フランクフルト弁護士会(PDF)

フランクフルト弁護士会
訪問レポート
日時:2005 年 3 月 7 日(月)16 時~18 時 30 分
場所:フランクフルト弁護士会3階
会議室
面会者:
Herr Johann G. Knopp(フランクフルト弁護士会会長)
Herr Dr. Rudolf Lauda(フランクフルト弁護士会常務理事)
Frau Dr. Kristina Reitz
Frau Krönert-Stölting
Frau Steinbach-Rohn
(面会者は、性別を明確にするために、Herr と Frau を付す。)
<会見の要旨>
冒頭、Knopp 会長からの視察団に対する歓迎の辞に続いて、弁護士会で修習生の研修を
担当している Frau Steinbach-Rohn(弁護士)から、次のような基調報告があった。
ドイツでは、2003 年に法曹養成制度の改革が行なわれた。この改革は 2003 月 7 月 1 日
施行の「法曹養成法(Juristenausbildungsgesetz)」及び「ドイツ裁判官法(Deutsches
Richtergesetzes)」の改正によって実現したものである。その結果、重点が大きく変化した。
すなわち、2003 年までの旧来の法曹養成制度では、専ら「裁判官の養成」ということに
力点が置かれてきたのに対して、今次の改革はそれと並んで、弁護士(Rechtsanwalt)の
養成ということが大きくクローズアップされてきた。これは、長年繰り返されてきた批判、
つまり「ドイツの法曹養成制度は実態に合っていない」、との批判に対応するものである。
「実態」とは、任官する(できる)のは 15%の人間であり、残りの 85%は弁護士になる(正
確には、弁護士にしかなれない)、という現実である。
以上の理由から、今次の改革では一方では大学教育、他方では修習生の教育の双方が改
革の対象となった。その法的根拠となるものは、ヘッセン州(フランクフルト弁護士会の
所 在 す る 州 ) で は 、 2003 年 に 改 正 さ れ た 法 曹 養 成 法 ( reformiertes
Juristenausbildungsgesetz aus dem Jahre 2003)である。
同 法 に よ る と 、 学 生 は 在 学 中 に い わ ゆ る 「 キ ー ・ ク ォ リ フ ィ ケ ー シ ョ ン ( sog.
„Schlüsselqualifikationen“ )」、 例 え ば レ ト リ ッ ク 能 力 ま た は 尋 問 技 法 ( rhetorische
Fähigkeiten oder Kenntnisse in Vernehmungstechnik )、 紛 争 解 決 ま た は 仲 裁
(Konfliktlösung oder Mediation)といった能力を身に付けることになる。
旧来の第一次「国家」試験(das ehemals 1. Staatsexamen)は、ヘッセン州(司法省)
によって実施されてきたのに対して、今後は第一次試験の 30%は大学が行い、残り 70%の
部分を州が行うことになる(よって、「第一次国家試験」ではなく、「第一次試験(erstes
Staatsexamen)」と名称が改められる)。
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各 大 学 は 、 州 ほ か の 干 渉 を 受 け る こ と な く 、 如 何 な る 重 点 領 域
(Ausbildungsschwerpunkt)に特化した弁護士を養成するかについて、自由に決定する。
したがって、この「重点領域教育」は各大学によって異なるものになる。大学によっては、
「弁護士養成研究所(Institute für das Rechtsanwaltswesen)」が創設されている。経費
の一部は、ハンス・ゾルダン財団(Hans-Soldan-Stiftung)が負担している。
以上に述べた大学教育のみならず、修習制度(Referendariat)もまた、大きく変わった。
現行制度では修習期間は2ヵ年である。1年目の最初の4ヵ月が民事裁判修習(Zivilrechts
an einem Gericht)、続く4ヵ月が刑事裁判または検察修習(Referendariat bei einem
Strafgericht oder der Staatsanwaltschaft)、そして4ヵ月が行政修習(Referendariat in
der Verwaltung)である。2年目に入ると、そのうちの9ヵ月が弁護士修習(Referendariat
bei einem Anwalt)である(当日配布の<資料2>を参照)。最後は、いわゆる選択修習
(Wahlstation)と呼ばれる期間に入る。この期間に、修習生(Referendare)は各自の信
ずるところに従い、弁護士修習か、行政修習か、または高等裁判所修習を選択する(外国
での修習もあり得る)。
以上の修習の最後に、第二次国家試験(das 2. Staatsexamen)が控えている。この試験
は、論述式試験及び口述試験より成る。
9ヵ月の弁護士修習に話を戻すと、その冒頭で修習生はいわゆる「弁護士入門課程(sog.
„anwaltlicher Einführungskurs“ )」 に 参 加 す る 。 こ の 課 程 は 、 弁 護 士 会
(Rechtsanwaltskammer)が実施するものである。その内容は、当日配布の<資料4>に
詳しい。
続 い て 、 同 じ く 弁 護 士 の Frau Heide Krönert-Stölting か ら 、 ド イ ツ 弁 護 士 連 盟
(Deutscher Anwaltverein, DAV)の作成に係る「弁護士修習モデル(以下、
「DAV モデル」
という。)」に関する概説があった。同氏は、上記連盟の理事(Mitglied des Vorstandes des
DAV)である。
DAV モデルの目標は、弁護士の分離修習(eine Sonderausbildung der Rechtsanwälte)
ということである。すなわち、弁護士を裁判官とは切り離し、弁護士業に特化した形で修
習させる、というモデルである。その限りで、DAV モデルは旧来のドイツに於ける法曹養
成の考え方を根本から覆すものであり、裁判官養成を念頭に置いた一体としての法曹の養
成(Ausbildung zum Einheitsjuristen mit Orientierung am Richterberuf)の終焉という
ことを意味する。
DAV モデルは、修習生を法律事務所で修習させる傍ら、ハーゲン通信制大学での通信教
育(ein Fernstudium bei der Universität Hagen)を推奨している。修了時に、修習生は
修了証(Zertifikat)を取得し、
「弁護士としての Zusatzausbildung の課程を修了した」旨
の証明を受ける。ただし、この修了証は弁護士を開業する要件(Zulassungsvoraussetzung
für die Tätigkeit als Rechtsanwalt)ではない。上記・通信教育の費用は、2500 ユーロと
見込まれている。
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視察団との質疑応答の中で、Frau Krönert-Stälting は DAV モデルを次のように批判し
た。すなわち、分離修習によって、ドイツの法曹には2つの階級(判検事と弁護士)が形
成されるが、その結果、弁護士は裁判官との対比でその声望を失うことになるであろう、
と。したがって、Frau Krönert-Stälting は現行の一元的養成制度は維持しつつ、その中で
弁護士を希望する者には、弁護士業に特化した教育を付加するのがいいのではないか、と
述べた。
目下、8,000 人から1万人が毎年弁護士として開業している。彼らは任官もできないし、
また企業に雇い入れられることもない。その結果、現下のドイツの弁護士総数は、13 万人
に達している。これは「供給過剰」なのであって、適正規模は毎年 2,000 人程度であろう
と思われる。
最後に、やはり弁護士の Frau Dr. Kristina Reitz(ギーセン大学講師)から、報告があ
った。同氏は、ギーセン大学法学部で、学生に対して「キー・クォリフィケーション
(„Schlüsselqualifikationen“)」の授業を担当されている。
「キー・クォリフィケーション」とは、メディエーション(Mediation)、レトリック
( Rhetorik, )、 尋 問 技 法 ( Vernehmungstechnik )、 紛 争 の 仲 裁 ( Schlichtung von
Streitigkeiten )、 ロ ー ヤ リ ン グ ( anwaltliches Erstgespräch )、 面 接 技 法
(Gesprächsführung)、契約書の起案(Entwurf eines Vertrages)等々の能力である(詳
しくは、当日 Frau Dr. Reitz から配布されたペーパーの付録を参照)
。ギーセン大学におけ
る「キー・クォリフィケーション」の授業は一学期中に 20 時間である。うち、3分の1が
講義であり、残り3分の2は少人数に分かれた演習形式(Kleingruppenunterricht)で実
施されている。後者では、ケース・メソッドを採り入れ、ビデオ授業なども行なわれてい
る。学生は、ビデオを繰り返し見ながら、能力を高めることができる。さらに、学生は将
来弁護士業務に就いた際に必要となる知識を、日常の弁護士実務の事例に即して学習して
いる。目下の段階では成績評価(点数の付与)はせず、平常点による評価がなされている。
(報告:石川敏行、アンナ石川)
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