ドイツ・リート『詩人の恋 op. 』に関する研究

研究ノート
ドイツ・リート『詩人の恋 op. 』に関する研究
―バリトン歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの演奏分析を中心に―
二宮貴之
(西九州大学子ども学部子ども学科)
(平成 年 月 日受理)
A Study of German Lied, The poet s love op.48
―Performance Analysis of Baritone Singer Dietrich Fischer-Dieskau―
Takayuki NINOMIYA
(
)
(Accepted January 9, 2014)
西九州大学子ども学部紀要
第
号
別冊(平成 年
月)
Journal of Children s Studies of Nishikyushu University № (
)
西九州大学子ども学部紀要
第
号
‐ (
研究ノート
ドイツ・リート『詩人の恋 op. 』に関する研究
―バリトン歌手ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウの演奏分析を中心に―
二宮貴之
(西九州大学子ども学部子ども学科)
(平成 年 月 日受理)
A Study of German Lied, The poet s love op.48
―Performance Analysis of Baritone Singer Dietrich Fischer-Dieskau―
Takayuki NINOMIYA
(
)
(Accepted January 9, 2014)
Abstract
The present article is a study of song expression which discusses performance approach by a
world-renowned baritone singer (Dietrich Fischer-Dieskau, 1925-2012) for Dichterliebe op.48, the song
cycle by Robert Schmann. The results indicate that he performs focusing on performance faithful to
music score, thoughtful reading of poetry, and artful parlando .
Key words:Song Expression
歌唱表現
German Lied ドイツ・リート
Robert-Schumann
ロベルト・シューマン
Dietrich-Fischer-Dieskau ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウ
―
―
)
のあり方を明らかにしたい。
Ⅰ.はじめに
ローベルト・シューマンは,ロマン派を代表する
Ⅱ.研究方法
ドイツの作曲家であり,これまでに『Liederkreis
op. 』
,
『Myrten op. 』を始め,数々のドイツ・
Deutsch Grammophon 415190-2 Fischer-Dieskau
リートを世に残してきた。新編世界大音楽全集によ
ると「
世紀におけるドイツ歌曲創作の歴史の流れ
のなかでローベルト・シューマン(Robert
mann
‐
‐
schu-
)はシューベルト(Franz Schubert
年
月,
年
月,
年
月にベルリンで
収録された CD 音源に収録されている連作歌曲集
『詩人の恋 op. 』全
曲 を 視 聴 し,Peters )編 集
の楽譜と照らし合わせ,第
曲から
曲までの全曲
をピアノ伴奏,詩の解釈,音楽用語,フレージング,
)とブラームス(Johannes Brahms
)のあいだに位置し, 世紀の前半から後半
発声,発音,アクセント,母音や子音の関係等,様々
へのいわば掛橋の役割をはたしているが,・・・歌
な要素を勘案し,ディースカウがどのような音楽的
曲の質からいっても,かけがえのない大きな意味,
アプローチや歌唱法でこの作品を演奏したかについ
‐
)
ユニークにして貴重な価値をもっている。
」 と記さ
て演奏分析を行う。音源 CD を視聴する際は,
−
れており,ドイツ・リートの歴史の中でも重要な人
小節程度の細かなフレーズのまとまりごとで区切
物の一人と言える。また,ドイツ・リートの象徴的
り,微細なニュアンスが聴取できない場合は,何度
存在で「歌曲の王」と称されるシューベルトは,こ
もリピートして聴き取った。分析及び考察について
れまでに約
は,
曲の歌曲を作曲し,リートの様式を
曲ずつ行っている。まず曲の全体像を明らか
確立した偉大な作曲家の一人であるが,シューマン
にし,次に小節単位の細かな演奏分析を行うことで
もまた,シューベルの直後に続くドイツ・リートの
演奏様式の特徴や音楽へのアプローチの方法等を把
担い手とされており,シューベルトからの伝統を受
握し,最終的にディースカウがこの曲集をどのよう
け継ぎ,自らの音楽性や感性を最大限に生かし生涯
に演奏しているのかを導き出す。
で
曲余りの歌曲を残した偉大な作曲家の一人な
のである。そのシューマンが残した歌曲の中に,
『Dicht-Dichterliebe
op. 』
(詩人の恋 op. )が
ある。この曲集は,詩人の恋愛をテーマにした
Ⅲ.連作歌曲集『詩人の恋 op. 』について
ロマン派を代表する作曲家の一人であり,情感豊
曲
から成る「連作歌曲集」で,シューマンが作曲した
かなシューマン作曲の歌曲集『詩人の恋 op. 』は,
作品の中でも傑作とされ,今なお多くの演奏家に
「歌の年」と呼ばれる
よって演奏されている。
にシューマンは後に妻となるクララ・シューマン
これまでの連作歌曲集『詩人の恋 op. 』につい
)
ての先行研究では,板橋 が行ったフリッツ・ヴン
)
ダリッヒの演奏分析や,木村 がおこなった伴奏と
)
詩の関わりについての研究,池上 が行った調構造
)
年に作曲された。この年
(Clara Josephine Wieck Schumann
結婚しており,生涯約
約半数を占める
‐
)と
曲の歌曲を作曲した中で
曲もの歌曲をこの年に作曲して
いる。シューマンは,結婚の喜びから創作意欲が湧
についての研究,眞田 が行ったシューマンの歌曲
き,数多くの歌曲を世に送りだしているが,連作歌
に於ける発想記号の特徴についての研究など,様々
曲集『詩人の恋 op. 』もまた同様に,「歌の年」
な角度から研究がなされている。いずれの研究も基
に作曲された。藤本 )は著書の中で「《詩人の恋》作
礎と応用の上に立った貴重な研究であるため,参考
品
にしつつ,今回は,先行例の少ない声楽家の視点か
けて書かれた曲集。当初は「ハイネの詩,『歌の本』
ら歌唱研究を行うこととした。研究を行うにあたり,
の抒情間奏曲」としてメンデルスゾーンに献呈する
板橋の研究例を基軸として,世界的バリトン歌手で
計画だったが,刊行は
あるディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ
〈あなたの顔は〉
〈頬に頬〉と,後半の〈僕の恋は
(Dietrich-Fischer-Dieskau
‐
(
)以下,ディー
(ハイネ詩)
年
月
日から
月
日にか
年にもちこされ,前半の
輝き〉〈僕の馬車はゆっくりと〉の
曲がはずされ,
スカウ)がどのようなアプローチでこの曲集を演奏
計
しているかについて,録音音源を聴取し,楽譜と照
=デフリーントに献呈された。」と説明しており,
『詩
らし合わせながら演奏分析を行い,この曲集の演奏
人の恋 op. 』は,ハイネ(Christian Johann Heinrich
―
―
曲が
《詩人の恋》と題されて,歌手シュレーダー
Heine)の詩集『歌の本』から抜粋した 編に曲を
中,主調へなかなか解決せず最後まで不安定な調で
つけた歌曲集なのである。この曲集の詩を書いたハ
構成された曲である。e moll の主和音は登場しない
イネは,ドイツ・ロマン主義を代表する文学者であ
が,曲の最後に属七の和音が出てくる。
譜例
り,シューベルトもまた彼の詩集に曲をつけたと言
を表している。
われている。
連作歌曲集『詩人の恋 op. 』には
詩人の恋 op. の 始 ま り は,Langzam,zart の 表
曲が収録さ
曲までは恋の喜びを歌い,第
示通り,ゆるやかに,そして揺蕩いながら
小節目
曲までは失恋の悲しみを歌い,第 曲と第
の歌の冒頭部まで甘美に演奏されている。
小節目
れており,第
曲−
)は,曲の最後の部分であり,属七の和音
曲−
曲では,苦しみを回想しながら昇華させており,
曲集全体としては,恋する詩人の喜怒哀楽が歌われ
後半−
小節目冒頭にかけての「Fis-E-Dis」,
節終わりから
小節後半− 小節目 拍目「Fis-E-Dis」
,
ている。ピアニストであったシューマンらしく,ピ
小
小節目冒頭にかけての「C-H-H」,
小節
アノ伴奏と歌唱部が見事に融合しており,詩人の感
後半− 小節 拍目の「C-H-H」の部分は,いずれ
情をあえて歌唱部ではなくピアノの前奏,伴奏,後
も同一の音形を形成してるが,
−
奏部分で表現するなど,音楽的にも多彩な曲集であ
はイン・テンポで演奏し,
小節目の付点
ると言える。また,移り行く音楽の色彩の変化が調
音符でリタルダンドし,
構成にも表れており,魅力的な歌曲集の一つである
−
と言える。また,詩はハイネの繊細な世界で表現さ
形でも速度に微妙な差異をつけ音楽的に表現してい
れており,音楽と詩の見事な融合がなされているの
ることが特徴であり,
である。このように,音楽構成,ハイネの詩,いず
wunderschönen Monat Mai の詩行では,歌い出し
れをとっても非常に魅力的な作品であるため,演奏
の呼吸を合わせるため,伴奏部分のピアノが,自然
のしどころであり,聴きどころであると言えよう。
にリタルダンドをかけている。Im の「m」を明確
このドイツ・ロマン主義の文学者とロマン派音楽
に発音し,Mai の「a」の母音は明るく響かせ,強
を代表するシューマンとが合わさり,至極の曲集が
調して演奏されている。続いて, − 小節の da
年の「歌の年」に完成したのである。曲の内容
ist in meinem Hezen die Liebe aufgegangen の詩行
−
−
小節目の音形
分
小節目でも同様,
小節目も同様にリタルダンドしている。同一音
小節目終わりの歌唱部 Im
は,ist の「i」をピアノ(P)「以下,強弱記号のピ
等については,演奏分析を参照されたい。
アノは,「ピアノ(P)
」と表記する」で歌い,meinem
の「ei」の二重母音を強調させ,Herzen の部分で
Ⅳ.『詩人の恋』全 曲のフィッシャー=
ディースカウの演奏分析および考察
ポルタメント気味に甘く包み込むよう演奏し,フ
レージングは meinem-Herzen にかけてクレッシェ
.Im wunderschönen Monat Mai op. ‐
(麗しく美しい
ンドし,die Liebe aufgegangen の,Liebe にストレ
月に)
スを置き,aufgegangen の gan-gen の部分を詩の意
第 曲は,e moll(原曲 fis moll),Langzam,zart,
味の通り(愛が花咲く)を表現するかのごとく gan
/ 拍子であり,花々が咲き誇りドイツで最も美
と gen の
しいとされる
月に芽生えた恋が歌われている。曲
え,軟口蓋を開き,共鳴腔に響きを集め,母音がビ
譜例
―
分音符のリズムを明確に刻み,体を支
―
ブラートをかけて伸びていくような芸術的な歌唱表
節では,
現がなされている。 小節は,この曲の歌の旋律の
れる viel をすぐに歌い出して音楽を繋げて歌唱し
中で,最高音である「F」の音が表れており,伴奏
ている。 − 小節の viel,blühende,Blumen her-
部と伴に呼吸を合わせ,上行形の音楽に沿って−
vor は,「blühen-」,「Blu-」,の部分に言葉のアクセ
gan-gen を強調し,
「F」の音を明るく美しい響きで
ントを感じながら歌唱し,
「hervor」は,やや言葉
歌唱している。伴奏部は,美しいヨーロッパの
を強調して演奏し,「-vor」の部分でフェルマータ
月
小節の
分休符は音楽を止めず,次に表
に恋をした詩人のなんとも言葉にならない悶々とし
をたっぷり取っている。
た気持ちを主和音に定まらない不安定な調で揺れ動
頭にかけては,冒頭のアウフタクト−
く音楽が表現している。
までと同一の音形が表れ,同一個所にアクセント記
−
小節目冒頭−
小節目冒
小節目冒頭
小節は, 小節 拍目の gan-gen「F♮-E」
号が付いており, 小節目の「wer-」,
小節目の
の音程から,伴奏が自然な形で受け継ぎ,リタルダ
「Nach-」の部分にアクセントを置き,
小節目の
ンドしながら次の − 小節目の Im wunder-の部
「-chor」ではフェルマータしてピアニッシモで歌
分にかけて演奏される。 −
唱されている。
小節目の,Im wun-
小節目後半からは,
小節目の
derschönen Monat Mai als alle Vögel sangen の詩行
拍目のフェルマータで緩ませた音楽を戻しながら,
は,曲の冒頭部の Im wunderschönen Monat Mai als
小節目の Kindchen の「n」をはっきり発音し,
alle Knospen sprangen の部分と同じアプローチで
母音が下に落ちないよう維持されている。
演奏していると言える。
では,歌唱部分の旋律に
−
小節目と −
小節
分音符や付点
小節目
分音符な
目は詩と歌の旋律の音形が同一に表現されており,
どの音価が短い音符で記譜されており,それらを表
いずれもドイツ語の動詞である「sprangen」
,「san-
現するため,言葉をしゃべるように“パルランド唱
gen」の「spran-」と「san-」の 部 分 に ア ク セ ン ト
法”で演奏している。
を置き演奏するという共通点がある。 − 小節の,
始まり,
da hab ich ihr ge standen mein Sehnen und Ver lan-
せ,
gen. の詩行は,da hab〈ich ihr〈ge standen のよう
てきて声の響きを膨らませた後,
「-gen」にかけて
に徐々にクレッシェンドしつつ,ストレスを置くポ
デクレッシェンドをすぐにかけている。
イ ン ト を hab の「a」
,ihr の「i」
,standen の「a」
半−
の母音に持って来ている。 −
の部分は,「das Lied」と「der Nach」と「-ti gall」
小節目は,歌唱部
小節目は,ピアニッシモで
小節目の Fenster soll の 連符を強調さ
小節目の Klingen の「i」にストレスを持っ
小節目後
小節目にかけての,das Lied der Nachtigall
の歌い終わりを受け,ピアノ伴奏が音楽の流れを壊
の
さぬよう,優しく包み込むようにスラーがかかった
し,「gall」の「a」の母音をピアニッシモで表現し
分散和音を奏で,リタルダンドしながらフェルマー
ている。総じてピアノ(P)の音楽の中で言葉をしゃ
タで余韻を持たせて終曲する。
べるように歌唱しており,
“パルランド唱法”の典
段階に分けてデクレッシェンドとリタルダンド
型であると言える。
.Aus meinen Tränen spriessen op. ‐
(僕の涙は溢れ出て)
.Die Rose, die Lilie, die Taube op. ‐
第 曲は,G dur(原曲 A dur)
,Nicht schnell,
(薔薇や百合や鳩)
/ 拍子であり,恋をした詩人の切なく繊細な気
第 曲は,C dur(原曲 D dur)
,Munter, /
持ちが詩に表現されている。音楽は終始ゆるやかな
拍子であり,早いテンポで休むことなく終始演奏さ
テンポで演奏され,歌唱部は,
(新編 世界大音楽
れている。早口言葉でしゃべるように第
全集
)
“朗 読 を そ の ま ま 歌 に し た よ う な
“パルランド唱法”が顕著に表れており,これまで
シューマンのパルランドの技法の典型的な例である
好きだった薔薇,百合,鳩から一人の女の人に恋し
(以下,
“パルランド唱法”とする)
。
”
ている様子が歌われる。ピアノ伴奏部も歯切れよく
ピアノ伴奏と伴にアウフタクトのリズムで始まり, 細かいリズムを刻み,
冒頭のアウフタクト− 小節の Aus meinen Trä-
小節と
曲同様,
小節のリタルダン
ドを除き終始スピード感ある演奏がなされる。
nen spriessen の詩行は,meinen の「ei」,Tränen
アウフタクト−
小節目までを一息で歌唱し,
の「ä」
,spriessen の「i」にアクセントを置きつつ, 小節目 Rose の「Ro-」,Lilie の「Li-」, 小節目 Taube
フレーズが途切れることなく演奏される。
−
小
の「Ta-」
,Sonne の「Son-」
, 小節目 liebt の「lie-」
,
―
―
alle の「all-」, 小 節 目 Liebes の「Lie-」,wonne
Leid und Weh の詩の all の「a」,mein の「ei」,Leid
の「won-」などの
の「ei」
,の母音をそれぞれリエゾンして,mein か
拍目頭と
拍目頭にアクセン
トを置き,快活に歌い上げている。
小節目の終わ
りの 分休符の Ich の前でブレスを取り,
小節目
ら Leid にかけて「F-B」の完全
ストレスを置き,
度跳躍の部分に
分音符の Weh を拍間一杯まで
では,Lieb の「Li-」,mehr の「me-」にアクセント
伸ばしている。
を置き, 分休符の次の ich から強弱記号は表記さ
küsse の言葉を強調して発音し,続く deinen Mund
れていないが,若干ピアノ(P)にしながら歌唱し
にかけてクレッシェンドしている。また,deinen
ていることが特徴と言える。
の最後の「n」を日本語で置き換えると「ぬ」のよ
これまで同様,
拍目と
−
小節目までは,
拍目にアクセントを置き,
小節目 Eine の次にブレスを取っている。
目終わりの sie から
小節
小節目の Wonne までは,発
−
小節目は,
小節目に表れる
うに明確に発音される特徴が見られる。
小節目の
ganz und の部分は,記譜上「B-C」と「F-Es」の
種類が表記されているが,ディースカウはテクニッ
想記号の表記はないが,あえてレガート気味に歌い,
ク的に難度の高い後者で表現し,gesund で歌い収
Liebe「愛」という言葉を表現するためにこのフレー
めている。
ズを甘く歌唱していると考えられる。 小節目終わ
葉にストレスを置き an deine Brust を一つのフレー
り−
ズで捉えて歌唱している。
小節目終わりにかけてリタルダンドしており,
−
小節目は,
小節目の lehn の言
小節目の kommt s は,
音価が緩む頂点が Taube の「Tau-」に置かれてい
ピアノ伴奏部で前の拍にクレッシェンドがかかって
る。
いるため,それを受け,強めに歌唱され,あえて
同様に
小節目終わり− 小節目までは,これまでと
拍目と
拍目にアクセントを置き歌唱され,
小節目の alleine の部分に出てくる「A-A-D-D」
「kommt s」の一語を強調し,区切って歌唱してい
る。
− 小節目は,音楽の流れに沿って歌唱され,
の音程個所にスラーがかかり,音が跳躍している部
小節目の doch wenn du の部分にある,連続する
分は,
「A」の音から「D」の音にかけてしっかり
分音符をややマルカートし,徐々にデクレッシェ
音高のイメージがなされ,上からそっと「D」の音
ンドをかけ,
を添えて歌唱されている。
モで歌唱している。
小節目−
小節目の
小節目の sprichst は,ピアニシシ
−
小節目は,詩人とその相
die Eine では,リタルダンドしながら短い小節数で
手を
はあるが,巧みにクレッシェンドとデクレッシェン
ての ich liebe dich!「愛しているわ」という,意中
ドを行い,曲を歌い収めている。
の相手の言葉の箇所は,声色を変化させ,ささやく
人
役で表現しており,
−
小節目にかけ
ように表現している。 小節目の so から詩人の言
.Wenn ich in deine Augen seh op. ‐
葉に戻るため,少し強めの声色に変化させ,bitter-
(僕があなたの瞳をみつめると)
第 曲 F dur(原曲 G dur)
,Langsam, /
lich をたっぷり歌唱して終曲している。
拍
子は,歌唱部とピアノ伴奏部が交唱しながら歌い合
.Ich will meine Seele tauchen op. ‐
う。彼女のくちもとに口づけすると元気になり,
「愛
(僕の心をひそめてみたい)
しているわ」と言われると涙が溢れ出るというロマ
第 曲目は,c moll(原曲 H moll),Leise, /
ンチックなハイネの詩が印象的な曲である。歌唱部
拍子であり,過去の口づけの想い出を回想しなが
は,ゆるやかなテンポの中,ささやくように“パル
ら,moll で感傷的に表現している。
(新編
ランド唱法”で歌われる。
音楽全集
世界大
)“ピアノ伴奏部は,右手でオスティ
− 小節目の,Wenn ich in deine Augen seh ま
ナートふうに執拗にそれとは無関係な音形を繰り返
でのフレーズを一呼吸で歌唱し,deine にややスト
す。”これまでにないメロディーラインが表れてい
レスを置き,Augen の「a」と「u」の 重 な る つ
る。
譜例
の母音をまろやかに包み込みこんでいる。また,こ
のフレーズでは,dein から Augen にかけて「A-C」
と音程が短
)は,ピアノ伴奏部がオスティナートの反
復をしている。
アウフタクトから始まり, 小節目 Ich− 小節
度跳躍しているが,跳躍先の「C」の
音を目立たせず,軟口蓋を広く開け,響きを絶やさ
目 tauchen ま で を
ず,なおかつ優しくまろやかに歌唱している。
小
Seele にフレーズのストレスを置き,上行形の頂点
節− 小節冒頭までは, 小節目に表れる all mein
にあたる tauchen「C」の音は体を開放し,言葉が
―
―
フ レ ー ズ で 取 り,
小節目
譜例
前に飛ぶように歌唱している。
−
小節目の in
.Im Rhein, im heiligen Strome op. ‐
den Kelch der Lilie hinein では Kelch の言葉を出し,
(ラインの聖なる流れ)
フレーズのストレスを Lilie に置き,上行形の頂点
第
である ein は自然に発音されている。
/
−
小節目
曲は,d moll
(原曲 D moll),Ziemlich langsam,
拍子であり,ゴシック建築の大伽藍であるケ
のような繰り返される同一音形であっても,ドイツ
ルンの大聖堂の中の聖母マリア像の聖像画のことを
語 の 詩 の 意 味 の 重 要 性 か ら も 分 か る よ う に,
愛する彼女であると歌っている。ピアノ伴奏は大聖
tauchen は強調し,ein は強調せず音楽に沿って自
堂を彷彿とさせる威厳に満ちた旋律であると言える。
然に歌唱するなど,音楽に微妙なニュアンスを加え
歌唱部もまた,威厳に満ちた声で朗々と歌われるこ
て歌唱していることが特徴として挙げられる。
小
とが要求される。
節目後半−
小
音楽がフォルテで始まり,歌唱部もフォルテで共
拍 目「E」
鳴腔にしっかりと共鳴させ,響き渡るような豊かな
小節目は
フレーズで歌唱され,
節 拍 目 の hauchen「E」の 音 が
節
の音と同様に最高音であるが,音の高さを感じさせ
声で浪々と歌唱している。
ず,自然な音楽運びで処理し,余裕があり,豊かで
フレーズを歌うというより,むしろ音符の音価の通
まろやかな響きの声で歌唱している。hauchen の後
り
は,
る。特に
小節
拍目まで下行する旋律が続いており,
小節 拍目「Lied」
,
拍目「Lieb-」に言葉のア
音
小節目までフォルテで,
音強調しながら明確に勇ましく歌唱してい
小節目の Stro-のアクセント部分はフォ
ルテの中でも強く,
小節目の
分音符
つの in
クセンを置き, 小節 拍目の mein「ei」の母音
den の部分もドイツ語としては特に強調する単語で
を明確に発音している。 小節後半の das は,少し
はないにも関わらず,ライン川の雄大な様子を音楽
息を交え歌唱の表現に変化を持たせ,
で表現しているためか,そのニュアンスを十二分に
小節
拍目
「Lied」, 拍 目「schau-」, 小 節 拍 目「be-」
,
小節 拍目「Kuss」,にアクセントを置き, 小
節
拍目「einst」にストレスを置き, 小節 gege-
小節−
小節目までは,これまでと音楽が一変し,ピアノ
(P)で歌唱され,
拍目 Mund の「d」の子音を明確に発音し,
小節
表現するため,強調して歌唱している。
切り,
−
小節の Bildnis,のカンマで区
小 節 は,Leder の「Le-」に ア ク セ ン
ben で歌い収めている。in− 小節 Stund まではリ
トを置き,malt の「t」の子音は,横隔膜を使い明
タルダンドで歌唱している。特に 小節の wunder-
確に発音している。
bar「 連符 D-D-C」の部分は,シューマンがこの
部分同様,勇ましくフォルテで演奏され,
小節
言葉にわざわざ
meines の「mei-」,
小節
連符をつけており,他の旋律の歌
小節からは,音楽が再び冒頭
小節 Lebens の「Le-」
唱方法とは異なる形で感激をピアノ(P)で表現し, Wildnis の「wi-」の部分は,段階的に伴奏と歌が大
響きに加え,少し声に息を混ぜて歌唱し,次に続く
きく強くなり,特に「wi」の部分は下唇を上前歯
süsser へ自然に繋げ,この感激を甘く表現して終
にくっつけ横隔膜を使い,おもいきり圧力をかけた
曲している。
後,一気に空気を送り込み発音されている。この
小節を頂点に置き,
小節までは自然に音楽の流れ
に沿って歌唱されている。
符や
―
―
−
小節までは,全音
分音符などの音価が長い音符でピアノの伴奏
が演奏され,ライン川の大きさを表しており, 小
と言葉とは裏腹の感情をメゾフォルテで表現してい
節から再び歌の旋律が始まる。 小節の Es schwe-
る。 − 小節に出てくる nicht の「cht」や bricht
ben の部分では「Es」の言葉の入りに少し息を加え
の「cht」などの子音は,特に強調されている。
た表現がなされ,
−
小節 拍目の「Blu-」,
小節
拍目の「Eng-」の部分にアクセントを置き,
小 節 は,
Lieb を
小節 Frau までを揺蕩うように歌唱している。 −
小節は,die Augen, die- Lippen, dieLippen, die
回 繰 り 返 さ れ る ewig
回目がメゾフォルテ,
回目がフォルテ
になるよう歌い分け,対比させている。
−
verlor nes
小節後半
小節前半までは,ich grolle nicht が 回繰り返
Wänglein のように韻を踏んだ詩が表れるが,リズ
されており,
ムパターンは同一である。注目すべき点は,楽譜に
け,その小節内ですぐにデクレッシェンドをかけ,
クレッシェンドの表記がないにも関わらず,徐々に
小節に出てくる 回目の ich grolle nicht はメゾ
小節の「gro-」に最もストレスをか
クレッシェンドし,
「die Lippen」と「die Wänglein」
フォルテで歌唱している。
をペザンテで歌唱しているところにある。 小節後
strahlst の部 分 は,楽 譜 を 見 る と「strahlst」に ア
半から 小節にかけてはピアノ(P)で歌唱され,
クセント記号がついており,実際の声も「strah-」
小節終わりの der からリタルダンドし,
小節で
歌い収めている。
小節の Wie du auch
の部分が強調され,声の響きが前に飛んでいる。
−
小節の in Diamantenpracht の部分は,
「-man-」
を強調し,続く es fällt kein Strahl では「Strahl」
.Ich grolle nicht op. ‐ (僕は恨まない)
の「s」の子音を前拍からくい気味で取り,最後の
第 曲は,C dur,Nicht zu schnell, /
「l」を上前歯の裏にしっかりつけて発音されてい
拍子で
あり,曲調は明るく旋律も甘美で美しくこの曲集の
る。
中でも際立つ
ントを置き,
曲である。しかし,旋律の美しさと
は裏腹に歌詞の意味は,恋人への未練を延々と歌い,
(新編
世界大音楽全集
−
小節は,
小節の「Her-」に歌のアクセ
小節にかけてリタルダンドしながら
längst の「lä-」の開口母音でクレッシェンドをかけ
)
“ピアノのアコル
小節
拍目まで継続させて「st」の子音を非常に
ドの連打”がその気持ちを表現していると言える。
強調して発音している。
歌唱部は歌詞を一語一語明確に発音しつつ,特に子
全く同じ旋律と伴奏が再び表れるが,強弱記号が
音の「cht」などを強調することで曲の特徴を表現
小節目はメゾフォルテであったが,
することができると言える。
ルテとなっているため,表現に違いを出すため,声
譜例
)
は,ピアノのアコルドの連打である。
(僕
−
小節は,曲の冒頭と
量に変化をつけて歌唱している。
小節目はフォ
− 小節は,こ
は恨まない)という曲名とは裏腹な気持ちが表現さ
の曲中,最も音楽的に盛り上がる部分であり,ich
れている。
sah dich ja im Traume の「sah」,「ja」,「Traume」
ピアノ伴奏は,
拍目と
拍目の強拍箇所にアク
の強拍箇所を意識しつつ,ピアノ(P)で歌唱し,
分音符の連続であり,左
und sah die Nacht in deines Herzens Raume をク
分音符の連続で書かれている。非
レッシェンドしながらアッチェレランドし,und sah
常にシンプルな曲構成であるが,旋律は美しく,こ
die Schlang die dir am Herzen frisst はクレッシェン
の曲集の中でも特徴的な曲である。
小節目から歌
ドしながら「A-A-G-F」の音をバリトンとしてはか
は非常に力強く,
「Ich grolle nicht(私は恨まない)」
なりの高音であるが,ぬけるような響きで歌唱し,
セント置き,右手は全て
手は後奏以外が
譜例
―
―
ich sah mein Lieb,wie sehr du elend bist まで「F-F-
まらぬ気持ちがピアノの後奏部分で表現されている。
F-F-F-F-F-E-D-C」の高音の連続部分では響きを逃
伴奏が
分音符の連続で細かく音楽を刻み,その
がさず保ち,なおかつ言葉を明確に発音している。
流れに沿って歌の旋律がアウフタクトからピアノ
詩人が失恋した悔しさを,高音の連続で音楽的に情
(P)で歌いだす。アウフタクト−
景描写し,高度な技術で絶妙に歌い上げている。
und wüssten s die Blumen die kleinen wie tief ver-
−
wundet mein Herz とあり, 小節の「Blu-」,
小節は,
「Ich grolle nicht, ich grolle nicht.」の
小節までは,
小
同一の詩をフォルテとメゾフォルテ程度の強弱で対
節の「klei-」
比をつけて歌唱している。
回目は,メゾフォルテ
を置き,歌唱している。 − 小節は,sie würden
になり,
「恨んではいない」という感情が若干やわ
mit mir weinen, zu heilen meinen Schmerz. という
らいでいるようにとれる。
詩が歌われるが,sie würden mit mir にかけれク
小節の「tief」に言葉のアクセント
レッシェンドをかけながら「weinen」に向けて音
.Und wüsstens s die Blumen, die kleinen op. ‐
楽のストレスをかけている。 小節の heilen,meinen
(花が,小さな花がわかってくれるなら)
は互いに「ei」の二重母音をしっかり響かせ言葉を
拍子で
強調し, 小節の Schmerz の「e」の母音を拍一杯
あり,花やナイチンゲールや星が僕の悲しみを分
まで丁寧にまろやかな響きで歌唱し,歌い収めてい
かってくれるならいろいろと慰めてくれるだろうと
る。
歌い,本当の苦しみを知っている(一人の女の)が
Fis-Fis-D-D-Cis-H-A-A-G♮」となり,冒頭から
僕の心をずたずたに切り裂いたと歌われる。ピアノ
節までの旋律とほぼ同一である。しかし,
の後奏が(新編 世界大音楽全集
付点
第 曲は,fis moll(原曲 a moll),
/
)
“そのや
−
小節は,歌の旋律が「Cis-Cis-H-H-A-Gis-
分音符,
小
小節に
分音符で記譜された「Nachti-」
りばのない苛立ちと憤りの表現”を表している。歌
の部分は一か所リズムが異なっており,演奏を聴く
唱部は,ささやくように,時に激しくメリハリをつ
と「Nach-」の言葉にアクセントを置き歌唱してい
けてそれぞれの詩行を歌い上げることが要求される
るため,楽譜に忠実な演奏を行っていることがわか
と言える。
る。
譜例
)は心をずたずたに切り裂いた人へのおさ
干置き,
譜例
―
小節の「trau-」には言葉のアクセントを若
―
小節の krank の「k」の子音を特に強調
して発音している。この「k」の子音を強調し,次
後奏のピアノ伴奏は,ア・テンポしつつ,スフォル
の言葉の sie を少し早めに発音することで, 小節
ツァンドやクレッシェンドして低音から中音までの
後半− 小節にでてくる sie liessen frölich erschal-
音域を荒れ狂う波のようにダイナミックに表現して
len のフレーズに効果的なクレッシェンドをかけて
終曲している。
いる。 − 小節は,
小節からの音楽の膨らみを
受けて,フレーズを収める部分であるため,
「Gis-Gis
.Das ist ein Flöten und Geigen op. ‐
-Eis-Eis-Fis」の音を徐々にピアノ(P)で演奏して
いる。 −
(あれはフルートとヴァイオリンのひびきだ)
第 曲は,d moll,Nicht zu rasch, /
小節は,
ピアニッシモでソットボーチェ
しながら言葉のアクセントを感じて歌唱している。
− 小節は,kämen aus ihrer Höhe,の部分の音
あり,
拍子で
拍子系の特徴的な旋律で,ピアノ伴奏が踊
りを表現したリズムを刻みながら始まる。この曲は,
楽 が「Eis-Eis-Eis-Fis-Gis-A-A」と 順 次 進 行 し て い
詩人の意中の人が他の男との結婚式で踊っている宴
るが「kä」の部分に音楽のストレスを置き,「Hö-」
の音楽を表現しており,詩人の感情の起伏がピアノ
に向けて少しクレッシェンドをかけている。続く,
の旋律に表れている。楽譜に記されている強弱記号
小節の sprächen Trost でリタルダンドしている。 や発想記号を正確に表現する必要がある曲であり,
− 小節は,Sie alle können s nicht wissen のフ
(新編
世界大音楽全集
)“デュナーミクの
レーズ始まりの「Sie」からソットボーチェで歌い, 指示を見逃さないように”しなければならないと言
小節
える。
の Nur eine kennt meinen Schmerz では,
「eine」
譜例
の「ei」の二重母音を少し出し,
「schmerz」の「e」
である。
「kö-」に言葉のアクセントを置いている。
)は,宴の踊りを表現したリズムパターン
小節からメゾフォルテで歌が始まり,
の母音を響かせることにより,言葉全体を強調して
小節
歌唱している。 − 小節にかけて sie hat ja selbst
「ist」, 小節「Flö-」,
zerrissen と い う 詩 行 が あ る が,zerrissen の「-
トを置き,
rissen」をマルカートして特に強調している。この
いた付点
「-rissen」のピアノ伴奏部にもスタッカートとク
声が詰まらず抜けるように「ei」の二重母音を明る
レッシェンド記号がついているため,この部分は全
く発声している。
体的に強調した表現を必要としていると言える。
Trompeten schmettern darain の「A-D-D-D-D-D-C」
小節後半− 小節では,歌唱部の歌い収めであり,
の音程の部分は,
「o」「e」「a」「i」などの「母音」
音楽記号もリタルダンド,スフォルツァンド,ア・
を一定の響きを保ち,響かせ,横隔膜で息を支えた
テンポが記されており,音楽の色彩が目まぐるしく
上で,「t」「s」などの「子音」を言葉のアクセント
変化する部分である。Zerrissen mir das Herz,の
部分に関連性をもたせて明確に発音されている。
部分は,
「zer-」からリタルダンドをかけ,
「-rissen」
小節後半から 回目の Trompeten schmettern da-
の付点
rain「C-H-H-H-H-H-C」の音程部分は,
分音符, 分音符のリズムを音価一杯まで
小節「Gei-」にアクセン
小節の「Gei-」のアクセント記号がつ
分音符の「F」の音は,高音であるが,
小節からフォルテで歌唱し,
回目より
とり,
「s」の子音を強調することで言葉を明確に表
低い音域であるが,息の圧力や響きの豊かさにさほ
現している。最後の mir das Herz は, 分音符,
ど変化はなく,フォルテで演奏している。
分音符,
分音符の部分は,フレーズで歌うとい
うよりむしろ,
語
語区切りながら歌唱している。
小
節は,ピアノ伴奏がピアノ(P)で演奏され, 小
節から再び歌唱が始まるが,歌い出しの da
譜例
―
−
―
tanzt
の「tanzt」部分は声の響きに息を混ぜており,歌
置き,言葉をやや強調しながら歌唱する。
唱表現に変化を加えている。 小節からピアノ伴奏
節は, 小節の「Brust」の「u」の 母 音 を 横 隔 膜
がクレッシェンドをかけ,die Herzallerliebste mein
でしっかり支え,響きのある声で歌唱し,
はフォルテで歌唱している。 − 小節と同様のフ
sprin-gen は,
「r」を巻き舌して,springen の言葉
レーズであるが,フォルテではなくディミヌエンド
の中に
し, 小節の mein の言葉を音楽の流れに沿って自
ブラートをかけて音楽が停滞しないよう歌唱してい
然に歌唱して歌い収めている。 − 小節は,ピア
る。
ノの間奏が「踊りの音楽」を奏でている。 −
小
Schmerzendrang の詩行は,音程が「Des-G-G-H-H-
節の das ist ein klingen und Dröhnen,の部分は,
C」と上行しており,楽譜に記譜された音楽に沿っ
ピアノ(P)で歌い出し,
て von を包み込むような柔らかい響きで歌い出し,
小節「ist」,
小節「klin
−
小
小節の
つ出てくる「n」は,響を上で保ちつつビ
小 節 後 半−
小 節 拍 目 の von
wildem
-」
, 小節「Drö-」に言葉のアクセントを置き,
「Drö
「wil-」,「Schme-」,「-drang」にかけて響きの厚み
-」の「F」の音を高い響きでしっかりと共鳴させて
が増している。
歌唱している。 小節からフォルテで始まり,
「ist」
の母音を共鳴腔で共鳴させ,ビブラートをしっかり
「klin-」「Drö-」に ア ク セ ン ト を 置 き, 小 節 ein
かけて,次のフレーズに受け渡しができるよう,ア
Pauken und ein Schalmein の部分は,
「ein」「Pau-」
プローチしている。
「ein」「Scha-」の箇所を強調し,歌唱している。
小節後半−
−
小節は,ピアノ伴奏が再び「踊りの音楽」を
奏でている。
小節 拍目の「-drang」は,
「a」
小節の Es treibt mich ein dunkles
Sehnen 詩行は,
「treibt」の言葉を柔らかな響きで
小節後半の歌の始まりは,ピアノ
歌い,「dunk-」の「u」の母音は,口の奥が開き,
(P)で歌い出し,dazwischen schluchzen und の
言葉が浅くならないよう発音し,
「Seh-」に言葉の
部分は少し息を混ぜて歌い,stöhnen,の「ö」をしっ
アクセントを置き,Sehnen の最後の「n」は響き
かりと共鳴腔に響かせて歌唱している。 小節から
を上で保ち,音楽を停滞させないよう歌唱している。
再び dazwischen schluchzen und stöhnen と歌われ
るが,
拍子の強拍である
拍目にアクセントを置
− 小節は,
小節の「Wal-」の部分に言葉のア
クセントを置き,ややリタルダンドをかけ,
小節
き,フォルテで歌唱し,schluchzen の「luch」をは
の höh では音が「Es-A」と増
ねるように表現し,
「stönen」の最後の「n」を明確
が,跳躍を感じさせない歌唱であり,
「Es」の歌い
に発音している。 −
小節は,この曲の歌い収め
出しから次の「A」の音のイメージを明確に持ち,
であり,die lieblichen Engelein. の「lie-」,
「En-」
ピアノ(P)で繊細に歌唱されている。 小節後半
の部分にアクセントを置いている。 小節後半から
−
は長めの後奏が続き,ディミヌエンドをしながらピ
ダンドをかけながら
アニッシモで終曲する。
響きで歌唱し,Tränen の「ä」の母音は響きを前
度音程が跳躍する
小節の dort lost sich auf in Tränen は,リタル
に出し歌唱している。
小節の auf の言葉を柔らかな
小節後半−
小節は,最後
.Hör ich das Liedchen klingen op. ‐
の詩行,mein übergrosses Weh .と歌われ,ピア
(かつて愛する人が歌ってくれた)
ニッシモでありながらも「ü」や「-gro-」の部分を
第
曲は,g
moll,Langsam, / 拍子であり,
強調し,言葉が伝わるよう,歌唱している。
小節
かつて恋した人が歌っていた歌を思い出しながら失
からは後奏であり,その曲調はもの悲しく,時にス
恋の悲しみにひたっている曲である。Langsam の
フォルツァンドで強い悲しみを訴えるかのように情
テンポでゆっくりとしっとりと歌い,全体的にピア
感豊かに演奏され,終曲する。
ノ(P)で表現されている。
−
小節は,ピアノの前奏であり,
小節から
.Ein Jüngling liebt ein Mädchen op. ‐
歌が始まる。 − 小節の Hör ich das Liedchen
(ある若者が娘に恋をした)
klingen の詩行は,「Hö-」,
「Lied-」,「klin-」の部分
第
曲は,Es dur, /
拍子であり,昔話のよ
に言葉のアクセントを置き,フレーズ全体は,あく
うな詩であり,音楽は非常にコミカルでスキップを
までも強調しすぎず「悲しみ」を表しながら,たん
したくなるような軽快なテンポとリズムである。し
たんと歌われる。 − 小節の das einst die Liebste
かし,その昔話の内容は,非常に皮肉なもので,失
sang は,
「einst」,
「Lieb-」「sang」にアクセントを
恋した若者を自虐的に描写している。軽快なリズム
―
―
にのりながら,詩の意味に沿い,声色を変化させて
強拍箇所にアクセントをつけながら,深い響きで歌
歌唱される。
唱される。
アウフタクトのリズムからピアノ伴奏が軽快に始
まり,
小節まで前奏が奏でられる。
らメゾフォルテで歌の旋律が始まり,
小節は,全体的にリタルダンドを
かけながらテンポを緩め,und wem sie just pas-
小節後半か
sieret, dem bricht das Herz entzwei.のフレーズの
小節
「passie-」を強調し,
「dem bricht das Herz entzwei」
の「Jüng-」
, 小節 拍目 の「Mäd-」,
目の「hat」
,
−
拍目
小節
拍
の言葉を一語一語強調し,歌い収めの「-zwei」を
小節 拍目の「-wählt」に見られる
共鳴腔に響きを集め,外に広がるように伸びやかに
ように,強拍の部分にアクセントを置き,言葉を語
響かせてフォルテで歌唱している。
るように歌唱している。
アノの後奏が演奏され,アクセント記号が記譜され
小節までと同様,
小節後半− 小節は,
拍目に音楽のアクセントを置き,
小節の「A-A-A-H-H-H-」の音程の部分は,音価
小節からはピ
ている部分を強調し,この物語の滑稽さを表現して
終曲している。
の長い 分音符「hat」
,
「die-」にアクセントを置
き歌唱している。 −
小節はピアノ伴奏にアクセ
.Am leuchtenden Sommermorgen op. ‐
ント記号やスタッカート記号がついており,滑稽な
(まばゆく明るい夏の朝に)
様子を出すため強調して演奏されている。 小節後
第
曲は,B dur,Ziemlich langsam, /
拍子で
小節
あり,ピアノ伴奏がゆるやかなテンポでまばゆい夏
小節の
の朝を描写していると言え,終始ピアノ(P)で演
esten besten の韻を踏む部分は,それぞれの言葉を
奏される。歌は,詩人の描写と夏の庭に咲く花々の
明確に発音しながら「es-」,「be-」にアクセントを
語りを表現している。
半− 小節では,
小節 拍目の「Mäd-」,
拍目の「Är−」にアクセントを置き,
つけて歌唱している。 −
小節は, 小節
ピアノ伴奏のゆっくりとしたテンポで煌めくよう
拍目
の「der」にアクセント記号がついており,
「F」の
な前奏が
音まで音程が上がるが,母音を響かせ歌唱される。
始まる。前奏で表現された音楽に呼吸を合わせて
この
小節後半からピアノ(P)で Am leuchtenden Som-
拍目のアクセント記号がついた部分は,音楽
小節まで続き,
小節後半から歌唱部が
のリズムに変化を与える重要な部分であり,バリト
mermorge のフレーズが優しく歌われる。
小節
ンにとっては高音域に入るが,高音のイメージを明
拍目 leuch-の「eu」, 拍目 Som-の「o」
,
小節
確に持ち,筋肉の支えと共鳴腔にしっかり響かせる
拍目-mor-の「o」のそれぞれの母音を響かせ,言葉
技術を用いて歌唱している。 小節後半− 小節に
のアクセントを意識しながら歌唱される。
かけてフレーズが der ihr in den Weg gelaufen と
節の geb ich im Garten herum の部分は,im の「m」
der Jüngling ist übel dran が表れ,これらは同一音
を明確に発音し,「Gar-」の「a」の母音を前に響か
形,同一リズムである。しかし,
拍目の
せている。 − 小節は,Es flüstern und sprechen
「der」にアクセント記号がついているが, 小節
die Blumen の「E」の部分は声に息を混ぜながら,
の der にはついていないという微妙な差異が楽譜に
ピアノ(P)で表現し,「spre-」にストレスをかけ
表れている。いずれのフレーズも楽譜に忠実な演奏
て上行音形を滑らかに歌い上げ,「Blu-」の部分で
がなされていると言える。また, − 小節にかけ
クレッシェンドをかけている。 小節の ich
て全体的にリタルダンドがかかっているため段階的
wandle stumm は,ピアノ(P)の音色で,いずれ
にテンポを緩めている。der ihr-の始めのフレーズ
の母音も統一された響きでまろやかに歌唱している。
は,それまでのテンポを維持しながら,-laufen の
小節後半− 小節は,sprechen の「e」の母音を
あたりでやテンポを緩め, 小節の der Jüngling-か
前に響かせ強調し, 小節の Blumen の「Blu-」に
ら明確にリタルダンドをかけ,
言葉のアクセントを置き優しく歌い収めている。
小節
つの同一フレーズ
をテンポやアクセントのつけ方に注力し,ピアノ伴
奏と伴に楽譜に忠実に表現している。 −
小節後半−
−
小
aber
小節に出てくる und schaun mitleidig
小節は, mich an の詩行は,「schaun」,「-lei-」,「an」の部分
バリトンの深みのある太めの声で声色を変化させ,
にアクセントを置いている。
歌 唱 し て い る。
は,母音を拍一杯まで伸ばし,豊かな響で母音にビ
− 小 節 の Es
ist
eine
alte
小節
拍目「an」
Geschichte doch blieibt sie immer neu の詩行は,
ブラートをかけ,ピアノ(P)の音色を保ちながら,
拍目に記 さ れ て い る「ist」,
「-schich-」,
「blei-」の
伸びやかに歌唱している。 −
―
―
小節は,Langsamer
でかつピアニッシモで歌唱されている。Sei unsrer
節は,floss noch von der Wange herab の floss の
Schwester nicht böse,の部分は,
「H-H-H-D-D-H-A-
「f」の子音を早めに発音し,「Wan-」の部分にア
C」と記譜され,「-rer」から「Schwe-」にかけて「H
クセントを置いて“パルランド唱法”で歌唱してい
-D」に短
る。
度音程が跳躍するが,跳躍の頂点の「D」
の音をピアニシシモで歌唱しており,高度な技術を
ちながらピアノ(P)でア・カペラで歌唱している。
用いて歌唱している。du trauriger blasser Mamm
の詩行は, 小節
拍目からリタルダンドをかけな
− 小節は,統一された「母音」の響きを保
−
小節は,
小節後半−
回目の合いの手の伴奏が入り,
小節は, 小節 拍目の「träumt 」
がらクレッシェンドをかけつつ,
「blasser」でデク
の「-äu-」の母音を強調し,続く du verliessest mich
レッシェンドし,ピアニシシモの音色で歌唱すると
を“パルランド唱法”で歌唱している。
いう非常に高度な技術が用いられている。 小節か
は,ich wachte aur, und weinte にかけてアッチェ
らピアノの後奏が緩やかに流れ,夏の朝と花々の揺
レランドとクレッシェンドをかけている。続く noch
れるような姿を描写して終曲する。
lange bitterlich は,lange からリタルダンドをかけ,
− 小節
bitterlich をピアニシシモで歌唱している。
.Ich hab im Traum geweinet op. ‐
からスタッカートで刻んだ合いの手のリズムが変化
(僕は夢の中で泣いた)
曲は,es moll,Leise, /
第
小節
して
拍子であり,ア・
分音符と
分音符のリズムで和音を鳴らして
歌唱部に繋いでいる。
小節後半−
小節までの長
カペラの部分を取り入れた,特徴的な“パルランド
いフレーズは,
唱法”で歌唱されている。前半は,語りとピアノ伴
シモで始まり,クレッシェンドとアッチェレランド
奏の合いの手が交互で入り,後半はピアノ伴奏の和
をかけ,
音と歌唱部の旋律が合わさり音楽を形成している。
歌唱している。 小節の「wär st」にアクセントを
譜例
)は,曲の冒頭部分のア・カペラの部分で
置き,
小節「B」の音「ich」からピアニッ
小節の「Trä-」の音楽の頂点まで一気に
小節の ich wachte の言葉は,一音一音明
ある。この曲集中唯一のア・カペラの“パルランド
確 に 発 音 し,
唱法”部分であり,特徴的な個所と言える。
の「strömt」にアクセントを置き,
−
小節は,ア・カペラで歌い出し,
小節
拍目の「wei-」にアクセントを置いている。
小節
拍目は,伴奏が
分音符 分休符
分音符
分休符
分休符
−
分音符
で音楽を表現し,
小節
回出てきた合いの手のリズムが
再び表れ終曲する。
小節後半
.Allnächtlich im Traume op. ‐
の詩行をしゃべるように“パルランド唱法”で歌唱
小節−
小節か
らは後奏であり,スフォルツァンドやピアニッシモ
− 小節にかけて mir träumte,du lägest im Grab
する。
拍目
小節の「Trä-」
に向けてクレッシェンドする特徴がある。
分音符のリズムをスタッ
カートで合いの手を入れるように刻み,
小 節 拍 目「im」と 小 節
(夜ごとの夢)
拍目まで再び伴奏がスタッ
第
曲は,H dur, /
拍子であり,“パルラン
カートの合いの手を入れ,ich wachte auf の「au」
ド唱法”が用いられ,言葉をしゃべるように歌唱さ
の二重母音を響かせて歌唱する。 − 小節の und
れる特徴がある。 /
die
小
と
―
―
Täne は,「Tä-」を膨らませて歌い, −
譜例
小節が /
拍子の曲であるが,
小節
拍子に変わり,歌唱部がストリン
ジェンドして表現の幅を広げている。
の「au」の二重母音にアクセントを置き,同小節
小節まで“パルランド唱法”でそれぞれの詩行
を語るように歌唱しており,
小 節 拍 目「Trau-」
小節
の fort,und s,
小節
拍 目 Wort を マ ル カ ー ト
拍目「-nächt-」
, して言葉を明確に伝え,ich vergessen はリタルダ
小 節「seh 」に ア ク セ ン
ンドをかけて歌い収めている。
トを置き,特に Trau-の「au」の二重母音を強調し
て歌唱している。 小節後半− 小節の und
sehe
.Aus alten Märchen winkt es op. ‐
dich freundlich の部分は,sehe の「Ais-Fis」と fre-
(昔話の中から)
undlich の「H-Fis」の短 度,完全 度音形が下行
第
拍子であり,全体的に明るい曲調で,前半はリズ
する箇所は,ポルタメントをかけて歌唱している。
− 小節は,freundlich grüssen の「eu」の二重
/
曲は,D dur(原曲 E dur)
,Lebendig,
ミカルに歌唱され, 小節後半の,Mit
innigster
Empfindung(深い内面的な情感を表して)の指示
母音を響かせ,「ü」を強調して歌唱している。
小節の / 拍子になる部分は,音形
からは,緩やかなテンポで感情を込めて歌われる。
が上行しており,ストリンジェンドして und laut auf
これまでは,若者の体験について歌われていたが,
weinend stürz ich mich を“パルランド唱法”で歌
(新編
唱する。
ンの世界のかかわりという一般化された次元に止揚
小節後半−
小節後半− 小節の zu deinen süssen
Füssen の箇所は,「Füssen」の部分にリタルダン
世界大音楽全集
)“曲は人とメルヘ
されて展開される。”
ドの記号がついているが,実際は,zu dainen-から
アウフタクトのコミカルなリズムで伴奏が始まり,
リタルダンドをかけている。これは, /
小節後半まで続く。 小節後半−
拍子の
小節の Aus al-
箇所でアッチェレランドしたため,音楽の拍を戻す
ten Märchen winkt es hervor mit weisser Hand の
ために行ったと考えられる。 −
詩行は, 小節「al-」,「Mär-」,
小節の Du sie-
hest mich an wehmütiglich の詩行は,
小節
拍
小節「wei-」にアクセントを置いている。 −
目の「an」の「a」の母音の響きを前に出し,
「n」
小節は,音楽が上行し
の響きも上で保ち, 小節
拍目の休符は音楽が途
ンドの頂点を置き歌唱している。
切れないよう意識され,
小節 拍目の「weh-」
にアクセントを置き歌唱している。 小節後半−
小節の und
schüttelst,schüttelst の
れる「schüttelst」の言葉は,
小節の「Zau-」にクレッシェ
節は,“パルランド唱法”で歌い,
小節後半−
拍目と
小節は,ピアノの間奏が入り,
後半−
小
拍目
の強拍箇所にアクセントを置き歌唱している。
回繰り返さ
−
小節は,
回目の
und grünebäume singen uralte Melodei n からク
方が送り込む息の量が増しており,伴奏と伴にやや
レッシェンドが始まり,und Vögel schmettern drein
テンポを上げて歌唱している。 小節後半−
までかけて長い小節をかけて行われる。
は,
回目より
小節「winkt」,
小節
小節の「blon-」の部分にアクセントを置き,
− 小節
はピアノの間奏であるが,このクレッシェンドを受
明るい響きで歌唱され, 小節の Köpfchen を歌い
け,非常に厚みのある和音で,フォルテで演奏され
収 め て い る。 小 節 後 半− 小 節 の aus
ている。
deinen
小節後半−
小節は強拍部分にアクセン
Augen schleichen sich die PerlenTränentröpfchen
トを置き,コミカルなリズムになるよう歌唱されて
の詩行は,再び /
いる。
拍子に変わり,
小節目のよ
小節後半−
小節のフレーズは,上行形の
うにアッチェレランドはかけず,sich に向けてク
音楽であり,徐々にクレッシェンドして,
レッシェンドをかけ,Augen の「au」の二重母音
「Reigen」の部分にスラーをかけて歌い, 小節
にアクセントを置いて歌唱される。PerlenTränen-
の「wun-」「-li-」にアクセントを置いて歌唱してい
tröpfchen の 言 葉 は,「Per-」,
「-Trä-」の 部 分 に ア
る。
クセントを置き,リタルダンドしている。 −
はピアノ(P)で“パルランド唱法”しながら
節は,ピアニッシモで歌われ,小節の
小
拍目の強拍
に歌唱している。 小節後半−
小節は,
クレッシェ
小節後半 und blaue− 小節の「Kreis」まで
目にアクセントを置いて歌唱される。
部分にアクセントを置いて「母音」を繋げて滑らか
小節
拍
小節後半−
小節までは,und laute Quellen brechen aus
wildem
Marmorstein の詩行は,ピアノ(P)から
ンドして 小節に出てくる「Cypressen」を強調し
レガートしてクレッシェンドをかけ,Marmorstein
て歌唱する。 小節後半− 小節は,
“パルランド
の「ei」の二重母音部分がフレーズの盛り上がり箇
唱法”で語るように歌われ, 小節 拍目 Strauss
所にあたるため,豊かな響きで「母音」を歌い,-stein
―
―
の「s」の「子音」も横隔膜を使い強調して発音さ
歌が始まるが,この部分は,拍のカウントが取りに
れている。 小節後半− 小節の und seltsam in den
くいため,
Bächen strahlt fort der Widerschein.Ach!Ach! の詩
ノ伴奏の音に注力し,
行は,前半部分の音楽的山場であり,伴奏の音も和
奏と歌を合わせている。 小節後半− 小節の Die
音が厚く,歌唱部はフォルテで歌い,それぞれの語
alten bösen Lieder の部分は,フォルテで歌い,雄々
句の「母音」を響かせ「子音」を飛ばして歌唱され
しく歌唱し,
「al-」,「bö-」,「Lie-」の拍の強拍箇所
る。特に Bächen の「Bä-」の部分は「Fis」の音で
を強調している。 − 小節の die Träume bös und
バリトンにとっては高音であるが,共鳴腔共鳴させ,
arg の詩行は,リズムを刻み bö s の「ö」を深く発
張りのある声で歌唱している。 小節のフレーズの
音し,arg の「r」を強めに巻き舌して雄大に歌唱
歌い収めの-schein は「ei」の二重母音を強調して
される。
クレッシェンドをかけている。
Ah! と感嘆詞がでてくるが,
小節と
小節に
回目をピアノ(P)
で歌い,表現を対比させている。
小節後半から
小節に出てくる始めの
つ目の
小節後半−
分音符のピア
分音符の箇所で伴
小節は, 小節の「jetzt」
,
小節の「graben」の言葉を強調し,テンポは一
定で音楽の流れに沿って自然に歌唱される。
後半−
小節
小節の Hinein leg ich gar manches doch
Mit innigster Empfindung(深い内面的な情感を表
sag ich noch nicht was の詩行は,Hinein からピア
して)の指示部分からテンポが緩やかになり,全体
ノ(P)で歌い出し,ich の「ch」の子音を横隔膜
的にピアノ(P)で演奏されている。Ach, könnt ich
を使い明確に発音し,manches の言葉にアクセン
dorthin kommen, und dort mein Herz erfreu n,の
トを置き,sag の「s」の子音を早めに発音し,
「a」
詩行は,dort の「r」を強く巻き舌し,kommen の
の母音を響かせ,nicht の「cht」の子音を非常に強
「o」の母音を透き通るような響きで歌唱し,最後
調して歌唱される。
の「n」を明確に発音しており,言葉一語一語を音
は,フォルテで歌い出し,
「Sarg」「sein」「grö-」「-
楽に合わせて非常に丁寧に歌唱していると言える。
sse」の「C-Fis-A-D」の上行音程の部分にアクセン
小節まで同様である。 小節後半− 小節は,
トを置き,伴奏と伴にクレッシェンドして歌唱して
小節 拍目の「je-」
,
小節の「Won-」,にアクセ
いる。
小節後半‐
小節のフレーズ
小節の Heidelberger の「r」を強く巻き舌
ントを置き,音楽が自然に流れており,
「母音」に
して語句を強調している。
統 一 し た 響 き を 与 え て 歌 唱 し て い る。 小 節 の
音楽がフォルテからピアノ(P)になり,伴奏部に
「im」の部分でややリタルダンドしており,
小
スタッカートがついている。曲調の変化に合わせて
節の「Traum」(夢)のニュアンスが伝わるような
音量を落とし,
“パルランド唱法”で自然にしゃべ
表現を加えている。 − 小節は,doch kommt die
るように歌唱され,
Morgensonne の「Mor-」の「C-E」に 音 程 が 上 が
-」「fest」「und」の部分を強調し歌唱している。
る箇所は,軽く柔らかな音色で高い技術を持ち合わ
小節後半−
せて歌唱される。 −
小節は,終始ピアノ(P)
レーズが表れ,「muss」「sie」「län-」「-ger」の「E-
小節 eitel Schaum でアダー
G-H-E」の音程部分に音楽のストレスを置き,クレッ
の音色で歌唱され,
ジョのテンポに落としている。
小節からは後奏
小節後半‐
小節は,
小節の「To-」 小節の「Bret
小節は,
−
シェンドして歌い切り,
小節に似た上行形のフ
小節の wie と Mainz の
であり,曲の冒頭で表れた旋律が再び流れて終曲す
言葉を強調し, 小節 Brück の「k」の子音を明確
る。
に発音して歌唱している。
‐
小節は,
‐
と
似たフレーズが表れ,同じくピアノ(P)で演奏さ
.Die alten, bösen lieder op. ‐
れる。Und holt mir auch zwölf Riesen, die müssen
(いまわしい思い出の歌)
第
noch starker sein は,全体的にピアの(P)である
曲は,h moll(原曲 gis moll)
,Ziemlich lang-
が,「zwölf」,「Rie-」,「die」,「müs-」,「stär-」,に
sam, / 拍子であり,この終曲は,主人公の恋
アクセントを置き,音楽が立体的に聴こえてくるよ
の体験の全てを深い海へと葬りさるという内容であ
う歌唱している。
る。決然とした意思のある声とデュナーミクの幅が
小節は,
−
,
小節と似た上行形のフレーズが歌われ,als
wie der starstarke Cristoph, im Dom zu Cöln am
広い音楽で構築されている。
アウフタクトの前奏に装飾音符がつき,スフォル
ツァンドで激しく和音が鳴り響く。
−
小節後半‐
小節後半から
―
Rhein の 詩 行 の「wie」「star-」
「Chri-」「stoph」の
箇所にアクセントを置き,クレッシェンドして歌唱
―
している。このフレーズは
回出てきたが,このフ
を得ている。この歌曲集『詩人の恋 op. 』の録音
レーズが一番高音域を歌い,技術が必要であるが,
もその中の一つであり,今なお多くの演奏家等に
豊かな響きとテクニックを持ち合わせて巧みに歌唱
よって聴かれている名演奏なのである。
している。 小節後半‐ 小節は,歌唱部の旋律の
本研究では,彼の残した歌曲集『詩人の恋 op. 』
音価が長く,ピアノ伴奏部もまた,アクセント記号
の CD 音源を聴き,発声法,アクセントの置き方,
や厚い和音が連続し,スフォルツァンドも付いてお
母音や子音の発音の仕方,言葉や音楽の強弱のつけ
り,全体的にリタルダンドしながらペザンテで歌唱
方,伴奏との合わせ方,フレージングの方法等,多
している。 −
角的に楽譜と照らし合わせて演奏分析を行うことで,
小節は,これまでのフォルテの音
楽から一変して全体的にピアノ(P)の音楽になり, デ ィ ー ス カ ウ の 演 奏 を 通 し て 歌 曲 集『詩 人 の 恋
Wisst ihr,warum der Sarg wohl so gross und schwer
op. 』がどのように歌われるべきかについて考察
mag sein? Ich senkt auch meine Liebe Und meinen
してきた。その結果,
「楽譜に忠実な演奏」
,「深い
Schmerz hinein.の最後の詩行は,
『詩人の恋 op. 』
詩の解釈をした上での巧みなパルランド唱法」に注
を締めくくるフレーズであり,
“パルランド唱法”
力した演奏を行うべきであることが明らかとなった。
でゆっくりと静かに歌唱して終曲する。
引用文献・参考文献
Ⅴ.おわりに
)新編
ディースカウの『詩人の恋 p. 』全
曲の演奏
世界大音楽全集
歌曲集Ⅰ
は,技術的にも音楽的にも世界最高レベルの芸術的
年
)板橋江利也
声楽編
p. ‐
シューマン
p. ‐
ロベルト・シューマン作曲『詩人
価値の高い演奏であることが再認識された。全 曲
の恋』のフリッツ・ヴンダリッヒによる演奏の
の歌曲集
分析
曲
曲の音源を聴取し,楽譜と照らし合
わせて演奏分析を行うことで,ディースカウが「楽
佐賀大学文化教育学部紀要第
年
譜」に忠実な演奏を行い,尚且つハインリヒ・ハイ
巻
号
p. ‐
)木村潤二
歌曲伴奏法に関する研究‐歌曲集
ネの「詩」の世界感を高度な技術と音楽性で巧みに
「詩人の恋」伴奏部の詩との関わり合いについ
表現していた。
て‐東京学芸大学紀要
歌曲集『詩人の恋 op. 』の録音では,“パルラ
p. ‐
ンド唱法”を随所で活かし歌唱されており,詩を語
)池上敏
ることで自然と「歌」にするという特徴が顕著に見
年
られた。ディースカウの演奏は,主人公が恋をし,
山口大学教育学部紀要
号
第
年
巻
p. ‐
)眞田守計
R.シューマンの歌曲に於ける発想
失恋し,悲観して最後に全てのできごとを海に沈め
記号の特徴について
るという,この物語を,音楽と一体となり,大小そ
第
れぞれのフレーズに注力し,詩を的確に解釈し,い
部門
巻
金沢大学教育学部紀要
年 p. ‐
)SHUMANN LIEDER Ⅰ Mittlere Stimme EDI-
かなる細かなパッセージも完璧に歌唱し,詩と音楽
TION PETERS Nr.2383b p.106-138
を融合させたシューマンの情感豊かな音楽の世界を
)藤本一子
色彩鮮やかに表現していた。
マン
これまで多くの演奏家が歌曲集『詩人の恋 op. 』
作曲家◎人と作品シリーズ
音楽の友社
)塚本靖彦・古澤泉
シュー
年 P. ‐
Robert Schuman 作曲・歌
の演奏を行い,録音が残され,それぞれに個性があ
曲集「詩人の恋」Op. の研究∼演奏論的立場
るが,ディースカウほど完璧な技術と幅広い表現力
からの考察した全曲分析とその論理性∼
で演奏を行える演奏家はあまり類を見ないと言えよ
大学教育学部紀要第
う。彼はこれまでシューマンの他,フランツ・リス
ト(Franz Liszt
ス(Johannes
‐
Brahms
)
,ヨハネス・ブラーム
‐
シュトラウス(Richard Strauss
巻
)フィッシャー=ディースカウ
歌曲をたどって』
白水社
)
,リヒャルト・
‐
)等が作
曲した,数多くのドイツ・リートの録音を残してお
り,それらはどれも芸術性に優れ世界的に高い評価
―
〈参考音源〉
Deutsch Grammophon 415190-2
―
年
群馬
p. ‐
『シューマンの
年p
‐
DIETRICH
FISCHER-DIESKAU
Schumann :
Dichterliebe・Liederkreis op.39 Myrten: 7 Lieder
年
月
年
月 CHRSTOPH
ESCHEN-
BACH
―
―