Is There a Role for Novel Biomarkers?

Review
Cardiovascular Disease Risk Prediction in Women: Is There a
Role for Novel Biomarkers?
Nina P. Paynter1,*, Brendan M. Everett1 and Nancy R. Cook1
Author Affiliations
1
Division of Preventive Medicine, Brigham and Women's Hospital, Boston, MA.
* Address correspondence to this author at: Brigham and Women's Hospital Preventive Medicine, 900
Commonwealth Ave., Boston, MA 02215. E-mail [email protected].
Clinical Chemistry 2014;60:88-97
女性の心疾患リスクの 予測:新しいバイオマーカーの役割とは?
概要
背景:女性の心血管疾患(CVD)リスクの予測について、現在の米国ガイドラインは重要な内容を提
示している。現在の危険予測のアルゴリズムでは、10 年後の CVD 疾患リスクの高い女性を特定す
るためにあるが、臨床医と研究者はさらに予測の精度を向上させるために新しいバイオマーカーを
探索してきた。これらのバイオマーカーは CVD の病態生理学的洞察とも関連して、予知予測に効果
をあげるか、あるいは予防のための治療を導く効果につながるか、その役割は複雑なものになって
いる。CVD の発生率は、男性より女性においてより低い。また、CVD リスクに対する従来の多く
のバイオマーカーは、男性と女性では異なる挙動を示す。これらの要因が、正確な CVD リスクの予
測に大きな影響を及ぼす。
内容:私たちは、女性特有の CVD リスク予測の局面について調査し、リスク予測への統計的な検討
内容を確認し、CVD 進展段階ごとの効果の予測について多くのバイオマーカーについて解析した。
要約:異なる病態生理学から導かれた様々なバイオマーカーが、CVD リスクの予測として評価され
た。 多くの場合、不完全な研究によるものか、あるいはリスクを予測する可能性のある高感度トロ
ポニン T などのように、女性においてはそのリスクを予測するとは示されなかった。CVD 研究で女
性での検討の比率を増やすことは、将来のバイオマーカーを評価する上で重要な要素になる。
心疾患(CVD)2 は、男性と女性の両方の主要な死亡原因である(1)。CVD は 65~74 歳において、女性
1000 人当たりおよそ 20 人の発生率である。しかしながら、これは男性が 10 歳年下の 55-64 歳のと
きの発症率に近似している(2)。このような不一致は冠動脈疾患(CHD)でもみられ、75-84 歳の女性は
1000 人当たりおよそ 17 人が発症するが、それは男性の 55-64 歳の発症率とほぼ等しい。女性の心疾
患の発作の発生率は、80 歳前ではわずかに男性より低いものの、80 歳を超えると男性よりも高い発
生率になる。女性において CVD 発症危険率は 45 歳の時点で 31%であり、少なくとも 2 つの主要な
危険因子を伴う同年代の男性における CVD 発症危険率が 50%であることから、生涯危険率が女性
で低いと報告されている (3)。しかしながら、報告された生涯危険率の評価は、女性が長い平均寿命
1
である点や、75 歳までの年齢ともに発症する他の疾病も含んだ単なる危険度を示しており、女性の
ための真の生涯危険を過小評価する危険性がある。
女性の CVD:従来の危険因子との関係
女性と男性のための CVD の発症時期の差に加えて、さらに危険因子と CVD 発生率の関係に差が認
められる。従来の危険因子である血圧、HDL コレステロール、糖尿病および喫煙は、女性と男性の
両方で CVD の予測に寄与する。しかしながら危険因子に関する新しく研究されたデータでは、糖尿
病に関連して男性より女性で著しく高い CHD 危険を示唆された[女性の危険比率(HR)は 2.59;男性
の HR は、1.89;(P<0.0001)](4)。同様のパターンとして、糖尿病と虚血性脳卒中でも、女性が高
い危険率を示した(女性の危険率(HR)は 2.83; 男性の HR は 2.16(P=0.0089))。Huxley と
Woodward は、公表された 75 のコホート研究を検討した結果、喫煙者とそうでない場合の相対危険
度の比較で、女性喫煙者においては男性より危険度が 25%(P=<0.0001)高かった(5) 。
糖尿病と喫煙の危険度とは対照的に、新しい危険因子に関する共同研究で、102 の前向きコホート
研究からの個々のデータ解析による HDL または non-HDL コレステロールの CVD リスクとの関係の
解析では、男性と女性における差が見いだされなかった(6)。また他の研究結果では、血圧は男性と
女性で CVD に関連したリスクで差を示していない(7) 。
PREDICTION(予測)
最も広く用いられているリスク予測モデルの起源は、Framingham Study の冠動脈疾患のリスク・ス
コア(8)と、成人の治療パネル III(NCEP ATPⅢ)ガイドラインの中で使用される簡易版(9) である。
このモデルには、喫煙、血圧、降圧剤投与、総コレステロール、HDL コレステロール、年齢および
性別が用いられる。糖尿病の進行状態は、前述のモデルの起源でも考慮されており、ガイドライン
中でハイリスクとして分類されている。近年、Framingham Study のコホート研究が総合的な CVD リ
スク・スコアを提示している。その中では、冠動脈疾患、脳卒中、抹消動脈硬化症、あるいは心不
全を予測するために、同じ危険因子を使用している。(10)。30 年後の CVD リスクを予測するために、
同じ危険因子を用いて Framingham のリスク・スコアが提唱された(11)。ヨーロッパのガイドライン
の中で使用されるリスク・モデルである SCORE(系統的な Coronary リスク評価)モデルは,年齢、血
圧、喫煙およびコレステロールを含んでいて、女性にとって過大評価につながる男性の危険度を提
示している(12)。
Reynolds のリスク・スコア(女性のコホートで作成された)は、喫煙、血圧、総コレステロール、
HDL コレステロール、年齢および性別、これらに加え心筋梗塞(MI)の 家族歴、高感度 CRP および
女性の糖尿病患者のヘモグロビン A1c を含でいる (13)。家族歴は CVD の一貫した高い危険因子であ
る。親の低年齢の心臓発作の履歴は、危険度を 70%増加させる(14)。CRP(炎症のマーカー)は、男性
および女性において、多数のコホート研究で危険度が増す結果を得ており、女性より男性がわずか
に高値を示した(P=0.015) (15)。ヘモグロビン A1c 値は、糖尿病の女性の CVD の予測を向上させ、糖
尿病の診断に勝る追加情報を提供する(16)。全体として Reynolds の危険スコアは、女性の独立した
集団(18)においてはもちろんの事、男性における Framingham のリスク・スコア(17)と比較しても同
様に危険予測を向上させている。Framingham のリスク・スコアは、治療ガイドラインに推奨されて
いるが、Reynolds のリスク・スコアも同様に受入れられている (19)。
2
予測の向上における統計的な課題
予測能力のある新しいバイオマーカーを追加したときのモデル(組み合わせ)への影響は、マーカ
ーと病気の進展の相互関係、基本となるモデルの強力さ、および考慮している集団の病気の発生率
(あるいは広がり)を含んで、その病気の発現など多くの要因に依存する。これらのうちの多数が、
女性と男性において異なるので、性別によって予測能力のモデル実施の評価が変わる場合がある。
以下に、私たちは C 統計量、断片的な NRI、連続的な NRI および IDI を含めて、典型的な予測に有
能ないくつかの手段を説明し、各手段と関係する女性の CVD 予測の向上を示すために報告された内
容を調査した。
男女間の重要な基本的な違い
前述したように、同じ年齢構成では女性の CVD の発生率は男性よりはるかに低い。Framingham の
データでは、45-49 歳において男性での CHD(狭心症を含む)の発生率は 11%であるが、女性では 5%
である(8)。しかしながら、従来の危険因子を使用する基本モデルでは、多くの場合に女性において
危険率が高くなる。疾病に対して絶対的に低い危険率にもかかわらず、ROC 曲線下面積(AUC) ある
いは c-統計量によって解析すると、CVD リスク予測値は男性より女性が高い危険率として解析され
る。Framingham のリスク・スコアの中で、女性の c-統計量は 0.77 で、男性では 0.74 である(8)。
Framingham のリスク・スコアは、多数のコホート研究で重篤な CHD 症例において有効になったモ
デルを用いた場合、前述と同じことが言える(女性は 0.83、男性は 0.79) (20)、そして白人女性およ
び黒人女性の両方、ならびに男性の the Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究でも、同様の
ことが言える(21)。Reynolds のリスク・スコアでは、基礎の評価集団での c-統計量が 0.81 でとなり
(13)、また健康な独立した別の女性集団では c-統計量が 0.76 となった(18) 。事実上、これは新しい
バイオマーカーに予測向上の少なからずの余地があることを示す。さらに様々な新しいマーカーの
影響の強さは、後述する多くのバイオマーカーのように、女性と男性において多少異なるかもしれ
ない。
c-統計量
c-統計量は、任意に選択された検討群のリスク予測能が、任意に選択された対照群のリスク予測能
より高くなる順位付けに基づく確率を示す。この測定は、疾病の発生率、あるいはモデルの較正に
よって影響されず、予測された危険がどれくらいよく一致するかを定義する(22)。しかしながら、
それは、新しい予測因子の効力のサイズによっても、基本モデルの強さによっても影響される。参
考例は基本モデルの強さ、およびリスク評価上の新しい予測の効力の大きさの重要性を例証するた
めに使用することができる。私たちは、単一の変数、xとして基本モデルを使用する。X はすべて
の従来の危険因子の直線的結合として考える。x のための効力サイズ、あるいはオッズ比 x(ORX)は、
Framingham のリスク・スコア 16 から 25 程度ほど高い、強いモデルかもしれず、疾病の予測因子が
わずかな場合は、2 程度に低いかもしれない。私たちは適正な追加の仮定である単独マーカーを使
用して、c-統計量の ORX に関連づけることができる。例えば、1つの c-統計量が 0.80 のモデルでは、
リスク・マーカーの c-統計の上限から下限までを比較することと同じ様に、2SD 当たり 10.8 の ORX
に一致するであろう。0.7 の c-統計量のモデルは、2 SD 当たり 4.4 の ORX に相当するであろう。
図 1A に示したように、c-統計量は、基本モデル(ORX)の強さ、および 2SD 当たりにつき y(ORY)の
OR によって表わされ、新しい予測因子(y)の強さの両方によって影響される。 罹患率の差が c-統計
3
量に影響しないので、この図は男性と女性の両方に適用できる。女性のように、基本モデル(ORX)
がより強ければ、c-統計量は y の効力サイズより小さい。例えば、基本モデルの時 2SD 当たり 16 の
ORX(c-統計量が 0.84 に一致)で、3 より高い ORY を備えた新しいリスク・マーカーでは、c-統計量
はほんの 0.02 の変化を示す。あるいは、基本モデルに 2 SD(0.65 の c-統計量)当たり 3 だけの ORX、
3 の ORY が 0.06 より大きな増加ヘとなる。新しいマーカーの OR が 1.5(従来の危険因子の統計量
に近似)であるなら、c-統計量の変化は 16 の ORX に比べ変化量は 0.003 だけある。したがって、c統計量の変化は、強く結果に関係している新しいマーカーでさえ小さく見えることがある(23)。
図 1 ORX を備えた変数 x を伴う既存のモデルに対する、ORY を付加した新しい予測因子 y の解析
への影響
(A)、女性と男性における c-統計量;(B)、女性と男性の連続的な NRI; (C)、発生率=5%の女性の
IDI;(D)、発生率=10%の男性の IDI。 ORs は 2SD 当たりで表現。ORY の値は図 1-A に掲示。
CONTINUOUS NRI/連続的な NRI
連続的な NRI は、検討ケースの予測された危険が古いモデルより新しいモデルにおいて高いかどう
か調べるために使用される。また、予測されたリスクが対照とするモデルより低くても使用できる
24)。 連続的な NRI は疾病発生率、基本モデルの強さによって影響されないので(図 1B)、この図は
4
男性と女性にとっても同じで、ORY つまり新しいマーカーの効力サイズのみを表す。 従って、連続
的な NRI は、モデル改良(向上)の効力の測定を目的として使用する(25)。連続的な NRI は、同じ
強さを備えたマーカーでは、女性および男性においても類似しているであろう。
それはもっぱらランク(順位付け)に基づいており、このようにそれほど強力ではないが、連続的
な NRI の測定は OR 自体の測定に似ている(26)。それは効力改良(向上)を評価する選択肢として
示唆されるが(24)は、関連付けられた測定(テスト)に多くの新しい情報は得られていない(27)。
INTEGRATED DISCRIMINATION IMPROVEMENT
(モデル式が、どれだけうまく予
測したいイベントを場合分けできるかを想定する)
IDI は、古いモデルからマイナスの要因引いた新しい検討群および対照群を比較して評価した危険
の予測の差である(25)。それは新しいモデルで、検討群と対照群で予測された危険の差が高く増加
するかを評価する。IDI はわずかに基本モデルの強さによって、あるいは疾病発生率によって影響
される。図 1C と D は、5%および 10%の疾病発生率の設定モデルで予測を測定し、男性と女性で異
なる CVD 罹患率の予測となることを表わす。 同じ ORX および ORY を与えられて示されるとき、
疾病発生率がより高い場合、IDI はより高い。これは、危険率がより高い場合に、危険率の差がよ
り大きくなるが、同じ年代で評価された時、CVD の新しいマーカーは一般に男性より女性の IDI は
より低くなる。
CATEGORICAL NRI/絶対的な NRI
リスク再分類のリスク層別および絶対的な手段が使用される場合、CVD についてはよくあることだ
が、疾病発生率および基本モデルの強さは、両方とも新しいマーカーの結果に影響与える決定的な
要素である。例えば、10 年間で 0%から 5%、5%から 20%、20%以上に定義した 3 つのリスク層別は、
同じ ORY を備えたマーカーが新しいリスク層別に分類し直されると、男性と女性で個々の異なる分
類パーセンテージになるだろう(図 2A と B)。 これは、基本モデル用のリスク・カテゴリーの分
配が全面的な発生率に依存するからである。リスクが検討グループにおいて非常に低ければ、ほと
んどの個人は最低の分類域に収まる。しかしリスクが非常に高ければ、多くが最も高いリスク分類
域に収まる。もし新しいマーカーの効力があまり強くなければ、分類域を変更させるような能力は
ほとんどないかもしれない。ここの例のように、リスク層別が全面的な疾病発生率にまたがる時、
さらにその後再分類することになる。図 2C と D に示したように、リスク分類に基づいた絶対的な
NRI は、検討群がより高いリスク層へと、上向きに分類し直されるかどうか評価し、また対照群は
より下方へ分類し直され、さらに 3 つの特性すべてによって異なる。全面的な発生率がより低く、
ほとんどが分類し直されない場合、NRI は女性にとってより低いかもしれない。これらの結果は採
用した特別のリスク層別に非常に依存するが、治療の危険および利点に対応させるために注意深く
選ばれれば、それらは女性と男性の中で治療法の決定にとって、異なる臨床的意味合いを持つであ
ろう。
5
図 2 ORX を備えた変数 x を伴う既存のモデルに、新しい予測因子 y からの ORY を付加した場合、
再分類統計(5%および 20%でカットポイントを設けた 3 つのカテゴリー)に対する影響
(A)、女性で発生率=5%に分類し直したときのパーセント;(B)、男性で発生率=10%に分類し直し
たときのパーセント; (C)、女性で発生率=5%の NRI;(D)、男性で発生率=10%の NRI。 OR は
2SD 当たりで表した。ORY の値は図 2-A に掲示。
女性のリスク予測を評価するための対応
前述したように、リスク予測を向上させるモデルの評価手段は、男性と女性において非常に異なる
かもしれない。新しいマーカーの評価に同じ効力サイズを与えられたとき、c-統計量の変化が強い
基本モデルでは、女性においてより小さい予測となる。しかし連続的な NRI が、男性と女性におい
て類似していると一般的には予想されるだろう。それが絶対的な危険の差を求める絶対的な NRI が、
使用される特別の危険層、およびこれらがどのように全面的な疾病発生率に適用されるかに依存す
るので、IDI は女性においてより低くなるだろう。このようなリスク予測の疫学や統計学の決定要
素の中で、男性および女性の間に基本的違いを理解して、今後の調査をモデル化するこができる。
6
バイオマーカー
あるマーカーが CVD リスク予測に有効であることを目的とする場合、それが CVD リスクに関係し
ていて、現在推奨されるモデルを超えたリスク予測を可能とする必要がある。任意のバイオマーカ
ーの使用にあたって考慮すべき重要な点は、マーカーとして信頼され、安全に、合理的な価格で、
臨床の意思決定に用いることができ、限られた時間枠の中で測定できることである。これらのパラ
メーターの各々の重要な決定要素には、興味のあるバイオマーカーを測定するのに必要な分析的な
ツール、および信頼度のある生体試料のタイプ、試料処理のための方法および必要条件の明確化お
よびテスト測定自体の再現性を挙げられる。事実上、これらの検討は、しばしばリスク予測の疫学
評価と平行して取り組まれる。
私たちは、リスク予測に有効な一連の検討結果を例証する、異なる段階の評価と異なる評価結果を
示したバイオマーカーを選択した(表 1)。 高感度分析と比較された心臓のトロポニンおよび冠状動
脈カルシウム・スコアのようないくつかは、多数の集団で研究されており、一貫した予測見解を示
している。ナトリウム利尿ペプチドをはじめいくつかのものは、広範囲のコホート研究で付帯的な
CVD との強健な関連を実証した。しかし予測の精度へのそれらの影響については、少数の研究での
み評価されており、まちまちな結果も得られている。さらに脂質成分測定においては、従来の予測
と異なる様相を呈するバイオマーカーが含まれている。多くの有望なバイオマーカーが、信頼でき
ず、廉価ではなく、容易な測定できないと考えられ、臨床的に有用であると考えられていない。リ
ポタンパク質に関連するホスホリパーゼ A2(Lp-PLA2)や Lp(a)には、測定値の変動幅が減少すれば、
後で論述するが、危険予測に大きな有効性があることが示唆された。
脂質測定
コレステロールのような従来のマーカーに加えて、脂質測定として CVD に関係するアポリポ蛋白質
A-I(ApoA1)および B-100(ApoB)および Lp(a)を測定する。LDL、IDL および VLDL 粒子は、それぞれ
1 つの ApoB タンパク質を含有している。また、ApoA1 は HDL に関連した主なアポリポ蛋白質であ
る。CVD リスク予測用の一般的な脂質より優れているものとして、これらのアポリポ蛋白質が主張
された(28)。AMORIS(アポリポ蛋白質に関連する死亡危険を評価する研究だが、これらの手段を検
査する最大のプロスペクティブな研究のうちの 1 つである)は、ApoB が男女ともに LDL より致命的
な MI の強い予測であることを報告している(29)。2006 年の 23 のプロスペクティブな研究のデータ
7
調査は、ApoA1 か ApoB のいずれかで、男性および女性の間のわずかな違いと共に、ApoA1、ApoB
および ApoB/ApoA1 比率が各々CHD の危険と適度に強い関連を示して、その有効性を報告した(30)。
non-HDL コレステロールは女性の健康研究(WHS)で単独に評価した時、ApoB と同じくらい予測能力
を示した。ApoA1 と ApoB の両方は Reynolds のモデルに含まれている(13)。しかしながら、従来の
コレステロール測定と強い相関性のある予測モデルでは、これらを追加しても恐らく危険予測を向
上しないであろう。
Lp(a)は、アポリポ蛋白質(a)[apo(a)]成分が ApoB 粒子に結合したものである。疫学研究は矛盾する結
果を示したが、変動のうちのいくつかは異なる分析方法の差が評価に影響したとも考えられる。
apo(a)アイソフォームのサイズおよび kringle IVtype-2 に依存しない分析法を使用した WHS は、非常
に、特に LDL コレステロールの高濃度の女性の中で、Lp(a)が高濃度であり、心血管の危険の増加
に関係していることを報告した(31)。Lp(a)がより高い ApoB である群の中で、より高く予測できる
かをコホート研究で確認されていたとはいえ、Reynolds の危険スコアで見られた ApoB が 100mg/dL
より高い群でも同様のリスク予測が認められた。しかしながら、後のデンマークの研究は、高コレ
ステロールの人々に制限されていなかった群でも、Lp(a)濃度が増加することで MI の危険が徐々に
増加することを報告した(32)。36 のプロスペクティブな研究の 126, 634 人の参加者によるメタ分析
は、CHD と脳梗塞の両方との関連が確認されたた(33)。CHD のリスク比は、女性および男性で同様
の結果で、女性は SD 当たり 1.16(95%CI、1.07~1.26)で、男性は 1.13(95%CI、1.07~1.19) (P=0.45)で
あった。これらの脂質関連のマーカーの可能性にもかかわらず、研究は一般に標準的な脂質測定の
みを行い有効性を検証しない。37 の予測コホート研究からの個々のデータのメタ分析では、ApoA1、
ApoB および Lp(a)のどれも女性または男性の危険予測に加えていない(34)。
LIPOPROTEIN-ASSOCIATED PHOSPHOLIPASE A2
Lp-PLA2 は炎症細胞によって生産された酵素で、循環するアテローム発生のタンパク質に関係して
いる(35)。酵素の約 80%は LDL と結合し、残りの 20%は、HDL と VLDL に結合している。酵素量
は多量ではなく、Lp-PLA2 活性はヒト血漿中の small-denseLDL 粒子に関係する(36)。Lp-PLA2 は、ア
テローム発生と抗炎症性の特性という、アテローム性動脈硬化症に 2 つの役割を果たすと考えられ
ている(37)。Lp-PLA2 濃度は、冠動脈疾患の伴わない症例において、年齢と総コレステロールまた
LDL コレステロールと正の相関を示し、HDL コレステロールと負の相関を示す。しかしながら、
Lp-PLA2 は、CRP やインターロイキン 6 のような BMI や炎症性のマーカーとは関連しない(38, 39)。
ほとんどの疫学のデータにおいて、Lp- PLA2 は CHD および脳卒中の両方の予測に有効であること
が示されている。合計 20 ,549 人の患者を含む 14 の研究を検討するメタ解析で、求めた OR は LpPLA2 および CVD の間で 1.60(95%CI、1.36~1.89)であった(40)。測定法の違いによる分析結果という
証拠、基礎疾患としての CVD の存在、または定義に基づいた脳卒中症例の混入等は全くなかった。
しかしながら、Lp -PLA2 および CVD の関係が、一次予防よりも二次予防においてより弱くなって
いた(OR 1.37; 95%CI、1.10~1.70、OR 2.12; 95%CI、1.28~3.52) 。しかしながら、これらの部分的
に異なる結果により、その分析から研究間の矛盾があることに気付いた。しかしながら、Lp-PLA2
の共同研究(41)で、次のことが分かった。Lp-PLA2 活性および量は、男性より女性の間でより低くな
っているが、Lp- PLA2 と CHD あるいは脳卒中の間で違いを示す証拠は存在しなかった。
Lp-PLA2 量および活性はホルモン療法によって影響され、ホルモン剤を服用すると低くなる傾向が
ある(42)。WHI-OS(女性の健康イニシアチブ観察研究)のデータは、次のことを実証した。Lp-PLA2
は、脳梗塞の危険に関係しており、ホルモン療法を使用していない女性でリスク予知効力がより大
きくなっていた(43)。しかしながら、脳卒中と CHD の両方を含む CVD に対する解析は次のことを
8
明らかにしている。Lp-PLA2 量および活性は、女性で CVD に関係しており、ホルモン療法を使用し
ていない女性に関連していた(HR、1.75; 95%CI、1.20-2.54) (42)。しかしながら、量も活性も、従
来の危険因子の予測性能を向上しなかった。一般にこれらの分析は、測定の再現性が不足しており、
いろいろな研究での測定の標準化がうまくできず、臨床的有用性を制限してしまう(44)。37 の予測
コホート研究からの個々のデータのメタ解析で、Lp -PLA2 量および活性は、女性または男性のリス
ク予測に加えられなかった (34) 。
ナトリウム利尿ペプチド
ナトリウム利尿ペプチドは、壁応力に応じて心筋の中で生成されるホルモンである。ペプチドは
108 のアミノ酸で構成され、プロホルモンとして生産され、次に分解される。分解物は生物学上活
発な B タイプ・ナトリウム利尿ペプチド(BNP)および不活発なアミノ末端破片(NT-proBNP)
( BNP の N-ターミナルのプロホルモン)に再び分解される。BNP および NT-proBNP の両方は、心
不全の患者の中で著しく増加し、心不全で息切れを示す患者の呼吸困難の原因と診断する際など、
広範囲の有用性を獲得した(45, 46)。しかしながら、基準範囲内にある BNP および NT-proBNP 濃度
が、MI、脳卒中および心血管死を含む障害性心血病変の結果との強い関連を実証した(47、 48)。確
かに最近のメタ分析は、層別化された上部第 3 層の1の BNP か NT-proBNP 濃度は、下部最低 3 分
の1層の濃度ものと比較して、CVD の危険度は 2.5 倍以上であることを実証した[相対危険度、
2.68(95% CI、2.07~3.47)](49)。
心不全の症例がもはや CVD の付随として数えられるに当たり、これらの結果は不変である。相対危
険度の差は女性の間で観察されなかった。しかし、以下に記載したように、性別による CVD の付随
にどんな差もさほど研究されていない。
リスク予測アルゴリズムを改善する BNP および NT-proBNP の能力は、ほんの少数の研究でテスト
された。また、結果は複雑であった。BNP/NT-proBNP は初老の男性に関する 1 つの研究、および女
性の別の群のリスク予測の差別化を向上させたが、男性と女性の両方を含む 2 つのヨーロッパの集
団での差別化する手段の改善はしなかった(48, 50-52)。また、マルチマーカーのスコア中の他のバ
イオマーカーと連携した時、リスク予測を向上させた。 これらの研究で報告された心血管系イベン
トの少数が女性であったが、いくつかの研究は男性に限定されていた(48)。更に、女性は男性より
CVD の低い絶対的なリスクであるが、もともとナトリウム利尿ペプチドが高い濃度を示しているよ
うである(53, 54)。したがって、CVD が存在しない状態で、BNP あるいは NT-proBNP の測定が女性
の心血管の重症度分類を改善するかもしれないかどうかは、まだよく研究されていない。
高感度心臓トロポニン測定
心臓のトロポニンは、健康な参照集団に「異常な」トロポニン濃度が 99 パーセンタイルより上の任
意の濃度として定義し、ガイドラインと共に MI の診断での絶対的な基準になった(55)。しかしなが
ら、心臓のトロポニン I および T の従来の分析方法は、ほとんどの健康な個人に存在するトロポニ
ンを検出するほどは分析的感度はない。最近、心臓のトロポニン I より低い濃度で心臓のトロポニ
ン T の濃度の高感度な分析が開発され、健康な 80%以上の人口の(分析的な基準範囲の上限の<10%
の CV)で新世代が検知できる (56)。
女性の第一次予防として、新しい高感度分析法で測定される心臓トロポニン T 濃度が検知できるは、
Ⅱ型糖尿病の女性で心血管の終点病態(MI、脳卒中および心血管死)に関連した場合であり、糖尿病
のない女性の場合では検出できなかった(57)。一般集団の第一次予防では、これらの新しい高感度
9
心臓のトロポニンが心血管の危険予測を改善するかどうか、ARIC 研究、心血管の健康研究(CHS)お
よびダラス心臓研究(DHS)で研究された。ARIC 研究では、心臓のトロポニン T 濃度は、付帯的な
CHD との強い関連を実証した。また、ARIC CHD リスク予測モデルへの高感度の心臓のトロポニン
T の追加は、コホート全体および女性の AUC、IDI および NRI を著しく向上した(58)。CHS では、
DeFelippi と同僚は、心血管死のための分類および差別化の手段として、著しい向上性が観察された
(59)。高感度分析として再び測定された心臓のトロポニン T も、すべての原因および心血管死に関
係しており、DHS から報告された(60)。完全に女性(WHS)からできているコホート研究で行なわれ
たただ一つの研究では、前述した内容あるように、障害性心血管イベントの結果との関連は、糖尿
病のない女性ではなく、Ⅱ型糖尿病の女性の間で観察された(57)。性別による相互関係は CHS、
ARIC あるいは DHS で示されていない。
遺伝学的標識
主な進歩として、遺伝子変異が複雑な疾病に関係していることを見いだしている。最近、
CARDIoGRAMplusC4D に起因する冠状動脈の ARtery Disease の広い遺伝子変異、メタ分析
(CARDIoGRAM)および冠動脈疾患(C4D)の遺伝学コンソーシアムは、冠動脈疾患に関連した、46 の
一塩基変異多型(SNP)を発見した(61)。しかしながら、個々の SNP(OR 1.04~1.28)との関連のための
小さな効力サイズで、100 万に近いサンプルが必要で、本質的な遺伝的危険率を確認するために、
さらに多くの SNP が必要かもしれないと示唆している(62)。
多数の研究では、2 つのアプローチのうちの 1 つを使用して、リスク予測を改善するために既知の
遺伝学的標識を加える増加効果を検討した。最初のアプローチは、CVD との公表された関連との
SNP に基づいた遺伝的危険率スコアを検討しました。大規模な WHS コホート研究は、9p21.3(HR
1.16、49%の危険対立遺伝子頻度)で最も一貫して模写された SNP を含む、13 の CVD 関連の SNP に
基づいたスコアを使用して、CVD リスク予測を行ったが、発展的な進歩を示せなかった(63)。同様
の結果は 7 つのヨーロッパのコホート研究で、13 の SNP スコアを使用して調べられた(64)。また、
Framingham のコホート研究(65)で、13 の SNP スコアを使用して、CHD 予測に適度の改善が見られ
た。しかし、CVD リスク予測は 16 の続いて識別された SNP の追加の検討でも、結果に変わりはな
かった(65)。別の 13 の SNP スコアは、CHD 予測のために Framingham の研究、ARIC およびロッテ
ルダムのコホート研究で検討された。また予測の向上は、ARIC コホート研究でのみ見つかった(66)。
第 2 のアプローチとして、CVD リスク要因に関連した SNP が加えられた。CVD リスク予測の向上
は、WHS コホート研究の 102 の SNP に基づいたスコアで見られなかった(63)。あるいは
Framingham コホート研究の 101 の SNP(65)と、脂質濃度に関連した SNP に基づいたスコアは、
Whitehall II の研究や心臓疾患および健康な英国の女性群によるコホート研究で、CHD リスク予測を
改善しなかった (67)。
冠状動脈石灰化
コンピューター断層撮影によって測定された冠状動脈石灰化(CAC)は、CVD 予測に対する最も一貫
した影響を示したイメージングの手段である。>0 のスコアは、より高い臨床的有意性の情報を提供
し、石灰質化したアテローム斑の存在を示す。大きいコホート研究で、>0 のスコアが男性
(P<0.0001)の 60%と比較して、女性で 30%となり、女性は男性より低いスコアであることがわかっ
た (68)。同じ研究では、0 の CAC スコアと比較して、検知できるスコアのトップの層別化の中で
CAC スコアに関連した CHD の HR は、女性 7.2 (CAC、113)に対して男性 17.7 (CAC、 250)であった。
予測に対する CAC スコアの影響は、MESA(アテローム性動脈硬化症に関する多民族の研究)コホー
10
ト研究(全郡の Framingham のリスク・モデルへの CAC スコアの追加は、それで AUC を 0.76 から
0.81(P<0.001)に増加させた)で評価した(69)。性別によって層別化された予測結果は示されなかった。
さらに、費用に関する不安および放射線被曝危険に対する懸念も投げかけられた(70)。
結論
バイオマーカーは、生物学的な洞察を提供することに加えて、女性の CVD リスクの予測に有効であ
る可能性に向けて研究が進められている。発病する年齢によって CVD は低い発生率であること、既
存のリスク・モデルとバイオマーカーの影響による差、リスク予測の評価の効果の差など、女性の
CVD リスク予測に対するユニークな面を求めることに対して批判的である。しかし、いくつかの研
究結果から現在の見解の傾向として、有用な新しいバイオマーカーがその識別に使用可能であるこ
とも示唆されている。最初に、CVD が女性の重要な病気であり、CVD 研究が広く一般社会で理解
され、それに女性特有のリスク・マーカーや予測因子が検討され、結果として CVD 研究における女
性の数を含め女性での評価が増える必要がある。次に、予測の評価のための新しい統計的手法の開
発は、何が臨床的有用性の可能性を持つのかを示すために必要である。最後に、新しい有望なバイ
オマーカーの存在と測定技術は、病態生理学への洞察およびリスク予測の向上の両方に新たな機会
を提供する。総合すれば、これらの要因は女性の CVD リスクの初期の予測の改善に結びつくかもし
れない。
(訳者:岸 浩司 )
Footnotes
The content is solely the responsibility of the authors and does not necessarily represent the official views
of Harvard Catalyst, Harvard University and its affiliated academic health care centers, or the National
Institutes of Health.
2
Nonstandard abbreviations:
CVD,
cardiovascular disease;
CHD,
coronary heart disease;
HR,
hazard ratio;
MI,
myocardial infarction;
NRI,
net reclassification improvement;
IDI,
integrated discrimination improvement;
AUC,
area under the ROC curve;
ARIC,
Atherosclerosis Risk in Communities;
ORX,
odds ratio for x;
11
ORY,
odds ratio for y;
Lp-PLA2,
Lipoprotein-associated phospholipase A2;
Lp(a),
lipoprotein a;
ApoA1,
apolipoprotein A-I;
ApoB,
apolipoprotein B-100;
apo(a),
apolipoprotein(a);
WHS,
Women's Health Study;
BNP,
B-type natriuretic peptide;
NT-proBNP,
N-terminal prohormone of BNP;
CHS,
Cardiovascular Health Study;
DHS,
Dallas Heart Study;
SNP,
single-nucleotide polymorphism;
CAC,
coronary artery calcification.
Author Contributions: All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this
paper and have met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and
design, acquisition of data, or analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for
intellectual content; and (c) final approval of the published article.
Authors' Disclosures or Potential Conflicts of Interest: Upon manuscript submission, all authors
completed the author disclosure form. Disclosures and/or potential conflicts of interest:
Employment or Leadership: None declared.
Consultant or Advisory Role: None declared.
Stock Ownership: None declared.
Honoraria: None declared.
Research Funding: N.P. Paynter, KL2 Medical Research Investigator Training (MeRIT) award from
Harvard Catalyst, the Harvard Clinical and Translational Science Center (National Center for Research
Resources and the National Center for Advancing Translational Sciences, National Institutes of Health
Award 8KL2TR000168-05); N.R. Cook, National Heart, Lung, and Blood Institute, grant number
1R01HL113080 on risk prediction.
12
Expert Testimony: None declared.
Patents: None declared.
Received for publication July 3, 2013.
Accepted for publication August 30, 2013.
© 2014 The American Association for Clinical Chemistry
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