2004 第2号 歴史の中のILO オリンピックを考える: IOCとILOの協力方式 (World of Work 2004年6月発行第51号より) クーベルタン男爵はこれを支持してくれた のである。 その後、両機関のトップは、適切な労働 条件および休業条件を推進するために、大 学レベルの労働者の教育や、スポーツおよ び体育活動に関連した諸サービスへのアク セスを含めて、両者が協力できる分野を数 多く見いだしてきた。1929年には、労働者 と青少年のための体育教育とスポーツを推 『ワールド・オブ・ワーク(仕事の世界) 』 誌は、ジュネーブのILO本部コミュニケー ション局より年4回発行されている広報 誌。英語版のほかに、アラビア語、中国語、 チェコ語、デンマーク語、フィンランド語、 フランス語、ドイツ語、ヒンディー語、ハ ンガリー語、ノルウェー語、スロバキア語、 スペイン語、スウェーデン語の各国語版が ある。英語版の記事の一部を和訳収録した 日本語版は、ILO駐日事務所より年2回発 行されている。 本号は、『ワールド・オブ・ワーク』誌 英語版の第50号(2004年3月発行)、第51 号(2004年6月発行)、第52号(2004年11 月発行)掲載記事の一部を和訳収録したも のに、日本関係情報を盛り込んだものであ る。 進する新たな手法も開発された。 現在、ILOの労働者活動局(ACTRAV)は、 ILOのUniversitas(訓練とイノベーションを 通じたディーセント・ワーク事業計画) 、ド イツの複数の大学とさまざまな労働機関の 支援を得て、労働者のためのスポーツに重 点をおく世界労働大学計画を立ち上げてい る。また、IOCとILOは、スポーツを通じた 青少年の雇用と女性の所得創出活動を推進 するために、モザンビークとアルバニアに 本誌は国際労働機関(ILO)の公式文書 ではなく、表明された意見は必ずしもILO の見解を反映するものではない。本書中に 用いられる呼称は、いかなる国、地域、領 域、その当局者の法的状態、またはその境 界の決定に関するILO側のいかなる見解を も示すものではない。 企業名、商品名および製造過程への言及 はILOの支持を意味するものではなく、ま た、特定の企業、商品または製造過程への 言及がなされないことはILOの不支持を表 すものではない。 F ILO おいて新たな事業を展開している。 青少年スポーツプログラムの研修手法を 用いたILOの「スポーツと開発に関する共通 枠組み」により、IOCと各国オリンピック委 ILOは、今年ギリシャで開催された夏期オ 員会、および世界スポーツ用品工業連盟な リンピック大会の直前に、国際オリンピッ どの協力団体は、青少年雇用、ジェンダー、 ク委員会(IOC)および世界のスポーツ界と 児童労働、HIVの予防といった分野に進出し の関係を文字どおり させた。ILOと つつある。また、ILOは、開発途上国の諸大 世界のスポーツ団体との協力関係には、長 学と提携し、北米とカナダの諸大学、ロー くて輝かしい歴史がある。 ザンヌの高等教育機関IDHEAPに、スポー 復活 1922年、IOCの初代委員長、ピエール・ ツと地域開発、および観光業を通じての倫 ド・クーベルタン男爵とILOの初代事務局長、 理面での指導力に関する大学教科を設立す アルベール・トーマが始めた共同作業は、当 時においては広範囲で先見性に富んだ関係 コフィ・アナン国連事務総長の、開発と平 をつくり出すものであった。1924年の国際 和のためのスポーツに関する報告書をもと 労働総会においてILOは、 労働者の余暇 に、ILOは政労使、国連諸機関、スポーツ当 問題、および 局、国内オリンピック委員会の参加を得て、 レクリエーションの手段を 提供する各種団体の活動を調整し、調和さ スポーツを通じての青少年雇用に関する初 せるための、公共機関、労使団体、協同組 の国連現地駐在チームによるワークショップ 合の代表で構成される地方あるいは地域(ス を、アルバニアにおいて開催する。 ポーツ)委員会の振興 2 るため交渉中である。 に取り組んでおり、 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 本文および写真(フォト・エージェンシ ーのものを除く)は、出典明記のうえ、自 由に転載できます(掲載誌を下記宛お送り ください)。 発行:IL0駐日事務所 〒150−0001 東京都渋谷区神宮前5−53−70 UNハウス(国連大学本部ビル)8階 TEL: 03-5467-2701 FAX: 03-5467-2700 http://www.ilo.org 編集:ワーカーズコープアスラン 印刷:㈱タイヨーグラフィック ディーセント・ワークへの道 不均衡な今日の世界において、ILOの使命は従来どおり重 日本は、人々の生活の向 要なものであり続けています。多くの人々がグローバル化か 上を支えるために、国際的 ら利益を受けました。しかし、その利益を受けられない人々 連帯を実践に移すことを重 が、あまりにも多いのです。未曾有の技術進歩と富の蓄積の 視しています。50年にわた 中で、不平等の拡大が進んでいます。これだけ豊かな世界に り、ILOの技術協力プログ あっても、さらなる改善の可能性があるのです。その可能性 ラムに対する日本からの支 の重要な部分は、仕事の世界を通じて実現されなければなり 援を得て、ILOは多くの ません。人々の安全保障と社会の安定、そして究極的には世 国々に、国民がよりよい未 界の安全保障において仕事が果たす重要な役割は、ILOが歴 来を手に入れることができ 史的に担ってきた使命の根幹であり、今日、 「ディーセント・ るよう、仕事の世界におい ワーク」という言葉に集約されています。 て、また、仕事の世界を通 「ディーセント・ワーク」とは、児童労働、強制労働、差別 して、実践的な援助と助言 がなく、男女に結社の自由があり、働くことができないとき を提供することができまし には基本的な保護が与えられる仕事です。また、安全で、 た。ILOは、ディーセント・ワークをグローバルな目標、ひい 人々が発言権をもつ仕事です。ディーセント・ワークの課題 ては現実とするために、日本と世界の政府・労使団体やパー は、全世界に当てはまる課題です。それは開発課題であり、 トナーとの協力関係を、今後も維持していくことに期待を寄 人々の課題であります。それは、貧困から抜け出すための持 せています。 続可能な道を提供するものです。国際社会にコミットメント と正しい政策があれば、ディーセント・ワークを達成すること ILO事務局長 は可能です。 ファン・ソマビア メ ッ セ ー ジ ◆尾辻秀久厚生労働大臣 ………………………………………………………………………………………… 4 ◆笹森清日本労働組合総連合会会長 ◆奥田碩(社)日本経済団体連合会会長 ………………………………………………………………………… 5 ◆森山眞弓ILO活動推進議員連盟会長 特 集 報 告 ◆グローバル化:公正な条件を求めて 6 10 ◆結社の自由と団体交渉に関する2冊目のグローバル・レポート ……………………………………… 14 ◆貝を拾う人からコンピュータプログラマーまで:移民労働者に対する新たなアプローチ ………… 16 ILO、公正なグローバル化のための行動を検討 …………………………………………………………… ◆初の国際分析:HIV/エイズは仕事の世界に大きな影響を与える …………………………………… 一 般 記 事 19 23 ◆中国雇用フォーラム:すべての人へのディーセント・ワークが焦点に ……………………………… 25 ◆若者の失業率、空前の高水準に …………………………………………………………………………… ◆外国へ新しく来た人々:移住の隠れたリスク、子どもの人身取引増大 ……………………………… 最 近 の 動 き ◆世界各地で働くILO …………………………………………………………………………………………… 27 29 書籍紹介 ……………………………………………………………………………………………………… 30 ILO駐日事務所:活動ハイライト …………………………………………………………………………… 国際労働機関(ILO):創立1919年。加盟国(現在177カ国)の政府、使用者、労働者の共同行動を通じて、世界中の社会保護、生活・労働条件の向上を図っている。ジ ュネーブにある国際労働事務局はILOの常設事務局。駐日事務所を含み、40以上の地域・国別事務所がある。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 3 メ ッ セ ー ジ ILOの挑戦に期待する ディーセント・ワークの達成に向けて 厚生労働大臣 尾辻 ― 新しい時代の労働のあり方を求めて 秀久 ILOは1919年に誕生した大変歴史のある国際機 笹森 清 このたび第18回ICFTU世界大会開催に際して、 関であり、古くから国際労働基準の設定活動を行 同大会のホスト組織として、ソマビアILO事務局 うとともに、フィラデルフィア宣言採択後は、途 長のご来日を歓迎いたします。 上国への技術協力活動も開始するなど、世界各国 4 日本労働組合総連合会会長 ILOは国連の専門機関の中で唯一、政労使三者 の働く人々のために活動してきました。そして、 で構成される機関であり、故に労働組合として最 情報通信技術や交通機関の発達などによるグロー も重視し、また期待をしている機関であります。 バル化が進んだ現在においても、ソマビア事務局 この三者構成主義こそが、人間の存在の根幹とも 長のもと、ディーセント・ワーク(権利が保護さ いえる労働を扱う機関としてのILOの正当性と力 れ、充分な収入が得られ、適切な社会的保護が与 の源泉であり、今後とも厳守していかなくてはな えられた生産的な仕事)の達成を目的として、4 らない原則であると信じております。 つの戦略的目標(①労働基準、②雇用、③社会的 グローバル化の進展により、世界各国で労働者 保護、④社会的対話)に関する各種の取り組みを は自分が生活し働く環境の激変を実感していま 行っています。私は、こうしたILOの活動に心か す。とくに先進工業諸国で顕在化している労働組 ら敬意を表します。 合組織率の低下とともに、産業構造の変化、雇用 わが国は古くからILOと連携して、働く人々の 形態の多様化、移民労働者の増加、インフォーマ 環境整備に努力してまいりました。今後、厚生労 ル経済の拡大等により、従来の労働者保護政策・ 働省としては、ILOと協力し、雇用創出、人づく 制度が現状に対応できなくなっている状況が顕著 り、労働安全衛生、そして社会対話の分野での貢 になってきています。 献を進めていくとともに、アジア太平洋地域を中 この状況をふまえ、連合はILOに対して、新し 心に、ディーセント・ワークの達成に向けての貢 い時代の労働にどう対応するか、その方向性を政 献を行っていきたいと考えております。 労使の合意により見いだし、世界中の労働者がデ 「グローバル化の社会的側面に関する世界委員 ィーセント・ワークを享受できるようにすべく、 会」の報告書において表明された公正なグローバ 新たな方策・新たな手段を積極的に打ち出してい ル化の実現に向けて、ILOの果たすべき役割はこ ただくことを期待しています。 れからますます大きくなっていくものと思いま 連合はILOにおいて日本の労働者を代表する団 す。今後のILOのより一層の活躍に期待するとと 体として、ILOの意志決定に関与し、その作業に もに、加盟各国、労使とともにILOの活動に協力 協力し、またILOが採択した国際基準等の国内適 し、積極的に参加してまいりたいと考えています。 用に尽力していくことを決意しております。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 参加型の公平な社会をつくる グローバル化時代にILOに期待する役割 (社)日本経済団体連合会会長 奥田 ― 人々をエンパワーする 碩 ILOは85年の歴史の中で、時代ごとにそのとき ILO活動推進議員連盟会長 森山 眞弓 大きなミシンの音。熱心に縫製の訓練を受けて どきの最も重要な社会・労働分野の課題に取り組 いる若い女性。隣の部屋は子どもたちの保育園。 んできました。今日、われわれが直面している課 女性たちは人身取引やDVの被害者です。縫製の 題といえば、もちろんグローバル化がもたらすチ 訓練は新しい人生の道を切り開くための第一歩な ャレンジに、いかに対応していくかということで のです。2000年に訪問したカンボジアでのILOの ありましょう。 技術協力活動現場のひとつです。ベトナムでも、 今後のグローバル化の舵取りに向けて、本年2 月に発表された「グローバル化の社会的側面に関 する世界委員会」の報告は、人間の幸福にとって レストランなどの小規模ビジネスを始めるための 訓練を受けた起業家たちと会いました。 こうしたILOの現場の活動は、ノーベル賞を受 の「仕事」の重要性を改めて喚起しました。ディ 賞した経済学者アマルティア・セン教授のいう ーセント・ワークの実現というILOの目標の意義 「この世にある貧困と飢えの最大の原因は、ILO が、一層増しています。 の活動分野、すなわち人間が持つ『働く能力』と いうまでもなく、企業は富を創出し、それを企 いう財産を生かすことができないことにありま 業活動に参加・寄与したさまざまなステークホル す。したがって、ILOの役割は重要なのです」と ダーに、雇用や賃金、配当、税金などの形で還元 の真実のことばを、改めて実感させてくれました。 していきます。雇用の安定や仕事の質の向上には、 85年のILOの歴史は、人々の仕事と人権を基礎 何より企業が存続し、継続的に富の創出を行って にした、より公平な社会を築く努力の軌跡でもあ いくことが前提となります。そのためには、企業 ります。ILOの創設以来の国際労働基準の設定・ にとって競争力の維持と成果配分のバランスが欠 推進という基本的使命は、人々の生活に根づいて かせません。 初めて実効性があるものです。そのためには、 このような企業活動についての正しい理解のう 人々のエンパワメント、それを可能にする環境づ えに、従来にも増してILOが企業・使用者と協力 くりが大切です。今から30年近く前、私が労働省 していくことがディーセント・ワーク実現のため の国際労働課長のとき、いわゆるマルチ・バイプ に求められていると思います。 ログラムを創設して、ILOの技術協力に対する日 日本企業の実践してきた「人間尊重の経営」は、 本の財政的支援を強化しました。私も若いころに ILOの志向するディーセント・ワークと通じるも その一人であったILOフェローという受益者の立 のがあります。いずれも、具体的な中身は社会の 場から、日本が立場を変え、重要な援助国となっ 価値観に応じて変化・進化していくものです。 たことを大変うれしく思います。 「仕事」の当事者である使用者と労働者が参加す 国内外での貧富の格差拡大という負の面が問題 る三者構成という枠組みをもったILOは、社会の にされているグローバル化が進んでいる今日、す 価値観をすみやかに汲み取ることができるはずで べての人々がその持てる能力を充分に発揮して、 す。こうしたメカニズムを充分に活用して、時代 参加ができる公平な社会づくりへのILOの仕事 にふさわしい仕事のあり方を追求していくこと は、より一層重要です。今後ともILOの仕事に期 を、ILOに期待しています。 待しています。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 5 特 集 報 告 グローバル化 HIV/エイズ グローバル・レポート グローバル化: 公正な条件を求めて I LO、公正なグローバル化のための行動を検討 (World of Work 2004年6月発行第51号より) 家元首としては初めて理事会で演説することにな ったムカパ大統領は、次のように述べた。 「グロー バル化がもたらす可能性のある良い面または悪い 面はともに計り知れない。グローバル化は人類共 通の幸福に資する多くの肯定的側面を備えた力で ある。しかしながら、我々がともに礼節をもって 共存するためには、そのいくつかの要素は抑制さ れなければならない(略) 」 。 ムカパ大統領のこの発言が議論の基調をなし、 ILOの異なる立場の人々から実に広範な意見が寄 せられた。ただし、次の一点だけははっきりとし ていた。それは、この世界委員会の報告書が、グ ローバル化に対して痛烈かつ率直な見方を示しつ つも「バランスが取れ整合性がある」ものである と、全員が一致して認識していたことである。多 くの参加者が同意した、このバランスと整合性こ そが、同報告書の優れた点である。 F ILO/K. Cassidy このことは政労使それぞれの発言者や国連機関 の代表者、その他オブザーバーたちのコメントに も明らかに見てとれる。報告書は「革新的」であ り、行動に向けた重要な示唆を与える「指標」で あると評された。 ローバル化の社会的側面に関する世 理事会のフネス・デ・リオハ使用者側副議長は、 グ ル化:すべての人々に機会を創り出 去らなければならない」と述べている。また、ル * は、グローバル化のガバナンス す』 ロイ・トロットマン労働者側副議長は、 「世界委員 のあり方について「緊急に再考する」ことを訴え 会が仕事における基本的な原則と権利を強調した opportunities for all(公正な ている。2004年3月に開催された第289回ILO理事 ことに、すべての発言者が賛同した」事実を歓迎 グローバル化:すべての人々 会では、報告書についての活発な議論が行われ、 した。 界委員会の報告書、 『公正なグローバ 「これまでに示されたグローバル化のモデルは捨て *A fair globalization: Creating に機会を創り出す)、グロー バル化の社会的側面に関する 世界委員会、 国際労働事務局、 今後に向けたさらなる指標が提示された。同テー マは本年度のILO総会でも審議された。 ジュネーブ、2004年。 ISBN:92-2-115426-2 インターネットでもご覧にな 6 パキスタン代表は次のように述べている。 「開発 途上国はグローバル化に対する理念だけではない 現実的なアプローチを、長い間唱えてきた。この 【ジュネーブ】世界委員会の共同議長を務めたタン れます。 ザニアのムカパ大統領が壇上に上がったとき、理 http://www.ilo.org/wcsdg 事会の会場は満席の状態であった。アフリカの国 報告書はまさにそうした方向へと踏み出す第一歩 であると我々は考える」 。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 フアン・ソマビアILO事務局長は、世界委員会 移民労働者 の各委員はグローバル化について多様な見解をも 的地位を向上させ、自己の文化的および社会的権 ってはいるが、この報告書は行動に向けた現実的 利に充分目ざめ、そして政治参加の権利を行使す 提言に対する共通のアプローチと合意を見いだし ることができる。この方向に前進するにしたがい、 たと強調して、次のように述べた。 「委員には、考 グローバル化から経済的な悪影響をこうむる恐れ えの異なる高名な人々を意図的に集めた。こうし は徐々に減少していく」 。 てまとめられた報告書は、対話というものが緊急 グローバル化に対して批判的だが前向きな姿勢 に必要とされる変革のための創造的な力となりう を示すとともに、状況を改善するために多くの示 ることを示している」 。 唆をした委員会に対し、同調する参加者は多数に のぼった。フランス代表のフィリップ・セギン氏 「公正さ」の実現 は、多国間システムにおける政策の整合性の強化 を説く報告書の主張を歓迎し「グローバル化をバ 2日間にわたる議論を通じて、理事会の代表や ラバラにしてはならない」と述べた。別の代表は、 国際機関からの参加者たちは、グローバル化の利 成長・投資・雇用などの重要問題に対処するため 益がいっそう公正に分配されるようくり返し主張 に報告書がかかげた国際諸機関による「政策統一 した。発言者はディーセント・ワークをグローバ イニシアティブ」という提言を歓迎した。また、 ルな目標とするよう求める報告書の勧告に、例外 世界銀行の代表は、報告書が「国際社会において、 なく賛同した。 我々すべてに役立つだろう」と述べた。 カナダのクローデット・ブラッドショー労働大 臣は次のように述べている。 「我々が受け入れるの グローバル・ガバナンスの強化 は、経済活動において製品やサービスを生み出す 者は当然それらを消費することもできるという、 参加者は、議論の核心部分で、世界委員会が多 単純な経済原則だ」 。複数の理事は報告書の文章を 国間主義の重要性を改めて表明したことに称賛の 引用して「子どもの靴がいくら安くなっても、そ 意を表した。南アフリカ代表は次のように語って の一方で父親が仕事を失うようなグローバル化で いる。 「ILOをはじめとする国連の役割と多国間主 は意味がない」と述べた。 義は、わが国のような国民のほとんどが日々貧困 韓国代表は次のように述べている。「わが国は と欠乏にあえいでいる国々にとってとくに重要で 1990年代後半の金融危機で直接打撃を受けて苦し ある」 。このようにして、ILOはグローバル化の社 んだ経験があるため、社会保護、ディーセント・ 会的側面に関する対話の推進役として、米国代表 >> ワークの創出、開かれた社会対話が、それぞれど れも必要であるとする世界委員会の見解に賛成す る」 。 アイロンでしわを取り去る ように、グローバル化の問 題点を解決していく。 議論がグローバル化の弊害ばかりに留まってい たわけではなかった。参加者は、国レベルでもグ ローバルなレベルにおいても、より良く、より民 主的で、説明責任をしっかりと果たすガバナンス を求める同報告書の主張に広く支持を表明した。 そして、国レベルの活動と国際レベルでの活動は ともに連携しあって推進されなければならず、地 方レベルでの人々の需要や希望も満たさなければ ならない、という主張がなされた。 ドイツ経済労働省のゲルト・アンドレス労働政 務次官は、 「すべての人々にディーセント・ワーク をもたらすよう訴える世界委員会の主張」に賛同 し、次のように述べている。 「ディーセント・ワー クに就いている労働者は貧困から脱し、家族を養 い、自分の子どもに教育や訓練を受けさせ、社会 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 7 特 集 報 告 グローバル化 >> HIV/エイズ グローバル・レポート の表現を借りれば「しばしば非人間的なものとみ ブラジル政府は「ILOのこれまでの取り組みを重 なされるグローバル化のプロセスにも、人間の顔 要視している。変革を促進するのに対話よりも強 が見えるようにした」のである。 力な手段はほかにない」との意見を述べている。 欧州委員会の代表は、グローバル・ガバナンス 参加者の多くは、今日のグローバルな金融構造 の改革を訴える報告書の主張を歓迎し、 「社会問題 を率直に批判し、貿易と金融における公正なルー よりも経済問題に目が向けられがちな現行の国際 ルを求める主張に賛同した。多くの発言者は、先 システムの不均衡をみるとき(略) 、もっと社会的 進諸国の農業補助金が開発途上国に与える深刻な 側面を強化する必要があるし、諸機関とすべての 悪影響についてもとくに触れ、市場へのアクセス 利害関係者との間の調整を改善する必要がある」 拡大の必要性を強調した。 と述べた。 開発援助増加の要求に応えて、発言者の多くは、 報告書が提起したその他のいくつかの問題(世 国内での不平等や国家間での不平等を克服し、貧 界委員会の任務として、もともと代表的課題であ 困を根絶するためには、債務救済と海外開発援助 った社会対話やコンセンサス構築への重点的取り の増加が重要であると力説した。これに加えて、 組みなど)にも好意的なコメントが寄せられた。 6月のILO総会の議題となっている移民の問題に ブラジルのリカルド・ベルゾイーニ労働大臣は、 関して、増大する労働者の移住が移民自身に及ぼ 献身者の肖像 F ILO/M. Crozet タンザニアのベンジャミン・ム ドナー国と受益国双方の開発政 カパ大統領は、ILO理事会で演説 策における整合性を求め、とく したアフリカ初の大統領である。 に、政策の整合性はまず国内で 同氏は「グローバル化の社会的 確保されなければならないと訴 側面に関する世界委員会」の共 える。国内でガバナンスの問題 同議長としてたゆまず使命を遂 に適切に取り組むことができな 行しており、世界委員会での困 い国が、国際機関のレベルにお 難な役割と国家元首としての職 いて民主的で参加型の良きガバ 務とを見事に両立させている。 ナンスを求めることはできない。 グローバル化という問題への また、自国の機関のなかで説明 取り組みを通じてムカパ大統領 責任を果たすことなく、グロー の指針となった言葉、それは バルな機関において説明責任を 「希望」である。それは、人々を 8 求めることはできない。結局の 絶望から救った希望であり、グローバル化がプラ ところ、国際機関は特定の目的のために結びつい スでなくマイナスの影響を与えている人々を苦境 た主権国家の集まりなのである。 から救済するうえで、世界委員会のメッセージが ムカパ大統領は、世界委員会の取り組みの結果 有意義な活動を促進するだろうという希望であ として、行動への気運が高まりつつあることを認 る。 識している。いくつかのイニシアティブはすでに 同大統領によれば、グローバル化の社会的側面 着手されており、例えばサンタ・クルス・デ・ に関する諸問題は、多くのグローバル・アクター ラ・シエラ宣言では、南北アメリカの国家元首と 間で説明責任が欠如していることに起因するとい 政府首脳が、ディーセント・ワークこそより良い う。この状況に終止符を打つためには、ルールを 生活条件を促進するうえで最も効果的な手段であ 確立することが重要である。また、グローバル化 るという確信を改めて表明した。2004年9月にブ のもたらす機会を逃がさず利用することができる ルキナファソの首都ワガドゥグで開催される「ア よう、人々の能力育成をうながす環境をつくり出 フリカの雇用と貧困削減に関する特別サミット」 すことも重要である。 は、さらなる行動に向けた新たな機会となるはず 開発途上国が白紙の状態でさまざまな難題に立 である。ムカパ大統領は、フィンランドのハロネ ち向かえるようになるには、まず債務救済の問題 ン大統領とともに、各国元首や主要な国際機関に をできるだけ早期に解決しなければならない、と 対するロビー活動に率先して取り組むことを約束 ムカパ大統領は強く主張している。それと同時に した。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 移民労働者 世界委員会の目標 「グローバル化の社会的側面に関する世界委員 会」の共同議長であるタルヤ・ハロネン・フィン ランド大統領は、2003年11月に開かれた第288 回ILO理事会で演説し、世界委員会の出発点は、 持続可能な発展のために、グローバル化は人々の ニーズを満たすものでなければならない、という ことであったと述べた。世界委員会の究極の目標 は、グローバル化がディーセント・ワークを促進 し、貧困と失業を削減して成長と開発を促進する 資源となるよううながすことである。 世界委員会はこの目標に基づいて、グローバル 化の社会的側面を強化する変革のためのビジョン を作成した。ハロネン大統領の指摘によれば、現 F ILO/M. Crozet 在のグローバル化は倫理的でもなければ、政治的 に実行可能でもない。経済的利益や社会的コスト は社会集団の間で公平に分配されていない。しか しながら、最終的にはグローバル化の結果は世界 が形づくるのであり、多くのことがらがグローバ ル化のあり方によって左右され、またグローバル る。フィンランドはグローバル化の利益を受けて 化のアクターをうながす価値によって左右され いるが、現在のグローバル化にまつわる不安定要 る。世界委員会は、グローバル化が人間の自由と 因も充分承知している。租税競争、企業移転、失 幸福を増大し、人々の暮らすコミュニティに民主 業、外国市場の保護、それに外国資本誘致の努力 主義と発展をもたらす力となるよう努めている。 は、 この国が日々対処に追われている問題である。 グローバル化はまた、それが持続可能な開発のた 集中して取り組まなければならない問題を一つ めの力となりうるよう、環境とのバランスを保つ だけあげるとすれば、それは教育である、とハロ 必要がある。グローバル化を導く原則は、各国の ネン大統領は述べている。フィンランドのような 機関、ルールや政治システムにも反映されなけれ 国がうまくやっていくためには、教育が必要なの ばならない、と大統領は言明する。基本となる原 である。教育はうまく適応するうえで必要な革新 則は、民主主義、人権、そして法の支配である。 や能力をもたらす。グローバル化とはつまり、新 ハロネン大統領の国フィンランドでは、グロー たな難題に対する不断の適応にほかならないので バル化はたんなる理論ではなく、日々の現実であ ある。 す影響、また送出国・受入国の双方に及ぼす影響 ムカパ大統領は会議での演説を締めくくるに当 について、多国間対話その他のイニシアティブを たり、イギリスの小説家ロバート・ルイス・ステ 通じて取り組まなければならないと強調した。 ィーブンソンの言葉を引用した。 「人は誰しも弱点 ソマビア事務局長は会議で取り上げるべき論点 から逃れることができない。ときにはそれと徹底 を数多く提供し、重要なのはILOのディーセン 的に闘わなければならない。そうでなければ滅び ト・ワークの課題が、いかに公正で包括的なグロ ることになる。だとしたら、今、この場でこそ、 ーバル化に貢献しうるかを見いだすことだと述べ 闘おうではないか」 。大統領はこれにつけ加えて次 た。理事たちは、6月の総会に提出されるILOの のように述べた。 「今日の指導者世代である我々は、 フォローアップ活動に関する事務局長提案への期 グローバル化の弱点から逃げてはならない。我々 待を表明したほか、ILOの政労使三者の協議の深 は、今、この場で、こうした弱点と徹底的に闘わ まりを心待ちにしていると語った。 なければならないのだ」 。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 9 特 集 報 告 グローバル化 HIV/エイズ グローバル・レポート 初の国際分析: HIV / エイズは仕事の世界に 大きな影響を与える (World of Work 2004年11月発行第52号より) F ILO/M. Crozet 失われる労働力は2010年までに4,800万人となり、 2015年には7,400万人に達するだろうと推計してい る。そうなると、HIV/エイズが仕事の世界にお ける死因の最たるものとなる。 「これは地上から大国の人口が消えることに等し い」と、レポートの著者であるILOのオディー ル・フランクは言う。 「このことが世界経済に与え る影響を過小評価するわけにはいかない」 。 サハラ以南のアフリカ、アジア、ラテンアメリカ とカリブ海諸国、そして先進2地域の50カ国 (注2) の新たな分析結果では、HIV/エイズは国内総生 産(GDP)と1人当たりGDPの成長率に深刻な影 響を与えるとみられている。なぜなら、HIV/エ イズが長年にわたって培われてきた「人的資源」 (注1)HIV/AIDS and work: を破壊し、労働者と使用者が商品やサービスを生 Global estimates, impact and 産する能力を弱めるからだ。 response 2004(HIV/AIDS ILOのフアン・ソマビア事務局長は、 「HIV/エ と仕事:世界の推計、影響、 対応) 、HIV/エイズと仕事の イズは人間にとって危機であるばかりでなく、世 世界ILO計画、国際労働事務 界の持続可能な社会経済開発に対する脅威だ」と 局、ジュネーブ、2004年。 ISBN 92-2-115824-1 言う。 「この病気がもたらす生命の損失と衰弱は、 http://www.ilo.org/aidsでご 生産と雇用を維持し、貧困を削減し開発を促進す 覧になれます。 る能力を低下させるばかりではなく、貧富を問わ (注2)このレポートで扱われて いる国々は、2001年時点で HIV/エイズの罹患率が推定 2%を超える40カ国と、罹患 率が推定1.5〜2.0%の5ヵ国、 計3,650万人の就労できる年齢の人々 推 がHIV(エイズウイルス)に感染して このレポートは、バンコクで7月11日から16日 おり、エイズの発生以来失われた世 まで開かれた第15回国際エイズ会議に提出された。 界全体の労働力は、2005年までに 新たに開発された国連の人口学と疫学的データ、 HIV/エイズ罹患者が100万人 2,800万人にのぼるだろう。ILOによる新しいレポ 以上の5カ国である。これら ート の国々の中にはサハラ以南の アフリカの35カ国、ラテンア ず、すべての社会の重荷となるだろう」 。 はこのように述べ、HIV/エイズが仕事の (注1) そしてHIV/エイズが仕事の世界に与える世界規 模の影響予測を可能にする他のデータをもとに、 世界に与える影響の厳しい現状を描き出している。 世界で初めて作成されたレポートである。 メリカとカリブ海諸国の8カ 国、アジアの5カ国、開発が 進んだ地域からの2カ国が含 まれている(レポートの主要 10 【ジュネーブ】仕事の世界におけるHIV/エイズに マクロ経済と社会への影響 関するILOの新しいレポートは、赤裸々なデータ 表1、72ページから始まる を掲載している。レポートは、今まで以上の治療 ILOの研究によれば、HIV/エイズが労働力に 国・地域別のデータ参照) 。 機会が提供されなければ、HIV/エイズによって 直接・間接的に与える影響は、マクロ経済の観点 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 移民労働者 から測定可能である。1992年から2002年の間の影 エイズを発症した人の分の収入減を補う必要 響が測定可能な国々では、GDP成長率が毎年0.2% と、そして家族 ― とくに子どもとお年寄り >> 低く(年250億米ドル相当)なっており、1人当た りGDP成長率は0.1%低くなったとみられている HIVに感染している男女生産年齢(15〜64歳)人口 (1人当たり年5米ドル相当) 。 (50カ国の地域別合計、2005年) レポートはまた、次のように述べている。 30 HIV/エイズの影響を最も強く受けている国々 25 では、この疫病は女性にいく重もの負担を強い るだろう。女性が家庭内で、またはその外で生 産的に働いていようといまいと、彼女たちの労 推計 (単位: 100万人) 20 15 働時間は、介護に費やす時間に取って代わられ るだろう。さらに、HIV罹患率が最も高くなっ 10 ているのは、若い女性の間においてである。そ 5 して、もし彼女たちが自給自足農業の担い手で 0 ある場合(アフリカのほとんどの国々ではそう 中南米・ カリブ だが)、彼女たち自身が病気でなかったとして 先進諸国 アジア サハラ以南のアフリカ 地域 も、エイズをわずらった家族を看護する負担と、 主 要 な 所 見 (注3) 国連合同エイズ計画が3,570万人と推計してい の労働者を問わず、生産年齢にある成人はケア (注3)HIV/エイズの影響を る、15歳から49歳のHIV感染者のうち、2,600 への時間を割くために、生産的活動を減らさな 受けていて、このレポートの 万人以上が労働者であるとILOレポートは記し ければならなくなるだろう。これはアフリカ、 中に含まれている50カ国で ている。もし64歳までの生産年齢人口と、家 アジア、ラテンアメリカとカリブ海諸国の開発 の内外でインフォーマルな仕事に就いている労 途上地域ではとくにそうである。このことは、 働者を加えると、HIVに感染した労働者の推計 もし200万人の労働者がHIV/エイズのために ている。国ごとのHIV罹患率 数は3,650万人にのぼるとみられている。 働けないとすると、さらに200万人近い生産年 はすべての主要表に地域別に HIV/エイズは、労働者に二重の直接的影響を 齢の人がケアのために働けなくなることを意味 アルファベット順に示されて 及ぼしている。すでに何千万人もの労働者が亡 する。すなわち、ケアの負担を家庭で担う場合、 いる。ほかのデータもこの順 くなっている一方で、さらに何百万人という労 ケアの間接的影響はHIV/エイズの直接的影響 に示されている。各表のHIV 働者が労働市場から退場しつつある。この病気 を2倍にするのである。 罹患率は50カ国全体の平均に は、15〜49歳人口における HIV罹患率は2003年末現在で 1%以下〜40%弱と推計され 加え、人口によって調整され のために就労不能となる労働者の数は、1995 「HIV/エイズが労働力と生産年齢の人々に与 年の50万人から上昇して、2005年には世界全 える影響は、それらが経済成長と開発に与える総 体で200万人になっているだろうと、ILOは推 体的影響において測定可能である」と、「HIV/ リブ海諸国、アジアおよび開 計している。2015年までには、この数字は2 エイズと仕事の世界ILO計画」のフランクリン・ 発が進んでいる地域)を示し 倍の400万人になるとみている。 リスク部長は言う。「労働者に病気と死を引き起 ている。 HIV/エイズのために労働者が命を落としてい こすことによって、この疫病は労働市場の技能と くにしたがって、生存する労働者がより大きな 経験のストックを減少させている。この人的資源 経済上の負担を担わなければならなくなるだろ の損失が貧困削減と持続可能な開発をうたったミ う。世界全体では、2015年にはHIVの影響 レニアム開発目標実現において直接的な脅威とな がなかった場合に比べ、労働者の負担は1%増 っている」 。 大しているだろう(サハラ以南のアフリカでは た地域平均値(サハラ以南ア フリカ、ラテンアメリカとカ HIV/エイズによる影響を最も受けている国々 5%) 。 の大部分はアフリカにあり、この地域のHIV罹患 HIV/エイズに感染した人がいる世帯では、ほ 率(15歳〜49歳)は7.7%となっている。さまざ かの大人がケアの負担を負わなければならず、 まな手法や指標(それらのうちいくつかはこの目 2015年にはHIVの影響がなかった場合に比べ 的のために開発された)を用いて、HIV/エイズ て、世界全体で1%の負担増になると推計され が個人、家庭、アフリカおよびその他の社会経済 ている(サハラ以南のアフリカでは6%) 。 にどのような影響を与えているのか、吟味と評価 フォーマルセクター、インフォーマルセクター が行われている。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 11 特 集 報 告 グローバル化 >> HIV/エイズ グローバル・レポート ―を世話する負担が農作業に使える時間を奪 「国の政策における課題は、人的資本の問題に対 いかねない。それが、家族に食糧を供給し、家 処し、公共財と公共サービスの供給と質を維持す 族全員の健康を確保する能力を危うくする。 る手段を編み出すことだ」と、レポートは述べて HIV/エイズは広く民間や公共セクターにも影 いる。 「さらに、この疫病に対して必要充分な対応 響を与える。農業はもとより、インフォーマル を行うには、これに協力し、実現を可能にするよ 経済に、そしてこの疫病の影響を最も受けてい うな政策環境をつくり出す必要がある。そしてそ る国々の女性と子どもにも影響が出る。HIV/ の政策環境は、法的枠組みと、教育と雇用能力の エイズの影響は、教育と保健セクターでとりわ 維持、開発戦略の目標への組み込み、そして貧困 け大きいと、レポートは指摘している。という の削減にとくに焦点をあてたものが必要である」 。 のも、2010年までにHIV/エイズによって亡く なる教育者と医療関係者の割合が、場合によっ どう対処すべきか? ては40%にも及びかねないからだ。 HIV/エイズによって最も影響を受けている 「仕事の世界におけるHIV/エイズへの対応は 国々の農村部では、この疫病は貧困に打ちひし 多岐にわたる」と、レポートは述べている。 がれた農村世帯の経済状況をさらに悪化させ、 ILOは2001年にプログラムを立ち上げ、職場の 農村社会がこの影響に対処する能力を枯渇させ 問題としてこの疫病に対処するよう、同年に行 る。その結果、現存の食糧供給の不安定さをま 動綱領を起草した。 職場におけるHIV/エイズの影響を緩和し、 子どもたちは、親の世話や指導を受けることが HIV/エイズ感染者の権利を擁護するのに重要 できなくなり、また学校をやめ仕事を探さざる な役割を果たすであろう、正しい知識に基づく を得ない状況に陥るかもしれない。仕事をする 法制を、既存法の改正または法の新設の形で起 ことは、子どもたちの身体の健康ばかりでなく、 草した国もある。 教育を受け、技能を習得し、また訓練を受ける 多くの国々で、予防と治療に焦点をあてた一連 機会を奪う。そのため、児童労働を撲滅し持続 の対応がとられている。これらの対応には、国 可能な開発を促進しようとする目標の達成が困 の部門別の政策形成、差別と偏見による決めつ 難になっている。 けを減少させる地域の取り組み、予防を促進す F WHO すます悪化させていると、レポートは指摘する。 12 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 移民労働者 る民間部門での取り組み、行動の変化、労働者 想的なステージである」と、オディール・フラン 向けの情報伝達などがある。さらに、収益性を クは言う。 「仕事は 維持し成長を確保するのに最もコストのかから する。そこは、HIV/エイズについて語るのにと ない方策として、職場における治療プログラム てもふさわしい場であるし、予防技術を直接的に の導入が多くの企業で進みつつある。 伝えることができ、しかも治療が非常に効果的に 職場 というステージを提供 行われる場でもある」 。 ILOは、HIV/エイズが労働力、農村社会、農 ILOは、ほかの国際機関ができないようなこと 村経済に与える劇的な影響を強調する一方で、こ を、ILO独自の三者構成システムによって可能に の問題を解決するうえで職場が大きな役割を果た している。ILOは政府・労使と協同して、きわめ せるであろうことを強調している。 て重要なケアと予防に向けたメッセージを、仕事 「職場はHIV/エイズに総合的に対処するのに理 の世界のすみずみにまで及ぼしているのだ。 職場がHIV/エイズとの闘いの中心舞台に ILOの指導者フォーラム、さらなる取り組みを要請 約3,650万人もの生産年齢にある人々がHIV/ リン・リスク部長は言う。 エイズに感染しており、職場はこの疫病によって フォーラムの参加者もまた、職場プログラムの 直接的打撃を被っている。一方で、バンコクでの 策定と実施に、HIV/エイズ感染者がさらに関与 第15回国際エイズ会議でILOが開催した「仕事の し、より多くの人がこれを利用できるようにする 世界の指導者フォーラム」に参加した経済界、労 ことを求めた。 働団体、そして政府の指導者たちは、職場は疫病 「我々は、ILOのHIV/エイズと仕事の世界に関 を抑制する解決策の一環となるよう位置づけられ する行動綱領が、職場での行動、そして政策形成 ている、と言う。指導者たちはこれを機会に、職 とプログラムの導入における良好事例の促進に枠 場においてHIV/エイズと闘うためのさらなる財 組みを与えるものであることを再確認する」とそ 源と関与を求める発言を行った。 の共同声明は述べ、「我々はすべての仕事の世界 「教育、ケア、治療そして差別撤廃の活動を行 の指導者たちに、世界各地での職場の活動を持続 ううえで、職場は非常に重要な出発点となる」と 的に拡大していくために緊急に必要とされている 彼らは言う。「この共同声明はこうした認識を表 財源を生み出すよう求める」としている。 明するものであり、よって政府、使用者団体と傘 指導者フォーラムに参加した政府関係者は、以 下の企業、および労働組合と組合員に対し、この 下のとおりである。バココ・バクル労働・ジェン 問題を最優先して扱うよう要請するものである」 。 ダー・社会開発大臣(ウガンダ)、タパブトル・ 仕事の世界の指導者たちは、HIV/エイズが投 ジャマセヴィ労働省常任副長官(タイ)、労働 げかける人道面、 および開発における課題に対し、 力・移民省労働安全衛生基準部ズルミア・ヤンリ 効果的な対応を編み出して実施するには、取り組 部長(インドネシア)、アンナ・マルゼク=ボグ みが拡大され、しかもさらなる財源が投入される スラウスカ国立エイズセンター所長(ポーラン 必要がある、という点で意見が一致している。彼 ド) 。 らはまた、「HIV/エイズ感染者に対する偏見に 使用者側からの参加者は以下のとおり。国際使 よる決めつけ、沈黙、否定と差別が、この疫病の 用者連盟アントニオ・ペニャロサ事務局長(スイ 影響を増大させ、効果的な対応をとるうえでの大 ス) 、タイ使用者連盟のシリワン・ロムチャトン きな障害となっている」と懸念を表明している。 グ事務局長(タイ)、エイズに関するビジネス連 「これらの問題に取り組むことは、成功する職場 プログラムの核心となる」と彼らは言う。 合のアントニー・プラムアルラタナ事務局長(タ イ) 。 「ILOを構成する三者によって代表される仕事 労働者団体からの参加者は、国際自由労連アフ の世界の指導者たちが、国際エイズ会議において リカ地域組織のアンドリュー・カイレムボ書記長 示した力強く効果的な影響力は、HIV/エイズと (ケニア) 、国際自由労連のクレメンティン・デヒ 対峙する国の取り組みにとって、 職場 が持つ 重要性と貢献の大きさを証明している」と、 「HIV/エイズと仕事の世界ILO計画」のフランク ュー・グローバル・ユニオンHIV/エイズコーデ ィネーター(ブリュッセル)、タイ労連のスラッ ト・チャンワンペン副事務局長(タイ)である。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 13 特 集 報 告 グローバル化 HIV/エイズ グローバル・レポート 見通しは上向きだが、課題は多い 結社の自由と団体交渉に 関する2冊目の グローバル・レポート (World of Work 2004年6月発行第51号より) F ILO/K. Cassidy ILOの技術協力プロジェクト によって、インドネシアで開 かれた労使協働のワークショ ップは、東カリマンタン島の この採掘会社に数々の変化を もたらした。 14 社の自由と団体交渉権が、職場にお 結 条約のなかに明確に位置づけられている。しかし ける基本的権利といわれるのには充 それら権利の、今日の世界における状況はどうだ 分な理由がある。これらは、労使が ろうか。結社の自由と団体交渉権に関するILOの 協働してお互いの利益促進と権利擁 2冊目のグローバル・レポート、 『社会正義を求め 護に向かうことを可能にする権利である。ILO憲 ての組織化』は注意深く楽観的なメッセージを伝 章はこれらの権利をかかげ、かつそれらは中核的 えている。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 移民労働者 【ジュネーブ】結社の自由と団体交渉権に関する最 ど、特定の範疇の労働者は、しばしば組織を結成 初のグローバル・レポートから4年後の、2冊目 し自由に交渉する権利を行使するうえで、深刻な のレポートとなる『社会正義を求めての組織化』 困難に直面する。レポートは、国および国際レベ は、複雑な状況を描き出している。このレポート ルの両方で使用者団体と労働者団体が、直面して は、世界全体としての見通しは明るいが、一方で いるさまざまな困難を乗り越えるため政策を採用 は深刻な権利侵害も依然として残っていることを し、行動することによってこれらの課題に着手し 指摘している。 ていることを示している。 結社の自由と団体交渉権を尊重し促進すること 結社の自由と、これらの原則と権利を擁護・促 へのコミットメントは、これらの権利が健全な経 進することは、引き続きILOの中心的責務である。 済発展と成長に重要な役割を果たすという認識の この責務は、仕事における基本的原則および権利 高まりを伴っている。グローバル化した経済では、 に関するILO宣言のフォローアップを通じて設置 これらの権利は社会的目標と市場の要求を結びつ された技術支援枠組みのなかで果たされている。 けるメカニズムを提供する、とレポートは述べて 2000年に刊行された結社の自由と団体交渉権に関 いる。真に議論されるべきことは、 「これらの原則 する最初のグローバル・レポートで導入された行 と権利を尊重するかどうかではなく、いかにすれ 動計画は、50以上の技術支援を要請した国々をあ ばそれらを最もよく尊重し、活用できるか、につ げている。以来、これらの国々の多くは相当額の いてである」 。 資金拠出を受け、プロジェクトやその他の活動に このレポートは、賃金決定の仕組みをより透明 ついてILOと協議した。さまざまな技術協力活動 にし、健全な投資決定に必要な確実性と安定性に は、良い影響をもたらしつつあり、政府・使用者 貢献するといった、団体交渉の経済的利点を強調 団体・労働者団体といった組織の能力強化に寄与 している。団体交渉は、その適用範囲や交渉レベ し、それら3者間の関係を改善している、と最新 ルから見ると非常に多様だが、成功例を見いだす のレポートは記している。 ことができる、それぞれのレベルでの団体交渉に 適した交渉課題がある。 結社の自由と団体交渉権の原則の受容と実現に 向けて、かなりの進歩があったが、その一方で、 しかしながら、世界の多くの地域で、そして多 あまりにも多くの人々がいまだにこれらの権利を くの経済分野で結社の自由と団体交渉権が尊重さ 享受していない、とレポートは指摘する。これら れていないのは「懸念される現実」である、とレ の権利を推進する手段としては以下のことがあげ ポートは述べている。使用者と労働者の双方の権 られている。 利侵害が根強く残り、しかも広範囲に及んだまま になっている。団体を組織し集団で基本的権利を 関連する条約の批准と適用に際して現存する障 守ろうとしたために、命と自由を失う人々があと 害を乗り越えるために、政府・使用者および労 を絶たない。殺人・暴力・監禁、そして組織を結 働者団体とが密接に協働すること。 成し、機能させる権利を認めないこと、これらが 権利侵害を受けやすい労働者に対しては、組織 深刻な権利侵害に含まれる。 化と団体交渉を支援すること。 レポートは、グローバル化が使用者団体と労働 権利、経済開発そして貧困削減を促進する労働 者団体に投げかける課題を指摘する。それによる 市場の構築に、これらの原則がいかに役立つか と、使用者団体と労働者団体は、現在および将来 をよく理解すること。 の加入者を組織する能力、また労使間そして政府 知識基盤づくり、助言サービス、技術協力を深 当局と討議し交渉する能力をさらに強化する必要 め、この原則に関連した意識向上と権利擁護活 がある。使用者団体、労働者団体ともに、ときお 動を実施すること。 り、不法な抑留や組織の認証・登録上の困難など、 政府からの圧力に直面することがある。公共部門、 農業部門、輸出加工区の労働者、移民、家事労働 者、そしてインフォーマル経済に属する労働者な ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 15 特 集 報 告 グローバル化 HIV/エイズ グローバル・レポート 貝を拾う人から コンピュータプログラマーまで: 移民労働者に対する 新たなアプローチ (World of Work 2004年6月発行第51号より) ついて、ILOとその加盟国は何 をできるのかを討議すること になっている。 過去10年間にわたって移民 の数は、毎年約600万人増加し 続け、現在では総計1億7,500 万人(難民を含む)にものぼ っている。討議資料として総 会に提出された報告書『グロ ーバル経済における移民労働 者の公正な処遇に向けて』*に よれば、国際的移民をひとま とめにすると、彼らは世界で 5番目に人口の多い「国」と F ILO/J. Maillard なる。 世界の移民と難民の半数近 く、すなわち約8,600万人の大 人は、雇用されているか報酬 のある経済活動に従事してい *Towards a fair deal for migrant workers in the global economy(グローバル 経済における移民労働者の公 正な処遇に向けて) 、国際労 る、と報告書は述べている。さらに、グローバル グランド北西部の海岸で、トリガイ(貝 化が仕事と経済的機会を充分に提供できないため の一種)を採集中に波にさらわれた。彼 に、雇用と人間の安全保障を求めて国境を越える らは不法移民で、暴力団によって雇わ 移民の数は、今後数十年で劇的に増加するものと 2 れていた。彼らの悲運は、多くの移民の不安定な 見込まれる、と付言している。 存在、搾取の受けやすさ、そして世界中で移民を 総会では、グローバル化の時代における労働力 ISBN 92-2-113043-6 規制する行動の必要性を浮き彫りにした。ハイテ 移動に対処する「統合的アプローチ」を含めたさ インターネットでもご覧にな ク産業や同様な技能を要する職業を確保できる移 まざまな選択肢が議論される。これには、より秩 民もいるが、多くの移民は生き残るために法的保 序立った雇用のための移住や、基準設定を通じた english/standards/relm/ilc/ 護もないまま搾取に甘んじなければならない状況 移民労働者保護の改善政策やシステムが含まれる。 ilc92/pdf/rep-vi.pdf におかれている。今年のILO総会ではこの問題に ILOに加盟する177カ国の労働大臣と、労働者およ 働事務局、ジュネーブ。 れます。 http://www.ilo.org/public/ 16 004年2月、20人の中国人労働者がイン ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 移民労働者 び使用者団体の代表の参加を受け、ILO総会はこ ることである。1970年代半ばに2カ国間での移住 の10年間で最もハイレベルのメンバーによる最も 取り決めが衰退した後、移住に適用される規則や 代表的な国際労働力移動問題の議論の場となるだ 原則についての国際規模の合意を形成しようとさ ろう。 まざまなイニシアティブがとられたが、今のとこ 国境を越える労働力移動の増加が国際社会の中 ろあまり成功はしていない。 心課題として持ち上がってきたので、総会での議 今日の移民労働力はさまざまな技能レベルの労 論は時宜を得ているといえる。国家間の経済・人 働者を含んでいるが、流入する移民労働者の大部 口の格差が広がるなかで、国境を越える人々の移 分は依然として、流入先の労働者がよりよい仕事 動がますますグローバル化していくことは、 「自然 に移ったためにあいた、労働市場底辺部の熟練を な対応」であるといえる。最近出された2冊の国 要しない仕事に就くことが多い。しかしながら、 際的なレポート(ひとつはグローバル化の社会的 この労働市場底辺部における移民労働の規模は地 側面に関する世界委員会によるもので、他方は人 域によって異なる。最近の流入移民が、ますます 間の安全保障に関する世界委員会によるもの)は、 熟練労働者になりつつあるOECD諸国では、とく 移住問題を世界的な政策課題への提言の第一に位 にこの傾向が強い。移民農場労働者は西ヨーロッ 置づけた。2003年には、国際開発学会による「難 パよりもアメリカで重要であるといったように、 民・移民政策の将来に関するハーグ宣言」 、そして 労働および移民政策が移民労働者の吸収に対して スイス政府の「ベルン・イニシアティブ」の2つ 及ぼす影響は、経済分野ごとに異なっている。 の個別のイニシアティブが、同様に移住のマネジ 国際労働力移動の作用は複雑であり、今日の政 メントに人道的原則を取り入れるうえでの各国の 策立案者に困難な課題を投げかけている。しかし、 協調を要請した。2004年初頭には、新たに移住に 移民は人口を若返らせ、インフレなしに成長を促 関する世界委員会が設置された。2006年には、国 進することから、移民の受入国に対する経済効果 連総会におけるハイレベルのメンバーによる対話 は主として有益なものである、との明確なメッセ で移住と開発問題を扱う予定である。 ージで報告書は締めくくられている。国際労働力 国際社会が直面している課題は、人の移住が密 移動は今後も増加すると見込まれ、適切な規制が 入国の動きを促進したり、確立された制度や労働 なされれば、労働移住は移民自身だけでなく、送 基準の尊重を脅かさないようにし、移住が成長と 出国そして受入国にも利益をもたらすだろう。 開発の原動力として機能するよう、これを管理す グローバル経済における移民の役割 新しいILOの報告書『グローバル経済における 800億米ドル(2002年)にものぼると推定され 移民労働者の公正な処遇に向けて』では、下記の る巨額な送金の流れを生み出す。移民による送 点を強調している。 金は、開発途上国へ国外から流入する資金源と しては2番目に大きい。 受入国における移民の経済効果は主として有益 女性が世界の移民の49%とほぼ半数を占めて なもので、新規流入者は人口を若返らせ、イン おり、かつ、家族の主要な稼ぎ手としてひとり フレなしに成長を促進する。 で出稼ぎに出ることが増えてきている。 送出国は熟練労働者が移出する際には、 「頭脳 流出」を経験するかもしれない。40万人近い 移民のうち10〜15%は正規ではなく、しかも 開発途上国出身の研究者や技術者が先進工業国 この現象は何も先進国のみに限られるわけではな で研究開発に従事している。ジャマイカとガー い。 「正規移民労働者の需要が供給に見合ってい ナは、国内で訓練を受けた医者が、国内よりも ないことを、非正規労働者の流入度合いが明確に むしろ海外にいる。 示している」 。 世界銀行のデータによると、移民は母国へ、年 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 17 特 集 報 告 移民労働者 移民労働者のための ILO行動計画 2004年の第92回ILO総会で採択された 「グローバル経済における移民労働者の公正な処遇に関する決議」から抜粋 べての移民労働者を公正に取り扱うためには、既存の国際労働基準とILO原 す 則に一致した権利をベースとしたアプローチが必要である。これらの基準 と原則は、労働市場のニーズおよび領土への入国、また移民がおかれる条 件の決定も含め、各国は独自の移民政策を決定する主権を持っていること を認識している。 ディーセント・ワークを推進するというより広範なコミットメントの一環として、ILO と加盟国政労使は、次のことがらから発生しうるすべての人々への便益を最大化するこ とが望ましいと同意している。それは、 (1)経済成長と雇用を優先する政策を推進すること、 (2)正規の労働移動を促進すること、 である。 これらの目標を達成するためには、国内労働法および適用される社会保護へのアクセ スにおいて移民労働者を自国民と平等に処遇する、非正規の移民にしばしばみられる搾 取と闘うこと、すべての移民に基本的人権を保障することを目的とした国内政策を採択 する、とのコミットメントが必要であると認識されている。 主権国家および政労使のより緊密な連携が、より効果的な労働移動プロセスと保護制 度の構築に貢献しうることは明白である。この課題を前進させるため、ILOおよび加盟 国政労使は、他の関連する国際機関とのパートナーシップのもとに、行動計画を実施す る。 行動計画は次のことがらを含む。 労働移動に関する権利ベースのアプローチのための非拘束的な多国間枠組みの開発。 国際労働基準および他の関連性のある文書を、より広範に適用するために必要な関 連性ある行動の特定。 ILOの世界雇用戦略を国レベルで実施するための支援。 能力構築、意識啓発および技術支援。 社会対話の強化。 労働移動に関する世界的動向、移民労働者の条件、移民労働者の権利を保護するた めの実効的な対策に関する情報と知識基盤の改善。 本行動計画のILO理事会でのフォローアップ、および移民に関する関連性のある国際 的なイニシアティブへのILOの参加を確保するための機構。 18 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 一 般 記 事 若年雇用 国際労働力移動 雇用フォーラム 若者の失業率 空前の高水準に F IILO/M. Crozet (World of Work 2004年11月発行第52号より) 界の失業者の半数は24歳未満の若者 【ジュネーブ】若者の失業は「経済的な浪費であ 世 である、と過去10年間に若者の失業 る」 、と新たに出版されたILO報告書は述べている。 が急増したことを示すILOの新たな調 現在の若者の失業率を半減させれば、1.4兆米ドル 査研究は述べている。 『世界の雇用情 ないし2003年の世界中のGDP(国内総生産)総額 によると、2003年の の4%相当分が増えることになる。また、報告書 若者の失業率は世界全体で14.4%にのぼり、若者 は、多くの若者の失業は、社会的な脅威をもたら の失業者総数は過去10年間に26.8%も増大してい すとも警告している。若者が社会的に弱い立場に 勢・若者編 2004年版』 (注1) (注1)Global Employment Trends for Youth, 2004(世 界の雇用情勢・若者編 るという。若者が生産年齢人口に占める割合は 立たされ、また社会から排除されて役に立たない 25%であるが、2003年の世界全体の失業者数1億 との気持ちが生まれることにより、 「個人および社 ュネーブ、2004年。 8,600万人の47%を占めている。15〜24歳の若者 会に対して破壊的な」行動につながる恐れもある ISBN 92-2-115997-3 のうち約8,800万人が失業中なのである。 からである。 「若者の潜在的可能性を生産的に利用することが ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 2004 年版)、国際労働事務局、ジ >> 19 一 般 記 事 若年雇用 >> 国際労働力移動 雇用フォーラム できなければ、若者も、経済全体も明るい未来を では低かった。先進諸国は、顕著な失業率の低下 迎えることはできないだろう。 (中略)若者の失業 がみられた唯一の地域である(1993年の15.4%か 危機に歯止めをかけるためにディーセント・ワーク ら2003年には13.4%) 。 を確立することは、我々の時代における最も重要 報告書は、若者人口の伸び率が、各国経済が仕 な課題であることは明らかだ」とフアン・ソマビ 事を提供しうる能力を急速に超えていることを示 アILO事務局長は述べている。 している。報告書によれば、若者人口全体は過去 ILO報告書は、世界で増大している失業は、若 10年に10.5%増えて2003年には11億人を超えたが、 者、それもとくに女性に打撃を与えていると指摘 それに対して、若者の雇用はたったの0.2%しか増 している。仕事に就くことができた若者も、長時 えず、仕事に就いている若者の数は5億2,600人程 間労働、短期・非正規の契約、低賃金、社会保障 度でしかない。10年前に比べ、就業率は中東、北 その他社会給付など、社会保護がほとんど得られ アフリカ、サハラ以南のアフリカを除き、すべて ない状況に身を置いている。世界で5億5,000万人 の地域で低下している。就業している若者の割合 にものぼる、働く貧しい人々の4分の1は、若者 は、1993年には労働可能な若者2人のうち1人か である。つまり、約1億3,000万人の若者およびそ 若干それを超えていたが、2003年には2人のうち の家族は、1日1米ドルの貧困ラインを超えるこ 1人にも満たない割合となった。 とができないということである。しかも、このよ 報告書はまた、若者は成人よりも仕事を探すの うな働く貧しい若者の大多数は女性である、と報 に苦労し、2003年の若者の失業率は世界全体で成 告書は指摘する。若者はますます家族に依存し、 人の失業率より3.5倍も高いという。多くの国では あらゆる種類の搾取を受けやすい状況にある。 若者および成人の失業率の間には相関関係がある 2003年の若者の失業率は、中東および北アフリ ものの、報告書は、不況のときには若者の失業率 カ(25.6%)とサハラ以南のアフリカ(21%)で最 のほうが成人よりも急速に上昇すると指摘してい F ILO Brazil も高く、東アジア(7%)および先進諸国(13.4%) る。 20 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 若者であることのデメリットは、先進諸国より も、若者が労働力人口に占める割合が大きい開発 途上国においてより明白である。世界の若者の 85%が開発途上国に住み、開発途上国では若者の ほうが成人よりも4.1倍失業しやすいが、先進諸国 ではその率が2.3倍である。 また、世界全体で若者の労働力率が約4ポイン ト減ったことも報告されている。それは、若者が 教育課程に留まっていること、労働力から脱落し ていることも理由に含まれるという。労働力率は 東アジア(73.2%) 、サハラ以南のアフリカ(65.4%) で最も高く、中東および北アフリカ(39.7%)で 最も低かった。 労働市場に参加している人々の中で若者の割合 が上昇した地域は、サハラ以南のアフリカ、中東 および北アフリカのみである。サハラ以南のアフ リカでは、貧困削減が足踏み状態にあり、働ける 者はどんな仕事でも受け入れるよう強いられてお り、その一方で中東および北アフリカでは、一般 的には伝統的に女性が担うとされている家庭的な 役割がありながらも、若い女性が労働市場へ参入 F AFP するようになっている。 報告書は、雇用機会の減少だけでなく、若者が 年齢、性別、社会経済的な背景に起因する差別に 直面している、とも述べている。すべての地域で した若年雇用ネットワーク(YEN)で特定された 若い男性に比べ、若い女性の非労働力率が高く、 ものである。YENとは、国連、世界銀行、ILOの また就業率も低くなっている。ほとんどの国で、 協力によるネットワークであり、本拠をILOに置 大多数を占める民族集団の出身者が労働市場でも く。YENはミレニアム・サミット後に設立され、 成功している。報告書はさらに、一般的に低所得 多様なパートナーの技能、経験、知識をグローバ の家庭出身の若者のほうが失業する可能性が高い ル・国・地方レベルで蓄積することにより、若者 としている。 の雇用の課題に対応することを狙いとしている。 ア、イラン、マリ、ナミビア、 YENは若者の雇用に関する国家行動計画の策定 ルワンダ、セネガル、スリラ 生産年齢人口の中で若者の占める割合が最も多 (注2)アゼルバイジャン、ブラ ジル、エジプト、インドネシ ンカ。 い開発途上国では、今後何年にもわたり、若者の を、特定の「主導的な国」において推進している。 労働力参加の行方は、経済成長率およびその成長 現在までに10カ国(注2)が、若者の雇用という課題 が雇用にもたらす影響の双方に左右される、と報 に対する革新的な解決策を盛り込んだ国家政策を for young women and men 告書は述べている。先進諸国では、人口学的な変 策定するという挑戦に名乗りをあげている。 in the world of work - A 化があり、若者の失業が顕著な地域が減る可能性 ILOはこのパートナーシップ参加国に対して、 (注3)Improving prospects guide to youth employment. Policy considerations and があるが、それも自動的にそのように変化するわ 技術支援と政策助言を行っている。その手段のひ recommendations for the けではないと報告書は警告する。先進諸国、開発 とつに、最近発表された「仕事の世界における若 development of national (注3) と題するガイドブ action plans on youth 途上国を問わず、若者は年長でより経験のある労 い男女の展望を改善する」 働者よりも不利な状況に置かれているが、こうし ックがある。これは、基本的な検討事項、トレー おける若い男女の展望を改善 た状況を克服できるように、若者の雇用に的を絞 ドオフ、経験が具体的に記されており、若者の雇 する――若者雇用ガイド:若 った政策と、統合的な政策の組み合わせが必要で 用に関する国家行動計画などの政策立案・実施に ある。 際して参考となる文書である。 このような政策は、国連事務総長のもとで成立 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 employment(仕事の世界に 年雇用に関する国家行動計画 立案のための政策考慮事項及 び提案)ILO、2004年。 ISBN 92-2-115945-0 21 一 般 記 事 若年雇用 国際労働力移動 雇用フォーラム 若年雇用ネットワーク 若年雇用ネットワーク(YEN)は、国連、世 されている。 界銀行、ILOのトップの連携によって生まれ、本 ナミビアでは、高等教育大臣がナミビア全国若 拠はILOに置かれている。これは、若者雇用の課 者協議会(NNYC)に対し、同国の国家行動計 題にグローバル・国・地方レベルで取り組むこと 画を策定するための特別委員会のメンバーとし を目的としており、若者の雇用に関する国家行動 て協力するよう呼びかけた。 計画の策定を推進してきた。最近の2本の国連総 会決議 (注4) に応え、現在までに10カ国 (注2) が 国際レベルでは、YENは若者協議グループ 「主導国」として国家計画の策定に名乗りをあげ、 (YCG)を発足させた。これはYENの意思決定者 自国での経験を開示することとなった。 およびスポークスパーソンが、YENの機能、方 向性や優先課題に関する若者の懸念を代弁するた 主導国を支援する めの、いわば「反響板」である。YCGはYENの ILOは、このパートナーシップ参加国への技術 支援と政策助言を行っている。その手段のひとつ 高級専門家委員団とも意見交換をし、YENの意 思決定と政策形成に助言を行っている。 に使われているのが最近発表されたガイドブック YCGはまた、国家行動計画プロセスへの関与 『仕事の世界における若い男女の展望を改善する を求める若者団体にとっての触媒および資源とし ―若者雇用ガイド』(注3)である。本書には、基 ての役割も担う。YCGは地域的、国際的なつな 本的な検討事項、妥協しなければいけない事項、 がりを提供し、国家レベルでの雇用に関する政策 経験が含まれており、若者の雇用に関する国家行 立案への若者の実効的で実質的な参加を助ける指 動計画など政策の立案・実施の参考になるもので 針、 ワークショップなどの情報と手段も提供する。 ある。もうひとつの手段として、本文で紹介して いる『世界の雇用情勢・若者編 2004年版』 、お パートナーシップを強化する (注5) 国家行動計画プロセスを支援するため、YEN よびILOによる「学校から仕事へ」の移行調査 がある。これらは、政策立案者が、若者雇用の課 はネットワークのネットワーク、つまり政策立案 題および今日の若者の考えを理解するうえでたい 者、労使、若者、その他ステークホルダー(利害 へん参考になるものである。 関係者)など、利益と課題を共有する人々のコミ 主導国のひとつ、インドネシアの政策立案者は ュニティを構築するべく取り組んでいる。ミレニ これらの手段を利用している。インドネシアの国 アム開発目標、貧困削減、より広範な開発課題の 家若者雇用行動計画(I -YEAP)は、インドネシ 枠組みの中で、若者の雇用は重要課題である。 アのYEN(I-YEN)運営委員会によって立案され このような多様な利害関係者を通じたアプロー た。これはI-YENが主導し、インドネシア政府、 チによって、YENは異なるグループの技能とノ YENの中核となるパートナー機関、労使、NGO、 ウハウを集め、蓄積された経験と資源を強化し、 若者、学界も関与した大規模な協議プロセスを経 また共有・反復し、規模の拡大による利益が得ら た成果である。この計画は2004年8月12日の国 れるような最良の実践方法を見つけ出す。 際青少年デーに立ち上げられ、2004年の9月に 国連総会に提出されるインドネシアの若者雇用国 このような戦略的な提携の事例として次のよう なものがある。 家行動計画(NAP)の基盤となるものである。 ユース・ビジネス・チャイナ(YBC)は、ユ ース・ビジネス・インターナショナル(YBI)と 若者をエンパワーする 全中国若者連盟(ACYF)の協働イニシアティ YENは、国家行動計画の策定・実施に若者を ブであり、若い中国人起業家の成功を助けてい 関与させることが、成功する若者雇用政策を立案 る。会社の立ち上げに対する資金協力、経営指 (注4)2002年12月に採択され するうえにおいて不可欠であると考えている。と 導、および支援サービスなどからなる包括的な た「若年雇用の推進に関する いうのは、若者の組織をパートナーとしてプロセ 支援を提供している。 決議(A/RES/57/165)」お スに充分に関与させない国は、問題の現実から乖 第15回マレンテ・シンポジウムを若者雇用問 よび2004年1月に採択された 離した政策立案を行うリスクを負っているからで 題の討議にあてたドイツのドレーガー財団と協 「若者を関与させる政策及び ある。主導国は、だんだんこのことを考慮に入れ 力し、YENの枠組みを使って、社会・政治的 るようになってきている。 な領域を越えた参加者400人を集め、若者の雇 計画に関する決議(A/RES/ 58/133) 」 。 アゼルバイジャンでは、アゼルバイジャン全国 用戦略の吟味と評価を行った。 若者協議会(NAYORA)が率いる若者NGOが 若者雇用に関する三者構成会議の組織・参加を 調査は現在までにインドネシ 連合体をつくり、国家行動計画の策定に関して 奨励し、若者の雇用問題への対応において社会 ア、バーレーン、ベトナムで 政府に緊密な協力を行うなど、若者の力が発揮 対話が果たす強力な役割を強調する。 (注5) 「学校から仕事へ」移行 実施された。 22 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 一 般 記 事 若年雇用 国際労働力移動 雇用フォーラム 外国へ新しく来た人々 移住の隠れたリスク:子どもの人身取引増大 F ILO/Nick Rain (World of Work 2004年3月発行第50号より) 界各地で多くの子どもたちが人身取 世 まちがいなく人身取引の被害者だろう。村の親か 引業者による搾取の危険にさらされ 後見人から人身取引業者に売られたか、町で「仕 ており、移住が児童労働問題に新た 事を見つける」ブローカーによって連れてこられ な領域を増やしている。この記事で たのだろう。ブローカーは親戚や家族の知り合い は、どのように移民が人身取引の罠に陥り、そし であることが多く、彼らは子どもを他人に売り飛 てILOがどのようにして最悪の形態の児童労働 ばしてしまう。家族に再び会うことのない子ども を阻止しようとしているのかについて説明する。 もいる。 この種の搾取は東南アジアを含めた世界各地で 【バンコク】バンコクで人気のナイトスポットから みられる。需要と供給の両方が存在し、そしてそ けたたましい音楽がもれ響く。年端もいかない男 れらが最悪の形態の児童労働を撲滅するにあたっ の子が外に座っている旅行者たちにチューインガ ての大きな障害となっている。ILOは、1999年に ムを売っている。彼は8歳かせいぜい9歳だろう。 加盟国が満場一致で採択した、 「最悪の形態の児童 「どこから来たの」とたずねられると「タイ」と答 労働条約」 (第182号)をはじめ、さまざまな国際 える。 「タイのどこから?」と1人の客が聞いた。 条約により最悪の形態の児童労働を撲滅するよう 少年は肩をすぼめたが、質問を重ねられて、本当 は隣のカンボジアから来たんだと言った。 委任されている。 増加する移住は児童人身取引問題に新たな領域 近くで少年の見張りが監視しているにちがいな を増やしている。ILOによって支援され、ラオス い。この少年は、搾取される子どもたちの「チー (ラオス人民民主共和国)政府によって実施された (注1) では、少なくともラオスの場合、 ム」の一員なのだろう。この「チーム」は物乞い 新しい調査 をしたり、靴磨きをしたり、花を売ったり、とき 国際移住が多くの人々を人身取引業者による搾取 として悲しいことに、自らを売っている。 の危険にさらすという恐れが現実のものになって この小さな、みすぼらしい裸足の少年は、ほぼ いることが確認された。多くの移民は、充分な準 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 (注1)Labour Migration Survey in Khammuane, Savabbakhet, Champasack サババケット、 2003(カンムアン、 チャムパサックにおける2003 年労働力移動調査) >> 23 一 般 記 事 若年雇用 >> 国際労働力移動 雇用フォーラム 備と情報を得ないまま移住することのリスクと、 ため、家事労働者として奴隷同様の労役を課すた 外国の地で直面しうる困難について認識していな め、または他の形態の搾取的な強制労働に従事さ い。人身取引業者はこの弱みにつけ込んで搾取す せるために、子どもたちは毎日売買されている。 るのであり、子ども─とくに少女─と若い女 性がまず標的にされる。 最も懸念されることは、18歳未満の移住者の半 人身取引は膨れあがりつつある「闇の」産業で あるように思われる。しかし、非合法な人身取引 を暴き、これに対処する新たな方法を見いだそう 数以上が故郷を離れて以来、消息を絶っていると とする取り組みが、一筋の光を差し込んでいる。 いうことが、3つの地域で実施されたラオスの調 児童労働撤廃国際計画(IPEC)のプロジェクトを 査でわかったことだ。こうした移住の大部分は、 通じて、ILOは子どもたち、親、そして地域社会 過去3年以内に起こっている。 の指導者たちを対象に、情報不足で準備が不充分 調査を受けたラオスの6,000近い世帯のうち、家 なまま移住することの危険性について、意識向上 族の一員が移住した世帯が7%近くあり、移住し を図っている。ILOのメコン河流域での子どもと た5人に1人は18歳未満だった。また、3分の2 女性の人身取引に対処するためのプロジェクトは、 は少女だった。 カンボジア、中国雲南省、ラオス、タイ、ベトナ ラオスの調査結果は問題の厄介さを示している。 ムの5カ国にわたって実施されている。 しかしラオスの状況は、準備不足な移住、貧困、 初期の兆候では希望が持てる。ILOの資金提供 社会に深く根づいた男女不平等、情報の欠如が、 によるタイ北部の村での意識向上運動の結果、こ 人身取引業者が暗躍するのに最適な環境をつくり れまで報告されてこなかった子どもの人身取引と 出している東南アジア諸国のなかの氷山の一角な 搾取が5件明らかにされた。うち4件は解決され のである。 た。プロジェクトの対象となった中国雲南省の 人身取引の影響を受けていない地域は、地球上 村々では、同様の介入が行われた後、充分な準備 のほぼどこにもないだろう。被害者はしばしばあ をせず情報も得ないまま移住する人が50%以上も る国で「選ばれ」 、ときとして第三国を経由して、 減った。カンボジアでは、プロジェクトのひとつ 他の国へと送られる。 しかし、人身取引は何も国際的な現象とは限ら たちに牛を供給している。これが村人たちの新た ない。中国では、東部沿岸の都市部における著し な収入源となり、子どもたちが学校に残ることを い経済発展は、農村部から都市への移住の波を引 可能にした。村全体が出産期に、この「牛の銀行」 き起こした。河南省だけでも、9,600万人の省の人 から牛を「借りること」によって利益を享受して 口のうちなんと28%が移住したとみられている。 いる。村人は最初と3頭目の子牛を自分のものに この大規模な国内移住が中国の著しい経済成長 することができる。母牛と2頭目の子牛は銀行に を支えており、確かにほとんどの移住者は移住し 人身取引を阻止するのは時間のかかるプロセス への移住者の殺到は、人身取引業者につけ入りや である。しかしILOは、政府、労使と協同して、 すい隙を与えている。少女と若い女性は簡単に標 東南アジアそして世界中で人身取引の構造的要因 的にされ、彼女たちは知らず知らずのうちに「娯 に対処するべく、ますます取り組みを強めている。 楽」産業や強制結婚へと売られる。 ILOはディーセント・ワークに就く機会の提供、 労働需要につりあうような労動力供給のための合 のクラスメートは、出会った2人の男と昼間に出 法的な移住チャネルの確立に向けて努力している。 かけることに同意したところ、売り飛ばされそう 今では、ILOや他組織の活動を通じて、政府・ になった。彼女たちはすぐに自分たちが騙されて 関係当局・家族(貧富を問わず)は、次のことに いて、男たちは自分たちを誰かの結婚相手として 気づきつつある。人身取引と子どもの搾取は、よ 売ろうとしていることに気づいた。メイはなんと り明るく生産性の高い社会を国から奪うものだと か逃げ出し、警察に通報した。警察が他の2人を いうことに。また、親がディーセント・ワークを 救出した。 通じて家族を養い、子どもは教育を最後まで受け、 この話の結末はまだ不幸中の幸いだったが、多 くはそうではない。売春あるいは物乞いをさせる 24 返され、他の村々で同様の事業が続けられる。 たことによって利益を得ている。しかし、都市部 13歳のメイのケースをみてみよう。メイと2人 F ILO/Nick Rain のマイクロファイナンス・イニシアティブが村人 より豊かな将来をすべての者に約束できる社会が 奪われているということに。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 一 般 記 事 若年雇用 国際労働力移動 雇用フォーラム 中国雇用フォーラム: すべての人への ディーセント・ワークが焦点に (World of Work 2004年6月発行第51号より) 界で最も人口が多い中国での継続的 世 発展の鍵として、より多くのよりよ い仕事を創出するためのさらなる協 力関係を構築するため、最近の雇用 フォーラムで中国とILOは、 「共通合意文書」を採 択した。その合意文書はまた、雇用を貧困削減の 戦略と政策の中心に据えることを国際機関が積極 的に支援するよう求め、一連の労働市場と職場の 問題に関するディーセント・ワーク・アジェンダ について、中国とILOが協力を進展させることを 決めている。 F ILO/J. Maillard 【北京】中国労働社会保障省とILOの共催による中 国雇用フォーラムでは、農村部での失業、農村か ら都市部への移住の増大、いくつかの国有企業の 閉鎖にともなう失業の発生といった同国の急速な 経済成長に関連する問題点や、労働市場の統治を 近代化し、経済再構築の課題に対処する方法が検 善が急務であると述べている。また同文書は、仕 討された。 事における基本原則と権利の尊重が、経済開発と フォーラムの開会式で鄭斯林・労働社会保障大 社会の発展の基礎となるとの指摘もしている。 臣は、 「現在、雇用が中国にとっての深刻な課題と 「雇用と仕事における権利の享受が、貧困と社会 なっている」と500人を超える参加者を前にして述 的疎外に対処する第一歩であるべきだ」と合意文 べた。 「労働者の完全雇用の必要性と肥大した労働 書は述べている。 「労働者が自由に選択した生産的 力の矛盾、労働者の技能と労働市場の需要とのミ な仕事に従事し、安定的で持続可能な生計手段を スマッチは依然として際立っており、雇用と再雇 得られるよう、社会対話を通じて完全雇用を促進 用に関する骨の折れる課題となっている」 。 することは経済・社会政策の優先事項であるべき 、と。 鄭氏は、雇用の促進は「戦略的課題」であり、 だ」 中国政府の政策課題のなかでも最優先事項のひと よりよい賃金と労働条件を促進することに関し、 *「共通合意文書」の全文(英 語)はインターネットでご覧 になれます。 http://www.ilo.org/public/ english/chinaforum/index. htm つだと述べている。 「我々は他国の成功と良好な実 共通合意文書は次の7点を重要事項としてあげて 中国雇用フォーラムについて 践から学ばなければならない」と、大臣は言う。 いる。 の情報は http://www.ilo.org/ * フォーラムの成果である「共通合意文書」 は、 chinaforum 中国において雇用機会を拡大し、雇用の質を高め 企業家精神の発揚を可能とする環境を創出し、 るためには、経済成長の維持および労働市場の改 自営を含めた小規模企業の設立と拡大を促進す ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 >> 25 一 般 記 事 若年雇用 >> 国際労働力移動 雇用フォーラム ることによって労働需要を刺激する。 「中国は、社会の安定をともなう経済変革をもた 紛争を予防し解決するための、また企業業績を らすことのできる政策の適切なバランスを模索し 高めると同時に、雇用の促進と社会安定の醸成 ている。中国がこの方針に沿って、パートナーと に貢献するための重要な仕組みとして、政労使 して協働できる機関としてILOをみなしているこ による社会対話を強化する。 とは、喜ばしいことである」とフアン・ソマビア より高い雇用の安定と柔軟性を確保し、知識集 ILO事務局長は述べている。 「ILOは中国の文脈に 約型経済における仕事に適合させるため、労働 おいて採用し試すことができる国際的経験をもた 者の知識と技能を高める。 らす。とりわけ労働争議を予防し、対処するため 円滑で効率的な労働力の再配置、統合された労 の方策として、雇用を促進して労働者の権利を改 働市場の段階的形成、労働市場で弱い立場にあ 善し、社会保護を強化し、社会対話を奨励するこ るグループへの効果的支援のために、労働市場 とに関し、我々は中国とより深い協力関係を持つ 政策を拡大し、かつ精緻化する。 用意がある」 。 円滑で社会的に受容可能な方法での、企業の健 「男女とその家族にとって仕事と社会経済的な保 全な再構築と生産性向上を奨励する。 障は、中国だけでなく世界のすべての国々で人々 社会保障制度を改革し、現行制度に組み入れら の関心の中心である」と、ソマビア事務局長はつ れていない人々、とくに不安定な雇用形態に就 け加える。 「人々は貧困から抜け出す機会を求めて いている都市の労働者と多数の農村部の人たち いる」 。 に対し、社会保護を徐々に拡大適用していく。 環境保護と同様に、労働者の安全と健康を守る ことが、経済開発と雇用創出のための国の政策 の一部となるべきである。 背 景 中国にとって変化の速度は急速だった。10年以 成するのに際立った成功を収めた一方で、中国経 上にもわたる平均10%の生産高の伸びは、多くの 済は、再構築された国有企業を解雇された労働者 中国人労働者に持続的かつ急速な生活水準の改善 やその他求職者を含むすべての労働市場参入者に をもたらした。世界銀行の最新の推計によれば、 対し、新たな雇用を創出するだけのキャパシティ 1日に1米ドル以下で生活する絶対的貧困下で生 を持ち合わせていないと、フォーラムの背景資料 活する人の数は、1990年の約3億6,000万人から、 と な る 報 告 書 「 中 国 雇 用 ア ジ ェ ン ダ ( A n 2003年末までに1億5,000万人強にまで減少した。 Employment Agenda for China)」は記している。 加えて、輸入を40%伸ばした中国は、東アジア 中国の労働力は今後10年のうちに、7,000万人 地域経済の牽引車となった。2003年には、韓国の 以上増加すると見込まれている。現在、何百万人 輸出の18%、日本の輸出の12%、ASEAN(東南 もの解雇者やその他の失業者が都市部での再就職 アジア諸国連合)諸国の輸出の約7%は中国向け 先を探している。一方で、農村部の不完全就業率 であった。ヨーロッパと北米、日本の景気が後退 は高く、農村労働力のほぼ3分の1に達すると推 するなかで、中国の発展が世界的景気後退を予防 定されている。したがって、多くの農村部の労働 するうえで役立った。 者も主要都市で新たな仕事を探しているのである。 とはいえ、中国は持続的な高い経済成長率を達 26 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 最 近 の 動 き ニュース 世界各地で働くILO (すべてWorld of Work 2004年6月発行第51号より) GURN:国際労働の新たな リサーチネットワーク ■グローバル・ユニオン・リサーチ・ネットワー ク(GURN)は2004年1月、ILOの労働者活動局 (ACTRAV)が国際自由労連、OECD労働組合諮 問委員会、ILO国際労働問題研究所との協力で、 トリノで発足させた新たなイニシアティブである。 その目的は、労働組合および提携する研究機関に よって行われた調査研究成果を共有するネットワ ークを創出すると同時に、共通課題についての情 報交換、分析および議論・政策形成参加をするた めの能力を開発することにある。 GURNの最初のパイロット・プロジェクトのひ とつは、労働組合組織が2004年のILO総会での一 般討議用に用意された、移民労働者に関する報告 書について討論できるようにすることである。こ F AFP こでの討論結果は、労働者グループが総会に向け て行う準備に活用されることになる。このほかに、 ここ数カ月内のGURNのアジェンダには、2国 間・地域内の貿易協定、コーポレートガバナンス、 バルセロナ・フォーラム2004: よりよい世界に向けた141日 貧困削減戦略文書、多国籍企業、国際的な労働組 合運動の再生といった5つのトピックがある。そ ■文化的多様性、持続可能な開発、平和のための れぞれのテーマについての議論は、ACTRAVのウ 条件 ─ これら3つが2004年5月9日から9月26 ェブサイトを通じてアクセスできるウェブサイト 日までのバルセロナ・フォーラムでの議論の最重 上で特集される予定である。このネットワークに 要トピックとなるだろう。バルセロナ・フォーラ 加えてACTRAVは、カッセル大学、ベルリン経済 ムでは、約1,500人の講演者とおよそ500万人の参 大学、および世界中の国際労働運動と提携学術機 加者が、地球が直面している火急の課題に対する 関と協力し、労働政策とグローバル化に関する修 解決策を見いだそうと努めるであろう。ユネスコ 士課程を開発した。 とILOは、バルセロナ市、カタロニア地方政府、 スペイン政府によって主催されるこのフォーラム 詳しい情報はACTRAVへ。 を後援し、フォーラムの一環として6月28日から 電話:+41-22-799-7448 7月1日に開催される「職場文化」に関する対話 Fax:+41-22-799-6570 に参加する。この4日間の対話は、現在と未来の E-mail: [email protected] 仕事、雇用とグローバル化、完全雇用の可能性、 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 >> 27 最 近 の 動 き ニュース >> 労働組合の課題と変化の4つのテーマに沿って行 所と上訴裁判所が含まれる。スワジランドでは、 われる。一連の2時間のワークショップが、参加 紛争を可能な限り早く、しかも容易に解決するの 者に仕事の世界を取り巻く問題と論点について習 を支援するために仲裁・調停委員会が設置された。 熟させる。ILOのさまざまな部局からの代表者は、 同時に、多数の調停人と仲裁人が紛争の仲裁と解 国際協力、紛争予防、女性とジェンダー、移住、 決技術の訓練を受けた。仲裁・調停委員会は2001 若年雇用と児童労働に関する対話にも参加する予 年1月に業務を開始。紛争予防を職場の近くで行 定である。フアン・ソマビアILO事務局長は、 「グ うために、最近、2つのサテライト・オフィスが ローバルな政策課題の構築」が討論テーマとなる 開設された。 フォーラム終盤に参加の予定である。 詳しくは、ILO社会対話・労働法・労働行政国際 詳しくはこちらへ。 重点計画へ。 http://www.barcelona2004.org 電話:+41-22-799-7147 Fax:+41-22-799-8749 E-mail: [email protected] 南アフリカにおける 労使関係改善 ■南アフリカにおけるILOプロジェクトが、毎年 12万件にものぼる紛争を処理する紛争解決システ LO専門家、ベトナムでの 労働安全衛生の取り組みを 高く評価される ムの設立につながった。スイス政府より資金提供 されたこのプロジェクトのもとで、ILOは南アフ ■ベトナムの労働・傷病兵・社会問題省(MOLI リカ政府、経営者団体、労働組合が仲裁・調停委 SA)は、ILO専門家に表彰状を授与した。外国人 員会(CCMA)を設立するのを支援し、紛争をよ が受賞するのは初めてのことである。労働安全衛 り効果的に管理できるよう労使を訓練した。それ 生専門家である川上剛博士は、13年にわたるベト 以来、南アフリカの労使関係は大幅に改善され、 ナムのメコン・デルタ地域の人々の生活・労働条 労働争議の件数は過去30年で最低レベルのものと 件改善への取り組みを表彰されたのである。東京 なった。ILOはまた、南アフリカの深まる失業危 出身の川上博士はこの間、地元の農家、小企業経 機に対処する上級管理職・労働主導者委員会の設 営者、労働者と使用者を対象にした、多くの訓練 立と技術支援を行った。2000年7月にムベキ大統領 プログラムとリサーチプロジェクトを実施し、彼 によって立ち上げられたミレニアム労働評議会は、 らとその家族の生活水準向上を支援してきた。川 経済回復と雇用創出の促進をめざしている。南ア 上博士は、3月上旬、第6回全国安全週間中にベ フリカのプログラムの成功を受け、ILOは同様の トナムで、MOLISAのル・デュイ・ドン副大臣よ 技術支援をナミビア、レソト、ボツワナ、スワジ り賞を授与された。同氏は、以前は労働科学研究 ランド、モザンビークとジンバブエにも拡大した。 所(川崎市)に勤務しており、ILOに勤務して4 アンゴラも、このプロジェクトの新段階での技術 年になる。 支援の恩恵を受けることになっている。これらの プロジェクトは、とくにレソト、スワジランド、 詳しくは、ILOアジア太平洋地域総局のソフィー・ ボツワナにおいて大きな成功を収めた。例えばレ フィッシャー地域広報官へ。 ソトでは、法のもとにいくつかの新しい機関が設 電話:+66-2-288-2482 立された。これらには紛争予防・解決局、政府・ E-mail: [email protected] 労使の代表が参加する労使関係評議会、労働裁判 28 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 I L O 駐 日 事 務 所 活動ハイライト 心とする約600名が参加した。7機関の若 ILO駐日事務所の 活動概況: 2004年後半 移民労働 手職員が「国連で働くこと」について話す 【10月4日】法政大学大原社会問題研究所 セッションには、ILO東南アジア太平洋準地 とILO駐日事務所の共催により、第92回ILO 域総局の廣瀬賢一社会保障専門官も参加し、 総会の一般討議報告会「グローバル経済化 ディーセント・ワークの達成に向けたILOで と国際労働移動―移民労働者のディーセン の仕事について発表した。全体セッション ト・ワーク」開催。基調講演は、ILO社会保 の終了後には、機関別ワークショップも開 護総局国際労働力移動部部長のマノロ・アベ 催され、ILOを含む6国連機関が、詳しい説 【9月18日】日本労働者協同組合連合会25 ラ氏が行い、東アジアの国際労働移動の動 明と質疑応答の機会を設けた。 周年記念国際シンポジウム「尊厳ある労働 向、移民を効果的に管理するための多国間 の社会的実現へ」に、ILO駐日事務所の特別 枠組みの必要性とその構成要素について発 ILOの歴史写真展 協同組合 協力として、本部のシュウェットマン協同 表した。続いて、政労使からILO総会移民労 【11月22日−12月15日】ILO創設85周 組合部長(基調講演)と堀内光子駐日代表 働委員会での政労使の主張、討議の進め方 年、フィラデルフィア宣言60周年、ノーベ が参加。 についての報告があり、日本の移民労働専 ル平和賞受賞35周年を記念した写真パネル 人身取引 門家による日本における現状と課題につい 展をUNギャラリーにて開催。 ての問題提起がなされた。報告者は、森實 グローバル化と若者の雇用 【10月1日】ILOフォーラム「人身取引廃絶 久美子厚生労働省職業安定局外国人雇用対 に向けたILOの取り組み」開催。ILO強制労 策課課長補佐、須賀恭孝日本労働組合総連 【12月2−3日】厚生労働省、ILO、国連大 働廃止特別プログラム統括責任者ロジャー・ 合会総合労働局長、阿部博司日本経団連労 学共催のシンポジウム「グローバル化と若 プラント氏が、 「国連国際組織犯罪防止条約 働政策本部職員、森廣正法政大学経済学部 者の未来」が、アジアからの政労使代表の 及び人身取引議定書」が発効したことによ 教授。 る各国の対応における新たな課題、ILOが近 日中に発行予定の「人身取引と労働搾取: 国連デー 立法者及び法執行機関のためのILO指針」に 【10月22日】日本にある20国連機関の共 ついて報告。また、同プログラムの法務官 催による公開フォーラム。今年は、フィン ガオ・ユン氏は、フランスへの中国移民の ランド共和国のタルヤ・ハロネン大統領が、 状況と問題点に関する調査結果を紹介した。 ILOが設置したグローバル化の社会的側面に 参加者には、日本のトラフィッキング犠牲 関する世界委員会の成果を引きつつ、 「公正 者のケース・スタディー概要(コラム参照) なグローバル化のために:フィンランドの が配布された。 視点」と題する記念講演を行い、若者を中 アンジェリカ(仮名)のケース 〔抜粋〕 アンジェリカは日本に住む従姉妹から、 ベビーシッターとして日本に働きに来るよ 大使館職員や警察官とともに、パスポート、 航空券、衣服を何とか取り戻した。 う頼まれた。彼女は、従姉妹にヤクザのボ コロンビアへの帰国日を待つ間、アンジ ーイフレンドがおり、コロンビア女性を募 ェリカはシェルターに身を隠した。シェル 集して日本の性産業に送り込むブローカー ターにいる間に、彼女は倒れ病院に収容さ として働いていることを知らなかった。 れなければならなくなった。病院は彼女を 日本に到着後、アンジェリカは400万円 隔離された病室に入れること、警察官、大 の借金があると告げられ、それは1週間の 使館およびシェルタースタッフのみを入室 うちに説明もないまま450万円に増えた。 させること、そして彼女の所在を外部に漏 もし同意しなければ、2人の子どもに危害 らさないことに同意した。ヤクザは病院へ が及ぶと脅され、彼女は数々の劇場でスト 来たが、彼女の居場所を突き止めることが リップや売春をすることを余儀なくされた。 できなかった。その後、彼女はコロンビア 数ヵ月後、彼女は警察署へ駆け込み、警 参加も得て開催される。ファン・ソマビア ILO事務局長、ハンス・ファン・ヒンケル国 へ送還された。 察署が大使館に連絡した。アンジェリカは、 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 連大学学長、尾辻秀久厚生労働大臣が出席 予定。 プログラム 12/2(木)〈14:00-17:45〉 開会挨拶:尾辻秀久 厚生労働大臣 趣旨説明:衛藤晟一 厚生労働副大臣(総合議長) スピーチ: 「公正なグローバル化に向けて」 ハンス・ファン・ヒンケル国連大学学長 基調講演: 「公正なグローバル化とディーセン ト・ワーク」 (仮題) ファン・ソマビアILO事務局長 パネルディスカッション1: 「グローバル化と仕事の世界」 12/3(金)〈10:00-18:00〉 報 告:「グローバル化する世界における若 年雇用の重要性:ILOの視点」 ジェーン・スチュアートILO雇用 総局長臨時代理 基調報告:「日本の若年雇用・能力開発対策」 太田俊明 厚生労働省労働担当政策統括管 古賀伸明 電機連合中央執行委員長 加藤丈夫 富士電機ホールディング(株)相談役 表:「アジアの若年雇用・能力開発対策」 アジア各国パネリスト 若者の声:日本の若者による職業人生に関する プレゼンテーション 発 (司会)玄田有史 東京大学社会科学研究所助教授 パネルディスカッション2: 「グローバル化と若年雇用」 閉会の辞:ILO駐日代表 堀内光子 29 書 籍 紹 介 ILO出版物(英語版) ■よりよい世界のための経済安全保障 ■社会保障の資金運用 Economic security for a better world Financing social protection 2004年刊 450pp. 5,000円 ILOは本年9月1日、仕事に関 する7つの指標をもとに経済安 全保障指数(ESI)を発表した。 これは社会・経済保障国際重点 計画が初めての試みとしてまと めたもので、本書はこのESIに ついて3部14章構成で詳説する。第1部で経済安 全保障の概念を提示し、第2部で7つの基礎指数 (労働市場安全保障、雇用安全保障、職務安全保 障、労働安全保障、技能再生安全保障、所得安全 保障、表現安全保障)のそれぞれについて調査結 果を詳記したうえで、経済安全保障指数でみた各 国の状況をまとめている。第3部では経済・社会 保障を高める可能性のある革新的な組織や新たな 政策を紹介している。伝統的な社会保障制度はこ れまで経験したことのない新しいタイプの危険や 不確実性に対応できないとし、基礎経済保障を提 供する権利に根ざしたユニバーサルな制度が提案 されている。 巻末に7つの指数および経済安全保障指数の国 別ランキングを掲載。世界90カ国の経済安全保障 指数ランキングの上位はスウェーデン、フィンラ ンド、ノルウェーといった北欧諸国が占め、日本 は18位にランクされた。 ■ヨーロッパの最低所得制度 Minimum income schemes in Europe G. Standing編 2004年刊 292pp. 3,500円 前掲書(「よりよい世界のた めの経済安全保障」)と同じく 社会・経済保障国際重点計画に よる本書は、西欧諸国(フラン ス、ポルトガル、イタリア、フ ィンランド、アイルランド、ベ ルギー、ギリシャ)の最低所得 制度の最近の傾向と発展を検証したうえで、賃金 不平等をなくすためのメカニズムを確立すること、 そして貧困層を対象とする特定の給付金ではなく ユニバーサルな給付制度を確立する必要を説く。 M. Cichon, W. Scholz, A. van de Meerendonk, K. Hagemejer, F. Bertranou, P. Plamondon 共著 2004年刊 663pp.10,000円 公的な社会保障制度は途上国 でGDPの5%、OECD諸国では 35%を再分配しており、貧困の 防止と削減に重要な役割を担っ ている。社会保障制度を健全な財政基盤のうえで 効果的に公平に運用していくことはどの国の政府 にとっても大きな課題である。本書は、社会保障 制度の資金運用に関する既存資料を分析し、さま ざまな運用法のメリット・デメリットを明らかに したうえで、実際に社会保障制度を運用する実務 者が、自国の社会保障制度の規模と範囲を決定し、 効率的かつ効果的な資金運用方法を確立する一助 となることを期待して執筆された。統計資料も多 数掲載している。 ■若い兵士たち:なぜ戦うことを選ぶのか Young soldiers: Why they choose to fight R. Brett, I. Specht共著 2004年刊 191pp. 2,750円 30万人以上の子どもが、反乱 軍、国軍、民兵などの武装集団 の一員として、地球上で起きて いる最も暴力的な紛争に自らの 意思で積極的にかかわってい る。本書は、強制・拉致ではな く、「自発的に」武装集団に加 わる理由を、53人の子どもたちの生の声から探る。 戦闘員となった理由を分析していくと、子ども たちを取り巻く社会経済環境、弱者であるという 立場、貧困、法秩序の崩壊などさまざまなリスク 要因の関与が浮かび上がった。また本当に「自発 的」であるかどうかについても光が当てられてい る。「最悪の形態の児童労働条約(第182号)」の 批准が急速に進み、武力紛争への子どもの強制的 な徴用をなくすことが叫ばれるなか、本書は子ど もたちが戦争の道具とされることを防ぐための提 言、政策、活動を立案するうえで大きな示唆を与 えている。 ■ジェンダーの役割と男女平等:社会保 障の論点への欧州における解決策 ■国際労働基準電子図書館2004年版 Gender roles and sex equality: European solutions to social security disputes International labour standards electronic library 2004 I. Heide著 2004年刊 117pp. 2004年刊 CD-ROM 2,500円 超国家的な欧州法は社会保障 における男女平等を規制し、法 定社会保障制度や職域社会保障 制度における男女平等の推進に 効果的な法的枠組みを提供して いる。 しかし国内、超国家的な判例 法をみると、欧州法が十分に理解され適用されて いるとは考えられない状況にある。本書は、男女 30 平等の問題を歴史的・社会経済的発展、欧州の各 国家と欧州共同体間の力の分担、超国家法の形成 と国内法への組み込み、世界でも独特の法執行制 度など、より広範な文脈のなかで考察する。 1,500円 国際労働基準に関する基本的 な情報はILOのウェブサイト上 で入手可能であるが、毎年更新 されるこのCD-ROMには、国際 労働基準に関する基礎文書と解 説資料がひととおり収録され、ILOの条約・勧告に 関心のあるすべての方にとって必携資料である。 ILOの条約、勧告、ILO憲章、1998年採択の「仕事 における基本的原則及び権利に関するILO宣言」と いった法的文書の原文に加え、条約および勧告に ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 かかわる手続きを解説したハンドブックなどが収 録されている。このほか国際労働基準解釈の指針 となる文書として、結社の自由の侵害に関する申 し立てを審議する理事会、結社の自由委員会の決 定集、条約勧告適用専門家委員会の総合調査報告 書も収録(1985〜2004年発行分) 。さらに、ILO事 務局職員が国際労働基準を分野別に解説した 「International Labour Standards: a global approach (国際労働基準:グローバル・アプローチ) 」、 「 Fundamental Rights at Work and International Labour Standards(仕事における基本的権利と国 際労働基準) 」、 「Guide to International Labour Standards(国際労働基準ガイド)」といった書籍 (いずれも印刷物が別途刊行されている有料出版 物)も含まれている。 なお、条約勧告適用専門家委員会の一般報告と、 個別国に関する審査をまとめた報告書は未収録 (別売りのCD-ROM、ILOLEXに収録されている)。 ■消費者物価指数マニュアル:理論と実践 Consumer price index manual: Theory and practice 2004年刊 535pp. 20,000円 消費者物価指数(CPI)は、 消費者が商品・サービスを購入 する段階での物価の変動率を示 し、経済政策の立案、とりわけ 通貨政策にとって重要な統計資 料である。本書の作成には、 ILO以外に、IMF(国際通貨基 金) 、OECD(経済開発協力機構) EC統計局、国 連ヨーロッパ経済委員会、世界銀行が協力した。 CPI統計資料作成の包括的なガイドブックである。 ■グローバル経済における移民労働者の 公正な処遇に向けて Towards a fair deal for migrant workers in the global economy 第92回ILO総会(2004年) 第6議題資料 2004年刊 210pp. 2,000円 加盟国からの国際労働力移動 に関する調査回答を盛り込み、 国際労働力移動の傾向とその影 響、移民労働者の状況、法およ び慣行、人の移動や移民労働者 の雇用を規制する体制・政策における経験といっ た最新の情報を記す。 ■ILO労働力移動調査2003年:国別概要 ILO migration survey 2003: Country summaries 2004年刊 437pp. 5,000円 日本を含む93カ国の移民数を 含む人口データ、関連する法・ 規則・政策・管轄省庁、二国 間・多国間協定、移民労働者の 社会保護、非正規移民労働者正 規化の手続き、海外で働く自国 民を把握する手段、関連ウェブ サイトといった詳細なデータを掲載。 好評発売中 IILSの本 ILO出版物の日本語版 ■グローバル化と仕事の未来 ■ディーセント・ワークの達成に向け て:地球的な課題 近刊書 Reducing the decent work deficit: A global challenge New forms and meanings of work in an increasingly globalized world ■公正なグローバル化:すべての人々に 機会を創り出す R. Dore著 2004年刊 73pp. 1,500円 2003年12月に東京大学との共 催で開催されたノーベル平和賞 社会政策シンポジウム「グロー バル化と仕事の未来」で、ロナ ルド・ドーア教授が行った以下 の4つのレクチャー録。(1) 21世紀型労働の苦しみと喜び(2)労働市場の柔 軟性:その意味するもの(3)社会変化の行方 (4)グローバル市場と各国固有の雇用システム。 Routledge社刊 ILOの本 ■先進諸国における実際の労働時間と労 働者が希望する労働時間の調和の探求 Working Time and Workers’ Preferences in Industrialized Countries: Finding the balance Jon C. Messenger 編 2004年刊 231pp. 75ポンド 労働時間が週50時間を超える 労働者は、欧州諸国の大半では 労働力の1割に達しないが、米 国、オーストラリア、ニュージ ーランド、日本では2割を超え ているという。 オーストラリア、欧州連合、日本、ニュージー ランド、米国といった先進諸国の労働時間を扱っ た本書のデータは、実労働時間と労働者が希望す る、または必要とする労働時間の間には大きな差 があることを示す。例えば米国では全労働者の半 数が労働時間の短縮を希望している一方、欧州で は労働時間20時間未満の労働者の46%が労働時間 の延長を、週50時間以上働いている労働者の81% が短縮を希望している。 本書は、米国、英国、オーストラリアのように 労働時間の規制が比較的限定的な国で労働時間が 長くなる傾向が高いことを指摘し、企業の要求と 労働者のニーズを調和させるには、1)健康と安 全の推進、2)労働者が家族的責任をよりよく果 たせるよう支援すること、3)男女平等の奨励、 4)生産性向上、5)労働者が自らの労働時間を 選択し、影響を与えることのできる余地の拡大、 という5つの側面に沿った労働時間政策の必要性 を提案している。 なお、ILOでは100カ国以上の労働時間法制を収 録したデータベースを11月に労働・雇用条件計画 のウェブサイト上で公開する予定。 本書は、ILO労働・雇用条件計画の専門職員ジョ ン・メッセンジャーが編者となり、海外の出版社 Routledge社より出版されました。ご注文は直接 Routledge社(http://www.routledge.com/)まで お願いいたします。 A Fair Globalization:Creating Opportunities for All World Commission on the Social Dimension of Globalization 日本語 2004年11月下旬発行 予定 3,000円 英語 2004年刊 168pp. 4,500円 ILOは2002年2月、学識者、政 財界・労働界・市民社会の代表 者、社会・経済問題専門家など 26名からなる「グローバル化の 社会的側面に関する世界委員 会」を設立。グローバル化にまつわる議論を対立 から対話へと方向づけ、経済、社会、環境におけ る目的を組み合わせる革新的で持続可能な方法を 模索し、グローバル化の恩恵がより多くの人々に 届くような方途を検討し提言をまとめた。 報告書は大きく4部からなる。第1部では、 人々に資するグローバル化のビジョンを提示し、 第2部ではグローバル化への地域ごとの視点とグ ローバル化の本質と影響について、第3部ではグ ローバル化のガバナンスのための国内機構の強化 と国際的なガバナンスの改革について、第4部で は、変化を起こす行動に動員する方法について述 べている。 また資料1では、国内のガバナンスと国際的な ガバナンス(公正なルール、国際政策の改善、制 度の説明責任の向上、変化のための行動への動員 など多岐にわたる)についての提言内容が簡潔に まとめられている。 ■今こそ職場に平等を Time for Equality at Work 日本語 2004年12月上旬発行 予定 1,000円 英語 2003年刊 136pp. 2,000円 2003年度のグローバル・レポ ート。雇用および職業における 差別の排除の問題を扱い、職場 における差別を排除することの 利点が、個人だけでなく経済・ 社会全般に及ぶと主張する。また、雇用や職業に おける差別の排除をめざす政策や実際的な対策に ついて、最新情報を紹介する。 日本語 2001年刊 1,500円 66pp. 人々の生活を支える安定した 仕事の実現のためには、経済政 策と社会政策の統合的アプロー チが重要。グローバル経済のな かで、開発戦略の一環としてデ ィーセント・ワークをめざすと いう意欲的な課題の実現に向け て、何が必要かを提言する。 ■ディーセント・ワークとインフォーマ ル経済 Decent Work and the Informal Economy 日本語 500円 2003年刊 133pp. グローバル化のなかで急速に 拡大しつつあるインフォーマル 経済。そこで働く人々は、社会 保護や、労働にかかわる権利や 代表権も保障されていない。社 会的に認知され、保護されたディ ーセント・ワークを実現するための戦略を提案する。 ■人の心に耐え難い行為:子どもの人身 売買をなくすための行動 Unbearable to the Human Heart: Child trafficking and action to eliminate it 日本語 2002年刊 1,000円 108pp. 子どもの人身売買をなくすた めには、情報、経験、知識の共 有が重要である。本書では、子 どもの人身売買について世界で 知られている主要事項をまとめ るとともに、問題解決に向けて 成果をあげた実例を報告する。 ■HIV/エイズと働く世界: ILO行動規範 HIV/AIDS and the world of work: ILO code of practice 日本語 2004年刊 54pp. 1,000円 職場におけるHIV/エイズの 問題について、働く人の尊厳を 尊重した効果的で適切な職場の 規則、国の政策を策定するうえ で、貴重な指針を示す。 お問合せ・ご注文はILO駐日事務所まで Tel:03-5467-2701 Fax:03-5467-2700 ※ILOの出版物を数多く紹介した「ILO出版物カタログ2004」無料配布中です。ご希望の方はILO駐日事務所まで。 ワールド・オブ・ワーク 2004年 第2号 31 世界に広がるILOのネットワーク 本部(在ジュネーブ) 地域総局 準地域総局 ILOフィールド・オフィス 通信員 ILO(国際労働機関)は、1919年の創立以来 すべての人々にディーセント・ワークを確保することを目標として 質の高い雇用の創出、仕事における基本的人権の推進 人々の社会経済安全保障の推進 社会対話の促進などを通して 社会正義を基礎とした世界平和の確立を めざして活動しています。 ILO駐日事務所 http://www.ilo.org http://www.ilo.org/tokyo
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