CDEJ News Letter 第 17 号 2008 年 1 月 CDEJ のための情報アップデート マグネシウム(Mg)と糖尿病の関係について 東京慈恵会医科大学准教授 横田 信 マグネシウム(Mg)が種々の疾患の病態と密接に関わることはわが国では未だ認知不足です.昔は Mg が自然に十分に摂れた食環境でしたが,食生活の“半欧米化”により摂取が困難になってしまいました.ま た食事摂取基準(推奨量)(旧栄養所要量)策定が非常に遅く,Mg 摂取の啓発が遅れた点にも問題があり ました.ごく最近の報告では 30 ─ 49 歳男性で 130mg/日以上もの Mg 不足が推定されています. Mg は必須主要ミネラル(7 種類)のひとつで,漢字で“ ”と表記します.約 350 種類の酵素,特に ATP 産生の酵素活性に必須で,また,“天然のカルシウム(Ca)拮抗薬(L&N 型 Ca チャネルブロッカー)”の異 名があるように,細胞内外の電解質バランス制御(細胞内への Ca 流入制御)も行います.さらに Mg は筋 収縮,神経興奮伝達,核酸合成など様々な物質代謝でも重要な作用を有します. ところで,近年,Mg 摂取量が多いと 2 型糖尿病発症リスクが 10 ∼ 35 %も有意に低く,メタボリックシン ドローム(MS)のリスクも 31 %低いという疫学的報告が次々と出ました.また Mg 補充がインスリン抵抗 性と血糖コントロールを改善,降圧や抗脂質効果も示され,WHO(2006 年)の最終報告でも Mg 補充によ る 2 型糖尿病における有用性と,低 Mg 血症と MS の密接な関係が明記されました. 2 型糖尿病の発症要因に脂肪摂取量の増加と肥満が従来から指摘され,このことは周知の事実ですが,1 日平均エネルギー摂取量はむしろ減少傾向です.その一方で注目すべきことは,わが国において糖尿病有病 率の激増し始めた時点が穀類(Mg が豊富な大麦・ % 脂 穀 雑穀等)摂取量の激減した時点とほぼ一致すること 肪 類 20 です(図 1). Kcal g g 18 何らかの原因で生じたインスリン抵抗性に対し代 75 16 糖 平均エネルギー摂取量 穀類摂取量 50 尿 償するインスリン分泌能があれば,耐糖能は正常に ∼ (大麦・雑穀等) 2200 14 病 保たれますが,日本人は元々農耕民族でインスリン 12 有 分泌能が欧米人に比べて弱く分泌の代償不全を起こ 50 病 30 10 率 し易く,糖尿病になり易いと考えられています. 脂肪摂取量 8 2000 しかしインスリン抵抗性の要因のひとつに慢性的 6 25 Mg 摂取不足が関与するという上記の報告から,日 4 本人は小太りでも糖尿病を発症し易いことが説明可 糖尿病有病率 2 10 能と考えられます.これが“マグネシウム仮説” 20 0 1800 (図 2)です. 55 60 65 70 75 80 85 92 1950 97 2002 日頃の食生活で Mg を多く含む食品(*)を意識 図 1 わが国における戦後の 2 型糖尿病有病率と生活環 して摂る,脂肪分と塩分の摂取を極力控えてかつ運 境の推移 動習慣を持つことが大切です.特に肉類,牛乳,乳 製品の多い欧米化の食事は Mg が不足しやすく,ま た Ca の過剰摂取は Mg の吸収阻害を招きやすくなり 遺伝的因子 食生活の“半欧米化” :穀類・ + ます.また Ca と Mg の摂取比は出来るだけ小さくす 野菜 ・ 海産物摂取不足, 環境因子 = ることが望ましく,伝統的日本型の食事(和食)が 高脂肪食 Mg不足 おすすめです.特に Mg の不足を招きやすい人(ス 運 動 不 足 トレスの多い人,利尿剤を服用している人,牛乳や インスリン分泌低下 肉類の好きな人)は要注意で,栄養指導する際は十 インスリン 内臓 (初期分泌能低下・分泌遅延) 抵抗性 分に留意が必要です.米国では既に Mg 不足による 脂肪蓄積型 肥満 インスリン抵抗性を意識した糖尿病患者の栄養指導 インスリン作用不足 がなされており,日本でも日頃の栄養指導に十分な 耐糖能異常 インスリン分泌 Mg 摂取を意識した食育がなされることを切に望み 代償不全 加齢+ストレスなど ます. *側のひ孫と孫は優しい子かい?納得!(そば,のり, ひじき,豆,五穀,豆腐,マカデミアンナッツ,胡麻, わかめ,野菜,魚,椎茸,ココア,牡蠣,芋,納豆, 果物等) ―9― の環境因子 2型糖尿病発症 図 2 日本人 2 型糖尿病発症と Mg の関係(マグネシウ ム仮説) 情 報 ア ッ プ デ ー ト
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