株式会社SHOEI(7839:東証2部) 山田 勝(やまだ まさる) 氏

株式会社SHOEI(7839:東証2部)
東京都台東区上野五丁目 8 番 5 号
プレミアムヘルメットの製造・販売。ヨーロッパをはじめ海外販売比率が高い。
【Profile】
山田 勝(やまだ まさる) 氏
昭和44年4月 三菱商事株式会社入社
平成4年 11 月 株式会社SHOEI管財人就任 (三菱商事株式会社より出向)
平成8年8月
三菱商事株式会社退社後、株式会社SHOEIへ転籍
平成10年3月 管財人退任、株式会社 SHOEI 代表取締役社長就任
会社更生法申請から、わずか 5 年半という短期間で更生計画を終了し、同社を高級
山田 勝 社長
ヘルメット業界において、世界トップシェアの企業へと導く。
【インタビュー主旨】
美しいデザインでかつ高い安全性と機能性を兼ね備えた、株式会社 SHOEI の展開す
るプレミアムヘルメットは、そのクオリティの高さにより、世界各国のライダーから称賛
され、今でこそグローバルなブランドとして多くの方から認知されていますが、会社更
正法適用会社から見事な大復活を遂げた企業であることを知る人は少ない。
現場、現物、現実の「三現主義」で同社を見事に立ち直らせ、高級ヘルメット業界にお
いて世界 NO.1シェア企業に導くまでの山田社長の経営手法と、今後の同社の展開に
ついてインタビューを致しました。
インタビュアー 廣島 武
(インタビュアー:株式会社インベストメントブリッジ 代表取締役 廣島 武)
【インタビュー目次】
1.会社更生法から再生までの道のり
∼どのような軌跡を経て、SHOEIは大復活を遂げたのか∼
2.世界中で高い評価と信頼を受ける Made in Japan のグローバルブランド SHOEI
∼高品質・高付加価値・高い安全性へのこだわりとこれからの戦略を聞く∼
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1.会社更生法から再生までの道のり
∼どのような軌跡を経て、SHOEIは大復活を遂げたのか∼
―――まず、山田社長が SHOEI にかかわった経緯を教えてください。
ちょうど 16 年前に、昭栄化工(株)
(現SHOEI)は資金繰り難に陥り、会社更生法を申請しました。原
料を納めていた昭和高分子や明和産業が再建を請け負うのは難しいと考え、明和産業の社長が三菱商事の化
学品グループ副社長出身だったため、三菱商事に再建を依頼してきたのです。直接関係のない会社を運営す
る発想がなく、私だけが再建ビジネスに乗り気でした。
当時、私は化学品グループの部長代行でしたが、過去に研究会な
どでトヨタ生産方式を習熟しており、三菱商事関連会社の生産改
善を手伝ったことがあり、過去の経験から、昭栄化工(株)
(現S
HOEI)は 100 億円の売上高があり、コアがそれなりであれば、
再生する、将来IPOによるキャピタルゲインを取れるのではな
いか、と考えました。1992 年 11 月 9 日、裁判所から、私が更生
管財人として正式に認められ、三菱商事から出た初の管財人とな
りました。
―――では、管財人となられて、最初に手掛けられた事はどのような事ですか?
最初に手掛けた事は、岩手、茨城、東京の 3 ヶ所の工場を見て回ることでした。工場を見ると無駄なものが
多く、過剰在庫と、無秩序さが目だっていました。昭栄化工(株)
(現SHOEI)にはブランドイメージと
マーケットシェアがあり、製品自体は売れていたので、あとは作り方、コスト、組織の仕組みを見直せばい
いと考え、工場診断を基に、1 週間後には人員削減、工場整理などに着手し始めました。当面の運転資金は在
庫品を整理して生み出し、「きちっと仕事をすればそれに応じた評価をする」という人事の基本を徹底させ、
従業員のモチベーションを高めることにも努めました。
結局、倒産の原因は、放漫経営と公私混同によるところが大きく、ワンマン経営、経費の無駄遣い、過剰設
備、過剰人員、過剰在庫、工場の従業員への愛情不足などが見て取れました。私の持論は現場、現物、現実
の「三現主義」です。リストラを遂行し、1 年 3 ヵ月後、更生計画が裁判所から認可されると、私は昭栄化
工(株)の管財人兼代表取締役社長となり、三菱商事が株主となりました。更生法申立 1 年後、4.8 億円の出
資を三菱商事 70%、長銀や昭和高分子などが 30%出して再スタートをしました。更生計画は、当初計画を前
倒し、認可から 4 年半、当初から 5 年半と短期間で終了しました。
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―――5 年半という短い期間で更生計画を終了し、見事に会社を再建されていますが、その後はどのような
路線で事業を進めようと考えられたのですか?
私が SHOEI に来た当初は、事務所も工場も滅茶苦茶でしたが、悪いからこそ良くなる。この会社には光る
ものがあるので宝の山だと思いました。更生計画をスタートさせた時は、これだけ収益を上げられるとは想
像していなかったのですが、現在、当社の売上高総利益率は 2008 年 3 月中間期で単独ベース 38.8%、連結
ベース 47.0%、連結営業利益率は 27.5%です。競争原理により、他社が脱落し、格差が出てきたのです。市
場優位性が確立されてきて安定したビジネスとなったことが大きいと思いますが、更生計画以来、一度も赤
字になったことがないのです。為替が 80 円台になっても黒字が保てる強さを持っています。
競合する韓国メーカーなどがコピー商品を出してくるので、安いものを作るのはやめよう、と考えました。
高級化路線に変更した影響により、一度だけ、売上高が下がってしまいましたが、しかしその高級化路線が
成功したのです。持っている技術潜在力が顕在化し、良い材料を使って、コストも下げながらシステマティ
ックにやって、在庫を低水準に引き下げました。生産個数は、当時の 60 数万個に対し、現在、55 万個∼56
万個と及びませんが、商品を替えた事による値上げの影響もあり、単価は上昇したんです。例えば、為替は
ヨーロッパ中心で、輸出は円ベース。積み出し価格(FOB)は当時の 1 万 1000 円から現在 2 万円に上昇し
ています。
2.世界中で高い評価と信頼を受ける Made in Japan のグローバルブランド SHOEI
∼高品質・高付加価値・高い安全性へのこだわりとこれからの戦略を聞く∼
―――なるほど。高品質・高付加価値のヘルメット製造販売へ路線変更をした為に、現在の市場優位性を確
立し、売上も順調に推移しているのですね。
そうすると、次は人材ですね。どこの企業様も優秀な人材の確保というのが悩みどころだと思いますが、
御社では、人材面でご苦労をされたことはありますか?
結果として、悪い人間は去り、良い人間が戻ってきました。生産担当役員は会社更生法申立の 2 年ほど前に
辞めていて戻ってきた人だし、ナンバー2 は三菱商事、管理担当役員は長銀、国内営業部長はユニチカなど、
社外からも多くの人材が入社してきました。キャリア・学歴ではなく、
チームワークを重視しており、コラボレーション力のある人を求めてい
ます。
本社は引っ越してきて 16 年立ちますが、最近、最低の予算でリフォー
ムを実施しました。床や壁の張替えなどは私が率先して行ったのです。
工場の従業員数は、契約社員含め 400 人。人集めには苦労していませ
ん。土曜出勤はあっても、労働密度が高いので残業はあまりないのです。
一部だけ数名はシフトを組んでいますが、殆どは 1 直。5 時 5 分になっ
たら帰ります。
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―――社長ご自身が社内リフォームを行うのですか?
本当に無駄な経費は省き、出来ることはご自信でという姿勢が見えますね。
労働面においても、労働密度が高く残業が少ないとの効率の良さが伺えますが、御社には他にも何か行
動指針のようなものはあるのでしょうか?
行動指針は当然ありますよ。
まず、基本的なコンプライアンスに加え、本社ビルは持たない、役員専用車も持たない、財テクもやらない、
等の行動指針を作成しております。
世界で圧倒的なポジションを取り、がっちり稼ぎ、配当し、従業員に還元していく。ヘルメットメーカーで
M&Aをしかける対象はありませんし、ジャンパーなど、バイク用の用品は市場が縮小してきて効率が悪い
のでやりません。昨年、何千万円かの撤退損を出していますので、利益率を薄めるだけのアパレルに出るつ
もりもありません。
―――御社の姿は、ニッチだけど世界№1 の圧倒的なシェアを握る、小さな池の大きな魚になりたいとする、
HOYAの経営方針をも上回る厳格さを感じさせますね。
こうして、あらゆる事において効率性を追求した結果、現在の SHOEI があるのですね。
ヘルメットというニッチな業界において、国内はもとより、現在では世界でもシェア NO1と、他社を圧
倒されておりますが、競合メーカーの存在と、他社との違いについて教えて下さい。
エンドマーケットは 500 億円、とメーカー出し値の 2.5 倍程度であり、当社は約 60%のシェアがあります。
ライバルは 2 位につけている日本のアライヘルメットですが、シェアは 30%程
度です。このほか BMW に卸しているドイツのシューベルト社などが競合メー
カーです。
当社の特徴として、アフターケアを世界的に強化しております。これが他社と
の差を広げているのではないかと思います。韓国メーカーは売りっ放しであり、
他メーカーに相当の差をつけていると思います。
アフターケアをシステマティックに実行するため、海外の代理店にも社内で独
自に決めた A 級、B 級ライセンスの保持者を配置させています。昔は、国内ま
で輸送して修理をしていましたが、今では修理機械を運び入れ、海外
で修理できる体制を整えています。
―――なるほどですね。海外でも修理ができるとスピードも全然違いますよね。
このように徹底したアフターケアが御社の強みなのですね。
では、次に御社のプレミアムヘルメットの販売分野というか、フィールドについて教えて下さい。
高付加価値化戦略の中で、現在産業用ヘルメット、具体的には郵政公社、消防署、JR向け産業用ヘルメッ
ト等の生産は中止しました。唯一残っているのは、納入業者が他にいない防衛省だけです。
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プレミアムヘルメットは安全性を確保するための必需品でありながら趣味的要素もある、ユニークな商品で
す。ヘルメットにグラフィックを転写して塗装する。ヘルメットは手工業的であり、グラフィックについて
はノリタケや日本写真印刷から提供を受けるなど日本の高品質を武器にしています。当社品は圧倒的にコス
メティックで世界一です。ここ 2,3 年はファッション性に力を入れてきて、リッチでエレガント性を付加し
てきたのが当っていて、これがまた買い替え需要を顕在化させているのです。
当社品はツーリング、オフロード、スポーツバイク等レジャー用が対象となります。だから、
「遊び心」など
カルチャーが重要で、欧州、アメリカ、日本で売れています。ファッション性ゆえに、単価を引き上げるこ
とも出来たし、良い物は売れるのです。
―――商品のサイクルはどれ位なのですか?
商品サイクルは商品によって異なりますが、アメリカでは 5 年に 1 度、安全規格が変更されることもあり、
売れるモデルについては技術革新を生かし 5 年に 1 度行います。トライアル用ヘルメットなど数少ないもの
は投資リターンを考え 10 年に一度のモデルチェンジですが、平均的には 6 年程度ですね。
安全規格は米国運輸局の一般的な安全規格もありますが、SNELL 財団がレースに出るための規格として定め
ているものもあります。PL 問題もありますし、徐々に技術力のある会社が有利となってきています。
―――販売戦略についてはどのようにお考えですか?地域別に教えて下さい.
国内の販売は、九州、仙台、名古屋、大阪を順次閉鎖して、かつ市場縮小に伴い、東京をスリム化しました。
現在は 4 つの代理店に集約してお願いしていますが、小売店への販売強化は当社自身が力を入れております。
国内は、下げ止まっている感じはありますが、成長は期待しにくく、我々が伸ばすのは海外と考えておりま
す。
海外につきまして、ここ数年で、ブラジル(三菱商事が選択した所を)、ロシア(フィンランドの代理店、3
年契約)と取引を開始しました。ブラジル、中東向けは前金でもらってから生産をするので、当社は普通の
代理店に関してはクレジットリスクを負いません。当社のBSには、一切受取手形がなく、売掛金、買掛金
も少なく、翌月末には決済されるので、総資産が少なく、回転率が高いのです。財務的にもシンプルな構造
となっています。
欧州向けにつきましては、販売子会社が半分を販売しています。ドイツ、フランスは直営子会社で、フラン
スからベネルックス、ポルトガル、ドイツからオーストリア、東欧、ポーランドと販売テリトリーを持って
います。
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ロシアは 2 年位前から始めており、スウェーデン、スイスより大きくなる可能性があります。年間 1 万個程
度には 2 年くらいで到達するのではないかと思います。売上高 2.1 億円で 1 億円の利益貢献が見込めるので、
業績に与えるインパクトは大きいですね。
反面、アジアではシンガポール、香港、台湾くらいで、マーケットはオセアニアの方が大きいです。中国や
インドでは、現在、ほとんど売っていません。
―――海外販売の比率が多いと、為替相場の変動リスクがついて回ると思いますが、何か対策をとられてい
ますか?
欧州向けの製品は 1 物1価、円ベースであり、ユーロでの販売単価を半年に 1 回見直しています。ユーロが
強くなると子会社に対して価格を下げており、ユーロが強くなると子会社には有利に働き、子会社で利益が
上がることになります。欧州子会社の利益率は30%から40%に上昇しました。
為替が 1 円動くと、アメリカ向けは 2000 万円、ユーロ向けは 1200 万円、利益を変化させます。アメリカは
為替が円高になっていますが、国内の値上げと欧州の増収で吸収し、それ以上の増収を果たしています。材
料値上げ分を含め、国内向けの製品価格を約5%引き上げています。
―――それでも「なお売れる」というのは、プレミアムヘルメットの品質が高い評価を受けているというこ
とですね。ところで、代理店や販売子会社の在庫管理等は、どのように行っているのですか?
国内外の販売子会社、代理店については、セールス状況、在庫状況の報告を義務付けています。絶対過剰在
庫にならないように気をつけています。市場調査についても小売店への聞き取り調査などを実施しており、
代理店の状況、アクティビティ、お客さんのニーズチェック、どういう商品、どういう小売店が伸びている
かを、定期的に調査しています。
―――徹底した管理と効率経営により、順調に売上を伸ばしていらっしゃいますが、今後、中期的な売上高
成長率のイメージはどのようにお考えですか?
中期的な売上高成長率のイメージとして、5%前後で伸びていけばと思っています。4 年で 20%になるので、
そうなると生産能力が足りなくなります。着実に増やしていくには、商品の深堀りが重要です。
アメリカでもオフロード商品が出てきていますが、当社は 3 つの
ベクトルで増収を図ろうと考えております。①商品構成を各々の
国で広げ布石を打つ、②販売する国を増やす、③商品内容の新た
なるバリエーションを増加させる、の3つです。新しい技術を導
入し 10 年でほとんどの商品のモデルチェンジをしていきます。特
許が切れているものも出始めているので、来年から新しいパテン
トを使い、新モデルを出していきます。来年はモデルチェンジの
年であり、デザイン、安全規格も変わる重要な年となります。金型の年間投資額は2、3 億円で、1年間で金
型投資全額を償却します。生産投資は昨年から投資を増やしており、金型その他の投資を含め年間 10 億円程
度。来期もかなり投資する方向です。
中期的には売上高 200 億円、経常利益 40 億円∼50 億円を目標にしたいと考えています。
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―――では、今期の通期予想については、どのようにお考えですか?
前期は、生産能力の問題とモデルチェンジがあったために、下期に売上が偏ってしまいましたが、今期は上
期から業績が順調です。マクロ経済の動向と当社の売上高も無縁ではなく、米国向けが減収となる一方で、
ブラジル、ロシアを中心とした海外市場全体では伸びており、公表した通期の数字は達成できると考えてい
ます。しかし 3Qが終了しないと、確たる数字は固まってこない状態ですが、より上方を期待しています。
―――それでは、最後に株主の皆様へのメッセージをお願いします。
JASDAQに 1800 円で上場して以来、株価は 2 倍になっています。株価が上昇すると個人投資家が手放し
てしまうのが残念です。
当社は売上高純利益率が 2007 年 9 月期で 12.0%、2008 年 9 月予想で 11.8%と高いだけでなく、主力の海外
との商取引において売掛金や買掛金の期間が短く、あまり増えません。したがって運転資金のニーズは少な
いのです。今後、大型設備投資用に借入
金の必要もなく投資は全て自己資金で
配当金推移
賄います。総資産を常に圧縮努力してい
るので、総資産純利益率が 2008 年 9 月
期予想で 17.9%と非常に高くなってい
ます。株主配分は配当を重視致してお
り、配当性向は連結ベースで 50%を維持
していく方針です。個人投資家の皆様に
は、長期保有して頂きたいと考えており
ます。
【インタビューを終えて】
インタビューの中で山田社長もおっしゃっていましたが、米国最大の投資家として有名なウォーレン・バフ
ェットが掲げる、投資の際の 3 条件という言葉があります。①まず自分が理解できるか、②長期的に市場で
アドバンテージを取れていくか、市場優位性を保てるか、③経営者がマネジメント能力に長けているか、で
す。この観点から見ると、企業サイズは小ぶりながら、同社は正に条件に適していると言えます。
本資料は、情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。
このレポートは当社が信頼できると判断した情報源の情報に基づき作成したものですが、その正確性について当社
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