海洋科学技術 Ʒ未来 海洋科学技術 Ʒ未来

ISSN 1346-0811
2004年1月発行
隔月年6回発行
第16巻 第1号(通巻69号)
地球深部探査船「ちきゅう」
The Deep Sea Drilling Vessel
CHIKYU
2004࠰ 1・2உӭ
【表紙解説】
2004年1月発行 隔月年6回発行
第16巻 第1号(通巻69号)
編集・発行 海洋科学技術センター 横浜研究所 情報業務部 情報業務課 〒236ー0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町3173ー25 045ー778ー5350
2003年9月26日、三菱重工業長崎造船所香焼工場にて建造が進められている地球深部探査船「ちきゅう」
に、掘削デリック(やぐら)が搭載された。未明から行われたこの日の作業を見守った平 朝彦地球深部探査セ
ンター長は、「建造工程のなかで最もエキサイティングな日でした」と、無事に完了したことを喜びながら、
集まった関係者らに語った。
搭載されたデリックはオランダで製作され、3分割されたままスエズ運河を経て長崎まで搬送、香焼工場で組
み立てられた。その大きさは、高さ約92m、重さ約1,200トン。デリックを吊り上げるために、最大吊り上
げ荷重4,100トン、同高さ135mという日本最大級のクレーン船が使用された。
海洋科学技術
Ʒ未来
ૼ࠰ӭཎКȡȃǻȸǸ
2004年 海洋・地球科学の発展と大いなる夢の実現に向けて
Japan Marine Science and Technology Center
海洋国家・日本を担 う研究機関として、
海を通して人類の知 的資産に
貢献する道をめざす
2005年の完成に向けて建造が進む地球深部探査船「ちきゅう」
ෙබᅹ‫ܖ‬২ᘐǻȳǿȸྸʙᧈ
࠯᣼ ਏʍ
地球システムの解明をめざす
2
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ƜǕƸ‫ྶע‬Ʊσ‫܍‬ƠƯƍƘƨNJƷʴ᫏Ʒ൨ᢒƷȆȸȞưƢſ
たる業績を上げてきました。その意味では、
こうした恵まれた環境を活かして、私たちは
な技術力を擁しています。確かに産業・経
合うひとつのシステムなのです。そして、国内
ありがたいことです。これが大きな求心力
昨年は、ペリーがここ横須賀市の浦賀に来
世界有数の海洋国家であることは間違いあり
人類の知的資産の蓄積に貢献していくべきで
済に直結する技術も大事ですが、一方で、
をはじめ、国際的な協力関係を構築しながら
となって、世界中から研究者たちが集まっ
航してから150年目の年でした。これによ
ません。ただ、やはり海洋国家であるという
あり、それこそが、私たちが取り組むべきサ
その根底にある人類社会に貢献するために技
研究を進め、地球システムを解明することが、
てくることは間違いありません。また、こ
って、寛永年間から二百年余続いた鎖国体制
からには、それらに加えて、海洋での活動を
イエンスのひとつの大きな目標であると思い
術を活用していくことも忘れてはなりませ
海洋科学技術センターの大きな目標なのです。
れに呼応して、国内でも日本地球掘削科学
は崩れ、日本の近代化が始まるひとつの大き
通じて世界の文化・文明に貢献していくこと
ます。
ん。こうしたプロジェクトは、すぐに結果が
なきっかけとなりました。そのおよそ20年
が求められるのではないでしょうか。また、
後の1872年(明治5年)に、当時の大海洋国
コンソーシアムが設立され、日本人研究者
近年、地球環境問題が国境を越えた人類
出るものではなく、非常に長期的な取り組み
ソフトとハードの
が力を合わせて、「ちきゅう」を活用してい
そうあってほしいと私は願っています。そし
的な課題として注目されています。地球温
です。しかし、日本はそれをやるにふさわし
バランスのとれた組織に成長
こうという動きが出ています。すでに、深
家であった英国は、チャレンジャー号による
て、海洋科学技術センターが果たすべき使命
暖化などの環境変動の実態をつかみ、解明
い科学技術力と経済力を持っていると、私は
世界周航の海洋調査を実施しました。1876
も、そこにあると思います。
し、的確な将来予測を導き出し、環境問題
考えています。
ありがたいことに、海洋科学技術センター
海底の掘削による地震発生帯の包括的な理
は、国からの様々な支援もあって、ここ数年
解、地球環境変動の解明、地下生物圏の探
年までの3年半に及ぶ航海で、世界中の海の
海洋を通して人類文化に貢献することを考
への対応策を講ずるためのベースとなるデ
海洋科学技術センターは何をめざしている
で、ソフト、ハードともに、世界のトップク
査、ガスハイドレートの研究など、様々な
生物や地質などを調べまくったわけです。そ
えたとき、日本は誠に恵まれた環境にあると
ータを提供することは人類への大きな貢献
のかと聞かれたとき、私は「地球システムの
ラスに肩を並べるだけのものが整いつつあり
目的が掲げられていますが、掘削研究が本
の成果は、およそ20年かけて全20巻の『チ
いえましょう。何より、日本の周囲には、世
であろうと思います。“海を知る”というこ
解明」と答えています。気候変動や環境変動
ます。
格化すれば、おそらくいま考えている以上
ャレンジャーレポート』にまとめられ、近代
界にも稀な多様性のある海洋が広がっていま
とは、地球環境問題を理解するための大き
を解明するための取り組みは、従来から行わ
ソフト面では、フロンティア研究制度の導入
に新しい発見、人類史上初の快挙といわれ
海洋学の基礎をなすものとしていまでも研究
す。日本の沿岸を流れる黒潮は、北大西洋の
な鍵です。というのも、地球表面のおよそ7
れてきましたが、問題はそれがバラバラに行
による研究組織が、しっかりと確立したことが
るような世界的な発見があるのではないか
者らが参照するほどの立派な業績を残しまし
ガルフストリームと並ぶ世界最大級の海流で
割を占める海洋は、全地球の気候変動に大
われてきたということです。研究者が、その
あげられます。地球フロンティア、地球観測フ
と期待しています。「ちきゅう」は、すでに
た。採取した資料や標本の調査は非常に詳細
す。また、日本海はミニオーシャンと呼ばれ
きな影響を及ぼしているからです。現在の
知識・経験などを活かして行う基礎研究はも
ロンティア、固体地球統合フロンティア、極限
船体部分の工事を終え、2003年春から海
に行われており、観察された生物などが見事
るように様々な特性を持っています。また、
ところ、100年後の地球温暖化の将来予測
ちろん大事です。しかし、環境変動というよ
環境生物フロンティアの各研究システムに、
上での確認試験を行いました。現在は掘削
な絵で描かれています。ここで重要なのは、
4つのプレートの境界にある日本周辺の海底
にしても、研究モデルによって数度の差が
うな地球全体のことをテーマにする場合、個
それぞれの分野で優れた実績を持つ先生方が
機器の搭載などの艤装工事が順調に行われ
これがお金儲けのために行われたのではな
地形は非常に複雑であり、活発なプレート活
出ています。これほどの差があるということ
人的なスケールの研究ではとても間に合いま
来てくださり、その下に優秀な若手研究者が
ています。完成にはまだ時間がかかります
く、当時、世界に冠たる海洋国家であった大
動がおきています。さらに、南北に長い日本
は、まだ、本当のところは分かっていないわ
せん。また、一機関、一国でも十分というこ
集まって、すでに多くの成果をあげています。
が、サイエンスの大きな夢に向けて、道が
英帝国が、人類の知的資産の蓄積に貢献する
列島は亜寒帯から亜熱帯に位置し、海洋生物
けで、もっと精度の高い予測が必要です。
とはありません。いろいろな分野での国際協
ハード面でも、いくつかの新しい取り組
ことを目的として、この世界周航調査を行っ
も寒流系・暖流系と、バラエティに富んでい
そのためには、基礎的なデータを得るため
力が必要です。海洋は壮大な広さがあり、ま
みが進行中です。なかでも最も大きな仕事
かつて、海洋科学技術センターは、どちら
たということです。
ます。もちろん、台風や多発する地震の被害
の観測が非常に重要です。さらに、予測す
た表層から深海まで、膨大な空間が広がって
は、地球深部探査船「ちきゅう」の建造で
かというと海洋研究の装備や技術を提供し、
開かれつつあります。
今日、日本は海洋国家であるといわれてい
を受けるといった面もありますが、海洋や地
るためのモデル化、そして精度の高いシミ
います。さらに、海と大気の関係、海底下の
す。地球・海洋研究の世界で、これだけの
大学等の先生方に使っていただくといった印
ます。確かに、造船・海運・水産など、海洋
球、気候などの研究という面においては、地
ュレーションを行っていかなければなりま
活動、生態系も含めて見ていかなければなり
大規模な掘削船と研究全体のシステムが、
象が強かったと思いますが、最近は、自ら装
に関する様々な分野で、これまで日本は赫赫
理的条件にとても恵まれているといえます。
せん。幸いにして、日本は世界に誇る高度
ません。地球は、様々な循環が複雑に影響し
日本で具体化されたということは、本当に
備を活用して、優れた研究成果を出しており、
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海と地球の情報誌
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Japan Marine Science and Technology Center
南半球周航観測研究 BEAGLE 2003に向けて横浜港を出航する
海洋地球研究船「みらい」
世界最高性能を達成したスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」
燃料電池を搭載しての航行に成功した深海巡航探査機
「うらしま」
žᄂᆮᎍƸ‫ٻ‬ƖƳ‫ٹ‬ǛৼƍƯDŽƠƍŵ
ƦƠƯŴ‫ٹ‬ƷܱྵƴӼƚƯഩLjዓƚƯNjǒƍƨƍſ
札幌で開催された第23回国際測地学・地球物理学連合総会で、天皇・皇后両陛下に
センターの展示内容をご説明する平野理事長
4
研究機関としてのバランスが、非常によくな
階であり、手直ししなければいけない点もあ
いくということです。そのためには、予算を
国際深海掘削計画)も、まさにそうしたこと
ってきました。もとより、海洋科学技術セン
りますが、何よりAUVとして世界で初めて
子供でも大人でも、海が嫌いな人という
はじめ、研究体制、人員などを整えていく必
をめざして動き出したビッグプロジェクト
ターは、研究者・技術者が自らのアイデアを
燃料電池による航行に成功したことは、大き
のはそれほど多くはありません。しかし、
要があります。名称も変わりますし、内部の
です。日本が運用する地球深部探査船「ち
出しながら、研究に必要な装備や設備を開
な進展であり、私たちの抱いている夢が実現
ほとんどの日本人が好む海というのは、残
組織も整理し直して、よりスッキリした形で
きゅう」の完成はまだ先ですが、このプロ
発・建造することを重要視してきました。他
しつつあることを実感しています。
念ながら海岸までです。鎖国の歴史がそう
機能的なものになっていくでしょう。それは、
ジェクトを軌道に乗せるための準備期間と
な成果が次々に出てくるはずです。
と同じ装備、同じ技術では、よりレベルの
2003年に実施された海洋科学技術センタ
させたのか、白砂青松の浜辺を愛でる気持
管理を強化するという意味ではなく、研究が
して、今年(2004年)は非常に重要にな
高い先導的な研究を進めていくことはでき
ー の 大 き な プ ロ ジェクトに は 、B E A G L E
ちはあっても、その先は「海は広いな、大
どんどん発展していくなかで、それに合わせ
ると考えています。
ません。研究者が先に立って、自分たちで
2003があります。海洋地球研究船「みらい」
きいな」で、大海原へ乗り出していこうと
た最適な環境をつくり、合理的に活動を行っ
考えた装備を造り、他との違いを出してい
による南半球周航観測研究です。8月にオー
いうのは少数派のようです。大学の学部・
ていくということです。
くといった姿勢を、これからもより進めて
ストラリアのブリスベーンから出航し、太平洋、
学科を見ても、海に関する講座というのは、
いかなければなりません。
大西洋での観測を無事に行い、現在(2004
とても少ないのです。しかし、最近の地球
テムの解明をめざすという大きな目標に変
確かに様々な制約があります。しかし、それ
海域試験が進行している自律型の深海巡航
年1月)はインド洋で観測を行っています。単
環境への関心の高まりとともに、状況が少
わりはありません。これは、ある意味では
らに縛られて、自分から縮こまってしまって
浜研究所で、POGO(全世界海洋観測のパー
探査機(AUV)である「うらしま」は、まさ
一の観測船によって、一度にこれほど大規模
しずつ変わりつつあります。海洋科学技術
エンドレスなテーマです。自分たちが暮ら
はいけません。つねに大きな夢を抱き、それ
トナーシップ)の第5回会合が開催され、世
にそうした考えのもとに開発されました。観
な海洋観測が実施されるのは世界でも初めて
センター横浜研究所には、地球情報館とい
しているこの地球について知りたいという
を機会あるごとに世に示していくことが大事
界の主要な海洋研究所のメンバーが集まり、
測船を使って大規模に行われている海洋観測
のことです。気候変動研究や海洋大循環の解
う海洋・地球科学の世界を紹介する展示施
知的な好奇心は、限りなく続くものです。
です。夢はすぐには実現しないかもしれませ
その成果が横浜宣言にまとめられました。
に替わって、高品質なデータが無人機で効率
明に進展をもたらす観測データに、世界の研
設が設置されていますが、ここにも多くの
一方、人類が地球とともに生きていくため
んが、やがて理解者が現れ、広がっていく可
世界には数多くの優れた海洋研究所があり
よく得られるようになれば、これは素晴らし
究者から高い期待が寄せられています。
来館者があり、最近は横須賀本部への見学
には、地球のことを深く理解して、自分た
能性があるはずです。「地球シミュレータ」
ます。そうしたなかで、今日、世界の海で
もちろん、体制が変わっても、地球シス
私は、いつも職員や研究者に「つねに大き
な夢を持って取り組んでほしい」と話してい
ます。研究や技術開発を進めていくうえで、
いことです。観測船の航行が困難な荒れた海
世界的な関心という点では、「地球シミュ
者も増えています。こうした機会に、海洋
ちの生活を見直していくことが必要です。
もそうした夢の実現のひとつです。かつて、
何か大きな研究が行われようとするとき、
域や海氷の下でも、AUVならば観測・調査
レータ」もその高性能が大きな注目を集めて
研究や海の面白さ、大切さを少しでも理解
そのためには、「地球にやさしく」といった
誰もができるはずはないと思うなか、夢に向
何らかの形で海洋科学技術センターにも協
を行うことができます。また、広大な海洋に
います。稼動から2年目を迎えた2003年は、
していただければと考えています。
情緒的な思いだけでなく、正確な知識や予
かって走り続けた三好甫さんをリーダーとす
力の要請がくるようになりました。つまり、
は、まだ観測データの空白域がたくさんあり
より本格的な運用が進められており、利用す
測のもとで考え、行動していかなければな
る技術者の強い信念が、世界最高性能のスー
世界で頼りにされる研究機関になりつつあ
ますが、そうした海域を無人で潜航し、自由
る研究グループの努力もあって、プログラム
世界に認められる
りません。地球は、それほど「ヤワ」なもの
パーコンピュータを実現させたのです。現在
るということです。私たちは、つねに世界
自在にアップダウンしながら観測できる
の最適化により計算の実行効率が30%、あ
研究機関をめざして
ではありませんが、人間の好き勝手を無限に
開発中の深海巡航探査機「うらしま」も同様
レベルを超えることを目標に、研究や技術
AUVが実現すれば、観測船を何隻も増やす
るいはそれ以上を記録するなど、非常に効率
受け入れてくれるわけでもありません。その
です。燃料電池を積んで、北極の海氷の下を
開発を行っていきます。この4月から独立行
より、よほど効率がよいと思います。
よく利用されています。今後、大気・海洋、
新たな体制のもとで活動が行われることにな
地球の限界を見極め、生き方を考えていくた
自律航行して北極海を横断するAUVを開発
政法人「海洋研究開発機構」として再出発
その「うらしま」が、2003年夏に燃料電
固体地球分野だけでなく、ナノ・テクノロジ
ります。だからといって、方向性や研究が大
めの、きちんとした科学的なデータを、私た
したいという、まさに夢のような話が、いま
する私達は、世界のCOEとしてさらに成長
池を搭載して航行に成功したことは、たいへ
ーやバイオなどの先進分野はもとより、いろ
きく変わるというわけではありません。各分
ちは提示していかなければなりません。
実現に向けて一歩一歩動き出しています。
していくために、充実した活動を行ってい
ん嬉しい成果のひとつでした。まだテスト段
いろな産業分野での活用においても、画期的
野で、現在やっていることをよりよく進めて
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2004年4月からは、独立行政法人として、
2003年10月にスタートしたIODP(統合
2003年11月、海洋科学技術センター横
きたいと思っています。
海と地球の情報誌
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Japan Marine Science and Technology Center
戦後、高度成長を遂げた日本は、水産・海運・造船といった伝
統的な海洋利用分野では、世界でも高い水準にあったが、先端
的な科学技術を駆使した海洋開発の分野では、欧米先進諸国に
大きく立ち遅れていた。こうした状況を改善し、産・官・学の密
接な連携のもとでこれを推進していくため、1971年に設立さ
れたのが海洋科学技術センターだった。設立当初の海中作業技
術への取り組みから、やがて深海調査技術の研究開発で大きな
成果をあげ、さらには気候変動、地震発生メカニズムの解明な
ど、幅広い海洋研究とそれらを推進するための技術開発が行わ
れるなど、常に先端技術を活用した海洋科学技術の推進に力を
尽くしてきた。そして21世紀を迎え、海洋科学技術センターは、
地球全体を視野に入れたグローバルな海洋と地球の研究に取り
組むため、地球深部探査船「ちきゅう」、深海巡航探査機「うら
しま」を開発・建造するなど、サイエンスとテクノロジーの融合
による新たなステージを開拓しようとしている。
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Japan Marine Science and Technology Center
世の中の要求に応えるべく、サイエンスを推
進してきたわけです。2つ目のファクターは、
かつて日本の景気があまりによかった時代
に、どんどんモノをつくれというわけで、の
んびり基礎研究なんかやっているヒマはない
ぞという世の中の強い要請があり、これに応
えるために、基礎研究をやる時間を非常に狭
めてしまったということがあります。そして、
3つ目のファクターは、科学と技術の両方の
軸足を持つと宣言したことで、科学者、つま
り開発した機器のユーザーがたくさんセンタ
技術と科学の融合をめざして
ら使いこなすということをやってきました。
ーに入ってきました。ユーザーというのは、
加藤 これまで『Blue Earth』の特集テー
また、ROV(遠隔操作による無人潜水機。無
つねに目の前の課題を解決するために次々に
マは、比較的サイエンス分野が多かったので
人探査機、海中ロボットともいわれる)につ
要求を出しますから、深海開発技術部(現在
すが、今回はテクノロジー分野、つまり海洋
いては、青木部長が詳細な長期計画を立てな
の海洋技術研究部)が基礎研究を重ねながら
の技術を取り上げたいと思い、みなさんに集
がら継続的に取り組み、手づくりの機器から
じっくり開発していくのを待っていられな
まっていただきました。海洋科学技術センタ
改良を重ねて現在に至っています。このよう
い。早くROVを開発してくれ、研究機材が
ーは、もともと海洋に関する技術開発からス
な継続が、今日の深海巡航探査機「うらしま」
たくさん搭載できるペイロードの大きいもの
タートしました。その後、技術開発の成果を
というAUV(自律型無人潜水機)の開発に結
をつくってくれ、今度は海底下を掘る船がほ
活かし、科学研究に重きを置くようになりま
びついているわけです。ところが、近年は、
しい、その掘削孔に入れて観測する道具もほ
した。現在では技術開発と科学研究を活動の
こうした継続した技術開発があまり行われて
しいと、次から次へと要求が出てくる。その
両輪として進んでいます。そのなかで、セン
いません。また、基礎的研究の時間も非常に
ために、海洋技術研究部が進路を見失いかけ
ターがめざす海洋科学技術とは何なのか、も
短く、いきなり機器をつくったり、応用研究
ているといった状況にあるといえます。こう
う一度、よく考えてみるべきときが来ている
を行わなければならないという状況になって
した3つのことが、現在の平野拓也理事長い
ようにも思います。これから21世紀を開拓
います。そのため、やむを得ずメーカーに開
わく「技術に戻れ」という掛け声になって出
していくにあたり、また、本年4月の独立行
発をお願いするという場合もあります。こう
ているのだと想像しています。
政法人化という組織変革の節目にわれわれは
した現状を何とかしなければいけないと思い
中西
海洋科学技術のどの分野で、どのように取り
ます。
まだ技術優先の時代でした。しかし、木下理
組んでいけばよいのでしょうか。また、新年
加藤 基礎的研究を地道に行ったり、長期間
事からお話があったように、技術だけではダ
号ということもありますので、未来に向けた
かけてひとつのテーマを追い求めていくとい
メだということで科学研究に力を入れようと
海洋科学技術の夢などもお話しいただきたい
ったことができなくなった、時間的な余裕が
して、それが今日のフロンティア研究システ
と思います。まずは、センターの技術の歴史
なくなったというのは、研究側のニーズにす
ムという素晴らしい成果に結びついたのも確
にいちばんお詳しい中西理事に、これまでの
ぐに応えなければならない、また早く成果を
かです。
先端的な科学技術を駆使した海洋開発を推進するために創設された海洋科
技術開発についてうかがいたいのですが。
挙げなければならないという世の中のニーズ
木下 当時、海洋科学技術センターの監督官
学技術センターは、深海調査技術の開発から、より幅広い海洋・地球研究
中西 これまでの歴史を振り返ったとき、セ
が関係しているような気もします。そのあた
庁であった旧科学技術庁は、当然ながら技術
のための技術開発へ、時代の流れとともに、その活動分野を拡大してきた。
ンターが行ってきた技術開発の重要なポイン
りについて、ユーザー側というか、サイエン
中心で進んでいましたから、サイエンティス
また、当初の技術を中心とした活動から、次第に科学研究分野でも充実し
トは、基礎的分野について、じっくり取り組
ティストの立場から、木下理事にお話しいた
トは外にいるものという認識もありました
た成果を挙げ、技術と科学のバランスの取れた研究機関として発展を続け
んできたことと、ひとつの技術研究を問題点
だきたいのですが。
ね。一方、私は90年代半ばまで大学におり
ている。そうしたなか、今回は海洋科学技術センターが、設立以来取り組
の解明と開発を重ねながら長期間にわたって
木下 この問題は単純ではありませんが、大
ましたが、実をいえば、海洋科学技術センタ
んでいる技術分野にスポットを当て、これまでの成果、そして、今後の海
継続してきたことです。たとえば、音響測位
きく3つのファクターがあると思います。ひ
ーに技術があるから、それを使った研究はあ
洋開発、海洋・地球研究の豊かな未来のために技術部門が果たしていくべ
装置(電波が使えない海中で、音波を使用し
とつは1990年代に、「海洋科学技術センタ
ちらに任せておけばいいという思いが確かに
き役割、開拓していくべき方向性などについて、語り合ってもらった。
て位置を正確に測るシステム)にしても、た
ーは技術だけではないか、そんなにモノばか
ありました。同時に、センターが次々に開発
だ欧米で開発された機器を導入するだけでは
りつくってどうするのか」といった批判があ
するものすごいハードウェアを見て、あれは
なく、その構造を徹底的に調べ、さらに自分
り、これに対して、当時の石塚貢理事長
とてもわれわれに扱える道具ではない、セン
たちで海域実験などを行い、どのようなトラ
(1992∼1997年在任)は「技術と科学の2
ター独自のものだという気持ちもありまし
中西俊之 理事×木下 肇 理事×青木太郎 海洋技術研究部長
司会:加藤美志彦 情報業務部長
ブルがおきやすいかまでしっかり把握してか
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本の軸足を持つ」ことを決意表明しました。
1980年代から90年代初頭までは、
た。大学とセンターとの間に大きなギャップ
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Japan Marine Science and Technology Center
中西 俊之 理事
1934年生まれ。 61年に東北大学大学院工
学研究科電気及び通信工学専攻修士課程修
了。工学博士。防衛庁技術研究本部を経て、
76年に海洋科学技術センター海洋開発技術
部研究副主幹。後に海洋開発研究部長、海
洋研究部長、技術相談役などを歴任し、
2003年10月から理事。専門は水中音響学。
10
を持っていなければなりませんし、これまで
ターのなかに、本当に先進的な仕事をしたい
がパソコンを持つようになり、インターネッ
求められなかった創造力が必要になってきて
人たちを集めて、横断的なソフトを考えるグ
トで結ばれ、今では当たり前のようにパソコ
います。現在、私を含めてセンターの海洋技
ループ、あるいは懇談会をつくることから始
ンを使っています。世の中はどんどん進歩し、
術の研究者は15名くらいしかいません。お
めていかなければなりません。
仕事の仕方も急速に変化しています。この勢
そらく、センター全体の研究者の1割にも満
加藤 2004年4月からセンターの体制が、
いはまだまだ続きます。今はまだわれわれが
たないと思いますが、これは欧米先進諸国の
独立行政法人として大きく変わるわけです
使っているマイコンは32ビットですが、も
海洋研究所と比較してもすごく少ないはずで
が、そのときに技術をどのように育てていく
う64ビットが出始めて、あっという間に
す。そのため、ある意味で日本の産業界・工
か、おそらく青木部長は、夜も寝ないで考え
128ビットが出てくるでしょう。こうなる
業界を頼りにしながらやってきた部分もあり
ていると思うのですが(笑)。
ました。しかし、そこにもお手本はありませ
青木 木下理事がいわれたように、これから
んから、やはり今後は、自分たちで考えてい
欧米諸国と伍してやっていくには、技術陣だ
かなければなりません。その意味でも、これ
けでなく、サイエンティストが何を求めている
からはひとり一人の能力というものが本当に
のかというはっきりとした要望が必要です。
求められる時代になると思います。
サイエンティストにも創造力がなければいけ
加藤 ある新聞に、スポーツの世界でシンク
と、モノの制御も進化し、現在は遠隔操縦で
青木 太郎 部長
1947年生まれ。 72年に電気通信大学電気
通信学部通信工学科卒業。 81年に海洋科学
技術センター海洋利用技術部へ。深海開発
技術部研究主幹、海洋技術研究部研究主幹
などを歴任し、2003年9月から海洋技術研
究部長。専門は電子工学。
しかないROVも、やがては自動制御をふん
深海巡航探査機「うらしま」に搭載した燃
料電池の振動試験の様子
だんに取り入れた、まさにロボットに近いも
のになっていくだろうと思います。観測機器
特に気候変動の分野では、地球の心臓部であ
にしても、小さなマイコンがたくさん使われ
る北極海をしっかり調べていきたい。そのた
ています。これも電子技術の進歩とともに進
めに、AUVの先進化、インテリジェンシー
ないと思います。それをわれわれが取り入れ
展し、これからももっと高性能な観測機器が
化に加えて、観測もしっかりやってほしいの
ロナイズドスイミングや体操のような採点
ながら、話し合って考えを融合させて、技術的
つくられていくはずです。こうした自動化と
です。できれば海水そのものも取ってほしい
があったのです。それを感じて、内田勇夫理
競技では、外国にお手本があるうちはそれを
に優れたものをつくっていくことになると思
しま」を開発中で、まだ研究者に渡せる状況
いうか、知能化は、今後、あらゆる機器にお
のですが、少なくとも海洋データ、物理デー
事長(1989∼1992年在任)、石塚理事長
目標にしてやっていけるが、一端金メダルを
います。もちろん、われわれは内部に製造所
ではありませんが、来年度以降には、科学者
いてさらに進展していくと思います。もうひ
タを、海域ごとの観測点で各深度・各時間ご
は、科学も技術もわれわれがやっていくとい
とってしまうと、途端に次が分からなくなる
を持っているわけではありませんから、今後
に一緒に参加してもらって、研究者の要望に
とつのキーになるのは、エネルギーの問題で
とに経常的に観測してほしい。できるなら、
う決意をされたのでしょう。ただ、私個人と
というシンクロの指導者の話が載っていま
も日本全体の工業力を利用していかなければ
応じた動き、つまり観測や調査の機能を持っ
す。現在のリチウムイオン電池は、銀・亜鉛
化学物質を測定するセンサーも載せてほし
しては、もう少し技術へ戻って、いちばん最
したが、これはスポーツだけでなく、技術で
なりません。ただ、どのようなものをつくって
たものにしていきたいと考えています。その
電池の約1.5倍のエネルギー密度を持ってい
い。さらに、そのデータを海底に張ったケー
初の精神を忘れないようにした方がよいので
もサイエンスでも同様で、いってみれば今日
いくかという明確な方針は、科学者と技術陣
ほかには、ケーブル式の深海底観測ネットワ
ますが、後2∼3年後には、現在の2倍のエ
ブル式のネットワークを通して転送したり、
はないかという思いを、最近は持っています。
の日本人全体が直面している問題かもしれ
が十分に話し合っておくことが重要です。
ークにも取り組んでいます。これは陸上から
ネルギー密度のリチウムイオン電池が開発さ
あるいは宇宙との連携をとって衛星通信で送
加藤 これまでの話をお聞きになって、現在、
ません。
海底にケーブルを敷設し、そこに海底地震計
れるでしょう。このように電子技術が進歩し
って、陸上のコンピュータで即座に解析する、
まさに技術研究の最前線で指揮を取っておら
木下 アメリカを抜いて世界のトップに立っ
進歩のカギを握るのは
などを接続して観測ネットワークを構築する
て自動化が進み、より効率の高いエネルギー
そこまでできれば、夢の科学が実現すると思
れる青木部長はどのように思われますか。
た日本の自動車メーカーでは、自分たちが今
電子技術とエネルギー
もので、現在、静岡・伊豆初島沖、高知・室
が持てるようになると、現在はワンデイ・ユ
います。すでに、センターはそのためのひと
青木 これまでの歴史を振り返って、まず思
まで何をやってきたのかをもう一度見直し
加藤
戸岬沖、北海道・釧路十勝沖の3ヶ所に設置
ースの潜水調査船がもっと長時間利用できる
つひとつの要素技術は持っています。しかし、
うのは、過去30年間にわれわれがやってき
て、日本の素晴らしさは何かを考え、日本に
にどのような課題に取り組んでいるのですか。
されています。これなども国内ではセンター
ようになったり、1年で交換している観測ブ
まだひとつのシステムとしてうまく繋がって
た技術というのは、やはり欧米諸国の追従で
戻ろうということをやっているそうです。わ
青木 今、われわれは深海巡航探査機「うら
がイニシアチブをとって進めており、将来の
イが、もっと長期間使えるなど、大きく変わ
いません。そこに、技術者と科学者が融合し
あったということです。潜水船にしても、無
れわれもまったく同じで、これまで追いつけ、
研究の進展を考えると、大きな可能性を持っ
ってくるはずです。
ないと出てこないアイデアが必要になってく
人機にしても、またそのほかの機器にしても、
追い越せでやってきましたが、今はどうやっ
たシステムだと思います。
木下 確かにものすごいインパクトがありま
欧米諸国の先進的な海洋研究所が持っている
ていけばよいかが分からず、迷路に入ってい
加藤 「うらしま」の実用化を進めていく上
すが、それが近い将来実現することはすでに
ものを国内でつくってきました。言いかえれ
ます。海洋の技術は斯くあるべしというドク
でキーとなるテクノロジーは、具体的にはど
予想されており、サイエンティストの先鋭部
ば、お手本があった時代です。サイエンティ
トリンがないわけです。これを乗り越えるに
のようなものがありますか。
隊はさらに高い要求を出しています。たとえ
ストが求める道具をゼロから創造したのでは
は、地球環境や地球システムをどのように理
青木 ひとつは電子技術ですね。たとえば、
ば、地球環境が今後どのように変動するのか
なく、すでに手本となるものがありましたか
解していけばよいのかという、ユーザー、つ
テレビカメラにしても、かつてはひと抱えも
という予想モデルを立てるためには、より広
ら、そこに日本人の器用さというか、戦後日
まり科学者の目と頭脳、これが技術陣と融合
ある大きなサイズでしたが、今では高い機能
域の海洋の変化を常時モニターしなければな
本の技術力の向上があって、欧米よりも優れ
しないとブレークスルーすることはできませ
を持ちながら手のひらに乗るような小さなも
りません。そのためにはAUVを使ってどん
たものをつくることができたわけです。とこ
ん。たとえば、これからの深海探査機器や計
のも開発され、無人機の観測システムにも大
どん観測していきたい。そのためにはワンデ
現在、センターの技術部門は、具体的
木下 肇 理事
1939年生まれ。 67年に東京大学大学院理
学研究科地球物理学博士課程修了。理学博
士。気象大学校助教授、千葉大学教授、東
京大学地震研究所教授などを経て、 95年に
海洋科学技術センター深海研究部長。後に
海底下深部構造フロンティア長、深海地球ド
リリング計画推進本部長を歴任し、1999年
6月から理事。専門は地球物理、地震学。
ろが、1990年代になると、有人潜水調査船
測機器がめざすものは何か、あるいは海底全
きな影響を与えています。ほかにも、マイコ
イ・ユースのAUVなんて意味がないといっ
「しんかい6500」もできた、無人探査機
体に網の目を張り巡らすネットワークをどの
ンやマイクロプロセッサーの登場といった電
た高い要求がすでに出ているのです。燃料電
「かいこう」もある、では次は何が必要なの
ように構築していくか、海洋の探査と宇宙か
子技術の急速な進歩は非常に大きいと思いま
池のさらに高機能なものを開発するとか、エ
かといわれると、なかなか答えが出てこない。
らの探査の統合をどのように図るかといった
す。もう25年も前になりますが、私がセン
ネルギー効率を高めるAUVの形状や軽量化
欧米諸国に肩を並べて、これから前に出よう
非常に大きな枠組みで、しかも国民的な興味
ターに来たころはまだパソコンも普及してお
を実現するといったことも必要でしょう。現
としたときの難しさというものがあると思い
が湧くような展望を、科学者全体として出し
らず、みんなが持っていたのはせいぜい電卓
在、青木部長らが取り組んでおられるAUV
ます。その先に出るには、何より技術陣が力
ていくことが必要です。そのためには、セン
程度でした。それが10年前くらいには全員
には、ますます要求が高まっていくわけです。
Blue Earth
2004 1/2
加藤 美志彦 部長
1947年生まれ。 70年に広島大学工学部船
舶工学科卒業。 78年に海洋科学技術センタ
ー企画部工務課へ。運航部技術課長、運航
部運航課長、総務部総務課長、研究業務部
長などを歴任し、2001年4月から横浜研究
所情報業務部長。
海と地球の情報誌
11
Japan Marine Science and Technology Center
12
るのです。
それをそのままわれわれが利用できるもの
す。しかし、いずれは自動化や知能化が進み、
境を整備することも重要でしょうね。科学研
青木 少なくとも、センターにはそうした融
もありますが、一方で、音響通信や画像伝
本当にマリンロボットと呼ばれるような無人
究の分野には、現在、フロンティア研究シス
合を可能にするための技術者と科学者がい
送装置のように、われわれが独自に開発し
潜水機が開発される時代が来ると思います。
テムという、ある意味で競争しながらも開か
て、お互いに高めていける、融合できるチャ
なければならない海洋ならではの技術とい
たとえば、マニピュレータ作業を自律で行い、
れた研究の場がつくられていますが、技術部
ンスがあるわけです。今後は、これを活かし
うものもあると思います。海のなかで使う
要求された試料を自動的に採取したり、画像
門にはそうした研究システムがありません。
ていくことが求められると思います。
固有の技術ということで苦労されているの
認識して観測機器を設置するに適した海底を
センターは海洋科学だけでなく、地球科学に
木下
はどんなところですか。
見つけて設置作業を行ったり、人間が遠隔操
も取り組むなど、その研究は広範囲に広がっ
ししましたが、技術が進化することのイン
青木 たとえば、燃料電池で自動車と最も異
作しなくても自分で処理できる、そんな
ています。そうなると、技術部門もこれまで
パクトは、生命科学の分野でも非常に大き
なるのは、閉鎖空間ですべてを供給し、消費
AUVが近い将来、きっと出てくると思います。
の船舶・電子工学・機械工学だけでなく、も
いのです。常時高温で噴出している熱水噴
しなければならないということです。燃料電
加藤 そうなると、もはや有人潜水調査船は
っと広い分野の知識が必要になり、さらに深
出孔には生命の起源を語るような微生物が
池がいかにクリーンであれ、燃料からエネル
必要なくなるのでしょうか。
い技術の研究が求められるようになります。
無数に存在し、また海底火山が吹くとその
ギーを取り出した後には不純物が出ます。自
青木 いや、そういうことではなくて、やは
これから10年先の技術や研究に対応するた
なかには初期の生命の片割れが見られるこ
動車ならこれを容易に捨てることができるの
り人間がそこに行くということは重要なこと
めには、人を育てると同時に、開かれた組織、
とも分かっています。これらを常時モニタ
ですが、海中という高圧のなかに捨てるため
だと思います。
人材交流ができる組織をつくっていくことが
ーしたり、試料を採取することは、人間に
にはものすごくエネルギーを使わなければな
木下 有人の素晴らしさというのは、そこに
大切であると思います。
はとてもできません。ぜひともAUVにお任
りません。簡単には捨てられないのです。ま
人間の頭脳と感覚器官を持っていくことがで
中西 私は、技術は継続的な試行錯誤から新
せしたい。もうひとつは地震研究の分野で
た、「うらしま」の航法システムとしてリン
高度な技術が拓く
海底下7,000mを掘削することが可能です。
きるということです。人間は、ある目的を持
しいものが生み出されると思います。そのた
のインパクトです。ケーブル式観測ネット
グレーザージャイロを使用した高精度慣性航
海洋・地球科学の未来
これが運用されれば、やがてマントルに到達
って深海に行ったときも、条件に応じて様々
めにも現在の技術をしっかりと見つめなが
ワークが広範囲に敷設されれば、地震をは
法装置が搭載されていますが、これはもとも
加藤
することができるはずです。
な判断ができますから、オペレーションを切
ら、次のステップに結び付けていくというこ
じめ地球内部の活動を常時監視することが
とロケットや航空機分野で開発されたもので
「うらしま2号」による北極横断を成功させた
次の夢は、地球環境の将来を予測する計算
り替えることができます。また、人間の目は、
とを忘れてはいけません。また、技術を進め
できます。地震発生メカニズムの解明や防
す。しかし、現在この分野では人工衛星を活
いと話しておられますが、みなさんはこの先
機モデルが完成することです。私は、あと
近いところから遠距離まで、瞬時に焦点を合
ていくためには、木下理事がお話しになった
災の面でも非常に役に立ちます。こうした
用した高度な技術が開発され、慣性航法装置
10年、20年後、海洋科学技術センターの技
10年本気で取り組めばできると考えていま
わせることができますが、テレビカメラでは
ように、研究者との融合を図るということに
ことも、技術の将来像、実現させたい夢と
は要らなくなってしまったのです。しかし、
術はどのように進展しているとお考えですか。
す。現在の「地球シミュレータ」が出してい
そうはいきません。つまり、人間が行かなけ
加えて、優秀なアドバイザーに教えを請うと
してわれわれは持っています。また、こう
水中ではGPSも使えませんから、相変らず
木下 技術に関する専門的なことはみなさん
る予測モデルは、まだ十分なシミュレーショ
ればできないことは、まだたくさんあるとい
いう姿勢も必要だと思います。
した夢を実現させるためには、技術者も科
慣性航法装置に頼らなければなりません。そ
にお任せして、私は、もしも技術が発展した
ンにはなっていませんが、やがてはより高性
うのが、多くの人々の考えです。
加藤 お話をうかがって、みなさんが21世
学者も視野を広げるということが必要です。
して、その開発は誰もやってくれませんから、
ら、科学でどんなことができるかということ
能な計算機と精度の高いモデルが構築され、
中西 私が「しんかい6500」で潜航して思
紀の海洋科学技術の研究に向けて、様々な夢
そして、その前にやらなければいけないの
自分たちでやらなければなりません。このよ
をお話ししたいと思います。まずひとつ目は、
将来予測が可能になると思います。
ったことは、技術者なりに、改良しなけれ
を持って取り組んでおられることがよく分か
は、遠い目標がどこにあるのかを見据えて、
うに、世の中に優れた技術があっても、われ
地球の内部がどうなっているのかが分かると
3つ目の夢は、地球環境を予測するだけで
ばならない点や開発しなければならないこ
りました。また、その実現のために、次の世
それに向けて科学計画や技術開発計画をつ
われには使えなかったり、アンダーウォータ
いうことです。地球内部の構造については、
はなくて、巨大科学技術を用いて海をコント
とを考えていたことです。改良や開発すべ
代の人材の育成や技術の伝承にもひとかたな
くることです。そのときには、数年単位で
ーで使う場合にはひと工夫しないといけない
かなり正確に分かったようにいわれています
ロールし、災害を防ぐということです。たと
きことは現場で肌で感じるものではないで
らぬ決意をお持ちのようです。より大きな夢
しっかりとしたタイムテーブルを立て、自
ものがたくさんあります。
が、地球表面から20km以上深いところに何
えば、地球の安定した気候条件を支えている
しょうか。技術的にも現場に行ってみなけ
を実現させたいという情熱は、ぜひ後継者の
分たちはもちろん、ユーザーにもちゃんと
木下 エネルギー問題に関しては、しばらく
があるのか、まだ誰も知らないのです。実際
のは海洋の深層循環だといわれています。こ
れば分からないことがたくさんあります。
みなさん、さらには海洋・地球科学や技術開
理解してもらうことが重要です。
は抜本的な解決は難しいような気がしていま
に見るまでは、科学者のいうことが必ずしも
れが温暖化によって止まってしまうと、さら
しかし、その反面、考えなければいけない
発に関心を持つ若い人たちにも、しっかりと
中西 先ほどエネルギーの話が出ましたが、
す。何といっても、動力と通信には、物理的
正しいとは限りません。というのも、月の表
に大きな気候変動が起きるともいわれていま
のは、人間の安全性ということです。危険
受けとめていただきたいと思います。本日は
たとえば、音響測位システムのトランスポン
にどうしてもエネルギーが必要で、いくら効
面でさえ、1960年代までは、細かいホコリ
す。こうしたことを防ぐ技術というものがあ
が伴う場所はやはり無人機にせざるを得ま
どうもありがとうございました。
ダー(音響灯台)についていえば、海底に設置
率を高めても、最低必要なものは使わなけれ
で覆われていて、着陸すれば埋もれてしまう
りえるのではないかと私は考えています。技
せん。その意味では、有人機も無
して、これをより長く使うためには、エネ
ばなりませんからね。ただし、われわれはこ
などと本気で語られていました。また、地球
術が発達すれば、われわれの夢はさらに広が
人機もどちらも必要であるという
ルギーの供給ということが大きな課題にな
れまで地球が持っている巨大なエネルギーを
の内部には、硬い地殻と柔らかいマントルが
っていくはずです。人類が地球と共生してい
ことになると思います。
るわけです。エネルギーの問題が解決され
取り出して使うということを真剣に考えたこ
接するモホロビチッチ不連続面やコンラッド
くための大きな夢を描いていきたいと私は考
加藤 ところで、技術を発展させて
れば、これまで海中でできなかったことが
とがありません。たとえば、潮汐エネルギー
不連続面があるといわれていますが、それを
えています。
いくためには、今後の技術部門のあ
可能になります。高効率エネルギーの開発
や地熱エネルギー、あるいは波のエネルギー
見ようと掘削しても、あるはずのところで見
青木 AUVは Autonomous Underwater
り方も考えていかなければならない
とその供給方法の開発ということが非常に
などを活用する方法を、まじめに考える必要
つかっていません。まだ、誰も見たことがな
Vehicle の略語で、自律型無人潜水機と訳さ
と思いますが。
重要だと思います。
があるかもしれません。また、エネルギーを
いのです。このように、実際に見るまでは地
れていますが、現在のところは、まだ
青木 過去もそうでしたが、やはり
加藤
それはまさに陸上とは異なる、海洋
送る方法についても、カーボン・ナノチュー
球の内部に何があるのか分かりません。現在、
「Autonomous」は「自律」には至ってなく
これからも一層技術者に高い能力が
や深海の固有の問題といえますね。世の中
ブのような超低抵抗な電線を開発してもらう
センターで建造されている地球深部探査船
単に「無索」∼水上の母船とケーブルで結ば
求められることになると思います。
の産業技術が急速に進歩しているなかで、
という方法があります。
「ちきゅう」は、将来的には水深4,000m、
れていない∼という状況にすぎないと思いま
そのためには技術者を育てていく環
先ほどは気候変動研究についてお話
Blue Earth
2004 1/2
青木部長は、講演などで10年後には
海洋ロボット「MR-X1」が海中で作業をする様子(イメージ)
海と地球の情報誌
13
Japan Marine Science and Technology Center
「うらしま」に搭載されている燃料電池。
2kWスタック2基で、4kWの電力を得る
セパレータ
酸素
酸素
水素
燃料電池容器を
「うらしま」
に搭載するところ
水素吸蔵合金 2.8wt%を達成
冷却水
カソード電極
電解質
アノード電極
水素
セパレータ
水+酸素
単セルの構造
● 電極の構造
水素
水+熱
電流
燃料電池の基本構造。この単セル
(単電池)
を数多く直列
に配列することで高い電圧が得られる
吸蔵合金を用いた水素貯蔵・排出の試作試験
世界トップクラスの
の最新の自動採水装置も搭載されている。
た。現在、燃料電池にはいくつかの方式
効率を誇る燃料電池
これらの先進技術のなかで、何といっ
が開発されているが、「うらしま」に使
ても重要なのが動力源だ。「うらしま」
われている燃料電池は、電解質に固体高
底の調査を行う深海巡航探査機「うらし
は、2000年の組み立て完了時から、動
分子膜を用いた方式のものである。電解
ま」は、母船からのケーブルもなく、無人
力源にはリチウムイオン電池を使ってい
質膜をプラスとマイナスの2つの電極で
のまま与えられた任務を遂行する一種の
たが、2003年8月、燃料電池を搭載し
挟み、そこに水素と酸素を送り込むこと
ロボットでもある。機体に搭載されたコ
ての性能試験に成功した(深度300mま
により発電する。電解質を電極で挟み込
ンピュータの指示により航行し、広い海
で潜航)。これまでのリチウムイオン電
んだものはセルと呼ばれ、1つのセルは
洋のデータを集める。さらに、次世代機
池も優秀な電池であり、距離数百km程
乾電池1つに相当し、これで約0.8Vの電
深度3,500mまで潜り、海中及び深海
14
燃料電池収納チタン合金製容器
取材協力:
海洋科学技術センターが開発し、実用化に向けて海域試験を行
では、北極の氷の下を潜航し、北極海を
度の航行であれば、燃料電池と大きさも
圧を発生することができる。このセルが
青木 太郎 部長
っている深海巡航探査機「うらしま」が、2003年夏、世界で
横断することを目標にしている。そして、
あまり変わらない。しかし、「うらしま」
集まってスタックという大きな単位とな
海洋技術研究部
初めて燃料電池による航走に成功した。これまで「うらしま」
これらを達成するため、
「うらしま」には
の将来的な開発構想にある連続航行距離
る。1つのスタックには80個のセルが直
はリチウムイオン電池を搭載して、AUV(自律型無人潜水機)と
たくさんの先進技術が導入されている。
3,000kmとなると、燃料電池の方が格
列に配列されており、合計約64Vの電圧
しては世界でも初めてとされる深度3,518mの潜水試験に成功
主なものをあげると、まず動力源には
段にコンパクトであり、高性能な燃料電
となる。電流は約40Aなので、スタック
し、深度800mを保持しながら距離132.5kmの自律航行もな
燃料電池や燃料貯蔵に関する先進技術が
池の開発は、「うらしま」の実用化、さ
1つでおよそ2kWの電力を得ることがで
し遂げている。燃料電池の搭載によってさらにパワーアップし
用いられている。航法装置には、宇宙ロ
らには次世代機が挑むであろう北極航海
きる。「うらしま」には燃料電池スタッ
た「うらしま」は、2004年に距離300kmの自律航行をめざ
ケットに搭載されているシステムをさら
には欠かすことのできない動力源だ。
クが2つ積み込まれているので、4kWの
して調整が続けられている。さらに、「うらしま」の性能をより
に改良したリングレーザージャイロを採
燃料電池は、電池という名前がついて
強化した3,000kmの航行距離を持つAUV「うらしま2号」の
用。前方探査ソーナーには、超音波の反
いるものの、実際のところは発電機に近
「うらしま」に搭載されている燃料電
開発構想を進めている。これが実現すれば、無人潜水機による
射波を画像データに置き換えて映像化す
い。燃料となる水素を酸素と反応させて、
池のエネルギー効率は約50%だ。ガソ
北極海横断も夢ではない。実用化をめざして試験を続ける「う
る音響テレビカメラ、さらに画像を海上
そのときに発生する電気を取り出す仕組
リンエンジンは20数%前後、ディーゼ
らしま」、そしてAUVのさらなるフロンティアを開拓しようと
に送る音響画像伝送技術も活用されてい
みになっている。ちょうど、水の電気分
ルエンジンでも30%くらいであり、こ
する次世代機は、まさに最先端の科学技術の宝庫といえる。こ
る。また、「うらしま」は、海中を航行し
解を逆にした形だ。原理としては100年
れらの数字を比べるだけでも、動力源と
れらに搭載された、またこれから開発が進められる先進技術が
ながら様々な調査を行うことが期待され
ほど前からわかっていたが、実現には、
しては非常に効率のいいことがわかる。
どのようなものなのか、その一端を紹介していこう。
ているが、海水サンプルを採水するため
電解質の発明を待たなければならなかっ
だが、燃料電池は、理論的には80%ま
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2004 1/2
電力をつくることができる。
海と地球の情報誌
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Japan Marine Science and Technology Center
「うらしま」頭部のFRPカバー
をはずした様子
改良を重ねたリングレーザージャイロ
頭部に設置された音響テレビカメラの水槽実験。左写
真の文字が上のように可視化された
前方探査ソーナー
北極海を行く「うらしま2号」
(構想図)
。エネルギー効率の高い燃料電池を開発し、約20日間
で北極海を横断させたい
でエネルギー効率を高めることができる
圧下)に及ぶ水素が吸収される。ただし、
とされる。現在、さらに効率のいい電池
水素吸蔵合金は高圧ボンベに比べて安全
(目標は60%以上)をつくるために研究
性が高い反面、とても重いのが欠点だ。
が進められている。
将来的にはより軽くて、水素や酸素を貯
「うらしま」の音響画像伝送装置で支援母船
に送られた静止画像
蔵できる材料を探し、活用していく計画
安全性の高い水素貯蔵システム
燃料電池は、水素と酸素により発電す
がある。
そのひとつとして注目されているのが、
はGPSなども発達しており、ジャイロの
これまで紹介した様々な先進技術を搭
誤差を補うことが可能だ。しかし、海中
載した「うらしま」は、2004年に300km
では音波の灯台ともいえるトランスポン
の長距離航走をめざし、翌2005年には、
ダーなどを設置することを除けば、頼れ
海洋での採水調査や物理データの収集、
るものは今のところジャイロ以外にな
海底地形図作成のための調査など、様々
い。現在の「うらしま」に搭載されている
な分野の研究や調査に運用される予定だ。
のは、宇宙ロケットに使用されたものを
さらに、その一方で、海洋科学技術セ
改良した高性能のリングレーザージャイ
ンターでは「うらしま」の性能をより強
ロで、1時間の誤差は0.18kmと、航空
る装置であり、「うらしま」には、その
ナノ・マテリアルだ。カーボンナノチュー
燃料の水素の貯蔵にも世界トップクラス
ブ、フラーレン、ナノホーンといった、
い。また、照明を使っても遠くまで見渡
の技術が使われている。実用化に向けて
かごやチューブの形をした炭素の分子を
すことは困難だ。潜水艦などは音波の反
さらに、現在「うらしま」の航行には、
化した「うらしま2号」の開発に着手す
機のものに比べ20倍も精度が高い。し
開発が進められている燃料電池自動車で
利用したナノ・テクノロジーは、従来の素
射により、周りに何があるか探っている
支援母船「よこすか」が海上から追尾し、
る計画を持っている。「うらしま2号」が
かし、北極航行を視野に入れると、より
は、水素は350気圧に圧縮されて高圧ボ
材に見られない優れた性質によって、
が、「うらしま」には、それを発展させ
その任務を果たせるようサポートしてい
めざすのは、気候・海洋研究にとって重
精度の高いジャイロが求められる。最終
ンベに貯蔵されるが、「うらしま」では
様々な応用が可能であるとされ、大きな
て、前方を2次元の平面画像で捉える技
る。しかし、「よこすか」からは、その
要でありながら調査が困難な北極海氷下
的には、さらに誤差をもう一桁下げ(1時
水素吸蔵合金という、温度によって水素
期待が寄せられているが、水素を大量に
術が搭載されている。前方に音波を発射
位置や深度、速度などは把握できても、
を航行することだ。そのためには、
間あたり0.018km)、信頼性を向上させ
を吸ったり吐き出したりする特殊な金属
吸蔵できる能力を持つナノ・マテリアル
して、物体に反射して戻ってくる音をア
自律航行を行う無人潜水機がどのような
3,000km以上の長距離航行を実現させ
るために研究を進める。
を利用している。水素吸蔵合金を利用す
を使えば、より高効率な燃料貯蔵が実現
クリル製の音響レンズで集め、小型マイ
状況のなかを進んでいるのかは知ること
なければならない。そして、すでに動力
深度3,500mの世界でかかる約350
ると、貯蔵装置の圧力を25℃で3気圧く
できるのではないかと考えられている。
クを集積させた撮像素子に送り画像に変
ができない。そこで、「うらしま」には
源となる燃料電池のエネルギー効率向上
気圧の圧力から燃料電池などの装置を守
換する。原理はデジタルカメラと同様で
画像伝送装置が搭載され、海中から海上
へ向けての研究など、「うらしま2号」の
るためのチタン合金製の容器など、「う
あり、音響版デジタルカメラといったと
の「よこすか」に向けて、画像情報を送
開発をめざした研究は始まっている。
らしま」には様々な工夫がなされ、最先
「うらしま」が潜航する深度3,500m
ころであろうか。しかし、音は伝達スピ
ることができるようになっている。この
の深海は、太陽光の届かない暗闇の世界
ードが遅く、様々なところに反射してこ
場合も、水中のため、当然、電波は使
極域での長距離航行を可能にするための
「うらしま2号」では、さらに低温用水中
らいに保つことができる。350気圧とい
う非常に高い圧力になるボンベに比べて
値段は高くなるが、安全性を飛躍的に高
めることができる。
16
「うらしま2号」が自律航行によって北極海
を横断するには、航行距離3,000kmを実現
させなければならない
高精度ジャイロで誤差を最小限に
音で風景を見る
とだ。
高効率な動力源の開発などとともに、
端の技術が数多く詰め込まれているが、
水素吸蔵合金はステンレス製の容器に
だ。航行中には、海山や崖など、たくさ
だまのように響くため、そうしたこだま
えない。そこで、ここでも音波を利用
課題となっているのが航法システムの開
コネクタの開発などによって、低温とい
入れられ、その外側にはパイプが巡らさ
んの障害物に遭遇することも予想され
を除去し、真のデータを拾い出すという
している。音波に情報を乗せて、6∼8
発だ。海氷下の水中ではGPSも使えず、
う過酷な条件を乗り越えなければいけな
れている。このパイプに、冷水や温水を
る。そこで、それらを避けるために、音
作業が必要となる。そのため、実用化の
秒ごとに1枚の割合で鮮明な静止画像を
目印となる目標物もない。このような状
い。しかし、北極海横断の夢に向けて、
流すことにより、燃料電池に供給する水
波によって前方の様子を映し出す音響テ
難度は、デジタルカメラよりもとても高
「うらしま」から「よこすか」に送って
況下で頼りにできるのが、ジャイロなど
海洋科学技術センターの技術者たちは、
素の量がコントロールされる。「うらし
レビカメラが設置されている。水中では
い。搭載された音響テレビカメラも、ま
いる。この音響画像伝送装置の高度な技
の慣性航法装置である。現在、旅客航空
高度な技術にさらに磨きをかけて、夢の
ま」に搭載されている水素吸蔵合金は重
電波が利用できないので、航空機に使わ
だ完璧とまではいえないが、音により周
術を持っているのは海洋科学技術センタ
機で使われているシステムでは、1時間
実現をめざしている。
量700kgで、そのなかに100m3(大気
れているようなレーダーは使用できな
囲の様子が可視化できるのは画期的なこ
ーだけだ。
に約3.2kmの誤差が出てしまう。空中で
Blue Earth
2004 1/2
海と地球の情報誌
17
Japan Marine Science and Technology Center
2003年春に船体部分が完成(上)。7月からは掘
削機器の搭載が始まった。そして、9月26日に
は、工事の最大のヤマ場ともいえる掘削デリック
の取り付け作業が行われた(右3点)。
氷海を除く世界中のあらゆる海域
で、安全かつ的確に深海底下の大深度
掘削を行うという壮大な目的を達成す
るため、地球深部探査船「ちきゅう」
には、通常の船舶では考えられないほ
どの高度な技術を集積した様々なシス
テムが取り入れられている。たとえば、
大水深の海域における過酷な気象・海
象条件のもとでも、船舶の位置を正確
に保持し続ける自動定点保持システム
もそのひとつ。これは、衛星測位シス
テム、音響測位システムなどで船の位
置を正しく把握し、6基の推進装置
(アジマススラスタ)で正確に位置や
取材協力:
地球深部探査センター
三菱重工業長崎造船所
向きを制御するというもの。
来の掘削方式より深くまで掘削するこ
業が行われている。今後は、各システム
とが可能になる。
の運転調整、海上運転等を行い、2005
7,000mという大深度掘削を可能に
この掘削システムを実現するための
するライザー掘削システムも、「ちき
機器の搭載が、現在、三菱重工業長崎
船体部の建造が終わり、2003年7月からはデッキクレ
ゅう」の中核をなす高度な科学技術に
造船所香焼工場で進められている。デ
ーンをはじめとする掘削機器の搭載が行われている地球
よって開発されたシステム。ライザー
ッキクレーンやパイプラック、海中に
深部探査船「ちきゅう」に、高さ約92m(本体のみ)の掘
掘削とは、大口径のライザーパイプで
送り込むパイプを吊り上げるための掘
削デリック(やぐら)が取り付けられ、艤装工事も着々と
船と海底を結び、そのなかにドリルパ
削デリック(やぐら)が取り付けられ
進んでいる。「ちきゅう」は、水深2,500mの海底(最終
イプを通す方法。ドリルの先端から泥
たドリルフロアをはじめ、泥水関係、
目標は水深4,000m)から7,000mという大深度掘削を
水と呼ばれる特殊な液体を送り出し、
電気関係などの多くのモジュール類が
めざす、世界初の科学目的のライザー掘削船だ。実際に
削りくずを泥水と一緒にライザーパイ
すでに設置され、現在はパイプ類の連
探査が開始されれば、海洋・地球科学に大きな進展をも
プを通して船上に回収することで、従
結、電気関係の配線やこれらの確認作
年に引き渡される予定である。
掘削デリック内部にも、パイプラックをはじ
め多くの機器が取り付けられている
たらすと期待されている。
パイプをドリルフロアへ運ぶための装置
18
Blue Earth
2004 1/2
船の建造というよりプラント建設の現場のようだ
海と地球の情報誌
19
Japan Marine Science and Technology Center
榎本 剛 研究員
地球フロンティア研究システム
モデル統合化領域
2月
4月
6月
8月
気圧(hPa)
図1 海面気圧の季節進行(2,4,6,8月)
盛夏期には東西に伸びた亜熱帯高圧帯に代わり太平洋の上の高気圧が強まる。
ECMWF(ヨーロッパ中期予報センター)再解析(1979-1993)、
(以下ERA15より)
Blue Earth編集部(以下BE)受賞おめ
博士課程の途中から気象庁に月一回く
でとうございます。今回受賞されたテー
らい通っているうちに、具体的な現象に
BE
マは、いつごろから研究なさっていたの
も関心が深まり、イギリスから帰ってきて
の暑さに関連しているわけなのですか。
ですか。
博士論文を書きました。その博士論文を
榎本 今まではハドレー循環で説明され
もとにして海洋科学技術センターで作成
ることが多かったのです。熱帯・亜熱帯
大学に1年間滞在する機会がありまして、
した論文が受賞の対象になったのです。
で対流が活発になって日本付近で下降流
そのころから始めたものです。レディン
BE
になるから高気圧になり暑くなると説明
グ大学で私が指導を受けたホスキンス
教えてください。
されています。年平均ではハドレー循環
(Hoskins)教授は、数少ない亜熱帯高気
榎本 日本を含むアジア域の海面気圧を
は熱帯で暖かい空気が上って、北半球と
圧の研究者でした。気象学というのは
みると、冬から初夏には亜熱帯に高圧帯
南半球の両側で下降します。しかし両半
「嵐の科学」で、高気圧のように晴れてい
があります。この横に長く伸びる高圧帯
球ハドレー循環があるのは春と秋くらい
るところの研究はあまりしないんです。
は、「ハドレー循環」
(赤道付近で上昇し
で、8月には南半球のハドレー循環が強
もとをたどれば、修士課程の指導教官
亜熱帯で下降する大気循環)で作られて
まり北半球のハドレー循環は弱まるので
だった松田佳久先生と、当時助手をされ
いると考えられています。普段は亜熱帯
日本付近に下降流はほとんど存在してい
ていた中村尚先生の影響ですね。私は修
高圧帯が地球を一周していますが、夏に
ません(図2)。
士課程で「ロスビー波」の理論的な研究
なると海の上の高気圧が
をしていました。特に具体的な現象は考
発達していきます。夏に
えておらず、理論的・数学的な性質の研
は陸があたためられて、
究をしていたのですが、お二人から日本
比較的冷たい海の上が高
付近の夏の高気圧は季節進行のなかで起
気圧になります(図1)。
榎本
理論やモデルをもとに
盛夏期に日本を覆う
高気圧の成因を解明
きる面白い現象だと伺って興味を持ち始
めたのです。
BE
日本の8月は晴天続きで暑いのがふつうだ。これはその時期に日本付近が高気圧に覆われるためである。榎
ロスビー波というのはどういうも
それではその研究の内容について
4月
2月
て、6月に梅雨前線の南
気
圧
気
圧
にあった高気圧が8月に
(hPa)
(hPa)
榎本
が今回研究の対象にし
る大気の「波」です。パターンが移動せず
た、対流圏の上層から
の夏に暑さをもたらす高気圧は、実は遠く離れた東地中海・アラル海周辺の現象に端を発しており、太平洋
強さが伝わっていくものを「定常ロスビ
下層までつながった深
高気圧の東部とは異なる成因を持っていることを数値実験で確かめたのである。遠隔地の現象を伝播させる
ー波」といいます。この波もバネと同じ
い高気圧に変わるのだ
のはアジア・ジェットに乗った大気の波(ロスビー波)であり、榎本研究員はそのありさまを古代の歴史にち
で、地球が自転していることによって起
と思われていました。
なんで「シルクロード・パターン」と名づけた。
こる
「コリオリの力」
が復元力となります。
特に暑い夏はそれがよ
2004 1/2
気
圧
(hPa)
のなのですか。
北上して発達し、それ
Blue Earth
気
圧
日本付近は太平洋高
ちょうどバネの振動みたいに、高
で、35歳以下の若手研究者の論文に贈られる2003年日本気象学会「山本・正野論文賞」を受賞した。日本
ハドレー循環が高気圧、そして夏
(hPa)
気圧の端に当たってい
気圧になったり低気圧になったりしてい
本剛研究員はこの高気圧の特殊性に着目し、「盛夏期における小笠原高気圧の形成メカニズム」という論文
20
1999年にイギリスのレディング
く発達するのだと。
6月
8月
図2 子午面循環の季節進行(2,4,6,8月)
8月には北半球の下降流は弱まっている。東経140ー180
度平均。(ERA15データより)
海と地球の情報誌
21
■
Japan Marine Science and Technology Center
Interview 研究者・技術者に聞く
BE
7月
それがタイトルに
南風…というパターンができています
ます。さらに西アジア、
そこで目をつけたのが、上層のジェッ
(図5)。これがちょうど昔のシルクロー
東地中海域はインド・
ト気流にロスビー波が乗っているという
ドのところにあるので、この分布を「シ
モンスーンと関係して
榎本 6月に小笠原諸島
研究です。その波が日本付近で砕破する
ルクロード・パターン」と名づけました。
いるため、その関係が
あたりできるので「小笠
(つぶれる)という報告もある。さらに波
シルクロード・パターンは西アジアから
おかしくなると日本の
ある「小笠原高気圧」
なのですね。
気
圧
(hPa)
(経度)
8月
理論を探し始めたのです。
原高気圧」と呼びます。
が砕破すると偏差(ずれ)が残りますが、
日本までですが、ジェットが強ければ東
夏もおかしくなるだろ
実は「小笠原高気圧」は
上層に高気圧性の偏差があるときに日本
に伸びることもあります。平均的には日
うと推測されます。
現在では太平洋高気圧
が暑いという研究がいくつかあって、その
本付近で風が弱くなるために波のエネル
BE
の一部と見なされてい
偏差がどうやら西から来ているらしいと
ギーが蓄積するわけです。それが8月に
うのは気象にとってと
気
圧
るため、ほとんど死語
気象庁でも気がついていました。そのあ
日本付近で高気圧が発達する理由と考え
ても重要なふるまいを
(hPa)
なんです。太平洋高気圧
たりに着目して作業仮説を作って調べ始
てよいと思います。
するのですね。
ともチベット高気圧とも
めました。
そこでこの理論をもとに、東地中海・
独立した現象だというこ
(経度)
等圧面高度の東西平均からのずれ(m)
-160 -120 -80
-40
0
40
80
120 160
7月
8月
(m)
図4 チベット高気圧の季節内変動
「チベット高気圧」は200ヘクトパスカルの対流圏上部に
できる。8月にはこれが日本付近に張り出してきているよ
うに見える。カラーバーの単位は東西平均を引いた
200hPa面高度(m)。(ERA15データより)
BE 別な説明が必要になりますね。
とを強調するために、今
はあまり使われていない
図3 盛夏期における順圧的な高気圧の発達
8月になると東経135度の日本付近に上層から下層まで伸
びた深い高気圧が発達している。北緯35ー45度平均。
(ERA15データより)
モデルを使った数値実験で
仮説を検証
この名前を借りました。
従来の亜熱帯高気圧
BE その仮説とはどのようなものですか。
榎本
西風ジェットが
アラル海付近の下降流が日本の夏の高気
あるところで何かが起
圧の原因かどうか、数値実験で示してみ
こると、それはロスビ
ることにしました。
ー波によって非常に高
BE どのような実験ですか。
速に伝播されます。シ
榎本 大気が駆動されるのはどこかで熱
ルクロードの現象が日
西
太
平
洋
の
加
熱
な
し
シ
ル
ク
ロ
ー
ド
の
冷
却
な
し
ー80 ー60 ー40 ー20
0
20
40
60
80
100 120
(m)
図6 加熱の違いによる大気の応答を調べた数値実験
簡単なモデルを使った実験でも、シルクロードの冷却を取り除
くと、日本付近に夏の高気圧が発達しないことがわかる。
の教科書的説明やハド
榎本 もしもアジア・ジェット上を伝播
が出て、熱が運動に変わるからです。モ
本の高気圧になるまで
レー循環の下降域とい
するロスビー波がこの高気圧を作ってい
ンスーンで雨が降るベンガル湾や西太平
5日くらいです。離れ
う説では、日本付近の
るとすれば、上と下が同じ順圧的な構造
洋では加熱され、逆に西アジアの砂漠の
たところに影響を及ぼ
夏の高気圧の特徴であ
を説明できます。中緯度では、波を順圧
上では晴天が続くので放射冷却により冷
すので異常気象の原因になりやすく、ロ
榎本 現在、ロスビー波が伝播し、それ
る深い構造を説明でき
にしていくメカニズムがよく働くことが
えます。
スビー波と低気圧が結びついて洪水や寒
に伴って低気圧が発達していって局地的
ません。80年代に出た
知られているからです。この高気圧は熱
まず日本の高気圧の源は西太平洋にあ
波を引き起こすことがあります。2002
な災害をもたらす現象をモデルでシミュ
学説でもうまくいきま
帯の現象や熱帯から来た現象ではなく
るという説を検証するために、西太平洋
年の8月と11月にヨーロッパで洪水があ
レーションしたり、気象庁のデータを解
せんでした。最近では
て、もともと中緯度の現象なのではない
の加熱を取って駆動を止める方向に働か
りましたが、このときにも低気圧の発達
析する仕事をしたりしています。これは
地理的特徴を考慮した
かと思ったのです。また、ホスキンス・
せます。もし西太平洋説が正しければ、
を伴ったロスビー波の伝播があったので
観測とも深く結びついている研究です。
説明になってきて、た
ロドウェル説では東地中海、アラル海付
日本に高気圧ができなくなるはずです。
す。異常気象を地球全体に伝えて行くシ
とえば私の先生である
近に下降域がある。下降域がちょうどジ
もうひとつは東地中海の砂漠の冷却を取
ステムが大気の中にあるということです。
要な地点を割り出し、ロケットゾンデ
ホスキンスとそのお弟
ェットの入り口付近にあるので、そこが
ってしまう。もし日本の高気圧とシルク
今回の研究を通じて、ロスビー波の理
(遠隔操作で打ち上げる、測定機器をつ
子さんのロドウェル
ロスビー波の源になっているのではない
ロード・パターンが関係あれば、このパ
論的な研究は少なくとも現象のある側面
けた気球)など新しいテクノロジーをつ
かな、と考えました。
ターンが非常に弱くなり日本の高気圧も
を説明し、災害の予測や防止に応用でき
かって観測しようというアイディアが国
アジア・ジェットに着目すると、ちょ
できなくなるはずです。実験には長い間
るのだ思いました。
際的な枠組みのもとに現実化しつつあり
うどジェットの上に北風・南風・北風・
研究に使われてきた非常に定評のあるイ
BE 今後の研究の目標と抱負を教えてく
ます。これを「機動的観測」といいます
ギリス・レディング大学のモデルを使わ
ださい。
が、10年計画で天気予報を画期的に変
(Rodwell)が、ベンガル
湾で対流が起きると、
その西側の東地中海や
アラル海で下降域ができる。
8月の日本近辺には、対流圏の上
砂漠とモンスーンに伴う対流
層から下層まで伸びた深い高気圧が形成
活動がつながっているという
されます。このように、上と下とで同じ
榎本
22
ロスビー波とい
標
準
実
験
モデルを用いてより詳細なデータが必
せてもらいました。熱の分布に対する応
えようというものです。私は理論とシミ
答を調べました。
ュレーションで気象庁が新しい気象予測
ことを提唱しました。これを
BE その結果は?
システムを作っていくお手伝いをしたい
運動をしている鉛直構造を「順圧」とい
そのまま太平洋に適用して、
榎本 高気圧は西太平洋の加熱を取り除
と思っています。また、気候変動の研
います(図3)。夏は「チベット高気圧」と
メキシコのモンスーンが活発
いてもできますが、シルクロード上の冷
究では、「地球の温暖化によってどんな
いう200ヘクトパスカル付近の対流圏上
になると太平洋高気圧を強化
却を除去するとアジア・ジェット上の波
局地的な現象が起きるのか」という問
部にできる高気圧がありますから、今ま
するという説明をしています。
の活動が弱まり、日本付近の気圧の峰が
いに答えなければならない時期にきて
では下層では太平洋高気圧が、上層では
我々の研究には重要な説です
作られないという結果が出ました(図6)。
います。現在の異常気象の仕組みを理
チベット高気圧が張り出していると思わ
が、日本付近の高気圧の説明
離れた地域の現象が関連しているので
解していくことで、気候変動によって
れていました(図4)。しかし、私は何か
にはなっていません。なんと
独立した現象なのではないかと考えたの
か上と下が同じという順圧的
です。
な構造を説明しようと、別の
Blue Earth
2004 1/2
アジア・ジェット
200hPa面
東西風速
m/s
200hPa面
南北風速
m/s
図5 シルクロード・パターン
チベット高気圧の北にあるアジアジェットの上に、北
風―南風―北風のパターンが繰り返されている。
(ERA15データより)
す。論文で説明したのは平年の場合です
が、アジア・ジェットの状態が平年と異な
ると日本の夏がいつもと違うものになり
起きる異常気象についてより説得力の
最近は地球シミュレータを使った実験も
行っている
ある説明ができるようにしていきたい
と思います。
海と地球の情報誌
23
Japan Marine Science and Technology Center
沖縄本島のサンゴ礁の供給源?
取材協力
古島 靖夫 研究員
g
日本最大の「海の熱 帯林」、
石西礁湖の豊かな生 態系を探る
h
海洋生態・環境研究部
わが国のサンゴ礁域は、世界的な分布上、最も北限に位置する貴重
せき せい しょう
な自然環境だ。なかでも沖縄県石垣島と西表島の間に広がる「石西 礁
こ
湖」は日本最大の規模を誇るサンゴ礁海域で、約20km四方の海域に
i
400種類以上のサンゴが生息するといわれる。テーブル状に張り出し
たもの、樹木のように枝を伸ばすもの、カリフラワーやキノコ、岩の
ような形状の塊など、色も姿も異なるサンゴに魚たちが群れ、幼魚や
エビ、ウツボなどが身を潜めている。まさに「海の熱帯林」と呼ぶに
相応しい生き物の宝庫だ。
1998年、世界的な規模で起きた高水温が原因とされるサンゴの白
化現象によって、沖縄本島のサンゴは壊滅的なダメージを受けた。し
かし、石西礁湖ではその被害はわずかだった。サンゴの生育に適した
j
水温は25∼29℃あたりが最適といわれ、水温が30℃を超える期間が
長く続くと白化を招きやすい。海洋科学技術センターでは、サンゴ礁
と水温や潮流などの物理的環境要素の関係や、サンゴ礁の共生系に関
様々なサンゴ、宝石のような魚たち…。“サンゴ礁”は多様性に満ちた海の熱
する研究を継続している。その結果、水深の浅いサンゴ礁はいわば日
a
帯林だ。
c
e
向に置いた洗面器のような状態で、台風による海水の攪拌や潮の流れ
などが水温調節の大切な役割を担っていることがわかってきた。また、
石西礁湖が沖縄本島のサンゴの供給源である可能性も高く、石西礁湖
k
で生まれたサンゴの卵や幼生がどういう経路で沖縄本島までたどり着
くのかという物理的環境要素も調査中だ。
サンゴという美しく貴重な生物をとりまく地球環境の物理的な変化
が解明されることで、
「海の熱帯林」の複雑な生態系の謎がまた少し明
らかになるかもしれない。
b
d
f
石垣島
青いリボンのようなハナヒゲウツボはサンゴ
礁でよく見られる(写真 g)。ヒフキアイゴは体
の黒い斑点が目玉のようにも見えるが、模様
は個体によって異なる(写真 h)。サンゴ礁では
西表島
最も普通に見られるコモンキクメイシの上で
リュウキュウノウサンゴ(写真 a )は表面の凹
24
Blue Earth
2004 1/2
休憩中(?)のメガネゴンベ(写真 i)。オコゼ
凸が比較的小さいが、夜間には長い触手を伸ば
5月頃、クシハダミドリイシは夜中に一斉放卵す
板状の姿がユニークなイタアナサンゴモドキ
石西礁湖は沖縄本島
し隣接するサンゴを攻撃する。実はサンゴ同
るが、このように一斉放卵するサンゴは全種のう
だが、刺胞に強い毒があるので素手では触ら
に化ける(写真 j)。まさに名前通りの姿、ダイ
の南、石垣島と西表
士の熾烈な戦いも繰り広げられているのだ。
。トゲスギミドリイシは
ち約100種程度(写真c)
ないように(写真e )。タカクキクメイシのポ
ノウサンゴは灰緑色、褐色、赤褐色と色彩に
島の間に広がる。
派手な黄色はカイメンの仲間(写真 b)
。
鹿の角のように長くのびた枝が特徴(写真 d)
。
リプは菊の花のようにかわいらしい(写真 f)
。
富む(写真 k)。
やマゴチなどは擬態の名人。岩や砂そっくり
海と地球の情報誌
25
Japan Marine Science and Technology Center
地球フロンティア研究システム 気候変動予測研究領域 ‫̢࢟ޛ‬ဏ᪸؏ᧈが
アメリカ気象学会・スベルドラップ
᣿ȡȀȫǛӖច
ෙබщ‫ܖ‬Ʊൢͅщ‫ܖ‬Ў᣼ưƷ
ҢឭƠƨಅጚƕᆅƑǒǕƨ
簡潔な式「スベルドラップの関係式」
でもあった。1970年代には海の風波
を発表した。このことから海流の流量
(スモールスケール)、大循環モデル
を計る単位として使われている1スベ
(ラージスケール)、そして海に流す観
ルドラップは毎秒百万立方メートルに
測用の「スワロー・ブイ」を考案した
エルニーニョとインド洋ダイポールモ
相当する。1936年にノルウェーから
スワローなど観測関係の研究者たちが
ードの研究に加えて、山形領域長のこ
アメリカのスクリップス海洋研究所の
受賞。1980年代からはエルニーニョ
れまでの海洋力学と気候力学の研究へ
所長に招かれ、1948年に母国にもど
関連の受賞が目立つ。特に1985年受
の貢献全体に対して授与された。「海洋
るまで、米国の海洋学の創生に尽力し
賞のフィランダー、1988年受賞のオ
力学と気候力学への貢献を受賞理由に
たことでも知られている。
ブライアンは山形領域長とともにエル
入れていただいたのは嬉しいことです」
ニーニョの研究を進めた人物だ。
と語る山形領域長は、研究生活の初期
受賞者にもそうそうたる顔ぶれが並
貿易風を弱めたり逆転したりする海洋
と大気の相互作用のことだ。
今回のスベルドラップ金メダルは、
ぶ。初代(1964年)の受賞者は、スベ
山形領域長は1988年に風波の研究
に、海洋学と気象学の両方に関係する
ルドラップのあとを受けて、1948年
で受賞した光易恒氏に次いで、日本人
数理的な研究(GFD:地球流体力学)に深
に海流理論を完成させ「20世紀最大の
では二人目の受賞である。「『海流理論
い関心を持ち、海洋と気象の領域を自
海洋学者」といわれているストンメル
を作ったストンメル、ムンク、日高』
由に行き来しながら研究を行っていた。
である。スベルドラップの理論では不
といわれるように、本来なら日本の海
このころに木星の大赤斑の長寿性の説
完全だった散逸過程をうまく取り入れ
洋物理学の創始者である(故)日高孝次
明に使われている非線形波動方程式を
て、海流が大きな海の西側に流れる理
先生や、私の直接の先生で『湧昇の吉
発見し、その縁で今でも惑星や天体物
由を説明し、最初の受賞者となった。
田』といわれた(故)吉田耕造先生が受
理の流体現象を扱うジャーナルの副編
1966年に受賞したムンクは、スベル
賞していて当然なのですが」と山形領
集長を務めてもいる。
ドラップの教え子であり、散逸過程の
域長は言う。
しかし数理的研究に飽き足らなくな
1月14日開催のアメリカ気象学会第84回年次総会で、山形俊男
解釈を深めて海洋大循環理論に地球自
これまでの総合的な研究成果と取り
った山形領域長は、1981年に意を決
領域長にスベルドラップ金メダルと、同学会特別会員の栄誉が授
転との相互作用の視点を導入した。固
組み姿勢が評価された山形領域長はエ
して理論研究から現場へと転じた。日
与される。この賞は大気海洋相互作用の研究に顕著な貢献をした
体地球分野でも地球内部の回転を研究、
ルニーニョ現象の研究、そして、イン
本人研究者・真鍋淑郎氏※らの在籍する
科学者に贈られるものだ。山形氏は地球フロンティア研究システ
さらにトモグラフィー研究でも著名で
ド洋熱帯域に見られるエルニーニョと
プリンストンの地球流体研究所に、今
ム設立時より気候変動領域の領域長であり、国際太平洋研究セン
ある。同賞の二大巨頭といえよう。
よく似た現象・インド洋ダイポールモ
まで発表した論文を添えた手紙を書い
ードを発見したことで国際的に著名で
て採用されたのだ。そこで出会ったフ
ター(IPRC:ハワイ大学・海洋科学技術センターの共同プログラ
1970年受賞のブライアンは海流理
ム)のプログラムディレクターとして活躍。また東京大学大学院
論を発展させ、海洋大循環の数値モデ
ある。ちなみにエルニーニョ現象とは、
ィランダー博士らとともに熱帯の海洋
理学系研究科地球惑星科学専攻の教授として研究および後進の研
ルを作った最初の人で、山形領域長が
温かい海水が西太平洋から東太平洋に
と大気に起こる現象、つまり海側のエ
究者の教育にあたられている。受賞を期に、これまでの研究活動
プリンストン大学に在籍中の「ボス」
移り、それに伴って海面気圧が変化し、
ルニーニョ現象と大気側の南方振動現
と今後の抱負についてお聞きした。
受賞の主対象となった2つの海洋ー大気相互作用「エルニーニョ現象」と「ダイポールモード現象」
(緯度)
取材協力
山形 俊男 領域長
地球フロンティア研究システム
気候変動予測研究領域
50N
hPa
40N
100
30N
200
20N
300
10N
400
500
EQ
600
10S
700
20S
800
30S
40S
20E
900
40E
60E
80E 100E 120E 140E 160E
ー8
ー6
ー4
ー2
2
180 160W 140W 120W 100W 80W(経度)
4
6
8
(mm/日)
(緯度)
どのような賞なのか
明で知られている。大気の風には速さ
自転の海洋への効き方(コリオリ力の本
当の効果:β効果)は緯度に依存してい
300
30N
400
20N
500
10N
600
洋学のパイオニアであるスベルドラッ
風と偏西風は逆向きに吹いているので、
の量を規定する。
40S
20E
プ博士にちなんで名づけられ、海洋研
海面で海水を回そうとする、ねじる力
スベルドラップはそれらを折り込ん
究を行う者にとって高い栄誉を伴う賞
が働く。その力が海の中に海流をつく
で、1947年に大気の風の回転成分と
である。スベルドラップは黒潮やメキ
る。地球は自転しているだけでなく、
南北に輸送される海流の量の間を結ぶ、
Blue Earth
2004 1/2
180
120W
60W
0
(経度)
800
10S
るので、この値が南北に運ばれる海流
120E
700
EQ
の違いによってねじる力がある。貿易
60E
200
40N
20S
スベルドラップ金メダルは、近代海
26
シコ湾流など大海流の起こる原理の解
0
hPa
100
50N
スベルドラップ金メダルとは
1000
900
1000
0
30S
60E
120E
180
120W
60W
0
(経度)
40E
60E
80E 100E 120E 140E 160E
180 160W 140W 120W 100W 80W(経度)
インド洋に顕著なダイポールモード現象が出現した時の降水量の偏差
(上段は1997年の9∼11月の平均、太平洋にはエルニーニョ現象
が同時に出現、下段は1994年の9∼11月の平均、単位はmm/日)
※ 現在海洋科学技術センター理事
ダイポールモード現象が起きるすべての場合(上段、エルニー
ニョ現象が起きる場合を含む)とダイポールモード現象だけが
起きる場合(下段)の熱帯対流圏のウオーカー循環の違い
海と地球の情報誌
27
■
Japan Marine Science and Technology Center
JAMSTEC Report
象の研究に従事した。
が海面付近に昇ってくると生態系が活
ったので(笑)、教授になったのは遅か
のほか厚く遇されているのは幸運だと
山形領域長はさっそく大気と海洋の
発になり、魚がたくさん集まってくる
ったです。ある時、統計を見て驚いた
言う。若い時代に日本を飛び出し、大
これまでスベルドラップ金メダルは
な議論、そして矛盾を見抜く論理性が
現象が相互に助け合って成長するモデ
ため、水産界でも非常に重要な現象で
のですが、東大の理学部教授の中では
気と海洋の本当の姿を扱う領域に転進
アメリカで活動している研究者の受賞
不可欠です。ものごとを理解し、伝達
ルを考案した。「この理論で得られたパ
す。同時にそこでは大気が下降して周
助教授在位の最長記録保持者でした。
していなかったら、このような世界は
がほとんどだったこともあり、アジア
するには、一定のスキルを習得するこ
ターンと同じものが83年にエルニーニ
辺の陸地を砂漠化します。典型的なの
しかし助教授時代が長かったために、
築けなかっただろうし、今回の受賞も
の研究者たちが山形領域長の受賞をた
とが必要です。これはいわゆるテクニ
ョが起きた時に衛星のデータに現れた
はコスタリカの沖にあるコスタリカ・
その自由度を勝手に活用させてもらっ
ありえなかっただろうと総括する。研
いへん喜び、励みとしているのもとて
ックではなく、『技』に近い意味でのア
のです。この時は『ノーベル賞もいけ
ドームやアンゴラの沖合いのアンゴ
て海外に出たりして自在にやらせてい
究者はいつまでも同じところに留まっ
も嬉しいことだという。
ートです。そしてアート(技)には教え
るのでは』と欧米の学界でものすごく
ラ・ドームです。湧昇ドームがどのよ
ただきました。この意味でも記録保持
ているのではなく、5∼10年経ったら、
盛り上がり、1980年代にはエルニー
うに作られ、季節的にどう変わるのか、
者かもしれません」
過去を踏まえて新たなテーマや世界に
ニョの研究が一気に進みました」。こう
二十数年研究を続けてきました。それ
山形領域長の研究活動舞台は本当は
した熱気のなかで1985年に共同研究
も評価していただけたのでしょう。私
ほとんどが海外である。ほぼすべての
てゆかなければならないというのが、
者のフィランダー博士がスベルドラッ
の研究は海の研究にしても気候の研究
作品が英語で書かれ、国外での方がそ
自らの経験を踏まえての山形領域長の
ルモード(IOD)発生を予測し、IODに
とまらず世界に挑戦し、発見する『技』
プ金メダルを受賞をしている。
にしても、季節の持つ意味を数理的に
の名も業績も知られている。各国から
持論だ。芋虫が蛹に、そして蛹が蝶に
よって影響を受ける国々の被害を緩和
を磨いてほしいです」
理解しようとしてきたものです」
集まる、さまざまな能力を持つ研究者
変態してゆくように。
できるよう国際的に観測網をプロデュ
これからはますます研究者の国際交
へん げ
「以来、久しくお付き合いいただいて
いるフィランダー教授から頂いたお祝
展開してゆく、いわば常に「変 化 」し
もらえれば大成功だと思います」
えない。それを見るには、感性、自由
ることのできる部分が多い。ですから
国際協力による気候変動予測と
教育は重要です。セレンディピテイ(掘
研究・教育環境の充実を目指す
り出し上手)もアートですね。日本の学
これからの目標はインド洋ダイポー
生たちはとても優秀ですから、小さくま
としのぎを削り、厳しい競争のなかに
「1981年に思い切って新しい世界に
ースしていくことである。現在、アメ
流が進むだろう。もともと山形領域長
いの言葉に『スベルドラップ金メダル
自由な環境に身を置き
身を置いてきた。容赦のない異論や批
飛び込んで本当によかった。未来に思
リカ、オーストラリア、EU、インド、
はさまざまな国の研究者が自由闊達に
は学問への評価だけでなく、生き方や
変化を恐れないことが大切
判にさらされてこそ研究は磨かれ、進
い切って自分を投げ込んでしまうのを
中国と協力し、インド洋観測ネットワ
活動できる場が重要と考えていて、地
歩する。科学者としては、このほうが
恐れない気持ちだけは、他の人よりも
ークを立ち上げようとしている。
球フロンティアや、国際太平洋研究セ
居心地がよいらしい。
強かったかもしれませんね。どうせな
「たとえば、IODの影響を受ける東ア
研究への取り組み方への評価も含まれ
これだけの仕事を成し遂げられた理
ている』とあり、いろいろな面を評価
由については、山形領域長は自らこう
していただけたのだなと、とても嬉し
分析する。「自由な、イノベーティブな
「科学の営みは静かに行われているよ
んとかなるさと、いつもある意味でい
フリカでエルニーニョの予報のみに基
く思いました」
環境を求めて生きてきたというのが一
うに思われがちですが、本当は強い個
い加減、よく言えば楽観論者なわけで
づいて農作物の作付けを行うと、間違
国際会議や国際プログラムをリード
番ですね」
性のぶつかり合い、格闘技の世界なん
す。今回の受賞を地球流体研究所の真
った予測が飢餓などの災害を助長する
することが多くなった山形領域長だが、
特筆すべきは、1970年代から継続
ンター(IPRC)の創設にエネルギーをつ
ぎ込んだのもその一環である。
して、恩師の吉田耕造教授が創始した
東大の博士課程を2年で中退し九州
ですね。私も国際社会ではまだまだ自
鍋先生 ※ にも大変喜んでいただきまし
ことになりかねません。最先端の科学
単なるコーディネートではなく、オー
海洋湧昇の研究に携わってきたといえ
大学の助手となり、31歳で助教授とな
己主張が弱いくらいです。次世代の
た。日本の風土にずっと基盤を置く者
情報を社会に提供することが求められ
ケストラの指揮者のように、アートの
ることである。エルニーニョ現象も赤
った。「ですからずっと自由だったんで
方々にはもっと強く、自分の考えを主
が、この賞をいただいたということは、
ています」
道域の湧昇現象の盛衰に関係している。
す。もしあまりにも助手時代が長いと
張していってほしいと思います」
大げさに言えば日本が変わるシンボリ
要素をもっと入れていきたいという。
さらにIOD以外にもまだまだ新しい
「距離感を大切に、いつも何かイノベー
「世界の海には冷たい水が湧いてくる巨
鬱屈したでしょうが、31歳で助教授に
国内に生活基盤を置きながら、研究
ックなイベントなのかもしれません。
現象があるはずだ、と山形領域長は指
ティブなことに関わっていたいと思っ
大なドーム構造(湧昇)がいくつも存在
してもらって研究室を持てたのがよか
の軸足は海外に置く、こんな勝手な振
あいつがやれたのだからということで、
摘する。「既存の枠組みで見ていると、
ています」
しています。海の下層に含まれる養分
ったと思います。でもとても生意気だ
る舞いにもかかわらず、日本でも思い
まわりの研究者たちに、次々と続いて
素晴らしい構造が目の前にあっても見
エルニーニョ現象が気象に与える影響
ダイポールモード現象が気象に与える影響
(緯度)
(緯度)
80°N
80°
N
20°N
10°N
0°
10°S
20°S
40°N
10°S
20°S
20°N
10°N
0°
40°
N
40°E
120°E
160°E
160°W
120°W
60°E
80°E
100°E
80°W
表層の海水
深層の海水
0°
0°
40°S
40°S
20°N
10°N
0°
10°S
20°S
120°E
80°S
160°W
120°W
80°W
20°N
10°N
0°
40°E
60°E
80°E
100°E
80°S
0°
40°E
80°
E
120°
E
160°
E
160°
W
120°W
80°W
40°
W
(経度)
エルニーニョ現象が起きた場合の世界各地の夏の状況(橙色は高温偏差、水色は低
温偏差を示す。斜線域は乾燥化、雲マークは湿潤化する地域を示す)
28
160°E
10°S
20°S
Blue Earth
2004 1/2
0°
(図a)太平洋熱帯域の通常の状態(上段)と
エルニーニョ現象が起きた状態(下段)
(図 a 、図 b ともに)風の力で海の表層にあるあたたか
い海水が移動する。海面水温は赤い方がより高温で青
がより低温。表層のあたたかい海水が移動すると、そ
こには深層から冷たい海水があがってくる。
(図b)インド洋熱帯域の通常の状態(上段)と
ダイポールモード現象が起きた状態(下段)
※ 現在海洋科学技術センター理事
40°E
80°
E
120°E
160°
E
160°
W
120°
W
80°W
40°
W (経度)
ダイポールモード現象が起きた場合の世界各地の夏の状況(橙色は高温偏差、水色
は低温偏差を示す。斜線域は乾燥化、雲マークは湿潤化する地域を示す)
海と地球の情報誌
29
Japan Marine Science and Technology Center
液晶シャッター眼鏡
赤外線センサー・磁気センサー
位置方向情報検出
コントローラ
磁気センサー
グラフィック・
ワークステーション
立体画像を操作するためのコントローラ
プロジェクタ×4
赤外線エミッタ
画像を立体化させるために必要な専用眼鏡
4面のスクリーンに左目・右目用の映像を映し出し、これに同期して専用眼鏡の液晶シャッター
を開閉して左右それぞれの画像を見せ、立体画像として認識させる。
「地球シミュレータ」は非常に解像度
地球シミュレータセンターが導入した
バーチャルリアリティシステム「BRAVE」
30
か表現することができなかった。
の高いシミュレーションを可能にし、
こうしたことから、地球シミュレータ
たとえば大気・海洋分野においても、
センターでは、解析結果をより効果的に
これまでの全球シミュレーションでは
表現する方法について研究を行ってき
詳しいデータが得られなかったローカ
た。そして導入されたのがバーチャル
ルな現象まで細かく解析することがで
リアリティシステム「BRAVE」だ。
スクリーン(3m×3m)に囲まれたブース
き、三次元的な構造が明確に理解でき
「BRAVE」は、三次元で詳しく解析
るようになった。しかし、せっかくの
されたデータを、立体画像システムを
態の立体画像をつくり出すことができ
詳しい三次元データも、これまでのデ
用いて大きな空間のなかにそのまま三
る。したがって、ユーザーが視線を動か
ィスプレイでは、二次元上で立体のよ
次元で表現することにより、様々な現
したり、場所を移動したりすれば、その
うに見せる擬似(的な)三次元画像でし
象をより直感的に理解できるようにつ
動きに合わせた映像を見ることができ
くられた三次元仮想動画処理システム
る。つまり、利用者は単に立体画像を見
だ。
るだけでなく、シミュレートされた臨場
立体画像のなかに自由に入り込むことがで
きる「BRAVE」
通常の生活で、私たちが物を立体とし
感のあるバーチャルな世界に、完全に入
り込むことが可能になる。
取材協力:
て認識できるのは、左右の目でわずかに
荒木 文明 研究員 上原 均 研究員
違う角度から対象物をとらえているか
地球シミュレータセンター
シミュレーション理工学研究領域 高度計算表現法研究グループ
らだ。
「BRAVE」は、前・左・右・床面の
空間のあらゆる方向に広がり、移動す
たとえば、雲の形成や気流の動きは、
4面スクリーン(3m×3m)に、この原
る。これらの構造を二次元上で表現す
理を利用した特殊な解析画像を表示す
ると、どうしても隠れて見えにくい部
世界最高の計算性能を誇る「地球シミュレータ」は、稼動から間もなく2年を迎える。すでに、大
る。そして、ブースに入った人間は、右
分ができてしまう。だが、三次元で体
気・海洋分野、固体地球分野をはじめ、カーボンナノチューブの特性やロケットエンジンに関する
目用画像と左目用画像を別々に映し出
感する「BRAVE」では、その現象のな
シミュレーション等、先進・創出分野においても大きな成果を挙げるなど、様々な研究プロジェク
す専用の眼鏡をかけることにより、スク
かに自ら入り込み、あらゆる角度から
トにおいて、その能力を遺憾なく発揮している。「地球シミュレータ」は、優れた計算性能によっ
リーンの画像を頭のなかで立体として
確認することができる。「BRAVE」の
て、膨大なデータを高速で処理し、非常に解像度の高いシミュレーションを実現させた。だが、せ
認識することができるのだ。さらに、こ
登場により、これまで解析の最終的な
っかくの詳しい解析結果も、通常のディスプレイ上で表現(可視化)すると表示できる領域は限られ
のシステムでは磁気センサー技術によ
結果として扱われてきた可視化は、シ
てしまう。もっと効果的な表現方法を手にいれることはできないだろうか、こうしたことから地球
って、ユーザーがかけている眼鏡(およ
ミュレーション研究における“発見の
シミュレータセンターに導入されたのが、バーチャルリアリティシステム「BRAVE(Booth for
びコントローラー)の位置や方向を検知
ためのツール”として積極的に活用す
Resolving Aspects of Virtual Earth)」だ。
し、ユーザーが見ている向きに最適な状
ることが可能になった。
Blue Earth
2004 1/2
海と地球の情報誌
31
Japan Marine Science and Technology Center
長谷部喜八 さん
相沢千恵子 さん
地球深部探査センター 運営管理グループ 渉外主任
地球深部探査センター 運営管理グループ 推進スタッフ
突然出会った、憧れの
冒険小説の世界
「ところがその後もこのプロジェクトが
ですが、サイエンスってこんな風にマネジ
気になってしょうがない。HPをチェック
メントされているんだ、と改めて実感して
していたら、CDEXの渉外を募集してた。
います。自分が制作に関わったホームペー
月。長谷部さんと相沢さんは、ここで
そこで、こっそり試験を受けて、改めて
ジなどに反応があるのも嬉しいですね」
IODPに関する普及広報・渉外を務める。
戻って来たというわけです」
CDEXが発足したのは2002年の10
実際の採用は発足より約半年後の2003
年4月だ。
「私は前職の関係で勤務開始が遅れ、部
「現在の仕事で、まず大事なのは『ちき
今年からは国際的な掘削に関する事前
ゅう』をきちんと動かす人たちのチーム作
調査などを実施すると同時に、IODPに関
相沢さんは北海道大学大学院理学研究科
りですね。船自体の運航、掘削、研究業務
わりのある地域などへの広報にも力を入
を修了し、昔の海洋環境変動を研究テー
支援などに多くの質の高いスタッフが必要
れる。造船所のある長崎、「海洋コア総合
マに海底のコアサンプルなどを調べてき
です。作業時の乗船者は研究者を含めると
研究センター」のある高知、さらに、
た、まさに『ちきゅう』の世界の人。私
150名ですが、実際には最低でもその2
IODPを推進し活用するためのネットワー
は、広報・宣伝の世界でずっと仕事をし
倍以上の人が関わることになります」
ク「日本地球掘削科学コンソーシアム」
「ちきゅう」は海洋科学掘削を目的とす
の会員である国内約42の大学や研究機関
長谷部さんは長年にわたりレコード会
る掘削船としては世界最大。船内には約
がある地元の科学館なども利用していく。
社で宣伝、歌手などのマネージメント、
2,300m2の研究区画を持ち、採取した試
「要するに“地球掘削オールジャパンチ
広告制作、出版業務などを担当。その後、
料はその場で分析される。取得データを
ーム”。コンソーシアムの会員や関連地域
広告代理店でもイベント運営や制作、宣
統合するためのシステムも完備する。こ
とも連携を深め、IODPのサポーターを増
伝計画作成や実施などに関わってきた。
うした研究室で働く科学サービス・スタ
やし、若い研究者の注目も集めたい。ま
海にも科学にも縁のない職場だったが、
ッフの手配もCDEXの重要な仕事。今年
たIODPでは、日本はアジアの中で中心的
今から7年ほど前に当時の科学技術庁関
からは岸壁に着けた船上で機械のオペレ
役割を果たします。アジア各国の研究者も
係のイベントの企画を担当。それが縁で、
ーション確認や乗員訓練も始める。
日本の枠の中で参加していただけるよう
統合国際深海掘削計画(IODP)の前身とも
情報の味付けに工夫を凝らし
誰もが興味を惹くプロジェクトに
32
がんばれ!
“地球掘削オールジャパンチーム”
下の相沢さんの方が6日ほど先輩(笑)。
てきました」
研究者も船もトップスター
華やかなスポットライトで
国際プロジェクトを照らす
運用の地盤づくりも大事な仕事
もちろん、広報の仕事も忘れるわけに
に、アジア各国が一緒に研究を推進するん
言える深海地球ドリリング計画(OD21)
はいかない。今期は、学会、行政などの
に関わることになる。
コアとなる関係者に、新しいIODPの体制
2005年4月には「ちきゅう」も完成
「前の職場にいた時に、海洋科学技術セ
をきちんと伝えるのが最重点課題。昨年
し、5月頃お披露目となる予定だ。研究
ンターの新規事業の広報をやらないかと
6月末には札幌で開かれた地球科学の世
の重要性もさることながら、長谷部さん
言われて、2年契約でお引き受けしまし
界最大の国際会議「IUGG」の総会に参
は船自体の面白さも見逃さない。約90m
た。配属先は『OD21推進準備室』。深海
加し、9月には米国で開催された海洋科
もある船としては世界一高い櫓、船首に
掘削なんて見当もつきませんでしたが、
学・技術の国際会議・展示会「OCEANS
突き出たヘリポートなど、大人から子ど
僕は子どもの頃ジュール・ベルヌの冒険
2003」にも海洋科学技術センターのブ
もまで多くの人の関心を呼ぶスター性を
小説が好きで、未知の世界への好奇心が
ース内にパネル展示を設け、積極的にア
感じさせると言う。
大いに刺激されたんです」
ピールを図った。
だ、というムードもつくりたいですね」
「もちろん、プロジェクト当初からの映
さっそく来航したアメリカの掘削船
相沢さんもシンポジウムの司会やブース
像記録もきちんと残していますし、研究
「ジョイデス・レゾリューション号」の一
の解説を務めたり、ホームページやニュース
成果が出たら改めて大きな発表の場を作
般公開にラジオの生放送を誘致するなど、
レターのための情報収集にも余念がない。
りたい。でも、研究が硬軟取り混ぜたい
これまでの人脈を活かした広報を展開。
「今は毎日、仕事を覚えるだけで精一杯
ろいろなメディアが注目する場で華やか
地球深部探査船「ちきゅう」は、日米主導で推進される統合国際深海掘削計画(Integrated Ocean
2002年の「ちきゅう」の進水式には、
なスポットを浴びれば、それに触発され
Drilling Program: IODP)に向けて開発された海洋の科学掘削を目的とする掘削船。2002年10月に発足
フランスのオピニオン・リーダー紙
て次世代の研究者も集まって来ると思う
した地球深部探査センター(Center for Deep Earth Exploration: CDEX)は、「ちきゅう」の安全かつ
『ル・モンド』の支局長を1年かけて口説
効率的な運用とIODPの推進を担う組織だ。IODPの日本における科学計画策定機能を担う研究機関ネット
き落とし、取材を取り付けた。OD21が
個人的には将来、IODPを題材に映画
ワーク「日本地球掘削科学コンソーシアム」や、海洋コアの総合的な解析研究設備を持つ「高知大学海洋コ
日米のみならず、ヨーロッパをも巻き込
も作りたい、と長谷部さんの夢は膨らむ。
ア総合研究センター」との連携も図りながら、この国際科学掘削プロジェクトを支えていく。保安管理、運
んだものだとアピールする絶好の機会と
相沢さんのフットワークと長谷部さんの
営管理、オペレーション、事前調査、科学サービスの5グループのうち、運営管理グループで主に対外的な
なった。しかし、仕事の都合で長谷部さ
経験を合わせた強力なエンジンが、「ちき
仕事を受け持つ、長谷部喜八さんと相沢千恵子さんの仕事場を訪ねた。
んは再び元の職場へ。
ゅう」出航の大きな推進力となっている。
Blue Earth
2004 1/2
んです」
海と地球の情報誌
33
Japan Marine Science and Technology Center
∼北極からのメッセージ∼
海洋観測研究部 第3研究グ
ループ 研究副主幹
「仕事場は、北極海」
南極大陸という言葉はありますが、北極大陸という言葉を聞かれたことはないと思います。それ
は北極海の表面を覆っている氷の下は深さ4,000mを超える海だからです。北極海域の海中山脈
は富士山ほどの高さがあり、北極海の面積は日本の国土面積の約37倍もあります。この氷の海、
北極の観測とはどんな仕事なのでしょうか。
畠山 清
(はたけやま きよし)
1958年生まれ。東海大学大
学院海洋学研究科海洋工学専
攻修士課程修了。1985年に
海洋科学技術センターへ入
所。当時は安全工学的見地か
ら飽和潜水の運用に関する研
究に従事。その後、1991年
より氷海観測装置に関する開
発研究に関わることとなる。
センターの北極研究には開始
年から関わっており、北極圏
(北緯66.33度)内での研究活
動参加回数は、すでに19回
を数えている。
(2003年3月8日 海洋科学技術センター横浜研究所
地球情報館公開セミナーより)
世界で最初に北極海漂流観測を行ったの
動観測、それから氷上キャンプに
電気伝導度水温計が6台、さらに気象
ルの長さは260mあり、各深度
はノルウェーの探検家F・ナンセンです。
よる漂流観測という3つの方法が
観測センサーとして気温、気圧、風向
のセンサーで取得したデータは
彼は自作の木造船と犬ぞりで1895年に
あり、海洋科学技術センターでは、
風速計が取り付けられています。電気
1時間に1回、オーブコム衛星通
北極点から約300kmの地点まで到達し
船舶観測とブイを用いた漂流観測
伝導度水温計は海水の塩分濃度も算出
信システムからインターネット
ました。そのほぼ100年後、1991年か
を実施しています。
できます。ブイの上方にはカーナビと
経由で研究室に送られてきます。
同様のGPSが搭載され、常にブイの位
これらのデータはWEBサイトや
●極地と研究室を即時に
つなぐJ-CAD漂流ブイ
置を把握します。ブイの電源はリチウ
GTS(全球通信システム)を通
ム電池で、0℃の気温下で約2年のデー
じて広く公開されています。
海氷下の海を計測してリアルタ
タ送信が可能です。その後、現在まで
ら、海洋科学技術センターも北極研究を
開始しました。今日は、北極海の漂流ブ
イ観測と、そこでの生活をご紹介します。
●地球の冷源、北極海
図3は1948年から1993年
イムで研究室へデータを送るに
に5機のJ-CADが設置されています。
までに北極海で観測された海水
北極海は地球という星でどのような
は、海氷と共に移動する漂流型の
J-CADを用いた観測は、NPEO(北極
の塩分濃度と水温の平均値です。
役割を持つのでしょうか? 地球を熱
自動観測ブイが最適です。漂流ブ
点長期観測計画)というアメリカのワシ
ミミズの這った跡のように見え
機関とすると、赤道域は熱源、北極は
イは、海氷上に設置されるフロー
ントン大学との国際共同プロジェクト
るのがJ-CADで観測したデータ
冷源と考えられます。そこに熱移動の
トとその下に垂れ下がる海洋観測
です。
ですが、塩分、水温ともに平均値より
りにくいのです。現在の北極海は塩分
循環が起こり地球の気候を作り上げて
センサーで構成されます(図1)。
赤い色に近くなっています。つまり、
が多く凍りにくい海水が表面を覆って
いるのです。北極海の海水の温度はー1
フロートの中にはコンピュータが
リルで穴を開け、その上に組んだ三脚
塩分も水温も高くなっているという結
いるということがわかったのです。さ
∼+3℃。その上を2∼4m程度の厚さ
あり、ブイが観測するデータを記
からケーブルを吊り下げて観測機器を
果です。図4は同じ観測結果を鉛直方
らに、北極の海氷の厚みは1970年代
の海氷が覆っています。水深4,000m
録して人工衛星に送信します。海
取り付けながら徐々に海中に降ろして
向から見たものです。表面に近い深度
から90年代にかけて1∼1.5mほど薄
の北極の海をお風呂に例えれば、海氷
洋観測センサーは観測する深度に
いきます(図2)。最後にフロート部分
の塩分が増加しています。塩分の多い
くなっているという結果もあります。
は水面に浮かべた画用紙程度の厚さで
合わせてワイヤーケーブルに取り
を氷に固定して設置完了です。ケーブ
水と少ない水では、塩分が多い方が凍
2∼4mの厚みしかない北極海の海氷が
す。海水の温度はどんなに冷やされて
付けられ、その先端にはケーブル
もー1.8℃より冷たくはなりませんが、
を垂直に保つためのウエイトが付
海氷上の大気は冬にはー40℃を超えま
いています。
J-CADを設置するには、まず氷にド
(図2)J-CAD設置の様子 ケーブルに付けた計器
を降ろしていくための穴を三脚の真下にドリルで開
ける。
す。では、この海氷がなくなったらど
海洋科学技術センターでは
うなるのでしょうか。海水の熱が北極
1998年からJ-CADと呼ぶ氷海観
の大気を温め、気温をプラスへと変化
測用小型漂流ブイを開発し、
させます。気温が上がれば北極の氷は
2000年の4月に第1号を北極点
ますます減少します。北極は非常に微
に設置しました。J-CADにはオー
妙なバランスの中で冷源として保たれ
ブコムおよびアルゴスと呼ばれる
現在、北極海洋を観測するには砕氷
船による船舶観測、漂流ブイによる自
Blue Earth
塩分[psu]
2種類の衛星通信システムを搭載
ているのです。
34
深度(m)
高塩分化
2004 1/2
しています。海洋観測センサーと
しては音響式流向流速計が2台、
(図1)
ポテンシャル水温[℃]
(図3)深度25mにおける塩分の水平分布(左)と水温の平均値(右)
J-CAD-1号機で取得されたデータ(ミミズの這った跡のように見える部
分)とこれまでに取得された気候値[EWG climatologically data
(1948-93)]との比較。
塩分躍層
塩分(psu)
混合層が深くなる
↓
海氷生成に
不利な状態
水温(℃)
(図4)塩分と水温におけるJ-CADの観測データ(赤線)と、
過去の平均値(青線)との比較。表層の塩分濃度が上がって
対流が深まり、氷の出来にくい状態にあることがわかる。
海と地球の情報誌
35
■
Japan Marine Science and Technology Center
Marine Science Seminar
かわいい野生の仲間達、シロクマ(ホッキョクグマ)
(写真上左)、ホ
ッキョクギツネ(写真上右)、セイウチ(写真下左)、ホッキョクウサ
ギ(写真下中)などに会えることも。右下は船上から捉えたオーロラ。
テントの設営(写真上
左)。 完成したテン
ト内部の様子。スト
ーブの上にはお鍋も
見える(写真上右)。
氷上の運搬はソリと
人力が頼り(写真下
左)。燃料は空からパ
ラシュート投下(写
真下中)。氷上トイレ
(写真下右)。
1mも薄くなったんですから、今後、数
さらに北上しカナダの観測基地がある
の世界に置き去りにされ、非常に心細
イレの清掃、飲み水の確保、見張りな
す。彼らは何にでも興味を持つので、
てくる、これが唯一のプライベートで
十年の間に北極海から海氷がなくなっ
アラートに行きます。北極へ向かう研
い中でテントの設営にかかります。幅
ど観測以外の仕事もたくさんあります。
テントやブイを見つければ近寄ってき
す
(笑)
。
てしまう日が来ないとも限らないので
究者達の支援基地ともなっている場所
2m、長さが6m程度のものを2∼3つ
全員で助け合って率先して仕事に当た
ます。私達は護身用にライフルを各テ
こうした厳しい環境ですが、スペシ
す。
です。アラートから先は、氷の海「北
設営します。
らなくてはなりません。
ント内に常備し、射撃訓練も受けます
ャリストだけではなく、研究者も技術
テント内には飛行機の燃料を使って
北極での温度変化は風が大きな鍵を
が、標的として10m先に並べた空き缶
者も、もちろん女性もいます。テント
オッターという小型飛行機を使います。
焚くストーブがあり、その上の鍋に氷
握ります。例えば、気温がー25℃の時
にさえ弾を当てることができません。
はひとつですから、女性も同じテント
次に、私の仕事場にみなさんをご案
私が一番気にするのは飛行機に積む機
上の雪を溶かして飲み水を作ります。
に風速4.4mの風があれば、体感温度は
射撃はシロクマを撃つというより、大
で寝ます。研究者も技術者も順番に食
内しましょう。北極の夏は太陽が沈み
材の大きさと重量です。搬入扉より大
寝るのは、簡易ベッドを組み立て、寝
ー40℃。風速4.4mというのは旗が軽
きな音でシロクマを退散させるのが主
事を作り、掃除当番もします。つらい、
ません。反対に冬は一日中真っ暗です。
きいものは飛行機に積めません。予備
袋で寝ます。テント内で人が動いて空
くはためく程度です。ちょっとの風で体
目的というところです。
苦しい、寒い、というのはみんな同じ
ですから、夏の期間はその気になれば
燃料などの重量も含まれる最大積載量
気がかき回されているうちは非常に暖
感温度はぐっと下がりますから、私たち
滑走路の維持はキャンプ中の最重要
です。でも、時にはかわいい野生の訪
いくらでも仕事ができます。ー30℃を
は900kg。アラートから北極点まで約
かいのですが、いったん寝てしまうと、
は旗の様子を見ながら氷上作業をしま
課題です。滑走路がダメになったら帰
問客や美しい景色に出会うこともあり
超える極寒の中で36時間、作業をした
817km、片道4時間もかかりますから
朝にはテントの上の方は非常に暑く、
す。体感温度でー30℃を超えると危険
ることができません。亀裂でも入ろう
ます。
経験もあります。私たちが北極海へ行
1日1往復しかできません。荷物は極力
下の方はすっかり冷えてしまいます。
です。私も一度、体感温度でー60℃を
ものなら、新たな滑走路を造るために
くのは、3月から9月の中旬です。なか
軽量にしておく必要があります。
極海」です。北極海への移動はツイン
●最初の仕事は氷盤選び
36
昔、2段ベッドの上段で暑くて寝られず、
超える環境を経験したことがあります
スコップとつるはしを持って、1日でも
地球という生命体の冷源である北極
でも4月は冬の間にしっかりと張った厚
キャンプ地の選択も重要です。氷に
大変な目にあいました。飛行機や暖房
が、耐寒服を着ていても本当に逃げ出し
2日でも作業を行います。厳しい、きつ
海、その健康状態を知ることは非常に
い氷があり、また日照時間も確保でき
亀裂や凹凸があると飛行機が降りられ
の燃料は、アメリカ空軍の飛行機に頼
たい気持ちになりました。寒いという
い労働の連続が氷上キャンプです。風
重要です。地球を人体に例えてみると、
ることから氷上キャンプには最適の時
ません。第1フライトで、上空から氷の
んで運んでもらいます。パラシュート
より痛いという感覚です。北極では強
呂はありません。プライベートも全く
体の健康状態を知る方法は地球環境を
期です。逆に、船舶観測は8月から9月
探索をして滑走路に適した場所に電波
にドラム缶をくくりつけて投下し、そ
い寒さのために湿度も下がるため、意識
ありません。唯一あるのはトイレの中。
知る方法と考えられます。人体の血液
の氷が最も薄い時期を狙います。
発信ビーコンを設置し、後で来た時に
れをそりに載せて人力で運びます。北
して水を飲まないと脱水症状を起こし
北極でトイレに行く時にはみんな「プ
採取は海洋観測による海水の採取や成
氷上キャンプのために北極海に行く
すぐに同じ場所に戻れるようにしてお
極での運搬や作業はとにかく人力が基
ます。一番困るのは排泄です。水分不足
ライベートタイム」と告げて出ていく
分分析をすることと同じです。北極海
には、まず日本からシアトルに飛びア
きます。滑走路の長さは約400m、氷
本です。
でウンチが固くなってお尻から出にくく
んですが、そのトイレは暖房のない小
洋は人体のおでこに当たる部分で、私
メリカの研究者と合流します。そして、
の厚さは1m以上あれば大丈夫です。テ
なる。ひどくなれば病院行きです。氷の
さいテント。中には便座とバケツがあ
たちのJ-CADによる北極海の観測は地
2001年世界陸上選手権の開催地、カ
ントの設営地は厚みが2∼4m、直径
上で水を飲むことは非常に大切です。
るだけです。もう座るのがつらいくら
球の体温計測なのです。厳しい環境で
ナダのエドモントを通過しレゾリュー
1km以上の大きさを持った氷盤を選び
凍傷や雪目にも注意が必要です。
い冷えてます。ストーブのあるテント
はありますが、北極観測は地球上に生
トへ入ります。ここはカナダ国内では
ます。飛行機は積み荷を降ろすと、すぐ
の中でギリギリまでガマンして、ダッ
息しているあらゆる生命のために必要
民間人の住む最北の街です。ここから
さま飛んで帰ってしまいます。ー40℃
シュで飛び込んでさっとすませて帰っ
不可欠な研究なのです。
Blue Earth
2004 1/2
●安全確保も滑走路整備も
重要任務
極地では様々な危険が待っています。
そして、滑走路の確保、食事当番、ト
シロクマは北極点にはいませんが、
カナダやロシア沿岸域に生息していま
海と地球の情報誌
37
Japan Marine Science and Technology Center
Report
BEAGLE 2003
海洋地球研究船「みらい」
マゼラン海峡を越えて大西洋へ
パタゴニア水道
の難所
者たちの緊張感が伝わってくるほどでし
ころには落ち着き、夜空には満天の星が
業を続けていた。そして、一方では次のレ
た。また、天候が悪化した4日目は、外
輝いた。
グ4に向けて、観測技術員らによって機器
洋を避けてチリ沿岸のパタゴニア水道を
「みらい」は、アルゼンチン領内に入
BEAGLE 2003で南半球を航行中の海洋
風速20m、波の高さは3mで、初日から
航行したのですが、狭い水路を注意しな
り、マゼラン海峡を抜け、いよいよ大西
サントス港に入港する2日前(10月31
地球研究船「みらい」は、現在も順調に研
船酔いでした。さらに4日目からは低気
がら通過しなければならず、今度はブリ
洋へと進んだ。レグ3の研究者らは、1
日)、堆積物の処理も終了し、船上では
究航海を続けている。この「みらい」の、
圧の影響でかなり海が荒れ、波の高さは
ッジがピリピリした雰囲気でした」
年以上前からこの航海のための準備を進
バーベキューパーティが行われた。2週
チリ・バルパライソからブラジル・サント
約7mに。パソコンに向かうのも辛かっ
マゼラン海峡は、太平洋側では天候が
めてきた。だが、本番の採泥はアッとい
間の航海の終わりが近づいていた。
スまでのレグ3クルーズ(2003年10月
たです。そんななかでも、研究者の方々
めまぐるしく変化し、晴れたかと思うと
う間に終わってしまった。しかし、一息
「今回、観測作業や船の各部署の仕事を
19日∼11月2日)に乗船した普及・広報
は黙々と採取した堆積物の処理作業を続
ミゾレが降り、突然風速30mの突風が
つく間もなく、今度は実験室で採取した
見たり、手伝わせていただいたことで、そ
課金井知明さんに、研究航海の様子と船上
けていました」と金井さん。
吹き荒れるといった荒れ模様だったが、
堆積物の処理作業に追われることにな
れぞれの仕事がどれも観測航海を行う上
チリ南端の町、プンタアレナスを過ぎる
る。さらに、船上で細かくカットされた
で重要な役目を担っていることがよく分か
での生活について聞いた。
堆積物採取は、比較的海況が安定した
の調整準備などが始まっていた。
2日目、3日目(10月20、21日)に行わ
堆積物試料は、それぞれ研究者が持ち帰
りました。そして、船舶で航行しながら、ひ
レグ3は、南米のチリ沖を南下し、マ
れた。その後は悪天候のため外洋での採
り、詳しい顕微鏡観察や化学分析が行わ
とつの研究試料を手に入れることがどれ
ゼラン海峡を越えて太平洋から大西洋に
泥をあきらめ、マゼラン海峡のチリ側の
れ、環境変動の歴史の復元などの研究に
ほど大変なことかを実感しました。この貴
入り、アルゼンチン沖を北上してブラジ
入り口(6日目、10月24日)と海峡の中
用いられる。
重な機会を与えてもらったことを心から感
ルのサントス港をめざす約2週間の航海。
間(7日目、10月25日)で、再び堆積物
この間はレグ1、2のような大測点の採
採取が行われた。
大西洋に入ると、
「みらい」はアルゼン
(JAMSTECのホームページに、BEAGLE
2003に関するより詳しいレポートが掲載さ
「採泥は一発勝負ですし、研究の良し
北上し、一路ブラジルをめざした。周囲は
コアラーなどの採泥器を使った海底堆積
悪しの大部分も採取した堆積物試料によ
見渡す限り海が広がっていた。だが、その
れています。ぜひ、そちらもお読みください。)
物の採取が行われた。
って決まってしまいます。そのため、採
景色をゆっくり眺めることもなく、研究者
http://www.jamstec.go.jp/beagle
らは深夜まで実験室で試料の切り分け作
2003/jp/report.html
泥を行う日は、まわりで見ていても研究
グラビティコアラーの回収作業
堆積層の厚さを知るのに重要なサブボトム
プロファイラーのデータ
謝したいと思います」
と金井さんはいう。
チンの排他的経済水域を避けて、沖合を
水分析は行われず、太平洋側でピストン
「航海初日は快晴でしたが海況は悪く、
レグ3に向けて快晴のバルパライソを出航
堆積物のコアをカッターで半割する
Book
『 生命40億年全史 』リチャード・フォーティ/著 渡辺政隆/訳 草思社/刊 2,400円(本体価格)
熱く燃えたぎる創世期の地球に最初の
者を太古の地球へと誘っていく。随所に
生命体が誕生してから40億年。カンブ
盛り込まれた研究者たちのエピソードか
リア紀の奇想天外な生き物たち、巨大な
らは、学術界の人間くさい舞台裏もかい
昆虫、恐竜、そして私たちホモ・サピエ
ま見える。
ンスが誕生するまでの、気の遠くなるよ
激変する地球環境をくぐり抜けながら
うな進化の道筋を、一気にまとめ上げた
営まれた必然と偶然が織りなす生命の歴
のが本書だ。
史を、著者はラヴェルの管弦楽「ボレロ」
著者は大英自然史博物館の主席研究員
38
版こそ少ないが、想像力を最大限にして、
生物研究の第一人者。ジュラシック・パ
鬱蒼としたシダの密林に潜む生命の気配
ークからゲーテまでを自在に引用しなが
を感じて欲しい。巻末には充実した索引
ら、学者らしからぬ卓越した文章力で読
もあり、古生物学入門書としても秀逸だ。
Blue Earth
2004 1/2
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年間定期購読をご利用くださ
い。定期購読を申し込まれる
方は、以下の内容をハガキか
Eメールにてお送りください。
・年度一括:4月から翌年3月までの1年分(5・6月号∼翌年
3・4月号)を一括でお振り込みいただけます。
・一 誌 毎:毎号送付する際に請求書を同封いたします。その
都度振込手数料がかかります。
購読するためには、定価+送
料+振込手数料がかかります。
送り先
郵便番号・住所・氏名・機関
名・所属(学年)
・TEL・FAX・
E-mailアドレス・定期購読を
希望する刊行物名(海と地球
の情報誌『Blue Earth』
)
のドラマチックなリフレインに例える。図
にして、英国古生物学会会長も務めた古
発行日にお手元に届く便利な
http://www.jamstec.go.jp/
jamstec-j/regular/index.html
〒236−0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町3173−25
海洋科学技術センター 横浜研究所 情報業務部 情報業務課
『Blue Earth』編集室
送信先
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お問い合わせ
海洋科学技術センター 横浜研究所 情報業務部 情報業務課 TEL:045−778−5350
FAX:045−778−5424
E-mail:[email protected]
海と地球の情報誌
39
第5回全国児童「ハガキにかこう海洋
の夢絵画コンテスト」の入賞作品を掲
なお、当選者発表は発送をもってか
アジア海洋株式会社
新菱冷熱工業株式会社
日本興亜損害保険株式会社
えさせていただきます。
株式会社アルファ水工コンサルタンツ
須賀工業株式会社
日本サルヴェージ株式会社
石川島播磨重工業株式会社
鈴鹿建設株式会社
社団法人日本産業機械工業会
「2004 海洋の夢カレンダー」
載した海洋科学技術センター特製の
賛助会(寄付)会員名簿
株式会社 アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド
昭和ペトロリューム株式会社
株式会社日本海洋科学
アイワ印刷株式会社
株式会社白石
日本海洋掘削株式会社
株式会社アクト
社団法人信託協会
日本海洋計画株式会社
株式会社アサツーディ・ケイ
新日本海事株式会社
日本海洋事業株式会社
株式会社淺沼組
新日本製鐡株式会社
社団法人日本ガス協会
卓上カレンダー「2004 海洋の夢カ
応募先 泉産業株式会社
スプリングエイトサービス株式会社
日本酸素株式会社
レンダー」が今年も作成されました。
〒236−0001
株式会社伊藤高壓瓦斯容器製造所
住友重機械工業株式会社
日本水産株式会社
神奈川県横浜市金沢区昭和町3173−25
栄光電設株式会社
住友電気工業株式会社
日本電気株式会社
海洋科学技術センター 横浜研究所
株式会社エス・イー・エイ
清進電設株式会社
日本電池株式会社
情報業務部 情報業務課 株式会社NTTデータ
西武造園株式会社
日本飛行機株式会社
株式会社エヌ・ティ・ティファシリティーズ
セナー株式会社
日本ヒューレット・パッカード株式会社
株式会社MTS雪氷研究所
セントラル・コンピュータ・サービス株式会社
日本無線株式会社
株式会社OCC
株式会社総合企画アンド建築設計
日本郵船株式会社
オートマックス株式会社
株式会社損害保険ジャパン
株式会社間組
沖電気工業株式会社
第一設備工業株式会社
株式会社ハナサン
海洋電子株式会社
株式会社大気社
濱中製鎖工業株式会社
株式会社化学分析コンサルタント
大成建設株式会社
東日本タグボート株式会社
鹿島建設株式会社
大日本土木株式会社
氷川商事株式会社
子どもたちの夢があふれる素晴らし
い作品が毎月のカレンダーに添えら
れています。この卓上カレンダーを抽
『Blue Earth』編集室プレゼント係
選で5名様にプレゼントします。
お詫びと訂正
『Blue Earth』2003年11・12月号31ページの最後の一文に欠落がありました。
お詫びを申し上げますとともに、右記のとおり訂正いたします。
(訂正)最後の一文に下線部分を追加
また、今回の研究航海や観測についての質問にも、この
ホームページで答えている。
度は技術進展が加速されました。これはあ
めて重要です。潜水調査船や各調査船を世
カネダ株式会社
ダイハツディーゼル株式会社
株式会社日立製作所
る科学史の説明です。もちろん、ストーリ
界の海で安全に運用し、研究者に先端的な
カヤバ工業株式会社
有限会社田浦中央食品
日立電線株式会社
川崎設備工業株式会社
高砂熱学工業株式会社
日立プラント建設株式会社
株式会社川崎造船
株式会社竹中工務店
深田サルベージ建設株式会社
川本工業株式会社
株式会社竹中土木
株式会社フジクラ
株式会社関西総合環境センター
株式会社地球科学総合研究所
藤沢薬品工業株式会社
株式会社関電工
中国塗料株式会社
富士ゼロックス株式会社
株式会社キュービック・アイ
株式会社鶴見精機
株式会社フジタ
ーは科学史家によって見解が分かれるかも
調査研究の機会を提供してきたことは、我々
しれません。しかし、今、海洋、地球科学
がなし遂げた大きな成果といえましょう。
の分野において、科学を進展させるために
一方、昨今、日本の現場での技術や技能
技術開発が求められていることは間違いあ
の低下、空洞化が指摘されているところで
りません。
す。また、技術者の倫理についても種々指
共立管財株式会社
株式会社テザック
富士通株式会社
摘されております。当センターでも無人探
極東貿易株式会社
寺崎電気産業株式会社
富士電機システムズ株式会社
株式会社きんでん
電気事業連合会
古河総合設備株式会社
株式会社熊谷組
東亜建設工業株式会社
古河電気工業株式会社
株式会社グローバルオーシャンディベロップメント
東海交通株式会社
古野電気株式会社
ケイジーケイ株式会社
洞海マリンシステムズ株式会社
松本徽章株式会社
京浜急行電鉄株式会社
東京海上火災保険株式会社
株式会社マリン・ワーク・ジャパン
ケー・エンジニアリング株式会社
東京製綱繊維ロープ株式会社
株式会社丸川建築設計事務所
KDDI株式会社
東北ニュークリア株式会社
株式会社マルタン
神戸ペイント株式会社
東洋建設株式会社
三鈴マシナリー株式会社
海洋科学技術センターは1971年に創設
されましたが、当初は技術開発が中心でし
査機「かいこう」のトラブルが発生しまし
人類の祖先は2足歩行を始め、やがて火
た。特徴的なことは、自ら技術開発を行い、
た。現在専門家のご意見も踏まえながら原
を使ったり石器を作るようになりました。
機器システムを作り、完成後は自ら運用し、
因の究明と再発防止に向けた検討を進めて
生活のための技術の始まりです。爾来、そ
研究者に研究観察の機会を提供してきたこ
の技術を高めるため、また知的好奇心に基
とです。本号では機器システムを作る技術
本年4月1日には海洋科学技術センター
づいて、自然科学(かつては自然哲学と称
開発を特集しました。地球深部探査船「ち
は新たに独立行政法人「海洋研究開発機構」
国際気象海洋株式会社
東洋通信機株式会社
株式会社みずほ銀行
しました)が発達しました。特に18世紀産
きゅう」や自律型無人探査機「うらしま」
として再出発します。新機構は東京大学海
国際石油開発株式会社
株式会社東陽テクニカ
三井住友海上火災保険株式会社
業革命以降は、技術進歩に伴い科学の進歩
は現在の最先端の技術開発です。これらの
洋研究所の2隻の海洋調査船の運用を引き
国際ビルサービス株式会社
東洋熱工業株式会社
株式会社三井住友銀行
はいっそう加速されました。その後19世
技術開発にかける研究者の熱意が本文でご
継ぎます。今後ますます、その運用技術に
小倉興産株式会社
戸田建設株式会社
三井造船株式会社
国光施設工業株式会社
飛島建設株式会社
三菱重工業株式会社
磨きをかけ、科学研究のために貢献する技
五洋建設株式会社
有限会社長澤工務店
株式会社三菱総合研究所
術を高めてまいります。
三機工業株式会社
株式会社中村鉄工所
株式会社明電舎
三建設備工業株式会社
奈良建設株式会社
株式会社森京介建築事務所
株式会社三晃空調
西芝電機株式会社
有限会社やすだ
編集人 海洋科学技術センター 横浜研究所情報業務部 情報業務課 小柳津昌久
三洋テクノマリン株式会社
西松建設株式会社
山岸建設株式会社
発行人 海洋科学技術センター 横浜研究所情報業務部 加藤美志彦
財団法人塩事業センター
日動火災海上保険株式会社
株式会社ユアサコーポレーション
本部 ………………………………〒237-0061 神奈川県横須賀市夏島町2番地15 TEL.046-866-3811(代表)
ジオテクノス株式会社
日南石油株式会社
株式会社ユアテック
横浜研究所………………………〒236-0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町3173-25 TEL.045-778-3811(代表)
有限会社システム技研
日油技研工業株式会社
郵船ナブテック株式会社
シナネン株式会社
日鉱金属株式会社
ユニバーサル造船株式会社
Washington Office…………1132 21st Street, NW, Suite 400, Washington, DC 20036 USA TEL.+1-202-872-0000(代表) FAX.+1-202-872-8300
シバタ工業株式会社
株式会社日産セキュリティ・サービス
株式会社リプロ
Seattle Office ………………810 Third Avenue, Suite 632, Seattle, WA 98104, USA TEL.+1-206-957-0543(代表) FAX.+1-206-957-0546
清水建設株式会社
日新火災海上保険株式会社
株式会社緑星社
株式会社商船三井
ニッスイ・エンジニアリング株式会社
若築建設株式会社
株式会社湘南
ニッセイ同和損害保険株式会社
昭和高分子株式会社
日本SGI株式会社
紀後半からは逆に科学の成果を具体化する
理解いただければ幸いです。
ため、あるいは科学の要請に基づいて、今
作るだけでなく運用するための技術も極
いるところです。
Blue Earth 第16巻第1号(通巻第69号)2004年1月 発行
むつ研究所………………………〒035-0022 青森県むつ市大字関根字北関根690番地 TEL.0175-25-3811(代表)
国際海洋環境情報センター …〒905-2172 沖縄県名護市豊原224番地3 TEL.0980-50-0111(代表)
東京連絡所………………………〒105-0003 東京都港区西新橋1-2-9 日比谷セントラルビル10階 TEL.03-5157-3900(代表)
ホームページ http://www.jamstec.go.jp/ Eメールアドレス [email protected]
制作 株式会社 ミュール
40
海洋科学技術センターの研究開発につきましては、
次の賛助会員の皆さまから会費、
寄付をいただき、支援していただいております。
(アイウエオ順)
平成15年11月末現在
応募方法
官製ハガキに、1.プレゼント名、2.氏
名、3.住所、4.年齢、5.職業(学生の
方は学年)、6.電話番号、7.いちばん
興味を持った記事、8.『Blue Earth』
へのご意見・ご希望を明記の上、下記
までご応募ください。応募締め切り
は、1月31日
(土)当日消印有効です。
Blue Earth
2004 1/2
※本書掲載の文章・写真・イラストを無断で転載、複製することを禁じます
ISSN 1346-0811
2004年1月発行
隔月年6回発行
第16巻 第1号(通巻69号)
地球深部探査船「ちきゅう」
The Deep Sea Drilling Vessel
CHIKYU
2004࠰ 1・2உӭ
【表紙解説】
2004年1月発行 隔月年6回発行
第16巻 第1号(通巻69号)
編集・発行 海洋科学技術センター 横浜研究所 情報業務部 情報業務課 〒236ー0001 神奈川県横浜市金沢区昭和町3173ー25 045ー778ー5350
2003年9月26日、三菱重工業長崎造船所香焼工場にて建造が進められている地球深部探査船「ちきゅう」
に、掘削デリック(やぐら)が搭載された。未明から行われたこの日の作業を見守った平 朝彦地球深部探査セ
ンター長は、「建造工程のなかで最もエキサイティングな日でした」と、無事に完了したことを喜びながら、
集まった関係者らに語った。
搭載されたデリックはオランダで製作され、3分割されたままスエズ運河を経て長崎まで搬送、香焼工場で組
み立てられた。その大きさは、高さ約92m、重さ約1,200トン。デリックを吊り上げるために、最大吊り上
げ荷重4,100トン、同高さ135mという日本最大級のクレーン船が使用された。
海洋科学技術
Ʒ未来