フォークダンスの教材選定に関する研究

フォークダンスの教材選定に関する研究
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子
京
キーワード:教材選定の視点 踊りの有効性 「楽しさ」の平均値 「楽しさ」に影響を与える要因
1
はじめに
りなのか探ってみたい。
フォークダンスは気楽に取り組めて,しかも内容
のある踊りとして,生徒が踊ることへの抵抗をなく
2
し,ダンスを身近にさせる有効な教材だと考える。
教材選定の視点をもとに,フォークダンス「分類量」
実践研究
本研究では,踊りの選定の視点を押さえて分類した
を作成した。その中から,学習指導要領にある踊り
フォークダンスが,生徒の踊りたいという意欲を喚起し,
や,これまで実践して生徒の反応のよい踊りを15曲
フォークダンスの特性に触れそのよさが体験できる踊
選定した。(表1)
表1 フォークダンス「分類表」
Ⅰ踊り方や対応の仕方が比較的簡単なも
の
Ⅱ 踊り方や対応の仕方がやや複雑で難しいもの
Ⅲ 独特の雰囲気や特徴をもつもの
シングルサークル
ダブルサークル
グループ
タール・オクセン(スウエーデン)
クマ・アッハ(イスラエル)
オー・スザンナ(アメリカ)
シボレス・バサダ(イスラエル)
ツアデック・カタマール(イスラエル)
ホラ・メドウラ(イスラエル)
ハーモニカ(イスラエル)
ハホラ・シエリ(イスラエル)
ホラ・ハデラ(イスラエル)
ミラノボ・コロー(イスラエル)
コロブチカ(ロシヤ)
ミザルー(ギリシャ)
ヴァルネンスカ・トロパンカ
(ブルガリヤ)
コールド・デイ(イスラエル)
ホラ・バリエーション (イスラエル)
アパット・アパット(フィルピン)
ベ・ダビット(イスラエル)
タントヘッシー(南アメリカ)
ロード・ツージ・アイリ(スコットランド)
バックリー・ミクサー(アメリカ)
ワイルド・ワイルド・ウエスト(アメリカ)
タンゴ・ミクサー(アメリカ)
オスロー・ワルツ(イギリス)
コロブチカ・オリジナル(ウクライナ)
テネシー・ワルツ(アメリカ)
ダス・フェンスター(ドイツ)
グランド・カーネルスピン(アメリカ)
アダノクヤビヤックNO1(ポーランド)
コリード(メキシコ)
ハバナギラ(イシラエル)
アレキサンドロフスキー(ロシヤ)
ラ・クカラッチャ(メキシコ)
グスタフ・スコール(スウエーデン)
ファーマーズ・ジグ(イギリス)
レッド・リバー・バレー(アメリカ)
バージニヤ・リール(アメリカ)
ウインドミル・ランサーズ(ポーランド)
グランド・スクエア(アメリカ)
あの町・この町(アメリカ)
エルヤ・ネロ(ベネズエラ)
パッパ・ピッコ・リーノ(イングランド)
シシリアン・タランテラ(イタリヤ)
デイエーボチカ(ロシヤ)
カスカード(ロシヤ)
ドードレカ・ポルカ(チエコスロ・バキア)
太字は今回検証に用いた踊り15曲である。(新学習指導要領に例示された11曲も含む)
表2「楽しさ」の平均値
(1)
15曲のそれぞれ踊りの「楽しさ」の度合いと,
順位
曲
上位9曲
目
平
均
「運動量」「スピード」「変化」「難度」「メロデ
1
オー・スザンナ
4.850
イ」「高揚感」の6つの要素のについて,どのよう
2
ワイルド・ワイルド・ウエスト
4.700
に感じているか調査する。それらを分散分析により
3
シボレス・バサダ
4.625
統計処理し有効性をみる。その結果,次の9曲が平
4
グランド・スクエア
4.433
均値4.0以上で「かなり楽しい」から「とても楽しい」
5
バージニヤ・リール
4.417
の間で,答えていることがわかった。(表2)
6
オスロー・ワルツ
4.400
7
ドードレスカ・ポルカ
4.167
8
タンゴ・ミクサー
4.100
9
クマ・アッハ
4.000
教育センター教科研修課
**那覇国際高校
指導主事
***中部商業高校
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次に,それぞれの踊りの「運動量」「スピード」「変
ド・スクエア,ハーモニカ,オスロー・ワルツ,ドード
化」「難度」「メロデイ」「高揚感」の要素の平均
レスカ・ポルカは6要素すべてに数値が高いことがわ
値をみると,次のようなことがわかった。曲目グラン
かった。チャート図に表すと次のようになる。(図1)
楽しさ
グランド・
スクエア
5
ハーモニカ
4
高揚感
運動量
3
オスロー.ワルツ
2
ドードオレスカ.ポル
カ
1
0
メロデイ
スピード
難度
変化
図1「楽しさ」と6要素の平均値が上位を示す4曲
(2) 「楽しさ」に影響を及ぼす要素として,「運動量」
しかしここでは教材選定の理論にあったように,
「スピード」「変化」「難度」「メロデイ」「高揚感」
フォーメーションや対応の仕方,難度や特性,地域
の一つ一つについて回帰分析を行う。また,どの要素
性を考慮に,生徒の感性や欲求にぴったりくるもの
との相関関係が高いか,重回帰分析で統計処理をする。
とおさえた。つまり,特性に触れられる踊りを有効
その結果「楽しさ」は「メロデイ」「高揚感」「運動
な踊りとしておさえ,「楽しさ」の度合いで追求し
量」「変化」「スピード」の間に相関がみられ,特に
てみた。また,「楽しさ」は何に起因するのかを考
「メロデイ」「高揚感」「運動量」は,「ゆるやかな
えたとき多様なとらえ方がある。今回は調査項目の
相関」から「かなりの相関」関係があった。
簡略化も考え,「運動量」「変化」「難度」「メロ
さらに,重回帰分析の結果「楽しさ」は ,「メロデイ」
デイ」「高揚感」の6つの要素から調査した。その
「高揚感」「運動量」の順に強い関係があることが明
結果,「楽しさ」の度合いは,9曲が「かなり楽し
らかになった。以上のことから,次のことが導きださ
い」から「非常に楽しい」と答えており,その有効
れると考える。
性が認められた。授業をしくむ時,初歩的な段階か
楽しさ=0.375×「メロデイ」+ 0.334×高揚感+0.154
らスタートするフォークダンスの授業は,この9曲
×運動量+e
を中心に進めていけばよいという示唆になろう。ま
た,グランド・スクエア,ハーモニカ,オスロ・ー
3
まとめ
ワルツ,ドードレスカ・ポルカの4曲は6要素のす
本研究では,踊りの選定の視点をおさえ,さらに
べてに,数値が高いことがわかった。このことから
これまでの指導の中で,生徒の反応のよかった踊り
この4曲は,少し進んだ段階の授業では,有効な教
をかねあわせ分類表を作成した。そして,それぞれ
材だといえる。
の踊りの有効性について探ってみた。
次に「楽しさ」に影響を及ぼす要素としては,ど
また,生徒が踊って「楽しい」と感ずるのは,そ
の要素が強いのか重回帰分析で検定した。
の「踊り」のもつ何に起因するのか探ってみた。
その結
果,「楽しさ」は「メロデイ」と「高揚感」「運動
踊りの有効性をみる考え方として,いろいろな見
量」の順に影響を及ぼしていることが,明らかにな
方が考えられる。民族舞踊として価値があるので,
った。生徒の情感を揺さぶるメロデイ(曲目)をも
フォークダンスとして授業で紹介した方がよいとす
とに,一定の動作やステップをみんなと共有し,踊
る見方や,ステップをマスターする視点から,是非
り手(生徒)の力にあった変化やスピードをもちな
このフォークダンスがよいとする見方がある。また,
がら運動欲求が満たされたとき,フォークダンスの
音楽的に優れているので教材としてよい・・等,そ
「楽しさ」を感じる一つの図式が導き出されたと考
れぞれの視点で考えられる。
える。
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