周波数利用の現状と周波数利用効率

周波数利用の現状と周波数利用効率
小檜山 賢二
1.ワイヤレス・アクセスシステムの動向
(1) IMT2000 のインパクト
次世代携帯電話システムとして、全世界で開発が進む IMT2000 のアクセス速度は、移動時
384kbps、静止時 2Mbps と言われる。現時点での一般的な使用における加入者線速度の上限は、
ISDN の 128kbps である。光ファイバが敷設されればその速度は 100Mbps 以上も可能となると思わ
れるが、その実現には長い時間と莫大な投資を必要とする。一方、XDSL の利用も日本では思うよ
うに進んでいないし、
光ファイバと同様その利用は、
都市部など需要の多いところになるだろう。
まだ衛星によるインターネットアクセスには大きな可能性があるが、容量的な限界がある。つま
り、日本全体から展望すると、IMT2000 が最も高速であるという領域が圧倒的な割合になる可能
性が高いのである。
IMT2000のサービスが始まると利用者はどのような使い方をするだろうか。
もちろん基本は電
話なのだろう。しかし、電話サービスの場合利用者から見れば、料金と音質、サービスエリアな
どが満足できれば、PDC でも cdmaOne でも別に構わない。
一方、データサービスの場合は通信速度が大きな要素となる。ISDN の 3 倍も高速の移動通信
サービスが出現するのである。IMT2000 のサービスが始まるとデータ通信の利用者は、確かに移
動通信サービスとして加入するものの、
実態としては最も多くの時間を家庭からの高速加入者線
として利用することになるのではないか。そして、インターネットなどデータ通信利用者にとっ
ては、パケットは大きな魅力である。
① 通信速度の点で、ある時期、大部分の地域(人口比ではない)でワイヤ系を上回る
② 当然移動通信としても利用可能である
③ 特定加入者だけを対象にしたりはしない、
基本的にユニバーサルサービス的要素を有し
ている
④ 当初からパケットサービスを予定している
これらの点を考えるとIMT2000は、
次世代のアクセス系に大きなインパクトを与えそうである。
このように、IMT2000 のサービス開始を起点として、ワイヤレスアクセスとワイヤアクセスが対
等に扱われる時代がやってくる。ワイヤ系を主として、ワイヤレスが補助を行うという考え方は
捨てたほうがよい。
(2)ワイヤレス LAN の躍進
いまワイヤレス LAN が注目されている。ワイヤレス LAN は以前より存在していたのだが、その
1
マーケットは大きいとは言えなかった。その原因は通信速度とコストにあった。屋内利用では、
ワイヤタイプの LAN の速度は 10Mbps か 100Mbps、最近ではギガビット/秒ということがいわれる
までになっている。これに対して、ワイヤレス LAN は数 Mbps 程度にとどまっていたからである。
そんなワイヤレス LAN が注目を集めている原因は、① 10Mbps 以上の速度が可能となった、②機
器の小型化が進み、PCMCIA カードで利用できるようになった、③価格の低廉化が進んだ、などを
挙げることができる。
このような動向を受け、インターネット用高速アクセス系として、ワイヤレス LAN を屋外で使
おうという気運が高まった。ワイヤ系の設置が難しい屋外であれば、10Mbps ∼ 30Mbps の通信速
度が可能になれば、超高速アクセス系としてコスト、設置に要する時間などの点で、十分ワイヤ
系に対抗できると考える人が多いためである。
このような利用法を可能にするためには、①周波数の利用規程の変更、② 10Mbps ∼ 30Mbps 伝
送を可能とするワイヤレス LAN の開発、という二つの要素が必要であった。
周波数の利用においても、
規制から自由使用へと大きく流れが変わりつつあることが感じられ
る。自由空間という共通の伝送路を使用するワイヤレスシステムでは、その利用法に何らかの決
まりを必要とすることは今後も変わりがないだろう。しかし、ISM(Industrial, Scientific and
Medical) バンドのように自由に使える周波数が増大するようになるのではないだろうか。問題
が生ずれば、
利用者間の協議によって解決していく。
これはまさにインターネットの手法である。
このような周波数をいかに導出するのか、周波数の利用の再編成は可能か、そして周波数は効率
よく使われているのか、これらの問題については、次節以降に取り上げることとする。
また、高速化への標準化作業も進んだ。ワイヤレス LAN の標準化が行われている IEEE802 委員
会は、もともとワイヤ LAN の標準化のために設定された。ワイヤレス LAN への要望が強くなって
きたことから、1990年よりIEEE802.11委員会を設置、2GHzLANの標準化も担当するようになった。
その立場は、ワイヤ LAN の規格の動作可能なワイヤレス LAN の規格標準化である。標準化の対象
となっているのは、2GHz システムの高速化と、新たな課題としての 5GHz システムである。いず
れのシステムとも、標準化作業は終了している。
2GHzシステムは、現在のワイヤレスLANの主流である。標準化により11Mbps程度が可能になっ
図 1 2GHz 帯周波数配分
た。しかも、わが国での周波数配分が欧
米なみに拡大(図 1)されたことから、
大きな期待が寄せられていることは、
前述の通りである。一方、5GHz システ
ムは、屋外での高速アクセスへの適用
も、考慮に入れて標準化が行われた。
5GHzLAN の通信速度は 24Mbps が中心
になる。高速通信に適した OFDM 方式を
採用しているのが特長である。このよ
うな、経緯もあってこのシステムは屋
外利用型ワイヤレス LAN の本命と目さ
2
図 2 5GHz 帯周波数配分 れていた。
しかし、わが国での 5GHz 帯 LAN の利
用は当面屋内に限られるようである。
まず始めに、5.15 ∼ 5.25GHz の周波数
での標準化が行われ、屋内の利用が可
能になった。これに続いて、5.25 ∼
5.35GHz の周波数での屋外使用を目標
に標準化が行われたが、気象レーダと
の干渉問題が解決できず、当面このシ
ステムの屋外使用の道は閉ざされてし
まった。しかし、屋外での利用に大き
な期待があることは明らかである。既
存のシステムとの関係があり、その事情は国によって異なるので、一概には言えないが、この周
波数での屋外使用を可能にしてもらいたいものである。ちなみに海外における 5GHz 帯周波数の
配分をわが国のものと比べ図 2 に示す。米国、欧州ともに、かなりの広帯域をこのシステムに配
分している。これに対してわが国の帯域は狭く、しかも屋外利用の道がないことが問題なのは、
上述の通りである。
(3) 固定アクセスの考え方
インターネットなどを対象とした高速の固定アクセスを無線を使って実現しようという試みが
各所で行われている。その実体は、① ISM バンドなどを用いたワイヤレス LAN および LAN 間接続
システムの適用、②あらたな周波数(5GHz)によるワイヤレス LAN の屋外利用、③ 20GHz 以上の
周波数を用いたいわゆる加入者無線、に大別できよう。
①は干渉問題などに不安があり、③は降雨減衰、コスト等の問題を抱えている。前述の 5GHzで
の標準化の試みは、①における干渉問題の除去を可能にするばかりでなく、通信速度は 2GHz 帯
の2倍以上、
しかも屋外利用のための干渉対策なども考慮された期待の大きなシステムであった。
残念ながら、成功しなかったが、技術的には完成しており、周波数さえあれば、すぐにでも適用
可能な状況にある。
ここで少し長期展望に立ってみよう。図 3 は、よくある移動通信の今後の動向を示したもので
ある。ここでの問題は、固定に限定したワイヤレスアクセス・システムにポジションがあるかと
いうことである。
まず、固定アクセスには有線アクセスシステムという強力なライバルがいる。光ファイバをは
じめ、XDSL、ケーブルテレビなど、ワイヤレスアクセスでは実現できない高速アクセスを実現で
きるシステムばかりである。
有線アクセスには設置面での大きな壁があることはあきらかである。
しかしそれは、長期的に見れば越えられない壁ではない。その点で、固定ワイヤレスアクセスは、
限定された期間や需要の少ない地域での利用にポジションがあると言わざるをえない。
3
図 3 移動通信の展望
つまり、ある期間における高速ワイヤレス
アクセスの効果は確かに大きいが、それは永
続的なものではないということである。とす
れば、固定に限定したポジショニングをワイ
移動性
高速移動
(車等) 携帯電話
2010
IMT2000
(3G)
(800M,1.5G)
ヤレスアクセスに適用するのは危険であり、
周波数の価値を下げる。移動性にも扉を開い
た状態で、ある期間固定に利用するという道
2000
PHS
(1.9G)
低速移動
(歩行速度)
を用意しておくべきだと考える。
②の例(20GHz)以上については、移動利用
は難しいので、固定利用に限定しても大きな
屋内
問題はないと考える。
固定
マルチメディア化
5GHz広帯域
移動アクセス
MMAC
(25,40,60G)
ワイヤレスLAN
(2.4G,19G)
2.周波数利用の実態
移動性の改善
Fixed Wireless Access ( FWA )
0,1
1
10
100
図 4 5GHz システムのポジション
移動性
2000
2010
(1)概要
ワイヤレス系に携わる者にとって、使用で
きる周波数を獲得することは、常に最重要課
題である。5GHz の例でも明らかなように、よ
いシステムが開発されても利用できる周波数
がなければどうしようもない。つまり、使用
できる周波数がなければ、どんなに優れた技
高速移動
(車等) 携帯電話
(800M,1.5G)
低速移動
(歩行速度)
PHS
(1.9G)
ワイヤレスLAN
(2.4G,19G)
固定
に使われているのだろうか。
直流から紫外線まで周波数
はいくらでもある(図5)。し
かし、その中でワイヤレス
通信に使える周波数はそう
多くない。あたりまえのこ
とだが、直流から 1GHz まで
には 1GHz しかない。1GHz か
ら 2 倍の 2GHz には、1GHz あ
る。10GHzのから2倍の20GHz
には10GHzもある。通信の立
場から見て必要なのは、帯
域幅の絶対値である。つま
4
5GHz広帯域
移動アクセス
マルチメディア化
屋内
術をもっていても何もできないのである。
さて、周波数はどのよう
5GHz
無線アクセス
システム
IMT2000
(3G)
0,1
MMAC
(25,40,60G)
移動性
の改善
Fixed Wireless Access ( FWA )
1
10
図 5 周波数帯とその利用
100
図 6 降雨減衰特性
り、十分な帯域を確保するためには、できる
だけ高い周波数を使った方がよいことにな
降雨量
(mm/h
100
このため、加入者無線、20GHz帯400Mbps中
継システム、衛星通信と、わが国では 20GHz
帯を中心に世界を先導する開発を進めてき
た。この周波数帯での技術的課題は、降雨に
よる伝搬の減衰の克服である。降雨の減衰の
影響は 10GHz 付近から発生する。20GHz を越
えるとその影響は極めて大きい(図 6)。つま
り、わが国の試みは大成功といえる状況には
なっていない。より高い周波数帯の開拓は重
要で、研究開発も必要である。一方、降雨の
減衰係数 [ dB/km ]
る。
150
100
50
25
10
5
1
1.25
0.25
0.1
0.01
1
10
100
周波数 [ GHz ]
1000
影響の少ない 1 ∼ 10GHz は「電波の窓」と呼ばれるほど貴重な周波数帯であり、すでにさまざま
な用途に利用されている。
ここで、移動通信を含むアクセス系に焦点をしぼってみよう。電波の利用の際、送信アンテナ
と受信アンテナが互いに直接見通せるかどうかが、ワイヤレスシステムにおける利用可能周波数
決定の目安の一つになる。移動通信では、見通しがあることの方が稀になる。このため、数百MHz
∼ 6GHz ぐらいまでが、移動通信用として使えると考えられている。
アクセス系はどうだろうか。これは難しい問題である。ワイヤレス・アクセスシステムの代表
であるテレビジョン放送では、送信側に大規模な鉄塔を設置、受信側も屋根にアンテナをつける
などして、できるだけ見通しを確保しようとする。通信におけるワイヤレスアクセスもこの形式
をとることができればよいのだが、周波数利用効率上、それは難しい。放送の場合は、同じ周波
数(チャネル)の番組を、同時に多数の人が利用する。一方、通信の場合は、各人が異なる情報
を扱うために、独立した伝送路を必要とする。このため固定であっても、移動通信のようにゾー
ンを分けて、周波数の再利用をはかる必要がある。伝搬条件は、移動通信よりは緩和されるだろ
うが、大規模な鉄塔のような基地局設置は難しく、PHS のような形態になることが予想される。
このようなことを考慮すると、広範囲でのワイヤレスアクセスを指向する限り、これに適する
周波数は、移動通信と同様であると考えておいたほうがよさそうである。
(2) 100MHz ∼ 6GHz における周波数利用の実態
周波数利用の原則は、国連の機関である国際電気通信連合(ITU)で決められている。その原
則は、総務省のホームページに掲載されている 1。実はこの原則のほとんどの周波数には、複数
の用途が示されている。一次利用、二次利用というように、順位をつけているものもある。現実
には、この原則にのっとり、わが国の具体的配分が、総務省によって決められるわけである。
まず、100MHz ∼ 6GHz 帯のわが国における主な利用法を調べてみた(図 7)
。一見したところ、
5
携帯電話の帯域が狭い印象を受ける。
空白の部分は船舶通信などさまざまな業務に割り振られて
おり、配分されていない周波数帯は存在しない。
ここで、総務省の情報公開ホームページ 2 から、周波数ごとの無線局数を算出してみた。この
結果を少し分析してみよう。
図 7 周波数帯とその利用:100MHz ∼ 6GHz
0
MHz
テレビジョン放送
携帯電話
PHS
1000
航空無線航行
移動衛星
IMT2000
2000
3000
MCA
IMT2000
公衆通信用固定中継
4000
公衆通信用固定中継
5000
公衆通信用固定中継
ITS
① 局数の多い周波数帯の使用法
・100MHz ∼ 200MHz:航空機電話や船舶関係の業務に広く用いられているようである。
・2.4GHz ∼ 2.5GHz:ここでは、海岸局など船舶通信関連はあるものの、
「特別業務の局」が最も
多い。特別業務の局の定義は以下の通りである。
●特別業務の局
特別業務
(他の業務及び電気通信業務(不特定多数の者に同時に送信するものを除く。
)のいず
れにも該当しない無線通信業務であって、
一定の公共の利益のために行われるもの)
を行う無
線局。 というわけで、実体はよくわからない。
・3.6 ∼ 4.6GHz および 4.4 ∼ 5.0GHz:この周波数は、市外公衆回線用大容量中継システムが使用
している。NTT、NTT ドコモ、KDDI が利用している。
② 携帯電話はどこへいってしまったのか?
携帯電話は公表されていないようである。あまりにも数が多く、変動が激しいためだと思われ
るが、何らかの注釈は必要だと考える。また、携帯電話の基地局の情報も開示されていないよう
である。基地局はそれほど変動するものではないだろうから、公開してもさしつかえないように
6
図 8 周波数帯別局数:100MHz ∼ 6GHz
局数
4500
4000
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
1
2
3
4
5
6
GHz
周波数
図 9 周波数利用種別
局数
4500
4000
航空無線電話
衛星非常用一指示無線標識
船舶・航空機関双方向無線電話
航空機用救命無線機
3500
3000
公衆通信用
マイクロ波中継
特別業務の局
2500
2000
公衆通信用
マイクロ波中継
1500
1000
500
1
2
3
4
5
6
GHz
周波数
思う。こうなると、一体どのような情報が公開されているのか疑いたくなる。
③ 非公開の条件
総務省の情報公開ホームページには注釈があり、非公開項目を以下のように明示している。
7
3 表示データの対象除外
●電波法第4条ただし書の規定により郵政大臣の免許が不要である無線局が使用する周波数、
●及び、
治安維持又は防衛の業務をつかさどる行政機関が開設する無線局が使用する周波数
については、
表示の対象から除外しています。
つまり、治安維持、または防衛をつかさどる行政機関の使っているものは載せないというわけ
である。これは納得できる注釈である。なお、ここに示されている電波法第 4 条のただし書きと
は、
電波法第 4 条
無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を受けなければならない。ただし、次の各
号に掲げる無線局についてはその限りでない。
一 発射する電波が著しく微弱な無線局で総務省令で定めるもの
二 市民ラジオの無線局(26.9 メガ∼ 27.2 メガ)
三 空中線電力が 0.01 ワット以下である無線局のうち総務省令で定めるものであって・・・
というようなものである。これは、送信出力が 1mW 以下のいわゆる微弱電波や、10mW 以下の小電
力(PHS は小電力)無線機を指しており、情報公開ホームページにこの情報はないということを
言っているわけである。
さて、ここで全体を見てみよう。携帯電話のところでも述べたように、本当にこれで全部(た
だし書きを除く)公開されているのかという疑問がある。実は、通信白書で毎年無線局数が公表
されている。平成 12 年度の通信白書によると、無線局数の総計は、46,971,542 局である。情報
公開データベースで公表されているのは、18 万局程度なので、そこには大きな乖離がある。もっ
とも、上記数字のうち電気通信業務用が、42,590,929 局(多分そのほとんどが、携帯電話)なの
で、これを除くと 4,380,613 局となる。さらにアマチュア局約 100 万、簡易無線・パーソナル無
線約 100 万といろいろあり、実態がどうかはよくわからない。いずれも総務省の情報公開なので
あるのだから、両者がつじつまが合うようにしてもらいたいものである。
さて、通信白書に掲載されている利用分野
図 10 無線局の利用分野
別無線局数(平成 10 年度末)をグラフにする
と図 10 のようになる。圧倒的に、電気通信分
野が多いことがわかる。このうち、携帯基地
局が約 72 万局、固定局(公衆通信用中継シス
テムが大きな割合を占めると思われる)も
4,212 局にすぎず、ほとんどが携帯電話であ
ることがわかる。
次に電気通信業務を除く、無線局の利用分
野別局数を見てみよう。通信白書に掲載され
ている利用分野は、以下の通りである。
8
電気通信業務
図 11 無線局の利用分野(除く電気通信)
電気通信業務・陸上運輸・
海上水上運輸・航空運輸・
新聞・放送・漁業・ガス・熱
供給事業・電気・上下水道・
港湾・港湾工事・水防水利
道路・土木建設・鉱業・金
融保険・製造販売・倉庫業・
不動産・サービス業・農業・
林業・消防・消防防災・救
急医療・救難・気象・防災
行政・地方行政・公害対策・
陸上運輸
簡易無線局
警備・宇宙開発・教育・学
術研究・上記以外の国家行
政・外国公務・アマチュア
スポーツ/レジャー・簡易
無線・パーソナル・その他
アマチュア局
これらの実態はあきらかではない。しかし、その大部分は結局は通信での使用であり、設備を
自営で保有しているか、
公衆通信かの違いだけに過ぎないように感じられる。
大まかに考えても、
公衆通信とその他の業務では周波数の利用効率が極端に違うことがわかる。
公衆通信なみの利用
効率が実現できれば、余剰周波数が大量に生まれ、周波数問題は簡単に解決しそうである。公衆
通信なみの利用効率を実現できない自営通信に対しては、
これを公衆通信に再配分するとともに、
既存の自営業務に対しては、
公衆通信における優先的な接続を保証すれば解決するものが数多く
存在するように思われる。
このような方策を実施するためには、
まず周波数の利用効率に対するコンセンサスのとれた定
義が必要である。次節ではこの問題を取り上げる。
この問題を検討する前に、
放送分野での現状の調査を
しておこう。現在テレビ
ジョン放送は、1 ∼80 チャ
図 12 テレビジョン放送局
局数
600
ネルあり、1 ∼12 チャネル
は VHF 放送(Very High
500
Freequency:波長が10メー
400
トルから 1 メートルの電
波)、13 ∼62 チャネルまで
300
が、U H F (U l t r a
High
200
Freeqency:波長が 1 メー
トルから 10 センチメート
100
ルの電波)放送、63 ∼ 80
チャネルが衛星によるSHF
0
1
4
7 10 13 16 19 22 25 28 31 34 37 40 43 46 49 52 55 58 61
チャネル
9
放送(付表 1)となっている。チャネルあたりの帯域は、6MHz である。ここに、映像と音声を収
容する。そこで、VHF、UHF の周波数での、放送局数をチャネル別に調べてみた(前頁図 12)。そ
の値は、通信白書の3万局と乖離があるが、UHF帯では放送は中継もこの電波を使用しており、白
書ではその無線局もカウントしているものと思われる。また、一無線局では複数のチャネルを
扱っているので、これをどのように扱っているのかも不明である。ここでの数字は、加入者と直
結した放送局数である。図 12 に示すように、放送局数は周波数が高くなるほど多くなっている。
これに対して、大都市中心に用いられている VHF 帯は、せいぜい 100 局程度である。これは、ト
ラフィックの多い都市部では多数の基地局が必要となる移動通信とは逆の傾向であり、
その原因
を考察する必要がありそうだ。この点についても、次節で述べることとする。
3. 周波数利用効率の定義
近年の情報通信を取り巻く状況の激変と技術進歩から考えて、
周波数の利用法を再検討する時
期に来ているのではないだろうか。
その兆候はすでに移動通信で始まっている。携帯電話、PHS などに新しい周波数が割り当てら
れている。しかし、全体から見ると移動通信の周波数はまだ少ない。どのような用途に電波を割
り当てるのか。その原則は何か。難しい問題だが、電波は人類共通の財産であり、その効率化は
使用者の義務と言ってよい。では、その根拠となる周波数利用効率について少し考えてみよう。
ワイヤレスシステムは伝搬路として自由空間を相互利用する。しかも、周波数資源は限られて
いる。このためワイヤレスシステムでは、常に周波数利用効率の向上がはかられてきた。しかし、
移動通信の登場により、周波数利用効率も一面的な見方では現実との乖離が大きくなってきた。
そこで、周波数利用効率のさまざまな定義を試みてみよう。
(1) 純技術的定義・・・bps/Hz
マイクロ波中継システムで使われた定義である。線として、1Hz あたりで、伝送できる bps を
尺度とする。送受信の周波数配置、無線チャネル間隔など、システム設計上のさまざまな要素が
関連するが、基本は変調の多重度となる。商用になっているマイクロ波中継システムでは、
256QAM の 5bps/Hz が最高である。
(2) メディアを考慮した定義・・・ch/Hz
たとえば電話を Hz あたり何チャネル伝送できるかを考える。bps/Hz が等しくても、音声を
64kbps で送るのと、6.4kbps で送るのでは、10 倍チャネル数が違う。どちらも、サービスとして
は電話である。最近では、映像の符号化技術の進歩がすばらしく、従来 100 ∼ 200Mbps 必要と言
われた映像信号が、6.4Mbps とか 1.5Mbps で伝送可能になっている。これらの帯域圧縮はある意
味では品質を落とすことになるのだが、
どの程度の品質を必要とするかは人間の感覚の問題であ
り、経済性、周波数利用効率とのトレードオフになる。技術の進展により低ビットレート化は必
10
周波数利用効率(bit/s/Hz )
図 13 周波数利用効率
256QAM
10
16QAM
★
衛星(DYANET)
1
固定
★ 衛星
移動
PHS
携帯電話
0.1
0.001
0.01
0.1
1
10
100
1000
周波数利用効率 (電話チャネル/Hz)
1無線キャリア当りの伝送容量(Mbit/s)
(A)ビットあたりの周波数効率
1
固定
★ 衛星
移動
10 -1
10 -2
10 -3
256QAM
10
-4
携帯電話
16QAM
PHS
10 -5
10 -6
0.001
★ 衛星
0.01
0.1
1
10
100
1000
1無線キャリア当りの伝送容量(Mbit/s)
(B)電話チャネルあたりの周波数効率
周波数利用効率(加入者数/Hz)
1
★
10
Dyanet
-1
固定
★ 衛星
移動
10-2
携帯電話
10-3
PHS
256QAM
10-4
10
16QAM
-5
0.001
0.01
0.1
1
10
100
1000
1無線キャリア当りの伝送容量(Mbit/s)
(C)加入者あたりの周波数効率
11
然である。
(3) ネットワーク効率を含む定義・・・加入数/ Hz
移動通信などのシステムでは、基地局で集線機能がある。つまり、加入者の使用頻度などを考
慮して、基地局に収容できる物理的なチャネル数よりもはるかに多い加入者を収容する。少ない
チャネルで多数の加入者を収容すれば、周波数の利用効率は上がるのと引き替えに、輻輳の危険
性が大きくなる。サービス・品質・経済性とのトレードオフになる。とくにインターネットのよ
うなサービスを対象とした場合、パケット通信による高効率化効果は大である。
(4) 面的広がりを含む定義・・・全サービスエリアでの収容可能加入数/ Hz
日本だけを対象に考えれば、ある周波数帯域で、どのくらいの加入者を収容できるかというこ
とで、この定義での利用効率が決まる。この要素には、セルの大きさとトラフィックの分布が関
係する。PHS のように基本的に小さなセルを使うシステムは、この点での効率が上がる。ただし、
より多くの基地局を必要とすることから、経済性とのトレードオフになる。また、高速移動での
ハンドオフにも支障を来す可能性がある。やっかいなのは、トラフィック分布である。全国で平
面的に見て、平均的なトラフィックが発生すれば設計は容易だが、現実にはそのようなことはあ
りえない。わが国の収容加入者の限界は、いつも首都圏で決まる。つまり、技術的には現在の何
倍もの加入者を収容することができるにもかかわらず、肝心の需要がないのである。
(5) 経済的定義− 1・・・実利用者数/ Hz
設備は打ったものの、利用者が少なければ、実際の利用効率は低い。このような観点から見る
と、周波数の利用効率の格差は、驚くほど大きいと思われる。
ここでセルラーとPHSの経済的周波数利用効率を計算してみよう。セルラーの経済的周波数利
用効率は、加入数 5,695 万(2000 年 10 月)に対し、使用周波数が 80MHz 帯・1.5GHz 帯で合計約
154MHz だから、経済的周波数利用効率は 0.37 程度になる。この値は 800MHz 帯、1.5GHz 帯を総合
し、かつセルラー事業者全ての平均値である。現実には、周波数帯、事業会社で大きな差がある
と思われる。
一方 PHS は加入数 587 万(2000 年 10 月)で、使用周波数が 1.8GHz 帯で 26MHz(2 分の 1 はコー
ドレス電話と共用)だから、経済的周波数利用効率は 0.22 程度になる。PHS では全ての事業者が
同一の周波数帯を使っている。また、比較的トラフィックの多いところを中心にサービスを展開
していること、セル径が小さいことなどが利用効率を高めていると思われる。
次に放送業界について考察する。放送の加入者数は明らかになっておらず、基地局電波の届く
範囲の人口のみが公表されている。
そこで図 12 のテレビジョンチャネルに対応するサービスカバー人口の統計を取ってみた(図
14)。予想されたように VHF の人口が圧倒的に高い。これと図 12 を比べると、局数の少ない VHF
12
図 14 テレビジョン局のサービス領域世帯
の人口が大きく、局数の多いUHFの
人口が小さいことがわかる。そこ
サービス対象となる人口
で、チャネル別に放送局あたりの
カバーする世帯数を集計した(図
30000000
25000000
15)。14チャネルが極端に効率がよ
20000000
い原因は、東京で使用されている
ことと、他地域ではほとんど利用
15000000
されていない(全国で5局)ことに
10000000
ある。12 チャネル以下は、東京だ
けで計算すれば局あたりの世帯数
5000000
は非常に高いが、他地域でも利用
0
1
5
9
13
17
21
25
29
33
37
41
45
49
53
57
61
チャネル されているため、際だって高い数
字にはなっていない。一方、UHF 帯
の高いチャネルは、予想されたよ
図 15 テレビジョン局あたりの世帯数
うに極めて効率が悪くなっている。
世帯数/局
1400000
さて、ここで携帯電話と比較す
1200000
るために、周波数あたりの加入者
数を算出する。ここでは、メディア
の性格上、加入者を世帯数に置き
1000000
800000
換えてみた。そして、日本の全世帯
600000
が、テレビジョンを見ていると仮
定する。つまり、日本の世帯総数
400000
4,400 万を、加入者と考えた。テレ
200000
0
1
5
9
13
17
21
25
29
33
37
41
45
49
53
ビジョンで使用している周波数幅
TVチャネ は 372MHz だから、Hz あたりの世帯
数は 0.12 となる。また、12 チャネ
57
61
ルを境に、利用効率の大きな差が見られることから、VHF と UHF の比較を試みた。ここでは図 14
に示す世帯数を合計し、その比率で全国の世帯数 4,400 万を配分した。すると、
テレビジョン局あたりの世帯数
● 1 ∼ 62 チャネル
・全国世帯数:4,400 万、使用周波数:372MHz
・経済的周波数利用効率:0.12 世帯 /Hz
● 1 ∼ 12 チャネル
・世帯数:2,319 万、使用周波数:72MHz
・経済的周波数利用効率:0.32 世帯 /Hz
● 13 ∼ 62 チャネル
・世帯数:2,081 万、使用周波数:300MHz
・経済的周波数利用効率:0.07 世帯 /Hz
* サービス領域世帯数の割合で全国世帯数を分配
13
という結果が得られた。
全体的には携帯と同様とまではいかないが、高い周波数利用率を示している。放送という形態
は本来周波数利用効率の高いものなのである。問題は、VHF と UHF にある大きな差である。本来
高い周波数効率を示すはずの放送にもかかわらず、UHF での利用効率は低い。
(6) 経済的定義− 2・・・マーケット規模/ Hz
次に、もう少し経済学的にとらえた周波数利用効率 R を定義してみよう。
R=S/F
ここでは、S:市場規模、F:周波数帯域ということになる。
さてこの原理を携帯電話に当てはめてみよう。この業界の市場規模(携帯電話、PHS)を 6.8 兆
円(郵政省通信産業実態調査:平成 11 年度)とすると、使用している帯域は 180MHz だから、Hz
あたりの経済価値は約 37,777 円/ Hz になる。一方、放送業界の市場規模は、NHK、民放全体で約
3.4 兆円(郵政省通信産業実態調査:平成 11 年度)と言われる。使用している周波数幅は 370MHz
だから、Hz あたりの市場規模は 9,200 円/ Hz となる。
(7) 送られる情報の実質的価値・・・情報価値/ Hz
意味のない内容の通話が多いとか、
くだらない番組ばかりが放送されているというようなこと
を問題にしているのではない。情報の価値を評価するのは難しい。しかし、上述の経済性だけで
議論するわけにはいかない要素もある。つまり、宇宙探査、地球探査、国の安全にかかわる要素
など、利用数だけでなくその情報の価値を考慮に入れる必要のある要素は確かにある。ただ、こ
れらにかかわる人たちには既得権のみを主張している面も強い。
これだけの技術進歩の時代であ
る。その重要性は認めつつも、より広い観点からの再評価が望まれる。
これを経済学的に見れば、
R=(S+ α)/F
ということになる。ここでは、S:市場規模、F:周波数帯域、α:便益の補正ということになる。
この値をどう見るかは、
周波数の経済価値を具体的に算出したうえで国民的なコンセンサスを求
めることになるのだろう。
周波数利用効率にはさまざまな要素がある。しかし、大局的に見れば、
(5)の経済的定義が最
も重要であり、
(6)の要素を考慮しつつ、公平な判断を下せる尺度に対するコンセンサスをつく
り、周波数利用全体の見なおしの前提として重要な要素と考える。
14
4. 周波数利用効率の向上に向けて
(1)現状分析
ここまで、周波数利用の現状や周波数利用効率の定義の導出を試みてきた。この時点でいくつ
かの問題点を指摘しておきたい。
① 情報公開が不十分
総務省の情報公開により、周波数利用の実態が誰でも検証できるようになった。これは喜ばし
いことであるが、公開の内容に疑問がある。通信白書などで公開されている数字との乖離が大き
すぎる。確かに、総務省の周波数に関する情報公開ホームページには、非公開項目も掲載されて
いる。しかし、公開されていない項目がすべて「治安維持、または防衛をつかさどる行政機関」
が使っているのだとすれば、その周波数は膨大になる。曖昧な形での公開はかえって世の中をミ
スリードするのではないか。
② 通信・放送は優等生
今回は、通信と放送に的を絞って効率を計算した。テレビジョン放送は、UHF 帯の使い方に問
題はあるものの、周波数利用効率は決して低くはない。放送という形態が効率のよいものである
ことを示している。この特性を生かせば、UHF の効率はもっと上げることができるはずだし、デ
ジタル化されれば、その実現はさらに容易になろう。移動通信に適した周波数を広く占有してい
るだけに、そうした高効率化により余剰周波数を生み出せれば、大きな効果があることはあきら
かである。
さて、ここで問題なのは、通信・放送以外の劣等生をどうするかである。それぞれの業務が、
通信・放送なみの周波数利用効率を実現すれば、周波数問題の解決につながることはあきらかで
ある。周波数は、いわば土地のようなもので、国民共有の財産である。とすれば、これを利用し
ようというものには、何らかの基準が必要である。これまでは、
「郵政省」
(現総務省)がその基
準であったが、これからは、もっと透明性のある方法が必要になる。そしてそれは公平性、透明
性に加え、周波数利用効率を高める基準でなければならない。
(2) 周波数利用効率を上げる方策
経済学的に見ると「オークション」は優れたものであるようである。周波数オークションは、
米国で始まり欧州で加熱した。日本には「後発の強み」がある。これらの実績をふまえれば問題
の少ない方法をつくることができるように思われる。問題は、これが周波数効率の向上に結びつ
き、ひいては需要の切迫している分野での「オークション」への道をひらけるかという点にある。
つまり、周波数割当の再編成をどうやって実現するのかにあるのだ。
15
周波数はいわば土地である。国有地を民間が借りているようなものだ。その基準を、全て郵政
省が決めていたわけである。オークションは、国有地を民間に売る仕組みといってよい。つまり
土地を買ったり借りたりするには、コストがかかるということである。
ここでは周波数の利用を二つに分けて考えたい。
① 周波数を使う権利
これはオークションで決めるのが最も合理的であろう。
② 周波数賃貸料
これはいわば賃貸料や共益費に相当する。
すでに、電波利用料制度がわが国にはある。しかし、いまの仕組みはおかしい。同じ周波数で
も、無線局を新設すれば無限にお金がかかる。つまり、周波数を有効に使えば使うほど、料金は
高くなるというわけである。これでは周波数の有効利用ははかれない。電波利用料は周波数帯域
に対してかけるべきである。つまり使わなくても払うということだ。そうすることにより、非効
率な帯域を既利権者から引き離す手だてになるのではないだろうか。現在の電波利用料は、基本
的に無線局にかけられている。無線機数が急増している携帯電話からの収入の増加により、その
額は 400 億円程度になっている 3。この額が多いか少ないかは、議論のあるところだが(私見では
少ない)、この額を周波数に均等分割(周波数により適した用途が違うために、1GHz 単位ぐらい
に分割した方がよいかもしれない)したらどうだろう。そうすれば、周波数の利用効率の低い事
業者は、効率を上げるか放棄するかするようになるのではないか。一方、携帯電話のように台数
の急増している分野では、加入者の負担がますます低くなるという仕組みである。
(3) 経済性でははかれない用途
さて問題は経済性でははかれない「防衛や警察」の保有している周波数問題である。これに対
しては次のような方策を考えたい。
①具体的な周波数はともかく、保有している周波数帯域を公開してもらいたい。そうすれば、そ
の周波数がどのくらいの価値を有しているかを明らかにすることができる。それは、それだけの
税金を払ってでも守るべきものなのかという視点と、
その目的での利用者が周波数利用効率を高
め、結果として余剰周波数を生み出すことの価値を明確にすることができる。
②特別な周波数を用いて情報の安全を守るのは、
いわば最も低いレイヤーでの秘匿保持行為であ
る。それは本当に有効なのだろうか。インターネットの時代、秘匿はもっと上のレイヤーで守る
ことができる。また、公衆通信を利用し、そのなかでの特別待遇を認めることにより、より高い
秘匿効果が期待できるのではないか。
また、
秘匿情報だけ特別な周波数を使うことも可能だろう。
ドッグイヤーといわれるほど、進歩の早い分野である。いま一度、徹底的な見直しが必要なので
はないだろうか。
16
(4) もう一つの方向
周波数の利用法には、もう一つの道がある。ISMバンドのように、原則自由にする道である。現
状では、原則自由で広く利用されている帯域は 2.4GHz ∼ 2.5GHz のみである。ここでの周波数利
用効率は、極めて高いものになっていると予想できる。インターネットの時代、このような周波
数の存在は貴重であり、
その増大は周波数利用効率の向上に貢献すると考えられる。
この論理は、
周波数は公共のものであるので道路のように無料にすることが原則であり、特別な道路(高速自
動車道=占有周波数帯域)では、電波利用料という通行料を取る、というものである。
4. アクセスネットワークという概念
通信各社の次世代ネットワークに関する構想が出そろった。いずれもが、WDM(波長多重)、IP、
SONET、ATM など、これまでの電話網とは異なった技術を用いた、超高速データ通信サービスを志
向している。次世代のバックボーンネットワーク構築の方向は、あきらかになりつつある。しか
し、各社の構想の中に、アクセス系に対する明確な方針は見えていない。
NTT は、光ファイバでのアクセス系構築を柱に、ワイヤレスシステムを組み合わせる方針のよ
うに見える。しかしこれまで述べてきたように、ワイヤレスの世界では、固定と移動、ワイヤレ
ス LAN などの自営系と公衆系などの境界が曖昧になりつつある。これは、高速移動通信の一部と
して、固定型アクセスシステムが実現する可能性を示している。
ワイヤシステムとワイヤレスシステムでは、
アクセス系構築へのアプローチ手法が大きく異な
る。
国の将来を左右する確固たるアクセス系構築を目的とする光ファイバによるワイヤシステム、
移動通信と連携して、
経済的に迅速にかつ柔軟なアクセスネットワークを構築することが可能な
ワイヤレスシステム、今後は、この二つのアクセスシステムが、それぞれの特徴を生かして、競
争する時代がやってくる。ワイヤシステムの補助としてのワイヤレスアクセスの時代はすでに終
わっている。まずワイヤレスが先行し、次にワイヤの世界となり、そして、ワイヤレスは移動通
信に特化されるという通信の歴史が、
高速アクセスにおいてもう一度繰り返される可能性が強い。
固定系ワイヤレスアクセス系の形態のうち、最も実現性が高いのは、IMT2000 に代表される高
速移動通信の家庭における利用であろう。利用者は、携帯できる通信設備を持ち歩き、どこでで
も利用できる。その延長上に固定系アクセスがあるのである。
IMT2000 の次のシステムがどの程度の速度になるかは不明であるが、本格的公衆移動通信シス
テムのサービスエリアは広い。しかも固定利用については、PHS でも行われているブースタアン
テナを使用できるなど、移動系に比べて伝搬条件は緩い。そのような高速アクセス加入者を多数
抱えては、周波数がたりなくなる恐れは確かにある。しかし、高速パケットがサポートされれば、
事情は大きく異なるであろう。高速になれば使用時間は短くなる。しかもパケットになるのだか
ら、使用効率は格段に上がる。幸いなことに、IMT2000 で採用される CDMA はパケット的利用に適
したマルチプル・アクセスシステムである。音声のように情報の有無があいまいな信号に比べ、
コンピュータ間の通信では多重化効果が格段に上がる可能性がある。
このように各家庭にファイ
17
バが敷設されるまでのあいだ、
高速移動通信が結果的に固定系でも使われる可能性が強いのであ
る。
最近、
ワイヤレスLANをインターネットの高速アクセス用に使おうという気運が高まっている。
これを目指した 5.25 ∼5.35GHz の標準化は、気象レーダとの干渉問題により挫折した。しかしな
がら、光ファイバが敷設されるまでの一定期間、この種のシステムが大きな力を発揮する可能性
がある。つまり、あまり時間がない。投入するのなら早期に行わなければならない。このことは、
裏を返せば、将来に不安があるということでもある。この種の用途を、固定業務という狭い解釈
をすることによって、
将来における移動業務への転換への道を閉ざすべきではないと考える所以
である。
ここまで述べたように、今後のワイヤレスアクセス系では、移動通信が結果的に固定アクセス
に使われたり、固定アクセスシステムに移動通信技術を適用したりするだろう。しかしながら、
今後は、このコンセプトで本格的に次世代のアクセス系を構築するのは困難と考える。この状況
を積極的に活用して、移動通信・固定通信の区別を排除したコンセプトで、システム、周波数な
どを見なおす必要がある。
移動通信との連携を念頭に入れないワイヤレスによるアクセスシステ
ムも存在するだろうが、その適用領域は、ビジネスユースに限定されるであろう。貴重な周波数
をそのような用途のみに使用するのは効率が悪い。ワイヤレスの特徴は移動性であり、そこから
生ずるユニバーサルサービス性である。
前節で述べたように、移動性を含めたワイヤレス・アクセスネットワークにはいろいろな可能
性がある。ワイヤレス系のアクセスネットワークを構築することにより、移動・固定をカバーす
ることが重要である。そのことが、早期にインターネットに適した高速アクセス系実現の近道で
あるとともに、次次世代の移動通信をも可能にすることになろう。
5. 具体的システム
これまで述べてきたように、外部情勢としては、
① 高速インターネット用ワイヤレス・アクセスシステムとして期待の大きかった 5 . 2 5 ∼
5.35GHz における IEEE802.11a の屋外利用に関する標準化が不調に終わった。
② かねてより周波数の無駄づかいとの風評のあった UHF テレビジョンに対して、デジタル化
を機に、その整理を行うという機運が高まりつつある。その背景には、次世代のデジタル
放送にはインターネット的アプローチが不可欠という考えがある。
③ 米国で始まった周波数オークションが、欧州で IMT2000 に対し実施され、その落札価格が
とてつもない高額となり、落札事業者の経営を圧迫した国があったり、予想外の低下価格
の落札が談合の疑いを呼び起こすなど、さまざまな問題を起こしている。
わが国ではまだオークションの経験がないため、
経済学者を中心にその実施を望む声が大きい。
欧州での問題も、後発の強みで解決できるというわけである。また、上記動向を考えれば、UHF
帯でIEEE802.11aを実現する手段として、オークションを実施するというシナリオが描けるわけ
18
である。
しかし、このほかにも、IMT2000 やブルートゥース(Bluetooth)など、いくつかの候補が考え
られる。そこで、UHF 帯をできるだけ高速のインターネットアクセスに適用するというシナリオ
で、いくつかのシステムに関する検証を行うこととする。
(1) IEEE802.11a
ここでは、総務省の標準化過程での検討資料が参考になる。ここで示されているシステムイ
メージを図 16 に示す。
具体的システムとしては、
・ 公衆向けのベストエフォート型インターネットアクセスが基本、
・ 住宅やビル、マンションなど各家庭でのインターネット利用、
・ 街角や公園など公共スペースに設置された無線基地局と接続、
・ マンションなど建物へ一括配信された情報を各階、各部屋へ分配するシステム、
・ 本システム相互の中継を利用したシステム、加入者局からさらにほかの電気通信設備を
経由するシステムや、下りリンクに本方式を採用し、既存システムで上りリンクを構築
するシステム、
となっており、固定アクセスに主眼が置かれていることがわかる。
図 16 5GHz システムイメージ(郵政省資料)
19
本システムの伝送速度は以下の通りである。
・ 6Mbps
必須
・ 9Mbps
・ 12Mbps
オプション
必須
・ 18Mbps
オプション
・ 24Mbps
・ 36Mbps
必須
オプション
・ 48Mbps
オプション
・ 54Mbps
オプション
このシステムでは、多値変調や誤り訂正符号の変更により、20MHz のチャネル間隔を保持した
まま各種情報伝送速度を実現することにしている。
ここで、本システムを適用した場合の必要周波数帯域幅を検討してみよう。
IEEE802.11a は 20Mbps 以上の伝送速度を有しており、チャネル間隔は 20MHz である。問題は、
周波数の繰り返し利用をどのように行うかということである。
自由空間における伝搬減衰量は、距
図 20 セルシステムにおける co-channel 干渉
離の2乗に反比例する。しかしながら、
セルラーシステムでは、3.5 乗則で設
計する。これを、本システムに適用す
ると“co-channel”干渉を避けるため
には、10 チャネル以上必要となる。つ
まり、本システムで隙間のないサービ
スエリアを設定するためには、200MHz
必要ということになる。しかも、5GHz
に比べ周波数の低い UHF 帯では、この
条件はさらに厳しくなる。そして、こ
のシステムを複数の事業者で実施する
とすれば事業者数倍の帯域が必要にな
る。ただし、複数事業者の共存法として、PHS のように、この周波数帯を複数の事業者が共有し
て使う手法(付表 4)もある。
さらに、LAN の世界での一般的手法である CSMA/CD による大群化効果をどのように評価するの
かという問題もある。従来とは異なるシステム設計が必要となろう。
ここで注意しておく必要があるのは、
インターネット放送に代表されるストリーミング情報の
扱いである。この種の情報は、CSMA/CD 等のプロトコルでの大群化効果を減少させる可能性が高
いため、別チャネルを設定して同一周波数を利用するといった措置が必要と思われる。ただしこ
の場合、複数基地局間同期が必要になるなど、あらたな技術開発や事業形態への制限が生ずる可
能性がある。
20
(2) IMT2000
多額の開発費を投入した IMT2000 の技術を適用することも考えられる。
IMT2000 の周波数ブロックは 5MHz だから、
“co-channel”干渉を避けるために 10 チャネル必要
だとしても、基本となる周波数は 50MHz となり、自由度は高くなる。この場合、事業者ごとに周
波数配分が可能となる可能性があり、オークションを前提にすれば対応がとりやすい。
問題は2Mbpsという伝送速度をどのように評価するかという点にある。
回線交換ならともかく、
もしCDMA/CDのようなランダムアクセスで使うとなると帯域がたりない感じがある。チャネル数
は多くなるのだから、FDMA との組み合わせになるのかもしれない。
(3) ブルートゥース
ブルートゥースは、
情報家電間やコンピュータと周辺機器間を安価なコストで結ぶことを目的
に標準化が始まった。爆発的に発展すればさまざまな可能性がでてくるだろうが、現時点ではこ
こで取り上げているような「ラストマイル」への適用を考える状況になっていない。
ここまで、現時点でワイヤレスアクセスに適用可能性のあるシステムの検討を行った。いずれ
にしても、おおよその使用可能帯域幅が決まらないと検討のしようがない感じではある。ただ、
ここで言えるのは、どのシステムを適用するとしても、免許条件は「移動」とすべきと考えると
いうことである。
これは、すでに述べたように、この種のワイヤレスアクセスは、いずれは有線に置き換えられ
る可能性があるからである。周波数の価値を高めるためにも、そのような配慮が望まれる。UHF
テレビジョンの周波数は、国際的には(日本は第 3 地域)、固定・移動・放送に割り振られてお
り、わが国では、放送・陸上移動となっているため、移動免許とするための障害はないと考える。
6. 終わりに
次世代のアクセス系として、ワイヤレスシステムが大きな役割を果たしそうである。その構築
に、ワイヤレスアクセスネットワークという概念を取り入れ、移動・固定の区別なく高速アクセ
スシステムのインフラストラクチャを構築していくことが必要である。
ワイヤ系アクセスの補助
手段としての固定系アクセスという考えは捨てることとしたい。むろん日本の現状では、早期に
高速インターネットアクセスを実現する手段としてのワイヤレスアクセスの効果が大きいことは
認めるが、長期的に考えると、最終的には移動性に頼ることになると考える。免許条件、システ
ム設計など、長期的な展望に立って、施策を実施することが重要である。
また、次世代のインターネットでは移動性が大きな役割を果たすこととなろう。そのネット
ワーク構築には、
通信ネットワークとインターネットの融合した新しい手法の開拓が必要である。
21
付表 1 テレビジョン放送局の周波数
チャンネル番号
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
22
周波数帯
90-96MHz
96-102
102-108
170-176
176-182
182-188
188-194
192-198
198-204
204-210
210-216
216-222
470-476
476-482
482-488
488-494
494-500
500-506
506-512
512-518
518-524
524-530
530-536
536-542
542-548
548-554
554-560
560-566
566-572
572-578
578-584
584-590
590-596
596-602
602-608
608-614
614-620
620-626
626-632
632-638
638-644
644-650
650-656
656-662
662-668
668-674
674-680
680-686
686-692
692-698
698-704
704-710
710-716
716-722
722-728
728-734
734-740
740-746
746-752
752-758
758-764
764-770
12.092-12.098GHz
12.098-12.104
12.104-12.110
12.110-12.116
12.116-12.122
12.122-12.128
12.128-12.134
12.134-12.140
12.140-12.146
12.146-12.152
12.152-12.158
12.158-12.164
12.164-12.170
12.170-12.176
12.176-12.182
12.182-12.188
12.188-12.194
12.194-12.200
割当周波数
93MHz
99
105
173
179
185
191
195
201
207
213
219
473
479
485
491
497
503
509
515
521
527
533
539
545
551
557
563
569
575
581
587
593
599
605
611
617
623
629
635
641
647
653
659
665
671
677
683
689
695
701
707
713
719
725
731
737
743
749
755
761
767
12.095GHz
12.101
12.107
12.113
12.119
12.125
12.131
12.137
12.143
12.149
12.155
12.161
12.167
12.173
12.179
12.185
12.191
12.197
基準周波数
映像
音声
91.25MHz
97.25
103.25
171.25
177.25
183.25
189.25
193.25
199.25
205.25
211.25
271.25
471.25
477.25
483.25
489.25
495.25
501.25
507.25
513.25
519.25
525.25
531.25
537.25
543.25
549.25
555.25
561.25
567.25
573.25
579.25
585.25
591.25
597.25
603.25
609.25
615.25
621.25
627.25
633.25
639.25
645.25
651.25
657.25
663.25
669.25
675.25
681.25
687.25
693.25
699.25
705.25
711.25
717.25
723.25
729.25
735.25
741.25
747.25
753.25
759.25
765.25
12.09325GHz
12.09925
12.10525
12.11125
12.11725
12.12325
12.12925
12.13525
12.14125
12.04725
12.15325
12.15925
12.16525
12.17125
12.17725
12.18325
12.18925
12.19525
95.75MHz
101.75
107.75
175.75
181.75
187.75
193.75
197.75
203.75
209.75
215.75
221.75
475.75
481.75
487.75
493.75
499.75
505.75
511.75
517.75
523.75
529.75
535.75
541.75
547.75
553.75
559.75
565.75
571.75
577.75
583.75
589.75
595.75
601.75
607.75
613.75
619.75
625.75
631.75
637.75
643.75
649.75
655.75
661.75
667.75
673.75
679.75
685.75
691.75
697.75
703.75
709.75
715.75
721.75
727.75
733.75
739.75
745.75
751.75
757.75
763.75
769.75
12.09775GHz
12.10375
12.10975
12.11575
12.12175
12.12775
12.13375
12.13975
12.14575
12.15175
12.15775
12.16375
12.16975
12.17575
12.18175
12.18775
12.19375
12.19975
付表 2 電波利用料の内訳
23
付表 3 各種アクセスシステムの比較
付表 4 複数事業者の共存方法
24
1
周波数割当計画は http://www.tele.mpt.go.jp:8080/ を参照。
2
日本無線局周波数表検索は http://www.tele.mpt.go.jp:8080/fow.html を参照。
3
電波利用料制度については http://www.tele.mpt.go.jp/M0013001/index.htm を参照。
25