全社員完全フリーアドレスで「創造とコミュニケーション」の オフィスを実現

ファシリティマネジメント特集
全社員完全フリーアドレスで「創造とコミュニケーション」の
オフィスを実現したJRバス関東
あのツバメのマークのジェイアールバス関東株式会社(JRバス関東)は、1997年9月、JR東日本本社ビルの完
成に合わせて新宿に本社を移転しました。
「せっかくなら、もっと創造力を発揮でき、コミュニケーションも図れる
オフィスにしたい」との発想と20年先の業務改革を見据えて生まれた新オフィスは、全社員完全フリーアドレスと
いう画期的なもので、マスコミにも大きくとりあげられるほどの話題になっています。オフィスづくりの専門家と
社内チームのコラボレーションによるプロジェクトはどのように進められたのか、その後、うまく運営されているの
か、総務部の藤原次男さんにお話を伺いました。
ジェイアールバス関東株式会社
総務部
課長代理
藤原次男氏
経営環境の変化に合わせて
オフィスもリニューアルしたい
たオフィス』をつくりかねません。ですから、任せる部分は専門家に
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ムが必要だったのです」
Point●新オフィスのコンセプト
すべてを任せることのできる専門家として、藤原さんたちが選ん
①本社移転は環境を変えるチャンス
だのは、外資系企業のオフィスデザインで多くの実績があるシステ
②オフィスの専門家にノウハウを教わる
ムオー・デザインアソシエイツの李泰久さんでした。そして、李さん
お願いするとともに、社内の要望をきちんと整理し、伝えるためのチー
「バス会社というのは、認可された路線を確実に運営することが
のアドバイスをもとに、若手社員中心のチームをつくります。
最優先される保守的な業界に属していました。しかし規制緩和で
「4月に発足したプロジェクトチームは、総務、営業、事業部の各部
2001年から路線設置の完全自由化が決まっており、本社移転は、
長に依頼して、8人のメンバーを推薦してもらいました」
ちょうど、経営環境が大きく変化していく時期に重なっていたので
このメンバーで最初に行ったのは、新しいオフィスのコンセプトづ
す。このため、経営トップから『思い切って新しいタイプのオフィス
くりです。
にし、業務の効率化を図ろう』というアイデアが出されました」
「これも李さんのアドバイスでした。まず、社員がどんなオフィスをつ
もともと技術者出身だった藤原さんは決してオフィスの専門家
くりたいのか、プロジェクトの太い幹になる部分を決めるべきだとい
ではなかったため、当初はこの提案に戸惑いもあったそうです。
われたのです」
「それでも、入居していた丸の内の旧国鉄本社ビルは接客スペー
もちろん、プロジェクトの方向を決定するテーマだけに、
かなり白
スもなく、業務上の支障をいつも感じていたため、
この経営方針
熱した討議が続いたそうです。最終的に「創造とコミュニケーション」
には大賛成でした。本社の移転なんて、何十年に一度の大プロジェ
というコンセプトに決まった理由を、藤原さんは次のように話してい
クトです。だからこそ、都を移す遷都と同じように、気分を一新でき
ます。
る新体制をつくるのは面白いと思いましたね」
「前の本社は使い勝手が悪かったため、業務効率が上がらず、ルー
藤原さんたちが、
まず、手がけたことは二つあります。一つは、
オ
ティンワークをこなすだけで、毎日が精一杯だったのです。このため、
フィスづくりのプロフェッショナルにプロジェクトのマネジメントを依
無駄をなくして創造的な仕事をできるようにするだけでなく、
セクショ
頼すること、
そしてもう一つは、社内にプロジェクトチームをつくる
ンを越えたコミュニケーションを可能にして、情報の共有化を図りた
ことです。
かった。このコンセプトは、
まさに社員の願望を言葉にしたものだと思っ
「ノウハウのない私たちだけで考えてしまったら、単なる『一風変わっ
ています」
(オフィスマーケット2000年9月号掲載)
セクションでなく仕事内容で
デスクを区切るという新発想
「正直いって、
これは目から鱗が落ちるようなアイデアでした。これまで、
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事務所というのはセクションによってスペースを区切るものだという発
だったそうです。
提示することで、社内の不安をなくしていったのです」
書類ロッカーなど、無駄を廃したデザインになっており、今でも取材
なオフィスの真ん中に、大きなホワイトボードが設置してある点です。
者や見学者が絶えない理由がよくわかります。面白いのは、近代的
Point●JRバス関東の新オフィス
想しかなかっただけに、業務内容でデスクを選ぶなんて考えつかない。
新しいオフィスのおかげで
仕事のスタイルが変わった
①全社員完全フリーアドレス制の導入
しかし冷静に検討してみると、実に合理的な方法だと気がつきました」
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グ的な部分も残そう』というアイデアで、ボードを設置しました。たと
②複数のルートで情報を共有
もちろん、
このようなレイアウトを実現するには、社員の業務内容
Point●●フリーアドレスの効果
えば異常気象でバスの運行に支障が出ているときなど、緊急の連絡
コンセプトが決まってから、プロジェクトチームは、新オフィスの具
を細かく調査し、デスクの数などの最適化を図らなければなりません。
①失敗情報まで共有するナレッジマネジメント
をするには、
こういうもののほうが便利ですね」
体的な構成を検討していくことになります。
プロジェクトチームはその作業を進めるとともに、社員の意見を集め
②グループ全体に広がるFMネットワーク
ほかにも、書類のファイリングなどは全社的に統一せず、個人の方
「このとき大事なのは、
どんな意見であってもコンセプトと照らしあわ
ました。そして、本社の社員60人に対し、45席を用意するというグラ
新しいオフィスに移って3年、
「使い勝手は非常にいいですね」と
法に任せています。
せ、創造とコミュニケーションの促進にプラスにならないものは却下
ンドデザインが決まったのです。
藤原さんはいいます。
「いずれはファイリングの導入が課題になるでしょうが、今はまだ、新
していくことです。これをしないと、結局は使いにくいオフィスになっ
「今回のプロジェクトが成功した最大の理由は、常に社内で情報を
「ホテルのフロントにあたる情報センターを核に、集中執務室、PC用
しいオフィスに慣れるまでの期間ということで、
あえて曖昧なルールも
てしまいますからね」
共有化し、意見を吸収しながら進めることができたからだと思います」
デスク、単独作業デスク、共同作業デスク、
そして応接や会議、
リフレッ
そのままにしてあるのです。このため、中には段ボール箱に自分の書
そしてその過程で出てきたのが、営業部門だけでなく、全社員の固
ちなみに、情報の共有化は次のような三つのラインで行われました。
シュスペースが配置されたオフィスは、無駄がなくなり、旧オフィスよ
類を詰めて、デスクを渡り歩いている社員もいますよ」
定机を廃し、完全フリーアドレス制にするという発想でした。
まず第一は、
オフィスリニューアルの推進者である経営トップが、部
り30%スペースを縮小したものの、
かえって広く感じます」
方針では、
あと数年かけて利用状況の調査を行い、徐々に手直し
「無駄をなくし、情報の共有化を図るというコンセプトを進めていくと、
長や課長、女性社員などのグループごとにヒアリングをして、意見を
デザイン的にも工夫されたオフィスは明るく、
「社員の服装が変わり、
しながら、
より使いやすいオフィスにしていくそうです。
自然にこのようなアイデアが生まれたのです。最初は『ここまで思い切っ
聞く方法です。第二は、プロジェクトチームのメンバーがそれぞれの
必要ない日はネクタイをしないで出社するなど、
カジュアルな雰囲気
「私を含め、新オフィスのプロジェクトに関わったメンバーは、次の改
たオフィスにして、大丈夫だろうか?』という心配の声もありましたね」
セクションの代表となって意思を伝えます。そして第三の方法として、
で仕事ができるようになりました」という効果もあったとか。
善プロジェクトには参加しません。というのも、同じメンバーが関わっ
このとき、李さんから提案されたのが、すべて同じデスクでフリーア
チームの代表者が週1回の経営会議に参加し、
トップの考えを掌握
「すべて新オフィスのおかげとはいえませんが、移転後、業績も順調
たら、大胆に改革できないですからね」
「基本的に社員向けの情報はLANで告知しますが、
『少しはアナロ
ドレスにするのではなく、
たとえば集中して仕事をするときはブース式
していったのです。
に伸びています。少なくとも、社員間のコミュニケーションは活発にな
オフィスは常に進化しながら、業務の改善と経営のスピードアップ
のデスク、単独作業のときは手元の隠れるデスク、
そして共同作業の
「大胆な改革だからこそ社員の理解を前提に進めなければなりません。
り、経営のスピードアップには貢献できたのではないかと思っています」
に貢献していく。JRバス関東は、
これからも新しいオフィスづくりに挑
ときはオープンなデスクという、業務内容によるスペース分類の方法
同時に、私たちは調査結果をもとに理論的に説得できる材料をつくり、
新しいオフィスの中を見渡すと、機能別のデスク、LAN、個人用の
戦していくのだろう。
本社移転前
●オフィスデザイナープロフィール
李 泰久(Ty Lee)
・インテリアデザイナー、
コーポレートファシリティコンサルタント
・システム・オー・デザイン・アソシエイツ代表
・外資系企業を主なクライアントとして、
そのファシリティのデザインと
コンサルテーションを手がけ、
高い評価をうけている。
ファシリティマネジメント特集
全社員完全フリーアドレスで「創造とコミュニケーション」の
オフィスを実現したJRバス関東