フランスにおける非営利事業体税制

フ
ラ
ン
目
ス
平成 19 年 12 月 10 日
企業税制研究所
次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
2
フランスの非営利団体
1.
歴史的背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
3
2.
非営利団体の形態と申請手続・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4
非営利団体の税制
1.
非営利団体の利益分配の禁止規定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
6
2.
非営利団体の活動によって生じた所得のうち本来の活動目的に関連しない非関連事業所得への課税・・・・・・・
6
3.
非営利団体の理事等への報酬の支払いについて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
7
4.
寄付金税制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10
最新情報(メセナと税制、2008 年関係者間でメセナ法総括)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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はじめに
フランスでは、1789 年のフランス革命後、団体の結成が禁じられていたが、非営利団体については、1901 年に、
「非営利社団
契約に関する 1901 年7月1日法」(以下、「1901 年7月1日法」という。
)が制定され、現在もなお根拠法となっている。
フランスの非営利団体の形態は、無届非営利社団・届出非営利社団・公益非営利社団・企業財団等である。
本報告においては、これらの団体をまとめて「非営利団体」と呼ぶこととする。
本報告においては、フランスの非営利団体の歴史的背景とその形態、
非営利団体に関する税制そして最新情報として「メセナ、
公益団体及び財団に関する 2003 年8月 1 日法」の施行後 4 年を経過した現在のフランスの状況を雑誌記事等から紹介すること
とする。
なお、本報告は当研究所における研究調査目的のために作成したものであり、訳文中に誤解を招く表現や誤りがあった場合に
は、原文である仏文の内容に従うものとする。
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Ⅰ
フランスの非営利団体
1.
歴史的背景
フランスの非営利団体の法制と税制を理解するに当たっては、まず、その歴史を知っておく必要がある1。
1789 年のフランス革命後、国家は、反政府的な活動を行う集団や組織に対する警戒を強め、国家と個人との間にはいかな
る団体も認めないという方針をとった。1791 年に制定されたル・シャプリエ法によって既存の団体が廃止され、新たな団体
の結成は許されないこととなった。1848 年に王政が倒されて共和制が宣言された時に、憲法で、
「市民が平和に武器を持つ
ことなく集団を作って協議する権利を請願したり、報道上、その他の媒体で自分たちの考えを表明する自由を認める」とい
う文言が掲げられ、1864 年には労働者の協同組合の結成などが認められるようになった。
その後、ワルディック・ルソーが首相に就任後、「1901 年7月 1 日法」が制定され、結社の自由が公式に認められること
となったのである。
この「1901 年7月 1 日法」は、制定後 100 年を経過した現在においても、社団の根拠法となっている。
フランスにおいては、20 世紀前半は、民間の非営利活動はそれほど活発ではなかったが、1981 年にミッテラン政権が発
足してから、地方分権化政策が進められ、社会福祉サービスを担う民間の非営利団体の重要性が見直され、その育成が図ら
れることとなった。1987 年に「民間公益活動(メセナ)の振興に関する法律」
、1990 年にはこの法律を発展させる形で「企
業財団に関する法律」が制定され、財団に関する法体系が整備された。
また、2003 年には、「メセナ、公益団体及び財団に関する 2003 年8月 1 日法」が制定されたことに伴って、寄付金税制
が大きく改正された。
1
フランスの非営利団体の歴史については、以下を参考とした。
石村耕治「欧米主要国のNPO法制と税制」ジュリストNo.1105、45~47 頁
雨宮孝子「NPO法の国際比較」生活協同組合研究 290 号、39・40 頁
経済企画庁『平成 12 年度 国民生活白書』第Ⅰ部 1 章 1 節 ドイツ、フランスのボランティア事情
林寿二「フランスの公益法人について」 国学院法学8巻3号、14 頁以下
諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究実行委員会『諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究報告書』文部科学省委託
調査、平成 19 年3月、177・178 頁
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2.
非営利団体の形態と申請手続
フランスにおいては、冒頭に記載したとおり、非営利団体は、(1)無届非営利社団、(2)届出非営利社団、(3)公益認定
を受けた非営利社団及び(4)公益認定を受けた財団の 4 つの形態に区分されており、それぞれ申請手続きが異なっている2。
(1)無届非営利社団
無届非営利社団の設立には、届出や認可は必要とされず、構成員の合意のみで容易に設立が可能であるが、対外的な契約を
結ぶ際に社団の名称を使用できないなどの制約がある。
(2)届出非営利社団
法人としての権利能力を得るためには、行政庁への届出が必要となり、団体の名称・目的・所在地等を記載した定款等を県
庁等に提出し、届出の内容が 1 ヶ月程のうちに官報に記載されて法人化が認められる。
(3)公益認定を受けた非営利社団(以下、「公益非営利社団」という)
公益非営利社団となるためには、その活動が不特定多数の者に利益を与えることをその設立の目的としていること、その規模
が一つの地域に限定されることなく広範囲に亘ること、一定の構成員を有すること等が要件とされている。
また、認定を受けるためには、原則として最低 3 年間の活動実績が必要とされる。
公益認定の手続は、まず、団体が、内務省に会員名簿・理事名簿・三年間の会計報告書・財産目録等を提出する。これらの書
類が形式的な要件を満たしている場合に、内務省は、受理書を交付し、関係省庁の意見などを聞いて実質的な審査を行う。そ
の後、内務省は、行政裁判権と政府の諮問的権限を兼ね備えたコンセイユ・デタに審査付託し、コンセイユ・デタにおける書
類審査及び実質的審査によって公益性が認定された場合は、コンセイユ・デタによりデクレ(政令等)が公布され、このデク
レが官報に掲載されることによって、その団体は公益非営利社団として認定されることとなる。
この認定には、平均して約 1 年程度の期間を要する。
2
フランスにおける非営利団体の形態の区分及び申請手続については、以下を参考とした。
石村耕治「欧米主要国のNPO法制と税制」ジュリストNo.1105、45~47 頁
雨宮孝子「NPO法の国際比較」生活協同組合研究 290 号、39・40 頁
コリン・コバヤシ『市民のアソシエーション フランス法 100 年』太田出版、2003 年7月、331~335 頁
宮本孝正訳「非営利社団契約に関する 1901 年7月1日の法律」
『外国の立法』国立国会図書館調査及び立法考査局編、1997 年5月、58~62 頁
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(4)公益認定を受けた財団(以下、「公益財団」という)
認定を受けるための手続は、公益非営利社団の申請方法とほぼ同様とされる。
<
非営利社団の活動分野別団体数の内訳
>
(出典)諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究実行委員会『諸外国におけるボランティア活動に関する調査研究報告書』
文部科学省委託調査、平成 19 年3月、184 頁
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Ⅱ
非営利団体の税制
フランスの非営利団体に関する税制について、French Tax Code(以下、
「FTC」という。)やガイドブック等に基づいて、以
下のとおり紹介することとする。
1.
非営利団体の利益分配の禁止規定
フランスの非営利団体の利益分配の禁止規定は、法制及び税制において、下記のとおり明確に規定されている。
●
●
「1901 年7月1日法」1 条
非営利社団は、二人又は複数の者が、利益分配以外の目的をもって永続的にその知識又は活動を共有することに合意する契
約である3。
2.
FTC 261.7.1(d)
非営利団体は、いかなる方法によっても直接的又は間接的な利益の分配を行ってはならない。
非営利団体の活動によって生じた所得のうち本来の活動目的に関連しない非関連事業所得への課税
下記の FTC 261-7-1°-b、206 1 bis の要件を満たす限り、本来の事業から生じた所得については課税されない。
(上記Ⅰ.2(1)の無届非営利社団については、税制上の優遇措置の適用がないものと解される。)
(1)団体の活動が不特定多数の者に対して広く公益的な活動であって、その経営は公平無私であること
(2)営利事業と競合しないこと
(3)営利会社と特別の関係にないこと
3
宮本孝正訳「非営利社団契約に関する 1901 年7月1日の法律」
『外国の立法』国立国会図書館調査及び立法考査局編、1997 年5月、58 頁
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なお、その年の年間収入が 60,000 ユーロ4を超えなければ課税されないという免税点が設定されている。
非営利団体が受ける賃料、利子、配当等の受取所得については、上記の本来目的の事業活動から生じた利益とは区分して、
一定の軽減税率で課税される。
3.
非営利団体の理事等への報酬の支払いについて
広義の利益分配である非営利団体の理事等への報酬の税務上の取扱いについて、"Mémento Pratique Associations - Fondations Congrégations - 2006/2007"から該当箇所を抜粋し、以下のとおり翻訳する。
● 固有財源の最小金額
団体又は財団は、一定額以上の固有財源を有していなければならない。公的補助を除いた財源が、報酬を理事 1 人に支払う場
合は 200,000 ユーロ、理事 2 人に支払う場合は 500,000 ユーロそして理事 3 人に支払う場合は 1,000,000 ユーロ以上に達していな
ければならない。固有財源の金額は、会計監査役により認定されなければならない。
算定の対象となるのは、提供役務に対する報酬、寄付、民間からの補助金、会費等々の財源であるが、現物出資や労務出資は
含まれない。また、法律上又は事実上、私法に基づく法人が公法に基づく一法人の管轄下に置かれており、運営資金の大半もこ
の法人から出してもらっている場合には、私法に基づく法人が拠出する資金は公的資金と同等とみなされて算定の対象とはなら
ない。
200,000 ユーロ、500,000 ユーロ又は 1,000,000 ユーロ5という基準額は、団体が 1 人又は数人の理事へ報酬を支払いたいと望む
年度の直近 3 会計年度の平均として達成されなければならない。発足したばかりの団体は、この例外規定(理事の無報酬原則に
ついての例外規定)の対象外とされると考えられる。
団体又は財団の財源金額算定に当たっては、その団体又は財団に所属している組織の財源も計算に入れる。
また、こうした組織にも、財務の透明性及び民主的運営に関して法律が定める条件を満たしていることが求められる。
しかしながら、所属組織の財源を複数の団体又は財団に重複して合算することは認められない。
4
5
1 ユーロを 163 円で換算すると、約 978 万円。
1 ユーロを 163 円で換算すると、それぞれ 3,260 万円、8,150 万円、1 億 6300 万円。
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● 団体の規約及び運営形態
理事への報酬の支払いがあった場合に、その団体の非営利性が否定されないための条件は、
(1)財務の透明性、(2)民主的な
機能、及び(3)
関係理事の実質的服務義務に比しての報酬額の妥当性を保証する規約と機能形態がその団体に備わっていること、
である。
(1)財務の透明性
組織の財務の透明性が保証されるためには、一定の理事に報酬を与え得る旨を規約で明確に規定している必要がある。それに
加えて、以下のような条件を満たさなければならない。
— 各理事に支払う報酬がその組織の決算書において明示されていること
— 規約上の代表者又は会計監査役が理事への報酬を定める契約を審議する機関に報告書を提出すること
— 組織の決算書は、会計監査役により証明されたものであること
(2)民主的な機能
組織の民主的な機能は、以下によって保証される。
— 理事の規則的、定期的な選挙
— 組織の会員による実効的な組織運営監査
— 組織会員の 3 分の 2 相当以上の多数決で、組織の議決機関が手当の支払いに同意すること
なお、多数の会員を擁する団体においては、本条件を満たすのが困難なため、総会の出席者の 3 分の 2 でよいとする通達を
行政当局が出すことが期待されている。
(3)関係理事の実質的服務義務に比しての報酬額の妥当性
理事の服務義務と比べて、報酬に妥当性があるとみなされるのは、以下の 3 つの条件が満たされた場合である。
― 支払われる報酬は、服務義務を理事が実質的に執行することに対しての対価である。
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― 報酬額は、理事に実質的に課せられた義務に応じて、主として労働時間を基準に決められる。
なお、こうして労働時間への言及があるということは、理事が職務をフルタイムで執行した場合に限り、後述の上限までの
報酬が認められると考えられる。その旨、行政当局から追って通達があると考えられる。
― 報酬額は、類似及び同レベルの責務に対して一般的に支払われている報酬に匹敵する程度とする。
● 報酬限度額
各理事に支払われる報酬は、社会保障限度額の 3 倍を超えてはならない。
すなわち、2006 年度においては月額 7,766 ユーロ(年額 93,189 ユーロ6)を超えてはいけない。
なお、法律では、本限度額についての算定方法について何も定めていないが、当局は、Smic(業種間最低保障賃金)の 4 分の
3 に相当する限度額算定のために採用した規則をここにも当てはめるものと思われる。
● 申告義務
団体は、報酬が支払われた会計年度末から 6 ヶ月以内に、理事に支払った報酬金額を記載した書類を管轄税務署に提出しな
ければならない。この書類は、同時に、200,000 ユーロ、500,000 ユーロ、1,000,000 ユーロ以上という財源基準条件が満たされ
ているかどうかの確認に必要な算定対象財源の額を証明するものでなければならない。
● 理事報酬支払いがもたらす影響
上記の条件がそろった場合、1 人又は数人の理事への報酬支払いがあったとしても組織運営の非営利性が疑問に付されること
はない。しかし、当局には、非営利性を実証する第 2 の指標の審査すなわち「競合性の審査」の際に報酬を考慮に入れようとの
意向があるようだ。法律採択に先立つ議会審議の際に予算政務次官は、「その団体に商業的性格があるかどうかを同様の活動を
行う民間企業との関連において評価する際には、理事への報酬支払いの有無が考慮されるであろう。」と述べている(JO déb. Sén.
2001 p.5459)。
行政当局はこうした方針を追認すると思われるが(通達は、まだ出ていない。)、それがもたらす影響を過大視すべきではな
6
1 ユーロを 163 円で換算すると、約 1500 万円。
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い。実際、活動形態が審査対象となるのは、非営利組織が営利企業と競合していることが前もって証明された場合に限定さ
れる。判例を精査すると分かるが、裁判所は、このような競合の存在を認めるのに極めて慎重である。
4.寄付金税制
2003 年に大きく改正されたフランスにおける現在の寄付金税制は、下記のとおりである(FTC200、238)。
寄付金控除
控除限度超過額の繰越規定
(個人)
(個人)
5 年間の繰越しが可能
課税所得の 20%を限度とし、寄付金額の 66%を税額控除
(法人)
年間売上高の 0.5%を限度とし、寄付金額の 60%を税額控除
(法人)
5 年間の繰越しが可能
(注 1)法人税法における寄付金控除の対象となる非営利団体の要件の概要は、下記のとおりである。
(FTC238bis)
a 不特定多数の者に対する、慈善、教育、科学、社会福祉、人道、家族及び文化的な活動であること。また、国家の芸術的
文化遺産の正しい評価又は環境の保護並びにフランスの言語、文化及び科学的知識の普及に寄与する活動であること
b a の要件を満たす、公益認定を受けた企業財団、公益非営利社団及び博物館等
c 公又は指定を受けた私立の高等教育機関又は芸術教育機関
d 指定を受けた科学又は学術研究機関
e オペラや音楽などの芸術作品(公共良俗に反しないもの)を一般に公開することをその活動目的とする公立又は私立の
団体
(注 2)「社会的弱者への救済を行う団体」に寄付を行った場合、まず、488 ユ-ロ7以下の寄付金については、その寄付額の 75%
が控除額となり、次に、488 ユーロを超える金額については、公益認定を受けたその他の「非営利団体」への寄付金額と合わ
せて税額控除額が計算される。
(注 3)2003 年の改正前までは、年間売上高に一定率(0.3%8)を乗じた額を限度として損金算入されるに過ぎなかった。
7
8
1 ユーロを 163 円で換算すると約 8 万円。2007 年の金額が 488 ユーロと定められている。
雨宮孝子「NPO法の国際比較」生活協同組合研究 290 号、37 頁
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(注 4)2002 年に制定された博物館法によると、国宝級の物品を購入して国に寄付した企業は、購入額の 90%が法人税額の 50%
を限度として控除される9。
Ⅲ
最新情報
「メセナ、公益団体及び財団に関する 2003 年8月 1 日法」の施行から丸4年を経過したフランスにおけるメセナ(文化芸術活
動支援)活動の現状、税制改正の与えた影響を、
「パリよりボンジュール パリ日本文化会館館長便り 2006 年4月 16 日」、
「ア
ントルプリーズ・エ・メセナ(企業とメセナ)誌 2007 年 10 月、116 号」より抜粋して紹介することとする。
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パリよりボンジュール パリ日本文化会館 館長便り No.5 2006 年4月 16 日号
メセナと税制・・・フランスの例
フランスの商工会メセナ推進協会(通称 ADMICAL)のジャック リゴー会長は、“メセナ行為は企業にとり言語のひとつであり、社会との対
話を志し、その存在を明示する方途のひとつである”と述べております。ローマの初代皇帝アウグストウスに仕えた大臣マエケナス
(Maecenas)が文芸作家を手厚く擁護した事実から、後にその名を取り芸術文化を支援する行為を表すフランス語、“メセナ”が誕生した由
来は良く知られるところです。米国ではスポンサーシップと云う言い方のほうがわかり易かったようで、同様に日本では単なる寄付行為とや
やもすれば混同される時代があったのではないでしょうか。
以下は、日本の社団法人:企業メセナ協議会出版による“なぜ企業はメセナをするのか?”より要約してみました。
メセナとは商業的見返りを求めず、より純粋な意図に基づく芸術支援への取り組みであるものと位置づけられるが、企業は何の見返
りも求めずに芸術文化支援に取り組むことができるのか?株主、社員、顧客に支えられている企業にとりメセナに何らかの経営的な意
義を見いだせなくてはアカウンタビリティ(説明責任)に反するのでは?
9
福井千衣「フランスの博物館と法制」
『外国の立法』No.222、2004 年 11 月、106 頁
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“上記を質問とすれば、答えは次の通りです。”
芸術文化は社会に多様な価値をもたらし、人々の精神の糧となる観点に立てば、それに対する支援は社会を豊かにするための公
共投資であり貢献であると考えられる。広告宣伝のように短期的な経済的リターンはなくとも、芸術文化の持つ力をむしろ多角的に踏
まえて、企業のイメージや企業評価の向上、企業文化の熟成、顧客とのコミュニケーション構築など、長期的にかつ間接的にメリットを
求めることがメセナの見返りとして期待される。
冒頭のリゴー氏の言にもどれば、社会との接点は企業が創りだす製品また経済行為のみにあるのではなく、メセナというもう一つの言語を
通じて企業イメージを向上させることが説明責任も果たすことになると解釈されます。
さて、資本主義社会において利益追求が企業活動の第一義目的である限り、メセナ行為は税制との妥協点を以って初めてその高揚が期
待されるとも言えます。我が国でも財団、社団法人等の個人ならびに法人の寄付行為に対する税制の改革が検討されています。関連する法
改正の高揚は興味深く見守りたいところですが、文化大国のフランスはこの点については他に類を見ない積極的姿勢をとっております。従来
は売上高の 0.227%を上限とするメセナ寄付額を費用として認めるという制度でしたが、2003 年に改正し、寄付行為額の 60%をそのまま法人
税総額から差し引き可能としる、但し上限を売上高の 0.5%とする。。。。としました。
これにより企業のメセナ行為はほぼ倍増したとフランスのメディアは報じております。
因みにフランス最大の石油、天然ガス会社であるトタール社は近年ルーブル博物館“アポロンの間”の修復に 450 万ユーロ(約6億円)を寄
付し、その見返りは何と向こう 10 年間は数万人に及ぶトタール社社員のルーブル入館料を無料とすることでした。ここにはフランスならではと
も言えるアイディアの斬新さを見た思いがします。
パリ日本文化会館館長 中川正輝
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『アントルプリーズ・エ・メセナ(企業とメセナ)誌 2007 年 10 月、116 号』
2008 年に関係者を集めてメセナ法を総括
クリスティーヌ・アルバネル文化・通信相へのインタビュー
2003 年 8 月 1 日法をどのように評価されますか?中期的に、メセナ活動促進のために新たな施策を提案されるお考えはありますか?
税務関連データ、各種調査の結果といった私どもの手元にある全ての要素から分かるのは、企業や個人による公益奉仕が着実に増え続
けている、ということです。もう一つの好ましい傾向は、企業による様々な財団が発展していることであり、これは一過性でなく長期に渡ってメセ
ナを組織、実行しようとする意図の表れです。しかも、こうした傾向は大手企業グループに限られた話ではなく、中小企業にも当てはまります。
優遇税制がこうした変化を後押ししているのは確実です。
この点において、2003 年 8 月 1 日法が定めた制度は上手く機能していると思います。これにより、企業メセナが 3 年間で 3 倍に、個人メセ
ナが 2001 年以来 2 倍になりました。前内閣は制度改善に腐心しました。前内閣は、芸術作品を購入する企業が同法に基づく税優遇措置を
享受するための条件を緩めたのです。(下線は筆者)
また、2007 年からはリヨン現代美術ビエンナーレといったビジュアルアートをテーマにしたイベントにも同法が拡張適用されるようにもなりま
した。以前は、主催者の目的が営利追及とみなされ、こうしたイベントは同法の適用外とされていました。そしてついに、2007 年からは歴史的
建造物の私有者にも門戸が開かれるようになりました。
次に着手すべきは、国立の劇団やバレエ団への対応だと私は考えます。国立の劇団やバレエ団は団体形態をとっている、との理由で現
在は同法の対象外とされています。
これら部分的手直しを超えて、私は、関係各省庁と同法の活用者、すなわちメセナたちとメセナによる支援を受けている、もしくは必要とし
ている文化関連組織団体を集め、法律を総括できればと願っています。法律施行 5 年目を迎えるに当たり、こうした協議を経て具体的な施策
が採用されることを希望します。
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文化・通信省のなかに 2004 年(実質的には 2003 年)に創設されたメセナプロジェクトチームにはどのような役割を与えるおつもりですか?
ご存知のように、文化省は 2003 年メセナ法制定にかかわったのですから、同省がメセナ担当課を持つのは当然のことでした。このプロジェ
クトチームは、新法の周知普及、文化活動の担い手と経済界との仲介に尽力して既に大きな成果を挙げています。各地に担当者を配した大
きなネットワークを統括し、同法に関わる全ての人々や機関に対しては顧問役を務め、文化メセナ活動の発展を見守る使命を担っています。
常時ではありませんが、このプロジェクトチームはまた、文化省にとって重要なプロジェクトのためにフランス内外で資金を調達する任務を受け
持っています。以上に挙げた様々な責務においてこの使命を同チームが充分に果たせるように強化することが重要だと思います。例えば、中
小企業の参加をさらに促す、個人による文化メセナ活動を推進する等の分野でやるべきことは沢山残っていますから。
多くの企業が未だにメセナとは無縁です。大臣のお考えでは、メセナ着手を妨げているもの、難しくしているものは何でしょうか?
この問題は様々なレベルに及びます。同法の周知普及は完遂したとは言いがたい状況ですし、現行法規を熟知活用できる能力無しでは、
支援を受ける側もメセナ側も同法の適用を受ける事はできません。また、支援を必要とする側とメセナ候補者とが自然に出会うことは期待でき
ません。例えば、多くの中小企業経営者はメセナ活動に関心があっても、提案された文化プロジェクトの利点を検討する時間がありませんし、
検討する能力のある人間が周囲にいるわけでもありません。文化プロジェクトの立案者にも同じ事が言えます。企業と文化プロジェクト立案者
のパートナーシップが決まった後も、契約書の準備からプロジェクト遂行に至るまで様々なプロセスが待っています。こうした事は実務上の障
害であり、現在進行しているメセナノウハウの蓄積によってやがて解決されるでしょう。文化レベルでの障害は既にクリアされている、と私は考
えています。
ヴェルサイユでの経験に基づき、これまでより多様化した、特に中小企業が利用しやすいように設計されたメセナ活動を推進しようとするお考
えはありませんか?
ヴェルサイユ宮殿はルーブル美術館と同様、大変に多様なメセナ活動の恩恵を得ています。アメリカ・ヴェルサイユ友の会、フランス内外の
企業、大企業及び中小企業から支援を受けています。ジョン・D・ロックフェラーの寄付がいわば先鞭をつけてくれました。しかし、今の状況は
任意の協力を募ってきた歴史の結実です。ヴェルサイユ宮殿が有する並外れた威信、フランスの歴史におけるその重要性、世界的名声によ
り実現したことであり、ヴェルサイユモデルが全てに応用可能というわけではありません。とはいえ、ヴェルサイユ宮殿庭園の彫像修復への支
援を企業や個人に呼びかける「アドプテ・ユヌ・スタチュ」運動からヒントを得た類似の運動が既に他所でも展開されています。
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能力を提供するメセナ活動はもっぱら社会事業の分野で盛んです。どうしたら文化活動の分野にも広げることができるでしょうか?
能力メセナというアイディアは社会事業や環境保護活動とともに文化活動の分野でも浸透しつつあります。ヴァンシ・グループはヴェルサイ
ユ宮殿「鏡の間」の修復を資金面で支援したばかりでなく、傘下企業のノウハウや技術も提供してくれました。同じことが、ブイーグ・グループ
の海軍省建物の修復支援についても言えます。どちらも最高級のフランスの文化遺産を修復するとりわけ重要なプロジェクトですが、歴史的
建造物修復以外にもコンテンポラリーアートや演劇などのスペクタクルなど、さまざまな活動にも適用できる可能性があります。文化担当者や
文化プロジェクトの立案者は能力メセナの可能性についてアイデアを練り、胸襟を開いて企業側の申し出を検討せねばなりません。また、文
化省はこうした動きを奨励せねばなりません。
過去 27 年間のメセナ発展におけるアドミカル(ADMICAL 商工業メセナ推進協議会)の活動をどのように評価されますか?
ジャック・リゴー会長のもとで皆さんの協会が果たしてきた役割に敬意を表したいと思います。皆さんは多くの面でパイオニアとして道を拓き、
メセナの経済界への浸透を助け、法制面の整備を提案し、制定された法規の周知普及に積極的にかかわり、メセナのノウハウ開発に取り組
まれました。ですから、メセナと文化財団の発展に重要な責任を担う文化通信省各部局とアドミカルとの積極的連携がこれからも継続すること
を願っています。
インタビュー担当:マリアンヌ・エシェ
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平成 19 年 12 月 10 日
企業税制研究所
おわりに
フランスの税制においては、非営利団体は、利益分配を行ってはならないということが明確に規定されている。この利益分配禁
止規定を根拠として、利益又は剰余金の分配の禁止の一環としての理事等への高額報酬の禁止規定が定められている。その規定で
は、非営利団体の財源の額に応じて報酬を支払う理事等の人数が定められており、広義の利益分配の防止措置として参考となる。
我が国の税法上、非営利の定義を明らかにした上で、売上等の規模によって段階別に理事等に対する報酬額の上限を定めるという
ようなことは可能であろう。
フランスの寄付金税制は、国宝級文化遺産の保護やメセナ活動の支援など優遇対象を具体的に規定しており、そのことが寄付額
の増加につながっていることは明白である。我が国の寄付金税制の改正の際には、その改正の目的について、漠然と「民間の公益
活動の推進」というのではなく、より具体的に優遇対象を設定することも一つの手法であると考えられる。
フランスの非営利社団は、Ⅰ.2.で上述のとおり、法制上は「2 階建て+地下一階(無届非営利社団)」となっており、とりわけ届
出非営利社団(1 階)及び公益非営利社団(2 階)は、我が国の新しい公益法人制度の一般社団法人等(1 階)及び公益社団法人等
(2 階)のシステムと共通点があると考えられる。フランスの届出非営利社団(1 階)及び公益非営利社団(2 階)の税制上の主な
....
相違点は、寄付金税制であるが、寄付金税制の優遇を受けることや公益認定という看板を掲げるためだけに煩雑な公益認定の申請
をする法人は少なく、届出非営利社団(1階)で留まっている法人が多いといわれている10。こうしたフランスの状況は、税制と
法制が密接な関係にあることを示していると考えられる。このことからも、我が国の公益法人等に関する税制を構築する際には、
もっと早い段階で、一般社団法人等(1 階)及び公益社団法人等(2 階)の税制上の差異を明確にし、納税者がどちらの形態を選
...
ぶかについて、法制と税制の両面から熟慮する時間を与えるべきであったと考えられる。
「営利も課税、非営利も課税」という理論
構築に多くの時間を費やし、関係者の不安を煽り、法制改正を来年に控えた今日においても、公益法人等に関する税制改正の詳細
が分からないという我が国の状況は、極めて問題があると言わざるを得ない。
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コリン・コバヤシ『市民のアソシエーション フランス法 100 年』太田出版、2003 年7月、334 頁
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平成 19 年 12 月 10 日
企業税制研究所
<参考図書等>
1. 石村耕治『宗教法人法制と税制のあり方』法律文化社、2006 年 11 月 10 日
2. United States International Grantmaking France (http://www.usig.org/index.asp)
3. "Mémento Pratique Associations - Fondations - Congrégations - 2006/2007"
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