自動車産業時評 り、そのことがユーザーに安心感を与えて、販 売の好調さにつながっているものと推測され る。 2013年時点でロシアの乗用車市場における プレゼンスが最も強かった中国メーカーは Derwaysにおいて現地生産を行っているLifan (力帆汽車)で、X60というSUVとSolanoとい うセダンを主力として前年同期比34%増の2 万7,467台の販売を記録した。 中国メーカーの中で第2位につけたのは、 中国ブランド車のニューウェーブ やはりDerwaysにおいて現地生産を行ってい ロシア市場では中国車が一定のプレゼンスを ダンを主力として前年比55%増の2万7,263台 確保していますが、認知度が高いのはLifan、 Geely、Great Wall、Cheryの「4強」だけで、 るGeely(吉利汽車)で、Emgrandという中型セ の販売を記録した。 第3位は、ディストリビューターであるロ 残りの中国ブランドの存在感は非常に薄くなっ シア企業「IRITO」が保有するモスクワ郊外の ています。そのような状況の中、4強以外の中国 グジェリの工場とリペツクの工場で現地生産 メーカーも最近になり、ロシア市場でのプレゼン を行っているGreat Wall(長城汽車)で、Hover スの確立を目指し活発な動きを示し始めていま というSUVを主力として前年比39%増の1万 す。今回は、4強の現状と、ロシア市場への新規 9,954台の販売を記録した。ちなみに、Hoverは 参入を目指す中国メーカーの戦略を紹介します。 ロシアで販売されている中国車の中で最も人 気の高いモデルで、2013年の販売台数は前年 4強の現状 「安かろう悪かろう」のイメージが定着し、 比37.4%増の1万8,022台に達した。 Great Wallはロシア市場でのプレゼンスのさ ロシア市場での中国車の販売は一時低迷して らなる強化を目指しており、2014年5月にト いたが、2010年に北カフカス連邦管区のカラ ゥーラ州行政府との間で、同州に生産能力15 チャイ・チェルケス共和国に所在するロシア 万台/年(2期工事終了時点)の自社工場を建 資本の「Derways」という工場で複数の中国メ 設することを規定した協定を締結している。 ーカーの車の現地生産が開始されたのを契機 Great Wall側の発表によれば、工場の建設は に、中国車の総販売台数は2010年:約2万3,000 2014年8月に開始され、1期工事は2017年に、 台、2011年:約4万3,000台、2012年:約7万 2期工事は2020年にそれぞれ完成するとされ 7,000台、2013年:約10万1,000台と順調に回復 ている。また、2016年末にはエンジン工場も完 している(ただし、2014年に入ってからは、中 成することになっている。新工場では、Haval 国車の販売は全般的に低迷している)。 というブランドの車が生産される予定となっ 中国車の魅力は何といっても価格の安さで ている。 あるが、最近になり、新車保証期間を5年(15 第4位はChery(奇瑞汽車)で、Tiggoという 万㎞まで)に設定するなどアフターサービス SUVを主力として前年比4%増の1万9,855台 に力を入れる中国メーカーが複数出現してお の販売を記録した。 116 ロシアNIS調査月報2014年9-10月号 自動車産業時評 Brilliance(華辰汽車) 同社は2005年に一度ロシア市場に進出した ことがある。進出時のディストリビューター ロシア市場での売れ行きは今のところ伸び悩 んでおり、2014年上半期の販売台数は182台に すぎなかった。 はアトラントMアジアであったが、後にIRITO に変更された。そして、Brillianceは一時、IRITO JAC(江准汽車)江貴社准汽車江准汽車 のグジェリの工場において、M2とM3というセ JACはディストリビューターであるボグダ ダンタイプのモデルのSKD方式での生産を行 ン・アフト・ルス社を通しロシアに本格的に進 っていた。 出することを決定し、2014年春からJ5、S5の2 しかし、販売は全く伸びず、2008年末になり モデルの販売を開始した。その他、8月からは Brillianceはロシア市場から撤退した。進出し J22というモデルの販売も開始される予定と てから撤退するまでの4年の間にロシア市場 なっている。J5はセダンで、ウクライナのボグ で売れたBrilliance車の総数は1,000台未満にす ダン傘下の工場から供給されている。S5は ぎなかったといわれている。 SUVで、ロシアのDerwaysにおいて現地生産さ ただ、その後もロシア市場の調査を継続し れている。J2はハッチバック・タイプのAセグ ていたBrillianceは2013年夏に同市場への再進 メントカーで、中国から輸入されることにな 出を決定しモスクワに事務所を開設すると同 っている。 時に、輸入販売子会社も設立した。当該の輸入 2014年の販売目標は、順に、2,300台、3,000 販売会社は、2014年春時点でロシア各地の17 台、200台に設定されている。ただ、販売は思 社とディーラー契約を締結していたが、2014 ったように伸びておらず、2014年上半期の販 年末までにその数は35社にまで増加すること 売実績はJ5とS5の2モデル合計でわずか131 が見込まれている。 台にとどまっていた。 再進出に当たりBrillianceが選んだモデルは、 日本メーカーから提供されたエンジンを搭載 FAW(第一汽車) したV4というSUVで、上記のDerwaysで現地生 FAWは、2012年夏にロシアの乗用車市場に 産されることになっている。Brilliance側はV4 本格的に進出した。2013年春に市場に投入し のライバルとして日産キャシュカイを強く意 た低価格コンパクトカー「FAW V5」 (販売価格 識しており、最も安いタイプの価格を62万 は、39万5,000ルーブル~)の売れ行きが好調 9,990ルーブルに設定している。Brillianceは当 で、同年の販売台数は前年の7倍以上の4,838 面V4だけを販売し、状況をみながら徐々にモ 台にまで増加したが、2014年に入ってからは デル数を増やすことを計画している。 低迷が続いており、上半期の販売台数は前年 今後新たに投入されるモデルの名前は明ら 同期比10%減の1,681台にとどまった。 かにされていないが、V4以外のSUV、B+およ FAWはこの状況を打開するため、ロシアで びC+セグメントのモデル等が候補にあがっ 人気の高いSUVモデル(X80)を市場に投入す ている。 ることを計画している。 その他、現在、BMWと共同開発中の高級車 がロシア市場に投入される可能性もあるとさ (坂口 泉) れている(autostat.ru、2014.3.28)。 ディーラーの数が少ないこともあってV4の ロシアNIS調査月報2014年9-10月号 117
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