青年期の友人関係とアイデンティティの確立

青年期の友人関係とアイデンティティの確立
自他認知尺度で調査した自他区別の様式の違い
○前田薫葉・小田浩一
(東京女子大学)
キーワード:青年期、エリクソン、発達課題
Types of Friendship in Youth and Identity Establishment
Difference in Styles of Self-Other Distinction measured with the Self-Other Recognition Scale
Yukiha MAEDA, Koichi ODA
(Tokyo Woman's Christian University)
Key Words: Adolescence, Erikson, Developmental task
目 的
青年期の発達課題であるアイデンティティの確立に、友人
関係は影響を与えている(Erikson, 1959 西平他訳 2011)。し
かし、現代青年の友人関係は希薄化してきているという指摘
がある(岡田努,1993 など)。変化した友人関係の中で過ごし
ても、現代青年は発達課題を達成することができるのかを検
討する。検討の際、自他区別ができていれば、アイデンティ
ティの確立が達成されているとみなす。自他区別の測定方法
は、岡田(1995)の個人差多次元尺度での分析を参考にする。
方 法
大学生 432 名(男子 180 名,女子 252 名)を対象に、2014 年
10 月に質問紙調査を実施した。調査内容は下記の通りである。
(1)友人関係尺度:岡田(1993)を評定尺度化したもの。
(2)自他認知項目:長嶋・藤原・原野・斎藤・堀(1967)より、
岡田(1987)が選択した 11 の形容詞対×2(肯定項目と否定項目)
の計 22 項目を使用した。これを理想自己像、現実自己像、同
性の親友像についてそれぞれ評定させた。
(3)自己評価尺度:山本・松井・山成(1982)の 10 項目。
(4)自己意識尺度:菅原(1984)が邦訳した自己意識尺度 21 項目。
なお、本研究では(1)(2)の尺度について分析を行った。
結 果
友人関係群の抽出
友人関係尺度を因子分析に掛け、
「気づかい」、
「うわべ」、
「ウケ狙い」の 3 つの因子を抽出した。その因子得点の合計
で、クラスタ分析を行って回答者を 4 つのクラスタに分類し
た。クラスタ間で因子得点の一元配置分散分析を行い、得ら
れた特徴から 4 つのクラスタを「楽しさ気づかい群」
、
「ウケ
狙わない群」
、
「うわべ群」
、
「気づかいなし群」と命名した。
自他認知項目の距離の分析
理想自己像、現実自己像、親友像のそれぞれの間の距離を
検討するために、多次元尺度法の分析を行った。友人関係群
ごとに、肯定項目と否定項目別個に、11 項目×3 対象=33 項
目の相関行列を求めた後、𝜎 = √1 − 𝑟 2で非類似性行列に変換
し入力データとした。
その結果、否定項目ではどの友人関係群も 3 つの像がそれ
ぞれ別個に集合していた。また、それぞれの集合の位置もあ
まり変わりがなかった。
肯定項目では、友人関係群によって違いがあった。
「楽しさ
気づかい群」は、3 つの像がそれぞれに集合していた。しか
し、理想自己像と親友像の「静かな」がそれぞれ親友像と現
実自己像に接近していたり、現実自己像の「素直な」が理想
自己像の集合に混ざったりした。
「ウケ狙わない群」は、現実
自己像が II 軸を跨がっており、理想自己像と親友像の一部は
混ざって布置された。
「うわべ群」は、現実自己像の「きちん
とした」と「ていねいな」が現実自己像の集合と真逆に布置
され、また理想自己像と親友像の集合は対極に布置された
(Figure1)。
「気づかいなし群」は、3 つの像がそれぞれに集合
していた。
2
現実自己像「きちんとした」
「ていねいな」
1
II 0
親友像
-1
理想自己像
現実自己像
-2
-2
-1
I
0
1
2
Figure1 うわべ群・肯定項目の布置
考 察
否定項目では、どの友人関係群でも 3 つの像がそれぞれに
集合していた。よって、友人関係群に関係なく自他区別がで
きるようになると考えられる。
肯定項目では、友人関係群によって違いがあった。
「楽しさ
気づかい群」と「気づかいなし群」は、理想自己像、現実自
己像、親友像がそれぞれに集合したので、自他区別はできて
いると言える。しかし、
「楽しさ気づかい群」については、現
実自己像の「素直な」や理想自己像と親友像の「静かな」と
いった一部の項目は区別できていなかった。また、3 つの像
の集合の配置から I 軸は理想対現実、II 軸は自己対他者を区
別していると考えられる。
「ウケ狙わない群」と「うわべ群」
は、理想自己像と親友像が区別されていなかったり、現実自
己像が 2 つに分かれて対極に位置していたりした。よって、
完全な自他区別はなされておらず、さらに現実の自己がまだ
しっかりと定まっていないようである。また、
「ウケ狙わない
群」は親友像を理想と見ている傾向が強いようだが、
「うわべ
群」では反対に親友像を理想とは見ていないようである。
参考にした岡田(1995)では、肯定項目が完全に区別され、
否定項目が区別されないという結果であった。しかし、今回
の調査ではそれとは反対に、現代青年は肯定項目よりも否定
項目のほうが自他区別が早いことが示され、肯定項目は友人
関係によって自他の区別がまだできていないという結果だっ
た。現代青年は、肯定項目よりも否定項目のほうがはっきり
としたイメージを持っている可能性が考えられる。
引用文献
Erikson.E.H. (1959). Identity and the Life Cycle. (エリクソン E.H
西平直・中島由恵 (訳) (2011). アイデンティティとライフサ
イクル 誠信書房)
岡田努 (1993). 現代青年の友人関係に関する考察 青年心理
学研究,5,43-55.
岡田努 (1995). 現代大学生の友人関係と自己像・友人像に関
する考察 教育心理学研究,43(4),354-363.