ボロン正 20 面体クラスター固体の光励起ホール効果

東京理科大学曽我研究室2011年度卒業研究 2011B02.PDF
ボロン正 20 面体クラスター固体の光励起ホール効果
曽我研究室 8208127 松村 秀明
1.はじめに
単体ボロンの結晶相の中で常温常圧での最安定相と考えられている菱面体晶ボロン(-B)は、B12 正 20 面
体クラスターを構造単位とし、単位胞内に 106.6 個の B 原子を有する複雑構造固体である。-B は半導体であり、
暗中では P 型の電気伝導を示す 1)。-B は複雑な結晶構造に起因する複雑なバンド構造を持ち、特に光励起
下において特異な電気伝導を示すことが知られているが、詳細な電気伝導機構は解明されていない。また-B
は高抵抗体であるため、室温におけるホール効果測定は困難であり報告例がない。しかし電気伝導性が向上
する高温域においては暗中ホール効果測定が行われており、キャリア濃度は熱活性化型の温度依存性を示す
ことが報告されている
2)
。これより、キャリア濃度の温度依存性を外挿することで室温におけるキャリア濃度が予
測されている。一方光照射下では、生じた光励起キャリアが伝導に寄与することにより暗中とは異なる電気伝導
を示すことが知られている。特に低温域で光電流値の温度依存性の変化が報告されているが、その原因を明ら
かにするための光励起ホール効果測定は室温ですら困難を極める。そこで、本研究では室温における暗中及
び光励起下でのホール効果測定を行ない、-B の各物性値を明らかにすることを目的とした。
2.実験方法
純度 99.9%の-B 多結晶体から試料(2.2 mm×2.2 mm×260 µm)を作製した。試料は表面を鏡面研磨し
た後、四隅に白金を蒸着し電極を作製した。暗中及び光励起下において Van der Pauw 法により電気伝
導率測定とホール効果測定を複数回行い、キャリアタイプ、キャリア濃度、移動度の平均値を求めた。
なお、光照射には He-Ne レーザー(波長 632.8 nm、出力 20mW)を用いた。照射した光の侵入長は約 1 µm
であるので、光励起下の物性値は 1 µm の光励起層と 260 µm の暗中層に分けて評価した。
3.結果及び考察
表に-B の室温における暗中及び光励起下のキャリアタイプ、キャリア濃度、移動度を、図 1 に室温における
暗中キャリア濃度を示す。図中には既往の研究で得られた高温域におけるキャリア濃度と温度の関係及び外挿
直線を併せて示した 2)。-B の室温における暗中でのキャリアタイプは P 型であり、本研究で得られたキャリア濃
度は既往の研究の結果を外挿して得られる値とほとんど一致したことから、暗中ホール効果測定に成功し、-B
の室温における物性値を明らかにすることができたと考えられる。一方、表 1 より暗中に比べて光励起下ではキ
ャリアタイプが N 型に反転し、キャリア濃度は約 100 倍、移動度は 3 倍に増加し、光励起キャリアが伝導に寄与し
たことが確認できることから-B の室温における光励起ホール効果測定は行うこ
T [K]
1000
1021
けるキャリアタイプと移動度を明らかにすることができたと考えられる。
1020
4.参考文献
1019
Carrier Concentration [/cm3]
とができたと考えられる。従って、光励起ホール効果測定により-B の室温にお
1)H.Werheit et al.,Phys.Status Solidi,41 (1970) 247.
2)山口道隆,東京理科大学修士論文 (2009).
表 1 -B の暗中及び光励起下での各物性値
キャリア
タイプ
キャリア濃度
[1/cm3]
暗中
P
1.2 ±0.7×10
光励起
N
1.9×1016
14
移動度
[cm2/Vs]
9.9±0.4×10
3.2×10-1
500
333.3
暗中伝導
既往の研究 2)
1018
1017
1016
1015
1014
1013
1012
-2
1
2
1000/T [K-1]
3
図 1 -B のキャリア濃度
の温度依存性 2)