員会発足式
洋たばこ対策会議への期待についてお話いただいた。
続いて,大会長を務められる島尾忠男先生からの挨
公衆衛生に対するアンビション
拶が始まり,参加者に対して協力を要請した。「第1
たばこ対策は,この数年大きなうねりを迎えている
0回アジア太平洋たばこ対策会議」は,2013年8月18
が,WHOの試算では,20世紀中のたばこの死亡は1億
日(日)∼21日(水)の4日間で千葉市の幕張メッセ
人であったが,21世紀中には10億人にのぼる。着実に
で開催される。参加予定人数を500名と想定し海外か
対策を講じないと大変なことになるという気概を持っ
ら300名ほど見込んでいる。3年ごとに開催され,たば
ていかなければならないとハーバード大学の名誉教授
この害,法規則,輸入たばこの通商問題,たばこ広
ドール博士(喫煙と疫学の研究をされた第一人者)の
告,医療コストの補償要求など幅広く議論し,「会議
言葉を紹介してくださった。
宣言」を採択している会議である。
FCTCとは,Framework on Convention of Tobacco
各参加団体は,自己紹介を行った後,事務局長を務
Controlの頭文字をとったもので,たばこ規制枠組み
められる宮﨑恭一先生から会議に関する状況を聞い
条約と訳されており,たばこの危険性を正しく理解
た。取り急ぎ第9回アジア太平洋たばこ対策会議
し,政治的な動きを軸に,産業界や市民社会も一丸と
(オーストラリア・シドニーで開催)への視察などの
なってたばこ対策を実施するという条約で,日本も
紹介がされ,会は終了した。
2004年5月に19番目に批准した。
たばこの消費量は急速に減少しはじめており,千代
田区の路上禁煙条例や神奈川県の受動喫煙防止条例な
ど地方自治体の動きとともに,民間でもタクシーやJ
Rの禁煙化,さらにはニコチン依存症管理料が新設さ
れ、禁煙指導をうける禁煙外来なども登場し,さまざ
まな取り組みが官民一体となって進んでいることを示
された。
APACT準備委員会
受動喫煙防止対策について
折しも,当日25日には,厚生労働省健康局長名で健
発0225第2号「受動喫煙防止対策について」が各都道
府県知事,保健所設置市,特別区長宛に通知された。
平成21年3月の「受動喫煙防止対策のあり方に関する
検討会報告書」を踏まえて,受動喫煙防止対策の基本
講演会の模様
これからの日本の取り組みは,世界でも注目されて
いる。2013年に千葉で第10回のAPACT会議が開催さ
的な方向性が示された。ますます対策のうねりは加速
すると考えられる。
(文責:編集部)
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日本CT検診学会 夏期セミナーのお知らせ
第14回読影セミナー 第9回肺気腫セミナー 第4回技術セミナー
*肺がんCT検診認定技師を目指している方の受講をお勧めいたします
*日本呼吸器学会専門医資格更新に係る研修単位(2単位)を取得できます
*当日,入会手続きをされた方は会員での参加費とさせていただきます (年会費1万円)
【日 時】
2010年 7月31日(土) 10:00∼18:00
【会 場】
星陵会館(東京都千代田区永田町) http://www.seiryokai.org/kaikan.html
アクセス:有楽町線・半蔵門線・南北線 永田町駅下車 6番出口 徒歩3分
千代田線 国会議事堂前駅下車 5番出口 徒歩5分
【内 容】
読影セミナー「精度の高い肺がんCT検診をめざして」
─見落とさない、でも、引っかけすぎないCT読影のコツ─
低線量CT肺がん検診の読影精度の向上をめざすために不可欠な、肺結節を見落とさない読影法や肺がんと
は異なる結節様構造の読影のコツを易しく解説していただきます。
肺気腫セミナー「肺気腫亜分類を再考する」
─形態と機能の理解のために─
肺気腫の形態診断では、気腫病変と小葉などの肺既存構造との関連付けが重要であるため、肺気腫亜分類
を再考し、CT画像から呼吸機能を考える場合の基礎となり得るかを検討いただきます。
技術セミナー「胸部CT検診画像の精度管理」
−低線量CT画像の描出能とその画質評価−
肺がんCT検診における低線量CT画像が通常臨床で撮影されている画像とどのように違うかを明らかにし、
検診CTに適した画像について検討していただきます。
【参加費】
医師・メーカー:会員1万円(一般 1万5千円) 技師・保健師:会員5千円(一般 1万円)
※当日入会申込みをされた方は会員対象の参加費で承ります。
【申込方法】 当学会ホームページより参加申込書をダウンロードし、ご記入の上、
メールにて事務局までお申込みください。 ※こちらから申し込みページにアクセスできます:http://www.jscts.org/index.php?page=seminar_index
【定 員】
400名 (定員になり次第締切らせていただきます) 【世話人】
読影セミナー
石川県立中央病院 放射線診断科 小林 健
E-mail:[email protected]
肺気腫セミナー 香川県立保健医療大学 看護学科 佐藤 功
E-mail: [email protected]
技術セミナー
大阪物療専門学校 放射線学科 山口 功
E-mail: [email protected]
【事務局:NPO法人 日本CT検診学会】
24
TEL:03-3238-1689 FAX:03-3238-1837
E-mail:[email protected] URL:http://www.jscts.org
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結核予防会支部紹介のページ
福 岡 県 支 部
人が幸福になるための
手助けを
財団法人結核予防会福岡県支部
副支部長
福岡結核予防センター長
これひさ
てつろう
是久 哲郎
はじめに(沿革)
福岡県支部は,福岡市天神から歩いて8分の大
名地区に福岡結核予防センターがあり,天神から
地下鉄で8分の福岡県庁の地下に,県庁内診療所
を持っています。センターは,福岡空港から地下
鉄空港線で12分,博多駅から8分,大牟田線天神
駅から地下鉄2分の場所にあり,アクセスの良い
施設です。昭和25年の福岡県庁内での発足当時か
ら,結核予防会単独で事業を行っています。
リニューアルした婦人科室
医師は多才を要求されます。県庁内診療所には,
一般向けに,内科に加えて眼科と歯科があります。
普及啓発
福岡結核予防センター
法人事業
年間約11万人の健康診断を,施設内と巡回で
行っています。健康診断は,人間ドックを含む一
般健診と有機溶剤健診・特定化学物質健診・電離
放射線健診などの特殊健診を行っています。VD
T業務や振動業務,騒音業務のような行政指導健
診も行っています。婦人科健診では,マンモグラ
フィーと子宮がん健診,HPV健診を行い,昨年末
からHPVワクチン接種も始めました。追加健診と
して,骨密度健診,ヘリカルCT健診,頚部エ
コー健診も実施しています。
当会の特徴として,結核治療から出発した外来
保険診療を併せて行っていることが,挙げられま
す。また,アジアに近いことから,海外派遣が多
く,肝炎や狂犬病のワクチン接種の依頼も多く
なっています。オーストラリア・ニュージーラン
ド・カナダ渡航ビザのパネルドクター指定健診を
10年前から依頼されています。
募金活動は,従来のようには高額を望めません
が,継続して行っています。医師の結核対策講演
のほか,結核予防週間には,天神のデパートの協
力を頂いて,予防キャンペーンとして,肺機能テ
ストや胸部X線検査,保健相談を無料で,職員と
県・市婦人会とが協力して毎年行っています。プ
ロ野球,福岡ソフトバンクホークスのYahooドー
ムワイドビジョン広報や,県内小中学校結核予防
パンフレット配布も欠かせません。
終わりに
特定健診の開始や政管健保から協会けんぽ健診
への変更,市町村合併など,制度の変更が多く
なっています。さらに不況時代を反映した,経費
削減の風潮などで,予算を組むのが煩雑になりま
した。迅速・安価への受診者のサービスに対する
期待は膨らみ,スタッフは毎日,知恵を出し合っ
ています。「幸せって,なんだっけ?」の問いを
忘れず,これからも人々の幸福への道をお手伝い
し続けます。
5/2010 複十字 No.333
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「連載企画」∼結核に縁(ゆかり)の地歴訪∼
第3回「東京都東村山市」
―東村山 トトロ病院のある丘―
大場 昇
保生会会長 「精密機械修理工場」 −保生園開設―
東村山にある結核予防会の「新山手病院」は,かつて
は「東洋一の規模のサナトリウム」といわれた。病院の
前庭に建つ由来を記した碑には,第一生命の矢野恒太
の浄財をもとに,昭和14年に「保生園」
(現在の新山
手病院)が開園したとある。当時は肺病(結核)は嫌わ
れもの。付近の住民には,
「精密機械の修理工場を建て
る」と説明した。なるほど,人間ほど精密な機械はない
(笑)。住民感情を和らげようと苦心した事務長は,贈
賄容疑で留置場入りの憂き目に遭っている。疾病史の
一つのエピソードといえよう(写真1)。
写真 2 長く急な廊下(心臓破りの坂)
昭和61年で273種もの野草が見つかり,日本の野草
の約30%を数えた。
「保生園」は当初より亡国病であった結核との闘い
の先頭に立った。全国から患者が押し寄せ,ベッドの
あくのを待った。さながら野戦病院の趣だ。医師や看
護婦などの研修や見学も絶えない。戦争中は空襲があ
ると防空壕に患者を担いで逃げ,たきぎでお湯を沸か
して消毒し弾の降ってくる中で手術をした。保生園は
医者も看護婦もマスクをしておらず,非常に驚かれた。
写真1 「保生園」の全景
昭和34年頃には,外科手術をした患者のリハビリ
平安時代の833年,新山手の裏山の向こう側に武蔵
法を「保生園」独自で編み出し,映画「再起への道―肺
の国の「悲田処」が置かれている。病院と福祉施設を
機能訓練法」にまとめた。NHKで「今日の医学―肺手
兼ねた,わが国初の画期的な発想だった。新山手のお
術後の機能訓練」として放送。先進的な療法として,他
隣には「白十字病院」があり,かつての院長・野村実
施設からの見学者が押し寄せた。近年このフィルムは
はアフリカでシュバイツァーの手助けをしたことで知
複十字病院がDVDに焼きなおしている
(写真3)。昭
られる。また,ハンセン病の療養所「多磨全生園」も
あって,古来より東村山は病者を癒す地とされている。
「保生園」は多摩丘陵の斜面に建っているため,景
観が表情豊かであった。国木田独歩の武蔵野を思わせ
る情感にあふれ,一世を風靡した映画「愛染かつら」
など多くのロケの舞台になった。ただ,肺活量のない
患者が長い廊下を登っていくのはきつくて,心臓破り
の丘とおそれられた(写真2)。自然豊かな一帯には,
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写真 3 術後の肺機能訓練の体操
和46年「保生園」から「保生園病院」に改名。療養所か
あかり」は背景がわかると胸を打つ。昭和23年の肺
ら病院への転換を意味する。一時は慢性的な赤字で廃
切除手術の第1号の中村礼子。背中と胸の手術痕で銭
院も取りざたされたが,平成元年には「新山手病院」に
湯に行けない。家を建てたとき一番豪華にしたのが風
改まり,赤字から黒字へと劇的な再建を成し遂げる。
呂場だ。
「天国街道」 −患者の闘病の日々―
療養は何年,時には数十年に及び,10代で入院し
病棟は男子が高尾,筑波,秩父寮など山,女子は墨
たまま病院で一生を終える人も少なくなかった。今日
田,相模,長良寮など川の名にした。委託寮はNHK
の病院と違って,療養所が生活の場であった。床屋も
が「放送寮」,国際電電が「国際寮」などと命名。当
パーマもあった。ダンスパーティやレコードコンサー
初,男女は厳しく分けられ,女子寮に入れる男は院長
ト,盆踊りや文化祭,チェーホフの『桜の園』やゴー
回診だけだった。レントゲンをとるときには胸におし
リキーの『どん底』の上演など,すべて患者たちの手
ろいをはたく年頃の娘もいた(写真4)。
づくりだった。句会「七曜会」には高名な俳人・石田
波郷が指導に来た。若いインテリ層の患者が多く,文
化的な香りが漂っていた。幾多のロマンスも花開いた
(写真5)。
写真 4 浴衣が入院着(今も残る正門)
昭和も20年など患者の死亡率は何と42%。2人
に1人は生きて帰れなかったのだ。薬はなく,「大気,
写真 5 だんらんも安静しながら
安静,栄養」で治そうというのだ。女子は病気が進ん
でからしか入院させてもらえないことも多く,死亡率
歩ける者は東京と埼玉の県境になる裏山の尾根を散
は男子の倍だった。不幸の転帰をたどり霊安室に運ば
歩した。5の日には田んぼの向こうの水天宮の出店ま
れる際には,天国街道と呼ばれた急な小道を上る。
で足を伸ばす。安静時間には脱柵して西武園の競輪に
「入院は正門から,退院は裏門から」の意味は,霊安
通い,9時の消灯後は赤ちょうちんに通うつわものも
室からの下り坂は正門を通らないで外に出られたから
いた。歩いて約20分の東村山駅前まで出て,シャバ
だ。亡くなった患者のホルマリン漬けの肺の標本を見
の匂いをかぐこともあった。
る機会があったが,大半は10∼20代だった。
患者にとって悲願は社会復帰。運良く快方に向かう
女性患者の結婚・妊娠・出産は危険を伴った。「君
者は,作業療法で手に職をつける。ガリ版切り,園芸,
を生かしておきたいから別れる」と敢えて去る男もい
簿記,ミシン踏み,シイタケ栽培 。病棟から「十
た。患者の夫の句,「子が欲しい 告げる乳房に 月
坪」や「外気舎」といわれた小さな一戸建てに移って,
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炊事・洗濯・掃除など自分でやって家庭生活の慣らし
際,
「病院選びは大事の大事,再び母の懐にこの身をゆ
をする(写真6,7)。
だねる」とあえて保生園で手術・加療し力尽きた。金
日 成 か ら 花 輪 が 届 い た。全 は 病 院 か ら 帰 る と き は
「行ってまいります」,病院に来るときは「ただいま」と
言った。死が間近にある闘病生活を何年も経験した患
者たちは,腹が据わっていた。
「トトロ病院」 ―未来の新山手病院へ―
宮崎駿監督のアニメ『となりのトトロ』をご存じだろ
うか。メイちゃんのお母さんが結核を患って昔の学校
写真 6 社会復帰の訓練をした外気舎
の校舎のような長い木造の病舎に入院するが,あれが
「保生園」である。メイちゃんのおうちは「保生園」の医
師の宿舎をモデルにした。裏山は「八国山」というが,
アニメでは「七国山病院」となっている。東村山という
と,志村けんのイメージが強く「えっ,東村山っていう
地名は実在するんですか」と驚かれるたびに,ゲンナ
リしたものだ(笑)。今では,
「トトロのふるさとで∼
す」というと,またまた驚きの声を上げられるが,これ
は好感度抜群の驚きで当方も楽しい。夕方ともなると,
写真 7 喜びに満ちた退院の見送り
患者同士は結核との闘いの戦友意識が強く,昭和21
われわれ「新山手病院」の退院者は,死地から救い出
年には早くも患者会「保友会」が結成される。機関誌
し再び生を与えてくれたこの病院を「マザーホスピタ
「魔の山」第1号には,驚くべきことにGHQの検閲済
ル」と呼び習わしてきた。
「悲田処」のあったこの地に建
みのスタンプが押されている。文集「青空」を発行。30
つこの病院が,この先の未来にも「マザーホスピタル」
年には,退院した患者の会「保生会」が結成される。退
と敬愛され続けることを願ってやまない。
院者の会は日本はおろか世界でも珍しいと言われ,新
聞や週刊誌で話題になっている。退院者6,000人の名簿
が整備されていたが,今は約1,000人に減った。
入院患者には有名人も多かった。藤沢周平もそうだ。
玉音放送に使われたレコード盤を命を張って軍部から
守り通し,天皇のマッカーサーとの歴史的な会見につ
かけい
き従った筧素彦。保健同人社の岡本正は自分の葬式の
会葬御礼を自分で書き,
「死者が書いた会葬御礼」とマ
スコミをにぎわした。在日の全鎮植は肝臓癌を病んだ
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東村山の空には猫バスが行きかう∼∼
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予防会だより
海外事務所の組織強化に従事して
外務省NGO専門調査員
横井
正豊
昨年5月から今年3月迄の間,結核予防会国際部で,
したものが語源と聞いていますが皆様の解釈は如何で
外務省のNGO専門調査員として海外事務所の「経理・
しょう。
人事・税務のアカウンタビリティーの改善」業務に従
ルールやマナーの解釈は国内でも微妙に異なるケー
事させて戴きました。
スがありますね。例えば,エスカレーターの乗り方で
仕事の一つとして国際部が管轄する3海外事務所
すが,東京では左側に立ち,追越しは右側ですると思
(フィリピン,ザンビア,カンボジア)の内,フィリピ
います。大阪では逆で「立場」が右側で,追越しは左側
ン事務所の管理マニュアルを文書化・可視化し完成さ
になる様です。東西の「立場」が交差する新幹線新大阪
せる迄のお手伝いをしました。この仕事のポイントは
駅では右往左往のジグザグラインが出来てしまいエス
言葉の解釈です。日本ではアカウンタビリティーやコ
カレーターでの急ぎの動きが封じられる経験を良くし
ントロール等の外国語をそのまま使用しますが,言葉
ました。
の解釈は皆様で少しずつ違うのではないかと思います。
もしマニュアルの言葉使いが曖昧だと,各々が異
アカウンタビリティーはアカウント「勘定」とアビリ
なった解釈で勝手な行動を取り混乱することになりま
ティー「能力」が合わさり数字等が正しい事の説明責任
す。今回,お手伝いしたフィリピンではシンプルで明
という解釈が一般的でしょうか。内部統制の「統制」と
瞭なマニュアル作りを心掛けた積もりですが,果たし
して良く使われるコントロール(コントラ「対比」と
て使い勝手は如何でしょうか?
ロール「巻皮」の合わせ語)は羊の放牧頭数の管理を指
平成 22 年「女性の健康週間」イベント
生涯を通じた女性の健康づくりの取り組み
3月1日∼ 8日「女性の健康週間」最終日の3月8日(月)
続いて講演②は,女優の仁科亜季子さんから「私と
午 後1時30分 ∼ 4時 に,い き い き プ ラ ザ 一 番 町 カ ス
健康」と題して,ご自身の闘病体験,気の持ち方など健
ケードホール(東京都千代田区)において,厚生労働省
康の秘訣を披露され,子宮頸がん予防ワクチンのこと
の主催でイベントが開催されました。本会から山下顧
などにふれ,会場のみなが感動しました。
問(総合司会)と藤木事業部長はじめ事業部から4名(受
次に,
「報告 ∼地域における取り組みについて∼」
付,講師控室業務等)の計5名が事務局として参加し,
として,5カ所から報告されました。
お手伝いさせていただきました。
1.ITを活用した女性の健康管理の試験的運用(千葉
最初に厚生労働省健康局の木村博承生活習慣病対策
室長からご挨拶があり,続いて講演①へ移りました。
講演①の最初は,静風荘病院の天野恵子特別顧問から
「∼女性の健康について現状と課題∼ 性差を考慮し
た医療政策のためのエビデンスづくり」,続いて国立
長寿医療センター研究所の下方浩史疫学研究部長から
「女性の健康 ∼やせと肥満∼」と進みました。肥満は
県)
2.保健所事業や地域の資源を活かした健康づくり,が
ん検診受診勧奨啓発活動(八王子市)
3.大学生とともに企画,実施した女性の健康づくり事
業について(埼玉県)
4.企業で働く女性への健康づくりについての取り組
み(神奈川県)
生活習慣病の原因となり健康によくないが,無理なダ
5.中学生への出張健康教育キャラバン事業(横須賀市)
イエットでやせるのは女性の身体にとってよくないこ
今年も全国で「女性の健康週間」に合わせて取り組み
と,リバウンドしてしまった場合落ちた筋肉は回復し
が行われていることの紹介があり,盛会のうちに終了
ないで内臓脂肪が増えてしまうこと,体重を減少させ
しました。 る以上に適正体重を維持するのが難しいことなどを説
(文責:編集部)
明されました。
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平成 21 年度 財団法人 JKA 補助検診車「けいりん号」が完成
平成21年度財団法人JKAの補助金と自己資金により,
「けいりん号」2台が完成しました。本会は昭和33年以来財団
法人JKAより補助を受けており,配車台数は21年度で計798台となります。
この度製作した検診車は,茨城県支部と京都府支部に配備されました。いずれも胸部検診車で最新の機械を搭載
しており,広い地域にわたる検診活動など,今後の活躍が期待されます。
茨城県支部
京都府支部
平成21年度 結核予防会全国支部事務局長研修会並びに全国支部事務連絡会議
平成22年2月26日
(金)
,こまばエミナース
(東京都目黒
区)
・鳳凰の間において83名の参加を得て標記会議が開
催された
プログラム
13:00 ∼ 13:15 挨 拶
「結核予防会本部新役員の紹介と挨拶」
結核予防会
理事長
長田 功
結核予防会
専務理事
橋本 壽
結核予防会
顧問
(前理事長)
仲村 英一
13:15 ∼ 15:35 事務局長研修会
(1)
講演1 13:15 ∼ 14:00
(45分)
「労働安全衛生法に基づく定期健康診断における胸
部エックス線検査の対象者見直しについて」
厚生労働省 労働基準局安全衛生部労働衛生課
中央労働衛生専門官 清本 芳史
(2)
講演2 14:10 ∼ 14:40
(30分)
「公益認定申請の経緯とその後の対応について」
財団法人結核予防会
総務部長
竹下 隆夫
(3)
講演3 14:50 ∼ 15:35
(45分)
「COPDこれだけは知っておきたいこと」
順天堂大学医学部 呼吸器内科
客員教授
福地 義之助
15:45 ∼ 16:45 事務連絡会議
(1)
報告
ア.国内の結核状況について
(2)
協 議
ア.平成22年度普及啓発事業計画
(案)
イ.平成22年度国際協力事業計画
(案)
ウ.平成22年度複十字シール運動実施計画
(案)
エ.平成22年度出版事業計画
(案)
オ.平成22年度 JATA健康ネットワーク事業計画
(案)
(3)
連絡事項
ア.
「第61回結核予防全国大会」
について
イ.
「COPD事業」
について
ウ.
「平成22年度結核研究所研修日程」
について
「病院賠償責任保険」
「個人情報漏えい保険」について
エ.
(4)
その他
17:00 ∼ 18:30 意見交換会
1F・ダイヤモンドルームにて開催
平成 21 年度結核予防会管理職員経営セミナー開催
平成22年2月25日(木),こまばエミナース(東京都目
黒区)において36名の参加を得て標記セミナーが「結核
予防会全国支部事務局協議会」との共催で開催された。
14:10 ∼ 15:40
(90分)
講演:「資金運用のあり方について」
阿蘇製薬株式会社
国際担当
新藤 正裕
30
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15:45 ∼ 17:00
(75分)
研修:
「結核予防国際協力事業について・複十字シー
ル募金の効果的活用」
結核予防会
顧 問
山下 武子
多額のご寄付をくださった方々
<指定寄付者>(敬称略)
テック,バーノメディカル工業, 和徳,あずまだこどもクリニック
アボットジャパン代表取締役社長
第一三共ビジネスアソシエ
京都府―轟健史,髙木茂太市,中
ゲリー・エム・ワイナー(結核研
長野県―栄光社印刷,信州煙火工
井克是,太田紀美,株式会社富美
究所),星悦子(新山手病院)
業,マルホン自動車,平林工務店, 代
<複十字シール募金>(敬称略)
三菱電機中津川製作所飯田工場, 大阪府―樟蔭学園,小林三郎,太
岩手県―瀬川智子,曹洞宗光西寺, 八十二銀行七瀬支店,正晃印刷, 田光重,藤阪章司,武﨑ミヱ子,
川口印刷工業,松田建設,高橋医
勝田岩雄,重松秀一,中込忠治, 玉置京子,岩本千恵,久保しおり,
院,北 関 東 メ デ ィ カ ル サ ー ビ ス, 米山政一,古澤明雄,井出進子, 三浪祥光,しらゆき保育園,康生
Aコ ー プ 北 東 北,佐 々 木 久 夫,み
松澤緑,星山直基,塩原順四郎, 会,山添きぬ,志村晴信,弘報館,
ちのくディエスジャパン,鈴木道
高橋義郎,岡野照美,三井俊郎, 黒田美子,山岡建設,赤井マリ子,
隆(廣徳寺),中央臨床メディエン
春日建邦,新澤みどり,間宮淳子, 小林武彦,中村裕之,佐野元三郎,
ス,釜石商工会議所,樋下建設,知
水上淳子,宮﨑麗子,上原章平, 大塚隆英,青木啓一,宮野隆喜,
徳会岩手清和病院,日新堂八角病
金井清志,唐沢耕平,野中杏一郎, 土田喜八郎,吉田仁,宮城昭三,
院,松誠会滝沢中央病院,木津屋
藤井忠重,相澤孝夫,平林道子, 小倉剛,岡島健三,吉田忠春,平
本店,岩手日野自動車,時田一雄
北島敦,塚田修,豊田道子,笠原
井治徳,増田國次,斎藤明彦,寺
(時 田 整 形 外 科 医 院)
,鈴 木 俊 彦, 忠夫,石渕敏明,中澤隆一,芹澤
坂邦広,下瀬雅士,弘心寺いろは
松谷裕之,石川洋子,新里滋(新里
弘文,加藤隆,若林恭英,半田孝
会,橋詰電気工業所,富田正行,
医院),岩手銀行人事部,江村洋弘
淳,高橋静渡,栗田裕彰,三村契
四宮章夫,和田寿芳,友國照子,
(江村胃腸科内科医院),岩手畜産
一,米窪千加代,安藤博仁,大橋
金子喜久人,石田茂,小畠陽一,
流通センター,本多能久(むつみ本
俊夫,勝山一成,小松哲雄,西譲
河面孝子,河面孝,辻義則,山内
多 医 院),及 川 量 平(立 正 堂 医 院), 二,山田一榮,谷憲昭,磯部トモ
孝臣,高橋史朗,木村豊茂,藤村
岩手県予防医学協会あおぎり会
子,萩原幸江
泰子
埼玉県―住田光学ガラス,トキワ
愛知県―山田かづゑ,ツカサ工業, 本部―福田喜一郎,平井修,細川
化成,関東コンクリート工業,川
ニューギン,横井機械工作所,ワ
景一,寒松院,吉益暢夫,小平靖,
口市管工事業協同組合,大仙寺, イ ク リ ー ド , オ バ ナ ヤ ・ セ メ ン
小松原秩子,佐々田和子,佐野浩,
宝憧寺,矢部昭五郎,大谷木真紀
テックス,北徳,矢田工業所,ス
下村雪子,関毅,竹内寿美子,武
子,尚篤会赤心堂病院,ホンダ学
ミヤ,名和ライト工業所,和弘, 藤庄一,諸岡真弓,鳥居孝,中山
園,坂戸ガス,石川製作所,武田
インテリジェントトーカイ,伊藤
昇,荒木ツギ,浦中潮,石井迪子,
工務店,夏目斉昌,大野美佐子, 雅夫,東海サンユーテクノス,菅
安孫子虔悦,今井武子,岩井敏,
オギソ,埼玉薬品,宮越キヨ,中
沼医院,ちかだクリニック,中尾
梅原芳彦,奥村アキ,依田印刷,
山高嶺,宮本好,鈴木忠夫,青木
眼科,春日会足立病院,秋田病院
クリヤ精光,幼きイエス会ニコ
電設,コヤマ,北辰図書,リン
理事長加藤知里,かとう耳鼻咽喉
ラ・バレ修道院,富久よし,日本
テック伊奈テクノロジーセンター, 科,こう整形外科,和楽会なごや
化薬医務室総務課,日本金型精工,
野本化成,田中尚和,浅羽満夫, メンタルクリニック,斯文会岡田
東京都同胞援護会事業局,東京衛
新井政幸,吉田卓治,永瀬会計事
内科,セントラル内科,伊藤内科, 生病院庶務係,八千代銀行総務部
務所,三村電機工業,埼玉社会保
杉浦医院,水谷医院,医療法人ゆ
総務課,ヤマト特殊鋼,文光堂,
険労務事務所,川鍋珠算塾,東栄
とりす,玲生会にん内科,伊藤医
舟波外科医院,圓乗院,森永製菓
寺,紘永コンクリート,聖典,伸
院,鈴木医院,安野内科医院,中
健康管理室,福井康博,岩﨑晴子,
榮,吉松運輸,永浜ゴム工業所, 村医院眼科内科,白鳥整形外科, 浜野浩一,林龍夫,福原誠一,藤
泰成重機,アーク柏,神原興産, 秋田病院副理事長宇塚恵子,森下
井宏昌,堀内雅子,水主俊雄,宮
高運送,江村興業,本種寺,アス
田耕作,滝沢武雄,竹内一夫,
いつ,高木テルコ,林光佑,大矢
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31
椿弥一,土肥松男,青山晰子,長
水田博,守秀雄,守山祐弘,森村
保,名児耶好教,中西眞章,中島
谷川君子,稲田和子,野田鎭,橋
武雄,矢田,柳川祚三惠,山下幸
伊平,中嶋庄亮,中村茂之,能勢
奥雅子,依田叡,伊藤冨貴子,伊
子,山本宗孝,山原八重,米山恵
宏,野口精吉,花岡三郎,安藤温
藤滋,宮川美知子,今井清兼,江
子,吉村仁,水天宮,御園生保子, 夫,石井栄城,石井宣代,稲葉,
﨑眞一,川崎友夫,鎌田茂栄,小
沢田清,佐藤京子,佐藤潮,佐塚
稲沼茜,内田博造,大隅順一,木
沢彰,大野作佳,大和田實,天理
昌人,酒井良治,三上淳,修多羅
村将,北沢健司,織畑直義,加藤
教本芝大教会,大和証券渋谷支店, 亮玄,霜田光一,柴田収一,白井
悦子,金丸昊一,草野高昭,黒沼
霞会館,水野久子,全国友の会中
貞子,諏訪尚道,鈴木宏侑,鈴木
利枝,小島海雄,峰岸斎晋,坂倉
央部,日本統計協会,日本フイル
照男,鈴木敏子,外山大,田澤夏
建築研究所,簗瀬安正,大石信一,
コン総務部,田中元一,竹内みゆ
代,多田稔造,河野和雄,高松績
今野一郎,宮川敏夫,倉持智恵子,
き,永井季子,藤井繁,堀越二郎, 匡,高良義雄,竹中小夜江,津田
岸本俊一
舞田正暉,増地昭男,松本フミ, 眞阿,土田昭一,土屋キヨ,鳥海
結核予防会役員人事<敬称略>
《支部》
発
令
日
支 部 名
氏 名
発
令
内
平成22年 1月 1 日
宮 城 県
奥 山 恵美子 顧問を委嘱する
平成21年 12月 31 日
宮 城 県
梅
原
克
彦 顧問の委嘱を解く
平成22年 4月 1 日
鹿児島県
池
田
琢
哉 支部長を委嘱する
平成22年 3月 31 日
鹿児島県
米
盛
學 支部長の委嘱を解く
平成22年 4月 1 日
宮 崎 県
長
友
秀
隆 副支部長を委嘱する
平成22年 3月 31 日
宮 崎 県
久
保
哲
博 副支部長の委嘱を解く
平成22年 4月 1 日
沖 縄 県
比
嘉
政
昭 支部長を委嘱する
平成22年 3月 31 日
沖 縄 県
大
城
盛
夫 支部長の委嘱を解く
容
《本部》
発
令
日
氏 名
発
令
平成22年 3月 31 日
尾 身 茂
顧問の委嘱を解く
平成22年 3月 31 日
仲 村 英 一
顧問の委嘱を解く
平成22年 3月 31 日
山 下 武 子
顧問の委嘱を解く
平成22年5月15日 発行
複十字 2010年333号
編集兼発行人 藤木 武義
発行所 財団法人結核予防会
〒101- 0061 東京都千代田区三崎町1-3-12
電話 03(3292)
9211(代)
印刷所 勝美印刷株式会社
東京都文京区小石川1-3-7
電話 03(3812)
5203
結核予防会ホームページ
URL http://www.jatahq.org
内
容
本誌は皆様からお寄せいただいた複十字シール募金の益金により作られています。
複十字シール運動
みんなの力で目指す,結核・肺がんのない社会
平成21年度複十字シール
複十字シール運動は,結核や肺がんなど,胸の病
気をなくすため100年近く続いている世界共通の
募金活動です。複十字シールを通じて集められた
益金は,研究,健診,普及活動,国際協力事業な
どの推進に大きく役立っています。皆様のあたた
かいご協力を,心よりお願いいたします。
運動の輪を広げてください。シールは,はがきや,手紙や包装の封印,何にでも使えます。
問合せ:資金課 TEL03-3292-9287(直)
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5/2010 複十字 No.333
佑
P20-21掲載の小林祐吉先生が収集された、結核予防の貴重な切手およびシールを、下記にカラー
で掲載いたします。併せてご覧下さい。
写真1:世界で初めて発行
された結核予防・慈善切手
(オーストラリア,1897
年)
写 真 2: 結 核 予 防 の 基 本
「光」「水」「空気」「栄養」
を示す図案が描かれた切手
(オランダ,1906年)
写真5:第二次世界大戦後,発行が再
開された複十字シール(日本・結核予
防会1952年)
写真3:ベルギーで発行された,結核
予防切手シリーズ(1925∼1966
年)で初めて複十字のシンボルマーク
が採用された(ベルギー,1926年)
写真6:東京で開催された第22回国
際結核会議を記念し発行された特別
シール(日本・結核予防会1973年)
写真4:これまで日本(当時は米国
施政下)で唯一発行された,結核予
防切手。左下に記された「3セント」
が往事を物語ります(1967年)
写真7:結核予防会創立50周年記念
シール(日本・結核予防会1989年)
結核予防会の禁煙ポスターが出来ました!
結核予防会では,「赤い糸、焼いていたのは、たばこかも。」という禁煙ポスターを作成しました。
WHOが発表した今年の世界禁煙デー(毎年5月31日)のテーマは「ジェンダーとたばこ∼女性向けのマーケティン
グに重点をおいて∼」(Gender and tobacco with an emphasis on marketing to women)です。婚活をイメージし
た斬新な写真と法政大学の学生による
喫煙に関するアンケートでの結果を大
きく掲示し,“たばこを吸う人はイ
ヤ”というメッセージがじわじわと伝
わってきます。
無料で配布していますので,ぜひ,
学校,事業所,施設など人が集まると
ころに掲示してください(ただし,送
料は実費ご負担いただきます)。
お問い合わせは,結核予防会普及課
(03-3292-9288)まで。