平成26年8月29日 報告書 ハイスクールサミットin東北 ~私たちの未来は、私たちの手で!~ 千葉県立安房高等学校 教 諭 川俣 和弘 1 はじめに 第5回を数えるハイスクールサミット in 東北は、 これまでの集大成として未来に向けた提言を全国に向けて 発信したいと考え開催された。また、震災後は宮城県で開催されていたが、今回震災後初めて福島県での開催 であった。 このハイスクールサミットは福島県の双葉・相馬地域の高校生が自主的に行ったワークショップが始まりで あり、今では子供と大人が一緒に自分たちが住む町の景観形成を考え活動するまでになった。子供たちの活動 が大人の心を動かして、さらに輪が広がり全国の高校生が集い交流を深めるまでに成長してきた。 今回は全国36校87名の高校生の参加となり、真剣で活発な意見交換がなされた。一方、すぐに打ち解け あった生徒たちは和やかな雰囲気の中で、高校生交流会、現地見学会等、移動や食事の時間などでコミュニケ ーションを図り有意義な時間を共有できた。 2 行程・内容 1日目 8月8日(金) 12:30 いわき産業創造館LATOV6F 集合 13:00 開会式 挨拶 NPO法人ハッピーロードネット理事長 西本由美子 内閣総理大臣夫人 安倍昭恵 13:20 ワークショップ(1) いわき産業創造館LATOV6F 会議室1 テーマ1:福島の未来を考えよう ~これまでの生活、これからの生活~ テーマ2:福島の復興ビジョンを作ろう ~高校生が考える復興プロジェクト~ テーマ3:津波被災地のこれからを考えよう ~被災地の限界~ テーマ4:ふるさとの将来ビジョンを作ろう ~将来、どんな街に暮らしたい?~ 本校生徒2名(小林史佳、藤平和花)はテーマ4に参加。テーマ4は17名が参加 ① 【アイスブレイク】議論しやすい雰囲気と人間関係づくりのため「何 でもバスケット」 「自己紹介ゲーム」を行う(写真1) ② 【ハイラインについて】事前エントリーシートで各自学習したハイラ インについて共通理解を図る。 本校生徒(小林史佳)が自ら司会に立候補し、2名のファシリテー タの大学生に補助してもらいながらも進行役を務めた。 (写真2) ③ 【自分のまちの市民主体のまちづくりの事例】4~5人のグループ に分かれ各地の高校生が自分の住む地域の事例を出し合い、全体で 報告。 ④ 【②、③を踏まえて自分がどうすれば行動できるのか、どんなシス テム・仕組みが欲しいのか】をグループで話し合い、全体に報告後、 全体で討議 ⑤ 【話し合った内容を全員で確認】ある程度意見をまとめ、ファシリ テータから宿題が出て終了。 写真1 写真2 15:00~17:00 引率職員の情報交換会 別室にて引率職員の情報交換会。引率者の自己紹介で始まり、西本委員長、いわき商工会議所理事長、 双葉青年会議所理事長から震災当時の状況やこれまでの道のり、現在の課題についての話があった。自己 紹介では各校から防災についての取り組みや、被災地からの参加校は当時の状況などが報告された。実際 に避難所となった学校の職員から当時の状況が生々しく伝わってきた。 また、NPOハッピーロードネットは原発事故後様々な取り組みをしており、チェルノブイリや広島へ の視察などから、現在も続く風評被害に対しての憤りを持っていることがわかった。すべての農産物など に対して汚染調査を実施しており、 「基準をクリアした福島産の農産物は世界一安全な食べ物だ」という西 本委員長の言葉には力があった。 風評被害に対して学校現場ができることは、正しい知識を子供たちに伝えること。そして、幅の広い知 識や様々な経験を通して、自分の中からの見識で判断する力を育むことであろう。 18:00~20:30 高校生交流会(グランパークホテルパネックスいわき) 交流会は西本委員長、阿 部総理夫人、大学生ファ シリテータ代表のあいさ つで始まり、各県ごとの 自己紹介となった。生徒 たちは短い時間に思い思 いのコメントで自己アピ ールや出身地の紹介をし ていた。途中、地元福島の高校生フラガールズの飛び入り参加もあり、会場全体が盛り上がった。自己紹 介後に名刺交換会が始まり、短い時間で多くの名刺を交換できるようコミュニケーションを図り密度の濃 い時間となった。 8月9日(土) 8:30~12:00 ワークショップ(2) いわき産業創造館LATOV6F 会議室1 ① 【前日の振り返りと本日の流れの確認】前日のファシリテ ータからの宿題を発表し、テーマ別発表での方向性とそれ までの時間の流れを確認 ② 【意見集約とまとめの話し合い】 様々な立場や視点から出た意見を集約するまとめの作業 は、生徒にとって難しい作業と思われたが、リーダーとな った生徒が発表を「交流」 「意識向上」 「市民の意見」 「愛着」 という流れをつくり、それぞれの分担で手際よく進めてい った。限られた時間を最大限活用していた。 途中、森大臣や小泉議員が激励に訪れ、生徒は喜びとともに今回のサミッ トの意義の大きさを痛感したようである。 ③ 【発表準備】11:15~12:00 昼食をとりながらも役割分担の確認や台本の見直しを行うなど最後まで、 こだわって発表の準備をしていた。 答えのない難しいテーマに対して、次第に全員が積極的に意見をぶつけ合い、 それぞれの意見を認め合う議論は、打算や経験則の強い大人にはない自由な発想 で視点はあちこちに飛ぶケースもあり、時折ファシリテータから適切なアドバイ スもあったが、最終的には高校生の力でまとめに至った。グループ全体に役割分 担が自然発生し発表では高校生の力と可能性を見た。 12:30~16:00 フォーラム いわき産業創造館LATOV6F企画展示ホール 安倍晋三 内閣総理大臣からのビデオレター 挨拶 西本由美子 NPO法人ハッピーロードネット理事長 安倍昭恵 内閣総理大臣夫人 森まさこ 内閣府特命担当大臣(少子化対策・消費者および食品安全・男女共同参画) 小泉進次郎 内閣府大臣政務官・復興大臣政務官 内堀雅雄 福島県副知事 清水敏男 いわき市長 テーマ1~4(高校生)発表13:05~14:20 テーマ5(大学生) 「大学生がまとめる福島復興プラン」 14:20~14:40 フロアディスカッション14:40~16:00 ファシリテータ:東日本国際大学 経済情報学部長 教授 福迫昌之 アドバイザー:上記挨拶者及び縄田正国土交通省東北整備局長 それぞれからワークショップの発表に対する感想やアドバイスなどの講評があり、高校生、大学生から の質問を受けた。高校生の視点で率直に疑問に思ったことなど活発な質疑応答があり、アドバイザーが答 えに困る様子も見て取れた。生徒たちは、今回のワークショップを通して多くの問題点や疑問点、これか ら進むべき方向性などを模索しているように感じた。責任ある立場のアドバイザーの話は、生徒たちに響 いている様子であった。 16:00~16:30写真撮影 17:15集合 電車で広野町に移動(18:11着) 広野町花火大会を見ながら夕食 台風接近により小雨が降る中ではあったが、親交が 深まり、楽しい時間を共有できた様子であった。 8月10日(日)現地見学会 8:20集合 8:50出発 9:50~10:00 富岡駅 10:20~11:00 Jビレッジ ◎天神岬は時間の都合で見学中止 現地に向かうバス車中では双葉町青年会議所理事長から災害当時の状況や現在 の被災地の状況、これからの問題点や課題について様々な話を聞くことができた。 その中で「 『ある日時にこれで復興です。 』ということはありません。 『復興』と は人それぞれ違うのです。 そのひとが 『復興できた』と思った時が復興なのです。 」 というお話は、現在被災地の人々が抱える精神的な負担が伝わってきた。一方で 強い信念をもって今を生きていることに感心するとともに、私自身力をいただい た気がした。 広野町では、災害前と災害後の人口の変動、 もともとの住民と原発処理のための作業員の関 係などをうかがえた。楢葉町に入ると立ち入り 禁止区域解除後も未だ生活することはできず、 中だけ立ち入りだけ許されている現状から、災 害当時の傷跡が残る家屋が目に付き、人の気配 が感じられない住宅が非常に多く感じた。一日 も早い復興を願いたい。 富岡駅では、ネジ曲がった電信柱、倒壊や半 壊した家屋、横倒しや裏返しとなった自家用車 など、災害の爪痕が今も生々しく残っており、 当時の津波被害の大きさと、一角に設置された 線量計からは今も手を付けられない復興への道 のりの長さを目の当たりにした。 Jビレッジ見学では今懸命に廃炉に向けた取 り組みがなされており、毎日数千人の人々が戦 っていることがわかった。 3 その他 ・本校参加生徒の募集について 2学年のみに案内をして募集をかけた。当初3名の希望があり、3名全員を参加させたかったが都合により 2名に絞った。選考に当たっては、希望理由を文章で提出させるとともに、小林教頭による面接によって総合 的に選考した。 ・事前準備について 7月10日(木)県土整備部より事前学習会の開催。 8月 5日(火)13:00~14:00 水島教諭から新聞記事《 「全 部見せる」が安心感に(いわき市『見せる課』 ) 》を使った事前学習。いわ き市の現状と課題について考える機会となった。 14:15~15:10 小林教頭から地理的視点の「都市と過疎」につ いての事前学習。訪れる福島県の地理的な基礎知識と「都市と過疎」の定 義や特徴について、千葉県全域や館山、鴨川とリンクさせ、自分たちの住 む町と福島県いわき市の都市としての位置づけをわかりやすく学習した。 4 おわりに 話をいただいて初めてハイスクールサミットin東北の存在を知り、参加させていただいた。 被災地については、日常では報道等で考えることはあっても、なかなか実感する機会が少ないのが正直なと ころである。今回このような機会で被災地を訪れ、そこに暮らす人々と交流を持つことができたこと、全国の 同年代と交流することで得られた刺激は、今後生徒にはかけがえのない財産となったと考える。 今回を集大成として開催は最後にしたいと西本委員長は考えているようである。しかし、地域や有識者、何 より参加者からは、この高校生サミットの持つ力と可能性、存在意義から、今後も続けることを望む声も多い という。主催する側の苦労は計り知れないだろうが、日々の学校生活では得ることのできない経験とここに集 う人々のつながりは非常に魅力的で貴重な機会であろう。 今回このような機会を与えてくださった関係者、支えてくださった協力者すべての人に感謝したい。 ありがとうございました。
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