海産哺乳動物学の分野で職業を得るためには

海産哺乳動物学の分野で職業を得るためには
J.トーマス
&
D.オデール
(吉岡基,森恭一訳)
Strategies for Pursuing a Career in Marine Mammal Science
Jeanette Thomas
(President, The Society for Marine Mammalogy)
and
Daniel Odell
(Chair Education Committee, The Society for Marine Mammalogy)
最近,若い人たちの間で海産哺乳動物学の人気がでてきている.しかし,海産哺乳動
物学がどのようなものであるかをよく理解している学生は必ずしも多くない.ここでは,
米国において,海産哺乳動物学を志す人たちからしばしば寄せられる質問を紹介し,こ
の分野で職業を得るためにはどのような教育を受けたり,どのような実務経験を積めば
よいかをまとめてみた.
【質問1】
海産哺乳動物学とは何か?
生活の一部,あるいはそのすべてを淡水や海水に依存する水生(海生)哺乳動物は,
現在,約100種いる.この仲間には,アザラシ,アシカ,オットセイ,セイウチを含む鰭
脚類,大型のヒゲクジラやハクジラ,海や川にいるイルカを含む鯨類,マナティーやジ
ュゴンを含む海牛類,それにラッコやホッキョクグマといった一部の食肉類が含まれる.
海産哺乳類研究者は,これらの動物の遺伝的,系統的,進化的な関係を明らかにしたり,
個体群の構造,社会動態,解剖や生理,行動や感覚能力,寄生虫や疾病,地理的および
生息場所の分布,生態,管理や保護といった問題を解明しようとしている.
【質問2】
海産哺乳動物学で職業を得るにはどのような難しさがあるか?
海産哺乳動物に関わる仕事は非常に魅力的なものになっている.それは,これらの動
物に対する人々の感心が非常に高く,また,仕事に個人的な満足感が得られるからであ
る.しかし,だからこそ,その地位を得るための競争はきびしい.
海産哺乳類研究者として訓練を受けた学生の雇用に関する統計はない.しかし1990年
に National Science Board がまとめた米国における科学者の雇用に関する一般統計によ
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れば,学士(BS)の学位をもつ人の75%が就職し(うち43%は科学・技術の分野でポ
ストを得ている),20%が大学院に進学,残る5%が職を得られなかった.
海産哺乳類研究者は,科学者としての技術があるから雇用されるのであって,海産哺
乳動物を扱う仕事が好きだからとか,その仕事がしたいからという理由で雇用されるわ
けではない.したがって,生物学,化学,物理学といった基礎学問を数学やコンピュー
ターサイエンスとともに十分に勉強しておくことは,海産哺乳動物学の分野で将来,職
を得るための準備として重要である.また,忍耐力や広範な経験をもつことも,この分
野で生きるための資質としてきわめて重要である.音響学,生物統計学,遺伝学的解析
手法や分子生物学的研究技術といった特殊な技術をマスターしておくことは,しばしば
競争になったときに強みを発揮する.
【質問3】
海産哺乳動物に関する職業でどのくらいの収入が得られるか?
海産哺乳類研究者は,仕事の満足感を求めてこの分野に進んだのであって,金儲けの
ためにこの道に入ったのではない.給料は研究者によってひじょうに大きな差があるが,
政府機関や企業での職をもつ者が最も高い収入を得ている.給料は経験年数や学歴によ
って増加するが,一般に,職につくまでに必要とされる経験や教育の程度からすると低
い.この分野では職に就くまでの競争が激しいので,給料は今後もある程度の水準のま
ま推移するであろう.
The American Society of Mammalogists が1990年に1,234名の哺乳類研究者を対象に行っ
た調査によると,回答者の42.7%は年収4万ドル(約400万円)未満であり,最も回答の
多かった収入範囲(21.2%)は3万~4万ドル(約300~400万円)であった.
【質問4】
海産哺乳動物に関するどのような仕事があるか?
海産哺乳動物に関する仕事の大半は,人気テレビ番組から連想されるほど楽しく,魅
力的なものではない.強い日差しと多湿の下での長くつらい洋上生活,実験室での長時
間の仕事,コンピューター相手の集中的な仕事のほか,給餌用の魚の入ったバケツの運
搬や掃除,それに多くの報告書や研究費の申請書の作成といった仕事がしばしばある.
他の科学の分野でもそうであるように,海産哺乳動物をあつかう仕事も多岐に渡って
いる.例えば,調査員,フィールド生物学者,乗船オブザーバー,実験室技官,トレー
ナー,動物介護専門家,獣医,ホエールウオッチングガイド,ナチュラリスト,教育者,
立法・保護・管理・動物福祉問題に関する政府あるいは民間団体の職といったものがあ
る.また,海産哺乳類研究者のなかには,博物館の展示物や標本を用いて,キュレータ
ーとして,芸術家やイラストレーターとして,あるいは写真家や映像作家として仕事を
している人も多い.また,なかにはやりがいのある仕事として,副業で海産哺乳動物に
関する仕事をしている人もいる.
以下にいくつかの質問をあげるが,これらにあなたがどう答えるかによって,あなた
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の興味が何にあるのか,また,教育を受けたり,実務経験を積んだり,仕事のチャンス
を得るために,誰に,あるいはどの施設に連絡をとるのがよいかがある程度わかるであ
ろう.
1)どの研究分野に興味があるか?
(例)解剖学,生理学,進化,分類学,生態学,行動学,心理学,分子生物,遺伝
学,獣医学,病理学,毒物学,生物統計学,管理,保護,博物館学,教育など.
2)海産哺乳動物のなかのどの種,あるいはどの仲間の研究をしたいか?
3)フィールドワークや実験室での仕事にかかわりたいか?
4)動物の介護,教育,調査,あるいは立法や政策に関する仕事にたずさわりたいか?
5)政府,企業,大学,水族館,博物館あるいは民間機関で働きたいか?
それと
も自営業がよいか?
6)国内のどこで仕事をしたいか?
例えば,フロリダのマナティーは絶滅に瀕している種である.洪水対策用の水門に誤
って紛れ込んでしまったり,モーターボートと衝突したり,生息場所が破壊されたりし
て,その死亡率は高くなっている.地方自治体,州および連邦政府は,この種について
の調査に資金を出しているし,またいくつかの地域企業もマナティーの管理に協力して
いる.したがって,マナティーの研究をしたいのであれば,フロリダにある大学や調査
機関で教育を受けたり,仕事を探すのが最適である.
【質問5】
誰が海産哺乳類研究者を雇うのか?
地方自治体,州および連邦政府機関,国際機関など,さまざまな機関で海産哺乳類研
究者が調査,教育,管理,立法・政策立案のために雇用されている.連邦機関としては,
National Oceanic and Atomospheric Administration (NOAA),National Marine Fisheries
Service (NMFS),Minerals Management Service,U.S. Fish & Wildlife Service,U.S. National
Biologicial Survey,海軍,Office of Naval Research,沿岸警備隊,Marine Mammal Commission
などがある.また,他の連邦政府機関で海洋に関連した問題を扱っているのは National
Park Service,Army Corpsof Engineers,Environmental Protection Agency,National Science
Foundation,National Aeronautics and Administration(NASA),国務省,スミソニアン
協会などがある.アラスカ,カリフォルニア,フロリダといった沿岸州では,海産哺乳
類研究者を雇っているところもある.
海洋での作業,例えば,石油や天然ガスの発掘・生産・輸送といった活動が,海産哺
乳動物に影響を与えることがある.そのため,こうした活動に関連して企業が海産哺乳
動物の専門家を雇う場合がある.また,漁業は海産哺乳動物の保護と競合するため,漁
業関連機関でも海産哺乳類研究者を雇っているところがある.多くの環境団体や弁護団
体,動物福祉団体も海産哺乳類研究者を雇っている.水族館や動物園も海産哺乳動物の
専門家を雇い,海産哺乳動物についての獣医学的ケア,ハズバンダリー,訓練,調査,
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教育活動を行っている.博物館も教育活動,調査およびキュレーターのポストに海産哺
乳動物の専門家を雇用している.
【質問6】
海産哺乳類研究者になるには,どのような教育を受ける必要があるか?
高等学校教育
海産哺乳動物学に関する仕事をみつけるためには,幅広い教育を受けることが必要で
ある.生物学,化学,物理学,数学,コンピューターサイエンス,国語など,高等学校
で習得する科目はその基礎として重要である.教育課程の選択についてよくわからない
場合は,担当の先生に相談するとよい.大学に進学するためには,優秀な成績が必要で
ある.
大学教育
入門レベルでの海産哺乳動物に関する仕事をするには,たいてい,生物学,化学,物
理学,地質学,心理学などを専攻し,学士(BS)の学位を取得することが必要である.
副専攻として,種々の分野の科学,コンピューター,数学,統計学や工学も役に立つ.
国語に優れていること,および技術文書作成能力があることも重要である.海産哺乳動
物に関連した仕事をする上で,書くことの頻度が高いことには多くの人が驚いている.
また,海産哺乳動物は世界中に分布しているので,外国語の訓練を積んでおくことも,
将来,しばしば役に立つ.
学生は,海産哺乳動物を専門とする前に,ひとりの研究者でなければならない.一般
に,学部学生は基礎科学課程を集中して勉強するため,海産哺乳動物学に関する課程を
とるチャンスはまれである.海産哺乳動物学を専門とするのは,ふつうは,実際の仕事
の経験を積んでから,あるいは,より上級の学位へ向けての仕事をしながらである.言
い換えると,学士(BS)のカリキュラムで海洋科学の課程がなくても,がっかりする
ことはない.実務経験を積んだり,海産哺乳動物学で修士の学位を得ることに専念すべ
きである.もし,大学院へ進学したいと考えるのであれば,学部生として良い成績をと
っておくことはとても重要である.
大学院教育
修士の学位を取得するまでの課程が,ふつうは,学生が海産哺乳動物学を専門に学ぶ
最初の機会である.この段階で,対象テーマについての経験豊富な然るべき指導者をみ
つけることは重要であり,海産哺乳動物学を集中して学べるような変化に富んだカリキ
ュラムをもつ著名な大学を選ぶことが必要である.
二重専攻をもつ人,すなわち学科間の訓練を受けている者は,雇用の機会もそれだけ
多いかもしれない.海産哺乳動物学は分野が非常に多岐に渡っているため,特殊分野で
訓練を受けていれば,雇用の機会を得る際,その技術が有利な“道具”となる.例えば,
大学院で統計学を勉強していれば,個体群管理の分野に進む時には非常に有利であり,
電気工学を勉強していれば,生物音響調査にとくに役に立つ.また,環境に関する法律
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の勉強をしていれば,政府の政策立案や保護の分野で仕事をする際に有利である.
【質問7】
取得した学位によって,得られる職業にどのような違いがあるか?
学士の学位(BS)があれば,動物介護の専門家,トレーナー,フィールドテクニシ
ャン,実験室技官,企業のコンサルタント,政府機関の初級クラスのポストなどの海産
哺乳動物関係の職につくことができる.しかし,一般に,このレベルの職種は自分で今
後の方針を決めて仕事をする機会が少ない.
修士の学位(MS)があると,海産哺乳動物に関する個々の仕事を行っていくことが
できる.例えば,調査計画の立案,管理計画の実行,フィールドおよび実験室での研究
の指導,教育やハズバンダリーおよびトレーニング計画のイニシアチブをとることなど
である.
博士(PhD),獣医学博士(DVM),あるいはその両方の学位を持っていると,
より多くの職を得る機会がある.例えば,フィールドや実験室内で行う研究・実験計画
の立案と管理,大学の教育,政府や企業活動の調整,水族館や博物館の管理といった仕
事をするポストなどがある.
実務経験年数が多ければ,それは大学院での学位にとってかわるものになり得る.し
かし,そのためにかかる時間は,ふつうは学位を取得するに要する時間よりずっと長い.
【質問8】
海産哺乳動物関連の大学の教育課程をどのようにして探したらよいか?
海産哺乳動物に関するカリキュラムがある大学はとても少ない.大学を選ぶ際には,
学校を訪問し,教授や学生に自分の希望を話してみるとよい.たいがいの大学の図書館
や大学の相談センターには学校要覧があり,希望学部を選ぶ際の参考になる.中には,
学科別の履修科目のリストや海産哺乳類の研究者の住所録とその研究分野がまとめられ
ているものもある(巻末参照;省略).
特定の海産哺乳動物に興味があるのであれば,大学院の所在地も考慮する必要がある.
最良の大学であるかどうかは,あなたの興味ある分野で大学院の指導教官を選ぶことが
できるかどうかで決まる.
こうして,いくつかの大学院が候補となるであろう.入学願書の締切はさまざまであ
るが,秋に新学期が始まることから,入学願書の締め切りは普通,1月である.大学院
進学希望者には,願書の提出ととともにGRE(Graduate Record Examination)の受験と
その成績の添付を要求されることが多い.
【質問9】
大学院生のときの指導教官をどのようにして見つけたらよいのか?
大学院での指導教官の選択はとても重要である.指導教官は助言者であり,経験豊富
な同僚であり,他の研究者との交流の手助けをもしてくれる.また,指導教官は大学院
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生の研究を援助する資金を確保し,将来の就職口をみつける際の手助けをしてくれる.
まず,あなたの興味ある分野で現在研究を行っている海産哺乳類研究者を探すことで
ある.そして,その人が大学に所属し,大学院生を資金的に援助し,新入生を受け入れ
てくれるかどうかといった点を調べる.政府や企業の研究者の中には,大学に非常勤と
して所属している者も多いので,そういった人たちが副指導教官となることもできる.
指導教官を探すには次の2つの方法がある.
1)Marine Mammal Science,Aquatic Mammals,Journal of Mammalogy,Canadian
Journal of Zoology,Journal of Zoology,Behavioral Ecology and Sociobiology,Fisheries
Bulletin といった学術雑誌や海産哺乳動物に関する書物を見て,著者の名前を探
す.これらに論文を発表している研究者は大学院生の研究を援助する可能性が高
い.
2)The Society for Marine Mammalogy,International Marine Animal Trainers' Association,
European Association for Aquatic Mammals,European Cetacean Society,American
Cetacean Society,International Association for Aquatic Animal Medicine といった学
会が主催する海産哺乳動物関連の学術会議に参加する.開催日や開催場所は,各
学会の発行する雑誌やニューズレターに掲載されている.これらの学会では,指
導教官にしたいとあなたが思っている人と個人的に接することができ,大学院で
の研究テーマとして自分が興味を持っていることを伝えることができる.そして
後日,電話をかけたり,手紙を書いたり,あるいは訪問して,さらにコンタクト
するとよい.
海産哺乳動物学の分野で指導教官を得ることは一種の競争である.したがって,指
導教官は,多くの志願者の中から学生を選ばなければならない.大学院では,その大
学に所属しているからといって,学部生のような指導が受けられるとは限らないこと
を覚えておくべきである.著名な教授に惹かれて大学に入り,その教授のもとで研究
ができる機会が得られると思ってしまうことがある.しかし,大学院に入る前にその
先生にコンタクトをとり,あなたの指導者になることを快諾してもらっておくべきで
ある.そして,財政的な援助や具体的な研究内容の実現の可能性について話し合って
おく.通常,多くの大学では,指導教官はあなたの出願を受け入れることを大学院に
報告しなければならない.優秀で経験豊富な志願者でも不合格となることが多いのは,
大学内に出願の受け入れをしてくれる指導者がいないためである.
大学院の多くは,財政的援助のない学生は受け入れない.海産哺乳動物学に対する
奨学金はごく少なく,多くの大学院ではティーチングアシスタントの数は限られてい
る.したがって,学生は自前で生活費を工面したり,自身で研究資金を探さなければ
ならない.
【質問10】
大学院生として自分を受け入れてもらうにはどのようにしたらよいか?
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1) 指導教官としたい研究者について知り,自分自身をアピールする方法を知るた
めに,その研究室の先輩に話を聞く.
2) 希望する指導教官に手紙を書き,そこで研究することの可能性について尋ねる.
その際,研究についての自分の関心事や今後の目標について明確に説明する.そ
して,折をみて電話をかけたり,訪問する.
3) 希望の指導教官と個人的な接触を持つ.教授陣は,自分が指導教官となること
を認めていると誤解されることがないよう,自分から志望学生に訪問を求めるこ
とはほとんどない.したがって,先に述べたように,希望する指導教官と知り合
うよい機会は学会である.また,希望する指導教官とコンタクトをとるもうひと
つの方法としては,「○○について関心があるのですが,お話を聞きにお伺いし
てもよろしいですか」と言って,コンタクトをとることである.希望する指導教
官の経歴について調べ,あなたの興味と共通していることを指摘することはとて
も重要である.
4) 実務経験を積むことは,大学院へ進学するのに重要な要素である.海という環
境のもとで仕事をすることも考えると,バランスのとれた経験することが必要で
ある.
5) 学術雑誌に論文を発表する.これは,共著者としてでもよい.論文を学術雑誌
に発表することは,希望の指導教官に自分を強く印象づけることができる.
【質問11】
海産哺乳動物に関わる実務経験を積むにはどのようにしたらよいか?
高校生あるいは学部学生なら,海産哺乳動物に関する仕事をしている連邦政府や州政
府,地方自治体の機関でボランティア活動をすることによって実務を経験することがで
きる.たとえば,海産哺乳動物に関する調査活動において,実験室助手として活動した
り,米国の海産哺乳動物ストランディングネットワークで活動することがあげられる.
水族館や動物園,博物館では,多くのボランティアや非常勤講師を受け入れている.こ
のボランティアになることで,技術を習得したり,雇用者による推薦状がもらえたり,
海産哺乳動物学の世界に知己を得たりでき,そして何よりもこの種の仕事が自分に向い
ているかどうかを知ることができる.こうした団体は,ボランティアとしての仕事ぶり
をみて,その中から職員を選ぶことがよくある.また,多くの水族館や動物園,博物館,
政府機関では,実務経験を習得するための実習制度を設けている(巻末参照;省略)
海産哺乳動物学で職を得るためには,海洋での多くの経験が必要とされる.ダイビン
グの資格や操船技術,ときには救急法の心得が必要となることもある.
【質問12】
海産哺乳動物のトレーナーになるにはどのようにしたらよいか?
海産哺乳動物のトレーナーの多くは,はじめに水族館や動物園でボランティア活動を
している.営業や維持管理,教育といった部署で働いていた人がトレーナーになること
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もある.海産哺乳動物の調教という職業については,International Marine Animal Trainers'
Association(IMATA)に問い合わせるとよい.
【質問13】
海産哺乳動物の獣医になるにはどのようにしたらよいか?
海産哺乳動物を扱う獣医になるには,基礎教育と獣医としての教育を受ける必要があ
る.また,水族館や動物園でのボランティア活動で,海産哺乳動物を相手に実習をする
ことも必要である.少数ではあるが,一部の獣医学部では海産哺乳動物を含む特殊な動
物の医療分野の専門課程を持っているところもある.詳しくは,American Veterinary
Medical Association(AVMA)や International Association for Aquatic Animal Medicine(I
AAAM)に問い合わせるとよい.
【質問14】
海産哺乳動物に関する職を見つけるにはどのようにしたらよいか?
求人のよい情報源となるのが,特定な機関の人事部である.Science や The Chronical of
Higher Educationには,短大や単科大学,総合大学といった大学の教官の求人が掲載され
ている.海産哺乳動物学に関する求人の情報源については,このパンフレットの巻末に
も掲載してある(省略).
しかし,これらの職は,ボランティア組織や大学院生,学会での非公式な面談や同僚
からの推薦で決まることが多いので,公募されることは少ない.自分が何を知っている
かということに加えて,自分が誰を知っているかということは,海産哺乳動物に関わる
仕事を見つける上で非常に大切である.海産哺乳動物学を専攻する人々のネットワーク
をもっていることが大事なのである.学会への参加は,ネットワークを維持する上でと
ても有効であるし,仕事を探す大変よい機会である.MARMAM,WHALE-NET,
OMNETといった電子掲示板には,最新の求人情報が掲示される.仕事を探すのであ
れば,そのことをこうした海産哺乳類研究者間の非公式なネットワークで知られるよう
にする必要がある.
職というものは,多くの場合,然るべきときに然るべきポストが回ってくるものであ
る.チャンスを得ることは難しいが,必要な教育を受けておき,然るべきところで仮の
ポストを得て,“その時”を待つことはできる.たとえば,修士の学位を取得した上で,
水族館の展示部門でボランティア活動をしているのであれば,海産哺乳動物関連の展示
企画をする職を得るチャンスは大いに増すであろう.
海産哺乳動物学の分野で新たな道が開けるよう幸運を祈ります.
<訳者あとがき>
この小文は,The Society for Marine Mammalogy が発行する“Marine Mammal Science
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”第10巻2号に添付された小冊子に掲載されていたものである.日本は,相変らずクジ
ラ・イルカブームに湧いている.それに呼応してか,クジラやイルカの研究をしたいと
いう学生の数も増えている.この状況は太平洋の向こうのアメリカでも同様らしい.こ
うした鯨類,あるいは他の海産哺乳動物の研究をしたり,その関連職につきたいという
若い人たちのためにこの小文は書かれた.著作権もフリーである.教育制度や国の機関
の構成など,日米で異なる点はあるが,勇魚会の会員で同様な希望をもっている人たち
には参考になるのではないかと思い,今回,ふたりでこれを翻訳してみることにした.
当初の予定では,この翻訳のあとに,私たちがわかる範囲で日本の状況を説明するセク
ションを付け加えるつもりであったが,怠慢がゆえに原文を訳出するにとどまってしま
った.この点,読者の皆さんにはおわびするしかない.今回訳出した部分だけでも,何
かのお役に立てば幸いである.
海産哺乳動物に関する勉強やフィールドワークを希望する学生に対しての受け皿が
少ないのは,アメリカも日本も同じようである.しかし,ここ数年,状況は変わりつつ
あるように思える.チャンスはきっとあるはずである.
なお,この小文の原文の別刷は,下記より入手が可能とのことです.
Allen Press, PO Box 1897, Lawrence, Kansas 66044-8897, USA
【出典】
勇魚会機関誌「勇魚」第21号(ISSN:1347-6378)より許可を得て転載(2005年8月12日).
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