Technical Note(ラミネート型リチウムイオン電池の外装電位測定について)

Technical Note
ラミネート型リチウムイオン電池の外装電位測定について
DM7275, DM7276
ラミネート型リチウムイオン二次電池(リチウムイオンポリマー二次電池)の外装電位測定(缶電位)に
ついて、外装電位の発生要因と測定上の注意点を記載します。
1. リチウムイオン電池の内部絶縁不良について
㻌 リチウムイオン電池の内部絶縁不良は、リチウムイオン電池の特性を劣化させ、時には重大な事故
につながります。表 1 のように、さまざまな絶縁不良があります。
表 1. ラミネート型リチウムイオン電池の内部絶縁不良
絶縁不良箇所
(1)
正極 ‐ 負極間
原因
析出金属によるセパレータ
現象
自己放電の増大、異常発熱
貫通、金属粒子の混入、巻
きずれなど
(2)
(3)
正極 ‐ 外装アルミニウム間
負極 ‐ 外装アルミニウム間
金属粒子の混入、アルミラミ
リチウムイオン電池の特性に
ネート箔のシール不良
影響を与えない
金属粒子の混入、アルミラミ
その後、外装アルミニウムの
ネート箔のシール不良
絶縁フィルムにクラックが生じ
ると、リチウムイオン電池を劣
化させる
(4)
電解液 ‐ 外装アルミニウム間
アルミラミネート箔のクラック
リチウムイオン電池の特性に
影響を与えない
㻌 正極㻌 㻙㻌 負極間の絶縁不良は、自己放電の増大および異常発熱につながります。一般的に、一定
期間のエージングを行い、エージング後の電圧降下の大小により電池を選別します(表 1(1))。
㻌 外装アルミニウムに対し、正極、負極または電解液のいずれか 1 か所のみに絶縁不良がある場合
は、外装アルミニウムを通した電流経路を形成しないため、すぐに問題となることはありません(表
1(2)~(4))。
㻌 リチウムイオン電池は、充放電により膨張と収縮が繰り返されると、アルミラミネート箔表面にコーティ
ングされている絶縁フィルムにクラックが発生しやすくなります。絶縁フィルムにクラックが発生すると、
1
電解液と外装アルミニウムの間の絶縁が劣化します。このため、正極と外装アルミニウムの間、または
負極と外装アルミニウムの間に絶縁不良があると、図 1 のように外装アルミニウムと電解液を通した電
流経路を形成する可能性が高まります。
Insulation
failure
Current path
Al
Al
C6 Li(1-n)
Li(1-n)CoO2
C6 Li(1-n)
Li(1-n)CoO2
-2.9V
+1V
-2.9V
+1V
PE
PE
Al -1.7V
Al -1.7V
Crack
PE
PE
図 1. 絶縁フィルムにクラックが発生
一般的に、リチウムイオン電池を構成する部材の標準電極電位は表 2 のとおりです。
外装アルミニウムは負極に対して電位が高いため、負極と外装アルミニウムの間に絶縁不良がある
状態で、電解液と外装アルミニウムの間の絶縁が劣化すると、アルミニウム外装は還元反応を起こし、
Li-Al 合金が生成されます(図 2)。この Li-Al 合金は非常にもろく、外装アルミニウムにピンホールを
生じさせます。ピンホールから水分が入り込むと、電解液と反応してガスが発生し、リチウムイオン電
池の寿命は著しく短くなります。
一方、正極と外装アルミニウムの間に絶縁不良がある状態で、電解液と外装アルミニウムの間の絶
縁が劣化しても、外装アルミニウムは酸化反応となり、不安定な Li-Al 合金は生成されません(図 3)。
つまり正極と外装アルミニウムの間の絶縁不良は、リチウムイオン電池の寿命に影響を与えません。
リチウムイオン電池を構成する部材の絶縁不良を検出する手段として、絶縁抵抗試験または絶縁
耐力試験(耐圧試験)が考えられます。しかし、絶縁抵抗試験や絶縁耐力試験では、アルミラミネート
箔にクラックがあるだけで、リチウムイオン電池の特性に支障のない電池(表 1(4))を「不良品」と判定
してしまうばかりか、電解液を分解してしまう危険すらあります。
以上の理由から、ラミネート型のリチウムイオン電池では、負極と外装アルミニウムの間の絶縁不良
を検出するために、正極と外装アルミニウムの間の電位差を観測します。本稿では、以降この電位差
を「外装電位」と呼びます。
表 2. リチウムイオン電池を構成する部材の標準電極電位
部位
材質
標準電極電位
正極
Li(1-n)CoO2
1V
外装
Al
1.7V
負極
Li(1-n)C6
2.9V
2
図 2. 負極の絶縁不良と
図 3. 正極の絶縁不良と
外装フィルムのクラック
外装フィルムのクラック
2. 外装電位測定について
正極と外装アルミニウムの間に生じる電位差は、リチウムイオン電池内部の絶縁不良の状態によっ
て異なります(表 3)。一般的に、外装電位が 4 V に近いほど、負極と外装アルミニウムの間の絶縁不
良が疑われます(表 3(2))。絶縁フィルムのクラックのみが発生している電池では、外装電位は 2.7 V
以下になります(表 3(3))。内部の絶縁が健全な電池を測定すると、外装アルミニウムは電池内部の
構成部材から絶縁されているため、外装電位は不定となります(表 3(4))。そこで通常は、内部に絶縁
不良のない電池の外装電位が 0 V となるよう、電圧計の High - Low 間に 10 MΩ から 1 GΩ の抵抗
(RIN)を接続します。
表 3. 絶縁不良箇所と観測される電位
絶縁不良箇所
(1)
(2)
正極 - 外装アルミニウム間
外装電位
0V
負極 - 外装アルミニウム間
~4 V
{+1 − (−2.9)}
(3)
電解液 - 外装アルミニウム間
~2.7 V
{+1 − (−1.7)}
絶縁不良なし
(4)
不定
3
図 4 の測定系で、リチウムイオン電池の外装電位を実測します。入力抵抗が 10GΩ 以上の電圧計を
使用し、RIN を 10GΩ から 1MΩ まで減らしながら観測することで、外装電位の負荷抵抗による影響を
調べます。測定結果を図 5 に示します。RIN が 100MΩ 以上では、外装電位が 2V 程度ですが、10MΩ
では 1V、1MΩ では 0.5V まで低下しています。実験に使用したリチウムイオン電池は、観測された電
圧から、アルミラミネート箔のクラックなどにより、電解液と外装アルミニウムの間の絶縁性が低いと推
測されます。
図 6 に外装電位の時間変化を示します。入力抵抗を 10GΩ から 100MΩ(または 10MΩ)に変化さ
せると電圧はたちまち低下します。その後、入力抵抗を 10GΩ に戻しても、60 分後の電圧は 87%まで
RIN
1MΩ~10GΩ
しか回復しません。
V
Li-ion battery
Voltage between Plus - Exterior Al [V]
図 4. 外装電位の測定方法
2.5
2.0
LiB sample A
1.5
OCV: 3.777248V
1.0
OCV: 3.753959V
LiB sample B
0.5
0.0
1M
10 M 100 M
1G
10 G
Input resistance of voltmeter [ohm]
100 G
図 5. 外装電位の負荷抵抗(電圧計の入力抵抗)による影響
4
Voltage between Plus - Exterior Al [V]
2.0
10GΩ
100MΩ
or
10MΩ
10GΩ
1.5
87% of initial voltage
1.0
10GΩ→100MΩ→10GΩ
0.5
10GΩ→10MΩ→10GΩ
0.0
-15 -10
-5
0
5
10 15 20 25 30 35 40 45 50 55
Elapsed time after changing the input resistance to 10GΩ [min.]
60
65
図 6. 外装電位の時間変化
続いて図 7 の測定系では、負極と外装アルミニウムの間に高抵抗(RIR)を接続することで絶縁不良
を模擬します。High - Low 間の抵抗(RIN)を 100MΩ または 10MΩ とし、入力抵抗が 10GΩ 以上の電
圧計で外装電位を観測します。測定結果を図 8 に示します。負極と外装アルミニウムの間の絶縁性
(RIR)が低いほど、外装電位は高くなっています。例として、外装電位の上限値を 2V に設定すると、
RIN
10MΩ or 100MΩ
RIR
1MΩ~10GΩ
RIN=100MΩ のときは、約 30MΩ 以下の絶縁不良を検出できます。
V
図 7. 負極の絶縁不良を模擬した、外装電位の測定方法
5
Voltage between Plus - Exterior Al [V]
3.5
3.0
LiB sample A;
Rin=100M-ohm
2.5
RIN = 100M-ohm
2.0
1.5
LiB sample A;
Rin=10M-ohm
LiB sample B;
Rin=100M-ohm
1.0
R IN = 10M-ohm
0.5
LiB sample B;
Rin=10M-ohm
0.0
1M
10 M 100 M
1G
10 G
100 G
Insulation resistance between Minus - Exterior [ohm]
図 8. 負極の絶縁不良(模擬抵抗)と外装電位
3. 外装電位を測定する際の注意点
外装電位を測定する際には、次の点に注意してください。
-1. 入力抵抗
前述のとおり、絶縁不良がない良品のリチウムイオン電池を測定すると、観測される電圧は
不定です。このため、High - Low 間を高抵抗(RIN)で接続し、電位を確定する必要があります。
RIN が 10MΩ で良い場合は、デジタルマルチメータなど入力抵抗が 10MΩ の電圧計をそのま
ま使うことができます。RIN が 10MΩ では小さすぎる場合、入力抵抗の高い電圧計を使い、外
部に RIN をつないでください。
-2. 応答時間
High - Low 間の抵抗(電圧計の入力抵抗)を RIN、図 9 に示すリチウムイオン電池の電極と外
装アルミニウムの間の静電容量を CP とすると、時定数(63%応答時間)は次のようになります。
時定数 = CP RIN
例として、CP =10nF、RIN =10MΩ の場合、時定数は 0.1 秒になります。測定対象にプローブを
接続してから、時定数の 3 倍から 5 倍の安定時間を待ち、電圧を測定してください。
図 9. 外装アルミニウムと電極間に寄生する静電容量 CP
6
-3. コンタクトチェック
外装電位測定では、一般的に観測される電圧が 0V に近い電池を良品とします。一方、図
10 に示すように、プローブが測定対象に接続されていなくても、High - Low 間を接続する抵
抗 RIN により、0V に近い電圧が観測されます。特に外装アルミニウム側は、絶縁フィルムによ
りコーティングされているため、接触不良が発生しやすい傾向にあります。また、図 11 のように
上面のアルミラミネート箔と下面のアルミラミネート箔が絶縁されている場合にも注意が必要で
す。片面のアルミラミネート箔の絶縁に欠陥がある状態で、もう片面のアルミラミネート箔のみ
にコンタクトしてしまうと、不良を見落としてしまいます。
接触不良時の測定値を判定しないためには、DM7275 などコンタクトチェック機能を搭載し
た直流電圧計を使用することが有効です。図 12 は、DM7275 のコンタクトチェック機能の設定
画面です。DM7275 のコンタクトチェック機能は、High - Low 間の静電容量を測定し、静電容
量があらかじめ設定されたしきい値を上回った時に、「接触良好」と判断します(図 12.a)。片
面のアルミラミネート箔にしかコンタクトしていない場合には、静電容量が半分になり「接触異
常」と判断できます(図 12.b)。
Insulation
failure
Pass?
0V
V
No-contact
図 10. 接触不良で 0V 表示
Insulation
failure
PE film
Aluminium
Negative
electrode
Positeve
electrode
RIN
図 11. 欠陥のない面にコンタクト
7
V
0V
Threshold value
Monitored value
(a) 接触良好
(b) 接触異常
図 12. コンタクトチェックの画面
-4. 充電状態
外装電位は、充電状態に依存します。測定の再現性を高めるため、なるべく充電状態を揃
えてください。
-5. ノイズ対策
外装電位の出力抵抗は非常に高いため、十分なノイズ対策が必要です。
(1) 測定ケーブルにはシールド線を使用し、シールドは電圧計の低インピーダンス端子(一
般的に Low 端子)に接続してください。
シールドと内部導体間の絶縁材としてテフロンあるいはポリエチレンを使用したシールド
線を選定してください。絶縁材としてポリ塩化ビニルを使用したシールド線は、絶縁抵抗
が低く、測定誤差を生じます。
(2) 測定対象も金属板でシールドし、シールドは電圧計の低インピーダンス端子に接続して
ください。
(3) 電圧測定の積分時間は、電源周期に同期させてください (50Hz: n×20ms、 60Hz: n×
16.7ms)。
(4) 測定器は、必ず接地してください。
4. まとめ
-1. ラミネート型リチウムイオン電池では、負極と外装アルミニウムの間に絶縁不良があると、使用
するにつれ外装アルミニウムが劣化し、電池の寿命を短くします。
-2. 負極と外装アルミニウムの間に絶縁不良があると、外装電位(正極と外装アルミニウムの間の
電圧)が 4V に近づきます。
-3. 外装電位を適切に測定するには、以下の 3 点に注意が必要です。
(1) 電圧計の High - Low 間を適切な抵抗 RIN でつなぐ
(2) 適切な応答時間(CP RIN の数倍)が経過した後に電圧測定する
(3) 必ずコンタクトチェックを行う。
以上
8
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UG_WP_Resist_vol2_J3-67B