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スポーツ産業論 最終報告書
FIFA 公認代理人
∼選手の移籍を司る人々∼
竹石 義勝
1101143C
浅井 啓輔
1101009R
栗原 一郎
2101091Y
曽根原裕樹
4101103B
目次
1. テーマ設定および問題設定について
P3
2.
「FIFA 公認代理人」とは何か
①「FIFA」とは
②公認制にしている理由
③「FIFA 公認代理人」になるには
P4
3.代理人の仕事
P6
4.移籍及び移籍金問題の現状
① 移籍制度の変遷
② 移籍金の存在理由
③ 「移籍金問題」のポイント
P7
5.成果と課題
P12
6.質問用紙に対する回答と全体の反省
P15
7.グループワークの分担
P17
8.参考文献
P18
2
P5
P10
P11
1. テーマ設定及び問題設定について
1998 年に中田英寿選手がイタリア・セリエ A のペルージャに移籍したのを契機に、
日本人プロサッカー選手が海外クラブに移籍するというケースが増えてきている。実
際、稲本潤一選手(アーセナル、イングランド)
、小野伸二選手(フェイエノールト、
オランダ)
、広山望選手(フラメンゴ、ブラジル)らが現在活躍の場を海外に移してい
る。最近では、中村俊輔選手のレアル・マドリードへの移籍話が新聞紙上を賑わせた
こともあった。このように、選手が海外移籍をする際によく耳にするのが「FIFA 公認
代理人」という言葉である。そもそも、海外移籍に際しなぜ代理人が必要なのか(国
内移籍の場合は代理人が出てくるケースが少ない)
、そしてサッカーの場合何故「FIFA
公認」という肩書きが付くのか、ということがいまいちはっきりとしていないのが現
状だ。このようなことを明らかにするとともに、現在のサッカー界における移籍・代
理人の問題についての詳細を知ることが、今後のサッカーを考えていくうえで必要で
あると思ったのであった。なぜなら、今日におけるサッカークラブ(特にヨーロッパ
のビッククラブ)は、いかに利益を追求するかに重点を置くようになってきており、
それは様々な要素がからまりあって生じた状況なのだが1つとしてあげられるのが
「移籍金の存在」であるからだ。そして、
「移籍金」と「代理人」は決して離して考え
られるものではない。
代理人が選手と最も関わりを持つ機会は、当然選手が移籍をする時である。その際、
最近の傾向として、代理人が果たす役割が大きくなってきており、その象徴として挙
げられるのが移籍金の高騰である。移籍金とはよく「選手の価値をあらわす値段」と
言われているが、正当な「価値」を代理人、クラブともに評価しているようには正直
思えない。選手をクラブの利益を増大させるための「商品」として扱い、
「いかに高く
売るか」が優先されているような気がする。代理人とクラブの駆け引きによって移籍
金の金額が吊り上げられた、という事実もあるほどだ。このような問題に対して、何
か対策案を出すことができないか。そう思い、代理人と移籍について調べることで、
同時に代理人のあるべき姿について重点をおきつつ、この問題に取り組んだ。
3
2.「FIFA 公認代理人」とは何か
①「FIFA」とは
FIFA 公認代理人について触れる前に、そもそも「FIFA」とは一体何なのかについ
て簡単に触れておこうと思う。
FIFA とは Federation Internationale de Football Association の略で、日本語
では国際サッカー連盟と呼ぶ。1904年、フランス、ベルギー、オランダなど欧
州大陸の7カ国で結成された組織で、世界のサッカーの総本山ともいえる存在であ
る。ワールドカップといったイベントの主催を務めるだけではなく、ルール改正を
決定したり、今回扱う移籍制度を制定するなど、司法的機能も持っているのが特徴
だ。現在の加盟国・地域数は国連や国際オリンピック委員会(IOC)をしのぐ2
04であることからもわかるよう、その規模は単なるスポーツ機関にとどまらず政
治的力を発揮する機会も少なくない。その例として、今年行われるワールドカップ
が日本と韓国の共同開催で行われることに決定されたことが上げられるだろう。
②公認制にしている理由
FIFA のサイトには代理人に関して以下のような記述がある。
「選手およびクラブは、他の選手やクラブと交渉を行う際に、自己を代理しその利
益を擁護するアドバイザー(注:代理人と同義)のサービスを使うことができる。
但し、そのアドバイザーは国際間移籍であれば FIFA の、国内移籍であればその国の
協会のライセンスを保持していなければならない。そして、近い親類、弁護士を除
いて、その資格を持たない代理人のサービスを利用することはできない」
(http://eee.eplus.co.jp/soccer_plus/sp_003.html 19∼26行目から抜粋)
国際間移籍では単なる代理人ではなく、何故「FIFA 公認」という肩書きがついて
いるのであろうか。それは以下の理由による。
サッカーの世界は選手の移籍市場がボーダーレス化している。あらゆる国の人間
が「サッカープレーヤー」という共通項のみで、あらゆる国に混在しているのだ。
従って、国によってルールや習慣が違うために、移籍の際の契約上のトラブルが発
生することが少なくない。また、その世界的な人気から移籍金や年俸が高騰し数多
くの代理人が動き回り、なかには選手の怪我を隠したり、代表歴を偽ったりして売
り込む代理人が出てきた。そうしたトラブルを未然に防ぐために、FIFA は自分たち
が決めた国際的なルールに従って選手の契約や移籍の交渉を行う代理人に「公認代
理人」という肩書きを与えたのであった。
4
③「FIFA 公認代理人」なるには
昨年3月に FIFA が代理人に関する新規則を発表し、
「FIFA 公認代理人」の資格
を得ることが若干やさしくなった。しかし、依然として厳しい審査が存在している
のは事実で、ここではその手順を追ってみようと思う。
まず、資格を得るためには、志願者が以下の条件に当てはまっている必要がある。
(1) サッカー界のルールおよび諸事情を熟知し、サッカー界の発展への寄
与が期待できる者であること
(2) 日本国籍を有する個人または日本に5年以上居住している個人である
こと
(3) 犯罪暦を有しないこと
(4) 日本サッカー協会、クラブまたはそれらと関係する組織においてなん
ら地位を占めていないこと
(5) 日本サッカー協会理事、都道府県サッカー協会、加盟団体(Jリーグ、
JFLのクラブ)いずれかの推薦が受けられること
(以上、http://eee.eplus.co.jp/soccer_plus/sp_004.html から抜粋)
その後は、以下の通り。
ⅰ日本サッカー協会や都道府県の協会、あるいはJリーグのクラブ、日本サッ
カー協会の理事の方の推薦を受ける
↓
ⅱ書類選考
↓
ⅲ筆記試験(内容はFIFAの定めた選手の移籍に関する規約や各国サッカー
協会の規約、契約に関わる民法の知識など。各協会が3月と9月
の年2回行う。
)
↓
ⅳ合格した上で、各国協会が志願者が代理人に値する人物と判断した時にライ
センスが与えられる。その際、損害賠償保険を結ぶことが求められる
以前は、筆記試験の上に面接試験があった、最終的な判断を FIFA が下す、保険加
入ではなく約1400万を供託金としてスイス銀行に振り込む必要があった、など
厳しい条件だったが、代理人の数を増やすためか上記のように緩和されている。
5
3.代理人の仕事
では、代理人の受け持つ仕事は一体どういうものであろうか。
当然のことながら、もっとも大きなウエイトを占めるのが選手の移籍を扱う「エー
ジェント」としての仕事である。一般的に選手達は契約に関する規則や契約に関連し
た法律について細かい知識を持っていないため、クラブと単独で交渉を行っては、不
利益を被るケースが少なくない。代理人はそういった選手の代わりとなってクラブと
の間でより良い条件で契約を交わすことが仕事なのである。
また、
「マネージャー」としての役割も担う場合もある。選手が自分の持っている能
力をピッチで最大限に出せるように、それ以外のことをサポートするのも代理人の仕
事なのだ。CMなどの副業を探すといったビジネス以外の面でも、時には選手を教育
し知識を与えることもマネージメントの一環として挙げられる。さらに、サッカー選
手としての寿命は10年ほどと短いために、財産の問題や将来設計の問題といった生
活設計についてのアドバイスをすることも重要な仕事になる。
このように代理人の仕事は幅広い分野にまたがっている。そのため一人の代理人が
選手の全てをサポートできるわけではない。例えば、国際移籍の際には国際弁護士に
契約書のチェックをしてもらったり、税金の問題では税理士に協力してもらったりす
る。また、選手が海外に移籍した場合、現地での生活をサポートすることも重要な仕
事なので、現地のスタッフや人脈が豊富でないとならない。このように代理人には幅
広いネットワークをもっていることが要求されるのである。一口に代理人と言っても、
受け持つ仕事の量と幅は我々の想像を優に超えたものなのだ。
6
4.移籍及び移籍金問題の現状
ここでは、サッカークラブ間での選手の移籍についての制度の変化を見るとともに、
なぜ移籍金というものが存在するのかを考えることで、現在の移籍金問題のポイント
を挙げていこうと思う。
①移籍制度の変遷
現在複雑化している選手の移籍制度だが、実はこのようになったのは最近ことであ
りそれまでは非常に単純なものであった。複雑化するきっかけとなったのが199
6年のいわゆる「ボスマン判決」である。
それ以前(つまりボスマン〈ベルギー1部リーグに所属していた無名のサッカー選
手〉が提訴するまで)における選手の移籍制度では、契約が終了した選手にも移籍
金が発生する点が大きな特徴であった。つまり、あるチームとの契約が終了して選
手が移籍をしようとしても、所属チーム側が高額な移籍金を移籍先のチームへ要求
することで、実質的に移籍を阻止できるのであった。この制度の下では、クラブが
選手を拘束することが可能になってしまう。実際、そのような被害にあったボスマ
ンがベルギーの裁判所に提訴したことで、移籍制度が見直されることとなる。
ボスマンが主張したのは、EU の基本法であるローマ条約では、EU 内での「労働者
の移動の自由を認め、労働条件における差別の禁止」が全面的に認められているの
に対し、当時の移籍制度はそれに反している、ということであった。
この問題はベルギーだけの問題ではなく、EU 全体の問題であったため、最終的な判
断はヨーロッパ司法裁判所に委ねられ、以下の判決を下した。
(1)プロサッカー選手とクラブとの契約が終了し、その選手が EU 加盟国の市民で
ある場合、クラブは選手が他の EU 加盟国のクラブと新しい契約を結ぶことを
妨げたり、移籍先のクラブに移籍金や育成費等を要求することによって移籍を
困難にしてはならない。
(2)EU 加盟国の市民であるプロ選手の国籍に関して、サッカークラブ間の試合にお
いて制限を設けてはならない。
これが移籍制度を根本的に揺るがしたボスマン判決である。そして、これは移籍制
度にとどまらず、サッカー界全体にも大きな影響を与えることになる。
7
その1つが契約に関するクラブと選手の力関係の変化である。従来のサッカー選手
はクラブとは1年契約しかすることができなかった。複数年契約すると選手が怪我
した場合など、クラブ側にかかるリスクが大きくなってしまうからだ。クラブとし
ては、先ほども延べたように契約が終了した後にも移籍金が発生するため、複数年
契約する必要がなかったのである。ところが、判決以後、選手は契約が終了すれば
自由に移籍することが可能になったため、クラブは戦力として必要な選手に対して
は、3年程度の複数年契約を結ぶ必要になってきた。つまり、クラブが選手を拘束
するのが難しくなってきたわけだ。
もう1つがヨーロッパサッカーの巨大スポーツビジネス化である。判決内容にあっ
た EU 国籍における外国人の撤廃は、EU 内リーグのボーダーレス化を著しく促進した
ため、多くのビッグクラブは多くのスター選手を抱え込み、リーグ全体が多国籍化
していった。それにともない、リーグはレベルアップしていきリーグの人気が一層
高まったのである。その結果、90年代後半から有料テレビが普及したこともあり、
クラブのテレビ放映権収入は急激に増加する。それは、ビッグクラブのバブル的経
営、つまり移籍金の高騰を促すことにつながっていったのだ。このように、
「ボスマ
ン判決」はサッカーが国境を越えた巨大スポーツビジネスとなるきっかけであった
と言えよう。
ところが、急激な移籍金の高騰を正常な事態ではないと判断した EU が、1998
年「EU 内選手はその他の労働者と同等の権利を有する。従って、EU 法(EU 域内にお
ける労働の自由、及び公正な競争)に照らし合わせてみれば、移籍金などは不法行
為以外の何物でもない」という結論に達し、FIFA に対して2000年9月まで移籍
についてなんらかの対策案を講じなければ、移籍制度そのものを違法とみなす、と
いうことを要求したことで、移籍制度の更なる変革をせざるをえない状況となる。
FIFA は EU に対し、
「18歳から24歳までの若手選手の移籍に関しては、現在の高
額移籍金に代わる適正な育成補償金を支払う」という妥協案を提出するも、EU の合
意を得ることはできなかった。EU はその後、年内には最終案を提出するよう求めた
が、FIFA 側は結局年内に結論を得ることはできず、このような頑固で優柔不断なサ
ッカー関係者の対応に、EU 側も妥協し、最終調整と対応提出を FIFA 側にまかせるこ
とにする。
そして、2001年の3月に FIFA から次ページのような移籍制度が提案され、同
年7月 EU が承認、現在に至っている。
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[国際移籍に関する FIFA 規則改正の根本方針]
前文
「契約が終了した全ての選手は、世界中で自由に移籍することができる。ただし、
育成補償金に関する下記の2の規定に従うものとする。
」
1.未成年者の保護
選手の育成に安定した環境を確保するために、18歳未満の選手の国際移籍ま
たは最初の登録は、一定の条件を満たした場合にのみ認められる。
2.若い選手に対する育成補償金
選手の才能を増進し競争を促すためには、クラブが若い選手の育成に投資する
ための財政的および競技的な動機が必要である。原則として、23以下の選手
の移籍には、クラブに対して育成補償金が支払われる。
3.契約の安定と維持
契約期間は国内法に応じて最低1年から5年とする。クラブ、選手および一般
大衆にとって、契約の安定は最も重要である。選手とクラブの契約関係は、サ
ッカー特有の必要性に応じて、選手とクラブの利益の正しいバランスを計り、
競技の秩序と適切な機能を維持するような制度により統括されなければならな
い。
4.移籍可能期間
競技の秩序と機能を保護するために、1シーズンに2回の統一の移籍可能期間
を設ける。移籍は1選手につき1シーズン1回を限度とする。
5.紛争解決、懲罰および仲裁制度
選手やクラブが民事裁判所に訴える権利を損なうことなく紛争解決・仲裁制度
を設ける。
6.見直し
FIFA はこの原則の採択から3シーズン目に、より総合的な見直しを行う。
(http://www.sportsnetwork.co.jp/jl/jl_advbn/vol44.html より抜粋)
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②移籍金の存在理由
以上は移籍制度の変遷についての事実を述べてきたわけだが、ここでは常に問題の
中心となっている「移籍金」は何故必要とされているかについて見てみることにす
る。
「移籍金」という考え方の根本にあるものはまずひとつ、
「投資に対する補償のた
め」ではないだろうか。例を挙げて考えてみよう。
あるクラブ(クラブ A とする)が一人の選手(X とする)を他のクラブ(クラブ B)
に移籍させるケースを想定する。A は X を保有している間、X に対して様々な投資を
していることになる。なぜなら、給料を払ったとしても X が活躍する保証はどこに
もないし、同時に X が直接的に A に利益を与えるわけでもないからだ。当然、給料
だけではなく練習場の確保・整備、用具の提供なども投資としてとらえることがで
きる。つまり、クラブが選手を保有するということは、
「雇用主」と「被雇用者」と
いった普通の企業の関係というよりもむしろ、クラブは「選手」という「株式」に
投資していると言ったほうが、よりうまく表現していると言えよう。さらにクラブ
としてはその選手を育成してきた、という事実もある。
そのため、選手が移籍する際には、
「株の保有権」
(実際にはこんなものないかもし
れないが)を渡すのと同様にして、それまで X を保有し育成してきた A が被る負の
影響(主に金銭的な面、つまりそれまでの投資が無駄にならないよう)を少しでも
へらすために B は移籍金を払うのである。
もう1つが、
「選手がクラブにとっての財産であることから生じる、戦力的損得差
の埋め合わせのため」ではないだろうか。
そもそも、クラブは「チームを勝利に導くため」に選手を獲得しており、選手が期
待されていることは「チームに勝利をもたらすこと」である。おおざっぱな言い方
をしてしまえば、選手はクラブにとってチームの「駒」に近い存在である一面も確
かにあるのだ。従って、選手の移籍は、チームにとって戦力ダウンという直接的な
ダメージを与えることになり、逆に移籍先のチームは戦力アップ(必ずそうなると
は限らない)することになるので、戦力の差を完全に金で埋め合わすことはできな
いが、少しでも負担を軽減するために移籍金が存在するのだ。
このように、移籍金は移籍させる側のクラブと移籍先のクラブ間の関係を、できる
だけ平等にするために生まれたシステムであると考えることができる。合理的な考
え方だと評価することもできよう。しかし、では何故移籍金が問題視されるように
なってしまったのだろうか。次はその点について考えてみる。
10
③「移籍金問題」のポイント
これまで見てきたように、移籍金の存在は必然といってもしかたがないような気
がする。実際、テレビ収入をあまり期待できない中小クラブにとって選手の移籍金
は現在大きな収入源になっているため、いきなり全てを廃止するということは現実
的に無理な話なのである。もちろん、EU が主張していることは正当なことで、
「労働
の自由」の理念は守られるべきなのだが、しかしそれだけの理由で存在を否定する
こともできない。このような移籍金の「存在の是非」ではなくて、むしろ不当に値
段が高騰している事実、選手の評価があいまいになされているという事実、といっ
たことを移籍金を考えた時に問題として取り上げるべきではないかと私達は思った
のである。どういうことか例を挙げつつ、具体的に述べていこうと思う。
まず、移籍の際に発生した移籍金のなかで高額なものをいくつか挙げてみる。
ジダン(ユベントス→レアル・マドリード)
約80億円
フィーゴ(バルセロナ→レアル・マドリード)
約62億円
クレスポ(パルマ→ラツィオ)
約58億円
オーフェルマルス(アーセナル→バルセロナ)
約37億円
バティストゥータ(フィオレンティーナ→ローマ)
約36億円
このように見てみると、あることに気付かないだろうか。それは、どの選手もい
わゆる「スター選手」と言われている選手であり、同時に攻めを担当する選手であ
るということだ。
これらのどこが問題かというと、まず、スター選手とそれ以外の選手の移籍金金
額の差があまりに大きいということだ。一般の選手に発生する移籍金の金額はだい
たい5億円前後、多くて10億円程度である。それと比べて、スター選手のものは
あまりに高額なのだ。確かに、スター選手は実力も兼ね備えているから、ある程度
高くなるのは理解できる。しかし、現状を見る限りその高騰ぶりは決して正当であ
るとは言えないのではないだろうか。
また、攻めの選手だけに高額な移籍金をが発生するという状況もサッカーという
スポーツの本質をとらえているとは言えないだろう。ディフェンスやゴールキーパ
ーの選手が人気や評価を得にくいのは認めざるを得ない。仕事の内容が人の目には
地味に映るからだ。しかし、当然のことながら彼らが居て初めてサッカーの試合が
成り立つわけで、地味だからといって攻めの選手よりも評価が低くなる、というこ
とが起きてはならない。そもそも、評価の対象が全く違うからだ。評価基準の適当
さが目立っているような気がしてならない。
このような問題点を挙げた上で、代理人のあり方に留意しつつ、私たちが考えた
対策案を次の章で紹介しようと思う。
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5.成果と課題
前章で挙げた問題点を整理すると以下のようになる。
①「スター選手」とそれ以外の選手で、発生する移籍金の金額の差があまりに大きい
→実力の差以上のものが反映されているとしか考えられない。
②攻めの選手と守備の選手での評価の差が大きい
→評価する基準が違うため、差が生じること自体に不可解な点がある。
上記から判断できることとして挙げられるのが、
「選手の価値」が複雑になっている
のではないか、ということだ。つまり、価値を判断する際に使用する基準がいくつか
存在するために、このような差が生じているのではということである。もし、1つの
価値基準しかなかったならば、大きな違いが生じるはずはないのである。では、
「選手
の価値」として考えられるのは一体何か。
考えられる「選手の価値」
1.
「サッカープレーヤー」としての価値
→つまり、戦力としてどれだけの働きを期待できるか。選手の実力。
2.クラブに利益をもたらす「商品」としての価値
→その選手のレプリカユニフォームが売れるかどうか。
観客を呼べる選手かどうか
テレビの放映権の拡大につながるかどうか
といった、付加価値要素の有無。
私達はこの2つが大きなものとして挙げられると考えた。そして、現状では、両者
が混同されている、むしろ後者のものが優先されている傾向が強いからこそ、先に述
べたような差が生まれているのではないか、という結論に達した。そうすれば、何故
スター選手の移籍金が高くなるのか=評価が高くなるのか、攻めの選手の評価が守り
の選手と比べると高くなりがちなのかが、説明できるのである。つまり、スター選手
は集客力があり、グッズの売上の上昇が期待できるから、攻めの選手は人気が出やす
くスター選手と同様な効果が期待できるために、
「商品」としての魅力が多く、結果と
して移籍金が高まる傾向になっているのである。
これは、移籍制度について述べた時にも書いたが、最近のサッカー界が巨大ビジネ
ス化しているために起こった現象といえよう。このことを無視することは決してでき
ない。しかし、だからといって「プレーヤー」としての価値が軽視されては本末転倒
であるような気がする。
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そこで私達は、このような事態を引き起こしている原因は、1人の代理人が全ての
面を把握しなければならない現状であるとした。現在の1人で全てを担う状況では、
サッカー界全体にビジネス傾向が強まっている以上、どうしても一方に偏りがちにな
ってしまう。そして、二通りの「価値」があるのならば、二通りの「代理人」を用意
すればよいのではないだろうか、という考えにたどり着く。
つまり、「サッカープレーヤー」としての価値を評価するのを専門とする代理人と、
「商品」としての価値を評価するのを専門とする代理人に分けることで、偏りを無く
しより公平な評価を選手に下すことができるのではないかと考えたのである。ここで
は前者を「PLAYER 評価」代理人、後者を「MERCHANDISE 評価」代理人と名付け、それ
では両者には一体どういう人材が要求されるのかについて述べることにする。
「PLAYER 評価」代理人
そもそも、サッカーというスポーツは、選手の動きについて客観的に評価するの
が非常に難しい。野球のように、成績が数字であらわれにくいからだ。実際、Opta
ポイントのように数値で選手の動きの点数化を試みているものもあるが、それが
基準になることは困難なのが実状である。
そのため、この代理人に要求されるのは、純粋にサッカーのプレーを分析する能
力だ。選手のプレーの良い点、悪い点を正確に把握する能力が求められると考え
られる。そして、移籍交渉の際には、選手の利点をアピールするだけではなくて、
クラブが求めている人材と担当している選手がプレーの面で合致するか、といっ
たことにも留意する必要がある。
「MERCHANDISE 評価」代理人
冷徹に選手を「商品」としてのみ扱う態度が一番に要求されると思われるこの代
理人は、サッカーに精通している必要がない。もちろん、全くわからない、では
仕事がつとまらないが、プレーの分析といったことまでできるひつようはない。
サッカーについての現状を把握している程度で十分であろう。しかし、その分選
手の何がクラブに利益をもたらすのか、逆に利益をもたらすためには何が必要な
のかといったことを、クラブと交渉する能力が問われる。同時に、大衆はサッカ
ーに何を求めて多額の金を払い続けてスタジアムに通い、有料テレビの受信料を
払うのか、といったサッカー市場についての理解は完璧になされている必要があ
るだろう。
以上が私たちが考えた新しい代理人の有り方である。このやり方の選手の評価以外
のメリットとしては、仕事内容が明確になったことにより効率化がはかれること、
「PLAYER 評価」代理人の方は引退後の選手の受け皿になれる可能性をもっていること、
13
などが挙げられる。
しかし、これにはいくつかの課題が存在している。2人にすることによって生じる
デメリットもいくつか考えられるのだ。1つは、1人に任せていたものを2人にした
わけなので、単純に人件費の増加。もう1つは、2人の意見をどうのようにして統合
し、移籍金へと反映させていくか、ということだ。前者に関して言えば、代理人の給
料は移籍金の中から出ているわけで、各代理人に分けられる割合をあらかじめ決めて
おけば人件費増加による混乱は起きないように思える。問題は後者であるが、解決策
をここで考えることは正直難しい。強いてあげるとすれば、選手の評価額のモデルを
定め、それを元に判断していくというものが考えられる。
以上が私達がこのフィールドワークを通じて得た成果である。
14
6.質問に対する回答と全体の反省
この章では、発表に対して寄せられた質問用紙に対しての回答と、発表・レポート
全体を通じての反省を行う。
堀寛史さん「移籍金が高騰する前と今との違いは何なのでしょうか」
→4章でも少し取り上げたが、より具体的にみてみる。移籍金の高騰を招いた原因は
2つあって、1つが移籍制度の変化によるスター選手の移籍の実現、もう1つがテ
レビマネーの流入によるクラブの肥大、である。
ボスマン判決以前はスター選手の移籍は実質なかった。何故なら、クラブが移籍を
阻止可能な制度であったためである。クラブのスターをみすみす手放すことはない。
法外な値段を設定することでその選手を保持できた。そのため、移籍があったとし
てもあくまで「普通」の選手に対するケースが多く、移籍金の金額が高まることは
なかったし、高く設定したとしても買うクラブはなかった。
ところが、移籍制度が変化すると、クラブの選手に対する拘束力は弱まり、選手の
移籍の自由度が増した。スター選手にもそれがあてはまり、移籍する際には当然ク
ラブは高い移籍金を要求するが、同時期にテレビマネーの流入によりビッグクラブ
はそれを払える資金力を手にしていたため、高額の移籍金が生じる移籍が実現する
ようになったのだ。
佐久間さん「移籍金の高騰の大きな原因に、移籍金の何%かが代理人の収入となる、
というシステムが挙げられると思う。それについてはどう思うか。
」
→確かに、代理人からしてみれば移籍金を上げれば上げるほどそれだけ自分の収入が
増えるわけだから、高騰を招いている原因のひとつではある。
しかし、これが大きな原因となっているかは疑問に思う。移籍金はクラブが払うも
のであるわけだから、代理人の目的は単に移籍金を上げることではなくて、クラブ
にぎりぎり払える金額を交渉の末に払わせることであろう。自分の収入のためにた
だ闇雲に上げたところで、クラブの限界を超えては何も意味はない。影響がないと
は言えないが、最たる物とも言い切れないと思う。
林明子さん「アフリカで有望な少年を見つけ、少ない金で親から買い取る代理人の
話についての対策についてもっと欲しい」
→4章で取り上げたように、今後は18歳以下の選手の移籍は頻繁には行えないよう
に FIFA は定めている。ただ、根本を廃絶するためには、より厳格な規則(斡旋した
代理人の資格の剥奪、多額の罰金等)を設置する必要を感じる。
15
以上が主な質問とその回答である。その他に多く見受けられたのが、
「新たに出した
案が机上論にとどまっている」という意見であった。
指摘のとおり、私たちが結論として出した案は机上論に過ぎない。現場の人に提案
してその反応を聞くといった、生の声を聞けなかったことが一番の反省点として挙げ
られるだろう(実際は、直前にキャンセルされるという不測の事態が起きたのだが、
そこからすぐに立ち直るべきだった)
。現場の意見を聞くか聞かないかで、案が持つ説
得力は全く違うものになるだけに、ここは徹底すべきだった。
また、今回代理人を考える上で、移籍制度についての考察もしてきたわけだが、
「移
籍」の当事者である選手の話も聞いてみるべきたった、とも思う。テーマが「代理人」
であったためにそちら側の視点からしか捉えることができていない、というのが実感
としてある。そこまでやる余裕がなかったのも事実だが、選手、クラブ、代理人3者
の立場に立って見ることで、より問題の根底を掴むことができたのではないだろうか。
ただ、反省点は多々あるものの、どんな形であれ1つの解決案を自分たちの手で作
り出したことには非常に意義を感じている。これを契機に、今後サッカー界の様々な
問題を自ら分析し、それに対する意見を持つようにしていくことが、今レポートをよ
り意味あるものとするのではないだろうか。
16
7.グループワークの分担
グループワークの進行過程及び、役割分担は以下の通りである。
10月下旬∼中間発表前
テーマを「FIFA 公認代理人」とし、何を調べてい
くか検討し、大枠を決定
中間発表後∼12月上旬
移籍、代理人に関する資料を徹底的に集めると同
時に、基礎知識を得る。
12月16日
高原直秦選手の移籍を担当した代理人、大野氏の
話を聞ける予定も、突然キャンセル。
1月上旬∼中旬
代理人だけではなく、移籍制度にも重点を置き、
問題点を挙げ対策を考える。
1月下旬∼
発表の準備及び最終報告書の作成
仕事内容:
(資料集めは全員やっています)
竹石義勝
・・・全体指示、資料取捨選択、プレゼンテーション担当
浅井啓輔
・・・対策案のつめ(一番初めに思いついたのは彼)
プレゼンテーション担当
栗原一郎
・・・資料の取捨選択、報告書担当(前半部分)
曽根原裕樹
・・・レジメ作成、報告書担当(後半部分及び、全体の構成)
17
8.参考文献
『サッカー株式会社』
P187
第Ⅱ部
文藝春秋著
クレイグ・マキグル
ピッチの芝は黄金色
『スポーツグラフィック ナンバープラス
P112
『サッカー批評
FIFA 公認代理人
November 2001』 文藝春秋
−夢を形にする仕事―
issue 05,06,07』
isuue05
13移籍制度を巡る権謀術数
双葉社
P51
FIFA の画策する[21世紀世界サッカー革命]
P64
「警鐘」微かに残された夢と希望のために
isuue06
P74
栄華を貪るフットボール産業の未来
isuue07
P68
セリエ A と外国人プレーヤー
『ワールドサッカーグラフィック vol.88,90,97』
vol.88
p14
ビクターエンタテイメント
新トレードルールでヨーロッパサッカー崩壊
の危機
vol.90
p14
新トレードルール論争の行方
vol.97
p12
ヨーロッパ移籍パーフェクトガイド
http://www.fifa.com/ FIFA 公式サイト
http://www.sportspace.co.jp/biz/news/2001_0302_01(02).html スポーツスペース
http://eee.eplus.co.jp/soccer_plus/index.html
コンテンツ「フィールド外の名脇役」
第3回、第4回 FIFA 公認代理人(1)
、
(2)
http://www.sportsnetwork.co.jp/jl/jl_advbn/vol58.html
スポーツジャーナリズムのコラム
http://sports.yahoo.co.jp/soccer/2002c/views/
ヨーロッパ特派員情報から
『大地震の予感』9月15日号
『移籍金制度の行方』9月22日号
18
(上記にあるアドレスは全て2月3日の時点で改めて確認ずみ)
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