「実演販売」の方法と顧客に与える影響 はしがき 本年度の十ゼミ討論会は「学生視点のマーケティング」という大きな冠テーマのもとで実施された。各 ゼミが自由にテーマを設定し、学生視点という立場の元で研究を進めることとなった。その中で我々は小 売店などの店頭における販売方法に着目した。 まず、我々はショッパー・マーケティングの観点から、購買者の店内行動に注目した。購買者が商品を 購入する際には、購買意思を決定するプロセスが存在する。その意思決定に働きかけるために、価格訴求 以外にも、棚レイアウトや商品レイアウトなど、購買者のことを考えた店舗づくりが行われている。 しかし、顧客の固定客化を図るうえで最も必要なことは、顧客と店とのコミュニケーションを図ること ではないだろうか。スーパーマーケットなどでよくみられる光景として、顧客とパートで雇われているお ばちゃんが友達同士で、レジでの精算時に談笑していたりする光景がある。友達が働いている店に行って みるというのは高校生や大学生にもみられる光景であり、知人が働いているからといった理由で該当する 店舗を利用する人は多い。ここには、先天的に顧客と店とのコミュニケーションの手段が確立されている のである。 上記のことを踏まえて、我々はマーケティングという分野においても人と人との直接的な関りが重要で あると考え、その関りを生かせる場として実演販売に注目した。 先行研究として実演販売を行うことは売り上げの向上に繋がるとされているが、実演販売には様々な形 式がある。実演販売の方法によって顧客に与える影響が変化するのであれば、より良い方法を見つける必 要がある。 今回のテーマ研究を行う上で、実際の店舗を利用したアンケート調査や客動線調査は必至であり、学生 視点というテーマにあてはまる為に、多くの調査を学生たちで行うこととなった。アンケートや店内構図 の作成など、時間との闘いを乗り越え、最終的に研究の完成にたどり着くことができた。班員一同、自ら の能力の不足を補いながら歩んだ半年間であり、その成長と努力を噛みしめる次第である。 最後に、調査場所を提供していただいた某大手スーパーマーケットチェーン様、フィードバックや調査協 力を恩師と通経済研究所様、同社池田様、また約一年間共に研究を進めてきた班員、皆様にこの場を借り て厚くお礼を申し上げたい。 2013 年 11 月吉日 河埜容美 佐藤仁 1 田中響 奈良橋正憲 森田祥光 <目次> ① ―――はじめに ① ―――はじめに ② ―――序論 近代の日本に見られた八百屋や魚屋といった小 1. 問題意識と問題設定 売店。今もまだ海外で多くみられる市場の存在。 2. 定義 そこには現代のスーパーマーケットやコンビニエ (1)実演販売の定義 ンスストアには見ることが出来ない活気がある。 (2)実演販売の手法の大別 その活気を生み出すものは、店を構える商売人 (3)対象となる評価の定義 と、商品を購入する顧客とのコミュニケーション ③ ―――本論 1. の在り方に関係しているのではないだろうか。 “い 既存研究のレビュー つも買ってくれるから” “売れ残っているなら買い (1)SP の長期効果と CFB 取るよ”といった、システム化された売場には無 (2)ブランド・コミュニケーション い、人と人との直接的なコミュニケーションの存 の効果分析に関するレビュー 在がそこにはある。よりコンパクトに、より簡潔 (3)消費者情報処理メカニズムとプ に、より楽に、より便利に、と、利便性を追求し ロモーション ていく現代の世界の中で、前述した“古来的な市 (4)売れる店にはアクションがある 場”の存在は次第にその姿を見せなくなってきて 2. 既存研究のまとめ いる。しかしながら、 “古来的な売場”にはあった 3. 仮説の提案及び検証 現代的な売場には無い活気、そのコミュニケーシ (1)仮説の提唱 ョンなどによって生み出されると考えられる売場 (2)調査概要 こそが、元気な売場を成り立たせているのだと (3)調査内容 我々は考える。 (4)分析方法 近年、インターネットの普及により人は多くの (5)分析結果 情報を入手することが容易となった。それと同時 ④ ―――新提案 に、買い物をする際に外出する必要もなくなるな ⑤ ―――研究成果と結論 ど、在宅しながら全ての用事を済ませることが可 ⑥ ―――今後の展望と可能性 能となりつつある。しかしながら、そこには前述 ⑦ ―――おわりに したようなコミュニケーションは存在しないどこ 参考文献 ろか、存在すること自体が困難である。インター 補禄―――アンケート調査票 ネット上で売買の時に行われるコミュニケーショ ンは“文字”と“画像”と“音声”だけであり、 河埜 容美 そこに人と人とが直接触れ合って生まれる、本当 佐藤 仁 の意味での温もりや温かみは存在しないのだ。 田中 響 人はコミュニケーションを欲する生き物であり、 奈良橋 正憲 コミュニケーションは人の行動に大きく影響する。 森田 祥光 ここにおけるコミュニケーションとは対話ではな く、会話を指す。近年、ビジネスの場はもちろん 2 のことながら、様々な社会問題にて、会話・コミ 本節では「実演販売」に焦点を当てた動機を述 ュニケーション・孤独といった用語が多く扱われ べ、それに伴う問題設定を行う。 る。会話やコミュニケーションとは人が生きてい 近年、試食や製品の実演に始まる実演販売は多 くうえで欠かせないものであり、無意識化に欲す くの小売店で行われている。家電量販店では、ド るモノであるのだ。前述の通り、会話やコミュニ ライヤーやシェーバーを初めとした美容製品や、 ケーションはその重要性を再確認され、ビジネス マッサージ器や運動製品の体験が可能である。ま の場で大きく取り扱われている。中でも人的コミ た、スーパーマーケットをはじめとした小売店で ュニケーションの重要性は今や誰もが知るところ は、試食や試飲といった味覚に訴える実演販売や となり、マーケティングの分野でも注目を集めて 包丁などの製品の性能を見せる実演販売が行われ いる。人の心理面に働きかけることで売買時にお ている。衣類などを取り扱う店舗ではマネキンや ける売上増加を図ることは可能であり、多くの小 店員などが製品を身に着けていたりなどもする。 売店で顧客に合わせた店づくりや、独自の販売手 このように実演販売は我々の周囲で常に実施され 法などが用いられている。(馬渕哲・南条恵 [1993]『入 ているマーケティングの手法である。実演販売は りやすい店売れる店』 日本経済新聞社) セールス・プロモーションにおける手段の一つと さて、小売店の店頭における販売手法の一つと して、顧客に対して販売を促す手法として認識さ して「実演販売」がある。この手法は対象商品に れている。(図表 1)しかしながら、その実、実演販 対して多大な販売促進効果を発揮することができ 売が顧客に対してどのような効果をもたらすのか るとされており、前述の通り、多くの小売店にて は明らかにされていない。 実施されている手法である。しかし、「実演販売」 店頭にて実演販売を実施することは、実演販売 はコミュニケーションの場として見ることにより、 にて取り扱われる商品の評価を高め、商品の販売 より多くの効果を期待することができるのではな を促進することが出来る。しかしながら、実演販 いだろうか?本研究は「実演販売」が店舗評価と 売を行うことは店舗にとってプラスになると断言 販売実績にいかに影響するのかを解明し、効果的 できるのであろうか。実演販売を実施することで、 な「実演販売」の方法と、小売店における理想的 売上の増加にはつながるが、それが必ずしも店舗 な売り場を提示することを目的とする。 イメージによく働くとは限らないのではないだろ 分析手法には主に分散分析を使用する。そのデ うか。 ータは一つのスーパーマーケットを利用した九十 実演販売というプロモーションの手法が、販売 名の顧客を対象とした、客動線調査とアンケート 促進に限らず店舗イメージや客単価の増加に繋げ 調査から得た。仮説を検証し、検証結果からより ることができるのであれば、そのメカニズムを解 よい実演販売の方法を導く。 明することで、販売促進以外の効果を期待するこ とができる。 対象商品の販売促進に限らず、店舗イメージを ② ―――序論 良くしたり、顧客単価を増やすことが可能ならば、 実演販売はより多くの小売店で実施されるべきで 1. 問題意識と問題設定 ある。実演販売が顧客行動や顧客満足度に繋がる といったような、顧客に与える影響に焦点を当て 3 た既存研究は無い。より顧客に影響を与えること 多くの場合で実演販売の語句を用いるが、必要に ができる実演販売の方法とは何か。数ある実演販 応じてデモンストレーションの語句を用いる場合 売の手法の内から、より効果的に客単価を含む顧 もある事を、ここに謝罪する。 客行動と、店舗に対する顧客評価に良い影響を与 本研究における実演販売は、スーパーマーケッ えることが出来る実演販売の方法を定義する。 トをはじめとする食品を扱う小売店にて用いられ ■表―――1 るものとする。今回の研究において対象とした実 SP 手段の種類 演販売の方法は次の三つである。①製品ができる (出典 恩蔵直人・森口剛 [1994] 『セールス・プロモ までの過程を購買者に見せる。 ②既存の製品の 試供を行う。 ③既存の製品を別形状で売り出し、 ーション』同文館) 商品説明を行う。それぞれ ②試供品提供型 ①プロセス観賞型 ③商品説明型とする。③に関し ては、既存製品の包装を変え、注目を引くという 手法も同一のものとして捉える。今回の調査にて 同一の売り場で実施されていた為であり、二つの 手法の区別が困難なためである。 2. 定義 (2)実演販売の手法の大別 本節では、研究を行っていくうえで対象となる 此度の研究に関し、実演販売の手法を大別した。 「実演販売」についての定義を行う。以下で定義 本研究は“より良い実演販売の手法を見つける” する事柄については、本論または結論における前 ことが目的である為、実演販売の手法を大別する 提条件とする。 必要があるからである。(1)で記載したように、今 回は大きく三つの手法に大別した。①プロセス観 (1)「実演販売」の定義 賞型 実演販売はデモンストレーションと言い換える ②商品説明型 ③試供品提供型 の三つで ある。 こともできる(渡辺隆之・守口剛[1998])。多くの書籍 プロセス観賞型とは、購買者に提供する製品が完 では実演販売とデモンストレーションは同義とし 成するまでの過程を見せるものである。プロセス て扱われており、実演販売が販売促進方法として の括りであるが、生鮮食品ならば、売り場にて下 有効であるとされている。また、実演販売はセー 拵えやパック化を行う。一般食品ならば一般食品 ルス・プロモーションにおける手段の一つとされ を用いた調理法を見せる。といった手法がこれに ており、顧客に対して、 「商品の説明をしながら販 当たる。従来の実演販売とは、その商品の特徴を 売活動を行うこと」とされる。穴あき包丁やマッ 購買者に伝えることを目的としてきた。これに対 サージ機などは実演販売により多大な売り上げを してこのプロセス観賞型とは、食品ならば調理の 達成した例として知られ、実演販売の方法として 過程を見せることを目的とする。従来の実演販売 は試食や実体験などがあげられる。 における試食を例に挙げる。従来の場合は簡単な 本論文では実演販売とデモンストレーションは、 前述のように同じ意味をもつものとして用いる。 調理セット(ホットプレートなど)で簡単に調理し ていたが、プロセス観賞型の場合はその調理方法 4 こそが重要であり、魚を捌く技術や、フランペの 婦層が多い。調査店舗をスーパーマーケットと定 ような目を引くパフォーマンスをこそ重視してい めた理由であるが、①小売店の代表格である為 る。電化製品ならば、実際に掃除機でごみを吸っ ②調査協力を依頼したところ、協力してくださる たり、空気清浄機で色つきの煙を浄化したりなど 店舗があった為 が挙げられる。 とても身近なものであるため 商品説明型とは、商品の特徴を解説するもので ③一人暮らしの学生にとって、 などの理由があげ られる。 ある。ジャパネットの販売方法や、穴あき包丁を 本研究における調査データは、上記のとおり客 初めとした販売方法はこれには当たらず、①に当 導線調査とアンケート調査、客単価のいずれも同 たる。この③に当たるものは、商品そのものを購 一人物から取ったものである。つまりは、アンケ 買者が体験できずに、説明だけを受けるようなも ート調査と客導線調査の結びつきが非常に強いと のを指す。飲食店のキャッチセールスなどが分か 言え、データから読み取れる情報の確実性が高い。 りやすい例だろう。 本研究における“顧客”は、 “店頭にて商品を購 試供品提供型とは、従来における試食と同義で 入した”という前提があり、店舗内滞在時間や購 ある。購買者に既存製品を実際に体験してもらい、 入単価等は関係しない。つまりは、①店舗に来店 販売促進を狙う手法である。生鮮食品、一般食品 している を問わず用いることができる手法であり、簡単な の 2 点の条件を見たいしている来店客を顧客とし 調理をしたものを提供することができる。電化製 て定義する。 ②いずれかの形で商品を購入している 品などでは、 “お試し”と相打って、マッサージチ ェアを配置したり、新発売のゲームなどを体験で ③ ―――本論 きたりなどが挙げられる。 売店の店頭で頻繁にみられる実演販売の手法をこ の 3 つに大別する。 1. 既存研究レビュー (3)対象となる顧客の定義 本章では、我々が進めていくうえで参考にした 本研究において実施された店舗調査において、 既存研究について述べていく。そして既存研究で 調査対象となった顧客についての定義を行う。 は説明できない部分を補足しつつ、我々の研究結 本調査は、調査店舗を利用する顧客を三人に一 果を視覚化する新しいモデルを提唱する。 人のペースでランダムに選出し、客導線調査を行 我々の研究は前章で述べたように「顧客行動・ った。また、客導線調査を行った顧客のうち、店 顧客評価により良い影響を与える実演販売の手法」 舗にて買い物をした顧客をアンケート対象とし、 を導くことを目的としたものである。そこで我々 結果として全 90 組の顧客を調査することができた。 は、消費者行動論の数ある既存モデルの中から 1 本研究において我々が調査・作成した研究デー つずつ検討し、本研究をモデル化する際に最も適 タを構成する顧客は全て、客導線調査とアンケー しているモデルを探すことか始めた。 ト調査、客単価調査を行っている。年齢層は 20 代 (1)SP の長期効果と CFB ~80 代と幅広く集めてはいるが、調査店舗がスー パーマーケットである関係上、一般女性、所謂主 恩蔵直人と守口剛(1994)はサンプリングや実演 5 販 売 は 顧 客 愛 顧 の 確 立 (consumer franchise 売は、短期的な効果のみならず長期的な効果も期 building: CFB)を高めるセールス・プロモーション 待ができるものであるということが判明した。 (以下:SP)手段に含めることが出来るとしている。 我々の研究において、実演販売は顧客に対して何 SP に長期的な効果が存在することの明示的な指 かしらの影響を与えることができるという前提が 摘は、Prentice による CFB のというコンセプトで ある。よって、実演販売が顧客に対して何かしら 始まっている。CFB とは、あるブランドに対して の影響を与えることが判明したのであれば、我々 価値を生み出すようなアイディア、ユニークな属 の研究にとって必要な条件が成されたといえる。 性、競争優位を消費者のマインドに植えつけ、長 しかしながら、SP の一手段として実演販売が) 期的な価値を形成することを言う。Prentice によ あげられるように、実演販売の手法も多く存在す ると、SP 手段のほとんどは CFB を高めることが る。実演販売の手法の中から、より顧客に対して 出来ないとされ、CFB を高めることの出来ない SP 良い影響を与えることができるものを導き、顧客 手段(以下:非 SP)は商品やブランドの価値ではなく に対してどのような影響を与えることができるの 値引きは金銭的な問題、プレミアムは他の商品と かを明確にする。 いったように別の問題点を指摘している。(図表 2) ■表―――2 CFB のコンセプトと SP との関係は、2 つの競 プロモーション手段における CFB 手段と非 CFB 合ブランドを 10 年間に渡り追跡調査した研究で確 手段 認されている(Clayton 1975)。(図表 3) (出典 この調査において、売上高における違いをプロ 恩蔵直人・守口剛 プロモーション』同文館) モーション戦略の違いに結び付けると、売上高が 伸びているブランドでは、CFB 手段への支出がも う一方のブランドよりも絶対高で高く、全プロモ ーション支出の 50%以上を常に CFB 手段が占め ていることが分かった。 この結果から Clayton は、 CFB を高めるために費やされる CFB 手段への支 出は、ブランドの全ライフサイクルを通じてある 一定水準以下にすべきではないと主張している。 多くの場合で、SP の効果に対する認識は短期的 なものというのが一般的である。売り上げや試用 を延ばしたいとき時期に、適切な SP 手段を選択し て実施することが SP のマネジメントの進め方で あった。しかしながら前述のとおり、SP には長期 的な効果を期待することもできる。心理学理論か らの SP 効果を検証すると、各理論において、SP には長期的な効果と短期的な効果の両方を期待す ることができるということが分かる。(図表 4) これまでのことから、SP の一手段である実演販 6 [1994] 『セールス・ ■表―――3 (2)ブランド・コミュニケーションの効果分析に関 CFB と売上高との関係 するレビュー (出典 恩蔵直人・守口剛 [1994] 『セールス・プロモ 寺本高(2012)は、小売店頭におけるブランド・コ ミュニケーションの効果分析の中で、デモンスト ーション』同文館) レーションの効果について、デモンストレーショ ンを受ける時間が長いほど、購買確立が高いと述 べている。デモンストレーションの売り上げへの 影響に関する例として、Roberts and Urban(1988) は新デモンストレーションでは、ネガティブなバ ージョンの映像を見せると売り上げが低下するこ とを示している。また、渡邊(2011)は食品や日用雑 貨品を扱うスーパーマーケットを対象に、店舗内 でのデモンストレーションを明らかにしている。 彼はハンバーグのメニュー提案を目的としたデモ ンストレーションを、店舗入口付近、精肉売場手 ■表―――4 前、精肉売場広報の 3 パターンで実施し、各パタ 主な心理学効果と SP 効果 ーンにおける売場数量の比較を行った。その結果、 (出典 恩蔵直人・守口剛 各部門・売場の動線上手前の部分でデモンストレ [1994] 『セールス・プロモ ーションを行った方が、後方となる売場で行うよ ーション』同文館) りも効果が高いことを導き出している。 また、寺本は店頭コミュニケーションの各手法 による効果のレビューを整理した上で、態度と選 択を連動して扱った研究例がほとんど明らかにさ れていないことについても指摘している。つまり、 「店頭コミュニケーションに接触して当該ブランドに対 して好意的な態度を持ち、その結果として当該ブランド を選択した」あるいは「そのコミュニケーションに接触 して当該ブランドに対して好意的な態度を持ち、その結 果として当該ブランドを選択した」といったものであ る。また、態度を扱った研究例では、店頭コミュ ニケーションへの接触行動と態度状態の変数は共 に一時点でしか捉えておらず、店頭コミュニケー ションへの接触経験とその経験によって態度状態 がどのように変化するのかというような因果関係 を捉えた研究もほとんど見られないとしている。 このことから、我々の研究の新規性がわかる。 7 我々の研究は実演販売の手法において、より良い 「店内で目に触れない商品は絶対に売れない」 影響を顧客に与えることができるものを導くこと ということは、売り場作りの基本であるとされる である。つまりは、売り場における店頭コミュニ が、もう一つ、今一つ用途や使い方のわからない ケーションに接触することで、消費者がより良い 商品といったものは、目に触れてもまず購入され 評価を受けるような売り場の形式を提案すること ることはない。例えば、今まで見たこともないよ にある。よって、この研究において述べられてい うな野菜などは、調理法、味といったものが解ら るデモンストレーションを受ける時間と購買確立 ないために、購入されることはめったにないだろ の関係性は重要なものである。 う。製品名を挙げると、花王にサニーナという商 品がある。このサニーナはニッチを狙った商品で (3)消費者情報処理メカニズムとプロモーション あるのだが、いくら花王というブラン力が強くと 渡辺隆之・守口剛(1998)は消費者の情報取得の方 も、このサニーナがどういう商品であるかが分か 法について述べている。消費者の情報取得のパタ らなければ、あるいは購買者がこの商品を知らな ーンは3つに分類することができるとしており、 ければ、いくら大量受注し店頭に並べたからと言 それおれ①長期記憶内当該記憶参照 って売れることはないだろう。 情報処理 ③長期記憶内関連情報統合 ②短期記憶 としてい つまり、実演販売の手法は商品を取り扱う上で、 る。この 3 つのパターンのうち、本研究に関係す 顧客に対して情報を与える方法として必要不可欠 る長期記憶内関連情報統合について述べる。見た であるといえる。また、この手法が多くの小売店 だけではどのような商品か分からないとき、例え で実施されていない理由としては、人件費や専門 ば「こうやって使うと便利ですよ」と商品説明を 知識の不足、人材の不足などが挙げられる。 受け、消費者がその商品を手に取るなりして「こ しかしながら、小売店における専門知識を有す れだったら良さそうだわ」と自分が使うときの状 る店員の必要度合いは近年高まっており、ドラッ 況を思い浮かべながら、買おうという気持ちにな グストアや家電量販店などには専門知識を有した るときがこのパターンに該当する。このパターン 店員は多く存在する。人件費を差し引いても顧客 は今現在、多くの小売店でその誘発がされていな 満足度挙げることは重要であり、ひいては利益の いものである。商品を選択する際に、それまで長 増加も見込める。 期記憶に情報として入っていない商品は、その商 このことから、実演販売は SP において有効な手 品に関する長期記憶内の何らかの情報と、外部情 段であるということが分かる。また、店頭コミュ 報として得られたその商品の情報を合わせて、自 ニケーションを行う上で、商品の情報を伝達する 分なりの意味づけをしてみて、はじめて買う、買 場としての役割も果たすことができ、長期記憶内 わないといった土俵に乗ることができるとしてい 関連情報統合のパターンの役割を果たすことが可 る。また、このパターンで情報処理をさせるとい 能となる。これによって、我々の研究内容の柱で う売り方が若干少なすぎると述べている。接客な ある実演販売の有用性を確認することができた。 り人的サービスの役割は安いことを強調するので (4)売れる店にはアクションがある はなく、使い方、効能、使用場面など様々な情報 馬渕哲・南条恵[1993]は店舗について研究を行い、 のうち、少なくとも消費者が商品について持って いない情報を提供することにあるとしている。 その上で店員の行動や店舗形態によって顧客がど 8 のような行動を取るのかを述べている。また、そ るのである。前述した客寄せ踊りができる店員が、 の研究から、売上の良い店では、店員が良く動い 接客中の客にかける声を「客寄せ音頭」という。 ていると指摘している。売れる店というのは客が 客寄せ踊りや客寄せ音頭はその店員の行動範囲、 多く集まる店である。必然的ににわかに活気づき、 つまり縄張りを客に伝えることができる。この縄 ますます多くの客を引き付ける。このことから、 張りというのは、 「この店員はこの作業をしている 売れる店には活気があるといえる。また、この活 から、今なら落ち着いて商品が見られる」 「いらっ 気の維持をするためには、店員の努力が必要であ しゃいませって言わないから売る気がないんだろ るともしている。 うなぁ」といった具合に、店員の行動を客に伝え 一般に客は「作業をしている店員」に引き付け ることを目的としたものである。 られる。つまりは忙しそうに店員が働く様子は明 「売れる店員」は総じて“そしらぬふり”をし らかにその店に活気を与えるのである。また、客 ながら客とのタイミングを計るのが上手い。そし の立場からすると店員が何かほかのことに集中し て、客から声をかけられた、一転してキビキビと ている間は商品を進められることがないために、 対応するので客に怒られることも少ないのである。 “ひやかしたり”など、気軽に“買い物”を楽し このように売れる店員たちは明らかに客を引き付 むことができる。また、他の客に接客したり、フ ける方法を知っている。ところが、従来行われて ェイスアップを行っていたり、実演販売をしてい きた販売方法のほとんどが非常に論理的なものだ たりする店員。このように何かしらの形で動いて ったために、このような“感覚的”なものは受け いる店員は、他の店員に比べてはるかに強いパワ 入れられなかったのである。 ーを持っていると言える。こうした客を引き付け また、店員専用の空間がある場合、それを乗り る一連の動作を「客寄せ踊り」と呼び、この客寄 越えての積極的アプローチは不要であるとしてい せ踊りができる店員がいる店は必然的に他の店よ る。なぜならば、専用のスペースがあるというこ りも活気があり、客の滞在時間も長くなる。つま と自体が「この店では、店員は客に商品を勧めま り、必然的に「売れる店」になるわけである。 せん」という意思表示として発せられているから 逆に客を遠ざける店員のアクションとしては積 である。大型スーパーマーケットのように店その 極的に客に対してアプローチをしたり、客が商品 ものの規模が非常に大きい場合は、店員がこのこ を手に取って見ようとするのを邪魔する、といっ とを理解しているために積極的に商品を勧めるこ たものがあげられる。これらの行動は「客追い踊 とはない。しかし、店がだんだんと小さくなり、 り」と呼ばれ、店員の行動の悪い例として知られ 客と店員との距離が近づけば近づくほど、この傾 る。しかしながら、多くの小売店における SP にお 向は強くなる。こういった空間における店員がす いて、この「客追い踊り」の行動を取る店員は多 るべき行動は、自身の専用スペースから出ずに、 い。店員同士での会話や「何をお探しですか?」 客寄せ踊りと客寄せ音頭を行い、客の要望に対し といった問いかけ、開店前に正しい姿勢で並んで て応えることである。 待つ店員など、一見正しいようにみられるこれら 馬淵・南条[1993]は、接触型店舗についても触れ の行動は、事実、多くの小売店にて見受けられる。 ている。「実演」には客を引き付ける力があること 店員と客とが会話をするときに、両者の間になに は多くの企業が理解をしており、同時に、店頭で かしらの物的障害物があったほうが、客は安心す 実演場や実演商品を持ちたいと考えている。ただ 9 2.既存研究のまとめ し、 “宝の持ち腐れ”という諺があるように、実演 場や実演商品が実際に稼働しなければ大きなマイ ナスとなってしまう。 これらの既存研究を参照したことにより次のよ 店を 3 空間に分けるときに、実演場を商品空間 うなことが判明した。 ととらえるか店員空間と捉えるかは非常に難しい ・実演販売は短期的、長期的な効果を期待するこ 課題である。実演販売の方法として、屋台のよう とが出来る。 な自分で作って自分で売ってという店では、職人 ・実演販売の各手法によって、客に対してどのよ =店員の関係が成り立っている。しかし、スーパ うな影響を与えるのかを明らかにした研究はなさ ーマーケットなどにおける実演販売の売り場だと、 れていない。 実演販売を行う人は職人ではあるが店員ではない。 ・実演販売は購買率に影響を与える。 ここにおける店員は販売者のことを指す。さて、 ・実演販売における店員の行動には理想的な在り 職人は客にとってはただの面白いディスプレイに 方があるが、多くの小売店で実施されていない。 他ならず、一種のひやかし安全信号であるのであ これらの先行研究から、我々の研究の新規性が明 る。キビキビと働く職人の姿を面白がり、興味を らかになると同時に、実演販売の手法による、顧 持ち、売り場にとどまる。すると必然的に売れる 客に対して与える影響の違いを明示することの重 売り場が出来上がる。つまりは、実演販売を行っ 要性が分かる。より良い実演販売の手法を明らか ている職人は売り場から離れずに、ずっと実演場 にすることで、販売促進や固定客化を狙うだけで に留まっていることが理想である。これが他の個 なく、顧客が抱く店舗に対するイメージを良くし 人商店などの実演販売店になく、スーパーマーケ たり、地理的要因だけではない、店員と顧客との ットや百貨店などの接触型の実演販売であり、実 結びつきを得ることも可能となるだろう。同時に、 演販売専門の職人がいる強みなのである。この売 各店舗が実演販売の重要性を再認識することで、 り場の特徴として再度確認しておきたいことは、 店舗ごとの特色を強く持つことが出来るようにな 実演場と客を隔てるガラスがあることであり、こ り、新たなリアルマーケットの在り方とすること のガラスの存在が、客に対して安心感を与える。 が出来るのではないだろうか。 この研究により、実演販売における店員の行動 これらの大きな目標の足掛かりとなるために、次 パターンと実演販売の理想的なあり方が分かる。 章からは、本研究において実施した調査内容の報 しかしながら、これらの手法はコスト面のリスク 告と分析を進めていく。 があるために多くの小売店で実施されていない。 3.仮説の提唱及び検証 これらの手法を実施するためには、接触型、ある いは職人の技法を見せるようなプロセス観賞型の (1)仮説の提唱 実演販売の売り場が、顧客に対してより良い影響 を与えることができるということを明示しなけれ 前述したように、スーパーマーケットにおける ばならない。 実演販売の効果として、店舗イメージ、客単価の よって、この研究は我々の研究の重要性を明ら 違いに着目した研究は見られない。また実演販売 かにしているとし、我々の研究において需要な先 のタイプを分け、そのタイプごとの効果は明らか 行研究であると言える。 にされていない。そこで、我々は実演販売の方法 10 によってのイメージアップや客単価の増加に影響 査サンプル数は 90 名、 アンケート有効回答数は 76 があるかを明らかにする。 名であった。以上のことを表にてまとめたので参 照されたし。(図表 5) また、過去研究から、見ただけではどのような 商品かわからない時や、接客なり人的サービスの 役割は安いことを強調するのではなく、使い方、 ■表―――5 技能、使用場面など様々な情報のうち、少なくと アンケート調査の概要 も消費者が商品について持っていない情報を提供 調査手法 することにしている。 店頭アンケート調査、 客動線調査 過去研究では職人が魚を捌くなどしてプロセス 調査対象 全年齢、来店客 を見せるという行為により、顧客はその姿に興味 サンプル数 90 名 を持ち売場にとどまるとされている。馬淵哲・南 有効回答数 76 名 条恵[1993] さらに、欠点として試食などによる実 調査期間 9 月 25 日 演販売では、商品に対する満足度がある程度のレ ベルであれば、義理で買ってしまうケースもある。 (3)調査内容 鶴見裕之[2008] そこで我々は結果のみを見せる実 客動線調査では、調査店舗を利用する顧客を 3 演販売を行うよりも、商品を作るプロセスを見せ 人に 1 人のペースでランダムに選出した。調査員 たほうが顧客により良い影響を与えるのではない が来店客の店内行動を追跡し、来店時からレジま かと考えた。 での動線とレイアウト図を、模式化した調査票に 以上を踏まえ、仮説を以下のように設定する。 記録した。また、立寄った売場と買上行動をした 売場も同紙に記録した。立寄りの条件は、売場に 3 仮説:結果のみを見せる実演販売ではなくて、プ 秒以上立ち止まることとし、買上は売場に立寄っ ロセスを見せる実演販売が顧客に対して効果的で た場合とそうでない場合の両方を含めることとし ある。 た。最後にレジで精算した来店客に対してお買物 のアンケート調査を行った。つまり、今回の調査 (2)調査概要 において、データとして扱った客は、客動線調査 調査は首都圏に立地する某大手スーパーマーケ とアンケート調査の両方を行うことができた客と ットチェーン店を対象とし、客動線調査、店頭ア する。 ンケート調査を行った。年齢層は 20 代~80 代と お買物調査アンケートでは、滞在時間、性別、 幅広い来店客を対象としたが、調査店舗がスーパ 年代、同伴有無、来店時間、来店頻度、来店目的、 ーマーケットである関係上、一般女性、所謂主婦 来店方法、職業、食生活、客単価、売場印象を設 層が多い。客動線調査と店頭アンケート調査はい 問とし項目を作成した。滞在時間は客が来店して ずれも同一人物から取ったものであり、調査結果 からレジに並ぶまでの時間とし、年代は 10 代~60 の結び付きは強いといえる。 調査日は 9 月 25 日で、 代までを、調査員の見識で判断した。60 代以上と 調査時刻は全体を通して利用者の波があり、多く 見られる客も、生活習慣や仕事などで大きな差が の層の顧客を調査できるとして、11:00~19:00 と 出ないと考え、60 代~というくくりで表した。項 した。調査の結果、本研究に使用できる客動線調 目をそれぞれ選択形式とした。仮説の解釈、考察 11 そして提案のために、店頭の雰囲気を問う質問の 売場印象は選択型と FA の 2 つを用意した。まず、 設定をした。 次のような選択肢を用意した。店が明るくてきれ 来店頻度は、毎日、週に 2~3、週に 1、月に数 い、通路が広く買い物をしやすい、活気のある売 回、それ以下という選択肢を設け、選択型の設問 場である、売場に買いやすい工夫がある、店員の にした。この設問は客単価と合わせてみることで、 接客態度が良い、その他、の選択肢を用意した。 その顧客が大量購入や買い溜めをしているのかど 設問を「当店の雰囲気はいかがですか?」とした うかを判断することができる。 うえで、複数回答を可能とし、調査対象に選択し 来店目的は、当店の買い物のためだけに出かけ てもらった。この設問は客の心理面に大きく関係 た、帰宅途中、買い物後に出かける、その他店舗 する。店舗に対して良い印象を抱いているのであ との買い回りの選択肢を設け、その他店舗との買 れば、可もなく不可もなくといった項目の場合に い回りを選択された場合は他店の名前、種類を答 可を選択する。その為、この項目は客動線調査と えていただいた。買い回りの場合、ワンストップ 合わせた時に、実演販売の売場に立寄っているか ショッピングが出来ていないということになる。 いないか、と、店舗に対してどのような印象を抱 また、どのような目的で来店するのかを明らかに くかを関連付けることによって、実演販売が顧客 することで、調査店舗が顧客の生活において、ど に対して良い印象を与えるのか、その手法によっ の程度必要とされているのか、便利であるのかを て差が生まれるのかを明らかにすることが出来る。 判断する材料とした。 その後、FA として、印象に残っている売場がある 来店方法は、徒歩、自転車、オートバイ/原付、 かどうかを聞き、その売場がどの売場であるのか 自動車を選択肢と設け、来店するために必要な時 を FA で答えてもらう。この質問時には誘導を行わ 間は 5 分~15 分までを 5 分刻みにして答えてもら ないこととした。なぜならば、顧客が印象に残っ い、それ以上の時間の場合も答えていただいた。 ていると言い切れるということは、その売場が顧 来店時間の設定理由は、商圏を知るためである。 客に対して強い印象を与えたということになる。 来店方法に合わせた時間を知ることで、商圏を明 また、他の設問と合わせることで、非計画購買を らかにすることを目的とした。 促しているか、店舗に対する印象はどうかを判断 職業は、専業主婦、パート/アルバイト、会社員、 することが出来るからである。このアンケート票 学生、その他の選択肢を設けた。調査店舗の利用 は本論文の末尾に掲載されているので参照された 者がどのような人であるのかを明らかにするため し。 である。 (4)分析方法 食生活の項目では、日々の食事メニューの決定 方法について聞いた。店舗の材料を見て、家族の 本研究の分析は次のように行った。 要望、料理雑誌、テレビ情報、レシピ集やリーフ 我々の研究を進めていくうえで用いた分析手法 レット、その他、の選択肢を設けた。これは計画 は分散分析と t 検定である。それぞれの分析手法を 購買、非計画購買を知るための設問であり、客動 用いた理由を述べる。 線と合わせてみることで、実演販売が顧客に対し I. て非計画購買性を促しているのかを判断すること 分散分析 分散分析とは 2 つ以上の水準を考慮しなが が出来る。 12 らそれぞれの要因の優位性や要因を探ること ■表―――6 が出来る分析方法である。分析の目的によっ 売場毎の立寄り率とその人数 ては、分散分析のみから結論が導かれるもの サンプル数 立寄り率 立寄り人数 プロセス観賞型売場 90 0.4 36人 商品説明型売場 90 0.133 12人 試供品提供型売場 90 0.056 5人 ではなく、これらの手法と組み合わせて用い ることが肝要である。我々はプロセス観賞型、 商品説明型、試供品提供型の3種に、それぞ れ立寄りの差の有意性があるかどうかを明ら かにするため、分散分析を用いて分析を行っ た。 この表から、プロセス観賞型売場の立寄りが多 いことが分かる。内わけとしては、プロセス観賞 II. t 検定 型売場は 36 人、商品説明型売場は 12 人、試供品 t 検定とは、帰無仮説が正しいと仮定した 提供型売場は 5 人という結果になった。しかしな 場合に、統計量がt分布に従うことを利用す がら、 “いずれの売場にも立寄っていない顧客”が る統計学的検定法で、二組の標本について平 少なくとも 32 人いることも判明し、また、これら 均に有意差があるかどうかの検定である。 の立寄り人数は、重複している場合もある。次に 我々は t 検定を行い、実演販売とアンケート 各実演販売の手法において、立寄りに差があるこ 評価の有意性を明らかにする。 とを明確化するため、また、その差が有意である かどうかを検証するために、実演販売の手法間で (5)分析結果 売場の立寄り率に差があるのかを解明する。その 本研究における分析結果の提示を、前述した ため、売場間の立寄りの差異とそれぞれの差異の 有意確率を明らかにした(図表 7)。 分析手順に従って行っていく。 まず、今回の調査データを実演販売の手法によ ■表―――7 り大別する。即ち、我々が提唱した実演販売にお 売場間の立寄り率の差異と有意確率 ける 3 つの手法、プロセス観賞型、商品説明型、 立寄り売場 A 立寄り売場 B 平均値の差(A-B) 有意確率 プロセス観賞型売場 商品説明型売場 0.267 0.000 試供品提供型売場 0.344 0.000 商品説明型売場 プロセス観賞型売場 -0.267 0.000 試供品提供型売場 0.078 0.482 試供品提供型売場 プロセス観賞型売場 -0.344 0.000 商品説明型売場 -0.078 0.482 試供品提供型、である。実演販売の手法をこの 3 つに大別した後、各分析を進めていく。 分散分析 初めに分散分析により、プロセス観賞型、商品 説明型、試供品提供型の売場毎の立寄り率を明ら かにした。(図表 6) 分散分析において、有意確率が 0.000 ならば、 1%水準で売場の立寄りに差があるといえる。有意 確率から差があると断定できる組み合わせは、プ ロセス観賞型売場と商品説明型売場、プロセス観 13 賞型売場と試供品提供型売場。商品説明型売場と ■表―――8 プロセス提案型売場。試供品提供型売場とプロセ プロセス観賞型売場と商品説明型売場における客 ス観賞型売場の 4 つであると判明した。 単価の平均値の差 この結果から、プロセス観賞型と商品説明型の 差は 0.267 で、有意確率は 1%水準で有意であるた 平均 分散 観測数 プールされた分散 仮説平均との差異 自由度 t P(T<=t) 片側 t 境界値 片側 P(T<=t) 両側 t 境界値 両側 め、この 2 つの手法間には立寄りに差があると言 える。次に、プロセス観賞型と試供品提供型の差 は 0.344 で有意確率は 1%水準で有意なので、こち らも同様に立寄りに差があると言える。また、商 品説明型売場と試供品提供型売場とを比べた場合 は、プロセス観賞型売場と比べた場合は前者の方 が、差が大きいと言える。最後に、商品説明型と 客単価 プロセス観賞型 2547.6 11214931.14 30 9036023.074 0 38 1.383 0.087 1.686 0.175 2.024 商品説明型 1029.2 2015097.067 10 試供品提供型の差は 0.078 で、有意確率は 0.482 プロセス観賞型売場の平均客単価は 2,548 円、 と有意な結果は見られなかった為、この手法間に 商品説明型の平均客単価は 1,029 円であった。よ おいては立寄りに差があるとは言うことができな って、プロセス観賞型売場と商品説明型売場の平 い。つまりは、最も立寄り数が多い売場はプロセ 均客単価には、1,519 円の差があることが判明した。 ス観賞型売場であるといえ、有意確率からも立証 t 検定の結果の結果から、P 値を見ると値は 0.087 することが出来た。尚、試供品提供型は調査デー であり、10%水準で有意となることが判明した。 タのサンプル数が 5 件しかなかった為、分析に耐 このことから、プロセス観賞型には他の実演販売 えられないと判断し、今後の分析から除外するも の手法、少なくとも商品説明型売場と比較して、 のとする。つまり、現時点を持ち、実演販売の手 客単価を上げる効果も強く有しているといえる。 法において、試供品提案型売場は集客力が弱く、 プロセス観賞型売場と試供品提供型との平均客単 少なくとも小売店頭においては他に優れた手法が 価の差を、次のように棒グラフで表した。棒グラ あると判断する。 フにて表すと、その差が目に見えて判断できる。 以後、参考されたし(図表 t 検定 ■表―――9 次に t 検定を用いて分析を行い、プロセス観賞型、 商品説明型の 2 つの手法間に、客単価の差がある かどうかを明らかにする。(図表 8) 14 平均客単価 9)。 さらに、アンケートを用いて、プロセス観賞型 気があるという印象を多く与えられているという 売場と商品説明型売場への立寄りが、顧客の店舗 ことがわかった。よって、プロセス観賞型は他の に対する印象に影響を与えたのかを、t 検定を用い 実演販売の手法よりも顧客評価に良い影響を与え て明らかにしていく。 ることができるといえる。 本研究におけるアンケートの設問にて、印象に 残った売場と、その理由を問うフリーアンサー形 ④ 新提案 式の設問を組み入れた。その設問に答えていただ いた内容のうち、実演販売に関するコメントを1、 それ以外を0と区別した。 本節では、これまでの分析結果をもとに、より 例えば、印象に残っている売場の理由を聞いた 顧客に影響を与える有効な実演販売と売場作りの 折に、「実演販売ができてよかったから」「作っ 提案を述べる。我々が研究を行った目的は、より ているのが直接見えおいしそうに見える」「丁寧 効果的に、客単価の向上を含む顧客行動と、顧客 に下準備してくれて良かった」といったコメント 評価に良い影響を与えることが出来る実演販売の は 1 と定めた。更に、これらのコメントを“活気 方法を提案するためである。新規提案を行うにあ コメント”と名称付け、定義することとする。 たって我々は数あるセールス・プロモーションの 次に、「品揃え」「トレーがない、安い」とい 中から実演販売に絞った。なぜなら、実演販売は ったコメントは 0 と決定付けた。 セールス・プロモーションにおける手段の一つと この 0 と 1 に分けたアンケートの結果を t 検定 して、顧客に対して販売を促す手法として認識さ にかけ、実演販売の手法によって顧客が売場に対 れている。しかしながら、より顧客に影響を与え して何かしらの印象を持つ度合いを明らかにする ることができる実演販売とは何か明らかにされて (図表 10)。 いない。そのため、我々の研究から導き出された ■表―――10 結果から、新規提案を行いたいと思う。 活気コメントの有意水準 平均 分散 観測数 プールされた分散 仮説平均との差異 自由度 t P(T<=t) 片側 t 境界値 片側 P(T<=t) 両側 t 境界値 両側 我々は、実演販売の手法を、プロセス観賞型・ 商品説明型・試供提供型の三つの手法に分けた。 活気コメントフラグ プロセス観賞型売場 試供品提供型売場 0.533 0.200 0.257 0.178 30 10 0.239 0.000 38.000 1.869 0.035 1.686 0.069 2.024 分析結果により、プロセス観賞型が最も、立寄り 率が高い、平均客単価が高い、顧客評価に良い影 響を与えることが出来るということは、前述で述 べたとおりである。 我々は、このプロセス観賞型において新たな売場 づくりを提案することで、更なる小売業界の発展 を願う。 この分析の結果、この分析における t 値は 0.035 だったので、5%水準で有意だということが判明し た。このことから、商品説明型売場よりプロセス 円柱型プロセス観賞売場の提案 プロセス観賞型売場における具体策の一つ目は、 観賞型売場に立寄っている人のほうが、売場に活 「円柱型プロセス観賞型売場」である。これは、 15 ⑤ 分析結果と結論 主にスーパーマーケット売場への提案である。こ の円柱型プロセス観賞型は、各部門・売場の導線 上手前の部分に設置する。その理由は前述したよ これらの分析の結果をまとめる。まず、実演販 うに、店舗入口付近、実演販売売場後方で行うよ 売を実施している売場には、多くの顧客が立寄る りも良い効果が得られるからだ。この売場は柱を が、その中でもプロセス観賞型にカテゴライズさ ガラス張りにして、360 度から中を見ることができ れる売場には多くの顧客が立寄った。比較対象と るようにする。この柱の中で従業員が商品の実演 なった実演販売の売場は 3 つで、それぞれ、プロ 販売を行う。例えば、魚を捌くとする。そして捌 セス観賞型、商品説明型、試供品提供型の 3 つに くまでのプロセスを見せ、捌いた商品はトレーに 分類した。この中で最も顧客の印象に残った売場 詰めて、周りの棚に配置する。また顧客からの要 はプロセス観賞型売場であり、先行研究と合わせ 望があった場合はすぐに答えられるようにできる て捉えた時に、顧客、あるいは店舗自体に対して、 11)。商品が完 結果的により良い評価や印象を与えることが可能 といった実演販売売場である(図表 成するまでのプロセスを顧客に見えるようにする。 であり、売上増加や顧客評価に影響を与えること そうすることにより、実演販売売場の死角がなく が出来る売場であると判断できる。これは、この なり、顧客の目に入る情報量が増える為、店員と 度我々が行なった研究内容からもいえることであ 顧客の双方のアプローチがしやすくなるといえる。 り、FA の設問において、顧客の店舗に対する印象 分析結果によりプロセス観賞型の売場は、他の手 とプロセス提案型売場との間には強い結びつきが 法よりも客単価や集客力を高めることが判明した。 あるということが判明している。 この円柱型プロセス観賞売場を新たに設けること の結論として次のことを明示する。 よって、我々 で客単価と集客力の増加が見込める。またプロセ ス観賞型売場に立寄った顧客は、店舗に対して良 プロセス観賞型の売場は他の実演販売の手法より い評価を与える、店舗イメージの向上も見込める。 も、顧客に対してより良い影響を与えることが出 ただし、店員の態度が悪ければどんなに良い実 来る。 演販売を行っても店舗の評価は良くならないので 注意する。また、客が途絶えてしまうので実演を 今回プロセス観賞型売場と比較した実演販売の 稼働し続ける必要がある 手法は、商品説明型売場と試供品提案型売場であ ■表―――10 る。本論文の冒頭でも述べたが、いずれの手法も 新提案売場 実演販売であることを前提として、その手法によ って分類したということをここで改めて確認して おく。 また、本論文の研究目的を達成するために立て た仮説は次のものである。 仮説:結果のみを見せる実演販売ではなくて、プ ロセスを見せる実演販売が顧客に対して効果的で ある。 16 この結論からプロセス観賞型売場は他の実演販 きないのである。実演販売を行うことが出来る職 売の手法を用いた売場よりも、顧客に対してより 人と、その職人のパフォーマンスを最大限生かせ 良い影響を与えることができると判明した。また、 るプロセス観賞型の売場の両社が揃うことで、初 同時に強い印象を残すということも分かった。よ めて我々が提示したい、本当の意味での温もりが って、ここに仮説の立証が成されたことを報告す 存在することができる、理想的な売場になるので る。 はないだろうか。 我々の研究の成果として、実演販売がその手法 により、顧客に与える影響がことなるということ ⑦ ―――おわりに を解明することが出来た。この研究がより良い店 舗づくりに結び付き、小売店をはじめとしたリア ルマーケットの再興の力になる可能性がある事を 我々は、実演販売という SP の一つに着目して研 確認できた。また、コミュニケーションの必要性 究を進めてきた。そして、実演販売の中にも様々 を売場においても再確認できた。これらのことか な手法があり、その手法によって顧客に与える影 ら我々の研究は成功したと言えるだろう。以上を 響には差がある事を明らかにした。しかしながら、 持って本論の結論とする。 その効果の詳細や心理学的方面からの研究にまで 手を伸ばすことが出来なかった。現在、顧客と店 との関係は大きな転換期を迎えている。インター ⑥ ―――今後の展望と可能性 ネットの普及により、リアル店舗に対する需要は 変化を齎され、多くのネット上店舗が生まれた。 本研究を通して、我々は実演販売をはじめとし しかしながら、リアル店舗の需要がなくなったと た SP の研究は、更に追及する必要があるものであ は言い切れない。また、今後その需要がなくなる るという意識を持った。SP に分類される手法のう こともないであろう。人が無意識化で求める温も ち、それらをさらに細分化することで、様々な店 りやコミュニケーションといったものをどのよう 舗の形にあった SP を導くことが出来るのではな に利用することが出来るのか。その糸口の一つと いだろうか。そうすることで、価格や品ぞろえ、 もなれば、これほど喜ばしいことはない。 品質などとは異なった、あらたな差別化のポイン 全国に数多存在する、大中小を問わない小売店 トと成りえると考える。 を運営する方々の店づくりや、その店舗の戦力を 我々の研究では、実演販売の手法を取り上げた。 作る一端となりえるのであれば幸いである。 そして、実演販売の手法のうち、プロセス観賞型 最後まで本論文に目を通してくださった方々、 売場が他の実演販売の手法に比べてより良い効果 本研究を進めていくうえで数々の助言をしてくだ を期待できると明らかにした。しかしながら、必 さった恩師、店舗調査においてご協力を頂いた流 ずしもプロセス観賞型の売場が万能であるかとい 通経済研究所様には重ね重ねお礼を申し上げたい。 えば、そうではない。既存研究にて実演販売の欠 異常を持って、本論文の結びとさせていただく。 点にも触れたが、実演販売を行う店員の行動によ っては、いくらその実演販売を行う売場が優れて いても、顧客評価には良い影響を与えることがで 17 参考文献一覧 寺本高 [2012] 『小売視点のブランド・コミュニケーシ ョン』 千倉書房 財団法人流通経済研究所 [2011] 『ショッパー・マー ケティング』 日本経済新聞出版社 財団法人流通経済研究所 [2008] 『インストア・マーチ ャンダイジング』日本経済新聞出版社 恩蔵直人 守口剛 [1994] 『セールス・プロモーショ ン-その理論,分析手法.戦略-』同文舘 [2012]『消費者行動論-購買心理から 守口剛 竹村和久 ニューロマーケティングまで-』八千代出版 渡辺隆之 守口剛 [1998] 『セールス・プロモーショ ンの実際』日本経済新聞社 馬淵哲 南條恵 [1993] 『入りやすい店売れる店』 日 本経済出版社 18 補禄―――アンケート調査票 お買物調査 アンケート票 Q1. 当店を週に何回ご利用い Q2. 本日のお買物は、以下のどれ Q3. 当店へどのような方法で来店 ただいていますか? にあてはまりますか? 1. ほぼ毎日 1. 当店の買物だけに出掛けてき 1 .徒歩 2. 週に2~3回 た 2. 自転車 3. 週に1回 2. 帰宅途中 3. オートバイ・原付 4. 月に数回程度 3. お出かけ前 4. 自動車 5. それ以下 4. その他店舗との買い回り (お店の名前 されましたか?お時間は? 5 / 10 / 15 / それ以上 ) 分 Q4. ご職業を教えていただけ Q5. 毎日のお食事メニューをどの Q6. 当店の雰囲気はいかがです ますか? ようにお決めになっていますか? か?(複数回答可) (複数回答可) 1. 専業主婦 1. 店頭の材料を見て 1. 店が明るくてきれい 2. パート・アルバイト 2. 家族の要望 2. 通路が広く買物をしやすい 3. 会社員(フルタイム) 3. 料理雑誌 3. 活気のある売場である 4. 学生 4. テレビの情報 4. 売場に買いやすい工夫がある 5. その他 5. レシピ集やリーフレット 5. 店員の接客態度が良い ) 6. その他( ( ) 6. その他( ) Q7. 改装以前の当店にご来店 Q8. 当店の売り場の中で、印象に Q9.Q8 に関して、その理由をお されたことはございますか? 残っているものはございますか? ( はい / いいえ) はい 聞かせ頂けますか? (FA) とお答え頂いた方、改装 前に比べて良くなった点はご ざいますか?(FA) アンケートは以上となります。ご協力ありがとうございました。 NO. 性別 調査日 男性 女性 年代 9/25 調査時刻 10・20・30・40・50・60 メモ(備考欄) 19 : 同伴 調査員 1 人・夫婦・子供連れ・その他
© Copyright 2024 Paperzz