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ライフデザインドラッグ―
ライフデザインドラッグ―ピル
はしがき
関東 10 ゼミ討論会のテーマである「未来に向けた日本活性化」を考えるにあたって、我々は人工妊娠中
絶をなくしたいという想いから始まった。
まず、中絶をなくすためには確実な避妊が必要だと考えた。そこで、現在日本で一般的な避妊方法によ
る効果を調べたところ、コンドームは 3~14%の確率で妊娠する可能性があるということが分かった。我々
はこの数値が高すぎるという衝撃を覚えた。それに対し、ピル服用の場合性行為により妊娠する可能性は
0.1~5%とコンドームと比べたら非常に低かった。したがって我々はピルに焦点を当てることにした。
そして海外のコンドーム事情を調べると、性行為におけるコンドームの使用率は高くなく、ピルによる
避妊方法が一般的とされている国が数多くあることが分かった。例えばドイツは 52.6%、フランスは 43.8%
の普及率を誇る。それに対し日本のピル普及率はわずか 1.0%、日本は極度のピル後進国であることが判明
した。
しかし、ピルはコンドームとは違って性感染症を予防することはできない。こうして考え出したのが「ピ
ルとコンドームの併用を勧めることによるピル市場拡大」であった。だが、研究を進めるにつれ、男性と
女性の両方に訴求していくこと、現在性行為の際コンドームしか使用していない人がわざわざお金を出し
てピルを購入するようになるのだろうかといった数々の問題に直面し、結果としてピルのみに絞り、目的
も避妊以外の効用をアピールする「女性のライフデザイン実現のためのピル市場拡大」に変更した。コン
ドームが普及している日本では、ピル市場が拡大し女性のピル服用者が増加すれば最終的に中絶をなくす
ことにもつながる、という我々の秘めた思いもあったからである。
このように研究を進めるにあたって何度もスタート地点に戻り挫折を繰り返した。しかし、数々の問題
に気付き、最終的に満足のいく終着点まで導いてくださったのは、杉田善弘教授、ゼミの仲間たちのアド
バイスや意見、並びに 10 ゼミの方々含みアンケートにご協力くださった多くの方々のご支援があったから
である。
3 年次から研究を共にした 2 班の班員、そして皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げたい。
2010 年 11 月吉日
学習院大学
杉田善弘ゼミ
関東 10 ゼミ討論会
林里江
浅見有香
東里香
鎌形なる美
非耐久財
城間美南
① ―――序論
――― 序論
<目次>
①―――序論
1.問題意識と問題設定
1.問題意識と問題設定
2.研究の目的
我々は関東 10 ゼミ討論会のテーマである「未来に向
3.研究概要
基礎知識
4.説明
けた日本活性化」を考えた際、日本活性化を「日本の
(1)生理とは
未来を明るくする」と定義づけた。
(2)なぜ生理にはピルなのか
②―――本論
そして、活性化には経済的活性化と社会的活性化の
両方が備わっていると考えた。まず、現在規模の小さ
1.現状分析
い市場を拡大することで経済を活性化させる。その経
(1) 自主アンケート結果と考察
済的活性化に、人々が個人のライフスタイルを貫いて
(2)日本のピル市場
常に万全の状態で思い通りに行動できる社会的活性化
(3)世界のピル市場
が加わってこそ、明るい未来を構築できると考えたか
(4)日本のピル市場が拡大したら
らである。
(5)海外との比較
今回我々が着目したのが「女性の社会進出」である。
(6)日本のピル市場の問題点
近年、労働力人口総数に占める女性の割合が増加し
2.先行研究
ている。総務省統計局「労働力調査」によると、女性
(1)OC 情報センターによるアンケート調査
雇用者数は 6 年連続で増加しており、平成 20 年度は
(2)STP(女性の労働状況)
2,312 万人と過去最多を記録している。(前年差 15 万人
(3)4P
増、前年比 0.7%増)
しかし女性は妊娠、出産、育児といった男性にはな
3.仮説と仮説の検証
③―――結論
い経験に対して多くの悩みを抱えている。現在、育児
1.新提案
を積極的に楽しんで行う男性のことを「イクメン」と
2.まとめと今後の展望
呼ぶ社会用語があるが、現状はこうだ。『2009 年度に
参考文献
おける男性の育児休暇取得率は 0.49 ポイント上昇し、
補録―――アンケート調査
1.72%と過去最高となった。』
(厚生労働省「雇用均等基本
調査」) 男性の育児休暇取得率は上昇してきているもの
林里江
浅見有香
東里香
鎌形なる
鎌形 なる美
なる 美
の、その上げ幅は微々たるもので、男性の育児休暇を
城間美南
学習院大学 杉田善弘ゼミ 林班
取得することへの抵抗感をはっきりと表している。将
来的には 2017 年度までに 10%、2020 年度までに 13%
まで男性の育児休暇取得率を上げる数値目標が掲げら
れているものの、女性の負担が軽減する日は程遠い。
我々はこのような社会問題に対し、女性の負担をでき
る限り減らすことはできないのだろうかと考えた。
そこで我々は、女性のライフスタイルを少なからず
妨げている「生理」に着目した。昔の女性と現代の女
性が生涯に経験する生理の回数を比較すると、生涯で
を実現させることである。そのためにはまず、日本人
約 10 回妊娠を経験することがあった時代は約 50 回で
が抱くピルに対する過度な偏見を取り除く必要である。
あったのに対し、1 人の子どもを産むか産まないかの現
これによって女性が安心してピルを服用できる社会を
代女性の生涯生理回数は約 500 回にもなる。つまり、
構築する。さらに避妊だけではなく、生理のためのピ
女性の生涯生理回数は 100 年も経たないうちに 10 倍に
ルでもあるというプロモーションをし、女性のピル購
も増加しているのである。
入時における抵抗を減らすことでピル市場の拡大を図
る。そのためのプロモーション方法を発案することで、
■図表―――1
ピルによって日本活性化が実現することを証明する。
3.研究概要
本論は第一章から第四章で構成されている。第一章
では実際に研究に入る前に、生理とピルについて説明
する。なぜなら、生理は男性によく理解されていない
からである。ピルにおいては、男女共にあまり知られ
ていないだけでなく、事前のアンケート調査をした結
果、ピルに対する誤った知識や偏見を持っている人が
非常に多かったことから、まずは正しい知識を提供し、
偏見を取り除くことが先決だと考えたからである。第
二章では、アンケートを実施した結果を考察し、続い
このように子宮の休暇期間が減っていることから女
て日本におけるピルの市場規模を調べ、日本のピル市
性の卵巣や子宮への負担は大きくなり、様々な不調に
場が拡大したらどれほどの規模になるのか、海外とは
つながることになる。
どのような違いがあるのかなど現状を捉え、歴史的背
したがって我々は生理痛や生理不順といった生理に
景を見ることで分析・問題提起をし、先行研究につい
対する悩みがなくなり、女性が自己のライフスタイル
て言及していく。第三章では現状分析と先行研究をも
をデザインできるようになれば、働く上での負担が減
とに仮説を立て、検証を行う。第四章では日本のピル
り、男性と共に今より更に社会で活躍できるのではな
市場をさらに拡大させるために新たな提案をし、結論
いかと考えた。
と今後の展望を述べる。
以上の理由から、我々は未来に向けた日本活性化の
財として「ピル」を挙げた。なお、ここで挙げるピル
4.説明
基礎知識
とは「低用量ピル」のことを指す。
(1)生理とは
2.研究の目的
女性の身体は 12~13 歳頃から毎月妊娠に備えて準
備をする。具体的には子宮内膜 (子宮の内側を覆っている
我々の研究の目的は、女性のライフデザイン実現の
膜)を厚くし、胎児を育むためのベッドを作る。妊娠が
ために、ピル市場拡大させ「未来に向けた日本活性化」
なかった場合には子宮内膜ははがれ落ち血液と共に排
出される。これが生理 (医学用語では月経) と呼ばれる
つである。
ものである。生理は、女性の一生のうち妊娠可能な期
その他にも、いつ生理が来るか分からないため旅行
間にみられるもので、思春期に始まり (初潮)、その後
のプランが立てられない、衣服に経血が付着していな
は妊娠期間を除いてほぼ毎月、周期的に起こる。そし
いか心配といった不安など、痛み以外にも様々な弊害
て更年期に入ると閉経 (生理の停止) を迎える。生理に
が伴う。また、法律では生理休暇が存在し、労働基準
は個人差があるものの、一般的には 28 日周期で起こり、
法第 68 条では「使用者は、生理日の就業が著しく困難
3~7 日間続く。
な女子が休暇を請求したときは、その者を生理日に就
そして、妊娠や生理をコントロールしているのが女
業させてはならない」と定められている。
性ホルモンである。女性ホルモンには卵胞ホルモン(エ
女性の一生のうち、生理の期間は約 40 年間と言われ
ストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の 2 種類
ている。仮に、5 日間生理が続くとすると 2400 日、年
がある。これらは卵巣で分泌されるが、その卵巣を管
数換算するとおよそ 6 年半にもなる。
( 5 日×12 ヶ月×40
理しているのが脳である。すなわち脳は女性ホルモン
年=2400 日、2400÷365 日=6.57…)さらに、月経前にだ
の分泌量が多い時は減らし、少ない時は増やすことで
るさやイライラといった身体的、精神的症状が 3 日間
調整している。しかし脳はストレスの影響を非常に受
あったと仮定すると、1440 日、すなわち約 4 年にもな
けやすい。したがって上手く作用しないと生理の状態
る。(3 日×12 ヶ月×40 年=1440 日、1440÷365 日=3.94
や体調に影響を及ぼす。
…)以上を合計すると女性が生涯生理に悩まされる期間
その代表的なものが生理痛であり、生理前と生理時
は年数にして 10 年を超えることになる。
に身体的、精神的苦痛を伴う。症状が重症化すれば月
経前症候群(PMS) や月経困難症などと診断される。
月経前症候群とは、生理の前になると不快な症状が
現れ、日常生活にまで支障をきたすことである。基本
的には生理が始まると症状が軽くなり消失する。月経
前症候群の主な症状は、下腹部の痛みや膨満感、乳房
の痛み、肌トラブル、むくみ、頭痛、めまい、肩こり
などといった身体症状と、イライラや情緒不安定、憂
うつ感、注意力の低下、睡眠障害といった精神症状が
挙げられる。生理が始まる 1 週間前から症状が現れる
場合が多い。
月経困難症とは、生理中の下腹部痛、腰痛、背中の
痛み、頭痛、吐き気などといった症状で日常生活に支
障をきたすことである。便秘や下痢、寒気や発熱、貧
血を伴うことや、生理の量や期間に異常を感じる場合
もある。月経困難症には、原因となる病気があるため
に起こる器質性月経困難症と、原因となる病気がない
場合に起こる機能性月経困難症の 2 種類がある。前者
の代表的疾患は子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症の 3
(2)なぜ生理にはピルなのか
経口避妊薬のことをピルと呼ぶ。また我々の研究対
象である低用量ピルは OC(Oral Contraceptives)と称さ
れる。ピルは女性主体で行うことのできる避妊法の 1
つであり、1 日 1 錠、毎日同じ時間に服用することで高
い避妊効果が期待できる。
ピルは卵胞ホルモン(エストロゲン)、黄体ホルモン(プ
ロゲステロン) という 2 種類の女性ホルモンの合剤であ
る。つまり、女性の身体の中にもともと備わっている
ホルモンで作られている。この 2 種類の女性ホルモン
によって生理周期をコントロールしている。
ピルによる避妊の仕組みは次の通りである。まず、
卵胞の成熟と卵胞ホルモン、黄体ホルモンの分泌を抑
えることで排卵を抑制する。そして、子宮内膜を厚く
せず受精卵が着床しにくい状態にする。更に子宮頸管
粘液に変化を及ぼして精子が子宮に進入するのを防ぐ。
この 3 つの作用によって身体の中の女性ホルモンが妊
娠している女性と同じ状態、すなわち偽妊娠状態が作
られるのである。したがってピルは、妊娠すると排卵
がとまるという女性の身体の自然の摂理を利用した薬
ル・低用量ピルに分類される。低用量ほど新たに開発
なのである。
された薬であり、卵胞ホルモンの量が少ないため副作
ピルを服用すると、高い避妊効果が期待できる。日
用が少ないという特徴がある。したがって、現在は低
本で一般的に用いられる避妊具であるコンドームと比
用量ピルの服用が一般的である。だが、中用量ピルは
較すると、コンドームは 3~14%の確率で妊娠する可
保険が適用されるのに対し、低用量は例外も存在する
能性があるのに対し、ピルは 0.1~5%というほぼ確実
ものの基本的には保険が適用されない。
な避妊ができるようになるため、高い確率で望まない
1.黄体ホルモンの種類による違い
妊娠を避けることができる。更にピルには可逆性があ
黄体ホルモンの種類によって第一世代、第二世代、
るため、服用をやめれば約 3 ヶ月以内に月経が訪れ、
第三世代に分類される。第一世代は 1960 年代に開発さ
妊娠が可能になる。
れたノルエチステロンを使用したピルのことで、ノル
だがピルの入手方法は病院での処方箋のみで、薬局
エチステロンの作用が弱いために含有量が多いという
等では販売していない。価格は 1 ヶ月におよそ 2000~
特徴がある。したがって副作用のリスクが高まる。第
3000 円の費用を要するだけでなく、年 1 回検診を受け
二世代はホルモン量を抑える目的で、70 年代に開発さ
る必要がある。また、病院によって異なるが一度に購
れたレボノルゲストレルを使用したピルのことである。
入できる分は最大約 6 ヶ月分までと限られている。そ
第一世代と比べ作用が強く、ニキビが出る、体毛が濃
れに対し市販薬は必要な時に服用するだけでよく、価
くなる、体重が増えるなどの男性化作用 (アンドロゲン
格も 1 日 3 錠服用した場合1日 200 円もかからない。
作用)が問題になった。そのため、段階的にホルモン量
確かに、一般の薬局等と比較すると購入が困難であり、
を減らして影響を抑えるよう、三相性構造にするなど
価格も高価である。しかし、例えば生理の痛みが病気
の工夫がされている。第三世代は 80 年代にアンドロゲ
によるものであった、すなわち器質性月経困難症であ
ン作用を抑えたデソゲストレルが開発されたものであ
った場合、市販薬は痛みだけを取り除くため、病気の
る。メリットとして、エストロゲン含有量とアンドロ
進行に気付くことはできない。したがって病気の発見
ゲン作用が少ないことから、肌がキレイになるなどの
が遅れるリスクがある。その点においては定期的に通
副効用が期待できる。
院するピルの方が、病気の早期発見を期待できるほか、
3.ホルモン量の配合割合による違い
器質性月経困難症で考えられる子宮内膜症のリスクを
軽減できるためメリットは大きい。
また、ピルは個人のライフスタイルに合わせて以下
ホルモン量の配合割合においては、黄体ホルモンと
卵胞ホルモンの配合量が一定で変わらない一層性ピル
と、配合量が異なるものを何段階かに分けて服用する
のように種類が多様にある。
階層性ピルに分類できる。階層性ピルの場合はホルモ
1.卵胞ホルモンの量による違い
ン量を出来る限り少なくするため、副作用のリスクを
2.黄体ホルモンの種類による違い
低くする効果がある。
3.ホルモン量の配合割合による違い
日本で代表的に飲まれているピルには、バイエル薬
4.服用開始日による違い
品株式会社のトリキュラー(三層性)とMSD株式会社
5.服用継続期間による違い
のマーベロン(一層性)、持田製薬のオーソ 777(三層性)、
あすか製薬のアンジュ (三層性)、オーソM (一層性)、
1.卵胞ホルモンの量による違い
卵 胞 ホ ル モ ン の 量 に よっ て高 用 量 ピ ル ・ 中 用 量ピ
科研製薬のノニエールT (三層性) などが挙げられる。
4.服用開始日による違い
初めてピルを服用する女性の場合、生理が始まった
副作用もある。代表的な副作用は 2 つある。
第 1 日目から飲み始める Day1 スタートタイプと、生
1 つ目は吐き気やおう吐、頭痛、乳房の張りや痛み、
理が始まって最初の日曜日から飲み始める Sunday ス
不正出血といった症状が出るマイナートラブルである。
タートタイプがある。Sunday スタートタイプの場合、
しかし、これらの症状は軽く服用を続けていくうちに
カレンダー通りに服用することになるため飲み忘れの
おさまる。2 つ目は血栓症のリスクであるが、ホルモン
チェックがしやすいというメリットと、週末の出血を
量の少ない低用量ピルでは非常に稀である。だが、喫
避けることでスポーツ、デート、旅行など週末を様々
煙者においては血栓症のリスクを高めることが分かっ
な活動にフルに使うことができるというメリットがあ
ているため、喫煙者は禁煙をする必要がある。また、
る。
ピルを服用すると太る、乳がんになるといった通説が
5.服用継続期間による違い
あるが、最新の研究ではどちらもピルとの関係性はな
服用継続期間においては、(ピルは女性の月経周期に合
わせて「21 日間服用して 7 日間休む」という 28 周期が基本
いことが証明されている。
以上のことから、ピルはまさに女性のライフスタイ
であるため)1 シート飲み終わったら 7 日間服用をやめ、
ルをデザインし、クオリティオブライフ(QOL)を高め
その間に消退出血(生理のようなもの)が起こる 21 錠入
ることができる、
「ライフデザインドラッグ」と位置づ
りピルと、28 錠中 7 錠は偽薬になっていて、飲み忘れ
けることができるだろう。
リスクを軽減する 28 錠入りピルがある。
このように、個人のライフスタイルによってピルの
種類は多様にある。
② ―――本論
――― 本論
ここで注目したいのが、ピルには避妊ではなく生理
のトラブルも改善する効果がある、という点である。
生理に関する主な効果は、以下のとおりである。
1.生理周期が規則正しくなるため旅行や買い物、仕
事や試験などのスケジュールが立てやすくなる。
1.現状分析
(1)自主アンケート結果と考察
・アンケート結果
我々はアンケートを作成し、現在ピルを服用してい
2.腰痛や腹痛、頭痛といった生理痛が緩和する。
ない女子大学生へ調査を実施した。
3.経血量が減るため貧血の改善にもつながる。
調査期間:11 月 6 日(土)
4.月経困難症の発症頻度を低くする
対象:現在ピルを服用していない女性 68 名
5.生理前のイライラやだるさといった月経前症候の
目的:現在の女子大学生の、生理とピルに対する意識
症状が緩和される
を調査するため
このように女性にとってありがたいメリットがたく
さんある。
さらに避妊効果や生理の悩み改善以外にもピルには
子宮内膜症、良性乳房疾患、子宮外妊娠、機能性卵巣
のう胞、良性卵巣腫瘍、子宮体がん、卵巣がん、大腸
がん、多毛症、骨粗鬆症、尋常性瘡 (ニキビ)、関節リ
ウマチのリスクを抑える効果などもある。
しかし上記で述べていたように、薬であることから
まず女性の生理に関しての悩みを聞いてみたところ、
【生理痛】で悩む人が最も多く、次に【生理不順】、
【イ
ライラ】と続いた。(図表 2)
■図表―――2
ここからはこれらの生理に悩み、ピル以外の薬で悩
生理で悩んだことはあるか(複数回答可)
みを解決している人たちがピルに対してどのような意
識があるのかを見てみる。
生理の
生理の悩 みは何
みは何か
その他
25%
図表 4 を見ると、アンケート回答者の約 3 分の 1 が
生理痛
41%
肌荒れ
5%
イライラ
10%
生理不順
19%
生理痛
生理不順
イライラ
肌荒れ
その他
ピルを服用してみたいと思っていることが分かった。
また、その服用してみたい人 21 人のうち 12 人が【避
妊に関して】9 人が【生理に関して】を目的としてピル
への服用に興味が沸いたことがあるようだ。
では、なぜ実際にピルを服用するに至らないのだろ
うか。その理由をたずねたところ、
・良く知らないから
■図表―――3
・こわい
・体に悪いから
悩みに対する解決策(複数回答可)
・太るから
その他
12%
温める
17%
・通院が面倒だから
市販薬
45%
・服用が面倒だから
市販薬
特にない
温める
その他
・値段が高いから
・薬が嫌いだから
・将来妊娠できるか不安だから
特にない
26%
等のピルに対する頭の中のマイナスイメージが服用を
思いとどまらせていることが分かった。
その悩みをどのように解決しているのかが図表 3 で
ピルのメリット・デメリットに対して、特に魅力的
ある。これを見ると、生理による悩みを約半数近くの
に感じる点・不満に思う点を聞いたところ、まずメリ
人たちが、
【市販の薬】で解決しようとしていることが
ットに関しては【生理痛、生理前のイライラの症状を
分かった。
改善する】、【避妊効果】、【生理周期を一定にする】が
ほぼ同ポイントで魅力的であると評価されていた。
■図表―――4
逆にデメリットに関しては【服用し始めの吐き気】
が一番不満に思われる点で、その次に【価格】、【血栓
ピルを使用したいと思うか
症のリスク】、【処方薬であること】が続いた。
はい, 21
・アンケート考察
いいえ,
47
はい
いいえ
現在ピルを服用していない人たちは、生理痛や生理
不順などの生理に関する悩みは持っているが、その悩
みを市販薬で解決したり、腹部を温めたり、自らが出
来る簡単な処置で対応してきている。その反面、気に
なるのが特に何も解決策を施していない人たちである。
この人たちは毎月やってくる生理期間の悩みを我慢し
述べる。国連の調査(図表 5)によると、日本では 20
て乗りきっているのだろうか。
~49 歳女性の 1%しかピルを服用していない。服用者
また、実際にピル服用しない理由を見てみると、事実
は約 24 万 2000 人である。ピルの毎月の費用が平均
ではないピルの知識によって服用をとどまっている人
3000 円であるので、年間で一人あたりの費用が 36000
もいるようなので、誤った知識の改善も必要だろう。
円(3000×12 ヶ月)となり、年間のピルの売り上げ市
最後に、アンケートによって、女性がピルに対して
場を試算すると 24 万 2 千人×36000 円=約 87 億円で
特に求めているメリットと、購入を踏みとどまらせて
ある。この 87 億円という規模の大きさを分かりやすく
いるデメリットが見えてきたため、この点をプロモー
示すために、他の薬の市場と比較すると、総合感冒薬
ションの際どのように活かしていくことが重要なので
が 755 億円、胃腸薬が 432 億円などピルの市場は非常
はないかと考えた。
に小さい規模であることが分かる。
現在ピルを服用していなくても、ピルに興味を示し
たことがある人が約 3 分の 1 存在したことから、買う
(3)世界のピル市場
きっかけを与えることが出来れば、十分な需要が見込
・ヨーロッパ
まれるのではないかと思われる。
世界全体を見ると、ドイツ・フランス・オランダな
どのヨーロッパの国々がピル市場における先進国だと
(2)日本のピル市場
いえる。ドイツに至っては、20~39 歳の女性の 52.6%
■図表―――5
がピルの服用をしている。ドイツでピルを服用する場
合、価格は日本円で約 3000 円であり、日本と同じく処
各国 15~49 歳女性の低用量ピル普及率
方薬である。さらに検査を行う際は保険適用外となる
ので、費用は全体的にみても日本と大きく変わらない。
60.0
日本と差が生まれた背景としては、後でも述べるが、
性教育の違いが大きい。
50.0
・アメリカ
15~44 歳の女性 18.3%がピルを服用している。ヨ
40.0
ーロッパと比べると普及率がやや下がる。しかし、ア
30.0
メリカでは Planned Parenthood(米国加速計画連盟)
という非政府組織が診療やピルの費用を負担するなど、
20.0
女性がピルを利用しやすいような整った環境があるた
め、日本よりも普及していると考えられる。
10.0
・中国
15~49 歳の女性の 7.9%が服用している。ピルは安
0.0
ドイツ
フランス
オランダ
アメリカ
中国
日本
価で販売されており、市販薬として薬局で気軽に買う
( United Nations ・ Department of Economic and Social
ことが出来るピルもある。一人っ子政策が行われてい
Affairs ・ Population Division : World Contraceptive Use.
る中国においては、避妊への関心も高いため、避妊具
2009)
全体への抵抗が薄いことも普及に繋がっているといえ
ここからは、現在の日本のピル市場の規模について
るだろう。
女性たちは、過去 20 年間で女性の人生に最も貢献した
(4)日本のピル市場が拡大したら
日本おいて、ピルがヨーロッパと同規模まで普及し
たら、市場はどのくらい拡大するのだろうか。
ことの第一位にピルをあげるほど満足度は高いものだ
った。(Le Nouvel Observateur / Femmes du 6 au 12
decembre,1990)
日本のピル服用者が対象女性の 50%になった場合、現
しかし、ピルが女性のからだの自然のリズムを変え
在の市場の 50 倍、年間の売り上げ規模は 4350 億円に
てしまうこと、女性だけが避妊の負担と副作用のリス
もなる。他の市場と比較すると、日本のアレルギー用
クを負うこと、男性が避妊の責任をとらなくなり、女
薬市場(湿疹、アトピー性皮膚炎、花粉症などに使わ
と男の不平等な関係がますます助長されるおそれがあ
れる薬)が 3387 億円の売り上げ規模なので、その市場
ることから、反対あるいは慎重論のほうが多くなって
を優に超えた市場になることが分かる。
いった。女性たちからピル早期承認があがるようにな
ったのは、1990 年代に入ってからのことである。国連
(5)海外との比較.
が主催した国際会議がきっかけだった。女性たちに影
(1)日本のピル市場の大きさでも述べたように、国
響を与えたその会議というのは、1994 年にエジプトの
連の調査によると、15~49 歳の女性に最もピルが普及
カイロで開かれた国際人口の開発会議と、翌年中国の
しているのは 52.6%のドイツである。フランスは 43.8%、
北京で開かれた第四回世界女性会議である。これらの
オランダは 41.0%とヨーロッパでは普及している。ま
会議で、性や妊娠・出産に関することが、女性の健康
た、アメリカは 18.3%、と女性の約 2 割には普及して
と権利という視点から大きく取り上げられた。それは
いる。アジアでは中国が 7.9%、日本は 1.0%と非常に
リプロダクティブ・ヘルス( 性と生殖に関する健康 )リ
低いことがわかる。図表 5 のようにグラフに示すと普
プロダクティブ・ライツ( 性と生殖に関する権利 )とい
及率の低さは顕著である。
う言葉で表された。性に関すること、産む・産まない
では、なぜ先進国の中でも特に日本は著しく普及率
に関することを、道徳や人口政策や優生政策( 障害者の
が低いのか。その原因を探るべく、ピル誕生から今日
排除など人間の質を管理する政策 )
、宗教などで決め付け
までの歴史に迫る。
たり、管理したりするのではなく、カップルや個人、
ピル開発には、アメリカのマーガレット・サンガー
とくに女性の「性と健康の権利」としてとらえようと
という女性の存在が大きかった。彼女は、妊娠、出産
いう考えである。性と健康の権利は、妊娠( 出産 )可能
を調節する自由は女性解放の中心であると信じ、20 世
期だけではなく、思春期、更年期、老年期など一生を
紀はじめにバース・コントロール( 産児調節 )運動を始
通して私たちに関わる大切な権利である。具体的には、
めた。当時のアメリカでは、避妊は、社会的にも法律
月経や避妊、妊娠、出産、中絶のほかに、不妊、性感
的にも認められていなかったため、彼女の運動はまさ
染症、性暴力、買売春などの問題が幅広くふくまれる。
に国や宗教、男性中心社会との闘いであった。女性の
このような女性の性と健康の権利という視点から考え
自立と解放の視点から避妊を推進したサンガーは、効
て、ピルが認められたことは、重要な一歩なのである。
果が高く女性が自主的に使える方法を考え、研究者の
世界各国で高い支持を得ているピルが、なぜこれほど
協力をえて、ピルの開発に成功したのである。ピルが
までに日本では普及しないのだろうか。次に、わが国
承認された 1960 年代のアメリカやヨーロッパでは、ま
のピルの歴史に注目する。
だ中絶が禁止されていたこともあり、女性解放運動の
第二次世界大戦後の 1948 年に優生保護法が公布、実
波とあいまって、利用者は急速に増えた。フランスの
施され、中絶だけは合法化された。それから 1960 年代
初期までは、毎年 100 万人もの望まれない胎児が命を
より承認されている効能効果以外の効果効能について
落とす。優生保護法は改正を繰り返すものの、避妊に
注目して医薬品を使用することは法の禁ずるところで
関する項目は一切変更されなかった。その後 1955 年に、
はない」ここに、医師が自らの判断と責任においてピ
ピルの臨床試験が開始されたものの、1960 年代は、
「性
ルを処方することは法に触れないことが確立したので
のモラルが乱れる」「副作用など安全性に問題がある」
ある。その結果、
「経口避妊薬ピル」として認可されて
といわれ認可は見送られてきた。その後、1961 年に厚
いない薬、つまり本来は治療目的のホルモン剤として
生省は第一回経口避妊薬調査会を設定し、1962 年 7 月
認可された薬(いわゆる中用量ピル)が、避妊薬として医
に「経口避妊薬の製造承認申請書の添付必要する資料」
療機関で処方されるようになり、現在に至っている。
を公布した。1964 年 3 月に医療品特別部会が開かれ、
この事実は、既に低用量ピル時代に入っていた世界的
また同年 6 月、産婦人科関係者との特別部会を経て、
な視野に立てば、国際的に極めて特異な出来事となっ
諸条件つきで認可の意向が示された。しかし、同年 7
たのである。
「ピル」としての認可のなかった日本の医
月に日本家族計画連盟から、認可は時期尚早という反
学・薬学はこの医療品の研究開発の進歩から完全に脱
対の決議文が厚生省、日本医師会に配布された。1965
落していった。
年 2 月には医薬品特別部会で審議されることになって
加藤俊治氏・尾澤彰宣氏によると、1985 年になって
いたが、厚生省はこれを急遽中止したのである。一方、
ようやく日本でも「ピルに関する医学的評価に関する
同年 3 月、日本産婦人科学内分泌委員会は、
「経口避妊
研究会」が発足し、そこで、国内外のピルの取り扱い
薬は使用法を慎重にすれば十分使用に応える」と認め
に検討を加えることになった。1 年余りにわたる合計
た。これを受けて、同年 7 月の医薬品特別部会で認可
11 回にもおよぶ審議の結果、
「 日本でも低用量ピルの有
がようやく決定的となったが、またしても前日になっ
用性を検討する価値がある」との結論を得た。これに
て突然審議が中断されるという事態に至った。
より、医薬品としての認可を受けるための臨床評価用
1970 年代に入ると、60 年代当時は「ピルは時期尚早」
法に関するガイドラインを定め、製薬会社 11 社が 7 種
との反対の立場をとっていた日本家族計画連盟が、ピ
類の低用量ピルについて臨床試験を開始した。製薬会
ル推進の立場に変わった。1973 年、日本家族計画連盟
社は 1999 年に臨床試験を終了し、認可申請のための成
の古屋芳雄会長は、ワールド・メディカル・ジャーナ
績を厚生省に提出した。この臨床試験では、血栓症は
ル 20 巻 4 号で、「政府はまだ経口避妊薬と ICD(子宮
一例もなく、その避妊効果は、ほぼ 100%という結果が
内避妊具)を許可していない。数年前までは、日本で
でたのである。これを受けて、中央薬事審議会( 厚生省
経口避妊薬を使用することに著者は反対していた。し
の諮問機関 )配合調査会は、ピルの臨床試験の結果に対
かし、最近になって著者はこの考えを変えた。厚生大
して、その安全性と客観性を評価し、翌 1992 年にはピ
臣から相談を受けたら、今度は、経口避妊薬と ICD の
ルも認可目前と見られていたが、エイズ感染の急増を
使用を許可するようにつよくすすめる」と述べている。
理由にまたも審議が中断されたのである。1995 年の再
1973 年 12 月と 1974 年 1 月の二回わたり、須原昭二参
開後もエイズなどの性感染症問題のほか、内分泌かく
議院議員(薬剤師会 )は、経口避妊薬承認に関する質問
乱化学物質(環境ホルモン )との関係を懸念する反対論
書を、参議院議長宛に提出し、これを受けて、田中角
が出て、審議は長引いた。1997 年 10 月、中央薬事審
栄首相は、同年 2 月 5 日、次のように回答した。
「現段
議会医薬品特別部会は「ピルの有効性、安全性は確認
階では経口避妊薬を認める考えはない。しかしながら、
された」として審議を終了したが、この科学的成果を
医薬品の使用者がその判断と責任において、薬事法に
前に厚生省はまたも認可を先延ばしにしたのである。
国連に加盟している国の中で、避妊薬としてのピル
■図表―――6
が認可されていないのは日本だけとなった。国連機関
である国連人口基金(UNFPA)の世界白書 1997 でも
避妊の主体性
「日本はいつピルを認可するのか」と指摘されてしま
った。1998 年 12 月、中央薬事審議会常任部会は、ピ
ルの有効性及び安全性に関する情報の資料を公開した。
厚生省では、1990 年 7 月以来、製薬企業からのピルの
スウェーデン
フランス
アメリカ
韓国
製造又は輸入承認申請の承認可否について審議を進め
日本
ているところだった。ピルの認可の結論が先送りされ
0%
てきたが、
「医薬品の承認は薬の有効性と安全性を審査
するのが基本。これ以上、審議を長引きさせることは
できない」、厚生省幹部のこの言葉によって、ようやく
ピルが承認されるにいたったのである。このように、
ピルが日本社会で認められるまでは大きな曲折があり、
認可されるまでに時間がかかったことがピルの普及率
が低いことに関係していると考える。そして、ピルが
20%
40%
60%
80%
100%
女性が主体的に避妊をするものだ
どちらかというと女性が主体的に避妊をするものだ
どちらかというと男性が主体的に避妊をするものだ
男性が主体的に避妊をするものだ
避妊すべきではない
わからない
(内閣府「少子化に関する国際意識調査」2005 年 10~12 月)
医薬品として認可された 1999 年は男女共同参画基本
法が施行された年でもある。
「男女が、社会の対等な構
図表 6 は内閣府が各国の 20~49 歳の男女約 1000 人
成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野
に調査した、避妊は男性、女性のどちらが主体的に取
における活動に参画する機会が確保され、もって男女
り組むかといった国際比較のグラフである。結論から
が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享
言うと、日韓と欧米の間には避妊におけるリプロダク
受することがで、かつ、ともに責任を担うべき社会」
ティブ・ライツの分野で女性の主体性を認めるか否か
とあるが、その社会実現に向けて我々はピルの存在こ
で正反対の意識となっている。スウェーデン、フラン
そが必要不可欠であると考える。
ス、アメリカでは女性が主体的に避妊をするものだと
いう意識が多く占めているのに対し、日韓では男性が
(6)日本のピル市場の問題点
日本におけるピル承認は第一歩にすぎず、重要なの
はむしろこれからである。ピル市場拡大を狙う我々が
解決すべき問題点を、ここでは欧米と比較して明らか
にしていく。
主体的に避妊をするものだという意識が多くを占めて
いる。このような意識の違いが避妊法の違いにも現れ
ている。
以下に示した図表 7 は各国のコンドーム普及率を示
したグラフである。図表 5 と比べ、全体の傾きが逆に
なっているのが読み取れる。日本のピル普及率は低い
が、コンドームの普及率は高いのである。井上栄氏に
よると、他にもコンドームが普及したのには、第二次
大戦中にコンドームを兵隊が性感染症予防に使い、戦
後それを産児制限に使ったことから、1950 年代前半の
急速な出生率低下に結びつくとともに、コンドーム使
用が社会の中に定着したという背景が関係しているの
くさんある。そこでは避妊に関する情報だけでなく、
である。
避妊具・薬も無料あるいは安い費用で手に入り、カウ
ンセリングも受けられるのである。この種の施設で、
■図表―――7
民間で運営されるものに対しては、国や地方自治体が
補助金を出す場合も少なくない。
各国のコンドーム普及率
日本でのピル承認は喜ばしいことだが、健康保険は
適用されない。しかし、ヨーロッパでは、イギリス、
60.0
スウェーデン、フランスなど、健康保険でピルその他
の避妊具・薬の費用や、さらには中絶の費用も一部又
50.0
は全額カバーされる国がある。それだけ、海外の女性
の経済的負担は日本の女性よりも少なくて済むのであ
40.0
る。
30.0
日本家族計画協会クリニック所長であり、OC 推進プロ
グラムを提唱した人物である北村氏はこう述べている。
20.0
「日本でピルが普及しない原因の 1 つは、副作用が強
調される一方、副効用や利便性、避妊の確実性など、
10.0
必要とされる情報が確実に伝わっていないことだ。マ
スコミや医療に携わる僕たちは正しい理解と認識のも
0.0
ドイツ
フランス
オランダ
アメリカ
中国
日本
とに、ピルに関する適切な情報を積極的に提供しなけ
( United Nations ・ Department of Economic and Social
ればならない。そして、女性はもちろん、パートナー
Affairs ・ Population Division : World Contraceptive Use.
となる男性にも正しい情報をキャッチして、ピルをし
2009)
っかり知ってほしいと思うのだ。」ピルの認可が遅かっ
たわが国日本は、その影響で現在でも副作用が強い、
商品化された性の情報は溢れているが、性教育が遅
費用が高いなどのマイナスイメージが強い。また、
れている日本社会の根底には、性ははしたないこと、
日本女性が抱いているイメージが必ずしも正しい知識
あるいは結婚して子供を産むのが「正しい性」といっ
とは限らないため、誤解を招いたままピルの利用を考
た考えが根強く残っている。ヨーロッパには、宗教の
えない女性が存在することが問題である。政府及び医
影響の強い国や地域もあるが、一方で「性を楽しむ権
療や家族計画、保健、教育など関連分野の民間団体も
利」や「避妊は権利」という考えを持つ国々があり、
これまで以上に社会的責任が問われてくる。マスコミ
それを反映した学校教育が見られる。性や避妊につい
にも、正確な情報提供が望まれる。
ては、道徳でなく事実が教えられているのである。日
それでは、このことから具体的に日本におけるピル
本と欧米との違いは他にもある。日本では、情報やカ
の普及においての問題点を列挙する。
ウンセリング、その他のサービスを受けられる相談所
1.ピルは副作用が強い、避妊から「性ははしたないこ
がほとんどない。欧米では、病院や産婦人科医院など
と」という意識に結びついてしまうため、敬遠されて
の医療施設とは別に、家族計画クリニックやウィメン
しまうこと。
ズ・クリニックのような、気軽に利用できる施設がた
2.避妊を含む性教育が不十分であること。
3.ピルの価格が高い。
以上 3 点から現在のピル市場は小さいと考える。普
及率の高い国々の過程を辿れば、日本でも同様に普
及するだろうか、いやしないだろう。なぜなら、元々
歴史的背景が異なる上に、ピルの認可に関して日本
はピル後進国と言えるほど遅かったからだ。国のピ
ルに対する興味は薄い。さらには、文化や宗教の相
違点もあるため、海外での成功例が日本にも当ては
まるとは言い難い。従って、3 つの問題点を改善す
るには、日本女性のために日本独自の手法で市場拡
大を狙わなければならない。そのために以後、先行
研究をもとに仮説を立て、検証を行ったうえで解決
策を提示する。
1.先行研究
まず、下にピルを服用するきっかけ(図表 11 参照)
と満足している点(図表 13 参照)の上位 3 位を示し
た。ここで見てほしいことは、ピルを服用するきっか
これまで現状分析を行い、現在ピル市場が抱える問
けと満足している点の第 1 位と第 2 位が入れ替わって
題点を挙げてきた。ここからは、我々がそれらの問題
いることからわかるように、きっかけが確実な避妊の
点を解決するための仮説を立てる上で必要となるデー
ためであってもピルの効果で女性たちが最も多く満
タとして、
足したと上げた物は月経周期が一定になった点だっ
(1)OC 情報センターによるアンケート調査
たということだ。さらに、きっかけに上げられている
(2)STP
「月経周期」と「月経痛」の 2 つの要因とも、満足度
(3)4P
(%)は高くなっている。これは、ピルを服用する前
の 3 つの先行研究を以下に示す。
に期待していたよりも多くの効果が得られ、満足して
いると捉えていいだろう。逆に言えば生理周期や生理
(1)OC 情報センターによるアンケート調査
痛の改善のためにピルを服用しようと考えていなか
「2009 年度版 低用量ピルに関する意識調査」
った人、改善できることを知らなかった人が服用して
調査期間:2009 年 2~5 月
みて始めて生理の諸症状を改善する効果があるとわ
かるケースが多いということである。
これまで現状分析を行い、現在ピル市場が抱える問
<服用するきっかけ>
題点を挙げてきた。ここからは、我々がそれらの問
第1位
確実な避妊をしたかったから
54.7%
題点を解決するための仮説を立てる上で必要となる
第2位
月経周期を安定させたかったから
44.2%
データとして、
第3位
月経痛を軽減したかったから
40.2%
(1)OC 情報センターによるアンケート調査
<満足している点>
(2)STP
第1位
月経周期が一定になった点
61.7%
(3)4P
第2位
避妊効果が高い点
53.4%
の 3 つの先行研究を以下に示す
第3位
月経痛が軽くなった点
46.4%
次に、ピルを服用する前の不安(図表 14)では、「副
(1)OC 情報センターによるアンケート調査
「2009 年度版 低用量ピルに関する意識調査」
調査期間:2009 年 2~5 月
(2003 年より隔年で実施)
対象:日本全国のピルを服用している女性 869 人
調査目的:服用者の実態や OC に対する考え方や
認識の変化などを探るため
掲載場所:OC 情報センターホームページ
(http://www.pill-ocic.net/koe/2009.html)
<ピルを服用するきっかけ>
アンケート結果の図表 11~17 は先行研究の最後に記
載する。以下はアンケート結果の考察である。
作用」が最も多い 63.9%であるのに対し、ピルを服用
して不満に思う点(図表 15)では「副作用」は 12.5%
と約 5 分の 1 にまで減少していることが分かる。この
ことから、日本の消費者が“こわい”“酷い”と懸念
している副作用は、実際にはあまり不満として感じら
れないということがわかるだろう。人によって副作用
の影響は異なるが、序論の“(2)なぜ生理にはピルな
のか”で示したように症状があったとしても服用し始
めて 1,2 ヵ月程度であるし、重症になることはないと
考えていい。このように服用する前にピルに抱いてい
た偏見やマイナスイメージは、ピルを服用することで
解消されているといえるだろう。
さらに注目すべきところは図表 17 からわかるように、
このアンケートを集計・分析した(社)日本家族計
ピルは全体の 94.8%が継続して服用したいと回答して
画協会常務理事・家族計画研究センター所長、北村 邦
いることだ。つまり、低用量ピルはリピート率がとて
夫氏は、
「OC 服用を契機に生活上現れた変化としては、
も高い商品だと言えるだろう。リピート率が高いとい
5 割を超える女性が『月経の周期が安定し、仕事、旅行
うことは、ピルをまず一度購入してもらえるような戦
などスケジュールを組みやすくなった』『月経痛が軽
略を立てられれば、消費者は継続して使い続けてくれ、
くなり、仕事など生活が楽になった』などを挙げてお
ピルの長期的な売上拡大に繋がるということである。
り、この 10 年間で、わが国の女性達の間で OC が女性
このように、ピル市場には市場拡大、活性化のチャン
の QOL を向上させる薬剤であるという認知度が確実
スがあると考えられる。
に高まってきていることを物語っている。」と評して
いる。
また、OC 情報センター・センター長、九州看護福祉
(2)STP
次に、マーケティング戦略を行うための基盤となる
大学・名誉学長である小林 拓郎氏は、「2003~2009
STP(Segmentation・Targeting・Positioning)、ピル
年(隔年)のアンケート結果からは、服用の動機とし
市場のどのセグメント、どのターゲットに対して売上
て『確実な避妊』のみならず『月経周期の安定や月経
の拡大を訴求するのか、自社(製薬会社)のピルが他
痛の軽減等の避妊以外の利点』を目的として OC の服
の製品と比較してどの位置にあるかを決定する。フィ
用を開始する女性が年々着実に増えてきていることが
リップ・コトラーは「マーケティングを計画立案する
明らかとなった。女性のキャリア・人生設計上、重要
にあたって、はじめにすべきことは価値の選択であ
なステージである妊娠・出産を考える際の確実な避妊
る。」と述べている。市場を細分化し、適切な標的市場
法としての OC の役割に対する理解が進み、さらに学
を選択し、製品価値のポジショニングを行う STP のセ
校での勉学や、仕事、趣味、レジャー、ファッション
ットが戦略的マーケティングの要なのである(Philip
といった女性の日常生活、社会生活に密接に関連する
Kotler[2000]『Markething Manegement』)
月経の問題を解決する手段として、OC を服用しようと
する意識が浸透しつつある。OC は、現代女性の『人生
<Segmentation>
設計』と『生活設計』の両方をサポートし、積極的な
まず、我々はピルの市場拡大を狙うため、ピルが解
ライフデザイン実現に貢献する、『ライフデザインド
決することのできる“生理・避妊の悩みを抱える女性”
ラッグ』として活用されてきているといえる。」と女
というセグメントに焦点を当てた。さらに市場細分化
性のピルに対する理解が進んできていると総評してい
をすると、主婦、働く女性、女子大学生、女子高校生
る。
の 4 つに分けることができる。そこで、ピルの生理へ
満足しているか(図表 12)という質問では、96.7%
の効果、避妊への効果と金額が高いという特徴から、
が「満足」、「まあ満足」と答えている。また、図表 16
生理によって生活に支障をきたすことが多く、避妊の
からわかるように他の人にもピルを薦めたいと思う人
必要性が高く、金銭的に余裕のあるセグメントがピル
は全体で 87%と、とても多かった。日本でのピルの普
市場を拡大するに当たって最適なセグメントだと考え
及率は先述したように 1.0%と低いが、ピルの評価は高
た。
いということがわかる。よって、ピル市場はまだまだ
拡大の余地があるといえるだろう。
そこで、下記のように表を作ったところ、最適なセ
グメントは「働く女性」と「女子大学生」だというこ
とがわかった。
図表 9 によると、最も割合が多い区分は会社員、次い
生理による
避妊の必要
金銭的な
で多いのが主婦、その次にパート・アルバイト、学生
支障が多い
性が高い
余裕がある
と続いている。これは先ほど見た図表 8 の 25~34 歳が
主婦
少ない
低い
有り
中心年齢層だということと一貫性があると言えるだろ
働く女性
多い
高い
有り
う。働く中で長期的なライフプランを立て、生理の
女子大学生
多い
高い
有り
悩みを忘れて快適に働きたいと考える会社員や、子供
女子高校生
多い
高い
無し
の数を上手に調整したい専業主婦が服用者全体の中心
だと考えられる。よって現在ピルが最も普及している
<Targeting>
セグメンテーションで最適なセグメントが「働く女
性」と「女子大学生」だとわかった。しかし、マーケ
セグメントは会社員、つまり働く女性であり、女子大
学生には働く女性の役 5 分の 1 程度しか普及していな
いと言える。
ティングを行うためにはさらにターゲットを絞る必要
これからもわかるように、やはり働く世代にピルの服
がある。働く女性にするべきか女子大学生にするべき
用者が多く、女子大学生が存在する15~24歳の割合を足
か、よりピル市場の拡大につながるセグメントをター
しても20.4%である。
ゲットにしようと考えた。
では、ターゲットとするにはある程度普及している働く
まず、現在のピル服用者について、ピルの代表的な
製品「トリキュラー」を販売しているバイエル薬品株
式会社による日本全国の低用量ピル服用者 465 名に対
して行われたアンケート調査の結果をもとに把握する。
図表8を見てみると、ピルの服用者割合は30~34歳が
26.2%と最も多く、次いで25.8%の25~29歳が多かっ
た。つまり服用者の中心年齢層は25~34歳の女性だと
いうことがわかる。この年齢層の前後である20~24歳、
35~39歳の服用率も高くなっている。
では、もう少し具体的な区分で見てみたいと思う。
女性が良いのか、まだ普及していない女子大学生が良い
のか。それぞれの場合を分析した。
■図表―――10
・働く女性
である。よって、働く女性をターゲットとした場合、
総務省によると、2010 年度の日本の人口は 1 億 2581
ピルの服用をやめて 3 ヶ月後から妊娠可能になり、授
万人、そのうち女性は 6448 万人である。このうち厚生
乳中は服用することができないので、妊娠・出産する
労働省雇用均等・児童家庭局が発表した「平成 21 年版
ためには前後約 1 年間は服用できない期間と考えられ
働く女性の実情」では、女性労働力人口は前年に比べ 9
る。しかし、子供が産まれると子供にお金を使うよう
万人増加(前年比 0.3%増)し、2,771 万人であった。
になりピルの服用をやめてしまう可能性がある。また、
女性全体に対する働く女性の割合は約 43.0%である。
労働力率が 25~29 歳とほぼ同率になるのは 45~49 歳
これはつまり日本の女性の 4 割以上は働いているとい
のときであるので、このことから再就職するまでにか
うことだ。図 10 は働く女性の実情から引用した女性の
なりの時間がかかることが分かる。再就職しない女性
年齢階級別労働力率である。これを見ると、平成 11 年
ももちろん存在するため、これらのことから出産後の
から平成 21 年まで、ほぼすべての年齢で女性の労働力
ピルの服用はあまり期待ができないと言えるだろう。
率が増えていることが分かる。このように女性の社会
よって、働く女性をターゲットにするとピルの服用期
進出が増えている現在、働く女性の数は今後ますます
間は就職してから妊娠するまで、つまり大学生は 23 歳、
増えていくものと考えられる。
大学院生は 25 歳から 30 歳までとなり、わずか 5~7
しかし図表 10 からわかるように、女性の労働力率に
年程度である。
は大きな特徴がある。それは、30~39 歳に労働力率が
突然減少していることである。これは日本の女性の初
産年齢が 29.7 歳(厚生労働省
・女子大学生
平成 21 年度人口動態
日本の女性の人口 6448 万人に対し、文部科学省の平
調査)であるため、妊娠・出産・育児という女性にと
成 21 年度学校基本調査によると、大学生(大学院生を
って人生の中で重要なステージがこの時期に多いから
含む)は全体で 279 万 1308 人、そのうち女子大学生
は 115 万 8390 人であった。この数字は働く女性と比較
すると少ない。しかし女子大学生をターゲットとした
(3)4P
4P とは、マーケティングの実行プロセスのことであ
場合、ピルの服用期間は大学入学から妊娠・出産まで
(3)4P
る。上田隆穂・青木幸弘[2008]『マーケティングを学
と考えられるので 18 歳から 30 歳までとなり、およそ
4P とは、マーケティングの実行プロセスのことであ
ぶ<上>売れる仕組み』に「マーケティングの具体的
12 年間である。これは働く女性の 5~7 年間を大きく
る。上田隆穂・青木幸弘[2008]『マーケティングを学
な実行プロセスは、基本的に
4P という言葉で分類・整
上回り、約 2 倍と言えるだろう。
ぶ<上>売れる仕組み』に「マーケティングの具体的
理されることが多い。この
4P は 1961 年にアメリカの
な実行プロセスは、基本的に 4P という言葉で分類・整
マーケティング学者、ジェームス・マッカーシーが提
・Targeting の考察
理されることが多い。この 4P は 1961 年にアメリカの
唱した分類である。最近は別の言葉で表現されること
セグメントごとの普及率で言えば働く女性は 34.6%と
マーケティング学者、ジェームス・マッカーシーが提
も多いが、最もメジャーな用語である
4 つの P とは、
普及しているが、女子大学生は 7.1%であり女子大学生
唱した分類である。最近は別の言葉で表現されること
プロダクト
(Product)、プライス (Price)、プレイス
の方が拡大の余地は大きい。また、働く女性は服用期
も多いが、最もメジャーな用語である
つの P 」とあ
とは、
(Place)
、プロモーション(Promotion)4である。
間が 5~7 年間しかないのに対し、女子大学生は 12 年
プロダクト(Product)
、プライス(Price)、プレイス
るように、4P
とはマーケティングを行う上で基本とな
間と長い。さらに厚生労働省によると平均結婚年齢は
(Place)、プロモーション(Promotion)である。」と
る重要な役割を持つ分析方法である。
27.8 歳であり、結婚を機に避妊の必要がなくなるケー
あるように、4P とはマーケティングを行う上で基本と
スも考えられるため実際の服用年数は更に短くなるだ
なる重要な役割を持つ分析方法である。
<Product>
ろうと考えられる。どちらにせよ、長期間服用してく
製薬会社が行うものであり成分や生成方法など専門
れるセグメントをターゲットにするべきである。
<Product>
的な知識が必要であるため、我々が新しいピルを開発
以上のことから、働く女性にターゲットを絞るよりは、
製薬会社が行うものであり成分や生成方法など専門
することはできない。よって、我々は既存製品を扱う。
女子大学生をターゲットにし、若いときからピルを服
的な知識が必要であるため、我々が新しいピルを開発
用する習慣をつけてもらうことで、就職しても結婚・
することはできない。よって、我々は既存製品を扱う。
<Price>
妊娠までの約 10~12 年間継続してピルを服用しても
政府が薬のおおよその値段を決定しており、各病院
らおうと考えた。それにより短期的にも長期的にもピ
<Price>
がその範囲内で販売する金額を決定している。そのた
ル市場の活性化に繋がるだろう。
政府が薬のおおよその値段を決定しており、各病院
め 、薬
の単 価自 体を 安くする とい った 金額 の調 節を
よって、我々はターゲットを“未来の働く女性、女子
がその範囲内で販売する金額を決定している。そのた
我々が行うことはできない。
大学生”とする。
め 、 薬 の単 価自 体 を安 く する と い った 金額 の 調節 を
我々が行うことはできない。
<Place>
<Positioning>
ピルは薬事法によって病院で処方しなければならな
これまでピルは避妊の薬としてのイメージが強かった
<Place>
いとされている。よって、薬局やドラッグストアなど
が、避妊以外にも生理周期の安定や生理痛の軽減、経
ピルは薬事法によって病院で処方しなければならな
店 頭で
の販 売は でき ないため 、販 売場 所に つい ても
血量の減少など生理に関する効果が多くある。そこで、
いとされている。よって、薬局やドラッグストアなど
我々が決定することはできない。
我々はピルの需要の幅を広げるため、自社(製薬会社)
店頭での販売はできないため、販売場所についても
のピルを“避妊はもちろん生理の悩みも解決すること
<Promotion>
ができる、ライフスタイルをデザインできる薬-ライ
フデザインドラッグ”と位置づけることにする。
ピルは広告規制がないにもかかわらず、消費者向け
の広告は病院や保健所で受け取ることのできるパンフ
レット、病院内のポスターしか存在しない。プロモー
ションは我々が行える領域であるので、我々はピル市
場が拡大できるような販売促進を行う。
<考察>
我々は 4P のうち Product、Price、Place に関わること
ができない。よって、我々は Promotion について戦略
を立てることにした。ピルの需要・売上を拡大できる
ような販売促進の方法を提案し、ピル市場の活性化を
目指す。
・OC 情報センターによるアンケート結果(一部を抜粋したものである。)
■図表―――11
ピルを飲もうと思ったきっかけ
■図表―――12
ピルを飲むことに満足しているか
■図表―――13
ピルに満足している点
■図表―――14
ピルを飲み始める前の不安
■図表―――15
ピルを飲んでいて不満に思う点
■図表―――16
他の人にピルを薦めたいと思うか
■図表―――17
今後もピルを飲み続けるか
3.仮説と仮説の検証
ずかしいというイメージを持つ。
日本の性教育は海外先進国と比較して遅れていると
前述のように現在日本ではピルが抱える問題は大き
く分けて以下の 3 点があげられる。
言われる事が多々あることは前述の海外比較の章から
もわかるだろう。
1.ピルは副作用が強い、避妊から「性ははしたないこと」
性教育をめぐる問題としては、2002 年のラブ&ボデ
という意識に結びついてしまうため、敬遠されてしま
ィ BOOK 問題が良く知られている。これは、1998 年、
うこと。
夏休みを控えた中高生に正しい知識を持たせ性非行を
2.避妊を含む性教育が不十分であること。
防止する目的で学校を通じ配布が予定されていたが、
3.ピルの価格が高い。
一部の議員により過剰な性教育本として抗議の声が上
これらを踏まえた上で、ピルの販売促進を行うために
がったため配布が中止され、回収を余儀なくされたも
はどうしたらよいのか、仮説と検証を重ねていくこと
のである。このように日本では性教育の必要性を唱え
とする。
る人と性教育が過剰だと唱える人との間で論争になっ
ている。
我々はこの 3 つの問題に対し仮説を 3 つ立てた。
1.性教育を充実させ、ピルや避妊に対する偏見を取り
除けば潜在顧客の購買意欲を掻き立てることができ
る。結果、ピルの売上増加、市場拡大につながる。
2.女子大学生(院生も含むので 18~24 歳)のピル服用
者が少ないという点に着目し、女子大学生に訴求す
ればピル市場の拡大が見込める。
3.費用対効果が立証できれば潜在顧客の購買意欲を掻
き立て、市場が活性化する。
<仮説検証>
我々は 1、2 両方の問題は同時に解消できると考えて
いる。なぜなら、性に対する教育が不十分だからこそ、
性に対する偏見、
「避妊をしている人は遊んでいる」や
「性ははしたないこと」また、
「ピルには重大な副作用
がある」といったイメージがついてしまったのだと考
えられるからである。
よってこれら 2 つの問題点を解決するために教育を
徹底し、偏見を取り除くことができれば、ピルの売り
上げが増加し、市場の拡大ができるのではないかとい
うのが 1 の仮説である。
まず日本での性教育はどの程度進んでいるのか。
「性
教育」と聞くと、我々日本人の多くは、どことなく恥
日本よりも性教育の進んでいる海外では、初等教育
の頃から性交や避妊、中絶といった事柄に関して多少
刺激の強い映像も使ってしっかりと教え込んでいる。
そうした日本と諸外国との避妊を望む女性のピル使用
率を比べると、前述の現状分析のデータの通りアメリ
カは 18.3%、フランスが 43.8%、オランダが 41.0%とな
っており、日本はというとわずか 1%にしかすぎない。
性教育に対する各国の姿勢の差がこのようにピルの使
用率に大きく影響を及ぼしていることがここからわか
る。
また、ピルが導入された頃のピル反対論者の意見と
して、ピルを解禁すれば性が乱れるといったものがあ
った。今でもそのような偏見を持っている人は、少な
くないだろう。ピルと言えば避妊、遊んでいる、性は
はしたないと言ったイメージだが、性が乱れるとはど
ういう意味なのだろうか。
性が乱れるというとき、不特定多数の交際相手を持
つようになるという意味がある。
日本の中絶件数は年間 28 万人を超え、未成年の売春
ピルでそのようになるというのは、根拠のない妄想で
や犯罪、児童ポルノなどの問題も多く、社会的な注目
ある。ピルが広く普及している国で、不特定多数の性
となっている。性教育の不十分はこのような問題が起
関係が多いかと言えば、そんなことはない。ピルがほ
こる原因の 1 つにもなっている。
とんど普及していない日本の若者の性意識と、たとえ
また、現在の教師世代の多くは性教育と無縁の教育
ばアメリカの性意識を比べてみたときに、アメリカの
を受けていた世代であり、若年層の性事情に対しての
マジョリティは、日本と比べて実に素朴で健全な性意
理解が遅れていることも原因の 1 つである。
識を持っている。
このような理由が重なって、性教育に対して批判的
それは当たり前のことで、不特定多数の交際相手の
な立場の人が多く、性教育は十分とは言えないままで
ある女性はピルで避妊しようとは思わないからだ。な
ある一方、AV などが市場に流布することによって性へ
ぜなら病気が恐くて、コンドームなしには性交できな
の関心は高まり、その上インターネットなどでも匿名
いからである。一方、
「道徳的な」関係を持っている女
による情報交換が間違った知識を助長させているとい
性は、ピルで避妊をすることができる。ピルで避妊し
うのが現状である。
ている女性こそが、健全な生活をしている女性と言っ
さらに、性教育の不十分は性という話題に対するタ
ても過言ではない。事実、日本で低用量ピルを服用し
ブー視を強くしていて、家族間や友人間での正しい情
ている女性は、援助交際の高校生ではない。知性的で
報交換がされにくいのも現状である。その結果、性に
しっかりした生活をしている女性の間に、ピルが普及
対する関心は強いものの正しい知識を持っていない人
している事実もこのことを裏付けている。
が多いのである。
いかに日本の性教育が遅れているかがここから読み
取れるだろう。
次からはピルに対する偏見について述べていく。前
述の先行研究の章で OC 情報センターのアンケートや
は、血栓症に限った話で、ピルには子宮体がんなどを
減らす効果があり、それを差し引きすると死亡率は変
わらなくなる。
我々が独自に行ったアンケートの集計結果からもわか
また、服用する前に圧倒的多数であった副作用につ
るように、ピルを飲み始める前は「副作用がひどいの
いての不安は実際服用し始めてからの不満について調
ではないか」「なんとなく怖い」「太るのではないか」
査しなおしてみると、1 位から 4 位にまで下がる。割合
といった不安を持っている人が圧倒的に多かった。
にしてわずか 12.5%である。(OC 情報センターアンケ
しかし実際はどうなのだろうか。
ート)
ピルには重大な副作用がある。この説は正しいのだろ
このように、ピルに対する一般の知識には偏見がか
うか、間違っているのだろうか。
なり多いということ分かった。これを取り除くだけで
ピルに副作用はあるかないかと言われれば、副作用は
もピルに対する抵抗感はかなり減るだろう。
存在する。しかし服用初期に訪れる吐き気やめまい、
また、諸外国の実情から、日本でも性教育を徹底させ
嘔吐などといった副作用は中用量ピルに比べればずっ
ることによりピルの普及率があがる可能性が大いにあ
と小さくなっており 1 週間、長くて 1 カ月服用を続け
ることもいえる。
ればなくなる。
もっと重大な副作用があるのではないかということ
が心配な方もあるだろう。ピルにそのような副作用の
次に、2 の仮説、女子大学生(18~24 歳)に訴求したら
ピルはもっと普及するという仮説を検証する。
恐れはないかといえば、これもある。ピルの服用によ
まずセグメント毎に分類すると、ピルを飲むことが
り、血栓症などある種の疾患のリスクは明らかに高ま
できる女性は主婦、働く女性、女子大学生、女子高校
る。しかし、血栓症はピルを飲まなくてもなるときは
生の 4 つに分けることができる。
なる病気で、ピルを服用していない人で1万人あたり
前述の現状分析のデータにあるように、現在のピル
0.5 人に血栓症が発症する。ピルを服用していると、血
服用者は25~39歳までの方の服用が最も多く、18~24
栓症になるリスクは 3.53 倍になるという報告があり、
歳は伸びていないから市場拡大が見込めるという理由
したがって、ピルを服用していると1万人につき2人
のほかに女子大学生をターゲットとしたことには2つ
程度が血栓症になる計算になる。これを多いと見るか
の理由がある。
少ないと見るかだが、妊婦ではもっと多くの人が血栓
まず、時間の面である。主婦は家庭にかける時間、
症を発症する。また血栓症の発症による死亡率はそれ
子供がいれば子供にかける時間が大きくなるため、そ
ほど高いものではなく、血栓症での入院患者 2883 人中、
の分自分にかけられる時間は少なくなる。働く女性は、
死亡したのは 120 人というデータがあり、4.2%程度の
週 5 日は働きに出ていると考えて、自分のため使える
死亡率と考えられる (Mellemkjaer ら) 。ピル服用によっ
時間は 2 日。翌日仕事が控えているにも関わらずその 2
て死亡する確率は、1万人中 0.08 人という計算になり、
日を旅行に裂く人は少ない。その点大学生には中には
約 12 万人に1人死者が出ることになる。この 12 万人
授業がない平日もあれば、春休み・夏休み・冬休みと
に1人という死者の数は、交通事故やその他の病気で
いったまとまった休みもあるため、気軽に旅行に行く
死亡する確率と比べれば決して大きなものではない。
ことが可能である。更に、サークルや部活動等のイベ
車に乗れば交通事故で死亡する可能性があるから、車
ント、恋愛事情なども組み込んで考えると、生理、避
には乗るなという人はいないのではないか。以上の話
妊の両面から見てもピルは、時間の自由裁量が多くス
ケジュールが不規則な大学生のニーズにぴたりと当て
■図表―――18
はまる。さらにピルが処方薬であるため病院に買いに
行く時間が必要であることを考えても、主婦より働く
女性よりも大学生の方が定期的に病院に行く時間は確
保できる。
そしてもう 1 つは、金銭面である。主婦は自分より
もまず子供にお金をかける傾向にあり、また家庭があ
ると老後の資金のことも考えざるを得ない。
更に裏付けるために、以下の 2 つの理由が挙げられ
る。
前にも述べたが、働く女性をターゲットにした場合
の服用期間は約 5~7 年、女子大学生をターゲットにし
た場合は 12 年間である。女子大学生の数は主婦や働く
女性よりも少ないが、服用期間が長いことから女子大
学生は長期的にみて市場を拡大できる。また、すでに
主婦層、働く女性の服用者は多いことから考えると女
子大学生をターゲットに設定したほうがピル市場の拡
最後に 3.の仮説である費用対効果を立証できれば市場
大の余地があると考えられる。
は活性化するということを検証する。
そして、友人・知人からの口コミ普及率、効果は年
現状ピルは高価だと考えている人が多い。しかし副
代が若くなるほど顕著であるということである。商品
効用や避妊の確実性を考えたとき、高すぎることはな
が導入されてから成長し普及する過程を表したロジャ
いと我々は結論付けた。
ースの普及理論という考えを発展させたイノベーター
1 ヶ月にかかるピルの費用は 2000~3000 円である。
理論という考え方がある。1962 年、スタンフォード大
それに対し生理用鎮痛剤はひと箱 398~998 円程度で
学のエベレット・M・ロジャース教授が著書“Diffusion
ある。 (例 ノーシンピュア 48 錠(24 回分)980 円、ネスパン
of Innovations”(邦題『イノベーション普及学』) で提唱
EV50 錠(25 回分)398 円、イブ A48 錠(24 回分)598 円)
した理論である。ロジャースの普及理論からみると、
たとえば一か月の間に生理が約 5 日間あると考え、そ
市場がS字カーブをなして最も成長するのは、イノベ
の間鎮痛剤を飲み続けたとしても 3 カ月は使用できる
ーターの 2.5%とオピニオンリーダーの 13.5%で足した
計算になる。よって、一か月にかかる鎮痛剤の金額は
16%になるときになる。これをピル市場に応用すると、
300 円前後ということになる。
現在の使用者がイノベーターであるためこれから女子
しかし、鎮痛剤が抑えることができるのは頭
大学生をターゲットとしプロモーションを行うことに
痛・腹痛・腰痛といった生理痛のみである。ピ
よって、その女子大学生がオピニオンリーダーとなり、
ルはそれに加えて生理周期を一定にし、経血量
これからの市場形成において重要な役割を担う。
を減らし、月経前症候群、ニキビや多毛症とい
った肌トラブルまで改善する効果がある。
今のところピル以外に生理周期を整えたり、
経血量を減らしたりすることのできる薬は存在
していない。
薬による方法での成功率は92~95%ほどといわ
避妊のために使用するコンドームについても同様の
れており、母体の状態によってはまれに多量出血など
ことが言える。価格はコンドームのほうが高いものの、
が発生し、手術が必要になる場合がある。薬の副作用
避妊効果に関してはコンドームを大きく上回る。
も強く、数時間から数日は腹痛、出欠、吐き気などの
またそれ以外にも卵巣がんの予防、卵巣のう腫の減
少、子宮外妊娠の減少、乳房良性疾患の予防骨盤内感
症状を伴う。
手術による方法は、成功率はほぼ 100%で、薬ほど
染症の予防、子宮体がんの予防等が副効用を考えても、
の辛さはないといえる。ただし、費用などの面では薬
ピルの費用対効果は十分にあると考えられる。
よりも高額である。
更に定期的に病院に通うようになること、半年に一
初期の中絶の場合、胎児はまだ小さいため比較的簡
度は採血検査を受けることによって血栓症や婦人病、
単な手術で行うことが可能であり、母体への負担も少
些細な体調の変化を見逃すことがなくなり、病気の早
なくて済む。具体的な手術方法は、手術前にラミナリ
期発見にもつながる。
アやメトロイリンテルなどで子宮の入り口を広げ、全
ここで、ターゲットが妊娠を望まない女子大学生で
身麻酔をかけた上でキュレットという道具で子宮内か
あるため、避妊がいかに重要なものであるか、そのた
ら掻き出し (掻爬術)、吸引器などで残ったものを吸い
めの手段としてピルが重要な役割をなすことについて
取る (吸引術)。時間としては 5~15 分程度で、手術後
も述べておきたい。
は 2,3 日の安静と薬の摂取が必要な程度で、入院など
中絶した場合の中絶にかかる費用は初期 (11 週目程度
の必要はない。
まで)が 8~15 万円程度、
中期(12~21 週目まで)が 15~50
中期の場合、胎児の大きさがある程度となっている
万円程度かかる。これは一般的な範囲で、自費診療で
ために初期のような方法は行えず、分娩に近い方法を
あるためそれ以上かかる場合もある。
とる事になり、母体への負担は通常の出産に近くなる。
中絶による負担は何も金銭的なことだけではない。
方法としては、初期と同じような方法で子宮口を広げ
中絶方法には薬で行うものと手術で行うものとあり、
(初期中絶の場合よりも大きく広げる)、プロスタグランジ
中絶を行う際に使用する薬品は RU-486、一般的にはミ
ン製剤などの投与によって人工的、強制的に陣痛を誘
フェプリストンと呼ばれる薬で、妊娠状態を維持する
発させて取り出し、その後子宮内容物除去術を行う。
のに必要なプロゲステロンというホルモンの作用を強
時間は出産同様かなりかかり、3~5 日間程度入院を行
制的に止めることで、流産を引き起こさせる作用を持
う必要と、1週間以上安静にする必要がある。その他
つ。使用可能な時期は限られており、妊娠後 49 日以内
にも母体への負担が大きく、子宮破裂などの問題がお
とされている。子宮外妊娠やその他の場合においては
きる場合もある。
利用することができない。
また、妊娠 12 週目以降の中絶の場合、プレグラディ
いずれの方法においての中絶も、中絶後に不妊症に
なる、子宮外妊娠しやすくなる、流産しやすくなる等
ン(プロスタグランジン製剤)という薬を使用して人工
のリスクが付きまとう。
的に陣痛を起こし、分娩と同様の方法を用いる。
また、日本においてこれらの中絶手術を行うことは一
手術による方法は、妊娠初期 (12 週以前)と中期 (12~21
般的には刑法の第二十九章 (堕胎罪)に触れるため犯罪と
週目)で異なる。これは胎児の大きさがどの程度かによ
されている。一方母体保護法では「母体の健康を著し
って簡単な手術で行われる場合と、分娩と同様の方法
く害する恐れのある」場合等に特別な医師が本人の同
で行う場合が別れるためである。
意を得たうえで「中絶を行うことができる」と定めて
おり、実際はこの規定にのっとっていないグレーゾー
ンの中絶が数多く行われているのが現状である。
(1)問題点 1・2 の解決策
我々は 4P を考えた際、処方箋ゆえに製品・ピル自体
また、12 週目以降の胎児の中絶は死産扱いとなり、水
の価格・販売場所に関しては決定権をもたないことか
子供養が必要となる。つまり、12 週目以降の胎児は人
ら、プロモーションに特化した。そして我々は、公共
間として扱われているのである。
の場と、ターゲットである女子大生がいる大学という 2
人工妊娠中絶を行うということは母体を傷つけるだ
つのオケージョンに分けてプロモーション方法を変え
けでなく、1 人の人間を死なせてしまう点では非常に精
ることで、その場にあった最も効果的なプロモーショ
神的負担が大きい。人工妊娠中絶をなくすためにも、
ンを行うことにした。なぜなら、公共の場でピルの避
高い避妊効果を持つピルを女子大学生に訴求すること
妊効果や中絶についての情報を投入することは、主に
が必要である。
子どもにとっては刺激が強すぎるため、訴求したい情
報量を制限してしまうことになるからである。そして
我々は、教育という観点から広告は分かりやすさを重
③ ―――結論
――― 結論
視する。
まず、公共の場においては女性専用車両の電車内広
1.新提案
告とテレビ CM、無料相談所の設置が有効であると考
えた。公共性の問題から、情報量は避妊よりピルの副
前にも述べたが、我々は日本でピル市場が普及しな
効用に焦点を当てる。電車内広告とテレビCMでは、
い理由として、
特に生理痛が緩和されること、生理周期が一定になる
1.ピルは副作用が強い、避妊から「性ははしたないこ
ことでスケジュールが立てやすくなること、経血量の
と」という意識に結びついてしまうため、敬遠され
悩みなど女性が共通して抱く悩みや不安に重点を置き、
てしまうこと。
ピルを飲めばそれらの悩みが解消できることを強調す
2.避妊を含む性教育が不十分であること。
る。無料相談所に関しては、各地にピルに対する疑問
3.ピルの価格が高い。
を解消する場として無料相談所を設置すれば、女性の
を挙げた。
ピルに対する偏見などを取り除けると考えたからであ
さらに上記問題点の仮説として、
1.性教育を充実させ、ピルや避妊に対する偏見を取り
除けば潜在顧客の購買意欲を掻き立てることがで
る。無料相談所は、ピルを販売する製薬会社が主体と
なって潜在顧客に訴求して購買意欲を促進させられれ
ば市場拡大も期待できる。
きる。結果、ピルの売上増加、市場拡大につながる。
大学構内においては定期的に出張相談カーが出向く
2.女子大学生(院生も含むので 18~24 歳)のピル服用
ことと女子トイレ内でのポスターの掲示を考えた。こ
者が少ないという点に着目し、女子大学生に訴求す
れにより、ターゲットであるほとんどの女子大生に、
ればピル市場の拡大が見込める。
訴求したい情報を効果的、効率的に訴求することがで
3.費用対効果が立証できれば潜在顧客の購買意欲を掻
き立て、市場が活性化する。
きる。情報量は公共の場と異なり、生理ばかりでなく
避妊にも同程度に重点を置く。例えば、性行為におけ
を考えた。
るピルの効果や人工妊娠中絶のリスクや手術方法につ
以上のことをふまえてそれぞれ解決策を述べたい。
いても言及する。
(2)問題点 3 の解決策
が導入されている。)
ピルの価格が高いということに関して、我々は費用
「3.ピルにおまけをつける。」に関しては、価格はそ
対効果を強調することが最も有効な手段であるとし、
のままにおまけを付けることでお得感を出す方法であ
次のような解決策を考えた。
る。現在ピル服用者の中にはピルケースにラインスト
1.ピルを服用するメリットを最大限消費者に伝える。
ーンなどの装飾をしておしゃれ感覚でピルを持ち歩い
2.ピルの価格を下げる。
ている服用者もいる。したがって、ピルケースのおま
3.ピルにおまけをつける。
けは有効な手段であると考えた。
まず「1.ピルを服用するメリットを最大限消費者に
提供する。」に関しては、前述にもあったように相談所
しかし、ここで我々はピルの価格は本当に高いのか
という疑問を抱いた。
の設置や広告投入量を増やすことで解決する。ピルに
疑問を解消するために市販の生理用鎮痛剤と比較を
対する偏見を取り除き、実際に購買させるためには、
してみたい。市販の生理用鎮痛剤は 1 日 3 錠服用した
まず消費者を教育する必要があるからである。
と考え金額に換算すると、通常 200 円弱になる。生理
「2.ピルの価格を下げる。」に関しては、クーポン
の配布と学割制度の導入の2つが考えられるとした。
期間中、生理の「痛み」に関して悩まされた日数を 3
日間と仮定し、序論の「1.問題意識と問題設定」で
クーポンの配布の見解は、ピル自体の価格を安くす
述べた生理痛に悩まされる年数は 10 年以上という数字
るためには日本全国の病院が価格改正をする必要があ
に当てはめてみると、約 72000 円かかる。(200 円×3
り、効率的な手段であるとは言えないからである。そ
日間×12 ヶ月×10 年間=72,000 円) それに対しピルを服
のため、病院ほど数のないピルを販売する製薬会社に
用した場合は、10 年間で約 300,000 円かかることにな
よるクーポン配布が市場拡大には有効だと考えた。具
る。(2500 円と仮定×12 ヶ月×10 年間=300,000 円) 我々
体的には、先に述べた相談所でピルを安く購入できる
はこの価格差をふまえてもピルの方がよりメリットが
クーポンを配布することで消費者の購買意欲を促進す
大きいと考えた。理由は主に 3 つある。
ることが有効だと考えた。ここで考えられる問題は製
(1)生理用鎮痛剤はプロスタグランジンという痛み
薬会社の利益であるが、ピルは長期的に服用するもの
の成分の特徴により、痛みが起きてからでは効果が現
であるため一度獲得した消費者がすぐに離れるとは考
れにくい。したがって痛くなる前に服用する必要があ
えにくい。更に、先行研究の「OC情報センター」に
る。しかしその予測は困難であるため、常に痛みが起
よるアンケート調査結果にある服用者の満足度の高さ
こる前から痛みを抑えるピルの方が有効である。
からもリピート購買は大いに期待できる。したがって
(2)前述(なぜ生理にはピルなのか)にもあったように、
初回限定などと制限を設ければ製薬会社の利益が減少
市販の生理用鎮痛剤の場合、病気が進行していても痛
することはないといえる。
みのみを取り除くため、器質性月経困難症(子宮内膜症、
学割制度の導入の見解は、ターゲットは学生である
子宮筋腫、子宮腺筋症)の発見が遅れてしまう可能性があ
女子大生であるからである。オピニオンリーダーにな
る。したがってピルの方が有効である。
り得る女子大生に特別な経済的メリットを提示するこ
(3)中絶のリスクである。人工妊娠中絶手術を行うと、
とで市場拡大を図るのである。また、彼女らが社会人
手術費用は 8~50 万円にも及ぶ。更に、手術すること
になってからは学割がなくなってしまう訳であるが、
で不妊症や子宮外妊娠、流産しやすくなるといった身
経済的余裕が出てくるためにピルの普及率が下がるこ
体的リスクと、長い間罪悪感に見舞われるといった精
とはないとした。
(なお、現在ごく一部の病院では学割制度
神的リスクも考えられる。このように、人工妊娠中絶
をしてしまうと金銭面、身体面、精神面、あらゆる面
で女性の負担は非常に大きい。したがって、他の避妊
具よりも高い確率で望まない妊娠を回避することがで
きるピルの方が有効である。
以上の理由から、ピルは十分に費用対効果を実現で
きる。
今回我々は女子大生をターゲットとしたが、将来的
には次のように考えている。
まず女子大生の間でピルが普及する。そして今度は
女子大生に憧れを抱く女子高生がフォロワーとなって
一気にピル市場の拡大を実現させる。また、女子大生
はピルの服用が習慣になっていることを期待し、彼女
今までは消費者重視のプロモーションを提案してき
らは社会に出て働く女性となってからも、妊娠したい
た。しかし、これらのプロモーションはいくら製薬会
と思う時までピルを服用する。そして一時的にピルの
社が消費者に訴えても、実際に病院でサービスが提供
服用をやめ妊娠、出産をする。授乳期間も終わり、育
されなければ意味のないものになってしまう。そこで、
児も一段落すると、再び社会復帰してまたピルを服用
製薬会社は以上のプロモーションに加えて、MR(医療
し始める。こうしてピルは社会で活躍する女性と共に、
情報担当者) による営業活動や、医療情報誌への広告投
働く女性のサポーター的役割をなすことで日本の力と
入なども必要であろう。製薬会社が費用を負担して病
なるのである。これが、我々が思い描く最高のビジョ
院側の利益が増えるのだから、病院側のメリットは大
ンである。
きいはずである。
これのビジョンを実現させるためには、やはりオピ
ニオンリーダーとなりうる女子大生の間でピルを普及
2.まとめと今後の展望
させなければならない。そのためには提案したプロモ
ーション方法を絞る必要があると考えている。そして
我々は日本活性化、ピル市場活性化のために STP と
4P を考えた。
STPの内訳は、セグメンテーションは避妊と生理
問題点を解決する必要がある。例えば出張相談カーは、
女子大ではなく共学においても有効であるのか、など
という議論の余地があるからである。
の悩みを抱える女性、ターゲティングは未来の働く女
今後我々は発案したプロモーション方法をさらに根
性、ポジショニングはライフスタイルをデザインでき
拠のあるものとすることで、ピル市場拡大のための効
る薬、である。
果的アプローチを行っていく。
4Pは、処方箋ゆえに製品・価格・販売場所に関し
ては我々が決定することは出来ないことから、プロモ
ーションに特化する。
また市場におけるピルの位置づけであるが、ピルは
生理痛を軽減させるだけでなく、生理周期を整えたり、
経血量を減少させたりする効果もあることから痛みを
取り除くだけの「生理用鎮痛剤市場」には属さない。
避妊においても他の避妊方法と比べてもピルの避妊効
果は非常に高いことから「避妊具市場」にも属さない。
このようにピル市場には競合となる代替財が存在しな
いことから、競合にシェアを奪われることなく十分利
益は見込める。
<参考文献>
【出典】
・「OC 情報センター」
・芦野由利子,[1999],『ピルのことを知りたいー性と避妊を考
http://www.pill-ocic.net/index.html
えるー』,岩波書店
・「性教育について」
・加藤俊治・尾澤彰宣,[1999],『ピルと性感染症がよくわかる
http://www.hinin.info/kyouiku.html
本やさしい避妊のすべて』,有紀書房
・「働く女性の状況」
・井上栄,[2000],『感染症の時代―エイズ、O157、結核から
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/dl/h0326-1c_0001.p
麻薬まで』,講談者現代新書
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・ Philip
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(月谷真紀訳『コトラーのマーケティング・マネジメント
・「生理のミカタ」
http://www.femalelife.jp/seirino-mikata/
・「更年期障害、克服への道」
ミレニアム版』ピアソン・エデュケーション)
http://konen.tavell.net/index.html
・上田隆穂、青木幸弘,[2008]『マーケティングを学ぶ<上>売
・「メルクマニュアル家庭版」
れる仕組み』,中央経済社
http://merckmanual.jp/mmhe2j/sec22/ch241/ch241e.html
・「健康医療の総合情報サイト|健康 Salad」
【病院配布のパンフレット(非売品)】
http://www.k-salad.com/life/lady/b-labo12.shtml
牧野恒久,[2000],『教えて!ピルのこと』
・「生理痛情報ナビ」
http://seiritsuu-navi.com/diag/checksheet.php
・「 United Nations Department of Economic and Social
・「アトラスレディースクリニック」
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2009」
・「Woman’s Medi Navi」 http://www.e-medinavi.com/
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・「ピル・わかるページ」 http://www.pill-page.com/
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・「プロスタグランジンと生理痛」
・「 緑 井 ク リ ニ ッ ク ・ バ イ エ ル 社 ト リ キ ュ ラ ー 資 料 」
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http://www.midorii-clinic.jp/images/benkyoukai/1008_017.
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・「Kurasse」 http://kurasse.jp/
・「矢野経済研究所」 http://www.yano.co.jp/
・「DAKKO」 http://dakko.jp/index.html
・「Dr.北村の JFPA クリニック」
http://www.jfpa-clinic.org/」
・「ピルとの付き合い方」
http://finedays.org/pill/formen.html
・「バイエル薬品のサイト」
http://www.midorii-clinic.jp/images/benkyoukai/1008_017.
pdf
・「ホルモン環境の変化による副作用副効果」
http://www.est.hi-ho.ne.jp/ruriko/pill/reaction.html
補録―――アンケート調査
アンケートのお願い
学習院大学
杉田ゼミ
林班
私たちは女性の「生理の悩み」に着目し、研究しています。研究のため、女性の方のみにアン
ケート調査を行っております。どうぞよろしくお願いいたします。
何かご意見やアドバイス等ございましたら、裏面にご記入をお願いいたします。
※現在ピルを服用している方は、アンケートには回答せず、
右の四角にチェックを入れてご提出ください。
→
→
→
→
→
<生理について
生理について>
について>
【1】生理で悩んだ経験はありますか?(ある方は具体的に)
ある→[
](ex)生理痛・貧血・生理不順・イライラ
ない→【3】へ
【2】よく行う生理対策は?(複数回答可)
鎮痛剤(市販) ・ 鎮痛剤(処方) ・ 漢方 ・ 体を温める ・ 食事
サプリメント(鉄など) ・ 特にしていない ・ その他(
)
<ピルについて
ピルについて>
について>
【3】「ピル」を知っていますか?
知っている→ピルのイメージを自由に書いてください。
知らない→【6】へ
【4】ピルを使ってみたいと思ったことはありますか?
ある→何のために使いたいと思いましたか?
ない→【6】へ
【5】なぜ購入に至らなかったのですか?
[
避妊
・
生理
・
その他(
)]
●ピルには以下のようなメリット・デメリットがあります。
ピルを服用するメリット
デメリット
A 避妊効果が高い
G 服用し始めは吐き気を催すことがある
B 生理痛、生理前のイライラの症状を改善する
H 重症化はしないが血栓症のリスクがある
C 生理周期を一定にする(生理不順の改善)
I 喫煙者の服用は血栓症のリスクが高まる
D 経血量が減少するため、貧血になりにくい
J 病院で処方してもらわないと購入できない
E ニキビ、多毛症を改善する
K1日1回、毎日同じ時間に服用する必要がある
F 子宮内膜症、卵巣ガン等の発症を抑える
L 保険適用外のため1カ月2~3千円かかる
【6】メリットの中で魅力的だと思う項目を3つ以内で挙げてください。(記号で)
[
・
・
]
・
]
【7】デメリットの中で不満だと思う項目を3つ以内で挙げてください。(記号で)
[
・
【8】これらのメリット・デメリットをふまえて、ピルを使いたいと思いますか?
[ 使いたい・どちらかといえば使いたい・どちらかといえば使いたくない・使いたくない ]
●ピルは病院で処方してもらい、毎日ほぼ同じ時間に飲まなければなりません。
(一度に購入できる量は最大6カ月分、1年に1回検査)
定期的に通うという点では美容院と似て
いますね!また、毎日利用するという点
ではコンタクトレンズと似ていますよ
ね!
【9】美容院に行くことは面倒だと思いますか?
[ 面倒 ・ どちらかといえば面倒 ・ どちらかといえば面倒ではない ・ 面倒ではない ]
【10】コンタクトレンズを利用することは面倒だと思いますか?
(利用している人のみ回答してください。)
[ 面倒 ・ どちらかといえば面倒 ・ どちらかといえば面倒ではない ・ 面倒ではない ]
【11】ピルを服用することは面倒だと思いますか?
[ 面倒 ・ どちらかといえば面倒 ・ どちらかといえば面倒ではない ・面倒ではない ]
質問は以上です。ご協力ありがとうございました!!