環境にやさしいクロム代替めっき技術開発とその実用化研究

環境にやさしいクロム代替めっき技術開発とその実用化研究
■管理法人
大阪府鍍金工業組合
■プロジェクトリーダー
大阪府立産業技術総合研究所
横井 昌幸
■サブリーダー
(株) 野村鍍金
池田 篤美
目 的
世界的な環境に対する意識の高まりの中、有害物質排除
の観点から鉛フリー、6価クロムフリーなどの環境にやさ
しいめっき技術への転換が強く求められている。特に6価
クロムを用いるクロムめっきは、無電解ニッケルめっき、
電気ニッケル系合金めっき、複合めっきなどがその代替技
術として使われ始めているが、大量の廃浴を発生する、液
管理が容易でない、皮膜物性が十分でないなどの大きな課
題がある。本事業ではイオン交換膜、金属陽極などを導入
することにより高度化した新規のめっきプロセスを技術シ
ーズとし、代替めっきとして期待される電気Ni-W系合金め
っきをとりあげ、その無廃浴化を実証するとともに実用化
の可能性を検討した。
成 果 概 要
カチオン交換膜でめっき液から隔てた不溶性陽極とニッ
ケルおよびタングステン陽極、ならびに犠牲用陽極分解剤
を電気Ni-W合金めっきプロセスに導入し、めっき液成分の
分解挙動、膜電圧特性、金属陽極の溶解挙動などを明らか
にした。
本プロセスによる小型めっき装置を試作し、3種類の陽
極への電流配分管理により殆ど薬品補給することなくめっ
き液組成を一定に維持でき、廃浴を発生することなく長期
連続めっきできることを実証するとともに、ロールへのめ
っき、バレルめっき法の適用が可能であることを示した。
また、同様の中規模めっき装置により、1.5mm以上の厚め
っきを必要とする製品へのめっきを実現するとともに、優
れた耐熱、耐摩耗性を有することを確認した。
さらに、湿潤雰囲気下での耐変色性を改善するため、浴
に亜りん酸を添加してPを微量共析させることにより、優れ
た耐食性のNi-W系合金めっきの創製をも可能にし、本プロ
セスが新たなめっき皮膜の作製、高品質化などに寄与でき
る可能性を見出した。
■実施機関
(株) 野村鍍金
オテック (株)
国光鍍金工業 (株)
(有) ウイング
大阪府立産業技術総合研究所
めっき業界の主な課題と
クロム代替技術開発の現状
21世紀の
表面処 理産業のキ ーワード
情報
環境
資源循環
創造
表 1 環 境 問 題 か ら代 替 技 術 を求 め られ て い る主 な課 題
対 象課題
問題 点
対 策 ・代 替 え技 術
ス ラッジ処 理 1 0万 トン/年 発 生 、 投 棄 場 所 の 逼 迫 、コスト スラッジの 分 別 と山 元 還 元 、ス ラッジ の 再
埋 立 処 分 ;処 理 費 4万 円 / トン
上昇
利 用 (路 盤 材 な ど)体 積 の 低 減 、め っきプ
ロセ スの クロー ズ ド化
排 水 中 環 境 基 準 項 目 の 規 制 値 フッ素 、ホウ 素 は 凝 集 沈 キ レー ト処 理 、硫 化 物 化 処 理 新 しい め っき
の 低減
降 で は 難 しい 。N i 2 + 、P b 浴 の 導 入 な ど
など 、
排 水 中 の 窒 素 、りん 、 C OD の 窒 素 は 従 来 法 では 処 理 使 用 原 材 料 の 見 直 し、生 物 処 理 の 導 入 ?
低減
困難
脱 脂洗浄処 理
有 機 溶 剤 の 大 気 、地 中 水 系 洗 浄 技 術 などの 導 入
放散
水 洗水量の 低減
イオン交 換 水 中 での 藻 、 水 の 抗 菌 処 理 技 術 、膜 分 離 技 術 膜 洗 浄
カビの 発 生
技 術 、紫 外 線 処 理
銀 め っき
め っき浴 成 分 ;シア ン
ヨウ化 銀 浴
ニ ッケル め っき
製 品 か らの 溶 出 ニ ッケ C u -S n 合 金 め っき浴 など 酢 酸 浴 など
ル め っき浴 成 分 ;ホ ウ 酸
2+
は ん だめ っき
S n- A g,Sn - Zn ,Sn - B iめ っき浴 な ど
製 品 か らの 溶 出 P b
6
+
クロム め っき
め っき浴 か らの C r ミス ト 三 価 ク ロム 、N i- W ,Ni- P ,N i-B 合 金 ,N i-S iC ,N iS n- C o など
6+
クロメー ト処 理
M o -P 酸 塩 処 理 、三 価 クロム 複 合 皮 膜 など
製 品 か らの 溶 出 C r
無 電 解 銅 め っき
め っき浴 成 分 ホ ル マ リン 直 接 電 気 め っきなど?
他
* 昭 和 4 0 年 代 か ら求 め られ た 脱 シア ンめ っき浴 の 開 発 も続 け られ てい る。
クロムめっ きと各種代 替技術
( 模式図)
Si O
2
ポリマー
ナ イロン
コ ー テ ィン ク ゙
真空めっき
P V D ,C V D
D L C ,T iN ,C r N ,C r
絶縁 性、耐摩 耗、
耐食
クロムめっき
耐摩耗 性
耐 食性
耐指紋 性
保 油性
湿 式め っ き
耐摩耗、耐食、均 一性
・無電 解ニッケル系合金めっき
N i- P、N i - B 、N i- P - B 、 他
・無電解複合めっ き
溶射
H V O F 、A P S
耐熱、耐摩耗、
Co -W C
N i- P - S i C 、 N i - P - W C 、 N i- P - P T F E 他
・電気 N i 系合金めっき
N i - P、 N i- W 、N i - B 、Ni- M o 、C o- W 他
表2 各種 クロム代替皮 膜
Ni-P、Ni-B,Ni-P -B、Ni-W (金 型用)、Ni-W-B 、Ni-W Pなど,加 熱により析出 硬化する特 徴があり、クロムめっ
き代替めっきとして既 に使 用、あるいは 検討中
・Cr(三価)めっき
浴不安定 で厚 付け難、装 飾用では広く実 用化されてい
る。工 業用は現 在研究 段階にあり、研究例 ではC r-P- C
めっきの1 00μm程 度のもの 有り
・複合 めっき
Ni-W-S iC 、N i-W-SiO2 、Ni-SiC(エンジンシリンダー内
面)など
耐摩耗性 良好、加熱により高硬度
・真空 めっき(PV D、CVD )
ワークサイズ限 定、バ ッチ式 、薄膜 、金属 、酸化 物
(Al 2 O3 )、窒 化物(TiN 、C rNなど)
ドリル等工 具類
・DL C(D iamond like C arbon )膜 ・D LC (D iam ond like C arbon )膜;(絞 り金型、機械 摺動
部)、摩擦係数 0.1、2∼3μm /hr、耐 熱, 耐 熱温度
200℃ 以下、付きまわ り劣る。
・Catho de Arc Plasma PVD ク
高いイオン化効率(∼70% )、従 来のP VD( 真空蒸
ロム膜
着、スパッタリング)より 密着性 改善、多層化 が可能 、
析出速度 ;nm/ min∼数十 μm/m in
・溶射(HV O F;高速フレーム溶
大気プラズマ溶射など);金属、セラミックスの厚膜 。
射、APS
WC- 17C o、C r 3 C2 -20 (Ni,Cr)、Co 28Mo -17C r-3S iなど幅
広い応用が 始まっている。
・Ni系合金めっき
・電気複合 めっき
N i- S iC 、N i- P - Si C 、 N i- WC
N i- P -P T F E 、 N i- P T F E
・三価クロ ムめっき
C r- P - C 、C r
本事業が指向するめっき技術の方向
め っきプロ セスの高 度化
*イ オン交換 膜
*不 溶性陽極
*犠 牲陽極分 解剤
*め っき成分 補給方法
* 脱 6価クロ ム
* 無廃浴化
* スラッジ 量の低減
* 新規組成 表面材料
* 皮膜の高 品質化
イオン交換膜を導入した合金めっきプロセス開発
−無廃浴型めっき装置−
展開
浴組成の安定化・優れた浴管理性
めっき皮膜の品質・信頼性向上
無廃浴化を達成
新合金めっきの創製
洗 浄 水 の 再 生利 用
無廃浴型 めっきシステム
めっき液への
金属成分の連続補給
電
流
分
担
比
連続め っき時の補給 1.陽極室へ の水
(不溶性陽 極の通電流に 応じて)
2.金属チッ プの補給
( 可 溶 性 金 属 バ ス ケ ット へ 補 給 )
3.めっき液 への水補給
(めっき液 の蒸発に応じ て)
2.犠牲陽極分解剤による長寿命化
3.カチオン交換膜の導入
イオン交換膜を用いるめっきプロセスの優位性
優れた選択イオン透過性
カチオン膜(カチオンのみを透過)
アニオン膜(アニオンのみを透過)
めっき液が不溶性陽極に直接接触しない
⇒めっき液成分の酸化防止
無廃浴型めっきプロセスを用いた
Ni-W系合金めっき開発
硬質クロムめっきを上回る性能
Ni-W合金めっきの特性は、硬く、耐酸性に優れることである。めっき法は、品物の大きさに左
右されないこと、量産化できること、厚めっき可能、熱的ダメージが少ないなどの特長があり、
クロム代替めっきとして長所を備えている。
3
(cm /1000rev)
優れた耐摩耗性
(H V)
120 0
優れた耐酸性
優れた高温硬さ
N i -W
0.12
0.1
Cr
Ni-W
Ni
800
摩
耗
量
高
温
硬
さ
0.08
Cr
0.06
600
0.04
N i- W
Cr
Ni-W
0
0
200
40 0
600
熱 処 理 温 度 (℃ )
Ni
N i- C r
溶射
0
8 00
200
0 .2
0 .3
腐食 速度 (m g/ c m
Ni
200
0
Ni
0 .1
40 0
60 0
測 定限 界値 以下
Cr
N i- C r
溶射
0
N i-C r溶 射
0.02
N i- W
(3 6 w t % )
全て溶 解
N i-B
400
濃 塩酸
測 定限 界値 以下
(3 6 w t% )
100 0
2
0 .4
/h )
濃硫 酸
測 定限 界値 以下
0
0. 1
0 .2
腐 食速 度(m g /c m
0. 3
2
/ h)
濃硝 酸
(3 6 w t% )
測 定限 界値 以下
Cr
測定 限界 値以 下
Ni
8 00
N i- C r
溶射
温 度 (℃ )
Ni-W合金めっきの物性
0
0 .5
1
腐食 速度(m g / cm
1 .5
2
2
/h)
新しい合金めっき皮膜の創製
イオン交換膜をめっきプロセスへの導入すると、従来は陽極で酸化分解されるような成分を
めっき液成分として利用できる。我々は、Ni-W合金めっきの耐食性をより改善するため、Pの
合金化について検討し、Ni-W-P合金めっきを開発した。
Ni-WーP合金めっきのCASS耐食性
耐食性改善
Ni- W- P合 金
めっ き 厚 さ (μ m )
3
5
10
(光沢Niのみ)
(Ni-W合金
めっき5μm)
8
○
○
○
×
※
16
○
○
○
CASS試験時間(h)
24
48
72
○
○
△
○
○
△
○
○
○
144
192
○
△
素地:鉄板、下地めっ き:Niめっき10μm※:めっき 表面が変色、×:全面赤 さび発生、△:部分的に赤 さび発生、○:赤さびな し
Ni-W-P合金めっき
(CASS 16H)
光沢Niめっきのみ
(CASS 8H)
Ni-W合金めっき
(CASS 4H)
Ni-W系合金めっきの利用が期待される分野
Ni-W系合金めっきは、各種金型、ロール、シリンダ、シャフト、ピストンなど耐摩耗性が要求
される部品への適用が期待できる。特に、耐熱性、耐酸性が要求される雰囲気ではクロム
めっきを上回る性能を期待できる。また、従来クロムめっきで困難なバレルめっきが可能なた
め小物部品の量産にも対応可能である。
Ni-W合金めっき品(めっき厚さ1∼2mm)
Ni-W合金めっきロール(約50μm)
バレルめっきによるNi-W合金めっき例(数μm)
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