ホテル・旅館業経営カイゼン寺子屋調査事業 講義資料

次世代経営者のための
ホテル・旅館業
経営カイゼン
寺 子 屋
「平成 21 年度サービス産業生産性向上支援調査事業」
ホテル・旅館業経営カイゼン寺子屋調査事業 講義資料
経済産業省 北海道経済産業局
まえがき
北海道は、国内外から多くの観光客が訪れ、その経済波及効果が2兆円に上る観光産業
は、雇用吸収力も高く、北海道の重要産業分野に位置づけられます。しかしながら、観光
産業の将来性を考えると、長期的には少子高齢化や観光のグローバル競争、短期的には世
界的な景気悪化による国内・海外観光入込数の減少等が懸念されます。
特に、観光産業の中核である宿泊業については、これまでサービスの質よりも集客を優
先したマスツーリズムを追求して発展してきた結果、全国に比して平均宿泊単価が低く、
それが食材コストや人件費削減等を招き、一層のサービス低下に陥るという悪循環を引き
起こしています。
当局では「平成 21 年度サービス産業生産性向上支援調査事業」の一環として、道内宿
泊業従事者のうち次世代経営者等を対象とした講義セッションとワークショップセッシ
ョンからなる実践的な小規模セミナー「ホテル・旅館業経営カイゼン寺子屋」を平成21
年12月~平成22年2月にかけて全3回開催いたしました。
本報告書は、講義内容を編集・再構成し、道内宿泊業全体のイノベーションや生産性向
上を促進するために参考となる資料集としてとりまとめたものです。
北海道宿泊事業者の皆さんが、本報告書を活用されることで、経営強化の一助となれば
幸いです。
また、本事業の実施に際しましては、(社)北海道観光振興機構、(社)日本観光旅館連
盟北海道支部、北海道ホテル旅館生活衛生同業組合、
(社)日本ホテル協会北海道支部、
(社)
国際観光旅館連盟北海道支部、及び(株)JTB北海道(以上、敬称略・順不同)といった
各機関のご協力をいただきました。
ここに、関係各位のご指導、ご協力に対し厚くお礼申し上げます。
平成22年3月
経済産業省 北海道経済産業局
産業部 サービス産業室
講師紹介
マーケティングなしでは客は呼べない
大野 正人
(財)日本交通公社 理事
まずは国内観光市場を概観してみましょう。今の北海道観光の課題や宿
泊産業のこれからを社会構造変化等の視点から読み解きます。
低成長下での経営サバイバル計画
竹原 和利
(株)JTB商事 企画設計室長/チーフコンサルタント
人気が高く、足の長い北海道は景気の影響を受けやすく、低成長経済下
では綿密な経営計画が必要です。この機会に自館戦略を見直しましょう。
満足度を下げずに食のコストを下げる
小輪瀬 博子
(株)JTB商事 企画設計室 コンサルタント
旅館商品の中でも、食は大きな要素です。いかに食にかかる商品力を演
出し、費用をコントロールしていけるかのポイントをお話します。
自館を見つめ直して魅力向上を
岩崎 比奈子
(財)日本交通公社 主任研究員
自館がお客様に提供できる価値とは何かという視点で、旅館内外の場面
別に価値向上への取り組みのヒントについてお話しします。
潜在需要に向けた商品開発とは
井門 隆夫
(株)ツーリズムマーケティング研究所 主任研究員
旅館の商品力のカギは情報力と想像力。目先のお客様向けの商品とまだ
来ていないお客様向けの商品は違います。これから大切なのは後者。数
年の時間をかけて次世代の営業基盤を構築しましょう。
目 次
講座1
(講義プログラム)
マーケティング
1. 旅行マーケットと北海道観光の課題 ------------------------------------
01
講師: (財)日本交通公社 理事 大野正人
講座2
経営管理・事業収支改善
2. 旅館の経営管理とサバイバル ------------------------------------------
07
講師: (株)JTB商事 企画設計室長/チーフコンサルタント 理事 竹原和利
講座3
施設・料理・サービス
3. 旅館商品向上のための魅力づくり (施設・料理・サービス) -------------------
13
講師: (株)JTB商事 企画設計室 コンサルタント 小輪瀬博子
講座4
商品開発/販売戦略Ⅰ
4. 魅力ある商品づくりに向けた留意点 -------------------------------------
17
講師: (財)日本交通公社 主任研究員 岩崎比奈子
講座5
経営分析Ⅰ
5. 経営改善計画と経営課題発見のための経営数値・指標の着眼点 ---------
21
講師: (株)JTB商事 企画設計室長/チーフコンサルタント 理事 竹原和利
演習1
経営分析Ⅱ
6. A旅館の改善策の手法・プロセスについて ------------------------------
27
講師: (株)JTB商事 企画設計室長/チーフコンサルタント 理事 竹原和利
講師: (株)JTB商事 企画設計室 コンサルタント 小輪瀬博子
講座6
商品開発/販売戦略Ⅱ
7. 魅力ある商品の販売戦略 -----------------------------------------------
31
講師: (株)ツーリズムマーケティング研究所 主任研究員 井門隆夫
講座7
事業収支計画Ⅰ
8. 事業収支計画策定のポイント ------------------------------------------
39
講師: (株)JTB商事 企画設計室 コンサルタント 小輪瀬博子
演習2
事業収支計画Ⅱ
9. 改善計画策定、事業見通しのシミュレーション --------------------------講師: (株)JTB商事 企画設計室長/チーフコンサルタント 理事 竹原和利
講師: (株)JTB商事 企画設計室 コンサルタント 小輪瀬博子
49
講座1
講座
1
マーケティング
旅行マーケットと北海道観光の課題
(財)日本交通公社 理事 大野正人
まず、旅行市場を概観しよう
POINT
◎ 旅行者属性と同行者内容が宿泊へのニーズに最も影響する
◎ 同じ同行者でも、ライフステージにより、中心顧客(大事にする客)は異なる
ライフステージと同行者別のシェア(図表 1-1)を見ると、家族、夫婦、友
人の 3 つの主要マーケットは5割、2割、2割といった構成です。しかしその
内訳をみると、家族旅行の中で少子高齢化が顕著に現れています。子供連れの
旅行の比率が少なくなり、大人の親子旅行がかなりの比率を占めるようになっ
てきています。ですから、
「家族旅行が多い」と言っても、実際は年配の親子旅
行の比率が増しているのです。
また夫婦旅行 23.1%のうち、半分以上が子育て後の夫婦旅行です。ですから
家族旅行、夫婦旅行の半数強が年配の人たちの旅行であるということです。こ
のようにライフステージごとに誰と一緒に旅行するのかはかなり変化をすると
いうことです。年代別に旅行の同行者を見てみると、女性では、年齢が 30 歳前
後から結婚などで家族旅行が一気に増えます。30~40 歳女性の家族旅行は、ほ
とんどが子連れ旅行です。ところが、45 歳を過ぎますと、子供が少し大きくな
って、女性の場合はど
んどん友人と一緒に旅
行するようになります。
それが 50 歳 60 歳にな
ると、加えて夫婦旅行
もどんどん増えていく
のが、女性層の特徴で
す。このように性別・
年代によって同行者が
異なります。
図表 1-1 ライフステージと同行者別のシェア
国内旅行
マーケットセグメント
2005年
家族旅行
幼児連れの家族旅行
小学生連れの家族旅行
中高生連れの家族旅行
大人の親子旅行
3世代の家族旅行
(その他の家族旅行)
夫婦旅行
カップル旅行
子育て前の夫婦旅行
子育て中の夫婦旅行
子育て後の夫婦旅行
友人旅行
未婚男性による友人旅行
子育て前の男性による友人旅行
子育て中の男性による友人旅行
子育て後の男性による友人旅行
未婚女性による友人旅行
子育て前の女性による友人旅行
子育て中の女性による友人旅行
子育て後の女性による友人旅行
ひとり旅
男性のひとり旅
女性のひとり旅
2006年
(%)
海外旅行
2003年~ 2004年~ 2005年~
2007年
2005年 2006年 2007年
49.0
49.2
46.2
31.6
32.8
33.1
8.2
21.0
4.6
9.4
5.6
0.2
8.5
18.1
6.3
9.6
6.4
0.3
4.8
20.2
4.7
8.9
7.6
0.0
2.6
9.0
3.1
13.0
3.7
0.2
3.7
8.9
3.5
12.2
4.1
0.4
4.1
9.7
3.0
11.5
4.4
0.4
21.5
18.7
23.1
29.7
28.7
30.3
2.8
2.8
1.8
14.0
3.5
3.1
1.3
10.8
5.1
3.4
2.0
12.5
3.5
5.9
2.2
18.1
3.6
5.3
1.8
18.0
4.3
5.6
1.9
18.5
21.8
23.0
21.7
31.0
31.0
27.9
2.1
0.4
0.7
7.1
2.1
1.2
1.5
6.8
1.8
0.9
1.1
6.8
4.5
0.5
1.2
6.2
2.7
0.7
1.6
4.6
3.6
0.9
1.2
6.3
3.1
0.9
2.8
5.6
8.7
2.2
1.6
6.2
3.0
0.7
1.9
5.9
10.1
1.7
1.2
6.5
2.5
0.5
2.0
4.7
10.0
1.1
1.0
6.2
5.2
3.2
2.1
6.3
3.4
3.0
4.9
2.5
2.3
5.9
2.8
3.1
6.2
2.7
3.4
6.3
3.0
3.3
出典:財団法人日本交通公社「旅行者動向 2008」
1
POINT
◎ ニッチな体験型観光を取り入れて、マーケットの間口を広げる
◎「おしゃべり旅行」の受入も重要
旅行目的(図 1-2)のメインストリームは「温泉旅行」「自然観光」「グルメ」
です。ここ5年ぐらいほとんど変わっていません。実際の旅行は、これらの目
的と「祭・イベント」
「花の名所巡り」
「マリン・スポーツ」
「秘境ツアー」
「エコ
ツアー」などのニッチマーケットの旅行が一部に組み合わさって行われていま
す。ですから皆さんがニッチマーケットに注目して、例えば「エコツアーをや
ってみよう」
「花のイベントをやってみよう」と考えている場合、それだけで狙
っても本当に小さなマーケットにすぎません。でもそこに「温泉旅行」
「自然観
光」
「グルメ」というメインストリームを組み合わせることによって、ニッチな
体験型観光へのハードルが下がるのです。そういう間口を広げることが特に温
泉地、あるいは都市のような収容力の大きい地域の場合は重要になります。
ちょっと注目していただきたいのは「おしゃべり旅行」、つまり同行者とのコ
ミュニケーションを楽しむ旅です。観光旅行の目的は、よく言われるのが「観
光(サイトシーイング)」「交流(コミュニケーション)」「リラックス」の3つ
です。でも、これだけ高速道路に気楽に乗れるようになると日帰り旅行も簡単
にできてしまう。そうなると皆さんのような宿泊業では、
「コミュニケーション
の場をいかに作るか」
「リラックスの場をいかに作るか」ということが一番ポイ
ントになります。ですから、
「おしゃべり旅行」というものは、宿泊施設にとっ
ては非常に重要なポ
イントであると考え
ていただきたい。
図表 1-2 行ってみたい旅行のタイプ
0
温泉旅行
自然観光
グルメ
歴史・文化観光
海浜リゾート
テーマパーク
世界遺産巡り
おしゃべり旅行
動物園・水族館
ショッピング
和風旅館
町並み散策
高原リゾート
都市観光
リゾートホテル
祭・イベント
花の名所巡り
登山・山歩き
マリンスポーツ
海水浴
自然現象観賞
スキー
秘境ツアー
芸術鑑賞
スポーツ観戦
釣り
ロケ地巡り
地域工芸体験
ゴルフ
クルーズ
10
20
30
40
(%)
60
50
49.2
41.3
37.4
35.3
28.2
26.7
24.7
23.9
22.1
19.5
19.0
18.5
18.2
16.9
13.7
12.3
12.2
11.7
11.2
11.0
10.5
10.5
9.6
8.8
8.8
6.3
6.1
5.3
5.3
※複数回答
4.8
出典:財団法人日本交通公社「旅行者動向 2008」
2
POINT
◎ 今後ますます進む「入込の平準化」と「供給過剰」
◎ 特定客層への偏り -リピーター比率は 70%近い-
サービス業が広がるほど、休日は分散化します。また少子高齢化で時間が
自由になるリタイア層が増えます。国内旅行市場規模の推移(図表 1-3)を
みると、国内旅行の需要は増えていないこと、国内旅行の出発日自体が平準
化傾向にあるということがお分かりになるかと思います。2009 年は 1000 円
高速の影響で休日に集中したものの、今後は国も休日の分散化を政策的に進
めようしていますので、平準化はますます進むと考えられます。
しかし総需要があまり伸びずに平準化が進むと、当然、供給過剰になります。
今までオンシーズンのピークに集中していたお客さんが、総需要が増えなけれ
ば分散するのです。ピークでも、今まで 5,000 ベッドあったのが 4,000 ベッド
で事足りるようにな
ってしまいます。一
方で、4,000 ベッド
だけ取ってみれば平
均の稼働率が上がり
図表 1-3 国内旅行市場規模の推移
暦 年
旅行者数
国
内
宿 消費単価
泊
旅 総消費額
行
ます。皆さんは平準
旅行者数
化すれば、
「季節波動
海
外 消費単価
旅
行 総消費額
が少なくなる」
「曜日
波動が少なくなる」
とプラスに考えるか
もしれませんが、し
かしその余剰の客室
が値崩れしてくるの
旅行者数
国
内 消費単価
+
海
外 総消費額
訪 旅行者数
日
(千人回)
(%)
(千円/人回)
(%)
(兆円)
(%)
(千人回)
(%)
(千円/人回)
(%)
(兆円)
(%)
(千人回)
(%)
(千円/人回)
(%)
(兆円)
(%)
(千人回)
(%)
実績 ←
→ 見通し
05年
06年
07年
08年
09年
305,156
△ 2.7
35.60
△ 0.2
10.86
△ 2.8
17,404
3.4
294.5
0.6
5.12
4.1
322,560
△ 2.4
49.56
1.7
15.99
△ 0.7
6,728
9.6
300,408
△ 1.6
34.31
△ 3.6
10.31
△ 5.1
17,535
0.8
304.6
3.4
5.34
4.2
317,943
△ 1.4
49.22
△ 0.7
15.65
△ 2.1
7,334
9.0
305,699
1.8
r 34.54
r 0.7
r 10.56
r 2.4
17,295
△ 1.4
312.4
2.6
5.40
1.2
322,994
1.6
r 49.42
r 0.4
r 15.96
r 2.0
8,347
13.8
300,563
△ 1.7
33.01
△ 4.4
9.92
△ 6.0
15,987
△ 7.6
319.7
2.3
5.11
△ 5.4
316,550
△ 2.0
47.49
△ 3.9
15.03
△ 5.8
8,351
0.0
288,841
△ 3.9
31.66
△ 4.1
9.14
△ 7.8
15,200
△ 4.9
283.3
△ 11.4
4.31
△ 15.8
304,041
△ 4.0
44.24
△ 6.9
13.45
△ 10.5
6,489
△ 22.3
(注)国内宿泊旅行はいずれも当財団推計値
海外旅行者数は法務省データ(見通しは当財団推計値)、海外旅行消費単価ならびに総消費額は当財団推計値
訪日旅行者数は日本政府観光局(JNTO)データ(見通しは当財団推計値)
r:改定値
です。
また「特定客層への偏り」が顕著になっています。これは「旅行する人」
と「旅行しない人」がはっきり分かれる現象です。旅行者の半数が「年に3
回以上」旅行する人になっています。つまり旅行している人は頻繁に旅行し
ているのに、旅行をしない人はますます旅行しなくなっている。したがって、
国内観光地のリピーター比率が 70%近くになってきています。
3
POINT
◎ 販売チャンネル複雑化と価格の流動化
販売チャンネルが、今とても複雑になっています。行き先別で見ると、北海
道旅行の申込経路では、旅行会社が 48.1%、専門ネットサイトが 25.1%、直予約
が 25.1%です(図表 1-4)。例えば関東一泊圏では直予約の割合が高く、近距離
は直予約で行く人が増える傾向にあります。このように、発地との距離によっ
て、販売チャンネルの使い方は変わってきます。
では、ネット予約のために情報発信する時、あるいは電話予約を受けて商品
の案内をする時、どういう人を中心に想定すれば良いでしょうか。それによっ
て商品の勧め方とか説明の仕方も微妙に変わってくるはずです。
交通手段別の申込経路では、エアラインを使って旅行する人の 7 割が旅行会
社を使っています。ここが沖縄や北海道の一番の課題です。また、旅行会社の
紙パンフレット商品、特に店舗販売は情報媒体としてかなり使われていますが、
価格の流動化に対応できていないという弱点があります。
どの販売チャンネルにどんな商品をいくらで出すのかという「売り分け」を
しなければなりません。旅行会社のネットで出す商品と、自社のホームページ
で出す商品に差をつけるのは非常に難しくなっていますが、基本の一泊二食と
お風呂のセットを自由に組み合わせるような値付けができないかというあたり
が課題です。
図表 1-4 個人客の国内旅行の申込経路(行き先別)
合計
宿泊施設別
ホテル
(洋式)
販路別
旅館
(和式)
行き先別
北海道
関東
1泊圏
九州
沖縄
A.旅行会社利用
A1.旅行会社店舗
A2.旅行会社電話
A3.旅行会社サイト
B. 専門ネットサイト
C. 宿泊施設直
C1.電話予約
C2.サイト予約
D. その他
100.0%
35.0%
17.1%
13.3%
4.6%
17.4%
44.9%
33.3%
11.6%
2.7%
100.0%
42.8%
20.8%
15.5%
6.5%
20.7%
34.4%
22.4%
12.0%
2.1%
100.0%
36.6%
18.9%
14.9%
2.8%
16.4%
45.3%
37.4%
7.8%
1.8%
100.0%
48.1%
21.7%
19.1%
7.2%
25.1%
25.1%
20.4%
4.7%
1.7%
100.0%
26.7%
12.3%
9.9%
4.5%
15.1%
53.9%
41.0%
13.0%
4.3%
100.0%
37.8%
15.9%
15.9%
6.1%
20.7%
40.9%
31.7%
9.1%
0.6%
100.0%
78.9%
43.4%
28.9%
6.6%
10.5%
7.9%
5.3%
2.6%
2.6%
メディア別
電話予約
A2.旅行会社電話
C1.宿泊施設電話
旅行会社店舗予約
ネット予約
A3.旅行会社サイト
B. 専門ネットサイト
C2.宿泊施設サイト
その他
46.6%
13.3%
33.3%
17.1%
33.6%
4.6%
17.4%
11.6%
2.7%
37.8%
15.5%
22.4%
20.8%
39.2%
6.5%
20.7%
12.0%
2.1%
52.3%
14.9%
37.4%
18.9%
27.0%
0.8%
16.4%
7.8%
1.8%
39.6%
19.1%
20.4%
21.7%
37.0%
7.2%
25.1%
4.7%
1.7%
50.9%
9.9%
41.0%
12.3%
32.5%
4.5%
15.1%
13.0%
4.3%
47.6%
15.9%
31.7%
15.9%
36.0%
6.1%
20.7%
9.1%
0.6%
34.2%
28.9%
5.3%
43.4%
19.7%
6.6%
10.5%
2.6%
2.6%
※財団法人日本交通公社「旅行者動向 2009」より予約不要比率 11%(別荘
や実家)を除く再構成
4
今後の観光宿泊産業の方向性とは?
POINT
◎ 利益率の高い「室料」の価値を高める
-居住性を高める-
◎ 泊と食を自由にパッケージする
◎ 宿泊施設と街が協働して [泊]+[食]+[浴]+[文化体験]
例えば、旅館の5人定員の部屋を「2人」で過ごすのに、必要なものは何で
しょうか。あるいは不要なものがないか、一度見直してみてください。部屋で
の時間の過ごし方を考えれば、例えば、仲居さんのサービスより、良質なコー
ヒーメーカーがある方が、自由に時間を過ごすことができるかもしれません。
また「部屋数を減らして居住性を高める」という考え方がありますし、部屋
が狭い場合は、あまり使われなくなった宴会場のホワイエをライブラリーにす
るなど、滞在機能をパブリックの中で表現する方法もあります。
最近は、和の文化を表現し
つつ、ベッドとうまく融合さ
図表 1-5 作並温泉「一の坊」ベッドのある和室
せるという工夫をよく見かけ
ます。
「ベッドのある和室」に
もいろいろなタイプが出てき
ていますが、部屋の時間の過
ごし方をどうお客様に合わせ
ていくのかを考えると、いろ
いろなことができるのではな
いでしょうか。
利益の源泉は、宿泊人数よ
りも宿泊単価であり、特に
GOP(減価償却前営業利益)の
高い部屋代をいかに高くでき
るかが一番重要になります。
琉球畳のうえに低い「置きベッド」
(目線の低い空間の使い方)
5
北海道の宿泊業活性化へ向けて
POINT
◎ 北海道へは、誰がどこから来て、誰と一緒に、何をしに来ているのか?
◎「自分で出来ること」と「地域全体で出来ること」を考える
北海道のマーケットをみてみましょう。まず、発地シェア推移では、道内と関
東の比率は、47.1%と 24.7%です(図表 1-6)。同行者は、子育て終了後の夫婦旅
行が多く、子供連れの家族旅行が若干少ないのが特徴です。
これに対して、同じ似たような立地・航空運賃の沖縄は、子供連れの家族旅行、
幼児連れの家族旅行の比率が非常に高くなっています。なぜでしょうか。体験の
プログラムのせいなのか、あるいはビーチリゾートという要素かもしれませんが、
北海道は、それらに代わるべきものとして、何を提供できるかを考えなければい
けません。
一般的に、同行者数は遠距離になればなるほど減ります。また、二泊、三泊・・・
一週間と滞在が長期になるほど、2 人のお客様、あるいは 1 人のお客様が増えま
す。したがって首都圏からのお客様を意識した場合には、どうしても 2 人のお客
様の比率が増えてくるわけです。
では、北海道でどんなタイプの旅行がされているのでしょうか。北海道では「周
遊観光」が 29.5%です(図表 1-6)。意外に思うかもしれませんが、沖縄でも「周
遊観光」が多くて 46.5%です。沖縄でもビーチにずっといるわけではなくて、琉
球文化を見て周っているのです。北海道で次に多いのは「温泉」で 21.3%です。
一番下の段の「ゆったり過ごす」を見ると、沖縄が 12.0%なのに北海道はわずか
2.5%。せっかく温泉があるのにそれが「ゆっくり過ごす」につながっていないの
です。この点は、今後もっと考えなければいけません。
図表 1-6 北海道への発地シェア推移
北海道
関東
東海
近畿
甲信越
北陸
その他
2003
45.0%
22.1%
7.9%
8.7%
1.9%
1.0%
13.4%
2004
41.9%
23.6%
8.2%
9.0%
1.5%
1.3%
14.5%
2005 2006 2007 2008 2009
40.8% 43.4% 45.6% 43.4% 47.1%
23.6% 24.8% 23.8% 25.4% 24.7%
8.3% 6.8% 6.7% 6.9% 5.6%
9.1% 9.2% 8.4% 8.6% 7.9%
1.9% 1.4% 1.4% 1.6% 2.5%
1.3% 1.2% 1.2% 1.2% 0.9%
15.1% 9.8% 12.9% 13.1% 11.3%
図表 1-7 旅行タイプの比較
北海道
周遊観光
温泉
スポーツ
グルメ旅行
わいわい過ごす
自然を楽しむ
都市観光
祭・イベント
テーマパーク
ゆったり過ごす
29.5%
21.3%
8.3%
6.5%
5.7%
5.4%
4.3%
4.2%
3.1%
2.5%
沖縄
46.5%
0.4%
9.8%
1.3%
6.0%
2.4%
2.7%
0.7%
5.2%
12.0%
東京
6.0%
1.8%
2.1%
1.7%
8.1%
1.3%
22.7%
10.2%
23.5%
1.0%
全国
18.7%
20.2%
8.0%
4.4%
8.1%
5.5%
4.1%
3.9%
8.9%
5.5%
※観光旅行・個人客のみ。出典:財団法人日本交通公社「旅行者動向 2002-2009」
6
講座1
講座
経営管理・事業収支改善
2 ホテル旅館の経営管理とサバイバル
(株)JTB商事 企画設計室長/チーフコンサルタント 竹原和利
ホテル旅館の事業特性を把握しよう
POINT
◎ 経営管理にあたっては、まず事業特性を把握すること
◎ 時代の変化に対応し、事業特性を活かした展開が求められる
ホテル旅館事業というものは、一旦その場所で投資をすると、安易に位置を
変更することができない「立地産業」という特徴があります。したがって、周
辺環境を含めて立地そのものが極めて大きな商品要素になります。
あるいは、商品構築のために多大な資本(イニシャルコスト)を必要とする
「資本集約型産業」と言うこともできます。需要量に応じて安易に縮小・拡大
ができないため、いかに稼働率を上げるか(=イールドマネジメント)が事業
の大きな要素となります。人件費率の高く、人的なサービスの労働が商品その
ものであることもホテル旅館事業大きな特徴です。そのため、客室・館内の滞
在性が商品力の差となります。
また、お客様は旅行商品購入時に手にとって比較して選択することができま
せん。つまりイメージや情報で選択される「感性の産業」であることも、ホテ
ル旅館事業の特徴でしょう。無形商品の要素が大きく、常に同質の商品が提供
できない。また、商品が季節、曜日により値段が異なる「一物多価」とも言え
ます。
7
ホテル旅館の会計・財務管理の特性とは
POINT
◎ 多額の投資を、安定的な集客による売上・利益確保で、長期間で投資回収
◎ 労働コストをいかに圧縮してお客様の満足度を上げるかが大きな課題
ホテル旅館の会計・財務管理の特性として、建設当初に多額の投資を必要と
するため、資金調達コストの他、原価償却費等の固定経費部分(不動産経費)
の負担が大きいことがあげられます。
ご存知のように、収入は、
「客室売上」
「料飲売上」
「その他売上」の大きく3
部門に分かれています。
施設の収容力あるいは売上には限界があります。そのため、投資回収に極め
て長期間を要することになります。商品原価率は比較的低いものの、販売管理
費が高くなることから、利益率が低いのです。当初の立地、施設計画が収支構
造の大半を決定づけることから、収支構造の転換がむずかしいことも、ホテル
旅館の会計・財務管理の特性です。
その他の特徴として、人的サービスが中心で、人件費の負担率が大きいこと、
景気の変動を受けやすく、立地により季節波動が大きいため、事業収支の安定
化・平準化が難しいことがあげられます。
8
現状の商品力を自己診断してみよう
POINT
◎ 自館の特徴を見いだし、セールスポイントが何かを認識
◎ 強みを活かし、弱いみをカバーする戦略を構築
宿泊施設商品力評価・自己診断
構成要素
評価項目
立 地
大
小
立
立
施 設
規
周辺環境/景観・眺望
模 敷地規模/庭園規模/建物規模/大浴場
水
露天風呂/貸切り浴室・露天風呂/変わり湯
準 客室
主室帖数、広さ㎡/副室有無
評価
○ △ ×
地 観光地特性/アクセス/施設集積
地 ロケーション/アクセス・アプローチ/街区特性
( 広 さ・グ レ ート ゙ 感
・質 感・雰囲 気)
パブリック
水回り (バス・トイレ・洗面所)
広縁、リビングの有無/床の間
外観/玄関・ファサード/ロビー・ラウンジ
宴会場/食事処・付帯料飲施設/売店
アミューズメント施設/大浴場・露天風呂
施 設
料理水準
安
充
全
足
装
備
フィットネス・エステティックサロン
性 身障者対策 バリアフリー度/防災設備
度 料飲その他付帯施設/大浴場付帯施設
文化的施設他、時間消費空間
品 客室内備品・消耗品の充実度
清
潔
グレード感/デザイン、カラーリング
度 全ての空間にわたり要求 清潔度/清掃・メンテ状況
明
る
素
さ 全ての空間にわたる デザイン性・テーマ性
情緒性/照明効果
材 新鮮さ/土地の産物
技
季節感 ( 走り・旬・名残り )/ヘルシー感
術 味 覚
( 味 ) ・・・・・ 五味 ( 甘・酸・塩味・苦・辛 )
料理
演
触 覚
視 覚
( 温度・食感 )
( 演出・盛り付け・器 )
嗅 覚
聴 覚
低原価率
( 香り )
( 演出・音 )
出 視覚・聴覚・触覚・嗅覚
季節感・地物感・ヘルシー感
食事をする場所の雰囲気
視覚・触覚 グレード感・センス・季節感・清潔度
割れ等メンテ状況
器
量
品数・ボリュウムの適量性
タ イ ミ ン グ 食事出しのタイミング
従業員
接
客
水
サービス動線の良さと、顧客との触れ合いのタイミング
準 ホスピタリティー(応対の動作・笑顔・会話・知識・情報提供)
正確性/機敏性/安定性/安全性
ユ ニ ホ ー ム ファッション性/機能性/清潔度
容
姿
サービス
経営者
コストパフォーマンス
経
営
思
想 従業員の接客態度・教育水準
他の競合施設と異なる差別化戦略とその具象化
施設コンセプト・テーマ/安全性
設定・提供料金と商品の全体バランス
9
事業発展に向けて、経営資源を見直そう
POINT
◎ 保有する経営資源が事業発展を決める
◎ そのために、人、物、金の経営資源の現状把握が大切
経営資源簡易自己診断
主な評価項目例
要 素
経営者
人
格 地域・社内で人望があるか。
能 力 ・ 指 導 力 社の経営状況を常に把握しているか
後継者
人
健
康 いつも健康で明るいか
有
無 後継者として社内外に認識された人物がいるか
人
格 次期経営者として社内で人望があるか
能 力 ・ 指 導 力 事業後継者として、十分な能力があるか、現経営者を補佐しているか
経営補佐
有
無 経営を補佐する有能な人材がいるか
能 力 ・ 指 導 力 経営者に対し、イエスマンでなく、苦言、軌道修正を進言できる人材か
従業員
施設・機材
数
従業員数は適正な数が充足されているか
質
従業員の質は一定の質が確保されているか
立
地 立地条件を活かした施設か
施 設
水 準 施設の水準は地域内でどのランクか
質
効
・
規
物
原材料
模 地域で施設規模はどのランクか
質
調 達
流通・販売
投資資金
運転資金
金
余剰資金
資金調達
10
率 施設内の従業員動線・作業効率が悪くなっていないか
食材・消耗品等で顧客から指摘を受けたことはないか
能 力 原材料は良質の素材が安価に入手できているか
質
販売ルートが固定化されず、常にチェックされているか
規
模 大規模販売ルート保有エージェントとの契約がなされているか
能
力 案内所等、費用対効果のチェックがなされているか
有
無 投資資金の積み立て、準備金があるか
規
模 どの程度の規模か、過大計画ではないか
有
無 運転資金が、ショートしていないか
規
模 規模はどの程度か、推移は
有
無 余剰資金(経常利益・税引前利益・準備金・キャッシュフロー)に
規
模 どの程度の規模か、推移は
強
・
弱 メインバンクが決まっているか
評価
○
△
×
経営改善の考え方の整理
POINT
◎ 第一次目的は「利益の拡大、収益力の評価」
◎ 収益力強化を前提とした経営の改善をめざす
経営カイゼン考え方の整理
第一次目的
第二次目的
売上増加
宿泊商品増売
日帰商品増売
営業収支バランス向上
その他付帯商品増売
単価の向上
営業利益の増加
原価率低減
経費効率向上
人件費効率向上
利益の拡大
収益力強化
直接費効率向上
間接費効率向上
経常収支改善
営業外収入増加
営業外費用抑制
財務力強化
財務収支
借入金利の抑制
キャッシュインの促進
キャッシュフロー増加
営業収入増加
営業外収入増加
キャッシュアウトの抑制
経費削減
借入金利の抑制
課税支出の抑制
返済元本圧縮
借入機関によるリスケジュール
民事再生法導入
売却
11
経営管理上注意すべき主要な指標
POINT
◎ GOP(Gross Operating Profit)は、施設の運営力・運営利益を生み出す力を測る指標
◎「返済適合率」と「借入金の償還年数」は押さえておくべき
経営管理上注意すべき主要な指標
事業を安定化すると共に、継続発展させる為に、注意を払って頂きたい主なる指標としては次の指標に注意して下さい。
標準指標
総資本経常利益率
指総
標合
経常利益
=
× 100(%)
資産合計(当・前年度末の平均値)
0.5%
安
分
全
析
性
(
0.6~0.8
回転
(回)
売上高
=
資産合計(当・前年度末の平均値)
売上高経常利益率
)
=
× 100(%)
2~3.0%
Gross Operating Profit
減価償却前営業利益
営業利益+減価償却費(不動産コスト)
売上高
13~15%
× 100(%)
流動比率
、
性
100%
70.0%
= 当座資産(現金+預金+受取手形+売掛金) × 100(%)
流動負債
固定長期適合率
=
固定資産+繰延資産
総資本-流動負債
× 100(%)
100%
× 100(%)
100%
(今期借入残)
(経常利益+減価償却費)
×
(年)
15年
会
社
成
の
成長
長性
性分
を
見析
る
)
12
×
(千円)
10,000千円
純売上高
平均従業員数
=
(千円)
12,650千円
労働分配率
=
人件費(当期人件費)
売上総利益
Rev PAR =
× 100(%)
40.0%
Revenue Par Available Room
販売可能客室 1室当り売上
客室売上
×
販売可能客室総数
(千円)
35千円
損益分岐点売上
損
益
分
岐
点
分
析
(
(前期借入残-今期借入残)
(税引後当期利益+減価償却費)
借入金償還可能年数
=
15.0%
従業員1人当り売上高
=
固定費
1-変動費率
×
(千円)
-
経営安全率
= (1- 返済適合率
=
× 100(%)
又は 客室稼働率×ADR
当座比率
)
財分
務析
の
健
全
性
を
見
る
× 100(%)
会
社
の
生
産
効
率
を
見
る
)
(
会
社
の
資
金
繰
り
状安
況全
流動資産
流動負債
=
売上総利益
平均従業員数
=
生
産
性
分
析
(
経常利益
純売上高
=
GOP比率
自己資本
総資本
=
付加価値生産性( 従業員1人当り売上総利益)
総資本回転率
会
社
の収
儲益
け
る性
力分
を析
見
る
自己資本比率
損益分岐点売上高
純売上高
)× 100(%)
5.0%
対前年売上高増加率
=
前期売上高
今期売上高
× 100(%)
前期宿泊単価
今期宿泊単価
× 100(%)
101.0%
宿泊単価増加率
=
100.5%
講座1
講座
施設・料理・サービス
3 旅館商品向上のための魅力づくり(施設・料理・サービス)
(株)JTB商事 企画設計室/コンサルタント 小輪瀬博子
満足の正体とは何か
POINT
◎ 期待を上回る経験が「満足」である
◎「美味しいけど高い」と「高いけど美味しい」の違いは?
ある経験に対して代価を支払う時に、期待を上回るということが満足だと思
います。何を期待させるかは、営業戦略によって異なります。
一方で、いろいろサービスすることが必ずしも満足度にはつながらないこと
もあります。ある旅館で皆さんに湯上りビールを用意したところ、逆にお客様
に「泡がいっぱいだ」という怒られたケースもあります。こちらがよかれと思
ったことが満足度どころかお客様をがっかりさせてしまうこともあるのです。
サービスする際は、
「何を期待させて、何を与えるか?」を明確にしておくこと
重要です。
「美味しいと感じる心理」についても、五感が働く割合というのは視覚が 87%、
聴覚 7%、触覚 3%、嗅覚 2%、味覚 1%と言われており、味覚だけにこだわって訴
えてもなかなか美味しいとは思ってもらえません。基本的に、食べる前に見た
目で美味しいと思われるということが非常に重要です。
「美味しいけど高い」と「高いけど美味しい」の違いは何でしょうか。両方
同じものを食べて「美味しいけど高い」と「高いけど美味しい」を比べると「高
いけど美味しい」の方が、限界ギリギリの高い値付けが可能です。
「美味しいけど高い」というの
は、真面目には作ってあるけれど、
お客様にはほぼ評価されていない
に等しい。
「価格設定とか原価に決
まりはない」とよく言われますが、
そういうところに注意しておく必
要があります。
13
コストコントロールの手法
POINT
◎
料理の魅力の位置づけを明確にした上で、原価率、原価額を設定しよう
◎
何を自分たちで管理しなければいけないかを明確にしよう
コストコントロールには、主に 8 つのステップがあります。
まず、①献立メニューのアイテム原価の把握が重要です。例えば前菜 5 点盛
りといったら 1 点ずつ把握しておくことは非常に重要です。それがあると、い
くら高いのかということを明確にするためです。
一泊二食でコースで売っているところでは、②コースとアイテムの整理把握
が必要となります。アイテムが多いところは、原価率が高く、食材の仕入のア
イテム数も多くなっています。アイテムをどれだけ絞るかがポイントです。
次に、③食べ残しロスの把握ですが、調理する側は「料理が少ない」と言わ
れることを畏れていて、
「ちょっと多いぐらいがちょうど良い」と思っている人
が多いのです。わざわざ作って捨てているロスをもっと重大に考える必要があ
ります。
コースとアイテムの原価がだいたい把握できたら、④製造原価・調理行程の
見直しをします。仕上げまでに相当手間のかかっているレシピがコースの中に
隠れていたりします。手間のかかるレシピで成果が出せてないものは再考する
必要があります。自家製や手作りが最もいいと信じていらっしゃるお客様が多
いのですが、一定量を超える場合は加工品のほうが味が安定するので、加工品
を使うのもひとつの方法です。
⑤仕入原価、仕入先の見直しは、これまで述べてきた項目の見直しを行った
上で、行うべきものです。ミニマムの量をいかに抑えつつ、突発的に出るもの
にいかに対応するかが重要です。
⑥ポーションの変更は、お客様に実際に出すものの内容になってきますので、
満足度とのバランスを見ていくということが非常に重要です。それから器に合
わせて料理を入れすぎてないかという問題もあります。
⑦品数、アイテムの変更も効果があります。ポイントは提供回数です。品数
を減らして、持っていく回数を増やすと満足度は上がる傾向にあります。
最後の⑧演出の変更は、センスと経験がものを言います。視覚的な演出(食
器、季節感等)、料理やコンセプトの説明等の演出を考える必要があります。
14
15
満足度を下げずに食のコストを下げる
POINT
◎ 期待させることを明確に
◎ 値付けに決まりはない=原価率に固執しない
満足度を下げずに食のコストを下げるための第一歩として、
「うちには、○○
を期待してください」ということを明確にすること、そしてそれを上回る評価
を得る努力をすることが重要です。
それから、「美味しいと感じる心理」をもっと利用してください。煙や湯気、
盛りつけの演出によって視覚に訴える。あるいは音や説明で聴覚に訴える方法
もあります。
値付けに決まりはありません。原価額が明確であるとその商品をいくらで売
るか、いくらまでの価値で売れるのか、やはり先ほどの「高いけど美味しい」
にチャレンジすべきじゃないかと思います。
よく言う例ですが、商品のブランド力が上がれば、料理自体の原価率は自然
と下がるというのがあります。同じ中瓶のビール瓶でも、店によって値段が全
然違います。例えば、東京の名の通った都市ホテルに行けば、生ビールをちょ
っと飲むだけで、一人 4,000 円~5,000 円もかかります。
原価は、食材だけではなく、製造工程にかかる手順とか費用が大きいのです。
食材を一生懸命下げたにもかかわらず、全体の損益構造が改善しないケースが
結構ありますので、コスト構造の全体をきちんと見ていく必要があります。
アイテムが増えたり品数が増えると、食器とか装飾も増えて作業も増加する
ので、演出の関係から 12 品とか 13 品付けるようなケースもありますが、7品
ぐらいまでに下げて満足度を下げずに原価を下げて、かつ洗いの作業コストも
軽減される等、いろいろなプラスの効果が出た施設もあります。
コストコントロールのいくつかのステップに取り組んで、早めにアラームを
出し、修正していくこととができれば、発注自体は用度や会計担当がやってい
くことが、原価向上のためには良いと思います。
16
講座1
講座
商品開発/販売戦略Ⅰ
4 魅力ある商品づくりに向けた留意点
(財)日本交通公社
主任研究員
岩崎比奈子
お客様がホテル・旅館に求めている価値とは
POINT
◎
お客様が自館に何を求めているかを正しく把握すること
◎
独自の魅力を持ち、その品質が料金に見合っているか
お客様がホテル・旅館に何を求めているかについて、宿泊商品を売っている
担当者に聞いたアンケートの結果(図表 4-1)をご覧下さい。一言で言うと「独
自の魅力を持っていて、その品質が料金と見合っているかどうか」なのです。
個別に見ていくと、宿泊施
設を構成する要素、「客室」
図表 4-1 お客様が宿泊旅館を決定する際、
大きなよりどころとなっている点(複数回答)
であったり「料理」「温泉」
0%
「サービス」というものの
20%
30%
40%
50%
60%
70%
ばいいということではなく
31.7%
優れた客室眺望
50.0%
28.3%
ゆったりとした客室スペース
71.7%
食材に特色(地元産、旬、有機栽培等)
良さも求めている、つまり
郷土料理が味わえる
43.3%
料理
施設全体について評価した
メニューの選択が自由
15.0%
61.7%
食事場所の雰囲気やサービスが優れている
いと思っていることがわか
63.3%
温泉
泉質の良さ
ります。特に旅館について
90%
41.7%
客室でゆっくりできる(アーリーチェックイン、レイトチェックアウト)
て、お客様は料理も温泉の
80%
65.0%
露天風呂付き、優れた内装
客室
どれか一つが突出していれ
10%
広さや新しさ、機能的である
大浴場や露天風呂がある
83.3%
は、
「人によるサービス」
「日
本の伝統文化の舞台である
サービス
こと」というイメージが強
館内での楽しみ方
ところは必ずしも支持され
ていません。良ければ多少
立地条件
かろう悪かろう」といった
長い歴史や格式に定評がある
18.3%
多様な楽しみ方が可能
(レストラン、朝市、夜のエンターテイメント等)
16.7%
という結果が出ています。
41.7%
館内・敷地内の環境が優れている(茶室や庭園等)
66.7%
43.3%
交通の便がよい
31.7%
話題の観光地に近い
とにかく安い
その他
個々のバランスより全体としてのバランス
高くても買っていただける
66.7%
定評ある客室サービス
魅力的な温泉街
料金
くて、「安ければいい」「安
51.7%
貸し切り露天風呂やスパ施設がある
宿泊料金と商品力の整合性
自由回答
8.3%
36.7%
43.3%
40.0%
出典:「JTB国内旅行商品販売担当者アンケート調査」2007 年度
17
POINT
◎ 付加価値の付け方、「価値ある過ごし方」を考える
(1)1室2名利用の室料
最近1室2名での客室利用が増加傾向にある中で、室料にどのような価値を
付け、室料を上げていくかを考えなければいけません。アーリーチェックイン・
レイトチェックアウトで客室をゆったり長く使えるとか、特に眺望がいいお部
屋をお薦めするとか、そういった客室の価値をより強調することが効果的です。
(2)料理
料理の付加価値では、高級な食材を高く売るというのは当然ですが、例えば
作りたてのものをその場で提供する、お客様に手を加えていただくなど、提供
する際の演出も効果的です。朝食の価値を高めるためには、朝の散策で農産物
の収穫体験と組み合わせるなど、素材だけに頼らない価値の付け方があります。
(3)閑散期の平日
お客様が少ない閑散期の平日対策として、例えばその時期が旬の食材を見つ
け出し、最も美味しい食べ方で味わうプランを作ったり、パブリックスペース
がゆったり使えるのであれば、そこでコンサートや趣味の講座等を開催したり
して利用客を増やしていく方法があります。
図表 4-2 「旅館での価値ある過ごし方」の整理
旅館内外の場面・マーケット別の6つの切り口
1. 食事時間にお
4. 客室以外の
5. 館外(温泉街 6. 宿泊全体にわ
ける体験・過ごし 2. 客室での過ご 3. 温泉・大浴場 館内(パブリック
や周辺地域)での たる配慮事項
方
し方
での過ごし方
スペース)での過
過ごし方
(マーケット別)
ごし方
お
客
様
へ
提
供
す
る
価
値
4-1.旅館の歴
史文化や経営者
3-1.その温泉 の想いに触れる
1-1.その旅館
2-1.その旅館 地ならではの泉 4-2.その地域
や地域に宿泊し
旅館や地域の
ならではのこだわ 質や入浴法、温 の歴史文化を感
なければ食べら
独自性
りや地域の魅力 泉文化を楽しむ じながら過ごす
れない食事を楽し
を感じる
3-2.様々な浴 4-3.その旅館
む
場・泉質を楽しむ や地域ならでは
の商品を購入す
る
6-3.お客様の価
値観、ライフスタイ
ルへの対応
-環境や健康への
意識が高いお客様
5-1.温泉街や -趣味や志向への
周辺地域に出か こだわりがあるお客
けて楽しむ
様
5-2.旅館と地 -出張ビジネスマ
域の魅力を組み ンや一人旅のお客
合わせて楽しむ 様
(共通のテーマで
1-2.記憶に残
る食事時間を過
4-4.「学ぶ」「体 つなぐ)
旅行先ならでは
2-2.旅先なら 3-3.健康増進
ごす
験する」など、アク
の
ではの非日常的 や美容のために
1-3.旅先なら
ティブな時間を過
非日常性
な体験を楽しむ 温泉を楽しむ
ではの非日常的
ごす
な朝食を楽しむ
1-4.くつろいだ
2-3.部屋で
3-4.リラックス
雰囲気や設えで
ゆっくりとくつろぐ して入浴を楽しむ
食事を楽しむ
4-5.リラックス
して“自由に”過ご
す
2-4.客層ごと
自由度の高さ 1-5.“自由に”
の事情や要望に
柔軟性
食事を楽しむ
応えてもらえる
くつろぎ
6-2.記念日旅
行などを目的とす
るお客様への対
応
6-1.特別の配
慮が必要なお客
様への対応
-高齢者・身体の
不自由なお客様
-小さな子供連
れ
出典:JTB協定旅館ホテル連盟「旅館経営研究会 報告書」2008 年度
18
ホテル・旅館の舞台 -観光地の魅力づくり-
POINT
◎ 町が元気でないと旅館はやはりうまくいかない
◎ 自分たちの温泉地は何を目指してやっているのか、将来目標像を共有化
これからのホテル旅館は、自館だけでなく地域やマーケットを知り、自ら情
報発信をしてお客様を呼ぶ流れをつくっていく必要があります。まさに今流行
の着地型旅行商品づくりです。着地型旅行商品は販売・流通が難しいという課
題もありますが、商品をつくることから始めることが必要です。
そのためには、観光まちづくりが大事です。町が元気でないと旅館はうまく
いきません。お客様は地域に魅力を感じてこそ、そこの旅館に泊まるからです。
宿泊業だけではなくて農業とか、ものづくりといったものと合わせて活力ある
まちをつくっていくことが大事になってきています。
(1)松之山温泉
松之山温泉(新潟県)では、2008 年 4 月に旅館、商店、住民の皆さんが集ま
って松之山温泉合同会社まんまを設立、翌月 旅行会社設立(特定第三種旅行業
取得)を立ち上げて着地型旅行商品づくりをやっています。まだまだ課題は多
いのですが、美人林というブナ林を地域資源として目を向けたり、ライスボー
ルという丼ものを開発して温泉街を歩いて食べてもらおうという取り組みを行
っています。地元ガイドが少ない、郷土料理のメニューが弱いといった課題も
まだ多いのですが、オプショナルツアーも多数取り組んでいて、今後が期待さ
れます。
■オプショナルツアーの例
 心美人ハイキング
 うちの田舎へいらっしゃい
 山菜パーティ
 冬の美人林スノーシュー
■課題
●地元のガイド、農家との連携強化
●新郷土料理メニューの開発
19
(2)草津温泉
草津温泉(群馬県)は、バブル崩壊以降、特に若手と女性が中心となり温泉
地に活気が出てきたところです。観光協会、旅館組合、民間が中心になって若
手と女性に自由に意見を言える場を設けて、3年間議論を続けてきました。そ
の結果として、自分たちの資源はやはり温泉だと気づいて、それを「泉質主義
宣言」として強いブランド化戦略を展開しています。
自分たちの温泉地は何を目指してやっているのかということを、将来目標像
として掲げるということが基本で、行政のほうで観光振興プランを作っている
ところもあると思いますが、それを民間の方にも理解いただいて一緒に取り組
んでいくことが大事です。
20
講座
経営分析Ⅰ
5 経営改善計画と経営課題発見のための経営数値・指標の着眼点
(株)JTB商事 企画設計室長/チーフコンサルタント 竹原和利
経営改善計画作成にチャレンジしよう
POINT
◎ 分析手法には定性分析と定量分析の2つがある
◎ 改善計画の実施、実施効果の検証、計画の修正のPDCAサイクルが大切
経営改善計画をどういう形で進めていけばいいのでしょうか。
日常の業務で経営改善計画書を作って、銀行へ提出をしたという経験がある
方もいらっしゃると思いますが、経営改善計画を策定するにあたっては、自分
の施設がどのような状況にあるのか、細かく把握することが必要です。
その際に定性分析と定量分析という分析手法がございます。定性分析という
のは数値で評価できない、数値で表現できない部分を分析していく手法です。
定量分析は損益計算書あるいはバランスシート等々で数値評価ができる分析手
法で、これらの二つの分析手法には大きな違いがございます。
損益、財務諸表のチェックでは、営業利益と外部損益を照合をしながらチェ
ックをしていくということです。経営分析の指標については、講座2(P.12)
をご参照ください。経営管理上、注意すべき主な指標として「総合指標」をは
じめ、「収益性分析」「安全性分析」「生産性分析」「損益分岐点分析」といった
ものがあります。ぜひ自館の数値を入れて分析をしてみてください。
21
《経営改善計画作成の手順》
1.まずはどのような施設か、全体像を俯瞰。
↓
2.損益、財務諸表をチェック。
↓
3.営業データと財務、損益の照合チェック。
↓
4.問題点、課題にどのくらい気付くか。
↓
5.問題・課題発生の背景にある要因は何か。共通要因は何か。
↓
6.要因を把握し、具体的な課題の改善策を立てる。
↓
7.具体的改善策で実現可能な項目を抽出。
↓
8.抽出項目を実現する事による経済的効果を推計。
↓
9.具体策の着手優先度(短期・中期・長期)を決定。
↓
10.実現するための推進者、担当者を決定。
↓
11.実現計画策定と、これによる事業収支シミュレーションを実施
↓
12.金融機関に説明し、協力を依頼。
↓
13.改善計画の計画的な実施。
↓
14.実施結果、効果の憲章と計画差違の原因究明と原因の明確化
↓
15.計画修正による再度実施
22
「経営分析シート」に書き込んでみよう
POINT
◎ 損益・財務、営業集計数値を的確に把握すること
◎ その数値の原因を、日常の経営活動に照らし合せて求めること
◎ 数値で捉えきれない事柄は、更に踏込んで実態を把握すること
1. 定量分析と定性分析
定量分析 (財務・損益)
分析項目
課題と考える内容
収益性
成長性
安全性
定性分析 (旅館概要)
分析項目
経営者 (経営に対する考え方、能力)
分析項目
組織体制 (マネジメント・オペレーション)
分析項目
営業概要 (市場環境対応力)
分析項目
施設概要(商品力・投資スタンス)
23
2. 経営課題の把握と要因分析
課題
【収益性に関する課題】
増収に関する課題
コストダウンに関する課題
【オペレーションに関する課題】
運営(人・サービス)に関する課題
【施設に関する課題】
【財務に関する課題】
24
課題の背景にある要因
3. コンセプトを確認
経営課題と、その背景となる要因が確認され、その解決のための選択肢を整理します。
整理すると同時に、この旅館の特徴、個性、他施設との差別化要因をどこに求めるか簡単にまとめます。
この場合、通常当該施設のSWOT分析を実施します。
ターゲット客層を明確化、A旅館の何を個性とし、他施設との差別化要因とするか・・・
施設・事業コンセプトの作成
4. 経営改善計画の策定
自館の特徴を活かしながら、自館の課題、解決のための
選択肢を議論しながら、大きな経営戦略と、改善の方向性、その具体的改善策、算出効果、
着手優先度を決定します。
増収策
具体的実施項目
各項目の改善効果、
項目実施手法・コスト・容易性
を検討し、着手優先度を決定
短期
コストダウン策
具体的実施項目
中期
長期
各項目の改善効果、
項目実施手法・コスト・容易性
を検討し、着手優先度を決定
短期
オペレーション改善策
具体的実施項目
中期
長期
各項目の改善効果、
項目実施手法・コスト・容易性
を検討し、着手優先度を決定
短期
施設改善策
具体的実施項目
中期
長期
各項目の改善効果、
項目実施手法・コスト・容易性
を検討し、着手優先度を決定
※但し、大きな設備投資計画は除く
財務改善策
具体的実施項目
短期
中期
長期
各項目の改善効果、
項目実施手法・コスト・容易性
を検討し、着手優先度を決定
短期
中期
長期
改善策を具体的に数値化し販売計画、事業収支計画に反映させたものが経営改善計画書です。
25
経営課題 発見のための着眼点
課題の発見
現状分析
外部環境分析
マーケット動向
宿泊動向
・ マーケット動向、市場ニーズ変化と自社の
大立地
全国的な把握
中立地
当該県レベルの把握
当該市、町レベルの把握
小立地
当該域内レベルの把握
営業戦略が乖離していないか
・ 当該域内動向と営業戦略に乖離が発生
してないか
・ 新たな環境変化要因が発生していないか、
対応しているか
販売体制
・ 販売チャネル、流通チャネルの変化に
流通販売動向 販売シェア
対応、先行しているか
(ネット市場における流通革命)
競合施設動向
商品力
・ 競合環境の中で、志向するポジションを
販売動向
確保できているか
・ 新業態、新競合施設が進出していないか
自社施設
経営状況分析
営業実績
・ 売上が妥当な水準か
売上推移
・ 館内付帯施設稼働率、生産性がどうか
施設利用人数推移
宿泊・日帰り・婚礼
商品力
・ 利用形態の増減変化はないか
客室稼働率推移
・ 単価の上昇が図れているか
室当り平均在室人数
・ 利用客層に変化はないか
消費単価推移 etc
人数規模・単価・発地・目的
施設内容構成 ・ ターゲット客層の利用動向に変化はないか
施設水準
・ 施設の機能転換等商品構成変化があるか
料理水準
・ 改装・リニューアル等商品力向上が図られたか
サービス水準
・ 効率化が図られたサービスシステムか
顧客アンケート
・ アンケートによる評価が向上しているか
販売体制
営業販売力
・ 宿泊人数が一方的に減少していないか
・ 集客経路の変化が望ましい方向か
販売チャネル
・ 販売チャネル多様化、拡大が出来ているか
集客経路
・ 旅行代理店の依存度が強くないか
・ 商品情報を市場に効率良く提供しているか
運営管理体制
・ オペレーション業務の効率化が出来ているか
要員構成
・ 要員構成が適正か
組織力
・ 営業・経常利益を創出できているか
企業力
・ GOP比率水準はどうか
損益構造
経営管理力
・ 原価率等変動費率の水準はどうか
収益性
経費構造
財務構造
・ 固定経費率(実人件費率・不動産経費)が
過大でないか
・ 財務バランスが悪く安全性に問題がないか
安全性
・ キャッシュフローが確保できているか
成長性
・ 借入金償還期間が何年か
・ 攻めの設備投資が出来る構造か
26
講座1
演習
経営分析Ⅱ
1 A 旅館の改善策の手法・プロセスについて
「A旅館の経営分析」を考えてみよう
POINT
◎ 損益・財務諸表から、どれだけの問題・課題が見つけられるか
◎ 問題・課題の背景に何があるのかを考え、改善策を整理しよう
架空のA旅館を例に、経営分析をおこなってみましょう。まず損益・財務諸
表を指標等を使ってチェックし「A旅館に一体どんな課題があるのか」のリス
トアップしてください。
(経営分析の指標については、講座2(P.12)をご参照
ください。)
そして、その問題・課題の背景に何があるのかを考え、課題に対する改善策
を整理をしてみてください。
なお、課題と改善策は、
「増収策」
「コストダウン策」
「オペレーション改善策」
「施設改善策」「財務改善策」といったカテゴリーで整理してみてください。
※本編は、講座7(P.39)及び演習2(P.49)に続きます。
27
演習問題
A旅館の経営分析
以下のような施設概要と財務諸表を持つ架空のA旅館を例として、主に経営分析の手法について
学びます。A旅館についてのデータを読み込み、A旅館の「経営改善策」を検討下さい。
【A旅館の概要】
・ 立地:北海道の温泉地
・ 建物は古く、修繕が必要な状態。施設構成は以下のとおり。
客室数
100室/490名収容
和室10畳タイプ
和洋室(10畳+ツイン)タイプ
特別室(12+6+次の間)タイプ
付帯施設
クラブ
二次会処(ラーメン)
食事会場(料理茶屋)
宴会場
(3分割)
コンベンションホール
中宴会場
貸切風呂
65室
25室
10室
計100室
1室
1か所
1か所(4人席×15卓)
15 0 畳× 1か 所
200畳×1か所
60畳×3か所
2か所
・ 従業員の定着率は比較的高く、全体的に高齢化が進んでいる。食事に力を入れており、夕食
は部屋出しも一部提供している。組織体制は以下のとおり。
役員
3名
部課長
3名
事務フロント
12名
フロント、予約、会計
調理
14名
調理師
接客
28名
案内、食事提供
調理補助
12名
盛り付け、洗い、運びなど
清掃
4名
大浴場清掃など、客室は業務委託
常勤パート
14名
補助
計87名(役員、常勤)
臨時アルバイト
20名
(繁忙期アルバイト 年額600千円程度)
・ 売上の基礎情報
 宿泊平均単価
 総消費単価
 客室稼働率
 日帰一般宴会単価
 コンベンション単価
 昼食休憩
 一般入浴
 貸切入浴
11,770円
売店単価
13,820円
平均在室人員
60.1%
4000円×4800人
3000円×1800人
2500円×3750人
800円×7300人
1000円×4380人
・ 旅行会社からの送客が70%を占める。
28
1100円
3.1名
貸借対照表
損益計算書
(単位:千円)
借 方
流動資産
貸 方
0.2%
預金
18,000
1.1%
短期借入金
売掛金
1,200
0.1%
商品
2,600
0.2%
未収入金
1,800
0.1%
0.0%
0
0.0%
0.0%
期首棚卸高
1,200
0.1%
0.0%
0.0%
流 動 資 産 計
28,800
1.8%
建物
800,000
50.0%
建物付属設備
250,000
15.6%
構築物
200,000
買掛金
42,000
2.6%
0
0.0%
未払金
60,000
預り金
1,200
構成比
4,000
クーポン券
流動負債
構成比
現金
仮払金
固定資産
構成比
(単位:千円)
流 動 負 債 計
固定負債
長期借入金
959,066 100.0%
販売費及び一般管理費
724,638
75.6%
宿泊売上高
779,056
81.2%
人件費
300,470
31.3%
3.7%
付帯売上高
135,690
14.1%
役員報酬
17,550
1.8%
0.1%
日帰売上高
44,320
4.6%
社員給与
156,346
16.3%
249,219
26.0%
雑給
66,000
6.9%
10,000
1.0%
賞与
17,372
1.8%
食材仕入
190,310
19.8%
法定福利費
21,252
2.2%
0.0%
飲料仕入
11,583
1.2%
厚生費
0.0%
103,200
6.4%
売店仕入
47,326
4.9%
退職金
0.0%
1,500,000
93.7%
期末棚卸高
10,000
1.0%
業務委託費
21,950
2.3%
売上原価
0.0%
売上総利益
709,847
74.0%
直接・間接・不動産経費
424,168
44.2%
12.5%
0.0%
販売費及び一般管理費
724,638
75.6%
支払手数料
81,801
8.5%
0.0%
0.0%
(うち人件費)
300,470
31.3%
衛生・リネン費
19,857
2.1%
80,000
5.0%
0.0%
(GOP)
97,129
10.1%
客用消耗品費
21,359
2.2%
236,409
14.8%
0.0%
営業利益
-14,791
-1.5%
水道光熱費
87,120
9.1%
1,566,409
97.8%
0.0%
営業外収益
2,000
0.2%
被服費
1,070
0.1%
0
0.0%
固 定 負 債 計
1,500,000
0.0%
旅費交通費
6,840
0.7%
ソフトウェア
1,000
0.1%
負
1,603,200 100.1%
2,000
0.2%
通信費
4,560
0.5%
電話加入権
1,200
0.1%
資本金
39,500
4.1%
車両費
12,000
1.3%
37,500
3.9%
広告宣伝費
11,509
1.2%
2,000
0.2%
接待交際費
1,200
0.1%
-52,291 ▲5.5%
新聞図書費
1,825
0.2%
運賃
2,500
0.3%
0.0%
事務用消耗品費
1,200
0.1%
0.0%
諸会費
600
0.1%
0.0%
雑費
4,675
0.5%
0.0%
減価償却費
111,920
11.7%
1,200
0.1%
修繕費
10,800
1.1%
租税公課
25,000
2.6%
2,042
0.2%
15,090
1.6%
車両運搬具
工具器具備品
土地
有形固定資産計
温泉利用権
役員借入金
売上高
構成比
債 合
計
資本金
50,000
0.0%
無形固定資産計
2,200
93.7%
3.1%
受取利息割引料
雑収入
営業外費用
0.0%
支払利息割引料
0.1%
資本金計
0.0%
法定(利益)準備金
0.0%
経常利益
500
0.0%
剰余金
0.0%
特別損益の部
保険積立金
3,000
0.2%
当期未処分利益
-52,291 ▲3.3%
投資等計
3,500
0.2%
(うち当期利益)
-52,291 ▲3.3%
1,572,109
98.2%
出資金
投資有価証券
固 定 資 産 計
繰延資産
繰延資産
繰 延 資 産 計
資 産 合 計
0
50,000
別途積立金
0.0%
0.0%
他剰余金、欠損金計
0.0%
資
1,600,909 100.0%
雑損失
本 合
計
負債・資本合計
特別利益
特別損失
0
0
-52,291 ▲3.3%
-2,291 ▲0.1%
1,600,909 100.0%
0
税引前当期利益
法人税等
0.0%
当期利益
-52,291 ▲5.5%
前期繰越利益
当期未処分利益
25
-52,291 ▲5.5%
0
0.0%
-52,291 ▲5.5%
地代家賃
保険料
リース料
26
講座1
講座
商品開発/販売戦略Ⅱ
6 魅力ある商品の販売戦略
(株)ツーリズムマーケティング研究所
主任研究員 井門隆夫
中・長期展望の重要性
POINT
◎ 経営者に必要なのは、“予見力”
◎ ドラスティックに変化する世の中を、どう捉えるか
ホテル旅館業のアキレス腱は、季節の繁閑が大きいことです。特に北海道は
そうです。それによって、どうしても管理職や女性スタッフ等の要員確保が難
しい。大都市圏から離れてた地方の温泉地では特にそうです。給与レベルも当
然低く、パートさんが多くなるので、生産性も低くなってしまう。経営者の皆
さんが忙しく奔走し、販売戦略なき営業が続き、中期計画もないままに進んで
いくといった状況がホテル旅館経営の多くに見られます。
これまでをみても、戦後の国内観光は 25 年ぐらいのスパンで変化してきまし
た。中小企業であるホテル旅館では、だいたい 25 年ぐらい、一世代で変わって
きたわけです。
中期計画を立てる上で大切なのは、“予見力”、すなわち将来を予見する力で
す。今日だけを考えて生きるのでなく、将来を予見して何らかの保証をつくっ
ていくことが大切です。今、世の中がどうドラスティックに変わっていくかと
いうのを、予見していかなければいけません。
経営者の皆さんが毎日の日々の仕事に忙殺されていては、そういう将来の予
見ができなくなってしまいます。逆にいうと日々の仕事は現場に下ろして、若
い経営者の方々がもっと 2015 年以降、2020 年、2030 年と先まで予見していく
必要があります。
31
インターネットでの情報発信
POINT
◎「モノを売る」発想やめる
◎ これからは、「モノ+α(例えば時間)」を売っていく時代
今年の元旦の「日経 MJ」に、モデルの知花くららさんが、「コンシェルジュ」
が欲しい、という記事がでていました。
「今日温泉に行きたいなと思ったら、ベ
ストな温泉がすぐ5つ出てくる」
「必要なニュースや情報を耳打ちしてくれる」、
そんなコンシェルジュが欲しいということです。これは消費者のニーズとして
捉えることができます。
「どこか行きたいな」と思っても行くところがない、あ
るいはどこへ行っていいかわからないのです。
こうしたコンシェルジュ機能をどういう形でインターネット上に展開させれ
ば良いでしょうか。そのためには、単に「モノを売る」から、「モノ+α」の消
費に広げていくこと、それがこれからの時代の情報発信のポイントです。
「皆さんの商品は何ですか」と聞くと、
「うちはお部屋を最近改装したお部屋
とそれから新しい料理、何といっても北海道ですから温泉が商品です」という
返答が多いのですが、それだったらどこのホテル旅館も皆同じです。
もういい加減に「モノを売る」発想はやめて、これからは、
「モノ+α(例え
ば時間)」で売っていかなければなりません。今後は、こうした売り方をインタ
ーネットで情報発信していく必要があります。
32
平日需要の取り込みのための販売戦略
POINT
◎ 平日、日本人は休めない
◎ 日帰りでもホテル旅館を利用してもらう平日の需要喚起策が必要
皆さんは、
「土曜日しかお客様がいない」というけれど、いま日本人は休めな
くなってきています(図表 6-1)。「平日来てください」といったところでお客
様は休めないのです。ホテル旅館の勤めている皆さん方も、土日連休という方
いらっしゃいますか。なかなか難しいのではないでしょうか。今や、お医者さ
んも小売業で働いている方も、多くは土日が休みではありません。
しかし、週休二日制、つまり週 40 時間労働というのは法律で義務化されてい
ますので休まなければいけません。したがって、分散休がどうしても増えて、
そして土日連休の人が減ってきています。
今、ホテル旅館が取り組まなければいけないのは「需要喚起のための商品化」
です。その課題は、「平日利用を増やしていくための商品化」です。
図表 6-1
140
130
120
週休1日等
110
分散週休2日
100
完全週休2日
90
80
平成17年
18年
19年
20年
21年
(%) 平成17年 平成18年 平成19年 平成20年 平成21年
週休1日等
8.8
7.8
8.1
9.5
12.1
分散週休2日
30.8
32.0
32.8
34.4
32.3
完全週休2日
60.4
60.2
59.1
56.1
55.6
出典:厚生労働省「就労条件総合調査」
33
(1)0泊2食商品
その一例が0泊2食の日帰り入浴商品です。日帰り商品というと「シフトを
組むのが難しい」「単価が取れない」ということでやらないホテル旅館が多い。
結果的にいわゆる日帰り温泉施設に桶持って行く人がたくさんいらっしゃる。
そろそろ温泉旅館に足を向かせる商品づくりをしてみませんか。
チェックイン 12 時、チェックアウト 21 時。つまり昼にチェックインして、
浴衣に着替えてランチを食べ、部屋でくつろいで過ごす。そして温泉にゆっく
り入って、夕食を食べた後、浴衣を脱いで家に帰ります。箱根の天成園では、
三交代を行っています。
「日帰り」
「宿泊」+「午後入りの日帰り」があって、シ
フトも三交代。旅館の利用時間を3つに分けて販売しています(図表 6-2)。
つまり一日休みがあれば一泊二日並みの時間を温泉旅館で滞在できるわけで
す。そんな客がどれだけいるんだと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、
大都市近郊の温泉旅館では「10 年後には、宿泊客は今の半分の需要になってい
るかもしれない」という危機感を持って取り組んでいるのです。
(2)「特価」から「特化」へ
草津温泉のある旅館では、赤ちゃんキッズ大歓迎の宿を作って大繁盛中です。
ポイントは、子供料金です。旅館の子供料金はなぜ大人料金の 50%なんでしょ
うか。普通、ホテルでは子供さんがベッドを一人で使えば大人と同じで、それ
が国際標準です。それに子供料理料金を足した料金設定になっています。
図表 6-2 箱根湯本温泉 天成園の「日帰り」プラン
出典:箱根湯本温泉 天成園ホームページ(http://www.tenseien.co.jp/)
34
新しい需要取り込みのための販売戦略
POINT
◎ 仕事を休んで高いお金を払ってまで「行きたい宿」がない
◎ 旅館自体の魅力づくりに「大きな変革」が必要
ホテル旅館が抱える問題は、消費者が「週末しか旅行に行けない」とか、
「安
いものしか買わない」といったことより、むしろ、仕事を休んで高いお金を払
ってまで行きたい宿がないことではないでしょうか。この問題への対処してい
くためには、ホテル旅館に大きな変革が必要です。
常連のお客様、地元のなじみのお客様、お得意様がある旅館では、若干宿泊
客数は減りつつあるものの、あまり景気に左右されていないところが数多く見
られます。つまり、一朝一夕には蓄積することのできないこうしたなじみのお
客様をどれだけ皆さんのホテル旅館が顧客として持っているかがこれから大切
になってきます。そうした顧客に照準をあてた商品化が今後のポイントになり
ます。
(1)ペット客向け商品
今、全家庭の3分の1はペットを飼っているといわれています。ペットは一
般の旅館では難しいですが、専門旅館にすれば可能です。ただし、ペットを飼
っている顧客をつかんでいるところと提携しないと誘客は難しいです。最近、
関東地方のあるペットショップでは、旅館の運営受託を行っています。ペット
ショップではペットを買ったお客様のデータベースを持ってますので、そこに
DM を出して集客をしています。
このようにうまく組めば、ペットというマーケットも選択としてあると思い
ます。ただ地域のホテル旅館が皆やり始めると難しいですし、一般のお客様と
ペットを混ぜてるのも難しいので、専門ホテル旅館として取り組む必要があり
ます。
35
(2)半農・週末営業旅館
若い人材に旅館をまかせてドラスティックに変えた例が、半農・週末営業旅
館です。島根県の温泉津温泉の吉田屋という 10 室の旅館ですが、大学の先生が
出資して旅館を買収。大学でコミュニティビジネスを学んだ卒業生、女性3人
に旅館を任せました。金土日の週末だけ営業しています。引いてあった温泉は
コストが勿体ないので止めて、周りの外湯に行ってもらっています。平日彼女
たちが何をやっているかというと、「農業」をやっています。
食材原価率も非常に低いです。スタッフには男子学生もいて、男子学生は漁
協に手伝いに行ってます。漁協や農協に手伝いに行くと、必ず流通に乗らない
半端ものの規格外品があるので、それをもらってきて、あるいは安く仕入れて
きて料理に出していることで食材原価は極めて低く、営業利益率は 30%です。
その結果、売上 3000 万円で営業利益 1000 万円です。
その 1000 万円をで小型トラクターを買い、JAから高いトラクターを買うこ
とのできない高齢化した零細農家の方にレンタルしています。レンタルするこ
とで今度はそこに平日手伝いに行っていて、この旅館の最大売上はレンタル業
です。農機具レンタル料が売上の旅館です。
ここの経営モデルのコンセプトは、「半農半X(エックス)」です。ホテル旅
館で、宿泊業しかやってはいけないという法則はありません。売上が減ってき
たら別のことに取り組み、それもそのうちに変わっていくかもしれません。ア
メリカンエクスプレスだって元々旅行会社だったのが、今は金融会社になって
います。
36
(3)もう一つの「半旅館半X(エックス)」
宮城県の鳴子温泉に大沼旅館というのがあります。地大豆湯治とか田んぼ湯
治ということで旅館の回数券を作って、大豆の種まきから収穫まで、それから
田植えから収穫までを何回か分けて宿泊企画商品を作り、リピーターを増やし
ています。そして最後の収穫祭で皆で集まってビールパーティをやるといった
ことをしています。この非常に経営成績のいい小規模旅館が何を売っているか
というと、「音泉」というスピーカーを販売しています。
スピーカーとホテル旅館が何の関係があるかというと、この旅館が日本での
販売代理店なんです。筒型のちょっと変わったスピーカーですが、音が非常に
素晴らしく、17 万円前後と安くはないですが、スピーカーから音楽がどこから
か流れてくる音を聞いてしまうと衝動買いしてしまうほどのものです。
一台売って、これで儲けようと思ってやっているのではなく、社長さん自身
が音楽が好きなんです。自分がいい商品だと思っているから売っている。だか
ら自信を持ってスピーカー販売のためのホームページを作り、スパヒーリング
という会社まで作った。旅館が何やっているかといったら農業もやっていると
か、スピーカー屋もやっているとか、こういうコンセプトというのが大切です。
出典:鳴子温泉 旅館大沼ホームページ
(http://www.ohnuma.co.jp/kikaku/daizu.html)
出典:スパヒーリング ホームページ
(http://e-naruko.jp/index.htmll)
37
これからの旅館の販売戦略
POINT
◎「ボランタリーチェーン」という生き方も
◎ お客様に訴えるそれぞれの物語、共感をつくる
これからの旅館の販売戦略はどうなるのか。時間販売(0泊2食)、それから
市場特化、季節・曜日営業(半宿半X)、通信販売等ありますが、北海道でぜひ
やってほしいのは「ボランタリーチェーン」という生き方です。
「ボランタリー
チェーン」というのは、要は一軒一軒バラバラですが、それぞれがゆるやかな
チェーンをつくっています。
一つの例が、関東、東日本で作っている「一の宿倶楽部」というボランタリ
ーチェーンです。小規模旅館が集まったボランタリーチェーンで、19 軒の宿が
共同で顧客管理をし、品質管理をします。人材管理をし、相互出向もします。
そういうことでコストを効率化しています。共同で企画戦略をつくり、企画商
品を共同で販売したりする集まりです。アンケートや総合案内所、ランドオペ
レーター、インバウンド・エージェント等、やれることを共同で実践してます。
同じ企画でも違う地域でやれば競合しません。
ホテル旅館では、お客様に訴えるそれぞれの物語とか共感をこれからは作る
べきだと思います。観光業というのは「見る」とか「食べる」とかだけでやる
時代はもう終わりです。これからはコミュニティの中に入って、あるいは宿の
中に入って自分を主人公にした物語を演出してほしいというお客様が増えてく
ると思いますし、主人公は消費者です。規格は、お部屋とかお風呂とか食事と
かではもう無理です。プロダクトコーン理論というのがあって、規格というの
は伝達力が一番少ない。皆さんのホテル旅館がどういうストーリーを、どうい
う演出をしてくれるのかを伝えたほうが効果的です。ですから規格を物語にし
ていく必要があります。それが商品化です。
これから観光地における商品とは何か、それは現代人である消費者との共感
です。ホテル旅館の皆さんが演出家になる必要があります。そして商品を作っ
てください。社会のためによくすることは何なのかそれを考えて作っていただ
きたいと思います。
38
講座1
講座
事業収支計画Ⅰ
7 事業収支計画策定のポイント
(株)JTB商事 企画設計室/コンサルタント 小輪瀬博子
事業収支シミュレーションの使い方
POINT
◎ 現状の数値から、将来リスクを捉える
ここでは、次の演習2で議論していただく際に使うシミュレーションソフト
の使った事業収支計画策定のポイントをお話します。ソフト自体はエクセルで
作られてますので、エクセルの知識がある方でしたら計算式は簡単に変更して
いただくことはできます。基本的には今回はA旅館の数字をおおよその概算で
入れております。
(1)施設計画
まず施設計画です(P.42 参照)。客室のタイプについては、実際はここで設
定している3タイプだけでなく、ホテルのように2タイプでシングルとダブル
といった施設もあると思いますが、ここでは、客室を3タイプとして、宿泊収
容力や客室数、それから標準定員を設定します。それ以外に、料飲施設、宴集
会施設、会議室、大浴場、貸切風呂、売店等についても、それぞれの規模を設
定します。
延床面積では、改装を前提にしない場合はゼロにしますが、改装をする場合
はその規模を設定して、例えば税金の計算や光熱費等の月坪計算をするときの
ベースになる数字です。
(2)投資計画
次に投資計画ですが、建設計画の投資を前提にしてない例ですので、すべて
ゼロになっています(P.43 参照)。ただ現実的に事業計画を立てる場合、ソフ
トの変更だけではなかなか足りないために、一部だけでも改修やリニューアル
するケースも多く、その場合にはこの投資計画のところに数字を入れることに
なります。
ここのポイントは、基本的に建築工事に絡むものに関しては付帯設備、内装
39
と分けて、それぞれの耐用年数から減価償却を算定する基となります。
建設費以外には、建設費にからんで建設関連費用や建設期間中の金利、取得
登録税等をいれます。解体費、装備品・什器・取得費、その他費用、予備費な
どを入れて、総資金需要がいくらになるかの算定が必要になります。一般的な
目安としては、建設工事費が全体の総投資額の8割から 7 割 5 分ぐらいです。
(3)資金計画
資金計画では、新規の資金需要がどの程度必要なるか明らかにして、その資
金調達をどういった条件で行えるかを設定します(P.44 参照)。
それからここに創開業費や一般運転資金、もし開業をするにあたって一時的
に休業したりとかするような場合、必要な資金調達を自己資本で行うのか、借
入金で行うのか、金利や返済方法、据え置き期間、返済期間等の条件を含めて
設定します。この部分の条件変更が、大きく事業収支に影響していきます。
この設定では、法人税は 45%にしていますが、実際は 42~45%ぐらいです。
(4)営業計画
続いて、営業計画では、最初に客室の稼働率、単価の設定を行います(P.45
参照)。
実際にはネット販売であったりエージェントの価格設定などはもっと細かく
されているところが多いのですが、ここでは、シーズンは、オンとショルダー、
オフの3つのシーズンに分けてます。この例では、それぞれ 60 日、100 日、205
日と日数配分としています。
単価は、客室料金、夕食料金等に分けて、それぞれのコスト含めて設定しま
す。最近素泊まりや一泊朝食が増えているというようなケースでは、夕・朝食
の摂食率を設定します。続いて総消費単価と原価率ですが、付帯項目を入れて
あります。実際には、自分のところの実績数値とも照らし合わせて、数値を設
定します。それ以外に、追加料飲とか宴会付帯売上、バーラウンジや物販売上、
その他付帯売上、日帰り部門売上をそれぞれ設定します。
設定した原価を基に、GOP を算出します(P.46 参照)。要員数と人件費の算定
では、社員の福利厚生費を 10%と設定していますが、実際には 11、12%ぐらい
かかっているのが普通です。さらに必要な常勤パート、繁忙期のアルバイトの
方の人数で、年収がどのくらいかを設定して、人件費の合計が出します。
販売管理費の設定では、大きく分けて直接経費と間接経費という2つの設定
を行います。支払い手数料や客室のリネン費等は一人当たりいくらかかってい
るか実績数値から逆算して設定します。
40
それから間接経費に関しては水道光熱費、事務通信費等あります。水道光熱
費の設定では月坪という考え方で延床面積で見ています。広告宣伝費に関して
も、まず現状でだいたい何パーセントなのか、今後計画を改善していくにあた
って何%まで増やすかといった考え方で設定します。
最後の GOP で償却前不動産コスト支払前営業損益としていますが、減価償却
だけを引くケースもあります。この設定では資産コストも引いた状態の GOP を
見ていますが、減価償却だけだともっとかなり低い数字になります。
(5)資産所有コスト・減価償却計画
次の資産所有コスト・減価償却計画では、土地の計画とか課税評価とかは都
市計画税がかかるところとかからないところがあったりしますので、基本的に
は実態の数字で設定します(P.47 参照)。公租公課、いわゆる固定資産税関係
も実際の数字が一番わかりやすいので、それを入れて、資産所有コストとして
いくらかかっているか、収入と支出がだいたい単価でどのくらいアップしてい
るのかを設定します。単価アップ率ついては、金融機関から収入のアップ率は
ゼロ以上で入れるとだいたい計画上ダメと言われますので、支出は上がるが収
入は据え置きで設定することが求められます。
続いて、減価償却費に関しては、定額法で全て計算しています。既存施設の
減価償却費については、逆算して入れていただく数字となります。
(6)長期営業収支・資金収支計画
今まで設定をもとに、これらの結果となる長期の営業収支計画と資金収支計
画を作成します(P.48 参照)。ここに示す損益計算書は、簡素化したものです。
一番上が売上、それから GOP があって資産コスト、減価償却費、営業利益があ
ります。
下の資金収支計画では、ここでのキャッシュフローは、基本的に利益と減価
償却費が源泉になっています。実際にいくらぐらいのキャッシュが足りていな
いか、足りていない分は増資とか配当とかがあればいいんですけど、ない場合
は短期の借入が必要となります。これを 10 年間で見ていって、どのぐらいまで
改善するとどういうような形で営業収支計画や資金計画に影響が出るかを見て
いくものです。
実際に使っていただく場合はこれをベースにして実際の計画を立てて、そ
してそれからどのぐらい自分たちが実行したものと乖離があるかというよ
うなチェックが必要になります。ここまでが事業計画を出すときに付けなけ
ればいけない長期事業収支計画のベースになる数字です。
41
1.施設計画
(1) 客室概要
室タイプ
和室①
和洋室
特別室
合計
概 要
客室数
10畳/バス付
10畳+ツイン
12畳+6畳+次の間
標準定員
65 室
25 室
10 室
100
宿泊収容力
4 人/室
6 人/室
8 人/室
4.9
室
260 人
150 人
80 人
490
人/室
備 考
(畳数÷2畳-1名)
人
(2) 料飲施設
施設名
クラブ
二次会処
食事会場
合計
概 要
規 模
個室料理茶屋
席 数
60 ㎡
80 ㎡
180 ㎡
18.2 坪
24.2 坪
54.5 坪
320
96.8
㎡
坪
40 席
25 席
60 席
125
席
備 考
1.5 ㎡/席
3.2 ㎡/席
3.0 ㎡/席 4人席×15卓
2.6
㎡/席
(3) 宴集会施設、会議室等
席 数
和宴会場
洋宴会場
中宴会場
大宴
コンベンション
150 畳
200 畳
60 畳
110 席
室 数
1.4 畳/席
席
畳/席
30 席
2.0 畳/席
1室
1室
3室
面積/席数計
150 畳
200 畳
180 畳
備 考
110 席
3分割
席
90 席
(4) その他施設
施設名
大浴場
貸切風呂
売店
合計
施設規模
500 ㎡
50 ㎡
100 ㎡
650
備 考
151.3 坪
15.1 坪
30.3 坪
196.6
㎡
2箇所
坪
(5) 延床面積
施設名
既存棟
新築棟
合計
42
改装部分
既存部分
施設規模
㎡
15,000 ㎡
0㎡
15,000
㎡
備 考
0.0 坪
4,537.5 坪
0.0 坪
4,537.5
坪
2.投資計画
(1) 土地取得費
項 目
金 額
土地取得費用
構成率
0 千円
算定基礎
0.0 %
(2) 建設工事費
項 目
金 額
建築工事
新築工事
①
躯体
設備
内装
既存施設の改装工事
設備
内装
②
屋外施設等
構築物等
外構、造園等
スポーツ施設等
③
その他
盛替工事等
各種引込工事等
給排水工事等
④
建設費
設計監理料等
建設期間中金利
取得登録税
事業所税
解体費
各種負担金等
建設関連費用
建設工事費
合計
構成率
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
千円
0
0
0
0
0
千円
0
千円
千円
算定基礎
0.0 %
0.0 %
(平均坪単価 0
0
0
0
496
298
198
千円
千円
千円
千円
0.0 %
千円
千円
千円
0 千円)
千円/坪(
千円/坪(
千円/坪(
千円/坪(
千円/坪(
千円/坪(
千円/坪(
千円/㎡ [構成比
0
0
0
150
90
60
千円/㎡ [構成比
千円/㎡ [構成比
千円/㎡ [構成比
千円/㎡ [構成比
千円/㎡ [構成比
千円/㎡ [構成比
100
55
35
10
100
60
40
%]
%]
%]
%]
%]
%]
%]
)
)
)
)
)
)
)
×
×
×
×
×
×
×
0
0
0
0
0
0
0
0
坪(
坪(
坪(
坪(
坪(
坪(
坪(
坪(
0
0
0
0
0
0
0
0
㎡)
㎡)
㎡)
㎡)
㎡)
㎡)
㎡)
㎡)
0.0 %
千円
千円
千円
千円
0.0 %
千円
千円
千円
千円
0.0 % ①+②+③
5.00 % +(②+③)×
3.00 %
[中間時]
[竣工時] 40 %
20 %
40 %
建設工期:
借入金利 : 2.50 %
12 ヶ月
④ × 課税評価率
70 %× 税率 4.60 %
6,000 円/㎡
施設面積
0 ㎡ × 課税面積比率 60 % ×
解体単価
10 千円/坪 × 解体面積
0坪
千円
① ×
千円
支払方法: [着工時]
千円
千円
千円
千円
0.0 %
0.0 %
(3) 装備品・什器等、取得費
項 目
金 額
家具・備品等
新築棟
既存棟
その他
什器等
新築棟
既存棟
その他
装備品・什器等 合計
構成率
0 千円
0 千円
0 千円
算定基礎
0.0 %
施設面積
施設面積
15,000 ㎡ ×
15,000 ㎡ ×
0 千円/㎡ (0千円/坪)
15,000 ㎡ ×
15,000 ㎡ ×
0 千円/㎡ (0千円/坪)
千円/㎡ (0千円/坪)
千円
0 千円
0 千円
0 千円
0.0 %
施設面積
施設面積
千円/㎡ (0千円/坪)
千円
0
千円
0.0 %
(4) その他費用
項 目
予備費
その他
その他費用
金 額
構成率
0 千円
算定基礎
投資額(2)+(3) ×
2.0 %
千円
合計
0
千円
0
千円
0.0 %
(5) 投資額合計
(1)~(4)合計
100.0 % 平均坪単価:
0 千円/施設延床面積 1室当たり投資額:
0 千円
43
3.資金計画
(1) 新規資金需要
項 目
土地取得費
設備投資等
建設投資等
家具備品等
什器等
その他費用
創開業費
一般運転資金
資金需要
金 額
合計
構成率
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
百万円
0.0
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
百万円
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
100.0
%
算定基礎
投資計画(1)参照
%
%
投資計画(2)参照
%
投資計画(3)参照
%
投資計画(3)参照
%
投資計画(4)参照
%
会社設立費用、開業前人件費、教育研修費、開業前広告宣伝費
年間売上高×2ヶ月分程度
%
%
(2) 新規資金調達
項 目
自己資本
資本金等
その他
新規・長期借入金
金 額
構成率
0.0
0.0
0.0
0.0
百万円
百万円
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
百万円
100.0 %
百万円
百万円
%
%
%
(不足額が自動入力)
資金調達
合計
算定基礎
%
借入金利 : 2.50 % 返済方法 : 元利均等 毎回返済額 :
据置期間 :
0 年 返済期間 :
15 年 合計期間 : 15年
0 千円
(3) 既存借入金
項 目
既存借入金
金 額
1,500.0
構成率
百万円
%
(4) 短期資金、法人税、開業前資金繰り/損益
項 目
短期資金
法人税等
44
設定条件
短期借入金
短期運用益
金利
金利
税率
2.5 %
0.5 %
45 %
算定基礎
借入金利 : 2.50 %
※返済計画は7長期収支に直接入力します。
4.営業計画
(1) 宿泊部門、稼働率と消費単価、原価率
[1]定員稼働率と基本宿泊単価 (一泊二食料金:サ込税別)
施設計画
客室数
標準定員
@定員/室
項 目
100 室
490 人
4.90 人
年計/平均
稼働率 客室稼働率
(@人数/室)
(
定員稼働率
①
単価
客室料金
朝食料金
夕食料金
②
③
365
60.1
3.1
37.6
5,710
1,800
4,260
11,770
17,490
一泊二食料金
〔平均RC/サ込〕
(
④
66,190
延宿泊人数
100
⑤
夕食摂食率
構成率
日
%
人)
%
円
円
円
円
円)
人
%
48.5
15.3
36.2
100.0
%
%
%
%
オンシーズン
ショルダーシーズン
60
95.0
2.7
(
52.3
9,000
1,800
5,000
15,800
100
60.0
(
3.0
36.7
6,000
1,800
5,000
12,800
日
%
人)
%
円
円
円
円
オフシーズン
205
50.0
(
3.2
32.7
4,000
1,800
3,500
9,300
日
%
人)
%
円
円
円
円
日
%
人)
%
円
円
円
円
[2]総消費単価と原価率
項 目
基本宿泊料 (一泊二食サ込税別料金)
付帯売上
客室料金
朝夕食料金
追加料飲売上
宴会付帯売上
バー、ラウンジ等売上
物販売上
その他付帯売上
単 価
合計
⑥
宿泊客 総消費単価
11,770 円
5,710
6,060
500
200
150
1,100
100
円
円
円
円
円
円
円
13,820
円
構成率
原価率
85.2 %
20.6 %
41.3
43.8
3.6
1.4
1.1
8.0
0.7
--40.0
35.0
80.0
25.0
65.0
75.0
%
%
%
%
%
%
%
100 %
%
%
%
%
%
%
%
備 考
2,424円
朝夕原価実額
飲料、追加料理等
玉代、ショー等
バースナック、喫茶等
売店売上等
電話、マッサージ、自販機、客室冷蔵庫、ペイTV等
26.0 %
(2) 日帰り部門、入込数と消費単価、原価率
[1]施設別入込人数、消費単価
項 目
日帰り宴会入込数
人数(人回)
合計
一般宴会
コンベンション関係
日帰り入浴・休憩(一般入浴)
貸切風呂
昼食休憩
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
備 考
6,600 人
4,800 人
1,800 人
120 件
12 組
× @
× @
40 人
150 人
(月間10件×12ヶ月)
7,300 人
4,380 人
3,750 人
風呂数
2 × 1日当たり回転数
2.5 人/件
1,500 件 × @
単 価
原価率
3 × 平均人数
2人
[2]消費単価、原価率
料飲消費
入浴料
項 目
一般宴会
コンベンション関係
昼食休憩等
一般入浴
貸切入浴
売店消費
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
⑰
4,000
3,000
2,500
800
1,000
150
円
円
円
円
円
円
30.0
25.0
30.0
5.0
5.0
65.0
備 考
%
%
% 平均単価
% 1人当たり料金
% 1室当たり料金
% 入浴客・昼食休憩客利用(1人当たり料金)
(3) 基準売上高・売上水準
項 目
金 額
基本宿泊料 (一泊二食サ込税別料金)
客室売上
朝夕食売上
宿泊付帯売上
宿泊客売上
日帰り宴会等売上
合計
売上高
39.4 %
41.8 %
135,690 千円
14.1 %
2,315
44,320
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
959,065
千円
914,746
33,975
8,030
日帰り入浴・休憩売上
日帰り客物販売上
日帰り客売上
377,945 千円
401,111 千円
19,200
5,400
9,375
一般宴会売上
コンベンション宴会売上
日帰り入浴客の昼食等売上
一般入浴売上
貸切風呂売上
81.2 %
33,095
13,238
9,929
72,809
6,619
追加料飲売上
宴会付帯売上
バー、ラウンジ等売上
物販売上
その他付帯売上
⑱
合計
合計
構成率
779,056 千円
5,840
2,190
3.5
1.4
1.0
7.6
0.7
95.4
3.5
2.0
0.6
1.0
0.8
0.6
0.2
備 考
①×④
⑥×④
各付帯売上単価 × ④
%
%
%
%
%
9,147 千円
% 室年商
%
% ⑦×⑫
% ⑧×⑬
% ⑪×⑭
%
% ⑨×⑮
% 風呂数 × 1日あたり回転数 × 稼働日数 × ⑯
% (⑨+⑩+⑪) × ⑰
%
0.2
4.6
100 % 坪年商
211
千円
投資回転率
0.00
回転/年
45
(4) 営業経費とG.O.P(償却前営業損益)
[1]原価・粗利益
項 目
金 額
160,445
11,583
10,590
2,482
47,326
4,964
宿泊客売上 一泊二食原価(朝夕食料金)
追加料飲売上
の原価
宴会付帯売上
バー、ラウンジ等、売上
物販売上
その他付帯売上
小計
11,828
249,219
709,846
千円
26.0 %
千円
74.0 % 売上高-原価
237,390
5,760
1,350
2,813
292
110
1,504
日帰り客売上 一般宴会売上
の原価
コンベンション宴会売上
日帰り入浴客の昼食等売上
一般入浴売上
貸切風呂売上
日帰り客物販売上
小計
合計
原価
粗利益
[2]要員数・人件費
項 目
①役員
②社員
部課長
事務・フロント
調理
客室係他
人数
3人
3人
12 人
14 人
28 人
57 人
給与年額/人
6,500 千円
5,000 千円
3,300 千円
3,300 千円
3,300 千円
人
人
人
1,800 千円
600 千円
小計 固定人件費小計(①+②)
30
③常勤パート、派遣等
20
④繁忙期アルバイト等
50
変動人件費小計(③+④)
合計 107
人件費
3,389 千円
3,867 千円
3,300 千円
金 額
19,500
15,000
39,600
46,200
92,400
千円
千円
千円
千円
千円
193,200 千円
232,020 千円
54,000 千円
12,000 千円
66,000 千円
298,020
人
売上比
備 考
20.6 % 基本宿泊料売上対比
付帯売上単価 × 原価率 ×延宿泊人数
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
※福利厚生費等には社会保険料負担金、採用経費、その他を含む。
※「役員」 と 「社員」 は、固定費 80 %、変動費 20%、「常勤パート等」以下は変動費
26.0 % 宿泊客総売上対比
⑦ × 料飲消費単価 × 原価率
⑧ × 料飲消費単価 × 原価率
⑪ × 料飲消費単価 × 原価率
⑨ × ⑮入力料単価 × 原価率
⑱ × ⑯原価率
(⑨+⑩+⑪) × ⑰売店消費単価 × 原価率
26.7 % 日帰り客総売上対比
売上比
2.0 %
1.6 %
4.1 %
4.8 %
9.6 %
26.0 %
総原価率
算定基礎
営業支配人、及び調理長
セールス、総務経理等
1人当たり宿泊人数/年 4728人
1人当たり持ち部屋数 3.6人
20.1 % 給与年額には、賞与及び各種手当等をすべて含む
24.2 % 社員は福利厚生費等として給与年額の 10 % を加算
5.6 % 洗場、館内清掃、客室係り補助など
1.3 %
6.9 %
31.1 %
80 %とする。
[3]販売管理費
項 目
直接費
金 額
宿 泊 宿泊 支払手数料
直接費 客室リネン費等
客室消耗品
客室清掃委託費
宿泊朝夕食 料飲消耗品費
日 帰 一般宴会消耗品費
直接費 コンベンション消耗品費
日帰り入浴客昼食等消耗品費
一般入浴・貸切風呂
小計
間接費
水道光熱費
事務通信費(旅費交通費、備消耗品費含む)
広告宣伝費
車両費
被服費(クリーニング費、その他)
営業関連保険料
その他雑費(諸会費、交際費、リース料、他)
設備保守点検費
宿泊施設部分 設備運転、清掃、警備費等
建物修繕費(新築・改装部分)
建物修繕費(既存部分)
装備品 損害保険料
保守修繕費 家具、備品等
什器等
既存装備品什器の保守修繕費
小計
販売管理費
売上比
81,801
19,857
16,548
21,950
4,011
384
108
188
120
144,966
87,120
11,400
11,509
12,000
1,070
2,042
12,000
4,200
10,890
0
10,000
0
0
0
800
163,031
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
千円
307,997
千円
8.5
2.1
1.7
2.3
0.4
0.0
0.0
0.0
0.0
15.1
9.1
1.2
1.2
1.3
0.1
0.2
1.3
0.4
1.1
0.0
0.0
0.0
0.0
0.1
17.0
32.1
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
%
代理店経由率
宿泊客1人当たり
宿泊客1人当たり
×
稼動客室数
×
朝夕食売上
宴会料飲売上 ×
宴会料飲売上 ×
昼食等売上
×
日帰入浴・休憩売上×
算定基礎
% ×手数料
70
300
250
1,000
1.0
2.0
2.0
2.0
1.5
円
円
円
%
%
%
%
%
※年度別推移では変動費として算定
4,537.5 坪
1,600 円/月坪 × 延床面積
×
200 千円/年
社員数
%
%
1,000 千円/月
% 要員数
×
10 千円/人年
% 宿泊客賠償保険等
450 円/坪・年
%
%
350 千円/月
4,537.5 坪
%
200 円/月坪×延床面積
% 建築工事費
×
0.30 %
%
%
%
%
%
簿価(購入価格) ×
簿価(購入価格) ×
簿価(購入価格) ×
0.30 %
0.5 %
2.0 %
損害保険料、償却資産税、保守修繕費
※年度別推移では固定費として算定
% 直接費+間接費
(5) G.O.P:償却前不動産コスト支払前営業損益
項 目
G.O.P金額
46
金 額
103,829
売上比
千円
算定基礎
10.8 % 粗利益-人件費-販売管理費
15 %
5.資産所有コスト・減価償却計画
(1) 資産所有コスト
[1]基準年の資産所有コスト
項 目
金額
土地 固定資産税等
建物等所有コスト計
公租公課(既存部分)
固定資産税等(新築部分)
損害保険料等(新築部分)
その他の不動産経費
資産所有コスト 合計
0
25,000
25,000
0
0
1,200
構成率 算定基礎
0.0 % 土地購入費 × 課税評価率
50%
× 固定資産税1.4%・都市計画税3%
95.4 %
既存建物:固定資産税・都市計画・事業所税、及び火災保険料等
60%
× 固定資産税1.4%・都市計画税3%
0.0 % 新築・改装部分:建築工事費×保険料率0.25%
0.0 % 温泉供給料金、土地建物地賃料、その他
新増改築部分:建築工事費× 課税評価率
26,200 100.0
%
[2]単価アップ率
項 目
毎年の単価アップ率
収入
支出
0.00 %
0.05 %
(2) 減価償却費(定額法)
項 目
建築工事
小計
新築工事
躯体
設備
内装
既存施設の改装工事
設備
内装
屋外施設等
小計
構築物等
外構、造園等
スポーツ施設等
その他
小計
合計
小計
小計
装備品・什器等 合計
創開業費(繰延資産)
既存施設
小計
躯体
設備
内装
装備品、什器
土木、造園
その他
減価償却費
4年度
5年度
6年度
7年度
8年度
9年度
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
15 年
10 年
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
15 年
20 年
15 年
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
20 年
15 年
15 年
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
7年
7年
0年
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
3年
3年
0年
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
1,350.0
5年
0.0
0.0
111.9
0.0
0.0
111.9
0.0
0.0
111.8
0.0
0.0
85.2
0.0
0.0
85.2
0.0
0.0
81.2
0.0
0.0
81.2
0.0
0.0
81.2
0.0
0.0
56.2
0.0
0.0
56.2
35.2
21.0
25.0
26.7
0.0
4.0
35.2
21.0
25.0
26.7
0.0
4.0
35.2
21.0
25.0
26.6
0.0
4.0
35.2
21.0
25.0
0.0
0.0
4.0
35.2
21.0
25.0
0.0
0.0
4.0
35.2
21.0
25.0
0.0
0.0
0.0
35.2
21.0
25.0
0.0
0.0
0.0
35.2
21.0
25.0
0.0
0.0
0.0
35.2
21.0
0.0
0.0
0.0
0.0
35.2
21.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
111.9
111.9
0.0
111.9
111.9
0.0
111.8
111.8
0.0
85.2
85.2
0.0
85.2
85.2
0.0
81.2
81.2
0.0
81.2
81.2
0.0
81.2
81.2
0.0
56.2
56.2
0.0
56.2
56.2
0.0
0.0
0.0
0.0
800.0
250.0
200.0
80.0
0.0
20.0
合計
合計
48 年
10 年
10 年
0.0
0.0
0.0
0.0
新築棟
既存棟
その他
既存繰延資産
既存施設償却
3年度
0.0
0.0
0.0
新築棟
既存棟
その他
什器等
2年度
0.0
0.0
0.0
盛替工事等
各種引込工事等
給排水工事等
建築工事費
家具、備品等
(単位:百万円)
耐用年数 1年度
簿価
0.0
1,350.0
1,350.0
23
12
8
3
0
5
5
年
年
年
年
年
年
年
10年度
47
6.長期営業収支・資金収支計画
(1) 営業収支計画
(単位:千円)
項 目
売上高 合計
G.O.P
資産所有コスト
減価償却費
営業利益 (①-②-③)
支払金利
①
②
③
④
⑤
既存借入
新規・長期借入
短期借入
受取金利
経常損益 (④-⑤+⑥)
特別損益
税引前当期損益 (⑦+⑧)
法人税、事業税、住民税
税引後当期損益 (⑨-⑩)
〔同上累計〕
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
1年度
959,065
103,829
2年度
959,065
103,402
3年度
959,065
102,974
4年度
959,065
102,546
5年度
959,065
102,118
6年度
959,065
101,689
7年度
959,065
101,260
8年度
959,065
100,831
9年度
959,065
100,402
10年度
959,065
99,973
26,200
111,920
26,213
111,920
26,226
111,760
26,239
85,200
26,252
85,200
26,266
81,200
26,279
81,200
26,292
81,200
26,305
56,200
26,318
56,200
-34,291
-34,731
-35,012
-8,894
-9,335
-5,776
-6,218
-6,660
17,897
17,455
37,500
37,500
0
0
36,497
35,500
0
997
35,479
33,500
0
1,979
34,448
31,500
0
2,948
33,401
29,500
0
3,901
32,340
27,500
0
4,840
31,263
25,500
0
5,763
30,170
23,500
0
6,670
29,060
21,500
0
7,560
27,934
19,500
0
8,434
0
-71,791
0
-71,228
0
-70,492
0
-43,341
0
-42,736
0
-38,116
0
-37,481
0
-36,830
0
-11,163
0
-10,480
-71,791
0
-71,791
-71,791
-71,228
0
-71,228
-143,019
-70,492
0
-70,492
-213,511
-43,341
0
-43,341
-256,852
-42,736
0
-42,736
-299,588
-38,116
0
-38,116
-337,704
-37,481
0
-37,481
-375,185
-36,830
0
-36,830
-412,015
-11,163
0
-11,163
-423,178
-10,480
0
-10,480
-433,658
(2) 資金収支計画
(単位:千円)
1年度
項 目
(A)
前期繰越 (前期(L))
当期源泉 :キャッシュフロー(③+⑪) (B)
既存借入金の返済
新規・長期借入金返済
再投資(リニューアル)
既存借入金
新規・長期借入金
短期借入金
48
3年度
4年度
5年度
6年度
7年度
8年度
9年度
10年度
0
40,692
0
41,268
0
41,859
0
42,464
0
43,084
0
43,719
0
44,370
0
45,037
0
45,720
(C1
80,000
80,000
80,000
80,000
80,000
80,000
80,000
80,000
80,000
80,000
(C2
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
-39,871
-39,308
-38,732
-38,141
-37,536
-36,916
-36,281
-35,630
-34,963
-34,280
-39,871
-39,308
-38,732
-38,141
-37,536
-36,916
-36,281
-35,630
-34,963
-34,280
39,871
0
39,308
0
38,732
0
38,141
0
37,536
0
36,916
0
36,281
0
35,630
0
34,963
0
34,280
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
(D)
(E)
当期経常過不足 ((B)-(C1)-(C2)-(D))
(F)
増資他、資金投入
(G)
追加設備投資等
(H)
配当
差引累積残高 ((A)+(E)+(F)-(G)-(H))(I)
(J)
短期借入
(K)
短期借入返済
(L)
次期繰越 ((I)+(J)-(K))
借入金残高合計(期末)
2年度
0
40,129
1,459,871
1,419,179
1,377,911
1,336,052
1,293,588
1,250,504
1,206,785
1,162,415
1,117,378
1,071,658
1,420,000
0
39,871
1,340,000
0
79,179
1,260,000
0
117,911
1,180,000
0
156,052
1,100,000
0
193,588
1,020,000
0
230,504
940,000
0
266,785
860,000
0
302,415
780,000
0
337,378
700,000
0
371,658
講座1
演習
事業収支計画Ⅱ
2 改善計画策定、事業見通しのシミュレーション
(株)JTB商事 企画設計室長/チーフコンサルタント 竹原和利
(株)JTB商事 企画設計室/コンサルタント 小輪瀬博子
事業収支計画を策定してみよう
POINT
◎ 実現性、優先度、経済効果が高いものは何かを考える
◎ もう一度の経営理念を確認し、原点に立ち返る
架空のA旅館を例に、事業収支計画を策定してみましょう。今回は準備した
シミュ-レーションソフトを活用して、実現の容易性をチェックしていただき、
その中で優先度が高いもの、かつ経済効果が高いものは何かを整理した上で経
営改善の具体策として固めていっていただきます。
今回はA旅館を例に議論を進めましたが、皆さんのところの経営改善計画を
お作りになるときには、どういう条件の下でならそのような設定が可能なのか
を考えていただきたいと思います。決定した改善策がオペレーション全体の中
でどのような影響を及ぼすのかをしっかりと把握しなければなりません。
もう一度の経営理念を確認し、原点に立ち返ってお考えをいただきたい。こ
れを失うと単なる数字のゲームになってしまいます。数値上よくなっても、現
実に達成できません。
マーケットがシュリンクをしていく中で売上を増やす計画だけではうまくい
きません。実現可能な計画をいかに作り上げるか、そして皆さん方の館の経営
の理念をしっかりそれを受け継いでプランを作っていただく、そのことが非常
に大切なことになると思います。
※実際のセミナーでは4グループに分かれてワークショップを実施しました。
各グループの議論の結果を回答例として載せています。
49
A グループ発表者
Aグループでは、食事をバイキングに改善して、部屋食を減らすことにしま
した。食事を低コストに押さえ、お客様が喜ぶような形に変えようと考えまし
た。その分、広告宣伝費を若干増やしました。エージェント比率は 10%ダウン
して、60%にもっていきます。
大幅なコスト削減にも着手しました。人件費削減のため、人員を 37 名減らす
ことにしました。パートは 20 名一気に減らし、その分を社員でまかなう。事務
10 名、調理 10 名、客室 15 名。管理職やオールラウンドの人員でバイキングを
こなせると考えました。また、コンベンションホールがバイキング会場になる
と思うので、日帰りは浴場関係のみにして食事は一切出さないことにしました。
客室清掃コストも非常に高かったので、一室 600 円まで交渉して下げること
としました。それから水道光熱費に関しても 1400 円まで落ちるだろうと考えて
います。いろいろやり方はあると思いますが、状況を見ながら省エネを進めれ
ば、1400 円という数字は決して高い数字ではありません。十分達成できるだろ
うと思っております。
それにより GOP が 20%、何とか経常利益がプラスになるようにしました。た
だ、バイキングにしたときにお客様の人数が本当に確保できるのかということ
を懸念しています。部屋食であった人数がバイキングに全て移ってくれるのか
が問題です。その辺は広告宣伝を打ちながら何とか集客をしていくという方向
で考えました。
竹原講師
37 名の人員削減というのは、かなりドラスティックな体制です。実労働が完
全週休二日制ではなくても、7分の 5 くらいの人員が稼動人員になっています
よね。それで営業体制、オペレーションが回るかどうか、実際やるときはその
辺の詳細について確認しなければなりません。
B グループ発表者
B グループの中では、代理店の依存率が 70%と高くことから、もう少し効率
的に利益を得る目的で、ネット販売へ移行することで話がまとまりました。
それと同時にコストダウンを行うということで、具体的な方法としてはまず
人件費を見直します。職員の賞与を 10%をカットしました。同時に調理人を 14
名から 3 名減らして 11 名、一人当たり 6000 食を見ることになります。食事に
ついては、空間も少し有効的に利用するため、部屋出しをやめて宴会場を使っ
たバイキングの形式に移行します。それに伴って調理人の人数を3名減らして
おります。同時にアルバイトの人数を、20 名から 0 名にします。その分を職員
50
でヘルプ体制を取ってまかなうという形にしました。人員については、ネット
販売に移行していくので、それに伴いフロントの人員を2名増やします。加え
てネットに特化した人員を獲得して販売を強化していきます。
コストダウンのもうひとつの方法として、販売管理費を見直します。内容と
してはリネン費、消耗品費、清掃委託費、こちらが少し高いように見受けらる
ので、それぞれ 30%カットします。こちらは業者との減額交渉になります。
最後に原価率ですが、朝食夕食は、個室、客室に出していたのをバイキング
方式に変更し、それに伴い食事の原価を見直すことができると考えました。全
体的には、コストダウンと同時に、人員と空間を有効的に利用する。それによ
り利益を生んでいく体質に移行していくというシナリオです。具体的なネット
販売のプラン戦略については、まだこれから検討の余地があるかと思います。
C グループ発表者
まず、部屋出しの食事をバイキングに変えました。客室稼働率は、ショルダ
ーシーズン 60%から 70%に引き上げる。夕食料金はオンシーズン 5000 円、シ
ョルダーシーズンは 10%稼働率を上げることにしました。単価を抑え、夕食は
マイナス 1000 円の 4000 円にしました。オフシーズンは朝食を 500 円だけ下げ
てみました。
原価率は、朝夕食の原価率を 40%から 35%に下げ、原価実額が 1943 円とい
うことにしました。バイキングの原価率については、35%にとどめました。人
件費が高い状況なので、調理を 14 人から 4 名減らして 10 人、バイキングにし
たことによって客室係を半分の 14 名にしました。ただし、調理、客室、サービ
ス共に常勤パートを 10 名増やしております。
あと役員の報酬を 10%カットして、人件費率が 25.9%、約 2800 万円のマイ
ナスになりました。営業担当がいないので、フロントの 12 名の中から営業担当
を決め、セールスをもっと積極的にやっていこうという話になりました。
そして販売管理費ですが、代理店経由率が 70%のところ 3%ぐらいは営業
を積極的にやることによって減らせるのではないかと考え、67%にしました。
それに伴い広告費、情報の発信という点で 1.2%から 2%に上げました。長
期収支はマイナスではないですけど、長期的に見てこのぐらいからスタート
しようじゃないかという話になりました。日帰りについて、まだまだ改善要
素はあると思いますが、以上です。
D グループ発表者
私たちのグループでは、まず日帰り部門の営業をやめることを決めました。
それに伴い人員を整理し、エージェント経由のグループのお客様を自社営業に
51
よる集客に変更するという方向で話しを進めました。
まず宿泊に関してはショルダーシーズンに 60%だったところを5%アップ
させます。夕食料金は単価を 500 円上げることによって宿泊単価をアップさせ
ます。日帰りのお客様がいなくなった分の売上高をカバーすることができまし
た。食材原価については、現在の 40%から仕入の一元化等によって2%削減し、
結果的に夕食における価格は変わらないようにしました。バーラウンジやお土
産等の付帯売上も 10%売上アップをしようという営業目標を掲げました。
次に営業経費ですけれども、まず役員の給料を 650 万円から 500 万円にして、
部課長の給料を5%減らしました。日帰り部門をなくすことにしたので、日帰
りに伴う宴会要員やフロント要員が少なくてすむことから、約 10%の人数を削
減します。事務とフロントの人数をそのままにしたのは、フロントの部課長 1
名合わせて、3名が営業要員に回ることにしたからです。それからパートも 30
人から 10%減らしております。繁忙期のアルバイトは変えておりません。
それからリネン、消耗品は 10%削減を目標にしました。清掃業務費は 1000
円から 800 円に下げる方向で考えています。また光熱は費5%、事務通信費は
10%に削減します。一方で広告宣伝費は 1.2%から倍の 2.4%に増やしておりま
す。車両費は年間 1200 万円かかっていたのですが、リースや車両を減らす方法
で 800 万円に減らしました。経費はこのような形で減らしました。
それで GOP 金額が当初の 12,335 万円から 17,756 万円になります。長期収支
のほうは、減価償却をしまして一応プラスという形になっています。
竹原講師
昼食を中止することによって要員を下げていらっしゃいますね。経済効果は
数値的にどのくらいと見込まれましたか。
D グループ発表者
人件費を 27,800 万円から 27,000 万円に減らしました。
竹原講師
800 万円のダウンですね。要は単価をアップする戦略の中で、どんなマー
ケットに対して単価を上げていくのか、商品力アップをどう構築をしていく
のかというところまで、実際は突き詰めていく必要があると思います。また、
昼食という収入を放棄する場合は、それに代わるプラス要素をどこに見いだ
していくのかを考えなくてはなりません。あえて数値を聞いたのは、その経
済効果把握した上で戦略を立てていただきたいからです。
(以上、ワークショップ発表会での講義録より抜粋)
52
セミナー参加者による グループワーキングまとめ(回答例)
Aグループ
課題
要
素
増
収 ・売店単価が低い
Bグループ
改善策
・1100円→1500円(商品力UP)
課題
Cグループ
改善策
課題
Dグループ
改善策
課題
改善策
・単価
・0泊2食プランはどうか
・日帰り売上が低い
・宿泊部門の売上比率を高める
・付帯の稼動が低い
・稼働率
・空室の有効利用
・営業の人員が少ない
・地元客の日帰り入浴を増やす
・自社集客能力が低い
(4千万円しか売上がないから)
・付帯施設
・AGTに頼らないセールス
・営業担当者がいない
・旅行会社による送客依存を減らし
コンベンション
(直販UP)
・自社集客を増やす
宴会
・70%→50%目標
日帰り入浴
・WEBセールスへ移行、
・売店
・日帰り営業をやめる
(広告宣伝員をむける)
・自社の営業を育成する
・販売チャネルの変更
コ ス ト タ ゙ ウ ン ・人件比率が高い
・業務委託費の見直し(1室当たり
清掃費)→40%CUT
・食材原価が高い(24%) ・食材・原価24%→22%
・正社員・常勤パート87名→50名に
・人件費
・人:役員報酬、賞与カット
・人件費率が高い
・エージェント→直販ネットヘ
・車両費
・ →営業利益改善
・原価率が高い(食材仕入) ・食事会場が大きくないので、
・材料費
・水:省エネ対策が必要
・エージェント手数料が高い
・業務委託費(清掃)
・リ:環境対策とリンクさせる
・車両費、水道光熱費
・支払手数料
・業:減額交渉が直営課
・清掃業務委託費が高い ・朝食バイキング
・リネン費
・支:AGT依存率・契約見直し
部課長、事務フロントが接客にまわる
・食材仕入業者の見直し
・食材仕入率が高い
・稼動客数に対する清掃
委託費が適正なのか
・従業員の人件費が高い
相見積りを取る
・日帰りをやめることによりスタッフを
削る
・減員した人件費で営業担当者を
・車両を自社持ちにする
・水道光熱費
・仕入れする部門の一元化、業者
採用する
・LED代替エネルギー補助
・賞与を半分にする
・広告宣伝費を減らして営業の
・定年後パートとして再雇用する
人員を増やす
オ ヘ ゚ レ ー シ ョ ン ・料理提供方法
・集客:直予約客数を増やす
(→エージェント比率が下がる
・調理場
→15%UP)
・社員とバイト・アルバイト
・部屋食中止
施
設 ・老朽化・施設の効率的 ・コンベンションホール
な活用
財
務
・部屋出し(接客)
→バイキング会場へ(朝食)
・部:食事提供の見直し
→集中化→社員・アルバイト改善
・調:作業オペレーション見直し効率化
・食事の提供方法
・従業員の高齢化による ・業務マニュアルを作成し、サービスの
・料理の内容
業務のマンネリ化
(調理の人員)
のバランス
・修繕費 施設が古く
なってきている
施設利用UPできないか?
できない場合、廃止
・コンベンションホール
宴会場:コンベンションホール
・借入過大、債務超過
増資、遊休資産売却?
オペレーション見直し再投資、
・投資効果
・目新しいリニューアルする
再建計画
銀行に債権の放棄のお願い
51
予算が無い
・手持ちのキャッシュが少ない ・役員報酬、賞与見直し、早期退職、 ・経営者に問題あり
人員若返り、パート化
平等化
平成 21 年度サービス産業生産性向上支援調査事業
(ホテル・旅館業経営カイゼン寺子屋調査事業)
講座資料
平成22年3月発行
発
行: 経済産業省 北海道経済産業局産業部 サービス産業室
調査委託先: 財団法人日本交通公社
( リ サ イ ク ル適 正 の 表 示: 紙 へ リサ イ ク ル 可)