フォーラムレター JSTフォーラム 第 23 期第 4 回 ★ 2007 年1 月26 日(金)開催 カーエレクトロニクスの最新動向と展望 [コーディネータ] 有本 和民氏(㈱ルネサステクノロジ システムソリューション統括本部 システムコア技術統括部 副統括部長) 木股 雅章氏(立命館大学理工学部マイクロ機械システム工学科 教授) [アドバイザー(担当企画運営委員)] 井上 靖朗氏(㈱ルネサステクノロジ 生産本部ウエハプロセス技術統括部 先端デバイス開発部 部長) プログラム □開会ご挨拶 JST フォーラム顧問 木内 一秀氏(NTTエレクトロニクス㈱) □プレゼンテーション 『自動車用電子産業の動向』 新藤 哲雄氏(イノベーション・インスティテュート㈱) 『車載用半導体の技術展望』 平野 哲夫氏(㈱デンソー) 『自動車用センサの動向 ―― 赤外センサを中心に』 木股 雅章氏(立命館大学) 『今後期待される自動車用半導体デバイスの紹介 ―― 画像応用機能を中心として』 黒田 一朗氏(NECエレクトロニクス㈱) □総合討議「電子化が進む自動車の将来展望 ―― 期待と課題」 座 長:有本 和民氏、木股 雅章氏 パネリスト発表: (1) 車載用センサネットワークの視点から 服部 (2) 車載応用技術(パワートレイン等)の視点から □総 括 コーディネータ 木股 浅野 泰氏(横浜ゴム㈱) 真弘氏(㈱ルネサステクノロジ) 雅章氏 ◆開催の狙い 第 23 期の第 4 回フォーラムでは『カーエレクトロニクスの最新動向と展望』と題した自動車の電 子化の進展の現状と将来の夢を議論して頂くことを企画しております。 先進国は少子高齢化に向っており、車社会は安全や快適さ、さらに環境への配慮を求められてお り、これに対応して自動車の電子化スピードは、非常に速く進んでいます。 環境への配慮の高まりから燃費の向上が求められており、燃料エンジンと電気モータのハイブリッ ド化のニーズも高まってきており、パワーデバイスの高性能化は必須となっています。また、安全へ の具体策として、走行上の安全性向上、足回りの安全性向上などのために車の周りの状況を把握する ための各種センサ技術などとの連携が重要となっており、これらの動きは、益々車用電子部品の多様 化や高度化を必要とするようになるものと考えられます。 本フォーラムでは、現在の車の電子化現状と今後の機能高度化の将来を展望、議論いたします。 ◆アブストラクト 『自動車用電子産業の動向』 新藤 哲雄氏(イノベーション・インスティテュート㈱代表取締役) 自動車の電子化が進行するのは、安全、環境(燃費)、快適性/操縦性を求める市場ニーズに応じ て、① 車のインテリジェント化、および ② 機械(油圧)から電動モータ駆動への転換(ハイブリッド 車を含む)が続くからである。電子化に伴い、半導体、ソフトウェア、センサの利用が増大している。 1 自動車分野の半導体市場は安定的に成長してきたが、その需要の特徴としては、 ・電動モータを駆動する「パワー半導体」、 ・各種データの入出力用の「アナログ半導体」 、 ・情報処理の「プロセッサ(MCU)」 、「ASSP(たとえば画像処理)」 などが増加してきた。ただし自動車用半導体は、用途により使用環境条件、信頼性要求が異なる。 今後の注目点は、① ハイブリッド車の成長可能性、② 先進安全機能の普及、③ 増大するソフトウェ ア開発 である。 なお企業戦略としては、付加価値がエレクトロニクスに移行するにつれて、各社でコア(自社) とノン・コア(アウトソース)の事業領域の検討を迫られるので、自動車メーカ、自動車部品(電 装品)メーカ、半導体企業の間の協調と競争が増大する。 『車載用半導体の技術展望』 平野 哲夫氏(㈱デンソー 基礎研究所 システム LSI 開発室 室長) 自動車産業は、早く、遠くに、手軽に移動する交通手段として、エンジン制御、ボデー機器制 御、空調制御など自動車のエレクトロニクス化を進め、性能を高めてきた。近年では、ETC(高速 道路の料金自動支払い)、ACC(車間距離制御による走行制御)に代表される ITS 技術を導入し、い っそうの快適性をユーザに提供してきている。その一方で、社会的な問題にも直面している。減る ことの無い交通事故、排ガスによる大気汚染、石油エネルギー枯渇の危惧などである。これらの問 題を解決する革新技術を創出することにより、さらなる快適性を提供して、かつ安全で環境に優し い自動車を実現することがユーザに望まれている。 本講演は、快適、安全、環境の 3 つのベクトルから、事例として高度交通システム、運転支援シス テム、HV システムなどを紹介し、車載エレクトロニクスの将来動向を解説する。その中で、車載エ レクトロニクスの進展を支えている半導体デバイスの将来と期待することを、LSI、半導体センサ、 パワーデバイスの観点から述べる。 『自動車用センサの動向―赤外センサを中心に』 木股 雅章氏(立命館大学理工学部マイクロ機械システム工学科 教授) 自動車用センサ分野は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を用いて生産される センサデバイスの最も重要な応用分野であり、MEMS ビジネスの将来の発展は、自動車産業に大き く依存している。赤外センサは、数万∼数十万個の熱型赤外線検出器画素と CMOS 信号読出回路を 集積した画像デバイスである。熱型赤外線検出器の感度は、検出器と基板との間の熱コンダクタン スに依存しており、MEMS 技術が実現する高い断熱性を持った検出器構造は、赤外センサの性能を 飛躍的に向上させた。赤外センサは、室温付近の温度を有する物体が輻射する赤外線を画像として とらえるデバイスで、赤外センサを用いることで、ヘッドライトの届く遙かに先まで見通すことが でき、車の事故防止に重要なデバイスとして期待を集めている。赤外センサの応用分野は非常に幅 広く、車載用としては、夜間の運転補助装置以外に、近接障害物検知、空調温度制御、乗員検知な どが検討されている。本講演では、赤外センサの技術動向と自動車応用の現状について紹介する。 『今後期待される自動車用半導体デバイスの紹介 ―― 画像応用機能を中心として』 黒田 一朗氏(NECエレクトロニクス㈱事業企画部 シニアエキスパート) より安全で効率的なドライビングの実現のために、車載カメラ画像を利用した画像認識による安 全運転支援や、3D 画像を利用したよりわかりやすいナビゲーション表示が期待されている。このた めに今後期待される自動車用半導体デバイスとしては、高い処理性能を必要とする画像認識処理や 画像生成(グラフィックス)処理を如何に車載用という厳しい制約条件の下で実現するかが課題と なる。特に、画像認識は様々な認識対象や環境条件への対応が必要であるため、高性能低電力であ るとともに、プログラマビリティが求められており、並列プロセッサによる実現が期待されてい る。さらに今後、車外の全方位の監視や、ドライバーを始めとする車内の監視のために、複数の車 載カメラを利用することが予想され、画像認識性能のさらなる向上と、大量の映像情報を効率よく 伝送する車載 LAN が必要になってきている。 ここでは、画像認識や画像合成などの車載メディア処理用プロセッサの動向について紹介し、次 に車載用映像系LAN の要件および関連動向について述べ、1Gbps 超車載LAN として期待されている 2 Residential Ethernet について紹介する。 ◆パネル討論・総括 (司会:有本 和民氏(㈱ルネサステクノロジ) 、木股 雅章氏(立命館大学) ) パネリスト発表: 「車載用センサネットワークの視点から」 服部 泰氏(横浜ゴム㈱平塚製造所 研究本部 NT開発室 室長代理) 運転やブレーキなど複雑に制御されている現代の車においては、車の各種センサとこれらを連動さ せるネットワーク技術は不可欠で、高性能化、高速化、高信頼性化の進歩は日々求められています。 今回は車の制動、制御と言う観点から、次世代のタイヤの空気圧センサとABSESP 技術と制御ネッ トワークについて解説いたします。 「車載応用技術(パワートレイン等)の視点から」 浅野 真弘氏(㈱ルネサステクノロジ 自動車事業部自動車応用技術第三部 部長) 現代の自動車用エンジンでは、高性能なマイクロコンピュータ(マイコン)を駆使した制御が行 われている。1970 年代に8ビットマイコンで初めての電子制御化(EGI)、80 年代中頃には16 ビット マイコンによる電子制御(EFI)の採用、さらに出力性能向上や、燃費低減、排気ガスの浄化、AT と の協調、故障診断など、より高性能を追及した 32 ビットマイコンが 90 年代後半から採用されるよう になってきた。その後車載 LAN(CAN)の採用により、エンジン用マイコンが制御する機能や協調 して制御する範囲が拡大され、さらに高性能なマイコンが要求されるようになり、現在では 32 ビッ トマイコンで 160MHz の製品が量産されている。エンジンを制御するソフトウェアにおいては、エ ンジンの総合制御だけを行っていた90 年代にROM 容量が32K バイト程度であったものが、現在では 制御の複雑化と車載 LAN による協調制御により、1M バイトクラスがすでに量産されている。 今後のエンジン用マイコンは、車載 LAN の高速化や複雑化(FlexRay、CAN、LIN の採用) 、厳し い燃費規制、複雑な他 ECU との協調制御により更なる高性能を要求されている。自動車用マイコン は、民生用と違い激しい使用環境に耐え、高い信頼性(不良率ゼロ)を 20 年以上もの長期に渡り保 証していく必要がある。このような条件ではマイコンの高速化にも限界が見えてきており、デュア ルマイコンやソフトウェア処理の一部をハードウェア化する必要に迫られている。またソフトウェ アの大規模化(現在 1M バイト、2010 年 4M バイト)、複雑化、ネッワーク化、開発短納期の要求に 対応した高品質のソフトウェア開発が自動車の開発にとってますます重要になってきている。自動 車の場合ソフトウェアの不具合が制御の誤動作に直結しており、大きな事故につながるケースもあ る。また、事故につながらない場合でもシステムの改修費用が高くつき(リコール)、信頼性に対す る顧客の期待を裏切ることになる。 膨大で高品質なソフトウェアを短納期で開発するための解決策として、ソフトウェアのプラット ホーム(PF)化がある。自動車用ソフトウェアは、各社が独自で開発しても類似のソフトウェアが 多くあり、コストをかけて独自のソフトウェアを開発するのではなく、共通部分は一緒に開発しよ うという動きがある。(国内の標準化 → JasPar 世界的(欧州中心)な標準化 → AUTOSAR) ソフトウェアPF を開発していく上では、高品質のソフトウェアIP 開発が重要になってきている。 現在名古屋大学の高田教授を中心に産学官一体で自動車用ソフトウェア IP の開発を行い、品質の良 いソフトウェアIPを供給しているのもソフトウェアの標準化を目指した動きのひとつである。 今後、ソフトウェア PF に使用でき、世界で勝てる高品質のソフトウェア IP の開発を行えるベン チャー企業を育て、専門職大学院等優秀な人材がソフトウェア PF 開発に従事できるようなシステム を作る必要性を感じている。 4つの講演に引き続いて行われたパネル討論『電子化が進む自動車の将来展望―期待と課題』で は、横浜ゴム(株)の服部泰氏に「車載用センサネットワークの視点から」、(株)ルネサステクノ ロジの浅野真弘氏に「車載応用技術(パワートレイン等)の視点から」という話題提供を頂き、4 名の講演者に 2 名の話題提供者を加えた 6 人がパネリストになって討論に入った。 すべての講演、話題提供から、現在、自動車産業が半導体産業を支える大きな柱の一つであり、 今後自動車に要求される安全性、快適性、環境適合性全ての面で、半導体デバイスが果たす役割が ますます大きくなってゆくであろう、ということを再確認することができた。パネル討論における 質疑では、「信頼性」に関するものが多く、高い期待の一方で厳しい信頼性要求が参入の障壁になっ 3 ているように思われた。信頼性に関しては、通常の民生用半導体デバイスの信頼性は開発における 歩留向上の努力で作り込まれ、非常に高いレベルに達しているので、デバイス構造に関して特に自 動車用の信頼性を確保するための特別な工夫が払う必要はないが、回路設計の面では自動車用とし て信頼性を高める工夫がなされている、との説明がパネリスト側からあった。また、トレーサビリ ティーなど製造管理については自動車用として厳しい要求を満たす必要がある。 自動車用デバイスとして、通常の半導体デバイスとは異なった特別な仕様が要求されることがあ るが、こうした要求がデバイス構造にまで影響を与え、プロセス技術における差別化が可能ではな いか、といった議論もあったが、現状では特別なデバイス構造を持った自動車用半導体デバイスは 限られており、基本的にはコスト面が最優先される、というのが一致した意見であった。 自動車用半導体デバイスは、自動車メーカと半導体メーカの緊密な協力関係を基盤として発展し てゆくもので、有力な自動車メーカを国内に保有する日本の半導体メーカにとっては非常に重要な 事業分野であり、今後ますます発展することが期待される。 4
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