観光学研修「国立公園とディズニーリゾート in the USA」報告

研修報告
観光学研修「国立公園とディズニーリゾート in the USA」
報告
田中伸彦*・泉正史*
キーワード:イエローストーン国立公園(Yellowstone National Park)
,ウォル
トディズニーワールドリゾート(Walt Disney World Resort)
,ワ
シントン・ナショナルモール地区(National Mall and Memorial
Parks in Washington, D.C.)
,アメリカ合衆国(United States of
America),観光学研修(Student Study Tour)
1.はじめに
2011年9月5日(月)から16日(金)までの10泊12日の行程で,観光学研修「国立公園と
ディズニーリゾート in the USA」を執り行った。これは選択科目で2単位が与えられる本学部
初の米国への国外研修であった。研修には26名の学生が参加し,大きなトラブルもなく,無事
に終了することができた。
研修のタイトルは娯楽気分に満ちあふれ,楽しげに感じられよう。実際,訪問先各地で天候
に恵まれ,参加した学生・教員ともども,快適で充実したプログラムを満喫した。しかしなが
ら,本研修の旅程は,移動距離が長く標高差も大きい上に,時差を何回もまたぐため,体調管
理と精神力の維持が必要な強行日程の研修であった。例えば空路だけでも,成田からサンフラ
ンシスコへ飛んだ後,デンバー→ジャクソンホール→シカゴ→ワシントン D.C. →オーランド
→ワシントン D.C. と国内便を乗り継ぎ,漸く成田へ戻ってきた。つまり,12日間で8度飛行
機に乗り,米国を横断・移動し続けたのである(表1)
。
本研修の主たる来訪地は,
「イエローストーン国立公園」と「ワシントン D.C. モール地区
(スミソニアン博物館群)
」
,
「ウォルトディズニーワールドリゾート」である。これらは全て国
際的に名高い観光デスティネーションである。しかしながら,これらのデスティネーションを
全て一度に回るツアーは,一般的には存在しない。
この研修で米国のこれらデスティネーションを巡ったことには学術的背景がある。主要な背
景の1つが「パーク(公園)1)論」である。そこで,本報告では「パーク(公園)論」の観点
から,この研修の意義を整理し,行動概要を記録に留める。
* 東海大学観光学部観光学科
第3号(2012)
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田中伸彦・泉正史(東海大学観光学部)
表 1 日程表
日次 月日(曜日)
地名
成田空港
国際日付変更線通過
1
9/5(月)
交通機関
17:30 発
サンフランシスコ
サンフランシスコ
デンバー (18:14 着/ 19:20 発)
ジャクソンホール
空港→イエローストン国立公園内 ロッジ
10:43 着
14:45 発
20:41 着
宿泊先
機内
UA852
UA720
UA720
専用バス
CANYON
LODGE
2
9/6(火)
イエローストーン国立公園
(公園内八の字外周道路に沿った観光資源の巡検)
専用バス
CANYON
LODGE
3
9/7(水)
イエローストーン国立公園
専用バス
(パークサービスの説明とインタープリテーション体験)
CANYON
LODGE
4
9/8(木)
5
(移動日)ジャクソンホール→空港
ジャクソンホール
シカゴ(オヘア)
9/9(金)
シカゴ(オヘア)
ワシントン D.C.(ナショナル)
空港→ホテル
イエローストーン国立公園(公園内トレイルの体験)
グランド・テトン国立公園の巡検
公園内ロッジ→ジャクソンホール
専用バス
専用バス
UA664
UA616
専用バス
49 ER INN
AND SUITES
BEST
WESTERN
GEORGE
TOWN
BEST
WESTERN
GEORGE
TOWN
6
ワシントン D.C. モール地区の巡検
9/10(土) ( スミソニアン博物館群及び周辺パーク ( 公園 ) の利用体
験)
7
(移動日)ホテル→空港
ワシントン D.C.(ダレス)
9/11(日)
オーランド
空港→ホテル
8
バックステージツアーⅠ(マジックキングダム、ノース
9/12(月) サービス
エリア、エプコットセンターの舞台裏の説明と見学)
DISNEY'S
ALL
STAR
RESORT
9
9/13(火)
バックステージツアーⅡ
(ウエアハウス・クリーニングセンターなど )
DISNEY'S
ALL
STAR
RESORT
10
9/14(水)
フリーグループプランニング
(ディズニーワールドリゾート内)
DISNEY'S
ALL
STAR
RESORT
11
(フリーシャトル)
ホテル→空港
UA320
オーランド
機内
9/15(木)
(直前でワシントン D.C 経由に変更 )
シカゴ(オヘア)
シカゴ(オヘア)
12
48
9/16(金) 成田空港
通関後解散
専用バス
UA778
DISNEY'S
ALL
STAR
(フリーシャトル) RESORT
国際日付変更線通過
東海大学紀要 観光学部
観光学研修「国立公園とディズニーリゾート in the USA」報告
2.「パーク論」からみた観光学研修の意義
1)米国でパーク(公園)の研修を行う意義
パークとは何か? あるいは公園とは何であろうか。
観光学部には「パークス&リゾート論(選択科目 : 2単位)
」という講義が設けられている。
本稿で同講義の全容は紹介できないが,パークという言葉は中世ヨーロッパの王侯貴族が狩猟
用に確保していた広大なオープンスペースに端を発することや,現在の日本では,公園は「公
衆のために設けた庭園または遊園地。法制上は国・地方公共団体の営造物としての公園(都市
公園など)と,風致景観を維持するため一定の区域を指定し,区域内で種々の規制が加えられ
る公園(自然公園)とがある。
」
(
『広辞苑 第6版』より,下線は筆者による)と一般に理解さ
れていることなど,観光学徒として理解しておくべきパーク(公園)についての定義や分類,
保全・運営管理,産業的側面などを学ぶ内容となっている。
なぜ観光学のカリキュラムの中で,パーク(公園)を独立したテーマとして採りあげるのか
というと,世界中のパーク(公園)が,現在主要な観光デスティネーション2)になっているか
らに他ならない。我が国においても日本庭園は世界文化遺産の主要な構成資産であるし,東京
ディズニーリゾートなどの遊園地(テーマパーク)には1カ所で年間数百万∼数千万人の来訪
者がある。全国各地の国営公園などの都市公園は身近な観光レクリエーション地として人気が
高いし,自然公園は,国立公園に限っても年間約4億人もが来訪する巨大デスティネーション
である(環境省2012)
。
以上を鑑みるに,
「デスティネーション」としてのパークの重要性を観光学徒は認識・理解
する必要がある。そして,それを実体験する現地教材が,米国に集結しているのである。世界
初の国立公園「イエローストーン国立公園3)」,ビジネスとして世界的に成功を収めた遊園地
(テーマパーク)
「ディズニーリゾート4)」
,そして市民の総意で創られ,今も市民の手で管理
される都市公園「ニューヨーク・セントラルパーク」などである。これらはいずれも,パーク
(公園)のあり方にエポックメーキング的な影響を及ぼした。それが全て米国に存在する。つ
まり,観光学でパーク(公園)を学習する際,米国は生きた教材に満ちているのである。今回
は,旅程の都合上,都市部についてはニューヨークではなく「ワシントン D.C. モール地区
(スミソニアン博物館群)
」を訪れた。厳密には,同モール地区は国立公園システムに位置づけ
られるが,ここへの巡検でも米国の都市部の公園の観光学的重要性はつかめると判断した。
2)各種パーク(公園)の共通点・相違点
イエローストーン国立公園とディズニーリゾートでは同じパーク(公園)と呼ばれる一方で,
見た目は大きく異なる。何が共通していて,何が異なるのであろうか。これらパーク(公園)
の主要な共通点と,相違点を概念的に明確にし,理解することが,観光学上重要である(田中
2010)
。
論理的説明は割愛して結論を急ぐが,共通点を概念化したものが図1,相違点についてまと
めたものが図2となる。
「一定の地域が囲まれていて,安心/安全に行動可能で,利用目的が
明確にされ,緑(オープンスペース)が確保され,
(半)永久的存在で,管理,公開されてい
るというデスティネーション」がパーク(公園)の共通した要素である。一方,図2のとおり,
第3号(2012)
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田中伸彦・泉正史(東海大学観光学部)
図 1 パークに共通する要素
図 2 パーク(公園)の相違点
「立地選択性やパーク(公園)の基盤(ベース),管理の力点,感動の源,将来計画」などは,
自然公園とテーマパークで対立点があり都市公園はその中間に位置づけられる。このような共
通点,相違点について「パークス&リゾート論」で座学により学習し,本研修で実地に巡検し
たわけである。
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東海大学紀要 観光学部
観光学研修「国立公園とディズニーリゾート in the USA」報告
3.研修の構成
本項では実際に行われた研修の流れを概説する。まず1月に参加者のセレクションを行った。
その後2∼3月の春休み期間中に,パーク関連の英語力の充実などを念頭に,イエローストー
ン国立公園のホームページから,その概要を把握する課題を課した。そして4月から7月にか
けての春セメスター中に月1回のペースで,各パーク(公園)の概要をレクチャーするととも
に,海外研修にあたっての諸注意・諸手続などを周知した。
米国での研修期間中,イエローストーン国立公園では,レンジャーによるパーク(公園)シ
ステムの英語講義を受講した上で,自然の保全と利用の調和の実態を巡検した。ワシントンで
はスミソニアン博物群を巡り,都市に安全なパーク(公園)空間が必要であることを体感した。
フロリダのディズニーワールドではバックステージツアーに参加し,キャストにパークの歴史
やコンセプトの解説を受け,その後ウォルト・ディズニーのコンセプトが今も大切に活かされ
る広大なパークを巡検してもらった。これらの現地研修をもとに,帰国後に各自からレポート
を提出してもらい評価を行った。
4.まとめ
本報告ではパーク(公園)論から,本研修の意義をとりまとめた。ただ,本研修は観光地経
営論や国際観光論など,他の観点から学術的に総括することも可能である。その観点からのと
りまとめは,今後の研修報告に委ねたい。実際,2012年もほぼ同じ行程でこの研修は開催され
る。そのため,観光学部生が,本研修の切り口を用意し,様々なことを学習し,観光学部の定
番の研修として定着することを望んでいる。
注
1)英語の park と日本語の公園という両者の言葉は多くの場合意味が重なるが,若干異なるニュア
ンスが含まれている。今回の観光学研修では,英語の park と日本語の公園の双方の類似点・相
違点について現地で考えてもらうことも教育目的の1つであったため,パーク(公園)と,両方
を併記する記述とした。
2)デスティネーションとは,旅行の最終目的地のことである。一般的に,デスティネーションと
いうと,国名や都市名等が挙げられることが多いが,学術的にデスティネーションの形態を一般
化すると,その形態には,今回採りあげた「パーク(公園)」という形態のほかに,「観光資源」,
「観光施設」,「イベント」,「
(世界遺産のように点在する観光資源を一体的に登録する)制度」な
どに分類できる。なお,観光においては空港やホテル,旅行案内所などの交通施設,宿泊施設,
案内施設などが,旅客の満足に大きな影響を及ぼすが,これらは一般的に旅行の最終目的地では
ないので,デスティネーションとは別のものと概念づけられる。
3)イエローストーン国立公園は,アイダホ州とモンタナ州,ワイオミング州またがる約8,980km²
の国立公園で,1872年に国立公園に指定された
4)ディズニーリゾートは,フロリダ州のオーランド近郊に位置する。約122km² の面積をほこり,
1971年に開園された。
文献
環境省編,2012,『環境白書/循環型社会白書/生物多様性白書 平成24年版』,日経印刷株式会
第3号(2012)
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田中伸彦・泉正史(東海大学観光学部)
社,416
田中伸彦,2010 ,観光学における公園(パーク)教育の意義,日本観光研究学会第25回全国大会
論文集 ,25, 333-336
52
東海大学紀要 観光学部