巨 は医療機器産業の救世主になりうるか?

Feb2011
Vol.5
The Academia Highlight アカデミア・ハイライト [5]
巨⿓は医療機器産業の救世主になりうるか?
うのめ・たかのめ
by
2010 年の暮れも押し迫った 12 月 22 日に行われた JST 中国総合研究センター研究会で、
東大先端科学技術研究センターの特任教授林幸秀氏は、「中国と日本の科学技術力比較の現
状」を解説した。世界第 2 位となった GDP に続き、科学技術研究費においても、中国が同
様の地位を占めるのは時間の問題との指摘もなされた。研究者はすでに日本の倍近くで、米
国や欧州と肩を並べる水準にあることを示されると、納得せざるを得ない。研究投資内容に
ついても、例えば、「次世代 DNA シーケンサー」は理化学研究所ですら、14 台しかないの
に、北京ゲノム研究所は一挙に 150 台を導入した。臨床医学分野でも、相対的な研究レベル
は米国、欧州、日本よりかなり低いが、侮れない。
実際に調べてみると、iPS 細胞を始めとする各種幹細胞の再生医学への研究では、中国科
学院動物研究所が、独自の四倍体胚補完法を用いて全身 100%が iPS 細胞に由来するマウス
を世界で初めて誕生させたし、機能性コラーゲンバイオ材料の組織再生への応用では、同
遺伝・発育生物研究所が、腹壁筋肉欠損マウスを用いて筋肉組織の機能回復度評価や中枢神
経損傷の修復で軸索誘導の促進度を評価している。また、神経精神系疾患への介入治療では、
同
深圳先進技術研究所が脳深部刺激法の副作用の機序を明らかにするために、光感受遺伝
子を持つタンパク質を用いて脳内のシナプス伝達メカニズムを検討し、ニューロンの活動状
況を解明することに成功している。
さて、本題に入ろう。中国が最も得意とする臨床研究では、論文数は日本を上回っている。
医療機器開発では、上記のゲノム研究への注力度からも、遺伝子解析での成果が個別化医療
へ活かされると同時に、改良機器の独自開発も進むであろう。手術ロボットのような治療用
機器に関しては、精華大や北京航空航天大などで手術ナビゲーション、手術支援ロボットの
ソフト・ハード両面で開発研究が進み、厳しい医療機器管理法規がない利点もあり、臨床研
究が始まっている。キャッチアップは意外と早いかもしれない。再生医療や遺伝子治療は
2007 年 5 月以降、臓器移植規制が制定されて、ややペースが鈍ったとはいえ、症例数は他
国を上回り、拒絶反応機序や免疫寛容などの成果が出始めている。MRI、CT、PET といっ
たモダリティ装置はクラウド技術をいち早く取り込み、先頃の北米放射線学会で衝撃的なデ
ビューを果たした。また、国内の MRI 設置台数は 2,000 台を超えている。
医療機器産業の規模は、現時点では生産額約 1 兆 2,500 億円で世界シェア 5%程度である
が、伸びは年率 20%を超え、潜在需要が極めて大きいために遠からず世界第 2 位になるであ
ろう。何しろ、地域医療サービス機構傘下の個人医院を含めた 31 万施設で使用されている
医療機器の 15%は 1970 年代、60%は 1980 年代半ばに製造されたものといわれており、こ
の更新需要だけでも巨額に上る。現在、島津製作所、東芝メディカルシステムズ等のモダリ
ティメーカーはこぞって中国進出を果たしたが、DePuy、J&J も 100 億円規模の投資を相次
いで行っている。ベンチャーへの投資も、医療健康産業分野へは全体の 20%に迫る勢いであ
る。米国ですら低成長に喘ぎ始めた医療機器産業は、文字通り成長する“巨龍”への期待で
いっぱいである。