DSIAIndiaRaiOct2013

インド国会下院議員
(XV Lok Sabha、シッキム州代表)
Prem Das Rai 氏招聘事業に関する
報告書
岡田 仁孝
DSIA(理事)
上智大学国際教養学部教授
2013 年 10 月 5 日
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I.はじめに
発展途上国の経済発展に寄与する手法に関して、大きな変化が世界で起こっている。ノー
ベル平和賞を受賞したムハムド・ユヌス博士が、1983 年にバングラデシュにマイクロクレジ
ットの組織を開設したのが、市場原理を利用したインクルーシブ(inclusive)な手法を導入す
るきっかけとなった。その後、特に 1990 年代のグローバル化の進展とともに、市場原理を利
用した貧困削減のための数々の手法が出てきている。特に、
「貧困削減に寄与する発展途上国
におけるビジネス活動」1は、国際機関ではインクルーシブ・ビジネス、そして、一般的には
BOP(bottom of the pyramid や base of the pyramid)と呼ばれ、その活動が広がってきて
いる。
BOP は、所得階層を示す経済ピラミッドの低所得層を意味し、2005 年のデータの分析によ
ると、PPP ベースにて年収$3000 以下が 40 億人、$3000-$2 万が 14 億人で、BOP は特に前者を
示す。2$2 万ドル以上のたった 0.75 億人から 1 億人の市場を多国籍企業がお互いに競争し、
取りあっており3、貧富の差を悪化させている。この 40 億人に焦点を当てたビジネス活動が
BOP である。欧米企業においては 2004 年頃から、また、日本企業においては、2009 年経済産
業省(METI)や国際協力機構(JICA)が BOP のビジネス活動を支援する政策を発表したころか
ら(BOP 元年)
、この領域でのビジネス活動が活発になり始めた。
この領域は、ロックフェラー財団の「次なる 100 年プロジェクト」の 4 つの領域の一つ
「Secure Livelihoods -- Expanding opportunity and creating inclusive markets in the
changing global economy」となっていることから重要な領域であると推測できる。4 また、
ロックフェラー財団ベラジオセンターへ、米国ウィスコンシン大学(マディソン校)のロジ
ャーズ・ホリングスワース教授から国際プロジェクトの一員として 1990 年代初期に招聘され
た経験から、財団はグローバルに重要な問題の解決に、非常に高度で最先端の研究を推奨し
取り組んでいると理解している。よって、BOP プロジェクトは、アカデミックにも重要な領
域となるだけでなく、実社会において非常に大きな影響を与えるものと確信している。
実は、プラハラード教授は、1975 年にハーバード・ビジネス・スクールで博士号を取得後、
Indian Institute of Management-Ahmedabad に戻り教鞭を取っていたころから、既に貧困層
を対象としたビジネス活動がインドの経済発展を作りだし、貧困削減に寄与すると主張して
いた。5ただ、ビジネス形態の一つとしての主張であったために、ユヌス博士ほどに脚光を浴
びてこなかった。実際に BOP の概念が世界中に普及し始めたのは、彼が国連開発計画(UNDP)
の Blue Ribbon Commission の委員として「企業と貧困」に関する報告書を 2004 年に書いて
からである。6 よって、BOP ビジネスが重要視されるようになってきた背景には、それが貧困
削減の手段としてまず認められ、開発問題とビジネスの領域の融合を作り出し、インクルー
シブな経済発展(development)やインクルーシブな経済成長(growth)が開発問題の解決に重
要だと認識されるようになってきたからである。
すなわち、世界のこの領域における動きに遅れを取っている日本にとり、この領域の複雑
な背景と現状を理解し、できれば、より良い教育のチャンスを若い学生に提供し、次なる 100
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年の世界の変革についてゆく、或いは、リーダーシップを発揮できる準備をするべきである
と考える。ライ氏の招聘は、笹川平和財団の支援で実現したその第一歩である。下記に
詳細を報告する。
II. 招聘の目的
ライ氏は、世界で 10 番目に大きいマイクロファイナンスの一つである BASIX の創設者の一
人である。他の金融面を中心にしたマイクロファイナンスとは違い、BASIX は貧困層の人々
にファイナンスだけでなく、技術を供与したり、為替リスクを吸収したり、それ以上に、リ
スクが高くてビジネス活動への参加を躊躇させる障害を出来る限り取り除き、貧困層の人々
にインクルーシブな数々の手法を提供し、貧しい人々の持続可能な暮らしを実現できるよう
ビジネス活動を支援している。このインクルーシブな手法に関しては、他のマイクロファイ
ナンスに類を見ない組織である。
多くのインド人が毎年単純労働者として社会に出てきており、失業者も多く、多くの失業
者を吸収している農村においては生産性が低く、貧困の大きな原因となっている。BASIX は、
多種多様なインクルーシブな手法を使い、様々な BOP ビジネス・プロジェクトを実施し、彼
らへの支援を通してインクルーシブな経済成長を創り出そうとしている。その活動の成功の
結果、ライ氏は国民の直接投票によりインド国会下院議員として選出され、数々の領域にお
いて活躍されておられる。今回、笹川平和財団の支援により彼を日本に招聘した目的は、下
記の通りである。
(1) 日本において BOP ビジネスが盛んに討論されているが、多国籍企業のビジネスモデ
ルではなく、インド人による創造的な BOP ビジネスモデルを日本に紹介する。
(2) 政府関係者(経済産業省、JICA、JETRO)、そして、国会議員との会合を持つことによ
り、インドのインクルーシブな経済成長政策と BOP ビジネスの機会と可能性を理解し
てもらい、日本とインドのこの領域における協力関係を深める。
(3) BASIX は、プログラムの一部として、HP、Unilever, Fritolay、Shell Renewable 等
の多国籍企業と協力し、彼らへのサプライ・チェインや市場の一部として BOP ビジネ
スを展開している。企業の方々を対象とした講演会を開催し、インドのインクルーシ
ブな経済成長政策と現地組織との協力を可能にする BOP ビジネスの機会と可能性に関
して理解を深めてもらい、日本とインドのこの領域における協力関係を推進する。
(4) BASIX は、ハーバード大学ビジネススクール等、欧米のトップ・レベルの大学にイン
ターンシップを提供しているが、日本の大学にもこのようなインターンシップ・プロ
グラムを、特に大学院生用に導入することが、この領域の将来の発展を鑑み重要だと
考える。大学関係者に BASIX の BOP ビジネスモデルを理解してもらい、日本の大学に
もインターンシップ・プログラムを提案し、また、何らかの奨学金の可能性を模索す
る。
(5) インドヒマラヤ地区における山岳生態系の保全と環境保護に対して学び、日本とイン
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ドのこの領域における協力関係を深める。
(6) インドと日本の友好関係を深める。
III. ライ氏の経歴と国会議員としての仕事7
A. 経歴
Indian Institute of Technology(IIT)-Kanpur に て 化 学 工 学 の 領 域 で Bachelor of
Technology、Indian Institute of Management(IIM)-Ahmedabad にて MBA を取得。2002 年に
シッキム州の経済と産業の発展に貢献したとして、
米国より Eisenhower Fellowship を受賞。
バンク・オブ・アメリカ(コルカタ)上級役員、シッキム州政府計画委員会副委員長、シッ
キム・ミルク組合最高経営責任者、シッキム小麦工場、シッキム産業開発投資会社会長、シ
ッキムにおけるインド憲法指定部族と他の全ての下層階級の振興開発金融公庫会長、シッキ
ム環境観光と自然環境保護会の創設者兼会長、マイクロファイナンス BASIX-ONE の最高経営
責任者を歴任。
B. 国会議員としての正式な所属委員会等
2009 年よりシッキム州代表インド国会下院議員として活動し、現在、下記の委員会等の仕
事に従事している。
(1) インド下院 Lok Sabha 奨学金委員会委員長
(2) インド下院財政委員会委員
(3) インド下院倫理委員会委員
(4) インド下院プロトコル委員会委員
(5) インド下院人的資源開発助言委員会委員
(6) 「気候変動と地球温暖化」に関するインド下院議長フォーラム委員
(7) 第5回インド・イエール国会議員リーダーシップ・プログラムのメンバー
(8) 「健全で均衡のとれた地球環境」のための全世界国会議員組織のインド支部会長
(9) 気候変動法の制定にむけて活動中
C. 国会議員として現在の活動内容
(1) 有機農業と若者のエンパワーメント
シッキム州は、インドで最初の 100%有機農業州となりつつある。2015 年までに
100%を実現するために、積極的に中央政府やシッキム州政府に働きかけている。
(2) マイクロファイナンスと BOP 戦略
インドにおける貧困削減とインクルーシブな経済成長を実現するためには、マイ
クロファイナンスが大変重要な手段であるという考えに基づき、シッキム州とイン
ド北東部における農民、村人、NGO と協力し、持続可能な暮らしをインクルーシブ
に実現しようとしている。BOP に関しては、シッキム州能力向上研究所のアドバイ
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ザーを務め、BASIX のイニシャティブで始まった「暮らし向上学校 (Livelihood
School)」の理事を務める。現在、数百万人の農村居住者の生活向上に影響を与える
ことが出来ると思われる竹を使っての BOP ビジネスの育成に注力している。現在、
国会に竹を木としての登録から外すことにより、部族や農村居住者が商業的目的に
使えるように法案を提出している。
(3) 山地生態系の保全と環境保護
インドヒマラヤ地域のような山岳地帯には、気候変動への影響から特別な山地生
態系の保全と環境保護を政策として考えなければならない。ヒマラヤ地域にあるシ
ッキム州から選ばれたライ氏は、二つの大きな動きに影響を及ぼしている。一つは、
「シッキム環境観光と自然環境保護会」という NPO を創設し、持続可能性と環境保
全に努め、シッキム州において環境観光産業の育成を行っている。責任ある観光政
策の一部として、州政府に「森林と観光課」の設立を推奨している。もう一つの動
きは、インドヒマラヤ地域の州に共通の政策基盤を導入すべくインド山岳イニシャ
ティブ(IMI)を招集した。山岳地帯に住む多種多様な人々が、山岳地域の価値を認め、
彼らの知識や経験をフルに開花させようとするイニシャティブである。今までに二
度にわたる持続可能な山岳地域開発サミット(SMDS)をナインタルとガントックにお
いて開いた。第 3 回目が今年末にナガランド州のコヒマで開かれる予定である。
(4) 地政学と外交政策
シッキム州は、インド北東部にあり、中国、ブータン、ネパール、バングラデシ
ュと接することから地政学的に重要な地域となっている。ライ氏は、中国、ブータ
ン、ネパール、バングラデッシュ、ミヤンマーとの外交関係に興味を持っており、
これらの国々との関係の安定を人々の交流と対話により実現しようとしている。イ
ンドのルック・イースト政策の拠点として、シッキム州のミャンマーとの関係が大
変重要であると考えている。2012 年 9 月には、国会議員団としてミヤンマーを訪問
し、帰国後インドの首相に数々の提案をした。それらの政策の推進者として、最近、
ミャンマーからの訪問団をインドの首相と政策専門家とともに歓迎した。
(5) 情報発信
ライ氏は、シッキム州で出版されている月刊誌 The Political and Economic
Journal of Sikkim と日刊紙である Sikkim Reporter という二つの出版物のアドバ
イザーと編集者をしている。また、彼の政党のスポークスパーソンであり、州政府
に情報発信戦略に関するアドバイスを行っている。若い人達の発展を重要視してお
り、いろいろな場や手段で若い人達との交流を盛んに行っている。
(6) 人間開発レポート
第 2 回シッキム州人間開発レポートを実施するための機関である人間開発レポー
ト実行組織への極めて重要なアドバイザーとなっている。この組織は、次期 10 年間
のシッキム州における人間開発を推進すべく設計図と行動プランを作成している。
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上記のようにライ氏は、インクルーシブ・グロース、農業の発展、ヒマラヤ地域での環境保
全と環境観光、周辺諸国との外交、若い人達の能力開発等、長期的展望に基づき非常に重要な
活動をしていると同時に、各々の領域において具体的な活動も多く展開している。実に誠実で、
且つ、精力的に問題解決に取り組んでいる国会議員である。
IV. マイクロファイナンス BASIX の活動8
地域的に、また、社会的に排除されている弱者や貧しい人々の持続可能な暮らしを実現する
ために、彼らのビジネス活動への参加に障害となる問題を取り除くことにより、貧しい人々を
インクルーシブな経済成長の重要なアクターに変えようとしているのが、世界で 10 番目に大
きなマイクロファイナンスの BASIX である。主な活動の場は、より貧しいインドの地域である。
貧しい単純労働者を技術労働者に、生産性の低い農業生産を高いものに、市場情報の乏しい彼
らに情報を提供し、金融支援を与えることによりビジネスを始めるきっかけを与え、ビジネス
のリスクをマネッジする方法を教えたり、手助けをしたりすることにより、ビジネスの成長を
促す。このような支援を貧しい人々に提供し、機会の平等と社会的正義を持続可能な方法で実
現しようとしている。
BASIX の歴史は、1996 年にマイクロファイナンスとして設立され、貧困層への貸与を中心に
活動していた。2002 年に貧しい人々のニーズを分析し、
「Livelihood Triad Strategy」として、
持続可能な暮らしの手助けを始めた。この時から、貧しい人達のリスク・ヘッジング、市場と
のリンクや価値創造を含む農業やビジネスの起業化を支援するサービスを始め、これらの支援
を可能にする学校や支援体制を構築した。2010 年 12 月の時点で扱われている資産は、$4 億
(400
億 円)に及 び、 マ イクロ ファイナ ンスに 関する情 報や成果 の評価 を行って いる 機 関、
Microfinance Information Exchange (MIX)によると、BASIX は世界で 10 番目に大きいマイク
ロファイナンスと位置付けられている。60 万人の顧客がマイクロファイナンスや何らかの保険
を契約し、Livelihood Promotion Service は 10 万人、教育サービスは 60 万人に及び、また、
100 個の小さなマイクロファイナンスや NGO にも訓練を提供している。
財政的には、設立当初は Sir Ratan Tata Trust, Ford Foundation, Swiss Agency for
Development Corporation, CIDA-DID, CordAid, SIDBI, ICICI, HDFC 等の機関から助成と低金
利ローンを受けた。2001 年以降は、世界銀行国際金融公社(IFC)、ShoreBank, HivosTriodos,
ICICI, HDFC, SIDBI, Axis Bank からの投資や ICICI Bank, HDFC Bank, ABN Amro, ING, Axis
Bank, Syndicate Bank, Central Bank of India からの通常の銀行ローンを受けられるように
なり、2009 年からは証券市場で株を発行し、資金作りも行っている。
数々の多国籍企業やインド企業とパートナーを組み、貧困削減に資するビジネスを行ってい
る。生命保険では AVIVA と、健康保険、家畜保険、マイクロ企業保険では Royal Sundaram と、
気候保険では ICICI Lombard と組んでいる。農業関係では、Hundustan Unilever (hybrid corn),
ITC Agrotech (sunflower seed), Nagarjina Fertiliser Group (cotton and chilly), Metro
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Cash and Carry (vegetable sourcing), Reliance Retail (dairy milk)等がパートナーであ
る。他のビジネスでは、Hewlett Packard, Fritolay, Shell Renewables, Coromandel, Pest
Control India, Andhra Pradesh Dairy Development Cooperative Federation Ltd., Super
Spinning Mills Ltd., Confederation of Indian Industry, Indepay 等と組んでいる。これら
のパートナーとの協力の結果、貧農の収入が増え、生産量を増やすことができ、同時に多国籍
企業にとっては安く安定した農業製品が提供され、そして、BASIX にとっても収入源となる。
ほぼ毎年、新しいサービスを導入し、貧困層の支援体制を強化している。基本的には、
(1)
貧困層への支援、
(2)支援体制の構築、そして、(3)国政への働きかけを目的とし、(1)
と(2)を達成した。現在、
(3)の目的を達成するためにライ氏は国会議員として活動して
いる。
V. 訪日スケジュール
A. 9 月 8 日(日)
(1) 経済産業省との夕食会が予定されているので、9 月 7 日(土)19 時 35 分デリー発、
9 月 8 日 7 時 25 分成田着の JAL740 便にフライトを変更してもらった。
(2) 8 時 45 分頃に宿泊先のキャピタルホテル東急に到着。
(3) 18 時から経済産業省との夕食会をキャピタルホテル東急 3 階の「おりがみ」にて開
催。
B. 9 月 9 日(月)
(1) 当初 10 時から 10 時 30 分の間、インド大使 Ms. Deepa Gopalan Wadhwa との会合が
予定されていたが、インドからモイリー石油天然ガス大臣が来日するためキャンセ
ルになった。この理由は、大使が大臣を成田空港に迎えに行かなければならなくな
ったことと、ライ氏がモイリー大臣と親しい友人であることから、後日 3 者で夕食
を食べることになったためである。時間の空きができたので、ライ氏は婦人と学生
アルバイト 2 名とで、築地市場に見学に行った。
(2) 11 時から上智大学学術交流担当副学長と上智大学 2 号館副学長室にて面会し、日本
とインドとの大学間の交流に関して話をした。
(3) 11 時 30 分から四谷にあるフランス料理店 Ile de Passion にて昼食会を催した。
(4) 13 時 30 分から 15 時 30 分まで「Microfinance and BOP in India: The Importance
for Indian Inclusive Development and Internship Opportunities for Japanese
Students」に関して講演を 12 号館 201 号室で開催した。
(5) 17 時 15 分から帝国ホテル地下1階の「なだ万」で笹川平和財団主催の歓迎夕食会
が開かれた。
C. 9 月 10 日(火)
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(1) 8 時から 9 時 30 分まで日本の国会議員との朝食会をキャピタルホテル東急の「おり
がみ」で開いた。出席者は、ライ氏、発展途上国関係で活発に活動をしておられる
国会議員として西村康稔議員と三原朝彦議員が出席した。
(2) 11 時 45 分から 12 時 30 分まで JICA の専門家とのクローズド・セッションを JICA
本部で開催した。
(3) 12 時 30 分から 13 時 50 分までインド料理店アジャンタにて、JICA プログラムの延
長として、昼食会を開いた。
(4) 16 時から 18 時まで JETRO 会議室で開かれたクローズド・セッションにて「How to Read
BOP Opportunities in India」を 30 分ほど講演し、その後、討論に入った。18 時
30 分から 20 時まで JETRO 投資ビジネスセンターにてソーシャル JETRO/CSR ウォッ
チ/笹川平和財団 合同セミナーを開催した。ソーシャル JETRO から 20 名と CSR ウォ
ッチから 20 名の計 40 名が参加したとの報告が JETRO の福山氏からあった。
(6)20 時 30 分からインド大使が、ライ氏と彼の友人である訪日中のモイリー石油天然
ガス大臣を大使公邸での夕食に招待し、3 者で会食が行われた。JETRO からライ氏
を大使公邸まで車でお送りした。
D. 9 月 11 日(水)
(1) 14 時 30 分にライ氏は、羽生次郎氏(笹川平和財団会長)と面会した。
(2) 15 時から 17 時 30 分まで笹川平和財団/DSIA 共催で講演会が開催された。ライ氏が
1 時間 15 分、
「BOP and Microfinance: India’s Key Strategies for Inclusive Growth」
を講演し、その後、山本聡(大和証券金融市場営業第一部海外法人課長)と中尾洋
三(味の素CSR部長)が日本企業のインパクト・インベストメントやBOP活動
を説明しながら、討論をし、フロアーからも質問を受けた。
(3) 18 時からインド大使公邸にて、パーティーに参加した。この参加者は、インド産業
連盟(Confederation of Indian Industry)の会長や地域代表者 5~6 名、
Tata Hitachi
のマネジング・ディレクター、インド大使館公使等、全部で 15~6 名の規模のパー
ティーであった。日本企業とインドの産業発展に関しての話が活発に行われた。
(4) 最後のイベントとして、DSIA がライ夫妻の訪日を感謝するとともに、お別れの会を
実施した。
E. 9 月 12 日(木)
(1)成田空港 12 時 25 分発デリー行き JL749 便にて帰国するために、8 時 30 分にホテル
を出発し、10 時頃成田空港カウンターへのチェックインを終えた。
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インド国会議員
P.D. ライ氏
DSIA 理事、上智大学教授
岡田
仁孝
講演の様子
VI. 成果
ライ氏とはインドにて 2 回お会いしたが、今回初めて彼自身の考え方をじっくり聞くチャ
ンスに恵まれた。一番強く印象に残ったのは、新しい開発の時代、ビジネスの時代、そして、
開発とビジネスが融合するという前代未聞の時代が到来しているということである。ロック
フェラー財団が「次なる 100 年問題」の一つに BOP ビジネスでの貧困削減を課題に入れてい
る理由が、まさしく新しい時代の到来の故であると理解できた。しかしながら、新しい時代
はより複雑な社会の到来である。というのは、インクルーシブ・グロースは、資本主義や社
会主義という二分法的な、そして、西洋的な論理構築ではなく、新しい時代に、そして、ア
ジアにより適した折衷的な考え方が基本になっているからである。そして、その折衷的論理
構造がより複雑な状況の分析を可能にすると同時に、解決策も以前に比べてより複雑なもの
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となってきているように思える。BOP は、まさしく開発問題やビジネスの領域において、そ
の複雑さを代表する事象であり、マルチステークホールダー・マネジメントやクロス・バウ
ンダリー・コラボレーションのような複雑な状況への対処能力が試される時代ともなってき
た。
この複雑な状況は、二つの新しい時代の特徴に起因するものと考える。一つは、問題を解
決するために、専門を異にする組織や異なった制度間の補完性が強調されるようになってき
たためである。二つ目は、貧困や貧富の差は能力や状況の欠如ではなく、制度による排除が
問題を作り出しており、新しい制度の構築により、排除されていた人々をインクルードしな
ければ解決できない、という理解が広がってきたためである。
この点、インドのインクルーシブ・グロース政策は、今までの動きの一歩先を行くものと
して、注目に値する。発展途上国での BOP や CSR に長年係わってきたが、ライ氏の話を聞き、
本当に重要な手法の発展に私自身も関係しているのだなと痛感した。彼自身の BASIX や他の
貧困関連の機関での仕事と経験からこの考え方と手法の重要性を感じ取り、真摯にこれらの
発展に携わってきたのだと理解することができた。日本にもこの現状と方向性を理解しても
らい、インドの貧困削減、あるいは、世界のインクルーシブ・グロースとインクルーシブ・
ビジネスを理解してもらおうという、ライ氏の意図が如実に講演の話の内容に出ていた。彼
の真摯な取り組みにより、彼自身も大きな成果を感じ取ったようである。ここに、ライ氏の
志の高さと素晴らしい人間性に脱帽すると同時に、このような機会を与えて頂いた笹川平和
財団に感謝の意を述べたい。
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岡田 仁孝 「BOP ビジネスの可能性:考え方とケース」大石芳裕、桑名義晴、田端昌平,
安室憲一(編著)
、
『多国籍企業と新興市場』 文真堂、東京、 2012 年、pp. 263-284。
A. Hammond, W.J. Kramer, J. Tran, R. Katz, and C. Walker, The Next 4 Billion: Market
Size and Business Strategy at the Base of the Pyramid, World Resources Institute and
International Finance Corporation, March 2007, p. 3.
C.K. Prahalad and S.L. Hart,“The fortune at the bottom of the pyramid,”
Strategy+business Issue 26 (2002, First Quarter). C.K. Prahalad, The Fortune at
the Bottom of the Pyramid: Eradicating Poverty through Profits, Wharton School
Publishing, Upper Saddle River, NJ, 2005, p. 4.
http://www.rockefellerfoundation.org/our-focus/secure-livelihoods
プラハラード教授の授業を受けた経験のある、現在 Indian Institute of ManagementCalcutta の学長をしている Shekhar Chaudhuri のインタビューから。
C.K. Prahalad, Fortune at the Bottom of the Pyramid: The Eradicating Poverty Through
Profits, Revised and Updated 5th Anniversary Edition, Pearson Prentice Hall, NY,
2009.
P.D. Rai 氏提供の資料から。
情報は、2008 年 2 月に BASIX の CEO である Vijay Mahajan と 2011 年 2 月に BASIX Consulting
& Training Services Ltd. President による講演から。これらは、Indian Institute of
Management-Calcutta にて開かれ、岡田仁孝が主査を務めた国際開発高等教育機構(FASID)
の「経営と開発セミナー」の現地研修で実施された。
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