後腹膜悪性腫瘍 後腹膜腔に悪性腫瘍が発生することは比較的まれであるが、その種類は多彩である.本 稿では、後腹膜悪性腫瘍の総論として後腹膜腔の範囲、死亡数からみた疫学および臨床報 告例からみた多彩性などについて記述する.各論では、神経芽腫、悪性神経鞘腫、パラガ ングリオーマ、脂肪肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、線維肉腫、血管肉腫、悪性血管周皮腫、 悪性繊維組織球腫、形質細胞腫、胚細胞腫瘍、ユーイング腫瘍、悪性間葉腫、粘液性嚢胞腺 腫およびその他の後腹膜悪性腫瘍について記述する. 目 次 後腹膜悪性腫瘍総論 ............................................................................................................................3 後腹膜悪性腫瘍各論 ............................................................................................................................5 Ⅰ神経芽腫 ............................................................................................................................................5 Ⅰa 成人神経節芽腫 .........................................................................................................................6 Ⅱ悪性神経鞘腫 ....................................................................................................................................8 Ⅱa 悪性末梢神経鞘腫 .....................................................................................................................8 Ⅱb 悪性 Triton 腫瘍 .........................................................................................................................8 Ⅲパラガングリオーマ(褐色細胞腫)..........................................................................................10 Ⅳ脂肪肉腫 ..........................................................................................................................................13 Ⅴ平滑筋肉腫 ......................................................................................................................................15 Ⅵ横紋筋肉腫 ......................................................................................................................................17 Ⅶ線維肉腫 ..........................................................................................................................................19 Ⅷ血管肉腫 ..........................................................................................................................................20 Ⅸ悪性血管周皮腫 ..............................................................................................................................20 Ⅹ悪性繊維性組織球腫 (malignant fibrous histiocytoma:MFH) ...................................................21 ⅩⅠ形質細胞腫 ..................................................................................................................................21 ⅩⅡ胚細胞腫瘍 ..................................................................................................................................23 ⅩⅡa 悪性(未熟)奇形腫 ...........................................................................................................26 ⅩⅡb 絨毛癌 ...................................................................................................................................27 ⅩⅢユーイング肉腫 ..........................................................................................................................28 ⅩⅣ悪性間葉腫 ..................................................................................................................................29 ⅩⅤ粘液性嚢胞腺癌 ..........................................................................................................................30 ⅩⅥその他の悪性後腹膜腫瘍 ..........................................................................................................31 -1– Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 後腹膜悪性腫瘍索引 ..........................................................................................................................33 -2– Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 後腹膜悪性腫瘍総論 図1:後腹膜悪性腫瘍死亡数 人 350 300 250 200 150 100 50 0 19 76 19 年 78 19 年 80 19 年 82 19 年 84 19 年 86 19 年 88 19 年 90 19 年 92 19 年 94 19 年 96 19 年 98 20 年 00 20 年 02 20 年 04 20 年 06 年 後腹膜悪性腫瘍の定義とし ては、病理解剖学的に、上界は 横隔膜より、側方は腰方形筋の 外側縁、下界は骨盤隔膜に至る 間の後腹膜腔に発生する悪性腫 瘍ではあるが、結腸、直腸、12 指腸、膵臓、腎臓、副腎、尿管、 膀胱および女性性器から発生し た悪性腫瘍は除外され、後腹膜 悪性腫瘍は全悪性腫瘍の 0.2 ー 3%といわれている[1)]. 人口動態調査[2)]によると 本邦における後腹膜悪性腫瘍の 年間死亡数は 150 ー 303 例で近年 若干減少傾向がみられる(図 1)、また性別ではこの間に男性 4,239 例、女性 3,799 例が死亡 しており若干男性が多い. 臨床的には、本邦の悪性後腹 膜腫瘍は 1975 年に天野ら[3)] が後腹膜腫瘍 1104 例を集計し そのうちの悪性腫瘍 370 例の組 織像を分類している. 男性 女性 表1:悪性後腹膜腫瘍の種類 報告者 報告年 文献 リンパ腫 神経芽細胞腫 MFH 脂肪肉腫 平滑筋肉腫 横紋筋肉腫 細網細胞肉腫 繊維肉腫 血管(リンパ)肉腫 円形細胞肉腫 紡錘細胞肉腫 多形肉腫 巨細胞肉腫 混合肉腫 黒色肉腫 神経肉腫 内皮肉腫 分類不能肉腫 間葉腫 胚細胞腫 カルチノイド 奇形種 神経鞘腫 未分化腫 平滑筋芽腫 腺癌 天野 1975年 2 14 26 38 24 23 26 25 22 11 17 15 1 5 1 4 11 17 4 織畑 1980年 1 3 5 1 朝長 1986年 3 100 156 88 57 1 Ishiguro 1987年 6 1 2 2 2 3 50 斎藤 1988年 4 13 32 29 18 3 2 2 南部 池田 1989年 1998年 8 9 1 3 2 5 江川 2000年 10 2 1 4 3 1 3 自驗 2004年 5 1 1 1 1 1 1 1 1 2 4 2 40 49 1 2 1 2 1 1 1 6 1 その後朝長ら[4)]が 1986 年に 1903 年ー1983 年までの 1,64 例を集計している.更に 1988 年に斎藤ら[5)]が 1982 年から 1986 年の間の 5 年間の 107 例を集計している. 著者も 1986 年から 2000 年までの間に 1048 例の悪性腫瘍を経験しているが、そのうち悪 性後腹膜腫瘍はリンパ腫を含めて 6 例で、全悪性腫瘍の 0.6%である[6)].また織畑ら [1)]は 11 年間に経験した 13 例を報告し全入院患者腫瘍の 0.1%としている.Ishiguro -3– Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved ら[7)]は 25 年間に経験した 15 例を、溝手ら[8)]が 11 年間に経験した 10 例を、南部ら [9)]は 19 年に経験した 8 例を、池田らは[10)]15 年 7月間に経験した 13 例を、江川 らは[11)]33 年間に経験し た 16 例を報告しているに過ぎ ない(神経節腫 2 例(Ishiguro [7)]、南部[9)]各1例) がそれぞれの神経芽腫に含まれ る)(表1). 本邦の悪性後腹膜腫瘍の性別 年齢については、天野ら[3)] の報告しか見あたらないのでこ れを引用すると、性別では男性 87 例女性 64 例で男性が女性の 1.4 倍となる.年齢では男女共 に 51-60 歳にピークを認める が、10 歳以下にも小さなピーク を認める. 図2:悪性後腹膜腫瘍性年齢 人 25 20 15 10 5 0 0-1歳 1-10 歳 11-20 21-30 31-40 41-50 51-60 61-70 歳 歳 歳 歳 歳 歳 71歳 以上 男性 2 7 7 5 7 18 23 13 5 女性 2 8 3 7 10 12 13 3 6 それぞれの悪性腫瘍については各論で記載する. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)織畑秀夫、山添信吉:悪性後腹膜腫瘍の診断と治療 榊原 千 監修 今日の臨床外 科 第 20 p299-312、メヂカルビュー、東京、1980 2)厚生労働省大臣官房統計情報部編:昭和51年ー平成 19年 人口動態統計,厚生統 計協会,東京,1978ー2009 3)天野正道、田中啓幹、大森弘之、佐藤義信:後腹膜類皮嚢腫の1例-後腹膜腫瘍本邦 報告例 1104 例の統計的観察- 西日泌尿、37:734-741,1975 4)朝長 毅、奥山和明、永尾孝一,田畑陽一郎、榎本和夫,高 在完、日浦利明、佐藤 博、磯野可一:多彩な組織像を有する後腹膜脂肪肉腫の1治驗例 癌臨、32:927-932,1986 5)斎藤和男、古畑哲彦、小川勝明、植草富二郎:後腹膜腫瘍の6例 日泌尿会誌、 79:918-924,1988 6)三方律治,今尾貞夫,深澤 立:東京都立墨東病院における尿路性器癌の臨床統計: 1986 年ー2000 年の入院患者について 泌外 17(2):167ー172,2004 7)Ishiguro M.,Inoue Y.,Hamazoe R.,Maeta M.:Twenty-five years of experience in the treatment of primary retroperitoneal tumors Yonago Acta Medica 30:177-184,1987 8)溝手博義、藤政篤志、龍 忠彦、石見賀正:教室で経験した後腹膜腫瘍の統計的なら びに臨床的観察 外科 42:1032-1035,1980 9)南部明民、熊本悦明、高木良雄、斎藤誠一、広瀬崇興、塚本泰司:後腹膜神経線維腫 の1例-後腹膜腫瘍 15 例の臨床的検討- 泌外、2:1143-1147,1989 10)池田英二、小野監作、大塚康吉、藤田康文、渡辺啓太郎、湯浅一郎、小西寿一郎、 内藤 稔、森山重治、辻 尚志、古谷四郎、名和清人、國友忠義:後腹膜原発性悪性腫瘍 13 例の検討 外科治療 79:122-125,1998 11)江川雅之、長谷川徹、小松和人、高 栄哲、高島三洋、横山 修、越田 潔、打林忠 雄、並木幹夫、池田大助:原発性後腹膜腫瘍の臨床的検討 泌外、13:649-652,2000 -4– Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 後腹膜悪性腫瘍各論 Ⅰ神経芽腫 交感神経原性腫瘍である神経節腫、神経節芽細胞腫、神経芽細胞腫は神経芽腫群腫瘍と いう名称で包括されている[1)].神経芽腫は交感神経から発生する悪性腫瘍であが、 胸部 6.7%、後腹膜 21.3%、副腎 58.1%、腹部 4.2%その他 9.7%に分布して発生している[1)] 、 このため後腹膜に限定した神経芽腫の記述は少ない. 神経芽腫の年齢は 2 歳未満が 48.8%を占めており、14 歳以 上では殆どみられないとされている(表1)[1)].日本 小児外科学会悪性腫瘍委員会[2)]の集計によれば、1987 年から 2006 年までの神経芽腫は 4,319 例で最も多い.2006 年登録 398 例中神経芽腫は 67 例(17%)でそのうち 15 例は 表1:神経芽腫の月齢 月齢 0-6月 6-12月 12-18月 18-24月 24-36月 36-42月 42-48月 48-60月 60月以上 例数 65 58 55 39 61 27 19 31 70 % 14.6 13 12.4 8.8 18.2 6.1 4.3 7 15.7 後腹膜発生である[2)]. 思春期以降の本邦の後腹膜発生神経芽腫は極めて稀で、市野ら[3)]が泌尿器科領域 では 23 例目となる 34 歳男性例を報告しているが、その後山田ら[4)]が 27 歳男性症例 を報告しているに過ぎない. 臨床症状としては、腹部腫 表2:神経芽腫の病期分類 瘤触知が最も多く 50-70%に StageⅠ StageⅡ みられ[5)]、その他腹部 StageⅢ 膨満などである.肝転移、皮 StageⅣA StageⅣB 下転移などの症状や、後腹膜 神経芽腫では脊椎菅内への腫 StageⅣS 腫瘍が原発臓器に限局するもの 腫瘍が原発臓器を越えて浸潤、または局所リンパ 節転移を伴うが、正中線を越えないもの 腫瘍が正中線を越えて浸潤、または反対側リンパ 節転移転移を伴うもの 骨、実質臓器、遠位リンパ節に遠隔転移を伴うもの 原発巣がStageⅢで、遠隔転移が骨髄、皮下、肝 に限られるもの 原発巣がStageⅠまたはⅡで遠隔転移が肝、皮下 骨髄に限られるもの 瘍浸潤により両下肢の麻痺が現れることがある.75%にはカテコールアミンの代謝産物で ある、ホモバニリン酸(HVA)やバニリンマンデル酸(VMA)を尿中に排出する[5)]た め、この腫瘍のスクリーニング方としてもマーカーとしてこれらの物質の測定が行われる ことがある.画像診断法としては、超音波検査、排泄性静脈造影、X 線 CT,MRI,MIGB シ ンチグラフィ、骨シンチグラフィが挙げられるが、MIGB シンチグラフィを除いては神経 芽腫特有な所見は乏しい. 神経芽腫の病期分類は表2に示すが、この病期によって治療法が異なる.StageⅠとⅡの -5– Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 症例に対しては外科的な腫瘍摘除が第一選択となる.術後の化学療法としては、ビンクリ スチン 1.5 ㎎/㎡、シクロホスファマイド 300 ㎎/㎡隔週交代療法などが行われる.Stage ⅣA,並びに 1 歳以上の StageⅢ、StageⅣB の症例は予後不良群とされ、先ず強力な化学療 法を行って原発巣の縮小と遠隔転移巣のコントロールを待ったのち、外科的治療そして放 射線治療などを行う.化学療法はシクロホスファマイド、 THP-アドリアマイシン、 VP-16,CDDP を組み合わせた混合化学療法が用いられて[5)].予後は不良であり、2年 生存率は 30%といわれていたが、最近は早期発見が可能になったことと、化学療法の発達 により飛躍的に向上し、StageⅢの5年生存率が 70%に達している[6)]. Ⅰa 成人神経節芽腫 神経芽腫群に属する神経節芽腫が成人に発症すること は、極めて稀である.2002 年に香川ら[6)]が内外文 献から 20 歳以上の成人神経節芽腫 40 例を収集している が、Yamanaka ら[7)]の 1 例を加えると 41 例である. このうち邦人は 11 例である.また 41 例中 6 例が後腹膜 原発であった.成人神経節芽腫の性別は男性 18 対女性 表3:成人神経節芽腫治療法 治療法 根治切除 部分切除 放治 化療 根治切除+化療 根治術+放治+化療 部分切除+化療 放治+化療 なし 例数 12 1 3 3 4 2 5 3 6 23 例で女性に多く、年齢は 20 歳から 88 歳平均 42.0 歳であるが、20 歳代に最も多く年齢 とともに減少して 50 歳代で最低値を示し 60 歳代で再度小さなピークを認める(図).不 明の 2 例を除いた成人神経節芽腫の治療法を表3に示すが、 図:成人神経節芽腫年齢分布 14 根治手術が最も多く 16 例に行われそのうち 6 例には化学療法 12 10 や放射線治療ないしはその両方が追加されていた. 8 6 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 4 2 文 献 0 例数 1)大川治夫、北川龍一:後腹膜腫瘍 郎、高安久雄監修 20-29歳 30-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70-79歳 80-89歳 12 11 7 1 7 2 1 市川篤二、落合京一 新臨床泌尿器科全書 7巻A金原出版 東京 1983、p273-293 2)日本小児外科学会悪性腫瘍委員会:小児の外科的悪性腫瘍、2006 年登録症例の全国集 計結果の報告 日小外会誌、44:38-71,2008 3)市野みどり、鶴田 崇、小川秋實、市川徹郎、石井恵子、冨田康敬:後腹膜腔に発生 した成人神経芽細胞腫の一例 日泌尿会誌、92:632-635,2001 4)山田健志、杉浦英志、鈴木喜貴、高橋 満:広範な骨髄浸潤を呈した成人発症後腹膜 -6– Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 神経芽細胞腫の1例 癌と化療、31:2065-2069,2004 5)上田嘉昭、井上義之:神経芽腫 赤塚順一、上田嘉昭、藤本孟男、山崎洋次編 小児 がん 医薬ジャーナル、大阪、2000、p511-522 6)香川嘉彦、魚住二郎、塚原常宏、狩野武洋、藤山千里、真崎善二郎:成人神経節芽腫 の1例 西日泌尿、64:168-171,2002 7)Yamanaka M.,Saitou F.,Saitou H.,Nisimura S.,Sawada Y.,Tsukui A.,Kaimori M., Takahasi N.:Primary retroperitoneal ganglioneuroblastoma in adult Int.J.Urol.,8130-132,2001 -7– Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved Ⅱ悪性神経鞘腫 悪性神経鞘腫は Schwann 細胞に 由来する悪性腫瘍で、後腹膜腔に 発生することは稀である.1997 年 に本田ら[1)]は本邦報告 71 例 を集計している.彼らによると後 腹膜悪性神経鞘腫の年齢は 0-79 歳 表:後腹膜悪性神経鞘腫症例 報告者 報告年 松木 1996 上田 1996 五十嵐 1996 本田 1997 齋藤 1997 小山 1998 金 1998 金子 1998 塩崎 2001 多久島 2001 矢野 2002 松本 2002 年齢 41 17 69 56 77 53 59 74 29 51 69 56 性 女 男 女 男 男 男 男 女 女 女 女 女 主訴 腹部腫瘤 腹部腫瘤 腹部腫瘤 腹痛 血便 腹部腫瘤 下肢痛 腹痛 腹部腫瘤 発熱 腹痛 腹部腫瘤 治療 手術、化療 手術 手術 手術、化療 手術 手術 手術 手術 手術 手術 手術 手術 予後 文献 8月死 2 6月生 3 4月生 4 1年生 1 15月生 5 3月死 6 2年生 7 3年生 8 24日生 9 1年生 10 9月生 11 4年生 12 で、性差はなく、臨床症状は腫瘤 触知、腹痛、腹部膨満などの等の圧迫症状が主である.治療は外科的治療が原則であり放 射線感受性は低い.術後の補助化学療法が行われることもある.予後は不良で1年以内に 約 4 分の 1 が死亡している.本田らの報告には 1996 年の症例が含まれていないので彼らの 報告を含めて 1996 年以降の本邦報告 12 例[2-12)]を表に示す.この 12 例の年齢は 17 ー 74 歳平均 54.8 歳で、男性 5 例女性 7 例であった.症状は腫瘤触知腹痛など腫瘍による 圧迫症状が主であったが熱発を主訴とした症例もみられた.治療は全例外科的摘除がなさ れこれに化学療法を追加した例もみられる.予後は短期間しか解らないが1年以内に死亡 する症例もみられるが、3 年以上の生存例もみられる. Ⅱa 悪性末梢神経鞘腫 悪性末梢神経鞘腫(malignant peripheral nerve sheathtumor)は従来、悪性神経鞘腫、神 経線維肉腫、神経性肉腫と呼ばれていた神経原性悪性腫瘍を包括して、2002 年 7 月に悪性 軟部腫瘍取り扱い規約第 3 版で定義された[13)].これ以降の後腹膜腔に発生した悪 性末梢神経鞘腫は本邦では 3 例の報告がある[13ー15)]. Ⅱb 悪性 Triton 腫瘍 神経鞘腫と横紋筋肉腫とが混在する腫瘍を悪性 Triton 腫瘍といい、後腹膜原発のこの腫 瘍は本邦では 2 例の報告がみられるにすぎない[16)]. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)本田和也、千葉茂寿、加宅田和彦、村木 修、入澤千晴、山口 脩:後腹膜悪性神経 鞘腫の1例 泌外、10:1087-1089,1997 2)五十嵐信一、曽我賢次、大山則昭、内藤敬治、佐藤重雄、奈良幸一、磯部貞廣:腸骨 窩後腹膜に見られた悪性神経鞘腫の細胞像 産と婦、63:110-112,1996 3)松木孝和、常 義政、古川洋二、田中啓幹:レックリングハウゼン氏病に合併した後 -8– Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 腹膜悪性神経鞘腫の1例 西日泌、58:960-953,1996 4)上田純二、大畑佳裕、壬生隆一、田中雅夫、濱田 学:von Recklinghausen 病に合併し た後腹膜悪性神経鞘腫(末梢性神経腫瘍)の1例 日臨外 57:177-183,1996 5)齋藤竜一、石塚榮一、岩崎 晧、小林一樹:骨盤内後腹膜悪性神経鞘腫の1例 泌紀 要 43:25-28,1997 6)金 泰正、並木一典、辻野 進、山本真也,続 真弘、鉾石文彦、大久保雄平、吉川 慎一、黒土 衛、三木 誠:泌尿生殖器系重複癌(精巣腫瘍、膀胱癌)と後腹膜悪性神経 鞘腫を合併した1例 泌外、11:1057-1059,1998 7)金子弘真、堀 順一、若林峰生、晴山東禹、光丸哲吉、継 行男、柴 忠明、野中博 子、今村正成:後腹膜原発悪性神経鞘腫の1切除例 外科 60:1223-1226,1998 8)小山政史:斉藤史郎、宮嶋 哲、橘 政昭、向井萬起男、村井 勝:後腹膜原発の良 性神経鞘腫および悪性神経鞘腫 泌外、11:、1403 ー 1406,1998 9)塩崎滋弘、松川啓義、青木秀樹、小野田正、大野 聡、二宮基樹、桧垣健二、池田俊 行、小林直広、高倉範尚:vonRecklinghausen 病に合併し、肝右葉、下大静脈とともに切除 しえた後腹膜悪性神経症腫の1例 日消外会誌、34:1630-1634,2001 10)多久島祥代、畑瀬哲郎、大橋 裕、天ケ瀬紀昭:後腹膜神経鞘腫の1症例 産婦人科 実際 50:2047-2050,2001 11)矢野佳子、遠藤和喜雄、藤戸 努、北条茂幸、山崎恵司、前浦義市:後腹膜悪性神 経鞘腫の1例 日臨外、63:2564-2569,2002 12)松本洋明、内藤克輔、平儀野剛、馬場良和:後腹膜悪性神経鞘腫の1例 泌紀要、 48:307-309,2002 13)佐藤元孝、小森和彦、申 勝、高田 剛、本多正人、藤岡秀樹、辻本正彦:神経繊 維症Ⅰ型(von Recklinghausden 病)に合併した後腹膜悪性末梢神経鞘腫の1例 泌尿紀要、 50:417-420,2004 14)三浦徹也、山田祐二、村蒔基次、田中一志、原 勲、藤沢正人:神経線維症Ⅰ型患 者に合併した後腹膜悪性末梢神経鞘腫の1例 泌尿紀要、52:207-209,2006 15)谷口久哲、三島崇生、内田潤二、木下秀文:神経線維症Ⅰ型に合併した後腹膜悪性 神経鞘腫の1例 泌尿紀要、53:619-621,2007 16)辻 宗史、矢野誠司、川畑康成、大石達郎,角 昭一郎、仁尾義則、田村勝洋、丸 山 理 留 敬 : 診 断 に 難 渋 し た 後 腹 膜 原 発 悪 性 Triton 腫 瘍 の 1 例 日 臨 外 会 誌 、 61:3390-3395,2000 -9– Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved Ⅲパラガングリオーマ(褐色細胞腫) 悪性傍神経節腫(malignant paraganglioma)は異所性悪性褐色細胞腫とも呼ばれるが後腹 膜腔に発生することは稀である.1988 年に村尾ら[1)]は本邦の後腹膜腔発生悪性傍神 経節腫の 8 例を集計しているが、それ以降の報告例は 26 例[2-27)]で本邦では 34 例の報告しかみられない (表).後腹膜パラガン グリオーマの年齢は 13 ー 71 歳平均 46.8 歳で、男性 16 例女性 16 例である.臨 床症状の記載のある 30 例 では、腫瘤触知が最多で 6 例、頭痛以外の疼痛 5 例、 腹部圧迫感等の圧迫症状 4 例であるが、悪性腫瘍と 限定しているためか転移 の所見症状から見いださ れる潜在癌と考えられる 表:本邦パラガングリオーマ報告例 報告者 報告年 年齢 性 主訴 高安 1968 42 男 腹部腫瘤 Miyamori 1977 38 女 頭痛 kimiyama 1978 46 女 腰痛 佐々木 1985 49 男 腹部違和感 小林 1986 63 女 鼠径部腫瘤 姥山 1987 37 男 大腿痛 榊原 1987 65 男 発熱 田野口 1987 30 女 腹部重圧感 村尾 1988 33 女 潜在癌 黒岡 1988 13 女 発熱 松本 1989 27 女 腹部腫瘤 Kosihara 1989 31 女 背部痛 高村 1989 46 女 下痢 近藤 1990 68 女 腹痛 上田 1991 66 男 肝機能障害 本間 1991 29 男 頭痛 宗像 1992 37 男 超音波 田中 1992 67 女 下腹部不快感 吉原 1993 64 男 潜在癌 山根 1994 69 女 潜在癌 長尾 1994 18 男 発熱 Mochizuki 1994 69 女 羽場 1996 71 男 血尿 Kimura 1997 51 男 体重減少 前多 1998 38 女 潜在癌 遠藤 2001 37 女 山田 2001 67 男 腹部膨満 計屋 2002 33 女 腹痛 中村 2003 50 男 血尿 梅田 2004 28 男 腹部腫瘤 国末 2004 66 男 腹部腫瘤 帖地 2005 60 女 腹部腫瘤 平井 2007 41 男 高血圧 内分泌活性 無 有 有 無 無 有 無 無 有 無 無 有 有 有 無 有 無 無 無 有 有 有 無 有 有 有 有 治療 摘出 剖検 剖検 摘出 摘出 摘出 摘出 化療 摘出、化療 摘出 放治、化療 摘出 切除、化療 摘出 摘出、化療 摘出、化療 摘出 摘出 摘出 摘出 摘出 摘出 切除、化療 摘出 摘出 摘出 摘出 摘出 摘除 摘出 摘出 摘出 転移 リンパ節 骨 肝(7年後) リンパ節 リンパ節 骨、肺 予後 文献 5年9月生 1 1年1月死 1 1年6月死 1 1年生 1 5年生 1 2年5月死 1 5月生 2 リンパ節 3 骨(21月後) 4年死 1 リンパ節 4 無 1年9月生 5 頸部 1年生 6 無 1年生 7 骨(21月後) 7月生 8 1年生 9 骨(16月後) 17月生 10 肺(2年後) 5年生 11 無し 1年生 12 骨(21月後) 2年9月死 13 肺(6年後) 1年生 14 15 肺(6年後) 16 無 17 肝(7年後) 1年6月死 18 肝 19 肝(7年後) 8年3月生 20 無 6月死 21 22 骨肺(11月後) 31月死 23 肝(7年後) 24 肝(2月後) 2月死 25 8年生 26 肝(6月後) 27 ものが 4 例、腫瘍随伴症候群と思われる発熱が3例にみられる.一方画像診断で偶然発見 される症例もみられる.内分泌活性については記載のある 26 例中 15 例(57.7%)が血中ア ドレナリン系の上昇を認めている.後腹膜パラガングリオーマの画像上の特徴は血管豊富 で腫瘍内の出血、壊死を反映して嚢胞性変化を示すものが多いといわれるが、他の悪性後 腹膜腫瘍と同じく腫瘍の存在診断は比較的容易であるが確定診 断は困難なことが多い(図1《本症例は良性と診断されたが参 考資料として掲載》[28)]).浸潤転移が画像上でみられ ない限り良性か悪性かの質的診断も無理である.治療は外科的 摘出術が主体であるが、放射線治療や化学療法も補助的になされる場合がある.パラガン グリオーマを組織学的に良性悪性と診断するのは困難であり、一般に脈管浸潤、核分裂像 や中心部壊死が組織学的な悪性所見とみなされているが、唯一確実な悪性所見は周囲への 浸潤と遠隔転移である.このことを反映して、転移について記載のある 26 例中 13 例は初 - 10 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 回治療後に転移が発見され悪性と診断されている(最長 7 年).そのために組織学的に悪 性所見を認めなくとも(図2《本症例では臨床的にも良性と思 われるが参考資料として掲載》[28)])、後腹膜のパラガ ングリオーマについては厳重な経過観察が必要である.予後は 記載のある 23 例中 8 例が死亡しており最長は初回治療後 4 年 3 月で死亡している.最長生存は 8 年 3 月である.しかし初回手術時には良性と考えられて いたものが、25 年後の再発に対しての術後6月で肝転移をきたしている症例もある[2 7)]. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)村尾 烈、冨山吉久、渡辺唯志、棚橋豊子:後腹膜原発の悪性神経節腫の1剖検例 癌 臨、34:1195-1200,1988 2)榊原 清、川口英弘、小林 孝、武藤輝一、高木秋夫、大西義久:発熱を主訴とした 後腹膜 Malignant Paraganglioma の1例 日臨外会誌、48:499-505,1987 3)田野口仁、井澤 明:内分泌非活性傍神経節腫 臨泌、41:1073-1075,1987 4)黒岡信幸、中村隆資、西森 緑、岡本 喬、川西泰夫、湯浅 誠:後腹膜悪性 paraganglioma の1例 腹画像診、8:61-66,1988 5)松本一仁、高沢哲也、杉山雄一、山形尚正、土田 博、佐藤いずみ:後腹膜悪性傍神 経節腫の1例-免疫組織化学的並びに電顕的観察-最新医学、44:612-620,1989 6)Koshihara K.,Komiya I.,Watanabe M.,Maeda M.,Fukushima N.,Hoshihara Y.,Saito Y.:Remarkable Regression of Malignant Paraganglioma in the Retroperitoneum and neck after Chemotherapy:Report of a Case and a Review of the Literature Jpn.J.Med.,28:772-776,1989 7)高村敦子、佐々木稔、葛西哲宏、奥野文隆、堅田昌宏、渋谷智顕、樫木良友:Malignant paraganglioma の1例 岐阜県厚生連医会誌、10:31-34,1989 8)近藤和典、中根佳宏,迫 裕孝、小玉正智:内分泌学的症状を欠いた悪性後腹膜腔傍神 経節腫の1症例 内分泌外科 7y:137-142,1990 9)上田順彦、高橋信樹、山崎英雄、平野一則、坂井健志、小林武嗣、宮山士朗、岡田仁 克、荒井和徳:副腎外悪性褐色細胞腫の1例 癌臨 37:1010-1016,1991 10)本間英丸、三浦幸雄、目黒由紀、清水和政、大関 孝、草刈 拓、赤間裕良、渡辺 智也、吉永 肇:抗癌療法が功を奏した悪性褐色細胞腫一例 日内分泌会誌、67:1000,1991 11)宗像昭夫、藤田公生、松島 常、国武 剛、仲野正博:多発性肺転移を有しながら長 期生存している後腹膜 paraganglioma 症例 泌外、5:267-269,1992 12)田中栄一、石田宏文、清水鉄也、児嶋哲文、鈴木政彦、小田 潔、広瀬定徳、藤井 正三、渡辺 豊:卵巣腫瘍を疑われた後腹膜傍神経節腫の1例 道南医学 251-253,1992 13)吉原秀樹、藤井敬三、岡村兼晴、井内裕満、森川 満、徳中荘平、八竹 直:悪性 パラガングリオーマの1例 泌尿紀要、39:349-352,1993 14)山根喜男、蓮池美樹、久保祐司、大沼菊夫、池田道昭、荻原 昇:原発切除6年後 に肺転移を来たした後腹膜原発 Paraganglioma の1例 肺癌 34:549-554,1994 15)長尾充展、高橋 貢、篠原聖子、矢野 守、酒井伸也:後腹膜の malignant paraganglioma を合併した結節硬化症の1例 愛媛医学 15:502-505,1994 16)Mochizuki M.,Asano S., Osa N.:Retroperitoneal Paraganglioma with Multiple Pulmonary Metastases Detected Six Year after Complete Resecti on of th Primary Tumor-An Ultrastructural Study- Med.Electron Microsc,27:65-68,1994 1)羽場礼次、小林省二、野間勝之、矢野好人、梅田政吉:後腹膜原発の malignant paraganglioma の1例 日臨細胞会誌、35:59-60,1996 18)Kimura S.,Iwai M.,Fukuda T.,Akamatu T.,Ochi F.,Masugi J.,Nakano O.,Sakamoto T.,Fukunaga H.,Amzno M., Fujimori T., Maeda S.:Combination Chemotherapy for Malignant Paraganglioma Int.Med.,36:35-39,1997 19)前多松喜、饗庭薗美、馬場 聡、筒井祥博:転移を起こした後腹膜原発 paraganglioma 病院病理 16:55,1998 - 11 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 20)遠藤秀彦、佐藤武彦、石川 徹、八島良幸、佐藤 孝:術後7年で肝転移をきたし た後腹膜 paraganglioma の1例 日消外会誌、62:2303-2306,2001 21)山田太郎、石井良幸、斉藤 陽:後腹膜悪性傍神経節腫瘍の1例 埼玉医会誌、 35:616-618,2001 22)計屋紘伸:症例 西日泌尿、64(増):2-3,2002 23)中村貴成、福島幸男、塚原康生、柴田 高、北田昌之、花田正人:異時性多発性骨 肝転移をきたした後腹膜原発悪性 paragannglioma の1例 臨外、58:1403-1406,2003 24)梅田貴子、小泉 潔、新井誉男、荒木 力:骨シンチグラフィで陰性を呈し、123I -MIBG シンチグラフィで陽性を呈した、悪性褐色細胞腫骨転移の1例 臨核医、37:6-9,2004 25)国末浩範、横山伸二、金谷欣明、丸山修一郎、曽田益弘:術後 2 カ月で多発肝転移を 来した悪性後腹膜傍神経節腫の1例 日臨外会誌 65:222-225,2004 26)帖地憲太郎、初瀬一夫、辻本広紀、菅澤英一、小俣二郎、末山貴浩、相田真介、望 月英隆:手術後 8 年目に多発転移を来たし切除可能であった後腹膜 paraganglioma の1例 日消外会誌、38:1469-1474,2005 27)平井耕太郎、太田純一、三浦 猛:25 年目に再発を認めた後腹膜原発悪性傍神経節 腫の1例 泌尿紀要、53:703-706,2007 28)三方律治:腎動脈が栄養血管であった paraganglioma の1例 泌尿器画像診断研究 会会誌 ⅩⅤ:19ー20,2002 - 12 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved Ⅳ脂肪肉腫 稀な悪性後腹膜 図1: 後腹膜脂肪肉腫年齢 腫瘍のうちでは比 較的頻度の高いの 50 が脂肪肉腫であ 例 46 45 41 40 る.本田ら[1)] は 1999 年に本邦 30 報告例 190 例を集 21 20 計している.この 集計の後腹膜脂肪 10 9 7 6 肉腫症例の年齢分 2 1 0 布を図1に示すが 0-10歳 11- 20歳 21- 30 歳 31 -40歳 41-50 歳 51 - 60歳 61-70歳 71-80 歳 81 -90 歳 40-50 歳代が多か った.また後腹膜脂肪肉腫 表1:後腹膜脂肪肉腫の症状 の症状は主要臓器と直接 関係ない部位に発生する ために、腫瘍自体による症 状を呈することは殆どな 症状 腹部腫瘤 腹部膨満 腹痛 熱発 腰痛 胸部痛 腹部不快 その他 例数 42 29 8 4 4 3 3 12 % 40 27.6 7.6 3.8 3.8 2.9 2.9 11.4 表2: 後腹膜脂肪肉腫組織型 組織型 分化型 粘液型 円形細胞型 多形型 混合型 く、腹部腫瘤と腹部膨満がそ の 3/4 を占める(表1)が、X 腺CT[2)]等の画像診断 で発見される症例もみられ る.脂肪肉腫の病理学的分類 は分化型(図2[3)])、 脱分化型、粘液型(図3)/ 円形細胞型、多形型および混 合型に分類されているが [2)]、舟橋ら[2)]は 本邦の 176 例の組織型 - 13 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 例数 43 38 5 33 21 % 30.7 27.1 3.6 23.6 15 を分類しているが、分化型と粘液型/円形細胞型の頻度が高い(表2)[2)]. 脂肪肉腫の画像診断法には、X線CT(図4)、MRI,血管造影が有用である.X線 CT上脂肪肉腫を示唆する所見は、1)内部不均一、2)境界不明瞭、3)脂肪中に混在 する軟部組織濃度、4)造影効果、5)浸潤の存在、6)腫瘍内の脂肪吸収域のX線CT 値が正常脂肪組織のX線CT値より高いなどが挙げられてているが、脂肪肉腫診断におけ るX線CTの特異性は 22%とかなり低い[1)]. 脂肪肉腫の治療は手術療法が第1選択であり、偽皮膜を含め周囲の正常脂肪組織も充分 に切除する根治手術が必要とされる.しかし実情は根治手術が行われるのは 8%にすぎず 81%が単純摘出術であるとされている[1)].脂肪肉腫は例外的に放射線感受性が高い といわれ、術後放射線照射で再発率の低下や生存率の上昇もみられる[1)].また放射 線単独治療で著効を呈したとの報告もみられる[4)].化学療法は混合化学療法が行わ れることがあるが、評価は定まっていない.最近は脂肪細胞の分化を促進するチゾリンジ ン誘導体と化学療法の併用による効果も報告されている[5]. 予後は組織型で異なり、5 年生存率は分化型が 85%、粘液型 77%、円形細胞型が 18%お よび多形型が 21%とされている[1)] 稀ではあるが、脂肪肉腫は多中心性に発生することもあり、五木ら[6)]は本邦の多 中心性発生型脂肪肉腫報告例 7 例を集計しているが、そのうち 3 例が後腹膜原発である. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)本田正史、齋藤源顕、盛谷直之、平川真治、宮川征男:精索静脈瘤を契機に発見され た後腹膜脂肪肉腫の1例 西日泌尿、61:745-748,1999 2)船橋保仁、上平 修、磯部安朗、木村恭介、佐々直人、松浦 治:後腹膜脂肪肉腫の 1例 泌尿紀要、52:203-205,2006 3)芦沢好夫、斎藤恵介、西尾浩二郎、吉井 隆、栗原浩司、磯谷周治、丸山 修、上山 裕、井出久満、武藤 智、岡田 弘、堀江重郎:後腹膜巨大脂肪肉腫の1例 第 577 回日 本泌尿器科学会東京地方会口演 2005.9.22 4)平野智美、三浦恒智、花田清彦、永渕悦子、中守真理、塩山善之:放射線治療が著効 した巨大後腹膜脂肪肉腫の1例 臨床放射線 51:393-396,2006 5)石渡 進、三方律治、藤田竜一:後腹膜脂肪肉腫の一例 第 47 回日本泌尿器科学会埼 玉地方会 2007、11.17 6)五木克也、永野靖彦、松尾憲一、池 秀之、今田敏夫、嶋田 紘:多中心性発生型巨 大後腹膜脂肪肉腫の1例 日臨外会誌、66:747-752,2005 - 14 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved Ⅴ平滑筋肉腫 後腹膜に発生する平滑筋肉腫は脂肪肉腫に比べて更に稀である.堀江ら[1)]は 1989 年に本邦の後腹膜平滑筋肉腫の 90 例を収集している.また吉富ら[2)]によると 2006 年には 130 症例となっている.この後1例の報告がみられる[3)] 堀江ら[1)]によると、後腹膜平滑筋肉腫の性別は男性 31 例に対し女性 54 例で女性 に多く、平均年齢は 52.4 歳であるが、年齢分布では小児期と 40-50 歳代との二つのピーク がみられる.臨床症状は記載のある 78 例では腫瘤触知と腹痛が 8 割を越えている. 画像診断法としては超音波、X線CT,血管造影、MRI等があり、腫瘍存在診断には それぞれが有効であるが、平滑筋肉腫に特異的所見としてはX線CTで中心壊死や嚢胞状 変化をもつ巨大な腫瘍で、腫瘍の辺縁で中等度の造影効果をもつ、血管造影では血管豊富 な腫瘍で、血管新生や血流停滞がみられるとされている[1)]. 治療は手術治療が中心に行われており、堀江ら[1)]は記載 83 例中 74 例(89%)で 手術がなされたとしている.一方、二村ら[4)]は 1988 ー 2002 迄の後腹膜平滑筋肉腫の 切除報告例 42 例を集計している.これによると、性別は男性 14 例に対し女性 28 例で年齢 は 3-82 歳平均 57±14.6 歳である.摘出時に腎臓 12 例、結腸 7 例、下大静脈 7 例、膵脾4例 など(重複含む)他臓器合併切除が 29 例に行われている.放射線治療や化学量法の有効性 は確率されていない[4)].後腹膜平滑筋肉腫の予後は不良で、2年生存率 53%ないし は 5 年生存率 21%といわれている[4)]. Ⅴ’下大静脈原発平滑筋肉腫 静脈壁原発の平滑筋肉腫はごく稀ではあるが、そのうちでも下大静脈原発のものが多い. 谷村ら[5)]は 2000 年に下大静脈原発平滑筋肉腫の本邦 51 例を集計している.これに よると性別は男性 6 例女性 45 例で圧倒的に女性に多い.年齢は 15 ー 76 歳で平均 56.7±2.0 歳である.初発症状は腹痛・背部痛(55.1%)、腹部腫瘤(30.6%)、下肢浮腫(18.4%) が多い.診断は画像診断に頼るが、造影X線CTで、下大静脈を巻き込んだ均一に造影さ れる分葉状の腫瘤陰影を認め、周囲臓器との境界は明瞭で圧排性に拡大し、腫瘍壊死と思 われる低吸収域を認めることが多い.治療法は下大静脈を含む完全切除が唯一の治療法で 放射線療法や化学療法は補助療法として予後に影響しない.予後は完全切除術で 5 年生存 率は 50-60%前後とされているが、その他では予後不良で切除不能例では平均生存期間は 4.7±1.1 月、姑息切除例の 5 年生存率は 197±3.9 月である. 1)堀江 文 献 修、町村貴郎、津久井優、黄 俊銘、久保博嗣、花上 仁、野本晴夫、三富利 - 15 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 夫:後腹膜腔に発生した巨大平滑筋肉腫の1例 日臨外会誌、50:1441-1445,1989 2)吉富孝之、小田代昌幸、千代丸剛、常磐光弘、西山賢龍、中川昌之:後腹膜平滑筋肉 腫の1例 西日泌尿、68:388-391,2006 3)橋本貴彦、山本信吾、東郷容和、上田泰生、樋口喜英、丸山琢雄、近藤宣幸、野島道 生、森 義則、新長真由美、羽尾裕之、廣田誠一、島 博基:巨大後腹膜平滑筋肉腫の1 例 泌尿紀要、53:167-169,2007 4)二村直樹、松友將純、丸井 努、安村幹央、立山健一郎:腸骨動静脈合併切除により 摘出した後腹膜平滑筋肉腫の1例 日外科連会誌、29:292-296,2004 5)谷村信宏、上谷幸代、神田裕史、鶴田宏明:下大静脈原発平滑筋肉腫に対する外科治 療-自驗例と本邦報告 50 例の検討- 日血外会誌、9:561-568,2000 後腹膜悪性腫瘍トップヘ - 16 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved Ⅵ横紋筋肉腫 横紋筋 肉腫も後 腹膜腫瘍 としては 稀であり、 風 間 ら [1)]が 1988 年 に 表:後腹膜横紋筋肉腫報告例 報告者 報告年 年齢 性 症状 板垣 1987 9 男 腹部腫瘤、頻尿 牛島 1987 33 男 腹痛、腹部腫瘤 八塚 1989 3 女 腹痛、腹部膨満 桑原 1990 71 男 腹痛 小友 1991 49 女 腹痛 市川 1991 46 女 腹部腫瘤 山内 1991 36 男 腹部腫瘤 橋本 1991 14 男 腹痛、腹部腫瘤 小松田 1992 61 男 呼吸困難 佐藤 1992 46 男 腹部腫瘤、発熱 中村 1993 2歳9月 男 腹痛、腹部膨満 田中 1994 40 男 腹部腫瘤 大窪 1996 67 女 腹痛 櫻井 1999 16 男 発熱、腰痛 Kunieda 2000 69 男 CT発見 大浜 2001 3 女 腹部腫瘤、頻尿 島本 2001 69 女 腹痛、腹部膨満 治療法 放治、化療後摘出 摘出 摘出、化療、放治 摘出 摘出、化療 化療、放治後摘出 摘出、化療 化療 化療 摘出 摘出、化療、放治 摘出、化療 摘出 摘出 摘出、化療 化療、放治後摘出 摘出 組織型 予後 文献 胎児 14年生 2 多形 3月死 3 胎児 5年10月生 4 多形 1年生 5 多形 3年生 6 4月死 7 蜂巣 3年10月生 8 死 9 蜂巣 10日死 10 多形 18日死 11 多形 3年死 12 4月生 13 多形 14 胎児 44日死 15 胎児 2年生 16 胎児 2年4月生 17 多形 5月死 18 本邦報告 例 37 例を集計している.風間[1)]によると後腹膜横紋筋肉腫の性別は男性 19 例対女 性 16 例であり、年齢は 20 歳代を除いて広く分布している.臨床症状は記載 31 例中疼痛が 20 例(64.5%)で腹部腫瘤は記載 33 例中 21 例(63.6%)(重複有り)である.組織型は記 載の明らかな 21 例中胎児型 3 例、蜂巣型 6 例で多形型 12 例である. 風間の報告以降、詳細の 明らかな本邦報告は 17 例である[2ー18)](表).この 17 例の年齢は 2 歳 9 月から 71 歳、平均 37.3 歳で、性別は男性 11 例女性 6 例で男性に多い.主訴は重複を含め腹痛腰 痛が 8 例、腹部腫瘤が 7 例と多数であるが、腹部膨満感、頻尿、発熱や呼吸困難もあり、 また臨床症状が全くなく画像診断で発見された症例も認める.記載のある組織型は多形型 が最も多く 7 例、胎児型 5 例で蜂巣型は 2 例である.治療は原則的には腫瘍の完全摘出で あるが、化学療法や放射線治療も行われている.予後は不良で記載のある 16 例中 8 例が 3 年以内に死亡しているが、5 年以上の生存例もある. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)風間 泰蔵、笹川五十次、河野孝史、中田瑛浩、片山 喬:診断の困難であった後腹 膜横紋筋肉腫の1例 西日泌尿、50:1029-1032,1988 2)板垣和夫、岡部郁夫、森田 建:後腹膜骨盤部横紋筋肉腫で治療開始後 14 年、尿路再 建後 10 年を経過した1例 小児外科:19:1599-1604,1987 3)牛島 聡、伴登宏行、湖東慶樹、若狭林一郎、村田修一、清崎克美:他臓器(右外 腸骨動静脈、回盲部、S状結腸)合併切除にて切除しえた後腹膜横紋筋肉腫の1例 消 化器外科、10:2025-2029,1987 4)八塚正四、岡松孝男、岡本信也、松村光芳、五味 明:小児の腹部腫瘍-後腹膜横 紋筋肉腫の一例を中心に- 日小医会報、4:103-109,1989 5)桑原 孝、森岡 元、牧 昭夫、松本英亜:後腹膜横紋筋肉腫の1例 泌尿紀要、 - 17 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 36:433-436,1990 6)小友 良、佐藤敬悦、松尾重樹、佐々木秀平:後腹膜に発生した横紋筋肉腫の1例 泌外、4:1301-1302,1991 7)市川善仁、清水敬生、手島英雄、荷美勝彦、増淵一正:卵巣腫瘍と術前診断した非生 殖器原発腫瘍の臨床的検討特に後腹膜、腸管膜腫瘍について 日癌治、26:1540-1546,1991 8)山内 誠、副島清治、古川力男、佐藤達資:後腹膜横紋筋肉腫の 1 例 外科診療、 2:269-273,1991 9)橋本公夫,藤盛隆博:診断に難渋した後腹膜横紋筋肉腫の1例 病院病理、9:24,1991 10)小松田 敦、朝倉健一、西村茂樹、高津 洋、福田 健、三浦 亮:血胸を契機に 発見された後腹膜横紋筋肉腫の1剖検例 診断と治療 80:1235-1237,1992 11)佐藤敬悦、小友 良、能登宏光、西沢 理、原田 忠、土田正義:後腹膜膿瘍と腹 膜炎を併発した後腹膜横紋筋肉腫の1例 秋田県医師会雑誌 44:146-149、1992 12)中村泰啓、清水法男、貝原信明、川上哲夫、西川健一、白木和夫、堀江 靖:腹腔 内再発を繰り返した後腹膜横紋筋肉腫の1例 小児がん、30:369-399,1993 13)田中 浩、八木橋厚仁、臼木俊洋、山口浩史、山本雄治、伝野隆一、成松英明、 平田公一:成人に発生した後腹膜横紋筋肉腫の1例 北外誌、39:134-138,1994 14)大窪秀一、宮原幸美、大原正行、黒木 力、内村清孝、田代幸恵、清水 健、田 中貞夫:後腹膜に発生した横紋筋肉腫の一例 日臨細胞九州連会誌、26:121-123,1995 15)櫻井 丈、山田恭司、岩崎光彦、吉田和彦、嶋田 久:思春期に発生した後腹膜横 紋筋肉腫の1例 日外系連会誌、24:653-656,1999 16)Kunieda K.,Saji S.,Kuwabara I.,Watanabe A.,Katoh M.,Sugiyama Y.,Shimokawa K.:Rapid Growth of a Retroperitoneal Rabdomyosarcoma Following Right Hemicolectomy fo ascending Colon Cancer:Report of a Case Sur.Tuday,30:372-375,2000 17)大浜和憲、中村寿彦、石田善敬、森下 実、谷内 毅、雄谷純子、堀田成紀、野村 隆子:末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を行った後腹膜横紋筋肉腫の1例 小児がん 38:579-582,2001 18)島本雅史、熊野弘毅、佐々木清貴、早川敏文、江口周生、出野正孝、今野孝彦、畠 山純一、猪俣 斉、石館卓三:巨大後腹膜腫瘍を呈した横紋筋肉腫の1例 道南医学、 36:3-5、2001 - 18 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved Ⅶ線維肉腫 後腹膜に発生する線維肉腫は、脂肪肉腫や 平滑筋肉腫と比べても少ない.竹内ら[1)] が 2004 年に後腹膜線維肉腫の本邦報告 37 図:後腹膜線維肉腫年齢分布 8 7 6 例を集計しているに過ぎない.同年本邦 39 例を集計したとの報告[2)]もある.竹 5 4 3 内ら[1)]によると性別は男性 20 例女性 17 例で、年齢は6ヶ月から 83 歳で平均 53.4 2 1 0 歳で、年齢分布を図に示すが 9 歳以下が 2 例数 0-9歳 20 -29 歳 3 0-39 歳 4 0- 49 歳 5 0- 5 9 歳 6 0- 6 9 歳 7 0-7 9 歳 8 0歳以 上 2 1 6 8 5 7 4 4 例見られるがピークは 40 歳代と 60 歳代に 認める.主訴は記載のある 34 例中 16 例が 腹部腫瘤で最も多く、次いで腹痛や腹部圧迫の 8 例であり、この他は多彩である.患側は 右 10 例対左 19 例と左に多く、腫瘍重量は記載のある 20 例では 6.6 ー 10.4kg 平均 3.46kg で あった. 診断は超音波検査、X 線 CT,MRI が有用とされ、MRI では T1 強調画像で筋肉と同程度 の信号を示し T2 強調画像で低ー高信号域が混在し、Gd 造影で不均一に造影されるとして いるが、画像診断では質的診断は困難である. 治療の基本は手術療法であ るが、手術がなされた 35 例中根治的切除例は 16 例だけであった.補助療法として放射線 療法や化学療法が行われているが、放射線療法の効果は不明である.化学療法として CYVADIC 療 法 ( Cyclophosphamide 400mg/ ㎡ day 1,Vincristine 1mg/ ㎡ day 1 and 5,Farmorubicinn 40mg/㎡ day1,Dacarbazin 200mg/㎡ day 1-5)が行われているが有効性は確立 されていない.予後は不良で後腹膜線維肉腫の5年生存率は 24%といわれ、本邦報告例で も 37 例中 12 例が平均 11.3 月で死亡している. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)竹内康晴、澤田喜友、矢吹大輔、増田栄輔、佐藤大裕、岩澤俊久、黒田加奈美、田島 政晴、松島正浩、大原関利晃、蛭田啓之:粘液状基質を伴った後腹膜線維肉腫の1例 泌 尿紀要、50:525-529,2004 2)岡崎 誠、戎井 力、藤本高義、越野 司、市川靖二、興梠梠 隆:後腹膜線維肉腫 の1例 外科 66:9766:979-982、2004 - 19 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved Ⅷ血管肉腫 血管肉腫も後腹膜腔に発生することは稀である.2000 年に中村ら[1)]は本邦報告例 13 例を集計している.それによれば、性別は.男性 2 対女性1で好発年齢は 60 歳以上で ある、他の後腹膜悪性腫瘍と同様特異的な症状はない.治療は外科的な広範切除が基本と されているが、これに放射線療法や化学療法の追加も検討されている.予後は不良である. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 1)中村小源太、絹川常郎、田中國晃、辻 宣久:後腹膜腔に発生した血管肉腫の1例 献 克和、古川 亨、橋本好正、近藤隆夫、竹内 泌尿紀要、46:169-171,2000 Ⅸ悪性血管周皮腫 後腹膜腔に発生する悪性血管周皮腫も稀である、窪田ら[1)]が 1996 年に本邦の 47 例を集計し、2003 年には林ら[2)]はこれに 10 例を追加し 57 を集計している.林ら[2)] によれば、男性 20 例に対し女性 37 例と女性に多く、年齢は 7 歳から 79 歳で平均 44.7 歳 である.低血糖を伴った症例は 6 例みられ、いずれも巨大な腫瘍であり、インスリン様物 質の分泌によるとされている.治療は手術による完全摘除が原則であるが、化学療法や放 射線療法[3)]も術後治療ないしは腫瘍縮小の目的で試みられる.5 年生存率は男性 52.8%、 女性 63.6%といわれている. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)窪田祐輔,日比秀夫、柳岡正範、置塩則彦、笠原正男、名出頼男:Retrovesical Hemangiopericytoma の1例 泌尿外科、9:321-325,1996 2)林 哲太郎、田辺徹行、森山浩之:後腹膜腔に発生した悪性血管周皮腫の1例 西日 泌尿、65:707-711,2003 3)西村一男、小川 修、吉村直樹、中川 隆、高橋 玲:放射線治療が著効を示した後 腹膜腔 Hemangiopericytoma の1例 泌尿紀要、30:809-815,1984 - 20 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved Ⅹ悪性繊維性組織球腫 (malignant fibrous histiocytoma:MFH) 悪性繊維性組織球腫(以下 MFH と略)は組織球様細胞と繊維芽様 後腹膜MFH症状 症状 例数 % 35 39 疼痛 34 38 12 13 と定義されている.この MFH が後腹膜に発症することは比較的稀 腹部膨満感 食思不振 11 12 発熱 9 10 である.鈴木ら[1)]は 1998 年に MFH の本邦報告 108 例を集計 全身倦怠感 9 10 排尿困難 6 7 し、そのうち詳細の解る 89 例について解析している.これによると、 便秘 5 6 細胞とを有し、storiform pattern に配列された未分化で多形性の肉腫 腹部腫瘤 性別では男性 54 例に対し女性 35 例、年齢は 23 歳 85 歳平均 59.6 歳である.症状は腹部腫 瘤が最多で、次いで疼痛、腹部膨満感となるが MFH に特異的な症状とはいえない(表). 転移の記載のあるのは 19 例であるが、15 例では転移巣が記載されており、最も多いのは 肺 11 例、次いで肝6例、骨4例である.MSH においても、治療の第一選択は根治手術で あるが、後腹膜発生 MSH は早期発見が困難なため根治手術が期待出来ない場合が多く補 助療法が必要になる.補助療法としては、放射線治療や化学療法として CYVADIC 療法、 メトトレキセート大量療法、アドリアマイシン動注療法が行われているが、完全寛解例は 少なく確立された治療法とはいいえない. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)鈴木竜一、山川謙輔、黒松 功、中野清一、藤川真二、川村壽一:後腹膜悪性繊維性 組織球腫の2例 西日泌尿、60:28-30,1998 ⅩⅠ形質細胞腫 本来骨髄内で発生する形質細胞腫が、骨髄外特に後腹膜腔で発生することは極稀である. 2003 年に齋藤ら[1)]は本邦における後腹膜腔発生形質細胞腫の 11 例を集計している が、その内には腎発生髄外形質細胞腫が 7 例含まれており、後腹膜腫瘍は 4 例である[2 -5)].この4例は男性 3 例対女性 1 例で、年齢は 49 歳、64 歳、74 歳及び 76 歳である. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)齋藤 満、土谷順彦、飯沼昌宏、光森健二、松浦 忍、佐藤 滋、佐藤一成:後腹膜 髄外性形質細胞腫の1例 泌尿紀要、49:735-739,2003 2)浜家一雄、橋本宏之、元井 信:後腹膜リンパ節に原発した IgA 髄外形質細胞腫 日 臨 30:1808-1816,1972 3)西村庸夫、若林久男、赤松興一、田中美和、坂上 博、太田康幸:イレウス様症状を 呈した IgD(λ)型髄外性形質細胞腫の 1 例 日消病会誌、82:2834-2839,1985 - 21 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 4)Watanabe N.,orijiri M.,Shimizu M.,Noguchi K.,Miyazaki T.,Watanabe A., Seto H.:Acase of retroperitonealnextramedullary plasmacytoma with multiple metastasis. J.Clin Image 24:365-367,2000 5)片岡秀夫、松本正郎、天方義人、中村悦子、九嶋克治、岡部英俊:後腹膜原発と考え られた髄外性形質細胞腫の1症例 日病理会誌、91:339,2002 - 22 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved ⅩⅡ胚細胞腫瘍 表:後腹膜胚細胞腫瘍報告例 稀ではあるが、後腹膜腔に 性 症状 男 腹痛 組織診断 胎児性癌、絨毛癌 化療 31 男 腹痛 胎児性癌、卵黄嚢腫 切除 29 男 腰痛 胎児性癌 化療 9月生 5 1988 24 男 腰痛、血尿 胎児性癌、絨毛癌 化療 10月生 6 宮尾 1989 24 男 腹痛 胎児性癌、絨毛癌 化療 14月死 7 宮尾 1989 26 男 腹痛 胎児性癌、絨毛癌 化療 15月死 7 蜂矢 1990 18 男 腹部腫瘤 胎児性癌 化療後摘除 9月死 8 蜂矢 1990 26 男 腹痛 胎児性癌 化療後摘除 12月死 8 蜂矢 1990 20 男 腫瘤 胎児性癌 摘除,化療 14月死 8 小倉 1991 25 男 腰痛 卵黄嚢腫 化療 2月生 9 後藤 1991 23 男 腰痛 胎児性癌 化療 6月死 10 後藤 1991 20 男 腰痛 胎児性癌、絨毛癌 化療 2年6月生 10 後藤 1991 19 男 潜在癌 精上皮腫 化療 1年生 10 Ohkubo 1993 32 男 背痛 胎児性癌 化療後摘除 3年生 11 高野 1993 32 男 腹痛 精上皮腫 摘除,化療 2年生 12 不充分で原発巣が発見されな 川上 1994 52 男 腹痛 精上皮腫 摘除、化療 1年生 13 渡辺 1994 34 男 腹部腫瘤 胎児性癌 摘除,化療 2年6月生 14 か っ た 場 合 、 ③ Burned out Satake 1994 26 男 腰痛 胎児性癌 化療 1年死 15 Satake 1994 37 男 発熱 胎児性癌 化療後切除 2年生 15 河村 1996 35 男 腰痛 胚細胞腫瘍 化療 11月生 16 gonadal tumor:性腺の壊死、 笠原 1996 40 男 腹痛 精上皮腫 化療後摘除 1年10月生 17 津村 1997 34 女 MRI発見 未分化胚細胞腫 摘除,化療 7月生 18 瘢痕組織あるいは成熟奇形種 Abe 1999 28 男 腹痛 卵黄嚢腫 切除、化療 24月生 19 柳 2000 31 男 発熱 胎児性癌 化療後切除 1年6月生 20 瀬下 2001 29 男 腹痛 胎児性癌、絨毛癌 摘除 3年生 21 河野 2002 32 男 腹痛 胎児性癌 化療後摘除 1年4月生 22 Inai 2005 22 男 腹部腫瘤 精上皮腫 化療 3月生 23 原田 2006 23 男 腰痛 胚細胞腫瘍 化療 18月生 24 Kanda 2006 32 男 腹痛、発熱 胎児性癌、卵黄嚢腫 化療 2年生 25 荻原 2006 34 男 腹痛、発熱 精上皮腫 摘除 22日生 1 胚細胞腫瘍が発生することが ある.性腺外に胚細胞腫瘍が みつかり性腺に腫瘍を認めな い場合、①原発性の性腺外胚 細胞腫瘍:完全な原発性の腫 瘍、②潜在性性腺腫瘍:検索 しか存在せず、性腺原発巣が 自然退縮した場合の3つの病 報告者 大平 報告年 1984 年齢 26 小田 1987 名取 1987 岩崎 治療 予後 文献 8月死 3 4 態が考えられる[1)]. ここでは、後腹膜腔に発生した胚細胞腫瘍で潜在性性腺腫瘍と Burned out gonadal tumor とが否定的なものを取り上げる.また悪性奇形種と単一絨毛癌は別項とした. 後腹膜原発の後腹膜胚細胞腫瘍について 1992 年に Kaneko ら[2)]は 1950 年から 1990 年までの報告に彼らの 1 例を加えて 26 例を報告している.それ以外の、悪性奇形腫と単一 絨毛癌を除外した、詳細の明らかな後腹膜胚細胞腫瘍の報告は 29 例である(表).[1, 3ー25)].この 29 例の年齢は 18-52 歳平均 28.8 歳で 1 例だけが女性で[1 100 8)]他はすべて男性である.一方小 90 児の後腹膜発生胚細胞腫瘍は稀とはい えず日本小児外科学会悪性腫瘍委員会 [26)]の集計によれば 2005 年全悪 生存率(%) 80 70 60 50 40 後腹膜胚細胞腫瘍生存曲線 30 20 10 0 性腫瘍登録症例 368 例中 97 例が胚細胞 0 5 10 15 20 25 観察期間(月) 腫瘍でありこのうち 10 例(男7,女 3) が後腹膜発生である. - 23 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 30 35 40 臨床症状は、腹腰背部痛が最も多く 22 例、次いで腹部腫瘤と発熱が各 4 例、血尿が 1 例(重複含む)であるが、潜在癌[10)]や MRI での偶然発見例[18)]も見られる. 組織診断では胎児性癌が最も多く 11 例、次いで精上皮腫 6 例、胎児性癌と絨毛癌との混合 6 例であったが、胎児性癌と卵黄嚢腫との混合 2 例、卵黄嚢腫単独 2 例であった.女性例 は未分化胚細胞腫瘍[18)]とされており、また胚細胞腫瘍とだけの記載も 2 例みられ た.治療は化学療法が主体であり、外科的な切除や摘除だけですませたものは 3 例しか無 く、その他の 26 例は化学療法単独ないしは外科的治療との組み合わせで化学療法が行われ ている.生存率は他の後腹膜悪性腫瘍に比べ比較的良好で 3 年生存率は 63.09%である(図) . 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)荻原正弘、青木貴徳、新居利英、稲葉 聡、矢吹英彦、葛西眞一:後腹膜腔に発生し た精上皮腫の1例 日臨外会誌、67:915-918,2006 1)Kaneko K.,Suzuki T.,Takasaki E.:Primary retroperitoneal extragonadal germ cell tumors:a case report and a review of the Japanese literature Dokkyo J.Med.Scien. 19:175182,1992 3)大平周平、西本和彦、上田陽彦、野田春夫、岡田茂樹、松瀬幸太郎、高崎 登、金田 州弘:原発性性腺外精細胞腫瘍の1例 日泌尿会誌、75:1665-1669,1984 4)小田典子、落合純史、田原栄一、万代光一:後腹膜を原発とし Embrional carcinoma と York sac tumor の混在した組織型をていした腫瘍の1例 癌の臨、33:311-316,1987 5)名取省一、壁村哲平、合馬 紘,中野正寛:AFP,HCG 産生原発性後腹膜胎児性癌の1 例内科 60:1213-1216,1987 6)岩崎雅志、風間泰蔵、中田瑛浩、片山 喬:VAB-6療法が著効を呈した extragonadal germ cell tumor の1例 泌尿紀要、34:883-888,1988 7)宮尾則臣、熊本悦朗、塚本泰司、大村清隆、山崎清仁、伊藤直樹、藤田征隆:後腹膜 原発 extragonadal germinal tumor を疑った2例 泌尿紀要、35:835-838,1989 8)蜂矢隆彦、昆野俊郎、武村 聡、北島清彰、岡田清己、岸本 孝:後腹膜腔原発の胎 児性癌の3例 泌外 3:977-981,1990 9)小倉祐子、中根香織、安野泰史、古賀佑彦、辻村 亨、宮崎 仁:下大静脈内腫瘍塞 栓 症 を 合 併 し た Germ Cell Tumor の 1 例 - MRI 所 見 を 中 心 と し て - 画 像 診 断 11:716-721,1991 10)後藤修一、福井 巌、安藤正夫、木原和徳、北原聡史、辻井俊彦、野呂 彰、荻原 明、豊島豊照、塚本哲郎、大島博幸:BEP(Bleomycin,Etoposide,Cisplatinum)療法による 進行性性腺外胚細胞腫瘍の治療 泌尿紀要、37:1689-1693,1991 11)Ohkubo N.,Ogihara T.,Miura T.,Soejima K.,Iyori S.,Akasaka Y.,Tashiro M.:Primary Embrional Carcinoma of the Retroperitoneum Internal Med.,32:295-297,1993 12)高野 敲、遠山 茂、嶋野松朗、石黒昌生、高島 徹、佐藤達資:後腹膜原発性セ ミノーマの1例 泌外、6:236-241,1993 13)川上雅子、米山威久、小宮山 斎、小松洋文:後腹膜原発精上皮腫(seminom)の1 例 西日泌尿、65:874-876,1994 14)渡辺俊一、瀧澤泰彦、広瀬宏一、石田一樹、森 嘉裕、山田哲司、北川 晋、中川 正昭:後腹膜原発 ebryonal cell carcinoma の1例 日臨外会誌、55:1019-1023,1994 15)Satake I.,Tari K.,Nakagomi K.,Ozawa K.,Kojima S.,Yamamoto M.,Nishimura H.,Kishi K.:Extragonadal Germ Cell tumor of Retrotoneal Origin:Report of Two Cases Jpn.J.Clin.Oncol.,24:46-50,1994 16)河村秀樹、佐々木信之:後腹膜原発性腺外胚細胞腫瘍の1例 臨泌、50:862-864,1996 17)笠原高太郎、橋根勝善、住吉義光:性腺外胚細胞腫瘍と考えられた2例 西日泌尿、 58:1026-1028,1996 - 24 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 18)津村宣彦、北澤克彦、山田 俊、川口 勲、関下芳明、宗村忠信、山口 潤、藤道 孝治、早貸幸辰:後腹膜に原発下未分化胚細胞腫の1例 臨産婦、51:1005-1023,1997 19)Abe H.,Tani T., Naitoh H.,Kodama M.:Retroperitoneal Germ Cell Tumor Treated by PVeBV Chemothrapy Jpn.J.Clin.Oncol.,29:261-263,1999 20)柳 宏司、村岡邦康、山本泰久,実松宏巳、平川真治、宮川征男:性腺外胚細胞腫 瘍と腎細胞癌を合併した1例 日泌尿会誌、91:637-640,2000 21)瀬下 賢、渡辺哲夫、田淵陽子、常光洋輔、木村臣一、上川康明:後腹膜原発 extragonadal germ cell tumor の1例 日臨外会誌、62:1546-1550,2001 22)河野真意、富田 光、岡本亘平、松井 博、山本巧、中里晴樹、黒川公平、鈴木和 浩、山中英壽、鈴木光一、鈴木孝憲:後腹膜原発性性腺外胚細胞腫瘍の一例 Kitakanto Med.J.,52:2003-206,2002 23)Inai H.,Kawai K.,Morishita Y.,Nagata M.,Noguchi M.,Akaza H.:Retroperitoneal extragonadal germ cell tumor in a patient with Klinfelters's syndrome Int.J,Urol.,12:765-767,2005 24)原田明典、山本恭代、田上隆一、岸本大輝、谷本修二、井崎博文、高橋正幸、福森 知治、西谷真明、金山博臣、林 秀樹:集学的治療が奏功した非セミノーマ性腺外胚細胞腫瘍の 1例 泌尿紀要、52:651-654,2006 25)Kanda T.,Nakagomi K.,Goto S.,Torizuka T.:USEFULNESS OF POSITORON EMISSION TOMOGRAPHY(PET)IN A RETROPEREITONEAL PRIMARY NON-SEMINOMATOUS GERM CELL TUMOR:A CASE REPROT Acta Urol.Jpn.,52:623-627,2006 26)日本小児外科学会悪性腫瘍委員会:小児の外科的悪性腫瘍、2005 年登録症例の全国 集計結果の報告 日小外会誌、43:62-91,2007 - 25 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved ⅩⅡa 悪性(未熟)奇形腫 後腹膜腫瘍の中で奇形腫の頻 表1:成人悪性奇形腫本邦報告例 報告者 報告年 性 森本 1963 女 度は高く、天野らの報告では 齋藤 1963 男 1966 女 [1)]全後腹膜腫瘍の 24.5%、 尾藤 西本 1966 男 檜井 1968 女 朝長ら[2)]の報告では 16.3% 佐本 1977 男 村 1978 男 である.しかしながら、本邦では 浜田 1980 男 大山 1982 女 奇形腫は良性腫瘍に分類される 真田 1982 女 野俣 1982 男 ものが多く、天野ら[1)]の集 三崎 1983 女 小野寺 1984 男 計では全て良性腫瘍であり、朝長 永江 1984 女 片岡 1985 男 岩淵 1986 男 らの集計でも奇形腫 370 例中悪 谷山 1988 男 森 1989 男 性奇形腫は 40 例に過ぎない.こ 前原 1996 女 菊池 1997 男 こでいう悪性奇形腫は後腹膜腔 Yamasaki 2004 女 に発生した未熟奇形腫と成熟奇 Tanaka 2006 男 年齢 50 35 68 49 23 22 22 23 55 36 36 23 47 44 22 31 27 24 64 25 53 29 主訴 腫瘤 腫瘤 腫瘤 全身衰弱 腹部膨満 疼痛 食思不振 腫瘤 腫瘤 腹痛 疼痛 疼痛 疼痛 腹痛 咳 腰痛 腰痛 背部痛 腫瘤 腰痛 腫瘤 頻尿 鼠径部痛 転帰 4月生 5月死 6月死 術後他因死 3年半生 4月生 2月死 83日死 6月生 6月死 10月生 6月死 12日死亡 10月生 15月生 1月死 2年11月生 31月生 21月生 文献 4 4 4 4 4 4 4 4 4 6 4 4 4 5 5 5 5 5 7 8 9 10 形腫の悪性化したものを併せている. 後腹膜腔の悪性奇形腫は成人に多いとされている[3)].成人の後腹膜悪性(未熟) 奇形腫で 1963 年から 1984 年迄の手術例 11 例を小野寺ら[4)]が 1984 年に集計してい る.更に 1992 年に児島ら[5)]は小野寺ら以降の成人後腹膜奇形腫本邦報告例 35 例を 集計しているがこの内 6 例は悪性奇形腫である.この集計に入らなかった後腹膜悪性(未 熟)奇形腫や悪性化奇形腫[6)]と 1992 年以降の症例を[7-10)]追加すると 22 例が報告されていることになる(表1).成人悪性奇形腫の年齢は 22 ー 68 歳平均 36.7 歳 で、男性 13 例女性 9 例である.症状としては腹部腫瘤触知、疼痛や腹部膨満、膀胱が腫瘍 に圧排されたための頻尿など圧迫症状が最も多いが、全身倦怠や咳吹等の症状を示す例も ある.予後については記載のある 19 例中 9 例が1年以内に死亡している. 小児では後腹膜悪性奇形腫の発生頻度は低く、本邦小児後腹膜奇形腫報告 219 例中悪性 奇形腫は 4.9%を占めるだけであり[11)]、2005 年度小児悪性腫瘍登録 368 例中後腹膜 奇形腫未熟型が 2 例見られるにすぎない[12)]. また 16 歳ー 19 歳の後腹膜悪性奇形腫の報告は更に少ない[13)]. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)天野正道、田中啓幹、大森弘之、佐藤義信:後腹膜類皮嚢腫の1例-後腹膜腫瘍本邦 報告例 1104 例の統計的観察- 西日泌尿、37:734-741,1975 - 26 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 2)朝長 毅、奥山和明、永尾孝一,田畑陽一郎、榎本和夫,高 在完、日浦利明、佐藤 博、磯野可一:多彩な組織像を有する後腹膜脂肪肉腫の1治驗例 癌臨、32:927-932,1986 3)Koroku M.,Takagi Y.,Suzuki N.,Watanabe J.:Primary Retroperitoneal Teratoma in Adult:Acase Report Int.J.Urol,4:219-221,1997 4)小野寺健一、笹生俊一、久冨木原真、小野隆男:成人の後腹膜未熟奇形腫の1治驗例 -過去 21 年間の本邦における成人後腹膜奇形種 33 例の統計的検討 臨外、39:1181-1185、 1984 5)児島康行、井上彦八郎、小林 晏:成人に発生した原発性後腹膜奇形腫の1例 西日 泌尿、54:1378-1381,1992 6)真田俊吾、川村寿一、吉田 修、今村貞夫、内野良仁:皮膚筋炎に合併した後腹膜悪 性奇形腫(印鑑細胞癌)の1例 泌紀要、28:885-892,1982 8)前原直樹、志村英生、田宮貞史、有田正秀、鳥巣要道、田中雅夫:腺癌を合併した後 腹膜成熟奇形腫の1例 外科診療 38:109-112,1996 7)菊池栄次、住友 誠、中村 薫、村井 勝、秦 順一:後腹膜に発生した悪性化奇 形腫 臨泌、51:583-585,1997 8)Yamasaki T.,Yagihashi Y.,Shirahase T.,Hashimura T.,Watanabe C.,Primary carcinoid tumor arising in a retroperitoneal mature teratoma in adult Int.J.Urol.7:184-188,2000 10)Tanaka T.,Kitamura H.,Masumori N.,Tsukamoto T.,Kimura M.:Retroperitoneal extragonadal germ cell tumor presenting as a bulky pelvic mass of the obturator fossa Int.J.Urol.,13:180-182,2006 11)村国 均、松尾進一郎、山口宗之、渡辺 聖:小児後腹膜奇形腫の1例 日小外会 誌、21:121-123,1985 12)日本小児外科学会悪性腫瘍委員会:小児の外科的悪性腫瘍、2005 年登録症例の全国 集計結果の報告 日小外会誌、43:62-91,2006 13)鈴木 誠、簑和田滋、阿曽佳郎、石井泰憲:クラインフェルター症候群に合併した 巨大後腹膜悪性奇形腫 臨泌 45:617-620,1991 ⅩⅡb 絨毛癌 後腹膜腔原発の絨毛癌の発生機序は原始生殖細胞が卵黄内胚葉から性腺原基へ移動する 際に他の組織へ迷入し腫瘍化すると考えられている[1)].この後腹膜原発絨毛癌も極 稀な悪性腫瘍で、1998 年に川口ら[1)]が本邦の 21 例を集計している.それによれば、 21 例全例が男性であり、年齢は 16 ー 41 歳(平均 26.9 歳)と若年に多く、21 例中 15 例が 30 歳未満であった.初診時に 21 例中 20 例(95.2%)が転移を伴い、転移部位は肺(67%)、 表在リンパ節(43%)、肝(24%)等である.記載のある 12 症例中 7 例に女性化乳房を認 めた.血液検査ではLDHは記載のある 15 例中全例が上昇し、HCGは 8 例中 7 例が高値 を示している.絨毛癌の治療は、腫瘍の発育速度が非常に速く、初診時既に転移しており、 放射性感受性が低いことから、化学療法が行われる.化学療法のレジメは精巣腫瘍のレジ メに準じて行われる.予後は極めて不良で、記載のある 15 例中 10 例が 1 年 3 ケ月以内に死 亡している.川口ら以降は 2 例の学会報告が有るに過ぎない[2、3)].この 2 例は共 に男性で年齢は 28 歳と 31 歳で主訴は食思不振、嘔吐、腹痛と腹痛.共に HCG は高値を示 し、外科的治療を行う間も無く死亡している. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ - 27 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 文 献 1)川口富司、木下博之、瀧藤克也、小林康人、上畑清文:後腹膜原発絨毛癌の1例 日 臨外会誌、59:1669-1673,1998 2)川上義和、西村正治、檜澤伸之、長島和郎、澤 洋文、渡辺尚吉、山本宏司、井上幹 郎、鈴木章彦、吉田和博、須甲憲明、鈴木 勇、上村 明、福元伸一、菊地英毅、鈴木誉 也、吉田 晃、宮本兼玄:後腹膜原発絨毛癌 岩見沢市立総合病院医誌、26,99,2000 3)武内健一、平野春人、守 義明、宇部健治、石木幹人、冨地信和、小野貞英:青年男 子の転移性肺腫瘍-後腹膜原発と考えられる Choriocarcinoma- 肺癌、43:71,2003 ⅩⅢユーイング肉腫 後腹膜腔発生の骨外性ユーイング肉腫も稀である.2003 年に原ら[1)]は腎、副腎、 腸腰筋発生各 1 例を含む本邦の後腹膜腔発生ユーイング肉腫 16 症例を集計している.その 後 17 歳女性の後腹膜腔発生ユーイング肉腫の1例が報告されている[2)]これら 17 例 の年齢は 6ー44 歳(平均 22.3 歳)であり、10 歳ー20 歳代が 12 人(70.68%)を占める.性 別は男性 8 例女性 9 例である.主訴は腹痛が 9 例と最多で、之に次いで背部臀部痛が 5 例、 腫瘤触知が各4例で、7 例が骨盤腔に発生している.初診時の転移は 4 例(内肺転移 2 例) である.治療は切除が第一選択であるが、放射線治療や化学療法もおこなわれる. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)原 芳紀、田尻雄大、松浦謙一、長谷川章雄、岩村正嗣、神座慎一郎、長本章裕:後 腹膜腔に発生した骨外性ユーイング肉腫の1例 西日泌尿、65:513-518,2003 2)土岐大介、橋本恭伸、白川浩希、近藤恒徳、奥田比佐志、伊藤文夫、鬼塚史朗、東間 紘、今井礼子、木村 知、斉藤尚子、三橋紀夫:後腹膜より発生した Ewing 肉腫の1例 泌尿器画像診断研究会会誌ⅩⅩ19-20、2005 - 28 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved ⅩⅣ悪性間葉腫 悪性間葉腫は繊維成分を除外した、少 なくとも2つ以上の間葉成分からなる悪 性腫瘍と定義されている.後腹膜にこの 悪性間葉腫が発生することは極く稀で、 後腹膜間葉腫年齢分布 7 6 5 4 1992 年に東田ら[1)]が本邦症例 19 3 例を集計し、2000 年に伊藤ら[2)]が 2 22 例を集計し、長家ら[3)]はさらに 1 0 0-9歳 1例を追加して 23 例としている.これに 原野ら[4)]の報告を加えても 24 例に 例数 3 過ぎない.この 24 例を解析すると、性別は記載のある 10 -19 20ー29 30-39 40-49 50-59 60-69 70-79 歳 歳 歳 歳 歳 歳 歳 2 1 1 4 2 2 7 後腹膜間葉腫を構成する組織 病理組織 脂肪肉腫 る.年齢は 11 ケ月から 79 歳平均 47.2 歳であるが、年 平滑筋肉腫 横紋筋肉腫 齢分布では 70 歳代に最多であるが、10 歳未満(11 ケ 軟骨肉腫 血管肉腫 月、2 歳、3 歳)と 40 歳代にもピークがみられる(図). 繊維肉腫 悪性繊維組織球腫 初発症状は腫瘤触知が最も多く、腹部膨満、疼痛であ 骨肉腫 神経芽腫 22 例では男性 12 例女性 10 例で性差は無いようであ 例数 12 11 9 9 8 6 4 3 2 り他の後腹膜悪性腫瘍の症状と変わりはない. 病理組織学的には後腹膜の悪性間葉腫を構成する悪性腫瘍は、記載のある 23 例では脂肪 肉腫が最も多く、次いで平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、軟骨肉腫や血管内皮腫1例と血管外皮 腫 3 例を加えた血管肉腫などであった(表).3 腫以上の間葉腫瘍から構成されている症 例は 15 例認め、このうち 6 例は繊維肉腫を伴っていた.悪性間葉腫も治療の第一選択は外 科的切除であるが、記載のある 20 例のうち 17 例が外科的切除をうけ、3 例は放射線単独 治療であった.外科的切除を受けた半数が放射線治療や化学療法ないしはその両者を併用 されていた.予後は不良で記載のある 19 例中 13 例が治療後 3ー48 ヶ月(平均 12.8 ケ月) で死亡している. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)東田 章、高羽夏樹、細見昌弘、関井謙一郎、中森 繁、伊藤喜一郎、佐川史郎、虎 頭 廉:後腹膜悪性間葉腫の1例 西日泌尿、54:1986-1989,1992 2)伊藤 博、角谷直孝、尾山勝信、井口雅史、福島 亘、桝谷博孝、廣澤久史、泉 良 平、広野禎介、齋藤勝彦:盲腸癌を併存した後腹膜悪性間葉腫の1例 日消外科会誌、 - 29 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 33:85-89,2000 3)長家 尚、多賀 聡、脇山茂樹、池部正彦、中西浩三、豊増泰介:再発を繰り返した 後腹膜悪性間葉腫の 1 例 日臨外会誌、63:2570-2574,2002 4)原野正彦、江藤正俊、安東 定:後腹膜悪性間葉腫 臨泌 52:353-355,1998 ⅩⅤ粘液性嚢胞腺癌 後腹膜腔に本来存在しない上皮性の悪性腫瘍が発生することは極稀である.後腹膜悪性 腫瘍の 3.6%とされている[1)].腺上皮が後腹膜腔に生じる機序としては①卵巣に由来 する、②奇形種・過誤腫に由来する、③胎生期の泌尿生殖器官遺残に由来する、④後腹膜 腔に陥入した中皮が化生性変化した上皮に由来する、という説があるが、④が最も有力で ある[1)]. 上皮性悪性腫瘍のうちでは、粘液性嚢胞腺癌の報告は比較的みられ、2005 年に伊勢田ら [1)]により本邦報告例 25 例が集計されている.これによれば、性別は男性 1 例に対し 女性 24 例と圧倒的に女性に多い.年齢は 25 ー 86 歳平均 52 歳である.腫瘍マーカーとしては、 CEAが 6 例で、CA19-9 が 3 例で、CA12 が 2 例で上昇していた.治療は 25 例全例で 外科的切除術がなされ、このうち 3 例では子宮付属器合併切除が行われていた.術後の化 学療法は 6 例になされていた. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 1)伊勢田徳宏、佐々木豊和、清家 日泌尿、67:22-25,2005 文 献 泰、越知憲治:後腹膜原発粘液性嚢胞腺癌の1例 西 - 30 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved ⅩⅥその他の悪性後腹膜腫瘍 後腹膜悪性腫瘍の種類は非常に多彩であり、上記の他にも非常に多くの種類の悪性腫瘍 が発生すると考えられる.本邦では 2 例しか報告のない悪性中皮腫[1,2)]、本邦で 4 例しか報告のない悪性神経上皮腫(primitive neuroectdermal tumor)[3,4)]や本邦で は初めての gastrointestinal stromal tumor[5)]の報告の他に悪性ミュラー菅混合腫瘍[6)] や undifferntiated sarcoma[7)].また悪性度は低いとされているが後腹膜原発の孤立性 繊維腫瘍の報告もみられる[8)]. 後腹膜に原発する上皮性悪性腫瘍は非上皮性腫瘍と比べても極端に頻度は少ない.後腹 膜原発の未分化癌は本邦での報告例は 3 例に過ぎない[9-11)].また本邦内外で 3 例しか報告のない明細胞癌[12)]や本邦で 2 例の報告しかない小細胞癌[13)]な どの報告がみられる.また 40 歳以上の女性にしかみられない極く稀な漿液性乳頭状腺癌が 後腹膜から発生すること[14)]や 2000 年に世界で初めて報告された扁平上皮癌が後腹 膜に発生することもある[15)]. 後腹膜悪性腫瘍トップヘ 文 献 1)井口靖弘、東間 紘、奥村俊子、高浜素秀:後腹膜腔に原発したと思われる悪性中皮 腫の1例 日泌尿会誌、87:1261-1265,1996 2)小島圭太郎、玉木正義、前田真一、田代和弘、高橋義人、横井繁明、西野好則、出口 隆:副腎腫瘍との鑑別が困難であった後腹膜腔原発悪性中皮腫の 1 例 泌尿紀要、 48:183-186,2002 3)藤島則明、浜口伸正、開発展之:後腹膜腔原発悪性神経上皮腫の1例 外科、 61:1189-1192,1999 4)熊谷 伸、亀岡 浩、片寄功一、山口佳子:後腹膜に発生した未分化神経外胚葉性腫 瘍 臨泌 61:69-71,2007 5)多武保宏、水谷 隆、朝影裕之、平林寧子:後腹膜 gastrointestinal stromal tumor の1 例 臨泌、57:241-244,2003 6)上原正弘、泉 浩、竹中 温:急性腹症にて緊急手術を要した後腹膜原発 malignant mixed Mullerian tumor の1例 日臨外会誌、63:718-722,2002 7)角田洋一、小林義幸、加藤大吾、齋藤 純、矢澤浩治、細見昌弘、伊藤喜一郎:後腹 膜肉腫の3例 泌尿紀要、52:271-275,2006 8)牛島洋子、前田永子、都築豊徳:組織学的に著明な嚢胞状変化を伴った後腹膜巨大孤 立性線維性腫瘍の1例 診断病理、22:58-60,2005 9)長坂一憲、北条 智、櫻庭志乃、坂本公彦、柿木成子、中田真木、中村淳子、安田 孝、 瀧澤 憲:後腹膜原発未分化癌の一例 日産婦東京会誌、51:382-386,2002 10)西森武雄、韓 憲男:後腹膜未分化癌の1例 日外系連会誌、22:834-838,1997 11)武市牧子、芦田 寛、琴浦義尚、宇都宮譲二、桜井一成、植松邦夫:後腹膜α-fetoprotein 産生未分化癌の1例 12)西 宏之、仲原正明、城戸哲夫、山西博司、中尾量保、辻本正彦:後腹膜原発の明 細胞癌の1例 日臨外会誌、61:3080-3084,2000 13)井村 誠、安井孝周、小林隆宏、岡田真介、成山泰道、郡 健二郎:後腹膜に発生 した小細胞癌の1例 臨泌、58:711-713,2004 14)成松昭夫、服部守志:Cisplatin の腹腔内投与が奏効した腹膜原発漿液性乳頭状腺癌 の1例 癌と化療、13:2083-2087、2001 15)伊神 剛、長谷川 洋、小木曽清二、塩見正哉、籾山正人、大平周作、高橋 祐、 - 31 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 雨宮 剛、上原圭介、宮崎 晋,都築豊徳:後腹膜に巨大な腫瘤を形成した低分化扁平上 皮癌の1例 癌臨、46:389-393,2000 - 32 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 後腹膜悪性腫瘍索引 gastrointestinal stromal tumor ..............................................................................................................30 undifferntiated sarcoma ........................................................................................................................30 悪性(未熟)奇形腫 ..........................................................................................................................25 悪性 Triton 腫瘍 ....................................................................................................................................7 悪性間葉腫 ..........................................................................................................................................28 悪性血管周皮腫 ..................................................................................................................................19 悪性後腹膜腫瘍症例数 ........................................................................................................................2 悪性後腹膜腫瘍の性別年齢 ................................................................................................................3 悪性神経上皮腫 ..................................................................................................................................30 悪性神経鞘腫 ........................................................................................................................................7 悪性繊維性組織球腫 ..........................................................................................................................20 悪性中皮腫 ..........................................................................................................................................30 悪性末梢神経鞘腫 ................................................................................................................................7 悪性ミューラー菅混合腫瘍 ..............................................................................................................30 横紋筋肉腫 ..........................................................................................................................................16 形質細胞腫 ..........................................................................................................................................20 血管肉腫...............................................................................................................................................19 孤立性繊維腫瘍 ..................................................................................................................................30 死亡数(後腹膜腫瘍) ........................................................................................................................2 脂肪肉腫...............................................................................................................................................12 絨毛癌...................................................................................................................................................26 漿液性乳頭状腺癌 ..............................................................................................................................30 小細胞癌...............................................................................................................................................30 神経芽腫.................................................................................................................................................4 成人神経節芽腫 ....................................................................................................................................5 線維肉腫...............................................................................................................................................18 粘液性嚢胞腺癌 ..................................................................................................................................29 胚細胞腫瘍 ..........................................................................................................................................22 パラガングリオーマ(褐色細胞腫)................................................................................................9 - 33 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved 平滑筋肉腫 ..........................................................................................................................................14 扁平上皮癌 ..........................................................................................................................................30 未分化癌...............................................................................................................................................30 明細胞癌...............................................................................................................................................30 ユーイング肉腫 ..................................................................................................................................27 - 34 – Copyright© Noriharu mikata 2016 All Rights Reserved
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