ナバックレター 養豚版Vol.93

ナバックレター 養豚版 Vol.93
ストレス関連問題をミネラルの給与で改善
Edi Vianello, Ina Lowin, Dr Elisabeth Holl, Dr Eckel GmbH,
Im Stiefelfeld 10, 56651 Niederzissen, Germany
栄養バランスの
不均衡
います。集約生産システムは家畜に多くのストレスを引き起こし、
ト
ス
代謝
モ
脂肪分解
マグネシウム
欠乏
心血管系疾患
カリウムを別にすると、マグネシウムは細胞中の最も重要なミネラ
闘争
血栓
細胞内
ます。
不安
レス
ウム)や微量元素の給与もストレス症状の緩和に大きな役割を果たし
ホル
ト
ト
レス
ス
制するには、飼養管理も重要な因子ですが、ミネラル(特にマグネシ
レ
ン
過剰供給
(Ca・P・Na)
または
供給不足
(N・Mg・Cl・K)
症候群および肉質の低下となって現れます。ストレスを最小限に抑
的
その影響は闘争、尾かじり、共食い、輸送中の事故率上昇、突然死
マグネシウム
攻撃性
欠乏
精
神
畜舎移動
ス
ス
現在、農業における家畜の生産成績への要求度が非常に高くなって
脂肪酸
尾かじり
はなく、また貯蔵量も年齢と共に減少していきます。マグネシウム
は骨格系の構造的な構成要素であるだけでなく、300 を超える酵素
レ
ト
共食い
骨に貯蔵されているマグネシウムのすべてが生体利用可能なわけで
ス
ス
ト
レスホルモ
細胞膜損傷
ン
レ
1% 前後が体液中に存在しています。
ス
的
暑熱/寒冷
ト
分娩
身体
ネシウムの約 60% が骨に貯蔵され、40% が軟部組織に移行し、約
照明
過密飼育
ス
ル成分の一つで、体重の約 0.04% を占めています。動物では、マグ
ス
血漿
環
境 畜舎環境管理
騒音、動揺
図 1 ストレスとマグネシウム
(1997 年 Seelig の文献より改変)
反応の補因子として働き、例えば、神経細胞におけるイオン輸送や
神経と筋の興奮状態の維持、ATP の生成などの反応の触媒に関わっ
ています。従って、ATP の代謝、筋の収縮と弛緩、神経系の正常な機能と神経伝達物質の放出のすべてがマグネシウムに依存しています。
近代的家畜生産では、家畜がマグネシウム欠乏に陥ることはありません。しかし、過密飼育、畜舎の移動、輸送などの身体的および精神的なス
トレスによってマグネシウムの要求量が一時的に増加し、マグネシウムバランスの不均衡が起こる場合があります。ストレス状態では、生体内
においてストレスホルモンであるカテコラミンおよびコルチコステロイドが放出され、エネルギーを生産し、骨格筋および心筋の働きを向上さ
せるための基質の利用が増大します(図 1)。
よって、ストレス状態において飼料中のマグネシウムの供給量が不足した場合、心筋壊死や心筋症、心臓発作を起こす危険性が急速に高まります。
マグネシウム再吸収の主な場は、単胃動物では小腸、複胃動物では第一胃です。給与量が十分か否かは、配合飼料の分析値だけではなく、生体
内における利用率にも左右されます。生体内のマグネシウム量は、消化管における吸収、腎からの排泄、糞中への排泄および飼料中からの供給
量によって調節されています。
マグネシウムの供給源として家畜栄養では、無機化合物と有機化合物が利用されています。一般的に有機化合物の方が無機化合物よりも生体利
用効率に優れていますが、実際には無機化合物の酸化マグネシウムがマグネシウム源として最もよく使用されています。
酸化物の場合、その由来、加工方法(焼成温度など)および粒径によって大きな違いを示すことがあります。異なる複数の文献によって、酸化マ
グネシウムを由来とするマグネシウムの相対的利用効率は平均して 75% であることが示されているものの、酸化マグネシウムによっては由来、
組成および利用効率が非常に大きく異なることから、使用の際には慎重な検討を行う必要があります。
また、酸化マグネシウムには有機マグネシウムと比較した場合に単胃動物への使用において決定的なデメリットがあります。それは、酸化マグ
ネシウムは強力な酸緩衝剤として作用するためです。市販されている有機マグネシウム源としては、酢酸マグネシウムが一般的です。酸化マグ
ネシウムと比較した場合の酢酸マグネシウム由来のマグネシウムの相対的な生体利用効率は、約 105∼110% ですが、酢酸マグネシウムの物
理化学的性状(酢酸臭、吸湿性など)から、栄養学の専門家は酢酸マグネシウム製品に必ずしも満足しているわけでありません。
より実際的な有機マグネシウムに、フマル酸マグネシウムがあります。フマル酸マグネシウムは、フマル酸、酸化マグネシウムおよび水を反応
させて得られる生成物です。酢酸マグネシウムとは対照的に、市販のフマル酸マグネシウム製品(Dr Eckel 社の Anta Plus)は粉塵の飛散がなく、
細粒で流動性に優れています。無機物由来のマグネシウムと比べると、フマル酸マグネシウム由来のマグネシウムは、吸収率も非常に高いよう
です。
Günther および Mohme(1985 年)は、豚の生体重量 1 kg あたりフマル酸マグネシウム 1.7 g を給与することで骨格筋および心筋のマグネシ
ウム量が増加することを明らかにしました(図 2)。
1
ナバックレター 養豚版 Vol.93
0.09
フマル酸マグネシウム群では、骨格筋マグネシウム量が 9.3% 高く、
0.08
心筋マグネシウム量が 8.6% 高い結果でした。
0.07
ミネラル量(%)
酸化マグネシウムを給与した群では、対照群との差が認められず、
軟部組織中の利用可能なマグネシウム量に対するフマル酸マグネシ
ウムのこのような好ましい効果は、家畜生産におけるストレス関連
の諸問題への対策に利用することができます。
フマル酸マグネシウムの標準的な使用方法は、出荷時の移動の前の
対照飼料
フマル酸マグネシウム
酸化マグネシウム
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
豚 お よ び ブ ロ イ ラ ー の 飼 料 へ の 添 加 で す。Heugten お よ び
0.01
Frederick(2004 年)は、肥育後期の豚の飼料にマグネシウムを添
0.00
骨格筋
加すると、移動中の豚の血中ストレスホルモン濃度が低下し、豚を
心筋
図 2 豚の骨格筋および心筋におけるマグネシウム量
乾物換算(%)
(Günther and Mohme, 1985)
落ち着かせることに役立つことを示しました。
Poralla および Kohler(1989 年)は、フマル酸マグネシウムを子豚
の飼料に添加すると、豚房の移動中および移動後の子豚の行動に良
い効果があることを示しました(表 1)。
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
これらの著者によると、子豚を新しい豚房に移動した初日、個体間
の争いの発生が顕著に減少しました。フマル酸マグネシウム群では、
27 回の争いが記録されましたが、これは酸化マグネシウム群と比べ
て 50% を超える低下率でした。またフマル酸マグネシウム群では、
移動後に明らかな外傷が認められた頭数も 50% 低下しました。つま
り「ストレス管理」の向上による恩恵は、養豚家だけでなく食肉産業
や消費者も同様に受けることができます。
肉質は、出荷時の移動やと畜時の条件によって特に影響を受けやす
いものの一つです。ストレスホルモンが活性化されると、筋中に乳
対照飼料
フマル酸マグネシウム
pH
と畜後 1 時間目
酸が放出され、肉の pH が低下するため、PSE 肉(ムレ肉)の発生に
繋がります。
伝導率
と畜後 24 時間目
図 3 フマル酸マグネシウムの給与が肉質特性に
及ぼす効果(Otten et al., 1995)
Otten ら(1995 年)は、肥育後期の豚にフマル酸マグネシウムを
1.0% の濃度で添加し、肉質特性に対するその影響を試験において
調査しています(図 3)。
概して、対照飼料へのフマル酸マグネシウムの添加は、肉質に対し
闘争発生回数
て好ましい効果をもたらしました。これらの著者によると、肉色の
薄さが有意に改善し、さらに、と畜 1 時間後の pH が対照群よりも高
くなり、と畜前のストレスによる乳酸放出量が低かったことが示唆
されました。フマル酸マグネシウム群では、と畜 24 時間後の伝導率
酸化マグネシウム
フマル酸マグネシウム
1 日目
57
27
2 日目
25
9
3 日目
4
3
31
15
移動後に明らかな外傷が
認められた頭数
も低く、これらの結果はいずれも有意でした。
マグネシウムの応用がストレスに関連する家畜の栄養学的問題の改
善に役立つことは、既に複数の研究により明らかにされています。
表 1 豚房移動後の個体間の闘争発生回数
(Poralla and Kohler, 1989)
神経系並びに平滑筋線維および心筋線維の機能において中心的役割
を果たす元素であるマグネシウムの添加は、家畜に対する鎮静効果
をもたらしますが、すべてのマグネシウム源が同様に適するというわけではありません。
フマル酸マグネシウムは、利用効率が高く素晴らしい加工特性を持つ有機マグネシウム源として、ストレス関連問題への対策に役立つマグネシ
ウム添加剤であると考えることができます。フマル酸マグネシウムのさらなる応用には、反すう動物における温室効果ガス(例えばメタン)の削
減があります。よって、より一層の研究が期待されます。
これは「International Pig Topics, Vol.29, Number8」を抄訳したものです。
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