本審査講評

いのが問題だと思います。
本審査講評
『マイ・ツイート・メモリー』はSNSの映像化
を、『電車男』のような熱を帯びたものではなく、
現代的な冷たい視線を込めながら試みている点に注
早速、講評を始めよう。字数と命には限
目しました。昨今の若者たちの様子をうまく表現し
りがあるぞ。急げ急げだ!
ていました。ただ効果的ではないジャンプカットが
多いことが気になりました。
村上 賢司 (映画監督/テレビディレクター)
『first experience』は素晴らしい音楽パフォー
『八浪二郎』はオフビートなコメディ作品です。
マンスの記録です。でもそれだけではもったいない
監督でもある主演のキャラが愛らしくてグッドです。
と思いました。例えば演奏に使う食器の音階を探る
ロケ地(特にビデオ屋さん)も面白いです。ただ、
作業の記録があってもよかったのではないでしょう
この手の作品(カウリスマキ系、山下敦弘系)は近
か。
『タートルハウス』の監督自らによる撮影技術の
年非常に多くあります。世界観は監督独自のもので
高さを評価します。こういう作品をよく「深夜ドラ
すが、語り方にもっと新しさが欲しかったです。
マ」のようだと評する方がいますが、そんなドラマ
『いみをさがそう』は教育テレビのパロディー作
品なのでしょう。登場するそれぞれのキャラクター
を多く監督した私から言わせればこれはナンセンス。
は面白かったけど「会話」をくりかえすこの作品の
制約が多い深夜ドラマの現場ではこの作品のような
ようなテイストは過去にも多くあり高い評価はでき
こだわりが感じられる独裁的な撮影はまず不可能。
ませんでした。アニメならでは独創的「動き」にも
巧みの技の共同作業で、効率優先で作られるのが深
チャレンジして欲しいと思いました。
夜ドラマ。この作品はそれとは真逆の立ち位置にあ
るものです。
『ドーパ民』のブスな同僚がとにかくよいです!
こんな人の演技をキチンと楽しめることも自主映画
『Uncle and Girl』は今回の審査で出会ったアニ
の面白さだと思います。土手でのやりとりは名場面
メ作品では一番オリジナリティーがあった作品です。
でした。
少々意地悪な展開が好みです。
『風待ち』は昔懐かしい不思議系女子が主演する
『ネオ桃太郎』は笑いのセンスがいいです。人間
8ミリフィルム作品です。「あ~、まだ生きていた
同士のピリピリした空気感(撮影現場ではありが
のか~!」と天然記念物の希少生物と出会った気分
ち!)もうまく描いています。キジの女の子のブス
になりました。でも今の観客にもキチンと届くと思
な感じが良いです!
『ファニー・ランズ・ワールド』の丁寧なドラマ
いました。主演の女の子がちょっとエロいのがその
作りには好感を持ちました。とにかく猫ちゃんの名
理由かな?
演がよかったです。
『底なしウインナー』は、具像的でありながらも
シュールな造形に惹かれました。好きな作品です。
『団地妻みよこ』は不倫愛をベースにしたホラー
『CROSSING』はワンアイディアの短編映画ら
系 SF アニメです。夫婦生活の怠惰、妊娠中の不安
しい作品です。たくさんの人がすんなりと楽しめる
感をうまく作品化していましたが、人形アニメだか
分かりやすさ、クオリティーの高さを評価しました。
らこそ可能な、残酷さ、血みどろさがもっとあれば
ただそんな「巧い」ところが熱を込めながら推すこ
よいと思いました。どんなに血が大量に流れても撮
とができない理由でもありました。アイディアは良
影後に清掃する必要がないのだから!
『見護る氣』での「主観ショット」のアイディア
いのですが、その表現方法にオリジナリティーがな
は秀逸です。しかしそのアイディアが観客にも分か
1
りやすいカタチでカメラワークとしてうまく具体化
映画より現実より面白いものが見た
できていないと思いました。
う~ん、
もったいない!
い!
というのが正直な感想です。
『36.8℃』は万人には受け入れられない作品で
小口 容子(映像作家)
す。おそらく多くの人には意味不明のままで終わっ
てしまうでしょう。しかし、その人数は僅かかもし
私は普段から自主映画を見るとき(いや、商業映
れませんが、人の心の奥深くまで届く可能性を秘め
画を見るときもであるが)は、
「この作者でなければ
た作品だと思いました。大切にしなければならない
作れない作品であるか」
「この作品を作らずにはいら
表現です。
れなかった、という強い意思が作品から感じられる
『泥人』はダントツでグランプリに値する作品で
か」という視点で見ている。今回、審査員という栄
した。奇抜な設定にしたからこそわずか16分で深
誉ある任務を頂戴して、特殊な映像作家である自分
い物語が描けています。日本のもっとも多い場所で
がこの重い任務を遂行するからには、私でないと選
ある「郊外」を舞台にしたことも大正解。これは私
ばない作品を見つけることが重要なのではないか、
たちのドラマなのです。
と当初思った。
『妙な肉』のグロテスクさは評価に値します。し
そういう意味で私が面白いと思ったのは、
『妙な肉』
かし『いみをさがそう』と同様に「会話」が中心に
と『いみをさがそう』のアニメーション作品 2 本だ
なっていることが気になりました。これももったい
った。2 本とも、作者がたった一人で自室に籠って
ない作品です。
自分の妄執を詰め込んだ結果がこれ、という歪みに
満ち、他人の未知の妄執を見せられる体験に心躍っ
以上、上映作品すべてにコメントをしてみました。
た。が、同時に、1 本の作品としての完成度という
どれもこの映画祭という場で上映されるべき価値が
意味では“もうひとつ感”が否めなかった。
あると選者として自負できる作品です。ひとつだけ
『妙な肉』は、見る者を不快にさせる異形のキャ
不満があるとすれば「こんなの上映して大丈夫
ラクターが暴れる動きの面白さ、セリフや擬音の入
か!?」と不安になるぐらいのアウトサイダーな作
り方の絶妙なリズム感が優れ、違和を感じさせられ
品に巡り会えなかったことです。そんな作品にも正
る快感がたまらなかったが、冒頭と最後の実写部分
統な評価を与え、上映の機会を与えることこそこの
(某国営放送のパロディ)が効いていなくて、アニ
映画祭の存在意味と私は信じています。残念ながら
メーションのインパクトが薄れてしまっていた。
選からはもれましたがアニメ作品『古道よりふたた
『いみをさがそう』は、実は真面目なテーマを、
び ONCE MORE FROM OLD ROAD』の小樽の
マニアックなギャグを繰り出しながら深めて行く展
風景写真に70年代のエロマンガ風なキャラクター
開はよかったし、アニメならではの間を生かした細
が描かれた作風はオリジナリティーとしてはダント
かいネタが最高に面白くて笑った。ただラストの、
ツでした(ただストーリーがあまりにも凡庸で推す
「意味を見つけることは(途中で登場人物のおじい
ことはできませんでした)。
さんが指摘したように)不幸なことでしかなかった」
、
というオチには急に梯子を外された感があった。こ
こは、最後までギャグで突っ走らないと!作者が作
品解説に「自身を投影しているため、実写場面を入
れた」と書いていたがその実写が平板で、普通に真
面目に現実になった途端に魅力がしぼんで終わって
2
しまい、残念であった。
督が撮るスタイルは昭和テイストだが、昭和にはよ
審査員三人での審査会議のときには、事前にグラ
くあった「男の幻想の中の女」感が、この山崎晴に
ンプリに推す作品を選んでくるように、と言われて
は何故か無い。そこがいいと思った。この女優あり
いた。上記 2 本を推す選択もあるがグランプリには
き、の作品だったとしか思えないが、惚れてるのと
弱いと思え(上記の理由に加えて、
『妙な肉』は同じ
は違うんだろうか?それとも世代的に、女に対する
作者の去年の入選作品の方が良かった、と聞いてし
思い入れというものの質が、平成の時代では昭和と
まい)
、それでは、他のどの作品?と考えたときに、
は違うのだろうか?
『泥人』しかない、と思った。まず、オフビートな
『36. 8℃』
、8mm フィルムの静かな映像と控え
世界観が貫かれた、シナリオの秀逸さ。
「皮膚から泥
めな音に、痛々しさが伝わってきた。それが何の痛
が出る奇病」という主人公の設定の着想がいいのは
みなのかは映画の中では作者は主張しないしわから
もちろんのこと、奇病に対する同情といったぬるい
ないのだが、だからこそ嫌みにならないセンスの良
ヒューマニズムは一切抜きに、ギャグを含んだ痛め
さが、きわだっていた。大げさにしない作為が、慎
のエピソードをたたみかけ、徐々に主人公を追い込
み深さに感じられた。
んでいく展開が面白い。
演出も、
皮肉なスタンスで、
私なりに主観的な評価を書かせていただいたが、
リアリズムと虚構性のバランスを程よく配置してい
とはいえ賞は水もの、他人の意見には一応耳を傾け
て、つまりわざとらしくないのに、ちょっとふざけ
つつも評価は自分自身で下し、作家は自分の作品を
てさえいるのに、泥人の苦悩が自分の苦悩と重なっ
作り続けていく意思あるのみ!次回作を!
て見えてくる。歩道橋から飛び降りる角度も本気だ
ったし、泥だらけでの撮影は困難を極めたことだろ
う。演出の温度は低めなのに、最終的に人生の普遍
的な困難さを表し得ていて、力がこもった作品、と
素直に思えた。三人の合議でも、意見が割れること
「視点」の面白さ、その先へ
無くグランプリ作品はすんなりと決まり、ほっとし
た。
佐々木 誠 (映画監督/映像ディレクター)
他に印象に残った作品を挙げると。
『八浪二郎』
、
テンポのいいシナリオ、主人公はじめ多数の出演者
私は、主に商業で映像制作をしていますが、三作
のいちいち膝を打ちたくなるようないい演技、にと
だけ自主制作した映画があります。そのうちの一作
ても楽しく鑑賞した。特にビデオ屋店員役の人!私
だけが数年前に当映画祭に入選した以外、映画祭の
の映画にも出てもらえないでしょうか!?ドキュメ
コンペに入ったことも受賞したこともないので、こ
ンタリーっぽいシーンの挿入もうまく、ラストの本
の度、審査員のお話をいただいた時は、
驚きました。
物職人さんとのシーンには感動した。だが、他審査
審査をする以上、自作が選ばれない辛さを身に染み
員からの「山下敦弘風映画はもうお腹いっぱい」と
てわかっているので、慎重に慎重を重ね、私なりの
いう批判続出で、奨励賞に推しきれなかった。
観点から選定をさせていただきました。
『風待ち』
、私はキチガイ女が出てくる映画が嫌い
私は、20代のうちは、自主的に映画を制作するこ
だが、不思議ちゃんは好き。その差は何なのか?と
とにまったく興味が持てませんでしたが、30代の時
いうと微妙な話になってくる。この映画の主役・山
に突然、制作し発表、公開いたしました。それは単
崎晴は、アンニュイな表情など見せず、画面の中で
純に自分が「伝えたいこと」ができたからです。そ
跳ね回る“ちょっと頭が足らない感じ”
が実にいい。
して、制作しているうちに、それを商業ではなかな
8mm で撮影されたこともあり、好きな女の子を監
かできない自主制作ならではの「視点」で作らなけ
3
れば意味がない、と考えるようになりました。
いているのですが、押し付けではないバランスが良
以上の理由から、今回の私の選考基準は、作者の
いシナリオでおそらく奇跡的だと思う大雪のショッ
「伝えたいこと」が明確かどうか、その「視点」は
トなど印象的なシーンもあり、全体的に好感が持て
新鮮でオリジナリティがあるか、というものでした。
る作品でした。主人公カップルもそうでしたが、特
グランプリの『泥人』は、個人的に障害を持った
に主人公に気があるような態度を取る女の子のルッ
人を題材とした作品をいくつか制作していることも
クスも含めたリアリティに既視感を大いに刺激され
ありますが、このリアリティは素晴らしいと思いま
ました。
した。地方で暮らすマイノリティへの周囲の反応が、
『タートルハウス』は、何気なく見える無駄のな
細部まで丁寧に描かれている(実際に取材をされた
い演出と編集、それに準じた計算された構図と照明、
のでしょうか?)
ことによって
“泥まみれの主人公”
ハマっているキャスティング(特にドラマーの彼女
が滑稽に見えず、メタファーとしてちゃんと機能し
が良かったです)
、ぶっきらぼうだけど芯がある台詞
ています。主人公を取材する、嘘くさいノンフィク
が見事に一体となって構築されていて素晴らしかっ
ションライターの存在が、周囲以外の人間、さらに
たです。その完成されたスタイルは、
「家」という過
周囲の人間たちにも内在している偏見を浮かび上が
去も現在も未来も同時に感じられる空間、その“空
らせます。観るものに静かな問いを突きつけてくる
気感”を浮き彫りにするのに適していたと思います。
挑戦的な作品でした。
是非、このスタイルで久保田さんの長編映画を観た
『見護る氣』はまさに「視点」の作品でした。全
いと思いました。
ての映像作品、特に自主映画で、まず私がその作品
『ドーパ民』は、デヴィッド・リンチ作品を彷彿
に注目するのが物語を物語る映像的「視点」をどこ
とさせる世界観で(と書くと誤解されるかもしれま
に持ってくるのか、というところなのですが、今作
せんが)
「脳内妄想」と「視覚情報」の境目の曖昧な
はそのアイディアが秀逸でした。全編「主観」で構
部分も含めて『現実』として捉えられる面白さがあ
成されたこの作品ですが、特に素晴らしいのがラス
りました。展開も独特の間合いで、どんでん返しの
トシークエンス。観客が“それ”を理解した瞬間、
タイミングも含め「気持ち悪い構成」が“気持ち良
そしてヒロインが理解した瞬間が同時に集約されカ
い”エンターテイメント作品でした。
タルシスを生み出す見事なクライマックスでした。
『ネオ桃太郎』は、自主映画を見慣れた人間の予
惜しくも選外になってしまいましたが『シネパトス』
想を上回る、緩急がもたらす爆発力があり、耐え切
は、同じく映像的「視点」の面白さがあった作品で
れず爆笑してしまいました。多彩なキャラクターた
した。
ちも一歩間違えるとサムくなるのですが、そのギリ
『八浪二郎』は、ワンカット目、一瞬、最近の自
ギリの線を越えないバランス感覚、素晴らしかった
主映画の傾向——山下敦弘監督以降系の作品——か
です!
な?と感じましたが、物語が進むに連れ、主人公の
今回、審査員という大変貴重な機会をいただき、
動向を素直に笑えて楽しめました。それは、監督兼
ありがとうございました。これだけ多くのオリジナ
主演の小野さんの“何も足さない”演技が「二郎」
リティ溢れる作品を観させていただき、映画ファン
という、いそうでいない独特のキャラクターを作り
としても作り手としてもとても刺激になりました。
上げているのも大きかったのですが、なにより台詞
日本の何処かで、まさに今も、今回観させていただ
に頼らず画でみせていく構成が巧みだったからだと
いたような挑戦的な作品が数多く作られ続けている
思います。
かと思うとワクワクします。まだまだこれからも
『マイ・ツイート・メモリー』は、現代のツール、
様々な「視点」の映画を観られることが楽しみです!
そこから派生するコミュニケーションのあり方を描
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