高効率・双方向絶縁型 DCDC コンバータ

高効率・双方向絶縁型 DCDC コンバータ
小池
直希
大田原
祐樹
星野
哲馬
長井
真一郎
(ポニー電機)
High Efficiency Bi-directional Isolated DCDC Converter
Naoki Koike, Yuki Otabara, Tetsuma Hoshino, Shin-ichiro Nagai
(Pony Electric co., ltd.)
This paper proposes an isolated 8 kW bi-directional chopper circuit which includes an auxiliary resonant commuted
pole (ARCP) soft switching circuit. Isolation is achieved with a current resonant isolated DCDC converter. The
ARCP soft switching circuit uses transformer instead of smoothing capacitor in the input DC voltage. The proposed
ARCP soft switching circuit can achieve the zero voltage soft switching in the main switch, and the current resonant
isolated DCDC converter is enable to zero current soft switching transition. As a result of experiments on the 8 kW
system, it was indicated that the proposed system could attain the conversion efficiency 95 % at 40 kHz switching.
Keywords:ソフトスイッチング,零電圧・零電流スイッチング,ARCP,LC 共振
1
本システムでは ARCP 型ソフトスイッチングを付加した
まえがき
双方向チョッパ回路にさらに絶縁型とするため電流共振型
近年,EV や HEMS などの普及に伴い大容量のバッテリを
必要とする場面が増えてきている。用途によってバッテリ
絶縁コンバータを接続した構成となっている。ARCP 型のチ
の種類も多様化してきており,中でも双方向の電力変換を
のスイッチを ON にすることで高周波の部分共振現象が生
ョッパ回路ではメインスイッチの Turn on の直前に ARCP 用
実現するバッテリ充電器には様々な充電電圧規格に対応で
じ,零電圧&零電流スイッチング(ZVS)を可能にする。また,
きる広い汎用性が求められている。また,これら EV や
Turn-off 時はメインスイッチに並列接続されたコンデンサ
HEMS などが普及する背景には環境問題と電力エネルギー
によって零電圧スイッチングにする。
問題が存在し,同様にバッテリ充電器も例外ではなくエネ
上述のソフトスイッチング動作により,双方向チョッパ
ルギーロスの少ない製品が求められる。しかし,高周波ス
回路と絶縁 DCDC コンバータの本システムにおいて 8kW の
イッチングが主流となってきている現在ではスイッチング
実験を行った結果,放電時で最大 95.4%,充電時で最大
による損失が大きくなり,この問題を解決するためいくつ
95.5%の変換効率を達成した。
もの方法(1)(2)が検討されている。
本文では双方向チョッパ回路を適用したソフトスイッチ
2
回路構成
ング回路によって広電圧範囲,高効率の回路を実現してい
図 1 へ提案する回路構成図を示す。主回路は直流コンデ
る。ソフトスイッチング方式は数多く提案されているが,
ンサ(Clink)を接続して ARCP 型双方向チョッパ回路,電流
共振回路での損失が大きいため,効率改善が難しい。そこ
共振型絶縁 DC/DC コンバータを接続した 2 コンバータ構成
で本文では回路が簡単で高効率を実現できるソフトスイッ
となっている。
チング方式としてトランスを利用した補助共振転流ポール
ARCP 型双方向チョッパ回路は一般的な非絶縁の DC/DC コ
型(以下,ARCP 型)を適用した双方向チョッパ回路を提案す
ンバータへ転流用スイッチ(Qr1,Qr2) ,補助共振用リアク
る。ARCP 型ソフトスイッチングは主回路に直列接続され
トル(Lr1),コンデンサ(Cr1,Cr2) ,電流を回生するトラ
ず,スイッチの転流時にのみ動作するため共振回路での損
ンス(Tr1)で構成している。
失が少ない。さらにチョッパ回路に適用することで広い電
電流共振型絶縁 DC/DC コンバータは一次側に Ql1~Ql4,
圧範囲で使用することができる。また,ARCP 回路部分では
二次側に Ql5~Ql8 のスイッチを接続したフルブリッジ構成
トランスの中性点を使用しているため,従来の平滑用コン
となっており,共振用リアクトル(Lr2) ,絶縁トランス
デンサを必要とせず寿命による劣化が起きにくい。
(Tr2) ,共振用コンデンサ(Cr1,Cr2)が直列接続された回路
(3)
ARCP型双方向チョッパ回路
電流共振型絶縁DC/DCコンバータ
Ql1
Qs1
Ql5
Ql3
Ql7
Qr1
Cr1
Lr2
Lout1
Cr2
Lr1
Qs2
battery
Clink
Ql2
Ql4
Ql6
Tr2
Cr1
bus
Ql8
Tr1
Cr2
Qr2
図 1 回路構成図
となる。
3
Qr2_gate
動作原理
Qs2_gate
〈3・1〉ARCP 型双方向チョッパ回路
Lout電流
図 2 に ARCP 型双方向チョッパ回路の主な動作原理波形を
Lr電流
示す。ターンオン時,メインスイッチ(Qs1,Qs2)を ON する
直前に共振用スイッチ(Qr1,Qr2)を ON して転流させる。ス
0A
Qs1_両端電圧
イッチ端子間に並列に接続されているコンデンサ Cr1,Cr2
トランス電圧
とリアクトル Lr で共振が生じるため,メインスイッチ端子
Qs1_電流
t
間の電圧が 0V になった時にゲートを ON する(ZVS)。ター
Mode0
メインスイッチの両端電圧はゆっくり上昇する。電圧の立
Mode4
Turn on
(ZVS&ZCS)
ンオフ時はメインスイッチが切れる瞬間に電流がコンデン
サ Cr1,Cr2 へ転流する。このコンデンサの充(放)電により
Mode1 Mode2 Mode3
図 2
Qr1_gate
め,スイッチング損失はほとんど発生しない。
Qs1_gate
Lr電流
ッチングする。以下に図 2 波形の各モードにおける電流経
Mode0
Turn off
(ZVS)
ARCP 型双方向チョッパ回路の動作原理波形(放電時)
ち上がりに対して電流は素早くコンデンサ側へ転移するた
放電時は下側(Qs2,Qr2),充電時は上側(Qs1,Qr1)をスイ
Mode5
0A
Lout電流
路と動作について図 4,図 5 に示す電流遷移図に従って詳
細に述べる。
Qs_両端電圧
トランス電圧
〈3・1・1〉ARCP 型双方向チョッパ回路放電モード
Qs電流
<mode0:出力リアクトルの放電>
t
転流動作以前の定常状態である。リアクトルがエネル
Mode0
Turn on
(ZVS&ZCS)
ギーを放出(蓄積)し,bat-Lout-Qs2-link(Qs1-Lout-bat)のルー
プを辿る。
Mode1 Mode2 Mode3
図 3
Mode4
Mode5
Mode0
Turn off
(ZVS)
ARCP 型双方向チョッパ回路の動作原理波形(充電時)
<mode1:転流開始(Turn-on)>
Qr1(Qr2)を Turn-on すると転流が開始する。mode0 で
Qs2 を 流 れ て い た 電 流 が Qr1 へ 徐 々 に 転 流 し ,
かる電圧は- Vlink/2 となるため,Lr へ流れる電流は Vlink/2L
の傾きで減少し,bat-Lout-Lr-Qr1(link-Qr2-Lout-bat)のループ
bat-Lout-Qs2-link(Qs1-Lout-bat)のループで流れていた電流が
で流れていた電流は bat-Lout-Qs1(link-Qs2-Lout-bat)へ遷移す
bat-Lout-Lr-Qr1(link-Qr2-Lr-Lout-bat)へ遷移する。このとき,
る。
トランス電圧を Vlink/2 とすると Lr の電流は,Vlink/2L の傾
きをもつ。
定常状態である。定常状態に戻ったとき,Qr1(Qr2)を
<mode2:LC 共振>
mode1 で Lr を流れる電流が Lout を流れる電流を超える
と
Cr1,Cr2 が 充 放 電 を 開 始 し , Cr1-Lr-Qr1
<mode4:定常状態>
と
Cr2-Lr-Qr1-link(Cr2-Lr-Qr2 と Cr1-link-Qr2-Lr)のループが形
成され共振動作を開始する。Cr1(Cr2)の両端電圧が 0 になっ
た点でスイッチ Qs1(Qs2)を Turn-on にする。
<mode3:定常状態への遷移>
スイッチ Qs1(Qs2)を Turn-on にした時点から Lr 両端へか
Turn-off する(ZCS)。リアクトルがエネルギーを蓄積(放出)
し,Qs1-Lout-bat (bat-Lout-Qs2-link)のループを辿る。
<mode5: 転流開始(Turn-off)>
Qs1(Qs2)を Turn-off すると,スイッチが切れる瞬間に電
流がコンデンサ Cr1(Cr2)へ転流する。このコンデンサの充
(放)電によりメインスイッチの両端電圧はゆっくり上昇す
る。この電圧の立ち上がりに対して電流は素早くコンデン
Qr2
Qs2
Qr2
Qs2
OFF
Lout
Ql1_gate
OFF
Cr2
ON
OFF
Lout
Lr
Cr2
Ql2_gate
Lr
link
Qs1
bus
Qs1
battery
battery
OFF
Cr1
OFF
Qr1
Ql1電流
Ql1電圧
OFF
Cr1
OFF
Qr1
Ql2電圧
<mode0>
<mode5>
Ql2電流
t
Qr2
Qs2
Qr2
Qs2
OFF
link
Qs1
battery
ON
Cr1
OFF
Cr1
ON
Qr1
Qr1
Ql1
Ql3
Ql5
Ql7
link
Ql2
Ql4
OFF
Qr2
Qs2
OFF
Lout
Ql1
link
link
Ql2
ON
Ql7
Ql4
Cr1
OFF
Tr2
OFF
bus
Ql8
Ql6
OFF
OFF
OFF
OFF
<mode3>
battery
ON
Qr1
Ql5
Ql3
OFF
Qs1
Ql7
Ql1
OFF
OFF
Ql5
Ql3
OFF
Lr2
ON
Ql7
OFF
Lr2
OFF
ON
OFF
Cr1
Qr1
link
Ql2
Ql4
OFF
<mode2>
Cr1
Tr2
bus
Ql8
Ql6
link
Ql2
Ql4
OFF
Cr1
Tr2
Ql6
OFF
OFF
ON
ON
<mode1>
bus
Ql8
OFF
OFF
<mode3>
ARCP 型双方向チョッパ電流遷移図(放電時)
図 4
bus
OFF
<mode0>
Cr2
bus
ON
Lr2
Ql8
Ql6
Ql5
OFF
Lr
Qs1
Cr1
Tr2
ON
OFF
Lr
OFF
Cr1
Ql3
OFF
ON
Lr2
Qr2
Qs2
OFF
Cr2
OFF
Ql1
OFF
OFF
ON
<mode4>
<mode1>
battery
Mode0
図 6 電流共振型絶縁 DC/DC コンバータの動作原理波形
Lr
Qs1
OFF
Lout
Mode3
Cr2
OFF
Lout
Lr
link
battery
Mode2
OFF
Cr2
OFF
Lout
Mode0 Mode1
<mode2>
図 7 電共振型絶縁 DCDC コンバータ電流遷移図
Qr2
Qs2
Qr2
Qs2
OFF
OFF
Cr2
Lr
Lout
OFF
Lr
Lout
link
Qs1
battery
Cr2
ON
link
Qs1
battery
OFF
Cr1
Cr1
OFF
Qr1
<mode0>
OFF
Qr1
Vlink
<mode5>
ARCP型双方向チョッパ回路
Qr2
Qs2
OFF
OFF
Lout
Lr
Lout
OFF
OFF
Lr
bus
Qs1
battery
Cr1
OFF
OFF
Qr1
Qr2
Lout
Cr1
ON
OFF
ON
Lr
battery
Qr1
<mode2>
図 5
360V,リンク電圧を 420V とした。また,定格容量を 8kW,
link
スイッチング周波数を 40kHz とした。共振用リアクト
Qs1
Qs1
battery
装置定格はバッテリ側電圧を 320V,bus 側電圧を
Qr2
ON
link
実験結果
〈4・1〉試験条件
Cr2
OFF
Lr
4
Qr1
Qs2
OFF
Cr2
Lout
OFF
<mode4>
<mode1>
Qs2
bus
Qs1
battery
Cr1
図 8 試験回路図(放電試験)
ON
Cr2
Cr2
電流共振型絶縁DC/DCコンバータ
Qr2
Qs2
Cr1
OFF
OFF
Qr1
<mode3>
ARCP 型双方向チョッパ電流遷移図(充電時)
ル Lr1,共振用コンデンサ Cr1,Cr2 は転流期間がスイッ
チング周期の 10%程度となるように設定した。放電時
は図 8 の様に ARCP 型双方向チョッパ回路から直流電圧
を入力し電流共振型 DCDC コンバータ側へ負荷を接続
サ側へ転移するため,スイッチング損失はほとんど発生し
し,充電時は電流共振型 DCDC コンバータ側から DC 電
ない(ZCS)。
圧を入力し,ARCP 型双方向チョッパ回路へ負荷を接続
〈3・2〉電流共振型絶縁 DC/DC コンバータ
図 6 図 7 へ電流共振型絶縁 DC/DC コンバータの動作原
して試験を行った。
〈4・2〉主回路の構造
理波形,電流遷移図を示す。本コンバータはオープンルー
図 9 に主回路図の構造写真を示す。ARCP 型 DC/DC
プにて駆動し,固定周波数の相補スイッチングを行う。共
コンバータ基板が一枚,電流共振型 DC/DC コンバータ
振周波数とスイッチング周波数を一致させることにより,
基板を 2 並列に接続した計 3 枚の基板で構成する。Tr2
零電流スイッチングを実現させる。
は 2 並列一組となっており,計 4 個の Tr2 をヒートシン
クに直接固定している。また,ARCP 型双方向チョッパ
回路のメインスイッチ(Qs1,Qs2)はそれぞれ TO247 の 3
並列とし,それに対して ARCP 共振回路のスイッチ
Load
ON
Tr2
ARCP型DC/DCコンバータ
変換効率(%
変換効率 %)
100
ARCP型DC/DCコンバータ
ARCP型DC/DCコンバータ
98
絶縁型電流共振回路
絶縁型電流共振回路
96
94
全体の変換効率
全体の変換効率
92
Tr1
90
88
86
Lr2
84
82
充電方向
放電方向
80
Cr1
-8
-6
-4
-2
0
負荷容量(kW)
負荷容量
2
4
6
8
図 13 効率特性
電流共振型絶縁DC/DCコンバータ
からである。図 10 の波形では共振部分の周期が負荷に依存
図 9 主回路構造
せず,負荷が大きくになるにつれて共振が起こるまでの時
間が増えていることが確認できる。以上のことからこれら
50
500
スイッチ端子電圧[100V/div]
8kW
400
の波形の妥当性が確認できる。
40
5kW
300
図 11,図 12 へそれぞれ ARCP 型双方向チョッパ回路,
30
2kW
電流共振型 DC/DC コンバータのスイッチング波形を示す。
200
20
100
10
これらの波形より,前者では Turn-on で ZVS,Turn-off で
ZCS,後者では Turn-on,Turn-off の両方で ZCS なっている
Lrの電流[10A/div]
ことが確認できた。
〈4・4〉効率特性
0
0
time[1us/div]
-10
-100
図 13 は変換効率の負荷依存性を示したグラフである。実
図 10 スイッチ端子電圧と Lark 電流(放電時)
験結果より,ARCP 型双方向チョッパ回路は 4kW~8kW 負荷
500
50
500
40
400
30
300
30
200
20
200
20
100
10
100
10
時では充放電共に 98%以上の変換効率を実現できた。また,
50
スイッチ両端電圧[100V/div]
400
40
スイッチ電流[10A/div]
300
スイッチ両端電圧[100V/div]
電流共振型絶縁 DCDC コンバータは 5kW~8kW 負荷試験に
スイッチ電流[10A/div]
0
0
0
-100
-10
-100
-200
-20
-200
-30
-300
おいて充放電で 96%以上の変換効率となった。8kW のシス
テム全体の変換効率としては充電方向で 95.5%,放電方向
0
-10
time[0.05us/div]
で 95.4%の変換効率を達成できることが分かった。
-20
time[0.05us/div]
-300
-30
(a)Turn on
(b)Turn off
図 11 ARCP 型双方向チョッパ回路波形
まとめ
5
双方向チョッパ回路と絶縁 DCDC コンバータのシステム
500
15
500
400
12
400
300
9
300
15
6
200
6
100
3
0
0
12
スイッチ両端電圧[100V/div]
9
で 8kW の実験を行った結果,放電時で最大 95.4%,充電時
で最大 95.5%の変換効率を達成した。10kW のシステムであ
トランス(Tr2)電流[3A/div]
200
3
100
0
0
0.4
0.9
1.4
スイッチ両端電圧[100V/div]
1.9
-3
-100
-200
-6
-200
-300
-9
-300
-12
-400
-15
-500
-100
-400
-500
time[0.5us/div]
トランス(Tr2)電流[2A/div]
-3
-6
-9
time[0.5us/div]
-12
-15
るため,さらなる効率改善が期待できる。電圧範囲が 10 倍
を超える場合でも使用できる双方向コンバータであるため
今後様々なバッテリ電圧の EV に対応でき,V2H,HEMS な
どのシステムにも有用な方式である。
(a)Turn on
(b)Turn off
図 12 電流共振型 DC/DC コンバータのスイッチング波形
(Qr1,Qr2)はそれぞれ TO247 一つの SJ-MOSFET で構成
している。
〈4・3〉動作確認
文
(1)
(2)
(3)
図 10 は負荷を変化させたときのスイッチの両端電圧と
Lr の電流の関係を示している。LC 共振周波数は LC 値に依
存し,負荷の大きさに依存しない。負荷を上げたときに Lr
の電流のピーク値が上昇するのは負荷電流(Lout の電流)が
大きくなるとその電流が大きくなった分転流時間が増える
(4)
献
長井,佐藤,伊東,森田:
「高効率・低ノイズ DC リンク共振三相イ
ンバータと転流制御」,電気学会論文誌 D,Vol.120,No.3, pp.100 (2000)
長井,佐藤,伊東,森田:「高効率・低ノイズ共振型三相変換器」,
電気学会論文誌 D,Vol.122,No.3, pp.100 (2002)
山本,森井,舟曳:
「平滑キャパシタレス ARCP 方式ソフトスイッチ
ングインバータ」,電気学会論文誌 D,Vol.130,No.2, (2010)
清水,鳥羽,木村:
「補助共振転流ポール型 PWM インバータの損失
最小化条件と実用上の問題点」,電気学会論文誌 D,Vol.118,No.3,
(1998)