第一回資料

核エネルギーシステム安全工学
リスクの本質
リスク認識の困難さ(1)
•  9.11同時多発テロ –  直接的な犠牲者:約3000人 –  ハイジャックへの恐怖から多くの人が飛行機を避
け車での移動へ •  飛行機から車への切り替えの直接的な結果
としての死亡者の増加:1595名 •  テロリストが一週間に一機の旅客機を米国内
でハイジャックして死ぬ確率:1/135000 •  車の衝突で死ぬ確率:1/6000
リスク認識の困難さ(2)
•  多くの人がよりリスクに対する恐怖を抱く –  「リスク社会」(ウルリヒ・ベック) –  現代のテクノロジーによってもたらされるリスクへの
高い関心 •  なぜそれほど怖がるのか? –  気候変動、鳥インフルエンザ、テロ、乳がん、etc. •  我々はこれまで以上にリスクにさらされているか
ら –  テクノロジーが私たちの制御能力を追い越して環境
は崩壊し、社会的な圧力は増大
リスク認識の困難さ(2)
•  歴史的に見てリスクは確実に減少している –  英国の平均寿命 •  1900年:46歳 →1980年:74歳 –  出産のリスク •  発展途上国:100000万人の子供の出生に対して440
名の母親が死亡 •  先進国:20名
リスク認知の多重性(1)
•  システム1(腹) –  古い時代 –  直感的で早く感情的 –  無意識の思考 –  即座に判断を下し、すぐに警報を鳴らす •  システム2(頭) –  計算高く、遅く、理性的 –  意識的な思考 •  これら二つのシステムの間には複雑な相互作用 –  「腹」直観的判断を「頭」が後で理屈付けすることも リスク認知の多重性(2)
•  「ボールとバット合わせて1100円である。バット
はボールよりも1000円高い。ボールはいくら
か?」 •  X+Y=1100 •  X=Y+1000 –  システム2(頭)がシステム1(腹)をいかにいい加減
に監視しているかの例 –  人はいつも真剣に考えているわけではなくしばしばす
ぐに心に浮かぶもっともらしい判断を信用して満足し
ている –  「ヒューリスティクス」と「バイアス」
認知バイアスの例(1)
•  医療分野における例(参考文献:「医者は現場でどう考えるか」)
ü  ERを訪れる理由の第二位が胸痛(一位は腹痛)
ü  胸痛は臨床医にとって最も謎解きが困難な症状の一つ
ü  事例:胸部痛の患者の不安定狭心症*を見逃し、急性心筋梗塞
ü  一般的検査では異常なし(体温、呼吸数、血圧、心電図、胸部X線、酸素レ
ベル、心筋逸脱酸素)
ü  患者は屈強な森林保護管、見た目は健康なスポーツマン
代表性エラー(Representative Bias)
試行が一つの原型(プロトタイプ)に導かれ、その原型に合致しない他
の可能性を考えることを怠り間違った原因におる症状認識へ帰結
この場合は患者の健康そうな外見が、健康と活力を連想させ、
誤った原型(健康体)という方向にバイアス
*不安定狭心症:冠動脈疾患により惹起され徐々に増大していき、たいていは心臓発作の前兆
認知バイアスの例(2)
代表性エラーのもう一つの例:ネガティブステレオタイプとの一致
→属性エラー(Attribution Error)
ü 
ü 
ü 
ü 
ü 
患者は70代の退職した商船員
小さなアパートで一人暮らし
ここ数ヶ月疲れを感じやすく腹部に膨れ
酒臭い(本人は毎晩ラム酒を一杯飲む程度と)
無精ひげを生やし衣服は古く風呂にも入っていない様子
インターンはアルコール
性肝硬変と診断
この患者の情報(属性)が(数としては多い)酒浸りのアル
コール依存性の患者のネガティブステレオタイプと一致
経験豊富な医師の対応は、、、(良好事例)
ü  患者に対する嫌悪感を察知 「頭の中に赤い旗を揚げる」
ü  この患者の肝臓病の代替案をあげるようにインターンに指示
ü  珍しい病気(α-1アンチトリプシン欠乏症、ウィウルソン病)の検査
を強く要求 結果として患者はウィルソン病
「私は名医だったわけではない。私はただ『また薄汚れたアル中か』と
思い込む属性エラーを犯さないように自分を律していたに過ぎない」
アンカリング(係留)
質問1:カンジーは亡くなったとき9歳よりも上か下か?
質問2:カンジーは亡くなったとき何歳か?
答えの平均は50歳
質問1:カンジーは亡くなったとき140歳よりも上か下か?
質問2:カンジーは亡くなったとき何歳か?
答えの平均は67歳
正しい答えがハッキリしない状態で推測を行う場合、「腹」は最も
手近にある数字、最近聞いた数字に飛びつく。次に「頭」が調整
するが調整は不十分になりがちであり最終的な推定は最初に錨
として使われた値の方に偏る
代表性バイアス(1)
リンダは年齢が32歳で独身であり、はっきり物を言い非常に聡明
である。彼女は哲学を専攻した。学生の時差別問題や社会正義の
問題に深い関心があり、反核デモにも参加した。リンダには次のこ
とがどれくらいあてはまるだろうか?
• 
• 
• 
• 
• 
• 
• 
• 
小学校の先生である 書店で働きヨガ教室に通っている フェミニスト運動に積極的である 精神障害に関するソーシャルワーカーである 女性有権者同盟の会員である 銀行の窓口係である 保険の販売員である 銀行の窓口係であり、フェミニスト運動にも積極的である
代表性バイアス(2)
「リンダ」問題 •  典型的なものに関する規則が過ちを犯す一つのパターン •  何か「典型的」なものがかかわっていると、直感が発動し直感
はひたすら正しいと感じる •  論理や証拠に逆らうことになるときでさえも直感に従う傾向が
ある
利用可能性ヒューリスティクス(実例規則)(1)
地震発生の確率はいつも同じわけではなく地震が起きた直後
が最も低く、時間がたってプレートの圧力が高まるにつれて上
昇する →地震保険の販売数は、地震直後が最低でその後リスクの上
昇に従って増えるはず
実際にはちょうど逆のパターンを示す。販売数は地震直後に最
高となり時間がたつと徐々に減少する
理性・論理的には意味をなさない しかし「腹」とっては意味をなす →実例を思いつくのが容易であればあるほどそのものはより一
般的であると感じる→利用可能性ヒューリスティクス
利用可能性ヒューリスティクス(実例規則)(2)
□□□□n□ →この形にあてはまる英単語を思いつく限り挙げよ
□□□ing →この形にあてはまる英単語を思いつく限り挙げよ
いかに容易に思いつくかが判断に大きな影響を与える
リスク認知
脳はアンカリングに従って最初に利用可能な数字を、その数字
と全く関係のないことを推定するための根拠として用いる。 脳は利用可能性ヒューリスティクスを用いることによって論理に
従うことを拒み、未来に関する手の込んだ予測の方が単純な予
測よりも実現しそうだと判断する。 脳は実例規則を用いて、何か起こった実例を容易に思い出せ
ることはその何かが再び起こりやすいことを証明している判断
する
to develop a
nd and predict
t explain, for
their indifferreactions and
o this goal has
h uses psycho-
s to produce
approach assumed that, by trial and error, society has arrived at an
"essentially optimum" balance between the risks and benefits associated with any activity. One may therefore use historical or current
risk and benefit data to reveal pattems of "acceptable" risk-benefit
trade-offs. Examining such data for several industries and activities,
Downloaded from www.sciencemag.org on April 21,
group.
h shall be my
ty assessment,
(7). A major
set of mental
to make sense
e valid in some
nt biases, with
ar, laboratory
wn that difficuledia coverage,
erated by life's
be misjudged
timated), and
ence. Experts'
ses as those of
d to go beyond
9).
ut risk should
dence. Strong
luence the way
idence appears
initial beliefs;
erroneous, or
opinions, the
f the problem
isk in different
val rates) alters
主観的リスク認知
Table 1. Ordering of perceived risk for 30 activities and technologies (22).
The ordering is based on the geometric mean risk ratings within each group.
Rank 1 represents the most risky activity or technology.
Activity
or
technology
Nuclear power
Motor vehicles
Handguns
Smoking
Motorcycles
Alcoholic beverages
General (private)
aviation
Police work
Pesticides
Surgery
Fire fighting
Large construction
Hunting
Spray cans
Mountain climbing
Bicycles
Commercial aviation
Electric power (non-
nuclear)
Swimming
Contraceptives
Skiing
X-rays
High school and
college football
Rairoads
Food preservatives
Food coloring
Power mowers
Prescription antibiotics
Home appliances
Vaccinations
students
College
Active
club
members
Experts
1
5
2
3
6
7
8
3
1
4
2
5
11
20
1
4
2
6
3
12
8
4
19
7
15
9
6
13
10
23
12
14
18
19
17
8
5
18
13
23
26
29
15
16
9
19
20
21
22
23
30
9
25
17
26
17
22
16
24
21
10
11
30
7
27
24
25
26
27
28
29
30
23
12
20
28
21
27
29
29
28
30
25
26
27
29
19
14
21
28
24
22
25
League of
Women
Voters
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
15
11
10
14
18
13
22
24
16
ARTICLES
主観的リスク認知が専門
家と他の人々の間で大きく
異なっている
Science. 1987 Apr 17;236(4799):280-­‐5.
主観的リスク認知の決定要因
1. 
2. 
3. 
4. 
大惨事の可能性:一回の事件で多数の死者が出る場合リスク認識が高まる 馴染み:よく知らないあるいは聞いたことがないリスクは余計に心配する 理解:活動あるいは技術の働く仕組みがよく理解できないと危険意識が高まる 個人による制御:被害の可能性が自分で制御できるレベルを超えていると感じると
より心配する 5.  自発性:リスクにかかわらないことにすると余計に恐ろしく感じる 6.  子供:子供が関与するとより深刻になる 7.  未来の世代:リスクが未来の世代に脅威を与える場合余計に心配する 8.  犠牲者の身元:統計上の抽象概念でなく身元の分かっている犠牲者だと危険意識
が高まる 9.  極度の恐怖:生じる結果が恐怖心を引き起こす場合危険意識が高まる 10. 信用:関係している機関が信用できないとリスクが高まる 11. メディアの注目:メディアで扱われていることが多ければ多いほど余計に心配になる 12. 事故の歴史:過去に良くない出来事があると危険意識が高まる 13. 公平さ:一方に利益がもたらされ他方に危険がもたらされる場合、リスクの順位が
上がる 14. 利益:活動あるいは技術のもたらす利益が明確でないと、明確である場合よりリス
クが大きいと判断する 15. 復元性:何かうまくいかなくなったときにその結果を元に戻せないとリスクは高まる 16. 個人的なリスク:自分を危うくするものであるとリスクは高まる 17. 出所:人工のリスクは自然起源のリスクより大きく感じる 18. タイミング:差し迫った脅威ほど大きく感じられ未来の脅威は割り引かれる傾向