「本物の政治家を選び抜く為に ~世界の選挙制度比較~」レジュメ 2012 年 5 月 24 日 担当・加藤 日本の選挙制度の歴史 1889 年 大日本帝国憲法が発布され、帝国議会が設けられる。貴族院と衆議院の両院制。 1889 年 満 25 歳以上の男性で直接国税 15 円以上を納めている者に選挙権付与(制限選挙) 小選挙区制を採用。 1900 年 納税条件が 10 円以上に引下げ、大選挙区単記を採用。無記名投票の採用。 1919 年 納税条件が 3 円以上に引下げ、小選挙区制に戻す。 1925 年 納税条件撤廃。満 25 歳以上の男性全員(総人口の 20.12%)に選挙権付与(狭義の 普通選挙・男子普通選挙) 1928 年 中選挙区制の採用 1945 年 満 20 歳以上の男女に選挙権付与(広義の普通選挙・完全普通選挙) 1946 年 衆議院議員総選挙で大選挙区制限連記制が採用(4 月、この 1 回のみ) 1947 年 地方長官、市町村長の公選制の導入(日本国憲法施行に伴い地方長官は都道府県 知事に移行)、日本国憲法の施行、衆議院議員総選挙で中選挙区制の復活、初の参議院議 員通常選挙(全国区、地方区で選出) 1950 年 公職選挙法の公布、施行 1982 年 参議院議員通常選挙の全国区制を拘束名簿式比例代表制へ変更(1983 年の参議院 議員通常選挙から適用) 1994 年 衆議院議員総選挙の中選挙区制を小選挙区比例代表並立制へ変更(1996 年の衆議 院議員総選挙から適用) 2000 年 国政選挙に在外選挙の導入、参議院議員通常選挙の拘束名簿式比例代表制を非拘 束名簿式比例代表制へ変更(2001 年の参議院議員通常選挙から適用) 各選挙制度の特徴 ○大選挙区制 大選挙区制とは、一つの選挙区の中から複数の候補者を擁立する制度。大選挙区制度で は、死票が少なく国民の意思が反映されやすいという長所があるものの、多数政党による 政治の混乱、選挙費用がかかること、同一政党内の同士討ち、金権腐敗体質を招きやすい などの短所もある。 また、大選挙区制度の投票方式には、選出する人数分だけ選ぶ完全連記制、選出する人 数より少ない人数の複数の候補者を連紀する制限連記制、優先順位を記述しその選好によ って票の移る単記移譲式、一人だけ選んで投票する単記非移譲式、選出する人数に関係な く自由に、単記・連紀できる認定投票、各候補者を順位付けしてポイントを振り分ける、 ボルタ得点、複数の候補を選んで投票するが、一人の候補に票を集中させることもできる 1 累積投票などがある。 日本では、国政選挙では 1890 年~1898 年までは完全連記制、1946 年には制限連記など が採用されていた。 ○中選挙区制 中選挙区制とは、日本独自の呼称で、大選挙区制度の一部であり、全国に約130の選 挙区の中から、ひとつの選挙区から3人から5人程度の候補者を、単記非移譲式で選ぶ方 法で、戦後の日本において長らく採用されていた。同士討ちによる金権政治横行の元凶と 非難され、1994 年に小選挙区制に移行した。 ○小選挙区制 1選挙区毎に1人の当選者を選ぶ総称。長所としては、選挙にて政策が反映されやすく、 政権を選択して強力で安定した政権が形成され、二大政党制になりやすいので、不満があ れば最大野党に投票して、政権交代が起こしやすい。短所としては、第3勢力が台頭しづ らく、また死票が非常に多い場合がある。 ○比例代表制 比例代表制度とは、政党の得票率に比例して議席配分を決定する(または得票率に比例 して候補者個人の当選優先順を決定する)制度である。 当選順位の決定方法には、立候補者の得票数に応じて順位が決まる非拘束名簿式、 政党票と立候補者票の合算、政党票と立候補者票の分離、立候補者の順位付けがさ れてある拘束名簿式、立候補者名簿は記載されているが、有権者がそれを書き換え ることが出来る自由名簿式がある。 また、議席配分の決定方法には、得票数を整数で割りその商が多い順に決めてい くドント式、得票数を奇数で割っていくサン=ラグ式。有効投票総数を定数で割り、 これを基数とし、各政党の得票数を基数で割り、整数分だけ配分し、残りは剰余が 大きい順に議席を割り振るヘア=ニーマイヤー式などがある。 日本の選挙制度の変遷 ○戦前の選挙制度の特徴 1889年に大日本帝国憲法が発布され、それに基づいて帝国議会が設けられ、その一 院に民選議院、衆議院がおかれた。立憲主義の政体の採用、民選議員の設置の一つは、自 由民権運動の圧力からであり、もうひとつは不平等条約の改正をねらった欧化政策であっ た。 憲法は、法制度において天皇の主権を規定し、またそれに基づく運用の実態において、 2 薩長藩閥勢力によって固められた中央集権の巨大な官僚機構を文武の両分野にわたって構 築した。民選議院の開設は、薩長藩閥で政権を得た勢力とこれに対し新政府に志を得なか った勢力との対立課題として生まれ、実現した。貴衆両院は、共に平等の機能を持つが、 貴族院は解散がなく、貴族院令は貴族院独自の見解で制定できるなど、議員の地位は衆議 院に対して安定していたので、実質上は、貴族院が衆議院より優位にたった。 帝国議会開始の当初は、内閣の組織に政党の介入を排除する「超然主義」を取って、政 党の役割を軽視した。しかし、主要政党は時を経るに従い、主要政党の影響力が強くなっ てきたので、藩閥官僚派による、政党戦線の小党分党をねらい、大選挙区制が採用される が、社会主義者が勢力をもってくるとの理由で、1919 年の選挙法改正では、小選挙区制に 戻される。 第一次世界大戦後、国際的な政治の民主化風潮があり、日本国内でも普通選挙を求める 世論が強くなり、1925 年、男子 25 歳以上の普通選挙制が実現される。しかし、普通選挙 制の採用後は、戸別訪問の禁止など、候補者の選挙運動の取り締まりがより厳しくなる。 ○戦後の選挙制度の特徴 1945 年に完全普通選挙制が採用され、衆議院が中選挙区制になり、自民党により55年 体制が築かれてからは、3~5人区中心の中選挙区において、自民党五大派閥と社会党、 共産党との議席争いとなった。長らく自民党と社会党の一対二分の一体制が続いたが、3 8年の時を経て、自民党一党独裁体制は自壊し、非自民党連立政権が誕生することとなる。 1994 年に小選挙区比例代表並立制が採用され、日本の政党は、異なる様相を経るように なった。1996 年の選挙においては、自民党と新進党の2極化が進み、その後は自民党と民 主党の2大政党制の様相を呈し、2009 年の選挙においては、民主党による政権交代が為さ れることとなる。 小選挙区制が採用されてからは、日本の選挙の軸が徐々に政党や政策に重視されるよう になり、人(候補者)の要素は急速に低下していくこととなった。その代わりに、党首の 存在が、リーダーシップが、選挙の動向・勝敗を大きく左右するようになった。日本では、 非常に層が厚い流動的な無党派層にとっては、政策と同時に党首のリーダーシップ・人気・ プレゼンテーションなどが重要となってきている。 現状の日本の選挙制度の問題点 ・小選挙区の採用により、民主党と自民党による2大政党制へと大きくシフトしたが、無 党派層が多い為、時の世論によって、政権交代が短期間に起こりやすく、政治的不安定を もたらす。 ・近年少なくはなったが、利益誘導型の政治体質が根強くある。 ・政治的無知によるタレント議員の台頭や、政策よりもドブ板議員が好まれる傾向にある。 ・民主党と自民党以外の党の意見が反映されにくい。などが挙げられる。 3 アメリカの選挙制度 ○アメリカの政治体制 アメリカ合衆国は、政体としては大統領制、連邦制、厳格な三権分立が取られている。 連邦議員は、大統領や長官を兼務することができない。 ○合衆国議会 アメリカ合衆国議会は、上院(元老院 Senate)と下院(代議院 House of Representatives) からなる、二院制を採用している。 下院は定数435人で、2年ごとに全議会が改選される。定数は人口に比例して、分配 される。上院は定数100人で、任期6年、2年ごとに3分の1が改選される。選出定数 は、州の人口や面積に関係なく、各州一律2名とされている。上院には、下院にない連邦 官史の承認権と条約の批准権があるので、一般的に上院の方が権威は高い。 法案の提出はすべて議員立法の形式を取っており、大統領や長官には、法律案の提出権 はない。ただし、実際の8割の法律は「政府提出」の法律案である。 ○大統領の執行権 大統領は、憲法上は行政権の単独保持者で、軍隊の最高司令官である。大統領は、世論 形成への指導力は大きいが、法案提出権はなく、拒否権のみである。 ○アメリカ大統領選挙 アメリカ大統領の任期は4年で、18歳以上の米国籍を持ち、選挙人登録を行っている 国民によって選出される。大統領選の前に、大統領予備選挙が行われ、各党の大統領候補 者を決定する。 大統領予備選挙は、各州において有権者が選挙前に投票する候補を宣言している代議員 を選出する間接選挙で、代議員の人数は人口に応じて、州に割り当てられ、選出された代 議員は各党の全国大会において、大統領候補者を指名する。 また大統領選においては、予備選挙において内定を得た正副大統領への投票を誓約する 選挙人団に対して、国民は票を投じる、形式上間接選挙を取っている。ほとんどの州では、 他の選挙人団よりも1票でも多くの票を獲得した選挙人団が、その州に割り当てられた全 議席を獲得するが、議席を比例配分する州もある。 ○アメリカの選挙制度の特徴 米国の議員は、州の代表という意識が強く、その提出される法案の多くが利益誘導の為 の法案となってしまっている。また、ケネディの大統領選以降、選挙に対するメディアの 影響力が強く、ソフトマネーと呼ばれる多額の献金問題があり、また政治に対する宗教色 が非常に強い問題などもある。 4 イギリスの選挙制度 ○イギリスの政治体制 国王は、イギリスの憲法を構成する慣習法(憲法的習律)の一つ「国王は君臨すれども 統治せず」の原則により、実質的な政治権力を保持していない。名目上イギリスの三権(立 法権、行政権、司法権)の源とされるのはイギリス国王であるが、実際には議会(立法権)、 内閣(行政権) 、裁判所(司法権)がそれぞれの統治権力を分け合っている。 首相は慣習法的に従い、庶民院の第一党の党首を任命する。また首相は議員内閣制に基 づき、議会(庶民院)を解散することができる。 ○庶民院(下院) 約650人の普通選挙(直接選挙)によって選ばれた議員からなる。選挙権は18歳以 上の国民と国内に住むアイルランド人にあり、被選挙権は、21歳以上の国民の男女にあ る。イギリスでは、小選挙区制を採用しており、議員定数はイングランド 524 人、ウェー ルズ 38 人、北アイルランド 17 人、スコットランド 72 人である。小選挙区制のみによる選 挙のたま政権交代が起きやすく、二大政党化が起こりやすい。議会が解散される場合を除 き、議員の任期は5年である。庶民院は貴族院に比べ、大きな権限を有している。 ○貴族院(上院) 貴族院の役割として、庶民院が通過させた法案を、専門知識を持つ貴族院議員が精査し、 修正することが重視されている。また、下院の優越規定により法案を完全に阻止すること はできないが、予算案などをのぞく法案の成立を1年間延期できるので、政府や庶民院、 一般市民に再考を促すことができる。貴族院議員は選挙で選ばれず、何らかの形で爵位を 持つ貴族によって構成される。 ○イギリスの選挙制度の特徴 イギリスは、1885 年に2人区完全連記制から、1人区に移行してから、小選挙区制と二 大政党制の祖と呼ばれ、保守党と自由党の2大政党制を築き、その後は労働党が自由党に とって代わることとなる。 しかしイギリスにおいても、小選挙区制に対しては、賛否両論があり、選挙区の組み方 によっては、国民の意思を必ずしも平等に国政に反映できないのではないかという議論が、 採用当時から根強くある。 また、90年代初頭以降、選挙区制改革問題は一つの重要な政治的イシューとなってお り、労働党を中心に、憲法改革論、貴族院の選挙により選出、比例代表制の導入など、さ まざまな改革論が展開している。 イギリスにおいても、マスメディアの政治的影響力は年々強くなってきており、大衆紙 を読む人や、新聞を読まない人への、テレビによる政治的影響力は非常に強い。 5 ドイツの選挙制度 ○ドイツの政治体制 ドイツ連邦共和国は連邦制を採用している。各州(Land ラント)には州議会と、州議会 から選出される州首相および州の内閣がある。 ○議会 ドイツの立法府は独立した2つの議会を有する両院制が構成されている。下院のドイツ 連邦議会では、議員は国民から比例代表制(小選挙区比例代表併用制)の直接選挙で選ば れる。上院の連邦参議院では、各州政府の代表者で構成される。 ドイツでは、戦前のナチスが国民投票・住民投票といった形で合法的に独裁を行ったこ とへの反省から、直接民主主義的要素を排除し、間接民主主義による政治を徹底して行っ ているのが特徴である。また、連邦議会での選挙では、ある一定の得票率(5%)あるいは 小選挙区での議席を得られないと連邦議会に議席が持てない仕組みを導入し、ヴァイマル 共和国時代に見られた小政党乱立と極右・極左勢力の議席獲得を阻止している。 ○連邦大統領と連邦首相 連邦大統領は、ドイツ連邦議会の全議員と各州議会代表の選挙人で構成される連邦会議 において選出される。国家元首としてその機能は儀式的なものである。任期は5年。大統 領には、連邦議会の解散権、連邦首相候補の提案権がある。 行政府の長である連邦首相は、連邦議会議員から選出され、内閣を組閣する議員内閣制 を採っている。内閣は連邦政府と呼ばれる。連邦首相の任期は4年である。 6 ○ドイツの選挙制度の特徴 ドイツ連邦議会では、小選挙区比例代表併用制を採用しており、これは日本の小選挙区 比例代表並立制とは異なるもので、比例代表制を主に、小選挙区制の要素を加えてもので ある。598 議席のうち、半分の 299 議席が比例代表で、299 議席が各州の人口分布に応じ て配分されている。有権者は、比例代表と小選挙区の各1票の計2票を持つ。比例代表の 名簿は、各連邦州の連邦支部によって作成される。 ドイツの選挙制度を歴史的に見た場合、第二帝政期の「小選挙区絶対多数制」 、ワイマー ル共和国期の「完全な比例代表制」 、ボン基本法下の「人物を加味した比例代表制」の経緯 を辿っている。 戦後のドイツ(西ドイツ)では、ドイツキリスト教民主同盟・キリスト教社会同盟 (CDU/CSU)と、ドイツ社会民主党(SPD)が大きな力を持ち、また自由民主党(FDP) が第三極として働いていた。近年では、左翼党(Linke)や同盟90/緑の党(B90/Grune) などが、勢力を拡大してきている。 問いかけ ―ミクロな視点としてー ・現在の衆院における小選挙区比例代表並立制は、日本の国政にとって良いものか? ・より国民の民意を反映させ、国政を安定させる為には、どのような制度がよいか? ・現実的な問題として、現在の議員の選出のあり方や、秘書などのあり方は、本当に良い ものなのか? ―マクロな視点としてー ・現在の参議院と衆議院の両院制は、日本に適した政治システムなのか? ・また、参議院と衆議院の任期や権限は妥当であるのか? ・大衆化した社会における、政治の在り方について。 ・日本は未だに、民主主義は未成熟ではないか? ―より根本的な問いとしてー ・日本に民主主義制度は適しているのか? ・そもそも国民の民意を反映させることが、国政において国益に反映されるのか? 参考文献 杣正夫「日本の選挙制度史 普通選挙法から公職選挙法まで」 (九州大学出版会) 福岡政行「日本の選挙」 (早稲田大学出版) 藤本一美「米国議会と大統領選挙」 (同文館) 小松浩「イギリスの選挙制度」 (現代人文社) 渡辺重範「ドイツ近代選挙制度史」 (成文堂) wikipedia 7
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