靍 雅春* (Masaharu Tsuru) 関 吉隆* (Yoshitaka Seki) 高椋 佳夫* (Yoshio Takamuku) 中村 正一** (Shoichi Nakamura) 日本独自の業務形態に即応可能な 中堅製造業向け ERP ソリューション ERP Solutions for Mainstay Manufacturing 要 旨 三菱電機インフォメーションシステムズ(株)(MDIS)で 製造実行系システムなどの連携ソリューションを整備し、 ERP 上流のコンサルから、システム構築、稼働後の運用保守、 (Enterprise Resource Planning)ソリューションを開発 アウトソーシングまでをワンストップサービスとして提供 した。 している。 は、中堅製造業向けに MCFrame(注 1)を中核とした MCFrame は、オブジェクト指向技術の採用により、日 MDIS の中堅製造業向け ERP ソリューションは、柔軟・ 本の生産管理のノウハウを取り込んだ部品を、フレームワ 迅速なシステム構築とワンストップサービスでお客様の強 ークとして提供している。システムの導入は、お客様自社 みを更に伸ばす、快適・安心・発展のソリューション提供 の強みを活かしながら、最適な部品を選択、組み合わせ、 を目指している。 カスタマイズしながら進める。このため、一般的にERP (注 1)MCFrame は、東洋ビジネスエンジニアリング(株)の登録商 の導入で行なわれる“現在の業務モデルを捨ててパッケー ジが提供するベストプラクティスに合わせる” のではなく、 標である。 (注2)会計指南は、(株)三菱電機ビジネスシステムの登録商標であ あくまでも“お客様の現場から築き上げた強みは活かして いく”アプローチを取ることを特長としている。 る。 MDIS では、MCFrame の標準フレームワークをベース (注3)DIAPRISM、MELNAVI は、三菱電機(株)の登録商標である。 (注4)FLEXSCHE は、(株)フレクシェの登録商標である。 に業種別フレームワーク及び会計管理、 生産スケジューラ、 三菱電機インフォメーションテクノロジー㈱ (注3) 情報分析 製造情報分析 販売情報分析 会計情報分析 個産系フレームワーク 生産スケジューラ 会計 食品工場フレームワーク (注2) 一般会計 支払管理 手形管理 本支店自動仕訳 会計連携フレームワーク ㈱三菱電機 ビジネスシステム 生産スケジューラ連携フレームワーク 自動車部品フレームワーク 固定資産管理 標準フレームワーク 販売・物流 製造 調達 計画の流れ 物の流れ 計画 販売計画 需給調整 業務 受注管理 出荷管理 製造管理品質管理 Web調達 発注管理 入荷管理外注管理 在庫・受払管理 リース資産管理 販売管理 管理 生産管理 MRP スケジューラ 調達計画 (注4) (株)フレクシェ 生産計画 最適化システム (設備・資材・要員) 進捗管理 原価管理 販売管理 原価管理 SCM 製造実行系システム連携フレームワーク 製造実行系システム 調達先 POP M ELNAVI (注3) レシピ管理 品質管理 トレース タッチパネル 製造指示 データ収集 実績分析 RFID 原料 加工 出荷 納入先 SCM:Supply Chain Management POP:Point of Production RFID:Radio Frequency Identification MRP:Material Requirements Planning 中堅製造業向け ERP ソリューションの概念図 MCFrame 標準フレームワークは、生産管理、原価管理、販売管理、SCM のモジュールで構成される。MDIS では、 この上に業種別フレームワーク及び会計、製造実行系システム、生産スケジューラなどの連携ソリューションを整備し、 上流コンサルからシステム構築、 稼働後の運用保守、 アウトソーシングまでをワンストップサービスとして提供している。 * 三菱電機インフォメーションシステムズ(株) ** (株)三菱電機ビジネスシステム 1 2.2 MCFrame 連携ソリューション 1.ま え が き MDIS の ERP ソリューションは、主に MCFrame 及 MCFrame は、製造業のロジスティクス系業務に重点 び SAP(注5)の2種類の製品で対応している。両者の違い を置いており、会計などは、他ソリューションと連携し はカスタマイズの考え方にあり、SAP のベストプラクテ てシステムを構築する。MDIS は、連携フレームワーク ィスのノンカスマイズ指向に対し、MCFrame は、お客 として、“会計”、“生産スケジューラ”、“製造系実行系 様の強みを活かした柔軟なカスタマイズを指向する点に システム”を用意し、柔軟・迅速なシステム構築を実現 ある。MDIS では、お客様のニーズに合わせて、最適な している。また、製造原価や売上の各種分析には、情報 ソリューションを提案している(図1) 。 分析システム DIAPRISM を活用することもできる。 本稿では、MDIS の中堅製造業向け ERP ソリューシ ョンの特長及び今後の対応について記述する。 会計連携フレームワークは、生産管理、販売管理のト お客様企業 年商(億円) 400 SAP R/3 300 200 MCFrame SAP Business One 2.2.1 会計連携フレームワーク 100 ラ ン ザ ク シ ョ ン デ ー タ を 、 CSV(Comma Separated Values)形式の仕訳データとして会計パッケージの“会 計指南” に渡す機能を提供している(図3)。 これにより、 会計指南の快適かつ豊富な会計業務機能を活用すること ができる。 ノンカス タマ イズ指向 カス タマイズ指向 図1.MCFrame と SAP ソリューションの位置付け 仕訳設定 マスタ 生産管理 CSV形式 トランザクション 2.生産・販売・物流統合フレームワーク 2.1 MCFrame のコンセプト 製造業における生産・販売・物流(以下、ロジスティ 会計連携 フレーム ワーク 販売管理 取 り 込 み 処 理 インタフェース データ (仕訳データ) トランザクション トランザクション クス系業務)の場合、お客様の業務を、パッケージのベ ストプラクティスに合わせるだけではなく、お客様のコ アコンピタンスを新システムに活かすことが重要であり、 稼働後もタイムリーにブラッシュアップしていくことが 求められる。 図3.会計連携フレームワーク 2.2.2 生産スケジューラ連携フレームワーク 生産スケジューラ連携フレームワークは、MCFrame MCFrame は、オブジェクト指向技術を採用し、3レ の MRP (Material Requirements Planning)で作成した イヤのフレームワークで構成されている(図 2)。業務機能 生産計画を、制約条件(設備、負荷、資材調達)を考慮し は再利用できる“部品”で提供されているため、カスタ て、FLEXSCHE(生産スケジューラ)によるシミュレー マイズレイヤに部品を追加することで、効率的なカスタ ションで最適化し、最終結果を MCFrame のデータベース マイズが可能であり、パラメータチューニングのみで対 に格納する(図4) 。 応していくパッケージとは異なっている。 制約条件を考慮し オーダー最適化実行 MRP展開のみ MCFrame は、“柔軟・迅速なシステム構築による快 XML形式 適”と、 “お客様の強みをさらに伸ばす発展”を提供し、 さらに MDIS が、 “上流コンサルからアウトソーシング マスタ までのワンストップソリューションによる安心”を、お オーダー 客様に提供している。 データ ベース 共通フレームワーク 生産 スケジューラ 連携フレーム ワーク 在庫 ・業務に依存しない共通機能の部品 オーダー ソリューションフレームワーク ・MCFrame各モジュール(生産・販売・原価・SCM)の部品 ・業種(食品・自動車部品・個産系など)の部品 取 り 込 み 処 理 取 り 出 し 処 理 データ ベース カスタマイズレイヤ MCFrameの構成 XML:eXtensible Markup Language お客様毎の個別要件に柔軟に対応 ・オブジェクト指向技術を採用したカスタマイズしやすいアーキテクチャ ・開発環境FrameManagerによる短期間・高品質のカスタマイズ 図2.MCFrame のフレームワーク構成 最適化オーダー フィードバック 3 図4.生産スケジューラ連携フレームワーク 2.2.3 製造実行系システム連携フレームワーク MCFrame 生産管理から MELNAVI(製造実行系シス (注5)SAP,SAP R/3,SAP Business One は、SAP AG の登録商標である。 2 テム)に、マスタ、計画データを出力、MELNAVI から は実績データを入力する機能を提供している(図5)。こ れにより、生産現場で発生する貴重な実績データをスピ ーディに活用することができ、品質や効率改善に役立て ることができる。 とができる。 これらによって、トータルで“工期短縮” “品質向上” “開発コスト削減”の効果を創出する。 なお、各業種別フレームワークの特長を、表1にまと める。 製造実行系システム XML形式 工期短縮・品質向上・開発コスト削減 MELNAVI マスタ 計画データ ・生産計画 ・作業指示 製造実行系 システム 連携フレーム ワーク データ べース 入 出 力 処 理 実績データ ・作業実績 ・投入 ・算出 ・実在庫 ・品質 効果 効果 具体的な工場モデルをサンプルにできるので、 お客様と早期にビジブルな検討が可能。 プロトタイピングの効率化と、 プロトタイピング での評価精度向上が図れる。 業種の特性が反映された部品の再利用により、 作業効率向上が図れる。 データ ベース 要件定義 カスタマイズ開発 試験 プロトタイピング 業種別フレームワーク 図5.製造実行系システム連携フレームワーク 2.3 業種別フレームワーク 図7.業種別フレームワークの効果 MDIS では、MCFrame 標準フレームワークをベース に、業種別フレームワークを整備しており、現在“食品 工場” “自動車部品” “個産系” の3種類を提供している。 各フレームワークでは、工場モデルを仮定し、それに 表1.業種別フレームワークの特長 業種 食品工場 基づくワークシート、データベースをサンプル提供し、 標準フレームワークに不足する業務機能を部品として提 自動車 9かんばん方式への対応 9内示・発注・引取のプロセスへの対応 9自動車業界EDI(Electronic Data Interchange ) への対応 9シフト対応MRP 個産系 9見積作成 9工程計画・実績管理 9原価計画・実績管理 供している(図6)。 個産系フレームワーク 自動車部品フレームワーク 工場モデル 食品工場フレームワーク 工場モデル 工場モデルを想定し、 コード体系のサンプルを提供。 工場モデルを想定し、 コード体系のサンプルを提供。 工場モデル 原料・資材 工場モデルを想定し、 コード体系のサンプルを提供 原料・資材 工程 工程 原料・資材 工程 工程 原料・資材 部品構成表・配合表 工程 部品構成表・配合表 部品構成表・配合表 部品構成表 配合表 配合表 データベース ワークシート トレーサビリティ 製造ロッ ト 出荷ロッ ト 原料・資材 トレーサビリティ 製造ロット 原料・資材 品質管理 品質管理 原料・品質属性管理 品質管理 原料・資材 出荷ロット 工程 原料・資材 部品構成表 原料・資材 部品構成表 配合表 ワークシート 製造ロッ ト 出荷ロッ ト ワークシート トレーサビリティ 原料・品質属性管理 原料・品質 属性管理 フレームワークの特長 9トレーサビリティ 9原料マスタでの品質属性・等級管理 9帳合などの商習慣への対応 データベース 標準フレームワークにない データベース 業務機能を部品で提供 標準フレームワークにない 業務機能を部品で提供 部品群 部品群 ソリューションフレームワーク 部品群 標準フレームワークにない ソリューションフレームワーク 業務機能を部品で提供 2.4 アウトソーシングサービス MDIS では、システム本稼働後のお客様に対しては、 ハウジング、ホスティング、ASP(Application Service Provider)から運用に至るまで、ワンストップのアウトソ ーシングサービスを提供している。サービスメニュー体 系を図8に示す。 特長としては、個別のサービスだけでなく、プラット フォーム、MCFrame と連携ソリューション及びパッケ ージ製品を、MDIS がインテグレーションしてサービス を提供すること及びヘルプデスクによって、お客様から 図6.業種別フレームワーク MCFrame の導入プロセスでは、図7に示す通り、要 のシステム、運用に関わる全ての相談、依頼をワンスト ップで対応することがあげられる。 件定義でのプロトタイピングにおいて、お客様に合った さらに、アウトソーシングでは、お客様のビジネスプ 業種別フレームワークを利用することで、早期に、ビジ ロセスとシステムに対する評価、改善の提案サービスを ブルでかつ具体的な検討を進めることができる。これに 提供しており、お客様との共創による“発展”を目指し より、要件定義の作業効率アップと精度向上を図ること ている。 ができる。 また、業種の特性を反映した部品が準備されているた め、カスタマイズは部品の再利用で進めることができ、 3.MCFrame 導入実績(食品工場生産情報システム) 本章では、食品工場での導入実績を紹介する。 開発、試験フェーズでの作業効率と品質の向上も図るこ 3 オペレーションサービス リソースサービス アプリケーションサービス パ ッ ケ ー ジ ラ イ セ ン ス 保 守 MCFrame連携ソリューション(FLEXSCHE) MCFrame連携ソリューション(会計指南) MCFrame業種別フレームワーク MCFrame標準フレームワーク MCFrame 及び連携ソリューションでは、データ登 録・更新時に、履歴を管理する機能は、既に実装済であ る。日本版 SOX 法対応として強化すべき機能について 検討中であるが、現在、以下の事項を想定している。 (1) データ項目別に登録・更新の権限を個人別に設定 (2) データ登録・更新について、実行と承認のプロセ ハ ー ド ウ ェ ア 保 守 ソ フ ト ウ ェ ア 保 守 プラットフォームサービス プ ラ ッ ト フ ォ ー ム 運 用 ヘル プ デ ス ク ( ワン ス ト ッ プ) お客様 カ ス タ マ イ ズ ア プ リ ケ ー シ ン 保 守 ョ 業 務 運 用 ASPサービス MCFrame連携ソリューション(DIAPRISM) MCFrame連携ソリューション(MELNAVI) スを設定、チェックする ハウジング・ホスティングサービス プラットフォーム (3) MCFrame と連携ソリューションの間で、データ の保証ができる仕組みを整備する 図8.アウトソーシングのサービス MCFrame 導入前には、大きな問題点が二つあった。 MDIS では、上記を実現する日本版 SOX 法対応フレ ームワークを整備し、かつ、お客様の実行計画立案を支 一つは、先頭工程投入量と最終工程産出量のみの管理に 援する上流のコンサルサービスも提供する予定である。 留まっていたため、工程別の生産実績管理、原価管理が 4.2 BPM(Business Process Management) できなかったことと、もう一つは、製品の品質が原料の お客様の“発展”のためには、システムの稼働開始後 品質に大きく依存するにも関わらず、原料と製品の品質 も、継続した業務改善及びシステム改善が必要となる。 については定量的な把握ができていなかったことである。 MDIS では、改善のための意思決定支援のソリューショ この問題解決のため、お客様と合意のもと、プロジェ ンとして、BPM ツール及びサービスを開発中である。 クトの目標として、“工程別 QCD(Quality、Cost、 具体的には、業務プロセス、システムの改善ための Delivery)管理の実現”と、原料と製品の両品質評価の PDCA(Plan、Do、Check、Action)ツール及びアウトソ 仕組みを作ることで、“原料生産者へのインセンティブ ーシングでのコンサルサービスを提供していく(図10)。 付与制度の実現”を設定した。 ビジネスプロセス定義 MDIS では、食品工場フレームワーク、製造実行系シ Action 事業発展のため具体策策定 9業務改善 9システム改善 ステム(MELNAVI)をベースにして、約6ヶ月でシステ ムを完成させた(図9)。 Plan 主たる導入効果として、各工程ごとに生産実績をデー MCFrameシステム構築 Check ビジネスプロセス パフォーマンス評価 Key Performance Indicator タベースに蓄積できるようになり、生産実績管理、生産 原価の管理が容易になった。また品質判定に関する承認 管理の強化により品質の定量的な把握が可能となった。 今後は、トレーサビリティや経営分析を視野に入れた Key Performance Indicator Do 業務実行 図10.BPM ソリューションコセンプト システム拡充を図る計画にしている。 原料 導入前 加工3 加工1 加工2 投 入 量 中間工程 管理せず ・・・ 包装 産 出 量 旧システムでは、先頭工程 の原料投入量と最終工程の 産出量のみ管理 導入後 5.む す び 問題点と対策 出荷 問題点 × ①工程別・製品別原価管理 × ②原料・製品品質トラッキング 工程別 工程別 工程別 計画実績 計画実績 計画実績 管理 管理 管理 工程別 工程別 計画実績 計画実績 対策 管理 管理 ○ ①工程別・製品別原価管理 ○ ②原料・製品品質トラッキング 工程別のQ(品質),C(原価),D(進捗)管理を、 →原料生産者にインセンティブ付与 MCFrameで実現 図9.食品工場生産情報システムの事例 現在、SOA(Service Oriented Architecture) が注目さ れており、ERP でも、アプリケーションを部品化で細分 し、個別のサービスとして提供する機会が増えるものと 考えられる。MCFrame は、オブジェクト指向技術を採 用していることから SOA にも柔軟に対応可能であり、 今後 SOA も視野に入れて強化していく方針である。 また、MDIS では、MCFrame 業種別フレームワーク の種類拡大、連携ソリューションの拡大、上流コンサル 4.今後の課題 4.1 日本版 SOX 法への対応 米国での SOX(Sarbanes-Oxley)法施行に続き、日本で も、2007 年度(2008 年 3 月)決算より日本版 SOX 法の制 及びアウトソーシングサービスの強化を継続していく。 これらによって製造業のお客様に対し、タイムリーに かつ最適なサービスを提供することで、お客様のビジネ スへのより一層の貢献を目指す。 度適用が開始される予定である。情報システムでは、生 参 考 文 献 産・販売などの活動で発生したデータが、最終結果であ る財務諸表に出力されるプロセスで、不正が発生しない (1)戒田 充、ほか:ERP ビジネスプロセスエンジニアリング 仕組みであることを証明することが要求されると考えら とワンストップソリューション、三菱電機技報、79、No.4、247 れる。 ~250(2004) 4
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