Module6 The Elements of Stroke Rehabiliattion 14版

6.The Elements of Stroke Rehabilitation
脳卒中リハビリテーションの要素
Robert Teasell MD,Norine Foley MSc,Sanjit Bhogal MSc,Mark Speechley PhD
Key Points よ く 知 ら れ て い な い こ と も あ る が ,多 く の 要 素 が 脳 卒 中 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ユ ニ ッ ト の 成 功
に影響を与える.
虚血性脳梗塞患者に比べて,脳出血患者の方がアウトカムが悪くなるかは明らかではない.
Care pathways に よ っ て 脳 卒 中 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ア ウ ト カ ム は 改 善 し な い , ま た コ ス ト
は 軽 減 し な い .し か し ,脳 卒 中 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ガ イ ド ラ イ ン を 順 守 す る こ と で ア ウ ト カ
ムは改善する.
適 応 と な る 脳 卒 中 患 者 は 可 能 な 限 り 早 期 に ,リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ユ ニ ッ ト あ る い は リ ハ ビ リ
テーション施設へと入院すべきである.
早期の運動療法は脳卒中後の医学的合併症の予防に役立つかもしれない.
高強度の理学療法および作業療法を実施することで機能的アウトカムは改善する.
低強度より高強度の言語療法の方が良いかは明らかではない.
多 職 種 に よ る 脳 卒 中 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン ユ ニ ッ ト に お い て も た ら さ れ る ,よ り 大 き な 機 能 的
改善は長期間持続する.
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Table of Contents Key Points ...................................................................................................................... 1
6.1 Functional Improvements and Neurological Recovery..................................................... 3
6.2 Hemorrhagic vs. Ischemic Stroke .................................................................……………… 4
6.3 Elements of a Stroke Unit Associated with Improved Outcome ..........................………. 7
6.3.1 What Form of Stroke Unit is Best? .................................................................................................. 7
6.4 What Elements of Care are Associated with Improved Outcomes? ................…………. 8
6.5 Impact of Care Pathways and Guidelines ......................................………………………... 11
6.6 Timing of Stroke Rehabilitation ......................................................................................... 14
6.7 Intensity of Therapy............................................................................................................. 19
6.7.1 Intensity of Physiotherapy and Occupational Therapy ................................................................... 19
6.7.2 Previous Reviews and Meta-Analyses ........................................................................................... 20
6.7.3 Intensity of Aphasia Therapy Post Stroke....................................................................................... 32
6.8 Durability of Rehabilitation Gains ..................................................................................... 36
6.8.1 Previous Reviews............................................................................................................................ 36
6.9 Summary .............................................................................................................................. 43
References.................................................................................................................................. 44
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6.The Elements of Stroke Rehabilitation 脳卒中リハビリテーションの要素
6.1 Functional Improvements and Neurological Recovery 機能的改善と神経学的回復
脳卒中後の機能的な回復の大部分は,神経学的な機能障害の自然回復が単に関与していると述べる著者もい
る(Lind 1982,Dobkin 1989).脳卒中専門ユニットとリハビリテーションの強度(後述)が機能的アウトカム
の改善に関連しているという事実は,神経学的な回復のみでは脳卒中リハビリテーションで見られる機能改善
の程度を説明できないと示唆している.脳卒中後の脳の回復の論点に対する多くの基礎科学的アプローチは,
section2 に示している.脳卒中後の期待される回復の時間経過について,Yagura(2003)らは機能的な回復は 3
か月で最大の 80%,6 か月で 95%,12 か月で 100%に達すると述べている.
脳卒中後の impairment と disability との関係性の評価において,Roth(1998)らは「脳卒中に関連した
impairment と disability は大きな相互関係があるが,impairment level の改善のみでは,リハビリテーション中
に起こる disability の改善を十分に説明することができない.Impairment が十分に改善しない患者でも,リハ
ビリテーション中に disability が改善している.このことは,神経学的回復のみによって説明される以上に,
3
リハビリテーションには機能改善において独立した役割があることを示している.」と結論を出した.
Kwakkel(2006)らは修正された回帰分析の方法を用いて,脳卒中後 6~10 週間の多くの回復の要因に関して,
16~42%の改善は時間因子のみで説明できると予測した.しかしながら,その研究の患者が治療的介入を受け
ていたら,回復における時間の効果は過大評価されているかもしれないと,著者らは推測した.
Conclusions Regarding Functional Improvement and Neurological Recovery
機能的改善と神経学的回復に関する結論
脳卒中リハビリテーションでみられる disability の改善は,神経学的な impairment の自然回復のみで
は説明できないという限定的根拠(Level 2)がある.
6.2 Hemorrhagic vs. Ischemic Stroke 脳出血 VS 脳梗塞
脳卒中患者の約 10%は脳出血(ICH)である(Kelly et.al 2003,Paolucci et al.2003).脳出血患者の比率は,
未治療の高血圧患者が多い,東ヨーロッパとアジア諸国で高い傾向にある (Kalra&Langhorne).脳出血初期
は、急性期でより重篤な神経学的な impairment とより高い死亡率に関係する(脳出血初期のほぼ半数の患者
は最初の 1 か月で死亡する)が,一般的に脳出血の患者は,虚血性脳卒中患者と比べて回復がよいと考えられ
ている(Table6.2).
4
5
Discussion
Jorgensen(1995)らは,交絡要因をコントロールした後,脳卒中のタイプ(脳梗塞と脳出血)は死亡率,神
経学的回復の時間経過,神経学的アウトカムや disability からの回復経過に影響しないことを報告した.脳出
血患者の中でアウトカムが悪かったのは,脳卒中初期に重度であったことが原因であった.また,Andersen
(2009)らも初期に死亡リスクが増大するのは脳出血と関連しているが,時間依存性であり,3 ヶ月後には見
られなくなると報告した.The Glycine Antagonist in Neuroprotection(GAIN)のデータによると,Chiu(2010) ら
は,脳出血と関連した長期的な予後の悪さが,脳卒中初期の重症度によって説明することができるか調査した.
彼らは,脳出血は神経学的アウトカムが悪くなる独立予測因子であり,長期的な disability の可能性をほぼ 2
倍にしていると報告した.しかし,脳卒中初期の重症度と他の基本特性を調整した後,脳出血は虚血性脳梗塞
と比べて,高い死亡率とは関連していなかった.
Paolucci(2003)らは,脳卒中初期の重症度,年齢,性別,発症後期間に基づいて患者を適合させ,脳出血患
者の方がリハビリテーションアウトカムが優れており,ADL において高い治療的反応を示したと報告した.脳
出血患者は,Canadian Neurological Scale scores でより高い数値を示し,Rivermead Mobility scores も同様
に高い数値を示した.在院日数はグループ間で同様であった.著者は,虚血性脳卒中患者と比べて,より良い
結果をもたらすのは,脳圧解除による神経学的回復のためであると考えた.Kelly(2003)らは同様の結果を
報告した.リハビリテーション病院に入院した脳出血患者は,虚血性脳卒中患者に比べて FIM スコアは有意に
低かったが,グループ間で退院時の FIM スコアには差がなかった.脳出血患者は,高い FIM スコアの変化が
みられた.脳出血患者は入院時の FIM スコアは低いが,獲得する FIM の点数は同じであるという,同様の報
告が Katrak(2009)らによってされた.初期の disability から,リハビリテーションによる回復程度を有意に
予測できなかったが,脳卒中初期の重症度は退院時の機能的状態の強い予測因子である.Lipson(2005)らもま
た,脳出血患者と虚血性脳卒中患者の退院時 FIM スコアに有意差がないと報告している.しかし,虚血性脳卒
中患者と比べて,脳出血患者はリハビリテーション病棟への入院が有意に遅いという事実があるにもかかわら
ず,入院時の FIM スコアの平均値に差はなかった.
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Conclusions Regarding Hemorrhagic versus Ischemic Stroke
脳出血 VS 脳梗塞に関する結論
脳出血患者は,虚血性脳卒中患者と比べると,長期的なアウトカムが悪いという矛盾した根拠(Level 4)がある.
6.3 Elements of a Stroke Unit Associated with Improved Outcome
アウトカム改善に関係する脳卒中ユニットの要素
6.3.1 What Form of Stroke Unit is Best? 脳卒中ユニットはどのようなタイプが良いか?
専門的な脳卒中リハビリテーションユニットは,混合性のリハビリテーション病棟や一般的な病棟や移動式
の脳卒中チームと比べて,より良いアウトカムと関係している.Stroke Unit Trialists’ Collaboration(SUTC)
システマティックレビューでは,より組織的なケアからそうでないものまで,脳卒中ケアは 4 つの広義のカテ
ゴリーに分類された.
1)Stroke Ward 脳卒中病棟
a)急性期脳卒中ユニット:急性期の患者を受け入れるが早期に退院する(通常 7 日以内).
ⅰ)集中的:持続的なモニタリング,看護スタッフのレベルが高い,生命維持の可能性がある.
ⅱ)半集中的:頻繁なモニタリング,看護スタッフのレベルが高い,生命維持の可能性はない.
b)リハビリテーション脳卒中ユニットでは,通常 7 日以上経過した患者が受け入れられ,リハビリテーショ
ンに焦点がおかれる.
c)包括的(例えば,急性期およびリハビリテーションを組み合わせたもの)な脳卒中ユニットでは,急性期
の患者を受け入れるだけでなく,必要であれば数週間に渡ってリハビリテーションを提供する.
リハビリテーションユニットと包括的モデルの両方とも,リハビリテーション期間の延長を提案する.
2)Mixed Rehabilitation Ward 混合性のリハビリテーション病棟
専門的な看護スタッフを含めた,総合的なチームは包括的なリハビリテーションサービスを提供するが,脳卒
中患者だけを看護するわけではない.
3)Mobile Stroke Team 移動式の脳卒中チーム
専門的な看護スタッフを含めた,総合的なチームはさまざまな環境でのケアを提供する.
4)General Medical Ward 一般的な病棟
所定の総合的な入力がない,急性期の一般病棟や神経科病棟でのケア.
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脳卒中ユニットのケアは,一般的な病棟で提供されるケアに比べると,定期的なフォローアップの最後には,
アウトカムの有意な改善(死亡率,死亡あるいは施設入所,死亡あるいは依存度の減少)に関係すると示され
てきた.献身的な脳卒中ユニットは,移動式の脳卒中チームに比べると,より良いアウトカムと関連していた.
以下の 2 つの対比に関連したより良いアウトカムの傾向があった:ⅰ)献身的な脳卒中ユニット vs.混合性の
リハビリテーション,ⅱ)半集中的脳卒中病棟 vs.包括的な脳卒中病棟.
6.4 What Elements of Care are Associated with Improved Outcome?
ケアのどの要素がアウトカムの改善に関連しているのか?
専門的な脳卒中ユニットのケアによって,なぜ患者のアウトカムが改善するのかは明確になっていないまま
である.これらの過程をサポートするケアの過程とシステムが成功に関与しているように思われるが,この問
題は複雑である.脳卒中リハビリテーションの場合,研究単位が広く,複雑なケア実施システムの調査も含ま
れる.さらに,類似した介入が提供されているように思われる研究の比較でも,実際は全く異なる可能性があ
る.しかし,組織化された脳卒中ユニットのケアに関連したいくつかの特徴が特定され,より良いアウトカム
に関与していると思われる.
・連携した多くの専門分野にわたるスタッフ
・定期的に予定されている会議
・決まった介護者の関与
・スタッフの専門化
・標準的で早期の評価
・優れた診断法
・早期からの体動
・合併症の予防
・最良のエビデンスの活用
・二次予防への配慮
The Stroke Unit Trialists’ Collaboration(2007)では,組織的な脳卒中ユニットの際立った特徴を特定してい
る.それは以下の通りである.1)連携した多くの専門分野にわたるチームケア;2)脳卒中に特に興味を持っ
ているスタッフ;3)決まった介護者の関与;4)継続した教育と訓練プログラム.
Evans ら(2001)は,死亡率と依存度の減少に関連している急性期脳卒中ケアの特定的な要素には,血栓溶
解,生理的ホメオスタシス,心房細動患者への抗凝固,早期のアスピリン使用,早期からの体動が含まれると
示した.ケアプロセスは献身的な脳卒中ユニットとほとんど組織化されていない脳卒中チームとの間で評価さ
れた.脳卒中ユニットには急性期とリハビリテーションサービスが含まれ,脳卒中チームは一般的な病棟とし
て位置づけられていた.脳卒中ユニットの患者は入院後 7 日以内に,神経学的に綿密に観察された.多くの患
者が酸素療法,経鼻胃栄養法,誤嚥予防の評価を受けた.リハビリテーション期間として定義された期間中(発
症後 4 週間以内),脳卒中ユニットの多くの患者は,形式的なベッドサイドでの嚥下評価,社会福祉,作業療
8
法評価を 7 日以内に受け,書面によるリハビリテーションゴールの根拠と退院/リハビリテーション計画につ
いて説明を受けた(Table 6.3).両群とも包括的に評価され,調査されていたが,脳卒中ユニットの患者は意
識レベル,嚥下,コミュニケーションの評価に多大な注意が払われていた.医学的な合併症については,一般
病棟への入院患者においてより共通してみられ,脳卒中ユニットにてケアを受ける患者においてはアウトカム
の改善に最も関連した因子として現れた.しかしながら,この因子と他の明確にされない因子がアウトカムに
寄与する程度についてはわかっていない.
Indredavik(1999)らもまた,発熱を抑えるための生理食塩水の静脈注射,酸素療法,へパリンとパラセタモー
ルの使用を含む積極的な内科的治療が,一般病棟にて治療を受ける患者と比較して,脳卒中ユニットにおける
患者管理においてより頻繁に行われていたということを明らかにした.早期からの体動は,深部静脈血栓や肺
炎などの合併症を軽減させるか,良好な心理的効果をもたらすかは不明であるが,6 週経過時点における自宅
退院に関わる最も重要な因子であった.各ケアグループが受けた作業療法および理学療法の合計平均時間には
差が見られず,よりよいアウトカムをもたらす脳卒中ユニットの明確にしがたい要素をさらに強調する.
後ろ向き調査研究において,Ang ら(2003)は,総合的な脳卒中ユニットで治療を受けた患者の入院期間が
短縮し,機能的アウトカムも好結果であったと報告ている.彼らはこの改善の主な理由として,集中的なリハ
ビリテーション治療が開始される前に,他の施設への転院またはベッドの空きを待つなどの必要がないといっ
たケアの連続性によるものであると推測している.しかしながら,この報告には,ケアプロセスにおける相違
を評価するための 2 つのケアグループに提供された介入において不十分な項目が含まれており,観察された違
いに原因がある(影響している)可能性がある.最近では,Strasser ら(2008)が総合的なリハビリテーショ
ンユニットの教育方法を調査している.多面的なスタッフの訓練プログラムに関して,6カ月以上の間訓練と
情報提供をされた場合と、情報提供のみの場合を比較した.訓練を受けた群では,退院した患者の FIM 運動項
目の平均値において,利得が有意に大きかった(+13.6).彼らは,“介入によって必要な技術が教えられ,チ
ーム力学に前向きな影響を与えるために役立つ概念モデルが提供された”と推測した.
流動的な脳卒中チームの確立に続き,1996 年から 2001 年(脳卒中ユニットが確立される以前)にかけて,
Auckland 病院での脳卒中ケアにおける変化について論評され, Barber ら(2004)は新しい脳卒中サービス
の完成として脳卒中ケアプロセスにおける変化が存在したが,その変化に対応するような死亡率の低下は認め
9
られなかったと報告している(14% in 2001 VS 17% in 1996).しかしながら,患者の多くは入院から 24 時間
以内にアスピリン投与を受け,抗凝固療法により退院となった.患者の 24%のみが 24 時間絶食であり,1996
年では 46%であった.
Rudd ら(2005)は,National Stroke Audit(England Wales Northern Ireland) の 2001-2002 におけるデータか
ら,脳卒中に対する組織化,ケアプロセス,アウトカムについて評価を行った.彼らはよりよいケアプロセス
が脳卒中ユニットのケアと強く関係しており,死亡リスクをかなり減少させるということを見出した.脳卒中
ユニットで治療を受けた患者の死亡率は,非脳卒中ユニットによる治療を受けた患者の死亡率の 75%であっ
たと見積もられた.これらの研究のすべてが,好結果に関連した様々な治療または介入の個々の寄与を明らか
にすることに焦点があてられている中,Wade(2001)は,このような方向性をたどることによる“typeⅢエ
ラー(複雑な介入における相互作用の実験的仮説を不当に認めないことが考慮されない)”を招く危険性を警
告している.彼は,独立した要素が効果的であることを証明するために,専門化された脳卒中リハビリテーシ
ョン治療の要素を分解しようとする試みは,脳卒中リハビリテーションの異なった専門分野にまたがる補足的
な性質を評価することができないため,不完全であるかもしれないと示唆している. Ballinger ら(1999)は
脳卒中患者を治療する 4 施設において,13 名の理学療法士および作業療法士によって提供される治療の種類
および期間は,施設間およびセラピスト個人間において異なり多様であると結論づけている.
通常の臨床に置き換えると,臨床研究からケアプロセスに関連した同様の効果を得ることは困難である.Kalra
と Langhorne(2007)は,“多くの脳卒中ユニットは地域の患者の必要性,優先事項そしてサービスへの応答
に対して展開し,他のセッティング(地域)においては応答していないかもしれない”と記している.
アウトカムの改善に関連した脳卒中ユニットのケアの要素の一つに,合併症の予防が挙げられる.合併症は急
性期脳卒中後によく起こるとされている.Indredavik ら(2008)は,包括的な脳卒中ユニットに入院し,その
後早期の退院支援サービスを受けた 489 人の急性期脳卒中患者を追跡した.ケアの最も良いモデルとして恩恵
をもたらすとしているにもかかわらず,医学的合併症はよく起こっていた.発症後 7 日間で 64%の患者に少
なくとも一つの合併症が起こっていた.最もよく起こる合併症は,疼痛,体温上昇,脳卒中の進行,尿路感染
であった.脳卒中の重症度が重い,高齢,女性は合併症の強い予測因子であった.Sorbello ら(2009)もまた,
早期の体動の有無に関わらず,脳卒中後の急性期に合併症は高頻度で起こると報告した.82%の患者に少なく
とも一つの合併症が起こっており,最もよく起こるのは転倒と尿路感染であった.これらの結果から,脳卒中
後に起こるいくつかの合併症の予防は困難もしくは不可能であると示唆された.さらに,これまで信じられて
いたほど,合併症は脳卒中後のアウトカムに影響を与えないかもしれないと示唆された.この結果とは対照的
に,Govan ら(2007)は SUTC の一部の情報から,専門の脳卒中ケアを受けた患者は,肺炎や他の感染症や
褥瘡の発生率が低かったと示した.合併症の予防と治療はアウトカムの改善に寄与する因子であると考えられ
た.
脳卒中リハビリテーションユニットで患者が獲得する利益をその総和にすることは魅力的であるが,Whyte と
Hart(2003)は,脳卒中リハビリテーションの効果的な要素を明らかにしようとして直面した困難さに寄与す
るいくつかの因子を挙げた.
10
・報告書で説明されている治療の定義が不十分であるのと同様に,広範囲の治療が提供されている.
このため,治療の再現性と普及が難しいかもしれない.
・類似した治療を評価するにあたっても,提供される治療の強度と治療の構成は研究間で異なる可能性がある.
・患者参加,モチベーション,関与の重要性を得ることは難しく,結果に影響を与えるかもしれない.さらに,
研究間で他の因子が一定であるかもしれない.
・個々のセラピスト間の変化は,治療している患者からの反応と手がかりにセラピストが対応した結果生じて
いる可能性がある.この結果は類似した治療の微妙な違いによりもたらされ,研究結果に影響を与える可能
性がある.
・セラピストの効果は,“セラピストの個性や言語コミュニケーション技術や熱心さと感情移入の程度によっ
てもたらされた非特異的な治療効果.”と言われている.
Conclusions Regarding the Components of Stroke Units as They Relate to Improved Outcome
アウトカムの改善に関与する脳卒中ユニットの構成要素に関する結論
組織化された脳卒中ユニットケアを評価した最近の Cochrane Review に基づくと,
“脳卒中ユニット”
という言葉は幅広く,脳卒中発症直後あるいは数週間後に受ける病棟で提供されるサービスと説明さ
れるかもしれない.
脳卒中ユニットを評価した研究でアウトカムの改善が報告されているが,原因となるメカニズムは明
らかにされておらず,立証されていない.脳卒中ユニットで治療を受けた患者は医学的合併症が少な
いという中等度の根拠(Level 1b)がある.
ほとんど知られていない多くの要素が,脳卒中リハビリテーションユニットの成功に関与し
ている.
6.5 Impact of care Pathways and Guidelines Care Pathway のガイドラインと影響
ICP では近年,脳卒中リハビリテーションケアの質と一貫性の改善の試みを紹介されている.この ICP は,国
際ガイドラインを地域へ薦めるという意味が含まれている.その中には,コストを減らすための入院期間の短
縮がいくつかの中心要素に含まれる.ICP はまた,
“care mapping”とも呼ばれている(Falconer ら.1993).
care pathway の定義は施設によって異なるかもしれないが,いくつかの共通した要素を含んでいる:患者中心
であること,根拠に基づいて運営されていること,集学的(異なる複数の専門分野からる)であること,臨床
プロセスにおいて詳細に記録され,結果の検証を促進するような方法が構築されていることが含まれる
11
(Edwards ら.2004).しかしながら、ICP の発展と成功の実現には,時間とコストがかかるとともに,それ
に関連する機関への費用も懸念しなければならなかった.Sulch ら(2000)は,ICP は“適切な専門領域の協
調性の促通,退院計画の改善と入院期間短縮という目標定義とそれを時間管理するよう組織化されたもの”と
して発展を説明した.他には,正式なシステムに満たなかったものにおいて,ケアプロセスのチェックリスト
を含んでいるものもある(Cadihac ら.2004).Kwan ら(2007)は,care pathway の発展は,他職種チーム
により常時サービスが提供される脳卒中のリハビリテーション期よりも,ケアの複雑なプロセスよりも大きな
潜在性のある脳卒中急性期管理を,より適切にすべきと提唱している.
12
ただし,直感的に care pathway は脳卒中ケアの質を改善すべきであるが,この結論を支持する根拠はない.
care pathway は,日常業務を変えるというよりも,単に補強するものであるかもしれない.また,治療の個別
化よりも,詳細なケアを設定する方が結果の改善を妨げることになるかもしれない.それゆえ,多領域により
組織化された脳卒中リハビリテーションユニットは結果の改善を示し,care pathway はその成功に寄与する構
成要素が明らかにされていないのかもしれない.care pathway の使用が,実際には患者の満足度と QOL が乏
しくなるということに関連しているという根拠がある.
近年,3 つのランダム化試験と 12 の非ランダム化比較試験の報告を含めた Cochrane review(Kwan and
Sandercock 2004)では,care pathway は従来のケア以上に,死亡リスク,最終的な退院日の変更を軽減させ
ることに役立っていないことを示唆している.事実,care pathway で管理された患者は,尿路感染者や再入院
が少なく,神経画像上良好であったにもかかわらず,退院に対してより依存していることが多かった.患者の
満足度および QOL は重要 care pathway グループにおいて有意に低かった.著者は,“現在,脳卒中リハビリ
13
テーションにおける care pathway のルーティンな実用を正当化する根拠は不十分である”と提示している.
この事は,ケアの構造(系統的な組織,スタッフの専門的知識と洗練された技術が,より良い機能的アウトカ
ムに関連していなかったがというケアの構造)を示した Hoeing ら(2002)によって確認されたが,一方,興
味深いことに,AHCPR による脳卒中後のリハビリテーションガイドラインの追従によると、同様のアウトカ
ムを改善したとある.この明らかなパラドックスは,“1つのアプローチを全ての患者に適応させる”という
リハビリテーションとは対照的に,脳卒中リハビリテーションの個別性というリハビリテーション臨床家を支
援するためのガイドラインや証拠の使用が重要であるという事を意味しているかもしれない.
Sulch(2000,2002)らは 152 症例の脳卒中患を、退院計画の改善と入院期間の短縮という可能性をひめた明
確な目標と時間管理計画として組織化された(ICP)リハビリテーションプログラムと,従来の多職種チーム
(MDT)による従来のリハビリテーションプログラムとに無作為に割り振った.MDT ケアを受けた患者は,4
~12 週の間で著明な早期の改善示し(Barthel Index における平均変化 6vs2,p<0.01),EuroQol Visual
Analogue Scale により評価した QOL について、より高いスコアを示した(72vs63、p<0.005).
Forster と Young(2002)は,“非常に孤立している流行の中で,特異的な治療アプローチと評価を試みるこ
とはバランスが必要である.臨床実践においては,患者個人に対して有用さを示す戦略を決定ための医療者に
よるトライ&エラーという,効果的なアプローチの多様性がみられる.”と述べている.Wade(2001)は,
リハビリテーションの“ブラックボックス”を過度に解明する事の危険性について警告している.
Conclusions Regarding the Impact of Care Pathways
Care pathway の影響に関する結論
3 つの RCT の結果に基づいて,care pathway は脳卒中リハビリテーションアウトカムを改善しないと
いう強い根拠(Level 1a)がある.
care pathway で病院費用の軽減せず、入院期間の短縮もしないという中等度の 根拠(Level 1b)があ
る.
脳卒中リハビリテーションガイドラインとケアの過程への追従は,アウトカムを改善させるという限
られた根拠(Level 2)がある.
care pathway は脳卒中リハビリテーションのアウトカムを改善することはなく,費用を軽減させるこ
ともない.しかしながら,脳卒中リハビリテーションガイドラインの順守はアウトカムを改善させる.
6. 6 Timing of Stroke Rehabilitation 脳卒中リハビリテーションの時期
いくつかの研究結果(Feigenson ら:1977,Hayes and Carrol:1986,Wertz:1990)において,最適な結
果をもたらすために脳卒中リハビリテーションは発症後直ちに開始されるべきであるとされている.Cifu と
14
Stewart(1999)により,脳卒中後の早期のリハビリテーション介入と機能的アウトカムの改善には正の相関
関係が認められたという中等度の根拠がある 4 つの研究が報告されている(Table 6.6).彼らは“概して,論
文では脳卒中発症後3日から 30 日以内のリハビリテーション早期介入が機能的アウトカムの改善に強く関連
している”と記している.Ottembacher と Jannell(1993)は脳卒中患者 3,717 名による 36 の研究について
メタアナリシスを行い,リハビリテーションの早期介入と機能的アウトカムの改善に正の相関関係を認めた.
最近では,Maulden ら(2005)が,アメリカにおける 6 つのリハビリテーション施設における 1,291 名の患
者を対象とした前向きな観察研究である Post-Stroke Rehabilitation Outcome Project(PSROP)について報告
している.これによると,脳卒中発症からリハビリテーションを受けるまでの時間の長さは,中等度および重
度な患者における退院時 FIM スコアの低下および入院期間の増大と関連していた.また,脳卒中後リハビリテ
ーション開始までの日数もまた,回帰分析によって,退院時の FIM スコア(合計,運動項目,移動項目それぞ
れ)および入院期間の予測変数となり得た.このリハビリテーション早期介入と機能的アウトカムにおける強
い相関関係は,最も重度な患者において認められた.しかしながら,Diserens ら(2006)による review では,
早期体動の潜在的な効果に関する研究(非ランダム化)が,早期(発症後 3 日以内)と遅延(発症後 3 日以上)
による効果の比較を可能にするとしている.
Individual Studies
リハビリテーション介入の時期の効果を調査したいくつかの非ランダム化比較試験が明らかにされている(表
6.5).
15
16
17
Discussion
個々の実験およびメタアナリシスによって示されているように,リハビリテーション早期介入と機能的アウト
カムにおいて強い相関関係が認められているが,この相関関係は,原因と効果の一つではないかもしれない.
高度の障害を有する多発性の脳卒中患者では合併症を有していることが多く,あるいはリハビリテーションへ
の参加も障害され,脳卒中リハビリテーションユニットへの遅れが生じている可能性がある.対照的に,合併
症のほとんどない軽度から中等度な患者では,リハビリテーションユニットへの早期の参加が可能となること
が多い.個々の研究結果からは,コホートの変化のため比較が困難である.Paolucci ら(2000)と Gagnon
ら(2006)による研究では,発症からの期間の分類は同様であったが,結果は対立したものであった.早期に
リハビリテーションを開始した患者のコホートにおいて,Paolucci ら(2000)の報告ではより大きな回復率
を示したものの,Gagnon ら(2006)の報告では認められなかった.
Yagura ら(2004)は,発症からリハビリテーション開始までの期間にて分類した 3 群におおて歩行と ADL
における違いを比較し,91 日から 180 日以内または 180 日以上に開始した患者群と比較して,90 日以内に開
始した患者群において歩行,上肢機能そして ADL のより大きな獲得をもたらしたと報告している.しかしな
がら,早期にリハビリテーションを開始した患者はより良好な結果となったと同時に,開始時期に関わらず,
すべての患者においてリハビリテーションによる有意な効果がもたらされた.
Shah ら(1990)は,発症時期とリハビリテーション開始時期との間隔が,脳卒中初発から回復段階である 258
名の患者においてリハビリテーションの可能性(効果)の指標であるとし,発症から開始までのインターバル
が短いことが機能的アウトカムの改善と関連しているとしている.同様に,Salter ら(2006)は,患者の年齢
を調整した上で,リハビリテーションへの早期の参加は FIM を尺度とした ADL 能力における改善に関連して
いるということを報告している.最近の臨床ガイドライン(Duncan et al.2005)では“医学的な安定に達し
た時点で,可能な限り早期のリハビリテーション治療の開始が推奨される”としている.
Bernhardt ら(2008),Sorbello ら(2009),Cumming ら(2011)によって,3つの AVERT 試験が発表され
ている.一つ目の発表は,早期体動と従来のグループ間において,3ヶ月以内の死亡率・合併症の数や重症度
について違いはないと報告している.この筆者は,研究のグループ間の統計上の重大な欠陥は,サンプル数の
少なさに起因していたとしている.Sorbello ら(2009)による二つ目の発表では,グループ間で医学的な合併
症の頻度において違いはないとしている.最後に Cumming ら(2011)による発表では,ランダム化された早
期群は介助なしで 50m を歩くことが出来,より早期群は早期群と比べわずかに早く退院し(median6 vs.
7days),多くの割合が家に帰った(32% vs. 24%).Langhorne ら(2010)による 2x2 要因デザインを用いた
もう一つの関連する研究では,早期体動と連続した生理的モニタリングを含んでいる.しかしながら,グルー
プ間の modified Rankin Scale にて0から2点と定義された,3ヶ月間におけるよい結果に違いはなく,医学
的な合併症の確立は,年齢と脳卒中の重症度を合わせた早期体動群間においてより低かった(OR 0.1,95%
CI:0.001 to 0.9 P=0.04).
Bernhardt と Langhorn の研究(Craig ら.2010)の患者レベルを使用したメタ分析では,早期離床グループ
の患者は,3ヶ月後の自立度についてより高い可能性を持ち,modified Rankin Scale の 0-2 あるいは BI の 18-20
18
とされた.
Conclusions Regarding the Timing of Stroke Rehabilitation
脳卒中リハビリテーションの時期に関する結論
脳卒中リハビリテーションの早期開始は,機能的アウトカムの改善に関連しているという限られた根
拠(Level 2)がある.
脳卒中発症後の早期離床は,医学的な合併症を減少させ,機能的回復の改善や機能的な歩行を達成す
るまでの期間の減少を助けるという中等度( Level 1b)の根拠がある.
適応となる脳卒中患者は可能な限り早期に,リハビリテーションユニットあるいはリハビリテー
ション施設へと参加(入院)されるべきである.
6.7 Intensity of Therapy 治療の強度
6.7.1 Intensity of Physiotherapy and Occupational Therapy 理学療法と作業療法の強度
専門的脳卒中リハビリテーションに関連した機能的アウトカムの改善に寄与する要因を決定することを試み
において,リハビリテーション治療の強度はしばしば重要な要素として挙げられる.年齢や重症度を調整のう
え,より長期間,より高レベルの強度の治療を受ける患者は,標準的な治療を受ける患者と比較して,より大
きな利益を実感するだろうか?
この仮説は広く研究されているにもかかわらず,治療の強度は,機能的アウトカムの改善とは弱い相関しかな
いということが分かってきた.しかしながら,Kalra と Langhorne(2007)は,“リハビリテーション治療の
強度の増加は,この治療が直接伝える機能と関連した領域の大きな活動をもたらすという神経画像研究からの
根拠がある”と述べている.
敷衍的に認められた“強度”という用語の定義が存在しない間は,通常,治療の一日あたりの時間(分数)や
連続した治療時間(時)として定義されていた.治療強度の増加の効果を評価した研究は,通常,より少ない
量の代替え手段治療の全実施時間に比べ,より多く提供されたもので行う.この弱い相関は,提供された治療
の時間や連続時間,治療構成,またあるいは研究における脳卒中患者の特徴の相違によって説明できるかもし
れない.Page(2003)は,治療の強度が過強調されていること,
“低強度(30-45 分/日)の特異的な麻痺肢
の課題練習は,皮質の再生と相関性、日常生活において重要な機能的改善を示しす”としている.Turton と
Pomeroy(2002)は,初期の上肢リハビリテーションにおける誤った方法による活動は,特に痙縮の増悪など
といった悪い結果をもたらすという広く持たれている臨床的信念を認めている.
提案されるリハビリテーション治療の総合的な強度もまた考慮される必要がある.患者がリハビリテーション
19
活動に費やす全時間は,ユニット,施設,国の間において,かなり変化する.Lincoln ら(1996)は,脳卒中
リハビリテーションユニットの患者は,自分の時間の 25%しか相互作用的な活動していない事を観察した.
De Weerdt ら(2000)は,ベルギーとスイスの 2 つのリハビリテーションユニットにおいて,患者の治療活
動に費やされる時間を定量化するため行動マッピングを使用した.ベルギーの患者は,スイスの患者よりも 1
日の中でより大きな割合でリハビリテーションに従事していた(45% 対 27%).De Wit ら(2005)もまた,
ヨーロッパの 4 か国(ベルギー,イギリス,スイス,ドイツ)の患者のリハビリテーションに費やす時間にお
いて,有間な違いを観察した.ドイツの患者は一日の中で治療時間が最も多く(23.4%),イギリスが最も少
なかった(10.1%).治療時間の範囲は,イギリス 1 時間/日からスイスの 3 時間/日まで及んだ.全てのセンタ
ーにおいて,患者はリハビリテーション治療に 72%の時間を費やした.更に落胆する事に,オーストラリア
の 5 つの急性期脳卒中ユニットの患者 58 人の集団で観察された A Very Early Rehabilitation Trial(AVERT)
の結果である.
(Bernhardrt ら 2004,2007)の結果であった.患者は,中等度もしくは高レベル活動に一日の
治療時間の 12.8%しか費やしていなかった.53%の時間はベッド上で過ごし,60%の時間は一人で過ごして
いた.脳卒中の重症度と活動時間には直接関係性があるにも関わらず,軽度の脳卒中患者でさえ,一日の 11%
しか歩行していなかった.患者がセラピストといるか一人でいるかは関係なく,麻痺側上肢を 33%の時間の
み動かしている事が観察された.最近のオーストラリアとノルウェーの患者の比較(Bernhardt ら 2008)で,
トロントハイムの急性期脳卒中ユニットに入院した患者は,メルボルンの病院に入院した患者と比較して,ベ
ッド上で過ごす時間が平均 21%少なく,10%多くの時間をベッド外に座り,あるいは立位や歩行活動を行っ
ていた.スタッフ比やポリシー,リハビリテーションプログラムの観点から 2 つのシステムに違いがあった.
Duncan ら(2005)は,これまでに公開されている,改善した機能的アウトカムの強度の効果を研究した全て
の RCT とメタアナリシスを検討し,その根拠は弱いと結論付けた.著者らは,患者の全ての集団が平等に利
益を得ておらず,リハビリテーション治療の強度や期間について明確なガイドラインがないと提言している.
6.7.2 Previous Reviews and Meta-Analyses 過去のレビューとメタアナリシス
4 つのメタアナリシスの結果では,治療強度の増加は有益であると提案している.Langhorne ら(1996)は,
理学療法の異なる強度の効果を研究し,より高強度の治療による ADL 機能における有意な改善と機能障害の
減少を示した.Kwakkel ら(1997)は 8 つの RCT と 1 つの非ランダム化比較試験を含めた研究を行い,小さ
いが統計的には有意な ADL の強度の効果と機能的アウトカムのパラメーターを発見した.しかしながら、Cifu
と Stewart(1999)は,リハビリテーションサービスの強度と機能的アウトカムの研究について,3 つの中等
度の質の研究と 1 つのメタアナリシスのみ核にした(Table6.9 参照).Kwakkel ら(2004)は,自身の以前
のメタアナリシスを拡張させ,作業療法(上肢),理学療法(下肢),余暇治療,ホームケア,感覚運動訓練な
どの多くの介入を評価した 20 の研究を含む理学療法の増強による利益を評価した.治療強度の違いを調整し
た後,増強した治療は,ADL と歩行速度の結果の治療効果と統計的に有意に関連したが,Action Research Arm
test を用いた上肢の治療は評価されていない.脳卒中発症後,最初の 6 か月での 16 時間の治療時間の増加は
有益なアウトカムと関連した.
Chen ら(2002)は,アメリカの 20 ヶ所の亜急性期リハビリテーション施設の後ろ向き研究において,治療
20
強度と機能的獲得との関係性について研究した.脳卒中患者は,入院時にもしセルフケアのレベルが低かった
としても,発症直後よりリハビリテーション施設への入院がなく,より高い強度の治療を長期的に受け,高い
運動と認知面があれば,より高いセルフケア動作の獲得ができた.運動改善の決定因子として,より若い年齢,
発症直後の入院,より高いセルフケアと認知機能を含んだ.入院時の機能,入院期間,治療強度はより大きな
機能獲得に寄与するにもかかわらず,入院期間と治療強度は常に機能獲得につながるとは限らない.入院時の
セルフケアと運動・認知機能には,入院時にセルフケアの障害をともなった患者が,運動野認知機能が障害さ
れておらず,あるいは比較的軽症の場合,より大きな改善をもたらすという相互依存性があった.Wodchis ら
(2005)は,オハイオ州,ミシガン洲,オンタリオ州における熟練した看護施設へ入院した脳卒中患者(n=23,
824)について大規模なコホート研究を行った.入院時予後不測な患者において,治療強度は自宅復帰への可
能性の増大と関連していた.しかし,週の治療時間では,一般的に教示があるとはいえないと述べている(最
大カテゴリーは 500+分/週).
Galvin ら(2008)は,脳卒中後の機能回復における治療の期間増加の効果について研究した.10 の研究の結
果を含めたメタアナリシスの結果は,治療時間の期間増大は,Barthel Index のような測定にて,ADL におい
て小さいながらもポジティブな効果を証明した.その改善は 6 か月以上持続した.
Cooke ら(2010)は,9 つの RCT と 7 つの個人研究の結果を含む,同じ運動に基づいた介入を行った研究を
実施した.著者は,個人アウトカム(ARAT スコア,Mortricity Index,握力,快適歩行速度)に基づき,治療
後とフォローアップとに研究したものをメタアナリシスした.分析のほとんどは 2-3 のみの研究結果が含まれ
ていた.いくつかの小さな,しかし統計的に有意な治療効果が報告された.著者らは,いくつかの,しかしよ
り強い治療強度の限られたサポートについて結論付けた.
エビデンスの重みは,より集中的な治療は,より大きなリハビリテーション効果に関連しているという事を示
唆しており,European Stroke Organisation のガイドライン 2008 の脳梗塞と一過性脳虚血発作の管理(Quinn
ら 2009)では,現時点で入手可能なデータにおいて,最少および最大の治療時間の推奨項目については許可
されていない事が示されている.それにも関わらず,公的資金による脳卒中リハビリテーション施設での現在
の標準治療は,少なくとも 3 時間の治療が提供する事とされている.返還の損失の結果を行うにはしっぱいで
ある(Conroy ら 2009).
21
治療強度増加の有効性と機能的アウトカムの改善との関係性を評価した多くの研究が確認された.結果を
Table6.7 に示す. 22
23
24
25
26
27
28
Discussion 考察
15 の良質な研究では,異なったレベルの強度の理学療法を受けるため,患者を無作為化した.これらの研
究の結果は Table6.8 に要約する.
29
30
専門的な脳卒中リハビリ-ションサービスの性質は,より強い治療強度を意味するが,この事実は常に立証さ
れるわけではない.いくつかの研究で,脳卒中リハビリテーションにおける治療強度の貢献を究明する試みが
行われてきた.しかしながら,機能的アウトカムにおいて,より強い治療強度の効果を明らかにすることは,
提供された治療の評価されたアウトカムのタイミングや期間,その配信がばらつくため困難である.さらに,
理学療法による治療の実際の期間のセルフレポートは,動画記録よりも過大評価されている(32 対 25)
(Baglay
ら 2009 ).治療強度また,患者の能力と意欲に依存する.アウトカム改善のメカニズムは十分に述べられて
いない.Fang ら(2003)は,より大きな強度の理学療法プログラムは,神経学的な改善を通すよりもむしろ
患者が非麻痺側肢の補償を通じて早期 ADL 自立を達成もしくは改善できるようにしている.
15 の“good”の研究のうち,多くの研究は少なくともひとつの検査で有益性を示しているが,従来の治療にお
ける時期や異なった脳卒中の異なるサブタイプのという点で比較すると,その違いは十分に示されていない.
これらの研究の多くは,初期評価において有意な改善を示したが,有益性は後日消失した.最も高い質の研究
では,コントロール群と比較して有益性はみられなかった.3 つの全てのメタアナリシスの結果では,治療強
度の増加は有益性が示されたが,有益性は統計的学的には有意であるが,臨床的有益性は小さい.
Conclusions Regarding the Intensity of Physiotherapy and Occupational Therapy 理学療法と作業療法の強度に関する結論 理学療法と作業療法のより強い強度の治療が,機能的アウトカムの改善をもたらすという強い根拠
( Level 1a) が あ る . し か し , 全 体 的 な 有 益 性 は 細 々 と し て お り , よ り 強 い 治 療 強 度 と 関 連 す る ポ ジ
ティブな有益性は,時間とともに維持されない. シングル研究の結果より,より短期間で集中的に提供された同じ治療は,早期回復と病院からの早期
退院をもたらすという中等度の根拠(Level 1b)がある. 理 学 療 法 と 作 業 療 法 の 強 度 の 増 大 は , 機 能 的 ア ウ ト カ ム の 改 善 を も た ら す .
31
6.7.3 Intensity of Aphasia Therapy Post Stroke 脳卒中後の失語の治療強度
脳卒中後の失語の治療強度の影響もまた研究されている.脳卒中後の失語症治療の最も有効な手段はまだ明
確にはなっておらず,脳卒中後の失語症に苦しむ患者の言語聴覚療法の有効性を調べた研究は,矛盾した結果
となっている.研究全体の調査結果で観測された異質性に対する可能性のある解釈の一つは、治療強度の違い
である.我々は,高強度の治療がポジティブな結果をもたらしたという研究がある一方,低強度の言語聴覚療
法が一貫した効果をを示さないという研究があると示した(Poeck ら 1989).
Individual Studies of the Intensity of Language Therapy Post-Stroke
言語聴覚療法の強度における個々の研究
言語聴覚療法の強度を調査した研究の詳細は Table6.9 に示される.
32
33
34
Table6.9 の研究結果は Table6.10 に示される.
最近の大規模な RCT は,Bakheit らによって研究され(2007),Western Aphasia Battery を使用した集中的な
失語症治療の有益性を示すのに明らかに失敗している.脳卒中発症の平均期間は 1 か月である.著者は,集中
的な治療を患者の過半数が,その治療を容認する事ができなかった.患者は病気であったり,治療を拒否した
り,実際に集中的ではなく,標準的な治療を受けた患者に比べ WAB スコアが低かった(68.6 対 71.4).この
研究は負であると考えたが,平均 1.6 時間/週の治療を受けた患者(標準グループ)が,0.57 時間しか受けな
かった患者(NHS グループ)に比べ,有意に高いスコアを示した.最も高い強度の治療をうけた患者グルー
35
プは,平均 4 時間/週であった.それゆえ,どう“集中的”と定義されているかに応じて,この試験がポジテ
ィブだと判定される.
Bhogal ら(2003)は,11.2 週中,週 8.8 時間の治療を提供した方が,22.9 週中,約 2 時間のみ治療を提供し
た方に比べ,有意な治療効果が研究において達成された事を観察した.平均で,治療中,合計 98.4 時間提供
した方がポジティブな結果が得られ,合計 43.6 時間治療を受けた方はネガティブな結果となった.その結果
として,治療の長さの合計は,Porch Index of Communicative Abilities(PICA)スコアの平均変化と反比例し
て有意に相関していた.週に提供された治療時間は,PICA と Token Test の更なる改善と統計学的に有意であ
った.最終的に,治療時間の合計は,PICA と Token Test の改善において統計学的に有意であった.著者は,
短時間以上の治療強度は,脳卒中後失語症の患者における言語聴覚療法のアウトカムを改善すると結論付けた
(Bhogal ら 2003).
Conclusions Regarding the Intensity of Language Therapy
言語聴覚療法の強度に関する結論
より集中的な言語聴覚療法は,集中的でない治療に比べより改善をもたらすという矛盾するエビデン
ス(Level 4)がある.
より集中的な言語聴覚療法が,低強度の治療よりも有益であるかどうかは不明である.
6. 8 Durability of Rehabilitation Gains リハビリテーションの利益の持続性
機能的回復(機能障害にも関わらず活動を遂行する能力)とコミュニケーションにおける改善は,神経学的
回復の完了後,数ヶ月持続するかもしれない(Stineman と Granger 1998).脳卒中発症後 6 ヶ月と 3 年の間
では,機能的能力の平均的水準は持続される(Dombovy ら 1987,Borucki ら 1992).3 から 5 年を過ぎて,
きわめて少量の低下が指摘され,おそらく,増加する年齢と合併症の影響と関連している(Stineman と Granger
1998).それゆえ,新しい事象がない場合に,脳卒中患者は長期間にわたり,リハビリテーションによる利益
を持続する傾向にあると長い間考えられてきた.
6. 8. 1 Previous Reviews 先行研究
Evans ら(1995)は,リハビリテーション治療を評価した 1980 年から 1993 年の間に発表された 11 の研
究を再検討した.それは非治療のコントロール群を含めた(Table 6.11).
36
死亡率と退院場所,機能的能力のアウトカムが評価された.3 つの研究論文は,脳卒中以外の能力低下のある
個々人のリハビリテーションを評価した.彼らの分析は,リハビリテーション施設での治療が,8 から 12 ヶ
月間の経過観察で,より大きな生存率と,より高い自宅への退院率,より高い在宅率,そして,退院時の機能
的能力のより高い結果を示した.しかしながら,12 ヶ月間の経過観察で消失する生存と機能的自立の違いは,
リハビリテーションを終了した多くの患者は,医学的や身体的,機能的に悪化するということを示唆する.
Bagg(1998)は,この所見は,長期間の施設収容が必要な脳卒中患者への維持療法の役割と同様に,入院患
者のリハビリテーションプログラム終了後,治療に基づく外来患者と在宅患者の有効性の評価の必要性を強調
するという意見を述べた.このことは社会復帰の最後の項目でより詳しく考察される.
Gresham ら(1995)は,長期的にアウトカムを調査した研究では,混合した結論に達したと指摘した.機能
的な利益に関していくつかの研究は,維持され(Indredavik ら 1991,Smith ら 1991,Strand ら 1985),一
方では維持されなかった(Garraway ら 1980a,1980b,1981,Sivenius ら 1985,Steven ら 1984,Sunderland
ら 1992,1994,Wade ら 1992).
14 の研究は専門的なリハビリテーションを通して獲得した利益の持続性を評価した.結果は Table 6.12 に示
される.
37
38
39
40
Discussion 考察
5 つの“good”な質の研究(PEDro>6)はリハビリテーションの利益の持続性を評価した.結果は Table 6.13 に
要約される.
41
これらの研究の全ては,脳卒中後 12 ヶ月から 10 年の範囲において,コントロール群(一般医療病棟)と比較
して脳卒中リハビリテーション患者の機能的アウトカムにおける改善を報告した.脳卒中リハビリテーション
に起因する関連する有益性は,非常に強いように思われる.しかしながら,脳卒中リハビリテーションを通し
て到達された明白な有益性は,それほど強くないと思われる.Stevens ら(1984)は,4 から 12 ヶ月の改善
が選択的に継続することを発見した.対照的に,コントロール群の患者は事実上,機能が低下した.Indredavik
ら(1997,1999)は,脳卒中後,5 から 10 年の間に機能的アウトカムと関連するスコアにおいて低下を報告し
た.しかし,脳卒中ユニットにおいて治療された患者の Barthel Index のスコアはコントロール群の患者と比
較してより高かった.Davidoff ら(1991)は,リハビリテーション終了時と1年の間の ADL スコアにおける
有意な改善を報告した.Leonard ら(1998)は,FIM のスコアは最初の1年間で改善し,その後,次の 4 から
5 年に割たって有意ではないが低下を伴って,頭打ちになることを発見した.
Conclusions Regarding the Durability of Rehabilitation Gains リハビリテーションの利益の持続性に関する結論
より大きな機能的改善は,一般的な医療施設と比較し,専門的な脳卒中ユニットにおいてリハビリ
42
テーションを施行された患者によりなされ,効果は短期間と長期間の両方に持続するという強い根拠
(Level 1a)がある. 脳卒中リハビリテーションを通して獲得された機能の成果は持続され,実際に1年にわたって改善
す る と い う 強 い 根 拠 ( Level 1a) が あ る . 脳 卒 中 後 5 年 ま で に 機 能 的 な 結 果 は 頭 打 ち と な り , 低 下 す
る可能性があるという中等度の根拠(Level 1b)がある.10 年までに,全体的な機能的結果のスコア
は,どの程度自然の老化と合併症がこれらの低下に寄与しているか明確でないが,有意に低下する. 多職種による脳卒中リハビリテーションユニットにおいてもたらされる,より大きな機能的改
善は 長期間持続する. 6.9 Summary
1.脳卒中リハビリテーションでみられる disability の改善は,神経学的な impairment の自然回復のみ
では説明できないという限定的根拠 (Level 2)がある.
2.“ 脳 卒 中 ユ ニ ッ ト ” と い う 言 葉 は 幅 広 く , 脳 卒 中 発 症 直 後 あ る い は 数 週 間 後 に 受 け る 病 棟 で 提 供 さ
れる
サービスと説明されるかもしれない.
3.脳卒中ユニットを評価した研究でアウトカムの改善が報告されているが,原因となるメカニズムは
明らかにされておらず,立証されていない.脳卒中ユニットで治療を受けた患者は医学的合併症が
少ないという中等度の根拠(Level 1b)がある.
4.脳出血患者は,虚血性脳卒中患者と比べると,長期的なアウトカムが悪いという矛盾した根拠( Level 4)がある.
5. care pathway は 機 能 的 ア ウ ト カ ム の 改 善 に 関 係 し な い と い う 強 い 根 拠 ( Level1a) が あ る . care
pathways は脳卒中リハビリテーションアウトカムを改善 せず,病院費用を軽減せず、入院期間の
短縮もしないという中等度の根拠(Level 1b)がある.
6.脳卒中リハビリテーションユニットへの早期入院は,直接的に機能的アウトカム改善させるという
限られた根拠(Level 2)がある.RCT の結果がそうではないと決まるまで,脳卒中患者は,医学
的に安定すれば可能な限り早期に脳卒中リハビリテーションユニットに入院すべきである.
7.脳卒中発症後の早期離床は,医学的な合併症を減少させ,機能的回復の改善や機能的な歩行を達成
するまでの期間の減少を助けるという中等度の根拠 (Level 1b)がある.
43
8.理学療法と作業療法のより強い強度の治療が,機能的アウトカムの改善をもたらすという強い 根拠
(Level 1a)がある.しかし,全体的な有益性は細々としており,より強い治療強度と関連するポ
ジティブな有益性は,時間とともに維持されない.
9.シングル研究の結果より,より短期間で集中的に提供された同じ治療は,早期回復と病院からの早
期退院をもたらすという中等度の根拠(Level 1b)がある.
10.より集中的な言語療法が脳卒中後の失語症の治療に有効かどうか,矛盾した根拠( Level 4)があ
る.ポジティブな研究では,比較的短期間の集中的な治療を実施し たが,ネガティブな研究では長
期間の集中的ではない治療を実施した.
11.より大きな機能的改善は, 一般的な医療施設と比較 し,専門的な脳卒中ユニットにおいてリハビ
リテーションを施行された患者によりなされ,効果は短期間と長期間の両方に持続するという強
い 根 拠 ( Level 1a) が あ る . 脳 卒 中 リ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン を 通 し て 獲 得 さ れ た 機 能 の 成 果 は 持 続 さ
れ , 実 際 に 1 年 に わ た っ て 改 善 す る と い う 強 い 根 拠 ( Level 1a) が あ る . 脳 卒 中 後 5 年 ま で に 機
能的な結果は頭打ちとなり,低下する可能性があるという中等度の根拠(Level 1b)がある.
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