人間におけるナヴィゲイションの ための情報と知識

人間におけるナヴィゲイションの
ための情報と知識
天ヶ瀬正博(奈良女子大学文学部)
本日のお題
○ナヴィゲイションを可能にする知識と情報を
再検討する。
○新たな仮説を検証するために現在試みている
実験を報告する。
ナヴィゲイションとは?
移動中の様々な地点から目的地の方向を
推定しながら移動すること
Cf. 定位行動(orienting behavior)
特定の対象に身体を向けること
⇒ 特定の地点の方向へ身体を向けること
( ⇒ 目的地の方向判断)
ナヴィゲイションはいかにして可能か?
• 未知の環境
→ 地図などからの情報
• 既知の環境
→ 地点間の位置関係についての知識(空間知識)
空間知識に関するこれまでの仮説
• 認知地図仮説
ナヴィゲイションは多地点の位置関係を表す広範囲
の空間知識(認知地図)によって可能となる。
×
×
×
• ツリー状階層構造仮説
空間知識は地域→地区→地点というような階層構造
をなしており,各層の領域相互は互いに素である 。
• 自己中心座標先行仮説
自己中心的空間知識から他者中心的空間知識へと
発達する,もしくは,獲得される。
認知地図仮説 (←ラットによる定位行動 (Tolman, 1948))
○Kuipers (1983) : 単一表象系(地図的表象)の不合理性
①誤差波及 → ②作業空間なし → ③処理時間増 → ④不適切地図の持続
⇒多重認知地図 : ルート地図,...,鳥瞰地図
◎Brooks (1986) : 表象なし の自律移動学習ロボット
ただし,定位行動には方位検出が必要 (Mataric & Brooks, 1990)
実は,ラットの定位行動も迷路外手がかりによる(Olton, 1977)
環境中心座標系による多重空間知識
環境中心座標系による空間知識
=ナヴィゲイションに必要な空間知識
☆複数の環境中心軸と各地点との個別的な関係についての知識の集まり
環境中心軸:活動範囲内で環境に一貫した異方性を生じるもの
方位 と 地理的特徴(傾斜,山や塔,河川,幹線道路,etc.)
方
位 : 一貫した定位反応の維持
地理的特徴 : 見え方の変化
→ 向きの情報
→ 距離の情報+向きの情報
《多重空間知識》
方
位 + 複数の地理的特徴 → 環境中心座標系
+
場所の知識(各地点での環境のヴュー),移動の記憶,...
環境中心座標系による定位行動
A地点
定位行動
移動
B地点
空間知識のツリー状階層構造仮説
地域
地域
C地区
A地区
a地点
地域間の配置の記述
地域内の地区間の配置の記述
c地点
A地区
B地区
B地区
C地区
b地点
a地点 b地点 c地点
地区内の地点間の配置の記述
現実の都市構造
セミラチス構造(アレグザンダー,1974)
都市
文教地区
商業地区
住宅街
官庁街
活動モード毎の空間知識
空間知識は,特定の活動モード毎に組織化され,
特定の活動モードにおいて利用される。
1回の空間活動の記憶
→活動モード毎の空間知識の組織化
Cf. エピソード記憶論
環境物理的構造それ自体
が知覚されるのではない。
→活動モード間での空間知識の多重化
→活動に制約されない空間知識の利用
階層性:
環境中心軸の規模や活動の単位による階層性?
空間判断過程における理知的構成による見かけの階層性?
セミラチス構造:
活動モード別の空間知識の地図的表現
自己中心座標先行仮説
自己中心座標(egocentric)
ルート表象
A地点
他者中心座標(allocentric)
固有座標系表象
A地点
鳥瞰地図表象
A地点
B地点
C地点
特定地点を原点とする
複数の地点を原点にできる
Cf. Orientation-specific から orientation-free へ
身体運動感覚(身体の回転角度や歩行距離の感覚など)は
方向音痴を予測しない(Klatzky et al., 1990)。
リーチングとナヴィゲイションとでは, それに関わる脳機能系が
異なる可能性を示唆する臨床事例がある(Ratcliff, 1987)。
自己中心座標から他者中心座標への変換の不可能性
移動などの空間活動の初期から,
場所についての環境中心座標についての情報は得られる。
まとめ
ナヴィゲイションを可能にする空間知識:多重空間知識
○環境中心座標系による局所的な位置関係や接合関係の集まり
方位や地理的特徴(山, 川, 幹線道路など)との関係
○各地点における環境のヴュー
○移動の記憶
活動モード毎に組織化(→(重複) → 活動にとらわれない知識利用)
ナヴィゲイションの初期から環境中心座標系が利用される。
地図描出や階層構造は, 理知的, 社会-文化的構成の産物
実
験 : 地上街と地下街における視線方向の比較
仮説:
初期的なナヴィゲイションから環境中心座標系についての
情報が利用される。
予測:
初めて訪れる地域におけるナヴィゲイションでは視線が上にゆく。
∵ 環境中心座標系に利用される環境特性の多く(太陽, 山, 塔など)は
視空間の上方にある。
→ 地上では視線がより上に行きやすく,
地下では
〃
にくい。
方法
被験者
大学生15名
装
超小型CCDカメラをゴーグルに水平に装着し,
リュックサックの中にある携帯ビデオカメラに接続。
置
未知
地上 9
地下 12
既知
6
3
実験場所
JR京都駅前の中央郵便局から
東本願寺までの地上と地下
手 続 き
日常的な散策のようにして, まず最初に地図を見て
(スタート地点に掲示)目的地まで行ってもらった。
地下街から初めて2回ずつ。
実験場所の地図
地下街
地上街
いずれも, 東西約600m, 南北約700m
結
果
各被験者のV.T.R.から 上を向いている視線
評定し, 持続時間を判定した。
下を向いている視線 を
Looking time / Whole trial time
0.30
0.25
Unf ami l i ar
F ami l i ar
9
p<.05
0.20
0.15
12
6
3
0.10
0.05
0.00
Upward
Do wn ward
Gro u n d
Upward
Do wn ward
Un de rgro u n d
討
論
×
解釈1
天井がない場所では視線が上方向へ誘導される。
解釈2
初めて訪れる地上街では, 落下物に注意するため,
視線が上に行く。
解釈3
初めて訪れる地上街では, 環境中心座標系についての
情報を得るために, 視線が上方向に行く。
(地下街ではそのような情報がない。)
解釈4
△
○
(未知の可能性)
?
・地上街で初めて訪れた場合に限って, 上向きの視線が多かった。
・初めて訪れた場合でも, 地下街では, 上向きと下向きの視線が同程度だった。
・既知の場合は, 地下街と地上街のどちらも, 下向きの視線が多かった。