「牛肉弁当」あれこれ - 全国肉用牛振興基金協会

(その6)
「牛肉弁当」あれこれ
ものの本によれば、駅弁は平成12年には全国約
270駅で売られ、約2,200品目が登録されていると
中丸輝彦
 中丸畜産技術士事務所



 岐阜大学応用生物科学部非常勤講師 


仙台黒毛和牛ステーキ弁当
(宮城県仙台駅
1,100円)
言われている。最近の列車はスピード化し新幹線
の利用も増えて、以前のような販売風景にはお目
にかかれないものの、駅弁への思いには尽きない
ものがある。
一方、グルメ指向も手伝って首都圏をはじめ、
部厚い仙台和牛のステーキ肉4枚が並べられ、
各地の大手デパートが開催する全国駅弁大会も活
甘めの味噌ダレがかけられている。添え物にポテ
況を呈しており、その中で産地がわかる牛肉を素
ト、インゲン、人参がついて彩りを添えている。
材とした牛肉弁当(牛弁)の人気は高く、常に上
ジューシーでステーキらしいボリューム感あふれ
位にランクされていることは心強いことである。
る一品で、また、最近はやりの発熱材入り容器を
牛弁は全国各地で売られているが、それらの地
使っているので、熱々の状態で食べられる。
域には古くから培われ、息づいているブランド牛
の存在がある。まだ食べたことはないが、日本で
牛たん弁当(宮城県仙台駅
1,100円)
一番高価な駅弁は「極上松阪牛ヒレ牛肉弁当」
(三重県松阪駅、1万500円:予約制)と言われる。
肉用牛に携わる者の一人として、ささやかでも
牛肉消費につながればと、旅に出た時はできるだ
け牛弁を求め、その地のブランド牛に思いを馳せ
仙台は名に聞こえた牛たんの街である。繁華街
ている。近年に食べる機会があり、車中で写真を
のあちこちに牛たん専門店が軒を連ね、付近には
撮っていたものについて紹介してみたい。ただし、
おいしそうな匂いが漂っている。その牛たんに塩
登場するのはたまたま出会った牛弁であり、同じ
とコショウをふって炭火焼きしたものが、麦飯の
地域でも他に数多くの種類があることを断ってお
うえにずっしりと5枚がのっている。発熱材入り
きたい。(順不動)
容器で香ばしい塩味が味わえる。
前沢牛めし(岩手県盛岡駅
1,100円)
米沢牛弁当(山形県米沢駅
1,100円)
派手な赤い表蓋で、いかにも牛弁のイメージが
銘柄牛米沢牛が弁当いっぱいにひろがった逸品
強い。内容は白飯の上に独特の甘いタレで味付け
である。薄くスライスし、すき焼き風に独特のタ
した銘柄前沢牛が重ねられ、程よい味付けをした
レで甘辛の味付けしたものが、白飯の上いっぱい
糸コン、ゴボウ、人参が並べられている。さらに
に敷き詰められている。よく煮付けられて牛脂の
玉子焼きに南蛮漬けなどが色鮮やかに添えられて
旨みがしっかり出ている。このほか同じ米沢の
いる。柔らかくて風味豊かである。
「牛肉どまん中」は新宿のK百貨店で行われる全
国駅弁大会では毎年ベスト5に入る逸品である。
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飛騨牛めし(愛知県名古屋駅:高山線発着
1,100円)
十分に堪能した一品である
神戸ステーキ弁当
(兵庫県新神戸駅
1,200円)
新興ブランドとしてとくに東海地域で人気が高
まっている飛騨牛を薄切りにし、甘辛くしょうゆ
で味付けしてある。たっぷりと盛られたご飯と共
に頬張ると、一緒に煮付けられたゴボウの味とよ
ステーキの本場神戸駅での弁当である。独特の
く合って、じわっと牛肉の旨さが伝わってくる。
ソースで味付けして焼いたステーキ肉がドンとご
添えられている飛騨特産の赤カブ漬もよくマッチ
飯の上にのっている様は迫力がある。他に人気の
している。
高い「神戸ビフテキ弁当」もあるが、残念ながら
当日の車中では入手できなかった。
元祖特選牛肉弁当(三重県松阪駅
1,260円)
叙々苑焼肉弁当(東京都東京駅
2,100円)
銘柄松阪牛の産地であるが、弁当の蓋には「平
成14年8月の松阪市農林水産課による松阪牛個体
東京駅にはないものかと探していたところ、東
識別管理システムの導入で松阪牛の判定基準が大
京駅限定の立派な牛弁があった。風味を十分に生
変きびしくなり、駅弁に使用の牛肉は松阪牛の名
かして味付けされた部厚い牛肉が、びっしりと白
称をはずし黒毛和牛と表記しています。・・・し
飯の上に敷き詰められ、好みにより特製のソース
かし使用している牛肉は発売当初と変わることな
をかけて食べるが、柔らかくてジューシーな食感
く、地元流通の牛肉であり・・・」と丁寧な断り
は優れている。他にキムチ、大根ナムル、茎ワカ
書きがしてある。中味には厳選された松阪牛のモ
メ、金時豆と多彩である。値段も他の駅弁と比べ
モ肉のステーキ2枚が味付けされ、軽く網焼きし
るとやや高価であるが、十分それに値する味では
て赤ワイン入り秘伝のタレをからめて食べるよう
ある。
になっている。日の丸風の白飯とともに牛肉のジ
ューシーな味わいは格別である。
以上、牛弁のいくつかを紹介したが、これらは
全国で販売されているもののほんの一部にすぎな
近江牛牛重(滋賀県長浜駅近辺
1,480円)
い。また、九州や北海道にも多くの有名牛弁があ
るが、飛行機利用が多いためか出会う機会が少な
いのが残念である。しかし空港で販売される空弁
(そらべん)の人気も高まっている。今後とも、
全国の数多くの地でがんばっているブランド牛や
弁当とは趣を異にするが、近江牛の本場滋賀県
その牛弁と出会える旅を続けたいと思っている。
の長浜駅近くで食べた牛重の味も格別であった。
重箱には柔らかいすき焼き風、厚めの牛肉がのり、
添えられた香の物とざるうどんとの相性も実に良
かった。3月初めであったため、近くでは折良く
伝統の盆梅展が開催されており、その風情と共に
◇参考資料
1)林順信・小林しのぶ「駅弁学講座」集英社(2000)
2)小林しのぶ「ニッポン駅弁大全」文藝春秋(2005)
3)長谷川裕
(なかまる
他「美味駅弁紀行」昭文社(2005)
てるひこ)
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