地方消費税勉強会報告書 平成18年3月 財団法人 地方自治情報センター 地方消費税勉強会報告書 目次 地方消費税勉強会 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 前段階税額控除方式の地方消費税と税率決定権 2 県境税調整の2つの方法 3 具体的な県境税調整のモデル 4 我が国において各モデルを採用する場合の問題点 おわりに 1 ・・・・・ 2 ・・・・・・・・・・・・・・・ 8 ・・・・・・・・・・・・・ 10 ・・・・ 27 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 地方消費税勉強会メンバー <学識経験者> ○ 朴 源 (鹿児島大学大学院人文社会科学研究科助教授) ○ 堀場 勇夫(青山学院大学大学院経済学研究科教授) ○ 増井 良啓(東京大学大学院法学政治学研究科教授) ○ 持田 信樹(東京大学大学院経済学研究科教授) (五十音順) <総務省> ○ 市橋 保彦(自治税務局都道府県税課長) ○ 内田 光俊(自治税務局都道府県税課税務管理官) はじめに 地方消費税は、地方分権の推進、地域福祉の充実等のために創設された地方税であり、 福祉・教育等幅広い行政需要を賄う税として、今後、その役割はますます重要になって いくものと考えられている。 しかしながら、地方消費税に対しては、①都道府県自らが賦課徴収しておらず、国が 都道府県からの委託を受け消費税と併せて賦課徴収していること、②都道府県が税率決 定権を有しておらず一定税率の税であることから、地方分権を支える地方税としては相 応しくないという意見がある。 ここで、第1の賦課徴収の問題については、納税者の事務負担を考慮し、地方税法附 則の規定により、当分の間国にその賦課徴収を委託するとされているだけであるので、 納税者の理解が得られれば、都道府県の体制を整備した上で、都道府県自らが賦課徴収 することは可能である。 しかし、第2の税率決定権の問題については、これまで、多段階型の付加価値税が仕 向地原則を前提とする以上は、都道府県の区域の境に税関を置くことはできないことか ら、県境税調整が不可能であるため、一定税率とせざるを得ないとされてきた。 しかしながら、最近の東京大学の持田教授の著書(注;参考文献「地方分権の財政学 ―原点からの再構築」)によれば、仕向地原則の多段階型の付加価値税についても、地 方団体に税率決定権を付与することは理論的に可能であり、また、海外でその例がある 旨指摘されている。 本勉強会においては、この指摘を踏まえ、海外の文献を収集するなどし、地方団体に 税率決定権を付与するためのいくつかのモデルとその問題点について検討した。 本報告書は、本勉強会で検討したモデルとその問題点について紹介するものである。 なお、本報告書の作成に当たって次のような前提を置いた。また、国境税調整に係る EU諸国のモデルを例にあげることもあり、国や都道府県(地方団体、州)、国境税調 整や県境税調整に係る記載については厳密に書き分けていない。さらに、都道府県につ いてはもっぱら「県」と記載していることをあらかじめ申し添える。 (前提) ・ 課税ベースは、国及び47都道府県において共通である。 ・ 税率は、国及び都道府県ごとに単一税率を採用し、物品又はサービスによって複 数税率としない。 ・ 国の消費税、地方の消費税(以下「地方消費税」という。)ともに仕向地原則の 前段階税額控除方式の付加価値税である。 - 1 - 1 前段階税額控除方式の地方消費税と税率決定権 ① 地方消費税の課税標準が「国の消費税額」である場合(現行制度) 地方消費税に係る現行制度においては、県が地方消費税の税率を引き下げたり引き 上げたりすると、地方消費税の課税標準が「国の消費税額」であることから、次の事 業者(小売)の地方消費税に係る仕入税額控除の金額が過大になったり過小になった りするといった事態が生じてしまう。 このことを次の図を用いて説明する。 1)現行の仕組みにおいて、県が独自に税率を設定した場合(甲県が税率を引下げ) 1)現行の仕組みにおいて、県が独自に税率を設定した場合(甲県が税率を引下げ) 国 :8% 乙県:消費税額の50%(4%相当) 国 :8% 甲県:消費税額の25%(2%相当) 清算 2 2 国 (8) 同じ商品でありながら、 甲県の税率により仕 入価格が異なる(取引 に非中立)。 8 (8-0) 甲県 + 2 8 国 (0) 事業者 (製造) (小売) 仕入税額 0 100 0 100 払 込 額 2 0 消費者 336(税抜300+税36) 売上 仕入れ 付加価値 売上税額 8 8 (16×50%) 事業者 売上 仕入れ 付加価値 甲県 乙県 (10) + (24-8) (8×25%) 110(税抜100+税10) 国 乙県 (16) 16 甲県が税率を引き下げることで、 国から甲県への払込額(清算の 対象額)が減少し、乙県の税収が 減少。 仕入税額 -8 300 100 200 売上税額 24 払 込 額 0 8 税収の帰属 24 消費税額を課税標 準とするため、甲県 の税率引下げが仕 入税額控除に反映 されない(過大に控 除される)。 価格転嫁の程度に より「益税」が発生。 消費者の負担額 > 納付税額 0 10 (前提) ・ 国の消費税の税率: 8% ・ 地方消費税の税率:50%(消費税4%相当) ・ 取引は、事業者(製造)→事業者(小売)→消費者とし、事業者(製造)は甲県 に、事業者(小売)、消費者は乙県にあるものとする。 ・ 売上は、事業者(製造)は100、事業者(小売)は300とする。 したがって、それぞれの事業者の付加価値額は、事業者(製造)にあっては10 0、事業者(小売)にあっては、200【300-100】となる。 - 2 - ○ 甲県が独自に税率を引き下げた(50%→25%、消費税相当では4%→2 %)場合 <税額> 事業者(製造) 消費税: 地方消費税: 100× 8%=8 8×25%=2<甲県に納付> 事業者(小売) 消費税: 地方消費税: 300× 8%-8【100×8%】=16 16×50% = 8<乙県に納付> したがって、国の消費税の納付額は24【8+16】、地方消費税の納付額(最終 消費地である乙県に帰属)は10【2+8】となる。 しかしながら、消費者が負担する地方消費税額は、12【300×8%×50%】 となり、乙県に帰属する地方消費税額10より2多く負担することになる。 これは、地方消費税が国の消費税額を課税標準としているために仕入税額控除が過 大に算出されてしまうことによるものであり、結果的に、事業者(小売)に益税が発 生してしまうことになる。 - 3 - 次に、甲県が独自に税率を引き上げた場合を検証する。 2)現行の仕組みにおいて、県が独自に税率を設定した場合(甲県が税率を引上げ) 2)現行の仕組みにおいて、県が独自に税率を設定した場合(甲県が税率を引上げ) 国 :8% 甲県:消費税額の100%(8%相当) 国 :8% 乙県:消費税額の50%(4%相当) 清算 8 8 国 甲県 (8) (0) 8 同じ商品でありながら、 甲県の税率により仕 入価格が異なる(取引 に非中立)。 (8-0) + 8 8 国 事業者 (製造) (小売) ○ 仕入税額 0 100 0 100 売上税額 8 払 込 額 8 0 8 (16) (16×50%) 事業者 売上 仕入れ 付加価値 甲県 乙県 + (24-8) 116(税抜100+税16) 国 乙県 (16) 16 (8×100%) 甲県が税率を引き上げることで、 国から甲県への払込額(清算の対 象額)が増加し、乙県の税収が増 加。 消費者 336(税抜300+税36) 売上 仕入れ 付加価値 仕入税額 -8 300 100 200 消費税額を課税標 準とするため、甲県 の税率引上げが仕 入税額控除に反映 されない(過小に控 除される)。 税収の帰属 売上税額 24 払 込 額 0 8 価格転嫁の程度に より「損税」が発生。 24 消費者の負担額 < 納付税額 0 16 甲県が独自に税率を引き上げた(50%→100%、消費税相当では4%→8 %)場合 計算過程は、上記1)と同様であるため省略するが、この場合には、乙県に帰属す る地方消費税額は16【8+8】、消費者が負担する地方消費税額は12【300× 8%×50%】となり、上記1)の場合とは逆に事業者(小売)に損税が発生してし まうことになる。 なお、他県で税率を独自に引き上げたり引き下げたりすると、どこの県から仕入れ たかによって税込みの仕入価格が違ってくることになり、なるべく税率の低い県から 購入しようというインセンティヴが働く。図中の「取引に非中立」ということはこう したインセンティブのことを意味しているものである。 こうしたことから、従来、国の消費税を前段階税額控除方式として仕組んだ以上、 国の消費税額を課税標準とする地方消費税については一定税率とせざるを得ないとさ れてきた。 - 4 - ② 地方消費税の課税標準を「課税資産の譲渡等の対価の額」とした場合 地方消費税の課税標準を「国の消費税額」から「課税資産の譲渡等の対価の額」に 変更すると、県によって税率が異なっても適正な仕入税額控除を行うことができる。 なお、課税標準の変更に伴い、税率についても変更することとなる(例えば、現行 「地方消費税の税率は、100分の25とする。」とあるのを、「地方消費税の税率 は、100分の1とする。」と改める。)。 このことを次の前提の下、次の図を用いて説明する。 (前提) ・ 国の消費税の税率:8% ・ 地方消費税の税率:4% ・ 取引は、事業者(製造)→事業者(小売)→消費者とし、事業者(製造)は甲県 に、事業者(小売)、消費者は乙県にあるものとする。 ・ 売上は、事業者(製造)は100、事業者(小売)は300とする。 ・ 地方消費税についても国の消費税と同様に前段階税額控除を行うものとする。 1)県が独自に税率を設定した場合(甲県が税率を引下げ) 1)県が独自に税率を設定した場合(甲県が税率を引下げ) 国8% 乙県:4% 国:8% 甲県:2% 清算 2 2 国 ただし、同じ商品であり ながら、甲県の税率に より仕入価格が異なる (取引に非中立)。 甲県 (8) (0) 8 + 2 (8-0) (2-0) 10 国 (16) 16 乙県 + (24-8) 事業者 (製造) (小売) 売上 仕入れ 付加価値 100 0 100 売上 仕入れ 付加価値 (12) (12-2) 事業者 110(税抜100+国8+地2) 10 甲県が税率を引き下げても、国 から甲県への払込額が減少する 分、国から乙県へ払込額が増加 し(清算の対象額が変化しない)、 乙県の税収変わらず。 消費者 336(税抜300+国24+地12) 300 100 200 税収の帰属 消費者の負担額 = 納付税額 国 仕入税額 0 売上税額 8 仕入税額 -8 売上税額 24 24 甲県 乙県 仕入税額 0 - 売上税額 2 - 仕入税額 -2 売上税額 12 0 12 - 5 - ○ 甲県が独自に税率を引き下げた(4%→2%)場合 <税額> 事業者(製造) 消費税: 100×8%=8 地方消費税: 100×2%=2<甲県に納付> 事業者(小売) 消費税: 300×8%-8【100×8%】=16 地方消費税: 300×4%-2【100×2%】=10<乙県に納付> したがって、国の消費税の納付額は24【8+16】、地方消費税(最終消費地で ある乙県に帰属)の納付額は12【2+10】となり、消費者が負担する税額と一致 することになる。 2)県が独自に税率を設定した場合(甲県が税率を引上げ) 2)県が独自に税率を設定した場合(甲県が税率を引上げ) 国8% 乙県:4% 国:8% 甲県:8% 清算 8 8 国 ただし、同じ商品であり ながら、甲県の税率に より仕入価格が異なる (取引に非中立)。 甲県 (8) (0) 8 + 8 (8-0) (8-0) 4 国 乙県 (16) 16 + (24-8) 事業者 (製造) (小売) 売上 仕入れ 付加価値 100 0 100 売上 仕入れ 付加価値 (12) (12-8) 事業者 116(税抜100+国8+地8) 4 甲県が税率を引き上げても、国 から甲県への払込額が増加する 分、国から乙県へ払込額が減少 し(清算の対象額が変化しない)、 乙県の税収変わらず。 消費者 336(税抜300+国24+地12) 300 100 200 税収の帰属 消費者の負担額 = 納付税額 国 仕入税額 0 売上税額 8 仕入税額 -8 売上税額 24 24 甲県 乙県 仕入税額 0 - 売上税額 8 - 仕入税額 -8 売上税額 12 0 12 - 6 - ○ 甲県が独自に税率を引き上げた(4%→8%)場合 <税額> 事業者(製造) 消費税: 100×8%=8 地方消費税: 100×8%=8<甲県に納付> 事業者(小売) 消費税: 300×8%-8【100×8%】=16 地方消費税: 300×4%-8【100×8%】= 4<乙県に納付> したがって、国の消費税の納付額は24【8+16】、地方消費税(最終消費地で ある乙県に帰属)の納付額は12【8+4】となり、消費者が負担する税額と一致す ることになる。 以上のように、この方式をとった場合には、地方消費税の税率決定権を都道府県に 付与しても適正な税額計算が可能となり、後は、県境税調整が適正に実施され、仕向 地原則が実現できるかが課題となる。 - 7 - 2 県境税調整の2つの方法 県境税調整とは、消費者が課税資産を最終的に消費することとなる都道府県に、当該 消費に係る地方消費税を帰属させるための方法をいう。 消費課税において、仕向地原則として、最終的に消費される都道府県に税を帰属させ る方法としては、小売段階で課税する小売売上税方式がある。また、仕向地原則の多段 階の付加価値税においてこれを行う方法として、①繰延べ支払い方式、②税額控除清算 方式がある。以下、この繰延べ支払い方式、税額控除清算方式について、次の図を用い て概説することとする。 県境税調整の2つの方法の差 県境税調整の2つの方法の差 県境 最初の課税資産の譲渡等に係る 申告納付に併せて、移入に係る 地方消費税を申告納付する。 繰延べ支払い方式 繰延べ支払い方式 X 県 Y 納 税 X県からの移出は非 課税(ゼロ税率・仕 入れがあったときは 還付) 製造業者 県 小売業者が Y県に納める 地方消費税 小売業者 仕入れ 消費者が 負担する 地方消費税額 小売 消費者 県境 税額控除清算方式 税額控除清算方式 清算 クリアリングハウス X 県 Y ① 税 税 製造業者 仕入れ 仕入税額控除 納 納 製造業者が X県に納める 地方消費税 県 消費者が 負担する 地方消費税額 小売業者が Y県に納める 地方消費税 小売業者 小売 消費者 繰延べ支払い方式(Deterred Payment Method) 「繰延べ支払い方式」とは、X県からの移出を非課税(ゼロ税率・仕入れがあった ときは還付)とする一方で、移入に係る地方消費税については、移入時に県境(に所 在する税関)において課税するのではなく、Y県内における最初の課税資産の譲渡等 (上の図においては「小売」)の時点まで繰り延べることとし、他の地方消費税に係 る申告納付に併せて申告納付するものである。この方式は、後述のDual VAT(並列型 付加価値税)に代表される。 - 8 - ② 税額控除清算方式(Tax Credit Cleared Mechanism) 「税額控除清算方式」とは、X県は移出に対してもX県の税率により課税するが、 移出県に納付された当該地方消費税額はクリアリングハウスを通じて移入県(Y県) に移転するものである(こうした仕組みを「清算」という。)。 なお、清算の方法については、個々の取引についてそれぞれ行う方法(例:200 6年現在EUが目指している方法)と、統計を用いてマクロ的に行う方法(例:カナ ダのHST)がある。 - 9 - 3 具体的な県境税調整のモデル 次に、海外の文献で論じられている5つのモデルについて紹介することとする。 なお、③V I VAT(Viable Integrant VAT)については、小売売上税の欠点を補うもの と整理することも可能であるが、②C VAT(Compensating VAT)と似ていることから、 県境税調整の方法である繰延べ支払い方式の一環としてここで紹介することとする。 したがって、これら5つのモデルについては、いずれも、地方団体に税率決定権を持 たせつつ、どのように県境税調整を行うかという点に対応するためのものである。 そこで、「繰延べ支払い方式」と「税額控除清算方式」の差を概説する際に用いた図 を参考としながら、各モデルを2つの方式に大別して概説する。 (1)繰延べ支払い方式を用いたモデル ① Dual VAT(並列型付加価値税) Dual VAT(並列型付加価値税)は、国と地方団体が、同一の課税ベースを共有 し、別々に(並列に)税を課するものである。この税では、上記2①で述べた繰 延べ支払い方式を採用し、県境税調整を行う。事例としては、カナダのケベック 州売上税(QST)、現在のEU付加価値税(後述参照)がある。 なお、Dual VATについては、国境を越える取引に発生する還付金を詐取する脱 税が問題となっている。 Dual DualVAT(並列型付加価値税) VAT(並列型付加価値税) 繰延べ支払い方式を採用 繰延べ支払い方式を採用 県境 X 県 Y 県 納 製造業者 仕入れ 税 X県からの移出は非 課税(ゼロ税率・仕 入れがあったときは 還付) 小売業者が Y県に納める 地方消費税 小売業者 - 10 - 消費者が 負担する 地方消費税額 小売 消費者 ② C VAT(Compensating VAT) C VATは、Dual VATで問題となっている還付金の詐取を排除するために考えられ たモデルであり、C VATと呼ばれるダミーの付加価値税とDual VATの組み合わせで ある。すなわち、上記のDual VATに加え、県境を越える取引に課税される全国一律 のC VAT(移出時に課税され移入時に還付される。)を組み合わせたものである。 CCVAT(Compensating VAT(CompensatingVAT) VAT) 国 県境 X 県境 県 Y 製造業者 仕入れ 卸売業者に 還付 Z 卸売業者が 国に納める C VAT 小売業者に 還付 卸売業者 仕入れ 県 納 税 製造業者が 国に納める C VAT 県 小売業者 県境を越える取引の場合に C VAT(ダミーの税)を支払う。 ※ それぞれの段階でその都度還付される。 - 11 - 小売業者が Z県に納める 地方消費税 小売 消費者が 負担する 地方消費税額 消費者 ③ V I VAT(Viable Integrant VAT) V I VATは、 ダミーの税を課すことにより、取引状況を把握しやすくするとい う効果を期待し、小売段階の取引の補足をより的確に行うためのモデルとして考 えられたものであるといえる。その点、小売段階で課税する小売売上税方式の一 環として整理することも可能である。一方、多段階で税を課し県境税調整を行う という点、ダミーの税を課すという点で上記②C VATと似ていることから、本報告 書においては繰延べ支払い方式の一環として整理する。 V I VATは、登録事業者間の取引(県内取引、県境を越える取引いずれも)に対 して、全国一律のダミーの付加価値税(仕入税額控除を行う。小売段階で還付さ れる。)を課すものであるが、地方消費税は、最終消費時にのみ課税されること となる。小売段階の取引の捕捉が的確に行われていることから、小売売上税の捕 捉が難しいという問題点も緩和され、仕向地原則が徹底されているといえる。 VVI IVAT(Viable VAT(ViableIntegrant IntegrantVAT) VAT) 国 県境 X 小売業者に 還付 卸売業者が 国に納める V I VAT 卸売業者 仕入れ 小売業者 県内取引の場合であろうと、県境を越える取引の場合であろうと V I VAT(ダミーの税)を支払う。 ※ 県 税 製造業者 仕入れ Y 仕入税額控除 納 製造業者が 国に納める V I VAT 県 最終消費段階においてすべて還付される。 - 12 - 小売業者が Y県に納める 地方消費税 小売 消費者が 負担する 地方消費税の額 消費者 (2)税額控除清算方式を用いたモデル ④ カナダのHST カナダの大西洋沿岸3州(ノバ・スコシア、ニュー・ブランズウィック、ニュー ファンドランド)で採用されている協調売上税(Harmonaized Sales Tax(HST))は、 上記2②で述べた税額控除清算方式を採用している。HSTにおける清算は統計を用 いてマクロ的に行われている(実際運用は行われていないが、EUが志向している 清算は個別の取引を元に行うものである。)。 なお、このモデルでは、納付された税額を仕向地に移転させるまでの間、移出 元に納付された税額がキャッシュとして残ることから、各団体が税率の引上げに 向かいやすいのではないかという問題点が指摘されている。 カナダのHST(Harmonaized カナダのHST(HarmonaizedSales SalesTax) Tax) 税額控除清算方式を採用 税額控除清算方式を採用 X県の税率で 課税される 県境 清算 クリアリングハウス X 県 Y 県 納 納 製造業者が X県に納める 地方消費税 税 税 製造業者 仕入れ 仕入税額控除 小売業者 - 13 - 消費者が 負担する 地方消費税額 小売業者が Y県に納める 地方消費税 小売 消費者 ⑤ Podder Model(ポダー・モデル) ポダー・モデルは、④で紹介したモデルにおける税率の引上げに対する団体へ の誘惑を廃除するために考えられたものであり、④の税額控除清算方式と同じく 移出課税であるが、移出時に課される地方消費税の税率は移入県の税率とされて いる。 Podder PodderModel(ポダー・モデル) Model(ポダー・モデル) 税額控除清算方式を採用 税額控除清算方式を採用 Y県の税率で 課税される 県境 清算 クリアリングハウス X 県 Y 県 納 納 製造業者が X県に納める 地方消費税 税 税 製造業者 仕入れ 仕入税額控除 小売業者 - 14 - 消費者が 負担する 地方消費税額 小売業者が Y県に納める 地方消費税 小売 消費者 これら5つのモデルの概観したのが次の表である。 各モデルの概要 各モデルの概要 名称 Dual VAT 税率 県外取引 各県が自由に設定 ・ 移出免税 ・ 移入課税(繰延べ支払い方式) 県外取引 → C VAT:全国一律 ・ C VAT:移出課税、移入県において還付 ・ 県の付加価値税:移出免税、移入課税(繰延べ支払い方式) (並列型付加価値税) C VAT (Compensating VAT) 県内取引 → 県の付加価値税:各県が自由に設定 登録事業者間取引 V I VAT → V I VAT:全国一律 (Viable Integrant VAT) 最終消費者に対する譲渡等 ・ V I VAT:移出課税、仕入税額控除、小売段階で還付 ・ 県の付加価値税:最終消費時に課税(繰延べ支払い方式) → 県の付加価値税:各県が自由に設定 カナダのHST 各県が自由に設定 ・ 移出課税(移出国の税率)、仕入税額控除 ・ クリアリングハウスを通じ、控除税額を移転(税額控除清算方 式) Podder Model (ポダー・モデル) 各県が自由に設定 ・ 移出課税(移入国の税率)、仕入税額控除 ・ クリアリングハウスを通じ、控除税額を移転(税額控除清算方 式) 次に、各モデルについて、それぞれその特徴等を解説することとする。 ① Dual VAT(並列型付加価値税) 仕向地原則を採用する国の消費税においては、国境を越えて課税資産の譲渡等が行 われる場合には、輸出側の業者は免税(ゼロ税率)となるので仕入れに係る税額は還 付される。また、輸入側の業者は、国境通過時に税関において輸入した課税資産に係 る消費税を支払わなければならない。そして、その課税資産を譲渡した際に、支払っ た消費税は仕入税額控除される。 これに対して、Dual VATにおいては、移出免税すなわち還付は行うが、県境におい て税関がないことから、移入に係る地方消費税の徴収は次の取引(課税資産の譲渡 等)まで繰り延べられる。 次の図においては、取引が県境を越えるのは、卸売Aから卸売Bへの課税資産の譲 渡等と卸売Cから小売への課税資産の譲渡等である。この場合、県境を越える取引は 移出免税でゼロ税率となるとともに、卸売Aと卸売Cがそれぞれ甲県、乙県に還付申 請をして仕入れに係る税額の還付(又は仕入れ税額控除)を受けることになる。また、 卸売Bと小売は、次の取引、すなわち卸売Bにあっては卸売Cへの課税資産の譲渡等、 小売にあっては消費者への課税資産の譲渡等を行うときに、移入に係る地方消費税を 支払うことになる。さらに、支払った移入に伴う地方消費税の金額は、仕入れに係る 税額として仕入税額控除を行うことができる(結果として移入に係る税額分は相殺さ - 15 - れ、譲渡価格に税率をかけた金額を納付することとなる)。 Dual DualVAT VATby byBird Birdand andGendron Gendron/並列型付加価値税 /並列型付加価値税 (国:一律10%と仮定) 乙県:2% 甲県:10% (税収) 国:20 甲県:0 国:10 県:10 (税収) 国:20 乙県:0 国:10 県:-10 20 国:10 県:6 0 製造 丙県:5% 国:10 県:-6 16 卸売A 税込 120 税抜 100 国 100×10% 県 100×10% (税収) 国:10 丙県:25 4 卸売B 税込 220 税抜 200 国 200×10% 県 200× 0% 仕入税額 35 卸売C 税込 336 税抜 300 国 300×10% 県 300× 2% 消費者 小売 税込 440 税抜 400 国 400×10% 県 400× 0% 税込 575 税抜 500 国 500×10% 県 500× 5% 移出免税 移出免税 500 400 100 400 300 100 300 200 100 200 100 100 100 0 100 売 上 仕 入 付加価値 国:10 県:25 税収の帰属 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 30 30 40 40 50 50 - - - - - 0 6 0 - - 0 - - 国 0 10 10 20 20 甲県 0 10 10 0 - 売上税額 移入(仕入)税額を控除 乙県 - 丙県 - - - - - - - 0 4+(6-4) 移入(仕入)課税を繰延べ - - 移入(仕入)税額を控除 0 20+(25-20) 25 移入(仕入)課税を繰延べ このことを上の図を用いて説明する。 なお、国の消費税についての説明は省略する(以下②~⑤についても国の消費税に ついての説明は省略することとする。)。 (前提) ・ ・ 地方消費税の税率: 甲県 10% 乙県 2% 丙県 5% 取引は、製造業者(100)→卸売A(200)→卸売B(300)→卸売C (400)→小売(500)→消費者とし、製造と卸売Aは甲県に、卸売Bと卸売 Cは乙県に、小売と消費者は丙県にあるものとする。括弧内の数値は売上である。 ・ この前提は、②から⑤までの各モデルの説明においても同じであるものとする。 ・ 製造事業者は売上100に対して税率が10%であるから、100×10%=1 0を甲県に納付すればよい。 ・ 卸売Aは、県外(乙県)に販売したのであるから移出免税となって、納付税額は 0となり、仕入価格に係る税額10【100×10%】は還付される。 ・ 卸売Bは、税関と納税義務者の役割を商品の販売時に行うものである。すなわち、 卸売Cに販売したときに、卸売Aからの仕入額に係る税額200×2%=4(移入 - 16 - 時課税)と、卸売Cに対する販売に係る税額6【300×2%】から移入に伴う課 税4を控除した額2との合計額6を乙県に納付する。結果的には、卸売Bの売上に 地方消費税率を乗じた額を納付することとなる。 ・ 卸売Cは、卸売Aと同じく県外(丙県)に販売したのであるから移出免税となっ て、納付税額は0であり、仕入れに係る税額6【300×2%】は還付される。 ・ 小売は、卸売Bと同じく、税関と納税義務者の役割を商品の販売時に行うもので ある。すなわち、消費者に販売したときに、卸売Cからの仕入額に係る税額400 ×5%=20(移入時課税)と消費者に対する販売に係る税額25【500×5 %】から移入に伴う税額20を控除した額5の合計額25を納付する。 このように、Dual VATにおいては、県境税調整を移入業者が次の取引の場において 行う繰延べ支払い方式を採用しており、移出免税が徹底されているので仕向地原則が 完全に実現されているといえる。 EUにおいては、現在この方式が採用されているが、この方式については暫定制度 とされている(4年ごとに見直される。ただし、欧州閣僚会議で格別の決議がなされ るまでの間は、当該4年の期限は自動的に延長することとされている。)。すなわち、 EUが本来目指している県境税調整の方式は次に述べるクリアリングハウス・システ ムによる税額控除清算方式であるからである。税額控除清算方式については、クリア リングハウス・システムが超国家的な機関となってしまうこと、他国が自国のために 税金の徴収を適切に行ってくれるのだろうかという不信感があること、インボイスを 採用していない国にとっては、個別の取引に係る前段階税額が確認できないこと等か ら、EU諸国に受け入れられなかった経緯がある。 また、EUにおいては、国境を越える取引に発生する還付金を詐取する脱税が非常 に多いことが問題になっている。その手口は後述の参考に掲げているが、Dual VATに 伴う大きな問題点であるといえる。 ② C VAT EUで行われている①のDual VATは、後述の参考に掲げているようなMTIC(Missing Trader Intra-Community)といわれる手口の脱税が非常に多いと推定されている。E U域内全体が移出免税とされていることから、EU域内の他の国に課税資産の譲渡等 を行う際に仕入税額に係る還付が行われることを奇貨として、この還付金を詐取しよ うとするものである。 C VATはこれを排除するために考えられた方式である。 すなわち、Dual VATに加えて、県境を越える取引の場合について、特別な税率の税 (C VAT)を課し、移出時に納税させることを義務付ける。この税額は次の課税資産 の譲渡等の際に還付されるので結局税収としてはゼロであり、いわばダミーの税とし ての役目を果たすに過ぎない。これは、移出時に税金を支払うというプロセスが生じ ることから還付金を詐取しようとする脱税を減少させる効果を狙ったものである。 - 17 - CCVAT(Compensating VAT(CompensatingVAT) VAT) by byMcLure McLure (国:一律10%、CVAT:一律8%と仮定) 乙県:2% 甲県:10% 丙県:5% (税収) 国:20(16) 甲県:0 (税収) 国:20(16) 乙県:0 国:10 県:10 国:10 県:6 CVAT:-16 国:10 県:-10 CVAT:16 還付 製造 国:10 県:25 CVAT:-32 還付 卸売B 税込 236 税抜 200 国 200×10% CVAT200× 8% 県 200× 0% 税込 120 税抜 100 国 100×10% CVAT - 県 100×10% 国:10 県:-6 CVAT:32 還付 卸売A (税収) 国:10(-32) 丙県:25 還付 卸売C 移出免税 売 上 仕 入 付加価値 100 0 100 仕入税額 200 100 100 税込 575 税抜 500 国 500×10% CVAT - 県 500× 5% 税込 472 税抜 400 国 400×10% CVAT400× 8% 県 400× 0% 税込 336 税抜 300 国 300×10% CVAT - 県 300× 2% 消費者 小売 移出免税 300 200 100 400 300 100 500 400 100 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 税収の帰属 売上税額 国 0 10 10 20 20 30 30 40 40 50 50 CVAT - - - 16 16 - - 32 32 - 0 甲県 0 10 10 0 - - - - - - 0 乙県 - - - 4+(6-4) 6 0 - - 0 - - 0 20+(25-20) 丙県 - - - - - 0 移入(仕入)税額を控除 移入(仕入)課税を繰延べ - - 移入(仕入)税額を控除 25 移入(仕入)課税を繰延べ 税額計算を上の図を用いて説明する。 (前提)上記3①に同じ。ただし、C VATの税率を8%とする。 (Dual VAT) ①のDual VATの税額計算に全く同じなのでそれを参照されたい。 (C VAT) ・ 製造事業者は同一県内の卸売Aに対して販売するのであるから、C VATの納税義 務(ゼロ税率)はないものである。 ・ 卸売Aは、県外(乙県)の卸売Bに販売したのであるからC VATの納税義務が生 じ、納付税額は、200×8%=16となる。 ・ 卸売Bは、同一県内の卸売Cに対する販売であるからC VATの納税義務はないも のの、卸売Aが納付したC VAT分16の還付を受ける。 ・ 卸売Cは、県外(丙県)の小売に対して販売したのであるからC VATの納税義務 が生じ、納付税額は、400×8%=32となる。 ・ 小売は、同一県内の消費者に対する販売であるからCVATの納税義務はないものの、 卸売Cが納付したC VAT分32の還付を受ける。 - 18 - ③ V I VAT この方式は、登録事業者間の取引に係るものの税率については、同一県内であろう と県外であろうと関係なく、一律の税率の税(V I VAT)を課税しようとするもので ある。また、それぞれの県における税率決定権は最終消費者に対する地方消費税の税 率においてのみ許容される点、他の方式と異なる。登録事業者間の税額は小売の段階 ですべて還付されるので、結果的には、C VATの場合と同じくダミーの税ということ になる。結局のところ、最終段階でのみ課税する小売売上税のような地方消費税であ るといえるが、単段階ではなく多段階であり、かつ還付があることで小売売上税の持 つ「捕捉が難しい」という欠点が緩和されるといわれている。 VVIIVAT(Viable VAT(ViableIntegrated IntegratedVAT) VAT) by byKeen Keenand andSmith Smith (国:一律10%、VIVAT:一律8%と仮定) 乙県:2% 甲県:10% (税収) 国:20(16) 甲県:0 国:10 VIVAT:8 国:10 VIVAT:8 丙県:5% (税収) 国:20(16) 乙県:0 国:10 VIVAT:8 国:10 VIVAT:8 (税収) 国:10(-32) 丙県:25 国:10 県:25 VIVAT:-32 還付 製造 卸売A 税込 118 税抜 100 国 100×10% VIVAT100× 8% 県 - 仕入税額 卸売C 税込 354 税抜 300 国 300×10% VIVAT300× 8% 県 - 税込 236 税抜 200 国 200×10% VIVAT200× 8% 県 - 消費者 小売 税込 472 税抜 400 国 400×10% VIVAT400× 8% 県 - 税込 575 税抜 500 国 500×10% VIVAT - 県 500× 5% 500 400 100 400 300 100 300 200 100 200 100 100 100 0 100 売 上 仕 入 付加価値 卸売B 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 税収の帰属 売上税額 国 0 10 10 20 20 30 30 40 40 50 50 VIVAT 0 8 8 16 16 24 24 32 32 - 0 甲県 - - - - - - - - - - 0 乙県 - - - - - - - - - - 0 丙県 - - - - - - - - 0 25 25 税額計算を上の図を用いて説明する。 (前提)上記3①に同じ。ただし、V I VATの税率を8%とする。全ての事業者は登録 事業者であるものとする。 ・ 製造事業者、卸売A、卸売B、卸売Cについては、同一県内への販売であろうと 県外への販売であろうと登録業者間のV I VATが課税される。税額計算は、国の消 費税と同じように前段階税額控除方式で行われ、納税額はいずれも8である。 ・ 流通の最終段階である小売にはV I VATの納税義務はないので、積み上がったV I VAT32が還付される。 - 19 - 小売は、同一県内の消費者に対して販売するので、丙県の税率5%による地方消 費税額500×5%=25を納付する。 ④ カナダのHST(Harmonaized Sales Tax) このモデルは、県境を越える課税資産の譲渡等であっても移出時に移出県の地方消 費税の税率によって課税するものである。そして、徴収した地方消費税はクリアリン グハウスを通じて移入県に税額が移転(清算)されることによって仕向地原則が維持 される。 地方消費税の徴収に当たっては、自県の税率によって申告納税すればよく、県境を 越える場合の還付申請事務等の事務負担もないことから、納税者にとっての負担はDu al VATの場合と比べて軽減されることとなる。ただし、その後にクリアリングハウス においてどのような清算を行うかによって納税者の事務負担は変わってくる。 カナダのHST(Harmonaized カナダのHST(HarmonaizedSales SalesTax) Tax) (国:一律10%と仮定) 乙県:2% 甲県:10% (税収) 国:20 甲県:0 丙県:5% (税収) 国:20 乙県:0 (税収) 国:10 丙県:25 20 国:10 県:10 国:10 県:10 8 国:10 県:-14 国:10 県:2 国:10 県:17 卸売C 小売 還付 製造 卸売A 税込 120 税抜 100 国 100×10% 県 100×10% 卸売B 税込 240 税抜 200 国 200×10% 県 200×10% 税込 336 税抜 300 国 300×10% 県 300× 2% 税込 448 税抜 400 国 400×10% 県 400× 2% 仕入税額 200 100 100 税込 575 税抜 500 国 500×10% 県 500× 5% 乙県の税率 甲県の税率 100 0 100 売 上 仕 入 付加価値 消費者 500 400 100 400 300 100 300 200 100 税収の帰属 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 40 40 50 50 国 0 10 10 20 20 30 30 甲県 0 10 10 20 - - - - - - 0 乙県 - - - - 20 6 6 8 - - 0 丙県 - - - - - - - - 8 25 25 このことを上の図を用いて説明する。 (前提) ・ 上記3①に同じ。 製造事業者は売上100に対して税率が10%であるから、100×10%=1 0を納付する。 ・ 卸売Aは、県外(乙県)に販売したが、税額控除清算方式は、移出時には移出県 の税率で課税されるので、甲県の税率で計算した税額10【200×10%-1 - 20 - 0】を納付する。 ・ 移出免税という仕向地原則を全うするためには、製造業者と卸売Aが甲県に納付 した税額20は、乙県に送らなければならない。この清算のシステムをクリアリン グハウス・システムという。 ・ 卸売Bは、300×2%-20=△14を納付(この場合は還付)する。 ・ 卸売Cは、卸売Aと同じく県外(丙県)に販売したものであり、乙県の税率で課 税され納付税額は2【400×2%-300×2%】である。この場合、甲県から 送られてきた20から卸売Bに対する還付額14を控除し、さらにCの納付額2を 加えた8はクリアリングハウスによって丙県へと送られる。 ・ 小売は、卸売Bと同じく、500×5%-8【400×2%】=17を納付する。 乙県から送られてきた8と小売の納付額17を加えた25が丙県に帰属することと なる。 清算の方式は、上記3①で述べたのように、EUが志向する個別の取引において行 われる場合と、カナダのHSTや日本の地方消費税のように統計を用いてマクロ的に行 われる場合の2つの方法がある。個別の取引においてそれぞれ清算を行う場合には、 課税庁は課税資産の譲渡等先1件1件について移転される税額(=控除税額)をチェ ックしなければならない。したがって、納税者に譲渡先の住所、氏名、納付した地方 消費税の税額(控除税額)を課税庁に申告させるという事務負担を課すことになる。 一方、統計を用いてマクロ的に清算を行う場合には、納税者にそのような事務負担 を課す必要はなくなる。 以下では、県に税率決定権を付与しつつ、現行の日本の地方消費税の清算にように、 統計を用いてマクロ的な清算を行い最終消費地と税収の帰属を一致させることが可能 か否かを検証することとする。 - 21 - 清算のイメージ(税率:甲県2%、乙県0%、丙県4%と仮定) 清算のイメージ(税率:甲県2%、乙県0%、丙県4%と仮定) 甲県:2% 乙県:0% 丙県:4% 還付 2(0-2) 納付 2(2-0) 納付 12(12-0) 取引1 事業者 事業者 事業者 102(税抜100+税2) 150(税抜150+税0) 還付 8(0-8) 納付 8(8-0) 取引2 消費者 事業者 408(税抜400+税8) 312(税抜300+税12) 納付 8(8-0) 事業者 事業者 250(税抜250+税0) 208(税抜200+税8) 納付 6(6-0) 還付 16(0-16) 消費者 事業者 取引3 消費者 納付 10(16-6) 事業者 500(税抜500+税0) 事業者 400(税抜400+税16) 306(税抜300+税6) 16 払込額 -26 清算の対象となる額 30 20 上の図を用いて説明する。 (前提) ・ ・ 地方消費税の税率:甲県 2% 乙県 0% 丙県 4% 次の3つの取引があり、括弧内は売上を示すものとする。また、消費者はいずれ も最後の取引のあった県にあるものとする。 取引1: 甲県(100)→乙県(150)→丙県(300) 取引2: 丙県(200)→乙県(250)→甲県(400) 取引3: 甲県(300)→丙県(400)→乙県(500) (取引1) 甲県の事業者の納付額=100×2%=2 …① 乙県の事業者の納付額=150×0%-100×2%=△2(還付) …② 丙県の事業者の納付額=300×4%-150×0%=12 …③ - 22 - (取引2) 丙県の事業者の納付額=200×4%=8 …④ 乙県の事業者の納付額=250×0%-200×4%=△8(還付) …⑤ 甲県の事業者の納付額=400×2%-250×0%=8 …⑥ (取引3) 甲県の事業者の納付額=300×2%=6 …⑦ 丙県の事業者の納付額=400×4%-300×2%=10 …⑧ 乙県の事業者の納付額=500×0%-400×4%=△16(還付) …⑨ ここにおいて、それぞれの取引の最終消費地は、取引1にあっては丙県、取引2に あっては甲県、取引3にあっては乙県であることから、それぞれの帰属すべき税収は 次のとおりとなる。 甲県…8 (取引2 ④+⑤+⑥) 乙県…0 (取引3 ⑦+⑧+⑨) 丙県…12 (取引1 ①+②+③) 納付された各県別の税額は、甲県16【①+⑥+⑦】、乙県△26【②+⑤+⑨】、 丙県30【③+④+⑧】であるから、清算の対象となる税額は20【16+△26+ 30】となる。 一方、各県の消費に相当する金額(税込みの最終消費額)は、甲県(取引2)は4 08、乙県(取引3)は500、丙県(取引1)は312で、合計1220となる。 商業統計等は税込みで表示されていることから、ここでも税込み売上にて表示してい る。 ここで、現行の地方消費税の清算方式により、適切に税収を帰属させることができ るか検討してみる。 現行の地方消費税は、払込額を「消費に相当する額」で按分する方法である。払込 額は20であるから、実際に計算してみると次のようになる。 甲県: 20×408/1220=6.7 乙県: 20×500/1220=8.2 丙県: 20×312/1220=5.1 各県に帰属すべき税収は甲県8,乙県0、丙県12であり、現行の方式では上手く いかないことがわかる。 なお、ここで、清算基準を「消費に相当する額」ではなく「消費に相当する額に含 まれる当該県の地方消費税額」に代えて試算をしてみる。 甲県:税率 2% 消費に相当する額 408 地方消費税額 408×2/102=8 - 23 - 乙県:税率 0% 消費に相当する額 500 地方消費税額 500×0/100=0 丙県:税率 4% 消費に相当する額 312 地方消費税額 312×4/104=12 これらは上記帰属すべき税収に一致していることから、正しく税額の清算が行われ たということができる。 なお、甲、乙、丙県の税収の合計額は20であり、清算の対象となる払込額にも一 致している。 このように、清算基準を「消費に相当する額」ではなく「消費に相当する額に含ま れる当該県の地方消費税額」にすることによって、清算が適正に行われることとなる。 下の図は、今まで述べたことを概観したものである。 清算方法: 消費に相当する額から各都道府県の税率に応じ割り戻し 甲県:2% 乙県:0% 丙県:4% 全体 払 込 額 (清算の対象となる額) 16 -26 30 20 イ メ ー ジ 図 に お け る 消 費 に 相 当 す る 額 408 500 312 1220 消費に相当する 額に占める 地 方 消 費 税 額 408×2/102 500×0/100 312×4/104 ー 清算後の地方消費税額 8 0 12 20 (参考) 現行の清算方法: 払込額を消費に相当する額に応じてあん分 甲県:2% 乙県:0% 丙県:4% 全体 払 込 額 (清算の対象となる額) 16 -26 30 20 イ メ ー ジ 図 に お け る 消 費 に 相 当 す る 額 408 500 312 1220 消費に相当する額のシェア 408/1220 500/1220 312/1220 1220/1220 清算後の地方消費税額 6.7 8.2 5.1 20 ⑤ Podder Model(ポダー・モデル) 税額控除清算方式は、後に納付税額を仕向地(移出先)に移転させるとはいえ、移 転させるまでの間は、一時的にキャッシュが移出地方団体の手元に残ることとなり、 キャッシュ・フロー上税率が高ければ高いほどキャッシュを手元に残すこととなる団 体に有利になる。このことから、各団体は税率引上げを行う誘惑に駆られることにな - 24 - るという問題があると指摘されている。 このような誘惑を排除しようと考えられたのがPodder Model(ポダー・モデル)で ある。 県境税調整の方法は基本的には税額控除清算方式であるが、移出時の税額は仕向地 (移入県)の税率によって計算される。このことによって、税額控除清算方式の問題 点であると指摘されるキャッシュ・フロー上の有利不利はなくなる。 ポダー・モデル ポダー・モデル by byPoddar Poddar (国:一律10%と仮定) 乙県:2% 甲県:10% (税収) 国:20 甲県:0 丙県:5% (税収) 国:20 乙県:0 (税収) 国:10 丙県:25 4 国:10 県:10 国:10 20 県:-6 国:10 県:2 国:10 県:14 国:10 県:5 卸売C 小売 還付 製造 卸売A 税込 120 税抜 100 国 100×10% 県 100×10% 卸売B 税込 224 税抜 200 国 200×10% 県 200× 2% 税込 336 税抜 300 国 300×10% 県 300× 2% 税込 460 税抜 400 国 400×10% 県 400× 5% 仕入税額 税込 575 税抜 500 国 500×10% 県 500× 5% 丙県の税率 乙県の税率 500 400 100 400 300 100 300 200 100 200 100 100 100 0 100 売 上 仕 入 付加価値 消費者 税収の帰属 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 売上税額 仕入税額 40 40 50 50 - - 0 - - 0 25 25 国 0 10 10 20 20 30 30 甲県 0 10 10 4 - - - 乙県 - - - - 4 6 6 丙県 - - - - - - - - 20 - 20 売上税額 税額計算を上の図を用いて説明する。 (前提)上記3①に同じ。 ・ 製造事業者は、売上100に対して税率が10%であるから、100×10%= 10を甲県に納付する。 ・ 卸売Aは、県外(乙県)に販売したが、税額は移出元の県の税率ではなくて移出 先の県(乙県)の税率で計算される。すなわち、卸売Aの納付額は、200×2% (乙県の税率)-10=△6を甲県に納付(この場合は還付)する。 ポダー・モデルにおいても、移出免税という仕向地原則を全うするためには、甲 県に納付した税額4【10+△6】はクリアリングハウス・システム(CHS)によ って清算をし、乙県に送られる。 ・ 卸売Bは、300×2%-4=2を乙県に納付する。 ・ 卸売Cは、移出先の税率によって納付するのであるから14【400×5%-3 - 25 - 00×2%】を乙県に納付する。甲県から送られた税収に卸売B、Cが乙県に納付 した額を加えた20【4+2+14】はクリアリングハウスによって丙県へと送ら れる。 ・ 小売は、卸売Bと同じく、500×5%-20【400×5%】=5を丙県に納 付する。 ・ 乙県から送られてきた20を加えて、結局、最終消費地丙県に税収25が帰属す ることとなる。 なお、納税者は取引先のある県の税率を知っていなければならず、納税者の事務負 担はカナダのHST等に比べ大きくなる。 - 26 - 4 我が国において各モデルを採用する場合の問題点 これら5つのモデルは、税率決定権という観点からはいずれの方式も可能(V I VAT は最終段階でのみ可能)であることが検証できた。そこで、これらを日本で採用すると した場合に、どのような問題が生じるのかを検討することとしたい。 ① Dual VATについては、移出免税に係る還付事務を行わなければならず、日本のよう に国土が狭く日常的に県境を越える取引が行われている環境では還付事務量が膨大に なるおそれがある。また、移出と偽って還付金を詐取することが起こるおそれがある。 ヨーロッパにおけるMTIC Fraudによる脱税の推計金額を見ると、それは看過できる水 準ではないといえよう。 ② C VATは、Dual VATに係る脱税を防止する上で一定の効果は期待される。しかしな がら、ダミーの税を脱税防止のためにのみ課税すると更なる事務負担を課すことにな り、かつ、この税負担を完全に価格に転嫁できなければ事業者に経済的な負担を生じ させることになるという問題がある。都道府県に代わり国がC VATの賦課徴収を行う のであれば別であるが、そうでない場合には、C VATの清算システムを別途構築する 必要があるものと思われる。 ③ V I VATは、VATと小売売上税を合体させたような税であるといえるが、日本は商品 の流通が複雑であり、「卸売」と「小売」の分別が難しいこと等から、小売売上税で 指摘されている問題点がそのまま当てはまってしまう。また、小売の前段階、すなわ ち卸売の段階で、卸売業者が小売と偽って還付を受けるという手口の脱税も懸念され る。小売売上税が、地方消費税創設の際、検討の俎上に上がったものの、その後排除 された経緯があることは注目に値しよう。さらに、ダミーの税を課すこととなるので、 C VATと同じように、納税者、課税庁に更なる事務負担を課すことになるという問題 もある。 ④ EUが志向する個別の取引ごとに清算を行う方式については、課税資産をどの県に 移出したか、あるいはどの県から移入したかといった情報を逐一把握しなければなら ず、そのための事務量は膨大なものとなり現実的ではない。納税義務者はインボイス によって正しい仕入れ税額控除を行うことができるが、税務当局がチェックを行うた めには、どの県の事業者から仕入れを行ったのかが判るそれらの資料の保存を義務付 ける必要がある。 一方、現行の地方消費税やカナダのHSTが採用している統計を用いてマクロ的に清 算を行う方式については、最終消費に係る金額と消費地、各県の税率があれば帰属す べき税額を計算することができる。この場合には、清算のための統計データをより精 緻なものにするといった工夫が必要であろう。 ⑤ ポダー・モデルについては、税額控除清算方式の改良型であるが、我が国において、 各都道府県間でキャッシュ・フロー上の優位性を求めた税率の引上げが現実問題とし て起こるのかという疑問はあるものの、そうしたキャッシュ・フロー上の優位性に係 る問題は解消されることとなる。しかしながら、納税者は課税資産の譲渡先の県の税 率で申告しなければならないため、事務量は増すことになる。 - 27 - (参考1)脱税 現在、EUにおけるVAT還付詐欺の中で被害額の面で最も深刻なのが、MTIC(Missing Trader Intra-Community)FraudというVAT詐取取引、いわゆる「カルーセル取引」(c arousel fraud)であると言われている。「カルーセル」とはメリーゴーランドのこと であり、カルーセル取引とは、EU域内で複数の事業者が次々と一つの課税資産の譲渡 等を行い、途中の業者が、移出免税に係る仕入控除税額の還付を受けながらも、課税資 産の譲渡等の際に生じたVATを納付しないで逃げる(この者をmissing traderという) 手口である。 その概要は次のとおりである。ここで、申告納付すべきVATを納付しないのはB社で あり、C社は移出免税に係る仕入控除税額の還付を受けることになる。現実的にはAか らDは意を通じ合って脱税に関与している。 Missing MissingTrader TraderIntra-Community Intra-Community(MTIC) (MTIC)Fraud Fraudの手口 の手口 〈Carousel Fraud(メリーゴーランド型脱税)の例〉 1. A会社(Company A)が他のEU加 盟国に存在するB会社(Company B)に商品を販売(EU域内取引のた め免税)。 2. B会社は、D会社(Company D)を 介して、又は直接C会社(Company C)に商品を税込価格で販売(国内 取引のため課税)し、D会社ないしC 会社から付加価値税相当額を受け 取るが、申告納付することなく、雲隠 れ。 3. C会社は、A会社に商品を販売(EU 域内取引のため免税)し、仕入税額 控除(又は還付請求)。 4. A会社は、再びB会社に商品を販売。 出典:Commission of the European Communities, “Report from the Commission to the Council and the European Parliament on the Use of Administrative Cooperation Arrangements in the Fight Against VAT Fraud”, COM(2004) 260 final MTIC Fraudによる脱税額は非常に深刻な問題として報告されている。例えば、欧州委 員会(Commission of the European Communities)の報告書によれば、「MTIC Fraudに よる全被害金額は明らかではないが疑いもなく憂慮すべき事態だとており、その被害額 は中にはVATに係る税収の10%にも上ると推計している加盟国もある」としている。また、 - 28 - 英国の消費関税局(HM Customs and Excise)による推計では、2001年から2002年の1 年間に、MTIC Fraudにより、17億英ポンドから27.5億英ポンド(約3,280億円~5,300億 円、VAT税収610億英ポンド(約11兆7,700億円)の2.8%~4.5%)のVATが脱税されたもの とされている。 天野史子氏(ドイツで税理士を営む)によると、「カルーセル取引を可能にしている 制度的欠陥は二つある。第一に、欧州域内取引で用いられている仕向地原則のため、欧 州域内取引で多額の免税取引が生じ、付加価値税還付の可能性が生じることである。第 二に、付加価値税の還付が、付加価値税の納付を前提条件としていないことである」と のことである。 MTIC fraudに対するEU全体の対策としては、①EU加盟国間の連携の強化(Council Regulation No.1798/22003(October 2003))、②徴収能力の向上(Decision No.2235/2 0028(December 2002))がある。①については、VATに関する法律違反を発見した場合の 他の国への通報義務、他の加盟国に対する税務調査実施の要請、他の加盟国が実施する 税務調査への立会等、加盟国の連携を強化することとしている。②については、徴税吏 員の他の加盟国との人事交流、セミナーの開催、研修プログラムの開発等のため、2003 年から2007年までの5年間で4,400万ユーロ(約60億円)を予算措置することとした。 また、英国では主な取組として、①買い主の連帯納税義務(HM Customs and Excise “Joint and Several Liability in the Supply of Specified Goods” ,Notice 726 ((August 2003) )、②買い主の仕入税額控除の否定(HM Customs and Excise,“VAT S trategy: Input Tax Deduction without a Valid VAT Invoice”, Statement of Pract ice (July 2003) )、などを行っている。①については、携帯電話とパソコン関連機器 (両者は価格が高く、持ち運びができることから脱税の対象として適している)の販売 について、買い主が本来の納税義務者(売り主)がVATを納付していないことを知って いたか、又は知るべき合理的な理由があった場合には、買い主に連帯納税義務を課すこ ととしている。また、②については、携帯電話、パソコン関連機器、酒類及び燃料の販 売について、買い主の受け取ったインボイスが無効であり、かつ、売り主が実際に存在 すること等を買い主が合理的な手続きにより確認しなかった場合には、仕入税額控除を 認めないこととしている。 しかしながら、これらの協力体制の実情はあまり芳しくないようである。「2002年ま でにコンスタントに各欧州加盟国家間での情報照会件数は伸びているものの、その半数 が未回答もしくは期限内に回答されていないという統計が示されている。また、2005年 に書かれたドイツの税務査察官の論文にも、外国からの資料の入手はほとんど不可能と いう記述が見られる。また、言語のバリアー、旅費の不足、国内税務当局間の連絡不足 など、あまりにも当たり前の理由が捜査が常に後手に回る理由として述べられており、 当該報告書と現実のギャップが感じられる」(前述天野史子氏)とある。 - 29 - (参考2)Dual VATにおける納税義務者の事務負担 <県内取引・県外取引の区別> Dual VATにおいては、移出免税制度があることから、課税資産の譲渡等に際して、課 税取引か免税取引(移出免税)か区別するため、取引相手が県内の事業者か県外の事業 者かを確認する必要がある。 EUの場合には、各国に国別コード(例えば英国はGBなど)が割り当てられており、 EU域内取引を行う事業者(売り主)は、取引相手(買い主)の国別コードと事業者登録 番号を確認し、インボイスに記入する必要がある。 なお、事業者は、VIES(VAT Information Exchange System)を通じて、取引相手の 事業者登録番号が有効なものであるか否かを確認することができる。 <移出されたことの証明> 商品が実際に県外に移出されたことを、配送票等で証明する必要がある。 EUにおいては、移出側の事業者は国外に輸送されたことを証明する文書を作成、保 存しておく必要がある。 なお、日本においては、消費税法において、輸出免税の要件として、輸出許可書の保 存が義務付けられている(消費税法第7条第2項、消費税法施行規則第5条)。 <Verwaal & Cnossen による試算> なお、オランダでEU域内取引を行う企業が負担するVATの申告納付に関連するコス トは、全国平均で当該企業のEU域内取引額合計の5%に達するという試算がある。 (Verwaal & Cnossen, S.(2001)“Europe’s New Border Taxes”, CESifo Working Pa per No.434) - 30 - おわりに 以上の検討により、「はじめに」に掲げた前提の下でという制約は付くものの、地方 消費税の税率設定権を各都道府県に付与することは理論的に可能であることが確認でき た。また、5つのモデルの優劣を客観的に比較するまでの分析には至らなかったが、還 付に伴う問題等を考慮すれば、税額控除清算方式(カナダのHST又はポダー・モデル) によるアプローチが現実的であるとの感触を得ることができた。税額控除清算方式によ りアプローチするとした場合には、個別の取引ごとにそれぞれ清算を行う方法と、統計 を用いてマクロ的に清算を行う方法のいずれを選択するかという問題が存することとな る。 個別の取引ごとについてそれぞれ清算を行うことについては、インボイスの発行を義 務付けるなど納税者の事務負担が増加することの理解を得なければならない。また、日 本のように狭い国土で多くの都道府県があることゆえの困難性も考慮する必要がある。 一方、統計を用いてマクロ的に清算を行うことについては、現在の地方消費税が、既 にマクロ的に清算を行う方法を採用していることにかんがみ、より現実的な選択となり 得るが、清算に用いる統計をより緻密なものにするなどの工夫が必要であろう。 なお、仕向地原則(税収を消費地に帰属させるという原則)を完全に貫こうとするな らば通信販売等の場合における課税をどのように行うか、清算をどのように行うのかと いった課題や、都道府県内での複数税率の採用や非課税取引の創設等が可能であるのか という課題は依然として残されている。 このように、今後さらに検討すべき課題はあるが、地方消費税について各都道府県に 税率設定権を付与することがおよそできないという意見に対しては、「理論的には可能 である」と反論することができると総括して本報告書を終わることとする。 - 31 - (参考文献一覧) ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ 持田信樹著(2004)「地方分権の財政学―原点からの再構築」(東京大学出版会) Bird, R. and Gendron, P.P. 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