060411 良い遺伝子ON

編纂’06.6.6:渡邊
(NEC-Windom より)
良い遺伝子を ON にする生き方
村上 和雄
∼
Something Great ∼
筑波大学名誉教授
‘36年、奈良県生まれ 京都大博士課程修了。米国オレゴン医科大研究員、京大農学部助手、
米国バンダービルド大学医学部助教授を経て、‘78年、筑波大応用生物化学系教授、遺伝子研究、
高血圧を引き起こす酵素「レニン」の遺伝子暗号解読、世界的に脚光、医療分野に貢献、
‘96年:日本学士院賞。 現在、筑波大学名誉教授、国際科学振興財団理事。
(NEC 社のメルマガ:Wisdom から、講演録(自動音声認)の発表資料を簡略化したもの)
1 【心を変えると遺伝子の働きは変わるのか 】
生命科学の研究を40数年した。後半20年は、遺伝子研究です。この分野は、凄い勢いで進歩中。
『生物は本当に素晴らしい、凄い、なぜ、どうして、こんなものができたか』と、研究中に心底、感じた。
心と遺伝子の関係は、ほとんど解ってない。私は、心を変えたら遺伝子の働きが変わると思う。遺伝子の
暗号は同じでも、働きが変わる。 常日頃から 『あなたの想いが遺伝子を変える』と言っている。
これを、何とか実証したいと思い、「心と遺伝子研究会」を設立して研究会を立ち上げている。
2年半程前に吉本興業とジョイントイベントを始めた。多くの人と共同研究をしてきたが、吉本と組んで共同
研究をするとは、全く予期してなかった。人生はどこで不思議な出会いがあるかわからない。
吉本と組んで《笑いがどの遺伝子スイッチON/どの遺伝子スイッチOFF》にするのか実験を始めた。
遺伝子のイメージは、一般的にまだ々非常に固定的。顔が親に似るのは、親の遺伝子をもらったから。
才能も親からもらう場合もある。遺伝子は親から子、子から孫へと世代を超えて情報を伝える。
遺伝子にはもう1ツ大切な働きがある。遺伝子は、生き物の中で一刻も休みなく、間違いなく働いている。
遺伝子が働かないと、人間は一刻も生きていけない。
最近、人の遺伝子がほぼ全部解読され、いろいろ面白いことが解った。その中で私が注目する1ツは、多
くの遺伝子はどうも眠っているらしい。どれぐらいかは、良く解らない。遺伝子の大切な役目は、身体の材
料で最も大切な、たんぱく質を作ること。酵素もホルモンもほとんどたんぱく質です。
たんぱく質の情報を作ることが遺伝子の重要な役割だが、たんぱく質を作るのに直接関係する遺伝子は、
全 DNA のわずか 3%程。他の 97%の DNA は何をしているのかさっぱりわからない、サボっているのか、
寝ているのか、将来のためにとってあるのか?
寝ている良い DNA スイッチ ON、起きている悪い DNA スイッチ OFF すれば、人間の可能性は何倍にもなる
かも知れない。ひょっとしたら大化けするかもしれない。遺伝子の言葉で初めて語られようとしている。
2 【笑いが下げる血糖値 】
笑いが、どの遺伝子のスイッチONするか、若い学生と糖尿病患者の2グループを対象に実験を始めた。
糖尿病は血糖値が高いのだが、上げる原因に、ストレスである。しかし、ストレス=悪いと決めているが、良
いストレスもあるはず。良いストレスは、楽しい/嬉しい/喜ぶ/感動/生き々です。悪いストレスで血糖値が
上がるなら、良いストレスで血糖値が下がるはず。その時に、遺伝子のスイッチON/OFFを調べた。
実験を2日間行った。初日は、糖尿病の患者20名が対象。軽い昼食(安い寿司:¥500価)後、直ぐに大学教
授の講義:(糖尿病のメカニズム)を聞いてもらう。ご存知のように大学の講義は、面白くない、わかりにくい、ユ
ーモアもない。特に下手な講義ではなく、いつもの講義を40分して、終了後に血糖値を測った。
今の患者さんは、血液一滴から、自分の血糖値を測れる。食事の直前と講義直後の2回を比較した。
すると、大幅に予想を超えて、講義直後は、平均血糖値が123∼200mg も上がった。
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このことから、血糖値の高い人は、なるべくつまらない話は避けたほうがよい。それが初日の結果です。
2日目は、つくばの市民ホールを借り切り、サクラを約千人動員した。つくばでこれだけの動員は、大変だが、
大宣伝(笑いと遺伝子の公開実験)が効をそうした。吉本興業は、糖尿病患者の平均年齢63歳から B&B を選ら
んだ。なぜ B&B か?これらの人に受ける話をしなければだめなのです。
私は登場直前に B&B に耳打ちした。『もしこの実験が成功したら、間違いなく糖尿病研究の歴史に残りま
す。笑いと遺伝子/笑いと血糖値の世界初の研究です』 非常にテンポの良い話で、よく笑いました。
血糖値を測ると、前日の講義直後 123mg 上がった血糖値が、笑いの後は 77mg しか上がらない。46mg
の差が出た。糖尿病の医者は驚愕して「おれたちは今まで何をやってきたのかな!」と。
普通の糖尿病の専門医は「そんなアホみたいな実験は、まともな医者はしない」。私たちがちょっとアホだ
ったことが、この実験のいいところで、このデータを見て、面白くなりました。
実験の 1 ヵ月後、論文がアメリカの糖尿病学会誌に掲載された。「笑いだけで 2 型糖尿病患者の食後血
糖値の上昇が大幅に抑えられた」。このニュースは、ロイター通信が取り上げ、全世界に発信された。
この実験は、世界から注目されている。薬の代わりにお笑いビデオを出す医療機関が出てくる。楽しい
治療が始まる前触れで、医療の質を変えていけるかもしれない。今の医療は、進んでいるが、患者さんにと
っては快くない。手術は誰もしたくない。私は、薬もあまり飲まないほうがいいと思う。薬屋の社長はあまり
薬を飲まない。副作用のない薬など世の中にない。笑い転げて死んだ人は居ない、笑いは副作用がない。
楽しいところがいい。3 回の吉本とのジョイント全てで、血糖値が下がりました。
この話を一般の人にするが、いろんな質問がくる。傑作は、「B&B 薬はどこで売っていますか?」でした。
冗談かと思ったら本気。いかに人の話を聞いていないか、患者は「治療=薬」という頭にある。
この質問から、「笑うためのビデオを私たちが作ろう」、笑い誘発ビデオというのを作った。
患者は普通、笑われない。笑わないから病気になったか、病気をすると笑いにくくなるか、悪循環です。
大切なことは、毎日、吉本を見るのでなく、毎日毎日が笑うような心・身体になっているかです。
笑いのビデオは3部構成で、第1部は「イメージを変えましょう」です。今までの人生で一番楽しいことを思
い浮かべ、天から宝が降ってくるゼスチャーを行う。また、腹式呼吸やヨガ呼吸を取り混ぜた非常に深い呼吸
をして、最後に笑う筋肉のストレッチを行う。
笑う筋肉を「笑み筋」と言い、顔には笑み筋が3つ(目の周り、頬、口の周)りある。頬を、ちょっとつまんで、
「たこ焼きぐるぐるおいしいな」といいながら笑うのです。テレビでやれというので、最初は恥ずかしく「それ
はちょっと勘弁してください」でした。こういう笑いを誘う体操、笑み筋体操を作り、最近完成しました。
・・・・ 「笑みからちから」 メディカルレビュー社 ・・・・
完成直後、桂三枝と NHK で対談した。私も付き合う人が変わり「こういう面白いビデオができた」と自慢し
たら、桂三枝は「それ、あまり効かんと思いますな」と「何で?」と「笑いは、やはりライブじゃないと本当はだ
め。笑いは芸人とお客さんとのコミュニケーションで、一方通行ではあまり効かんと思います」。
そこで、「三枝さん、効かんかったら実験に協力してくれますか」と聞いたら、喜んで協力するという。あの人
は、非常に学究的で、よく質問をし、好奇心旺盛です。どこかの大学講師らしく、喜んで協力の賛同した。
三枝は「実験がうまくいったら私の名前を論文に載せてくれますか」と言う。「喜んで載せますよ。桂三枝
でも本名でもいいけど。名前を載せるということは共同研究者です。共同研究者にはギャラはない」。名前
を載せるには何でもないのが、ギャラ100万円が困る。ところがこのビデオは効く。今、つくば周辺の臨床
現場に持ち込んでいる。一過性ではなく、笑いの効果がどれぐらい続くか、ビデオを通し実験中です。
2
3 【笑い学会への入会と 今、研究していること 】
= http://www.age.ne.jp/x/warai/ =
ついに、笑いにはまり『日本笑い学会』に入った。興味ある人はホームページを見てください。
吉本は「お笑い」で、「笑い学会」は、研究する場です。この学会は面白く、どなたも喜んで入会できる。
年齢・学歴・容姿を問わない。ふざけた学会でなく、非常にまじめな学会です。
笑い学会に入って解ったが、「笑いは笑い事ではない」。 どの国の神話にも笑いがある。 人間は神代
の時代から笑っていた、神様も笑っていた。 驚いたのは、世界の大哲学者(プラトン、ソクラテス、アリストテレス、カント、
フロイト、ダーウィン)が、笑いの研究をしていたということです。
笑いの研究から、人間とは何か?を突き止めるいい手段かもしれない、笑い事ではない。
しかし、笑いは人間だけかという問題が残る。実は、笑うネズミを作ろうと思っている。真面目にやっている。
人間の笑いと違うが、笑いの原型がネズミに残っている。なぜネズミ? スイッチ ON/OFF は血中で測るが、
本当は人間の脳のスイッチ ON/OFF を測りたい。しかし、人間の脳のスイッチ ON/OFFは測れないので、ネズ
ミを使って実験をする。
笑い学会で、もう1つ勉強したのは、胎児も笑うということ。8ヶ月で、胎児も笑う。疑って「本当に胎児に聞
いたの、面白いかどうか?」。 少なくとも笑うような顔をする。生まれたての赤ちゃんはにっこり笑う。
エンジェルスマイル、天使の微笑、なんとも言えないいい笑顔です。親が教えていないのに赤ちゃんは笑う。
ということは、赤ちゃんは、笑いの遺伝子を持って生まれた。その遺伝子を探す実験を懸命にしている。
現在、人の遺伝子は、ほとんど判明した。人間の4万個の遺伝子、そのDNAをガラス板に貼り付けて、ど
の遺伝子スイッチ ON/どの遺伝子スイッチ/OFF を片端から調べ、その第一弾の結果が出た。
笑いの陽気な心で、どの遺伝子が動くかがわかりだした。残念だが、これ以上は言えない!
研究は実験だけではだめで、論文発表が必要。学術論文では、What’s NEW が大切なのです。 だから
この事も言わないほうがいいの。皆さんが、まさかチクルことはないと思うが。
私はどの遺伝子が動いたか、肝心なことは言ってない。論文が出た直後にしか言えないのです。
4 【近年、心血を注いだ稲の遺伝子の暗号解読 】
私がこの4、5年 一番長くやった研究は、稲の遺伝子の暗号解読です。農学部を卒業して、40数年前、
米のたんぱく質研究をしたが、その後アメリカに行き、医学的な仕事した。定年後しばらくして新聞を読ん
でショックを受けた。人間の遺伝子解読で強力な力を発揮した米国ベンチャーが、稲の遺伝子暗号の解
読を試みる宣言をした。私はショックを受け、許せんと思った。「何で稲まで外国に全部やられる!」、科学
には国境はないが、科学者には国境がある。私は日頃、気が弱いが、非常にハッスルする。
ぜひ日本でやろうと考え、政府・自民党関係者に会い「このままでは日本は稲の遺伝子解読で負ける」
「稲は日本でやらなければ困る」、「今からでも勝てるか?」と聞かれ、「予算を付けてくれたら勝る。通常予
算ではだめ。緊急予算でないとだめ。補正予算をつけてください」、「補正予算をつけたら勝てるな?」と
聞くので、「勝てる」と断言した。
本当は勝てるかどうかはわからない。勝てる「かもしれない」というところは、相手に聞こえないように言う。
これをナイトサイエンスと言う。科学にも表と裏がある。日頃の講義は、昼の科学で、客観性、理性、知性が
必要です。しかし、科学はそれだけでは成立しない。夜の科学がある。
これは何か?主観的観点です。「何か証拠はある?」、証拠がないからやる。絶対にこうなるというリーダ
ーの強い思いが必要。できるかもしれない、できないかもしれないでは、できない」
補正予算が付いて、苦労が始まった。大学を辞めているので、人・場所・設備の調達から開始した。
研究途中でチーム解散のピンチがあった。ピンチはチャンスと言うが、そんな思いは浮かばなかった。
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日本が稲の遺伝子暗号解読を成し遂げ、世界リーダーになれたのは、稲は日本で解読しようというチーム
の強い思いと、完璧な産学協同体制と、各得意分野を任せたことが効をそうした。私は責任だけ取った。
なぜ、アメリカが稲に熱心なの聞かれ、私は『米国だから!』と言った。無論 ジョークだが、半分は本気。
アメリカは40数年前に稲の本格的研究に乗り出し、フィリピンに国際イネ研究所を創った。世界人口の約
半数、30億人ぐらいが米を食べている。
日本は少子高齢化で困っている、世界では毎年1億人の人口増加が起こっている。今でも7、8億人が
栄養不足で困っている。21世紀の中には 90 億人を突破する。
そのときの食料不足が、非常に大きな問題である。21世紀は、環境と食糧が大問題となる。
今、日本の食糧自給率は4割しかない。こんな国は世界に例がない。今はお金で買えるが、金を出して
も売らないこともある。食料は、明日から食事を止めるわけに行かない。政府は絶対に大切なもの。せめて
研究だけでも日本は、世界リーダーになって欲しい。
5. 【高血圧の黒幕レニンの全遺伝子暗号の解読に世界で最初に成功 】
一番長い(20数年)研究は、人はなぜ高血圧になるかのテーマで、高血圧の黒幕レニンを追い続けた。
黒幕レニンは、自分は手をださずに、手下のホルモンを使う。後ろで操つるのが血圧を上げる酵素です。
この正体を明らかにするのが、私の長い夢でした。
しかし、黒幕なので捕まらない、しかも極微量(1gの10億分の1)で効く。この量を注射すると、血圧が上がり
っぱなしになる。この正体の解明は、大変難しい。しかし、幸い、この黒幕を明かす新しい手段を開発した。
新しい手段の開発で研究のブレイクスルーが起きた。今までできなかったことができたのです。
アメリカで 10 年研究したが、帰国後も研究を続けた。黒幕レニンが脳の中にもある状況証拠を掴んだ。
脳の中に潜む黒幕を、引っ張り出そうと考えていたが、なかなか出てこない。
牛の脳下垂体を3万5千個集めた。食肉センターで、脳下垂体だけ貰い、冷凍して筑波大学に運ぶ。
脳下垂体は親指の先程で、薄い栗皮みたいな皮を被っている。冷凍の脳下垂体を少し溶かし、皮をメスで
剥く仕事からはじめた。朝9時からホルモン屋を開業したようになった。若い学生に30分早起きしたら世
界に誇る仕事ができる、と言って早朝作業を始めた。脳下垂体の皮を剥き、凍結乾燥して、インスタントコーヒー
の粉(50kg)のようにする。より分ける技術があったので、材料さえ集まれば必ず捕まると固く信じていた。
しかし、客観的には、捕まるかもしれない程度の状況で、本当は祈るような気持ちででした。科学にも祈り
がある。祈りが通じて、脳の黒幕レニンが存在する決定的証拠を掴むことができた。当時は名もない研究
室が、この分野で最注目の黒幕レニンを突き止めた。その晩は嬉しくて寝られない。研究者の給料は安い、
超過勤務手当もない。こんな感動に出会えるからこそ、遅くまで大学に残っている。
しかし、この研究はすぐに大きな壁にぶつかる。3万5千個の脳下垂体から、純品は0.5mgしかとれない。
朝から晩まで牛の脳の皮を剥き何ぞ、アホなことは誰もやらない。アホがこの研究の決め手。最後までアホ
はだめだが、「あいつはアホやな」ということもやらないとだめな事もある。「どれ位で正体解明できます
か?」、「最低50mgが必要」、0.5mg の100倍です。すると、「先生、何十年間、皮ばかり剥くのですか?」
牛の黒幕レニンと人のレニンは違う。だから、悪口を言う人は「頑張っても、研究成果は牛の高血圧は治せ
ても、人は直せない」と言う。
人の材料を何千万か集めるのは絶対不可能。大きな壁にぶつかり、「アメリカへ行って遊んでくる」と言っ
て、アメリカの大学を回り解決策を捜した。ある大学で、すごいニュースを聞いた。人ホルモンとか、人酵素を
大腸菌で作れるという話です。「えっー!本当ですか!」。遺伝子工学の幕開けです。私は人のレニンを
大腸菌で作ろうと直ちに決心して、日本へ帰ってきた。
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全く新しい分野に飛び込んですぐに、とんでもないところに手を出したということが判った。人の酵素を
大腸菌で作るには、その前に人の酵素の遺伝子をとってこなければならない。これが難しい。
それで、この世界の強豪と競争が始まった。人は難しいから、先ずネズミのレニン遺伝子で研究を始めた。
ネズミでも難しい。3∼4万の中から1個の遺伝子を見つけ出すのだが、なかなか難しい。
頑張りやの若い人が、部屋へ飛んで来て「先生、ネズミの遺伝子が捕まった」。研究室がワァー沸いた。遺
伝子が捕まり、ゴールがはっきり見えた。「よっしゃ」と皆で手分けして暗号を読み出した。10日程後で、一
番頑張った人が夜中に私の自宅へ電話をかけてきた。「先生、負けた」。今日着いた雑誌に、[ヨーロッパ
のグループが全く同じ方法で、ネズミのレニン遺伝子を捕まえ、全遺伝子暗号の解読成功]が掲載された。
緒戦で完敗。研究は最初にやったのかに値打ちがあり、二、三番手は「はいご苦労さん。またどうぞ」。
銀・銅メダルは無い。タッチの差も、その他大勢です。「皆を勇気付けよう」、「確かに負けた。しかし、相手
は、バイオの横綱:パリのパスツール研究所である。日本の隣の xx 大学に負けたのなら腹も立つが、パス
ツールではしょうがない。ネズミの遺伝子で、ネズミの高血圧を治しても仕方ない。人の高血圧を治療は、
人の遺伝子のレニンがいる」、研究をネズミから人に切り替えた。
人はネズミよりもはるかに難しい、材料が入手できない。いくらやってもうまくいかないので、敵状視察に
パリに行った。はほめ殺しで「おめでとう!すごい!高血圧の黒幕の遺伝子を捕まえ、暗号解読した!」、
「所でお前さんのところは、ネズミから人に変わった?」と聞いたら、「変わっている」と言われた。
医学世界は、動物実験で成功したら人の実験になる。ここが本命。私は平身低頭、頭を下げ、「すまんけ
ど、どこまで進んだ?ちょっと内緒で教えて?」と、彼は微笑んで「実は先週、人の遺伝子を捕まえた」、「後
は暗号解読だけで終わる。お前の所は?と聞くので「ネズミで負けたから人で挽回しようと、頑張ってるが、
遺伝子が捕まらない」というと、「どんなスタッフか」と聞くので、手の内を全部明かした。
彼は気の毒そうな顔で、「このままでは、ネズミで負けて、人でも負けるな」といたく同情してくれ、無理だ
からあきらめろと言う。人をあきらめてどうしたらよいのかと聞くと、猿に変われと言う。負けたと思い、ドイツの
ハイデルベル大学まで行った。ここで「アメリカのハーバード大学が人の遺伝子を捕まえた」という悪いニュー
スを聞いた。2回戦も終わった。「しかし、つくばに帰れない!人の負けから猿に変わろうとは言えない」、こ
ういうときはビールでも飲まないと眠れないと思い、ビールを飲んで寝た。
そこで、不思議なことが起こった。京都大学のある先生が、偶然入ってきた。当時から遺伝子暗号解読
で世界トップグループを走っていた先生が偶然に入ってきた。「先生、聞いてください。実は私どもは世界
の横綱に決定的な差をつけられた。どう考えても挽回ができない」と、「そうか!気の毒に!最初から話し
てください」と言うので、私は 1 時間程話した。
すると、この先生の目がだんだん変わってきました。「勝負はまだついていない!」と言う。「人の遺伝子
を9割9分解読しても、最後の1分が難しい。ここで、猿に変えてどうする!」[そんなことをしたら今までの苦
労が全部消える。医学は人を治すことが大切です]と言われた。
2人ともビールが効いて、非常にハイになり、「外国野郎に負けてたまるか」です。ナイトサイエンスにはビ
ールもお酒も必要なのです。この先生がまた不思議なことを言う。「よかったら、自分が後ろに回って全面
的に応援する。もう一度日本でやろう」と!私たちは、できれば皆金メダルが欲しい。大きな声では言え無
いが、人の研究の足を引っ張るのは沢山いるが、人様を助けてやろうなどという人はめったにいない。
そこで、私は不思議な気がしました。「これは勝てるな」。なぜか。天の味方がついたと、考えました。
天の味方ということを昼の科学ではいくら考えてもわからない。夜の科学ではすごくわかる。夜の科学で
大切なのは、感性とか直感とか霊感まである。これはあまり言うと、私たちの値打ちにかかわりますので。
昼間は理屈だけを言っているが、実は、大発見の目はみんなナイトサイエンスからなのです。
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この前、物理の小柴先生に会った。「物理もやっぱり山勘やナ!」 山勘だけではノーベル賞は獲れ無
いが、大きな発見は、ある時から常識を超える。常識を超える時は、理性と知性ではない。「これはいける」
「面白い」「止められない」などという感性、直感みたいなものが必要です。
私は、天の味方がついたと感じた。私たちは、生まれて間もない筑波大学を世界の一流大学にしようとい
う大きな夢がある。日本の一流も大変だが、科学の世界では、日本一はあまり威張れない。いつの日にか
世界に通用する大学にする。そのためには立派な学生を卒業させること、立派な研究をすることです。
研究室に[世界に通じる研究を3年以内に出す]というスローガンを揚げ、毎日見ながら研究室に入った。
もう1つありがたいことは、この研究で高血圧の原因を突き止めると、世界中に何億人と高血圧で困って
いる人たちに役立つので、私たちは燃えた。このけなげな姿を天から見られたなと直感した。
そこで、私は変身!それまではハーバード、パスツールには到底かなわないと思っていたが、それは地上
世界の話。当時の実力を比較すれば、天下の横綱と前頭もかなり下ので、10番相撲をとったら、実力勝負
ならば9番は負ける。天の味方が付いて、急に偉くなった。飛んで帰り、3ヵ月後に、人レニンの全遺伝子
暗号の解読に世界で最初に成功した。感動!逆転満塁ホームラン!
6. 【 Great な働きが自然界にはある 】
研究人生も何度か勝負という時がある。勝負に掛け、天の見方が付いて、最後に遺伝子の暗号解読をし
たのは、無論、私でなく 25、6歳の大学院生です。遺伝子が捕まり、ゴールははっきり見えた。必ずゴール
に近づくと、世界の強豪が先を走っている。追いつくには、時間勝負。最後は皆下宿に帰らずに寝袋で研
究室の中で寝泊りを始めた。そして、睡眠時間を削って、遺伝子暗号の解読に成功した。
なぜそんなことができるのか? 毎日、新しいデータが出てくると感動する。そして、自分たちはひょっとし
たらある瞬間に世界のトップに立つ、そんなラッキーなことは人生にそう何度も起こらない。天の味方は公
平で、ある人を特別ひいきするわけがない。こういう段階に入ると普通の学生が変身する。私が、感動が遺
伝子スイッチONにすると言うのは、このときの体験にもよる。しかし、現実は、カッコいいことは少なく、負け
たことのほうが圧倒的に多い。 時間の関係で負けた話しは省略。皆さんは、ハーバードもつくばも、どっちで
もいい。 もう一度遺伝子の話に戻る。ここから先が大事な話し!
人の遺伝子暗号が解読できた。稲の遺伝子暗号も解読できた。人間が人間の遺伝子暗号を解読した
のだから、すごいことです。
しかし、私は不思議なことに気がいた。バイオテクノロジーもコンピュータも確かにすごいが、もっとすごいことがあ
ったと気付いた。当たり前の事だが、読む前にすでに情報が遺伝子に書き込んであったということです。
書いた人と読んだ人とどちらが偉い?書いた人が偉いに決まっている、これを書いたのは誰?人間が人
間の遺伝子暗号を書けるわけがない。でたらめか?そんなはずは無い。人の遺伝子暗号は、30億の化
学の文字(塩基)で書いてある。これをゲノムと言う。父さんから1ゲノム、母さんから1ゲノムもらう。
この30億の文字は、大百科事典3千冊分の情報がある。それが、細胞の、中の、核の中の、染色体に入
っている。万巻書物の情報が、1gの何分の1に入っている。 1gの2千億分の1!アンビリーバブル!極微の
空間に万巻書物を書き込んで、これを間違いなく動かしているのは一体誰?人間ではない!
人間でない、すごい力を発揮するのは誰だ?人間を超える神様、仏様が居ても不思議はないなと思う。
しかし、科学者が神仏を言うとと、あいつはあれで終わったと言われる。 これは、正しくないですね!
私はアメリカに10年居て、一流の科学者に何人も会った。彼らも昼間は言わないが、夜になると不思議だ!
と言う。何でこんな不思議なことが起こる?遺伝子DNA構造の発見は、スーパーノーベル賞です。
しかし、発見する前に法則があり、理にかない調和している。誰が作った?そこに科学者は踏み込めな
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い。ここは論文にならない。論文が書けないと生活できないので、論文に書ける問題だけをやってい。
私は、10年程前から『Something Great』という言葉を使う。解らないが、Great な働きが自然界にある。
神仏を別にすれば、遺伝子暗号は、自然が書いたとしか言いようがない。自然はどうしてこれを書いた?
山とか川とか月は、遺伝子暗号を書かない。目に見えないが、不思議な働きをする自然があるはずです。
本当に大切なものは目に見えない、命、心は目に見えない。この不思議な働きが目に見えない。
私たちは、目に見えるものだけを問題にしているが、目に見えない世界『Something Great』がある。
少なくとも私は遺伝子暗号を読みながらそう感じた。Something Great は、人類の永遠のテーマで、人間の
力だけではわからない。しかし、それでは困るので、簡単な定義をする。
私には両親があり、両親には両親があった。 間違いない!子供は親なしでは生まれない。
命の元=親をさかのぼると、それが石ころであるわけがい。全ての生物を創り、遺伝子暗号を書き、今を謳歌
している、その主体が石ころであるわけがない。良く分からないが、生命の元の、親のようなものと思う。
そう考えると、私たちが生きていることは、すごいことになる。全世界の科学者が集っても、世界の富を全
部集めても、細胞 1 つ作れない。大腸菌が何んで生きているか基本的な仕組みも、まだ手も足も出ない。
あまり言うと、私の値打ちにかかわるので、昼間はわかったことだけを講義する。
大腸菌は何で生きている?死んだ大腸菌と生きている大腸菌で何が物質レベルで違う?判っていない。
現代の生命科学がだめなでなく、生きていることが細胞1個でも、いかにすごいことかということです。
人間は60兆の細胞が寄って生きている。細胞には 1 つ 1 つ命がある。地球人口が60数億人。60兆は、
想像ができない。私たち1人の身体の中に、地球人口の1万倍の命が詰まっている。喧嘩もせずに毎日
見事に生きている。細胞は、自分のコピーを作り、自分を生かして、他の細胞を助けている。
たくさんの細胞が助け合って臓器の働きをする。臓器が助け合って私たちは生きている。こんな見事な
ことが遺伝子に書いて。こんな見事なことがでたらめにできるわけがない。書いてあるから、心臓は一生ポ
ンプ作業を続ける。ここまではわかるが、その先がわからない。この遺伝子の情報を書いたのが誰か、わか
らない。人間が生きているというのはただ事ではないのです。
私たちは生きていることを当たり前だと思っている。当たり前だとか文句を言いながら生きている。人間
は子供を作ると言うが、私は前から『傲慢ですよ!』と言う。人間は、細胞 1 つゼロから作れない。その人間
が人間の力だけで赤ちゃんができるわけがない。
私も受精卵を作るところを協力する。しかし、1個の受精卵で、10月10日:38週間で、何十兆個の細胞の
赤ちゃんが生まれる。プログラムを書いたのは両親ではない。わずか 38 週の間に胎児は生物の進化のド
ラマを再現しながら赤ちゃんになっていく。始めは、魚類のような時もある、両生類、爬虫類、哺乳類を経て、
人間の赤ちゃんになっていくのです。
38億年の生物進化の歴史を、わずか38週で駆け抜ける。ものすごい!お母さんの1週間は胎児の1億
年に相当する。お母さんが1日酔っ払うと、胎児は1千400万年間酔っ払いになる。アルコールは胎盤を
通過するので、お母さんが酔っ払うと胎児も酔っ払う。
お母さんのお腹で起こるドラマは、決して人間の力や努力やそんなものでない。 人間は、ジャスト・ヘルプ!
赤ちゃんは、地球生命38億歳です! 人の命が尊い訳です。
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7. 【21世紀は、科学者が Something Great を語る必要がある 】
この手の話をすると、際限ないので、これぐらいにします。最後に遺伝子スイッチ ON/OFF に移る。
『あなたの想いが遺伝子の働きを変える』と言ってきた。その想いを2つに分ける。よい思い/楽しい/嬉
しい/喜ぶ/感動/生き生き/わくわく、よい想いは良い遺伝子スイッチONする。悪い思い/悩みと/苦しみ
/いじめ、悪い想いは悪い遺伝子スイッチONする。私はこれからそれを科学の言葉で証明してゆく。
その突破口が、笑いで開けそうだということで、笑いの研究に大変期待している。
しかし、最近、私の理論があてはまらないケースに遭遇した。横田めぐみさんの両親に会った。
それから、報道特集:「ただいまを聞くまで、母、横田早紀江の祈り」という素晴らしい番組があった。
これを見て、感動したが、感動するだけでなく、私の理論があてはまらない。横田めぐみさんの両親は、非
常に悪いストレスが入った。28年も前に娘が突然行方不明になり、どうなったか判らない。悪い遺伝子スイ
ッチ ON になり、身体が悪くなってもしょうがないと思われる。そういう時もがあったと仰っていた。
しかし、あのご両親、特にお母さんは凄い。娘は絶対死んでいないという祈りに近い信念がある。お骨を
見せられても、陽気な娘が自殺するはずがない。そして、私が特に感動したのは、自分の命に変えても、
娘を取り戻したいと言う、そういうけなげな心だけでなく、この事件をきっかけに、日本の国を凛とした国に
したいのです。正義の通る国にしたいのです。
圧倒する、すごい迫力があった。圧倒されただけでなく、私の理論があてはまらない。あれだけ悪いストレ
スを受けながらあんなすごい人になっている! 人間はどんなに逆境にあろうと、それを乗り越えたり、受け
止めたりすることができれば、素晴らしい人に転化することができる。人間のすごさを改めて知った。
私たちの遺伝子がたくさん眠っているスイッチONにするためには、楽しい/嬉しいでもスイッチ ON に出
来るが、逆境も人間の遺伝子スイッチONにするのではないかと思う。動物では、ある程度厳しい環境にな
った時にスイッチONになるという実験報告がある。
私は科学の現場で『Something Great のすごさ』を知った。 私はこれから Something Great のメッセンジ
ャーになりたいと思っている。これまでは、Something Great のメッセージは、宗教家が担っていた。仏陀も
キリストも素晴らしいことを説いている。慈悲や愛を説いているが、なかなか戦争は収まらない。
21世紀は、科学者が命の素晴らしさ/尊さ/Something Great を語る必要があると思う。
最後に、21世紀は日本の世紀にしたいと私は思っている。日本は経済大国。科学技術も非常にレベル
が高い。しかし、私たちは、科学技術や経済力だけでは、本当の幸せは来ないと感じ出して居る。
何が大切か、私たちの豊かな心なのです。
日本には、「おかげさま」という言葉がある。「もったいない」、「いただきます」、これらは英訳できない。
「おかげさまで」と言うと、アメリカ人は「何のおかげですか?」と聞く。 何のおかげでも良い所が良いのだ。
太陽のおかげ/水のおかげ/空気のおかげ/地球のおかげ/ご先祖様のおかげ/食べ物をささげてくれる
動植物のおかげ。「おかげさま」、「いただきます」の精神で、何千年来、生きてきた。これは日本の文化の
遺伝子です。今は、ちょっとスイッチOFF状態ですが、私は日本の自然を敬い、自然と共生していく文化
の遺伝子と科学技術と経済力を持っている国は世界でも日本しかないと思っています。
だから、21世紀は日本の出番です。 そういう出番にしたいというふうに思っております。
以上
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