オーストラリアにおけるビジネス展開 2014 Supported by 本稿「オーストラリアにおけるビジネス展開」は、オーストラリア における事業機会を求める投資家および事業者の方々のために作成 されたものです。 本稿では、対豪投資を成功に導く機会を最大限に活用するために、 知っておいた方が良い関連法律や規制をすべて網羅し、概略を述べ ています。 法律や商慣習は絶えず変化していますので、本稿はあくまで参考と してのみご使用下さい。具体的な投資判断の際には、事前に専門家 のアドバイスを受けて下さい。そのようなアドバイスが必要な場 合、クレイトン・ユッツ法律事務所は、多くのビジネス分野に関連 する支援や助力を顧客の皆様に提供することができます。 我々は、本稿に含まれる情報が皆様のお役に立つことを願っており ます。オーストラリアでのビジネス展開に関するより詳しい情報、 あるいはアドバイスが必要な場合には、当事務所にご連絡下さい。 本稿の概要 オーストラリアにおける ビジネス展開 本稿「オーストラリアにおける ビジネス展開」は、オーストラ リアの経済、法律、規制の概要 を説明し、オーストラリアにお けるビジネス展開についての実 践的アドバイスを提供します ビジネス・ストラクチャー オーストラリアでは、 個人事業 者、パートナーシップ、合弁事 業、信託または法人 の形態で事 業を行うことができます 契約法 オーストラリアの契約法は、イ ギリス発祥のコモン・ローお よび契約自由の原則に基づいて います 雇用と労使関係 オーストラリアの使用者の大部 分は、フェアワーク法による規 制を受けます オーストラリア概要 短時間でオーストラリアについ て理解するために必要なすべて の事実と数字 ビジネスの規制 オーストラリアでビジネスを行 う際には、主に9つの規制主体 と関わることになります 外国投資 外資審議委員会(FIRB)は、外 国からの投資提案を審査し、そ れらの提案に関する助言を連邦 政府に対して行います 海外からの対豪投資・オー ストラリア政府による支援 オーストラリア政府は、海外か らの建設的な直接投資を誘致 し、支援することに意欲的です 技術・知的財産権の保護 オーストラリアは、創作者がオー ストラリア人であるか否かを問 わず、技術・知的財産権を保護 するための包括的な法的枠組み を有しています 電子商取引 オーストラリアで電子商取引を 行う場合、電子商取引法および その他の一般的規制を遵守しな ければなりません ビジネス移住 国際的なビジネスパーソンが オーストラリアへ入国するには 様々な方法がありますが、その どれもがビザを必要とします 資金調達に関する法律 資金調達に関するオーストラリ アの法制度は、発行者にとって 使いやすいものであると広く認 められています 本稿の概要 企業買収に関する法律 会社法に定められているオース トラリアの企業買収に関する ルールは、オーストラリア証券 取引所(ASX)に上場している オーストラリアの会社や信託、 および構成員が50名を超えるオー ストラリアの非上場会社の持分 の取得を規律しています 独占禁止、競争、不公正な 取引慣行に関する規制 2010年競争・消費者法 (CCA) は、オーストラリアの競争法制 の中心に位置づけられる連邦 法です 不動産に関する法律 外国投資家によるオーストラリ アでの「アーバンリアルエス テート」の取得に際しては、承 認免除に該当しない限り、事前 に外資審議委員会(FIRB)の 審査を受け、承認を得る必要が あります 金融サービス オーストラリアの洗練性と安 定性を兼ね備えた銀行制度と金 融サービスは、オーストラリ ア金融監督庁(APRA)および オーストラリア証券投資委員会 (ASIC)の規制を受けています 税務全般 様々な直接税および間接税が、 連邦政府および州・準州政府に よって課されています 製造物責任 オーストラリアでは、この20年 間で、製造物責任訴訟の数が飛 躍的に増加しました 環境法 オーストラリアの環境、汚染お よび開発計画に関する法律が、 日常の事業活動に及ぼす影響 は極めて大きなものになって います オーストラリアのウラ ンに対する立場 オーストラリアは、ウランの 「既知可採資源量」の割合が世 界で最大の国です 天然資源税 鉱物資源利用税(MRRT)お よび石油資源利用税(PRRT) は、大まかにいって、他国にお ける利用税に相当する資源の 「利用」に課される税です 消費者製品に関する規制 連邦および州・準州レベルの制 定法により、消費者製品の構 造、デザイン、表示に関して規 制が課されています 気候変動 気候変動に対応するための連邦 レベルの政策に大きな進展があ りました はじめに 豪州企業及びその役員は、豪州 の贈収賄防止関連法規に加え、 他国の法規についても理解する 必要があります。 本稿の概要 組織再編及び倒産処理 豪州では、会社の倒産処理を管 理するために、外部管理という 制度が存在します。 クレイトン・ユッツ法律事 務所について クレイトン・ユッツ法律事務所 は、複雑な取引および訴訟につ いて強みを持つ、オーストラリ ア最大のファースト・ティアの 独立系法律事務所です 目次 オーストラリア概要 10 外国投資 15 電子商取引 24 金融取引に関する税制 39 負債(デット)と資本(エクイティ) の区分 39 オーストラリア企業の負債(デット) による資金調達 40 外国会社に支払うロイヤリティ 40 移転価格税制 41 生活の質 10 外資審議委員会(FIRB)への取引の届出 15 電子商取引に関する制定法 24 投資の展望 10 FIRBによる案件審査 17 契約法 24 政府 10 外国投資の決定 17 プライバシー 25 法制度 10 通信傍受 26 通貨 ビジネスの規制 10 11 オーストラリア競争・消費者委員会 (ACCC) 11 オーストラリア金融監督庁(APRA) 11 海外からの対豪投資・オーストラリ ア政府による支援 18 オーストラリア貿易促進庁(Austrade) 18 連絡先および詳しい情報について 18 契約法 契約当事者 スパム規制 雇用と労使関係 オーストラリアの労働法 27 28 28 19 従業員関連の税制 29 19 経営幹部の雇用契約 29 オーストラリア証券投資委員会(ASIC) 11 担保権 19 オーストラリア証券取引所(ASX) 11 契約における罰則の禁止 20 ビジネス移住 資金調達に関する法律 30 31 オーストラリア国税庁(ATO) 12 取引制限の禁止 20 投資家への開示のない募集は原則として不可31 外資審議委員会(FIRB) 12 責任の制限と免除 20 例外規定 オーストラリア連邦準備銀行(RBA) 12 オーストラリア知的財産庁(IP Australia) 12 .au ドメイン管理局(auDA) 12 ビジネス・ストラクチャー 紛争の解決 20 物品売買に関する国際条約 20 技術・知的財産権の保護 21 責任 企業買収に関する法律 証券交換による税の繰延べ措置 32 32 33 34 13 はじめに 21 税務全般 35 個人事業主 13 特許 21 税の種類 35 パートナーシップ 13 意匠 21 所得や利得に関する税制 35 合弁事業 13 商標 22 税務会計年度と税率 36 信託 13 著作権 22 事業損金 36 オーストラリア法人 14 機密情報 22 キャピタル・ゲイン税 37 外国法人 14 回路配置とマスクワーク 23 事業体に関する税 37 商号 14 育成者権 23 会社が支払う配当 38 租税通則法 41 フリンジ・ベネフィット税 42 給与税 42 印紙税 42 関税および物品税 42 商品サービス税(GST) 42 商品やサービスなどの供給に対するGST 42 GST非課税供給とGST免税供給 43 輸入品に対するGST 43 GSTに関するその他の税制 43 64 44 法的責任の根拠 53 鉱物資源利用税(MRRT) 44 オーストラリア消費者法 53 炭素価格制度 64 はじめに 76 MRRTの計算 44 契約に関するコモン・ロー 54 CPMの見直し 65 豪州における倒産処理 76 鉱山からの収入 44 過失責任に関するコモン・ロー 54 新政府の方針 65 豪州における再編 76 MRRTから控除できる費用 45 救済方法 54 その他の気候変動対策構想 65 外部管理 76 執行および鉱山プロジェクトの利益の移転 45 損害賠償 54 66 レシーバーシップ 77 天然資源税 気候変動 金融サービス 組織再編及び倒産処理 76 石油資源利用税(PRRT) 45 製品に関する報告義務 55 外貨と国内通貨の報告義務 66 任意管理 77 課税利益 45 製品のリコール 55 金融取引報告法 66 会社調整契約 77 PRRTから控除できる経費 46 マネーロンダリング防止およびテロ 資金対策法 清算 78 67 消費者製品に関する規制 56 執行および石油プロジェクトの利益の移転 46 法律の複雑さ 56 納税義務を負う事業体がMRRTおよびPRRTに つき考慮すべき事項 46 オーストラリア規格 56 退職者年金 67 危険な製品 57 保険とリスク管理 68 特定の製品の登録 57 金融サービス体制 57 投資商品 資源税の要点 47 MRRTの廃止 47 独占禁止、競争、不公正な取引慣行 に関する規制 競争に関する規定 商品の計量57 48 48 絶対的に禁止される行為 48 競争制限的な目的または効果のある行為 49 合併規制 49 インフラストラクチャーの開放に関する規制50 オーストラリア消費者法 食品 50 広告内容 不動産に関する法律 「アーバンリアルエステート」の取得 57 58 58 69 79 69 外国語の対応能力 79 あらゆる分野でのビジネス・リーガル・ サービスを提供 80 お問い合わせ先 80 オーストラリア関連の参考ウ ェブサイト 81 連邦法 71 州・準州法 72 73 先住権(Native title)および文化遺産 59 豪州における汚職のリスク 資産のデュー・ディリジェンス 60 法的措置 73 国内の汚職 74 資産の購入・売却に関するヒント・陥り がちな落とし穴 73 60 外国公務員に関する贈収賄 74 61 企業責任 75 連邦法 61 豪州の公務員に対する贈答/ 州・準州法 62 接待 75 州・準州の環境に関する法律 今後の見通し 75 52 62 州・準州の汚染に関する法律 52 62 集団訴訟 州・準州の開発計画に関する法律 53 63 訴訟資金援助 デュー・ディリジェンス 63 誤解を招く、あるいは人を欺く行為、 および極めて不当な行為 51 原産地表示 51 製造物責任 52 製造物責任訴訟の提起方法 環境法 79 国際的な関係を通じた世界規模でのソリ ューション オーストラリアのウランに対する立場71 はじめに クレイトン・ユッツ法律事務所に ついて 序文-クレイトン・ユッツ法律事務所 クレイトン・ユッツ法律事務所を代表して本稿をご提供できることを幸甚に思います。 投資家や事業者にとって、ビジネスの場としてのオースト ラリアの魅力は、堅調な経済、高度で安定したビジネス・ 政治環境、多言語に堪能な熟練労働力という点にありま す。オーストラリアの法制度は成熟しており、ビジネスが しやすい環境が整っています。また、オーストラリアの弁 護士は、ビジネスに関する知識や経験が豊富であり、高 い評価を受けています。このような知識や経験の多くは、 世界最大規模の取引案件に関与することで培われてきたも のです。 オーストラリアは、世界で最も急速に経済成長を遂げてい るアジア太平洋地域の国々の多くと地理的に近接してお り、さらにオーストラリアのタイムゾーンは、米国の業務 終了時刻とヨーロッパの業務開始時刻の両方と重なるた め、世界的規模でビジネスを行う上で最適の位置にあると いえます。 オーストラリアは、成長著しい天然資源セクターを有して おり、世界への鉱物や原材料の主要な輸出国となっていま す。この天然資源ブームがオーストラリア経済を大きく牽 引しており、この傾向は今後何年も継続すると市場アナリ ストは予想しています。オーストラリア経済におけるその 他の主要セクターとしては、金融サービス、インフラスト ラクチャー、情報通信技術、アグリビジネス(農業関連産 業)、バイオテクノロジー等が挙げられます。 過去10年間に観光業も著しい成長を遂げました。オースト ラリアは、今やアジア太平洋地域において最も人気の高い 観光地の一つになっており、比類のないオーストラリアの 自然美とゆったりとしたライフスタイルに惹かれて、毎年 海外から何百万人という観光客が訪れています。 オーストラリアの高度な金融サービスセクターは、効率的かつ 透明性のある市場で運営され、最先端の市場インフラや高度 な規制体系に支えられています。オーストラリアには株式、 債券、外国為替、金融派生商品などの流動性の高い市場があ り、アジア太平洋地域における資本市場活動の中心地の一つ となっています。 さらに、オーストラリアとアジア太平洋諸国との間のビジネス 活動の流れは、数十年にわたって築かれてきました。とりわ け、中国、日本、インドネシア、米国との関係は、前向きで、 強固なものとなっています。 生活水準が極めて高く、各州の主要都市において効率的な交通 網が敷かれているため、オーストラリアは地域全体にわたって ビジネスを運営するために非常に望ましい拠点であり続けてい ます。その結果、国際企業が、オーストラリアに地域統括本部 を設置することが一般的になりました。 オーストラリアと同様、クレイトン・ユッツ法律事務所には、 長きにわたる誇らしき伝統があります。クレイトン・ユッツ法 律事務所は、1833年に設立され、今日では、オーストラリア において最大規模で最も成功を収めている法律事務所の一つと なっています。当法律事務所には、約180名のパートナー弁護 士と約1,400名の法務その他のサポート・スタッフがおり、シ ドニー、メルボルン、ブリスベン、キャンベラ(首都)、ダー ウィン、パースに事務所があります。オーストラリアでのビジ ネス展開に関し、さらに詳しい情報、あるいはアドバイスをお 求めの際には、是非ご連絡下さい。 チーフ・エグゼクティブ・パートナー ロブ・カトラー 序文-オーストラリア貿易促進庁 ビジネスを国際的に展開することを検討されているのであれば、オーストラリアの強固な経済基盤とアジア太平洋地域と いう立地は、多様な事業機会をもたらすことでしょう。 本稿「オーストラリアにおけるビジネス展開」においては、オーストラリアの経済や法的環境・規制環境の概要を紹介す るともに、オーストラリアでビジネスを行うために必要な実践的アドバイスを提供します。 22年間途絶えることなく毎年成長を続けてきたオーストラリアの堅固で多様な経済は、アジア地域との間の強い貿易関係 に支えられています。2018年までの実質GDP成長予測によれば、オーストラリアは、あらゆる他の大規模で高度な経済圏 の成長を上回ることとなる見込みです。 オーストラリアは、3つの大手国際格付け機関のすべてから「AAA」の評価を受けており、OECD各国の中でも公債の額は 最も低いレベルにあります。 経済の80パーセント近くがサービス業によるものであり、その強固な金融サービスセクターは、粗付加価値歳入において 第二の柱となっています。 経済の繁栄により、市場には事業機会が溢れています。オーストラリアは、アジアの高度成長経済と近接し、関係性が深 いため、富裕度の中間値は世界で最も高いレベルにあります。 オーストラリアには、ビジネスを行いやすい商業環境があります。労働者は高度な教育を受けており、多言語を扱うこと ができ、西洋およびアジアのいずれの文化にも精通しています。 このようなことから、オーストラリアは将来の成長を目指して投資する先として最適の場所といえるのです。 オーストラリア貿易促進庁(Austrade) CEO ブルース・ゴスパー Austradeは、オーストラリアにおける貿易、投資、教育を促進する機関です。世界的なネットワークを利用して、オー ストラリアの会社が国際的なビジネスで成功し、生産的な外国投資を国内に誘致し、オーストラリアの教育セクターを世 界的にも発展させることを支援いたします。 Austradeの投資サービスについての更なる情報が必要な場合には、www.austrade.gov.auをご参照下さい。 ディスクレーマー Austradeは、本稿の内容の正確性について検証しておらず、したがって、本稿を利用したことにより生じる損害につい て何らの責任も負いません。本稿の情報を用いることを意図する場合には、独立した専門家の助言を受けて下さい。 オーストラリアの人口は、 海岸部を中心に2,300万人 を越えて急速に増加してい ます オーストラリア概要 生活の質 投資の展望 政府 法制度 オーストラリアは、アジア太平洋地域に位置し、 面積約770万平方キロメートルの島大陸です。気候 は、一般に温暖で、南の温帯気候から、北の熱帯 気候まで幅広く、平均気温は、摂氏4度から28度 の間です。 オーストラリアは、費用対効果が高く革新的なビ ジネスの環境を海外の投資家に提供しており、魅 力的な低リスクの投資先となっています。 オーストラリアは、英国と密接なつながりをもつ 安定した民主主義国家です。国家元首は女王エリ ザベス2世です。 オーストラリアは、英国の法制度に由来するコモ ンローの制度をとっています。 オーストラリアは、アジア太平洋地域パートナー の国々の多くと自由貿易協定(FTA)の締結を目 指しています。既に、ASEAN諸国、チリ、ニュー ジーランド、シンガポール、マレーシア、タイ、 米国との間に協定が結ばれました。また、現在、 日本、中国、韓国、湾岸協力会議(GCC)、環太 平洋パートナーシップ(TPP)諸国との間で交渉 が進んでいます。インド、インドネシア、太平洋 諸島経済緊密化協定(PACER Plus)諸国との間で も話し合いが行われています。 オーストラリアは6つの州と自治権を有する2つの 準州から成る連邦国家です。各々の州・準州に、 立法府、行政府、司法府があります。 急速に成長しているオーストラリアの人口は現在 2,300万人超に達し、そのほとんどが海岸沿いに住 んでいます。オーストラリアは文化的に多様な国 であり、オーストラリア人の約5人に1人が海外生 まれであり、その出身地は200カ国・地域を超え ます。公用語は英語です。 オーストラリアの生活水準は世界でもトップレベ ルであり、国際的なビジネスで活躍する人々に対 し、恵まれた気候、独特の自然美、国際的にトッ プクラスの教育、飛行機の乗継の利便性、質の高 い社会的・文化的インフラを提供しています。 10 | Doing Business in Australia これらの貿易協定は、オーストラリアで商売を行 う企業が、これらの市場で活動する際に競争上の 優位をもたらします。 連邦政府は、国防、財政・税制、郵便・通信、公 的医療保険制度の運用、出入国管理、高等教育、 航空、外交・通商に関して第一次的な権限を有し ています。6つの州政府と2つの準州政府が権限を 有する一般的な分野は、初等・中等教育、運輸・ 道路行政、警察、保健です。 連邦、州の下の第三のレベルとして地方自治体が あり、一般に都市計画および開発に関する権限を 有し、また地域に公共サービスを提供していま す。 各州・準州には独自の司法制度と裁判所がありま す。連邦裁判所は連邦の事件を扱い、オーストラ リア最高裁判所(High Court)は、連邦、州およ び準州の事件に関する上告を受理することができ ます。 通貨 オーストラリアの通貨は、十進法でドル(A$) を基本単位とし、100セントが1ドルに相当しま す。2013年12月1日現在の1豪ドルに対する主要国 際通貨の為替レートは、以下のとおりです。 米ドル: 0.91 ユーロ 0.68 英国ポンド: 0.56 円: 93 ビジネスの規制 オーストラリア競争・消費 者委員会(ACCC) オーストラリア金融監督庁 (APRA) オーストラリア証券投資委 員会(ASIC) オーストラリア証券取引所 (ASX) ACCCは、2010年競争・消費者法(連邦法)(オー ストラリア消費者法を包含しています。詳細につ いては47ページ以下を参照)を所管しています。 競争・消費者法ならびに州および準州が制定した 類似の法律の目的は、広義には競争と公正取引を 促進するとともに消費者を保護することです。競 争・消費者法は、反競争的および市場の不公正な 取引慣習、企業合併や買収、製品の安全性と製造 物責任、および第三者による国益に係わる施設へ のアクセスなどを規制しています。 APRAは、金融機関の健全な経営を促すため1998 年に設置された機関です。APRAの規制権限は、 銀行、生命保険会社、住宅金融組合、信用組合、 共済組合および退職者年金基金に及んでいま す。APRAには、金融機関が健全性基準を遵守す るよう義務付ける権限があり、預金者、保険契約 者、組合員などの権利を保護するため必要があれ ば積極的に介入することもできます。さらにAPRA は、調査、介入、公的管理などを行う広範な権限 を持っています。 ASICは、オーストラリアにおいて登録した会社の 唯一の規制機関であり、金融サービスを規制する 連邦政府3機関のうちの一つです。 ASXは、1987年に設立され、アジア太平洋地域で は第二位の規模を誇る証券取引所です。ASXは、 株式、金融派生商品、先物、確定利付証券を取引 する市場です。 11 | Doing Business in Australia ASICは、2001年会社法(連邦法)ならびに法人 の設立、事業および経営を規制する法律を所管し ています。したがって、ASICは、オーストラリ アにおける企業行動の規制において中心的な役割 を担っています。また、ASICは、金融市場およ び企業経営における誠実性と公正を維持する責務 も担っています。金融商品・サービスの広告、販 売および消費者に対する開示に対する規制を通じ て、ASICの消費者保護に関する権限は金融分野に まで及んでいます。 ASXの支店は、シドニー、メルボルン、パース、 シカゴ、およびロンドンにあります。 ASX上場ルールは、上場会社の定款に、重要な取 引については株主に諮らなくてはならない旨な ど、株主の権利に関するルールを盛り込むことを 規定しています。またASXは、上場企業が情報開 示に関して一定の基準を遵守するよう監督してい ます。 ASX は1987年に設立され、 アジア太平洋地域において第2位 の規模を有する証券取引所です オーストラリア国税庁 (ATO) 国税庁長官(Commissioner of Taxation)は、オー ストラリアの所得税制の運営について全権をゆだ ねられています。ATOは、国税庁長官の下、オー ストラリア連邦の税制を所管する法定の政府機関 であり、オーストラリア連邦政府の徴収業務の大 半を所管する機関です。 オーストラリアの所得税法は、主に1936年所得 税査定法(連邦法)、1997年所得税査定法(連邦 法)、および1953年租税通則法(連邦法)のほ か、ATOの定める租税規則および裁判所の判例法 で構成されています。従業員に提供されるフリン ジ・ベネフィットは、1986年フリンジ・ベネフィッ ト税査定法(連邦法)に基づく制度が別途適用され ます。オーストラリアの物品およびサービス税に関 する法令は、主に1999年新租税制度(物品サービス 税)法(連邦法)から構成されています。現行の所 得税制は、個人と事業者の一般所得およびキャピタ ル・ゲインに対する課税からなっています。 近年、オーストラリアでは、鉄鉱石および石炭鉱 山の運営に対して課税することを目的とした鉱物 資源利用税(MRRT)を導入しました。また、石 油資源利用税(PRRT)制度の適用範囲を拡大する 改正が近年行われました。しかしながら、本稿作 成時点で、新政権が、MRRTを廃止する法案を上 院に提出しています。 12 | Doing Business in Australia ATOは、年度ごとの課税の自己査定のプロセスを 管理し、個人や事業者の査定が正しいものかどう かを検証するために無作為に税務調査を実施しま す。ATOは、タバコ、ガソリン、石油製品および アルコールに対する物品税の徴収も行います。ま た、高等教育貸付金制度(HELP)や任意健康保険 料の還付も管理し、オーストラリアの退職者年金 制度の決済機能についても権限を有しています。 外資審議委員会(FIRB) FIRBは、外国投資政策に関するオーストラリア連 邦政府および財務長官の諮問機関として1976年に 連邦財務省内に設置された非法定組織です。FIRB の役割は、海外からの対豪直接投資に係る案件を 審査し、当該案件が政府の政策および1975年外資 買収法(連邦法)に適合したものであるか、財務 大臣に助言を行うことです。FIRBはまた、投資を 検討中の海外投資家や潜在的投資家に対しても、 政府の政策に関する情報を提供します。 オーストラリア連邦準備銀 行(RBA) オーストラリア知的財産庁 (IP Australia) RBAは、国家の中央銀行としての機能を果たす法 定の機関です。 IP Australiaは、オーストラリアにおける特許、 登録商標、意匠の権利を認可する連邦政府機関で す。IP Australiaは、産業・イノベーション・気候 変動・科学・研究・高等教育省の一部門ですが、 独立して運営されており、その中に、特許局、意 匠局、商標局があります。1994年植物育種者権利 法(連邦法)は、IP Australiaの一部である植物育 種者権局が所管しています。 RBAは、オーストラリア連邦政府によって完全に 所有され、2013年10月現在で約5717億豪ドルを超 える資産を保有しています。 RBAは、金融政策と金融システムの安定という二 つの大きな役割を担っています。 RBAの金融政策の主眼は、経済の持続的な成長の ため最も望ましいレベルのインフレ率を維持する ことにあります。RBAの金融システム安定政策 は、金融システムに過剰なリスクが生じるのを未 然に防止するとともに、実際に金融システムに混 乱が生じた場合はその影響を最小限に留めること を目標としています。RBAは、このような役割の 一環として、決済システムの効率性を維持すると いう特別な役割も担っています。RBAは、連邦準 備銀行理事会と決済システム委員会の決定に従っ て業務を遂行します。 RBAは、金融市場および決済システムにおいて積 極的な役割を果たし、またオーストラリア紙幣の 発行権限も有します。また、RBAは、1959年銀行 (外国為替)規則(連邦規則)により、外国為替 管理の権限も付与されています。 .au ドメイン管理局 (auDA) 「.auドメイン管理局」は、.auのドメイン・ スペースの自主規制団体として1999年に設立され たオーストラリアの非営利法人です。 ビジネス・ストラクチャー オーストラリアでは、個人事業主、パートナーシッ プ、合弁事業、信託あるいは会社として事業を営む ことができます。 個人事業主 個人は、自分自身の事業を個人事業主として営むこ とができます。個人事業主となるのは比較的簡単 で、個人とは別個の法人格は存在しません。それゆ え、個人事業主は、事業の過程で生じた全責任を個 人で負わなければならず、事業から生じた所得は個 人事業主個人の税率で課税されます。 他のビジネス・ストラクチャーと異なり、個人事業 主だけを規制する特別な法令はありませんが、事業 に関連する法令を遵守する必要はあります。 パートナーシップ 合弁事業 信託 2人以上の個人または法人は、パートナーシップと して事業を営むことができます。パートナーシップ (特定の専門職のパートナーシップを除く)は、 パートナーが20人までという制限があります。 2人以上の個人または法人は、合弁事業を営むこと もできます。合弁事業は、別の事業体であり続けな がら、同一の戦略的目標に向かって活動するための 契約を締結した複数の当事者間の関係を表象するも のです。合弁事業は、しばしば特定のプロジェクト または事業上の目的のために組成され、または、 各参加者の投資の種類、金額、時期が異なる場合 に組成されるという点でパートナーシップと異な っています。合弁事業は通常終了時期が規定され ています。 信託によって事業を営むこともできます。受託 者は、信託受益者のために、信託財産を所有 し、事業を営みます。受託者は、信託の義務を 履行する責任を負いますが、通常はこのような 信託の義務を履行する際に、その分につき信託 財産に対して償還請求権を有することになりま す。受益者の権利は、信託契約の規定によって 定められます。信託受益者が受け取る分配は、 一定割合に固定される場合もあれば、受託者の 裁量により変動する場合もあります。信託は、 コモン・ローおよび契約法によって規律されま す。 パートナーシップの大半は、パートナー間の権利義 務を規定し、適用のある法令に沿ったパートナーシ ップ契約によって組成されます。パートナーシップ は、構成員とは別個の法人格を持つものではなく、 パートナーシップの資産は、合有により、または パートナーシップ契約で定められた比率でパートナー が保有します。 パートナーは、パートナーシップの利益をパートナー 間で分配し、それぞれがパートナーシップの債務に ついて連帯して責任を負うことになります。しか しながら、オーストラリアの一部の州では、一部の パートナー(すべてのパートナーではない)が自己 の資本の拠出限度でしか責任を負担しないリミテッ ド・パートナーシップを組成することも可能です。 ただし、有限責任のリミテッド・パートナーは、リ ミテッド・パートナーシップの経営に関与すること ができません。 パートナーシップは、オーストラリアの各州法、コ モン・ローおよび契約法によって規律されます。 13 | Doing Business in Australia 合弁事業は、法人化され、構成員とは別個の法人格 を持つ場合もあれば、(純粋な契約上のアレンジメ ントにとどまり)法人化されない場合もあります。 合弁事業の各参加者の権利義務は、当該合弁事業 設立の条件によって定められます。合弁事業は、 コモン・ローおよび契約法によって規律され、法 人化された合弁事業の場合は会社法によっても規律 されます。 オーストラリアでは、個人事業者、 パートナーシップ、合弁事業、信託または 法人の形態で事業を行うことができます オーストラリア法人 事業は、オーストラリア法人を通して営むことも できます。法人は、固有の名義で資産を保有する 権能を持つ別個の法人格であり、自己の義務につ いて責任を負います。オーストラリア法人の主要 な形態は、私企業(proprietary company)または 公開企業(public company)です。公開企業はオー ストラリア証券取引所に上場する場合もありま す。私企業は、非従業員株主数が50人までに制限 され、オーストラリア国内で公衆から資金を調達 することが禁じられています。しかしながら、オー ストラリア国内における各種の規制という観点か らすれば、私企業は管理するのがより簡単で廉価 です。 オーストラリア法人は、オーストラリア国内の登 録事務所、オーストラリア在住の取締役(公開企 業の場合には2人、私企業の場合には1人)、そして オーストラリア在住のセクレタリー(Secretary) (私企業の場合には任意)を設置することが必要 です。オーストラリア法人には、株主の居住地に 関する制限や、最低資本金の規制はありません。 法人は、取締役によって経営されますが、株主 (より一般的には社員)によって所有されていま す。株主は、通常決議または法人の定款または会 社法に基づき必要な場合には特別決議によって、 法人に影響を与える特別な事項についての決定を 行います。株主の法的責任は、通常、保有株式の 未払込額に限定されます。 14 | Doing Business in Australia 取締役は、法人の日常の経営および行為について 責任を負う個人です。善管注意義務のような、取 締役の職務に課されるコモン・ローまたは制定法 上の義務と責任が存在します。これらの義務は、 会社の登録抹消後も継続する場合があります。こ れらの義務を履行しなかった取締役は、刑事訴追 の対象となる場合があります。 取締役の最も重要な義務は、法人の最善の利益の ために行動することです。しかしながら、法人が 債務超過の状態にあるとき、または債務超過の 疑いがあると考えられる合理的根拠があるときに は、取締役の義務は法人の債権者に対しても拡張 されます。このような状況下においては、取締役 は、法人が取引を行い更なる債務を負うことを防 止する積極的な義務を負います。債務超過時の取 引に関する会社法の規定に違反した場合、取締役 は民事上および刑事上の責任を追うことがありま す。オーストラリア法人は、会社法、設立関連文 書、およびコモン・ローによって規律されます。 外国法人 外国法人は、オーストラリアの支店を通じて、あ るいはオーストラリアの子会社を通じて事業を営 むことができます。外国法人が、オーストラリア 支店を通じて営業する場合は、ASICに外国法人と して登録しなければなりません。外国法人がオー ストラリアで事業を営んでいると認定されるか否 かは、さまざまな事実関係を総合的に判断して決 定されます。外国法人は、例えば、裁判手続の当 事者になるとか、取締役会または株主総会を開く とか、銀行口座を保持するとか、何らかの財産を 保有するなど、一定の活動をオーストラリアで行 ったという理由のみによってオーストラリアで事 業を営んでいると認定されるわけではありません。 登録の申請を希望する外国法人は、オーストラリ アで希望の会社名を使用できるよう会社名を確保 する手続をとる必要があり、申請書に登録証書お よび設立関連文書の認証謄本を添えて、ASICに提 出しなければなりません。提出文書に英文でない ものがある場合、当該文書の認証された訳文も提 出する必要があります。 外国法人はまた、オーストラリアに登録事務所を 構え、オーストラリアで法人を代表する代理人を 指名しなければなりません。外国法人は、一旦登 録すると、財務諸表の写しを提出することや、会 社法に従って様々な通知を行うことが義務付けら れます。 登録を行った外国法人は、(役員や登録住所 の変更のような)法人情報の変更があった時 にはASICに通知しなければなりません。外国 法人がオーストラリアで事業を行わなくなっ た、清算した、解散した、設立地で登録を抹 消したといった場合にも、ASICに通知を行わ なければなりません。 外国法人は、新たな会社をASICに登録するこ とにより、オーストラリア子会社を設立する ことができます。 商号 ASICは、すべてのオーストラリアにおける事 業にかかる商号の登録、更新および管理を所 管しています。オーストラリア国内で(個人 の名前または自己の会社名以外の名称で)事 業を行う場合、オンラインでアクセス可能な ASICの商号登録システムに商号を登録するこ とが義務付けられています。 外国投資 オーストラリアでは、外国からの投資は全般的に 奨励されていますが、特定の種類の投資に関して は承認を受ける必要があります。外国からの対豪 投資は、1975年外資買収法(FATA)(連邦法) および連邦政府の外国投資政策により規制されて います。外資審議委員会(FIRB)は、外国から の投資提案を審査し、それらの提案に関する助言 を連邦政府に対して行います。外国からの投資に 関する決定権限を有するのは、オーストラリア財 務大臣です。財務大臣は、国益に反する提案を禁 止することや、案件が国益に反しない方法で実行 されることを確保するために、提案に条件を付す ことができます。 居住用不動産に関する外国投 資規制の遵守及び実施は、オーストラリア国税庁 (ATO)により管理されています。 居住用不動産 に関する外国投資規制の遵守及び実施は、オースト ラリア国税庁(ATO)により管理されています。 外資審議委員会(FIRB)へ の取引の届出 FIRBに対する届出義務があるか否かは、投資家の 種類、投資の種類、投資先の産業セクター、提案 上の投資額を参考にして決定されます。届出の際 には、法定の様式に従った申請書および特定の追 加情報の提出が必要となります。 表中の金額は、毎月1月1日に調整されます(下記 で示される場合)。 2015年12月1日から、外国投資届出には申請費用が 適用され、また、外国投資規制への違反に対する 罰金が増額されます。 投資の種類 1 米国、日本、ニュージーランド 、韓国またはチリ の投資家の場合 外国政府または政府機関によ る直接投資または新規事業 3 すべての投資案件に届出義務あり すべての投資案件に届出義務あり オーストラリア企業または オーストラリア企業資産の相 当な持分を取得 4 民間投資家 (センシティブ分野 6 ) :2億5,200万豪ドル(毎年調整) 以上の場合に届出義務あり 2億5,200万豪ドル(毎年調整) 以上の場合に届出義務あり 在豪資産・事業を所有する企 業の海外における買収5 民間投資家(その他の分野):10億 9,400万豪ドル(毎年調整)以上の 場合に届出義務あり メディア分野における5パーセ ント以上の持分取得 すべての取得に届出義務あり 非住宅用空き地の取得 すべての取得に届出義務あり 住宅用不動産の取得 すべての取得に届出義務あり オーストラリアのアーバンラ ンド法人または信託の株式ま たはユニットの取得 8 すべての取得に届出義務あり すべての取得に届出義務あり 遺産指定地とされている開発 済み非住宅・商業用不動産 の取得 民間投資家:10億9,400万豪ドル 以上(毎年調整)の場合に届出義 務あり 民間投資家:500万豪ドル以上の場 合に届出義務あり すべての取得に届出義務あり すべての取得に届出義務あり 7 政府投資家:すべての取得に届出 義務あり 15 | Doing Business in Australia それ以外の国の投資家の場合 2 すべての取得に届出義務あり 政府投資家:すべての取得に届出 義務あり 投資の種類 1 遺産指定地とされていない開発 済み非住宅・商業用不動産9 の 取得10 米国、日本、ニュージーランド 、韓国またはチリ の投資家の場合 2 民間投資家: 10億9,400万豪ドル 以上(毎年調整)の場合に届出義 務あり 政府投資家:すべての取得に届出 義務あり ルーラルランド11の持分の取得 民間投資家(米国、ニュージーラン ド、チリに限る):10億9,400万豪 ドル以上(毎年調整)の場合に届出 義務あり 政府投資家:すべての取得に届出 義務あり 第一次生産事業の取得 民間投資家(米国、ニュージーラン ド、チリのみ):10億9,400万豪ド ル(毎年調整)以上の場合に届出 義務あり 4 相当な持分とは、一人の外国人(および共同出資者)が、法人または信託の15パーセント以上の持分 を有するか、もしくは複数の外国人(および共同出資者)が合計で40パーセント以上の持分を有する場 合、またはかかる外国人、または事業の場合は一人もしくは複数の外国人(および共同出資者)が、事業 民間投資家: 5,500万豪ドル以上( の方針を決定する立場にある場合をいいます。 毎年調整)の場合に届出義務あり 5 あるいは、在豪資産・事業を所有する企業の海外における買収の場合、全世界における資産の50パー 政府投資家:すべての取得に届出 セントが基準となります。 義務あり 6 センシティブ分野とは、メディア、電気通信、輸送、軍事、暗号化/セキュリティ技術お6び通信、ウ ラン/プルトニウム抽出、核施設をいいます。 民間投資家(日本及び韓国を含む) 7 (非金銭的な基準により)適用除外される場合もあります。 :15億豪ドル12以上の場合に届出 義務あり 8 「アーバンランド」法人および信託とは、オーストラリアで所有するルーラルランドでない土地が全資 それ以外の国の投資家の場合 政府投資家:すべての取得に届出 義務あり 産価値の50パーセントを上回るものをいいます。かかる「アーバンランド」法人または信託の株式または ユニットの取得については、多くの場合、上記注4記載の個人15パーセント/合計40パーセントの外国資 本による取得の基準が適用されます。 民間投資家(日本及び韓国を含む) 9 商業用不動産には、事務所、工場、倉庫、ホテル、店舗、および一定の鉱業権や鉱山操業権等の空き地 :2億5,200万豪ドル (毎年調 および開発済み不動産が含まれます。 整)以上の場合に届出義務あり 10 各種の鉱業権や鉱業に係る賃貸借契約・生産ライセンスの買収については、外国投資として承認が必 政府投資家:すべての取得に届出 要になります。ただし、鉱業に係る賃貸借契約・生産ライセンスについては、オーストラリアのアーバン 政府投資家:すべての取得に届出 義務あり ランドに関する占有権を付与する持分取得を伴い、かつ、取得の時点において賃貸借契約やライセンス期 義務あり 間が延長を含めて5年間を超えることになる見込みであるか、または、オーストラリアのアーバンランド に関する利益分配協定における持分取得を伴う場合にのみ、承認が必要になります。炭鉱開発権について 1 は、土地を占有する排他的な権利が伴わず、また、通常期間も5年未満であるため、一般的にはアーバン FATAは、すべての外国からの投資について、その仕組みにかかわらず等しく適用されます(例えば、 ランドにおける持分を構成するものとはみなされません。 準デット商品(転換社債など)は、外国投資に関する法令との関係ではエクイティとして扱われること 12, 13 になります)。 2015年1月15日現在、これら5カ国の投資家は、豪州の外国投資規制においてより大きな金銭的数値の 適用を受けるという利益を享受しています。ここでいう投資家とは、一定の同国国民、同国企業及び同 国以外の企業の同国支店のことをいいます。また、中国も、豪州との間の自由貿易協定の施行により、 同様の利益を享受する見込みです。 2 直接投資とは、投資対象の10パーセント以上を構成する、あるいは投資家に投資対象に対する影響力 または支配力を提供する投資を指します。関連事業体とは、外国政府による投資割合または外国政府に よる支配割合が15パーセントある事業体を指します。 3 16 | Doing Business in Australia 11 ルーラルランドは全体として、または専ら特定の種類の第一次生産事業を行うために使用される土地の ことです。2015年7月1日以降、農業用地の登録はオーストラリア国税局(ATO)により開設され、管理さ れます。 オーストラリアの第一次生産事業に対するシンガポールおよびタイの民間投資については、当該事業が 5,000万豪ドル以上の場合。 12 2015年12月1日から、オーストラリアの第一次生産事業に対する投資については、当該事業が5,500万豪 ドル以上の場合。 13 「外国投資家」とは、オーストラ リアに通常居住していない個人や 法人または信託をいいます (a)国益に関する勘案事項: (b) 外国政府による投資: 外国投資案件を審査する際、連邦政府は国益に関 する勘案事項を個々の事例ごとに決定しますが、 典型的な勘案事項は以下のとおりです。 外国政府および外国政府関係機関による投資案件 を審査する際、連邦政府は以下の項目を追加で勘 案します。 (i) 国家の安全保障:その投資が、オーストラリア が自国の戦略上および安全保障上の利益を保護す る能力にどの程度影響を及ぼすか。 (ii) 競争:その投資の結果、投資家がオーストラ リア国内の市場価格および商品やサービスの生産 に対する支配権を握ることになる可能性がある か、あるいは投資家が商品やサービスの世界への 供給に対する支配権を握ることになる可能性があ るか。また、オーストラリアの競争に関する政策 体制に影響を及ぼす可能性があるか。 (iii) オーストラリア政府の政策:その投資が、 オーストラリア政府の税収および環境問題に係る 目標値等その他の方針に影響を及ぼす可能性があ るか。 (iv) 経済/地域社会への影響:その投資(提案さ れている投資後の再編成を含む)が、オーストラ リアの一般経済に影響を及ぼす可能性があるか。 また、オーストラリア国民のために公正な見返り を確約するものであるか。 (v) 投資家の特徴:投資家が透明性の高い商業的 基盤に基づいて活動しているか。また、適切かつ 透明性のある規制および監督の対象となっている か。 17 | Doing Business in Australia (i)外国政府投資家が、完全にまたは部分的に外国 政府に所有されているかどうか、および、当該投 資家が、完全に独立当事者間条件で、かつ商業的 基盤に基づき営業しているかどうか (ii)その投資が商業的性質のものであるか、それと も投資家がオーストラリアの国益に反する可能性 のあるより広い政治的または戦略的目標を追求し ようとしているか (iii)投資の規模、重要性および潜在的影響 (c)特別な産業分野: 行、電気通信、海運、民間航空、空港の各産業 銀 分野においては外国投資に対して特定の追加規制 が適用されます。 (d) 外国のカストディアン: 外国のカストディアンが、他のカストディアンあ るいは株式や持分の実質的所有者の指図に従っ て、株式に付随する議決権や土地に関する権利を 行使する場合には、当該カストディアンについて は、オーストラリア企業株式の取得や不動産投資 に関して、オーストラリアの外国投資に関する法 令の適用は免除されます。 農業に関する外国投資案件を審査する際、連邦政 府は通常、提案についての以下のような影響を考 慮します:水を含むオーストラリアの農業資源供 給力、土地のアクセスおよび使用、農業生産およ び生産力、オーストラリアが国内地域社会及び取 引相手の双方にとって信頼のおける農業生産供給 者でいる能力、およびオーストラリアの地域・地 方社会における雇用および景気。 FIRBによる案件審査 正式な届出が行われると、当該案件に関してオー ストラリア財務大臣が当該届出から30日以内に 何らの行動も起こさない場合は、オーストラリア 財務大臣は外国投資に関する法令に基づき当該取 引を禁止したり、当該取引に何らかの条件を付し たりすることができなくなります。ほとんどの場 合、届出の提出後30日以内に決定が行われ、案件 がオーストラリアの国益に反すると判断されない 限り、当該取引に異議がない旨の決定が通常なさ れます。 案件によっては、一定の条件を付して承認がなさ れる場合がありますが、このような場合にはその 条件の遵守が法律上の義務となります。 外国投資の決定 FATAに基づく外国からの投資に関する決定は、 通常、特定の取引に対してのみ与えられるもので す。もし、承認された取引がその時に実行されな い場合、または当事者らが承認時もしくは承認後 に新たな内容を含む契約を締結する場合、あるい は取引が12か月以内に実質的に完了しなかった場 合には、その取引に関して新たな届出を行う必要 があります。 Austrade は、企業 や政府と連携し、一元的 な窓口としての役割を担 います 海外からの対豪投資・ オーストラリア政府による支援 オーストラリア貿易促進庁 (Austrade) オーストラリア政府は、海外からの建設的な直接 投資を誘致し、支援することに意欲的です。オー ストラリア貿易促進庁(Austrade)は、貿易、教 育および投資を奨励するためのオーストラリア 政府の機関です。Austradeは、海外の企業に対し て、正しい投資判断をするために必要な情報や投 資家が時間や投資額を節約するための共同提案を 提供することにより、企業がオーストラリアにお いて事業を設立して展開することを支援していま す。 Austradeは、企業や政府と連携し、オーストラリ アにおいて入手可能な投資に関するサービスの案 内をする上で、一元的な窓口としての役割を担い ます。50カ国以上に渡るAustradeの事務所のネッ トワークにより、Austradeは、多くの場合、投資 家の国の市場において、支援や案内を、投資家の 国の言語を用いて行うことができます。 18 | Doing Business in Australia Austradeは、海外の投資家に対して、以下のよう なサービスを提供することができます。 • 初期の段階での、あらゆる投資に関する質問に 対する対応および支援 • オーストラリアにおけるビジネスや規制環境に 関する情報 • マーケット情報や投資機会 • オーストラリアにおける最適な投資場所および パートナーの選定 • オーストラリア政府のプログラムや承認プロセ スに関するアドバイス Austradeは、特定のセクターにおける投資可能性 の調査や戦略的パートナー探しの支援も行ってい ます。また、詳細なコスト情報を提供し、共同研 究を支援することも可能です。 Austradeの国際投資家に対するサービスは無料で あり、機密は保持され、個別の事業ニーズに対応 できることも重要な点です。 インフラストラクチャー、旅行業、鉱業・資源、 クリーンエネルギー・環境、食品加工・アグリビ ジネス、ハイテク製造業、ICT・生命科学の分野、 さらには研究開発やイノベーションセンターの分 野における直接投資には、大きなビジネスチャン スが見込まれます。 オーストラリア政府は、海外からの直接投資を 支援するため、投資先としてのオーストラリア の魅力を高めるような様々な政策やプログラム を用意しています。さらに、州・準州政府も投 資家のための様々なプログラムを用意していま す。Austradeは、投資家にこれらの情報も提供す ることができます。 連絡先および詳しい情報に ついて Austradeがあなたのために何ができるかについて さらに知りたい方、あるいは投資専門家に連絡し たい方は、13 28 78(オーストラリア国内用電話 番号)または E-mail: [email protected] までご連絡いただくか、ウェブサイト www.austrade.gov.au/investをご参照下さい。 また、[email protected] にて投資アップデートをご購読下さい。 契約法 オーストラリアの契約法は、成文法や制定法では なく、イギリス発祥のコモン・ローに基づいてい ます。オーストラリアの契約法を支える基本原理 は、契約自由の原則であり、同原則により当事者 は自由に契約の内容を決めることができます。 契約成立のために特別な形式や手続が必要なわけ ではありませんが、実務上は、契約の条件を細か く書面化しておくことが望ましいでしょう。オー ストラリアの裁判所は、契約当事者の意思を書証 から認定することにかなりの重点をおいていま す。これらの契約法に関する一般的な原理・原則 は、いくつかの重要な制定法、特に2010年競争・ 消費者法(連邦法)により影響を受けています。 同法の定めは、一定の場合には契約で排除するこ とはできず、同法の定めにより、契約上の規定が 無効になることがあります。競争・消費者法のよ り詳細な内容は、47ページからの独占禁止、競 争、不公正な取引慣行に関する規制の章をご参照 下さい。 19 | Doing Business in Australia 契約当事者 担保権 いくつかの例外はありますが、オーストラリアの 契約法の下では、契約の当事者でない者は契約に よって拘束されることはありません。これは契 約の相対性の原則として知られています。会社法 に基づき登記された法人が契約当事者となる場 合は、法人登録番号(ACN: Australian Company Number)、事業者登録番号(ARBN: Australian Registered Business Number)、または事業者番号 (ABN: Australian Business Number)などの登録番 号も、すべての公的文書に記載される必要があり ます。 動産に対して担保権が設定される場合には 2009 年動産担保法(連邦法)が適用されます。動産担 保権を第三者に対抗するためには、動産担保レジ スター(Personal Property Securities Register)に 所定の期間内に登録を行わなければなりません。 動産には、不動産および連邦政府や州政府から付 与される一定の権利(例えば採掘権)以外のすべ ての財産が含まれます。 動産担保法は、伝統的な形式の担保権のみなら ず、権原留保条項、買取選択権付賃貸借合意、ま たは一定の賃貸借契約によって生み出された担保 権を含む幅広い担保権をカバーします。 担保権の登録は、動産担保法、2001年会社法(連 邦法)の規定およびこれに関連する下位法により 規制されています。 オーストラリアの契約法を支える基本原理は、 契約自由の原則であり、同原則により当事者は 自由に契約の内容を決めることができます 契約における罰則の禁止 取引制限の禁止 責任の制限と免除 物品売買に関する国際条約 契約の一般法に基づき、特定の契約違反があった 場合において一方の当事者が他方の当事者に対し て支払うべき、損害賠償額の予定や金額の算定方 法を当事者間で合意しておくことは可能です。こ のような契約上の取り決めは、具体的な損害額の 計算が難しい場合や、当事者が紛争解決や訴訟に 要する費用の負担を望まない場合には、有用な方 法といえます。 契約により、直接または間接的に、相手方に対し て契約期間中または契約期間後に第三者と雇用契 約等の契約を締結することを禁じることは、 契約の当事者は、競争・消費者法や州・準州にお ける同種の物品販売・公正取引法令に反しない限 り、債務不履行その他の状況に関する契約上の責 任を、自由に制限または免除することができま す。しかし、責任の免除または制限条項を契約の 内容に含む場合は、裁判になれば当該条項の主張 立証責任を負うことになりますので、当該条項が 当事者の意図どおりに裁判所に解釈してもらえる よう慎重に契約書を作成しておく必要があります。 オーストラリアはウィーン売買条約(国際物品売 買契約に関する国際連合条約)の加盟国です。こ の条約は、国際的な物品売買契約の作成と履行に 適用される統一的なルールを規定し、当事者の権 利義務の枠組みについて定めています。 しかし、損害賠償額の予定に関するこのような合 意は、実際に蒙るであろう損害を真に見積もろう と試みたものでなくてはなりません。したがっ て、契約遵守を強要するための脅しとして規定さ れる場合、金額が実際に予想される損害に比して 高額すぎる場合、曖昧な状況で損害賠償義務が生 じる場合、または一方当事者の恣意により損害賠 償義務が発生するような場合には、裁判所は、そ れらの条項を単なる罰則規定とみなし、それらの 条項に基づく損害賠償を認めない場合がありま す。 20 | Doing Business in Australia • 47ページで詳細に述べているように、競争・ 消費者法の独占禁止に関する条項によって規制 されている排他的取引を構成する場合があり、 • また、コモン・ローに基づく取引制限として無 効となる場合もあります。具体的には、裁判所 は、契約によって制限される行為、期間、場所 などが必要以上に広範に及ぶ場合は、そのよう な規定を無効かつ強制不可能と判断する場合が あります。この点につき、ニューサウスウェー ルズ州のみでは、1976年取引制限法(ニューサ ウスウエールズ州法)によって、ニューサウス ウェールズ州最高裁判所が妥当と認める範囲を 超える部分のみ無効と判断されます。 紛争の解決 オーストラリアは、外国仲裁判断の承認と執行に 関するニューヨーク条約の加盟国です。したがっ て、仲裁人(通常、あらゆるコモン・ロー上、衡 平法上、および制定法上の救済方法を命じること ができます)の仲裁判断は、オーストラリアのい ずれの州、準州の最高裁においても、裁判所の判 決と同様に、承認され、執行されます。 国際物品売買契約の当事者は、ウィーン売買条約 を適用せず、契約の準拠法として、当事者のいず れか一方の国の法律を選択することもできます。 しかし、そのような合意がなされない限り、ウィー ン売買条約が適用され、ウィーン売買条約に規定 されているルールが契約内容として組み込まれる ことになります。 オーストラリアは、技術・ 知的財産権の保護のための 包括的な法的枠組みを有し ています 技術・知的財産権の保護 はじめに オーストラリアは、自国のみならず、オーストラ リアと二国間/多国間条約を締結している諸外国 の技術・知的財産権の保護のための包括的な法的 枠組みを有しています。このような保護は、主に オーストラリアの連邦法を通じて実現されていま す。オーストラリアの連邦法の内容は、TRIPS協 定(知的財産権の貿易関連の側面に関する協定) をはじめとする様々な国際的な知的財産法に関す る条約の影響を受けています。 オーストラリア人は、新技術をいち早く利用する 国民性で名高く、オーストラリアの裁判所は、知 的財産権の保護を強く支持しています。 特許 1990年特許法(連邦法)は、標準特許と革新特許 という2種類の形態の特許を規定しています。標 準特許は、完全明細書の提出日から20年間有効で す(ただし、更新料が支払われている場合に限り ます)。革新特許は、真に新しい発明には及ばな い、小さな技術的進歩の保護のための制度です。 革新特許の存続期間は8年間で、多くの場合、標準 特許よりも迅速かつ安価に取得できます。したが 21 | Doing Business in Australia って、革新特許は、技術の進歩が早く、既存の特 許がすぐに陳腐化してしまうような技術分野に有 用です。特許の存続期間の延長は、医薬品に関連 した標準特許を除き、認められません。 標準特許については、特許出願後、特許登録前に 完全な審査が行われます。革新特許の場合、特許 登録前に実体的な審査は行われず、方式要件を 遵守しているかのみが審査され、方式要件を充足 していれば、特許登録されます。もっとも、革新 特許の侵害者に対し、特許権の主張をするために は、実体的審査が行われたことが証明されている ことが必要です。 革新特許の実体的審査は、特許権者または第三者 (特許の有効性および侵害の成否について利害関 係を有する者等)の請求(いつでも請求可。有 料)または局長の職権により開始されます。 標準特許および革新特許は、新規性の欠如、進歩 性(または革新性)の欠如、有用性の欠如、その 他の様々な技術的根拠等に基づき有効性が争われ る可能性があります。特許権を侵害しているとさ れた者は、侵害の主張に対して、当該特許は無効 であるとの抗弁を提出することができます。 オーストラリアは、パリ条約および特許協力条約 の加盟国です。海外の出願者は、パリ条約に基づ き、外国の出願者が同条約に加盟している国にお いて行った出願と同一の特許の出願をオーストラ リアで行う場合は、当該加盟国での最初の出願日 から一定期間の優先期間を有します。また、特許 協力条約に基づき、ある加盟国で特許を出願した 場合は他の加盟国でも同様に出願したものとして 扱われます。 オーストラリアにおける特許登録は、オーストラ リア知的財産庁(特許・実用新案・商標・育成者 権の登録を管轄するオーストラリアの政府機関) が管轄しています。 意匠 2003年意匠法(連邦法)が、オーストラリア知的 財産庁における意匠の登録制度を定めています。 この法律において、意匠とは「視覚によって捉え られる一つまたは複数の特徴から作り出される製 品の全体的外観」をいい、オーストラリアで公に 使われているか、オーストラリア内外で公表され ているものに比して新規性かつ独自性を有するも のであれば、登録が可能です。もっとも、実体的 審査は出願時には行われず、単に形式要件が満た されていれば登録されることになります。登録意 匠については、当事者または第三者の請求、裁判 所の命令、または登録官の指示があった場合にの み、実体的審査が行われます。意匠権侵害訴訟を 提起するためには、登録された意匠が実体的審査 を受け、新規性および独自性があると認められて 審査証明が発行されることが要件になります。 登録によって得られる意匠権の存続期間は、最高 10年間(当初の5年の存続期間と更新による5年間 の延長)です。オーストラリアは、パリ条約の加 盟国であるため、外国の出願者が同条約に加盟し ている国において出願した意匠と同一の意匠の出 願を当該加盟国での最初の出願日から6か月以内に オーストラリアで行う場合は、当該加盟国での最 初の出願日がオーストラリアにおける出願日とみ なされる取扱いになっています。 商標 登録商標については、1995年商標法(連邦法)で 規定されています。同法に基づき、特定の商品お よび役務について、これまで当該商標を使用した ことがあるかどうかにかかわらず、商標登録の出 願を行うことができます。オーストラリア法は、 パリ条約上の義務に従い、外国で出願されたもの と同一の商品/役務に関する同一の商標をオース トラリアで出願する際の一定の猶予期間を定めて おり、これにより当該加盟国での最初の出願日が 優先日とされる取扱いになっています。また、オー ストラリアは、マドリッド協定議定書にも加盟し ており、加盟国であるいずれかの国で、一度、国 際登録出願をすれば、その出願で指定したその他 の加盟国においても商標が保護されるための手続 が進められることになります。 オーストラリアは、ニース国際分類に従って、商 品および役務を分類しています。商標権の存続期 間は10年間で、その後、10年ごとに更新が可能で す。 1995年の商標法の施行以来、登録商標の保護の要 件として、商標ライセンスの登録は義務付けられ ていません。ただし、商標ライセンス契約のライ センシーによる商標の使用が商標権者による使用 であるとみなされるためには、商標ライセンスが 一定の基準を満たしていなければなりません。こ れには、商標ライセンス契約のライセンシーに対 して登録商標権者が適切なコントロールを行使し ていることという要件が含まれています。登録商 標については、現行法上、一定の権利を登録する ことが可能です。このような登録が可能な権利に は抵当権、信託受益者の権利、商標ライセンス契 約のライセンシーの権利などがあります。 制定法上の登録商標の保護とは別に、オーストラ リアの一般法は、自らの商品または役務を競業者 の商品または役務であるかのように見せかける行 為(パッシング・オフ/詐称通用)を禁じていま す。基本的に、例えば、競業者の商標と同一また は類似の商標を使用することによって、自らの商 品または役務と競業者の商品または役務に関連が あるかのように見せかけるようなことが禁止され ています。 22 | Doing Business in Australia 著作権 機密情報 著作権については、1968年著作権法(連邦法)で 規定されています。著作権の対象となるものの種 類は次のとおりです。 オーストラリア法上、情報そのものについての財 産権は存在しません。この点は、機密情報を機密 のまま保つという権利を認める他のいくつかの国 と異なる点です。 • 言語著作物(コンピュータプログラムを含む) • 音楽著作物(作曲された音楽作品など) • 美術著作物(写真、製図、図面、建物、美術工 芸品など。高度の美術的要素が含まれているか どうかを問いません) • 演劇著作物 • 映画フィルム、録音物、テレビ放送・音声放 送、著作物の発行版(出版物の版面等) 著作権発生の要件が満たされた場合、著作権はそ の創作時点で自動的に発生し、登録や形式(著作 権表示を含みます)は不要です。かかる著作権発 生の要件は、オーストラリア国民やオーストラリ アが二国間/多国間条約を締結している諸外国の 国民・居住者が著作物の創作を行ったこと、また はオーストラリアやオーストラリアが二国間/多 国間条約を締結している諸外国において著作物が 最初に発行されたことなどです。 オーストラリアは、ベルヌ条約および万国著作権 条約の批准国であり、これ以外にも個人の権利保 護に関するいくつもの条約を批准しています。オー ストラリアの著作物の著作権は、著作者の死後70 年間存続し、著作物以外の対象物の場合には、 (多くの場合)公表日から70年間存続します。 オーストラリアにおいては、機密情報(営業秘密 を含みます)の保護は、制定法ではなく一般法に 準拠します。すなわち、オーストラリアでは、米 国のほとんどの州で現在採用されている統一法典 のような成文法はありません。 一般法は、機密情報の取得者が、当該情報が秘密 であるということを知っていたか、または知って しかるべきであったような状況において、守秘義 務を課しています。 この守秘義務は、情報の取得者が機密情報の開示 者の要求に反して情報を開示することを禁じるだ けでなく、情報の開示者が許可しない限り、いか なる目的のためにも、また、たとえそれが秘密裏 に使用される場合であっても、当該情報を使用す ることを禁じています。また、当該情報が実際に は機密情報であることを機密情報の取得者が知ら なかったとしても、機密情報の取得者は、当該情 報の使用/流布について制限を受ける場合があり ます。 法律は、特定の情報につき、真にその秘密が保持 されていたか、または秘密保持の義務を負わされ た限られた者に対してのみ開示された場合に、か かる情報を保護します。 オーストラリア人は、新技術をいち早く利用する 国民性で名高く、オーストラリアの裁判所は、 知的財産権の保護を強く支持しています 営業秘密の場合、商業的に十分有用かつ識別可能 な程度に発達した情報でなければ法律の保護の対 象になりません。単なる推測・憶測や業界の経験 は、法的保護の対象になりません。 秘密保持義務は、法の作用によって生じるもの で、契約を結んだり文書化したりする必要性は必 ずしもありませんが、書面によって守秘義務を確 認しておくことは、秘密保持の要求が情報の取得 者に与えられたということを証明するのに役立ち ます。しかし、情報開示者に秘密保持義務を課そ うとするような場合(例えば、情報取得者が排他 的使用権を取得する代わりに対価を支払うような 場合)は、情報の開示者が、秘密保持義務につい ての合意に署名することが必要になります。この ような合意は、取引制限を定める種類の契約とな りますので、(上記で説明したような)取引制限 に関する法令の規制を受けることになります。 回路配置とマスクワーク 育成者権 オーストラリアは、集積回路についての知的財産 に関するワシントン条約の加盟国であり、同条約 の施行をにらんで1989年回路配置法(連邦法)を 制定しました。米国の半導体チップ保護法と異な り、この法律の保護対象にはマスクワーク(mask works)は含まれていませんが、集積回路を構成 する能動的または受動的要素と相互接続に関する 確立した立体的構成をもつ統一的な回路配置であ り、何らかの物質に固定されたものと定義される 回路配置が保護の対象となっています。 1994年育成者権法(連邦法)の下で、新品種の植 物を登録することができ、品種登録者は、登録し た品種およびその種苗を独占的に販売する権利、 これらを販売目的で栽培する権利、および当該植 物の登録名を使用する権利を有します。このよう な権利は、出願日から20年間(樹木の場合は25年 間)存続します。 このオーストラリア法に基づいて認められる回路 配置利用権は、商業的使用を開始した日から10年 間有効です。商業的使用は、回路配置が創作され た日から10年以内に行われなければなりません。 登録の必要はなく、登録機関もありませんが、同 法には、回路配置や集積回路に所定の表示を行っ た場合の推定規定が存在しています。この点は、 他国の法律に比べて珍しいといえます。なお、同 法では保護されないマスクワークについても、そ れ自体で意匠法上の意匠として登録される可能性 がありますし、また著作権法上、著作権が認めら れることもありえます。 23 | Doing Business in Australia オーストラリアにおける 電子商取引は、主として、 連邦および州、準州の電子 商取引法によって規制され ています 電子商取引 電子商取引に関する制定法 オーストラリアにおける電子商取引は、主とし て、連邦および州、準州の電子商取引法によって 規制されています。連邦法は、連邦法が適用され る取引の領域についてのみ適用されます。州法お よび準州法は、連邦法に類似しており、それぞれ の法域に適用されます。 電子商取引法の主な影響は次のとおりです。 • 電子通信や電子署名に拠っているというだけの 理由で取引が無効になることはない。 • 電子通信の送信および受信の日時確認のための ガイドラインを定めている。 24 | Doing Business in Australia • 情報の書面での記録または保存が法で義務付け られている場合には、情報の電子的記録と電子 文書の保存を可能にする。 • 手書き署名の代わりに電子形式の本人確認手段 を利用を可能にする。 • 一定の制約の対象となる。 電子商取引法は、すべての法律や取引に適用され るわけではありません。各電子商取引法は、電 子商取引法や同法下の規則が適用されない法律 や取引の種類を列挙しています。 連邦法の規則 は、2013年に改正され、現行および新興のデジタ ルチャンネルや消費者の嗜好に対応するため、複 数の例外規定を撤廃しました。しかし、連邦法の 規則は、2009年国家消費者信用保護法下の電子通 信の送信には、引き続き連邦法を適用するとして おり、一定の場合に、電子通信の方法で書面や通 知の送付を行うことを促進しています。 電子商取引法は、1996年UNCITRAL電子商取引 モデル法に基づいています。2005年に国連は、 国際電子契約条約を採択し、モデル法に含まれる 概念をアップデートしました。2009年4月、オー ストラリア内のすべての法域は、オーストラリア が同条約に加盟するため、それぞれの電子商取引 法に所要の改正を行うことで合意しました。同条 約は、国際商事契約のみに適用されます。しか し、2011年の改正で、連邦・州・準州の電子商取 引法は、個人的、家庭的な契約にもその適用対象 を広げました。 上記改正法は、電子商取引のニーズに応じて、契 約の成立に関する伝統的なルールを明確化しまし た。例えば、自動メッセージシステムの認識、申 込みの誘引の明確化、当事者のロケーションを決 めるルールの規定、電子署名の規定の見直し、電 子通信の送信および受信の時間と場所についての デフォルトルールの規定などがあります。 契約法 契約法の基本原則には、電子的に契約を締結する ことを妨げるようなものはありません。したがっ て、オンラインで締結された契約に適用される法 律は、オンライン以外の取引に適用される法律と 同じです。 オンラインで締結された契約から発生する問題の 一つは、顧客が画面上のアイコンをクリックして 標準的契約約款に同意する「クリックスルー」契 約の有効性です。現在、オーストラリアには、ク リックスルー契約に関連した具体的な判例法はほ とんどありません。しかし、原理上は、この方法 で契約を締結できないとする理由はありません。 もう一つの問題は、オンラインで締結された契約 の約款が契約内容に十分に組み込まれているかど うかです。オーストラリア法の下において、あ る約款を契約の要素に組み込むためには、事業者 は、消費者が契約約款をよく吟味した上で契約を 締結するかどうかを判断するための十分な機会を 与えるために、消費者に対し、当該契約約款を適 時に知らせるため合理的に必要なあらゆる措置を 講じなければなりません。 営利目的の電子メッセージは、受信者の 同意の上で送信しなければなりません プライバシー プライバシーに関するオーストラリアの主な制定 法は、連邦プライバシー保護法で、同法の対象は 以下のとおりです。 • 年間売上が300万豪ドルを超える民間企業また は非営利企業 • 売上額に関わらず、すべての保健医療サービス 提供者および連邦政府委託業者 • 連邦政府官庁 • 年間売上が300万豪ドル以下の小規模事業者 で、 - 個人情報の取引を行っているもの - より大規模の事業に関連しているもの - 2006年マネーロンダリング防止およびテロ 資金対策法の対象となる報告事業者。ただし、 同法あるいは同法下の規則や規制における「小 規模事業者」によって行われる活動に限られる (例えば、疑わしい取引や、1万豪ドルを超え る国際的な資金移動の報告など) 自動的に連邦プライバシー保護法の対象とはなら ない小規模事業者は、同法の適用を受けることを 選択することもできます。連邦プライバシー保護 法には10のナショナルプライバシー原則(NPP) が含まれており、同原則には組織が個人情報をど のように扱わなければならないかについての全般 的な原則が定められています。 25 | Doing Business in Australia 同原則は、個人情報のライフサイクルを網羅して おり、以下のものが含まれます。 • 個人情報(個人の本人確認を可能にするあらゆ る情報-氏名や住所など)およびセンシティブ 個人情報(個人の人種や民族、宗教、哲学的信 念など)の収集に関する規制 • 収集された個人情報の使用および開示に関す る規制 • 収集、利用もしくは開示される個人情報が安全 に保管され、個人情報が正確、完全、最新であ るようにする義務 • 個人が自己の個人情報に対してアクセスでき、 自分の情報を修正する機会を確実に与えられる ようにする義務 • 政府の発行する個人識別番号(納税者番号な ど)の使用に関する規制 • オーストラリア国内外の他の個人や組織に対す る個人情報の移転に関する規制 • 組織のプライバシー・ポリシーに個人がアクセ スできるようにする義務 組織の行為の中には、一定の場合、連邦プライバ シー保護法が規定する義務が免除されるものが複 数あります。例えば、その取扱いが雇用関係に直 接関係する場合の使用者による現在または過去の 従業員に関する記録の取扱い、メディア組織のジャー ナリズム活動における個人情報の収集および利 用、オーストラリアの登録政党や議員のために働 く委託業者による個人情報の収集および利用など があります。 州および準州政府の官庁およびその委託業者によ る個人情報の収集、利用、開示は、各州法および 各準州法による規制を受けます。また、保健医療 情報も、場合によっては、州や準州のレベルで規 制を受けることもあります。 組織は、プライバシーコミッショナーに特定のプ ライバシー規約による自主規制を申請することが できます。これが承認された場合、組織はNPPの 代わりに、自ら定めたプライバシー規約を遵守す るよう求められることになります。プライバシー 規約が承認された例として、市場・社会調査プラ イバシー規約や生体認証機関プライバシー規約等 があります。 2012年、(プライバシー保護の向上のための)プ ライバシー改正法が施行され、2014年3月12日か ら、13のオーストラリアプライバシー原則(APP) が従来のNPPに取って代わることは特筆に価しま す。 APPは、オーストラリア政府機関と民間組織の双 方の個人情報の取扱いを規制する、新しい統合的 なプライバシー原則です。APPは、NPPで既に課 されていた規制以外の規制も行っています。APP の規定内容の多くは、NPPとは大幅に異なったも のになっています。ダイレクトマーケティングの ための個人情報の使用・開示に関するAPP7や個 人情報の国外への開示に関するAPP8などがその 例です。 APPは、個人情報のライフサイクルに基づいて構 成されており、5つのグループに分けられていま す。 • パート1は、APP適用主体が、例えば、個人情報 をオープンで透明性のある方法で管理させるよ うにするなどして、個人情報のプライバシーに 配慮すべきことを定めています。(APP 1, 2) • パート2は、不招請の個人情報を含む個人情報 の取得についての原則を定めています。(APP 3, 4, 5) • パート3は、APP適用主体が、いかに個人情報 および政府関連の個人識別番号を取り扱うかに ついて定めています。パート3は、個人情報お よび政府関連の個人識別番号の使用・開示に関 する原則を含んでいます。(APP 6, 7, 8, 9) • パート4は、個人情報の完全性について定めて おり、個人情報の質とセキュリティに関する原 則を定めています。(APP 10, 11) • パート5は、個人情報へのアクセス・訂正につ いて定めています。(APP 12, 13) 26 | Doing Business in Australia 2014年3月12日以降、APP適用主体のの行為やプラ クティスが個人情報に関するAPPに違反していた 場合には、その行為やプラクティスは、個人のプ ライバシーを侵害するものとされます。 2014年3月12日から、インフォメーションコミッ ショナーは、例えば以下のような新たな権限を持 ちます(なお、これらの権限は、通常は、プライ バシーコミッショナーが行使します)。 • 強制執行可能な約束の取り付け、重大かつ反 復的なプライバシー侵害に対する民事制裁金 の賦課 • オーストラリア政府機関と民間組織の双方のプ ライバシーの取扱いに関する査定の実施 インフォメーションコミッショナーは、プライバ シー関連の紛争を取り扱う外部紛争解決スキーム を認証する権限も有しています。 通信傍受 電気通信(電子メール、ショート・メッセージ・ サービス(SMS)、マルチメディア・メッセー ジ・サービス(MMS)、MSNメッセンジャーや Yahoo!メッセンジャーなどのプログラムを使って 送信されたインスタントメッセージ、その他の形 式の通信を含みます)の傍受は、1997年連邦電気 通信法によって規制されています。 1979年電気通信法および電気通信(傍受および アクセス)法の下、電気通信キャリア(電気通信 網の所有者および運営者)および電気通信サービ ス提供者(インターネットサービスプロバイダな ど、電気通信網を利用してサービスを提供する 者)は、自己のシステムを傍受可能なものにして おく義務があります。 電気通信法は、電気通信キャリアおよび電気通信 サービス提供者が自己の電気通信網で行われた通 信の内容に関する情報を含む一定の情報を開示 することを禁じています。電気通信キャリアおよ び電気通信サービス提供者は、電気通信法に基づ き、法執行当局(警察当局等)に協力し、自己の 通信網や施設設備が犯罪に利用されないよう最善 を尽くす義務があります。 電気通信(傍受およびアクセス)法は、法執行当 局や諜報当局によって入手された令状に基づいて 傍受が行われる場合以外は、原則として、作成 者・送信者・予定された受信者の認識がない場合 に、電気通信を傍受すること(電話の会話を聞き 録音することなど)や蓄積された通信(電子メー ル、SMS、MMS等)にアクセスすることを禁じて います。電気通信(傍受およびアクセス)法は、 特定の警察当局または諜報当局に一定の電気通信 のデータを開示することを認めています。 さらに、電気通信(傍受およびアクセス)法は、 電気通信サービス提供者が、一定の「法執行」機 関または「傍受」機関(オーストラリア連邦警 察、州警察等)の請求により、情報のアクセスに ついての令状の発行前に、蓄積された情報を保存 することを義務付けています。オーストラリア連 邦警察は、外国から請求があった場合には、電気 通信(傍受およびアクセス)法に基づき、外国保 存通知を発行することもできます。 州および準州の盗聴器に関する法律は、会話の当 事者らの同意または適法な令状なく第三者が個人 的な会話を録音することを禁じています。州・準 州によっては、会話の当事者であってもかかる録 音が禁じられている場合があります。 自動的に連邦プライバシー保護法の 対象とはならない小規模事業者は、同法の 適用を受けることを選択することもできます スパム規制 2003年連邦スパム規制法は、「オーストラリアと 関係のある」不招請かつ営利目的の電子メッセー ジ(電子メール、SMS、MMS、インスタントメッ セージなど)の送信を禁じています。「オースト ラリアと関係のある」の意味は非常に広く、次の ようなメッセージが含まれます。 • オーストラリア国内から送信されるもの • オーストラリアに在住する個人または主たる営 業所がオーストラリアにある組織によって送信 されるもの(メッセージが実際にオーストラリ アから送信されたものであるかどうかにかかわ らない) • メッセージへのアクセスに使用されるコンピュー ター、サーバー、機器がオーストラリアにあ る場合 • メッセージを受信するアカウント保有者または 組織がオーストラリアにいる場合。 電話の音声やファックスで送信されたメッセージ は、スパム規制法の対象になりません。 営利目的の電子メッセージは、受信者の同意の上 で送信されなければならず、送信者を正確に示す 情報と、実用的な受信中止機能(ウェブサイト へのリンクなど)が含まれていなければなりませ ん。 同意は、明示的でも黙示的でも構いません。送信 者を正確に示す情報には、送信者への連絡方法も 含まれていなければならず、その情報は、メッセー ジ送信後30日間有効でなければなりません。受信 中止機能は、受信者が送信者からの電子メールを 将来受けないようにすることができるものでなけ ればならず、明確かつ顕著に表示されていなけれ ばなりません。 また、スパム規制法は、オーストラリア在住の個 人または同国で業務を行う組織が、アドレス収集 ソフトや収集したアドレスリストを供給、取得、 使用することを禁じています。 政府機関、オーストラリアの登録政党、慈善事業 団体、宗教団体、教育機関は、状況によってスパ ム規制法の規制の対象とならない場合がありま す。 スパム規制法違反には1日あたり最高110万豪ドル メッセージが営利目的とみなされるかどうかは、 メッセージの表示方法やメッセージに含まれてい る内容(リンク、電話番号、連絡先など)により ます。 27 | Doing Business in Australia に及ぶ罰金をはじめとした、厳しい金銭的制裁が 科せられます。 オーストラリアにおけ る労使関係の大部分は、 2009年フェア・ワーク法 によって規律されていま す 雇用と労使関係 オーストラリアの労働法 オーストラリアの労使関係を取り巻く環境は、主 に2009年フェアワーク法(連邦法)(フェアワー ク法)によって規律されています。 オーストラリアの使用者の大多数は、雇用関係 が、現代化された労使裁定、使用者と従業員団体 との間の交渉により締結される労働協約、または 個別の雇用契約のいずれによって規律されるかに かかわらず、フェアワーク法の規制の対象となっ ています。 すべての従業員は、フェアワーク法で定められて いる全国雇用基準(NES)と呼ばれる最低労働条 件を享受する権利が与えられます。NESの主要な 内容は以下のとおりです。 • 最低賃金ベースとカジュアルワーカー(臨時雇 い)への最低上乗せ賃金比率 • 1週間の通常労働時間は38時間を限度とする こと(ただし、契約によりこの数字を週の「平 均」労働時間とすることもできる。また、契約 に「合理的な超過勤務時間」を盛り込むことも できる) • 年間4週間の年次有給休暇 • (日数按分計算により順次発生する)年間10日 間の有給個人/介護休暇(本人の疾病休暇も含 む)。さらに、追加で2日間の無給介護休暇お よび2日間の有給忌引休暇 28 | Doing Business in Australia • 両親に対し、出産時、または子供を養子にする 際に、52週間の無給育児休暇。さらに両親のど ちらかが追加で52週間の無給育児休暇を申請す ることもできる。未就学児または18歳未満の障 害児の親または介護者は、柔軟な雇用形態を要 請することができる。これらは従業員が少なく とも12か月間継続して勤務していることが要件 であり、合理的なビジネス上の根拠があるとき には認められない場合もある。 • 連邦法、州法、または将来立法が予想される統 一法に基づく長期勤続休暇 • 従業員が、陪審員や緊急時のボランティア等の 「適格な社会奉仕活動」に従事している場合の 合理的な期間の無給社会奉仕休暇 • 12か月以上勤務している従業員を余剰人員削 減のために解雇する際の退職手当。手当の金額 は、従業員の勤続年数に基づき決定される。 「フェアワーク」法は、要件を満たす従業員に対 し、退職が厳しい(harsh)、不公平(unjust)ま たは不合理(unreasonable)であったことを示し た場合の、不当解雇に関する不服申立ての機会を 保証しています。しかし、不当解雇に対する不服 申立ては、解雇が「純粋な余剰人員の削減」のた めである場合にはできません。 解雇に関する規則を遵守している従業員15人以下 の小規模事業者もまた不当解雇禁止法制の対象と はなりません。同様に、有期労働契約または特定 の職務により雇用された従業員、短期臨時雇い の従業員、特定の期間のみ雇用された見習い従業 員、季節労働者、特定の給与上限(本稿執筆現在 は12万9,300豪ドル)を超える給与を得ている従 業員は、不当解雇に対する不服申立てができませ ん。フェアワーク法はまた、使用者が従業員(ま たは従業員となろうとする者)に対して、人種、 宗教、性的嗜好、妊娠の事実または年齢といった 従業員の属性を理由とする不利益行為を行ったと きに発生したと判断される職場での差別に関する 条項を含んでいます。 オーストラリアの使用者の大部分は フェア・ワーク法による規制を受けます 連邦法により、使用者は、従業員に代わって法定 の退職者年金積立金の支払いを行うことを義務付 けられています。 職場における健康と安全に関する法律は、就業中 の従業員の安全を守るための厳格な義務をすべて の使用者に課しています。 従業員関連の税制 2000年7月1日より新しい源泉徴収制、PAYG(payas-you-go)制度が導入されました。このPAYG制 度により、使用者は従業員へ支払う報酬から税金 を源泉徴収し、定期的にオーストラリア国税庁に 納付することが義務付けられます。源泉徴収され る金額は、国税庁長官の定める税率表に従って計 算されます。 29 | Doing Business in Australia 雇用に伴って従業員に提供される一定のフリン ジ・ベネフィット(付加給付)については、使用 者がその価値に応じたフリンジ・ベネフィット税 を支払わなければなりません。フリンジ・ベネ フィットの定義は幅広く、様々な特典、サービ ス、便益などが挙げられており、例えば、車両の 私的利用、無金利または低金利貸付、宿泊施設の 提供などが含まれます。 給与(ペイロール)税は、州税で、給与賃金の総 額が所定の金額を超えた使用者に対し、その総額 に応じて毎月課せられる税です。 課される税率は、州によって異なります。 通常、使用者の月額支払い賃金の総額が一定レベ ルに達すると、州が使用者に登録を義務付けま す。 連邦法は、使用者に対し、各従業員のために法定 の最低限の退職者年金積立金を支払うことを義 務付けています。使用者がこの義務付けられて いる最低限の積立てを行わない場合には、使用者 に退職者年金保証金(Superannuation Guarantee Charge)を支払う義務が生じ、これは損金算入す ることができません。 使用者が各従業員のために最低限支払わなければ ならない法定の退職者年金積立金は、現在のとこ ろ、従業員の純基本給の9.5パーセントです。純基 本給とは、ほとんどの従業員にとって通常の勤務 時間の就労に対する給与額を指します。 また、使用者が税額控除することができる従業員 のための退職者年金積立金拠出額には上限があり ます。上限金額は、各従業員の属する年齢層によっ て異なります。 経営幹部の雇用契約 オーストラリアでは、経営上層部の従業員は、経 営幹部用の特別の雇用契約を締結するのが通常で す。この種の契約は、非常に簡素なもので、その 目的は、正当な理由なく契約を解除する場合はど の程度の事前の通知が必要かという点や、給与以 外のフリンジ・ベネフィットについて使用者と従 業員が合意した内容などを記録することにありま す。 長年にわたり、国際的なビ ジネスパーソンは、オース トラリア経済の技能水準を 大幅に底上げしてきました ビジネス移住 長年にわたり、国際的なビジネスパーソンは、オー ストラリア経済の技能水準を大幅に底上げすると ともに、国内事業や輸出活動を拡大させ、オース トラリア人の雇用機会を最大限に広げてきまし た。国際的なビジネスパーソンがオーストラリア へ入国するには様々な方法がありますが、そのど れもがビザを必要とします。 オーストラリア政府は近年、ビジネス移住を奨励 し、ビジネス目的での入国を容易にするために法 制度、移民政策や手続に関して多くの改革を行っ てきました。これは、特にビジネス出張者とビジ ネス目的の短期居住者を対象としたものです。 30 | Doing Business in Australia すべてのビザ申請者は、健康・人格・国家安全保 障・外交関係に関する公益基準を満たさなくては いけません。これらの基準については、滞在期間 が長ければ長いほど、厳しい審査が行われます。 当法律事務所は現在、移民法についての業務は行 っておりませんが、この分野を専門とする法律事 務所とも提携を結んでおりますので、移民法に関 するご相談を希望される方には、そのような法律 事務所をご紹介することもできます。 いくつかの例外はあるもの の、開示書類が作成されて いなければ、金融商品の募 集は行うことができません 資金調達に関する法律 資金調達に関するオーストラリアの法制度は、発 行者にとって使いやすいものであると広く認めら れており、長年にわたって、市場環境の許す限 り、発行市場および流通市場における資金調達を 促進してきました。 オーストラリアにおけるすべての資金調達活動に 関する規制は、会社法に定められています。同法 は、金融商品がオーストラリアの発行者によって 発行されるか外国の発行者によって発行されるか にかかわらず、オーストラリア国内で募集される すべての金融商品に適用されます。「金融商品」 とは、株式、信託のユニット、パートナーシップ の持分、社債、その他多くの金融商品を含むもの として定義されています。かかる規制は、オース トラリアにおける金融商品の募集や申込みの勧誘 を対象としており、その結果、発行、販売、譲渡 がどこで生じたかにかかわらず適用されます。 31 | Doing Business in Australia 投資家への開示のない募集 は原則として不可 いくつかの例外はあるものの、金融商品の募集 は、開示書類が作成され、かつ、一定の場合に は同開示書類がオーストラリア証券投資委員会 (ASIC)へ提出されていなければ行ってはなりま せん。開示書類は、会社法が規定する内容につい ての要件を満たしていなければならず、かつ、い くつもの手続上の段階を踏む必要があります。 例外に該当しない限り、新規または既存の金融商 品の市場外での募集または売出しについては、投 資家への開示が義務付けられています。 既存の金融商品の売出しの際は、通常開示は求め られません。ただし、証券(すなわち株式や社 債)の発行から12か月以内の売出しや発行体の支 配者による市場外の売出しについては、投資家へ の開示が義務付けられる可能性もあります。オー ストラリアでは、証券に関する開示書類には、募 集情報文書(OIS: offer information statement)と 目論見書の2種類があります。 開示書類が必要となる場合、OISを用いることが できる場合を除き、原則として、目論見書を作成 する必要があります。目論見書には、完全目論見 書(full prospectus)、要約目論見書(short form prospectus)、取引固有目論見書(transaction specific prospectus)などの多様な種類のものがあ ります。 (b)要約目論見書 (a)完全目論見書 (c)取引固有目論見書 完全目論見書は、通常、オーストラリア証券取引 所(ASX)における新規株式公開の際に用いられ ます。会社法は、完全目論見書における一般的な 開示要件を定めていますが、その中には、次のよ うな事項について、投資家やその専門家アドバイ ザーが十分な情報に基づき合理的な評価をするこ とができるようにするために必要なすべての情報 が含まれています。 引固有目論見書においては、通常の目論見書と 取 比べて開示する情報内容についての要件が緩和さ れており、証券取引所に既に上場されている発行 体のみが発行することができます。 (i) 募集されている証券に係る権利および義務 (ii) 資産・負債、財務状態・実績、損益、証券の 発行体の将来の見通し 要約目論見書は、ASICに既に提出されている特定 の文書への参照部分があることを除き、完全目論 見書と同様のものです。すなわち、目論見書の中 にすべての詳細情報を記載する代わりに、単純に ASICに既に提出されている文書を参照することが 認められています。 OISは、最高500万豪ドルまでの資金調達について のみ用いることが可能で、開示する情報内容につ いての要件が緩和されています。 証券以外の金融商品の開示書類は、商品開示文書 (PDS: Product Disclosure Statement)と呼ばれ ています。 また、会社法には、金融商品の不招請勧誘や金融 商品の募集に関する広告についての規制も置かれ ています。 資金調達に関するオーストラリアの法制度は、 発行者にとって使いやすいものである と広く認められています 例外規定 金融商品の募集のうち、会社法上の例外に該当す る場合、または、ASICが一般的または個別的に例 外を認めた場合(例えば、一定の従業員インセン ティブ制度の場合など)については、開示書類を 提出する必要がありません。 かかる例外には、次のものがあります。 • 金融商品の募集に対して申込みを行う際に支払 う金額が50万豪ドルを超える場合、もしくは同 一人物が保有している同じクラスの金融商品に つき以前支払った金額との合計額が50万豪ドル 以上になる場合。 • 前2年度の総所得がいずれの年度についても25 万豪ドル以上の投資家、もしくは純資産が250 万豪ドル以上の投資家に対して募集を行う場 合。この場合は、有資格の会計士により所得ま たは資産の証明がなされることが必要です。 • その他の一定の知識・経験のある投資家や機関 投資家(ストックブローカー、一定の年金・生 命保険基金、証券投資目的で1,000万豪ドル以 上を運用する個人)に対して募集を行う場合。 32 | Doing Business in Australia また、外国発行者が対象となる可能性のある例外 規定や、公開買付けまたはスキーム・オブ・ア レンジメントに伴う発行に関する例外規定があ ります。適格なライツ・イシューや株主割当てに よる募集については、正式な開示書類なしに行 うことができます。同様に、適格なSPP (security purchase plan) に基づく既存株主向けの募集も正 式な開示書類なしに行うことができます。 これらの例外規定に表れているように、オースト ラリアの法制は、海外の多くの国と比べ資金調達 活動により有利なものです。かかる法制により、 比較的迅速に募集を行うことが容易になってお り、売出し(私募、ライツ・イシュー、株主割当 て)については、多くの場合、正式な目論見書や PDSなしに行うことが可能とされています。 責任 会社法に基づき証券の募集を行うことに関して、 発行者が責任を負う可能性があるのは、主に以下 の二つの場合です。 • 開示書類が必要であるにもかかわらず、開示書 類を出さずに募集を行った場合 • 開示書類において、記載に誤りがあり、または 必要事項の記載が欠落していた場合 違反があった場合には、民事上および刑事上の責 任を負う可能性があります。一定の場合には、発 行を行った企業の取締役、アドバイザー、引受人 も責任を負うことになる可能性があります。 企業買収に関するルール は、買収者がオーストラリ ア居住者であれ、外国投資 家であれ、等しく適用され ます 企業買収に関する法律 会社法に定められているオーストラリアの企業買 収に関するルールは、オーストラリア証券取引所 (ASX)に上場しているオーストラリアの会社や 信託、および構成員が50名を超えるオーストラリ アの非上場会社(あわせて「規制対象の事業体」 といいます)の持分の取得を規律しています。同 ルールには技巧的な部分もありますが、一般に買 収プロセスは非常に明確で、過去20年ほどは基本 的に同じ買収方法が使われてきました。 買収の結果、規制対象の事業体における議決権が 次のいずれかにあてはまる形で増加する場合に は、規制対象の事業体における持分を取得するこ とは禁じられています(ただし、ごくわずかの例 外があります)。 • 買収前20パーセント以下の議決権が買収後20 パーセント超に増加する場合 • 買収前20パーセント超90パーセント未満の議 決権が増加する場合 33 | Doing Business in Australia 議決権とは、広く、規制対象の事業体の議決権付 証券に係る自己または自己の関係者の持分をいい ます。 「持分」の概念は広範なものです。原則として、 関連する証券を保有しているか、または証券に係 る議決権の行使や処分をコントロールすることが できる場合には、「持分」を有していることにな ります。また、企業グループが保有する持分や、 第三者との契約を通じて保有する持分にまで規制 が及ぶことがあります。 企業買収に関するルールは、買収者がオーストラ リア居住者であれ、外国投資家であれ、等しく適 用されます。また、海外における買収であって も、結果的にオーストラリアにおける企業買収の 効果を生じさせる場合もあります。とりわけ海外 の買収対象が直接または間接にオーストラリア法 の規制対象の事業体における20パーセント超の議 決権を有する場合はこれにあたります。 この買収ルールの目的は、規制対象の事業体の支 配権をめぐる市場が、効率的で競争的であり、十 分な情報が提供されているようにすることと、証 券保有者全員に対して、提案されている買収に参 加する合理的で平等な機会を与え、かつ規制対象 の事業体における相当な持分の買収提案があった 場合にこれを考慮するため十分な情報と時間を与 えることにあります。 買収禁止規制についてはいくつかの例外があり、 これには、市場内外における公開買付け、裁判所 が承認したスキーム・オブ・アレンジメント、買 収対象の株主が承認した買収、選択的減資、6か月 毎に行う3パーセント買収などがあります。これら に加え、オーストラリア証券投資委員会(ASIC) は、個別の案件ごとに、買収ルールを除外した り、その運用を修正したりする権限を有していま す。 100パーセントの支配権取得が目標である場合に は、(本質的に強制的買収であるスキーム・オ ブ・アレンジメントと選択的減資を別にして)2種 類の強制的買収がありますが、通常このような少 数株主のスクイーズ・アウトは、買収者が買収対 象である種類の株式の90パーセントを保有するま では適用されません。 規制対象の事業体が上場している場合には、その 5パーセント以上の議決権を取得する際にも、ASX および関連する事業体への開示が義務付けられま す。企業買収委員会はまた、支配権に関わる取引 の文脈において、スワップのロング・ポジション と現物を合わせて5パーセントを超える場合には、 原則として、金融派生商品(デリバティブ)を通 じて保有されている経済的利益の開示を求めてい ます。 議決権とは、広く、規制対象の 事業体の議決権付証券に係る自己 または自己の関係者の持分をいいます 買収プロセスには、いくつかの規制当局が関わっ ています。 • オーストラリア証券投資委員会(ASIC):会社 法の遵守を規制する機関であり、会社法の規定 遵守を免除し、修正する権限を有します。ASIC は、その「買収における真実性」ポリシーに 基づき、買収者および買収対象企業の報告書類 の事後精査や、買収の過程で提出されたスキー ム説明文書や報告書類の審査を行うことがで きます。 • 企業買収委員会(イギリスの企業買収委員会に 倣ったもの):買収活動について、同活動が法 律の条文を文字どおり遵守しているかどうかと いう点と、それ以外に容認できない状況がない かどうかという点(買収ルールの精神に反しな いかどうかなど)の両面において審査を行いま す。容認できない状況があると判断した場合に は、幅広い種類の命令を出す権限を有します。 • オーストラリア証券取引所(ASX):上場して いる事業体が行うことを許されている活動につ いての規制の一端を担います。 • 外資審議委員会/財務省:承認の必要な外国投 資の審査を行います。 • オーストラリア競争・消費者委員会:独占禁止 法を所管しています。 34 | Doing Business in Australia ASICとASXは、上場している事業体が継続開示に 関する義務を遵守しているかどうかの監視も行っ ています。 証券交換による税の繰延べ 措置 オーストラリアの所得税に関して、買収対象の 証券保有者は、その売却により通常ならキャピ タル・ゲイン税(CGT)の課税対象となる場合で も、CGTロールオーバー(証券交換による税の繰 延べ)措置の適格を有する可能性があります。こ れは、かかる証券保有者が、買収対象の証券と引 き換えに、保有証券の価値に相当する買収を行う 事業体の証券を受け取る場合に生じます。 この証券交換による税の繰延べ措置は、実質的に は、買収対象の証券保有者が交換して得た買収を 行う事業体の証券を売却するまでキャピタル・ゲ イン税の納税義務を繰り延べるものです。証券交 換による税の繰延べ措置を受けるために満たさな ければならない主要な要件の一つは、当該証券交 換の結果、買収を行う事業体が買収対象の事業体 における議決権付証券の80パーセント以上を取得 することです。 所得税は、オーストラリア 連邦政府の税収入の約70% を占めています 税務全般 所得税は、オーストラリア連邦政府の税収入の約 70パーセントを占めています。そのうち、個人所 得税が48パーセント、さらに退職者年金積立金に 課される税が2パーセント、従業員のフリンジ・ベ ネフィットに課される税が1パーセントとなってい ます。法人所得税は、税収入の22パーセントを占め ます。残りの28パーセントは、主に商品サービス税 (GST)および関税になります。GSTは連邦政府 によって課され、オーストラリア国税庁(ATO) によって徴収されますが、GST収入の大部分は 州・準州政府に交付されます。 本稿では、オーストラリアの支店を通じて直接的 に、またはオーストラリアの会社における持分等 を保有することで間接的に投資を行う外国の事業 体に関連があると思われる税務上の主要な問題点 についてご紹介します。オーストラリアは、国際 的な租税条約を批准しており、適用される税務上 の取扱いに当該条約が影響を及ぼすことがありま す。 本稿で触れたもの以外にも、オーストラリアでの 投資に影響を与え得るその他の税務上の問題も数 多く存在しうることにご留意下さい。 35 | Doing Business in Australia 税の種類 連邦政府および州・準州政府が課する直接税およ び間接税には、例えば以下のような様々なものが あります。 (b) 州・準州政府が課す税 • (使用者に課される)給与税 • 土地税 • 印紙税 (a) オーストラリア連邦政府が課す税 • 賭博税 • 所得税 • 自動車税 • フリンジ・ベネフィット税 • 退職者年金積立金税 • 間接税(ガソリン、オイル、たばこおよび アルコールに課されるもの、関税) • GST • 鉱物資源利用税(MRRT)および石油資源 利用税(PRRT) 所得や利得に関する税制 オーストラリア居住者(短期居住者を除く)は、 原則として国内外で得られた所得およびキャピタ ル・ゲインに対し課税されます。個人が居住者で なくなった場合(その時点でキャピタル・ゲイン 税が課税される可能性があります)、個人や事業 体がオーストラリアの恒久的居住者となった場合 には、キャピタル・ゲイン税に関する特則が適用 されます。 オーストラリア居住者(短期・永住を問わない) とならない非居住者は、通常、源泉徴収の対象と なる配当、ロイヤリティおよび利子を除いて、オー ストラリア国内を源泉とする所得にのみ課税され ます。すなわち、非居住者は、国外源泉所得また はオーストラリアの課税対象資産ではない資産か ら生じるキャピタル・ゲインに対しては課税され ません。 (オーストラリアでの滞在期間にかかわらず)税 務上オーストラリアの「短期居住者」である、ま たは「短期居住者」となる個人に同様の措置が適 用される場合があります。短期滞在ビザ所有で短 期居住者の要件を満たす個人は、国外源泉所得に 対するオーストラリアでの課税は免除されます が、短期居住中に雇用または役務の提供により得 た所得に関しては課税されます。 さらに、適格短期居住者が(課税対象のオースト ラリア資産ではない)資産から得るキャピタル・ ゲインやロスは、オーストラリアの税務上認識さ れません。ただし、オーストラリアにおける雇用 または役務の提供に起因して得た株式やストッ ク・オプションから得た利得は例外となります。 雇用に基づく労務提供の全部または一部がオース トラリア国内で提供されている場合、株式やストッ ク・オプションの従業員割引は、割引によって得 た利益の性質および発生時期、株式やストック・ オプションによって得た利得その他の要素を勘案 して、一部課税対象となるか、課税が免除される ことになります。2006年以降、特定の資本資産の みが課税対象となるオーストラリア資産となって います(次ページにて詳述)。 短期居住者による、非居住者たる貸付業者に対す る利子の支払いは、利子に対する源泉徴収義務の 対象になりません。 税務会計年度と税率 オーストラリアで設立され、または、オーストラ リアに管理支配の中心があり、オーストラリア国 内で事業を行っているか、または、オーストラリ ア居住者株主によって議決権を支配されている場 合、その会社はオーストラリア居住者となりま す。 所得および利得の課税にかかる標準的な会計年度 は、6月30日を年度末とする12か月ですが、他の日 を年度末とする会計年度を採用するための承認を 得ることも可能です。通常海外の親会社が他の日 で終了する会計年度を採用している場合には、こ の承認を得ることができます。 36 | Doing Business in Australia 個人納税者には累進所得税率表が適用されます。 居住者たる個人納税者は、税率表で示されている 一定の金額までは非課税となります。非居住者 は、累進所得税率表の対象となりますが、この非 課税措置が受けられず、一方でメディケア負担金 の支払義務を負いません。2006年7月1日から個 人納税者の累進所得税率表における最高税率は45 パーセントですが、メディケア負担金を加えて、 多くの居住者の実質最高税率は46.5パーセントに なります。メディケア負担金の率は、2014年7月1 日から、0.5パーセント増加して2パーセントとな り、居住者の実質最高税率は47パーセントに増加 することになります。 (居住者・非居住者のいずれであっても)会社 は、一般の課税所得(ordinary income)もキャピ タル・ゲインも単一の平均税率で課税されること になります。2001年以来、法人所得税率は30パー セントに設定されています。 直近の政権交代に伴い、2015年7月1日から法人所 得税率を28.5パーセントに軽減することが提案さ れています。しかしながら、新政権の有給育児休 暇スキームの財源を手当てするため、500万ドル 以上の課税収入のある会社に、2015年7月1日から 追加で1.5パーセントの負担金の支払義務を課すこ とが提案されています。 外国企業がオーストラリアに支店(恒久的施設) を有し、かつ租税条約が適用される場合には、同 恒久的施設から生じる利益は、同恒久的施設が本 社その他の関連企業から独立して活動する別の事 業体であるかのように、同恒久的施設に帰属する ものとみなされます。外国企業は、恒久的施設に 帰属する利益に関し、通常の法人所得税率で課税 されます。 外国企業がオーストラリアに恒久的施設を持た ず、オーストラリアを源泉とする事業利益を得て おり、かつ租税条約が適用される場合には、通常 その事業利益はオーストラリアでの課税対象とな りません。 事業損金 居住者および非居住者である個人および会社の課 税所得は、査定所得(assessable income)から控 除可能な損金を差し引いて計算されます。パート ナーシップや信託も、同様の方法でネットの所得 を計算します。事業所得者には通常発生主義課税 が適用されますが、これは企業の財務諸表の作成 ルールから導かれるものではなく、特定の課税原 則に基づくものです。 控除可能な損金には、事業を行う上で生じた費 用、償却資産の減価償却費、後の年度における相 殺のために繰越しができる前年度以前の欠損金 (全額相殺されるまで永続的に繰越し可能)があ ります。ただし、事業損失とキャピタル・ロスは 区別されます。事業損金は、以降の年度の査定所 得および利得と相殺するために繰越しができます が、繰越キャピタル・ロスについては、以降の年 度のキャピタル・ゲインとの相殺だけに使うこと が許されます。欠損金の不正利用を防ぐために、 会社や信託の前年度欠損金には特別な規則および 制限が適用されます。 2013年6月30日に終了する税務会計年度に関する 会社の税務申告から適用される、新たな方法での 欠損金の繰戻しを可能とする新たな法案が最近成 立しました。この規定により、会社は2013年度の 所得に関して、100万ドルまでの損失を過去の年度 に査定された利益へ「繰戻し」することが可能に なります。しかしながら、新政権は、この繰戻し 措置を継続しないこと、繰戻し停止はMRRTの廃 止と関連していることを発表しました。 会社は(居住者・非居住者のいずれであっても)、 普通所得もキャピタル・ゲインも単一の平均税率 で課税されることになります キャピタル・ゲイン税 資本資産(CGT資産)は、課税事象(CGT事象) が発生し、キャピタル・ゲインやロスが認識され た場合に、キャピタル・ゲイン税(CGT)の対象 となります。「CGT資産」は幅広く定義されてい ますが、1985年9月20日以前に取得されたCGT資 産については、キャピタル・ゲインもロスも認識 されません。一定の免除措置が適用され、また、 様々なCGTロールオーバー(課税繰延べ)が認め られています。取引に対して所得税とキャピタ ル・ゲイン税がともに課される可能性がある場合 には通常の所得税を優先させる規則によって二重 課税は排除されています。 非居住者のキャピタル・ゲイン(ロス)は、一定 のオーストラリア資産に関してのみ認識されま す。2006年以前は、オーストラリアに関連する 資産と判定される資産分類リストがあり、その キャピタル・ゲインやロスが認識されていまし た。2006年以降は、課税対象となるオーストラリ ア資産のリストは大幅に縮小されました。現在、 非居住者に関連するCGT資産と区分されているも のは以下のものだけです。 • 課税対象となるオーストラリア不動産 • オーストラリア不動産の間接持分 • オーストラリアの恒久的施設に属する事業資産 • これらの資産を取得するオプション権その他 の権利 37 | Doing Business in Australia 不動産の間接持分とは、直接または他の事業体を 通じて保有されていて、資産の全部または主要部 分がオーストラリア不動産である中間事業体の非 ポートフォリオ持分(10パーセント以上)をいい ます。 課税対象となるオーストラリア資産に関するルー ルは、非居住者および外国信託の受託者に対して も適用されます。信託の外国投資家は、自らの信 託持分がオーストラリア不動産の間接持分を構成 するか否かについて確認する必要があります。 キャピタル・ゲインは、(年度内または過去の) キャピタル・ロスと相殺され、ネットのキャピタ ル・ゲインが査定所得に算入されます。ネットの キャピタル・ロスが生じた場合には、その後の年 度に繰越が可能ですが、将来のキャピタル・ゲイ ンとの相殺のみが可能です。 確定信託が保有する、課税対象となるオーストラ リア資産ではないCGT資産に帰属する利得が非居 住者の確定信託持分に関して生じた場合、当該持 分に関する特別な免除措置が適用されます。当該 確定信託の受託者もまた、関連する課税事象につ いて課税されることはありません。確定信託の資 産が、下位にある確定信託の持分である場合には 追加の要件が適用されます。 法人納税者のネットのキャピタル・ゲインは、通 常の法人所得税率で課税されます。12か月以上保 有した資産については、個人納税者は査定キャピ タルゲインの50パーセントの減額を受けられるこ とがありますが、法人納税者にはかかる減税措置 は適用されません。物価上昇に連動したキャピタ ル・ゲインの引きなおし計算と個人納税者に関す る平均化計算の制度は廃止されました。 キャピタル・ゲイン税については、様々な形で課 税繰延べが認められています。かかる措置は、特 定の資産や代替資産にかかるキャピタル・ゲイン またはロスを繰り延べたり、無視する効果をもた らします。このような課税繰延べの一部は、経済 的な所有の継続に基づく一定の要件を満たす組織 再編を促進する効果があります。株式と株式、ま たはユニットとユニットの交換や企業分割に関す る免税措置は、しばしば組織再編の重要な要素と なります。 2013年度予算において、2016年7月1日から発効す る、非居住者による(居住用不動産を除く)課税 対象となるオーストラリア不動産の処分に適用さ れるが、源泉分離課税ではない新たな源泉徴収制 度が提案されました。 2012年5月8日以降に非居住者および短期滞在者に 発生する利得に関しては、50パーセントの減額措 置の適用を受けるために一定の要件を満たす必要 があります。 オーストラリアの多国籍企業およびその外国子会 社(CFC)は、事業活動を行っている外国子会社 の非ポートフォリオ株式(10パーセント以上)の 売買または処分に関するキャピタル・ゲイン税の 減免措置が受けられます。 事業体に関する税 (a) 会社 (居住者か非居住者かを問わず)会社は、原 則として株主とは別個の納税主体として扱わ れます。2002年7月1日の連結納税制度の導入 によって、100パーセント所有のオーストラリ ア子会社および信託は、その選択により、所 得税に関して、単一の連結事業体として扱わ れ、各子会社が単に連結親会社の部門である とみなして課税を受けることができます。 連結納税は、オーストラリア居住者である単 一の持株会社が中間に存在しない場合に限 り、外国親会社によって完全所有されている グループも利用可能です(これを、「並列加 入連結」(MEC)グループといいます)。 連結納税を選択した場合、すべての100パー セント子会社は連結納税グループに含めなけ ればなりません。連結納税グループの組成、 新メンバーの追加、およびグループからの脱 退については、複雑なルールが定められてい ます。連結納税グループに関する税務上の欠 損金についても複雑な規制の枠組みがありま す。 連結納税グループ全体の第一次納税義務は、 連結親会社にあります。しかし、滞納の場合 には、連結納税グループ内部で納税義務の負 担を明確にする有効な契約が締結されていな い場合には、連結納税グループに含まれる子 会社も連帯して責任を負うことになります。 連結納税グループに関しては、現行の規定か ら生じるタックス・プランニングの機会を生 じさせるような税務当局が意図しない税務上 の利益を最小化することを目的とした改正が 行われ続けています。 例えば、MECグループにいくつかの税務上の 特典を与えた場合に生じる問題点を検討した 報告書が近時公表されています。この報告書 の目的は、MECグループおよび通常の連結納 税グループが同じ土俵で競い合うことを確認 することにあり、本報告書に基づいた法改正 は2014年7月1日から発効する可能性がありま す。 政権交代後の新連邦政府もこの改正を踏襲す ると思われます。 開会社と非公開会社との間の税務上の取扱 公 いの差異は維持されているものの、一律の法 人所得税率が適用されています。一般に、公 開会社(Public Company)とは、証券取引 所に上場されている会社(年度を通じて、払 込資本、議決権および配当請求権を少数の者 が直接または間接に所有している会社でな い会社)を指します。非公開会社(Private Company)とは、公開会社以外の会社を指し ます。 (b)信託 信託は、原則として納税者として扱われず、 信託所得の税務申告は必要ですが、信託所得 の分配については受益者段階で課税されま す。信託所得を受け取る権利を現に有する受 益者が存在しない場合や、非居住者を含む一 定の受益者の代わりに、受託者が課税される 場合もあります。かかる制限の下、パス・ス ルー課税は、確定信託、裁量信託、およびユ ニット・トラストが信託収入を全額分配する 場合に適用されます。しかしながら、一定の 法人ユニット・トラストおよび公的投資信託 は会社とみなして課税されます。 (c) 退職者年金基金 退職者年金基金、認可貯蓄基金および退職者 共同年金信託は、特別な税制の対象となりま す。これらの区分は、オーストラリア金融監 督庁による居住者の退職者年金基金に関する 規制に連動しています。 38 | Doing Business in Australia (d) パートナーシップ 会社が支払う配当 パートナーシップは、情報提供のため事実上 税務申告を行うことが義務付けられています が、パス・スルー課税の取扱いを受けます (パートナーシップの損益は、パートナーの 段階で課税されます)。 インピュテーション方式により、オーストラリア の居住者である会社が支払った配当については、 当該配当利益について法人レベルで既に支払われ た税額に対応するインピュテーション・クレジッ トの税額控除を受けることができます。会社は、 配当の支払い前に、利用可能なインピュテーショ ン・クレジットのレベルに応じ、配当を完全税額 控除にするか一部税額控除にするかを決定しま す。税額控除可能な配当を受け取った株主は、現 金で受け取った配当と、これに付随するインピュ テーション・クレジットの額を共に査定所得に含 めなければなりません。この後、インピュテー ション・クレジットと同額の税額控除を受けるこ とができ、これによって株主が配当について支払 う税額が軽減され、またはゼロになります。 パートナーシップ持分やパートナーシップの CGT資産に関するキャピタル・ゲインおよびロ スは、パートナーが個別に得たものとして取 り扱われます。一定の類型の外国ハイブリッ ド型リミテッド・パートナーシップや有限責 任会社も、パートナーシップと同様の取扱い を受けられることがあります。ただし、1992 年から、「法人リミテッド・パートナーシッ プ」であるリミテッド・パートナーシップ は、法人として課税されています。 (e) 合弁事業 合弁事業とは、一般的には、参加者が共同で 合弁事業に対して何らかの出資を行い、各参 加者が合弁事業から得られた成果を分配する ものをいいます。 したがって、共同で所得を受け取る場合、合 弁事業の参加者は納税パートナーとして課税 されます。各合弁事業参加者が合弁事業の収 益から各々の個別の持分から生じる取り分を 個別に得る場合には、別々の納税者として取 り扱われます。 株主は、通常、この税額控除が配当に対する支払 税額よりも多い場合には、その分の還付を受けら れます。 配当の支払先が個人、信託、パートナーシップ、 退職者年金基金と関連事業体、生命保険会社、法 人株主のいずれであるかにより、異なるルールが 適用されます。 オーストラリアの居住者である会社から 受け取った配当については、インピュテー ション・クレジット(税額控除)相当額の 税額控除を受けることができます 適格配当を受け取った会社その他の法人納税者 は、個人と同じ取扱いを受けます。つまり、適格 配当については、それに付随するインピュテーショ ン・クレジットの額を加えて配当総額を算出し、 これを会社の査定所得に含めてから、インピュテー ション・クレジット分の税額控除により支払法人 税額を減額することとなっています。しかし、会 社その他の法人納税者は、余った税額控除の還付 を受けることはできません(ただし、状況によっ ては、余った税額控除額が税務上の繰越欠損金に 振り替えられる可能性があります)。ただ、配当 受取会社が税額控除をその株主に対して提供する 事業体でもある場合には、受け取ったインピュテー ション・クレジットと同額のインピュテーション・ クレジットを受取会社の税額控除勘定に計上する ことができ、受取会社は同様に適格配当を行うこ とができます。 配当利益に付すことのできる税額控除の範囲につ いては、特別な規則があります。いわゆる「ベン チマーク」ルールに基づき、事業体が同一期間内 に行う適格配当はすべて、同一の割合の税額控除 を付さなければなりません。このルールの目的 は、株主に対する利益配当に付する税額控除に一 貫性をもたせ、税務上有利になるように税額控除 を調整することを防ぐことです。このルール以外 にも、税額控除の操作を防ぐことを目的とする様々 な規制があります。 39 | Doing Business in Australia 居住者たる会社が非居住者たる株主に対して配当 を支払う場合、税額控除を付すことのできない部 分についてのみ、源泉徴収税を支払わなければな りません。つまり、非居住者たる株主は、インピュ テーション方式の税額控除や払戻しを受けること ができない代わりに、受領した配当のうち本来イ ンピュテーション方式の税額控除の適用される部 分については、源泉徴収税が免除されることにな ります。 源泉徴収税は、インピュテーション方式の税額控 除が適用されない部分の配当の総額に対して課税 されます。通常の配当源泉徴収税の税率は30パーセ ントですが、租税条約批准国の居住者に対して支 払われる配当については、同条約に規定されてい る税率(通常は15パーセント)が適用されます。 オーストラリアの会社から非居住者のオーストラ リア恒久的施設へ支払われる(つまり、支店に帰 属する)配当は、(税額控除されるか否かに関わ らず)配当源泉徴収税の対象外とされています。 代わりに、かかる配当は非居住者の査定所得に含 まれ、査定の上課税されることになります。な お、このうち適格配当に該当する部分について は、税額控除による税の減免が受けられます。 現在、「導管外国所得(CFI: Conduit Foreign Income)」制度が、オーストラリア法人が非居住 者である株主に一定の配当を行う場合に適用され ています。導管外国所得に該当する場合、配当は 査定所得とされず、税額控除を受けられない配当 部分については、配当源泉徴収税の対象外とされ ています。導管外国所得は、オーストラリアで通 常、非居住者たる会社が課税されない海外での所 得や利得に限定されています。例えば、海外支店 収入、海外の非ポートフォリオ配当(少なくとも 10パーセントの議決権を有する場合)、外国法人 の非ポートフォリオ株式の売却から得られる利得 などが挙げられます。 金融取引に関する税制 簡単に言うと、「金融取引」とは、納税者が金銭 的な金融利益を受領する権利または支払う義務を 有するアレンジメントをいいます。 金融取引に関する規則の下では、原則として金融 取引から生じる利得全体が課税対象となり、損失 全体が損金算入の対象となります(ただし、い くつかの例外もあります)。利得や損失は、当該 規則に規定されている方式の一つに従い、各金融 取引の全期間にわたって通算されることになりま す。 金融取引に関する規則は、2010年7月1日以降の会 計年度に納税者が開始する金融取引および「適格 証券」に該当する一定の金融取引に強制適用され ます。納税者はまた、既存の金融取引を一括で当 該規則の適用対象とすることも可能です。この規 則の適用に関しては多くの例外があります。 負債(デット)と資本 (エクイティ)の区分 会社における資本と負債の区分、事業体における 負債の区分は、様々な税務上の目的に応じて定め られた負債・資本区分のルールによって行われ ています。このルールには、資本であることを確 定するための「資本テスト」と、負債であること を確定するための「負債テスト」が含まれます。 もし、特定の資金調達手段や会社に対する権利が 両方のテストの条件を満たす場合には、「負債テ スト」が優先され、負債として扱われます。ただ し、会社に対する株式ではない権利が資本として 取り扱われる場合もあり、また逆に、株式という 法形式を有する権利が資本ではなく負債として区 分される場合もあります。 負債と資本の区分は、証券から得られる金銭的給 付を税務上利子として扱うか、または配当として 扱うかを決するという点において重要です。どち らの取扱いを受けるかによって、かかる給付を査 定所得に入れられるかどうか、利益配当に対する 税額控除、利子の損金算入、過少資本に関する措 置(後述)、関連する源泉徴収税の適用などの点 で違いが出てきます。 オーストラリア企業の負債 (デット)による資金調達 利子に対する源泉徴収税(IWT)は、オーストラ リアの居住者が、オーストラリアにおける事業の 経費として、オーストラリアに恒久的施設を持た ない非居住者である貸付人に対して利子を支払う 場合に課税されるものです。また、かかる利子に 対する源泉徴収税は、非居住者である借入人が、 そのオーストラリア支店の経費として、非居住者 である貸付人に対して利子を支払う場合にも課税 されます。 さらに、非居住者である借入人が、オーストラリ アにおける事業の経費として、オーストラリア居 住者の外国にある恒久的施設から借り入れた金銭 に対して利子を支払う場合についても、源泉徴収 税の支払義務が生じます。 支払われた利子については、その総額に対し、一 律に10パーセントの税率が課せられます。ほと んどの場合、この税率は、租税条約によって影響 を受けません。しかし、一部の租税条約は、外国 の銀行や金融機関に対して支払う利子に関する免 税措置を規定しています。利子には、利子として の性質を帯びた金額と、利子とみなされる金額が 含まれます。支払いの性質を判断する際には、負 債/資本テストが使われます。また、外国銀行の 支店が、海外の本店から借入れを行う場合、優遇 IWT税率5パーセントが適用されます。 40 | Doing Business in Australia しかしながら、例えば、利子が実際に帰属する者 (貸付人)が、オーストラリアに恒久的施設を有 し、かつ利子が実質的にかかる恒久的施設と関係し ている場合には、かかる利子の支払いについては、 オーストラリア国内で通常の査定によって課税さ れ、利子に対する源泉徴収税の対象にはなりませ ん。一定の公募債やグローバル債等に関する利子に ついては、免税措置を受けることも可能です。 過少資本税制は、容認できる範囲の負債と資本の 比率(ギアリング)に基づいて、利子やその他の 負債に関する経費の損金算入に一定の制限を設け ています。過少資本税制の目的は、オーストラリ アの企業が、資本による資金調達と比較して、負 債による資金調達の税制措置に過度に依存するこ とを防止する点にあります。 この税制は、(支店を通じて)オーストラリアに 直接投資する外国企業、外国資本が支配するオー ストラリアの事業体、および支配的な外国投資を 外国で行っているオーストラリア企業に適用され ます。この税制の下では、オーストラリア資産取 得のための資金調達に使った負債が所定の限度を 超える場合には、査定所得から控除可能な負債に かかる損金算入ができなくなります。 また、この税制は、外国資本が支配するオース トラリアの事業体と、オーストラリア資本が支 配する外国の事業体とを、かかる事業体が認可 預金取扱機関(ADIs: Authorised Deposit-taking Institutions)かそうでない事業体(ADIでない金 融機関を含む)かという点を考慮に入れつつ、区 別して規制しています。なお、かかる規制は、上 限ルールに基づき、事業体(関連企業を含む)の1 年度あたりの負債に係る損金算入額が25万豪ドル を超える場合にのみ適用されます。2014年7月1日 以降に開始する所得税税務会計年度に関しては、 この上限を200万豪ドルとすることが提案されて います。 また、許容される負債の最高額の計算について は、法人の種類によって異なるルールが適用され ます。ADIでない外国資本が支配するオーストラ リアの事業体という典型例では、許容される負債 の限度額は、一定のセーフ・ハーバー負債額と独 立企業間負債額のどちらか高い方の金額となりま す。セーフ・ハーバー負債額とは、原則として、 負債対資本の比率が3:1となる金額です。 許容される最大負債額を超えた場合は、許容され る最大負債額を超えた部分に比例する限度で利子 の損金算入ができなくなります。ここでは、保 有する権利を分類する負債/資本テストが適用さ れ、また関連会社について規制する様々な規則が あります。また、連結企業グループが含まれてい る場合、過少資本税制は、連結企業グループまた はMECグループの本社に適用されることになりま す。 2013年度予算において、過少資本税制を厳格化 し、その執行効率を改善するための改正が提案さ れていることに留意すべきです。2014年7月1日 から適用予定の改正提案には以下が含まれていま す。 • 利子損金算入限度額を25万豪ドルから200万豪 ドルに増加する • セーフハーバー債務上限を75パーセントから60 パーセントに減少させる(すなわち、負債資本 比率を3:1から1.5:1とする) 2013年11月現在、これらの改正にかかる法案は未 だ立案されていませんが、新政権はこの改正を踏 襲するものと思われます。 大半の納税者の取引に関する為替差損益につい て、包括的な課税措置が適用されています。同制 度は、「為替差損益の実現事象」が生じたときの 利益の査定所得算入と損失の損金算入についての 取扱いを定めています。また、この制度は、税務 上、外国通貨建ての金額を豪ドルまたは適切な機 能通貨(functional currency:企業が主に活動する 国・地域の通貨)に換算する際の一般的な換算ルー ルも定めています。 外国会社に支払うロイヤリ ティ 特許権等のロイヤリティ(使用料)が、オースト ラリアの会社から非居住者に支払われる場合、 30パーセントの通常税率、または租税条約が適 用される場合には低い税率(通常は5-15パーセン ト)の源泉徴収の対象となります。しかしなが ら、特許権等のロイヤリティの実質的受益者が、 恒久的施設を通じてオーストラリアで事業を営 み、ロイヤリティの支払いが発生する資産または 権利が実質的に当該恒久的施設に関連している場 合には、当該ロイヤリティはオーストラリアでの 査定によって課税されます。 PAYG制度の下で、多くの事業体は法人所得税、 フリンジ・ベネフィット税及びGSTを四半期ごとに支払います 2003年から、源泉徴収課税制度が非居住者による 支払いのうちある種のカテゴリーにも適用される ようになりました。この改正の目的は、従前の源 泉徴収のカテゴリーから除外されていた非居住者 の特定のカテゴリーの査定所得を源泉徴収制度の 枠内に取り込むことです。非居住者である事業体 に対する支払いのカテゴリーは、源泉徴収の税率 とあわせて規則によって規定されています。2004 年7月1日より施行される最初の3つのカテゴリー は、カジノ賭博接待のための支払い(3パーセン ト)、娯楽およびスポーツ活動のための支払い (通常税率)、および、建物、工場、設備の建 設、設置または整備のための契約に基づく支払い (5パーセント)です。 移転価格税制 国際的な移転価格(利益移転)の問題は、外国の 事業体とオーストラリアの事業体または支店との 間で取引される商品やサービスにつき独立当事者 間価格ではない価格を付することにより、課税対 象利益がオーストラリアの課税権の外に移転され る場合に発生します。オーストラリアの事業体 が、外国事業体や外国特許に対して支払う対価、 海外本店とオーストラリアの支店間の取引価格が 過大な場合、または受領する支払額が不十分な場 合に、オーストラリアの税額が減少します。低利 子または無利子の貸付けも利益移転の効果をもた らす場合があります。 41 | Doing Business in Australia 一定の状況下において、国税庁長官は、税務上、 (広義の)国際的な契約に基づく資産やサービス の供給や取得に関し、独立当事者間価格を擬制す ることができます。 納税者にとっては、許容されうる価格算定方法を 補強する継続的な文書化(文書は関連する納税申 告書の提出時までに作成される必要があります) がきわめて重要です。すなわち、オーストラリア の事業体または支店が非居住者から受け取る商品 やサービスの対価として支払う価格は、許容され うる価格算定方法に従って独立当事者間基準によ り設定されたことを示す文書により実証できるよ うにしておくべきです。 近時、以下のものを含むいくつかの改正がなされ ました。 • OECD文書の受容 • 継続的文書化の義務を果たさない場合、納税者 は、「合理的な主張を行う地位」を有さず、追 加の税務調査がなされた際には、税務上のペナ ルティを支払う義務を負うこと 租税通則法 ペイ・アズ・ユー・ゴー(PAYG)制度という統一 的な源泉徴収による分割払いの納税制度が、使用 者から従業員への支払いを含め、多数の源泉徴収 の支払いに適用されています。 従業員の賃金や給与から(源泉徴収税額を)控除 することが義務付けられている使用者は、オース トラリア国税庁(ATO)でPAYG源泉徴収登録を 行い、またGST登録をしている場合は事業活動報 告書(BAS)により、GST登録をしていない場合 は収入報告書(Income Activity Statement)によ り、定期的に源泉徴収に関する義務についての申 告を行わなければなりません。 加えて、商品やサービスを受け取る企業はすべ て、供給者が供給に関するインボイスその他の書 類にオーストラリア事業者番号(ABN)を表示し ていない場合は、最高税率相当額にメディケア負 担金を加えた金額を源泉徴収することが義務付け られています。ABNは、他の企業、およびATOそ の他の連邦政府機関との商取引で使われる単一の 識別番号です。短期間であっても、オーストラリ アに関連する供給を行う外国企業や、オーストラ リアで事業を行う外国企業は、通常ABNの申請資 格があります。 納税者番号(TFN)制度は、ABNを持たない個 人納税者の給与や賃金、投資所得など一定の区分 の所得に対する課税について適用されます。有効 なTFNが提示された場合には、一定の割合で源泉 徴収されますが、TFNの提示がないと最高税率お よびメディケア負担金の合計額で源泉徴収されま す。 ほとんどの企業では、PAYG分割納付金を四半期 ごとに支払うことが義務付けられていますが、源 泉徴収額の多寡により、その申告期間が異なりま す。源泉徴収額が大きな企業は、より頻繁に定期 的な支払いをすることが義務付けられます。 PAYG制度の下で、多くの事業体は法人所得税、 フリンジ・ベネフィット税およびGSTを四半期ご とに支払い、その金額をBASに記載して申告しま す。しかしながら、2013年度予算において、大企 業のPAYG分割納付を月次とする方向性が提案され ています。 登録されている事業体の支店は、PAYG源泉徴収 を行う支店として登録することが可能です。かか る登録を行った支店は、事業体の本体とは別個の BASを提出し、当該支店に関するPAYG源泉徴収 に関する義務についての申告を行うことができま す。 一般に、非居住者は、オーストラリアを源泉とす る、(非課税所得や源泉徴収課税対象の所得以外 の)所得があった場合は、年に一度、所得税の申 告をすることが義務付けられています。この場合 は、自己査定制度が適用されます。 フリンジ・ベネフィット税 フリンジ・ベネフィット税(FBT)は、様々なフ リンジ・ベネフィット(付加的給付)に関して、 受益した従業員ではなく、使用者に独立して納税 義務を課す連邦税です。FBTは特定のフリンジ・ ベネフィットについて、それを現金に置き換えた 場合の税額と同等の結果になるように設計された 数式に基づいて計算された課税価格の総額に対し て課されます。当該総額に適用されるFBTの税率 は、46.5パーセントです。一般に、使用者は、フ リンジ・ベネフィット供与のための費用および FBT支払額を、所得税の計算上控除することがで きます。 使用者による自己査定および四半期ごとの分割納 付に関しては別途のルールが適用されます。FBT に関する課税年度は4月1日から翌年の3月31日まで と定められています。 給与税 給与税は、それぞれの州または準州で規定された 最低水準額を超えた従業員の年間給与に対して、 一定の税率で課される州・準州の税です。使用者 は、該当する州または準州の税務当局に登録する ことが義務付けられています。 42 | Doing Business in Australia 各州・準州の給与税は似通っていますが、若干の 違いがあります。税率は4.75パーセントから 6.85パーセントと幅があります。請負人に対する 支払いに関する幅広い規定、企業グループの従業 員に対する給与の合算のための使用者企業のグルー プ化に関する規定に関して実務上難しい問題が生 じています。 印紙税 印紙税は、オーストラリアのすべての州・準州に おける不動産またはその他の財産の移転に課され る税です。印紙税の税率は法域ごとに異なり、印 紙税の対象となる財産の価値によって、スライド 制で課されます。印紙税の最高税率の平均は、約 5.5パーセントです。 関税および物品税 関税は、物品がオーストラリアに持ち込まれたと きに発生します。関税の支払いは、通常、商品に 適用される関税に詳しいオーストラリアの通関業 者によって取り扱われ、通関業者は、オーストラ リア税関に対して関税を支払い、商品の通関手続 を代行します。 関税は、一般に商品の税関価格(custom value) に基づいて課されます。税関価格は、オーストラ リア法に基づいて決定され、必ずしも商品の販売 価格と同じではありません。 確定的な関税の額は、オーストラリア税関が定め た詳細な製品分類に基づいて決定されます。 物品税は、オーストラリア国内で生産または製造 される特定の物品(たばこ、石油製品およびアル コールを含む)に課される税です。 商品サービス税(GST) オーストラリアのGSTは2000年7月1日から施行さ れ、世界中の多くの国や地域で見られるGSTや付 加価値税に類似した広範囲にわたる消費税です。 オーストラリアのGSTは以下のものに対して10パー セントの標準税率で課されます。 • オーストラリアに関連し、事業者が対価を得 て業として供給する大部分のもの(例えば、物 品、サービス、情報、権利および不動産) • 特定の物品の輸入 商品やサービスなどの供給 に対するGST GSTが課されるのは、供給を行う事業体(個人、 会社、パートナーシップおよび信託を含むように 定義されています)がGST登録を行っている、ま たは登録が義務付けられている場合に限られま す。一般的に、「オーストラリアと関連がある」 供給に関する直近12か月の年間取引高、または 今後12か月間の年間売上高見通しが、7万5000ド ルを上回る場合にGST登録が義務付けられていま す。 登録事業体による供給が対価を伴う場合、当該供 給は一般に課税対象となります(つまり、当該供 給についてGSTの支払義務が生じます)。当該供 給に係るGSTは供給を行った事業体が(GST込み で)受け取った対価の11分の1です。通常、課税対 象となる供給に課されるGSTは、供給を行う事業 体にATOに対して納付する義務があります。もっと も、「リバース・チャージ」(任意のリバース・ チャージを含む)や非居住者による居住者たる代 理業者による供給などの例外があります。これら の例外については後述します。 関税は、物品がオーストラリアに 持ち込まれたときに発生します 事業体は、オーストラリアと関連のない供給に関 しては、GSTを支払う義務がありません。しかし ながら、一定の場合には、オーストラリアに関連 してはいないものの、オーストラリアの登録事業 者向けの供給に課せられるGSTについては、供給 の購入者に納税義務が発生する場合(リバース・ チャージ)があります。事業体の供給が「オース トラリアと関連がある」かどうかは、その事業体 が行う供給の性質と密接に関係しています。供給 されるものが、物品か不動産か、あるいはその他 のものかによって適用されるルールも変わってき ます。 一定の場合、課税対象の商品やサービスの供給を 取得する事業体は、取得価格に対するGST相当額 につき、仕入税額控除(input tax credits)を受 けることができます。事業体は、通常の業務の過 程で商品やサービスを購入し、かつオーストラリ アのGST登録をしているか、または登録が義務付 けられている場合、仕入税額控除を受けることが できます。しかし、商品やサービスの取得がGST 非課税(input taxed)の供給と関連するものであ る場合や、個人的または家庭用の性質のものであ った場合には、登録事業体のかかる商品やサービ スの取得に関する仕入税額控除は制限を受けるこ とがあります。GST登録を義務付けられていない 外国会社(例えば、オーストラリアで事業を行っ ているが、登録が義務付けられている取引高に達 していない会社)が、仕入税額控除を申請する場 合、GST登録を行う必要があります。 43 | Doing Business in Australia 一般的に、登録事業体は、供給に課せられるGST を月毎または四半期毎にATOに納付し、事業活動 報告書(BAS)に記載する必要があります。同時 に、登録事業体は、ATOから業務上の仕入価格に 含まれるGSTに係る仕入税額控除の還付を受ける ことができます。 GST非課税供給とGST免税供 給 税率ゼロまたはGST免税(GST-free)と分類され る供給があります(特定の医療保険、食品、教 育の供給、輸出、継続事業の売却などを含みま す。GST免税の供給に関しては、GSTは課せられ ません。オーストラリアから輸出される物品や サービスの大部分は、GST免税になります。GST の免税措置は、国際輸送(人と物の両方)に関連 する一定の供給に対しても適用されます。 GST非課税(input taxed)の供給(例えば、一般 的な保険を除く金融サービスや、既存の住宅の販 売や賃貸など)に関しても、GSTは課せられませ ん。ただし、事業体は、GST非課税供給に関連す るいかなる商品やサービスなどの取得について も、仕入税額控除を申請することができません。 輸入品に対するGST 事業体が、オーストラリアに「国内消費向けの物 品を輸入」した場合には、その事業体は「課税対 象となる輸入」を行ったことになり、GSTが課税 されます。この場合、その事業体が、物品の「所 有者」として、オーストラリア税関に対して申告 を行うこととなります。ほとんどの場合、登録輸 入業者は、課税対象輸入についてGST課税額に相 当する仕入税額控除を受けることができます。オー ストラリアに物品を輸出する外国企業が、オース トラリアでGST登録をする意図がない、または登 録を義務付けられていない場合には、オーストラ リア国内消費向けの物品を実際に持ち込む者が確 実にこの仕入税額控除を受けられるように注意を 払う必要があります。 GSTに関するその他の税制 一定の場合、外国企業のGSTに関するコンプライ アンスコストを大幅に軽減するいくつかの方法を 用いることができます。特に、外国企業は、以下 の負担を軽減することができる場合があります。 • オーストラリアでのGST登録 • GST納税に付随する法令遵守義務 • GSTに関する債権者リスク 例えば、一定の条件を満たす場合、オーストラリ アで事業を営んでいない非居住者が課税対象とな る供給を行う際に、オーストラリアでその供給を 受ける者が非居住者の供給に係るGSTの支払いを 負担する(リバース・チャージ)旨の契約を締結 することが可能です。かかる契約が締結された場 合、オーストラリアで供給を受ける者は、当該供 給に係るGSTが、その取得で認められる仕入税額 控除よりも大きい場合にのみ、その差額を納付す るだけでよくなります。このような契約は、非居 住者たる供給者にとって非常に有益です。輸入品 が供給される契約条件に関して、他のアレンジメ ントが利用できる場合もあります。 天然資源税 既に述べた税に加え、天然資源(鉄鉱石、石炭、 石油および石油派生物)の採掘に従事する事業体 は、オーストラリアの清算つの「資源」税:1997 年に導入された石油資源利用税(PRRT)または最 近導入された鉱物資源利用税(MRRT)のうちい ずれか1つの課税対象となり得ます。 鉱物資源利用税 (MRRT) MRRTおよびPRRTは、大まかにいって、ノルウェー の北海油田の石油に課されている資源利用税のよ うな他国における利用税に相当する資源の「利用」 に課される税です。 MRRTの計算 これらの税は類似点を多く含んでおり、収入と経 費は大まかにいって同じ方法で計算されていま す。両税についての要点をまとめた簡潔な表を 46ページにまとめています。 44 | Doing Business in Australia 長い政治的な議論を経て、2012年鉱物資源利用税 法は、2012年7月1日から、オーストラリア国内の 石炭・鉄鉱石プロジェクトにMRRTを課していま す。 MRRTは、「鉱山プロジェクト権益」を有する事 業体に適用され、各「MRRT年度」(7月1日から 翌年6月30日までのオーストラリアの税務会計年 度と同一)ごとに、「鉱山利益」から「MRRT控 除」を差し引いたものに、適用される「MRRT 率」(25パーセントの「採掘控除」を含む30パー セントと規定されており、実効税率は22.5パーセ ント)を乗じて計算されます。MRRTは、MRRT 年度におけるMRRT利益が7,500万ドルを超える鉱 山業者にのみ課され、MRRT利益が7,500万ドルか ら1億2,500万ドルの範囲内の鉱山業者には累進税 率が適用されます。 「鉱山プロジェクト権益」は、単独であるか他の 事業体との共同であるかにかかわらず、「鉱山ベ ンチャー」の成果を得る権利です。鉱山プロジェ クト権益は、石炭鉱山運営の一部として必要かつ 統合された地下の石炭ガスおよび石炭鉱山メタン の採掘を含む、石炭または鉄鉱石(磁鉄鉱を含 む)の採掘を目的とするものでなければなりませ ん。 鉱山からの収入 複数の製品を産出するプロジェクトにおいて、石 炭または鉄鉱石の偶発的な産出に帰せられるべき 収入および経費はMRRTの算定上査定されます。 しかしながら、実務的には、他の鉱物を主たる目 的とするプロジェクトに付随して石炭または鉄鉱 石が産出した場合、7,500万ドルの要件を下回る鉱 山業者に該当することが多いと思われます。 • このような石炭または鉄鉱石を用いて生産され た物の最初の供給、使用または輸出がなされた 場合(既に「最初の供給」が行なわれている場 合を除く) 鉱山業者は、石炭または鉄鉱石にかかる以下の 「鉱山収入事象」が発生した場合に「鉱山収入」 があるとされます。 • 鉄鉱石または石炭の最初の供給がオーストラリ アで行われ、またはオーストラリアからの輸出 が行われた場合 石炭・鉄鉱石が、生産された時点および評価基準 点、具体的には粗鉱保管場所から切り出されたと き(すなわち鉱山の門をくぐったとき)またはガ スであればガス井の出口において、鉄鉱石または 石炭に「合理的に帰属可能な」金額となります。 MRRTから控除できる費用 控除適格鉱山費用は、プロジェクトにおける「上 流鉱山運営」のため(すなわち「下流」運営では ない)に支出する必要があった費用をいいます。 この費用は、(発生した年度に)直ちに控除する ことができます。費用は、収入に起因するもの か、資本に起因するもののいずれであってもかま いません。 しかしながら、プロジェクトの権益を取得するコ ストそれ自体は、「非適格費用」とされ、控除が 認められません。(利子のような)資金調達に関 する費用、分割払いに関する費用、管理業務に使 用する隣接していない土地や建物などの取得費用 もまた非適格費用とされています。 州の(地方)政府に対して支払われるロイヤリティ もまた非適格費用です。しかしながら、鉱山業者 は支払ったロイヤリティに関する税額控除を行う ことができ、未使用の税額控除については、長期 国債利率プラス7パーセントの加算をしたうえで次 年度以降への繰越しが認められています。 控除し切れなかった適格費用も次年度以降に繰り 越すことができ、一定の場合にはプロジェクト間 で移転することも可能です。損失は、長期国債利 率プラス7パーセントの加算をしたうえで次年度以 降に繰り越すことができます。 45 | Doing Business in Australia 執行および鉱山プロジェク トの利益の移転 所得税と同様、MRRTも、鉱山プロジェクト権 益を有するすべての事業体に、毎年12月1日までにオー ストラリア国税庁(ATO)に対して(前MRRT年 度に関する)申告書を提出することを義務付け ることによって、自己査定により運用されていま す。 年度を通じて、納税義務を負う事業体は「分割所 得」を見積もり、MRRT年度末における年間の収 入に応じた、四半期ごとの分割払いを行う必要が あります。分割所得に関する見積もりが規定のベ ンチマークを下回った場合、差額に関する利子を ATOに支払わなければなりません。 鉱山業者が鉱山プロジェクト権益を処分したとき には特別な規則が適用されますが、多くの場合、 プロジェクトの履歴は、権益とともに新所有者に 移転します(部分的な権益を取得した場合、その 全部または一部)。 石油資源利用税(PRRT) PRRTは、石油プロジェクトに関して年度内に「課 税利益」を得た事業体に課税されます。MRRTと 同様、この税は個別の事業体ではなく、プロジェ クトの所有者に課税されます。一般的に言って、 石油プロジェクトは、適格生産許可が効力を発生 している場合に存在するとされます。 当年度に発生、前年度から繰越しまたは移転され た控除可能な費用の合計よりもプロジェクトから 発生する「評価可能な収入」が上回る場合、課税 利益が発生したものとみなされます。 PRRTは、すべての陸上または海上の石油・天然ガ スプロジェクトに対して40パーセントの税率で課 されます(2012年のMRRT法案の中で、PRRTを 陸上のプロジェクトに対して適用する措置が延長 されています)。 課税利益 PRRTにおける課税利益は、評価基準点の上流にお ける「査定受領額」から「適格控除」を差し引い て計算します。この評価基準点とは、資源が以下 の製品となる時点をいいます。 • 「販売可能な石油産品」:安定化原油、コンデ ンセート、液化石油ガス、エタンその他規則に よって販売可能な石油産品と分類されている製 品を含む石油から生産された製品 • 「除外産品」:販売可能な石油産品であって、 生産後に販売、精製もしくは処理されたもの、 または生産地もしくは隣接保管地から移動され たもの(隣接保管地への移動は除く) もし、評価基準点の上流において独立当事者間取 引が行われている場合、査定受領額は、現実に受 領した金額となります。そうでない場合(例えば 資源が下流において精製される場合)は、公正か つ合理的な方法によって評価基準点における資源 の市場価格を決定する必要があります。 プロジェクト自体の権益を処分したことで受け取っ た金額は査定受領額には含まれませんが、設備投 資を行った資産の損失または破損に対して受け取っ た金額は査定受領額に含まれます。 天然資源(鉄鉱石、石炭、石油及び石油派生物)の採掘に 従事する事業体は、オーストラリアの2つの「資源」税 のうちいずれか1つの課税対象となり得ます PRRTから控除できる経費 控除適格費用として認められるためには、費用 が、フィージビリティ・スタディや環境調査の実 施、プロジェクトから発生する活動、施設その他 のものの運営または供給を含む、鉱山運営に用い られ、またはプロジェクトの準備のための活動ま たは施設の供給のために支出されたもの(すなわ ち、探査費用)である必要があります。 (控除が認められない)除外費用には、借入れに 要する費用(すなわち利子)、配当支払い、資本 の払戻し、個別の上乗せロイヤリティ、GSTおよ び執行費用、会計費用、プロジェクト運営、施設 その他の作業の運営または供給に伴って直接発生 する賃金、給与その他人件費が含まれます。 石油採掘権にかかる権益の取得に要する費用それ 自体も除外費用となります。 46 | Doing Business in Australia 執行および石油プロジェク トの利益の移転 査定受領額を有する者は、税務会計年度の末日 (通常は6月30日)から60日以内にATOに申告を 行う必要があります。PRRTは、査定が行われた日 から21日以内に支払わなければなりません。しか しながら、MRRTと同様、納税義務を負う事業体 は、四半期ごとのPRRT納税見積もりに基づき、4 半期ごと(毎年10月21日、1月21日、4月21日)に 分割納付を行わなければなりません。 石油プロジェクトのPRRT履歴は、新所有者に承継 され、プロジェクトの移転が発生した年度にプロ ジェクトに発生した費用と査定受領額(または「 部分的な承継」の場合にはその割合に応じた額) を得たものとみなされます。 納税義務を負う事業体が MRRTおよびPRRTにつき考 慮すべき事項 MRRTまたはPRRTの納税義務を負うことが予想さ れる会社は、以下の点に留意するべきです。 • 税負担を取り戻すことが可能であるかどうかを 判断するため、供給契約の条項を確認すること • 他の活動から生じる、課税対象となる資源の付 随的生産を分別管理するための会計システムま たは手続の整備 • 取得または支払契約の効果、支払条項に基づい て受領した金額がMRRTまたはPRRTにおける 査定受領額として扱われるか否か • 炭層ガスが石炭鉱山の必要かつ不可分な一部 であるか否か(不可分な一部である場合には MRRTが適用され、そうでない場合にはPRRT が適用される) • MRRTに関して、控除の申告可能性の判断に おける、鉱山権益の取得のストラクチャリン グ、炭鉱権協定/炭鉱権譲渡のアレンジメント (すなわち、許認可の取得以前に発生した費用 または許認可取得に関する費用自体は控除で きない) • MRRTに関して、(関連会社を含む)7,500万 豪ドルの上限に関して生じるストラクチャリン グ・グループ構成の問題 • プロジェクトファイナンスモデル、金融比率要 件への影響および事業体とプロジェクトの間の 損失分配などに分解されるべき追加費用などの ファイナンス上の問題 MRRTの廃止 資源税の要点 MRRT PRRT 税率 22.5パーセント(実効税率) 40パーセント 課税対象 鉄鉱石および石炭 陸上または海上の石油・天然ガス プロジェクト 鉱山利益が年間7,500万ドルを下回る 者についての免税がある。鉱山利益が 7,500万ドルから1億2,500万ドルとなっ た場合に、利益増加の申告を行う。 州のロイヤリティおよ び所得税との調整 免税範囲は存在しない。 州のロイヤリティに関する税額控除。 未使用の控除可能額については長期国 債利率+7パーセントが加算される。 州のロイヤリティに関する税額控 除。未使用の控除可能額について はPRRT増加利率が加算される。 所得税の計算上控除可能 所得税の計算上控除可能 評価時期 粗鉱保管場所から搬出されたとき 「取引可能な石油製品」となった とき 費用の取扱い 要件を満たす費用は直ちに控除可能 要件を満たす費用は直ちに控除可能 「適格探査費用」に限り、プロジェ クトをまたいで控除が可能 費用・損失の繰越し 費用および損失は、繰越しおよび他の 鉄鉱石・石炭プロジェクトへの移転 が可能 繰越損失には長期国債利率+7パーセン トが加算される 47 | Doing Business in Australia 繰越費用は以下のとおり加算される 一般プロジェクト費用:長期国債 利率+5パーセント 探査費用:採掘許可の5年間に発生 したものに限り、長期国債利率+ 15パーセント 2014年7月1日付でMRRTを廃止する法案が、2013 年11月21日に下院を通過しました。本稿作成日現 在、当該法案は上院で審議中です。2013年12月2日 に、上院の経済法務委員会は、廃止法案を可決す べきとの答申を行いました。廃止の是非は、いま や政府が上院で十分な支持を得られるかどうかに かかっています。2014年7月1日に2013年総選挙の 結果が上院に反映されるまでは、支持を取り付け るのは難しいと思われます。陸上のプロジェクト へのPRRT制度の適用は継続する見込みです。 独占禁止、競争、不公正な取引慣 行に関する規制 2010年競争・消費者法(連邦法)(CCA)の目 的は、「公正な競争と取引の促進、および消費者 保護の提供により、オーストラリア人の福利を向 上させること」です。この目的を達成するため、 極めて広範にわたる規定がなされています。その 対象範囲が極めて広いため、オーストラリアにお いて、CCAは関連訴訟の数が最も多い制定法の一 つであり、また主たる監督機関であるオーストラ リア競争・消費者委員会(ACCC)は、最も積極的 な活動を行っている監督機関の一つとなっていま す。CCAの主な規定には、以下のようなものがあ ります。 • 競争制限的な行為の禁止 • インフラストラクチャー保有者がその使用を他 者に許容する義務 最後の二つの点は、ほとんど製造物責任法の分野 に関するもので、これらについては51ページの「 絶対的に禁止される行為 製造物責任」の章で後述します。この章では、主 にCCAの競争に関する規制の側面を扱います。 絶対的に禁止されている行為の主な形態には、次 のようなものがあります。 競争に関する規定 • 競争者間における価格協定 CCAの競争に関する規定は、市場行為の規制、お よび(市場行為の規制ほどではありませんが)市 場構造の規制を目的としています。かかる規定 は、以下の方法によって実現されています。 • 一定の行為を絶対的に禁止すること(カルテル 行為(刑事罰適用)を含む) • ある行為がオーストラリアの一定の市場におけ る競争を実質的に減殺する目的または効果を有 する場合に、かかる行為を禁止すること • 誤解を招き、人を欺くような行為、および、極 めて不当な行為の禁止 • オーストラリアの一定の市場における競争を実 質的に減殺する目的または効果を有する合併や 買収を禁止すること • 原産地表示義務 • 一般的な利用開放制度(national access regime)や電気通信分野に特化した開放制度の 下、一定のインフラストラクチャーの保有者に 対し、そのインフラストラクチャーの開放を義 務付けること • 消費者契約における特定の法定保証制度 • 欠陥商品の製造者の責任に関する厳格な責任 制度 48 | Doing Business in Australia 最近成立した法律により、 カルテル行為は刑事罰の 対象となりました 最近成立した法律により、カルテル行為は刑事罰 の対象となりました。これにより、カルテル行為 により有罪になった個人は懲役刑の対象となるこ ととなりました。一般的に、カルテル条項とは、 二者以上の競争者間において、以下の内容を定め る契約条項、取決めまたは共通理解をいいます。 • 競争者間で特定の人や団体に対する供給を制限 する協定(共同ボイコット、入札談合あるいは 市場分割) • その一部または全部の者が販売する際に付する 価格を決定すること(価格協定) • 商品やサービスを転売できる最低価格の設定 (再販売価格維持) • その一部または全部の者が供給する商品または サービスの供給量を限定あるいは制限すること • 一定の抱き合わせに関する取決め(第三者強 制) • 競争者間で顧客、仕入先または営業区域を割り 当てること 上記のような行為や契約をしようと試みること 自体が、CCA違反となります。かかる禁止規制 は、ACCCによって厳しく運用されており、違反に 対する制裁金は極めて高額です。制裁金の最高限 度額は、企業の場合、1,000万豪ドル、不法行為か ら得た利得の3倍の金額、あるいは関連市場での売 上高の10パーセントの3つの中で、最も高い金額で す。個人の場合は、50万豪ドルです。かかる金額 は個々の違反事例に対して科される限度額ですの • 入札談合を行うこと で、違反の事実が複数ある場合は、それぞれに対 する制裁金が重畳的に科せられるため、容易にこ の限度額を超えることになります。 カルテル条項を含む契約を締結する行為や効力を 発生させる行為自体が違法とされています。実際 に当該カルテル条項に競争上の効果があったかど うかは問題ではありません。一定の行為が刑事罰 の対象になるか否かは、カルテル行為が行われて いたという当事者の認識または確信があったかど うかにより決まります。以下の事項について合理 的疑いを超える証明があれば、刑事訴追が可能と なります。 競争制限的な目的または効 果のある行為 市場における競争を実質的に減殺する目的または 効果を有する場合に限り禁止される行為は、多岐 にわたっています。かかる行為には、以下に挙げ るものがあります。 • かかる競争減殺的な目的または効果を有する契 約、取決め、または共通理解 • カルテル行為が行われていたという事実 • カルテル行為が行われていたという当事者の認 識または確信 • 商品やサービスを特定の者に対して独占的に供 給するような取決め • 一定の抱き合わせに関する取決め これが認められる例としては、競争者との間で契 約が締結され、かかる契約の条項に価格協定の効 果があると認識または確信している場合が挙げら れます。その行為が不正あるいは不法であると理 解しているかどうかは問題にはなりません。 一定の状況下においては、特定の行為について、 当事者が届出するか、または認可を得ることによ り、当事者が免責を得ることを可能とする法制度 もあります。 すなわち、排他的な営業区域を定める取決め、製 品供給先の顧客の制限、そして競争相手の製品を 購入しているという理由で供給を拒否することな どはかかる禁止に該当します。絶対的に禁止され る行為でも、競争制限的な目的がある場合にのみ 禁止される行為でも、競争制限の弊害を上回る公 益が存在するような場合には、許容される可能性 があります。かかる適用除外を受けるためには、 公的な手続を経る必要があり、当該行為に伴う競 争制限的効果と公益についてACCCによる審査を受 けなければなりません。 前述の絶対的に禁止されている行為の場合と同様 に、特定の行為について、当事者が届出するか、 または認可を得ることにより免責を得ることも可 能です。 49 | Doing Business in Australia 合併規制 CCAは、資産または株式の買収が、オーストラリ ア全体または一定の州や準州の市場における競争 を大幅に減殺する効果を有するか、あるいはそ のような効果をもたらす可能性があるような場合 には、かかる買収を禁止します。オーストラリア では、合併または買収の際に事前通知の義務は ありません。しかし、ACCCには非公式な承認の プロセスがあり、合併当事者は、合併に対して ACCCが差止命令の申立てを行うかどうかについ て、ACCCの見解を探ることができるようになって います。ACCCは、以下の両方に該当する案件につ いて、当事者がACCCに対する通知を行うことを奨 励しています。 • 合併当事者同士の商品が互いに代替可能かある いは補完可能である場合 • 合併企業の合併後の市場占有率が関連市場にお いて20パーセントを超える場合 ACCCの「合併ガイドライン2008」は、合併・買 収案件を審査する際にACCCが適用する分析・評 価の枠組みについて概説し、ACCCの判断材料と なる要素についてのガイダンスを提供していま す。ACCCは、合併の影響を審査するにあたり、以 下のような様々な要素を考慮します。 • 実際または潜在的な輸入競争のレベル • 参入障壁の高さ • 市場における集中のレベル • 市場における競争相手の競争力 • 合併企業が大幅な価格の値上げを行い、それを 維持する能力 • 市場における代替の入手可能性の程度 • 技術革新、成長、集中、または製品の差別化に 関する市場の変化の程度 • 市場での垂直的統合の性質と程度 • 買収により、強力で実質的な競争相手が排除さ れることになるかどうかということ 2010年競争・消費者法の目的は、公正な競争と取引の促進、 および消費者保護の提供により、オーストラリア人の福利 を向上させることです ACCCに合併プランを事前に非公式に承認しても らうよう打診することは珍しいことではなく、そ の手続は機密を保って行うことも可能です。しか し、ACCCは、かかる取引が公になった段階で市 場調査を行う権利を留保するのが通常です。その 意味では、かかる手続の機密性は限定的なもので す。ACCCは、合併審査手続に関するガイドライ ンを定めており、それにより、手続の透明性を保 ち、ACCCによる合併審査のスケジュールや決定理 由をも明らかにしています。連邦政府は、この分 野を専門的に扱うオーストラリア競争審判所への 控訴権が制限される、任意で利用できる公式の合 併審査手続を導入しています。さらに、競争制限 効果が予想されたとしても、公益性を理由として 合併の認可を得ることは可能です。認可について は、ACCCに申請するか、直接オーストラリア競争 審判所に申請することもできます。 インフラストラクチャーの 開放に関する規制 オーストラリアは、通称「不可欠な施設」 (essential facilities)と呼ばれることもある、国 にとって重要なインフラストラクチャーの開放に 関する様々な法定の仕組みを導入しています。 オーストラリアには、CCAに基づくインフラスト ラクチャーの開放に関する一般的な規則のほか に、特定の法令や業界規則に基づく産業特有の特 別規則があります。産業特有の制度に関しては、 次の産業が特に規制されています。 • 電気通信 • ガス • 電気 • 水道 • 鉄道 • 空港 • 郵便 50 | Doing Business in Australia 各制度にみられる政府の介入の程度は、様々で す。例えば、電気通信と電気に関する制度は、規 制されているサービスの点でも、参入事業者へ課 される規制の強度の点でも、最も介入色が強い制 度です。 オーストラリア消費者法 2011年1月以降、オーストラリアにおいては、連 邦および州・準州レベルで適用される連邦法であ る、オーストラリア消費者法(ACL)が発効しま した。 ACLは、特に、国家レベルでの不公平な契約文言 に関する条項、新しい製品安全に関する法的な規 制の国家レベルでの枠組み、および新しい罰則、 執行力、消費者の補償方法を規定しています(後 者は、52ページの「オーストラリア消費者法」の 章でより詳細に記載されています)。 消費者保護に関する規定は、大きく以下の4つの類 型に分類されます。 • 製品の安全に関する規定:強制的な消費者安 全基準、製品情報や自主的リコールの通知、な らびに強制的リコールの命令権が規定されて います。 • 商取引における極めて不当な行為および誤解を 招く、あるいは人を欺く行為の禁止:極めて広 範な規定となっています(次の項目で詳述)。 • 欠陥商品の製造の禁止:規制対象は消費者製品 に限られます。 • 欠陥商品の製造者や輸入業者の厳格な責任規定 CCAには、原産地表示に関する規定があります 誤解を招く、あるいは人を 欺く行為、および極めて不 当な行為 企業は、誤解を招いたり、人を欺いたりする行 為、またはそのような可能性がある行為をした り、虚偽の表示をしたりしてはいけません。その ような行為によって不当に扱われた者には、損害 賠償請求権が与えられ、さらにその他の強制的な 救済手段に訴える権利が与えられる可能性もあり ます。かかる規定は、契約前の交渉や、誤解を招 くような広告を含め、幅広い事例に適用されてき ました。ACCCは、一般消費者向けの広告を絶えず 監視しています。 また、すべての事情を考慮して「極めて不当」と 認められる取引上または商業上の行為も禁止され ています。何が「極めて不当」な行為に当たるか は、以下の例を含む諸般の事情を考慮して決めら れます。 • 当事者の相対的な交渉上の立場 • 課された条件が正当な利益の保護のため合理的 に必要なものといえるかどうか • 被害を申し立てる当事者が、関連文書を理解す ることができたか • 同等の商品やサービスを他の供給者から受領し たとしたら課されたであろう条件 • 当事者に対し、過度の影響や圧力がかけられ たかどうか、または不当な策略が使用された かどうか • 関連する業界規則 • 当事者がどれだけ誠実に行動したか 原産地表示 CCAには、原産地表示に関するいくつかの規定が あります。原産地表示は、すべての製品に義務付 けられるものではありませんが、人間が消費する 食品、医薬品、その他電磁放射線を放射・受信す る機器やレーザーを含む機器(多くの家庭用電化 製品を含み、それらには特定の規制があります) のような製品は、規制対象であり、表示を行う場 合はかかる規定を遵守しなくてはなりません。 例えば、ある商品に「オーストラリア製(Made in Australia)」であると表示する場合は、かかる商 品がオーストラリアで「相当程度変換された」も のである必要があり、またかかる商品の生産・製 造費用の50パーセント以上がオーストラリアで発 生したものである必要があります。商品をある国 の製品(例えば「X産(Product of X)」)と表示 するには、商品のそれぞれの重要な原料や成分が 表示された国から来ており、すべて(またはほと んどすべて)の生産・製造の工程がその国で行わ れていなければなりません。また、例えば、商品 が「オーストラリアで作られた(Australia Made)」 ということを示すために使われるマークなど、原 産国を示す意図で商品に使われるロゴの使用に関 する規制もあります。 51 | Doing Business in Australia オーストラリアでは、この 20年間で、製造物責任訴 訟の数が飛躍的に増加し ました 製造物責任 オーストラリアでは、この20年間で、製造物責 任訴訟の数が飛躍的に増加しました。これは、国 民全体の消費者権利意識の向上、消費者監視団体 の活動、そして消費者側の原告弁護士がますます 積極的に活動していることなどの結果ともいえま す。また、この流れは、注目を集めたいくつかの 訴訟によっても促進されてきました。例えば、食 品汚染訴訟、医薬品や医療機器の集団訴訟、アス ベスト訴訟などがあります。 また、法律面でも進展があり、欠陥商品により損 害を受けた原告または原告団が権利主張する場合 の法的手段が増えたことも見逃せない要因の一つ です。このような法律面の進展には、集団訴訟手 続の導入や、欠陥商品に対する厳格責任制度の導 入などがあります。 52 | Doing Business in Australia 製造物責任訴訟の提起方法 オーストラリアの製造物責任訴訟は、通常は、連 邦裁判所、または州もしくは準州の最高裁判所も しくは地方/郡裁判所で提起されます。重要な訴 訟のほとんどは、各州の州都にある裁判所で提起 されるのが通常です。シドニー、メルボルン、ブ リスベン、そしてパースなどは、複数の原告によ る製造物責任訴訟が提起される中心的な都市で す。 オーストラリアの裁判制度は、当事者主義的な制 度になっています。オーストラリアの法制は、イ ギリスの法律制度に由来しており、訴訟の運営、 訴訟手続、そして証拠に関するルールなどは、ア メリカよりもイギリスの裁判所のルールと共通点 が多いものです。その結果、オーストラリアとア メリカとでは、訴訟手続について、以下のような 多くの根本的な違いがあります。 • オーストラリアでは、審理前の宣誓証言の手 続(depositions before trial)はなく、書証の 証拠開示の手続(係争中の争点の判断に必要な 証拠書類の提出)に重点が置かれています。し かし、近年の民事訴訟改革案では、オーストラ リアにおける宣誓証言手続の導入が示唆されて います。 集団訴訟 • 民事訴訟において、州や準州の最高裁判所で は、陪審による裁判の規定がありますが、ビク トリア州を除くほとんどの州では陪審が使われ るのは稀です。連邦裁判所には、陪審による裁 判はありません。 連邦裁判所の集団訴訟手続においては、以下の両 要素を有する同一被告に対する訴えについて原告 適格を有する7人以上の集団を代表し、一人または 複数の原告が訴訟を提起することができます。 • オーストラリアでは、勝訴当事者は、敗訴当事 者から弁護士費用その他の費用を含む訴訟費用 の一部を回収することができるのが通常です。 オーストラリアは、北米以外では、活発さを増す 集団訴訟の環境が世界で最も整った地域の一つで す。米国のものと比べても、オーストラリアの法 制は、いくつかの点で原告に有利なものとなって います。 • 請求原因が同一、類似、または関連した状況で 生じたこと • 法律または事実の点で実質的に共通の争点が あること このように開始される訴訟は「代表訴訟」と称さ れます。 製造物責任訴訟において、集団訴訟を利用する と、欠陥商品を使用して損害を受けた人々が、す べての関連当事者を代表する形で、製造者に対し て訴訟を提起し、一回の訴訟で事件を処理するこ とが可能になります。 米国とは対照的に、オーストラリアにおいては、 代表訴訟を追行するために裁判所の許可を得る必 要はありません。むしろ、当該訴訟を代表訴訟と して追行することは許さないとの命令を裁判所に 求める被告側が、当該訴訟が代表訴訟の要件を満 たしていないこと、または代表訴訟が適切ではな いことを立証しなくてはなりません。かかる命令 を得るのは容易ではありません。 1992年に連邦に集団訴訟制度が導入されて以来、 かかる手続を利用した訴訟件数は飛躍的に増加し ました。また、2000年には、ビクトリア州最高裁 判所でも集団訴訟制度が認められました。また、 ニューサウスウェールズ州最高裁判所にも連邦集 団訴訟制度が導入されることが発表されていま す。その他の州や準州のほとんどでも、代表訴訟 または集団訴訟の形態を許容していますが、現在 のところ、連邦やビクトリア州の制度ほど包括的 かつ手続として整備されたものではありません。 近年、集団訴訟は、株主集団訴訟、カルテル集団 訴訟、金融サービス、ファイナンシャルプランナー 集団訴訟などの様々な分野で提起されるようにな りました。 訴訟資金援助 法的責任の根拠 集団訴訟においては、ビジネスの一環として、訴 訟に関する資金援助を行う例が増えています。歴 史的には、訴訟に関する資金援助は、「訴訟援 助」と呼ばれる性質を帯びており、違法な行為と されてきました。しかし、現在では、多くの州 で、訴訟援助という不法行為の類型は廃止され、 民事上も刑事上も違法な行為ではなくなりまし た。これは、第三者による訴訟資金援助は、それ がなければ訴訟を利用できない原告に対し、訴訟 を利用する機会を与えていると考えられるように なったからです。 製造物の品質に関する法的責任は、下記の三種類 のオーストラリア法の一部または全部を根拠に発 生します。 しかし、いずれの州においても、その資金援助が 実質上訴訟手続の濫用とみなされた場合、裁判所 はかかる代表訴訟を停止または却下することがで きます。2006年8月に、オーストラリアの連邦最 高裁判所は、訴訟に関する資金援助は、それ自体 としては訴訟手続の濫用や公序に反することには ならない、という判決を下しました。この判決に より、資金援助を受けた訴訟、特に株主や金融サー ビス関連の訴訟が増加しました。 市場には既に専門的な資金援助業者が数多く存在 しており、この中には、オーストラリアに進出し た外資系の業者も含まれます。IMFは、オースト ラリア証券取引所に初めて上場した、オーストラ リア最大の訴訟資金援助業者です。IMFは、請求 額が200万豪ドルを超える訴訟に関して資金援助 やその他のサービスを提供しています。 集団訴訟における訴訟資金援助のインパクトは大 きく、集団訴訟は1992年に始まった当初の想定以 上に、大きく進展したということができるでしょ う。 53 | Doing Business in Australia • オーストラリア消費者法(ACL) • 契約に関するコモン・ロー • 過失責任に関するコモン・ロー(現在は、ほと んどのオーストラリアの法域で部分的に成文化 されています) オーストラリア消費者法 49ページで説明したとおり、オーストラリア消費 者法は以下のような消費者保護条項を規定してい ます。 • 製品の安全に関する規定(強制的な消費者安 全基準、製品情報や製品の自主的リコールの通 知、製品の強制的リコールの命令権を規定する もの)違反により損害を蒙った場合には、消費 者は損害賠償請求を行うことができます。 • 企業が、誤解を招く、あるいは人を欺く行為 を行うことを禁ずる規定に違反した場合には、 人身傷害や死亡以外の損害を受けた人には、様 々な救済を求めることができます。ほとんどす べての製造物責任に関する訴えは、製品の製造 者、輸入者、または販売者が、誤解を招く、あ るいは人を欺く行為を行ったという主張を含 んでいます。ケースとして多いのは、問題と なる製品に関する危険性について消費者に対 して十分な警告がなされていなかったというも のです。 • 欠陥商品の製造者に対する直接の法定の救済制 度は、契約上の保証違反に対する場合の制度と 類似しています。適用範囲は、一般消費者用の 商品に限定されています。この規定により、製 造者や輸入者は、製品の品質、目的適合性、そ して製品に関する説明が正確であることを保証 することが義務付けられています。 • 欠陥商品の製造者・輸入者に対しては、厳格責 任制度が適用されます。すなわち、欠陥商品で 損害を蒙った者は、当該製品の製造者に過失が あることを証明しなくても、当該製造者から損 害賠償を受けることができます。消費者期待度 テストで製品の安全性が一般の人々が期待する 程度に至っていないと判断された場合は、かか る製品は欠陥商品であるとされます。この規定 は、概して、EC製造物責任指令をベースに作ら れています。オーストラリア法は、製造物責任 における人身傷害に関する損害賠償請求に制限 を設けています。 製品が、製造者から小売業者に、 そして小売業者から消費者に供給された場合、 契約の当事者となる二者間には契約関係が生じます 契約に関するコモン・ロー 製品が、製造者から小売業者に、そして小売業者 から消費者に供給された場合、契約の当事者とな る二者間には契約関係が生じます。州および準州 の商品販売法に基づき、商品供給契約には、製品 の品質に関する黙示の保証条件が含まれていま す。場合によっては、これらの条件を除外または 変更できない可能性があります。もし、かかる黙 示の条件に対する違反があった場合、製品の購入 者は、契約違反に基づいて訴訟を起こすことが可 能です。また、ACLの下では、商品に、法定の許 容品質水準の保証が与えられています。 過失責任に関するコモン・ ロー 過失による不法行為に関するコモン・ローは、オー ストラリアの法制度上、製造物責任訴訟における 重要な法的権利および救済方法の根拠として機能 し続けています。かかる過失責任に関するコモン・ ローによると、以下の三つの要件を満たす場合 に、製造者への損害賠償請求が可能です。 • 製造者(被告)が、原告に対し、法律上の注意 義務を負っており、 • 被告が、法が要求する注意の基準を満たさず に、かかる注意義務に違反した結果、 • 原告が、かかる義務違反に基づき損害を受け た場合。 54 | Doing Business in Australia オーストラリアでは、製品を購入または使用した 者に対して、製品の製造者がより広範な注意義務 を負い、製品の供給者がより制限された注意義務 を負担するということは、一般的な法として確立 しています。コモン・ロー上は、製造者は、製品 の設計、製造、安全、および販売について考慮す る際、合理的な範囲で、製品を使用する者のこと を想定し、注意を払うべきであるものとされてい ます。 供給者は、欠陥商品を提供しないようにする義務 や、特定の商品について警告を発する義務を負っ ています。裁判例には、制定法上の義務を準用 し、供給者に実質的な厳格責任を課したものもあ ります。 2003年に、人身傷害の賠償額の大きさと、より高 額になる保険料に対する社会一般の懸念に対応し て、州および準州政府は、広範囲にわたる民事責 任に関する法律の改正を行いました。この改正に より、裁判で認められる損害賠償額が制限された だけでなく、過失に基づく人身傷害賠償請求を提 起することや勝訴することが従前よりも難しくな りました。 かかる改正は、各州や準州によって違いがありま すが、概ね次のような内容になっています。 • 過失責任に関する法を部分的に成文化する。 • 一定の種類の請求に関して特別の抗弁を創設 する(アスベストあるいはその他の塵肺関連の ケースを除き、製造物責任はかかる特別の抗 弁が適用される種類の請求には含まれていま せん)。 • 裁判所で認められる損害賠償額に上限や基準 値を設ける。州や準州によっては、訴訟前の 紛争解決手続の利用を義務化したところもあ ります。 かかる改正に関して、よく議論されている論点の 一つは、過失責任に関する法の一部の成文化が実 質上法律を変えたかどうかということと、もしそ うだとすれば実際問題として様々な分野において 原告にとって有利になったのか不利になったかと いうことです。現段階の司法判断は、責任の範囲 を限定する傾向にあります。この改正の直接の効 果は、人身傷害賠償訴訟の件数が少なくなったこ とです。この傾向が長期にわたって維持されるか どうかは定かではありません。いくつもの法改正 の提案がなされており、中には施行された場合に 訴訟の数が増える可能性があるものもあります。 救済方法 金銭的損害/非金銭的損害のいずれに対しても、 金銭による損害賠償が認められます。さらに、裁 判所は、消費者保護規定の一定の違反があった場 合や違反が行われようとしている場合に差止命令 を下すこともできます。裁判所には広範な権限が 与えられ、違反に関与した者に対し、適切である と判断する様々な内容の命令を下すことができま す。 損害賠償 契約および過失責任に基づく損害賠償の算定と、 法定の訴訟原因に基づく損害賠償の算定には、多 くの法律上の違いがありますが、一般的には、製 造物責任訴訟で勝訴した原告は、以下のような損 害賠償を受けることができます。 • あらゆる肉体的・精神的苦痛に対する損害賠償 • 医療費を含む傷害の治療や損害を受けた財産の 修繕のために負担した費用に関する損害賠償 • 傷害や損害のため生じた得られるべき収入の減 少に関する補償 • 将来の傷害の治療や損害を受けた財産の修繕の ため発生する費用に関する補償 • 推定寿命の短縮または所得能力に対する継続的 障害に関する補償 裁判所は、懲罰的損害賠償または加重損害賠償を 命じることができます。ただし、これらの種類の 損害賠償は、ACLに基づく訴えに関連するものに は認められず、州や準州によっては人身傷害賠償 を求める過失責任訴訟でも認められません。 過失による人身傷害の場合の請求に関し、民事責 任の法改正は、損害の種類に応じて損害賠償額を 制限しています。さらに、契約法および法令は、 裁判所に様々な金銭賠償以外の代替的な救済を命 じる権限を与えており、製造者や供給者に対して 被害者救済のための措置を取るよう命じることが できるようになっています。 製品に関する報告義務 ACL131条に基づき、供給者が人の死、重大な傷病 を認識した場合であり、 • 供給者が、消費者製品の使用または予見可能な 誤使用により事故が起こったか、起こった可能 性があると考えた場合、または、 • 供給者以外の者が、消費者製品の使用または予 見可能な誤使用により事故が起こったか、起こっ た可能性があると認識した場合、 供給者は2日以内に大臣に書面による事故の通知を 提出しなければなりません。 55 | Doing Business in Australia 重大な傷病とは、「医療従事者もしくは看護師に よる、またはその指示による医学的・外科的治療 (病院、クリニックまたはこれらに類する場所で 行われるか否かを問わない)が必要な重大な身体 的傷害・疾病」と定義されています。死亡または 重大な傷病の要件があることにより、製品の安全 上の欠陥が存在するだけでは報告義務は発生しま せん。同様に、死亡または重大な傷病のない物理 的な損害だけでは、報告義務は発生しません。 製品のリコール 製品のリコール義務は、連邦および州の制定法と コモン・ローの両方に見られます。一般的な規定 は、ACLに規定されており、例えば、食品、医薬 品、医療機器、自動車など、特定の種類の製品に 関しては、個別の規定がそれぞれ別の制定法に定 められています。 ACLのリコールに関する一般的な規定には、例え ば、以下のようなものがあります。 製造者は、どのような行動を取るか決定するにあ たって、次の点を考慮する必要があります。 • 自主的リコールを行った場合に2日以内に大臣 に対して通知をすることを義務付ける128条の 規定 • 製品に関連して生じる可能性のある危険の重 大性 • 製品が人に対して損害を与え、または与えるお それがある場合であり、かつ、供給者が商品が かかる損害を与えることを防止するために十分 な措置を講じていない場合には、大臣が製品の 強制的リコールを命じることができるという、 法定の権限に関する規定 コモン・ロー上、消費者製品の製造者と供給者に は、製品が消費者に損害を与えることのないよう 合理的な注意を払う義務があります。この義務 は、製品の製造と販売の時点だけでなく、その後 にも適用されます。製造者は、製品が市場に出た り、使用されるようになったりした後に、その製 品の危険要素が明らかになったような場合でも、 消費者に損害を与えないように適切な行動を取ら なくてはなりません。 • そのような危険が起こる可能性 • 想定される救済方法に要する費用、当該救済方 法を講じることの困難性、不都合 製造者は、かかる要素を比較衡量しなくてはなり ませんが、これは単なる費用と便益の問題ではな いことを認識しておかなくてはなりません。第一 に考えなくてはならないのは、消費者の安全で す。人の死亡や重傷を引き起こすような重大性が ある場合には、製品を回収しなくてはならない十 分な理由があるといえるでしょう。 州法は、故意の汚染または毒物混入に関する報告 義務を課している場合もあります。 現在、合計2,400ほどの オーストラリア規格が法 律に準用されています 消費者製品に関する規制 連邦および州・準州レベルの制定法により、消費 者製品の構造、デザイン、表示に関して規制が課 されています。これらの法律には、安全面や情報 面についての最低限の基準が定めてあり、これに より、人身傷害発生の危険性を最低限に抑えるこ と、そして消費者が十分な情報に基づいて商品に ついて購買判断をできるようにすることが目的と されています。 規制当局は、製品が法定の基準を遵守しているか どうかを確認するため、抜き打ち検査・サンプリ ングをしばしば行っています。また、消費者や競 争事業者からのクレームを受けて、調査を開始す る場合もあります。 製造者、供給者、輸入者などがかかる規制を遵守 しなかった場合、単に関連する法律に基づいた罰 則を受けるだけでは済まないことがあります。例 えば、輸入品が規制を遵守していない場合は、オー ストラリアへの輸入自体が拒否されることもあり ます。また、規制が遵守されなかったために発生 した損害について、消費者が私的な法的処置を取 ることもあります。このようなことが起きると、 弁護士費用や訴訟費用などの高額なコストがかか ってくるだけでなく、悪評により企業の評価が落 ち、競争事業者に顧客を奪われる危険があります。 56 | Doing Business in Australia 消費者製品を扱う企業は、かかるリスクを未然に 防止するため、規制を遵守するための効果的なプ ログラムを用意し、製品に関わるリスクをすべて 認識するとともに、効果的にこれを管理していく 必要があるといえるでしょう。 法律の複雑さ 消費者製品については、各種の法律に基づく基準 が重畳的に適用されます。また、場合によって は、同じ製品を規制する方法が地域によってかな り異なり、具体的にある製品がどの法律の適用を 受けるかを見定めること自体が難しい場合があり ます。さらに、一定の輸入品には、表示に関して 追加的な義務が課されることがあります。また、 その他にも、ACLや他の消費者保護に関する法律 など、より一般的な法律があります。産業界のガ イドラインや実務規則が適用される場合もありま す。 ACLの立法化により、既存の各州・準州の基準を 全国で統一されたものにするためのプロセスが始 まりました。将来的には、禁止命令や強制的な基 準の実施は連邦政府によってのみなされるように なるでしょう。 そもそも製品を法律に基づいて分類することが容 易にできない場合には、さらに難しい問題が生じ ます。例えば、化粧品と医薬品の境目(また食品 と医薬品の境目)にある製品の場合、二つの製品 の成分が似ていてもその機能が確実に違う場合、 適用される規制の基準が違うものになる可能性が あります。このような場合、製品の体裁、提案さ れている使用法、製品を市場に売り出す際の広告 内容などの要素が、製品の分類を決定する上で重 要になります オーストラリア規格 オーストラリア規格は、一般に任意のものであ り、法律で特に準用されていない限り、規格その ものに拘束力はありません。ただし、規格の多く は、州・準州および連邦の法律で準用されてお り、遵守が義務付けられています。オーストラリ ア規格は、例えば、ある特定の製品につき、その 性能特性、構造、製造方法・過程、組立て、包装 に関し、一定の規則を遵守するよう要求していま す。また、消費者に提供する情報の種類を規定し ている場合もあります。 現在、合計2,400ほどのオーストラリア規格の全部 または一部が法律に準用されています。場合によっ ては、規格に準拠していることを示す第三者機関 による認証が必要になることもあります。例えば、 電気安全法では、トースターやヒーターなどの一 般的な家庭用電化製品について、関連するオース トラリア規格の遵守、認証の取得、その認証マー クの標示が義務付けられています。 また、オーストラリア規格は、ACLにおける強制 的な消費者製品規格の基準としても使用されてい ます。この法律によりオーストラリア規格の遵守 を義務付けられている製品には、自転車(性能お よび安全上の基準)、子供用寝間着(デザインお よび生地の仕様、表示の基準)、サングラス(性 能および安全上の基準)などがあります。 制定法に準用されている規格を遵守しなかった場 合には、違法行為に該当することになります。ま た、任意・強制を問わず、規格を遵守しなかった 場合には、過失の証拠になったり、製品に欠陥が あること、または使用目的に適合していないこと の証拠にもなり得ます。 規制当局は、製品が法定の基準を遵守して いるかどうかを確認するため、抜き打ち検査・ サンプリングをしばしば行っています 危険な製品 特定の製品の登録 食品 商品の計量 製品に含まれる成分が、その化学的特性のゆえに 身体や環境に害を与えるおそれがある場合、その 製品には法律による厳格な規制が課せられます。 例えば、有毒物質を含む家庭清掃用品や医薬品な どがこれに該当します。このような製品の保管、 取扱い、運送、包装、表示、広告を規制する法律 があります。規制の水準は、提案された使用法、 有効成分の性質、製品に含まれる有効成分の分量 などの様々な要素に左右されます。 製品の製造者または製品自体について、登録が要 求される場合がしばしばあります。オーストラリ アで販売を開始する前に登録が必要な製品には、 薬品・医薬品などがあります。薬品・医薬品の製 造は、免許を有する製造者だけに認められていま す。また、薬品・医薬品は、オーストラリア医 薬品登録簿(Australian Register of Therapeutic Goods)に記載または登録されていなければなり ません。さらに、薬品・医薬品の製造、成分、取 扱い、表示、広告に関して、それぞれ基準があり ます。 州・準州には、食品に関する法律があり、食品の 成分、包装、広告、表示、および食品を扱う場所 や設備の衛生について規制しています。 州・準州の商品計量に関する法律においても、包 装された食品や他の消費者製品の表示について特 定の基準が設けられています。これらの基準も全 国で統一されつつあります。この法律の基準は、 特に免除されていない限り、オーストラリアで包 装される製品およびオーストラリアで販売するた めに輸入される製品のすべてに適用されます。ま たこの法律には、包装された製品の量目不足によ る違反の場合の罰則も規定されています。 毒物の表示や包装に関する基準の多くは、「医薬 品・毒物統一表基準」で定められており、各種制 定法にあらゆる形で準用されています。この基準 には、これらの製品に含められるべき、使用法説 明書、注意事項、安全上の指示などの情報が定め られています。特別な包装が要求される場合もあ ります(子どもが開けられない安全な密封容器な ど)。 また、危険な製品に関する法律には、爆発性、毒 性、可燃性、腐食性のある製品の運送、表示、お よび包装に関して必要な事項も定められていま す。 57 | Doing Business in Australia 薬品・医薬品は、危険性のレベルや製品に関する 広告内容によっては、安全性および効能について 検査が行われることがあります。医薬品の広告主 は、包装や広告に使われる表示内容を裏付けるの に十分な証拠を保持している必要があります。ま た、特定の医薬品の広告を行う前に承認を得るた めの手続も、法律によって規定されています。 この他に登録が必要とされる消費者製品には、除 草剤や殺虫剤など駆除用の化学製品、化学肥料や 一定のプール用化学薬品などがあります。こうし た製品の供給を行おうとする者は、オーストラリ ア農薬・動物医局を通じ、予め申請を行う必要が あります。また、これらの製品の表示に関して も、それぞれ基準があります。 すべての州・準州で、あらゆる食品の表示に関す る基準を規定している、オーストラリア・ニュー ジーランド食品基準規約(Australia New Zealand Food Standards Code)が採用されています。この 規約では、一定の表現の使用が禁じられ、また他 の一定の表現についてはある特定の条件下でのみ 使用できるものと定めています。例えば、健康や 栄養に関する表示内容や、この食品は特定の食事 療法用であるというような表示内容は、厳しく規 制されています。これらの規制は、提案されてい る法改正の結果次第では、将来的にさらに厳しく なる可能性があります。 また、特定の食品に関して特に許可を得ない限 り、食品添加物、ビタミン類、ミネラル類、特定 の植物抽出物などの物質を食品に加えることは、 原則として、禁止されています。これらの一般的 な規制に加え、この規約においては、特定の食品 に適用される基準も規定されています。また、新 しい種類の食品や遺伝子組み換え食品などのいく つかの食品は、安全性に関する厳しい検査を受け てはじめて販売することが可能になります。 広告内容 ACLは、取引や商売にあたって、誤解を招いた り、人を欺いたりする行為全般を禁じています。 また、ACLは、一定の虚偽の表示、例えば、ある 製品が特定の規格、質、価値、等級、構造、様 式・型式のものであるとか、特定の来歴があると か、以前どのように使用されていたかなどについ て、虚偽の表示をすることも禁じています。 製品の表示や広告の内容については、争われるこ とが多いため、これらの内容は必ず裏付けができ るものである必要があります。規制当局は、広告 内容についての証拠の提出を求めて実証通知書を 発したり、また、広告内容に法律違反があると判 断した場合に違反通知書(罰金)を発したりする 権限を持っています。裁判所は、広告内容が誤解 を招くものかどうかを判断するにあたり、明示的 および黙示的な表現が正確であるか、また全体的 な印象が的確であるかなどの点を検討します。 不動産に関する法律 「アーバンリアルエステー ト」の取得 外国投資家によるオーストラリアの「アーバンリ アルエステート」の取得に際しては、承認免除に 該当しない限り、事前に外資審議委員会(FIRB) の審査を受け、承認を得る必要があります。「アー バンリアルエステート」とは、(土地全体が実質 的に第一次産業を行う目的のためだけに使用され ている)「ルーラルランド」を除くオーストラリ アのすべての不動産を指します。 承認が必要な不動産の取得には、(例外とされて いない限り)以下のようなものがあります。 • 住宅用不動産(営利目的でない農場、農村部に おける住宅用区画も含む) • 非住宅用空き地 • 以下の開発済み商業用不動産:5,400万豪ドル 以上(所定の外国投資家[現在は米国・ニュー ジーランド投資家]の場合は、10億7,800万豪 ドル以上[2013年の場合。金額は毎年調整され る])のもの/商業用遺産指定地とされている 不動産の場合、500万豪ドル以上のもの(取得 者が上記の所定の外国投資家ではない場合) • 宿泊施設 • 5年以上の住宅用または商業用の賃貸借契約 (ただし、商業用賃貸借契約の対象資産につい ては、開発済み商業用不動産および商業用遺産 指定地とされている不動産に関する上記の最低 基準価格が準用される) • アーバンランドの収益の分配に関する契約(た だし、収益の分配に関する契約の対象となる資 産について、開発済み商業用不動産および商業 用遺産指定地とされている不動産に関する上記 の最低基準価格が準用される) • 外国政府または外国政府機関によって取得され た不動産 • アーバンランドが全資産の半分以上を占めるよ うな会社の発行する株式、あるいはそのような 投資信託のユニット(ただし、通常外国投資の 承認を必要としないアーバンランドを所有する 場合を除く) • アーバンリアルエステートに関するオプション (a) 承認の免除 FIRBの承認が免除される場合がいくつかあ り、この分野における外国人投資家による投 資に対しては、開発済み住宅用不動産の場合 を除き、比較的寛容に例外が認められていま す。 次のような不動産取得は、承認が免除されま す。 • 永住ビザを保有する外国人が取得する住宅 用不動産 58 | Doing Business in Australia • 以下の開発済み商業用不動産(宿泊施設を除 く):商業用遺産指定地とされている不動産 の場合、500万豪ドル未満のもの(取得者が 所定の外国投資家[現在は米国・ニュージー ランド投資家]ではない場合)/それ以外 の不動産の場合には、5,400万豪ドル未満 (上記の所定の外国投資家の場合は、10億 7,800万豪ドル未満[2013年の場合。金額 は毎年調整される])のもの • 産業用または商業用非住宅不動産として現 状のまま即利用され、購入者の既存または 計画中の事業活動に必要な場合の開発済み 商業用不動産 • タイムシェア方式の権利(毎年最長で4週 間以内) • 投資家がニュージーランド国籍を有する場 合の住宅用不動産 • 遺言または法律の適用(裁判所の命令等) により取得された不動産 • 政府から取得した不動産 なお、海外在住のオーストラリア国民が不動産を 取得する場合や、外国人がオーストラリア国民の 配偶者と共に(合有権者(joint tenant)として) 不動産を購入する場合にも、承認が免除されま す。 (b)通常承認される不動産取引 オーストラリアの国益を害するものと認めら れない限り、承認免除に該当しなくても、アー バンリアルエステートの取得は、多くの場 合、承認されます(あるいは、外国投資の承 認なしに行うことができます)。 以下のようなものがこのカテゴリーに該当し ます(ただし、一定の政策上の制限がありま す)。 • 開発済み非住宅・商業用不動産を取得す る場合 • 一時滞在ビザを持ちオーストラリアに一時 的に在留する外国人、あるいはオーストラリ アで事業を行う外資企業が在豪勤務スタッフ の居住用に開発済みの中古の住宅用不動産 を取得する場合 • 一時滞在ビザを持ちオーストラリアに一時 的に在留する外国人が住宅用空き地一区画 または新しい住宅一区画を取得する場合 59 | Doing Business in Australia • 住宅用または商業用の空き地の取得で、24 か月以内に開発のための実質的かつ継続的 な建設作業が始まる場合 先住権(Native title) および文化遺産 • 既存の住宅用不動産を再開発するために取 得する場合 1992年以来、オーストラリアの裁判所は、オース トラリアのアボリジニー住民固有の法律や慣習で 認められた土地および水域に対する先住権が、ヨ ーロッパ人の入植後も存続してきた可能性がある ことを認めるようになりました。 • 不動産開発者が海外と地元で販売活動を行っ ている場合において、新規住宅開発地にお ける住居を取得する場合 • 総合観光リゾート内の住宅用不動産を取得 する場合 • 所定のホテルの区分所有(strata-titled)の 部屋を取得する場合 • 単独所有者の宿泊施設事業で、施設内の不 動産が短期的かつ商業ベースで使用される ものを取得する場合 (c) 契約およびオークション 外国人によるオーストラリア不動産の取得 に関する契約は、(FIRBの承認が必要な 場合には)契約締結前にFIRBの承認を得 た場合を除き、当該承認を得ることを契約 の条件としなければなりません。 競売(オークション)で不動産を購入しよ うとする場合は、入札を行う前に、事前に FIRBの承認を得ておく必要があります。 (d) クイーンズランド州の不動産 クイーンズランド州の不動産を取得する場 合は、FIRBの承認とは別に1988年外国人 土地所有権法 (クイーンズランド州法) に基づく通知を行う必要があります。 裁判所は、存続してきた先住権と相反する土地所 有権を新設する(例えば、所有権を付与する、ま たは排他的占有権のある借地権を新設する)など の政府の行為により先住権が消滅したとされる場 合、または特定の土地とアボリジニーのグループ や氏族とのつながりが失われたため先住権が消滅 したとされる場合を除いて、先住権は存続すると いう判断を下すようになりました。また、先住権 は、政府によりまたは政府のために公共事業で建 設された特定の建物や道路等の周辺でも、消滅し ている場合があります。 すなわち、先住権は、州の保護区、公園、森林、 海岸地帯、その他の政府所有地、各州や準州の境 界内または境界を越える水域をはじめとするオー ストラリア大陸の広い地域にわたって存続してい る可能性があります。 1993年連邦先住権法(NTA)は、このようなコモ ン・ロー上の進展を確認・成文化したもので、先 住権を認め、保護しています。また、この法律に 基づいて先住権に関する国家登録制度が創設され ました。 NTAの下では、先住権を消滅させる(または先住 権の継続的な行使と矛盾する)政府の将来の行為 は、それが先住権に相反する限りにおいて、無効 となります。ただし、当該行為(政府所有地への 所有権や使用権の付与など)がNTAが規定する例 外に該当する場合はこの限りではありません。公 共のために運営される一定のインフラストラクチャー の建設や運営を許可する政府の将来の行為も例外 に該当します。 先住権に関する将来の行為の有効化は、政府 が、NTAの定める手続に厳格に従って、登録先住 権者や先住権を主張する者として登録されている 者に対して政府の行為について意見陳述の機会を 与え、また場合によっては政府の行為について交 渉権を与えることによって行うことができます。 このような有効化の手続は、一定の種類の公共用 インフラストラクチャーの建設または運営の許可 を含む多様な将来の行為について規定されていま す。 外国投資家によるオーストラリアでの 「アーバンリアルエステート」の取得に際しては、 外資審議委員会(FIRB)の審査を受ける必要があります したがって、プロジェクト開発を行う場合、プロ ジェクトのために政府から付与される所有権や許 可の有効性について疑義がないことを確認するこ とが非常に重要です。 1998年以降、NTAは、(前述の手続によらない) 代替的な手続による政府の行為を認めています。 これは、企業や開発業者の多くが利用しているも ので、プロジェクト開発の早い段階で、先住権を 主張する者として登録されている者との間で先住 地使用合意(Indigenous Land Use Agreement ILUA)を締結し、登録するというものです。登録 されたILUAに従って行われる行為は、すべて有効 になります。 ILUAで通常規定されるのは、神聖視される場所 や重要な場所の保護、アボリジニーの当該グルー プ・氏族に関する重要な文化情報の交換、プロジェ クト開発者によるグループ・氏族のメンバーの雇 用、プロジェクト開発が先住権に及ぼす影響に対 する補償金の支払いなどです。 アボリジニー先住権を認めるようになったのは、 オーストラリアの不動産法における比較的最近の 動きであり、僻地での鉱業やインフラ開発などに 関して避けて通れない課題となっています。た だ、通常、先住権の存在を主張する者との交渉を 早期に開始すれば、先住権がプロジェクト成功の 妨げになるほど大きな障害となることはありませ ん。 60 | Doing Business in Australia 連邦政府および各州・準州政府は、アボリジニー の文化遺産保護法も制定しています。大規模プ ロジェクトの場合、原則として、関係するアボ リジニー当事者らと文化遺産管理計画(Cultural Heritage Management Plans)について交渉しなく てはなりません(当該プロジェクトについて、こ のような問題に関するILUAの規定が整っており、 当該ILUAが登録済みである場合を除きます)。こ のような交渉もまた、プロジェクト開発の初期の 段階で開始し、先住権問題の交渉と同時期に並行 して行うべきでしょう。 資産のデュー・ディリジェ ンス デュー・ディリジェンスは、当事者または資産に 関する情報、記録、書類等を調査し、検証するプ ロセスです。投資家が当該資産の購入に関するリス クを十分に知ることができる点で、デュー・ディ リジェンスは重要です。また、デュー・ディリジェ ンスにより、投資家は、資産の価格についても十 分に情報を集めた上で決定することができます。 一般的な資産のデュー・ディリジェンスは、以下 のようなものを含みます。 • 資産の所有権の調査 • 資産の賃借権の精査 • 資産の使用と将来の再開発可能性に影響する開 発証明・開発証書・規制の精査 資産の購入・売却に関するヒ ント・陥りがちな落とし穴 一般的なヒントと陥りがちな落とし穴には、例え ば以下のようなものがあります。 • 早く始める:多くの場合、資料が手に入り次 第、デュー・ディリジェンスをできるだけ早く 行うことが有益です。このことは、売主が取引 の次のステージに進む準備ができている買主を 求めている場合に、買主に有利に作用します。 • 専門のコンサルタントを利用する:質の高い弁 護士、エンジニア、環境コンサルタント等は、 投資家に対して、資産に関する最も包括的な分 析を提供します。 • 第三者による依拠:買主が、売主のコンサル タントが準備したレポートに依拠したい場合に は、買主は通常コンサルタントからそのための 許可を得る必要があります。場合によっては、 そのための費用がかかることもあります。 • 保険:投資家が購入しようとする資産のために 十分な保険をかけることが重要です。 オーストラリアの環境、汚染 および開発計画に関する法律 は、過去に大きな変化を遂 げ、現在も大きく変化し続け ています 環境法 オーストラリアの環境、汚染および開発計画に関 する法律は、過去に大きな変化を遂げ、現在も大 きく変化し続けています。連邦レベルおよび州レ ベルの両方、またすべての州・準州において、気 候変動に対応した法など、常に新しい立法がなさ れています。こうした新しい制定法や、行政当局 による方針や運用の変化(特に法律に基づく規制 の執行に関する方針の変化)が相まって、この分 野の法律が日常の事業活動に及ぼす影響は極めて 大きなものになっています。 本来、環境、汚染および開発計画に関する法律 は、すべて州・準州が管轄する分野であり、連邦 は、限られた範囲で関与するに過ぎません。しか し、連邦法は次第に環境規制において重要な役割 を果たすようになってきています。州や準州によ る法律の差異により、法律の解釈は難しくなりま す。 61 | Doing Business in Australia また同じ法域内でも、環境、汚染、開発計画の判 断において、許可を得るための要件の面で相当程 度の重複があります。 主要な連邦法である1999年環境保護・生物多様性 保全法(EPBC法)は、主に、以下のように、国の 環境に重大な影響を与える計画に適用されます。 すべてではありませんが、ほとんどのオーストラ リアの法域で広範な不服申立て(第三者による不 服申立てを含みます)の規定が存在します。幅広 い利益衡量を行うものもあれば、不服申立理由 が、意思決定にあたっての法的な誤りのみに厳格 に限られているものもあります。 • 世界遺産 連邦法 連邦法は、国際条約に基づく国の環境保護義務を 履行するためや関連する合意が連邦の関与を必要 とする場合に制定されるのが通常です。例えば、 事業活動が連邦所有地で行われる場合や、活動が 国の環境に重大な影響を与えるおそれがある場合 などです。 • 国家遺産 • 国際的に重要な湿地生態系 • 絶滅危惧種/生態学的共同体として指定され たもの • 移住性がある種 • 連邦の海域 • 放射能に関する活動(ウランの採掘を含む) EPBC法は、環境、開発、遺産に関する問題を幅広 く取り扱っており、計画に対する承認が免除され る複数の手段を定めています。最近のEPBC法の改 正により、水資源に重要な影響を与えるおそれが ある炭層ガス開発または炭鉱開発にも承認が必要 になりました。 EPBC法上、取締役は、民事上の責任を負う可能性 があります。また、会社の行為に影響を与える立 場にあり、法律違反を防止するための合理的な措 置を講じず、犯罪が行われようとしていることに ついて知っており、知ろうとせず、または過失に より知らない場合には、刑事上の責任を負う場合 もあります。 計画が、先住民の遺産、放射能の安全性、特定の 廃棄物の輸出入、沖合での石油採掘に関連する場 合にも連邦法が適用されます。連邦法は、補充的 な州法(国家環境保護基準/危険物の運搬等)に より採用される統一的な基準を定める場合もあり ます。 特定の事業や活動に対して連邦の環境法が適用さ れる場合、連邦法は、事業が運営される州・準州 法に基づく義務に加えて、常に重畳的に適用され ます。 さらに、場合によっては、プロジェクトの 環境的評価は、連邦法と州・準州法とでは、適用 される基準等の違いにより、大きく異なる場合が あります。もっとも、連邦と州が合同で計画の評 価を行う場合もあります。 州・準州法 州・準州の環境、汚染、開発計画に関する法律、 政策、手続は、各州・準州によって規定の仕方や 複雑性、重点に相当な違いがあります。 環境、汚染、開発計画についての意思決定には、 相当程度、裁量の余地があり、州・準州が意思決 定を行う場合には、オーストラリアの他の法域の 基準や決定を参照する場合があります。このよう なことは、当該法域に既存の政策やデータの不足 がある場合に最もよく行われます。もっとも、全 体の法的枠組みには差異が存在するため、このよ うな決定や基準の適用は注意深く行われなければ なりません。 62 | Doing Business in Australia 州・準州の環境に関する法律 (a) 環境犯罪 一般に、州・準州レベルの環境法には、環境 に対する侵害に対する様々な刑事罰規定があ ります。これには、環境汚染を防ぐ一般的義 務に基づく場合もあれば、種の多様性、水・ 空気・土地の汚染に対する環境上の侵害など 特定の規定違反の場合もあります。「環境」 概念の拡張により、騒音、におい、ごみ、生 活環境、電磁放射線の発生などについても犯 罪が成立することがあります。 すべての州・準州は、取締役または会社の経 営に関与している者が個人的に環境犯罪につ いて責任を負うとの規定を定めています。こ のような環境法上の義務違反についてのみな し責任に対しては、被告は、法人の犯罪につ いての個人的な責任に関する様々な抗弁を主 張することができます。 (b) 許認可 また、環境法は、特定の事業または特定の活 動を請け負う事業について、環境規制当局か らの許認可を要するものとしています。一般 に、こうした許認可は、一定の制限の下、環 境犯罪に対する抗弁として機能します。 (c) 環境への影響のアセスメント すべての州には、環境保護を担当する法定の機 関があります。これらの機関が与える許認可 では、事業活動の方法を定めたり、条件を付 することによって事業者に一定の義務を課す ことがあります。かかる条件には、例えば、 課せられた環境基準を遵守させるための保証 金の支払い、排出権取引制度への参加、監 視・一般への報告、オフセットの提供、事業 活動により排出される汚染物質の量を基準に 計算された認可料の支払い等を要求するもの があります。また、事業活動が、絶滅の危機 に瀕する動植物、先住民/非先住民の文化遺 産、水資源、廃棄物、有害化学物質、危険物 などに影響を及ぼす可能性がある場合、州・ 準州の特別法によって義務が課せられる場合 があります。かかる特別法に基づく許認可が さらに必要になる場合もあります。 州・準州の汚染に関する法律 オーストラリアのほとんどの法域において、土地 の汚染の報告、分類、管理、責任に関する法律が 既に導入されています。 最初に責任を問われるのは、常にではありません が、通常、汚染の原因とみられる活動を行った者 です。しかし、場合によっては、土地の所有者や 占有者などのそれ以外の者が、土地の汚染に対す る一定の法的責任を負う可能性もあります(例え ば、土地の用途の変更等)。このことは、土地の 取得、汚染の可能性のあるオーストラリアの土地 を所有する、または所有してきた企業の活動、あ るいは土地を賃貸する場合の契約上の義務に影響 を与える可能性があります。 土地が汚染されているかどうかは、その土地を特 定の目的で使用する際の適格性にも影響するかも しれません。また、汚染の調査、改善、監視、管 理の義務(環境規制当局からの法的に強制執行可 能な指令に基づくものを含みます)が発生する場 合もあります。 土地の賃貸借契約や売買契約に関しては、土地の 汚染に関する懸念は、契約上の保証・免責やこれ に関連する問題につながる可能性があるため、交 渉の早期の段階から検討されるべきでしょう。 連邦法は徐々に環境規制において重要な役割を 果たすようになってきています 州・準州の開発計画に関す る法律 計画承認のプロセスは、文化遺産や先住民の遺産 の承認に関する別個のプロセスと重複する場合も あります。 土地の使用や開発に関する事業をオーストラリア で行う場合、該当する開発計画法に基づく承認を 受ける必要がある場合があります。州・準州の開 発計画法は、開発、分割、建設とこれらの実施方 法について規定しています。 一般に、開発計画法では、決定がなされる前に、 パブリックコンサルテーション/アドバタイズメ ント等を要求することや第三者が裁判所等に対し て不服申立てができるようにすることにより、一 般市民がアセスメントに参加できるようにしてい ます。もっとも、第三者の不服申立ての権利はす べての州・準州で認められているわけではありま せん。 開発計画の承認を得るための要件は、該当する土 地の区分や事業の種類によって異なってきます。 土地の所有者が区割り変更を開始することができ る場合もあれば、州政府や地方自治体が行う必要 がある場合もあります。 また、一定の公共物や当該プロジェクト固有の法 規制等がある場合には、計画の承認が免除された り、制限されたりしている場合があります。 さらに、新規の開発に関するインパクト・アセス メント(影響評価)の方法や内容は、州によって 大きく異なります。アセスメントは、開発の種類 によって、地方自治体もしくは州政府レベルで、 または特定の法定機関もしくは独立機関により行 われます。一定の状況では、州レベルに加えて、 連邦レベルでのアセスメントが必要になることも あります。 63 | Doing Business in Australia アセスメントのプロセス上、審問や公聴会が行わ れることもあります。 大規模インフラプロジェクトの開発計画の承認に は、常に開発の実施・運営の方法を規制する条件 が付されます。かかる条件により、拠出金ある いはその他の形での貢献(土地の提供や生態系オ フセットの実施など)が必要となる場合もありま す。したがって、開発計画の承認に付随する条件 が事業活動に非常に大きな影響を及ぼす可能性が あります。 デュー・ディリジェンス オーストラリアで事業を譲り受ける場合や新規事 業を開始する場合は、適用される州・準州または 連邦の関連法令・政策・手続について正確に分析 し、事業に伴う環境や開発に関連する義務や責任 を的確に把握することが極めて重要になります。 また、環境、汚染、および開発計画等に関する法 律から生じる潜在的なビジネス上のリスクや責任 を把握することが必要です。 適切なデュー・ディリジェンスを行うことは、事 業に伴う義務・責任・リスクの洗い出しに役立ち ます。 政府は、2011年2月に炭素 価格制度(CPM)を導入 すると発表しました 気候変動 オーストラリアが2007年12月に京都議定書を批 准して以来、気候変動に対応するための連邦レ ベルの政策に大きな進展がありました。2008年に は、温室効果ガス(GHG)の排出およびエネルギー の消費と生産の報告を義務付ける国家的枠組み (NGERS)の運用が開始されました。自社または 子会社を通じて所定の排出量・エネルギーの生産・ 消費量の基準値を超える施設の運営をしている場 合、または企業グループとして基準値を超えてい る場合には、詳細をクリーンエネルギーレギュレー ター(CER)に報告する必要があります。 2009年に政府は、炭素汚染削減制度(CPRS)と 呼ばれる連邦排出量取引制度の導入を試み、この 制度は当初、2011年7月1日に開始される予定となっ ていました。しかし、CPRS法案は当時の野党の支 持を得ることができず、2009年12月にオーストラ リア上院によって否決されました。 64 | Doing Business in Australia 炭素価格制度 2011年2月に政府は、グリーンズその他の少数勢力 との間で、クリーンエネルギーフューチャーパッ ケージと呼ばれる気候変動に関する新たな取組み について合意に達したことを受け、炭素価格制度 (CPM)を導入すると発表しました。CPM導入の ための法律は2011年11月に国会で成立し、2012年4 月に施行されました。 2011年クリーンエネルギー法は、CPMを導入し、 他の法律とともに、各会計年度で基準値25ktCO2 を超えるGHGの排出を行う施設を運営する企業 に責任を課しています。施設を運営する企業に は、NGERSの下で、排出量の報告を行うことが 義務付けられ、報告された排出量に相当する排出 枠を償却するか、排出枠不足課徴金を支払う必要 があります。排出枠については、当初は、CERか ら購入するか、または雇用・競争力プログラム (JCP)の下の暫定的援助の対象になる特定の産 業の場合は無償で付与されます。 2015年7月1日からは、CPMが、当初は価格統制 付の排出権取引制度に転換されることが提案され ていました。当該制度においては、排出枠につい ては、CERのオークションやJCPを通じて発行さ れるか、または二次市場で購入されることになり ます。 CPMは、非輸送用エネルギーにおけるGHGの排出 と削減、工業プロセス、一時的排出(閉山した鉱 山を除く)および廃棄物からの排出を含む広範囲 の排出源を対象としています。農業および低炭素 農業の推進構想(CFI。土壌炭素隔離およびその他 の土地管理プロセスから国内オフセットを生み出 すことを可能にするように設計された構想)の対 象となる排出源は、CPMの対象外ですが、燃料税 等の税制の改正を通じて、有効炭素価格(CPMの 排出枠の価格と同等)が適用されます。 大量に燃 料を使う事業者は、有効炭素価格を支払う代わり に、CPMに参加することも可能です。 2012年7月1日にCPMは固定価格で開始し、2015年 にキャップ&トレード方式に移行するまでの間、 毎年上昇していくこととされました。 国際的な排出枠ユニット(特定のクリーン開発メ カニズム(CDM)プロジェクトが発行する認証排 出削減量も含む)は、固定価格期間では使用する ことができませんが、2015年にキャップ&トレー ド方式に移行した後は、50パーセント分までは、 使用することができるものとされました(使用可 能な認証排出削減量につき、12.5パーセントのサ ブリミットあり)。 気候変動に対応するための連邦レベルの 政策に大きな進展がありました CPMの見直し 新政府の方針 その他の気候変動対策構想 2013年、政府は、CPMの大幅な見直しを発表しま した。まず、2015年から実施予定であった価格統制 については、予定されていた下限価格を廃止するこ ととされました。同時に、政府は、EU-ETSにおけ る排出ユニットの価格がCPMの下限価格となるよ うに、2015年7月1日からCPMをEU-ETSとリンクさ せると発表しました(当初は、当該スキームからの 排出ユニットの輸入だけに限られます)。2013年 の後半、政府は、排出権取引制度およびEU-ETSと のリンクを2014年7月1日からに早めると発表しま したが、この発表内容を実現するための法律が選 挙のための国会解散前に導入されることはありま せんでした。 新政府の公約は、炭素価格制度を廃止して、独自 の「直接行動(Direct Action)」と呼ばれる計画 を実行することです。クリーンエネルギー法を廃 止する法律は、国会の下院を通過し、本稿(英文 版)の作成時点で上院の審理中です。廃止の可否 は、政府が上院で十分な支持を得られるかにかかっ ています。2014年7月1日から、2013年の選挙で選 ばれた上院議員が上院を構成するようになるまで、 十分な支持を得ることはできないかもしれません。 同法が廃止されるまでの間は、対象企業の排出枠 の取得・償却または有効炭素価格の支払義務は継 続されます。 CPMと異なり、2020年までにオーストラリアの電 力供給源の20パーセントを再生可能エネルギー由 来のものにするという、再生可能エネルギー目標 (RET)制度については、現在、与野党双方の支 持が得られています。しかし、新連邦政府は、最 近になってRETの更なる見直しを発表しました。 このスキームには、2020年の達成目標の見直しを 含む更なる変更が加えられる可能性があります。 見直しは、2014年前半に行われる予定です。 65 | Doing Business in Australia 「直接行動」計画が実施された場合には、政府が 排出削減基金を創設し、事業者の排出削減分を買 い取り、エネルギーの効率化やCFIの拡大などのそ の他の排出権削減や隔離構想を支援することにな ります。新政府は、2014年に、「直接行動」計画 の実施についての白書を公表することを公約とし ています。 大型商業建築物に対し、エネルギー効率に関する 国家戦略の一環としてエネルギー効率の詳細を開 示するように義務付けるとともに、エネルギーを 大量に使う事業者に対して、事業の運営にあた り、エネルギーの効率性を確認し、開示すること を義務付ける連邦法も存在しています。いくつか の州や準州には、再生可能エネルギーの使用、省 エネ、エネルギー効率を促進するための独自のス キーム/プログラムがあります。しかし、これら のうちの多くは、CPMの開始により、後退しまた は廃止されました。 オーストラリアの銀行制度 と金融サービスは洗練性と 安定性を兼ね備えています 金融サービス オーストラリアの銀行制度と金融サービスは洗練 性と安定性を兼ね備えています。 銀行制度は、オーストラリア金融監督庁(APRA) によって注意深く規制・監督されています。 同時に、オーストラリア証券投資委員会(ASIC) が、オーストラリアの会社、金融市場、金融サー ビス団体、および投資、退職者年金、保険、預金 受入れ、与信を扱い、助言をしている専門家を規 制する役割を果たしています。 国内には、四大銀行(オーストラリア・ニュージー ランド銀行、オーストラリア・コモンウェルス銀 行、ナショナル・オーストラリア銀行、ウエストパ ック銀行)のほか、投資銀行や多数の地方銀行が あります。シティグループや中国銀行のような、 主要な外資系銀行もオーストラリアに支店を設け ています。銀行以外の金融機関(消費者信用組 合、住宅金融組合、共済組合、金融会社など)も、 オーストラリアの金融制度の枠組みの中で営業を 行っています。 これらの金融機関は、オーストラリアの企業や一 般消費者のため幅広い銀行・金融サービスや金融 商品を提供しています。企業向けには、企業金 融、プロジェクト・ファイナンス、金融派生商品 66 | Doing Business in Australia (デリバティブ)、アセット・ファイナンスおよ びストラクチャード・ファイナンス、不動産・建 築金融、公社債市場取引などを提供しています。 消費者向けには、リテイル・バンキング、エレク トロニック・バンキングなども提供しています。 外貨と国内通貨の報告義務 現金であるか国際送金であるかにかかわらず、オー ストラリアから持ち出される通貨の金額およびオー ストラリアに持ち込まれる通貨の金額について、 特に制限はありません。ただし、1988年金融取引 報告法(連邦法)や2006年マネーロンダリング防 止およびテロ資金対策法(連邦法)により、特定 の取引には報告義務が課せられます。 金融取引報告法の主な目的は、税関係の法制の管 理や執行を強化することです。また、同法は、マ ネーロンダリング活動を特定し、刑事訴追するこ とも目的としています。マネーロンダリング防止 およびテロ資金対策法は、マネーロンダリングと テロ資金の取締りを目的としています。また、同 法は、銀行・金融サービス業界で活動する者に対 して、それらの者が提供している銀行・金融サー ビスに関連する特定の行動をするよう義務付けて います。 金融取引報告法とマネーロンダリング防止および テロ資金対策法に関しては、重複する領域があり ます。 金融取引報告法 金融取引報告法では、主に、キャッシュ・ディー ラーと呼ばれる個人または組織に報告を義務付け ています。キャッシュ・ディーラーには、金融機 関、金融会社、保険会社、保険仲介業者、証券お よび金融派生商品取引業者、ユニット・トラスト の受託者や管理者、賭博業者などがあります。 同法に基づく主な義務の一つとして、キャッシ ュ・ディーラーは、以下を含む一定の取引につ いて、オーストラリア取引報告・分析センター (AUSTRAC)への報告が義務付けられています。 • キャッシュ・ディーラーが、税法や他の法律の 回避や違反に関連した取引、または犯罪による 収益が絡んだ取引と疑うに足る合理的根拠を有 する場合などの疑わしい取引 • 1万豪ドル(または1万豪ドル相当の外貨)以 上の現金取引 • 国際送金指示 必要な報告をしなかった場合や、不正確または不 十分な情報を提供した場合には、同法に基づき制 裁が科されます。また、同法は、このような報告 回避等を促進したり、助けたりした者についても 制裁を設けています。 もっとも、マネーロンダリング防止およびテロ 資金対策法に基づいて、上記のような取引が報 告されることとなる場合、金融取引報告法に基 づく報告の必要はありません。 したがって、金融取引報告法に基づく義務の遵 守が引き続き求められている者は、基本的に、 マネーロンダリング防止およびテロ資金対策法 に基づく報告義務のないキャッシュ・ディーラー のみとなっています。 マネーロンダリング防止お よびテロ資金対策法 マネーロンダリング防止およびテロ資金対策法 により、オーストラリアにおいてマネーロンダ リングの防止やテロ資金規制に関する新たな報 告制度および規制枠組みが創設されました。同 法は、2006年12月12日に施行されました。 同法は、一定の「指定役務」を提供する「報告 事業者」に対して義務を課しています。報告事 業者とは、例えば、金融サービスセクターで業 務を行う事業者、賭博業者や貴金属業者などで す。 67 | Doing Business in Australia 連邦政府は、同法の適用を「専門的役務」提供 者(不動産業者、会計士、会社役員等)にも拡 大する意図を発表しましたが、かかる「第二分 野」についての改正は、未だ検討過程にありま す。 指定役務には、現在、銀行口座の提供、融資の 提供、売掛債権の買取、ファイナンス・リース の提供、金融派生商品の取引、合同運用ファン ドのユニットの発行、割賦購入あっせん、為替 手形の振出、約束手形や信用状の発行、その他 多くの金融取引など広範な活動が含まれます。 指定役務を提供する報告事業者に特に義務付け られているのは以下の行為です。 • 指定役務を提供する前に顧客の身元を確認す ることなどを含む、マネーロンダリング防止 およびテロ資金対策法(AMl/CTF)の遵守 プログラムを実行すること。 • 特定の種類の取引や疑わしい取引に関して報 告すること。 • 継続的に顧客に関するデュー・ディリジェン スを行うこと。 • 正確な記録を保存すること(記録保存義務の 当初開始日は2006年12月13日)。 AMl/CTF遵守プログラムにおいて、報告事業者 は、指定役務がマネーロンダリングを容易にす るリスクを特定、軽減、管理することが要求さ れます。さらに、報告事業者は、顧客にほとん どの指定役務を提供する前に、顧客の身元を確 認する義務を負っています。既存の顧客に関連 して疑わしい事項が発生した場合など一定の場 合には、顧客(あるいは顧客の代理人)の身元 を再確認しなくてはならないこともあります。 身元確認の作業は、信頼性の高い独立した文書 もしくは電子データ、あるいはその両方を確認 することにより行われます。また、顧客の種類 に応じて、一定の最低限の情報を収集し、確認 することが必要です。 報告事業者は、マネーロンダリングやテロ資金 に関与したり、かかる行為を容易にすることが ないように、継続的に顧客に関するデュー・ ディリジェンスを行うことも必要です。これに は、顧客の身元情報の収集、複雑あるいは疑わ しい取引を発見するための顧客取引の監視、マ ネーロンダリングのリスクが増した場合や疑わ しい問題が発生した場合の顧客に関する追加情 報の収集または確認等が含まれます。 同法に基づく報告義務により、報告事業者 がオーストラリア取引報告・分析センター (AUSTRAC)へ報告する必要のある情報は、 以下のとおりです。 • 疑わしい取引(例えば、脱税の可能性のある 手続、偽名使用、テロ支援または他の犯罪行 為のための資金の使用) • 1万豪ドル(または1万豪ドル相当の外貨) の限度を超えた現金取引 • 国際的な資金移動の指示に関連した一定の 指定役務 報告事業者はまた、AUSTRACに加入し、加入 情報を最新のものに保つ必要があります。送金 サービスを提供する事業者も、AUSTRACへの 登録を請求し、登録への適格性を示す必要があ ります。 退職者年金 オーストラリアの使用者は、原則として、四半 期ごとに従業員の通常の勤務時間の就労に対す る給与の一定割合を、退職者年金法に従って設 定された基金(適格退職者年金基金)へ積み立 てます。 損害保険会社や生命保険会社は、 オーストラリア国内で保険業を営むために、 法律に基づき認可を受ける必要があります 現在、使用者が従業員のために積み立てる最低限 の割合は、各従業員の通常の勤務時間の就労に対 する給与の9.5パーセントであり(最大積立ベー スまで)、2019年7月1日までに12パーセントに達 するまで段階的に引き上げられることとなってい ます。 通常、従業員にはどの退職者年金基金にするのか 選択する権利があり、また自らの退職者年金基金 の積立金を、退職者年金基金間で移動させること もできます。従業員が退職者年金基金を選択しな かった場合、使用者は、その従業員に関してはマ イスーパー商品(MySuper Product)(単純で低 価格の既定退職年金商品)を提供することを認め られている退職者年金基金のいずれかに積立てを 行う必要があります。 現在の退職者年金に対する法定の最低積立割合は 9.5パーセントですが、使用者・従業員ともそれ以 上の積立てを任意で行うことができます。こうし た自主的積立ては、従業員の雇用契約条件の一部 として行うことも可能です。また、従業員は、自 己の給与を減らして退職者年金へ追加積立てを行 うこともできます。ただし、退職年金制度への積 立額につき、軽減された税率が適用される金額に は、各会計年度ごとに上限が設けられています。 当該上限額を超える積立てを防ぐため、上限を超 えた部分については、超過納付税を支払わなけれ ばならないこととなっています。 使用者が最低限の積立義務を果たさない場合は、 退職者年金保証金(SGC)と呼ばれる特別税が使 用者に課せられます。 68 | Doing Business in Australia 基金への積立ては法定の義務ではありません が、SGCがあるために、退職者年金基金への積立 ての方が、使用者にとってはよりコストのかから ない選択肢になっているのです。 2012年6月の時点で、オーストラリアにおける退職 者年金事業者は48万以上あり、約3,200万の保有 口座のために、1.4兆豪ドルを超える資産が運用さ れています。2050年までに資産運用額は9兆豪ド ルにまで成長すると予想されています。 規制対象の退職者年金基金は、1993年退職年金 業(監督)法の下、オーストラリア金融監督庁 (APRA)から免許を受け、同庁に監督されていま す。ただし、自己管理退職者年金基金は、オース トラリア国税庁に監督されています。退職者年金 基金は、継続的に、自己資本比率、ガバナンス、 報告義務等の規制を受け、とりわけ事業運営およ び商品に関する開示については、法令・財務規制 により厳しく統制されています。 また、適格退職者年金基金の課税所得に対して は、通常15パーセントの優遇税率が適用されるこ とも忘れてはなりません。基金が所有する株式や 証券の売却益などを含むキャピタル・ゲインにつ いては、その資産が12か月以上所有されていた場 合、10パーセントの税率となります。政府は、さ らに、原則として、使用者や実質的自営業者が退 職者年金基金へ積み立てた金額分を所得から控除 することを認めています。 退職者年金基金の加入者は、通常、65歳に達す るか、一定の最低年齢に達した後に退職した場合 でなければ退職者年金を利用することができませ ん。この最低年齢のことを保全年齢(preservation age)といいます。1960年7月1日より前に生まれた 人の保全年齢は、55歳です。 1960年7月1日から1964年6月30日までに生まれた 人の保全年齢は、段階的に59歳まで引き上げられ ます。1964年6月30日より後に生まれた人の保全 年齢は、すべて60歳と定められています。課税さ れている退職者年金基金から60歳以上の加入者へ の支払いは、非課税となります。これは、加入者 が退職者年金の受給を60歳になるまで待つことを 促しています。 保険とリスク管理 損害保険会社や生命保険会社は、オーストラリア 国内で保険業を営むために、各々の法律に基づい て認可を受ける必要があります。いずれも、オー ストラリア金融監督庁(APRA)により、継続的 に、自己資本比率、支払余力、報告義務等の規制 を受けており、事業運営の方法も、市場活動や保 険契約業務を規制する法律によって厳しく統制さ れています。保険会社が小口顧客に対して直接金 融サービスを提供する場合は、オーストラリア金 融サービス業免許(AFSL)の取得も義務付けら れます。 保険代理店も、オーストラリアで小口顧客に対し て直接金融サービス(金融アドバイスを含む)を 提供するためには、AFSLを保有している必要があ ります。 再保険会社も、オーストラリア国内で営業するた めには、認可を受けることが義務付けられていま す。保険会社と同じく、自己資本比率、支払余力 および報告義務等の規制に服していますが、各契 約に対する規制は保険会社の場合と比べると大幅 に軽減されています。「契約条件確定」のルール が適用されますが、英国と比べるとオーストラリ アの再保険に対する適用は、その適用範囲が大幅 に限定されています。主要な国際再保険会社の多 くは、オーストラリアからの受再保険を引き受け ています。ただし、APRA規制下にある出再保険会 社によるAPRA規制下にない海外の再保険会社への 出再保険に関しては、最低資本要件(MCR)を計 算する際に、APRA規制下にある出再保険会社に追 加の資本負担(capital charge)が課せられます。 オーストラリア国内で付保を検討している企業 は、オーストラリアの保険・再保険市場が小規模 ながらも競争率が高く成熟しており、あらゆる大 手国際保険代理店各社が業務を行っていることに 気づくことでしょう。オーストラリアの保険法 は、ほとんどの場合、キャプティブ保険会社(自 社専用保険会社)を市場の保険会社と同様に扱っ ています。しかし、APRAは、キャプティブ保険会 社について、個別の事案に応じて規制を緩和する 場合もあります。 代替的リスク移転の手法も利用されており、大手 のサービス提供業者は、適切なリスク管理技術に 関する専門的なスキルを提供しています。 リスク管理の分野は高度な発展を遂げており、こ の分野では世界トップレベルのスキルを利用する ことができ、非常に高度で統制された業界です。 保険を含むリスク管理は、多くのオーストラリア 産業において法定の必要条件になっています。保 険業界自体もその例外ではありません。現在の業 務リスク管理のオーストラリア規格は、AS/NZS ISO31000:2009です。 金融サービス体制 (a) 導入 オーストラリアの金融サービス体制には、次 のような特徴があります。 • 金融商品についての助言、管理投資スキー ムの運用、またはその他の金融関連商品 (株式、社債、管理投資スキームにおける 持分、退職者年金、貯金商品や金融派生商 品など)の売買などの金融サービスを提供 する事業者に対する一貫した免許制度を設 けています。 • 金融商品市場(株式や先物取引など)や清 算・決済機関を運営する事業者に対する一 貫した免許制度を設けています。 69 | Doing Business in Australia • 特に小口顧客相手に金融商品を販売・勧誘 する事業者を対象とした、トレーニング、 運営能力、その他の行為準則などに関する 統一した基準を規定しています。 • 当該体制の対象となる商品・サービスに関 する統一した販売・開示制度を実施して います。 (b) オーストラリア金融サービス業免許制度 る企業がオーストラリアで金融サービス業を あ 行う場合、当該企業は、一定の除外規定に当て はまらない限り、オーストラリア金融サービス 業免許を保有している必要があります。 外国の金融サービス業者は、オーストラリア で金融サービス関連の営業活動を行うにあた り、事前に免許が取得可能であるか、または 除外規定に該当するかを慎重に検討する必要 があります。 金融サービス業に関する免許が付与される場 合、種々の条件が付されるのが通常です。ま た、一旦免許が与えられると、法定の様々な 報告義務や顧客に対する義務が課せられま す。外国の金融サービス業者がオーストラリ アの大口顧客専用の金融サービスを提供する 場合、一定の条件を満たす外国事業者に限っ て免許取得が免除される場合があります。こ れは、オーストラリアの事業者に対する規制 と同等の規制が外国事業者の母国で課せられ ていることが前提となります。 さらに、その適用の有無は個々の事実関係による ことにはなりますが、特定の金融サービスに関し ては、いくつもの除外規定も存在しています。 (a) 投資会社 人として構成されている投資ビークルにお 法 ける持分をオーストラリア居住者に対して売 り出す場合、それが株式であれ社債であれ、 関連する規制に服する可能性が高いといえま す。その場合、投資ビークルおよび販売業者 のいずれについても、いかなる免許・登録義 務が生じる可能性があるのか、検討する必要 が生じます。 投資商品 オーストラリア市場で提供されている金融商品に は、主に二つの種類のものがあります。すなわ ち、「証券」(企業の株式や社債を含みます)と 「管理型投資スキーム」における「持分」です。 これらは、いずれも退職者年金などの年金商品と は区別されるものです。 商品の種類によらず、当該商品に関連してオース トラリアに居住している者に対して金融サービス を提供する者(例えば、商品に係る持分の発行 者・運用者は当然として、商品のプロモーター、 販売業者、管理者をも含みます)は、金融サービ ス免許を保有している必要があるかどうか検討す る必要があることには注意すべきです。 さらに、外国の金融業者(外国における集団投資 スキームの発行者・運用者を含みます)について は、当該事業者が法人であり、オーストラリアに おいて事業を行うのであれば、外国会社としての 登録を行い、オーストラリアにおける代理人を指 名するという別の義務が生じます。 経験則上、管理型/集団投資スキームにおけ る持分を売り出す場合に比べ、投資会社にお ける持分をオーストラリア居住者に売り出す 場合の方が、免許制度の観点からは著しく容 易であるといえます。 (b) 管理型/集団投資スキーム オーストラリアの金融サービス分野は、回復 力があり、成長を続けています。世界金融危 機下にありながら、オーストラリアの市場が 強力であったことは、世界経済フォーラムが 2009年にオーストラリアを英国に続き世界で 2番目に優れた金融センターであると格付けし たことによく表れています。 ーストラリアにおいては、約1.7兆豪ドル オ もの資産が運用されており、かかるオーストラ リアのファンド市場は、アジア最大です オーストラリアにおいては、約1.7兆豪ドルもの資 産が運用されており、かかるオーストラリアのファ ンド市場は、アジアでは最大です。管理型ファン ドや退職者年金基金等のオーストラリアで運用さ れている資金は、2015年まで、年間10パーセント 以上増加すると予想されています。2028年まで に投資ファンドの資産総額は7兆豪ドルに達する と見込まれており、オーストラリアは、一人あた りの運用資金水準が世界で最も高い国となってい ます。 オーストラリアには、高度な技術や専門知識を持 つ人材が集中しており、アジア太平洋地域内にお けるファンド運用の中枢となっています。また、 このことは、グローバルなファンド運用企業がオー ストラリアで営業を開始する際の更なる魅力とも なっています。 ーストラリアでは、集団投資ビークルを、管理 オ 型投資スキーム(managed investment schemes) と呼んでいます。管理型投資スキームは、様々な 法形式をとっており、そのうちのいくつかは単な る契約型のスキームで、ある一定の状況が起これ ば投資者が利益を受け取るという個人的な約束を プロモーターが投資者に対して行うものです。こ れに対し、最も一般的な投資スキームは、ユニッ ト・トラストです。ユニット・トラストでは、従 来型および代替型の各種の資産クラスを対象にし た商品が準備されており、例えば、資産そのも の、資産証券、エクイティ(国内および国外)、 現金、プライベート・エクイティ、ヘッジファン ド、インフラストラクチャーなどを対象にしたも のなどがあります。 70 | Doing Business in Australia 管理型投資スキームとは、複数の投資者が資金を 提供し、その資金をプールするか共通の事業に投 資することによって各投資者が金銭的利益を得る ことを目的とした仕組みです。株式や社債と比べ て管理型投資スキームが決定的に違うところは、 投資者自身にはスキームの日々の運用について権 限がなく、運用をプロの運用業者に任せることに なっている点です。管理型投資スキームの運用を 行う場合は、免許保有者にスキームの運用を認可 する、オーストラリアの金融サービス業免許が必 要です。この免許を取得するためには、財務的な 条件を満たすと共に、いくつかの一般的な条件を 満たしていることが求められ、申請者は能力、学 歴、そして経験について最低限の基準を満たして いること必要とされます。上記の免許の要件に加 え、管理型投資スキームの持分が小口ベースで販 売される場合は、原則として、当該管理型投資ス キームを登録することが必要になります。ただ し、管理型投資スキームの持分がオーストラリア の大口投資家のみに販売される場合は、登録は必 要ありません。 小口投資家と大口投資家ははっきりと区別されて おり、大口投資家と分類されない限り、小口投資 家とみなされます。 一般に、大口投資家とは、機関投資家や規模の大 きい投資を行う知識と経験が豊富とみなされる投 資家などをいいます。 登録を必要とするスキームは、各種の厳しい規制 が課せられ、会社法の規定を遵守している必要が あります。例えば、当該規制上、管理型投資スキー ムは、責任ある公開会社によって運営されなけれ ばなりません。責任ある公開会社は、信託の受託 者と運用業者の役割を兼ねているのです。かかる 法人は、管理型投資スキームの運営について、投 資者および監督機関の双方に対して単独で責任を 負っており、したがって会社法が定める様々な義 務を遵守することが求められています。かかる義 務には、投資者の最善の利益を図るよう行動する 義務、および適切な注意を払って行動する義務が 含まれます。 海外の資産運用業者がオーストラリア市場への参 入を希望する場合、様々な方法があります。多く の場合、海外の資産運用業者は、オーストラリ ア国内でオーストラリアの法律に従ってファンド 運用会社を設立し、国内の資産運用業者と同じ条 件で営業しています。別の方法として、海外で設 立された投資スキームを、オーストラリアにおい て大口投資家のみに対して、または大口および小 口の投資家に対して、直接販売することも可能で す。 かしながら、海外の投資スキームを国内で直接 し 販売する場合、大口投資家のみを対象にする場合 には一定の会社法規定の適用除外を受ける必要が ありますが、これを受けられるのは特定の国で規 制を受けている運用業者に限られています(例え ば、英国、米国、シンガポール、香港など)。ま た、小口投資家を対象とする場合は、大口投資家 を対象とする場合よりも適用除外の範囲はさらに 限られており、海外の投資スキームや運用業者に 対するオーストラリア法の規制は避けられませ ん。 一般には、海外の資産運用業者は、オーストラリ アの免許業者との間で戦略的な提携を結ぶことに より、オーストラリア法による規制の負担を最低 限に抑えつつ、オーストラリアの小口投資家を対 象とした販売を行うことを可能としていることが 多いようです。 ウラン探鉱および採掘は、 南オーストラリア州、北部 準州、西オーストラリア州、 クイーンズランド州で許可 されています オーストラリアのウランに対する 立場 オーストラリアは、ウランの「既知可採資源量」 の割合が世界で最大(約31パーセント)の国で す。オーストラリアで現在稼働中のウラン鉱山は4 つですが、全土に数多くの開発中のプロジェクト が残っています。さらに、南オーストラリア州、 北部準州、西オーストラリア州、クイーンズラン ド州は、ウラン資源の点でかなり有望と考えられ ており、現在それらの地域はウラン探鉱が進めら れているところです。 ウラン探鉱および採掘は、南オーストラリア州、 北部準州、西オーストラリア州、クイーンズラン ド州で許可されています。ニューサウスウェール ズ州では、ウラン探鉱のみが許可されており、ビ クトリア州では探鉱および採掘の双方が禁止され ています。現在、タスマニア州ではウラン開発に ついての法的規制は特になく、オーストラリア首 都特別地域では埋蔵ウランの存在は実証されてい ません。 オーストラリア国内におけるウラン採掘は未だ議 論のある問題であり、いくつかの地域社会のセク ターからは、強く反対を受けることがあり、時に は法的に争われることもあります。 71 | Doing Business in Australia ウランの採掘に関する活動は、連邦および州・準 州のレベルの双方において、法律、政策、様々な 機関や組織に係るガイドライン等が複雑に合わさっ た枠組みにより規制されています。 連邦政府は、環境評価、輸送、輸出コントロール の場面にまで及ぶ特別の規制権限を有しています が、他方において、日々のウラン採掘に関して は、州・準州政府が、採掘・探鉱関連法令を通じ て規制をしています。 長期間炭鉱閉鎖に関する基準の発行や廃棄物貯 蔵・管理は、主として連邦および州の双方のレベ ルにおける、鉱業・環境承認条件に関わっていま す。現在、連邦政府および北部準州の基準によれ ば、最短でも1万年に渡る計画策定が必要となり ます。 連邦法 環境に関する事項を扱う権限は、連邦および州・ 準州の双方のレベルに効果的に配分されていま す。もっとも、連邦政府は、国際合意に基づく義 務から生じる輸出許可に関する権限を有している ため、より広範なコントロールを行っています。 北部準州については、ウラン採掘に連邦政府の承 認が必要であるという点において、他の州と異なっ ています。これは、1953年原子力エネルギー法 (連邦法)に基づき連邦が北部準州のウラン資源 を所有しているためです。他の州については、関 連する鉱業法令に基づき、各州がウラン資源を所 有しています。 環境法に関する章に記載されているとおり、原子 力関連の行為については、環境保護・生物多様性 保全法(EPBC法)に基づき、連邦政府が権限を有 しています。EPBC法の下の他の国家的な環境問題 の大部分と比べ、連邦政府は、採掘プロジェクト に関するあらゆる環境問題を検討する権限を有す る(例えば、放射能による影響に関する権限に限 定されてはいません)点において、非常に広範な 権限があるといえます。もっとも、EPBC法の下で の原子力関連の行為を規制する権限も、オースト ラリアで生産されて輸出されたウラン製品の海外 における使用にまでは及びません。 未だ争われたことはありませんが、連邦政府が EPBC法の下でウラン採掘にとどまらず、ウラン探 鉱にまで及ぶ権限を有しているのかどうかという 点については、疑義が残っています。 オーストラリア国内におけるウラン採掘は、 未だ議論のある問題であり、いくつかの地域社 会のセクターからは、強く反対を受けることがあります 連邦政府は、放射性物質の影響から人々の健康・ 安全および環境を保護するための法令も有してい ます。放射能に関する基準は、1998年オースト ラリア放射線防護・原子力安全法(連邦法)に基 づき、オーストラリア放射能防護・原子力安全庁 が発行しています。環境や健康・安全に関する承 認のほか、ウラン採掘、輸送、原子力活動、廃棄 物処理活動などについては、広範な連邦レベルで の承認、許可が必要とされたり、条件が課された りします。具体的には、次のような規制がありま す。 • 1953年原子力エネルギー法(連邦法)による と、オーストラリアにおいてウラン資源を発見 した者は、発見から1か月以内に、連邦閣僚に それを報告しなければなりません。ウランを採 掘するためには、オーストラリア保障措置・不 拡散局から許可証を得る必要があります。 • 1958年関税(輸出禁止)規則(連邦規則)に よると、「自然に発生する同位体の混合物を含 むウラン」を輸出するためには、閣僚レベルの 許可を得なければなりません。 • 1912年航海法(連邦法)によると、海上輸送 を行う場合には通知義務があります。 • 1987年原子力不拡散(保障措置)法(連邦 法)によると、一定のプルトニウム・ウラン同 位体と定義される原子力物質の生成を行う場合 には許可を取得する義務があります。 72 | Doing Business in Australia さらに、連邦政府の旧来からのウラン輸出政策や 規則に基づき、オーストラリアのウランは、平和 利用を目的とする輸出のためのみに生産されるこ とになっています。かかる政府の方針によると、 ウラン輸出には原子力保障措置条件が適用される ことになり、それによりウランは核兵器開発計画 のために使用・流用されることがないことが確実 になります。 (a) 「核兵器の不拡散に関する条約」を批准し、 同条約を遵守しており、(b) オーストラリアとの 間で双方向の保障措置合意を締結しており、かつ (c)(輸出先が非核兵器国である場合)国際原子力 機関がアクセス・検査をする権利を留保すること を明確にする追加議定書を締結している国に対し てのみ、輸出は許可されます。 ウラン採掘活動や関連するインフラストラクチャー (鉄道、パイプライン、水道、動力供給等)の運 営に関しては、1993年先住権原法(連邦法)の 下、先住権に関する議題の決議を経る必要がある 可能性もあります。 また、北部準州において、1976年アボリジニー土 地所有権(北部準州)法(連邦法)に基づく「ア ボリジニーの土地」に関して採掘権を申請する場 合においては、関連する閣僚およびアボリジニー 土地評議会による同意を得る必要があります。 州・準州法 日常的なウランの探鉱・採掘に関しては、州およ び準州政府が規制しています。ウランの探鉱・採 掘を許可している州・準州のほとんどは、複雑な 免許・承認制度、報告義務、検査証明手続を伴う 厳しい規制システムを有しています。 一般的に、採掘提案および閉山計画が承認されて いるとともに、採鉱リースまたは保持リースが得 られていない限り、ウラン採掘活動は禁止されて います。ほとんどの州・準州においては、これら に加えて、放射能管理計画や放射性廃棄物管理計 画も必要とされています。西オーストラリア州に おいては、鉱山石油省ではなく、西オーストラリ ア放射能審議会により放射能管理計画が承認され ます。 放射性物質や放射性廃棄物の地上輸送について も、免許制度が存在しています。ただし、現在、 南オーストラリア州と北部準州のみが、ウラン酸 化物の自州の港からの輸出を許可しています。し たがって、輸出を行うためには、複数の州・準州 からの免許を取得しなければならない可能性があ ります。 西オーストラリア州とクイーンズランド州におい ては、最近、ウラン採掘に反対する政策が取り下 げられました。この結果、西オーストラリア州で は、昨年中に最初の商業用ウラン鉱山が承認され ました。 ニューサウスウェールズ州では、ウラン探鉱は許 可されていますが、ウラン採掘は依然として禁止 されています。もっとも、ウランが実際に採掘さ れてしまった場合、それが他の鉱物資源の採掘に 付随するものであり、採掘されたウランの量が鉱 物資源全体の採掘量の0.02パーセント以下にとど まっている限り、当該ウラン採掘は違法行為とは なりません。 州・準州法により、核廃棄物の廃棄に免許が要求 されていたり、廃棄自体が全面的に禁止されてい る可能性があります。また、ウラン濃縮・原子力 施設の建設を行うことも、すべての州・準州にお いて反対されているか、禁止されています。ただ し、連邦所有の土地については、そのような制限 は存在しません。 豪州企業及びその役員は、 豪州の贈収賄防止関連法 規に加え、他国の法規につ いても理解する必要があり ます。 はじめに 新たな違反行為の規定、罰金の高額化及び予算の 増加によって、世界各国の規制機関は贈収賄防止 のための調査及び規制の実施に関してますます積 極的になっています。豪州もその例外ではありま せん。 これらの法令に違反した場合、結果は深刻なもの となります。海外の多くの事例では、贈収賄に直 接関与した場合、関係法令に違反した場合、及び/ 又は強固なコンプライアンス体制を実施せずに贈 収賄のリスクを軽減しなかった場合において、個 人及び企業に対して厳しい刑罰(懲役刑を含む) 及び罰金が課せられています。また、従業員及び 取引先からの信頼を失ったり、企業の評判を損な うなど、法令違反の結果は広範囲に及びます。 世界経済が統合の度合いを深めるに従い、規制機 関は国境を越えて協働を進め、リスクの高い地域 に関して重点的に取り組むようになっています。 これは、豪州企業及びその役員(又は豪州で事業 を行っている企業)は、豪州の贈収賄防止関連法 規に加え、他国の法規についても理解する必要が あることを意味します。とりわけアメリカ合衆国 及びイギリスは、特に厄介な法規制を有してお り、かつそれを強力に実施し、訴追するという行 動様式を有しているので注意が必要です。 73 | Doing Business in Australia 地域的にも世界的にも、企業が責任を負う可能性 が高まった結果、コンプライアンス・プログラム の策定及び実施に関する更なる取組みが見られて います。贈収賄防止に関する適切なコンプライア ンス制度の実施は、法令順守の企業文化を有して いることを示すために非常に重要です。 豪州における汚職のリスク トランスペアレンシー・インターナショナルが 2013年に発表した世界腐敗認識指数によれば、豪 州は世界で9番目に汚職の少ない国であるとされて います。このランキングは、豪州は比較的リスク の低い環境であるとの印象を与えるかもしれませ んが、近年、下記のような注目を集める事件があ り、贈収賄防止が重点的に取り扱われています。 • ニューサウスウェールズ州の汚職対策独立委員 会(ICAC)のオーストラリア・ウォーター・ホ ールディングス社に関する調査の結果、ニュー サウスウェールズ州政府の州首相及び大臣数名 が辞職することとなった事案 • セキュレンシー・インターナショナル社及びノ ート・プリンティング・オーストラリア社が、 外国公務員の贈収賄を禁止する豪州の法令によ る初の刑事訴追を受けた事案 • オーストラリア証券投資委員会(ASIC)によ る、AWB 社の元役員6名に対する民事訴訟案件 法的措置 • 外国公務員に対する贈収賄の違反容疑に関す る、豪州連邦警察(AFP)によるレイトン・ホ ールディングス社に対する捜査案件 豪州は連邦制度を採用しているため、単一の政府 による贈収賄防止政策は存在しません。各州は贈 収賄に対処するためにそれぞれ異なる法律(成文 法及びコモン・ロー)を有しています。 • オーストラリアの労働組合の不正資金解明のた めに政府調査委員会(Royal Commission into Trade Union Governance and Corruption)が設 置された事案 豪州は、OECD贈賄防止条約(同条約は、国を跨ぐ 贈収賄を取り扱う法律の国際的な枠組みを規定し ています)の締結国であり、継続的な進捗報告書 の対象とされています。「OECD贈賄防止条約の 豪州における施行に関するOECDのフェーズ3報告 書」(2012年10月)では、豪州におけるこれまで の取組みが歓迎された一方、豪州は国際的贈収賄 の根絶のための調査及び実施につきさらに熱心に 取り組むべきであるとの指摘がなされました。 上記事案の結果、現地及び海外の利害関係者(立 法機関、NGO、メディアを含む)が、豪州による 贈収賄撲滅に対する取組みについて、さらなる関 心を寄せることとなっています。 贈収賄の違法行為に対する捜査は、AFP、ASIC及 び州・特別地域の警察がそれぞれ分担して行って います。捜査の結果は、当該事案を起訴するかど うかを判断する権限のある公訴局長官に付託され ます。 さらに、公務員(政治家を含む)及び警察の汚職 について捜査を行うための独立した機関が、連邦 及び州レベルで複数存在しています。ニューサウ スウェールズ州のICACはそのような機関の一例で す。これらの機関は、法令違反に関して個人又は 企業を訴追することはできませんが、広範な捜査 権限を有しています。捜査に関する報告書は、更 なる捜査のために警察へ引渡すこと、議会へ提出 すること、又は、公表することが可能です。 豪州の各州は贈収賄に対処するためにそれぞれ異なる法律 (成文法及びコモン・ロー)を有しています。 国内の汚職 (a)連邦公務員の汚職 連邦公務員の公務の遂行に関して影響を与える 目的をもって直接又は間接に不正な利益供与を 行った場合、又は当該利益供与が連邦公務員 の公務の遂行に対し影響すると考えられる場 合、1995年連邦刑法に違反します。 「利益」とは、あらゆる形の利益を含み、金銭 又はその他の財産に限られません。 「連邦公務員」とは、連邦及びあらゆる連邦機 関の職員の全てを含みます。 (b)罰則 連邦公務員に対する贈賄の罪を犯した個人に対 しては、10年以下の懲役及び/又は170万豪ドル 以下の罰金が科せられます。 企業に対しては、1700万豪ドル、当該行為に 合理的に起因する利益の価値の3倍の額、又は (当該利益の価値が算定不可能である場合に は)企業グループの年間の売上高の10%のう ちの最も大きい金額を上限とする罰金が科せ られます。 贈収賄により利益を受領し、又は職務上の権限 を濫用した連邦公務員に対しても、同様の犯罪 が成立します。 他の者による贈収賄行為に対し、補助、幇助、 助言又は斡旋を行った者は当該贈収賄を行った ものとみなされます。 74 | Doing Business in Australia 贈収賄罪で有罪判決が出た場合、罰則が科せら れ、又は犯罪行為によって得られた利益が没収 される可能性があります。 (c)州/特別地域公務員 本人の業務に関し、ある行為を行うこと又は行 わないことについて代理人に不正に見返りを供 与し、又は申し出た場合、州・特別地域の法律 により犯罪行為となります。また、当該犯罪行 為を教唆、幇助、助言、斡旋、勧誘又は誘発し た者にも同様に犯罪が成立します。 罰則はそれぞれの州及び特別地域によって異な りますが、個人の場合、罰金及び/又は10年以 下の懲役が科せられます。 (d)コモン・ロー上の贈収賄 公務員の行為に影響を及ぼす目的で、当該公務 員に対し不正な見返りの供与を行った場合、 又は当該公務員がそのような見返りを受領し た場合、コモン・ローにも違反することにな ります。 (e)ビジネスにおける贈収賄 一般に、賄賂又は見返りの供与及び受領を禁止 している上記の州・特別地域の法律は、官公 庁、私企業、個人事業の従業員又は代理人に対 する見返りの供与についても適用されます。 従業員が賄賂を受領した場合、2001年連邦会 社法に違反し、20万豪ドル以下の罰金が科せら れ、役員就任資格剥奪の命令又は金銭賠償の命 令が言い渡される可能性があります。 外国公務員に関する贈収賄 豪州は、1999年、刑法に贈収賄防止に関する規定 を制定することにより、OECDの「国際商取引にお ける外国公務員に関する贈収賄の防止に関する条 約」を履行しました。 刑法の下では、ビジネス又はビジネス上の利益を 取得し、又は維持するために、外国公務員の公務 の遂行に対して影響を与える目的をもって、直接 的又は間接的に不正な利益を供与し、又はその申 出を行った場合には違法となります。 「外国公務員」とは、外国政府機関、外国政府系 企業又は国際機関の従業員、請負業者又は役員、 外国の軍隊又は警察の構成員、外国の行政機関又 は司法機関の構成員を含みます。 豪州の当局は、捜査の対象となる者と豪州の間に 「十分な関連性」があると認められる場合に限 り、違法行為に関して、企業及び個人を起訴する ことができます。具体的にいうと、法律違反を構 成する行為の全部又は一部が豪州で行われるか、 又は豪州籍の飛行機又は船の中で行われる必要が あります。また、違法行為の全てが豪州の国外で 行われた場合であっても、行為の時点で、犯罪を 行った疑いのある者が豪州の市民権を有する者、 豪州の居住者、又は豪州の会社である場合には、 上記が適用されます。 例外的に、下記の2つの場合には、犯罪が成立しま せん。 • 当該行為が外国公務員の国において適法である 場合(成文法により当該行為が許容されている か、又は必須のものとされている場合) • 金銭の支払いが、外国政府の重要ではない 「日常事務」の処理を早め、又はこれを確実な ものとする目的で行われる「便宜的支払い」 であり、かつ当該支払いが小額である場合 外国政府の「日常事務」には、新たな取引の開 始、既存取引の継続、又はこれらの取引に関する 契約条件の決定は含まれません。なお、上記の例 外に依拠するためには、企業は、金額、日付、受 領者及び外国公務員との取引の目的等を含んだ、 適切な記録保存手続を行っていることを示す必要 があります。なお、豪州は、現在、「便宜的支払 い」の規定を法令から削除することを検討してい ます。 外国公務員に関する贈収賄の規制は、リスクが高 い環境でビジネスを行う企業のコンプライアン ス・リスクを高めています。特に、これらの活動 が代理人によって、又はジョイント・ベンチャー 企業を通じて行われている場合は注意が必要で す。徹底したデュー・デリジェンス及び継続的な モニタリングは、贈収賄防止のためのコンプライ アンス・プログラムの制定とあわせて、かかる分野 のリスクを最小化するのに役立つと考えられます。 外国公務員に関する贈収賄の刑法上の罰則は、豪 州の連邦公務員に関する贈収賄と同じ内容になっ ています。 豪州連邦警察(AFP)が外国公務員に関する贈収賄を組織として重 点的に取り締まって行く旨を宣言していることからも、豪州におい て外国公務員に関する贈収賄の訴追案件は今後さらに多くなるもの と考えられます。 企業責任 今後の見通し 刑法によれば、企業は、様々な状況において、企 業の代理人の行為に対して刑事的な責任を負う場 合があります。特に、法令違反を導き、促進し、 容認し、又は招くような企業文化を有している場 合、又は企業が法令コンプライアンスを重視する企 業文化を有していない場合は、上記に該当します。 2011年9月、連邦政府は贈収賄防止国家計画 (National Anti-Corruption Plan)を進展させてい くことを発表しました。2012年に公の協議手続が 完了したにもかかわらず、国家計画はまだ発表さ れていません。しかし、今後これが発表され、豪 州が汚職に対してより強力かつ一貫したアプロー チを取ることが期待されています。 豪州の公務員に対する贈答/ 接待 豪州の公務員に対する贈答・接待については、私 企業の従業員に対するものに比べ、更なる注意が 必要です。 通常、豪州の公務員は、追加的なガイドラインに 従うことになっています。たとえば、連邦、州・ 特別地域の各政府は、それぞれの行為基準に従っ て公的サービスを提供しています。これらの行為 基準は、多くの場合、政府機関独自の行為基準に よって補足されています。 公務員に対する贈答・接待に関して、「一般的に 許容可能とされる限度」は存在しません(但し、 政府機関によっては、独自の行為基準において金 額の限度を規定している場合もあります)。詳細 は個別に適用されるガイドラインによりますが、 一般的には、以下のようにいうことができます。 • 名目的な価値を有する記念品以外の贈答品、又 は行き過ぎたもてなしは避けること。 • 公務員に対し交通費又は宿泊代(関連機関の事 前承認のないもの)を支払うことは、基本的に 不適切と考えられる。 75 | Doing Business in Australia より多くの豪州企業が海外のマーケットに進出し 続けており、また、AFPが外国公務員に関する贈収 賄を組織として重点的に取り締まって行く旨を宣 言していることからも、豪州において外国公務員 に関する贈収賄の訴追案件は今後さらに多くなる ものと考えられます。 豪州では、会社の倒産処理を 管理するために、外部管理と いう制度が存在します。 組織再編及び倒産処理 はじめに 豪州は、連邦レベル及び州・準州レベルの2種類の政府を有し、コモ ン・ローの法体系を採用しています。会社の監督権限は連邦政府が有 しており、会社の設立、ガバナンス及び倒産は、2001年連邦会社法 (以下「会社法」)により規制されています。また、会社に関する監 督機関としてオーストラリア証券投資委員会(ASIC)が存在してお り、連邦及び州・準州のいずれの裁判所も、会社法に関する管轄権を 有しています。 豪州内の動産及び不動産に関する権利も制定法により規律されてお り、不動産は州レベルで、動産は2009年動産担保法により連邦レベ ルで規制を受けます。財産に関する権利について関連法令に従った登 録を行わない場合、通常、当該権利は無効となり、法律上の効果を有 しません。 豪州は高度に規制された会社・金融システムを有していることから、 豪州で会社の組織再編及び倒産処理を行う場合には、通常、法律及び 会計に関する専門家の助言が必要になります。 豪州における倒産処理 豪州では、会社が弁済期にある債務を全て弁済することができない場 合、当該会社は倒産状態にあるとみなされます。これは第一義的には キャッシュフローテストにより判断されますが、当該会社の貸借対照 表及びその他の関連事情も考慮されます。 76 | Doing Business in Australia 倒産状態にある会社と取引のある債権者及び第三者を保護するという 観点から、豪州法において、会社が倒産状態にあるか否かという点は 重要な問題となります。 倒産状態にある会社を運営する取締役及び役員は、豪州法上、民事及 び刑事上の責任を負う可能性があります。このうち、より一般的なも のは民事上の責任であり、会社が倒産状態にある時期に行った取引に より債務を負った場合、当該債務について取締役が会社に対して金銭 的に補償する義務を負うことがその典型です。 債権者の保護及び債権者の利益の最大化という観点から、倒産状態 にある会社を管理するための外部管理には、いくつかの種類があり ます。 豪州における再編 イギリス及びアメリカで利用されている再編テクニックの多くは、豪 州法においてもほぼ同様に利用することができます(セル・オフ、 スピン・オフ、エクイティ・カーブアウト、レバレッジ・バイ・ア ウト、リキャピタリゼーション、デット・エクイティ・スワップ、プ レ・パッケージ型手続並びに訴権放棄、債権者和解合意を含む)。豪 州にはアメリカの連邦倒産法第11章(Chapter 11)に相当する規定は 存在しませんが、同制度によるメリットの多くは豪州のシステムによ っても達成することが可能です(債権者の強制執行一時停止及び優先 貸付を含む)。 会社の再編は、外部管理を利用する場合と利用しない場合の両方があ ります(外部管理については下記参照)。再編を行うために外部管理 が必要となるか否かは、(1)会社の支払能力、及び、(2)外部管理 手続において行使できる権利(債権者の強制執行及び第三者の請求を 一時停止すること、債権者の債権を拘束及び消滅させること、取締役 の権限を停止して外部管理人が再編を実行できるようにすることを含 む)を利用する必要があるかどうかによります。 会社は、再編計画を支援、管理又は実行するためにchief restructuring officer又はturnaround managerを選任することもあり ます。また、会社は、外部の法律及び会計アドバイザーを選任して、 再編計画の準備及び実行についてアドバイスを受けることが一般的 です。 外部管理 豪州で一般的な外部管理として、以下のものがあります。 • レシーバーシップ(receivership) • 任意管理(voluntary administration) • 会社調整契約(deed of company arrangement) • 清算(liquidation) これらの外部管理のいずれについても、会社又はその財産について任 命される外部管理人は、独立した第三者であり、通常は、公的な認証 を受けた破産専門の会計士がこれを行います。外部管理人の報酬、費 用及び経費は、会社の資産に対する第一順位の優先債権となります。 会社が外部管理下にある場合、オーストラリア証券投資 委員会が管理する会社登録情報に当該会社が外部管理下 にある旨が記録されます。 会社が外部管理下にある場合、オーストラリア証券投資委員会が管理する会社登録情報に当該会社が外部 管理下にある旨が記録されます。さらに、会社は、当該会社が行うあらゆる連絡の際に、その会社名の後 に自社が外部管理下にある旨を明示することが会社法上要求されています。 管財人が任意管理手続を実行できるように、管財人は、取締役の全ての権限を有しており、また、債権者 又は第三者が管財者の同意又は裁判所の許可を得ずに会社又はその資産に対して処分を行うことを防止す る法定のモラトリアムを利用することができます。 レシーバーシップ 任意管理手続を完了するためは、管財人は、会社の将来の方向性について、債権者に対して提案を行い、 債権者に当該提案の採決をさせる必要があります。会社の将来の方向性の提案は、以下の3つのいずれか になります。 レシーバーシップは、外部管理の一種であり、会社財産の全部又は一部を管理するために、担保権者又は 裁判所により、レシーバー又はレシーバー兼マネージャー(コントローラーとも呼ばれる)が選任される 手続です。 上記の選任は、担保権者が担保契約(会社が担保権者のために締結する質権設定契約や抵当権設定契約) に定める契約上の権利を行使することによって行われるのが一般的です。裁判所が適切と考える場合(た とえば、担保契約にレシーバーの選任権に関する規定が含まれていない場合)には、裁判所がレシーバー を選任することもできますが、あまり一般的ではありません。 レシーバーの役割は、担保の対象である会社財産の占有及び売却を行い、売却代金を担保権者への支払い に充てることにあります。会社財産の売却において、レシーバーは、市場価格又は当該状況下における最 高の価格で財産を売却するように相当な注意を払うことが法律上求められています。 取締役の権限はレシーバーシップの手続中も停止されませんが、レシーバーは担保の対象である財産を処 理する全ての権限を有しているため、担保の対象が会社の全ての財産に及ぶ場合には、レシーバーは、取 締役を排除して会社を管理することが可能になります。 選任を行った担保権者の債務が全て弁済された場合、担保資産の全てが換価された場合、又は裁判所の命 令があった場合には、レシーバーシップは終了します。 任意管理 任意管理は外部管理の一種です。任意管理手続では、資格を有する破産専門の会計士が管財人に選任さ れ、当該管財人が会社の財務状況の調査を行い、会社債権者に対して報告及び会社の将来の方向性に関す る提案を行うことを目的として、会社の管理を行います。当該提案については、会社法に基づき開催され る(第二回)債権者集会において、債権者による採決が行われます。 管財人による調査、債権者への報告及び債権者集会の招集・開催については法定の期限があり、これらの 手続全体には、裁判所からの期限延長の命令がなされない限り、通常は25日から30日程度かかります。 77 | Doing Business in Australia 1.会社の経営権を取締役に戻す。 2.会社調整契約を締結する(後述)。 3.会社を清算する(後述)。 提案に対する採決が行われると任意管理手続は終了します。 担保権者は、任意管理手続の開始から13営業日以内であれば、会社の財産に対してレシーバー又はコント ローラーを選任することができます。当該選任がなされた場合、当該財産に対するレシーバーの権限は、 管財人の権限に優越することになります。 会社調整契約 会社調整契約(deed of company arrangement (DOCA))は、外部管理の一種であり、DOCAの下で、 管財人は、会社とその債権者との間の和解合意の履行をします。 管財人は、任意管理手続において、第二回債権者集会の開催に先立ち、当該集会において採決に付される DOCAの案の提案を募ります。通常、DOCAの案が可決されるためには、債権者に対し、清算による場合 よりもDOCAによる場合の方が弁済額が多くなることを示す必要があります。 DOCAの目的は、債権者に対して債権に関する最終的な配当を支払い(これにより債権は消滅する)、債 務を消滅させた上で会社を取締役の管理に戻すために、会社の財産又は第三者(取締役又はその関係者 等)から資金を捻出することにあります。 DOCAについて標準的な内容はなく、会社法は、再編の状況に合わせて調整できるようにDOCAの内容を 柔軟に定めることができるようにしています。例えば、資産の譲渡、株式発行、債務に関する和解、清算 手続における法定弁済順序と異なる優先的な弁済に合意すること等を定めることもできます。 会社の清算には3通りの方法があります。 清算 清算(liquidation 又はwinding up)は、清算人が会社の業務を終了させ、その財産を換価し、換価代金を 会社法に定める優先弁済順序に従って債権者に対して配当し、最終的に会社の登録抹消を行うことを内容 とする手続です。 会社の清算には3通りの方法、すなわち、(1)株主による清算、(2)債権者による清算、及び(3)裁判 所による清算、があります。清算は、会社が支払不能状態である場合に行われるのが一般的です。清算手 続期間中、清算人が会社を管理し、取締役及び役員の権限は失われます。 債権者に対する配当を行うための資金を捻出するために、清算人は、裁判所に対して以下の命令を求める ことができます。 • (会社が倒産状態にある時期に取締役が会社を運営した場合)取締役に会社に対する金銭的な補償を 行わせること。 • 「不公平な優遇」、「非商業的取引」、「会社に対する不公平な貸付」及び「取締役に関連する不公 正な取引」等の会社が行った一定の取引(破棄できる取引:voidable transaction)について破棄を宣言 すること。 清算人は、債権を有すると主張する者に対して債権の証拠の提出を要求します。清算人は、提出された証 拠を吟味した上で、証拠の提出者が債権者であるといえるか否か、会社法において優先的な弁済が認めら れるか否か、及び債権の総額について判断を行います。債権者の全ての債権が弁済されない限り、株主に 対する配当はなされません。 担保権者は、清算手続期間中、会社の財産についてレシーバー又はコントローラーを選任することがで き、当該財産に関するレシーバーの権限は、清算人の権限に優越します。ただし、破産状態にある会社が 行った取引(破産取引:insolvent trading)又は破棄できる取引に関する請求は、清算人のみが行うこと ができ、レシーバーは行うことができません。 78 | Doing Business in Australia 当事務所には、堅実なビ ジネス・リーガル・アド バイスを提供してきた実 績があります クレイトン・ユッツ 法律事務所について クレイトン・ユッツ法律事務所は、オーストラリ ア最大のファースト・ティアの独立系法律事務所 です。当事務所の高い能力を有する意欲的な弁護 士陣は、シドニー、メルボルン、ブリスベン、キャ ンベラ(首都)、ダーウィン、パースの事務所で 執務し、堅実なビジネス・リーガル・アドバイス を提供してきた実績があります。クレイトン・ユッ ツ法律事務所は、信頼の厚いリーガル・アドバイ ザーとして、多くのクライアントに選ばれていま す。 当事務所は、国際的に経験豊富なパートナー弁護 士のチームを擁し、世界各地の一流法律事務所と 強固な関係を築いている上、Lex MundiやPacific Rim Advisory Council (PRAC) などの著名なリー ガルネットワークのメンバーとなっていますの で、当事務所のクライアントは、世界中のどこで ビジネスを行っても、最善のリーガル・アドバイ スとサポートを得ることができるようになってい ます。 クレイトン・ユッツ法律事務所は、オーストラリ アでも最大規模の企業や中規模の企業、主要な政 府関連企業、国内外でビジネスを行う多国籍企業 79 | Doing Business in Australia に対し、包括的なサービスを提供しています。ク レイトン・ユッツ法律事務所は、常に最高のリー ガル・サービスを提供し、長期間にわたるクライ アントとの関係を構築するため努力を続けていま す。 国際的な関係を通じた世界 規模でのソリューション クレイトン・ユッツ法律事務所は、世界中の一流 法律事務所と強固な関係を築いています。当事務 所は、海外各地の法律事務所と競合するのではな く、良好な関係を築くことに力を入れてきまし た。クレイトン・ユッツ法律事務所は、これらの 緊密な関係を通じて、国際的なリーガル・チーム の一員として効率的に機能し、オーストラリアに 投資される海外のクライアントに、最高のリーガ ル・サービスを最も効率的・効果的な形で提供す ることができます。 外国語の対応能力 クレイトン・ユッツ法律事務所には、多くの言語 に対応する能力があります。これは、クライアン トに一流のサービスを提供するという当事務所の コミットメントを反映したものです。当事務所の 多くの弁護士は、二カ国語、または多言語に堪能 であり、適切な知識と経験を有する弁護士が、迅 速に案件や翻訳作業のお手伝いをすることができ ます。 当事務所の対応言語には、日本語、中国語(北京 語)、中国語(広東語)、インドネシア語、ヒン ディー語、韓国語、マレー語、タミル語、ベトナ ム語、アフリカーンス語、クロアチア語、デンマー ク語、オランダ語、フランス語、ドイツ語、スウェー デン語、ウクライナ語、ギリシャ語、イタリア語 等があります。 あらゆる分野でのビジネス・ リーガル・サービスを提供 クレイトン・ユッツ法律事務所は、コーポレー ト、訴訟・紛争解決、バンキング・ファイナン ス、プロパティ、環境・建設という主要部門によっ て構成されています。これらの部門の中に、特定 の業務に特化したグループがあり、各々の商工業 分野のニーズや特定の法律分野に対応していま す。 法律分野 • バンキング・ファイナンス • キャピタル・マーケッツ/証券 • 競争法 • コンプライアンス • 建設・大規模プロジェクト • コーポレート/合併・買収(M&A) • 環境・開発計画法 • 保険・リスクマネジメント • 知的財産 • 国際仲裁 • リーガル・テクノロジー・サービス • 訴訟・紛争解決 • 先住権 • 製造物責任 80 | Doing Business in Australia • 不動産 お問い合わせ先 メルボルン • 企業再生・倒産 インターナショナルサービスのお問い合 わせ先 Fred Prickett 代表(パートナー) T +61 3 9286 6971 F +61 3 9629 8488 [email protected] • 税務 • 電気通信・メディア・テクノロジー • 労働関係・雇用・労働安全 産業 • 広告・マーケティング • アグリビジネス • 銀行・金融 • 気候変動 • 建設・大規模プロジェクト • エネルギー・資源 • 政府関連 • 医療・ライフサイエンス Robert Cutler(ロバート・カトラー) チーフ・エグゼクティブ・パートナー弁護士 T +61 2 9353 4104 F +61 2 8220 6700 [email protected] 日本プラクティスグループのお問い合 わせ先 加納 寛之 日本プラクティス代表 パートナー弁護士 (日本、オーストラリア連邦、オーストラリア・ クイーズランド州、米国ニューヨーク州) T +61 7 3292 7262 F +61 7 3221 9669 [email protected] ブリスベン Alan Maguire 代表(パートナー) T +61 7 3292 7018 F +61 7 3221 9669 [email protected] パース Nick Cooper 代表(パートナー) T +61 8 9426 8416 F +61 8 9481 3095 [email protected] • 不動産市場 Andrew Hay (アンドリュー・ヘイ) 日本プラクティス代表 パートナー弁護士 T +61 7 3292 7299 F +61 7 3221 9669 [email protected] • 電気通信・メディア・テクノロジー 各事務所のお問い合わせ先 Alexandra Wedutenko 代表(パートナー) T +61 2 6279 4008 F +61 2 6279 4099 [email protected] • 交通・物流 シドニー ダーウィン Geoff Hoffman 代表(パートナー) T +61 2 9353 4721 F +61 2 8220 6700 [email protected] Mark Spain 代表(パートナー) T +61 8 8943 2512 F +61 8 8943 2500 [email protected] • レジャー・エンターテイメント • プライベートエクイティ • 水関連ビジネス キャンベラ オーストラリア関連の参考 ウェブサイト オーストラリア農業・漁業・林業省 www.daff.gov.au 連邦政府省庁・関連団体 オーストラリア外務・貿易省 www.dfat.gov.au オーストラリア・ガバメント・ポータル www.australia.gov.au オーストラリア移民・国境警備省 www.immi.gov.au オースインダストリー(AusIndustry) www.ausindustry.gov.au オーストラリアイノベーション・産業・科学・研 究省 www.innovation.gov.au オーストラリア政府統計局(ABS) www.abs.gov.au オーストラリア・ビジネス・ポータル www.business.gov.au オーストラリア・ナショナル・コンタクト・ポイ ント(OECD ガイドライン) www.ausncp.gov.au オーストラリア環境・水資源・遺産・芸術省 www.environment.gov.au オーストラリア輸出金融保険公社 www.efic.gov.au オーストラリア外資審議委員会(FIRB) www.firb.gov.au オーストラリア国税庁(ATO) www.ato.gov.au オーストラリア知的財産庁(IP Australia) www.ipaustralia.gov.au オーストラリア貿易促進庁(Austrade) www.austrade.com オーストラリア準備銀行(RBA)(オーストラリ アの中央銀行) www.rba.gov.au オーストラリア財務省 www.treasury.gov.au オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO) www.csiro.au オーストラリア政府観光局 www.australia.com 連邦規制・監督機関 オーストラリア通信・メディア庁(ACMA) www.acma.gov.au オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC) www.accc.gov.au 環境・第一次産業省 www.dpi.vic.gov.au インベスト・ビクトリア www.invest.vic.gov.au/home オーストラリア金融監督庁(APRA) www.apra.gov.au クイーンズランド州 オーストラリア証券投資委員会(ASIC) www.asic.gov.au クイーンズランド州政府 www.qld.gov.au クリーンエネルギーレギュレーター www.cleanenergyregulator.gov.au エネルギー・水供給省 www.dews.qld.gov.au ニューサウスウェールズ州 環境・遺産保護省 www.ehp.qld.gov.au ニューサウスウェールズ州政府 www.more.nsw.gov.au 第一次産業省 www.dpi.nsw.gov.au 貿易・投資・地域基盤・サービス省 www.trade.nsw.gov.au 環境・遺産局 www.environment.nsw.gov.au ビクトリア州 ビクトリア州政府 www.vic.gov.au ビジネスビクトリア www.business.vic.gov.au 81 | Doing Business in Australia 開発・ビジネス・革新省 www.dsdbi.vic.gov.au 天然資源・鉱山省 www.dnrm.qld.gov.au 開発・インフラ計画省 www.dsdip.qld.gov.au クイーンズランド財務・貿易省 www.treasury.qld.gov.au クイーンズランド州政府貿易・投資庁 www.export.qld.gov.au 南オーストラリア州 タスマニア州 北部準州 南オーストラリア州政府 www.sa.gov.au タスマニア州政府 www.tas.gov.au 北部準州政府 www.nt.gov.au 製造・革新・貿易・資源エネルギー省 www.dmitre.sa.gov.au 経済開発・観光・芸術省 www.development.tas.gov.au ビジネス省 www.dob.nt.gov.au 開発・交通・インフラ省 www.dpti.sa.gov.au インフラ・エネルギー・資源省 www.dier.tas.gov.au 第一次産業・漁業省 www.nt.gov.au/d 第一次産業・地域開発省 www.pir.sa.gov.au 第一次産業・公園・水・環境省 www.dpipwe.tas.gov.au インベストNT www.investnt.com.au 西オーストラリア州 オーストラリア首都特別地域 ビジネスおよび業界団体 西オーストラリア州政府 www.wa.gov.au オーストラリア首都特別地域政府 www.act.gov.au オーストラリア証券取引所(ASX) www.asx.com.au 商務省 www.commerce.wa.gov.au ビジネス・ディベロプメント www.business.act.gov.au .au ドメイン管理局(auDA) www.auda.org.au 環境規制省 www.der.wa.gov.au 経済開発局 www.economicdevelopment.act.gov.au 鉱山・石油省 www.dmp.wa.gov.au 環境・持続可能開発局 www.environment.act.gov.au オーストラリア・インダストリー・グループ (AIG) www.aigroup.com.au 州開発省 www.dsd.wa.gov.au 82 | Doing Business in Australia サスティナブル・ビジネス・オーストラリア (SBA) www.sba.asn.au 83 | Doing Business in Australia クレイトン・ユッツ法律事務所 シドニー事務所 Level 15 1 Bligh Street Sydney NSW 2000 T +61 2 9353 4000 F +61 2 8220 6700 ブリスベン事務所 Level 28 Riparian Plaza 71 Eagle Street Brisbane QLD 4000 T +61 7 3292 7000 F +61 7 3221 9669 キャンベラ事務所 Level 10 NewActon Nishi 2 Phillip Law Street Canberra ACT 2601 T +61 2 6279 4000 F +61 2 6279 4099 メルボルン事務所 Level 18 333 Collins Street Melbourne VIC 3000 T +61 3 9286 6000 F +61 3 9629 8488 パース事務所 Level 27 QV.1 Building 250 St. Georges Terrace Perth WA 6000 T +61 8 9426 8000 F +61 8 9481 3095 ダーウィン事務所 17–19 Lindsay Street Darwin NT 0800 T +61 8 8943 2555 F +61 8 8943 2500 www.claytonutz.com *本稿「オーストラリアにおけるビジネス展開」は、2013年12月現在(英文版作成時点) におけるオーストラリアのビジネス環境および法律に関する一般的な情報の提供を意図 したものです。内容は法的なアドバイスではありませんので、法的アドバイスとして依 拠しないで下さい。具体的な事項については法的アドバイスを求めて下さい。出典を明 確にすれば、本稿の内容を複製して頂いて結構です。掲載されている弁護士は、オース トラリアのすべての州/準州で弁護士資格を有しているとは限りません。 © Clayton Utz 2014 ISBN 1 876436 33 6 84 | Doing Business in Australia
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