41 医療従事者を保護するためのハザーダス・ ドラッグ(危険薬)の安全取扱い 現状 ミシガン大学腫瘍科外来の看護師を対象に行った研究から 療関係者は、空気中または作業表面、衣服、医療機器、およ 受けた者の割合は15.9%であることが示された。9これに加え ハザーダス・ドラッグを搬送、調剤、投薬、および廃棄する医 は、1,339名の看護師のうち、1年間に皮膚または目に曝露を びその他表面に付着しているこれらハザーダス・ドラッグに てNIOSHが行った研究では、医療施設の表面は、広く抗腫 床であるかに係わらず、安全取扱いの予防措置に従わなけれ いることが証明された。10この結果は、米国やその他の世界 曝露する恐れがある。結果として職員は臨床あるいは非臨 瘍剤で汚染されており、この汚染が職員の曝露をもたらして ば、彼らがエアロゾルを発生させた時、液体を混合する時、粉 中の国々で発表されている研究と一致している。これを受け 危険性がある。がん治療、抗ウイルス治療、ホルモン治療、お 米国内の医療施設に対し共同声明を発表し、ハザーダス・ド 塵を発生させた時、あるいは汚染表面に触れた時に曝露する よびその他治療法に使用する強力な薬へ頻繁に曝露すれば、 たとえ非常に低濃度であっても、それに接触する職員につい ては健康に重大な結果をもたらすことになる。1 ハザーダス・ドラッグと定義される薬は、以下の特徴を1つ以 上備えている:低用量での発がん性、催奇性、生殖毒性、器官 毒性、および遺伝毒性。2これらの抗腫瘍薬を含むハザーダ て米国労働安全衛生庁(OSHA)とNIOSHの合同委員会は ラッグに関する施設の安全取扱い規則を再評価するように 求め、同時に改訂されたNIOSHハザーダス・ドラッグリスト に注意するよう警告を発した(2010年)。しかしながらこうし たガイドラインの遵守は一部に留まっており、ハザーダス・ド ラッグから医療従事者を適切に保護するための総合的基準 づくりが求められている。 ス・ドラッグは、主にがんの治療に用いられる。抗腫瘍薬は ハザーダス・ドラッグへの曝露の影響 紹介される化学薬品から開発された。がん細胞を殺すのと同 性があることが示されている。曝露を受けた職員の自然流産 当初、第一次世界大戦中にナイトロジェン・マスタードとして じメカニズムは健康な細胞にもダメージを与えるはずである。 ハザーダス・ドラッグは抗腫瘍剤に限定されるものではなく、 抗ウイルス薬、ホルモン、一部のバイオ工学で作られた薬、そ して、その他の薬もこれに含まれる。 米国労働安全衛生研究 3 ハザーダス・ドラッグと接触すると様々な問題が起こる可能 率や胎児が先天異常である可能性が高くなることが分かって いる。最近Lawsonらは妊娠第1期に抗腫瘍薬に曝露した看 護婦では自然流産するリスクが、統計学的に有意、ほぼ2倍 上昇すると報告している。11職員からは、化学療法を受けてい 所(NIOSH)はハザーダス・ドラッグのASHP定義を改訂し る患者に見られるものと同様の副作用を経験したことがある 際がん研究機関(IARC)が発がん性を認めた30種類の薬も 加えてこうした職員でのがん発生率も高く、特に白血病と膀 約150の薬をハザーダス・ドラッグと認定したが、これには国 含まれている。 4, 5, 6 米国だけで、約800万人の医療従事者が看護、薬局、搬送、 ならびに化学療法廃棄物の清掃に従事している。7こうした 医療従事者の多くがハザーダス・ドラッグへの曝露に対する 対応について適切なトレーニングを受けていない。また一部 の医療従事者の個人的な経験が、適切な技術的管理および 保護具の使用の障害になっている。ハザーダス・ドラッグの 使用量は今後増加するだろう。実際、WHOは高齢化に伴って、 今後20年間にがん症例は50%増加すると予想している。8が ん症例数の増加は、より強力な化学療法薬を必要とすること でもあり、また医療従事者への曝露リスクも高めるだろう。化 学療法での使用に加えて、研究薬や実験薬も危険性がない ことが証明されるまでは、ハザーダス・ドラッグと見なされる。 さらに、化学療法薬およびその他ハザーダス・ドラッグは関 節炎や多発性硬化症といった非悪性腫瘍疾患の治療にも用 いられ、獣医学での使用も拡大している。 172 | 健康寿命の延長による日本経済活性化 との報告がある(脱毛、嘔吐、口渇、皮膚発疹)。12,13これに 胱がんの発生率が高い。14,15Kaiser Permanente Center for Health Researchは妊娠中に抗腫瘍薬を扱った女性の 曝露が、自然流産および死産のリスク上昇と関係しているこ とを示した研究を発表している。2005年、米国がん看護学 会(Oncology Nursing Society)の7,500名の会員を対象に したサーベイは、化学療法に係わっている25歳以下の看護師 では、不妊および流産のリスクが有意に高いことを明らかに している。16 現行政策 2012年の診療報酬改定では、無菌製剤処理料が引き上げら れ前進が見られたが、その増点された適用対象は3薬剤のみ 曝露)およびハザーダス・ドラッグの調剤、投薬、表面汚染の 試験法ならびに廃棄に関する詳細な手順。 であった。このような事情から、日本の多くの施設では、すべ •• との状況とは対照的に、これら3薬剤についてのみ、薬剤調 職場でのハザーダス・ドラッグ曝露防止に役立てるため、 しで調製しているケースが殆どである。 会(ASHP)、米国がん看護学会(ONS)および米国薬局方 てのハザーダス・ドラッグにCSTDが使用されている米国など 製時にCSTDを使用し、ほかの薬剤については今もCSTDな また日本では「ハザーダス・ドラッグ」の概念が広く認識され ていないことが課題である。ハザーダス・ドラッグを取り扱っ ている医療従事者は、自身の健康がリスクに曝されているこ とを認識し、こうした薬剤を扱う際には特に注意を払うべき である。 ハザーダス・ドラッグへの曝露を軽減するよう、デザイン された機材の包括的使用の要求 NIOSH、国際がん薬剤学会(ISOPP)s、米国医療薬剤師 (USP797)17, は、個人用防護具(PPE)、安全 18, 19, 20, 21 キャビネット(Class IIまたはIIIの生物学的安全キャビネット (BSC)またはUSP797の要件を満たす無菌製剤用汚染物 質アイソレーター(CACI))の使用および臨床的に実証され ている閉鎖式薬物混合器具(CSTD)のような技術的な対応 を推奨しており、こうした対応が求められる。 2014年の医療費改定では、薬剤師や医療従事者から強い •• 3薬剤以外、対象薬剤拡大は行われず、CSTDの使用を制限 医療環境で起こったすべてのハザーダス・ドラッグ曝露、スピ 璧に実施するためには、NIOSHのハザード・ドラッグリストを、 ばならない。調査および報告データは、従業員の過去の曝露、 要望があったにも関わらず、無菌製剤処理料引き上げや上記 する結果となった。ハザーダス・ドラッグの安全な取扱いを完 医療従事者だけでなく、政策立案関係者も広く認知する必要 がある。CSTD使用時の無菌製剤処理料の引き上げにより安 全な取扱いを促進し、医療従事者の安全性を高めることも必 要に応じで考えなければならない。 政策提言 •• 職場を調査し、危険を特定して評価する。 あらゆる医療環境、獣医薬、研究所、調剤薬局ならびに在宅 医療施設は、施設で取り扱っている薬のタイプ、量、発送頻 度、形状の目録を作らなければならない。さらに施設は、ハ ザーダス・ドラッグへの曝露を減らすようにデザインされた機 材の目録、ならびに作業エリアの物理的レイアウトを含む作 業環境一覧を作成すべきである。 •• ハザーダス・ドラッグ曝露の調査および報告作業の促進 および標準化 ルおよび飛散に関係する事象は管理部門に報告されなけれ 病歴および曝露との関連性を判定するために、血液および尿 検査を実施するべきである。継続的に検査のモニタリングを 行い、長期の疫学的検討を促すものでなければならない。国 のがん登録は、がん患者の職業を把握して、がんの原因の特 定作業を国レベルで支援しなければならない。 •• 使用時における診療報酬(無菌製剤処理料)の引き上げ 現行の無菌製剤処理料では各医療機関におけるCSTDの購 入費を十分にカバーできておらず、加えて1患者あたり1日に つき所定点数を算定という形になっているため、同日に複数 の薬剤を一人の患者に投与する場合にはさらなる負担増と なっている。 ハザーダス・ドラッグ取扱いの管理方針ならびにトレー ニングプログラムの確立 ハザーダス・ドラッグを取り扱う施設はこうした薬の調剤、 投薬、および廃棄についての運営管理を確立しなければな らない。 管理方針およびトレーニングプログラムは、以下の諸点を明 らかにして策定されなければならない:ハザーダス・ドラッグ の存在、ラベリング、保管、スピル対策、従業員問題(妊婦の 健康寿命の延長による日本経済活性化 | 173 参考文献 1. National Institute for Occupational Safety and Health. NIOSH alert: preventing occupational exposures to antineoplastic and other hazardous drugs in health care settings. 2004; p1‐4.7. 2. 同上 ページ32. 3. 同上 ページ31. 4. Center for Disease Control. NIOSH List of antineoplastics and other hazardous drugs in healthcare settings 2010. http:// www.cdc.gov/niosh/docs/2010‐167/pdfs/2010‐167.pdf (assessed 2012 May 3). 5. American Society of Health‐System Pharmacists. ASHP guidelines on handling hazardous drugs. Am J Health‐Syst Pharm. 2006; 63:1172‐93. 6. International Agency for Cancer Research. IARC Mongraphs on the evaluation of carcinogenic risks to humans. http:// monographs.iarc.fr/ENG/Classification/index.php (assessed 10 May 2012). 7. Center for Disease Control. Hazardous Drug Exposures in Health Care. http://www.cdc.gov/niosh/topics/hazdrug/#a (accessed 2012 October 5). 8. 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BSI. 174 | 健康寿命の延長による日本経済活性化 ÐÍÊ'NİĖĮęĩĢ(¾ > +Vĉ Ā X İģĕĩĞĖĮņĻŕĿĽŔńŎŁĸŖ(¾ ŗģą1i ĢtPġīĭ'Nġ(¾İĪęĬĖ !ĝĈĭąčıP ąstPą;Pą¶ĝĢ0tPą±tPĞĉĊP İiĔąľŕňņœńŏœĸĢ@cąċīĤØãäÙĢİp ġ¡ĊĒĞģÃGġµ¥ĝĈĮ Ā ÎÌÍÎIĢ¨4³_?ĝą¤!bŖ7ġĜ¡Ċą Xčı!ĢyC!«¤bŗčMĎđĬįęĆĔČĔąėĢA® !ģąÏ¤!ĢĨĝĈĚęĆĒĢīĊĠSČĬądkĢ:ďĢ c§ĝģąĜĢņĻŕĿĽŔńŎŁĸġØãäÙčēįĜĉĮ 2ĢxĞģAġąĒįĬϤ!ġěĉĜĢĨØãäÙİ ĔąĢņĻŕĿĽŔńŎŁĸģĪØãäÙĠĔĝ«¤ĔĜĉĮĹ ŕĽčĦĞığĝĈĮ yŚ¹¸Lz-0ŖØãäÙŗ ÐÍÊ'NİĖĮęĩĢ(¾ > +Vĉ 2012IKĄ¨4³_? • ]PĢÅĉ !Ģ+VĉġAĖĮ©ā XRP!ĢġģąčıPİiĖĮ,PčĈĮĪĢč <3ĖĮĒĞčZ^ēįĜĉĮĆġ]PĢÅĉ !İ+ĭV ĊÀġģąĢyC!«¤ĞģĠĭą«¤Ģ£¼rą 7wm¼rĢęĩ>ĞÅĉW¢č¥vēįĮęĩą© İ¡ĊĆ )#¾E'ªĄHT24IK¨4³_? -¤!"¤!bř ÆĴƹ¸L[0İĔę5-100~ā ăÆ(1) ]PĢÅĉ !ĂĢ5-150~ ăÆ(2) (1) 9Ģ5-100~ 1QĈęĭ1dġěĎU?~`İ?ĖĮ ĂĴŊĽňIJŋńąļķŒňĵĽňIJŋńąʼnœĿŌĽŀœ6´6 3-4 健康寿命の延長による日本経済活性化 | 175 ÐÍÊ'NİĖĮęĩĢ(¾ > +Vĉ ¤!ġ»ĖĮ¨4³ ŖÍQĈęĭÍdġěĎU?~`İ?ĖĮŗ dkġċĐĮ¾²ÆÿÆØãäÙĢ & ÆÛÌÎÌ ¨4³ & ÆÛÌÎÌ Reimbursement Reimbursement levels levels for for preparation preparation ¹¸L[0 No use No use of of CSTDs CSTDs İĔĠĉ5- Use ¹¸L[0İĔę5- Use of of CSTDs CSTDs •¹¸L[0İĔĜ¤!İ¡Ěę If hospital uses a CSTD for a preparation, they receive ¥1,000 (100 points), and not ¥500 5-ą'q»ģÍÌÌÌŖÍÌÌ~ŗݬvlĮ ¤!İ¡Ě • For drug preparation, hospitals receive ¥500 ę5-ą'q»ģ (50 points) ÑÌÌŖÑÌ~ŗݬv lĮ • ?¥Ś Conditions to receive ÉÆÎÌJ Ģ'q» reimbursement for ÉÆ7ĝ«aĖĮĒĞ preparation of doses: ŖķŏŕœŐŕŌą>Ķō Ø Be a hospital with more ŇŅŁŃąķŏŕœʼnœŀ than 20 beds ŗ Ø Prepare drugs in aseptic ÉÆG%Ģ !F conditions (clean rooms, BSCs or clean bench) Ø Preparation has to be done by a certified pharmacist for oncology • Conditions to receive the reimbursement for preparation of ?¥Ś doses with a CSTD are: É ¹¸L[0İĔĠĉ5-Ğ.ĕ¥ Ø Fulfill the same requirements as when not using CSTDs É ġ»ĖĮ¦·İĔĜċďĒĞĆ Ø Patient’s name and brand of CSTDs used have to be mentioned in the reimbursement process ]PĢÅĉ !Ģ5- CSTD for 3 drugs CSTD for 3 drugs • ÆÏ!ŖĴŊĽňIJŋńąļ Receive extra ¥500 (50 ķŒŊĽňIJŋńąʼnœ points) with preparation for 3 volatile drugs ĿŌĽŀœ6´6ŗĢ (Cyclophosphamide, ġģÍÑÌÌŖÍÑÌ Ifosfamide, and ~ŗ¬vlĮ Bedamustine) • Hospital receives ¥1,500 (150 points) ]PĢÅĉ ! 9Ģ5- CSTD CSTD for for other other drugs drugs • Hospital receives ¥1,000 ÍÌÌÌŖÍÌÌ~ŗ (10 points) ¬vlĮ ¤!ġěĉĜģąÍQĈęĭÍdġěĎą'q»ģ¹¸L[0İĔĠĉ5-ġģÑÌÌŖÑÌ~ŗݬvĝĎĮĆħęą¹¸L[ 0İĔę5-ĔĜ]PĢÅĉÏ!ŖŗİĔę5-ġģÍÑÌÌŖÍÑÌ~ŗİąėį 9Ģ5-ġģÍÌÌÌŖÍÌÌ~ŗİąĘįĘį¬vlĮĆ ÕÆ)#íøøõÕËËûûûÊòíñûÊìôÊïõËçùóüæËîöüôùíôðêóËîöüôùíôðêóÍÑËéñËÎÉÑÊõéëÆÇÎÌÍÏIÍhÍÒd 3È ÐÍÊ'NİĖĮęĩĢ(¾ > +Vĉ ÜîêöæöèíîèÆôöéêöÆîóÆõöôøêèøîôóÆòêæ÷ùöê÷ā ŖľŕňłijņœńŏœĸġċĐĮÄŗā þÝãáââÆÇÝóøêöóæøîôóæñÆãôèîêøüÆôëÆáóèôñôìüÆâíæöòæèüÆâöæèøîøîôóêöÈþ 最も効果が高い âöêúêóøîôó Ŗ¼rŗ âöôøêèøîôóā Ŗŗ őʼnŐÍÆÆŚ½*ą\ąg ĄĄĄĄtPčĠĉąĈĮĉģtPčDĠĉ¤/ĥĢ8f őʼnŐÎÆÆŚ(¾Ëwm|Ģ¿ÂÆÿÆĄ¹¸LļĽłŌŖØãäÙÈĢ |ĝwm¯İBĕ°ĩĮĒĞĝąċīĤ¯ĢwmݼrĖĮ őʼnŐÏÆÆŚqnĺœŃŒŕŐË\uŘĄ>ŠśťŧŤŜţąŞşšŦŝŢŝ tP¯Ģ}Kİ{ĖĮęĩĢąEUċīĤc§Ģ\uĪĔďģY őʼnŐÏ׌ËAO £ejºč{ēįĮīĊġo$İĨĜĮĆ£eĖĮ£Á`čDĠď ĠĮīĊġĖĮ őʼnŐÐÆÆŚ¼ŖââÚÈ ¼ġīĭćĢoİ=Į 最も効果が低い 176 | 健康寿命の延長による日本経済活性化 Ś ÝãáââÆ÷øæóéæöé÷ÆæóéÆõöæèøîèêĄÇÎÌÌÔÈÆÆõõÊÍÓÉÍÔ áàãÆãæëêÆÜæóéñîóìÆôëÆÜæýæöéôù÷ÆÙöùì÷ÆÎóéÆêéîøîôóÆÇÎÌÍÍÈ ÚåÆÙîöêèøîúêÇÔÌËÏÔÐËÚÚÛÈÕÆáëëîèîæñÆÞôùöóæñÆôëÆøíêÆÚùöôõêæóÆåóîôóÆßÆÍÑÓÆôëÆÏÌÆÖõöîñÆÎÌÌÐ ÎÉÍÍ
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