Botswana Medical Information 2015 年 4-5 月 ボツワナ全土でのトピック ・外国籍の囚人に対する HIV 治療薬の無償提供の是非 ボツワナ政府は「資金不足のため、外国籍の囚人に対して無償で HIV 治療薬を提供するの は難しい。 」と声明を出した。これは、2014 年 8 月 22 日に 2 人のジンバブエ人の囚人に対 して、無償で HIV 治療薬を提供するように高等裁判所が判決を出したことに対する声明で ある。政府は「最高裁判所での審理は 2015 年 7 月まで行われる。その判決に基づいて、対 応を決定する。 」と述べている。それに対し、ジンバブエ人の囚人 2 人はボツワナ倫理・法 律・HIV ネットワークの支援により、高等裁判所での判決に基づいて政府が対応しなかった ことを法廷侮辱罪として、保健省と司法国防部(大統領府)の事務次官を訴えている。 Mmegi. 9 April, 2015. ・ボツワナ中部地域でのマラリアの発生 2014 年から 2015 年にかけてのマラリア流行期に、Serowe で 12 件のマラリア症例が報告 され、うち 1 名が死亡した。Serowe 地域の健康管理チーム Palangwa 氏は「Serowe で報 告された症例全てはマラリア流行地に渡航した履歴はなく、Serowe 地区でマラリアを媒介 する蚊に刺されたと考えられる。 」と述べた。元来ボツワナでは北部地域でマラリアの発生 が見られていたが、2010 年は Mahalapye 地区で、近年は Serowe/ Palapye 地区での発生が 見られており、中部地域もマラリア汚染地域に含まれたといえる。 Mmegi. 19 May, 2015. ・南アフリカでの異国民排斥運動(Xenophobic attack)の影響 Princess Marina Hospital は、4 月 20 日より南アフリカの病院に、患者を搬送することを差 し控えると発表した。これは南アフリカでの異国民排斥運動を受けての措置であるが、生 命に関わる緊急時の搬送は今後も継続する予定である。また、南アフリカの病院を退院し たボツワナ人の帰国支援を行っていく旨も発表された。なお、ボツワナ外務省は南アフリ カへの渡航は異国民排斥運動が沈静化するまで延期するよう勧告している。 Mmegi. 21 April, 2015. DailyNews. 22 April, 2015. 追記 Princess Marina Hospital は 5 月 11 日より南アフリカへの患者搬送を再開しました。5 月 11 日 に 18 人、翌 12 日に 18 人の患者が専門的治療を受けるために、南アフリカに搬送されました。 Mmegi. 15 May, 2015. 1 ・HIV 治療での差別 「抗 HIV 治療中の患者達が医療現場で差別を受けていると感じている。」決算委員会の場で Keorapetse 氏はこのように指摘した。HIV 治療薬を処方される患者は、他の患者とは別の 場所で処方を受ける。このため、HIV に罹患していることを他人が容易に知るところとなり、 プライバシーが保護されていないと訴えている。これに対し、保健省事務次官代行の Banamile 氏は「HIV 治療薬の処方を迅速にするために、今の処方体制をとっている。しか し、差別と感じている患者が多いのも事実であり、いくつかの診療所では試験的に他の患 者と同じ場所での処方を実施している。 」と述べた。 DailyNews. 22 May, 2015. ・小児の予防接種 Kachikau(Chobe 地区の村)で開かれたアフリカワクチン週間の記念式典で、保健省小児 保健部門の Monyatsi 氏は「小児の予防接種を広めるためには、男性の参加をより促す必要 がある。 」と述べた。同氏はさらに「予防接種は適切な時期に行われなければ、効果が期待 できない。予防接種の目標は、ワクチンで予防できる病気で命を落とす子供を撲滅するこ とである。WHO の調べでは、ボツワナでは予防接種の接種率が 90%に達しているとのこと であるが、Chobe 地区のように接種率が悪い地域も散見される。 」と解説した。 DailyNews. 30 April, 2015. ・ボツワナでの心血管手術とその結果 Princess Marina Hospital(ハボロネ市)管理者の Motumise 氏が記者会見で明らかにしたと ころでは、モーリシャスからの医療チームの支援を受けて Princess Marina Hospital と Scottish Livingstone Hospital(モレポロレ村)で心血管手術または検査を行っているが、今 までに 3 名がこれらの処置で命を落とした。死亡した 3 名の内訳は、開胸手術が 2 名、心 臓ペースメーカー留置術が 1 名とのことであった。これまでの心血管手術数は、血管形成 術 1 名、ペースメーカー留置術 3 名、開胸手術 8 名で、検査数は心臓超音波検査 42 名、心 血管造影検査 25 名とのことである。Motumise 氏によると、最初は Princess Marina Hospital で全ての心血管手術と検査が行われていたが、2013 年以降は病院のスペースの関係から、 開胸手術は Scottish Livingstone Hospital で行われている。 Mmegi. 16 April, 2015. 追記 ボツワナではモーリシャスからの心血管医療チームの受け入れを 2009 年より行っています (2014 年 6 月の当紙参照) 。1 回の派遣期間は 2 週間で、昨年は 4 回の派遣を受けています。 患者さんの全身状態により、手術の成否が大きく影響されるのは事実ですが、開胸手術 8 名中 2 名、ペースメーカー留置術 3 名中 1 名が命を落とすという結果は、満足できる成功率とは言 えないでしょう。 2 ・自閉症の認知度を高める運動 大統領府事務次官の Ramsay 氏は世界自閉症の日(4 月 2 日)について、 「世界的な健康問 題となっている自閉症をより理解するための日である。自閉症はもはや放置しておける問 題では無くなっている。 」と述べた。自閉症は生涯にわたる発達障害であり、その神経学的 な障害により意思伝達・他者との関係形成・行動・学習の面で異常をもたらす疾患である。 アフリカでは自閉症者が人口の 2%に達するものと推計されており、また国連の試算では自 閉症を抱える成人の約 80%が職に就けていないとされている。この世界自閉症の日には、 国連の建物から 3 首長の像までの行進がハボロネで行われた。 DailyNews. 13 April, 2015. ・割礼がコンドームの使用に与える影響 割礼を受けることでコンドームの使用率が低くなることが指摘されている。しかし、新た な研究では、割礼とコンドーム使用率の低下に有意な相関はないことが報告された。これ は Williams 氏による研究で、ハボロネとパラペで 506 名を解析したものである。本研究に よると、割礼前には 67%の男性がコンドームを使用しており、割礼後は 65.3%とわずかに 減ったが、この差は統計学的には有意ではなかった。また、本研究では割礼を受けるのを ためらう理由として、痛みへのおそれが最大の理由であることも明らかにされた。 Mmegi. 15 April, 2015. ・緩和医療 保健省が包括的な緩和ケア指針の作成を開始した。Princess Marina Hospital の緩和ケア専 門医 Gaolebale 氏によると、この包括的な緩和ケア指針は、有効な緩和ケアのために必要 な全ての要素を病院のみならず地域社会レベルまで含めて作成されるとのことであり、す でにボツワナ全土で、ポケットサイズの緩和ケア指針(RAGA DITLHABI)が配布されてい る。悪性腫瘍と診断される患者の数は年々増えており、近年では一年に約 1700 名が悪性腫 瘍と診断されている。地域社会やボランティアによる援助がなされているが、資金不足や 入院設備の不足が大きな問題となっており、実際に除痛に有効な薬剤であるモルヒネが、 ボツワナではなかなか手に入らないといった問題もある。 DailyNews. 15 May, 2015. 3 各地域・各医療施設でのトピック ・貯水タンクの建設 保健省は今年度の予算 980 万プラの一部を使って、いくつかの診療所に貯水タンクを設置 することをハボロネ地域健康管理チーム調整官の Simonga 氏が明らかにした。「水不足は 24 時間運営の診療所に深刻な影響を与えている。診療所の中には貯水タンクを持っていな いところもあり、職員達がバケツに水をためて、対応している状況が散見される。4 月 16 日からそれぞれの場所で契約会社が貯水タンクの建設を開始する。」と同氏は説明した。 Mmegi. 1 April, 2015. ・ボツワナ初の人工肛門診療所の開設 保健省副大臣 Madigele 氏は、ボツワナ初の人工肛門診療所を Princess Marina Hospital 内 に開設したことを発表した。この診療所の開設には 8 年以上の歳月を要し、Orthosurge Botswana からの医療機器と診療所設備に対する支援に加えて、Colopast からの医師と看護 師への教育により、ようやく開設にたどり着いた。病院管理者の Motumise 氏は、「人工肛 門とは外科的に腹部に作られた老廃物排出のための穴であり、袋の中に老廃物は回収され る。患者にとっては、人工肛門の設置は人生を変える出来事であり、健常者との格差を埋 めるように努力していきたい。 」と述べた。 DailyNews. 28 April, 2015. ・がん治療に対するチーム診療の開始 Princess Marina Hospital は 5 月 20 日より毎週水曜日に婦人科系悪性腫瘍の患者を対象とし て、複数の専門科によるチーム診療を開始する。このチームは婦人科医、腫瘍医、病理医、 緩和ケア医、放射線科医とソーシャルワーカーから成り、一同に会して、患者ケアにあた る。複数の専門家によるがん治療は、世界的に用いられている方法であり、専門家間での 意思疎通を容易にし、包括的な診療計画の作成が容易になることが期待されている。 Mmegi. 20 May, 2015. ・救急病院の抱える問題 Princess Marina Hospital の救急部門の負担がかなり重いものとなっている。同病院医師の Mokotedi 氏によると「医療従事者は不足しているのに、患者の需要は増大している。救急 部門は医師 2 名、 看護師 3-5 名で対応しているが、 毎月平均 2,000 名以上の患者が訪れる。 患者は他施設からの紹介であることがほとんどではあるが、中には緊急ではない患者も含 まれている。救急でない患者はこの救急部門を使用しないことを勧める。医療スタッフの 数には限りがあり、結果として非常に長い時間を待たなくてはならなくなるからである。」 と述べた。 DailyNews. 26 May, 2015. 4 ・鉱山都市での問題 Jwaneng でのイベントで、青少年スポーツ文化大臣の Olopeng 氏は「この鉱山都市では、 結婚していない男女の同棲が HIV 拡散の要因となっている。 」と述べた。Jwaneng は人口 18,063 人の都市で、HIV 罹患率は女性 12.8%、男性 8.5%である。このイベントでは男女別 のグループに分かれ、問題点を話し合い、子供達に助言するという企画が行われた。女性 グループでは、 「女性の多くが鉱山で働く男性に依存し、また家賃が高いため共同生活を強 いられることがある。これらが HIV 拡散と若年者の妊娠の要因となっている。若い女性に 特に言いたいのは、結婚する意思が無い男性に弄ばれるのは避けなくてはならない。 」との 話がなされた。一方男性グループでは、 「HIV の拡散を防ぐためにも、一人の女性と添い遂 げなくてはいけない。」との話がなされたが、「結婚費用を下げて貰わないと、結婚は難し い。 」との意見も挙がった。 Mmegi. 3 April, 2015. 追記 結婚費用の話が出ましたが、ボツワナでは結婚にあたり、男性が女性側家族に対してウシ 8 頭を贈るというのが風習になっています。ウシ 1 頭の価格は約 3,000 プラとのことなので、 計 24,000 プラ(約 28 万円)が相場になります。昔はウシをそのまま贈っていたのですが、 最近はウシではなく、相当する現金を贈ることが多くなっているようです。 ・HIV 治療の不履行 Gumare 病院(Okavango 地区)では 2014 年 1 年間で 20 人の患者が HIV 治療を途中で止 めてしまった。同院 HIV 治療部長の Nyame 氏によると、治療を途中で止めてしまった人は 10 代と中年層であり、自発的ではなく、他の人に促されて HIV 検査を受けた人たちであっ た。これらの人は自身の HIV 感染を受け入れられず、また 10 代の離脱者は同級生の目が気 になり内服を継続できなかった。先天的に HIV 陽性となった子供は親に対して不満を持っ ていることも明らかとなった。Nyame 氏は「様々な理由はあるであろうが、治療を止める ことはウイルスの再活性化を促し、自身を蝕むことになっていく。」と警鐘を鳴らした。 DailyNews. 10 April, 2015. ・ハボロネ近郊での医師不足 首都ハボロネから近い Gabane 村(ハボロネから 15km ほど西)には現在 2 万から 3 万人 にのぼる住人がいるが、2 つの診療所しかないため、患者の需要に医療供給が追いついてい ない。一つの診療所は医療サービスをほとんど提供できておらず、またもう一方の医療サ ービスを提供できている診療所は村の外れにあり、住人にとっては非常に不便な状況にな っている。現状に悲嘆し、病院に行くのを辞めてしまっている患者もいるとのことである。 Mmegi. 28 May, 2015. 5 医療施設紹介 Holy Cross Hospice ハボロネ市内の Fairground Mall 近くの住宅街に位置する。NGO により運営されており、ス タッフは看護師 1 名、看護助手 1 名、ソーシャルワーカー2 名、心理療法士 1 名、その他に 運転手・掃除人・料理人となっている。常勤の医師はおらず、週に 1 度 Princess Marina Hospital の内科医が訪問して、診察に当たっている。入院設備は持っておらず、デイケアと 状態の悪い患者に対する訪問ケアを行っている。入院設備を建設中であるが、スタッフと 資金の不足が大きな問題とのことであった。 トイレ 礼拝室 Pabalelong Hospice ハボロネ中心部から Bokamoso Private Hospital を越えてさらに西に行った Metsimotlhaba という村に位置する。2010 年に開設され、併設するカトリック教会により運営されている。 スタッフは 4 名の看護師と運転手・掃除人・料理人となっている。常勤の医師はいないが、 2 名のボランティアの医師が水曜日と土曜日に訪問診療を行っている。 10 床の病床があり、 がん患者のみならず、AIDS・腎不全・心不全などによるあらゆる終末期状態の患者を受け 入れている。運営状況は厳しく、資金難が当面の課題とのことであった。 施設内の様子 6 病室 発行日:2015 年 5 月 29 日 文責:宇賀神 基(在ボツワナ日本大使館 医務官)
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